説明

ラクトバチルス・プランタラムの菌体を有効成分とする体脂肪率低減剤

【課題】 肥満の抑制もしくは防止、あるいは肥満体質の改善に有効な体脂肪率低減剤を提供する。
【解決手段】 ラクトバチルス・プランタラム(例えば、微工研菌寄第11550号(FERM P−11550)として寄託されているラクトバチルス・プランタラムNo.14株)の菌体を有効成分とする体脂肪率低減剤。
ラクトバチルス・プランタラムの菌体を含有する体脂肪率低減食品、およびラクトバチルス・プランタラムの菌体を含有する体脂肪率低減用医薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、健康維持のために有用な体脂肪率低減剤に関し、さらに具体的には、本発明は、ラクトバチルス・プランタラムの菌体を有効成分とする体脂肪率低減剤、該ラクトバチルス・プランタラムの菌体を含有する体脂肪率低減食品および体脂肪率低減用医薬に関するものである。
【背景技術】
【0002】
過剰な体脂肪の蓄積は、美容上好ましくないばかりか、動脈硬化等の様々な疾病の原因になると言われ、医療費の増大をもたらしている。このような現状に対して体脂肪率を低下させる様々な研究がなされている。一方で、乳酸菌についてはヒトに対する機能性を有する食品として様々な研究が行われているが、体脂肪率低減効果を有するという検証はなされていない。
【0003】
体脂肪率低減に関連する報告としては、例えば以下のものが知られている。
特開2002−326932号公報「体内脂肪燃焼促進剤」(特許文献1)には、非重合体カテキン類を服用することにより蓄積体脂肪の燃焼が促進され、食事性脂肪の燃焼が促進され、肝臓β酸化遺伝子の発現が促進され、非重合体カテキン類が身体の健康維持に有用であることが開示されている。特開2004−75653号公報「体脂肪分解促進剤および飲食物」(特許文献2)には、中鎖脂肪酸および/または中鎖脂肪酸を含むグリセリン脂肪酸エステルは体脂肪分解促進効果を有することが開示されている。
【0004】
また、乳酸菌に関する研究報告としては、例えば以下のものが知られている。
特表2002−505099号公報「新規な薬剤」(特許文献3)には、LB931と呼ばれるラクトバチルス・プランタラムは泌尿生殖管感染症の治療および/または予防に使用することができることが開示されている。
【特許文献1】特開2002−326932号公報
【特許文献2】特開2004−75653号公報
【特許文献3】特表2002−505099号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような従来技術に鑑み、本発明は、肥満の抑制もしくは防止、あるいは肥満体質の改善に有効な体脂肪率低減剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、かかる課題を解決すべく鋭意検討した結果、工業技術院微生物工業技術研究所に微工研菌寄第11550号(FERM P−11550)として寄託されているラクトバチルス・プランタラムNo.14株の菌が体脂肪率低減効果を有することを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、下記の構成を要旨とする体脂肪率低減剤、体脂肪率低減食品および体脂肪率低減用医薬に関するものである。
(1)ラクトバチルス・プランタラムの菌体を有効成分とする体脂肪率低減剤。
(2)工業技術院微生物工業技術研究所に微工研菌寄第11550号(FERM P−11550)として寄託されているラクトバチルス・プランタラムNo.14株の菌体を有効成分とする、上記(1)に記載の体脂肪率低減剤。
(3)上記(1)または(2)に記載されたラクトバチルス・プランタラムの菌体を含有する、体脂肪率低減食品。
(4)上記(1)または(2)に記載されたラクトバチルス・プランタラムの菌体を含有する、体脂肪率低減用医薬。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ラクトバチルス・プランタラム、例えばラクトバチルス・プランタラムNo.14株の菌を使用することにより、ヒトにおいてこれを摂取したとき、実際に体脂肪率を有意に低下させることができ、従って、脂肪組織を減少させ、肥満の抑制または防止あるいは肥満体質の改善に有効な体脂肪率低減剤、すなわち、体脂肪率低減食品および医薬品に有用な体脂肪率低減剤を提供することができる。ラクトバチルス・プランタラムがこのような体脂肪率低減効果を有することは思いがけなかったことと解される。
【発明の実施の形態】
【0009】
以下は、本発明による体脂肪率低減剤、体脂肪率低減食品および体脂肪率低減用医薬について詳細に説明するものである。本発明による体脂肪率低減剤は、ラクトバチルス・プランタラムの菌体を有効成分とするものであり、また、本発明による体脂肪率低減食品および医薬は、上記ラクトバチルス・プランタラムの菌体を含むものであることは前記したところである。ここで、ラクトバチルス・プランタラムの菌体とは、もとの形態を維持した菌体の他、破砕もしくは粉砕された菌体であってもよい。
【0010】
本発明において使用されるラクトバチルス・プランタラムとしては、この種に属する乳酸菌であれば任意の菌株を使用することができるが、好ましい態様の一つとして、ラクトバチルス・プランタラムNo.14株を例示することができる。ラクトバチルス・プランタラムNo.14株は種々の天然材料、例えば野菜(白菜など)から分離することができる。このラクトバチルス・プランタラムNo.14株は工業技術院微生物工業技術研究所に微工研菌寄第11550号(FERM P−11550)として寄託されている。
【0011】
ラクトバチルス・プランタラムNo.14株は、野菜から分離されたもので、下記のような菌学的性質を有するものである(特開平4−63587号公報参照)。
A.形態的性状
(1) 細胞の形・大きさ:桿菌、2〜5μm×1〜1.5μm (2) 運動性:なし
(3) 胞子の有無:なし (4) グラム染色:陽性 (5) 細胞の多形成の有無:なし
B.培地上の生育状態
(1) MRS寒天培地:30℃、3日間で直径約3mmの白色、円形のコロニーを形成する
(2) MRS液体培地:30℃、3日間で混濁し、底部に沈殿する
(3) MRS寒天穿刺培養:穿刺に沿って一様に生育、表面にも生育する
C.生理的性質
(1) 硝酸塩を還元しない (2) インドールを生成しない (3) ゼラチンを液化しない
(4) カタラーゼ反応:陰性 (5) デンプンを加水分解しない
(6) グルコース発酵形式:ホモ発酵 (7) 生成乳酸:DL−乳酸
(8) 耐塩性:NaCl−10%(w/v)まで生育し、11%(w/v)で生育不可
(9) 糖類からの酸の生成およびガス生成の有無
酸の生成 ガスの生成 酸の生成 ガスの生成
アミグダリン + − メレジトース + −
アラビノース − − メリビオース + −
セロビオース + − ラフィノース + −
エスクリン + − ラムノース − −
フラクトース + − リボース + −
ガラクトース + − サリシン + −
グルコン酸 + − ソルビトール + −
ラクトース + − シュクロース + −
マルトース + − トレハロース + −
マンニトール + − キシロース − −
マンノース + −
(10) 生育温度:至適温度 28〜31℃、生育範囲 7〜42℃
(11) 生育pH:至適pH 6.9、生育範囲 3.0〜7.8
(12) リトマスミルク:酸性化 (13) ウレアーゼ:陰性 (14) オキシダーゼ:陰性
(15) 硫化水素の生成:生成せず (16) VP反応:陰性 (17) MR反応:陽性
【0012】
本発明において使用するラクトバチルス・プランタラムの培養工程は、この細菌が増殖可能な条件であればどのような方法でもよく、乳酸菌の培養に用いられる通常の固形培地あるいは液体培地(例えばMRS培地)等を使用して通常の培養条件で培養することができる。ラクトバチルス・プランタラムの培養物は、そのまま、あるいは遠心分離等で集菌して湿潤状態とするか、その後適当な液体(例えば分岐デキストリン水溶液等)に懸濁して液体状態で本発明の体脂肪率低減剤として使用することができるが、さらにこれを乾燥させた菌体等任意の形態のものを使用することもできる。
【0013】
ラクトバチルス・プランタラム菌体の培養物を乾燥させる方法としては、例えば自然乾燥法、加熱法、噴霧乾燥法、凍結乾燥法等の通常の方法を使用することができる。本発明において、乾燥させたラクトバチルス・プランタラムの菌体は、そのままでも使用できるが、通常の粉砕機等を用いて粉末化することもできる。また、湿潤状態(懸濁状態を含む)の菌体は、必要に応じて、通常の破砕機等を用いて破砕したものを体脂肪率低減剤として使用することもできる。従って、本発明におけるラクトバチルス・プランタラムの菌体は、湿潤状態あるいは乾燥状態のいずれでも使用可能であり、また、もとの菌体の形態を保持したものでもよいし、微細片状に破壊された形態であってもよく、その状態もしくは形態は特に制限されない。本発明においては、使用し易さ、保存し易さ、安定性等の点から粉末の形態のものがより好ましい。
【0014】
後記実施例に示されるように、ラクトバチルス・プランタラムの菌体は、ヒト介入によるインビボ摂取試験において、体脂肪率が摂取前後で有意に低下し、体脂肪率を低下させる作用を有することが確認された。ラクトバチルス・プランタラムの菌体は、上記のような体脂肪率低化効果を示すことから体脂肪率低減剤として有用である。本発明において、前記のように調製された基本形態のラクトバチルス・プランタラムの菌体は、食品用の体脂肪率低減剤あるいは医薬用の体脂肪率低減剤として種々の形態で使用(摂取)することができる。
【0015】
本発明体脂肪率低減剤を食品として用いる場合は、サプリメントもしくは栄養補助剤等の健康補助食品とするかあるいは一般の飲食品に含有させた健康食品とすることができる。そのような食品の形態としては、ラクトバチルス・プランタラムの菌体を含有させた錠剤、カプセル剤、顆粒剤、粉末、ゼリー、ドリンク剤等の種々の形態とすることができる。また、ラクトバチルス・プランタラムの菌体を一般の飲食品に含有もしくは混合させる場合の食品としては特に限定されないが、例えば、固形食品としては漬け物類、菓子類、ケーキ、ふりかけ類、麺類等、半流動食品としては、ヨーグルト、ゼリー類、粥類等、飲料としては、乳酸菌飲料、スープ類、お茶、青汁等があげられる。上記のような種々の形態の食品を調製する場合、必要に応じて一般に飲食品に用いられる乳化剤、分散剤、緩衝剤等の通常の添加剤を使用することができる。また必要に応じて、栄養補助等を目的としてビタミン類、ミネラル類、食物繊維等の添加物を適量配合することもできる。ビタミンCあるいはE等を添加した場合には、長期保存時の劣化(退色、酸化等)を防止することができる。本発明による体脂肪率低減食品は、肥満あるいは肥満体質等に対して穏やかに作用して体脂肪率を低減しこれらを改善することができる。本発明の食品は、製品形態として上記のような肥満、肥満体質あるいは体脂肪率の改善のために用いられる旨の表示を付した飲食品(特定保健用食品等)とすることができる。
【0016】
ラクトバチルス・プランタラム菌体の配合量は、一般に、乾燥形態での含量として、食品一食分あたり0.5〜1g程度が適当である。また、本発明による体脂肪率低減食品を摂取する場合、乾燥状態のラクトバチルス・プランタラムの菌体量として、経口摂取で一般に毎食事あたり10〜1010CFU程度、あるいは1日あたり1010〜1011CFU程度が適当である。
【0017】
本発明体脂肪率低減剤を医薬品として用いる場合は、ラクトバチルス・プランタラム菌体は、投与方法、投与目的等によってきまる適当な剤形、例えば錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、軟膏剤、クリーム剤、液剤等の種々の形態とすることができる。これらの製剤を製造するには、製薬上許容される担体あるいは希釈剤等、具体的には通常医薬に使用される賦形剤、結合剤、滑沢剤等張化剤等を添加することができる。投与方法としては、経口投与、直腸投与等の投与経路で投与することができる。本発明医薬の投与量は、投与方法、患者の状況等に応じて変化することはいうまでもなく、また適量と投与回数は専門医によって決定されるが、具体的には、ラクトバチルス・プランタラム菌体乾燥物として成人1日当たり1010〜1011CFU程度が適当である。
【0018】
上記のような本発明による体脂肪率低減剤あるいは体脂肪率低減食品または医薬は、ラクトバチルス・プランタラムの菌体を使用することにより、ヒトにおいて実際に体脂肪率を低下させることができ、従って、脂肪組織を減少させ、肥満の抑制または防止、あるいは肥満体質の改善に有効である。
【実施例】
【0019】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0020】
[実施例1]
(ラクトバチルス・プランタラムNo.14株の培養)
ラクトバチルス・プランタラムNo.14株は、まずMRS培地やフラクトース糖源Rogosa培地で前培養をした。その後30L容ジャーファーメンターにて本培養を行った。培養液を回収し、遠心分離機にて集菌を行った。菌体を分岐デキストリン水溶液に懸濁させたあと、凍結乾燥させた。これをミルで粉砕した。その結果この粉末の乳酸菌数は1.5×1010CFU/gであった。
【0021】
[実施例2]
(摂取試験)
健常女子44名を試験群22名とプラセボ群22名に分けた。試験群にはLactobacillus Plantarum No.14株を実施例1のように培養・凍結乾燥したものを0.5g摂取させた。プラセボ群22名には分岐デキストリンを凍結乾燥したもの0.5gを摂取させた。摂取期間は3週間とし、毎朝食時に水と同時に摂取させた。摂取開始日、摂取3週間後、後観察2週間後(摂取終了後から試験食は摂取せずにさらに2週間後)には体重・体脂肪率測定、血液検査をした。測定前日は21時までに夕食を終了し、その後採血までは水以外の飲食を禁止した。体重・体脂肪率測定は体重体組成計HBF−354(オムロン(株))で行った。採血は上腕部静脈より行った。
(結果)
摂取前後で体脂肪率がプラセボ群は上昇傾向にあったのに対し、試験群は有意(p<0.01)に減少した(図1参照)。このうち0.5%以上体脂肪率が減少した人数が、プラセボ群は4人だったのに対し、試験群は13人であった。一方、血液検査結果は摂取開始日、摂取3週間後、後観察2週間後のいずれにおいてもほぼ基準値内であり、摂取期間中に問題となる所見は無かった。
【0022】
[実施例3]本発明食品の配合例
・乳酸菌体入り漬物:
実施例1の本菌体をスターターとし、乳酸発酵を行う漬物類を製造した。野菜(キュウリ、キャベツ、ラッキョウ等)を、乳酸菌を添加した塩水中で漬けた。調味後、容器に充填して殺菌を行った。官能評価に供したところ一般的な漬物と何ら変わりなく毎日食べ続けられるとの回答が多かった。
・乳酸菌体入り飲料:
加熱した牛乳に砂糖を加えた後に、冷やしながら実施例1の本菌体、レモン果汁を添加して水で希釈した。ビタミンCを加えて常法通りUHT殺菌殺菌して500ml容PETボトルにアセプティック充填した。官能評価に供したところ毎日飲み続けられるとの回答が多かった。
・乳酸菌体入りヨーグルト:
牛乳、クリーム、砂糖、安定剤、香料、水を均一に混合し、128℃、15秒の加熱殺菌を行い、30℃以下まで冷却した。実施例1の乳酸菌スターターを添加し、30℃の発酵タンクで発酵を行った。約24時間でpH4.3となり、ゲル化が安定した時点で撹拌冷却した。これを紙容器に充填・密封し、10℃以下の冷蔵庫で冷却保管した。できあがったヨーグルトは一般的なヨーグルトと変わらず、毎日食べ続けられるとの評価が多かった。
【0023】
[実施例4]本発明医薬品の配合例
・顆粒状健康食品:
実施例1の菌体にデキストリンを添加し、水をバインダーとして流動層造粒機を用いて、均等に混和・加熱・造粒を行い、造粒物を得た。これをスティック充填機にて1スティック1gとなるように充填した。
・タブレット状健康食品:
実施例1の菌体に還元パラチノース、ソルビトール、アラビアガムを、適宜水をバインダーとして加熱・造粒しながら添加し、クエン酸、香料等で味を調製し、打錠機によりタブレット状に成型しやすいように粉末油脂とショ糖脂肪酸エステルを加え、混合する。これを1粒当たり1.5gになるよう打錠した。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、体脂肪率低減剤、さらに具体的には、ラクトバチルス・プランタラム菌体を有効成分とする体脂肪率低減剤およびそれを含む体脂肪率低減作用を有する健康食品および医薬品として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施例2の摂取試験における体脂肪率の変化(Aは試験群、Bはプラセボ群)を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルス・プランタラムの菌体を有効成分とする体脂肪率低減剤。
【請求項2】
工業技術院微生物工業技術研究所に微工研菌寄第11550号(FERM P−11550)として寄託されているラクトバチルス・プランタラムNo.14株の菌体を有効成分とする、請求項1に記載の体脂肪率低減剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載されたラクトバチルス・プランタラムの菌体を含有する、体脂肪率低減食品。
【請求項4】
請求項1または2に記載されたラクトバチルス・プランタラムの菌体を含有する、体脂肪率低減用医薬。

【図1】
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【公開番号】特開2007−77054(P2007−77054A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−265641(P2005−265641)
【出願日】平成17年9月13日(2005.9.13)
【出願人】(591104848)株式会社桃屋 (17)
【Fターム(参考)】