説明

ラクトンからポリエステルおよびコポリエステルを製造する方法

本願は、ラクトンからポリエステルおよびコポリエステルを製造する方法を記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、ラクトンからポリエステルおよびコポリエステルを製造する方法を記載する。
【0002】
ラクトン(環式エステル)は、活性水素を有する化合物(いわゆる開始剤)、たとえばアルコールまたはアミンによって、触媒の存在下に20〜200℃の温度で重合することができる。その際、1のラクトンのみを使用すると、反応生成物はポリエステルまたはポリラクトンであり、複数の異なったラクトンの使用は、コポリエステルまたはコポリラクトンを生じる。
【0003】
ラクトンからのポリエステルおよびコポリエステルの製造はすでにしばしば試みられている。金属触媒による重合、たとえばKowalski、A.等のMacromolecules、2000年、33、第689〜695頁またはChem,H.L.等のOrganometallics、2001年、23、第5076〜5083に記載されているもの以外に、アニオン性で開始される重合(Cherdron,H.等、Makromol.Chem.1962年、56、179)、カチオン性で開始される重合(Basko,M.等、J.Polym.Chem.、2006年、44、第7071〜7081頁)およびリパーゼにより触媒される重合(Ritter,H.等、Adv.Polym.Sci.、2006年、194、95)が公知である。固相触媒の使用もすでに、たとえばDE3221692に記載されている。
【0004】
これらの製造法は全て、高温もしくは長い反応時間を必要とするという欠点を有しており、これは変色および副反応につながるか、あるいはまた、これらの製造法は反応性の低い置換されたラクトンに適用するには不十分であるにすぎない。
【0005】
本発明の課題は、一方では低い温度で進行し、かつ他方では反応性の低い置換されたラクトンに適用することができる、ラクトンからポリエステルおよびコポリエステルを製造する方法を見出すことであった。
【0006】
意外にも、触媒としてビスマストリフレートを使用することにより、単純なラクトンも、反応性の低いラクトン(たとえば置換されたもの)も低い温度で、有利には最大100℃の温度でポリエステルおよび/またはコポリエステルへと重合することができることが判明した。さらに、本発明による触媒は、反応時間を著しく短縮することが判明した。
【0007】
本発明の対象は、
A)少なくとも1のラクトンと、
B)開始剤としての少なくとも1のアルコールまたはアミンとを、
C)触媒としてのビスマストリフレートの存在下で
反応させることによりポリエステルおよびコポリエステルを製造する方法である。
【0008】
有利にはこの方法は、最大で100℃の温度で、特に有利には室温〜80℃の温度で適用される。
【0009】
適切なラクトンA)は、3〜20個の環原子を有し、かつ環に1もしくは複数の別の置換基を有していてもよい全ての環式ラクトンである。これらの置換基は同時に、または相互に無関係に1〜18個の炭素原子を有するアルキル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基、アルコキシアルキル基を意味することができ、それぞれ線状もしくは分枝鎖状、架橋していないか、もしくは他の基により架橋していてよく、単環式、二環式もしくは三環式の構造を形成してもよく、かつその際、架橋原子は炭素以外にヘテロ原子であってもよく、かつそれぞれの基はさらに1もしくは複数のアルコール基、アミノ基、エーテル基、エステル基、ケト基、チオ基、ウレタン基、尿素基、アロファネート基、二重結合、三重結合またはハロゲン原子を有していてもよい。適切なラクトンは、ε−カプロラクトン、γ−ブチロラクトン、β−プロピオラクトン、β−メチルプロピオラクトン、3,3,5−トリメチル−ε−カプロラクトン、3,5,5−トリメチル−ε−カプロラクトン、γ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトンである。これらのモノマーの混合物を使用することもできる。有利であるのは、ε−カプロラクトン、および3,3,5−トリメチル−ε−カプロラクトンおよび3,5,5−トリメチル−ε−カプロラクトンであり、特に有利であるのはε−カプロラクトンおよび3,3,5−トリメチル−ε−カプロラクトンおよび3,5,5−トリメチル−ε−カプロラクトンの混合物である。
【0010】
B)の適切な開始剤は、あらゆるモノマー、オリゴマー、またはポリマーのモノアルコールもしくはポリアルコール、またはアミンである。アルコールの例はエタノール、プロパノール、ブタノール、モノエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、2,3−ブチレングリコール、ジ−β−ヒドロキシエチルブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、デカンジオール、ドデカンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジオール、3(4),8(9)−ビス(ヒドロキシメチル)−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン(ジシドール)、ビス(1,4−ヒドロキシメチル)−シクロヘキサン、2,2−ビス−(4−ヒドロキシシクロヘキシル)−プロパン、2,2−ビス−[4−(β−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−プロパン、2−メチル−プロパンジオール−1,3、2−メチル−ペンタンジオール−1,5、2,2,4−トリメチルヘキサンジオール−1,6、2,4,4−トリメチルヘキサンジオール−1,6、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ヘキサントリオール−1,2,6、ブタントリオール−1,2,4、トリス(β−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリトリット、マンニット、ソルビット、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、キシリレングリコール、ヒドロキシピバル酸ネオペンチルグリコールエステルおよびポリテトラヒドロフランである。アミンの例は、プロパンアミン、ブタンアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、4,4′−ジシクロヘキシルメチルジアミン、イソホロンジアミン、アミン化ポリエーテル(商品名Jeffamine)である。これらは開始剤B)の混合物として使用することもできる。
【0011】
有利にはネオペンチルグリコール、ブタンジオール、またはトリメチロールプロパンを単独で、または混合物として使用する。
【0012】
B)の量は、OH価が5〜500であるポリエステルが生じるように使用する。これは、B)の分子量および官能性に応じて、全組成物において1〜90質量%、有利には3〜35質量%の割合で使用することを意味する。
【0013】
触媒Cとして、ビスマストリフレートを使用する。この場合、トリフレートとは、トリフルオロメチルスルホン酸の塩のために慣用されている略称である。触媒の実験式は、Bi(F3CSO33である。触媒は、全組成物に対して0.01〜2質量%の量で、有利には0.1〜1質量%の量で使用する。触媒は、たとえばAcrosで市販されている。
【0014】
本発明による方法によれば、任意の重合度を有するポリエステルを製造することができる。重合度は、開始剤分子対ラクトンの当量比によって決定される。平均分子量(Mn)が300〜10000g/molであるポリエステルは、特に工業的に興味深いものであるため、必要とされる開始剤・ラクトン比は、化学量論比によって調整することができる。有利にはMn:300〜10000g/mol、OH価:5〜400mg KOH/g、酸価0〜20mg KOH/g、全組成物に対するモノマー含有率:0〜20質量%を有するポリエステルを製造する。
【0015】
原則として、ポリエステルもしくはコポリエステルを製造した後に、触媒を失活させることは可能である。このためには特に、0.1〜2質量%の濃度で使用される、あらゆる塩基性の物質が適切である。考えられるものは、たとえばアミン、たとえば有利にはトリエチルアミン、またはメチルエチルケトキシム、あるいはまたカルボン酸の金属塩、有利にはたとえば酢酸ナトリウムである。
【0016】
反応のための反応装置として、たとえば加熱可能な攪拌式反応器、反応管、スタチックミキサー、ニーダー、または押出機が考えられる。出発生成物も、本発明による最終生成物も固体または液状であってよい。反応温度は有利には、全ての成分が、同一の相中で液状で存在するように選択すべきである。しかし温度は100℃以下であるべきであり、有利には80℃以下、特に有利には70℃以下である。反応時間は数分〜数時間であり、例外的な場合には数日でもある。有利には反応時間は30分ないし6時間である。反応は確かに不活性溶剤中で実施することができるが、しかし有利には溶剤を用いないで行う。反応は有利には、ラクトンが反応混合物中にほとんど残留しないように、有利には0.5質量%未満となるように、しかしまた過剰のラクトンは反応後に蒸留によって分離し、かつ次の製造プロセスにおいて使用することができるように実施することができる。
【0017】
平均分子量(Mn)は、以下のとおりに測定される:ASTM D3016−78、ASTM D 3536−76、ASTM D3593−80、GPC(ゲル透過クロマトグラフィー)。
【0018】
明らかに異なった反応性を有する2種類以上のラクトンを共重合する場合には、反応性の低い方のラクトンを装入し、かつ反応性の高い方のラクトンを、反応の間に少量ずつ添加することが有利であることが実証されている。
【0019】
本発明の対象はまた、本発明による方法により製造されたポリエステルおよびコポリエステルである。
【0020】
本発明による方法により製造されたポリエステルは、たとえばポリウレタンの製造に適切である。
【0021】
以下では本発明を実施例により詳細に説明するが、しかしこれは本発明を限定するものではない。
【0022】
実施例
【表1】

【0023】
B)ポリエステルの製造
1)ε−カプロラクトンの使用
ε−カプロラクトン114gおよびNPG12.5gにビスマストリフレート0.6gを添加し、かつ60℃で30分攪拌した。この反応時間後に、OH価103mg KOH/g、モノマー含有率0.1質量%未満、および平均分子量(Mn)1700g/mol(GPC)を有するポリエステルが生じた。
【0024】
2)トリメチル−ε−カプロラクトンの使用
3,3,5−トリメチル−ε−カプロラクトンと3,5,5−トリメチル−ε−カプロラクトンとからなる混合物156gおよびNPG12.5gに、ビスマストリフレート0.6gを添加し、かつ60℃で200分攪拌した。この反応時間後に、トリメチル−ε−カプロラクトンの残留モノマー含分(15.9質量%)を蒸留により分離した(フラッシュ蒸発器、70℃、0.1ミリバール)。ここから、OH価93mg KOH/g、モノマー含有率1.2質量%、および平均分子量(Mn)1500g/mol(GPC)を有するポリエステルが生じた。
【0025】
3)ε−カプロラクトンとトリメチル−ε−カプロラクトンとからなる混合物の使用
3,3,5−トリメチル−ε−カプロラクトンと3,5,5−トリメチル−ε−カプロラクトンとからなる混合物46.8gに、NPG12.5gおよびビスマストリフレート0.6gを添加し、かつ60℃に加熱した。次いでε−カプロラクトン79.8gを60℃で200分以内に滴加し、かつその際に攪拌した。この反応時間後に、トリメチル−ε−カプロラクトンの残留モノマー含分(4.5質量%)を蒸留により分離した。ここから、OH価99mg KOH/g、モノマー(トリメチル−ε−カプロラクトン)含有率1.1質量%、および平均分子量(Mn)1500g/mol(GPC)を有するポリエステルが生じた。
【0026】
A)本発明によらない比較例
2)と同じ出発混合物を使用したが、しかしビスマストリフレートに代えて、同じ量の慣用の触媒、つまり0.6gのスズオクトアート(2−エチルヘキサン酸第一錫)を使用した。130℃で15時間後、依然として約30質量%のトリメチルカプロラクトンが、反応混合物中に残留していた。
【0027】
これらの例が示すように、ビスマストリフレートのみが、低い温度および短い反応時間で、反応性の低いラクトンも相応するポリエステルへと変換することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
A)少なくとも1のラクトンと、
B)開始剤としての少なくとも1のアルコールまたはアミンとを、
C)触媒としてのビスマストリフレートの存在下で
反応させることによりポリエステルおよびコポリエステルを製造する方法。
【請求項2】
反応を最大で100℃の温度で、有利には室温〜80℃の温度で行うことを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
3〜20個の環原子を有し、かつ環に1もしくは複数の別の置換基を有していてもよいラクトンA)を使用することを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
ラクトンA)として、ε−カプロラクトン、γ−ブチロラクトン、β−プロピオラクトン、β−メチルプロピオラクトン、3,3,5−トリメチル−ε−カプロラクトン、3,5,5−トリメチル−ε−カプロラクトン、γ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトンを、単独で、または混合物として使用することを特徴とする、請求項3記載の方法。
【請求項5】
ラクトンA)として、ε−カプロラクトン、または3,3,5−トリメチル−ε−カプロラクトンおよび3,5,5−トリメチル−ε−カプロラクトンを、有利にはε−カプロラクトンおよび3,3,5−トリメチル−ε−カプロラクトンおよび3,5,5−トリメチル−ε−カプロラクトンの混合物を使用することを特徴とする、請求項4記載の方法。
【請求項6】
開始剤B)として、エタノール、プロパノール、ブタノール、モノエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、2,3−ブチレングリコール、ジ−β−ヒドロキシエチルブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、デカンジオール、ドデカンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジオール、3(4),8(9)−ビス(ヒドロキシメチル)−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン(ジシドール)、ビス(1,4−ヒドロキシメチル)−シクロヘキサン、2,2−ビス−(4−ヒドロキシシクロヘキシル)−プロパン、2,2−ビス−[4−(β−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−プロパン、2−メチル−プロパンジオール−1,3、2−メチル−ペンタンジオール−1,5、2,2,4−トリメチルヘキサンジオール−1,6、2,4,4−トリメチルヘキサンジオール−1,6、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ヘキサントリオール−1,2,6、ブタントリオール−1,2,4、トリス(β−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリトリット、マンニット、ソルビット、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、キシリレングリコール、ヒドロキシピバル酸ネオペンチルグリコールエステル、ポリテトラヒドロフラン、プロパンアミン、ブタンアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、4,4′−ジシクロヘキシルメチルジアミン、イソホロンジアミン、アミン化ポリエーテルを、単独で、または混合物として使用することを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
開始剤B)として、ネオペンチルグリコール、ブタンジオールまたはトリメチロールプロパンを、単独で、または混合物として使用することを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
B)の量が、全組成物に対して、1〜90質量%、有利には3〜35質量%の割合であることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
触媒Bi(F3CSO33を、全組成物に対して、0.01〜2質量%、有利には0.1〜1質量%の量で使用することを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
平均分子量(Mn)300〜10000g/molのポリエステルを製造することを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
Mnが300〜10000g/mol、OH価が5〜400mg KOH/g、酸価が0〜20mg KOH/g、モノマー含有率が全組成物に対して0〜20質量%であるポリエステルを製造することを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
溶剤を用いないで実施することを特徴とする、請求項1から11までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
反応混合物中のラクトンの含有率が、0.5質量%未満であるが、しかし反応後に過剰のラクトンが蒸留によって除去されるように反応を実施することを特徴とする、請求項1から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
ポリエステルまたはコポリエステルを製造した後に、触媒を、有利には0.1〜2質量%の濃度で使用される塩基性の物質、有利にはアミン、好ましくはトリエチルアミン、またはメチルエチルケトキシム、またはカルボン酸の金属塩、有利には酢酸ナトリウムにより失活させることを特徴とする、請求項1から13までのいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
請求項1から14までのいずれか1項記載の方法により製造されたポリエステルまたはコポリエステル。

【公表番号】特表2013−507495(P2013−507495A)
【公表日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−533536(P2012−533536)
【出願日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際出願番号】PCT/EP2010/061755
【国際公開番号】WO2011/045100
【国際公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(501073862)エボニック デグサ ゲーエムベーハー (837)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1−11, D−45128 Essen, Germany
【Fターム(参考)】