説明

ラクトン化合物の精製方法、プラスチック光ファイバ用重合体の製造方法、及びプラスチック光ファイバの製造方法

【課題】ラクトン化合物中に含まれる不純物を効率よく、簡便に除去できるラクトン化合物の精製方法を提供する。
【解決手段】一般式(1)で示される粗製ラクトン化合物を晶析し、析出したラクトン化合物の結晶を取得するラクトン化合物の精製方法。


(式(1)中、R1はメチル基、エチル基等を示し、R2、R3は独立して水素原子、無置換もしくはフッ素原子で置換されていてもよい炭素数1〜12のアルキル基等を示し、R2、R3は相互に一体となってこれらが結合する炭素原子を含めて5または6員環を形成していてもよく、該5または6員環はフッ素原子で置換されていてもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性が高く耐熱性に優れる重合体の原料として有用なラクトン化合物を精製する方法、プラスチック光ファイバ用重合体の製造方法、及びプラスチック光ファイバの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック光ファイバ(POF)は、安価、軽量、柔軟性、大口径という特長を生かし、照明用途や短距離用情報通信、工業用のセンサーなどに用いられ、自動車などの移動車体内用の情報通信にも利用されている。
【0003】
このPOFの芯材には、十分な透明性および伝送特性を有するポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂が主成分として用いられている。しかしPMMAを芯材とするPOFは、PMMAのガラス転移温度(Tg)が110℃程度であることから、より耐熱性の高い重合体を外側に被覆しても実際に使用できる温度は110℃程度である。このため、さらに耐熱性が要求される用途ではPMMAより耐熱性の高い材料を芯材として使用することが検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1及び特許文献2には、光伝送損失が低く耐熱性の高いPOFの提供を目的として、芯材に、α−メチレン−γ−ブチロラクトン誘導体の単独重合体、及びα−メチレン−γ−ブチロラクトン誘導体とメタクリル酸エステルとの共重合体をそれぞれ用いることが提案されている。
【0005】
しかし、高い透明性が要求される光学材料分野、特にPOFの芯材としては、上記文献に記載される単独重合体及び共重合体よりも高い透明性をもつ材料が求められている。
【0006】
特許文献3には、透明度、耐光性、加工性がPMMAに匹敵し、熱形状安定性に優れたポリマー材料を提供することを目的とし、α−メチレン−β−メチル−γ−ブチロラクトンやα−メチレン−β−エチル−γ−ブチロラクトン等のエキソ−メチレンラクトン化合物の単独重合体、エキソ−メチレンラクトン化合物と(メタ)アクリル酸エステル等のビニル系不飽和モノマーとの共重合体が提案されている。そして、透明でPMMAよりも高いTgを有する共重合体を提供できることが記載され、また、PMMAよりも高い屈折率をもつ共重合体を提供できることから、光導波路への適用の可能性について記載されている。
【0007】
しかし、ラクトン化合物の合成時の副生成物や重合禁止剤等の不純物は、この不純物を含むラクトン化合物の重合体を成形したときに失透や着色の原因となり、高い透明性や無着色性が要求される光学用途の分野、特にPOFでは伝送損失の増加を招くという問題があった。
【0008】
一般的にモノマーの精製には、蒸留法が用いられており、モノマーの沸点と十分に離れた沸点をもつ不純物成分の除去は容易である。しかし、ラクトン化合物の精製の場合、不純物の中には、目的のラクトン化合物の沸点に近い沸点をもつ成分が多く、その分離のために高段の蒸留塔を用いても分離することが難しく、通常の蒸留手段ではラクトン化合物の不純物の分離を十分に行うことができなかった。
【0009】
他の精製方法として、特許文献4、特許文献5、特許文献6には、再結晶により精製したり、溶媒洗浄により精製したり(抽出による不純物除去)、酸性物質を添加した後に蒸留精製したりする技術が開示されているが、光学用途に使用できるような高純度のラクトン化合物を得るには不十分であった。
【特許文献1】特開平09−033735号公報
【特許文献2】特開平09−033736号公報
【特許文献3】特開平08−231648号公報
【特許文献4】特開2002−293777号公報
【特許文献5】特開2001−139567号公報
【特許文献6】特開平11−286482号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、ラクトン化合物に含まれる不純物を効率よく、簡便に除去できるラクトン化合物の精製方法を提供することを目的とする。また本発明は、透明性と耐熱性に優れるプラスチック光ファイバ用重合体を提供し、さらに、伝送性能と耐熱性に優れるプラスチック光ファイバを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、一般式(1)で示される粗製ラクトン化合物を晶析し、析出したラクトン化合物の結晶を取得するラクトン化合物の精製方法に関する。
【0012】
【化1】

【0013】
(式(1)中、R1はメチル基、エチル基またはプロピル基を示し、R2、R3は独立して水素原子、無置換もしくはフッ素原子で置換されていてもよい炭素数1〜12の直鎖状もしくは分岐状アルキル基、無置換もしくは炭素数1〜3の直鎖状もしくは分岐状アルキル基で置換されていてもよいフェニル基、または無置換もしくはフッ素原子で置換されていてもよいシクロヘキシル基を示し、R2、R3は相互に一体となってこれらが結合する炭素原子を含めて5または6員環を形成していてもよく、該5または6員環はフッ素原子で置換されていてもよい。)
また本発明は、粗製ラクトン化合物を上記の精製方法により精製する工程と、前記精製方法により精製されたラクトン化合物とメタクリル酸メチルとを共重合する工程を有するプラスチック光ファイバ用重合体の製造方法に関する。
【0014】
また本発明は、上記の方法により芯材用の重合体を形成する工程と、芯材用の前記重合体と鞘材用の他の重合体を複合紡糸ノズルに供給して、芯−鞘構造を有する光ファイバを紡糸する工程を有するプラスチック光ファイバの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ラクトン化合物中に含まれる不純物を効率よく、簡便に除去できるラクトン化合物の精製方法を提供できる。また、この精製方法により得られたラクトン化合物を用いることにより、透明性と耐熱性に優れるプラスチック光ファイバ用重合体を提供でき、さらにこの共重合体を芯材に用いることにより、伝送性能と耐熱性に優れたプラスチック光ファイバを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明において精製対象となる粗製ラクトン化合物は、一般式(1)で示される、β位にアルキル基が置換したラクトン化合物を目的物として含むものである。粗製ラクトン化合物の純度は、効率的に精製する観点から、90質量%以上99%質量未満の範囲にあることが好ましく、90〜98質量%の範囲にあることがより好ましい。
【0017】
【化2】

【0018】
(式(1)中、R1はメチル基、エチル基またはプロピル基を示し、R2、R3は独立して水素原子、無置換もしくはフッ素原子で置換されていてもよい炭素数1〜12の直鎖状もしくは分岐状アルキル基、無置換もしくは炭素数1〜3の直鎖状もしくは分岐状アルキル基で置換されていてもよいフェニル基、または無置換もしくはフッ素原子で置換されていてもよいシクロヘキシル基を示し、R2、R3は相互に一体となってこれらが結合する炭素原子を含めて5または6員環を形成していてもよく、該5または6員環はフッ素原子で置換されていてもよい。)
粗製ラクトン化合物の製造方法は特に限定されず、例えば、ヒドロキシ酸のカルボキシル基と水酸基の間で起こるエステル化法や、その他、製造に有効な中間体を還元や酸化して製造する一般的な各種の製造方法により製造することができる。
【0019】
例えば、α−メチレン−β−アルキル−γ−ブチロラクトンまたはその関連物質の製造方法に関しては、これまで数々の報告がされている。例えば、非特許文献1(Synthesis, 1975, 67-82)や、非特許文献2(Synthesis, 1986, 157-183)、非特許文献3(Synth. Commun. 1975, 5, 245-268)に総説が記載されている。
【0020】
これらの製造方法を大きく分類すると、β−メチル−γ−ブチロラクトンを合成した後、そのα位を活性化してメチレン基を導入する方法と、すでに存在するオレフィンを利用してα−メチレン−γ−ブチロラクトンを製造する方法に分けられる。以下に、低コストで製造可能な前者の方法について説明する。
【0021】
ラクトン環のα位の活性化にはカルボキシル基を導入する方法がある。非特許文献4(Chem. Comm. 1973, 500-501)には、ラクトン環のα位に炭酸ガスでカルボキシル基を導入し、37%ホルムアルデヒド水溶液とジエチルアミンと酢酸/酢酸ナトリウムの存在下でメチレン基を導入する下記スキームで示される方法が記載されている。この方法は、高価な試薬であるLDA(リチウムジイソプロピルアミド:LiN(iPr)2)を使用するので製造コストが高い。
【0022】
【化3】

【0023】
非特許文献5(J.Org.Chem.1977,42,1180-1185)には、ラクトン環のα位を活性化するためにアルキルオキサリル基を導入する方法が記載されている。ここでは金属ナトリウム、無水エタノールおよびシュウ酸ジエチルにより、ラクトン環のα位をエチルオキサリル化する。反応液中のオキサリル誘導体のナトリウム塩を中和後、オキサリル誘導体を抽出し、その濃縮残渣に水素化リチウムとガス状のホルムアルデヒドと反応させることによりα−メチレン−γ−ブチロラクトンを得る。
【0024】
【化4】

【0025】
非特許文献6(Macromolecules, 1979, 12, 546-551)には次に方法が記載されている。ワンポット反応でラクトン環のα位をエチルオキサリル化した後、次いでホルムアルデヒドガスで処理することによりスピロ誘導体を生成させる。そして、この反応液の濃縮残渣をエーテルにより繰返し洗浄することによりスピロ誘導体を抽出し、次いで、この抽出液と炭酸水素ナトリウム水溶液と反応させることによりα−メチレン−γ−ブチロラクトンへ誘導し、その後、再蒸留することによりα−メチレン−γ−ブチロラクトンを高純度に精製する。
【0026】
【化5】

【0027】
非特許文献7(Agric. Biol. Chem. 1978, 42, 1585-1588)には、ワンポット反応でラクトン環のα位を活性化後、37%ホルムアルデヒド水溶液でメチレン化する下記スキームで示される方法が記載されている。
【0028】
【化6】

【0029】
特許文献7(米国特許第6531616号明細書)には、γ−ブチロラクトン誘導体とシュウ酸エステル、アルコラートを加温下にて反応させて、ラクトン環のα位をアルキルオキサリル化したオキサリル誘導体のナトリウム塩(エノール塩)を得、このエノール塩を濾過して単離後、ホルマリンと炭酸カリウムとを反応させることによりα−メチレン−γ−ブチロラクトン誘導体を製造する方法が記載されている。
【0030】
しかし、β置換基を有するγ−ブチロラクトンでは、エノール塩の溶解性が低く析出しやすいので反応の転化率が不十分となり、原料のγ−ブチロラクトンおよびシュウ酸エステルが残存しやすい。そのため、反応後に精製を十分に行い原料およびシュウ酸エステルを除去する必要があるが、エノール塩は溶解性が低く、析出して微細な粉体となるため、濾過による精製が困難であった。さらにβ置換基を有するγ−ブチロラクトンを加温下にてアルキルオキサリル化させると不純物が副生するため、高純度なα−メチレン−β−アルキル−γ−ブチロラクトンを高収率で製造することは困難である。
【0031】
本発明において、結晶化による析出(晶析)を利用した精製の対象となる粗製ラクトン化合物は、上記のような一般的な製造方法により製造したものが挙げられ、その製造方法は特に限定されない。
【0032】
晶析により高純度で得られる目的のラクトン化合物は、α−メチレン−β−メチル−γ−ブチロラクトン(βMMBL)、α−メチレン−β−エチル−γ−ブチロラクトン(βEMBL)、α−メチレン−β−プロピル−γ−ブチロラクトン(βPMBL)のいずれかであることが好ましい。これらのラクトン化合物は、単独での重合性や、メタクリル酸メチルとの共重合性が優れていることに加え、得られた単独重合体や共重合体の透明性や耐熱性が優れている。
【0033】
このようなラクトン化合物を製造する場合、その製法によっては、不純物(副生成物)として、α−メチレン−β−メチル−γ−ブチロラクトン(βMMBL)の場合にはβ−メチル−γ−ブチロラクトン(βMBL)が含まれ、α−メチレン−β−エチル−γ−ブチロラクトン(βEMBL)の場合にはβ−エチル−γ−ブチロラクトン(βEBL)が含まれ、α−メチレン−β−プロピル−γ−ブチロラクトン(βPMBL)の場合にはβ−プロピル−γ−ブチロラクトン(βPBL)が含まれる場合がある。
【0034】
これらの不純物は、その構造から明らかなように、その沸点が、目的のラクトン化合物の沸点に非常に近く、通常の蒸留方法では、目的のラクトン化合物から十分に分離除去することできない。また、ラクトン化合物の単独重合や、ラクトン化合物とメタクリル酸メチルとの共重合の際に、これらの不純物は重合反応に関与しない。そのために、重合体中に未反応物として残ってしまい、重合体のヘイズが増大したり、耐熱性が低下したりする原因となる恐れがある。
【0035】
粗製ラクトン化合物の晶析には、通常の晶析装置を用いることができ、例えば、「化学工学便覧」、改定六版、丸善株式会社、1999、P505−512に記載されている晶析装置を用いることができる。晶析の操作は、回分式でも連続式でもどちらの方法でもよい。
【0036】
精製されたラクトン化合物は、晶析操作によって析出したラクトン化合物の結晶を母液と分離することで得られる。析出した結晶と母液の分離は、固体と液体とを分離する通常の方法により行うことができ、例えば、濾過法、遠心分離法、デカンテーションなどの固液分離方法を利用することができる。このような固液分離を行うための装置としては、例えばクレハ連続結晶精製装置(株式会社クレハエンジニアリング製KCP)等が挙げられる。分離の操作は回分式および連続式のいずれの方法でもよい。
【0037】
晶析に際しては、粗製ラクトン化合物を−4℃以下に冷却することが好ましく、−10℃以下に冷却することがより好ましく、−15℃以下に冷却することがさらに好ましい。効率的に精製を行う観点から、−50℃以上で冷却することが好ましく、−40℃以上で冷却することがより好ましく、−30℃以上で冷却することがより好ましい。
【0038】
また、冷却したラクトン化合物の結晶化を促進するために種晶を添加することが好ましい。種晶を添加することにより、ラクトン化合物結晶の回収率を高めることができ、また、不純物がより除去されやすくなる。
【0039】
粗製ラクトン化合物中に存在させる種晶の量は、種晶を含む全量に対して0.1〜20質量%の範囲が好ましい。種晶の添加量が少なすぎると、十分な添加効果が得られず、種晶の添加量が多すぎると、逆に晶析しにくくなったり、種晶由来の不純物量が多くなったりする。
【0040】
種晶としては、例えば、精製したラクトン化合物の小結晶を用いることができる。これにより、種晶由来の不純物の混入を抑えることができる。ラクトン化合物の小結晶を得る方法としては、目的のラクトン化合物を含有する粗製ラクトン化合物を冷却して晶析させたものを用いることができる。その際、粗製ラクトン化合物の純度は90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。例えば、純度95質量%以上のラクトン化合物を液体窒素で冷却して得ることができる。種晶形成用のラクトン化合物は、別途に同条件で製造したラクトン化合物を用いてもよいが、簡便性の点から、精製しようとする粗製ラクトン化合物の一部を用いることが好ましい。
【0041】
また、種晶としては、目的のラクトン化合物の製造に用いられた材料(溶媒、原料等)と同種の材料の小結晶を用いることができる。例えば、トルエン、シュウ酸エステル、メタクリル酸およびアクリル酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物の小結晶を用いることができる。このような材料の小結晶を用いることにより、製造時の材料由来の不純物とは異なる異種の不純物の混入を防止できる。
【0042】
上述の晶析を、結晶の純度を上げるために、2度、3度と複数回繰り返してもよい。
【0043】
析出したラクトン化合物の結晶は、純度を高めるために、洗浄処理を行って付着している母液を除去してもよい。洗浄溶剤としては、POFを製造する上で問題とならない化合物であれば何れの化合物を利用することができる。そのような洗浄溶剤としては、例えばトルエン、メタクリル酸エステル、目的のラクトン化合物と同種の精製したラクトン化合物等が利用できる。洗浄溶剤の温度は、結晶と同程度かそれ以下であることが好ましい。
【0044】
晶析により精製されたラクトン化合物は、蒸留などの他の精製処理を行ってもよい。適用した精製処理に応じてより一層純度を高めることができる。また、晶析により精製されたラクトン化合物を蒸留することによって、合成過程や洗浄過程で使用した残留溶剤などを除くこともできる。蒸留方法は特に限定されないが、蒸留塔に充填材を詰めて、蒸留理論段数を向上させた精密蒸留が好ましい。精製されたラクトン化合物に与える熱履歴が少ない点で、蒸留温度は95℃以下が好ましく、90℃以下がより好ましく、減圧度は10Torr(1.33kPa)以下が好ましく、7Torr(0.933kPa)以下がより好ましく、5Torr(0.667kPa)以下がさらに好ましい。
【0045】
晶析において、溶媒を含有させておいてもよい。例えば、粗製ラクトン化合物の合成段階で使用した反応溶媒を当該粗製ラクトン化合物中に残すことができる。晶析の際に存在または添加する溶媒の大部分は、最終的に母液に含まれる。例えばホルマリン、トルエン、シュウ酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒を用いることができる。晶析の際に粗製ラクトン化合物中に存在させる溶媒は、晶析の際にラクトン化合物と固溶体を形成しないような有機化合物または無機化合物であれば特に制限されない。晶析の際に粗製ラクトン化合物中に存在させる前記溶媒の濃度は、0.1〜30質量%であることが好ましく、0.1〜20質量%がより好ましく、0.5〜20質量%がさらに好ましい。種晶を添加する場合は、種晶と溶媒との合計量がこれらの範囲にあることが好ましい。溶媒の濃度は低いほどラクトン化合物結晶の回収率が高くなるが、溶媒濃度が高すぎると晶析しにくくなる傾向がある。粗製ラクトン化合物に含まれる溶媒多いときは、溶媒量を晶析前に減らしておくことで、所望の晶析を行うことができる。溶媒量を晶析前に減らすための方法は特に限定されないが、単蒸留や抽出を含む各種の精製手段が採用できる。
【0046】
次に、プラスチック光ファイバ用重合体およびプラスチック光ファイバの製造方法について説明する。
【0047】
本発明による精製方法により精製されたラクトン化合物とメタクリル酸メチル(MMA)とを共重合することにより、プラスチック光ファイバ(POF)に好適な、透明性が高く且つ耐熱性に優れる重合体を得ることができる。この共重合体は、透明性と耐熱性に優れる他、屈折率が高いため、特にPOFの芯材として好適である。共重合の方法は、通常のPOF用のメタクリル系共重合体の製造方法における共重合方法を適用することができる。
【0048】
POFの芯材としては、本発明による精製方法により精製されたラクトン化合物5〜50質量%とMMA50〜95質量とを共重合して得られた重合体を用いることが好ましい。
【0049】
この重合体を芯材として、この重合体より屈折率が低い他の重合体を鞘材として、複合紡糸ノズルに供給して紡糸することにより、芯−鞘構造を有するプラスチック光ファイバを製造することができる。
【0050】
芯材の屈折率は、鞘材の屈折率に応じて、NA(Numerical Aperture)が所望の範囲にあるような屈折率を有するものが好ましい。
【0051】
POFの芯の外周に設ける鞘は1層に限定されず、2層以上の複数層を形成してもよいが、製造コストの観点からは、芯の外周に設けられた第1鞘と、この第1鞘層の外周に同心円状に設けられた第2鞘層からなる2層構造が好ましい。
【0052】
鞘材としては、含フッ素オレフィン系樹脂や、フッ素化メタクリレート系重合体等の通常の鞘材から適宜選択することができる。鞘が2層以上の複数層から形成されている場合は、最内層の鞘にはフッ素化メタクリレート系重合体を用いることが好ましい。
【0053】
鞘に用いる含フッ素オレフィン系樹脂としては、テトラフルオロエチレン(TFE)単位を含むものが好ましく、より具体的には、ビニリデンフルオライド(VdF)単位10〜60質量%とTFE単位20〜70質量%とヘキサフルオロプロピレン(HFP)単位5〜35質量%からなる3元共重合体、VdF単位5〜25質量%とTFE単位50〜80質量%とパーフルオロ(フルオロ)アルキルビニルエーテル単位5〜25質量%からなる3元共重合体、VdF単位10〜30質量%とTFE単位40〜80質量%とHFP単位5〜40質量%とパーフルオロ(フルオロ)アルキルビニルエーテル単位0.1〜15質量%からなる4元共重合体、TFE単位40〜90質量%とパーフルオロ(フルオロ)アルキルビニルエーテル単位10〜60質量%とからなる2元共重合体、TFE単位30〜75質量%とHFP単位25〜70質量%とからなる2元共重合体等を挙げることができる。
【0054】
フッ素化メタクリレート系重合体は、屈折率の調整が容易で、良好な透明性及び耐熱性を有しながら、屈曲性及び加工性に優れるためPOFの鞘材として好適である。
【0055】
鞘を複数層設ける場合、最内層に好適なフッ素化メタクリレート系重合体としては、一般式(5)
CH2=CX−COO(CH2m−R1f (5)
(式中、Xは水素原子、フッ素原子、又はメチル基を示し、R1fは炭素数1〜12のフルオロアルキル基を示し、mは1又は2の整数を示す。)で表されるフルオロアルキル(メタ)アクリレートの単位(D)15〜90質量%と、他の共重合可能な単量体の単位(E)10〜85質量%からなり、屈折率が1.39〜1.475の範囲にある共重合体を挙げることができる。
【0056】
上記一般式(5)で表されるフルオロアルキル(メタ)クリレートの単位として、より具体的には、一般式(6)
CH2=CX−COO(CH2m(CF2nY (6)
(式中、Xは水素原子、フッ素原子、又はメチル基、Yは水素原子又はフッ素原子を示し、mは1又は2、nは1〜12の整数を示す。)、
あるいは、一般式(7)
CH2=CX−COO(CH2m−(C)R2f3f1 (7)
(式中、Xは水素原子、フッ素原子、又はメチル基を示し、R2f、R3fは独立して炭素数1〜の12フルオロアルキル基を示し、R1は水素原子又はメチル基、又はフッ素原子を示し、mは1又は2の整数を示す。)で表されるフルオロアルキル(メタ)クリレートの単位を挙げることができる。
【0057】
具体的には、一般式(6)が表すフルオロアルキル(メタ)クリレートとして、(メタ)アクリル酸−2,2,2−トリフルオロエチル(3FM)、(メタ)アクリル酸−2,2,3,3−テトラフルオロプロピル(4FM)、(メタ)アクリル酸−2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル(5FM)、(メタ)アクリル酸−2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロブチル(6FM)、(メタ)アクリル酸−1H,1H,5H−オクタフルオロペンチル(8FM)、(メタ)アクリル酸−2−(パーフルオロブチル)エチル(9FM)、(メタ)アクリル酸−2−(パーフルオロヘキシル)エチル(13FM)、(メタ)アクリル酸−1H,1H,9H−ヘキサデカフルオロノニル(16FM)、(メタ)アクリル酸−2−(パーフルオロオクチル)エチル(17FM)、(メタ)アクリル酸−1H,1H,11H−(イコサフルオロウンデシル)(20FM)、(メタ)アクリル酸−2−(パーフルオロデシル)エチル(21FM)等の、直鎖状フッ素化アルキル基を側鎖に有する(メタ)アクリル酸フッ素化エステルを例示することができる。
【0058】
また、一般式(7)が表すフルオロアルキル(メタ)クリレートとして、(メタ)アクリル酸ヘキサフルオロネオペンチルや、(メタ)アクリル酸ヘキサフルオロイソブチル等の、分岐状フッ素化アルキル基を側鎖に有する(メタ)アクリル酸フッ素化エステル等を例示することができる。
【0059】
フッ素化メタクリレート系重合体の構成単位として、一般式(5)で表されるフルオロアルキル(メタ)アクリレートと共重合可能な他の単量体単位として、ラクトン化合物の単位を挙げることができる。このラクトン化合物としては、α−メチレン−β−メチル−γ−ブチロラクトン、α−メチレン−β−メチル−γ−メチル−γ−ブチロラクトン、α−メチレン−β−エチル−γ−ブチロラクトン、α−メチレン−β−プロピル−γ−ブチロラクトン等のα−メチレン−β−アルキル−γ−ブチロラクトン類等を挙げることができる。
【実施例】
【0060】
以下に実施例を挙げ、比較例と対比させて本発明をさらに詳細に説明するが、これらの例は本発明の範囲を何ら制限するものではない。精製前後のラクトン化合物の含有量(純度)や不純物の含有量の測定は、ガスクトマトグラフ法を用いて行った。含有量の単位「%」は「質量%」を意味する。
【0061】
<実施例1>
β−メチル−γ−ブチロラクトン(βMBL)0.67%を含有する純度95.5%の粗製α−メチレン−β−メチル−γ−ブチロラクトン(βMMBL)を用意し、このβMMBLの1000gを2Lサイズのポリプロピレン製褐色容器に入れて−20℃に冷却した。
【0062】
次いで、βMMBLの種晶を0.5質量%の割合で添加した。このβMMBLの種晶は、純度95.5%の粗製βMMBLを10mlサイズのアルミ製の容器に入れ、この容器を液体窒素に漬けて析出した微結晶を用いた。
【0063】
この後、−20℃で12時間放置して結晶を析出させ、母液をデカンテーションにより分離してβMMBLの結晶850gを取得した。得られた結晶中のβMMBLの含有率は98.9%であり、βMBLの含有率は0.22%であった。
【0064】
<実施例2>
実施例1で得られた結晶の500gを室温で融解させ、実施例1と同様にして晶析を行い、βMMBLの結晶367gを取得した。種晶は実施例1で得られた結晶を用いて得られた微結晶を用いた。
【0065】
得られた結晶中のβMMBLの含有率は99.3%であり、βMBLの含有率は0.05%であった。
【0066】
<実施例3>
実施例2で得られた結晶の300gを室温で融解させ、実施例1と同様にして晶析を行い、βMMBLの結晶246gを取得した。種晶は実施例2で得られた結晶を用いて得られた微結晶を用いた。
【0067】
得られた結晶中のβMMBLの含有率は99.7%であり、βMBLの含有率は0.01%であった。
【0068】
<実施例4>
実施例1で得られた純度98.9%のβMMBLの200gを精密蒸留した。この精密蒸留は、蒸留塔にステンレス網を密に充填して蒸留理論段数を上げて減圧蒸留を行った。その際、5Torr(0.667kPa)まで減圧し、85℃に加熱して蒸留を行った。
【0069】
本留は164g得られ、本留中のβMMBLの含有率は99.5%であり、βMBLの含有率は0.075%であった。
【0070】
<実施例5>
実施例2と同様にして得られた純度99.3%のβMMBLの200gを実施例4と同様にして精密蒸留した。本留は153g得られ、本留中のβMMBLの含有率は99.7%で、βMBLの含有率は0.012%であった。
【0071】
<実施例6>
実施例3で得られた純度99.7%のβMMBLの200gを実施例4と同様にして精密蒸留した。本留は157g得られ、本留中のβMMBLの含有率は99.9%を超え、βMBLの含有率は0.002%未満であった。
【0072】
<実施例7>
粗製ラクトン化合物として、β−エチル−γ−ブチロラクトン(βEBL)0.71%を含有する純度94.8%の粗製α−メチレン−β−エチル−γ−ブチロラクトン(βEMBL)を用意し、種晶にトルエンを用いた以外は、実施例1と同様の方法で晶析を行って、βEMBLの結晶860gを取得した。得られた結晶中のβEMBLの含有率は99.0%であり、βMBLの含有率は0.18%であった。
【0073】
<実施例8>
粗製ラクトン化合物として、β−プロピル−γ−ブチロラクトン(βPBL)0.73%を含有する純度94.0%の粗製α−メチレン−β−プロピル−γ−ブチロラクトン(βPMBL)を用意し、種晶にメタクリル酸を用いた以外は、実施例1と同様の方法で晶析を行って、βPMBLの結晶870gを取得した。得られた結晶中のβPMBLの含有率は99.1%であり、βPBLの含有率は0.12%であった。
【0074】
<比較例1>
実施例1と同じ粗製βMMBL(純度95.5%、βMBLの含有量0.67%)を、85℃、5Torr(0.667kPa)で減圧単蒸留した。得られた本留中のβMMBLの含有率は96.7%であり、βMBLの含有率は0.47%であった。
【0075】
<参考例1>
実施例1と同じ粗製βMMBL(純度95.5%、βMBLの含有量0.67%)を、実施例4と同様の方法で精密蒸留した。得られた本留中のβMMBLの含有率は98.7%であり、βMBLの含有率は0.10%で以下であった。
【0076】
<実施例9>
実施例1で精製したβMMBL25質量部とMMA75質量部を混合した。この単量体混合液100質量部に対して、開始剤として2,2’−アゾビスイソ酪酸ジメチル(和光純薬工業(株)製、V−601)0.3質量部、連鎖移動剤としてn−ブチルメルカプタン0.2質量部を添加し、塊状共重合を行って、POFの芯材用重合体を製造した。得られた重合体のDSC法によるTgは127℃であった。
【0077】
一方、鞘材としてはVdF/TFE/HFP/PFPVE(21/55/18/6質量%、屈折率1.350)からなる共重合体を用いた。ここで、VdFはビニリデンフルオライド、TFEはテトラフルオロエチレン、HFPはヘキサフルオロプロピレン、PFPVEはパーフルオロペンタフオロプロピルビニルエーテル(CF2=CFOCH2CF2CF3)を示す。
【0078】
これらの重合体を、二層同心円状複合ノズルを備えたラム押出式の紡糸装置を用いて210℃で紡糸し、芯/鞘構造のPOFを製造した。得られたPOFは直径が1mmで、芯径が980μm、鞘厚みが10μmであった。
【0079】
このようにして得られたPOFの伝送損失は波長650nmの伝送損失が320dB/km、波長500nmの伝送損失が1420dB/kmであった。伝送損失の測定は、20m−1mカットバック法(入射NA=0.1)により行った。
【0080】
<実施例10〜16>
実施例2〜8で精製したβMMBL、βEMBL、βPMBLを用いた以外は、実施例7と同様にしてPOFを製造し、伝送損失を測定した。結果を表1に示した。
【0081】
<比較例2>
比較例1で精製したβMMBLを用いた以外は、実施例9と同様にしてPOFを製造し、伝送損失を測定した。結果を表1に示した。
【0082】
<参考例2>
参考例1で精製したβMMBLを用いた以外は、実施例9と同様にしてPOFを製造し、伝送損失を測定した。結果を表1に示した。
【0083】
<比較例3>
実施例1と同じ粗製βMMBL(純度95.5%、βMBLの含有量0.67%)を用いた以外は、実施例9と同様にしてPOFを製造し、伝送損失を測定した。結果を表1に示した。
【0084】
【表1】

【0085】
*表中の「βABL」は、βMBL、βEBL又はβPBLを示す。
【0086】
実施例1の精製方法によれば、単蒸留による精製方法(比較例1)よりも純度の高いラクトン化合物を得ることができ、伝送損失の低いPOFを得ることができる(実施例9、比較例2)。
【0087】
また、実施例1の精製方法によれば、簡便な方法でありながら、精密蒸留による精製方法(参考例1)と同程度の純度のラクトン化合物を得ることができる。さらに、実施例1の精製を繰り返すことにより(実施例2、3)、精密蒸留による精製方法(参考例1)よりも純度の高いラクトン化合物を得ることができ、伝送損失の低いPOFを得ることができる(実施例10、11、参考例2)。
【0088】
また、精密蒸留による精製方法と実施例1〜3の精製方法を組み合わせることにより(実施例4〜6)、より一層高純度のラクトン化合物を得ることができ、伝送損失がさらに低減されたPOFを得ることができる(実施例12〜14)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で示される粗製ラクトン化合物を晶析し、析出したラクトン化合物の結晶を取得するラクトン化合物の精製方法。
【化1】

(式(1)中、R1はメチル基、エチル基またはプロピル基を示し、R2、R3は独立して水素原子、無置換もしくはフッ素原子で置換されていてもよい炭素数1〜12の直鎖状もしくは分岐状アルキル基、無置換もしくは炭素数1〜3の直鎖状もしくは分岐状アルキル基で置換されていてもよいフェニル基、または無置換もしくはフッ素原子で置換されていてもよいシクロヘキシル基を示し、R2、R3は相互に一体となってこれらが結合する炭素原子を含めて5または6員環を形成していてもよく、該5または6員環はフッ素原子で置換されていてもよい。)
【請求項2】
前記のラクトン化合物が、α−メチレン−β−メチル−γ−ブチロラクトン、α−メチレン−β−エチル−γ−ブチロラクトン、α−メチレン−β−プロピル−γ−ブチロラクトンのいずれかである、請求項1に記載のラクトン化合物の精製方法。
【請求項3】
前記の粗製ラクトン化合物の純度が90質量%以上99質量%未満の範囲にある、請求項1又は2に記載のラクトン化合物の精製方法。
【請求項4】
前記の粗製ラクトン化合物を−4℃以下に冷却して晶析を行う、請求項1から3のいずれかに記載のラクトン化合物の精製方法。
【請求項5】
前記の粗製ラクトン化合物に種晶を添加して晶析を行う、請求項1から4のいずれかに記載のラクトン化合物の精製方法。
【請求項6】
前記の粗製ラクトン化合物に、種晶を、当該種晶を含む全量に対して0.1〜20質量%になるように添加して晶析を行う、請求項5に記載のラクトン化合物の精製方法。
【請求項7】
前記の種晶は、前記粗製ラクトン化合物の製造時に用いる材料、あるいは前記粗製ラクトン化合物もしくはその同等物、から得られる小結晶である、請求項5又は6に記載のラクトン化合物の精製方法。
【請求項8】
前記の種晶は、前記粗製ラクトン化合物の一部、あるいは前記粗製ラクトン化合物と同じ条件で別途に製造した粗製ラクトン化合物を冷却して得られた小結晶である、請求項7に記載のラクトン化合物の精製方法。
【請求項9】
前記の種晶は、トルエン、シュウ酸エステル、メタクリル酸およびアクリル酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物の小結晶である、請求項7に記載のラクトン化合物の精製方法。
【請求項10】
前記の晶析により得られたラクトン化合物を、充填材を詰めた蒸留塔を用いて精密蒸留を行う、請求項1から9のいずれかに記載のラクトン化合物の精製方法。
【請求項11】
粗製ラクトン化合物を請求項1から10のいずれかに記載の精製方法により精製する工程と、
前記精製方法により精製されたラクトン化合物とメタクリル酸メチルとを共重合する工程を有するプラスチック光ファイバ用重合体の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法により芯材用の重合体を形成する工程と、
芯材用の前記重合体と鞘材用の他の重合体を複合紡糸ノズルに供給して、芯−鞘構造を有する光ファイバを紡糸する工程を有するプラスチック光ファイバの製造方法。

【公開番号】特開2009−143856(P2009−143856A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−323380(P2007−323380)
【出願日】平成19年12月14日(2007.12.14)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】