説明

ラクトン化合物の製造方法

【課題】特定の構造を有するラクトン化合物を高い収率で製造できる製造方法の提供。
【解決手段】特定の酸無水物を、溶媒中、金属水素化物および金属水素化錯化合物から選ばれる還元剤の存在下で還元工程、および前記還元工程で得られた反応液にpH調整剤および水を添加するpH調整工程を含む、下記一般式(2)または(3)で示される化合物を製造する方法において、前記pH調整工程で得られたpH調整液の水相の20℃におけるpHが0.1〜2.5である、下記一般式(2)または(3)で示される化合物の製造方法。


[式(2)〜(3)中、R〜Rは、それぞれ独立に水素原子、メチル基またはエチル基を表し;AおよびAは共に水素原子を表す、またはAとAとが一緒になって−CH−もしくは−CHCH−を形成する。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラクトン化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ラクトン化合物は、医薬、農薬などの機能性化学品の原料として広く用いられる。特に環骨格に活性な炭素−炭素二重結合を有するラクトン化合物は、例えば(メタ)アクリル酸のような重合性カルボン酸を付加させることが可能である。こうして得られたラクトン構造を含有する(メタ)アクリル酸エステルをモノマーとする高分子化合物をベース樹脂としたレジスト材料は、感度、解像性、エッチング耐性に優れているため、電子線や遠紫外線による微細加工に有用である。
環骨格に炭素−炭素二重結合を有するラクトン化合物の製造には、溶媒中で、環骨格に炭素−炭素二重結合を有する酸無水物を、その二重結合を残したまま還元する方法が用いられている。該方法において、酸無水物をラクトンに導くための還元剤および溶媒の組み合わせとしては、例えば水素化ホウ素ナトリウム/ジメチルホルムアミド(DMF)系(特許文献1)、水素化ホウ素ナトリウム/テトラヒドロフランとアルコールの混合溶媒(特許文献2)などが知られている。これらの金属水素化物または金属水素錯化合物による酸無水物の還元反応終了後、塩酸や硫酸等のpH調整剤を添加し系内を酸性にすることで目的のラクトン化合物を得ている。
上記方法では、酸無水物が還元によりヒドロキシカルボン酸の金属錯体に変換された後、系内を酸性にすることでヒドロキシカルボン酸の金属錯体が分子内環化して目的のラクトン化合物が生じると想定される。その反応機構の一例を下記の反応式に示す。この例では、まず、(a)一般式(1)で示される化合物(酸無水物)を還元して対応するヒドロキシカルボン酸のホウ素錯体(一般式(4)または(5)で示される化合物)に変換し、その後、(b)pH調整剤を添加し系内を酸性とすることで、対応するラクトン化合物(一般式(2)または(3)で示される化合物)に変換する。
【0003】
【化1】

[式中、R〜Rは、それぞれ独立に水素原子、メチル基またはエチル基を表し;AおよびAは共に水素原子を表す、またはAとAとが一緒になって−CH−、−CHCH−を形成する。]
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−275215号公報
【特許文献2】特開2003−146979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、一般式(1)で示される酸無水物を還元し、その反応終了後にpH調整剤を添加し、系内を酸性にすることで対応するラクトン化合物(式(2)または(3)で示される化合物)が得られるが、従来の方法では、該ラクトン化合物の収率が低い問題がある。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、特定の構造を有するラクトン化合物を高い収率で製造できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討の結果、従来の方法では、前記式(4)または(5)で示される化合物を前記式(2)または(3)で示される化合物に変換する分子内環化反応の進行が遅い場合や、該分子内環化反応が進行しない場合があり、これが収率低下の一因であることを見出した。かかる知見に基づきさらに検討を重ねた結果、酸無水物を還元した後、pH調整剤を、反応液の水相が強酸性となるように添加することにより、分子内環化反応が速やかに進行し、高い収率で目的とするラクトン化合物を製造できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち本発明は、 下記一般式(1)で示される化合物を、溶媒中、金属水素化物および金属水素化錯化合物から選ばれる還元剤の存在下で還元工程、および
前記還元工程で得られた反応液にpH調整剤および水を添加するpH調整工程
を含む、下記一般式(2)または(3)で示される化合物を製造する方法において、
前記pH調整工程で得られたpH調整液の水相の20℃におけるpHが0.1〜2.5である、下記一般式(2)または(3)で示される化合物の製造方法である。
【0007】
【化2】

[式(1)中、R〜Rは、それぞれ独立に水素原子、メチル基またはエチル基を表し;AおよびAは共に水素原子を表す、またはAとAとが一緒になって−CH−もしくは−CHCH−を形成する。]
【0008】
【化3】


[式(2)〜(3)中、R〜R、AおよびAはそれぞれ前記と同様である。]
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、特定の構造を有するラクトン化合物を高い収率で製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の製造方法は、少なくとも下記の2工程を含む。
下記一般式(1)で示される化合物を、溶媒中、金属水素化物および金属水素化錯化合物から選ばれる還元剤の存在下で還元する還元工程。
前記還元工程で得られた反応液にpH調整剤および水を添加し、該反応液の水相の20℃におけるpHを0.1〜2.5とするpH調整工程。
上記還元工程およびpH調整工程を行うことで、下記一般式(2)または(3)で示される化合物が生成する。
以下、各工程についてより詳細に説明する。
【0011】
【化4】

[式(1)中、R〜Rは、それぞれ独立に水素原子、メチル基またはエチル基を表し;AおよびAは共に水素原子を表す、またはAとAとが一緒になって−CH−もしくは−CHCH−を形成する。]
【0012】
【化5】

[式(2)〜(3)中、R〜R、AおよびAはそれぞれ前記と同様である。]
【0013】
<還元工程>
(原料化合物)
本工程で使用する原料化合物は、前記一般式(1)で示される化合物(以下、化合物(1)という。)である。
化合物(1)としては、テトラヒドロフランのような低沸点溶媒でも良好な反応収率で反応が進行する点で、AとAとが一緒になって−CH−を形成するもの、すなわち下記一般式(4)で示される化合物(以下、化合物(4)という。)が好ましい。この場合、前記一般式(2)または(3)で示される化合物として、下記一般式(5)または(6)で示される化合物が得られる。
化合物(4)としては、例えば、5−ノルボルネン−2、3−ジカルボン酸無水物、2−メチルノルボルネン−2、3−ジカルボン酸無水物等が挙げられる。
【0014】
化合物(1)は、公知の方法により合成したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。化合物(1)の合成方法としては、1,3−ジエンと無水マレイン酸とのディールス・アルダー付加反応で合成する方法等が挙げられる。該1,3−ジエンとしては、1,3−ブタジエン、シクロペンタジエン、1,3−シクロヘキサジエン等が挙げられる。用いる1,3−ジエンは、目的生成物に応じて適宜決めればよい。
【0015】
(還元剤)
還元剤としては、金属水素化物および金属水素化錯化合物から選ばれる少なくとも1種を使用する。
金属水素化物または金属水素化錯化合物としては、還元剤として公知のものが使用できる。例えば、ボラン・ジメチルスルフィド、水素化ジイソブチルアルミニウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素亜鉛、水素化トリ−s−ブチルホウ素リチウム、水素化トリ−s−ブチルホウ素カリウム、水素化エチルホウ素リチウム、水素化アルミニウムリチウム、水素化トリ−t−ブトキシアルミニウムリチウム、水素化ビス(メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム等が挙げられる。
還元剤は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
還元剤としては、反応条件が温和であることから、水素化ホウ素ナトリウムを用いることが特に好ましい。
【0016】
(溶媒)
還元工程で用いる溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール等のアルコール系溶媒、ジエチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒、酢酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステル系溶媒、アセトニトリル等のニトリル系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒、トルエン、キシレン、ヘキサン等の炭化水素系溶媒等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。ただし後のpH調整工程で二相分離し水相のpHを測定するためには、還元工程で用いる溶媒は、水と混合した時に均一な溶液にならない溶媒を少なくとも1種含む必要がある。
上記の中でも、還元反応の反応速度が速いこと、水素化ホウ素ナトリウム等の還元剤および化合物(1)の溶解性が高いこと等から、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフランとアルコール系溶媒との混合溶媒、またはジメトキシエタンとアルコール系溶媒との混合溶媒が好ましい。中でも高い収率で目的のラクトン化合物が得られ、低沸点で後処理も容易であることから、テトラヒドロフランとアルコール系溶媒との混合溶媒、またはジメトキシエタンとアルコール系溶媒との混合溶媒が特に好ましい。
【0017】
(還元反応)
本工程における還元反応は、たとえば、反応器に還元剤および溶媒を仕込み、ここに化合物(1)を連続的又は間欠的に加えることによって進行させることができる。なお、化合物(1)は粉のまま加えることもでき、溶媒と混合して加えることもできる。また、化合物(1)および溶媒を反応器に仕込み、還元剤またはその懸濁液を滴下することによっても進行させることができる。
なお、溶媒を2種以上併用して用いる場合、各々の溶媒は別途滴下してもよく、混合して加えてもよい。
【0018】
還元剤は、反応が過剰に進行して化合物(1)がジオールまで還元されないように、使用する還元剤の種類(還元力)に応じてその使用量を調節する。たとえば水素化ホウ素ナトリウムの場合、その使用量は、転化率向上の観点から、化合物(1)1モルに対して0.5モル以上であることが好ましく、0.7モル以上がより好ましい。また副反応防止の観点から、化合物(1)1モルに対して、1.5モル以下であることが好ましく、1.0モル以下がより好ましい。
溶媒の使用量は、還元反応に用いる全原料(化合物(1)、還元剤、溶媒等)の合計に対する化合物(1)の割合(質量百分率)に応じて調節される。該割合は、反応速度の観点から、1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましい。また、該割合は、反応液の粘性悪化防止の観点から、70質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。
溶媒としてテトラヒドロフランとアルコール系溶媒との混合溶媒を用いる場合、該混合溶媒の使用量は、アルコール系溶媒の種類によって変化し特に限定されないが、一般的には、反応速度の観点から、還元剤に対するアルコール系溶媒の量がモル比で0.1以上となる量が好ましく、0.5以上となる量がより好ましい。また、還元剤の安定性の観点から、還元剤に対するアルコール系溶媒の量がモル比で20以下となる量が好ましく、10以下となる量が好ましい。
【0019】
反応温度は原料溶液の滴下速度や濃度によって最適温度が変化するが、一般的には−50〜100℃、好ましくは−40〜70℃、より好ましくは−30〜40℃の範囲である。
反応時間は、好ましくは0.1時間から30時間、より好ましくは0.2〜20時間、さらに好ましくは0.5〜10時間の範囲である。反応時間は、滴下時間(滴下開始時点から滴下終了までの時間)と同一である。
滴下終了後、必要に応じて、20時間以内の熟成時間を設けることもできる。
反応は水分の混入を可能な限り避けながら行う。そのためには、反応器および原料溶液の受器を不活性ガス雰囲気としておくことが好ましい。不活性ガスとしては、反応の円滑な進行を阻害しないものであれば何でも良いが、ヘリウム、窒素、アルゴンなどが例示できる。
【0020】
<pH調整工程>
【0021】
(pH調整剤)
pH調整剤としては、少なくとも酸が用いられる。酸としては、例えば塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の鉱酸や、酸性イオン交換樹脂等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。中でも、大量合成の取り扱いやすさ等を考慮すると、硫酸を用いることが好ましい。
必要に応じて、pH調整剤として塩基を用いてもよい。塩基としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。
pH調整剤および水の添加方法としては、pH調整剤を水と混合して滴下する方法、pH調整剤と水を分けて滴下する方法、等が挙げられる。pH調整剤と水を分けて滴下する場合、酸を先に加え、つづいて水を滴下してもよく、水を先に滴下した後に酸を滴下してもよい。
上記の中でも、収率良くラクトン化合物を得ることができることから、pH調整剤を水と混合して滴下する方法が好ましい。
pH調整剤を水と混合して滴下する場合、それらの混合物中のpH調整剤の濃度(質量百分率)は、分子内環化反応が効率よく進行することから、0.1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。また、発泡防止の観点から、70質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましい。
滴下時の温度は、0℃以上かつ溶媒の沸点未満が該ラクトン化合物の安定性の観点から好ましい。滴下時間は、0.01時間以上20時間以内が発泡防止の観点から好ましい。
滴下終了後、必要に応じて、0.01時間以上50時間以内の保持時間を設けることが好ましい。これにより、分子内環化反応をより効率よく進行させることができる。該保持時間は、0.1〜40時間がより好ましい。保持時間における反応系の温度は、0℃以上かつ溶媒の沸点未満が該ラクトン化合物の安定性の観点から好ましい。
【0022】
(pH調整液)
pH調整工程では、前記還元工程で得られた反応液にpH調整剤および水を添加し、該pH調整液の水相の20℃におけるpHを0.1〜2.5とする。これにより、前記一般式(2)または(3)で示される化合物が得られる。該pHは、0.1〜2.1とすることが好ましく、0.1〜1.0とすることがさらに好ましい。
還元工程で得られた反応液には、化合物(1)に対応するヒドロキシカルボン酸(下記一般式(4)または(5)で示される化合物)が含まれており、これにpH調整剤を添加し、該反応液の水相のpHを酸性とすることで分子内環化反応が進行し、対応するラクトン化合物(下記一般式(2)または(3)で示される化合物)が生成する。水相のpHを2.5以下という強酸性とすることで、この分子内環化反応が速やかに進行し、収率良く目的のラクトン化合物を得ることができる。また、該水相のpHを0.1以上とすることで、廃酸中和処理に使用する塩基の量を抑えることができる。
【0023】
【化6】

[式中、R〜Rは、それぞれ独立に水素原子、メチル基またはエチル基を表し;AおよびAは共に水素原子を表す、またはAとAとが一緒になって−CH−、−CHCH−を形成する。]
【0024】
(pH調整液の水相のpH)
pH調整液の水相は、pH調整剤および水を添加した後の反応液(pH調整液)を二相(以上)分離して得られる水相であり、二相の場合、通常、溶媒相(還元反応に用いた溶媒)が上相、水相が下相となる。
pH調整剤および水を加えた後のpH調整液が二相(以上)に分離しない場合、pH調整液を濃縮し、pH調整液に含まれる有機溶媒を留去した後、抽出溶媒を加えて10分以上よく混合して二相(以上)に分離させることもできる。有機溶媒だけでなく水も留去した場合は、留去された水と同量程度の水を加える。
【0025】
pH調整液の水相のpHは、pHメーターで測定することができる。
pH調整剤および水の添加後、pH調整液の水相のpHを測定し、その値が0.1〜2.5の範囲とならない場合、さらにpH調整剤を加えてpH調整する。
なお、pH調整剤添加後、pH調整剤が水素化ホウ素ナトリウム由来のナトリウムイオンと塩を形成し結晶が析出した場合、溶媒の沸点以下に加熱して溶解させるか、水を加えて溶解させた後、水相のpHをpHメーターで測定する。
【0026】
(抽出溶媒)
抽出溶媒は、該ラクトン化合物を溶解する有機溶媒を用いて実施でき、エーテル類(ジメチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等)、ケトン類(メチル−n−プロピルケトン、メチル−n−ブチルケトン、メチルイソブチルケトン等)、芳香族炭化水素類(トルエン、キシレン等)、エステル類(酢酸エチル等)等が挙げられる。有機溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。有機溶媒の使用量は反応溶媒と同量程度とする。
【0027】
上記のようにして、目的のラクトン化合物(上記一般式(2)または(3)で示される化合物)を含む反応液が得られる。
pH調整工程終了後、必要に応じて、反応液からのラクトン化合物の抽出、水洗浄等の処理を行う。
ラクトン化合物の抽出は、該ラクトン化合物を溶解する有機溶媒を用いて実施できる。
抽出に用いる有機溶媒としては、ジメチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル類、メチル−n−プロピルケトン、メチル−n−ブチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、酢酸エチルなどのエステル類などを用いることができる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
有機溶媒の使用量は特に限定されないが、抽出効率の観点から、反応液中のラクトン化合物の質量に対して0.05倍量以上20倍量以下であることが好ましい。
抽出の回数は、1回だけでもよいし、2回以上でもよい。
反応液または抽出液を水で洗浄すると、酸を低減できる。
反応液または抽出液を得た後、蒸留、再結晶、クロマトグラフィーなどの方法により目的のラクトン化合物を精製してもよい。純度が高い場合は必ずしも精製する必要はなく、例えば抽出液を濃縮することにより目的のラクトン化合物を取得してもよい。
【実施例】
【0028】
以下、実施例により本発明を説明する。ただし本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
以下の各例において、「%」は、特に限定のない限り、「質量%」を示す。
【0029】
(pH調整液の水相のpHの測定条件)
20℃におけるpHをMETTLER TOLEDO SevenEasy pHメーターにより測定した。
【0030】
(4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デセン−3−オンの定量分析条件)
4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デセン−3−オンの定量分析は、HPLC分析により行なった。カラムとしては、イナートシルODS−3V(4.6φ×250mm)を用い、移動相としては、0.1質量%のリン酸水溶液とアセトニトリルを質量比で50:50に混合した溶液を用い、流速を1.0mL/minとし、検出器として、示差屈折検出器(RI検出器)を用いてカラム温度40℃で分析を行なった。
【0031】
(実施例1)
容量50mLの側管付き滴下ロート、温度計および逆流冷却器を付した容量50mLの三頸丸底フラスコ(反応器)に磁気撹拌子を入れ、窒素ガスを流しながら加熱乾燥した。ここに順次テトラヒドロフラン(THF)7.15gと水素化ホウ素ナトリウム0.62g(0.016mol)を仕込んだ。滴下ロートに、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物(一般式(1)において、R〜Rが全て水素原子であり、AとAとが一緒になって−CH−を形成する化合物に相当)3.37g(0.021mol)、THF8.20g、メタノール0.66g(0.021mol)を仕込み、溶解させた。反応器を氷浴で5℃に冷却し、撹拌しつつ滴下ロートより5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物を含む溶液を30分で滴下した。その間反応液の温度は10〜15℃に保たれた。滴下終了後、反応液の温度を13〜17℃に保ち、30分攪拌した(還元工程)。
続いて、得られた反応液に硫酸水溶液21.82g(98%硫酸1.82g(0.018mol)を蒸留水20.00gに注意深く加えて調製)を30℃以下で発泡に注意しながら加えたところ、無色透明の二相の溶液が得られた(pH調整工程)。
得られたpH調整液を分液し、THF相27.57gと水相13.05gを得た。
得られたpH調整液の水相のpHを上記測定条件にて測定した結果、pH0.96であった。
また、各相をHPLCにて分析した結果、4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デセン−3−オン(一般式(2)または(3)において、R〜Rが全て水素原子であり、AとAとが一緒になって−CH−を形成する化合物に相当)の収率(各相の合計)は86%であった。
また、4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デセン−3−オンと、ヒドロキシカルボン酸(一般式(7)または(8)において、R〜Rが全て水素原子であり、AとAとが一緒になって−CH−を形成する化合物に相当)の比率(HPLCの面積百分率の比率)は、THF相、水相いずれも、4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デセン−3−オン:ヒドロキシカルボン酸=99:1であった。pH調整液の水相のpHおよび目的化合物の収率を表1に示す。
【0032】
(実施例2)
実施例1において、硫酸水溶液21.82g(98%硫酸1.82g(0.018mol)を蒸留水20.00gに注意深く加えて調製)の代わりに硫酸水溶液20.92g(98%硫酸0.92g(0.009mol)を蒸留水20.00gに注意深く加えて調製)を加えた以外は、実施例1と同様の反応操作および後処理操作を行なった。
得られたpH調整液の水相のpHを上記測定条件にて測定した結果、pH2.05であった。
また、4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デセン−3−オンの収率は52%であった。
また、4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デセン−3−オンとヒドロキシカルボン酸の比率(HPLCの面積百分率の比率)は、THF相において4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デセン−3−オン:ヒドロキシカルボン酸=59:41、水相において4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デセン−3−オン:ヒドロキシカルボン酸=88:12であった。pH調整液の水相のpHおよび目的化合物の収率を表1に示す。
【0033】
(比較例1)
実施例1において、硫酸水溶液21.82g(98%硫酸1.82g(0.018mol)を蒸留水20.00gに注意深く加えて調製)の代わりに硫酸水溶液20.83g(98%硫酸0.83g(0.008mol)を蒸留水20.00gに注意深く加えて調製)を加えた以外は、実施例1と同様の反応操作および後処理操作を行なった。
得られたpH調整液の水相のpHを上記測定条件にて測定した結果、pH3.08であった。
また、4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デセン−3−オンの収率は20%であった。
また、4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デセン−3−オンとヒドロキシカルボン酸の比率(HPLCの面積百分率の比率)は、THF相において4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デセン−3−オン:ヒドロキシカルボン酸=21:79、水相において4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デセン−3−オン:ヒドロキシカルボン酸=32:68であった。pH調整液の水相のpHおよび目的化合物の収率を表1に示す。
【0034】
(比較例2)
実施例1において、硫酸水溶液21.82g(98%硫酸1.82g(0.018mol)を蒸留水20.00gに注意深く加えて調製)の代わりに硫酸水溶液20.82g(98%硫酸0.82g(0.008mol)を蒸留水20.00gに注意深く加えて調製)を加えた以外は、実施例1と同様の反応操作および後処理操作を行なった。
その結果、得られた水相のpHを測定すると、pH5.55であった。また、4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デセン−3−オンの収率は13%であった。また、4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デセン−3−オンとヒドロキシカルボン酸の比率(HPLCの面積百分率の比率)は、THF相において4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デセン−3−オン:ヒドロキシカルボン酸=29:71、水相において4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デセン−3−オン:ヒドロキシカルボン酸=27:73であった。pH調整液の水相のpHおよび目的化合物の収率を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
上記結果に示すとおり、還元工程後、pH調整液の水相の20℃におけるpHが0.1〜2.5の範囲となるようにpH調整剤および水を添加した実施例1〜2の場合、該pHが2.5を越える比較例1〜2と比べて、目的化合物(4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デセン−3−オン)の反応収率が大きく向上することが確認された。
また、THF相、水相それぞれの4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デセン−3−オンとヒドロキシカルボン酸の比率から、反応液の水相のpHが低いほど、4−オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デセン−3−オンの比率が高く、ヒドロキシカルボン酸の分子内環化反応が速やかに進行したことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明によれば、医薬、農薬、機能性樹脂等の原料となるラクトン化合物を、高収率で製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される化合物を、溶媒中、金属水素化物および金属水素化錯化合物から選ばれる還元剤の存在下で還元工程、および
前記還元工程で得られた反応液にpH調整剤および水を添加するpH調整工程
を含む、下記一般式(2)または(3)で示される化合物を製造する方法において、
前記pH調整工程で得られたpH調整液の水相の20℃におけるpHが0.1〜2.5である、下記一般式(2)または(3)で示される化合物の製造方法。
【化1】

[式(1)中、R〜Rは、それぞれ独立に水素原子、メチル基またはエチル基を表し;AおよびAは共に水素原子を表す、またはAとAとが一緒になって−CH−もしくは−CHCH−を形成する。]
【化2】

[式(2)〜(3)中、R〜R、AおよびAはそれぞれ前記と同様である。]

【公開番号】特開2013−10748(P2013−10748A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−119160(P2012−119160)
【出願日】平成24年5月25日(2012.5.25)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】