説明

ラジアルニードル軸受用スペーサ

【課題】外周面と外輪軌道との擦れ合い部に適切な油膜を存在させて、各部の摩耗を抑えつつ、複列ラジアルニードル軸受の動トルクを低く抑えられる構造を実現する。
【解決手段】各柱部13g、13gの外径側面に、径方向に関して内方に凹んだ有底の径方向凹部22、22を設ける。回転機械装置の運転時に、これら各径方向凹部22、22内に貯溜された潤滑油により、スペーサ7mの外周面と外輪軌道との間に油膜を形成して、擦れ合い部で油膜切れによる著しい摩耗が発生するのを防止する。前記各径方向凹部22、22の底面と前記外輪軌道との距離は十分に確保できるので、これら各径方向凹部22、22内に貯溜された潤滑油に関して、前記スペーサ7mと外輪相当部材との相対回転時に大きな剪断抵抗が発生する事はない。この結果、各部の摩耗を抑えつつ動トルクを低く抑えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車用自動変速機を構成する遊星歯車機構を構成する遊星歯車を、キャリアに支持した遊星軸の周囲に回転自在に支持する為のラジアルニードル軸受に組み込むスペーサの改良に関する。具体的には、軽量且つ低コストで構成でき、しかも、このスペーサと、このスペーサが隣接する相手部材との擦れ合い部の摺動抵抗を低減させて、前記ラジアルニードル軸受の回転抵抗(動トルク)を低減し、このラジアルニードル軸受を組み込んだ、前記自動車用変速機等の各種回転機械装置の動力損失を低減できる構造を実現するものである。
【背景技術】
【0002】
[従来技術の説明]
例えば自動車用自動変速機等の機械装置の回転支持部に、それぞれが円筒面状である外輪軌道と内輪軌道との間に複数本のニードルを配置したラジアルニードル軸受が、広く使用されている。又、前記外輪軌道を設けた外径側部材と、前記内輪軌道を設けた内径側部材との間に、これら両部材の中心軸同士を傾斜させる方向のモーメントが加わる状態で運転される回転支持部には、軸方向に離隔した2箇所位置に、それぞれ複数本ずつのニードルを配置して前記モーメントに対する剛性を高くした、複列ラジアルニードル軸受が使用されている。このモーメント剛性を確保する為には、複列に配置された前記各ニードル同士の間隔を保つ必要があるが、ラジアルニードル軸受の場合、そのままではこれら各ニードルの軸方向位置を規制できない。この為、複列に配置されたこれら各ニードル同士の間部分に、例えば特許文献1〜6に記載された様な円筒状のスペーサを配置して、これら各ニードル同士の間隔を保つ様にしている。
【0003】
図4は、前記各特許文献に記載される等により従来から知られている、スペーサを備えた複列ラジアルニードル軸受を組み込んだ回転支持装置の1例として、自動車用自動変速機を構成する遊星歯車の回転支持装置1を示している。この回転支持装置1は、キャリア2に両端部を支持した、内径側部材である遊星軸3の中間部周囲に、外径側部材である遊星歯車4を、複列ラジアルニードル軸受ユニット5により、回転自在に支持している。この遊星歯車4は、はすば歯車であり、前記自動車用自動変速機を組み立てた状態で、太陽歯車とリング歯車と(何れも図示省略)に噛合する。従って、前記自動車用自動変速機の運転時に前記遊星歯車4には、ラジアル荷重に加えてアキシアル荷重も加わり、その結果この遊星歯車4に、上述の様なモーメントが加わる。
【0004】
前記複列ラジアルニードル軸受ユニット5は、上述の様なモーメントに対する剛性を十分に確保できる構造とすべく、1対のラジアルニードル軸受6、6とスペーサ7とを備える。図示の例では、これら両ラジアルニードル軸受6、6は、それぞれ、複数本ずつのニードル8、8を、略円筒状の保持器9、9により転動自在に保持して成る。これら各ニードル8、8の転動面は、前記遊星軸3の外周面に設けた円筒面状の内輪軌道10と、前記遊星歯車4の内周面に設けた円筒面状の外輪軌道11とに、それぞれ転がり接触させている。又、前記スペーサ7は、前記両ラジアルニードル軸受6、6の保持器9、9同士の間に配置して、これら両保持器9、9同士が近付き合う事を防止する。尚、保持器を省略した、所謂総ニードル型の複列ラジアルニードル軸受ユニットも知られている。この様な総ニードル型構造の場合には、各ニードルの軸方向一端面を、それぞれスペーサの軸方向両端面に、直接対向させる。何れにしても前記スペーサ7は、複列に配置された前記両ラジアルニードル軸受6、6同士の軸間距離を確保して、前記モーメントに対する剛性を確保する。又、前記複列ラジアルニードル軸受ユニット5の運転時には、前記遊星軸3の内部に設けた給油通路15を通じて前記両ラジアルニードル軸受6、6部分に、潤滑油を供給する。
【0005】
上述の様な役目を果たす、前記スペーサ7として従来から、例えば図5に示す様な構造のものが知られている。このスペーサ7は、1対のリム部12、12と複数本の柱部13、13とを備える。これら両リム部12、12は、それぞれが円環状で、軸方向に関して互いに同心に配置されている。又、前記各柱部13、13は、前記両リム部12、12同士の間の周方向複数箇所に、これら両リム部12、12同士を連結する状態で設けられている。そして、これら両リム部12、12と、周方向に隣り合う前記各柱部13、13とによりそれぞれの四周を囲まれる部分を、前記スペーサ7の内外両周面同士を連通させる透孔部14、14としている。これら各透孔部14、14は、前記スペーサ7を軽量化して慣性質量を低減し、前記遊星軸3の公転運動に伴ってこのスペーサ7に作用する遠心力を低減して、この遊星軸3が曲がるのを抑える機能を果たす。又、前記各透孔部14、14は、潤滑油流路の確保による前記両ニードル軸受6、6の転がり接触部への潤滑油供給の安定化等に基づく前記回転支持装置1の性能向上、更には、前記スペーサ7の材料節減による低コスト化等の役目も果たす。尚、本明細書及び特許請求の範囲で、軸方向、径方向、周方向とは、特に断わらない限り、スペーサの軸方向、径方向、周方向を言う。
【0006】
上述の様なスペーサ7は、前記回転支持装置1への組み付け状態で、外周面を前記外輪軌道11に、軸方向両端面を前記両保持器9、9又は前記各ニードル8、8の軸方向端面に、それぞれ当接若しくは近接対向させる。この状態で、これら各当接部若しくは近接対向部には、潤滑油が介在する。そして、前記回転支持装置1の運転時には、前記スペーサ7の外周面と前記外輪軌道11とが、このスペーサ7の軸方向両端面と前記両保持器9、9又は前記各ニードル8、8の軸方向端面とが、それぞれ相対変位する(擦れ合う)。これら各擦れ合い部には潤滑油の油膜が存在するので、前記スペーサ7が隣接する部材に対して相対回転する際には、この油膜に作用する剪断抵抗が、このスペーサ7の回転抵抗の大部分を占める。この様な剪断抵抗は、前記スペーサ7と前記隣接する部材との対向面積が広い程大きくなる。
【0007】
上述の様な剪断抵抗等により、前記スペーサ7と、このスペーサ7が隣接する部材との相対変位に基づく摩擦抵抗は、前記回転支持装置1の動トルク増大(トルク損失発生)の原因となり、この回転支持装置1を組み込んだ、自動車用自動変速機等の各種回転機械装置の性能を悪化させる原因となる。即ち、前記回転支持装置1の動トルクを増大させる要因としては、前記両ラジアルニードル軸受6、6部分の転がり抵抗や摩擦抵抗、潤滑油の攪拌抵抗等、各種存在する。そして、前記スペーサ7と相手部材との間で発生する、前記剪断抵抗を含む摩擦抵抗や、このスペーサ7の回転に伴う潤滑油の攪拌抵抗も無視できない程に大きい。従って、前記回転支持装置1を組み込んだ回転機械装置の性能向上を図る為には、前記スペーサ7に関する抵抗を低く抑える事が望まれる。
【0008】
[先発明の説明]
上述の様な事情に鑑み、スペーサと相手部材とが当接若しくは近接対向する部分の面積(以下「対向面積」とする)を狭くし、このスペーサの回転抵抗(剪断抵抗を含む摩擦抵抗)を低減する発明として、特願2010−264249に係る発明がある。この先発明は、スペーサと相手部材との摩擦抵抗を低減させて、複列ラジアルニードル軸受ユニットを組み込んだ回転支持装置の運転時に於けるトルク損失を低減させ、併せて、軽量で且つ低コストで造れるスペーサの構造を実現する事を意図したものである。
【0009】
前記先発明(及び後述する本発明)の対象となるラジアルニードル軸受用スペーサは、遊星軸等の内輪相当部材(内径側部材と同じ)の外周面に設けられた円筒状の内輪軌道と、遊星歯車等の外輪相当部材(外径側部材と同じ)の内周面に設けられた円筒状の外輪軌道との間に、軸方向に離隔した状態で設けられた1対のラジアルニードル軸受同士の間部分に設置される。そして、それぞれが円環状で、軸方向に関して互いに同心に配置された1対のリム部と、これら両リム部同士の間の周方向複数箇所に、これら両リム部同士を連結する状態で設けられた複数本の柱部とを備える。又、これら両リム部と、周方向に隣り合うこれら各柱部とによりそれぞれの四周を囲まれる部分を、内外両周面同士を連通させる透孔部としている。そして、前記内輪軌道と前記外輪軌道と前記両ラジアルニードル軸受とにより周囲を囲まれる空間に組み込み、その表面を相手部材の表面に当接若しくは近接対向させた状態で、この相手部材に対し相対回転する
【0010】
特に、先発明に係るラジアルニードル軸受用スペーサは、前記両リム部と前記各柱部とのうちの少なくとも一方の部分で、前記空間に組み込んだ状態で相手部材の表面に当接若しくは近接対向する部分の一部を、この相手部材から離れる方向に凹ませる。そして、この凹ませた部分の面積分、前記相手部材と前記スペーサの外表面との摩擦面積を狭くして、このスペーサの存在に基づく複列ラジアルニードル軸受ユニットのトルク損失(動トルク、摩擦抵抗)を低減させる。尚、前記凹ませた部分には、有底の凹みは勿論、スペーサの内外両周面同士を貫通する状態で設けた透孔状の構造を含む。
【0011】
上述の様な先発明の態様としては、例えば、前記各柱部を、周方向に関して間欠的に、互いに平行に、或いは、傾斜して配列する。
或いは、前記各柱部の周方向の側面のうち、軸方向の一部又は全体に凹部を形成し、これら各凹を形成した部分で、周方向に関する前記各柱部の幅寸法を、前記各透孔部の同方向の幅寸法よりも小さくする。
或いは、前記両リム部の軸方向外側面又は外周縁部に凹部を、それぞれの周方向に関して断続的乃至は連続的に凹ませた状態で形成する。
或いは、前記各柱部に凹部を、これら各柱部の外周面(外径側面)全体を、前記両リム部の外周面よりも径方向内方に凹ませた状態で形成する。
或いは、周方向に隣り合う各柱部の軸方向中間部同士を、これら各柱部同士の間に、周方向に掛け渡す状態で設けた連結部により互いに連結する。
【0012】
上述の様な先発明によれば、ラジアルニードル軸受用スペーサの表面と、相手部材の表面である、外輪軌道、又は、保持器の軸方向端面或いは各ニードルの軸方向端面との擦れ合い面積を狭くできる。そして、前記ラジアルニードル軸受用スペーサと相手部材との相対回転を抑える方向に作用する抵抗(油膜の剪断抵抗を含む摩擦抵抗)を低く抑えて、前記ラジアルニードル軸受用スペーサを備えた複列ラジアルニードル軸受ユニットの動トルク(トルク損失)を低減できる。又、相手部材の表面との擦れ合い面積を狭くする為に前記凹部を設ける分、前記ラジアルニードル軸受用スペーサの容積を少なくして、このラジアルニードル軸受用スペーサの軽量化及び低コスト化を図れる。
【0013】
次に、先発明に係るラジアルニードル軸受用スペーサの具体例に就いて、図6〜17により説明する。尚、以下に説明する先発明に係る各スペーサ7a〜7k及び後述する本発明に係るスペーサ7m〜7pは、何れも、前述の図4に示す様に、軸方向に離隔して配置した1対のラジアルニードル軸受6、6同士の間に配置する。そして、外周面が外輪軌道11に摺接乃至は近接対向し、軸方向両端面が保持器9、9又は各ニードル8、8の軸方向端面に摺接乃至は近接対向する状態で使用される。又、前記各スペーサ7a〜7pは、何れも、前述の図5に記載した、従来から知られているスペーサ7を基本としてこれに改良を施したものであるから、以下の説明では、改良部分の説明を主として、この従来構造と共通する部分に関しては説明を省略若しくは簡略にする。
【0014】
又、先発明及び本発明のスペーサ7a〜7pの諸元(寸法、材質、表面粗さ)に関しては特に限定しないが、例えば、次の様な諸元を採用できる。
寸法
内径 : 5〜30mm
径方向厚さ : 0.3〜3.0mm
軸方向幅 : 2〜30mm
透孔部の周方向幅 : 1mm以上
リム部の径方向外側面の軸方向幅 : 1mm以上
材質
鉄系合金
鉄系合金としては、冷間圧延鋼板(SPCC)、超低炭素鋼(AISI−1010)、クロムモリブデン鋼(SCM415)等の未熱処理品、或いは、これらに浸炭処理、浸炭窒化処理等の熱処理を施したものを使用できる。これらの鉄系合金を使用すれば、高温環境下でも十分な強度及び剛性を確保できる
合成樹脂
合成樹脂としては、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂(ナイロン46、ナイロン66)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)等が使用可能である。これらの合成樹脂を使用すれば、スペーサを射出成形する事により容易に形成できて、低コスト化を図れるだけでなく、軽量化により、前述した様な効果を得られる。
表面粗さ
スペーサの表面のうち、相手部材に当接若しくは近接対向する外周面及び軸方向端面は、この相手部材との相対回転時の摩擦抵抗を低く抑える為に、平滑面とする事が好ましい。そこで、少なくとも前記外周面及び軸方向端面を、それぞれ中心線平均粗さRaで、6.3μm以下とする事が好ましい。
【0015】
「先発明の実施の形態の第1例」
図6は、先発明の実施の形態の第1例のスペーサ7aを示している。このスペーサ7aは、互いに平行に配列された複数の柱部13a、13aの軸方向中間部の周方向幅を、軸方向両端部の周方向幅に比べて狭くし、且つ、これら各柱部13a、13a同士の間に存在する各透孔14a、14aの周方向幅よりも狭くしている。言い換えれば、前記各柱部13a、13aの周方向両側面のうちの軸方向中間部に、それぞれ周方向に凹んだ、これら各柱部13a、13aの周方向両側面毎に1箇所ずつの凹部16、16を形成し、これら各柱部13a、13aの軸方向中間部の周方向幅wを、前記各透孔14a、14aの軸方向中間部の周方向幅Sよりも小さくしている(w<S)。そして、これら各凹部16、16の径方向開口面積分だけ、前記スペーサ7aの外周面で内輪軌道10(図4参照)との対向面積を狭くしている。尚、前記各柱部13a、13aの軸方向中間部の周方向幅wは、前記図5に示した従来構造に於ける各柱部13、13の周方向幅Wよりも十分に小さい。これに対して、前記各柱部13a、13aの軸方向両端部の周方向幅は、前記従来構造に関する周方向幅Wとほぼ同じとしている。但し、周方向幅が広くなった前記軸方向両端部の軸方向長さは短いので、この軸方向両端部の周方向幅を、前記従来構造に関する周方向幅Wよりも少し広くしても良い。
【0016】
尚、前記各凹部16、16の形状及び大きさ(軸方向長さ、周方向深さ)は、前記各柱部13a、13aに必要とされる強度等を考慮して、前記対向面積をできる限り狭くすべく、前述した諸元の範囲内で、適切に規制する。例えば、前記各凹部16、16の形状に関して、図6に示した構造では台形状としているが、台形状に限定されず、例えば円弧状、楕円状、矩形状等、前記各柱部13a、13aの強度及び剛性を確保できる範囲で、任意の形状を採用できる。又、図6に示した構造では、各柱部13a、13aの周方向両側にそれぞれ凹部16、16を形成しているが、何れか片側にのみ凹部16、16を形成しても良い。何れにしても、前記スペーサ7a自体は、軸方向に離隔して配置した1対のラジアルニードル軸受6、6が互いに近付くのを防止できれば良く、特に、大きなラジアル荷重やアキシアル荷重が加わる事はないので、必要とされる強度及び剛性は特に高くはない。従って、前記各凹部16、16を、前記スペーサ7aの外周面の面積の低減やこのスペーサ7aの軽量化の為に或る程度大きくしても、このスペーサ7aを組み込んだ複列ラジアルニードル軸受ユニット5(図4参照)の信頼性や耐久性の面から問題を生じる事はない。
【0017】
図6に示したスペーサ7aによれば、前記各柱部13a、13aの軸方向中間部の周方向幅wを狭くした分、前記各透孔部14a、14aの周方向幅Sを、前述の図5に記載した従来構造のスペーサ7に設けた各透孔部14、14の周方向幅sよりも広くしている(S>s)。そして、前記各透孔部14a、14aの周方向幅Sを広くした分、前記各柱部13a、13aの外径側面を含めた、前記スペーサ7aの外周面の面積を、前記従来構造のスペーサ7の外周面の面積よりも狭くしている。そして、この外周面の面積を狭くした分、前記スペーサ7aの外周面と、遊星歯車4等の外径側部材の内周面に形成した外輪軌道11(図4参照)との間に作用する、前述した剪断抵抗を含む摩擦抵抗を小さくできる様にしている。これにより、前記スペーサ7aを組み込んだ複列ラジアルニードル軸受ユニット5(図4参照)の動トルクを小さく抑えて、この複列ラジアルニードル軸受ユニット5の回転機械装置の性能向上を図れる。又、前記スペーサ7aは、前記各柱部13a、13aに凹部16、16を形成して軸方向中間部の周方向幅wを狭くした分、軽量化、及び、原材料の低減による低コスト化を図れる。尚、軽量化は、運転時に(公転運動に伴って)発生する遠心力に基づく、遊星軸3(図4参照)等の内径側部材の曲がりの抑制に寄与する。
【0018】
「先発明の実施の形態の第2例」
図7は、先発明の実施の形態の第2例のスペーサ7bを示している。本例の場合には、上述した第1例の場合とは逆に、各柱部13b、13bの軸方向両端部の周方向両側面に、それぞれ凹部16a、16aを形成して、これら各柱部13b、13bの外径側面、延いては前記スペーサ7bの外周面の面積を、図5に示した従来構造に比べて狭くしている。即ち、本例の場合には、前記各柱部13a、13aの軸方向中間部の周方向幅を、前記従来構造の場合と同程度とし、軸方向両端部の周方向幅をこれよりも狭くしている。
その他の構成及び作用・効果に就いては、上述した第1例と同様であるから、重複する説明は省略する。
【0019】
「先発明の実施の形態の第3例」
図8は、先発明の実施の形態の第3例のスペーサ7cを示している。このスペーサ7cは、前述した第1例と上述した第2例とを組み合わせた如き構造を有する。即ち、本例の構造の場合には、各柱部13c、13cの軸方向中間部の周方向両側面に凹部16b、16bを、軸方向両端部の周方向両側面に凹部16a、16aを、それぞれ形成している。そして、これら各凹部16b、16aの分だけ、前記各柱部13c、13cの外径側面の面積、延いては、前記スペーサ7cの外周面の面積を狭くしている。
その他の構成及び作用・効果に就いては、前述した第1例及び上述した第2例と同様であるから、重複する説明は省略する。
【0020】
「先発明の実施の形態の第4例」
図9は、先発明の実施の形態の第4例のスペーサ7dを示している。このスペーサ7dは、各柱部13d、13dの軸方向中間部の周方向両側面の2箇所位置ずつに凹部16b、16bを、それぞれ形成している。そして、これら各凹部16b、16bの分だけ、前記各柱部13d、13dの外径側面の面積、延いては、前記スペーサ7dの外周面の面積を狭くしている。
その他の構成及び作用・効果に就いては、前述した第1〜2例及び上述した第3例と同様であるから、重複する説明は省略する。
【0021】
「先発明の実施の形態の第5例」
図10は、先発明の実施の形態の第5例のスペーサ7eを示している。このスペーサ7eは、それぞれが円環状である1対のリム部12a、12aの軸方向外側面(互いに反対側の軸方向側面)の径方向外寄り部分に、それぞれ部分円すい凸面状の傾斜面部17、17を形成して、この径方向外寄り部分を、相手部材から離れる方向に凹ませている。これに対して、前記両リム部12a、12aの軸方向外側面の径方向内寄り部分は、前記スペーサ7eの中心軸に対し直角方向に存在する平坦面18、18としている。尚、前記両傾斜面部17、17の大きさ(軸方向寸法及び径方向寸法)は、例えば前記両リム部12a、12aの強度及び剛性を確保できる範囲で、できるだけ大きくする事が、相手部材との擦れ合い面積を低減する面からも、前記スペーサ7eの軽量化を図る面からも好ましい。例えば、軸方向寸法に関しては、前記両リム部12a、12aの軸方向幅の1/2〜3/4程度とし、径方向寸法に関しては、これら両リム部12a、12aの径方向厚さの1/2〜3/4程度とする事が好ましい。又、前記スペーサ7eの中心軸に対する前記両傾斜面部17、17の傾斜角度は、0°を超えて90°未満の範囲で設定するが、好ましくは、30〜60°の範囲に設定する。
【0022】
上述の様に構成するスペーサ7eを複列ラジアルニードル軸受ユニット5(図4参照)に組み込んだ状態で、前記両平坦面18、18が、1対のラジアルニードル軸受6、6を構成する保持器9、9又は各ニードル8、8(図4参照)の軸方向端面と、当接若しくは近接対向する。前記両平坦面18、18の面積は、前記両傾斜面部17、17の存在に基づき、前記図5に示した従来構造のリム部12、12の軸方向端面の面積よりも狭い。従って本例の場合には、前記スペーサ7eと前記両保持器9、9又は前記各ニードル8、8との相対回転に伴う摩擦抵抗を低減できる。又、前記両リム部12a、12aの外周面と外輪軌道11(図4参照)との対向面積を狭くして、その分だけ、前記スペーサ7eと、遊星歯車4(図4参照)等の外径側部材との相対回転に伴う摩擦抵抗を低減できる。そして、前記複列ラジアルニードル軸受ユニット5の動トルクの低減を図れる。更に、前記両傾斜面部17、17を形成した分、前記スペーサ7eの容積を低減し、軽量化を図れる。
本例の構造は、先に説明した第1〜4例の構造と組み合わせて実施する事もできる。
その他の構成及び作用・効果に就いては、前述した第1〜4例と同様であるから、重複する説明は省略する。
【0023】
「先発明の実施の形態の第6例」
図11は、先発明の実施の形態の第6例のスペーサ7fを示している。このスペーサ7fは、それぞれが円環状である1対のリム部12b、12bの軸方向外側面を周方向に関して間欠的に軸方向に凹ませ、それぞれ複数箇所ずつの凹部19、19を形成している。図示の例ではこれら各凹部19、19を、それぞれ前記両リム部12b、12bの軸方向外側面の内周縁から外周縁に貫通する、略矩形状としている。図示の例では、前記各凹部19、19を周方向に関して等ピッチで配列しているが、必ずしも等ピッチである必要はない。
【0024】
何れにしても、前記各凹部19、19の大きさ(周方向幅、軸方向深さ)は、例えば前記両リム部12b、12bの大きさ(直径、径方向厚さ、軸方向幅)に応じて決定し、前記各凹部19、19を形成した後の状態で、前記両リム部12b、12bに必要とされる強度及び剛性を確保できる範囲で、できるだけ大きく設定する事が、相手面との対向面積を狭くする事によるトルク損失の低減と、前記スペーサ7fの軽量化とを図る面から好ましい。例えば、前記各凹部19、19の周方向幅を、周方向に隣り合う凹部19、19同士の間に存在する凸部の周方向幅の1〜2倍程度とし、これら各凹部19、19の軸方向深さを、前記両リム部12b、12bの軸方向幅の1/3〜2/3程度に設定する事が好ましい。
【0025】
又、前記各凹部19、19の形状としては、図示の様な矩形状に限らず、例えば部分円弧状、楕円状、三角形状等、各種形状を採用できる。又、図示の例では、周方向の位相に関して、前記各凹部19、19と各柱部13、13とを一致させているが、これら各凹部19、19と各柱部13、13との位相を半ピッチ分ずらせて、これら各凹部19、19の位相と各透孔部14、14の位相とを一致させても良い。更に、前記両リム部12b、12bの軸方向外側面に形成する前記各凹部19、19の数と、前記各柱部13、13(各透孔部14、14)の数とを異ならせても良い。
本例の構造は、先に説明した第1〜5例の構造と組み合わせて実施する事もできる。
その他の構成及び作用・効果に就いては、前述した第1〜5例と同様であるから、重複する説明は省略する。
【0026】
「先発明の実施の形態の第7例」
図12は、先発明の実施の形態の第7例のスペーサ7gを示している。このスペーサ7gは、1対のリム部12c、12cを、それぞれ周方向に関して不連続な、欠円環状としている。即ち、これら両リム部12c、12cは、それぞれが部分円弧状である複数個ずつ(図示の例では6個ずつ)のリム素子20、20を、前記両リム部12c、12c同士の間で、周方向に関する位相を半ピッチ分ずらせて配置している。そして、前記両リム素子20、20の周方向両端縁同士を、それぞれ柱部13、13により連続させて、全体が円筒状で、展開した状態での形状がクランク状となる、前記スペーサ7gとしている。本例の構造では、周方向に隣り合う、前記各リム素子20、20同士の不連続部が、相手部材から離れる方向に凹ませた部分となる。
【0027】
尚、前記不連続部は、前記スペーサ7gを、合成樹脂の射出成形により一体成形すると同時に形成する事が、材料の節約と加工の容易化との面から好ましい。但し、前記スペーサ7gを金属材料製とする場合には、前述の図5に示した従来構造の保持器7を構成するリム部12、12の一部を、後から削り取る事により形成する事もできる。何れにしても、前記不連続部を設けた分、前記スペーサ7gのうちで前記両リム部12c、12cの外周面及び軸方向外側面と、外輪軌道11及び保持器9、9又は各ニードル8、8の軸方向端面(図4参照)とが対向する面積を狭くできる。
本例の構造は、先に説明した第1〜6例の構造と組み合わせて実施する事もできる。
その他の構成及び作用・効果に就いては、前述した第1〜6例と同様であるから、重複する説明は省略する。
【0028】
「先発明の実施の形態の第8例」
図13は、先発明の実施の形態の第8例のスペーサ7hを示している。このスペーサ7hは、前述の図5に示した従来構造に対して柱部13、13の数を少なく、周方向ピッチを大きくして、周方向に隣り合う柱部13、13同士の間に存在する透孔部14b、14bの開口面積を広くし、外輪軌道11(図4参照)と対向する外周面の面積を狭くしている。本例の構造では、前記各透孔部14b、14bの周方向両端部で、前記従来構造の透孔部14、14(図5参照)に比べて広くなった部分が、相手部材から離れる方向に凹ませた部分となる。
【0029】
前記スペーサ7hを構成する前記各柱部13、13の数は、3本以上は必要であるが、このスペーサ7hの強度及び剛性を確保できる限り、少ない方が好ましい。又、前記各透孔部14b、14bの周方向幅は、前記各柱部13、13の周方向幅に比べて大きい程好ましいが、少なくとも、前記各透孔部14b、14bの周方向幅を前記各柱部13、13の周方向幅の2倍以上、好ましくは3倍以上確保する。この各透孔部14b、14bの周方向幅の上限は、これら各柱部13、13の数を3本以上とした上で、必要とする剛性を確保できる値に規定する。この条件を満たす限り、前記各透孔部14b、14bの周方向幅は大きい程好ましい。
【0030】
尚、これら各幅広の透孔部14b、14bは、前記スペーサ7hを、合成樹脂の射出成形により一体成形すると同時に形成する事が、材料の節約と加工の容易化との面から好ましい。但し、前記スペーサ7hを金属材料製とする場合には、前述の図5に示した従来構造の保持器7を構成する柱部13、13のうちの一部(1本置き若しくは2本置き)の柱部13、13を、後から削り取る(間引く)事により形成する事もできる。
本例の構造は、先に説明した、第1〜7例の構造と組み合わせて実施する事もできる。
その他の構成及び作用・効果に就いては、前述した第1〜7例と同様であるから、重複する説明は省略する。
【0031】
「先発明の実施の形態の第9例」
図14は、先発明の実施の形態の第9例のスペーサ7iを示している。本例のスペーサ7iは、上述した第8例のスペーサ7hの構造を改良したもので、軸方向中間部に補強用リム部21を追加した如き構造を有する。即ち、幅広の透孔部14b、14bを軸方向に仕切る様に、各柱部13、13の軸方向中間部同士を連結する状態で、前記補強用リム部21を設けている。この補強用リム部21は、軸方向両端部に設けた1対のリム部12、12と同径で、これら両リム部12、12と同心である。本例の場合、前記補強用リム部21を設ける事により、前記各透孔部14b、14bの周方向幅を十分に大きくしても、前記スペーサ7iの強度及び剛性を十分に確保できる様にしている。
その他の構成及び作用・効果に就いては、他の形態と組み合わせ可能な点を含めて、上述した第8例と同様であるから、重複する説明は省略する。
【0032】
「先発明の実施の形態の第10例」
図15は、先発明の実施の形態の第10例のスペーサ7jを示している。このスペーサ7jの場合には、1対のリム部12、12同士の間に配置した偶数本(図示の例では6本)の柱部13d、13eを、軸方向に対し傾斜させている。又、傾斜方向は、周方向に隣り合う柱部13d、13e同士の間で、互いに逆方向としている。この様に、これら各柱部13d、13eを傾斜させて、前記スペーサ7jの構造をトラス状とする事により、リム部12、12同士の間に作用する捻り方向及び軸方向の力に関する、前記スペーサ7jの強度及び剛性を、前述した第8例に比べて向上させている。
尚、この様な本例と上述した第9例の構造と組み合わせれば、前記スペーサ7jの強度及び剛性を、より一層向上させる事ができる。
その他の構成及び作用・効果に就いては、先に説明した第1〜7例の構造と組み合わせて実施できる事も含め、前述した第8例と同様であるから、重複する説明は省略する。
【0033】
「先発明の実施の形態の第11例」
図16〜17は、先発明の実施の形態の第11例のスペーサ7kを示している。このスペーサ7kの場合、前述の図5に示した従来構造のスペーサ7に対して、各柱部13f、13fの径方向厚さを小さくしている。又、これら各柱部13f、13fの径方向内側面と、1対のリム部12、12の内周面とを単一円筒面上に位置させている。そして、各柱部13f、13fの径方向外側面の全体を、前記両リム部12、12の外周面よりも径方向内方に凹ませている。本例の構造では、前記各柱部13f、13fの径方向外側面が、相手部材から離れる方向に凹ませた部分となる。
前記各柱部13f、13fの径方向厚さを前記両リム部12、12の径方向厚さに比べて小さくする程度は、前記スペーサ7kの強度及び剛性を確保できる限り大きくする事が、このスペーサ7kの軽量化を図る面からは好ましい。相手面である外輪軌道11(図4参照)との摩擦抵抗を低く抑える面からは、各柱部13f、13fの径方向外側面を前記両リム部12、12の外周面よりも少しだけ(例えば0.5mm以上、好ましくは1mm以上)凹ませれば、当該部分に油膜が形成される事を防止して、前記摩擦抵抗を十分に低減できる。
尚、本例の構造は、保持器9、9又はニードル8、8(図4参照)の軸方向端面との摩擦抵抗を低減する面から先に説明した第5〜7例の構造と、軽量化を図る面から、先に説明した第5〜10例の構造と、それぞれ組み合わせて実施する事もできる。
その他の構成及び作用・効果に就いては、先に説明した第1〜10例と同様であるから、重複する説明は省略する。
【0034】
先発明のラジアルニードル軸受用スペーサは、上述した様な構造を有し、回転支持装置の運転時に於けるトルク損失を低減させる等の効果を得られるが、強度及び剛性を確保しつつ、このトルク損失をより一層低減する面からは、改良の余地がある。即ち、先発明及び本発明の対象となるラジアルニードル軸受用スペーサは、回転支持装置の運転時に外周面と外輪軌道とが相対回転する可能性が大きい。この為、これら外周面と外輪軌道との擦れ合い部で油膜切れによる著しい摩耗が発生するのを防止すべく、この擦れ合い部に適切な油膜を存在させる必要がある。一方、先に説明した通り、この油膜の面積が広くなると、前記外周面と前記外輪軌道との相対回転時にこの油膜部分に大きな剪断抵抗が発生し、前記回転支持装置を構成する複列ラジアルニードル軸受の動トルク(トルク損失)が増大する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0035】
【特許文献1】特開2005−16710号公報
【特許文献2】特開2005−325992号公報
【特許文献3】特開2008−101725号公報
【特許文献4】特開2008−303992号公報
【特許文献5】特開2009−115323号公報
【特許文献6】特開2010−2029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0036】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、その外周面と外輪軌道との擦れ合い部に適切な(面積が過大でない)油膜を存在させて、各部の摩耗を抑えつつ、複列ラジアルニードル軸受の動トルクを低く抑えられるラジアルニードル軸受用スペーサを実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0037】
本発明のラジアルニードル軸受用スペーサは、内輪相当部材の外周面に設けられた円筒状の内輪軌道と、外輪相当部材の内周面に設けられた円筒状の外輪軌道との間に、軸方向に離隔した状態で設けられた1対のラジアルニードル軸受同士の間部分に設置される。
この様なラジアルニードル軸受用スペーサは、それぞれが円環状で、軸方向に離隔した状態で互いに同心に配置された1対のリム部と、これら両リム部同士の間の周方向複数箇所に、これら両リム部同士を連結する状態で設けられた複数本の柱部とを備える。
【0038】
特に、本発明のラジアルニードル軸受用スペーサに於いては、少なくとも前記各柱部の表面のうちで、径方向に関して外側の側面である外径側面に、径方向に関して内方に凹んだ有底の径方向凹部を設けている。そして、これら各径方向凹部をそれぞれ全周で囲む部分を、これら各径方向凹部よりも径方向に関して外方に位置させている。
この様な本発明のラジアルニードル軸受用スペーサを実施する場合に、例えば請求項2に記載した発明の様に、前記各径方向凹部を前記各柱部の外径側面に、軸方向に形成する。そして、これら各径方向凹部の周方向両端部をこれら各柱部の周方向両端縁部により、同じく軸方向両端部を前記両リム部により、それぞれ仕切る。
或いは、請求項3に記載した発明の様に、前記各径方向凹部を、前記各柱部の外径側面に、これら各柱部毎に複数箇所ずつ形成された円形凹部とする。
【0039】
又、上述の様な本発明のラジアルニードル軸受用スペーサを実施する場合に好ましくは、請求項4に記載した発明の様に、前記両リム部の軸方向両側面のうちで、互いに反対側の側面である軸方向外側面に、軸方向に関して内方に凹入した軸方向凹部を形成する。
この様な請求項4に記載した発明を実施する場合に、例えば請求項5に記載した発明の様に、前記軸方向凹部を、前記両リム部の外側面の径方向中間部に、全周に亙って形成された環状凹部とする。
或いは、請求項6に記載した発明の様に、前記軸方向凹部を、前記両リム部の外側面に、これら両リム部毎に複数箇所ずつ形成された円形凹部とする。
【発明の効果】
【0040】
上述の様に構成する本発明のラジアルニードル軸受用スペーサによれば、外周面と内輪軌道との擦れ合い部に適切な油膜を存在させて、各部の摩耗を抑えつつ、複列ラジアルニードル軸受の動トルクを低く抑えられる。
即ち、本発明のラジアルニードル軸受用スペーサを組み込んだ複列ラジアルニードル軸受の運転時に、このラジアルニードル軸受用スペーサを構成する各柱部の外径側面に形成した、各径方向凹部内に、潤滑油が貯溜される。そして、この潤滑油が、前記ラジアルニードル軸受用スペーサと外輪相当部材との相対回転に伴って、このラジアルニードル軸受用スペーサの外周面と外輪軌道との間に入り込み、当該部分に油膜を形成する。この為、これら外周面と外輪軌道との擦れ合い部で油膜切れによる著しい摩耗が発生するのを防止できる。一方、前記各径方向凹部の底面と前記外輪軌道との距離は十分に確保できるので、これら各径方向凹部内に貯溜された潤滑油に関しては、前記相対回転時にも、大きな剪断抵抗が発生する事はない。この結果、上述の様に、各部の摩耗を抑えつつ動トルクを低く抑えられる。
更に、請求項4に記載した発明によれば、前記ラジアルニードル軸受用スペーサの軸方向端面と、ラジアルニードル軸受を構成する保持器若しくは各ニードルの軸方向端面との潤滑状態も良好にできる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す、ラジアルニードル軸受用スペーサの斜視図。
【図2】同第2例を示す斜視図。
【図3】同第3例を示す斜視図。
【図4】本発明の対象となるスペーサを組み込んだ、複列ラジアルニードル軸受ユニットによる回転支持装置の1例を示す断面図。
【図5】ラジアルニードル軸受用スペーサの従来構造の1例を示す斜視図。
【図6】先発明に係るラジアルニードル軸受用スペーサの第1例を示す斜視図。
【図7】同第2例を示す斜視図。
【図8】同第3例を示す斜視図。
【図9】同第4例を示す斜視図。
【図10】同第5例を示す斜視図。
【図11】同第6例を示す斜視図。
【図12】同第7例を示す斜視図。
【図13】同第8例を示す斜視図。
【図14】同第9例を示す斜視図。
【図15】同第10例を示す斜視図。
【図16】同第11例を示す斜視図。
【図17】図16のX−X断面図。
【発明を実施するための形態】
【0042】
[実施の形態の第1例]
図1は、請求項1、2に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。尚、本例のスペーサ7mの特徴は、各柱部13g、13gの外径側面に径方向に関して内方に凹んだ有底の径方向凹部22、22を設けて、前記スペーサ7mと、遊星歯車4(図4参照)等の外径側部材との相対回転を円滑に行わせる点にある。前記各径方向凹部22、22を除く、前記スペーサ7mの基本構成に関しては、前述の図5に記載した従来構造のスペーサ7と同様であるから、重複する説明は省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分を中心に説明する。尚、前記スペーサ7mとして採用可能な諸元(寸法、材質、表面粗さ)に関しては、前述した先発明の場合と同様である。
【0043】
本例の場合、前記各柱部13g、13gの内径側面と1対のリム部12、12の内周面とを単一円筒面上に、これら各柱部13g、13gの外径側面の周方向両端部と前記両リム部12、12の外周面とを単一円筒面上に、それぞれ位置させている。そして、前記各柱部13g、13gの周方向中間部に前記各径方向凹部22、22を、それぞれ形成している。本例の場合、これら各径方向凹部22、22は、前記各柱部13g、13gの全長に亙り形成している。又、前記スペーサ7mの中心軸に対し直交する仮想平面に関する、前記各径方向凹部22、22の断面形状(底面の輪郭)は、全長に亙り、同じ複合円弧としている。この複合円弧は、周方向に関して幅方向中央部で径方向外側が凹となり、同じく幅方向両端部で凸となっている。又、これら各円弧の端部同士は滑らかに連続しており、前記各径方向凹部22、22の周方向両端縁と前記各柱部13g、13gの周方向両端部外周面とも、滑らかに連続している。以上の構成により、前記各径方向凹部22、22の周方向両端部を前記各柱部13g、13gの周方向両端部により、同じく軸方向両端部を前記両リム部12、12により、それぞれ仕切っている。
【0044】
上述の様に構成する本例のスペーサ7mを、前述の図4に示す様な回転支持装置1に組み込んだ場合、前記各柱部13g、13gの外径側面と外輪軌道11とが近接対向する。又、前記各径方向凹部22、22内には、給油通路15からこの外輪軌道11の内径側に送り込まれる潤滑油が貯溜される。この状態で前記スペーサ7mとこの外輪軌道11とが回転方向に相対変位すると、前記各径方向凹部22、22内に貯溜された潤滑油が、前記スペーサ7mの外周面と前記外輪軌道11との間に入り込んで、当該部分に油膜を形成する。この為、これら外周面と外輪軌道11との擦れ合い部で油膜切れによる著しい摩耗が発生するのを防止できる。一方、前記各径方向凹部22、22の底面と前記外輪軌道11との距離は、径方向に関して十分に確保できるので、これら各径方向凹部22、22内に貯溜された潤滑油に関しては、前記相対回転時にも、大きな剪断抵抗が発生する事はない。この結果、上述の様に、各部の摩耗を抑えつつ、動トルクを低く抑えられる。
【0045】
前記剪断抵抗を低く抑える為に、前記各径方向凹部22、22の径方向深さは十分に(少なくとも0.5mm以上、好ましくは1mm以上)確保する必要がある。この径方向深さを大きくする分、前記各柱部13g、13gの周方向中央部の径方向厚さは小さくなるが、周方向両端部の径方向厚さが小さくなる事はない。従って、前記各柱部13g、13gの断面係数を十分に確保できて、これら各柱部13g、13gを含む、前記スペーサ7mの強度及び剛性を十分に確保できる。
尚、本例の構造は、前述の先発明の実施の形態の第5〜10例と組み合わせて実施する事もできる。
その他の部分の構成及び作用は、先に説明した先発明と同様であるから、重複する説明は省略する。
【0046】
[実施の形態の第2例]
図2は、請求項1、2、4、5に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例のスペーサ7nの場合には、軸方向両端部に設けた1対のリム部12d、12dの軸方向外側面の径方向中間部に環状凹部23を、全周に亙って形成している。この様な環状凹部23を備えた本例のスペーサ7nを、前述の図4に示す様な回転支持装置1に組み込んだ場合、前記両リム部12d、12dの軸方向外側面と保持器9、9又は各ニードル8、8の軸方向端面とが近接対向する。又、前記両環状凹部23内には、給油通路15から外輪軌道11の内径側に送り込まれる潤滑油が貯溜される。
【0047】
この状態で前記スペーサ7nと前記両保持器9、9又は前記各ニードル8、8とが周方向に相対変位すると、前記両環状凹部23内に貯溜された潤滑油が、前記スペーサ7nと前記両保持器9、9又は前記各ニードル8、8の軸方向端面同士の間に入り込んで、当該部分に油膜を形成する。この為、これらスペーサ7nと両保持器9、9又は各ニードル8、8との擦れ合い部で油膜切れによる著しい摩耗が発生するのを防止できる。一方、前記両環状凹部23の底面と前記両保持器9、9又は前記各ニードル8、8の軸方向端面との距離は、軸方向に関して十分に確保できるので、前記両環状凹部23内に貯溜された潤滑油に関しては、前記相対回転時にも、大きな剪断抵抗が発生する事はない。この結果、上述の様に、各部の摩耗を抑えつつ、動トルクを低く抑えられる。尚、前記両リム部12d、12dの径方向厚さが十分に大きければ、これら両リム部12d、12dの軸方向外側面に複数ずつの環状凹部を、同心円状に形成する事もできる。
その他の部分の構成及び作用は、先発明構造との組み合わせ可能性を含めて、上述した実施の形態の第1例と同様であるから、同等部分には同一符号を付して、重複する説明を省略する。
【0048】
[実施の形態の第3例]
図3は、請求項1、3、4、6に対応する、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例のスペーサ7pの場合には、各柱部13、13の外径側面に、それぞれが各径方向凹部である円形凹部24、24を、これら各柱部13、13毎に複数箇所ずつ形成している。又、前記スペーサ7pの軸方向両端部に形成した1対のリム部12、12の軸方向外側面に、それぞれが軸方向凹部である円形凹部25、25を、これら両リム部12、12毎に複数箇所ずつ形成している。これら各円形凹部24、25は、それぞれ部分球状の凹部である。この様な各円形凹部24、25に関しても、上述した実施の形態の第2例に於ける軸方向凹部22、22及び環状凹部23と同様に機能して、各部の摩耗を抑えつつ、動トルクを低く抑える事に寄与する。
その他の部分の構成及び作用は、先発明構造との組み合わせ可能性を含めて、上述した実施の形態の第2例と同様であるから、重複する説明は省略する。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のラジアルニードル軸受用スペーサは、各種機械装置の回転支持部を構成するラジアルニードル軸受用として利用できる。遊星歯車装置を構成する遊星歯車の回転支持部に適用する場合に、自動車用自動変速機に限らない事は勿論、遊星歯車以外の回転部材の回転支持部にも適用できる。
【0050】
又、本発明の構造と、前述した先発明に係る構造とは、適宜組み合わせて実施する事もできる。例えば、図3に示した本発明の実施の形態の第3例の如く、円形凹部を設ける構造は、前述した先発明の実施の形態の第1〜11例の何れとも組み合わせて実施できる。又、図1、2に示した、前記各柱部の外径側面に径方向凹部を軸方向に形成する構造は、前述した先発明の実施の形態の各例のうち、図10〜15に示した第5〜11例と、そのまま組み合わせて実施できる。又、図6〜9に示した第1〜4例に関しても、柱部のうちで周方向幅が広い部分に前記径方向凹部を形成すれば、組み合わせ実施できる。更に、図2に示した、両リム部の外側面に環状凹部を形成する構造は、前述した先発明の実施の形態の各例のうち、図10〜12に示した第5〜7例以外と組み合わせて実施できる。
【符号の説明】
【0051】
1 回転支持装置
2 キャリア
3 遊星軸
4 遊星歯車
5 複列ラジアルニードル軸受ユニット
6 ラジアルニードル軸受
7、7a〜7p スペーサ
8 ニードル
9 保持器
10 内輪軌道
11 外輪軌道
12、12a リム部
13、13a〜13g 柱部
14、14a、14b 透孔部
15 給油通路
16、16a 凹部
17 傾斜面部
18 平坦面
19 凹部
20 リム素子
21 補強用リム部
22 径方向凹部
23 環状凹部
24 円形凹部
25 円形凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪相当部材の外周面に設けられた円筒状の内輪軌道と、外輪相当部材の内周面に設けられた円筒状の外輪軌道との間に、軸方向に離隔した状態で設けられた1対のラジアルニードル軸受同士の間部分に設置される、
それぞれが円環状で、軸方向に離隔した状態で互いに同心に配置された1対のリム部と、これら両リム部同士の間の周方向複数箇所に、これら両リム部同士を連結する状態で設けられた複数本の柱部とを備えたラジアルニードル軸受用スペーサに於いて、
少なくともこれら各柱部の表面のうちで、径方向に関して外側の側面である外径側面に、径方向に関して内方に凹んだ有底の径方向凹部を設け、これら各径方向凹部をそれぞれの全周で囲む部分を、これら各径方向凹部よりも径方向に関して外方に位置させた事を特徴とするラジアルニードル軸受用スペーサ。
【請求項2】
前記各径方向凹部が前記各柱部の外径側面に、軸方向に形成されており、これら各径方向凹部の周方向両端部がこれら各柱部の周方向両端縁部により、同じく軸方向両端部が前記両リム部により、それぞれ仕切られている、請求項1に記載したラジアルニードル軸受用スペーサ。
【請求項3】
前記各径方向凹部が前記各柱部の外径側面に、これら各柱部毎に複数箇所ずつ形成された円形凹部である、請求項1に記載したラジアルニードル軸受用スペーサ。
【請求項4】
前記両リム部の軸方向両側面のうちで、互いに反対側の側面である軸方向外側面に、軸方向に関して内方に凹入した軸方向凹部を形成している、請求項1〜3のうちの何れか1項に記載したラジアルニードル軸受用スペーサ。
【請求項5】
前記軸方向凹部が、前記両リム部の外側面の径方向中間部に、全周に亙って形成された環状凹部である、請求項4に記載したラジアルニードル軸受用スペーサ。
【請求項6】
前記軸方向凹部が、前記両リム部の外側面に、これら両リム部毎に複数箇所ずつ形成された円形凹部である、請求項4に記載したラジアルニードル軸受用スペーサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−104431(P2013−104431A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246179(P2011−246179)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】