説明

ラジアルピストン機械における排出容積の決定方法

本発明は,偏心量eが調整可能であり,かつ,旋回可能に配設されたシリンダ(2)と,偏心部材(5)を作動するための作動軸とを備えるラジアルピストン機械(1)の排出容積を決定する方法を提案する。ここに,作動軸の回転角はα,シリンダ(2)の旋回角はβで表わされる。本発明においては,シリンダ(2)の旋回角(β)を計測し,その旋回角(β)の計測値から偏心量(e)を算出し,その偏心量(e)から排出容積(v)を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,ラジアルピストン機械の排出容積を決定するための,請求項1の上位概念に係る方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ラジアルピストン機械,例えばラジアルピストンモータ又はラジアルピストンポンプの出力性能が,偏心量の調節により可変とした排出容積に直接対応することは既知である。出力性能の調整に当たっては,実際の排出容積を指標とするのが望ましいが,排出容積や,調節された偏心量の実際値は何れも測定することができない。
【0003】
ドイツ特許出願公開第10 2007 003 800号公報は油圧駆動装置の調整方法を開示しており,この場合に油圧モータの実際の排出容積は,調整電流曲線に基づき,実際の調整電流から導き出される。
【0004】
ドイツ特許出願公開第10 2004 048 174号公報は,調整可能なラジアルピストンモータとして,旋回可能に配設されたシリンダを備えるラジアルピストンモータにおける排出容積の決定装置を開示している。この決定装置は,排出容積を決定するために回転角発信器を備え,その回転角発信器により,実際の排出容積に比例するシリンダ旋回角を計測するものである。
【0005】
ドイツ特許出願公開第10 2006 043 291号公報は,調整可能なラジアルピストンモータ用の非接触式回転角センサを開示している。この回転角センサは,ラジアルピストンモータにおけるシリンダの回転角又は旋回角の実際値を検知し,その回転角はラジアルピストンモータにおける実際に調整された排出容積に比例する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】ドイツ特許出願公開第10 2007 003 800号公報
【特許文献2】ドイツ特許出願公開第10 2004 048 174号公報
【特許文献3】ドイツ特許出願公開第10 2006 043 291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は,前述した方法を改善することにより,可及的に単純な方法でラジアルピストン機械における実際の排出容積を正確に決定可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題は,請求項1に記載された特徴によって解決される。好適な実施形態は,従属請求項に記載されたとおりである。
【0009】
本発明によれば,ラジアルピストン機械の作動の間にシリンダの旋回角βを測定し,その測定角から偏心量を,そして偏心量から排出容積を算出する。従って,算出された実際に排出容積は,ラジアルピストン機械の出力調整プロセスにおける指標として利用可能であり,それにより迅速かつ正確な調整が可能になる。本発明は,シリンダの旋回角βと,作動軸の回転角αと,その都度調整された偏心量eとの間には一定の数学的関係が成立するとの着想に基づくものである。ラジアルピストン機械が作動している間,排出容積自体と偏心量は測定が不可能であるか,又は可能であっても極めて不正確である。そのため,本発明においては旋回角のみを測定し,その計測値から上記の数学的関係を適用して排出容積を算出する。その都度の回転角αに対応する旋回角βは,サイン曲線状に変化するものであり,その推移はサイン曲線に対して最大値と最小値がずれている。ラジアルピストンの上死点及び下死点においては,旋回角βがゼロ点に達する。
【0010】
好適な実施形態においては,所定の時点tnにおける旋回角βを測定し,作動軸の回転角αnを各時点tnに割り当てる。回転角を計測時点に割り当てることにより旋回角βnを測定し,これにより偏心量eを算出するものである。
【0011】
更なる好適な実施形態においては,上記の時点tnを規定するために作動軸が回転する毎にz個のパルスを発信させ,それによって旋回角βnの測定を開始する。即ち,作動軸が1回転する毎に,旋回角βを計測するに十分なz個のパルスが発信され,それによって実際の排出容積の値が算出されるものである。
【0012】
更なる好適な実施形態においては,偏心部材の上死点に対応するゼロ位置を作動に関連させ,1回転毎に,即ち回転角が360°に達する毎に新たにゼロ位置を決定する。
【0013】
更なる好適な実施形態において,作動軸の回転方向は旋回角βの特性曲線,即ちπ/2と3π/2に対する旋回角の最大値及び最小値の相対位置から規定する。旋回角βの最小値から最大値への上昇が,最大値から最小値への下降よりも急である場合,回転方向は右回転と規定する。それ以外の場合には,回転方向を左回転と規定する。排出容積を算出するためには,回転方向が判明していることが不可欠である。
【0014】
以下,添付図面に基づいて本発明の実施形態を更に詳述する。本発明の更なる特徴又は利点は以下の記載から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】調整可能なラジアルピストンモータの概略図である。
【図2】ラジアルピストンモータにおけるシリンダの幾何学的関係を示す概略図である。
【図3】回転角αに対する旋回角βの変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は,ラジアルピストンモータ1として構成された従来技術に係るラジアルピストン機械を示す。5つのシリンダ2が放射状に配設され,これらのシリンダは旋回可能であるに支持されている(図示せず)。各シリンダ2にはピストン3が設けられており,ピストン3はシューと共に行程リング4上を摺動可能に支持されている。行程リング4は,図示された異なるリフトを実現するよう,偏心部材5によって作動される。図1に示されていないシリンダの旋回軸受は,前述したドイツ特許出願公開10 2004 048 174号公報に詳述されているため,その開示全体を本願に援用する。
【0017】
図2は図1に示したシリンダ2の概略図である。図中,同一の構成要素は同一の参照数字で表わされている。シリンダ2は,旋回点Sを通る軸を中心に旋回し得るよう,ハウジング(図示せず)内に支持されている。シリンダ2内を摺動可能に配置されたピストン3は,行程リング4上でシュー3aと共に摺動するように担持されている。行程リング4は,偏心部材5により作動される。偏心部材5は回転中心Dを有し,その回転中心Dは偏心部材5の作動軸(図示せず)が通過するものである。行程リング4は中心点Mを有する。シリンダ旋回点Sから偏心部材の回転中心Dまでの距離はAで示される。偏心部材の回転中心Dから行程リング中心点Mまでの距離は,偏心量eとして表されている。偏心量eは,ラジアルピストンモータのリフトを,従って排出容積を変化させるために調節可能である。シリンダ2の旋回角はβで,又ピストン3の上死点を基点として,偏心部材の回転中心Dを中心とする作動軸の回転角はαで表される。図示の回転角αにおいて,偏心部材は位置Eにあり,この場合にシリンダ2は角度βだけ旋回したことになる。三角形DSEより,次式:tanβ = e・sinα/(A + e・cosα)が導かれる。この関係から,旋回角βは一方では回転角αに,又他方では調整された偏心量eに依存することが明らかである。
【0018】
旋回角βの特性曲線を図3に実線で示す。同図は,一方では最大偏心量eを,他方では最大偏心量の半分(e/2)である場合を示すものである。比較のため,各々対応するサイン曲線を破線で示す。最大値及び最小値は異なるが,ゼロ点の一致していることが理解できる。旋回角βの最大値はπ/2の前に生じ,旋回角βの最小値はサイン曲線の最小値の後に生じる。
【0019】
図3のグラフにおいて,最大値はβmax,最小値はβminで示される。図示の特性曲線,即ちπ/2及び3π/2に対するβmax及びβminの相対関係から,作動軸の回転方向は次のように導かれる:旋回角βの最小値から最大値への上昇カーブが,最大値から最小値への下降カーブよりも急である場合,回転方向は右回りとなる。それ以外の場合,回転方向は左回りとなる。右回りはd = 1,左回りはd = -1によって定義される。
【0020】
このように角度β及びαを算出することにより,上述の特性曲線に基づいて偏心量eが算出される。ラジアルピストンモータ1の排出容積vと偏心量eとの間には,v = f (e) が成立する。そして,偏位量eが既知であることは,排出容積vが既知であることと等価である。
【0021】
図2の左半部において,旋回角の最大値βmaxは,旋回角βの射線が,偏心部材の回転中心Dを中心とする半径eの円に点E'で接する際に現れる。これにより規定される直角三角形DE'Sにおいては次の関係:sinβmax = e/A が成立する。
【0022】
従来技術により既知の態様で,旋回角βを計測するための角度センサ(図示せず)が1つのシリンダ2に設けられている。旋回角βのゼロ点では,それぞれピストンの上端位置及び下端位置(上死点及び下死点)に到達する。駆動軸が完全に一回転する度に,図示しないパルス発信器からz個のパルスを発生させ,そのパルスをパルス検出器において検出する。その際,パルス数zは必ずしも整数である必要はない。例えば,パルス発信器が作動軸に直結されておらず,歯車装置を介して整数ではない伝達比により作動される場合もあるからである。各パルスnによって検出時点tnを記憶し,加えて各パルスによって旋回角βを計測する。この計測値は計測時点tnに割り当て,この場合に次の関係:βn = β(tn)が成立する。
【0023】
一般的に,パルスは作動軸の所定の角度位置に割り当てられていないため,1回転毎にゼロ位置を新たに決定する。
【0024】
ゼロ点近傍では旋回角βnが微小であるために実用的な精度には至らない。更に偏心部材がごく僅かしか旋回しない場合,即ち偏心量eの値が小さい場合には,測定がより困難となる。この問題は,本発明において以下のように解決するものである。即ち,作動軸の回転数が偏心部材の調整速度に対して大きい場合,作動軸の直前回転の旋回角βの極値のみを利用し,βmax(e)に基づいて変心量eを決定するものである。この関係は,上述したように,次式:sinβmax = e/Aで表わされる。即ち,旋回角の最大値βmaxはジオメトリのみに,換言すれば実際の偏心量eのみに依存する。
【符号の説明】
【0025】
1 ラジアルピストンモータ
2 シリンダ
3 ピストン
3a シュー
4 行程リング
5 偏心部材
S シリンダ旋回点
D 偏心部材回転点
E, E' 偏心位置
M 行程リング中心点
A 距離
e 偏心量
α 回転角
β 旋回角
βmax 最大値
βmin 最小値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏心量(e)が調整可能なラジアルピストン機械(1)における排出容積を決定するための方法であって,ラジアルピストン機械(1)が,旋回可能に配設されたシリンダ(2)と,偏心部材(5)を作動するための作動軸とを備え,作動軸の回転角がαで,また,シリンダ(2)の旋回角がβで表わされる場合に,シリンダ(2)の旋回角(β)を測定し,該旋回角(β)の測定値から偏心量(e)を算出し,該偏心量(e)の算出値から排出容積(v)を算出することを特徴とする決定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって,所定の時点(tn)における前記旋回角(β)を計測し,各時点(tn)に作動軸の回転角(αn)を割り当てることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法であって,前記時点(tn)を決定するため,作動軸の1回転毎にz個のパルスを発生させることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法であって,偏心部材(5)の上死点に対応するゼロ位置を作動軸に関連させ,該ゼロ位置を1回転毎に新たに決定することを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法であって,作動軸が回転する際の旋回角(β)の極値(βmax)のみを実質的に適用することを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法であって,前記極値(βmax)から実際の偏心量(e)を算出することを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一項に記載の方法であって,作動軸の回転方向を前記旋回角(β)の特性曲線β = f(α)に基づいて決定することを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法であって,前記旋回角(β)の最小値(βmin)から最大値への(βmax)上昇カーブが最大値(βmax)から最小値(βmin)への下降カーブよりも急である場合に前記作動軸の回転方向を右回転と規定し,それ以外の特性曲線の場合には回転方向を左回転と規定することを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−514480(P2013−514480A)
【公表日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543582(P2012−543582)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【国際出願番号】PCT/EP2010/068392
【国際公開番号】WO2011/082890
【国際公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(500045121)ツェットエフ、フリードリッヒスハーフェン、アクチエンゲゼルシャフト (312)
【氏名又は名称原語表記】ZF FRIEDRICHSHAFEN AG
【Fターム(参考)】