説明

ラジカル重合方法を用いた重合体の連続製造方法

【課題】得られる重合体の分子量分布を狭く保つことができ、重合時間による重合転化率のばらつきが少なく、安定して連続重合を実施することが可能な重合体の製造方法を提供する。
【解決手段】ラジカル重合性単量体(a1)、触媒としての遷移金属錯体、および重合開始剤を含む原料組成物(b1)を、少なくとも内部が該原料組成物(b1)に不溶な樹脂(A1)でできた管(B1)内に連続的に供給し、該管(B1)内で連続的に該ラジカル重合性単量体(a1)をラジカル重合しながら、得られた反応組成物(c1)を該管(B1)から連続的に抜出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡便な方法で連続的に制御ラジカル重合方法を用いて重合体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なラジカル重合法は重合開始剤としてアゾ系化合物、過酸化物などを用いて、ラジカル重合性単量体を重合する簡便な方法であるが、得られる重合体の分子量分布が広くなる。そのため、得られた重合体中に含まれる高分子量重合体の存在により、所望とする粘度より高くなる問題があった。また、特定の官能基を有するラジカル重合性単量体との共重合においては、特定の官能基を有するラジカル重合性単量体が極少量の場合、共重合性比によっては、一つの重合体中に必ずしも特定の官能基を導入できるとは限らないという問題もあった。上記の問題を解決する手段として、制御可能なラジカル重合法(制御ラジカル重合法)の開発が望まれていた。
【0003】
近年、制御ラジカル重合法が開発され、様々なグループで積極的に研究がなされている。その例としては、ニトロキシド化合物などのラジカル捕捉剤を用いるもの(特許文献1)、ジチオエステル化合物を用いるもの(特許文献2)、有機ハロゲン化物等を開始剤とし遷移金属錯体を触媒とするものなどが挙げられる。尚、上記の制御ラジカル重合法においては、上述の問題を解決できるだけでなく、ラジカル重合性単量体と開始剤の仕込み比によって分子量を自由にコントロールできる。
【0004】
制御ラジカル重合法の中でも、有機ハロゲン化物またはハロゲン化スルホニル化合物等を開始剤とし、遷移金属錯体を触媒としてビニル系重合性単量体を重合する方法は、上記の制御ラジカル重合法の特徴に加えて、得られる重合体が官能基変換反応に比較的有利なハロゲン等を末端に有し、開始剤や触媒の設計の自由度が大きいことから、特定の官能基を有する重合体の製造方法としては好ましい。
【0005】
この遷移金属錯体を触媒とする重合としては、例えば特許文献3〜4および非特許文献1〜4に記載の手法が挙げられる。工業的観点から、これらの制御ラジカル重合方法を連続的に実施し、所望の重合体を連続的に製造できる手法を確立することは非常に興味深い。
【0006】
特許文献5では、制御ラジカル重合に用いる、遷移金属錯体形成用の金属の供給源として、銅線を用い、重合性単量体を含む原料組成物を、この銅線を含む重合用チューブ中に連続的に導入することで、制御ラジカル重合を実施している。また、特許文献6では、遷移金属錯体をシリカゲル等の担体に担持させ、管状のカラムに封入し、そのカラム内に重合性単量体を含む原料組成物を連続的に導入することで、制御ラジカル重合を実施している。
【特許文献1】米国特許第4581429号明細書
【特許文献2】国際公開第98/01478号パンフレット
【特許文献3】国際公開第96/30421号パンフレット
【特許文献4】国際公開第97/47661号パンフレット
【特許文献5】国際公開第02/38618号パンフレット
【特許文献6】国際公開第01/62803号パンフレット
【非特許文献1】Macromolecules、1995年、28巻、1721頁〜1723頁
【非特許文献2】J.Am.Chem.Soc.、1995年、117巻、5614頁〜5615頁
【非特許文献3】Macromolecules、1995年、28巻、7970頁〜7972頁
【非特許文献4】Macromolecules、1997年、30巻、2190頁〜2193頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の制御ラジカル重合を用いた連続製造方法において、銅線を遷移金属の供給源として利用する連続重合方法では、得られる重合体の分子量分布は比較的広くなる傾向が実施例においても認められている。また、重合時間と重合性単量体の転化率の関係にばらつきが大きく、安定して連続的に制御ラジカル重合を行うことが困難であった。
【0008】
また、触媒としての遷移金属錯体を担体に担持させ、管状のカラムにその担体を封入した、制御ラジカル重合を用いた連続製造方法では、カラムの重合活性が重合の回数と共に低下し、カラムを再利用するには担持させた触媒を活性化させる必要があった。また、シリカゲル等の担体に化学結合を介して触媒を担持させるには合成が煩雑になるという問題点もあった。
【0009】
上述したいずれの製造方法も、遷移金属錯体あるいは遷移金属錯体を構成する遷移金属は、固形物であるか、または固体に担持されたものであり、遷移金属錯体を除く原料組成物に均一に溶解していないため、遷移金属錯体を除く原料組成物と遷移金属錯体との接触が不十分であり、制御ラジカル重合に関与しないで残存した遷移金属錯体あるいは遷移金属錯体を構成する遷移金属により重合反応が阻害されるということが問題であった。
【0010】
そこで、本発明は、得られる重合体の分子量分布を狭く保つことができ、重合時間による重合転化率のばらつきが少なく、安定して連続重合を実施することが可能な重合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ラジカル重合性単量体(a1)、触媒としての遷移金属錯体、および重合開始剤を含む原料組成物(b1)を、少なくとも内部が該原料組成物(b1)に不溶な樹脂(A1)でできた管(B1)内に連続的に供給し、該管(B1)内で連続的に該ラジカル重合性単量体(a1)をラジカル重合しながら、得られた反応組成物(c1)を該管(B1)から連続的に抜出す、重合体の連続製造方法である。
【0012】
また、本発明は、下記(1)の工程を行った後に、下記(2)の工程を1回以上行う、重合体の連続製造方法である。
(1)ラジカル重合性単量体(a1)、触媒としての遷移金属錯体、および重合開始剤を含む原料組成物(b1)を、少なくとも内部が該原料組成物(b1)に不溶な樹脂(A1)でできた管(B1)内に連続的に供給し、該管(B1)内で連続的に該ラジカル重合性単量体(a1)をラジカル重合しながら、得られた反応組成物(c1)を該管(B1)から連続的に抜出す。
(2)該反応組成物(c1)と、ラジカル重合性単量体(a2)を含む原料組成物(b2)とを、少なくとも内部が該原料組成物(b2)に不溶な樹脂(A2)でできた管(B2)に連続的に供給し、該管(B2)内で連続的に該ラジカル重合性単量体(a2)をラジカル重合しながら、得られた反応組成物(c2)を該管(B2)から連続的に抜出す。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、均一に溶解可能な遷移金属錯体を制御ラジカル重合に用いるため、得られる重合体の分子量分布を狭く保つことができ、重合時間による重合転化率のばらつきが少なく、安定して連続重合を実施することが可能となる。
【0014】
また、均一に溶解可能な遷移金属錯体を制御ラジカル重合に用いるため、触媒としての遷移金属錯体を担体に担持させた管状のカラムを用いた場合のような、重合の回数による重合活性の低下は基本的に起こらず、更にはシリカゲル等の担体に担持させる手間を取らなくても良い。
【0015】
更には、金属を管として用いていないため、重合中に管を構成する金属によって重合が阻害されたり、得られるポリマー中に他の金属種が含まれたりすることを心配しなくてもよい。更に管として樹脂を用いるため、該管は軽量であり、取り扱い、加工が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を更に具体的に説明する。
【0017】
≪原料組成物≫
本発明で用いられる原料組成物(b1)は、触媒としての遷移金属錯体、重合開始剤、及びラジカル重合性単量体(a1)を必須成分とするものであり、必要であれば、溶媒を構成成分として加えることができる。以下、原料組成物(b1)の構成要素について詳しく説明する。
【0018】
(遷移金属錯体)
本発明では、遷移金属と配位子からなる遷移金属錯体を触媒として用いる。遷移金属錯体は、対応する遷移金属を供給する化合物と、配位子とを混合することで得ることができる。
【0019】
(1)遷移金属
遷移金属錯体を構成する遷移金属としては、周期律表第7族元素(Mn、Tc、Re、Bh)、同8族元素(Fe、Ru、Os、Hs)、同9族元素(Co、Rh、Ir、Mt)、同10族元素(Ni、Pd、Pt、Ds)、または同11族元素(Cu、Ag、Au、Rg)に対応する金属が挙げられる。これらの遷移金属の価数は、その遷移金属がとり得る価数から適宜選択できる。
【0020】
これらの中でも、遷移金属種としては銅が好適であり、特に1価もしくは0価の銅が好適である。このような銅を供給する化合物を具体的に例示するならば、塩化第一銅、臭化第一銅、ヨウ化第一銅、シアン化第一銅、酸化第一銅、酢酸第一銅、過塩素酸第一銅、銅等である。これらの中でも入手の容易さから、塩化第一銅、臭化第一銅、銅が好ましい。また、前記の1価もしくは0価の銅をレドックス反応により生成させることを目的として、2価の銅を供給する化合物を加えても良い。2価の銅を供給する化合物としては、塩化第二銅、臭化第二銅、ヨウ化第二銅、シアン化第二銅、酸化第二銅、酢酸第二銅、過塩素酸第二銅等が具体的に例示されるが、これらの中でも入手の容易さから、塩化第二銅、臭化第二銅が好ましい。また、これら遷移金属を供給する化合物は単独又は2種以上を混合して用いることができる。
【0021】
(2)配位子
配位子は、目的とする遷移金属に配位可能な配位子より適宜選択できる。例えば、遷移金属として銅を用いる場合、触媒活性を高めるために、配位子としては、下記構造式で表される配位子から選ぶことができる。
【0022】
【化1】

【0023】
【化2】

【0024】
【化3】

【0025】
【化4】

【0026】
ここで、R1、R2、R10、R11、R12、およびR13は、それぞれ独立に選択され、尚且つ、水素、直鎖アルキル、分岐アルキル、飽和環状アルキル、ヒドロキシアルキル、カルボキシアルキル、アリル、置換アリル、ベンジル、置換ベンジル、またはハロゲンであり、
3からR9は、それぞれ独立に選択され、尚且つ、水素、直鎖アルキル、分岐アルキル、飽和環状アルキル、ヒドロキシアルキル、カルボキシアルキル、アリル、置換アリル、ベンジル、置換ベンジル、またはハロゲン、更にはOCn2n+1(ここでnは1〜20の整数)、NO2、CN、O=CR(ここでRはアルキル、アリル、置換アリル、ベンジル、置換ベンジル)である。
【0027】
これらの中でも、合成方法の容易さ、ラジカル重合の制御性の観点から、R1、R2、R10、R11、R12、およびR13が、それぞれ独立に、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、シクロヘキシル、2−エチルへキシル、オクチル、デシル、及びドデシルの中から選ばれ、R3からR9が、いずれも水素である配位子が好ましい。
【0028】
更には、原料の入手のし易さから、R10が、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、シクロヘキシル、2−エチルへキシル、オクチル、デシル、及びドデシルの中から選ばれ、R5からR9が、水素である、2−ピリジン カルバアルデヒド イミンがより好ましい。
【0029】
配位子としては、上記の他、2,2’−ビピリジルおよびその誘導体、1,10−フェナントロリンおよびその誘導体、トリブチルアミン等のアルキルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、ヘキサメチルトリエチレンテトラアミン等のポリアミン、等の配位子を用いることができる。
【0030】
これらの配位子は、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0031】
(重合開始剤)
この重合法においては、有機ハロゲン化合物、特に、反応性の高い炭素−ハロゲン結合を有する有機ハロゲン化合物(例えば、α位にハロゲンを有するエステル化合物や、ベンジル位にハロゲンを有する化合物)またはハロゲン化スルホニル化合物が重合開始剤として用いられる。前記化合物の具体的な化学式を例示するならば、
65−CH2X、
65−C(H)(X)CH3
65−C(X)(CH32
17−C(H)(X)−CO218
17−C(CH3)(X)−CO218
17−C(H)(X)−C(O)R18
17−C(CH3)(X)−C(O)R18
17−C64−SO2X、
(上記の各式において、C65はフェニル基、R17、R18は水素原子または炭素数1〜20のアルキル基、アリル基、置換アリル基、ベンジル基、または置換ベンジル基であり、R17、R18は同じであっても良いし異なっていても良い。Xは塩素、臭素、及びヨウ素から選ばれる一つである。)
等が挙げられる。
【0032】
これらの重合開始剤として用いる化合物は、ハロゲンが結合している炭素がカルボニル基あるいはフェニル基等と結合しており、炭素−ハロゲン結合が均一解離することによりラジカルが生成し、重合が開始する。また、これら開始剤は単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0033】
ここで、本重合開始剤として、ラジカル重合を開始する官能基以外の官能基を有する有機ハロゲン化合物、またはハロゲン化スルホニル化合物を用いると、容易に末端に官能基が導入された重合体が得られる。このような官能基としては、アルケニル基、ヒドロキシル基、エポキシ基、アミノ基、アミド基、架橋性シリル基等が挙げられる。
【0034】
(ラジカル重合性単量体(a1))
本発明の製造方法に用いるラジカル重合性単量体(a1)としては特に制約はなく、各種のものを用いることができる。例示するならば、(メタ)アクリル酸;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸−n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸−n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸−sec−ブチル、(メタ)アクリル酸−tert−ブチル、(メタ)アクリル酸−n−ペンチル、(メタ)アクリル酸−n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸−n−ヘプチル、(メタ)アクリル酸−n−オクチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トルイル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸−2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸−3−メトキシブチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2−アミノエチル、γ−(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(メタ)アクリル酸のエチレンオキサイド付加物、(メタ)アクリル酸トリフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2−トリフルオロメチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロエチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロエチル−2−パーフルオロブチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロメチル、(メタ)アクリル酸ジパーフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロメチル−2−パーフルオロエチルメチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロヘキシルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロデシルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロヘキサデシルエチル等の(メタ)アクリル酸エステル系重合性単量体;スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、クロルスチレン、スチレンスルホン酸及びその塩等のスチレン系重合性単量体;パーフルオロエチレン、パーフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン等のフッ素含有重合性単量体;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のケイ素含有重合性単量体;無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸のモノアルキルエステル並びにジアルキルエステル;フマル酸、フマル酸のモノアルキルエステル並びにジアルキルエステル;マレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−プロピルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−ヘキシルマレイミド、N−オクチルマレイミド、N−ドデシルマレイミド、N−ステアリルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系重合性単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル基含有重合性単量体;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド基含有重合性単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニルなどのビニルエステル類;エチレン、プロピレンなどのアルケン類;ブタジエン、イソプレンなどの共役ジエン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、塩化アリル、アリルアルコールなどが挙げられ、これらは単独で用いても良いし、複数を共重合させても構わない。これらの内では、生成物の物性等から、スチレン系重合性単量体、(メタ)アクリル酸エステル系重合性単量体、およびニトリル基含有重合性単量体が好ましく、更に、(メタ)アクリル酸エステル系重合性単量体およびニトリル基含有重合性単量体が好ましい。
【0035】
なお、「(メタ)アクリル」とは、「メタクリル」あるいは「アクリル」のことをいう。
【0036】
(溶媒)
重合は無溶媒または各種の溶媒中で行うことができる。溶媒中で重合する場合、溶媒は特に限定されないが、例示するならば、ベンゼン、トルエン等の炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等のアルコール系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒;酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系溶媒;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。また、エマルション系もしくは超臨界流体CO2を媒体とする系においても重合を行うことができる。
【0037】
重合の雰囲気は、特に限定されないが、酸素不存在雰囲気が好ましい。酸素はラジカルと容易に反応し、重合を阻害するし、また、酸素存在下では、触媒が酸化され活性を失う可能性がある。
【0038】
本発明では、原料組成物(b1)中のラジカル重合性単量体(a1)を重合して反応組成物(c1)とした後に、ラジカル重合性単量体(a2)を含む原料組成物(b2)を供給して、共重合体を製造することができる。原料組成物(b2)は、ラジカル重合性単量体(a2)を必須成分とするものであり、必要であれば、触媒としての遷移金属錯体、重合開始剤、及び溶媒を構成成分として加えることができる。これらの成分は、上記原料組成物(b1)の構成要素と同様のものから選択することができる。なお、原料組成物(b2)は、本発明の方法により共重合体を製造する際に用いるものであることから、通常は、原料組成物(b1)と組成が異なっている。
【0039】
≪管≫
本発明で用いられる管(B1)は、少なくとも内部が上記原料組成物(b1)に不溶な樹脂(A1)でできている。アルミや鉄、銅等の金属でできた管を用いた場合、管を構成する金属が単量体の重合に関与し、結果として分子量分布の広い重合体が得られたり、所望の分子量から大幅に外れた重合体が得られたりすることになる。金属でできた管の内部を上記原料組成物(b1)に不溶な樹脂(A1)でコートした管を用いることもできるが、入手のしやすさから樹脂のみでできた管が好ましい。
【0040】
本発明の方法により共重合体を製造する際に用いる管(B2)は、少なくとも内部が上記原料組成物(b2)に不溶な樹脂(A2)でできている。アルミや鉄、銅等の金属でできた管を用いた場合、管を構成する金属が単量体の重合に関与し、結果として分子量分布の広い重合体が得られたり、所望の分子量から大幅に外れた重合体が得られたりすることになる。金属でできた管の内部を上記原料組成物(b2)に不溶な樹脂(A2)でコートした管を用いることもできるが、入手のしやすさから樹脂のみでできた管が好ましい。なお、通常は、原料組成物(b1)にも原料組成物(b2)にも不溶な樹脂でできた管を使用する。
【0041】
ここで、原料組成物に不溶な樹脂とは、以下に記載の重合条件において、原料組成物に溶解または膨潤しない樹脂である。なお、原料組成物に溶解しない、または膨潤しない樹脂であることは、重合前後での重量変化が無いことにより確認できる。
【0042】
管の少なくとも内部を構成する樹脂(A1)および(A2)は、非結晶性樹脂の場合は重合温度以上のガラス転移温度を有する樹脂が好ましい。また、結晶性樹脂の中でも、ガラス転移温度より高い温度において結晶性を示す場合は、重合温度以上の融点を有する樹脂が好ましい。非結晶性樹脂の場合、重合温度がガラス転移温度以下であると、樹脂は変形せず、形態を保つことができる。また、結晶性樹脂の中でも、ガラス転移温度より高い温度において結晶性を示す場合、重合温度が融点以下であると、樹脂は変形せず、形態を保つことができる。
【0043】
前記樹脂(A1)および(A2)としては耐熱性、および汎用性の観点から、フッ素含有重合性単量体、エチレン、プロピレンまたはそれらの混合物から合成されたもの、またはシリコーンが好ましい。これらの中でも、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂またはそれらの混合物が耐溶剤性の観点から、より好ましい。これらの他にも、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂等のスーパーエンプラとも呼ばれている耐熱性プラスチック等を用いても良く、これらの中でもポリエーテルエーテルケトン系樹脂が耐溶剤性の観点から、好ましい。
【0044】
本発明で用いられる管の内径、外径は特に限定されない。しかしながら、内径が大きく、原料組成物の導入速度が遅い場合、原料組成物を構成する分子の自己拡散が不十分となり、原料組成物の組成が部分的に不均一となるため、分子量分布の大きいポリマーが得られることがある。そのため、内径が大きい場合は、原料組成物の導入速度を増加することが好ましい。これら条件は用いる樹脂でできた管の内径、管の全長、重合温度、原料組成物の導入速度等の兼ね合いで、適宜決めることができる。また、外径と内径の差が大きすぎると重合温度の制御が困難になるので、外径と内径の差は小さい方が好ましい。
【0045】
また、本発明で用いられる管の形状は連続製造方法に適した形状であれば、特に限定されない。
【0046】
≪重合条件≫
(連続重合)
本発明では、以下のように連続重合を行う。
(1)上述した、ラジカル重合性単量体(a1)、触媒としての遷移金属錯体、および重合開始剤とを含む原料組成物(b1)を、少なくとも内部が原料組成物(b1)に不溶な樹脂(A1)でできた管(B1)内に連続的に供給し、該管(B1)内で連続的にラジカル重合性単量体を制御ラジカル重合しながら、得られた反応組成物(c1)を該管(B1)から連続的に抜出す。
【0047】
また、上記(1)の工程を行った後に、下記(2)の工程を1回以上行うことにより、ブロック共重合体等、工程(1)で得られる重合体とは組成の異なる重合体を連続的に製造することもできる。この場合、下記(2)の工程を1回行う場合に使用するラジカル重合性単量体(a2)は、上記工程(1)で使用するラジカル重合性単量体(a1)とは異なるラジカル重合性単量体であることが好ましい。また下記(2)の工程を2回以上行う場合に使用するラジカル重合性単量体(a2)は、その直前の工程で使用するラジカル重合性単量体(a2)とは異なるラジカル重合性単量体であることが好ましい。
(2)該反応組成物(c1)と、ラジカル重合性単量体(a2)を含む原料組成物(b2)とを、少なくとも内部が該原料組成物(b2)に不溶な樹脂(A2)でできた管(B2)に連続的に供給し、該管(B2)内で連続的に該ラジカル重合性単量体(a2)を制御ラジカル重合しながら、得られた反応組成物(c2)を該管(B2)から連続的に抜出す。
【0048】
本発明の連続重合における、原料組成物の供給速度、および抜出速度は特に限定されないが、供給速度が抜出速度よりも極端に速い場合は、管内に原料組成物および重合体が充満し、内部圧力が高くなり危険である。更にはラジカル重合が制御されない。また、供給速度が抜出速度よりも極端に遅い場合は、管内で重合する時間が不十分であり、重合時間が短くなってしまう。以上のことから、供給速度と抜出速度は同じであることが好ましい。
【0049】
また、上述の抜出された反応組成物中における、ラジカル重合性単量体の重合転化率は特に限定されないが、10%以上であることが好ましい。しかしながら、ラジカル重合性単量体(a1)とラジカル重合性単量体(a1)以外のラジカル重合性単量体(a2)とのランダム共重合体を上述の工程(2)で合成する前に、工程(1)としてラジカル重合性単量体(a1)の連続重合を行うような分子設計を施す場合には、工程(1)におけるラジカル重合性単量体(a1)の連続重合における重合転化率は10%以下であっても構わない。一方、重合転化率は100%まで到達しても構わないが、100%まで重合転化率を上げた場合、これ以上重合可能なラジカル重合性単量体がないため、ポリマー末端同士が再結合により停止するなどの副反応が生じ、分子量分布が広くなる傾向にある。そのため、95%以下にラジカル重合性単量体の重合転化率を抑え、分子量分布を狭く抑えることが好ましい。
【0050】
(遷移金属錯体の除去方法)
本発明における連続製造法に用いた遷移金属錯体またはそれらを構成する遷移金属および配位子は、連続製造され、最終的に得られた反応組成物中に残存していても構わないが、用途によっては最終的に得られた反応組成物から取り除かれることが好ましい。
【0051】
そのためには、様々な手法が挙げられるが、一般的にはアルミナやシリカ等の微粒子、更には選択的に特定の遷移金属を吸着するように設計されたアルミナやシリカ等の微粒子を用いることができる。その他にも遷移金属錯体を除去する方法として、分子量の違いを利用してポリマーから遷移金属を取り除く膜を用いることもできる。該膜としては、例えばセラミックやPTFE製の限外濾過膜が挙げられる。
【0052】
本発明においては、管から連続的に抜出した反応組成物を一時的に貯蔵した後、それを上述の微粒子や膜に通過させて遷移金属錯体を取り除いても良く、また管から連続的に反応組成物を抜出しながら上述の微粒子や膜に連続的に通過させることで、連続的に遷移金属錯体を取り除いても良い。生産性の観点からは、管から反応組成物を連続的に抜出しながら上述の微粒子や膜に連続的に通過させる方が好ましい。
【0053】
(その他)
本発明における連続製造方法における制御ラジカル重合の方法としては、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法など公知の方法が挙げられる。
【0054】
重合温度は特に制限されないが、制御ラジカル重合を行う管の少なくとも内部を構成する樹脂のガラス転移温度以下で行うのが好ましい。従って、管の少なくとも内部を構成する樹脂のガラス転移温度に依存するが、実際には−20℃〜150℃が好ましく、特に15℃〜105℃が好ましい。重合温度が高すぎると、管を構成する樹脂がガラス転移温度以上の状態に放置されることになり、形態保持が困難となる場合がある。重合温度が低すぎると単量体の重合速度が遅くなって、重合時間が長くなってしまう場合がある。
【実施例】
【0055】
以下に本発明の実施例を示す。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例および比較例において、各種測定は以下の方法により行った。
【0056】
(1)重合体の組成
1H−NMR(Bruker製、商品名:DPX300)により求めた。
【0057】
(2)重合性単量体の消費量
重合溶媒として用いたトルエンの芳香環に由来するピークの積分強度と、モノマーの二重結合に由来するピークの積分強度の比から算出した。
【0058】
(3)重合体の数平均分子量および分子量分布(Mw/Mn
ポリメタクリル酸メチルまたはポリスチレンをスタンダードとして、GPC(Polymer Laboratories製、PL−gel 5μm(50×7.5mm)ガードカラム+PL−gel 5μm(300×7.5mm) mixed Cカラム×2、移動相としてテトラヒドロフラン/トリエチルアミン=95/5質量比)を用いて決定した。
【0059】
(4)実施例において用いた管に使用する樹脂が原料組成物に溶解しない、または膨潤しない樹脂であるか否かの判断は、重合前後での重量変化により決定した。すなわち、重合前の管の重量を量ってから、該管を重合に供した後、害管内にエアを5分間流し、また該管の表面の付着物を拭き取った後、該管の重量を量ることにより、管の重合前後の重合変化を求めた。
【0060】
(単独重合体の連続製造)
(実施例1)
ゴム製のセプタムを付けたシュレンクチューブに臭化銅(以下、「Cu(I)Br」と略記する。)0.134g(0.935mmol)を加え、脱気−窒素置換の手順を三度繰り返し、系内を窒素置換した。続いて、脱酸素したメタクリル酸メチル(以下、「MMA」と略記する。)10mL(93.5mmol)、脱酸素したトルエン(10mL)、n−オクチル−2−ピリジルメタンイミン(以下、「NOPMI」と略記する。)0.47mL(2.06mmol)を窒素雰囲気下で前記のシュレンクチューブに加えた。この溶液を更に窒素ガスで脱酸素作業をし、25℃で30分攪拌することで、生成した銅錯体を溶解させた。その後、tert−ブチル 2−ブロモイソブチレート(以下、「tBiB」と略記する。)0.174mL(0.935mmol)を加えた。
【0061】
上記の重合用溶液を脱気したシリンジに採取し、その後、内容量を約10mLに予め設定したポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」と略記する。)製の管(Cole−Parmer製、内径1/16in.(1.6mm)、外径1/8in.(3.2mm))に装着した。このPTFE製の管をコイル状に巻き、90℃に設定したオイルバスに浸漬した。なお、PTFE製の管は、上記の重合用溶液に不溶であった。
【0062】
このシリンジをシリンジ・ポンプ(Cole−Parmer製、デジタル制御型単一シリンジ・ポンプ)に設置し、PTFE製の管のもう一方の端(反応生成物の流出点)を窒素ガスで満たした管に接続した。シリンジ・ポンプによる供給速度を2.5mL/h(反応時間は約4時間に対応)に設定し、ポンプをスタートさせた。約4時間後、PTFE製の管の端から出てきたサンプルを15分毎に採取し、数平均分子量および分子量分布と、重合性単量体の消費量を測定した。数平均分子量および分子量分布と、重合性単量体の消費量の測定は、採取したサンプルをアルミナカラムに連続的に通し錯体を取り除いた後に実施した。
【0063】
(実施例2)
シリンジ・ポンプによる供給速度を5.0mL/h(反応時間は約2時間に対応)に設定し、ポンプをスタートさせてから約2時間後、PTFE製の管の端から出てきたサンプルを15分毎に採取したこと以外は、実施例1と同様にして、連続重合を実施した。
【0064】
(実施例3)
シリンジ・ポンプによる供給速度を10.0mL/h(反応時間は約1時間に対応)に設定し、ポンプをスタートさせてから約1時間後、PTFE製の管の端から出てきたサンプルを15分毎に採取したこと以外は、実施例1と同様にして、連続重合を実施した。
【0065】
(実施例4)
シリンジ・ポンプによる供給速度を20.0mL/h(反応時間は約0.5時間に対応)に設定し、ポンプをスタートさせてから約0.5時間後、PTFE製の管の端から出てきたサンプルを15分毎に採取したこと以外は、実施例1と同様にして、連続重合を実施した。
【0066】
(実施例5)
Cu(I)Brの添加量を0.268g(1.870mmol)、NOPMIの添加量を0.94mL(4.12mmol)、tBiBの添加量を0.348mL(1.870mmol)に変更し、シリンジ・ポンプによる供給速度を5.0mL/h(反応時間は約2時間に対応)に設定し、ポンプをスタートさせてから約2時間後、PTFE製の管の端から出てきたサンプルを15分毎に採取したこと以外は、実施例1と同様にして連続重合を実施した。なお、PTFE製の管は、本実施例で使用した重合用溶液に不溶であった。
【0067】
(実施例6)
シリンジ・ポンプによる供給速度を10.0mL/h(反応時間は約1時間に対応)に設定し、ポンプをスタートさせてから約1時間後、PTFE製の管の端から出てきたサンプルを15分毎に採取したこと以外は、実施例5と同様にして、連続重合を実施した。
【0068】
(実施例7)
シリンジ・ポンプによる供給速度を20.0mL/h(反応時間は約0.5時間に対応)に設定し、ポンプをスタートさせてから約0.5時間後、PTFE製の管の端から出てきたサンプルを15分毎に採取したこと以外は、実施例5と同様にして、連続重合を実施した。
【0069】
(実施例8)
Cu(I)Brの添加量を0.067g(0.468mmol)、NOPMIの添加量を0.24mL(1.03mmol)、tBiBの添加量を0.087mL(0.468mmol)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして連続重合を実施した。なお、PTFE製の管は、本実施例で使用した重合用溶液に不溶であった。
【0070】
(実施例9)
シリンジ・ポンプによる供給速度を5.0mL/h(反応時間は約2時間に対応)に設定し、ポンプをスタートさせてから約2時間後、PTFE製の管の端から出てきたサンプルを15分毎に採取したこと以外は、実施例8と同様にして、連続重合を実施した。
【0071】
(実施例10)
シリンジ・ポンプによる供給速度を10.0mL/h(反応時間は約1時間に対応)に設定し、ポンプをスタートさせてから約1時間後、PTFE製の管の端から出てきたサンプルを15分毎に採取したこと以外は、実施例8と同様にして、連続重合を実施した。
【0072】
(実施例11)
オイルバスの温度を60℃に設定したこと以外は、実施例2と同様にして、連続重合を実施した。
【0073】
(実施例12)
オイルバスの温度を75℃に設定したこと以外は、実施例2と同様にして、連続重合を実施した。
【0074】
(実施例13)
オイルバスの温度を100℃に設定したこと以外は、実施例2と同様にして、連続重合を実施した。
【0075】
(比較例1)
Cu(I)Brを加えないこと以外は、実施例2と同様にして、連続重合を実施した。
【0076】
(比較例2)
NOPMIを加えないこと以外は、実施例2と同様にして、連続重合を実施した。
【0077】
(比較例3)
tBiBを加えないこと以外は、実施例2と同様にして、連続重合を実施した。
【0078】
(比較例4)
PTFE製の管の代わりに、アルミ製の管(内径1/16in.(1.6mm)、外径1/8in.(3.2mm)、全長約500cm、内容量約10ml)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして、連続重合を実施した。
【0079】
(比較例5)
PTFE製の管の代わりに、ガラス製の管(耐熱ガラス(ホウ珪酸ガラス)製、外径4.0±0.2mm、肉厚0.8±0.1mm、全長約220cm)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして、連続重合を実施した。
【0080】
(比較例6)
PTFE製の管の代わりに、ポリスチレン製の管(外径4.0mm、内径2.0mm、全長約320cm、内容量約10ml)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして、連続重合を実施した。なお、ポリスチレン製の管は、本実施例で使用した重合用溶液に溶解する性質を有している。
【0081】
(ブロック共重合体の連続製造)
(実施例14)
実施例1において、連続的に製造した重合体を連続的に抜出すために用いる管の端を三方向コネクターに接続した。シリンジ・ポンプによる供給速度を3.3mL/h(反応時間は約3時間に対応)に設定したこと以外は、実施例1と同じようにMMAの重合体を連続的に合成し、約3時間後に管の端から重合体が連続的に抜出され三方向コネクターに入った。
【0082】
ゴム製のセプタムを付けたシュレンクチューブに、脱酸素したメタクリル酸ブチル(以下、「BMA」と略記する。)20mL(126mmol)、脱酸素したトルエン(5.0mL)を窒素雰囲気下で加えた。
【0083】
上記の重合用溶液を脱気したシリンジに採取し、その後、上述の三方向コネクターにおけるコネクターの一つに接続した。この三方向コネクターの残る一方に、内容量を約10mLに予め設定したPTFE製の管(Cole−Parmer製、内径1/16in.(1.6mm)、外径1/8in.(3.2mm))に装着した。このPTFE製の管をコイル状に巻き、90℃に設定したオイルバスに浸漬した。なお、PTFE製の管は、上記の重合用溶液に不溶であった。
【0084】
このシリンジをシリンジ・ポンプ(Cole−Parmer製、デジタル制御型単一シリンジ・ポンプ)に設置し、PTFE製の管のもう一方の端(反応生成物の流出点)を窒素ガスで満たした管に接続した。シリンジ・ポンプによる供給速度を1.8mL/hに設定し、ポンプをスタートさせた。約2時間後、PTFE製の管の端から出てきたサンプルを15分毎に採取し、数平均分子量および分子量分布と、重合性単量体の消費量を測定した。数平均分子量および分子量分布と、重合性単量体の消費量の測定は、採取したサンプルをアルミナカラムに連続的に通し錯体を取り除いた後に実施した。
【0085】
(実施例15)
内容量約5mlのPTFE製の管を用い、MMAの重合用溶液のシリンジ・ポンプによる供給速度を1.6mL/h(反応時間は約3時間に対応)に設定し、約3時間後に管の端からMMAの重合体が連続的に抜出された後、BMAの重合を行ったこと以外は、実施例14と同様にして、連続重合を実施した。
【0086】
(実施例16)
BMAの代わりに、メタクリル酸ベンジル(以下、「BzMA」と略記する。)20mL(118mmol)を用いたこと以外は、実施例14と同様にして、連続重合を実施した。なお、PTFE製の管は、本実施例で使用した重合用溶液に不溶であった。
【0087】
(実施例17)
内容量約5mlのPTFE製の管を用い、MMAの重合用溶液のシリンジ・ポンプによる供給速度を1.6mL/h(反応時間は約3時間に対応)に設定し、約3時間後に管の端からMMAの重合体が連続的に抜出された後、BzMAの重合を行ったこと以外は実施例16と同様にして、連続重合を実施した。
【0088】
(評価結果)
実施例1〜13の結果を表1、2に、比較例1〜6の結果を表3に、実施例14〜17の結果を表4に示す。
【0089】
表1に示すように、単量体(MMA)の供給速度に依存することなく、すべての実施例において、得られた重合体の分子量分布は狭く、しかも抜出す時間に依存しないで安定して重合体を得ることが可能であった。また、単量体と開始剤の比率を変えることにより、例えば、実施例2と8を比較した際には、ほぼ同じ単量体の消費量でも分子量を制御することが容易であった。また、単量体と開始剤の比率を固定した場合、単量体の消費量(供給速度、流速に対応)の増加と供に数平均分子量はほぼ直線的に増加しており、制御ラジカル重合が管内で行われていることがわかった。
【0090】
更に、表2に示すように、重合温度を変化させることにより、単量体の消費量を制御することも可能である。また温度を変えても、得られる重合体の分子量分布は狭いまま維持され、しかも抜出す時間に依存しないで安定して重合体を得ることができた。
【0091】
表3に示すように、原料組成物中に遷移金属を含まない比較例1では、制御ラジカル重合に必要な遷移金属錯体が形成されないため、開始反応後、重合を制御することはできず、得られる重合体の分子量分布は広いものであり、更には安定して重合体を得ることができなかった。また、原料組成物中に配位子を含まない比較例2では、制御ラジカル重合に必要な遷移金属錯体が形成されないため、開始反応後、遷移金属である銅により、生じたラジカルは失活し、ほとんど重合は進行しなかった。開始剤を含まない比較例3では、開始反応が生じないため、重合は進行しなかった。
【0092】
また、重合に用いる管をPTFE製の管の代わりに、アルミ製の管に変えた比較例4の場合、得られる重合体の分子量分布は、実施例2と比較すると広いものであった。更にはサンプルを採取する時間によって重合率、分子量、分子量分布はばらつき、安定して重合体を製造することは困難であった。更に、重合に用いる管をPTFE製の管の代わりに、ガラス製の管に変えた比較例5の場合には、得られる重合体の分子量分布は比較的狭く、良好な結果が得られたものの、実施例2と比較すると広いものであった。これはガラス表面にある水酸基によって、金属錯体が若干失活するためと考えられる。重合に用いる管をPTFE製の管の代わりに、ポリスチレン製の管に変えた比較例6の場合、重合開始後約20分で管は原料組成物によって膨潤し、約30分後に管は部分的に溶解して内容物が管外部に流出し、重合体を連続的に得ることができなかった。
【0093】
表4に示すように、本発明の製造方法によりブロック共重合体が製造できた。実施例14〜17に示すように、MMAを重合した後にコモノマーを供給するため、ランダム共重合体ではなくブロック共重合体が製造可能であった。更に、この製法では連続的に尚且つ安定して、重合体を製造することができた。
【0094】
【表1】

【0095】
【表2】

【0096】
【表3】

【0097】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明によれば、均一に溶解可能な遷移金属錯体を制御ラジカル重合に用いるため、得られる重合体の分子量分布を狭く保つことができ、尚且つ、重合時間による重合転化率のばらつきも少なく、安定して連続重合を実施することが可能であり、得られる重合体は各種用途に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル重合性単量体(a1)、触媒としての遷移金属錯体、および重合開始剤を含む原料組成物(b1)を、少なくとも内部が該原料組成物(b1)に不溶な樹脂(A1)でできた管(B1)内に連続的に供給し、該管(B1)内で連続的に該ラジカル重合性単量体(a1)をラジカル重合しながら、得られた反応組成物(c1)を該管(B1)から連続的に抜出す、重合体の連続製造方法。
【請求項2】
下記(1)の工程を行った後に、下記(2)の工程を1回以上行う、重合体の連続製造方法。
(1)ラジカル重合性単量体(a1)、触媒としての遷移金属錯体、および重合開始剤を含む原料組成物(b1)を、少なくとも内部が該原料組成物(b1)に不溶な樹脂(A1)でできた管(B1)内に連続的に供給し、該管(B1)内で連続的に該ラジカル重合性単量体(a1)をラジカル重合しながら、得られた反応組成物(c1)を該管(B1)から連続的に抜出す。
(2)該反応組成物(c1)と、ラジカル重合性単量体(a2)を含む原料組成物(b2)とを、少なくとも内部が該原料組成物(b2)に不溶な樹脂(A2)でできた管(B2)に連続的に供給し、該管(B2)内で連続的に該ラジカル重合性単量体(a2)をラジカル重合しながら、得られた反応組成物(c2)を該管(B2)から連続的に抜出す。
【請求項3】
前記遷移金属錯体を構成する遷移金属が銅である、請求項1または2に記載の重合体の連続製造方法。
【請求項4】
前記遷移金属錯体を構成する配位子が、下記構造式で表される配位子から選ばれる、請求項3に記載の重合体の連続製造方法。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

ここで、R1、R2、R10、R11、R12、およびR13は、それぞれ独立に選択され、尚且つ、水素、直鎖アルキル、分岐アルキル、飽和環状アルキル、ヒドロキシアルキル、カルボキシアルキル、アリル、置換アリル、ベンジル、置換ベンジル、またはハロゲンであり、
3からR9は、それぞれ独立に選択され、尚且つ、水素、直鎖アルキル、分岐アルキル、飽和環状アルキル、ヒドロキシアルキル、カルボキシアルキル、アリル、置換アリル、ベンジル、置換ベンジル、またはハロゲン、更にはOCn2n+1(ここでnは1〜20の整数)、NO2、CN、O=CR(ここでRはアルキル、アリル、置換アリル、ベンジル、置換ベンジル)である。
【請求項5】
1、R2、R10、R11、R12、およびR13が、それぞれ独立に、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、シクロヘキシル、2−エチルへキシル、オクチル、デシル、ドデシルから選ばれ、R3からR9が、いずれも水素である、請求項4に記載の重合体の連続製造方法。
【請求項6】
最終的に得られた反応組成物から触媒を除く、請求項1〜5のいずれかに記載の重合体の連続製造方法。
【請求項7】
最終的に得られた反応組成物から連続的に触媒を除く、請求項6に記載の重合体の連続製造方法。

【公開番号】特開2009−67881(P2009−67881A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−237407(P2007−237407)
【出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 〔掲載年月日] 平成19年3月13日 〔掲載アドレス〕(1)http://www.elsevier.com/wps/find/journaldescription.cws_home/294/description#description (2)http://www.sciencedirect.com/science?_ob=PublicationURL&_tockey=%23TOC%235573%232007%23999569993%23660163%23FLA%23&_cdi=5573&_pubType=J&view=c&_auth=y&_acct=C000050221&_version=1&_urlVersion=0&_userid=10&md5=6186e194f51ed306e5babc3a5d9db0e1 (3)http://www.sciencedirect.com/science?_ob=ArticleURL&_udi=B6TWW−4N7XPD7−5&_user=10&_coverDate=06%2F30%2F2007&_rdoc=16&_fmt=summary&_orig=browse&_srch=doc−info(%23toc%235573%232007%23999569993%23660163%23FLA%23display%23Volume)&_cdi=5573_sort=d&_docanchor=&view=c&_ct=62&_acct=C000050221&_version=1&_urlVersion=0&_userid=10&md5=767293a93f091626afb3c2dd4dfd0244 (4)http://www.sciencedirect.com/science?_ob=MImg&_imagekey=B6TWW−4N7XPD7−5−1&_cdi=5573&_user=10&_orig=browse&_coverDate=06%2F30%2F2007&_sk=999569993&view=c&wchp=dGLbVzb−zSkWW&md5=b396e19c982ca707f0bb630ccb6e9c50&ie=/sdarticle.pdf
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【出願人】(507308533)
【Fターム(参考)】