説明

ラドル

【課題】酸化皮膜の混入を抑制する可動部のないラドルを提供すること。
【解決手段】周壁1a、1bの上縁に溶湯汲み取り口12aと汲み取った溶湯を外部に注湯する注湯口12bとを備える容器本体部1と、容器本体部1に設けられ、上部が前記溶湯汲み取り口12aに連通し下部に溶湯導入口3aを備える溶湯導入部3と、容器本体部1に溶湯導入口3aの下方となるように設けられ、前記下方と交差する方向に容器本体部1の周壁1aから外方に突出する酸化皮膜破砕部4と、を有することを特徴とするラドル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶湯保持炉から溶湯を汲み取り、鋳型や射出装置等に注湯するラドルに関する。詳しくは、溶湯の酸化被膜を構成する酸化物や不純物の混入を抑制するラドルに関する。
【背景技術】
【0002】
保持炉の湯面には酸化皮膜が形成されおり、ラドルで溶湯を汲み取ろうとすると、酸化皮膜を構成する酸化物や不純物が混入してしまう恐れがある。
【0003】
このような酸化物や不純物が成形品に混入すると、内部にあっては鋳造組織の結合力を悪化させ、表面にあっては成形品の外観を阻害する。これらの不具合は生産性を非常に低下させるので酸化物や不純物の混入を防止するラドルが開発されてきた。
【0004】
そのようなラドルとしては、例えば、図11に示すようなラドルが知られている(例えば、特許文献1参照。)。このラドルは、溶湯を収容する容器本体部50の周壁上縁50aに設けた溶湯汲み取り口50bと、汲み取り口50bに溶湯の浮力により浮上しラドルの回動で相対開閉する扉51とより構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−88629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来のラドルで溶湯を汲み取る動作は、アーム52の回動軸52aが所定の高さに下降停止した後ラドル10が回動軸52aを中心に回動傾斜すると、容器本体部50の底壁部50cで酸化被膜54が押し下げられ、所々破れて図12に示すように酸化皮膜片54aが底壁部50c付近に浮遊する。次に、ラドル10がさらに回動すると図13に示すように、汲み取り口50bが湯面を覆う酸化被膜54を通過し開閉扉51が溶湯の浮力により停止浮滞する。すると、汲み取り口50bが溶湯55に開口するので、溶湯55が容器本体部50の中に汲み取られる。次に、ラドル10を反転回動させると、図14に示すように浮滞中の開閉扉51にくみ取り口50bが接し溶湯のくみ取りが完了する。
【0007】
従来のラドルで溶湯を汲み取る場合、図12〜図14に示すように、容器本体50の底壁部50cで酸化皮膜54の大きな領域を押し下げて破るため、大量の酸化皮膜片54aが発生し、酸化皮膜片54aが溶湯と一緒に汲み取り口50bから汲み取られてしまう。
【0008】
また、溶湯面付近の酸化皮膜54がラドル内へ進入するのを抑制するために可動式の扉51を備えているが、溶湯55や酸化皮膜54を巻き込んで動かなくなる恐れがある。
【0009】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたもので、酸化皮膜の混入を抑制する可動部のないラドルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
課題を解決するためになされた本発明に係るラドルは、周壁の上縁に溶湯汲み取り口と汲み取った溶湯を外部に注湯する注湯口とを備える容器本体部と、前記容器本体部に設けられ、上部が前記溶湯汲み取り口に連通し下部に溶湯導入口を備える溶湯導入部と、前記容器本体部に前記溶湯導入口の下方となるように設けられ、前記下方と交差する方向に前記容器本体部の周壁から外方に突出する酸化皮膜破砕部と、を有することを特徴とする。
【0011】
溶湯汲み取り口が溶湯注湯口より下方になるようにラドルを傾斜させて溶湯に浸漬すると、溶湯導入口の下方に配置された酸化被膜破砕部が下方と交差する方向に容器本体部の周壁から突出しているので、酸化皮膜破砕部が最初に酸化皮膜に当たって応力が集中して小さな穴を開ける。その後、傾斜した容器本体部の底壁部と溶湯導入部の周壁部で酸化皮膜の穴を押し広げる。したがって、ラドルを溶湯に浸漬させても酸化皮膜片の発生が抑制される。また、溶湯導入口が酸化皮膜のある溶湯面より深い溶湯中にあるため、溶湯導入口から溶湯と一緒に酸化皮膜を汲み取ることが抑制される。また、可動部がないので、故障しにくい。
【0012】
上記のラドルにおいて、前記溶湯導入口は、前記下方と交差する方向に開口するとよい(請求項2)。
【0013】
傾斜した容器本体部の底壁部と周壁部で酸化皮膜の穴を押し広げるので、酸化皮膜片が発生しても酸化皮膜片が酸化皮膜破砕部の上方には殆どない。したがって、溶湯導入口が下方と交差する方向に開口していると、そこから酸化皮膜片が流入するためには酸化皮膜破砕部を迂回する必要があり、流入することが困難である。
【0014】
また、前記溶湯導入口は、前記下方と反対の上方向に開口するとよい(請求項3)。
【0015】
溶湯導入口が下方と反対の上方向に開口していると、酸化皮膜破砕部を迂回する経路が長くなり、益々酸化皮膜片が流入することが困難になる。
【発明の効果】
【0016】
溶湯汲み取り口が溶湯注湯口より下方になるようにラドルを溶湯に浸漬すると、溶湯導入口の下方に配置された酸化被膜破砕部が容器本体部の周壁から下方へ突出しているので、酸化皮膜破砕部が最初に酸化皮膜に当たって応力が集中し小さな穴を開ける。その後、酸化皮膜の穴が広がる。したがって、ラドルを溶湯に浸漬させても酸化皮膜片がラドルに混入することが抑制される。また、溶湯導入口が酸化皮膜のある溶湯面より深い溶湯中にあるため、溶湯導入口から溶湯と一緒に酸化皮膜を汲み取ることが抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態1のラドルの平面図である。
【図2】実施形態1のラドルの後方視図(図1のA1矢視図)である。
【図3】図1のA−A線断面図である。
【図4】実施形態1のラドルの酸化皮膜破砕部が酸化皮膜に穴を開けた瞬間を模式的に示す図である。
【図5】実施形態1のラドルが酸化皮膜を掻き分けて溶湯の中に浸漬する状況を模式的に示す図である。
【図6】実施形態1のラドルが溶湯の汲み取りを終了した状況を模式的に示す図である。
【図7】実施形態2のラドルの後方視図である。
【図8】図7のB−B線断面図である。
【図9】実施形態3のラドルの後方視図である。
【図10】図9のC−C線断面図である。
【図11】従来のラドルの断面図である。
【図12】従来のラドルが溶湯を汲み取る直前の断面図である。
【図13】従来のラドルが溶湯を汲み取り、反転回動する瞬間の断面図である。
【図14】従来のラドルが溶湯の汲み取りを完了して汲み取り口が開閉扉で閉じられた瞬間の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態を図面に基づいて以下に詳しく説明する。
【0019】
(実施形態1)
本実施形態のラドルは、図1〜図3に示すように、溶湯を収容する容器本体部1と、上蓋部2と、溶湯導入部3と、酸化被膜破砕部4とを備えている。
【0020】
上蓋部2は、容器本体部1の後方の周壁1aの上端部との間で溶湯汲み取り口12aを形成し、前方の周壁1bの上端部との間で注湯口12bを形成している。
【0021】
溶湯導入部3は、上部が溶湯汲み取り口12aに連通し下部に溶湯導入口3aを備えている。溶湯導入部3の周壁1aからの突き出し長さは、d1である。
【0022】
酸化被膜破砕部4は、周壁1aからの突き出し長さがd2の板状である。また、酸化被膜破砕部4は、ラドルを溶湯に入れる前や保管する状態で溶湯導入口3aの下方(矢印A2方向)に配置され、下方と交差する方向に周壁1aから突出している。すなわち、酸化被膜破砕部4は、ラドルを溶湯に入れる前や保管する状態で上蓋2の上面2a及び湯面に沿っている。したがって、酸化被膜破砕部4が周壁1aから突出していても邪魔にならない。
【0023】
酸化被膜破砕部4の突き出し長さd2は、溶湯導入部3の突き出し長さd1よりやや大きめが好ましい。d2がd1より小さいとラドルを溶湯に入れる際、酸化皮膜破砕部4が最初に湯面にできた酸化皮膜に触れて穴を開けることができない。d2がd1より大きすぎると、ラドルの保管時や段取り換え時等に邪魔になる。
【0024】
以下、図3〜図6を使って、アルミ合金、亜鉛合金、銅合金等の金属の溶湯汲み取り動作を説明する。
【0025】
先ず、図3に示すように、上蓋部2が略水平になるようにラドルを給湯器のアーム5の回転軸6に取り付け具7を介して取り付ける。
【0026】
次に、溶湯汲み取り口12aが注湯口12bより下方になるように、図3では、時計回りにラドルを回動させ、アーム5を下方(矢印A2方向)に移動させる。すると、図4に示すように、溶湯8の表面にできた酸化被膜9に容器本体部1の底壁部1cが当たる前に酸化被膜破砕部4が酸化皮膜9に突き当たり応力が集中して穴9aを開ける。
【0027】
図4の状態から更にアーム5が下方に移動すると、図5に示すように、穴9aが容器本体部1の底壁部1cと溶湯導入部3の周壁部3bとで押し広げられ、ラドルが溶湯8の中に入っていく。すると、図6に示すように、溶湯8が矢印A3のように溶湯導入口3aから流れ込み、矢印A4のように溶湯汲み取り口12aを通って容器本体部1の中に汲み取られる。
【0028】
本実施形態のラドルで溶湯を汲み取る場合、上記のように、酸化被膜破砕部4で酸化被膜9に穴9aを開け、その穴9aを容器本体部1の底壁部1cと溶湯導入部3の周壁部3bとで押し広げるので、酸化被膜9が酸化被膜片になることが抑制される。酸化被膜9の穴9aを押し広げる際、場合によっては酸化被膜9が破れて細かい酸化被膜片9bができる恐れがある。しかし、酸化皮膜片9bの大部分は、押し広げる領域の大きな底壁部1c付近に発生するので、酸化被膜破砕部4を迂回して溶湯導入口3aから流れ込むことが抑制される。
【0029】
また、溶湯導入口3aが酸化皮膜9のある溶湯面より深い溶湯中にあるため、溶湯導入口3aから溶湯8と一緒に酸化皮膜9を汲み取ることが抑制される。
【0030】
(実施形態2)
本実施形態のラドルは、図7、図8に示すように、溶湯導入口3a1が、ラドルの下方(矢印A2方向)と交差する方向に開口する点が実施形態1のラドルと相違するだけである。
【0031】
本実施形態のラドルは、溶湯導入口3a1が、ラドルの下方(矢印A2方向)と交差する方向に開口するので、酸化皮膜片が底壁部1c付近に発生したとしても、流入するためには酸化皮膜破砕部4を迂回する必要があり、流入することが抑制される。
【0032】
(実施形態3)
本実施形態のラドルは、図9、図10に示すように、溶湯導入口3a2が、ラドルの下方(矢印A2方向)と反対の上方に開口する点が実施形態1のラドルと大きく相違する。
【0033】
本実施形態のラドルの酸化皮膜破砕部4Aは、図10に示すように底壁部1cから下方(矢印A2方向)と交差する方向に突き出てから上方に延びる折れ曲がり部4A1を備えている。
【0034】
したがって、酸化皮膜片が底壁部1c付近に発生したとしても、折れ曲がり部4A1が邪魔をして開口3a1(実施形態2のラドルの溶湯導入口)から入り込めない。酸化皮膜片は、酸化皮膜破砕部4の折れ曲がり部4A1を迂回する必要があり、経路が長くなり、益々酸化皮膜片が流入することが抑制される。
【符号の説明】
【0035】
1・・・・・・・容器本体部
1a、1b・・・周壁
2・・・・・・・上蓋部
12a・・・・ 溶湯汲み取り口
12b・・・・ 注湯口
3・・・・・・・溶湯導入部
3a・・・・ ・溶湯導入口
4・・・・・・・酸化皮膜破砕部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周壁の上縁に溶湯汲み取り口と汲み取った溶湯を外部に注湯する注湯口とを備える容器本体部と、
前記容器本体部に設けられ、上部が前記溶湯汲み取り口に連通し下部に溶湯導入口を備える溶湯導入部と、
前記容器本体部に前記溶湯導入口の下方となるように設けられ、前記下方と交差する方向に前記容器本体部の周壁から外方に突出する酸化皮膜破砕部と、
を有することを特徴とするラドル。
【請求項2】
前記溶湯導入口は、前記下方と交差する方向に開口する請求項1に記載のラドル。
【請求項3】
前記溶湯導入口は、前記下方と反対の上方向に開口する請求項1に記載のラドル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−194460(P2011−194460A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−66848(P2010−66848)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000220767)東京窯業株式会社 (211)
【Fターム(参考)】