説明

ラマン分光法による肺組織を特徴付けるための装置および方法

近赤外ラマン分光法を適用して、気管支樹の新生物発生前病巣を確認できる。肺組織のリアルタイムの生体内ラマンスペクトルが、気管支鏡の器具のチャネルを通して光ファイバカテーテルを進めることによって得られ得る。プロトタイプの装置を使用することによって、それぞれ感度96%および特異性91%で新生物発生前病巣が検出される。ラマン分光法装置の使用および他の気管支鏡検査画像診断法と併用する方法は、実質的に偽陽性の結果数を低下させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織の特徴付けに関する。本発明は、例えば、肺組織に癌が有るかどうかを判定するための方法および装置の提供に適用され得る。例示的な実施形態は、肺組織の病巣が癌性である可能性を評価するために医師が使用し得る内視鏡装置を提供する。
【背景技術】
【0002】
肺癌は命にかかわることが多い。治療が成功する見込みは、新生物発生前病巣(悪性腫瘍になる確率が高い病巣)を早期発見することによって高められる。中等度および高度の異形成および上皮内癌(CIS)を含む気管支樹の新生物発生前病巣は、悪性腫瘍になる確率が高い。気管支鏡検査中にこれらの新生物発生前病巣の個所を突き止めて、さらなる治療を行えることが、患者の生存率を高める決め手となる。
【0003】
現在、さらなる治療のために新生物発生前病巣を突き止める最善の方法は、蛍光気管支鏡(AFB)と白色光気管支鏡(WLB)とを組み合わせた方法である。この組み合わせ方法は1990年代に開発され、例えばラム(Lam)S、ケネディ(Kennedy)T、アンガー(Unger)Mら、「蛍光気管支鏡検査による気管支上皮内の新生物形成病巣の位置確認(Localization of bronchial intraepithelial neoplastic lesions by fluorescence bronchoscopy)」(非特許文献1)およびゼルウェガー(Zellweger)M、グロジャン(Grosjean)P、グージョン(Goujon)D、モニエ(Monnier)P、バン・デン・バーグ(van den Bergh)H、ワグニール(Wagnieres)G.「早期癌の発見および画像化を最適にする、ヒト気管支組織の生体内自己蛍光分光法(In vivo autofluorescence spectroscopy of human bronchial tissue to optimize the detection and imaging of early cancers)」(非特許文献2)に説明されているように、新生物発生前病巣の位置特定が著しく改善された。新生物発生前状態を発見するAFB+WLBの感度は、WLB単独での感度の約2倍である。しかしながら、WLB+AFBの平均特異性は60%にすぎないと報告されており、これは、例えば:ラム(Lam)S.「早期肺癌の診断における自己蛍光気管支鏡検査の役割(The Role of Autofluorescence Bronchoscopy in Diagnosis of Early Lung Cancer)」;ハーシュ(Hirsch)FR、バン(Bunn)Jr PA、カトウ(Kato)H、マルシャイン(Mulshine)JL編、「早期肺癌の予防および発見のためのIASLCテキストブック(IASLC Textbook for Prevention and Detection of Early Lung Cancer)」(非特許文献3)、およびエデル(Edell)Eら、「蛍光反射性気管支鏡検査を使用する上皮内新生物形成および浸潤癌の発見および位置確認(Detection and Localization of Intraepithelial Neoplasia and Invasive Carcinoma Using Fluorescence−Reflectance Bronchoscopy)」(非特許文献4)で説明されているように、多くの偽陽性の判断を招く。
【0004】
WLB+AFB特異性の最適性がやや欠ける点については、一般にWLB+AFBによって判断された多くの組織部位のどれを生検用に選択するかは、気管支鏡検査者の熟練さと判断力にかなり依存している面が有ると、部分的には説明することができる。しかしながら、偽陽性が多いことの主な理由は、AFBに関係する特異性の低さである。良性病巣および新生物発生前病巣の双方とも同様の自己蛍光特性を有する。それゆえ、依然として検出方法の改善がかなり必要とされている。
【0005】
ラマン分光法は、光を検体に向けて、検体への入射光の一部を非弾性的に散乱させることを含む。検体との非弾性相互作用によって、入射光の波長に対して波長がシフトされた散乱光を生じさせ得る(ラマンシフト)。散乱光の波長スペクトル(ラマンスペクトル)は、検体の性質に関する情報を含む。
【0006】
組織の研究においてラマン分光法を使用することは、以下の参照文献で説明されている:
a)カスペルス(Caspers)PJら、「生物物理学および医学物理学におけるラマン分光法(Raman spectroscopy in biophysics and medical physics)」(非特許文献5);
b)ファング(Huang)Zら、「リアルタイムの生体内での皮膚測定のための迅速な近赤外ラマン分光システム(Rapid near−infrared Raman spectroscopy system for real−time in vivo skin measurements)」(非特許文献6);
c)ショート(Short)MAら、「肺癌の生体内での診断の可能性に関する内視鏡的ラマンプローブの開発および暫定的結果(Development and preliminary results of an endoscopic Raman probe for potential in vivo diagnosis of lung cancers)」(非特許文献7);
d)ファング(Huang)Zら、「生体内での皮膚メラニンのラマン分光法(Raman spectroscopy of in vivo cutaneous melanin)」(非特許文献8);
e)ファング(Huang)Zら、「バックグラウンド近赤外自己蛍光とのラマン分光法の組み合わせによる悪性組織の生体内評価の充実(Raman Spectroscopy in Combination with Background Near−infrared Autofluorescence Enhances the In Vivo Assessment of Malignant Tissues)」(非特許文献9);
f)モルコフスキー(Molckovsky)Aら、「大腸における近赤外ラマン分光法の診断可能性:過形成性ポリープとの腺腫の区別(Diagnostic potential of near−infrared Raman spectroscopy in the colon:differentiating adenomatous from hyperplastic polyps)」(非特許文献10);
g)アビゲイル(Abigail)SHら、「乳房部分切除術中の、ラマン分光法を使用した生体内でのマージン評価(In vivo Margin Assessment during Partial Mastectomy Breast Surgery Using Raman Spectroscopy)」(非特許文献11);
h)ラジャヒャクシャ(Rajadhyaksha)Mら、「ヒト皮膚の生体内での共焦点レーザ走査顕微鏡法II:器具の進化および組織構造比較(In Vivo Confocal Scanning Laser Microscopy of Human Skin II: Advances in Instrumentation and Comparison With Histology)」(非特許文献12);
i)リーバー(Lieber)CAら、「ラマン顕微分光法を使用する生体内での非黒色腫皮膚癌診断(In vivo nonmelanoma skin cancer diagnosis using Raman microspectroscopy)」(非特許文献13);
j)トゥ(Tu)AT、「生物学でのラマン分光法:原理および応用(Raman spectroscopy in biology:principles and applications)」(非特許文献14);
k)ハンロン(Hanlon)EBら、「薬剤および生物学での生体内ラマン分光法物理学の見通し(Prospects for in vivo Raman spectroscopy Physics in Medicine and Biology)」(非特許文献15);
l)ロビショー(Robichaux)−ヴィオエバー(Viehoever)Aら、「子宮頚部異形成の発見のための生体内で測定されたラマンスペクトルの特徴付け(Characterization of Raman spectra measured in vivo for the detection of cervical dysplasia)」(非特許文献16);
m)グゼ(Guze)Kら、「口腔疾患用診断ツールとしてのラマン分光法の適用可能性を規定するパラメータ(Parameters defining the potential applicability of Raman spectroscopy as a diagnostic tool for oral disease)」(非特許文献17);
n)ファング(Huang)Zら、「内視鏡検査でのリアルタイムの生体内での組織のラマン測定のためのラマン分光法および三峰性の広視野画像法の統合(Integrated Raman spectroscopy and trimodal wide−field imaging techniques for real−time in vivo tissue Raman measurements at endoscopy)」(非特許文献18);
o)ファング(Huang)Zら、「肺癌の光学診断のための近赤外ラマン分光法(Near−infrared Raman spectroscopy for optical diagnosis of lung cancer)」(非特許文献19);
p)マギー(Magee)NDら、「ラマン小型プローブを使用する肺癌の生体外診断(Ex Vivo diagnosis of lung cancer using a Raman miniprobe)」(非特許文献20);
q)ショート(Short)MAら、「肺癌の生体内診断の可能性のための内視鏡検査ラマンプローブの開発および暫定的結果(Development and preliminary results of an endoscopy Raman probe for potential in−vivo diagnosis of lung cancers)」(非特許文献7);
r)シム(Shim)MGら、「生体内での医用ラマン分光法のための光ファイバプローブの研究(Study of fiber optic probes for in vivo medical Raman spectroscopy)」(非特許文献21);
s)ヤマザキ(Yamazaki)Hら、「1064nm励起近赤外マルチチャネルラマン分光法を使用する肺癌の診断(The diagnoses of lung cancer using 1064 nm excited near−infrared multichannel Raman spectroscopy)」(非特許文献22);
t)ナゼミ(Nazemi)JHら、「高波数ラマンシフト光によって決定されたヒト冠状動脈における脂質濃度(Lipid concentrations in human coronary artery determined with high wavenumber Raman shifted light)」(非特許文献23);
u)コルジェノヴィック(Koljenovi’c)Sら、「ヒト気管支組織のラマン顕微分光法マッピング研究(Raman microspectroscopic mapping studies of human bronchial tissue)」(非特許文献24);
v)モヴァサジ(Movasaghi)Zら、「生物組織のラマン分光法(Raman spectroscopy of biological tissues)」(非特許文献25);および
w)パーコット(Percot)、A.ら、「ラマン分光法によるモデル角質層脂質混合物におけるドメインの直接観察(Direct observation of domains in model stratum corneum lipid mixtures by Raman spectroscopy)」(非特許文献26)。
【0007】
これら参照文献全てを、参照により本願明細書に援用する。
共焦点技術を使用して集められた光を分析するためにラマン分光法を適用する光学装置の使用は:
x)カスペルス(Caspers)PJら、「ヒト皮膚内の水分濃度プロファイルの生体内での迅速な測定のための自動深さ走査共焦点ラマン顕微分光計(Automated depth−scanning confocal Raman microspectrometer for rapid in vivo determination of water concentration profiles in human skin)」(非特許文献27);
y)カスペルス(Caspers)PJら、「皮膚の生体内での共焦点ラマン顕微分光法:分子の濃度プロファイル非侵襲的測定(In vivo confocal Raman microspectroscopy of the skin:noninvasive determination of molecular concentration profiles)」(非特許文献28);
z)カスペルス(Caspers)PJら、「共焦点ラマン分光法によるヒト角質層生体内での浸透促進剤ジメチル・スルホキシドの観察(Monitoring the penetration enhancer dimethyl sulfoxide in human stratum corneum in vivo by confocal Raman spectroscopy)」(非特許文献29)に説明されている。
【0008】
これら参照文献全てを、参照により本願明細書に援用する。
疑わしい病巣および他の組織を特徴付けるための、感度の高い、特定の非侵襲的道具は、採取した組織の生検への使用および組織病理検査に対する、価値のある代替物を提供する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】ラム(Lam)S、ケネディ(Kennedy)T、アンガー(Unger)Mら、Chest 1998年;113:696−702
【非特許文献2】ゼルウェガー(Zellweger)M、グロジャン(Grosjean)P、グージョン(Goujon)D、モニエ(Monnier)P、バン・デン・バーグ(van den Bergh)H、ワグニール(Wagnieres)G.、J.Biomed.Opt.2001年;6:41−51
【非特許文献3】ハーシュ(Hirsch)FR、バン(Bunn)Jr PA、カトウ(Kato)H、マルシャイン(Mulshine)JL編、英国ロンドン;およびニューヨーク:テイラーアンドフランシス(Taylor & Francis);2006年:149−158
【非特許文献4】エデル(Edell)Eら、Journal of Thorac Oncology、2009年;1月;4(1):49−54
【非特許文献5】カスペルス(Caspers)PJら、Biophys J 2003年;85:572−580
【非特許文献6】ファング(Huang)Zら、Opt Lett 2001年;26:1782−1784
【非特許文献7】ショート(Short)MAら、Opt Lettt 2008年;33(7):711−713
【非特許文献8】ファング(Huang)Zら、J of Biomed Opt 2004年;9:1198−1205
【非特許文献9】ファング(Huang)Zら、Photochem Photobiol 2005年;81:1219−1226
【非特許文献10】モルコフスキー(Molckovsky)Aら、Gastrointest Endosc 2003年;57:396−402
【非特許文献11】アビゲイル(Abigail)SHら、Cancer Res 2006年;66:3317−3322
【非特許文献12】ラジャヒャクシャ(Rajadhyaksha)Mら、J Invest Dermatol 1999年;113:293−303
【非特許文献13】リーバー(Lieber)CAら、Laser Surg Med 2008年;40(7):461−467
【非特許文献14】トゥ(Tu)AT、ニューヨーク州ニューヨーク:ワイリー(Wiley);1982年
【非特許文献15】ハンロン(Hanlon)EBら、Prospects for in vivo Raman spectroscopy Physics in Medicine and Biology、2000年;45:R1−R59
【非特許文献16】ロビショー(Robichaux)−ヴィオエバー(Viehoever)Aら、Appl.Spectrosc.2007年;61、986−997頁
【非特許文献17】グゼ(Guze)Kら、J.Biomed.Opt.2009年;14:0140161−9
【非特許文献18】ファング(Huang)Zら、Opt.Lett.2009年;34:758−760
【非特許文献19】ファング(Huang)Zら、Int.J.Caner 2003年;107:1047−1052
【非特許文献20】マギー(Magee)NDら、Journal of Physical Chemistry B 2009年;113:8137−8141
【非特許文献21】シム(Shim)MGら、Applied Spectroscopy 1999年;53:619−627
【非特許文献22】ヤマザキ(Yamazaki)Hら、Radiation Medicine 2003年;21:1−6
【非特許文献23】ナゼミ(Nazemi)JHら、J.Biomed.Opt.2007年;14(3):0340091−6
【非特許文献24】コルジェノヴィック(Koljenovi’c)Sら、J.Biomed.Opt.2004年;9:1187−1197
【非特許文献25】モヴァサジ(Movasaghi)Zら、Applied Spectroscopy Reviews 2007年;42:493−541
【非特許文献26】パーコット(Percot)、A.ら、Biophysical Journal 2001年;81:2144−2153
【非特許文献27】カスペルス(Caspers)PJら、J Raman Spectrosc 2000年;31:813−818
【非特許文献28】カスペルス(Caspers)PJら、J Invest Dermatol 2001年;116:434−442
【非特許文献29】カスペルス(Caspers)PJら、Pharm Res 2002年;19:1577−1580
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記した懸案を鑑みてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明はいくつもの態様を有する。これらの態様は:生体内での肺組織の病変を評価するのに有用な装置;生体内での肺組織の病変を評価するのに有用な方法;組織のラマン分光法データを処理し、およびスペクトルが癌性または前癌性組織に対応する可能性の基準値を生成する装置;組織のラマン分光法データを処理し、およびスペクトルが癌性または前癌性組織に対応する可能性の基準値を生成する方法;データ処理装置によって実行されると、データ処理装置に、組織のラマン分光法データを処理し、およびスペクトルが癌性または前癌性組織に対応する可能性の基準値を生成する方法を実行させるコンピュータ可読命令を含む持続性媒体を含む。
【0012】
本発明の一態様は、ラマンスペクトルの検出および測定による、疾患または生理学的状態の診断のための肺組織の非侵襲性分析に有用な方法および装置を提供する。
本発明のいくつかの実施形態は、ポイントラマンスペクトルを取得して分析し、組織、例えば、肺または気管支樹内の候補位置にある組織を評価するための客観的な尺度となる基準値を提供する方法および装置を提供する。いくつかの実施形態は、病巣が新生物発生前であるか、悪性であるかまたはそれらのいずれでもないかの迅速かつ客観的な尺度となる基準値を提供する。
【0013】
一部の実施形態では、方法および装置は、正常、炎症、過形成、軽度異形成の分類からなる群と、中等度異形成、高度異形成、上皮内癌(CIS)および腫瘍の分類からなる群とを区別するように適合されている。最初の4つの分類は良性とみなされ、最後の4つの分類は悪性とみなされる。
【0014】
本発明の一態様は、組織を特徴付けるための装置であって、ラマンスペクトルを生成するように構成されたラマン分光計と、ラマンスペクトルの少なくとも1つの特性を測定するように構成されたラマンスペクトル分析装置と、測定された特性に応答して駆動されるフィードバックデバイスとを含む装置を提供する。1つ以上のスペクトルを含む少なくとも1つの特性は、1500±10cm−1〜3400±10cm−1の相対的な波数範囲内にあることを特徴とする。
【0015】
一部の実施形態では、装置は、ラマンスペクトルを処理して、平滑化された二次微分(derivative)スペクトルをもたらすようにさらに構成される。これは、例えば、サヴィツキイ(Savitzky)−ゴーレイ(Golay)の6点二次多項式を適用することによって達成されうる。組織は、平滑化された二次微分スペクトルの特徴に基づいて特徴付けてもよい。
【0016】
一部の実施形態では、装置は:組織の特性の事後確率が第1の閾値を下回る場合、組織を第1の分類に特徴付けること;組織の特性の事後確率が第2の閾値を上回る場合、組織を第2の分類に特徴付けること;および組織の特性の事後確率が第1の閾値と第2の閾値との間にある場合、組織を第3の分類に特徴付けることによって、組織を特徴付けるように構成されている。一部の実施形態では、第1の閾値は0.3±10%のカットオフを表し、第2の閾値は0.7±10%のカットオフを表す。例えば、第1の閾値を0.3のカットオフとし、および第2の閾値を0.7のカットオフとしてもよい。
【0017】
本発明の別の態様は、肺組織の少なくとも1つのラマンスペクトルを受光すること、ラマンスペクトルの少なくとも1つの特性を測定すること、測定された特性に応答して組織を特徴付けること、および組織の特徴付けの表示を生成することを含む、組織の特徴付け方法を提供する。組織の特徴付けは、少なくともある程度は、相対的な波数範囲1500±10cm−1〜3400±10cm−1にあるラマンスペクトルの1つ以上の特徴に基づく。
【0018】
一部の実施形態では、平滑化された二次微分スペクトルを計算する。これは、例えば、サヴィツキイ−ゴーレイの6点二次多項式を各ラマンスペクトルに適用することによって、なされ得る。
【0019】
一部の実施形態では、組織の特徴付けは:組織の特性の事後確率が第1の閾値を下回る場合に、組織を第1の分類に特徴付けること;組織の特性の事後確率が第2の閾値を上回る場合に、組織を第2の分類に特徴付けること;および組織の特性の事後確率が第1の閾値と第2の閾値との間にある場合に、組織を第3の分類に特徴付けることを含む。一部の実施形態では、第1の閾値は0.3±10%のカットオフを表し、第2の閾値は0.7±10%のカットオフを表す。例えば、第1の閾値を0.3のカットオフとし、第2の閾値を0.7のカットオフとしてもよい。
【0020】
本発明の別の態様は、少なくとも1つのデータ処理装置によって実行される命令を記憶する、持続性の有形のコンピュータ可読媒体であって、それらの命令は、データ処理装置によって実行されると、データ処理装置に、肺組織の少なくとも1つのラマンスペクトルを処理するステップ、ラマンスペクトルに応答して肺組織を特徴付けるステップ、および肺組織の特徴付けの表示を生成するステップを含む、組織を特徴付ける方法を実行させる、持続性の有形のコンピュータ可読媒体を提供する。組織の特徴付けは、少なくともある程度は、相対的な波数範囲1500±10cm−1〜3400±10cm−1にあるラマンスペクトルの1つ以上の特徴に基づく。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の例示的な実施形態による診断装置のブロック図である。
【図2】本発明の別の例示的な実施形態による装置のブロック図である。
【図2A】プロトタイプの診断装置の写真である。
【図3A】生のラマンスペクトルのグラフである。
【図3B】蛍光バックグラウンドに多項式曲線がフィットしている図3Aのラマンスペクトルのグラフである。
【図3C】蛍光バックグラウンドが減じられた図3Aのラマンスペクトルのグラフである。
【図4A】白色光下の病巣の写真である。
【図4B】同じ病巣の青色光励起蛍光の写真である。
【図4C】疑わしい病巣の青色光およびラマン分光計励起蛍光の写真である。
【図5A】データセットからの例示的な平均ラマンスペクトルのグラフである。
【図5B】データセットからの別の例示的な平均ラマンスペクトルのグラフである。
【図5C】データセットからの別の例示的な平均ラマンスペクトルのグラフである。
【図5D】病巣の様々な分類のための例示的なラマンスペクトルのグラフである。
【図6】予測されたおよび公知の病変の例示的な事後確率プロットのグラフである。
【図7】例示的なラマンスペクトルの例示的な受光器の動作特性のグラフである。
【図8】様々な基準材料の例示的なラマンスペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の追加的な態様および本発明の例示的な実施形態の特徴を、下記で説明するおよび/または添付の図面に示す。
添付の図面は、本発明の非限定的な実施形態を示す。
【0023】
以下の説明を通して、本発明のより完全な理解を促すために、具体的な詳細について説明する。しかしながら、本発明は、これらの詳細な事項を用いずに実施してもよい。他の例では、本発明を不必要に曖昧にしないために、周知の要素を詳細に示したり説明したりしない。従って、本明細書および図面は、限定ではなく、例示であるとみなされる。
【0024】
図1は、本発明の例示的な実施形態による装置20のブロック図である。装置20は、少量の組織Tのラマンスペクトル24を決定するように構成されたラマン分光計22を含む。組織Tは肺組織とし得る。
【0025】
肺組織の生体内ラマンスペクトルを得ることは、一般的に肺組織から分光計へ光を伝達するためには光ファイバまたは他の可撓性プローブを必要とするために、集光効率が低下し得るという問題が生じ、これによって、困難となることがある。別の問題は、肺は頻繁に制御されずに動くものであるため、組織の特定の領域に対して数秒の時間を超えて焦点を維持することが困難となることである。これらの問題点は、シム(Shim)MGら、「生体内での医用ラマン分光法のための光ファイバプローブの研究(Study of fiber optic probes for in vivo medical Raman spectroscopy)」、Applied Spectroscopy)」(非特許文献22)において説明されているように、ファイバ放射を低減させるための構成要素を使用することによって、およびファング(Huang)Zら「リアルタイム生体内皮膚測定のための迅速な近赤外ラマン分光システム(Rapid near−infrared Raman spectroscopy system for real−time in vivo skin measurements)」(非特許文献6)において説明されているように、高い信号対雑音比を促進するステップを取ることによって、対処できる。ショート(Short)MAら、「肺癌の生体内診断の可能性のための内視鏡検査ラマンプローブの開発および暫定的結果(Development and preliminary results of an endoscopy Raman probe for potential in−vivo diagnosis of lung cancers)」(非特許文献7)には、肺組織からラマンスペクトルを取得するのに好適なプロトタイプのラマン分光システムが説明されている。
【0026】
スペクトル分析構成要素26がラマンスペクトル24を受光してラマンスペクトルを処理し、ラマンスペクトル24が得られた組織の病変を表す尺度である基準値28を得る。基準値28はフィードバックデバイス29を制御する。フィードバックデバイス29は、例えば、ランプ、グラフ表示、音、ディスプレイまたは基準値28に応答して、人が認知できる信号を提供する他のデバイスを含み得る。
【0027】
基準値28は、少なくともある程度は、1500cm−1〜3400cm−1の波数範囲に見られるラマンスペクトルの特徴に基づいている。
図2は、本発明の別の例示的な実施形態による装置30のブロック図である。図2では、ラマン分光計22は、光源32を含むように示されている。光源32は単色光源であり、例えば、レーザを含んでもよい。光源32は、例えば、赤外レーザを含んでもよい。例示的な実施形態では、レーザは、785nmの波長の光を発生させる。
【0028】
組織に大量の放射線を照射しないことが望ましい。これは、光源32の適切な選択、光源の制御、および/または光源から下流において減衰させることによって達成し得る。
光源32からの光は、フィルタ34によってフィルタリングされて、光ファイバ36に結合される。光は、ビームスプリッタ38を通過してカテーテル40に至る。カテーテル40は、例えば、気管支鏡の器具のチャネルから下方に延在する。例示的な実施形態では、カテーテル40の直径は1.8mmであるため、気管支鏡の2.2mm直径の器具口径を通ることができる。カテーテル40の遠位端部から出射する光は、カテーテル40のその端部に隣接する組織を照明し、そこで、光の一部がラマン散乱される。ラマン散乱光はカテーテル40に入射し、ビームスプリッタ38およびフィルタ42によって分光写真器44まで伝達される。
【0029】
分光写真器44および検出器46が連携して、分光写真器44に入射する光のラマンスペクトルを生成する。ラマンスペクトルを特徴付ける情報が分析システム48に伝えられる。好ましくは、ラマンスペクトルは、短いデータ収集時間以内、例えば1秒以内に取得される。
【0030】
スペクトル分析システム48は、プログラムされたデータ処理装置、例えばパーソナルコンピュータ、組込型コンピュータ、マイクロプロセッサ、グラフフィック処理装置、デジタル信号処理装置などを含んで、ソフトウェア命令および/またはファームウェア命令を実行してもよく、これにより、処理装置は、ラマンスペクトルから特有のスペクトル特性を抽出する。代替的な実施形態では、スペクトル分析システム48は、電子回路、論理パイプライン(logic pipeline)、または特有のスペクトル特性を抽出するように構成された他のハードウェア、もしくはハードウェアと組み合わせた、特有のスペクトル特性の抽出において1つ以上のステップを実行する、プログラムされたデータ処理装置を含む。
【0031】
スペクトル分析システム48がリアルタイムでまたはほぼリアルタイムで動作して、ラマンスペクトルの取得と実質的に同時にまたは少なくとも数秒以内にラマンスペクトルの分析を完了するようにすることは、強制ではないが、好都合である。
【0032】
図2では、47は、分光計を校正するのに使用される50μmの直径のファイバを示す。
スペクトル分析システム48は表示装置49に接続され、表示装置49を、スペクトル分析システム48によりラマンスペクトルから抽出された特有のスペクトル特性から得られる基準値に従って制御するようにする。
【0033】
測定されたラマンスペクトルは、一般に蛍光バックグラウンドに重ね合わされていて、蛍光バックグラウンドは基準値毎に変動している。スペクトル分析システム48が、受光したラマンスペクトルを処理して蛍光バックグラウンドを除去し、かつまたスペクトルを正規化することが好都合である。蛍光バックグラウンドの除去は、例えばチャオ(Zhao)Jら、「生物医学用ラマン分光法のための自動蛍光バックグラウンド減算アルゴリズム(Automated Autofluorescence Background Subtraction Algorithm for Biomedical Raman Spectroscopy)」、Appl.Spectrosc.2007年;61:1225−1232(これにより、本願明細書に援用する)で説明されているように、バンクーバーラマンアルゴリズム(Vancouver Raman Algorithm)を使用して達成し得る。バンクーバーラマンアルゴリズムは、雑音を考慮した、反復(iterative)修正(modified)多項式曲線フィッティング蛍光除去方法である。図3A、図3Bおよび図3Cはそれぞれ、生のラマンスペクトル、蛍光バックグラウンドにフィットする多項式曲線を備える図3Aのラマンスペクトル、および多項式曲線によってモデル化された蛍光バックグラウンドが減算された図3Aのラマンスペクトルを示す。
【0034】
正規化は、例えば、各スペクトルの曲線下面積(AUC)に実行され得る。例えば、各スペクトルに、AUCを標準値と等しくするように選択された値を掛けてもよい。スペクトル表示の便宜のために、正規化された強度を、各スペクトルのデータ点数で割ってもよい。
【0035】
分光写真器44およびスペクトル分析システム48は、1500cm−1〜3400cm−1の範囲の少なくとも一部を含むラマンスペクトルを取得して分析するように構成されている。本発明者らは、この範囲は、0〜2000cm−1の範囲に見られる肺組織の非常に強い自己蛍光を回避し、かつ依然として組織の特徴付けに有用な重要な生体分子情報を含むので、好都合であると判断した。
【0036】
スペクトル分析システム48は、組織を、それらの1500cm−1〜3400cm−1の範囲のラマンスペクトルに従って分類するように、多変量データ分析を適用し得る。例えば、特定のスペクトルは、主成分分析(PCA:principle component analysis)を行うことによって分析してもよい。PCAは、取得したラマンスペクトルの範囲の一部または全てについて行ってもよい。
【0037】
PCAは、一組のトレーニングスペクトル内の分散の所定部分を表す一組の主成分を生成することを含む。例えば、各スペクトルは、一組のいくつかのPCA変数の線形結合として表してもよい。PCA変数は、これらが一組のトレーニングスペクトルの全分散の少なくとも閾値の量(例えば少なくとも70%)を占めるように、選択してもよい。
【0038】
主成分(PC:Principal component)は、PCを生成する標準化スペクトルデータ行列にPCAを行うことによって得てもよい。PCは、一般的に、元のスペクトルにおける全分散のほとんどを占める、直交変数の数の減少をもたらす。
【0039】
PCは、PCスコアと呼ばれる変数を計算することによって新しいラマンスペクトルを評価するために使用してもよい。PCスコアは、分析中のラマンスペクトルの特定の1つまたは複数のPCの重みを表す。
【0040】
次いで、線形判別分析(LDA)を使用して、組織が正常であるかどうかを示すPCスコアの関数(判別関数)を導き出すことができる。
その後、判別関数を適用して、未知の組織のラマンスペクトルに関するPCスコアに対応する点が判別関数のラインに対し、どこにあるかに基づいて、未知の組織を分類してもよい。
【0041】
スペクトル分析システム48は、1500cm−1〜3400cm−1の範囲のラマンスペクトルに線形判別分析および/または主成分分析を行って、健康な肺組織と健康でない肺組織とを区別するように構成されてもよい。この例を下記に提供する。
【0042】
図2Aは、プロトタイプの実施形態による装置を示す写真である。装置はカートに据え付けられているため、患者の近くまで持っていくことができる。
装置20または30の一適用例は、異なるモダリティ、例えば、WLBおよびAFBを使用して対象であると確認された病巣を特徴付けることである。対象病巣を確認するために使用されたのと同じ器具(例えば気管支鏡)によって、カテーテル40を導くことが好都合である。これにより、病巣を観察した直後に、病巣を特徴付けるためにラマン分光法を使用することを促す。医師は気管支鏡を使用して、1つ以上の適切な画像モード下で肺組織を見ることにより、対象病巣を確認できる。対象病巣の位置が決定されたら、医師は、気管支鏡を動かすことなく、対象病巣のラマンスペクトルの取得および分析をトリガする。これは、例えば、ボタンを押すことによって、またはラマンスペクトルを取得するように装置に命令を出す別のユーザインターフェースモダリティを使用することによって、行ってもよい。一部の実施形態では、医師は、ラマンスペクトルの自動分析の結果を直ぐに受け取る。自動分析の結果に基づいて、医師は、対象病巣の生検を行うかどうかなどのさらなる措置を決定できる。
【0043】
図4Aは、白色光の下で撮像された病巣を示す写真であり、および図4Bは、青色光励起蛍光画像として示された、図4Aに示すのと同じ位置の写真である。図4Bは、キシリックステクノロジー社(Vancouver、CanadaのXillix Technologies Corp.)からのOnco−LIFE(商標)蛍光内視鏡システムを使用して得られた写真である。図4Bでは、緑色が正常組織を表し、および濃い赤色(例えば領域60における)が、患部組織を表す。
【0044】
図4Cは、蛍光画像を生成する青色光と、ラマン分光計のカテーテル40からの785nmの光とで同時に励起されている、病巣が疑われる別の個所を示す写真であり、全体的に領域62で示される領域は赤色であり、残りの領域はおよび主に緑色である。
【0045】
本発明を、以下の具体的な実施例を参照してさらに説明する。実施例は、本発明を限定することを意味せず、本発明をさらに説明するものである。
【実施例1】
【0046】
図2に示すタイプの近赤外ラマン装置を使用して、肺組織におけるリアルタイムの生体内の肺病巣スペクトルを収集した。肺組織は、気管支鏡検査を受けた46名の群から選択した26名からのものであった。気管支鏡検査者が病巣を確認し、WLBとAFBとの組み合わせを使用して生検を行った。46名の参加者のうち、気管支鏡検査者が生検を行うと選択した26名に病巣が見られた。ラマンスペクトルは、これらの病巣から、本明細書で説明する装置を使用して得られた。129のラマンスペクトルを測定した。1秒の照射で、生体内ラマンスペクトルが明瞭に得られた。
【0047】
生検は同じ個所に行われ、病理学者によって分類された。世界保健機関の基準に従って、8つの分類が使用された(例えば、世界保健機関病理学パネル:世界保健機関インターナショナル 腫瘍の組織学分類(World Health Organization Pathology Panel:World Health Organization International Histological Classification of Tumors)、第3版、ベルリン(Berlin):シュプリンガー・フェアラーク(Springer Verlag);1999年、5頁における、トラビス(Travis)WDら、「肺および胸膜の腫瘍の組織学分類のための組織学的かつグラフィックなテキストスライド(Histologic and graphical text slides for the histological typing of lung and pleural tumors)」を参照)。これらの8分類は:正常上皮;過形成(杯細胞の過形成、および基底/予備細胞の過形成を含む);化生(未熟扁平上皮化生(immature squamous metaplasia)および扁平上皮化生を含む);軽度異形成;中等度異形成;高度異形成:CIS:および浸潤性の扁平上皮癌(IC)であった。炎症性変化の有無も記録した。以下の考察では、≧MODは、病変が中等度異形成またはそれよりも悪い病巣を意味し、≦MILDは、病変が軽度異形成またはそれよりも良い病巣を意味する。
【0048】
得られた129のラマンスペクトルのうち、51は、病変が≧MODの部位からのものであり、残りは、病変が軽度異形成またはそれよりも良い(≦MILD)部位からのもであった。
【0049】
波長に応じてシステムの感度を校正する前に、各スペクトルの生データから周囲のバックグラウンド信号が差し引かれた。前処理済スペクトルは、それぞれ、3つの異なる方法で処理された。
【0050】
各前処理済スペクトルで3点平滑化操作(smoothing operation)を行い、かつ、各曲線下領域を合計して、平滑化されたスペクトルにおける各変数をこの和で除することにより強度変化を正規化することによって、第1のデータセット(データセットA)が得られた。図5Aは、病変が≦MILD(曲線51A)および≧MOD(曲線51B)の部位からのデータセットAからのデータの平均スペクトルを示す。曲線51Aおよび51Bは、明確にするために、強度スケールがシフトされている。曲線51Cは、平均≧MODスペクトルから平均≦MILDスペクトルを減じた結果を示す(同じ強度スケールではない)。水平の点線は、ゼロ強度にある。
【0051】
図5Aの検査は、1600、2150、および2900cm−1辺りのラマンピークが比較的小さいデータセットAのスペクトルに自己蛍光が多大な貢献をしていることを示している。2150cm−1を中心とした低強度の幅広いピーク、および3100cm−1超に上昇する強い放出は、水分子振動によるものである。
【0052】
3点平滑化操作を行ってから、チャオ(Zhao)Jら、「生物医学用ラマン分光法のための自動蛍光バックグラウンド減算アルゴリズム(Automated autofluorescence background subtraction algorithm for biomedical Raman spectroscopy)」Applied Spectroscopy 2007年;61:1225−1232で説明されているように、修正多項式フィッティングルーチン(polynomial fitting routine)により自己蛍光を減じることによって、第2のデータセット(データセットB)が得られた。その結果得られたスペクトルに対して、第1のデータセットについて説明したように、正規化を行った。
【0053】
図5Bは、≦MILD病巣(曲線52A)および≧MOD病巣(曲線52B)のデータセットBからの平均ラマンスペクトルを示す。曲線52Cは、平均≧MODスペクトルから平均≦MILDスペクトルを減じた結果を示す(同じ強度スケールではない)。曲線52Aおよび52Bは、13の波数位置(図面に垂直の点線で示す)でのt検定統計(p.0.05)によって決定された有意差を示す。これらの波数位置は、スペクトルのピークまたは肩のいずれかに対応する。2つの範囲(AおよびB)は、これらの範囲外で明瞭なラマンピークが観察されなかったとして示す。各平均スペクトルに対する近似的なフィットは、測定された基準値全ての加重最小二乗和によって得られた。これらのフィットは黒い実線で示し、≧MOD病巣に対するDNA、ヘモグロビン、フェニルアラニン、およびトリオレインの相対的増加、および対応するコラーゲンの低下を示す。
【0054】
図5Dは、様々な分類の病巣に関してデータセットBとして処理された生体内ラマンスペクトルを示す。2つの波数範囲(AおよびB)を示してあり、これは、これらの範囲外で明瞭なラマンピークが観察されなかったからである。範囲Aのスペクトルは範囲Bのスペクトルよりも、平均で、強さが5分の1だった。
【0055】
1663cm−1付近の幅広いピークは、おそらく、ν(C=O)アミドIの振動とν2水分子のベンディング運動との組み合わせに対応する。約2900cm−1の幅広いピークは、脂質(C−H)のピーク(2833+2886cm−1)と2938cm−1での一般的な蛋白質の振動との組み合わせによるものとされる。
【0056】
図5Dでは、他の小さなピークまたは肩は:1589、1646、1698、1727、2720、2801、2863、2877および2921cm−1にあり、それらは、様々なアミノ酸、脂質、および蛋白質のピークに対応するようである。1750〜2700cm−1の間では(図5Dには示さない範囲)、2150cm−1での幅広い放出とは別に、非常に低強度のいくつもの狭いピークがあり、これらの狭いピークは、肺の異なる部位によって変化しているようには見えなかった。このスペクトル領域は、主に、観察された非常に低い強度ピークの一部とほぼ一致した炭素モードおよび窒素モードに依るいくらかの弱いラマン放出が報告されているが、有意義なラマンピークに関しては全く注目されていない。
【0057】
第3のデータセット(データセットC)は、平滑化した二次微分スペクトルを計算するために、各前処理済スペクトルにサヴィツキイ−ゴーレイの6点二次多項式を適用することによって準備した。この技術は、例えば、サヴィツキイ(Savitzky)Aら、「簡易化された最小二乗法によるデータの平滑化および差別化(Smoothing and differentiation of data by simplified least squares procedure)」、Analytical Chemistry 1964年;36:627−1639に説明されている。スペクトルの微分値の二乗(squared derivative value)を加算してから、各変数をこの和によって除することが、正規化に使用された。
【0058】
異なる病変群間の有意差(p.0.05)が明白である範囲にわたるデータセットCの二次微分スペクトルを図5Cに示す。曲線53Aは、病変≦MILDの部位からの平均処理データである。曲線53Bは、病変≧MODの部位からの平均処理データである。曲線53Aおよび53Bは、明確にするために、強度スケールでシフトさせた。曲線53Cは、平均≧MODスペクトルから平均≦MILDスペクトルを減じた結果を示す(同じ強度スケールではない)。水平の点線は、ゼロ強度にある。2つの波数範囲((a)1550〜1800cm−1および(b)2700〜3100cm−1)を示す。これらの範囲にのみラマンピークが明白に観察された。
【0059】
データセットA、B、およびCは、統計ソフトウェア(Tulsa、OK USAのスタットソフト社(StatSoft Inc.)からのスタティスティカ(Statistica)(商標)6.0)を使用して、別々に分析された。各データセットにおける全てのスペクトルに対して主成分(PC)が計算され、変数の数を削減した。分散の0.1%以上を考慮するスチューデントt検定をPCに使用して、2つの病変群:≧MODおよび≦MILDにスペクトルを分類する最重要のPCを決定した。LOOCV(leave−one−out cross validation)による線形判別分析(LDA)を最重要PCに使用した。データのオーバーフィッティング(over fitting)を回避するために、LDAで使用されたPC数は、最小の部分群、すなわち51の≧MODスペクトルの場合、総数の3分の1(17)に限定された。
【0060】
LOOCV手順を使用して、過剰トレーニングを回避し得る。LOOCVは、データセットから1つのスペクトルを除外し、およびスペクトルの残りのセットを使用して、PCAおよびLDAを含むアルゴリズム全体を繰り返すことを含む。次いで、得られる最適化アルゴリズムを使用して、除外されたスペクトルを分類する。この処理を、各スペクトルが個別に分類されるまで、繰り返してもよい。
【0061】
データセットA、BおよびCからのスペクトルの全分析は、IC病変(24)の全スペクトルが各データセットから外されたことを除いて、上述のように2回目も行われた。各データセットの27のスペクトルが、≧MOD病変分類のままで残ったので、LDA交差検定モデルにおいて9個のPCのみを使用した。
【0062】
データセットA、BおよびCからのスペクトルでの統計分析は、表Iから分かるように、かなり異なる結果をもたらす。データセットAからのスペクトルは、最も悪く、感度80%および特異性72%で病変≧MODを予測した。分析からICスペクトルを除外することによって、特異性は若干増加したものの、実質的に感度は悪くなった。スペクトルが、事後確率が≧0.7または≦0.3であったときにのみ分類された場合、129のスペクトルのうち分類できるのは99のみであるという代償を払って(77%)、感度80%および特異性77%が得られた。
【0063】
【表1】

データセットBのスペクトル分析は、データセットAのスペクトルと比較して、感度80%および特異性79%と、病変の予測が改善されたことを示した。分析からのICスペクトルの除去は、感度を変えずに、実質的に特異性(89%)を改善した。0.7および0.3でのカットオフラインを使用すると、感度および特異性はそれぞれ83および84%であり、かつ129のスペクトルのうち80%が分類された。
【0064】
最良の結果は、二次微分(データセットC)で処理したスペクトル分析によって得られた。図6は、公知の病変と比較した予測病変の事後確率プロットである。データセットCの統計分析は、LOOCVを使用して行われた。17のPCA成分をLDAモデルに使用した。全てのスペクトルを使用して、感度90%および特異性91%が得られた。この場合、3つのICスペクトル51のみが誤って分類された(図6参照)。分析から全てのICスペクトルを除外することによって、特異性は91%で変わらないままで感度が96%まで高まり、および0.7および0.3のカットオフラインを使用する場合には、スペクトルの88%が分類されて、感度および特異性の双方とも高まった。
【0065】
3つのデータセット全てに対する受光器の動作特性(ROC:receiver operator characteristics)を図7に示す。図7は、LDA事後確率プロットにおいてカットオフラインを0から100%へ動かしたときに、感度および特異性がどのように変化するかを示す。データセットAは曲線55Aに対応する。データセットBは曲線55Bに対応する。データセットCは曲線55Cに対応する。二次微分で処理されたスペクトル(データセットC)の優位性がはっきりと分かる。各ROC曲線下の部分面積(fractional area)は、それぞれ、データセットA、BおよびCで分析されたスペクトルに関して、0.78、0.85および0.92であった。
【0066】
ヒトの上皮および結合組織からの放出の主な要因である基準材料のラマンスペクトルは、比較のために得られた。これらは:ヒト胎盤から精製されたDNA、パン酵母からのRNA、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、トリオレイン(気管支粘液に豊富に存在する脂質)、ヒト肺からのコラーゲン、およびヒトヘモグロビンであった。ほとんどの標準試料は、シグマアルドリッチカナダ社(Sigma−Aldrich Canada Ltd)から、参照番号DNA(D4642)、RNA(R6750)、フェニルアラニン(P2126)、チロシン(T3754)、トリプトファン(T0254)、トリオレイン(T7140)、およびヒト肺コラーゲン(CH783)で得られた。ヘモグロビンは、ボランティアの血液試料からのものであった。標準試料を、それらが供給された状態で、さらなる処理をせずにそのまま使用した。スペクトルは、ラマンカテーテルを各試料の数ミリメートル上に支持することによって、生体内での測定と同じ機器を使用して得られた。データは、生体内でのデータと同じ方法で前処理してから、データセットBのスペクトルに関してはさらに処理した。図8は、基準材料のラマンスペクトルを示す。スペクトルは、明確にするために、強度の軸に沿ってシフトした。スペクトルの特徴は、文献で報告されているものと一致する。
【0067】
1500cm−1〜3400cm−1の相対的な波数範囲では自己蛍光があるが、0〜2000cm−1の通常の範囲にわたって見られるものよりも1桁小さい自己蛍光であることが分かった。さらに、測定範囲でのラマンピークが少数であるにもかかわらず、および組織の病変が正常からICまで様々な変化を経るときに、ピークの変化に全く一貫した傾向がみられないが(例えば図5D参照)、異なる病変の部位のスペクトルには統計的に有意差があった。
【0068】
データセットAのスペクトルの統計分析を、部位選択処理が、AFBによる画像化によって確認された部位のみを選択するように偏っているということによって、説明し得る。しかしながら、これによって、最適な特異性にならなくなることが分かっている。一般的に、WLBとAFBとの組み合わせを使用してICを確認することは困難ではないため、データ分析からICスペクトルを除外することは、早期疾患の発見を促進し得る。データセットAのスペクトルの場合、この理論は、≧MOD部位からのスペクトルの確認は55%のみであり、誤りであったと証明された。これに対する明快な説明は、自己蛍光がスペクトルを支配し、この自己蛍光が、IC部位を除いて、測定された全ての部位で同様であるということである。
【0069】
分析にカットオフラインを使用することは、良質のスペクトルを一貫して得ることが不可能であるときに、有益となり得る。患者の無意識の運動は、この問題の1つの原因とし得る。組織表面に粘液または水分がかなりあることも原因1つとなり得る。
【0070】
一部の実施形態では、分析システム48は、得られたスペクトルが≧MODまたは≦MILDの統計基準を満たすかどうかを決定し、かつこの統計基準が満たされない場合に使用者に信号を送るように構成される。装置は、臨床の場で使用され、かつ実質的にリアルタイムで結果をもたらすためのものであるため、そのような実施形態は、先のスペクトルが統計基準を満たさない場合(例えばカットオフを通過する)、気管支鏡検査者が別のスペクトルをすぐに取れることができるようにする。何度か試みても不合格のいずれの部位にも生検が行われた。カットオフラインは厳くしすぎるべきではない。なぜなら厳しくしすぎると、偽陽性数を減らすという目的を無にしてしまうためである。この作業が基礎をおいている研究では、0.7および0.3の事後確率カットオフが選択された。
【0071】
データセットBのスペクトル分析は、データセットAよりも良好な結果を生んだが、IC部位からのスペクトルがいくつか誤って分類された。これは、IC病巣が組織学的に悪性上皮(すなわち癒着性間質)以外の領域を含み得るため、サンプリング誤差による可能性が高い。隣接する反応または炎症性非新生物組織のサンプリングも、試料を誤って分類する可能性の一つである。分析からICスペクトルを除外することは、感度を変えずに、特異性を9%高めた(表I参照)。事後確率のカットオフラインは、感度および特異性をわずかに改善した。
【0072】
二次微分スペクトル(データセットC)は、≧MODおよび≦MILD組織の区別で、感度90%および特異性91%と最良であった。ICスペクトルの除外によって、特異性の低下なく、感度が6%上昇した。ICスペクトルとは別に、他の誤って分類された部位は、中等度異形成、軽度異形成、化生、および過形成の病変の部位であった。サンプリング誤差はまた、これらの誤った分類を説明し得る。誤分類となった別の説明は、ラマンスペクトルが、病巣が後期疾患に至るかどうかの明白な組織学上の指標(counterpart)がない、生体分子情報を含むということにある。
【0073】
生成されたデータセットCが感度値および特異性値を高めた理由は十分に分かっていない。本発明人らは、いずれかの理論にもとらわれたくはないが、実質的な自己蛍光の多項式フィッティングの不正確さによって、相関関係のない分散がデータセットBに取り込まれたことが原因の1つであり得る。
【0074】
上述の方法は、様々な方法で変更され得る。例えばバックグラウンド蛍光を除去する他の技術を適用してもよい。マギー(Magee)NDら、「ラマン小型プローブを使用する肺癌の生体外診断(Ex Vivo diagnosis of lung cancer using a Raman miniprobe)」(非特許文献20)で説明されている、シフテッド・サブストラクテッド・ラマン分光法を適用してもよい。バックグラウンド蛍光を除去する公知の技術は全て、チャオ(Zhao)ら、「生物医学用ラマン分光法のための自動蛍光バックグラウンド減算アルゴリズム(Automated autofluorescence background subtraction algorithm for biomedical Raman spectroscopy)」、Applied Spectroscopy 2007年;61:1225−1232によって説明されているような利点および欠点を有する。チャオ(Zhao)らが説明する方法は、複雑でないバックグラウンド蛍光では上手く機能する傾向があり、リアルタイムの臨床応用に手間のかからない方法である。微分スペクトルを生成することもまた、診療所でリアルタイムで実施できる手間のかからない処理であり、この組み合わせは、強い蛍光を発する組織では最適な選択とし得る。
【0075】
要するに、本明細書で説明したポイントラマン分光法を適用すると、偽陽性生検数を著しく低減できる一方、肺の新生物発生前病巣の検出に対するWLBおよびAFBの感度の低下はわずかにすぎないと思われる。検出感度になんらかの損失を発生させるよりも、40%の偽陽性率を有する方がよいとみなし得るが、ラマン分光法の補助的使用に伴うわずかな損失の発生は、実際には起こらないと考えてもよい。第1に、気管支鏡検査者は、現在のところ、WLB+AFBを使用する際に、どの病巣に生検を行うかについてある程度は主観的判断を行う必要がある。本明細書で説明したようなラマン分光法の補助的使用は、決定過程をより客観的にし、そのことにより生検の候補として初めは拒否された部位での追加的な新生物発生前病巣の確認をなし得る。第2に、上述の通り、ラマン分光法は、後期疾患になるマーカである、組織学的に新生物発生前および非新生物発生前の病巣の双方における生体分子の変化を確認し得る。
【0076】
本明細書で説明した技術の適用は、非侵襲的な診断に限定されない。一部の実施形態では、外科手術中に、本明細書で説明したような装置を使用して、外科手術中にアクセスできる病巣組織を分類してもよい。
【0077】
実例応用
気管支鏡検査者は、患者に気管支鏡検査を行い、さらなる検査に値する、一連の画像診断法(例えばAFB+WLB)を使用して病巣を確認する。気管支鏡検査者は、本明細書で説明したようなラマン分光法装置を備えた気管支鏡を使用する。気管支鏡検査者は、ラマンカテーテルの端部が対象病巣に隣接するように気管支鏡を配置し、かつ、病巣組織の1つ以上のラマンスペクトルを取得するようにラマン分光法装置を操作する。装置は、ラマンスペクトルをリアルタイムで分析し、スペクトルに基づいて組織を分類しようと試みる。装置は、分析結果に基づいて気管支鏡検査者に信号を生成する。単純な例として、装置は、分析が≦MILDの分類を示す場合には緑色の光を、および分析が≧MODの分類を示す場合には赤色の光を表示するようにしてもよい。一部の実施形態では、装置は、分類を明白に規定できない場合には黄色の光を表示するようにしてもよい(例えば、適切に選択されたカットオフ閾値によって決定された範囲に入らない事後確率によって規定されるように)。
【0078】
気管支鏡検査者は、装置が≧MODの分類を示す場合に、または装置が2回以上試みても明白な分類を行えない場合に、生検を行うことを選択してもよい。装置が≦MILDの分類を行う場合、気管支鏡検査者がその部位からの生検が妥当であることを提示する他の何らかの要因に気付かない限りは、気管支鏡検査者は生検を行わないことを選択してもよい。
【0079】
本発明のいくつかの実装例は、プロセッサに本発明の方法を実行させるソフトウェア命令を実行するコンピュータプロセッサを含む。例えば、医用ラマン分光計システムにおける1つ以上のプロセッサは、プロセッサにアクセスできるプログラムメモリにおいてソフトウェア命令を実行することによって、本明細書で説明したような方法を実行してもよい。本発明はまた、プログラム製品の形態で提供されてもよい。プログラム製品は、命令を含む一連のコンピュータ可読信号を有する任意の持続性媒体を含んでもよく、それらの命令は、データ処理装置によって実行されると、データ処理装置に本発明の方法を実行させるようにする。本発明によるプログラム製品は、多種多様の形態のいずれとしてもよい。プログラム製品は、例えば、フロッピー(登録商標)ディスケット、ハードディスクドライブを含む磁気データ記憶媒体、CD ROM、DVDを含む光データ記憶媒体、ROM、フラッシュRAMを含む電子データ記憶媒体などの物理媒体を含む。プログラム製品のコンピュータ可読信号は、任意に圧縮されてもまたは暗号化されてもよい。
【0080】
上記で構成要素(例えばソフトウェアモジュール、プロセッサ、アセンブリ、デバイス、回路など)に言及する場合、他に指定のない限り、その構成要素への言及(「手段」への言及を含む)は、その構成要素の均等物、開示される構造と構造的には均等ではないが、説明される本発明の例示的な実施形態の機能を実行する構成要素を含め、説明される構成要素の機能を実行する(すなわち、機能的に均等の)任意の構成要素を含むと解釈される。
【0081】
上述の開示を踏まえると当業者には明白なように、本発明の趣旨または範囲から逸脱せずに、本発明の実施には多くの代替形態および修正形態が可能である。従って、本発明の範囲は、以下の特許請求の範囲によって定義される内容に従って構成される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
肺組織を特徴付けるための装置であって、
1500cm−1〜3400cm−1の相対的な波数範囲のラマンスペクトルを生成するように構成されたラマン分光計;
前記ラマンスペクトルの1500cm−1〜3400cm−1の相対的な波数範囲の特徴に基づいて組織を特徴付けるように構成されたラマンスペクトル分析装置;および
前記ラマンスペクトル分析装置の出力に応答して駆動されて、前記ラマンスペクトル分析装置によって前記組織の特徴付けを表示する、人が認知できる信号を生成できるフィードバックデバイス
を含む装置。
【請求項2】
前記ラマンスペクトル分析装置が、前記ラマンスペクトルを処理して平滑化された二次微分スペクトルをもたらし、かつ前記平滑化された二次微分スペクトルの特性に基づいて組織を特徴付けるように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記ラマンスペクトル分析装置が、サヴィツキイ−ゴーレイの6点二次多項式を各スペクトルに適用することによって、前記平滑化された二次微分スペクトルを生成するように構成されている、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記ラマンスペクトル分析装置が、3点平滑化操作を実施することによって前記ラマンスペクトルを処理し、および前記3点平滑化されたスペクトルの特徴に基づいて組織を特徴付けるように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記ラマンスペクトル分析装置が、前記特徴付けを、第1の相対的な波数範囲1550cm−1〜1800cm−1の第1の特徴、および第2の相対的な波数範囲2700cm−1〜3100cm−1の第2の特徴に準拠するように構成されている、請求項1〜4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記ラマンスペクトル分析装置が、相対的な波数範囲1500cm−1〜3400cm−1の成分を含むラマンスペクトルのトレーニングセットから導出された主成分に関する前記スペクトルの主成分スコアを計算することによって前記ラマンスペクトルを分析し、かつ前記主成分スコアに基づいた判別関数に従って判別分析を行うように構成されている、請求項1〜5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記判別分析が線形判別分析を含む、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記ラマンスペクトル分析装置がデータストアを含み、かつ前記主成分を特徴付ける情報が、前記データストアに記憶されている、請求項6または7に記載の装置。
【請求項9】
前記判別関数が前記データストアに記憶されている、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記ラマンスペクトル分析装置が、前記ラマンスペクトルから蛍光バックグラウンドを減じるように構成された蛍光バックグラウンド減算段階を含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の装置。
【請求項11】
前記蛍光バックグラウンド減算段階が、多項式フィッティングルーチンを実行して蛍光バックグラウンドを推定するように構成されている、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記ラマンスペクトル分析装置が、前記蛍光バックグラウンド減算段階に続いて正規化段階を含み、前記正規化段階が、前記ラマンスペクトルを正規化するように構成されている、請求項10または11に記載の装置。
【請求項13】
前記ラマンスペクトル分析装置が、前記ラマンスペクトルから周囲のバックグラウンド信号を減ずるように構成されている、請求項1〜12のいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
気管支鏡を含む請求項1〜13のいずれか一項に記載の装置であって、前記ラマン分光計が、前記気管支鏡の器具のチャネルに挿入可能な光導波路を含み、前記ラマンスペクトルを含む光を受光する、装置。
【請求項15】
前記ラマン分光計の分析装置が、各スペクトルの微分値の二乗を加算してから、各変数をこの和で除することによって、前記ラマンスペクトルを正規化するように構成された正規化段階を含む、請求項3に記載の装置。
【請求項16】
前記ラマン分光計の分析装置が、
前記組織の特性の事後確率が第1の閾値を下回る場合、前記組織を第1の分類に特徴付けること;
前記組織の特性の事後確率が第2の閾値を上回る場合、前記組織を第2の分類に特徴付けること;および
前記組織の特性の事後確率が前記第1の閾値と第2の閾値との間である場合、前記組織を第3の分類に特徴付けること
によって前記組織を特徴付けるように構成されている、請求項6に記載の装置。
【請求項17】
前記第1の閾値が0.3±10%のカットオフを表し、前記第2の閾値が0.7±10%のカットオフを表す、請求項16に記載の装置。
【請求項18】
前記フィードバックデバイスが、人が認知できる信号を生成し、前記信号が:
前記組織が前記第1の分類にある場合には、第1の信号であり;
前記組織が前記第2の分類にある場合には、第2の信号であり;および
前記組織が前記第3の分類にある場合には、第3の信号である、請求項16または17に記載の装置。
【請求項19】
組織の特徴付け方法であって:
組織の少なくとも1つのラマンスペクトルを得ることであって、前記ラマンスペクトルが、相対的な波数範囲1500cm−1〜3400cm−1の特徴を含むこと;
ソフトウェア命令を実行するデータ処理装置を含む、プログラムされたスペクトル分析装置において、少なくともある程度は1500cm−1〜3400cm−1の相対的な波数範囲にある前記ラマンスペクトルの特徴に基づいて、組織を自動的に特徴付けること;および
フィードバックデバイスを制御して、前記組織の特徴付けを表す、人が認知できる信号を生成すること
を含む方法。
【請求項20】
前記組織の特徴付けの前に、前記ラマンスペクトルから蛍光バックグラウンドを除去するために、蛍光バックグラウンド減算ステップを実施することを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記蛍光バックグラウンド減算ステップに続いて、前記ラマンスペクトルを正規化することを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記ラマンスペクトルが、前記組織の特徴付けの前に、平滑化された二次微分スペクトルを生成するように処理され、および前記組織の特徴付けが、前記平滑化された二次微分スペクトルの特徴に基づく、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記平滑化された二次微分スペクトルが、サヴィツキイ−ゴーレイの6点二次多項式を前記ラマンスペクトルに適用することによってもたらされる、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記ラマンスペクトルが、前記組織の特徴付けの前に、前記ラマンスペクトルに3点平滑化操作を実施することによって処理され、および前記組織の特徴付けが、前記3点平滑化されたスペクトルの特徴に基づく、請求項19に記載の方法。
【請求項25】
前記組織の特徴付けが、第1の相対的な波数範囲1550cm−1〜1800cm−1にある第1の特徴、および第2の相対的な波数範囲2700cm−1〜3100cm−1にある第2の特徴に基づく、請求項19に記載の方法。
【請求項26】
前記ラマンスペクトルが、相対的な波数範囲1500cm−1〜3400cm−1にある成分を含むラマンスペクトルのトレーニングセットから導出された主成分に関する前記スペクトルの主成分スコアを計算し、かつ前記主成分スコアに基づいた判別関数に従って判別分析を実施することによって処理される、請求項19に記載の方法。
【請求項27】
前記判別分析が線形判別分析を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記プログラムされたラマンスペクトル分析装置がデータストアを含み、および前記主成分を特徴付ける情報が、前記データストアに記憶されている、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記判別関数が前記データストアに記憶されている、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
蛍光バックグラウンド減算ステップを実施するステップが、多項式フィッティングルーチンを実行して蛍光バックグラウンドを推定することを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項31】
前記ラマンスペクトルから周囲のバックグラウンド信号を減ずるステップを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項32】
各スペクトルの微分値の二乗を加算してから、各変数をこの和で除することによって、前記ラマンスペクトルを正規化するステップを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項33】
前記組織の特徴付けが確率閾値を使用することを含む、請求項26に記載の方法。
【請求項34】
前記組織の特徴付けが、
前記組織の特性の事後確率が第1の閾値を下回る場合、前記組織を第1の分類に特徴付けること;
前記組織の特性の事後確率が第2の閾値を上回る場合、前記組織を第2の分類に特徴付けること;および
前記組織の特性の事後確率が前記第1の閾値と第2の閾値との間にある場合、前記組織を第3の分類に特徴付けること
を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項35】
前記第1の閾値が0.3±10%のカットオフを表し、および前記第2の閾値が0.7±10%のカットオフを表す、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記フィードバックデバイスの制御が:
前記組織が前記第1の分類にある場合に、第1の信号を生成すること;
前記組織が前記第2の分類にある場合に、第2の信号を生成すること;および
前記組織が前記第3の分類にある場合に、第3の信号を生成すること
を含む、請求項34または35に記載の方法。
【請求項37】
少なくとも1つのデータ処理装置によって実行される命令を記憶する持続性の有形のコンピュータ可読媒体であって、それらの命令は、前記データ処理装置によって実行されると、前記データ処理装置に:
組織の少なくとも1つのラマンスペクトルを受光するステップであって、前記ラマンスペクトルが、相対的な波数範囲1500cm−1〜3400cm−1の特徴を含むステップ;
少なくともある程度は、前記ラマンスペクトルの1500cm−1〜3400cm−1の相対的な波数範囲の特徴に基づいて、組織を特徴付けるステップ;および
前記組織の特徴付けの表示を生成するステップ
を含む、組織を特徴付ける方法を実行させる、持続性の有形のコンピュータ可読媒体。
【請求項38】
前記少なくとも1つのラマンスペクトルをさらに記憶する、請求項37に記載の持続性の有形のコンピュータ可読媒体。

【図2A】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2013−517485(P2013−517485A)
【公表日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−549220(P2012−549220)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【国際出願番号】PCT/CA2011/050040
【国際公開番号】WO2011/088580
【国際公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(511002951)
【Fターム(参考)】