説明

ラマン散乱光の測定方法及び測定装置

【課題】入射光発生装置を大型化することなくラマン散乱光強度を大きくすることができ、また、被測定物の表面だけでなく内部をも評価することができるラマン散乱光の測定方法及び測定装置を提供する。
【解決手段】ラマン散乱光6の測定方法において、被測定物1の後方に、入射光2の光軸と直交する反射部材3を設け、反射部材3の表面で入射光2が入射光2の光軸方向に反射されて反射光4となり、入射光2と反射光4が重なり合うことにより定在波5を発生させ、被測定物1の測定対象部位に定在波5の極大部が位置するようになした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、ラマン散乱光の測定方法及び測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
薄膜は膜厚が薄く、下記式に示すように、ラマン散乱光強度が小さく、ラマン散乱光の測定が困難であった。
ラマン散乱光強度∝I・d・A
[Iは散乱断面積、dは薄膜の膜厚、Aは電界強度]
ここで、散乱断面積Iは材料固有の値であり、膜厚dは薄膜の厚みであり、電界強度Aはレーザーの出力に依存する値である。そのため、薄膜測定時には膜厚dの値は小さくなるので、ラマン散乱光強度も小さくなってしまう。
【0003】
一方、特開2004−103108号公報に示されるように、表面の薄膜上にラマン光増強基体を配置して、表面増強ラマンスペクトルを評価する方法が知られている。この薄膜評価方法は、表面のカーボン保護膜上に、厚さ4nmのラマン光増強基体を付着させた透明金属を、カーボン保護膜側にラマン光増強基体が接するように配置して、表面増強ラマンスペクトルを用いて評価するものである。
【特許文献1】特開2004−103108号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来例の前者においては、上記問題を解決するために、入射光の電界強度を大きくして、ラマン散乱光強度を大きくしていた。しかしながら、入射光の電界強度を大きくするためには入射光発生装置を大型化する必要があり、レーザーを用いる場合には、装置の大型化がコストの増大を招いていた。また、入射光の電界強度を大きくし過ぎると、被測定物に損傷を与えることになるので、電界強度を大きくすることに限界があった。
【0005】
上記従来例の後者においては、表面の薄膜を評価するものであり、薄膜が積層された薄膜多層体の内部を構成する薄膜を評価することができないものであった。
【0006】
本願発明は、上記背景技術に鑑みてなしたものであり、その目的は、入射光発生装置を大型化することなくラマン散乱光強度を大きくすることができ、また、被測定物の表面だけでなく内部をも評価することができるラマン散乱光の測定方法及び測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本願請求項1記載の発明は、ラマン散乱光の測定方法において、被測定物の後方に、入射光の光軸と直交する反射部材を設け、反射部材の表面で入射光が入射光の光軸方向に反射されて反射光となり、入射光と反射光が重なり合うことにより定在波を発生させ、被測定物の測定対象部位に定在波の極大部が位置するようにしている。
【0008】
本願請求項2記載の発明は、上記請求項1記載のラマン散乱光の測定方法において、入射光の波長を変えることにより、被測定物の測定対象部位に定在波の極大部が位置するようになしたことを特徴としている。
【0009】
本願請求項3記載の発明は、上記請求項2記載のラマン散乱光の測定方法において、被測定物と反射部材が一体化されていることを特徴としている。
【0010】
本願請求項4記載の発明は、上記請求項1又は2記載のラマン散乱光の測定方法において、被測定物と反射部材との距離を変えることにより、被測定物の測定対象部位に定在波の極大部が位置するようになしたことを特徴としている。
【0011】
本願請求項5記載の発明は、上記請求項4記載のラマン散乱光の測定方法において、被測定物を固定し、反射部材を可動させることにより、被測定物と反射部材との距離を変えることを特徴としている。
【0012】
本願請求項6記載の発明は、上記請求項4記載のラマン散乱光の測定方法において、反射部材を固定し、被測定物を可動させることにより、被測定物と反射部材との距離を変えることを特徴としている。
【0013】
本願請求項7記載の発明は、上記請求項4記載のラマン散乱光の測定方法において、被測定物と反射部材の間に、入射光と反射光が透過する透明部材を挟み、透明部材の厚みを変えることにより、被測定物と反射部材との距離を変えることを特徴としている。
【0014】
本願請求項8記載の発明は、ラマン散乱光の測定装置において、被測定物の後方に、入射光の光軸と直交する反射部材を設け、反射部材の表面で入射光が入射光の光軸方向に反射されて反射光となり、入射光と反射光が重なり合うことにより定在波を発生させ、入射光の波長を変えることにより、被測定物の測定対象部位に定在波の極大部が位置するようになしている。
【0015】
本願請求項9記載の発明は、ラマン散乱光の測定装置において、被測定物の後方に、入射光の光軸と直交する反射部材を設け、反射部材の表面で入射光が入射光の光軸方向に反射されて反射光となり、入射光と反射光が重なり合うことにより定在波を発生させ、被測定物と反射部材との距離を変えることにより、被測定物の測定対象部位に定在波の極大部が位置するようになしている。
【発明の効果】
【0016】
本願請求項1記載の発明のラマン散乱光の測定方法においては、被測定物の後方に、入射光の光軸と直交する反射部材を設け、反射部材の表面で入射光が入射光の光軸方向に反射されて反射光となり、入射光と反射光が重なり合うことにより定在波を発生させ、被測定物の測定対象部位に定在波の極大部が位置するものであるから、入射光発生装置を大型化することなく被測定物の測定対象部位の電界強度を大きくして、ラマン散乱光強度を大きくすることができる。また、入射光と反射光が重なり合うことにより発生する定在波は、入射光の光軸方向の特定部位に安定して存在するものであるから、被測定物の測定対象部位に選択的に定在波の極大部を発生させることができ、安定したラマン散乱光を測定することができる。
【0017】
本願請求項2記載の発明のラマン散乱光の測定方法においては、特に、入射光の波長を変えることにより、被測定物の測定対象部位に定在波の極大部が位置するようにできるため、被測定物と反射部材との距離を変える必要がないので、装置構成を簡易なものにすることができる。
【0018】
本願請求項3記載の発明のラマン散乱光の測定方法においては、特に、被測定物と反射部材を一体化することにより、反射部材を別途設ける必要がないので、既存の装置に対応することができる。
【0019】
本願請求項4記載の発明のラマン散乱光の測定方法においては、特に、被測定物と反射部材との距離を変えることにより、被測定物の測定対象部位に定在波の極大部が位置するようにできるため、例えば、入射光発生装置にて発生するレーザーの波長が限られている場合にも対応することができる。
【0020】
本願請求項5記載の発明のラマン散乱光の測定方法においては、特に、被測定物を固定し、反射部材を可動させることにより、被測定物と反射部材との距離を変えるものであるから、試料台に被測定物を固定し、別途、可動式の反射部材を設けることで、既存装置の改良が容易にできる。
【0021】
本願請求項6記載の発明のラマン散乱光の測定方法においては、特に、反射部材を固定し、被測定物を可動させることにより、被測定物と反射部材との距離を変えるものであるから、入射光の光軸方向の特定部位に安定して存在する定在波の極大部に被測定物の測定対象部位を選択的に合わせることができる。
【0022】
本願請求項7記載の発明のラマン散乱光の測定方法においては、特に、被測定物と反射部材の間に、入射光と反射光が透過する透明部材を挟み、透明部材の厚みを変えることにより、被測定物と反射部材との距離を変えるものであり、簡便な方法で被測定物の測定対象部位に定在波の極大部が位置するようにできる。
【0023】
本願請求8記載の発明のラマン散乱光の測定装置においては、被測定物の後方に、入射光の光軸と直交する反射部材を設け、反射部材の表面で入射光が入射光の光軸方向に反射されて反射光となり、入射光と反射光が重なり合うことにより定在波を発生させ、入射光の波長を変えることにより、被測定物の測定対象部位に定在波の極大部が位置するものであるから、入射光発生装置を大型化することなく被測定物の測定対象部位の電界強度を大きくして、ラマン散乱光強度を大きくすることができる。また、入射光と反射光が重なり合うことにより発生する定在波は、入射光の光軸方向の特定部位に安定して存在するものであるから、被測定物の測定対象部位に選択的に定在波の極大部を発生させることができ、安定したラマン散乱光を測定することができる。さらに、入射光の波長を変えることにより、被測定物の測定対象部位に定在波の極大部が位置するようにできるため、被測定物と反射部材との距離を変える必要がないので、装置構成を簡易なものにすることができる。
【0024】
本願請求項9記載の発明のラマン散乱光の測定装置においては、被測定物の後方に、入射光の光軸と直交する反射部材を設け、反射部材の表面で入射光が入射光の光軸方向に反射されて反射光となり、入射光と反射光が重なり合うことにより定在波を発生させ、被測定物と反射部材との距離を変えることにより、被測定物の測定対象部位に定在波の極大部が位置するものであるから、入射光発生装置を大型化することなく被測定物の測定対象部位の電界強度を大きくして、ラマン散乱光強度を大きくすることができる。また、入射光と反射光が重なり合うことにより発生する定在波は、入射光の光軸方向の特定部位に安定して存在するものであるから、被測定物の測定対象部位に選択的に定在波の極大部を発生させることができ、安定したラマン散乱光を測定することができる。さらに、被測定物と反射部材との距離を変えることにより、被測定物の測定対象部位に定在波の極大部が位置するようにできるため、例えば、入射光発生装置にて発生するレーザーの波長が限られている場合にも対応することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図1及び図2は、本願発明の第1の実施形態であるラマン散乱光の測定方法及び測定装置を示している。このラマン散乱光の測定方法は、図1(a)、(b)に示すように、被測定物1の後方に、入射光2の光軸と直交する反射部材3を設け、反射部材3の表面で入射光2が入射光2の光軸方向に反射されて反射光4となり、入射光2と反射光4が重なり合うことにより定在波5を発生させ、被測定物1の測定対象部位に定在波5の極大部が位置するようになしている。また、被測定物1と反射部材3との距離を変えることにより、被測定物1の測定対象部位に定在波5の極大部が位置するようになしている。ここで、被測定物1は薄膜多層体8であり、薄膜多層体8は入射光2の光軸と直交するように薄膜が積層されている。
【0026】
そして、このラマン散乱光の測定装置は、被測定物1の後方に、入射光2の光軸と直交する反射部材3を設け、反射部材3の表面で入射光2が入射光2の光軸方向に反射されて反射光4となり、入射光2と反射光4が重なり合うことにより定在波5を発生させ、被測定物1と反射部材3との距離を変えることにより、被測定物1の測定対象部位に定在波5の極大部が位置するようになしている。
【0027】
以下、この実施形態のラマン散乱光の測定方法及び測定装置を、より具体的詳細に説明する。本願発明で用いられる測定装置は図2に示すように、励起光源10と、光学フィルター11と、ミラー12と、ハーフミラー13と、ノッチフィルター14と、分光器15と、光検出器16とを備えている。
【0028】
励起光源10はラマン散乱を誘起する励起光を発生させるものであり、例えば、レーザー発信器等が用いられる。光学フィルター11は励起光源10から発せられた励起光の不要な輝線等を取り除いて入射光2とするものであり、励起光源10とミラー12の間に設けられる。
【0029】
ミラー12は入射光2の光軸を変えて被測定物1へ入射光2を導くものであり、被測定物1は入射光2の光軸と直交するように置かれている。そして、被測定物1の後方には、入射光2の光軸と直交するように反射部材3が設けられている。反射部材3は例えば、白色の樹脂板、白色塗装した金属板、アルミナ等のセラミック板、アルミ反射板、金成膜反射板、銀成膜反射板等がよい。
【0030】
被測定物1と反射部材3はともに入射光2の光軸と直交し、一定の距離をおいて平行に配置されている。この場合、反射部材3の表面で入射光2が入射光2の光軸方向に反射されて反射光4となり、入射光2と反射光4が重なり合うことにより定在波5が発生する。ここで、被測定物1の測定対象部位に定在波5の極大部が位置するように反射部材3の位置を調整しているので、被測定物1の測定対象部位で発生するラマン散乱光6の強度を大きくすることができる。
【0031】
ハーフミラー13は入射光2を透過させ、ラマン散乱光6や反射光4やレイリー散乱光等を反射させることにより、入射光2の光軸とラマン散乱光6等の光軸を変えるものである。ノッチフィルター14は、ハーフミラー13で反射された反射光4やレイリー散乱光等を取り除き、分光器15にラマン散乱光6を導くものである。分光器15はラマン散乱光6を分光して特定の波長領域のラマン散乱光6を光検出器16で検出できるようにするものである。
【0032】
上記はラマン散乱光の測定装置の一例であって、従来のラマン散乱分光分析を行う光学配置であれば、どのようなものでも用いることができる。例えば、光学フィルター11は、励起光源10からの不要な光を取り除き、観測すべきラマン散乱光6にこの励起光源10からの不要な光や、この不要な光によるラマン散乱光6が光検出器16に入らないようにすることが主な目的であることから、使用する励起光源10、及び観測するラマン散乱光6によっては、光学フィルター11は不要となるものである。また、光軸を合わせるためにミラー12を使用しているが、これはもちろん、励起光源10の配置によって、不要になる場合もあれば、複数必要になる場合もある。
【0033】
さらに、図2では、ラマン散乱光6は後方散乱(入射光2が入射される側へのラマン散乱)を観測しているが、ラマン散乱はあらゆる方向に発するため、必ずしも後方である必要はなく、任意の方向で観測できる。図2は、後方散乱による観測の例を示しており、そのため、入射光2の光軸とラマン散乱光6の光軸が重なってしまうため、ハーフミラー13を用いて、ラマン散乱光6を光検出器16の方向に導いている。ここで、ハーフミラー13を用いる理由は、もしこのミラーが全反射ミラーであった場合、入射光2も全反射されてしまうため、入射光2を被測定物1に導けないからである。よって、ラマン散乱光6を取り込む方向が異なれば、ハーフミラー13はミラーに置き換えることも可能であり、また、光検出器16の配置によっては、ミラーも不要となるものである。
【0034】
ノッチフィルター14は、上述のように、反射光4やレイリー散乱光等を取り除くために使用するが、これも、観測したいラマン散乱光6が、反射光4やレイリー散乱光等とエネルギー的に離れた位置に観測される場合は不要である。また、ラマン散乱光6の検出に分光器15を用いているが、観測すべきラマン散乱光6の波長帯域が固定されている場合には、分光器15の代わりに光学フィルターを用いることもできる。光検出器16としては、CCD、光電子倍増管、フォトダイオードなど、従来用いられているあらゆる光検出器を用いることができる。
【0035】
つまり、上述のように、本願発明では、従来のラマン分光分析を行う光学配置であれば、どのようなものでも用いることができるので、本願発明における測定装置自身の具体的構成は特に限定しない。
【0036】
次に、被測定物1の測定対象部位に定在波5の極大部が位置するようにする方法を説明する。ここで、被測定物1は薄膜多層体8であり、図1(a)に示すように、薄膜多層体8は入射光2の光軸と直交するように第1の薄膜8a、第2の薄膜8b、第3の薄膜8c、第4の薄膜8dが積層されている。例えば、入射光発生装置にて発生するレーザーの波長が限られ、入射光2の波長が固定されている場合、薄膜多層体8と反射部材3との距離を変えることにより、薄膜多層体8の測定対象部位である特定の層の薄膜に定在波5の極大部が位置するようにする。図1(a)に示すように、第2の薄膜8bに定在波5の極大部が位置するようにするには、薄膜多層体8と反射部材3を接するように設ける必要がある。この場合、第4の薄膜8dにも定在波5の極大部が位置するようになっているが、分光器15にて、第2の薄膜8bで発生するラマン散乱光6を選択的に分光して、光検出器16で検出することができる。また、図1(b)に示すように、第3の薄膜8cに定在波5の極大部が位置するようにするには、薄膜多層体8と反射部材3を所定の距離離して設ける必要がある。この場合、第1の薄膜8aにも定在波5の極大部が位置するようになっているが、分光器15にて、第3の薄膜8cで発生するラマン散乱光6を選択的に分光して、光検出器16で検出することができる。
【0037】
ここでは、被測定物1として薄膜多層体8を用いて説明しているが、被測定物1と反射部材3との距離を変えることにより、測定対象部位に定在波5の極大部が位置するようにすれば、被測定物1の表面だけでなく、内部も測定可能となる。
【0038】
したがって、被測定物1の後方に、入射光2の光軸と直交する反射部材3を設け、反射部材3の表面で入射光2が入射光2の光軸方向に反射されて反射光4となり、入射光2と反射光4が重なり合うことにより定在波5を発生させ、被測定物1の測定対象部位に定在波5の極大部が位置するものであるから、入射光発生装置を大型化することなく被測定物1の測定対象部位の電界強度を大きくして、ラマン散乱光強度を大きくすることができる。また、入射光2と反射光4が重なり合うことにより発生する定在波5は、入射光2の光軸方向の特定部位に安定して存在するものであるから、被測定物1の測定対象部位に選択的に定在波5の極大部を発生させることができ、安定したラマン散乱光6を測定することができる。さらに、被測定物1と反射部材3との距離を変えることにより、被測定物1の測定対象部位に定在波5の極大部が位置するようにできるため、例えば、入射光発生装置にて発生するレーザーの波長が限られている場合にも対応することができる。
【0039】
図3は、本願発明の第2の実施形態であるラマン散乱光の測定方法及び測定装置を示している。ここでは、上記第1の実施形態と相違する事項についてのみ説明し、その他の事項(構成、作用効果等)については、上記第1の実施形態と同様であるのでその説明を省略する。このラマン散乱光の測定方法は、入射光2の波長を変えることにより、被測定物1の測定対象部位に定在波5の極大部が位置するようになしている。また、被測定物1と反射部材3が一体化されている。
【0040】
そして、このラマン散乱光の測定装置は、被測定物1の後方に、入射光2の光軸と直交する反射部材3を設け、反射部材3の表面で入射光2が入射光2の光軸方向に反射されて反射光4となり、入射光2と反射光4が重なり合うことにより定在波5を発生させ、入射光2の波長を変えることにより、被測定物1の測定対象部位に定在波5の極大部が位置するようになしている。
【0041】
次に、被測定物1の測定対象部位に定在波5の極大部が位置するようにする方法を説明する。ここで、被測定物1は薄膜多層体8であり、図3(a)に示すように、薄膜多層体8は入射光2の光軸と直交するように第1の薄膜8a、第2の薄膜8b、第3の薄膜8c、第4の薄膜8dが積層されている。また、反射部材3として、例えばアルミ薄膜を用い、第4の薄膜8dと接合して、薄膜多層体8と反射部材3を一体化している。このように薄膜多層体8と反射部材3との距離が固定されている場合、入射光2の波長を変えることにより、薄膜多層体8の測定対象部位である特定の層の薄膜に定在波5の極大部が位置するようにする。図3に示すように、第3の薄膜8cに定在波5の極大部が位置するようにするには、図3(a)に示す波長の長い入射光2では対応できず、図3(b)に示す波長の短い入射光2で対応することができる。この場合、第1の薄膜8a、第4の薄膜8dにも定在波5の極大部が位置するようになっているが、分光器15にて、第3の薄膜8cで発生するラマン散乱光6を選択的に分光して、光検出器16で検出することができる。
【0042】
したがって、入射光2の波長を変えることにより、被測定物1の測定対象部位に定在波5の極大部が位置するようにできるため、被測定物1と反射部材3との距離を変える必要がないので、装置構成を簡易なものにすることができる。また、被測定物1と反射部材3を一体化することにより、反射部材3を別途設ける必要がないので、既存の装置に対応することができる。
【0043】
図4は、本願発明の第3の実施形態であるラマン散乱光の測定方法を示している。ここでは、上記第1の実施形態と相違する事項についてのみ説明し、その他の事項(構成、作用効果等)については、上記第1の実施形態と同様であるのでその説明を省略する。このラマン散乱光の測定方法は、被測定物1を固定し、反射部材3を可動させることにより、被測定物1と反射部材3との距離を変えるようにしている。
【0044】
具体的に説明すると、被測定物1は測定装置の基体17に固定され、反射部材3は駆動手段18を介して測定装置の基体17に固定される。被測定物1は、例えば測定装置の試料台(図示せず)に置かれ、基体17に固定される。また、駆動手段18は例えば機械駆動や電動駆動等であり、反射部材3を入射光2の光軸方向に移動させることができるものである。ここで、試料台は被測定物1に入射する入射光2が透過して、反射部材3に入射できるよう、開口部が設けられている。
【0045】
したがって、被測定物1を固定し、反射部材3を可動させることにより、被測定物1と反射部材3との距離を変えるものであるから、試料台に被測定物1を固定し、別途、可動式の反射部材3を設けることで、既存装置の改良が容易にできる。
【0046】
図5は、本願発明の第4の実施形態であるラマン散乱光の測定方法を示している。ここでは、上記第1の実施形態と相違する事項についてのみ説明し、その他の事項(構成、作用効果等)については、上記第1の実施形態と同様であるのでその説明を省略する。このラマン散乱光の測定方法は、反射部材を固定し、被測定物を可動させることにより、被測定物1と反射部材3との距離を変えるようにしている。
【0047】
具体的に説明すると、被測定物1は駆動手段18を介して測定装置の基体17に固定され、反射部材3は測定装置の基体17に固定される。被測定物1は、例えば測定装置の試料台(図示せず)に置かれ、基体17に固定される。また、駆動手段18は例えば機械駆動や電動駆動等であり、試料台に置かれた被測定物1を入射光2の光軸方向に移動させることができるものである。ここで、試料台は被測定物1に入射する入射光2が透過して、反射部材3に入射できるよう、開口部が設けられている。
【0048】
したがって、反射部材3を固定し、被測定物1を可動させることにより、被測定物1と反射部材3との距離を変えるものであるから、入射光2の光軸方向の特定部位に安定して存在する定在波5の極大部に被測定物1の測定対象部位を選択的に合わせることができる。
【0049】
図6は、本願発明の第5の実施形態であるラマン散乱光の測定方法を示している。ここでは、上記第1の実施形態と相違する事項についてのみ説明し、その他の事項(構成、作用効果等)については、上記第1の実施形態と同様であるのでその説明を省略する。このラマン散乱光の測定方法は、被測定物1と反射部材3の間に、入射光2と反射光4が透過する透明部材7を挟み、透明部材7の厚みを変えることにより、被測定物1と反射部材3との距離を変えるようにしている。
【0050】
透明部材7は入射光2と反射光4が透過するものであり、例えば、透明なプラスチック板、透明なガラス板、透明なプラスチックシートなどがよい。被測定物1と反射部材3の間に透明部材7を挟む場合は、厚みの異なる透明部材7を必要に応じて使い分けてもよいし、一定の厚みの透明部材7を複数、重ねてもよい。
【0051】
具体的に説明すると、例えば測定装置の試料台(図示せず)に、まず反射部材3を置き、その上に透明部材7を重ね、被測定物1を透明部材7に積み重ねて、基体17に固定する。もしくは、試料台に予め透明部材7を挟み込んだ被測定物1と反射部材3を置いて固定してもよい。
【0052】
したがって、被測定物1と反射部材3の間に、入射光2と反射光4が透過する透明部材7を挟み、透明部材7の厚みを変えることにより、被測定物1と反射部材3との距離を変えるものであり、簡便な方法で被測定物1の測定対象部位に定在波5の極大部が位置するようにできる。また、測定装置に可動設備を別途設ける必要がないので、既存の装置に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本願発明の第1の実施形態であるラマン散乱光の測定方法を示し、(a)は被測定物が反射部材と接している場合、(b)は被測定物が反射部材と離れている場合をそれぞれ示す概念図である。
【図2】同ラマン散乱光の測定方法で用いられる測定装置を示す概念図である。
【図3】本願発明の第2の実施形態であるラマン散乱光の測定方法を示し、(a)は入射光の波長が長い場合、(b)は入射光の波長が短い場合をそれぞれ示す概念図である。
【図4】本願発明の第3の実施形態であるラマン散乱光の測定方法を示す概念図である。
【図5】本願発明の第4の実施形態であるラマン散乱光の測定方法を示す概念図である。
【図6】本願発明の第5の実施形態であるラマン散乱光の測定方法を示す概念図である。
【符号の説明】
【0054】
1 被測定物
2 入射光
3 反射部材
4 反射光
5 定在波
6 ラマン散乱光
7 透明部材
8 薄膜多層体
8a 第1の薄膜
8b 第2の薄膜
8c 第3の薄膜
8d 第4の薄膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラマン散乱光の測定方法において、被測定物の後方に、入射光の光軸と直交する反射部材を設け、反射部材の表面で入射光が入射光の光軸方向に反射されて反射光となり、入射光と反射光が重なり合うことにより定在波を発生させ、被測定物の測定対象部位に定在波の極大部が位置するようになしたことを特徴とするラマン散乱光の測定方法。
【請求項2】
入射光の波長を変えることにより、被測定物の測定対象部位に定在波の極大部が位置するようになしたことを特徴とする請求項1記載のラマン散乱光の測定方法。
【請求項3】
被測定物と反射部材が一体化されていることを特徴とする請求項2記載のラマン散乱光の測定方法。
【請求項4】
被測定物と反射部材との距離を変えることにより、被測定物の測定対象部位に定在波の極大部が位置するようになしたことを特徴とする請求項1又は2記載のラマン散乱光の測定方法。
【請求項5】
被測定物を固定し、反射部材を可動させることにより、被測定物と反射部材との距離を変えることを特徴とする請求項4記載のラマン散乱光の測定方法。
【請求項6】
反射部材を固定し、被測定物を可動させることにより、被測定物と反射部材との距離を変えることを特徴とする請求項4記載のラマン散乱光の測定方法。
【請求項7】
被測定物と反射部材の間に、入射光と反射光が透過する透明部材を挟み、透明部材の厚みを変えることにより、被測定物と反射部材との距離を変えることを特徴とする請求項4記載のラマン散乱光の測定方法。
【請求項8】
被測定物が薄膜多層体であり、薄膜多層体は薄膜が入射光の光軸と直交するように積層され、被測定物の測定対象部位は、薄膜多層体中の特定の層の薄膜であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項記載のラマン散乱光の測定方法。
【請求項9】
ラマン散乱光の測定装置において、被測定物の後方に、入射光の光軸と直交する反射部材を設け、反射部材の表面で入射光が入射光の光軸方向に反射されて反射光となり、入射光と反射光が重なり合うことにより定在波を発生させ、入射光の波長を変えることにより、被測定物の測定対象部位に定在波の極大部が位置するようになしたことを特徴とするラマン散乱光の測定装置。
【請求項10】
ラマン散乱光の測定装置において、被測定物の後方に、入射光の光軸と直交する反射部材を設け、反射部材の表面で入射光が入射光の光軸方向に反射されて反射光となり、入射光と反射光が重なり合うことにより定在波を発生させ、被測定物と反射部材との距離を変えることにより、被測定物の測定対象部位に定在波の極大部が位置するようになしたことを特徴とするラマン散乱光の測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−78404(P2010−78404A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−245667(P2008−245667)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】