説明

ラミネートアルミ屑材又はラミネートアルミ缶からのラミネート樹脂除去方法、及びラミネートアルミ屑材又はラミネートアルミ缶のリサイクル方法

【課題】 表面がラミネート樹脂によってラミネートされたアルミ屑又はアルミ缶から、ラミネート樹脂を効果的に加熱除去する方法を提供する。
【解決手段】 アルミ屑材又はアルミ缶のプレス品を、前処理として開裁することにより見掛けの嵩密度を0.3 g/cm3以下に制御した後、アルミの融点以下の酸素雰囲気下で、かつ、ラミネート樹脂の分解温度以上で処理する。本発明のラミネート樹脂除去方法においては、30分間以下の処理時間で、アルミ表面を酸化・熔解させることなく、ラミネート樹脂を70%以上除去することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に樹脂フィルムがラミネートされた使用済みのアルミ缶等から、ラミネート樹脂を加熱・除去することにより、アルミのリサイクルを効率化させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、アルミ缶の塗装工程における有機溶剤による環境汚染対策として、アルミ基材にポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエステルフィルムをラミネートすることにより、有機溶媒を使用しないドライ成形が行われるようになってきた。特に、ラミネートアルミ缶用樹脂としてのPETフィルムは、アルミ基材表面との密着性、耐食性、環境汚染防止等の観点から、優れた材料である。
【0003】
しかし、アルミ缶の製造工程で排出されるラミネートアルミ屑材や、使用済みのラミネートアルミ缶からアルミをリサイクルする場合、PET等のラミネート樹脂は、リサイクルにとって障害となる。具体的には、ラミネートアルミ屑材等をプレス処理工程後に熔解炉に投入すると、ラミネート樹脂が燃焼してアルミ表面を酸化させるためにアルミのリサイクル率が低下したり、熔解炉の温度が急上昇して温度制御が困難になる、さらには、ラミネート樹脂の燃焼により黒煙が発生する等である。
【0004】
ここで、ラミネートアルミ屑材や、使用済みのラミネートアルミ缶からのラミネート樹脂の除去方法としては、(1) 機械的にアルミ表面から樹脂フィルムのみをブラスト処理して機械的に除去する方法、(2) 有機溶剤を含む剥離液に浸漬して樹脂フィルムを溶解させて除去する方法、(3) バーナーで樹脂フィルムを燃焼させる燃焼処理方法が試みられてきた。
【0005】
しかし、(1) の機械的除去方法では、プレス加工品等の複雑な形状の場合、外側表面の樹脂フィルムは除去できても、内側表面の樹脂フィルムを除去することができない。(2) の有機溶剤方法であっても、プレス加工品の密度が高い場合には、内部まで溶剤が浸透せず、除去率が低い。また、樹脂フィルムを溶解させた有機溶剤の処理設備等、周辺設備の投資コストも高くなる。さらに、(3) の燃焼処理方法では、樹脂フィルムと同時にアルミも燃焼させてしまうため、リサイクル率が低下する。このように、実用化レベルにおけるアルミ屑材等からのラミネート樹脂の除去方法は、未だ完成されていない。
【0006】
一方、使用済みの回収スチール缶を、0.5 g/cc以上の高密度球状化製品とする工程、スチール缶の表面塗装及び内面コート処理剤を好気的条件下で酸化燃焼させる工程、及び熱処理により酸化生成された酸化膜を剥離する工程を含む、スチール缶のリサイクルに関する技術が、特許文献1に開示されている。
【0007】
また、使用済みスチール缶又はアルミ缶から効率よく高品位のスチール材料とアルミ材料を回収すると共に、塗料又はコーティング材料をも分離回収する技術が、特許文献2に開示されている。特許文献2の技術では、使用済みのスチール缶又はアルミ缶を非酸化性雰囲気下で加熱することにより、缶の胴部表面及び内面を被覆する塗料やコーティング材を気化又は分解する。
【特許文献1】特開2001−29918号公報
【特許文献2】特開2002−1292号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に開示されている技術は、スチール缶から鉄を回収するための技術であり、スチール缶の一部を形成するアルミニウムを、製鋼過程における還元材及び脱酸精錬材として有効活用するものである。従って、この技術をラミネートアルミ缶にそのまま応用しても、アルミのリサイクル効率を高めることはできない。
【0009】
また、特許文献2に開示されている技術は、スチール缶又はアルミ缶を非酸化性雰囲気下で加熱することにより、コーティング材を気化又は分解して回収する技術であり、コーティング材が施されたスチール缶やアルミ缶から、どの程度コーティング樹脂を除去できるかについては、具体的記載がないため不明である。また、非酸化性雰囲気で加熱するため、加熱温度を高くせざるを得ず、アルミが熔解する可能性がある。
【0010】
さらに、アルミの融点に近い高温で加熱すると、空気中の酸素と反応してアルミ缶表面に酸化被膜が形成されるおそれもある。特に、アルミ缶としてリサイクルする場合には、リサイクル品として高純度のアルミが要求されるが、酸化被膜が形成されると、その除去が困難であることから、アルミ缶としてリサイクルすることができなくなる。その結果、熔解炉においてアルミを回収する際に、アルミの回収率が低下するという問題が発生する。その上、高温での加熱に伴う運転コストの増加、非酸化性ガス(例えば、窒素ガス)を通気するためのコスト増加も問題となる。
【0011】
本発明は、ラミネートアルミ屑材や使用済みのラミネートアルミ缶から、ラミネート樹脂を効率よく除去する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、前記課題を解決すべく、鋭意検討した結果、アルミ屑材破砕品の輸送コストを低減するためにプレス処理により形成された従来のプレス品においては、アルミ屑材同士が重なり合った密度の高い部分が多く存在し、この部分が従来の除去方法において、ラミネート樹脂の除去率を低下させる原因となっていることを明らかにした。そこで、プレス品を前処理として開裁することにより見掛けの嵩密度を小さくし、その後、アルミの融点以下の酸素雰囲気下で、かつ、ラミネート樹脂が分解除去される際に、アルミ表面の酸化が進まない最適な条件を検討し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
具体的に、本発明は、表面に樹脂フィルムがラミネートされたラミネートアルミ屑材又はラミネートアルミ缶からラミネート樹脂を除去する方法であって、前記ラミネートアルミ屑材又はラミネートアルミ缶をプレス加工して形成したプレス品を、見掛けの嵩密度が0.3 g/cm以下となるように開裁する工程(A)と、前記工程(A)で開裁したプレス品を、酸素雰囲気下、樹脂フィルムの分解温度以上アルミの融点以下の温度で加熱処理する工程(B)とを含むことを特徴とするラミネート樹脂除去方法に関する(請求項1)。プレス品を開裁し、見掛けの嵩密度を低くした状態で酸素雰囲気下、加熱処理することにより、複雑な形状であるプレス品内部のラミネート樹脂をも加熱分解することが可能となる。
【0014】
アルミをラミネートしている樹脂がPET又はその変性体(例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、又はPETとPBTの共重合体)である場合、前記工程(B)の温度は、350℃以上660℃以下であることが好ましい(請求項2)。350℃未満ではPET又はその変性体の分解に時間がかかり、一方、660℃を超えるとアルミが熔解するからである。
【0015】
なお、前記工程(B)の温度は、450℃以上550℃以下であることがより好ましい。450℃以上とすることにより、複雑な形状をしているプレス品内部のラミネート樹脂でも、短時間で分解することができる。また、550℃以下とすることにより、アルミ表面の酸化被膜形成を防止することができ、アルミ回収率を向上させることができる。
【0016】
前記工程(B)は、ロータリー加熱炉内で加熱空気を供給して行うことが好ましい(請求項3)。ロータリー加熱炉は、炉内に投入された、開裁されたプレス品を撹拌しながら加熱処理することができるため、プレス品を均一に加熱処理することができるからである。また、加熱方法として、加熱空気を供給する方法を採用すれば、炉内温度を変化させることなく供給酸素量を制御でき、かつ、炉内を常に酸素雰囲気に維持することができるからである。
【0017】
前記加熱空気の1分間当たりの体積供給量は、ロータリー加熱炉内容積の4倍以上24倍以下であることが好ましい(請求項4)。4倍未満であればラミネート樹脂の分解が不十分になる恐れがあり、24倍を超えてもラミネート樹脂の分解が増加しにくいために、加熱空気供給ファンや空気加熱装置のエネルギーが無駄になるからである。
【0018】
また、本発明は、上記(請求項1乃至4のいずれか1項に記載の)ラミネート樹脂除去方法を用いて、前記プレス品のラミネート樹脂を除去する工程(C)と、前記工程(C)においてラミネート樹脂を除去されたプレス品を熔解炉に投入し、低酸素雰囲気下、700℃以上900℃以下の温度で加熱することにより前記プレス品を熔解する工程(D)とを含むことを特徴とするアルミ屑材又はアルミ缶のリサイクル方法に関する(請求項5)。
【発明の効果】
【0019】
本発明のラミネート樹脂除去方法は、従来技術の問題点を解消し、ラミネートアルミ屑材又はラミネートアルミ缶のプレス品から、短時間で効果的にラミネート樹脂を分解除去することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、本発明の実施の形態について、適宜図面を参照しながら説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0021】
図1は、本発明の一実施例たるラミネート樹脂除去方法を実行するために用いる装置Aの概略構成図である。図1を参照しつつ、本発明のラミネート樹脂除去方法の概念を説明する。
【0022】
装置Aは、開裁機2と加熱装置6と加熱炉4とを備える。開裁機2はプレス品を開裁するためのものである。加熱装置6は空気7を加熱するためのものである。加熱炉は、開裁されたプレス品を加熱空気で加熱処理するためのものである。この装置Aによって、表面に樹脂フィルムがラミネートされたラミネートアルミ屑材又はラミネートアルミ缶からラミネート樹脂が除去される。ラミネート樹脂除去の工程は、具体的には、次のようなものである。
【0023】
まず、ラミネートアルミ屑材又はラミネートアルミ缶は、プレス加工機によってプレス加工され、運搬しやすいように圧縮されたプレス品1となる。
【0024】
次に、プレス品1は、加熱処理する前に、開裁機2により開裁される。このとき、見掛けの嵩密度を0.3 g/cm以下に制御する。
【0025】
次に、開裁されたプレス品3は、加熱炉4に投入される。加熱炉4には、加熱装置6によってラミネート樹脂の分解温度以上アルミの融点以下の温度加熱された加熱空気5が導入される。
【0026】
なお、加熱炉4に開裁機2の機能を持たせ、プレス品1の開裁工程を、プレス品1を加熱炉4に投入した後、加熱炉4内で行ってもよい。すなわち、プレス品1の開裁工程と加熱処理工程を、同じ装置において行ってもよい。
【0027】
加熱炉4内部の開裁されたプレス品3は、酸素雰囲気下で加熱され、アルミ表面のラミネート樹脂が加熱分解される。所定時間加熱された後、アルミ屑材8は、加熱炉4から排出される。なお、加熱炉4としては連続式又は回分式のいずれも利用可能であるが、連続して大量に処理できる点から、連続式であることが好ましい。
【0028】
ここで、開裁機2としては、破砕機、解砕機等の公知の装置を使用することができる。
【0029】
以上、図1を参照しつつ、本発明のラミネート樹脂除去方法の概念を説明した。
【0030】
図2は、ロータリー加熱炉10の外観図である。図1の加熱炉4として、図2のロータリー加熱炉10を採用することができる。なお図2では、炉内の構成を理解しやすくするため、炉壁の一部を破断している。
【0031】
ロータリー加熱炉10は、円筒状の炉本体16、処理物入口11、熱風入口12、排気出口13、給気管14及び処理物出口17を備え、さらに、炉本体16の内部には複数のリボン翼18を備えている。給気管14は、炉本体16と同心上に配されている。給気管14には、複数のノズル15が存在する。処理物入口11、排気出口13及び処理物出口17は、炉本体16の内部空間と連通している。熱風入口12は、給気管14を介してノズル15と連通している。炉本体16は、ローラ19を介してモータにより回転駆動される。このロータリー加熱炉10の内容積は250Lである。
【0032】
このロータリー加熱炉10によって実行される加熱処理工程は、具体的には次のようなものである。
【0033】
まず、破砕処理後のプレス品約3〜5 kgを、処理物入口11から投入する。この処理量は、ロータリー加熱炉10の内容積の約10〜20%に相当する。そして、加熱装置により550℃に加熱した加熱空気を、熱風入口12から炉内に通気する。
【0034】
加熱空気は、炉内にある給気管14を経て複数のノズル15の先端へと導かれ、破砕処理後のプレス品(破砕処理プレス品20)を加熱する。また、炉本体16を回転させることと相俟って、破砕処理後のプレス品を均一に加熱することが可能である。
【0035】
炉本体16は、ローラ19をモータで駆動することによって、給気管12を回転中心として回転する。炉本体16が回転することにより、炉内の破砕処理プレス品20が処理物入口11側から処理物出口17側へと送られ、回転による掻き上げ、撹拌機能により、プレス品20が炉内でも開裁され、ラミネート樹脂の分解が促進される。
【0036】
各ノズル15から放出された加熱空気は、その後、排気出口13を経てロータリー加熱炉10から排気される。
【0037】
加熱炉10内に投入された破砕処理プレス品20は、上述したように炉内を移動する間に、ラミネート樹脂が分解除去され、ラミネート樹脂が分解除去された破砕処理プレス品20は、アルミ屑材として処理物出口17から取り出される。
【0038】
このロータリー加熱炉10では、加熱空気によって炉内の処理物(破砕処理プレス品20)を加熱処理するため、熱風入口12から通気される流量を調整することが容易である。また、流量を調整しても、炉内の温度が変動しないという特徴を有する。このため、炉内の温度を下げることなく、充分な通気量を確保し、炉内を酸素雰囲気に維持することができる。
【0039】
以上、ロータリー加熱炉10によって実行される加熱処理工程を説明した。
【実施例】
【0040】
以下、本実施の形態の具体例を実施例として示し、その効果を、比較例を挙げて説明する。各実施例および各比較例の実行のために、図1、図2に示されるような装置を用いた。
【0041】
[実施例1]
実施例1として、以下の操作を行った。PET樹脂がラミネートされたラミネートアルミ屑材のプレス品(一辺約300 mmの略立方体)を、2軸破砕装置((株)サンケンエンジニアリング製、SET-072型)を用いて一辺約50 mmの略立方体に破砕処理(開裁)し、見掛けの嵩密度を0.10 g/cmに調整した。破砕処理後のプレス品を、ロータリー加熱炉に投入し、550℃で10分間加熱処理した。なお、加熱空気の流量は、毎分、ロータリー加熱炉10の内容積の24倍である。
【0042】
[実施例2]
実施例2として、プレス品の見掛けの嵩密度を0.25 g/cmに調整したこと以外、実施例1と同じ処理を行った。
【0043】
[実施例3]
実施例3として、450℃で30分間加熱処理したこと以外、実施例1と同じ処理を行った。
【0044】
[実施例4]
実施例4として、プレス品の見掛けの嵩密度を0.25 g/cmに調整し、350℃で60分間加熱処理したこと以外、実施例1と同じ処理を行った。
【0045】
[実施例5]
実施例5として、加熱空気の1分間当たりの体積供給量を、ロータリー加熱炉10の内容積の8倍としたこと以外、実施例1と同じ処理を行った。
【0046】
[実施例6]
実施例6として、加熱空気の1分間当たりの体積供給量を、ロータリー加熱炉10の内容積の4倍としたこと以外、実施例1と同じ処理を行った。
【0047】
[実施例7]
実施例7として、プレス品の見掛けの嵩密度を0.3 g/cmに調整したこと以外、実施例1と同じ処理を行った。
【0048】
[比較例1]
比較例1として、プレス品の見掛けの嵩密度を1.0 g/cmに調整したこと以外、実施例1と同じ処理を行った。
【0049】
[比較例2]
比較例2として、プレス品の見掛けの嵩密度を0.5 g/cmに調整したこと以外、実施例1と同じ処理を行った。
【0050】
[比較例3]
比較例3として、300℃で30分間加熱処理したこと以外、実施例1と同じ処理を行った。
【0051】
[比較例4]
比較例4として、290℃で60分間加熱処理したこと以外、実施例1と同じ処理を行った。
【0052】
[比較例5]
比較例5として、加熱空気の1分間当たりの体積供給量を、ロータリー加熱炉10の内容積の2倍としたこと以外、実施例1と同じ処理を行った。
【0053】
[比較例6]
比較例6として、750℃で10分間加熱処理したこと以外、実施例1と同じ処理を行った。
【0054】
(ラミネート樹脂含有量の測定)
加熱処理対象である各プレス品に含まれるラミネート樹脂の含有量は、以下の方法で測定した。すなわち、各プレス品をプレス処理する前のラミネートアルミ屑材の重量aを測定し、次に、m-クレゾール及びテトラクロロエチレンの混合溶剤(容積比1:1)に室温で1時間浸漬し、アルミをラミネートしているPET樹脂を完全に溶解させた。同じ混合溶剤を用いて表面を洗浄した後、溶剤を乾燥除去し、アルミ屑材の重量bを測定した。溶解処理前後の重量の差(a−b)を、処理前のアルミ屑材の重量aで除し、アルミ屑材単位重量当たりのラミネート樹脂含有量(a−b)/aを算出した。
【0055】
(ラミネート樹脂除去率の計算)
次に、加熱処理前のプレス品の重量xを測定し、加熱処理後であって室温まで冷却した後、加熱処理後のプレス品の重量yを測定した。加熱前後の重量差(x−y)を、処理前の重量xで除し、プレス品単位重量当たりのラミネート樹脂除去量(x−y)/xを算出した。そして、{(x−y)/x}÷{(a−b)/a}×100を、加熱処理によるラミネート樹脂除去率(%)として定義した。
【0056】
各実施例及び各比較例の処理温度、処理時間、見掛けの嵩密度、加熱空気流量及びラミネート樹脂除去率を、表1及び表2にそれぞれ示した。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
実施例1〜3及び7の結果から、処理温度を酸素雰囲気下におけるPET樹脂の分解開始温度と考えられる300℃を超える450℃又は550℃、見掛けの嵩密度を0.3 g/cm以下、加熱空気流量を、毎分、加熱炉内容積の24倍という条件にすれば、30分間の加熱処理によりプレス品からラミネート樹脂を、ほぼ完全に除去することができる(除去率90%以上)ことが確認された。特に、処理温度が550℃とした実施例1及び2においては、わずか10分間の加熱処理によりラミネート樹脂除去率が100%となった。
【0060】
また、実施例4の結果から、処理温度を350℃、プレス品の見掛けの嵩密度を0.25 g/cmとしても、処理時間を60分間とすれば、70%という高いラミネート樹脂除去率となることが確認された。
【0061】
また、実施例5及び6の結果から、処理温度550℃、プレス品の見掛けの嵩密度を0.10 g/cmとすれば、加熱空気流量を、毎分、加熱炉内容積の4倍まで減少させても、わずか10分間の処理時間で90%以上の高いラミネート樹脂除去率となり、ほぼ完全にプレス品のラミネート樹脂を分解することができることが確認された。
【0062】
一方、比較例1及び2の結果から、処理温度を550℃、加熱空気流量を、毎分、加熱炉内容積の24倍としても、プレス品の見掛けの嵩密度が0.25 g/cmを超えれば、処理時間10分間におけるラミネート樹脂除去率は、40%以下に過ぎなかった。
【0063】
比較例3の結果から、処理温度をPET樹脂の分解開始温度と考えられている300℃にすると、プレス品の見掛けの嵩密度を0.10 g/cm、加熱空気流量を、毎分、加熱炉内容積の24倍とし、さらに、処理時間を30分間としても、ラミネート樹脂除去率は、40%に過ぎなかった。
【0064】
また、比較例4の結果から、処理温度をPET樹脂の分解開始温度未満である290℃にまで低下させると、プレス品の見掛けの嵩密度と加熱空気流量が比較例3と同じであり、さらに、処理時間を60分間としても、ラミネート樹脂除去率は、40%に過ぎなかった。
【0065】
比較例5の結果から、加熱空気流量を、毎分、加熱炉内容積の2倍にまで減少させると、他の条件が実施例1と同じであっても、ラミネート樹脂除去率は、50%に過ぎなかった。
【0066】
このように、本発明のラミネート樹脂除去方法においては、処理温度、処理対象であるプレス品の見掛けの嵩密度、加熱空気流量の組み合わせを最適化することが重要であり、組み合わせが不適切な場合には、ラミネート樹脂を50%以上除去することができなかった。特に、実施例1〜3のように、プレス品の見掛けの嵩密度を0.25 g/cm以下、処理温度をPET樹脂の分解開始温度よりも150℃以上高い温度、加熱空気流量を、毎分、加熱炉内容積の24倍という組み合わせにすれば、30分間以下の処理時間において、ラミネート樹脂であるPET樹脂を、アルミ屑材を酸化・燃焼させることなく完全に除去することが可能であった。
【0067】
なお、比較例6においては、ラミネート樹脂は完全に除去されていたが、アルミ屑材表面に酸化被膜が形成されていたため、加熱処理後のプレス品の重量が増加し、ラミネート樹脂除去率が実施例1よりも、見かけ上は低下した。このため、この比較例は、アルミのリサイクルにとっては好ましくないものと判断された。
【0068】
上記実施例においては、炉内壁にリボン翼を備えたロータリー加熱炉を用いたが、この構造のロータリー加熱炉に限らず、給気管にパドル翼を備えたロータリー加熱炉を用いてもよい。また、炉内中央長手方向に偏心軸が取り付けられ、この偏心軸に複数のパドル翼を備えた構成としてもよい。リボン翼又はパドル翼いずれを備えたロータリー加熱炉であっても、中央の回転軸を回転自在に取り付け、回転軸を回転される構成としてもよく、逆に、中央の軸を固定し、炉自体を回転させる構成としてもよい。
【0069】
加熱手段も、炉内に加熱空気を供給する加熱方法の他、炉の外周部に外套を設け、この外套部を熱媒体(例えば、電気ヒータや高温ガス)により間接的に加熱する加熱方法とすることもできる。このような間接加熱方式とすることにより、炉内温度を均一に保つことが可能となる。
【0070】
また、加熱装置としては、上記実施例で用いたロータリー加熱炉以外に、プッシャー型加熱炉、シャトル式加熱炉も用いることが可能であるが、上記実施例で用いた撹拌機能を有するロータリー加熱炉を用いることが、特に好ましい。上述したように、炉内のプレス品をさらに開裁し、ラミネート樹脂の除去率を高めることができるからである。
【0071】
なお、本発明により、ラミネート樹脂は、アルミ屑材又はアルミ缶から分解除去され、排気出口13から排出されるが、処理条件によってはラミネート樹脂が完全に二酸化炭素等にまで加熱分解されず、一酸化炭素や樹脂残渣のような未燃分として排出される場合もある。この場合、排気出口13の後段に二次燃焼炉を設けることにより、未燃分についても完全に加熱分解することが可能となる。
【0072】
以上、説明したように、本発明のラミネート樹脂除去方法は、30分間以下の短時間で、特別な処理装置を用いずに、アルミ屑材表面にラミネートされた樹脂を70%以上、条件によっては100%除去することができる。また、本発明のラミネート樹脂除去方法では、ラミネート樹脂が二酸化炭素等に加熱分解されるため、ラミネート樹脂の処理も不要であり、ラミネートアルミ屑材等からのラミネート樹脂処理方法として、従来にない高い効果が期待できる。
【0073】
さらに、本発明によりラミネート樹脂が除去されたアルミ屑材は、表面に酸化被膜がほとんど形成されないため、アルミを高効率でリサイクルすることができる。具体的なリサイクル方法の一例としては、本発明によりラミネート樹脂が除去されたアルミ屑材を、熔解炉に投入し、低酸素雰囲気下、例えば、窒素ガスで置換した状態で、700℃〜900℃に加熱することによって熔解し、熔解炉からアルミ素材として取り出す方法を挙げることができる。このアルミリサイクル方法では、従来のラミネート樹脂除去方法で処理したアルミ屑材を、同じ条件でリサイクルする場合と比較して、アルミ回収率が高く、実用性に勝っている。
【0074】
なお、ここでいう低酸素雰囲気下とは、酸素濃度が3%以下、好ましくは1%以下である状態を意味する。具体例の一つとしては、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下が該当する。アルミ屑材の熔解を低酸素雰囲気下で行うため、アルミ屑を熔解してアルミ素材として熔解炉から回収する際にも、アルミ表面に酸化被膜が形成されない。
【0075】
また、熔解炉の加熱温度を700℃以上とするのは、一部に酸化被膜が存在するアルミ屑を熔解させるためであり、900℃以下とするのは、アルミ屑の熔解温度として充分な高温であり、それ以上の温度に加熱しても、熔解炉のエネルギー消費が多くなるだけになるためである。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明のラミネート樹脂除去方法は、ラミネートアルミ屑材又はラミネートアルミ缶からアルミを高収率でリサイクルするための方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明のラミネート樹脂除去方法の概念を説明する図である。
【図2】本発明の実施の形態で使用したロータリー加熱炉を説明する図である。
【符号の説明】
【0078】
1:プレス品
2:開裁機
3:開裁されたプレス品
4:加熱炉
5:加熱空気
6:加熱装置
7:空気
8:ラミネート樹脂が除去されたアルミ屑材
10:ロータリー加熱炉
11:処理物入口
12:熱風入口
13:排気出口
14:給気管
15:ノズル
16:炉本体
17:処理物出口
18:リボン翼
19:ローラ
20:破砕処理プレス品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に樹脂フィルムがラミネートされたラミネートアルミ屑材又はラミネートアルミ缶からラミネート樹脂を除去する方法であって、
前記ラミネートアルミ屑材又はラミネートアルミ缶をプレス加工して形成したプレス品を、見掛けの嵩密度が0.3 g/cm以下となるように開裁する工程(A)と、
前記工程(A)で開裁したプレス品を、酸素雰囲気下、ラミネート樹脂の分解温度以上アルミの融点以下の温度で加熱処理する工程(B)とを含むことを特徴とするラミネート樹脂除去方法。
【請求項2】
前記ラミネート樹脂がポリエチレンテレフタレート又はその変性体であり、前記工程(B)の温度が350℃以上660℃以下であることを特徴とする請求項1に記載のラミネート樹脂除去方法。
【請求項3】
前記工程(B)を、ロータリー加熱炉内で加熱空気を供給して行うことを特徴とする請求項1又は2に記載のラミネート樹脂除去方法。
【請求項4】
前記加熱空気の1分間当たりの体積供給量が、ロータリー加熱炉内容積の4倍以上24倍以下であることを特徴とする請求項3に記載のラミネート樹脂除去方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のラミネート樹脂除去方法を用いて、前記プレス品のラミネート樹脂を除去する工程(C)と、
前記工程(C)においてラミネート樹脂を除去されたプレス品を熔解炉に投入し、低酸素雰囲気下、700℃以上900℃以下の温度で加熱することにより前記プレス品を熔解する工程(D)とを含むことを特徴とするアルミ屑材又はアルミ缶のリサイクル方法。

【図1】
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【図2】
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