説明

ラミネート品の剥ぎ取り方法および剥ぎ取り装置

【課題】ラミネート品をカソード板から容易に剥ぎ取ることができるラミネート品の剥ぎ取り方法を提供する。
【解決手段】カソード板2と電着金属10との上部会合部に隙間を形成する隙間形成工程と、隙間形成工程で得られた隙間に楔形部材16を上方から差し込んで、電着金属10を略V字状に拡開させる電着金属拡開工程と、を少なくとも有し、電着金属10拡開工程の後、2枚一対のラミネート品の電着金属10を分離させることなくV字形状に拡開させた状態のまま、カソード板2から剥ぎ取るようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属の電解精錬においてラミネート品となった電着金属をカソード板から剥ぎ取るためのラミネート品の剥ぎ取り方法および剥ぎ取り装置に関し、詳しくは、電解精錬の際に一時的に通電が停止することに起因して発生するラミネート品をカソード板から剥ぎ取る作業を効率的に行えるようにしたラミネート品の剥ぎ取り方法および剥ぎ取り装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属の電解精錬、例えば銅の電解精錬における電解プロセスとして、近年、パーマネントカソード(Permanent Cathode:PC)法が広く用いられている。このパーマネントカソード法は、ステンレス板をカソード(陰極)、粗銅をアノード(陽極)とし、アノードとカソードを交互に電解槽に浸漬して両電極間に直流電圧を印加することで、ステンレス板に電着した銅を剥ぎ取って製品とする方法である。
【0003】
パーマネントカソード法では、電解は通常1〜2週間継続して行われる。そして、銅の重さが50〜90kg程度になった状態で電解槽から引き揚げられ、電着した銅をステンレス板から剥離して電気銅とする。なお、電着した銅が剥がされたステンレス板は繰り返しカソード板として使用される。このようなパーマネントカソード法としては、例えば、特許文献1に示すものがある。
【0004】
ここで、パーマネントカソード法として実用化されているプロセスの中に、ISA法と呼ばれる方法がある。ISA法は、カソード板の両側部を塩化ビニール等で絶縁マスキングするとともに下部をマスキングして、両側部および下部に電着が及ばないようにし、電解終了後、カソード板の両面に電着した電気銅を剥離機によって剥ぎ取り、これによって1つのカソード板から2枚の電気銅を得る方法である。
【0005】
また最近では、ISA法において、カソードの下部をマスキングせずに、代わりにカソード板の下部にV溝加工を施すことで、カソード板の両面に電着した銅を剥ぎ取りに容易に分離できるような方法も提案されている(例えば特許文献2)。
【0006】
図11は特許文献2のカソード板を示した図であって、図11の(a)は、カソード板の両面に電気銅が電着した状態を、図11の(b)は、カソード板の両面に電着した電気銅を剥ぎ取っている状態を示した図である。なお、図11中の矢印Eは、電気銅の析出方向を示している。
【0007】
この特許文献2に開示されているカソード板102には、図11の(a)に示したように、その両面に電気銅110が電着している。また、カソード板102の下端面にはV字形状の溝104が形成されている。このV字形状の溝104では、カソード板102の両面側から析出した電気銅110が電着しているが、析出方向が異なる電気銅が干渉し合いながら電着するため、これら両面側から夫々析出した電気銅110同士は一体化しておらず、その間に境界面112が形成されている。
【0008】
そして、このカソード板102から電気銅110を剥ぎ取り、2枚に分離する場合は、先ずその両面に楔形部材116a,116bを嵌め込み、図11の(b)に示したように、その状態のまま楔形部材116a,116bをカソード板102に沿って下方に移動させることによって、カソード板102の両面から電気銅110を剥離させる。そして、電気銅110が両面から剥離した段階で電気銅110を中心(V字溝に対応する部位)より外側に向けて引っ張れば、溝104の表面に電着している電気銅110が境界面112で分離して、2枚の電気銅110を得ることができるようになっている。
【0009】
ところで、電解精錬の製造設備においては、電力会社の送電設備点検等に対応して年に1回程度の定期点検が行われる。これは製造設備を停止するとともに、電解槽への通電を一斉に停止(8〜12時間程度)する操業であり、計画停電とも呼ばれている。また、落雷その他の突発的な事故によって一時的に停電になることもある。
【0010】
電解精錬中に一時的に通電が停止すると、通電停止の前後で電気銅が2層になる現象が発生する。この現象は「ラミネーション」と言われ、ラミネーションが生じた電着金属は「ラミネート品」と呼ばれる。図12はラミネート品について説明するための図であって、図12の(a)は1層の電気銅が電着した状態を示した図、図12の(b)は2層の電気銅が電着した状態を示した図である。なお、図12中の矢印Eは、電気銅の析出方向を示している。
【0011】
図12の(a)に示した1層目の電気銅110aが電着した状態で通電が一時的に停止した場合には、図12の(b)に示したように、1層目の電気銅110aの表面に2層目の電気銅110bが析出して電着し、ラミネート品である電気銅110´が形成される。この際、V字形状の溝104では、1層目の電気銅110aが形成されていることから、電気銅110bの析出方向が変化し、両面側から析出した電気銅110bが境界面112aにおいて一体化してしまう。このため、このラミネート品の電気銅110´は、上述した通常の電気銅110のように、楔形部材116a,116bをカソード板102の表面に沿って移動させて、外側に向けて引っ張るだけでは簡単に分離できない状態となっている。
【0012】
このようなラミネート品の電気銅110´を分離するために、従来は、電気銅110´を立て起こしたり寝かせたりする傾倒動作を繰り返し行なうことで、境界面112aに疲労破壊を生じさせて切断していた。また、作業者が手作業で分離したりすることもあった。なお、このようなラミネート品の分離を容易にするために、2段階以上の多段により電流値を増加させる電解精錬方法も提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2005−240146号公報
【特許文献2】特表2003−502512号公報
【特許文献3】特開2009−256742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、ラミネート品の電気銅110´を分離するには、上術した傾倒動作を繰り返し行う必要があり、多大な労力と時間を要していた。例えば、通常の電気銅110をカソード板102から剥ぎ取って2枚に分離するには、1枚あたり6〜7秒の時間で処理可能であるが、ラミネート品の電気銅110´をカソード板102から剥ぎ取って2枚に分離するには、1枚あたり20〜30秒の時間を要しているのが現状である。ラミネート品の電気銅110´は、通常の電気銅110と同じライン上で処理されるため、ラミネート品の電気銅110´の剥ぎ取りおよび分離作業に時間を要してしまうと、精錬所全体の作業効率が大幅に減殺されてしまい、生産効率が低下するとの問題が生じていた。
【0015】
本発明は、上術したような従来技術の課題に鑑みなされたものであって、ラミネート品をカソード板から容易に剥ぎ取ることができ、したがって、精錬所全体の作業効率を低下させることがない、ラミネート品の剥ぎ取り方法および剥ぎ取り装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、前述したような従来技術の問題点を解決するために発明されたものであって、
本発明のラミネート品の剥ぎ取り方法は、
電解精錬によってカソード板の両面に電着した2枚一対のラミネート品の電着金属を該カソード板から剥ぎ取るラミネート品の剥ぎ取り方法であって、
前記カソード板と電着金属との上部会合部に隙間を形成する隙間形成工程と、
前記隙間形成工程で得られた隙間に楔形部材を上方から差し込んで、前記電着金属を略V字状に拡開させる電着金属拡開工程と、を少なくとも有し、
前記電着金属拡開工程の後、前記2枚一対のラミネート品の電着金属を分離させることなくV字形状に拡開させた状態のまま、前記カソード板から剥ぎ取るようにしたことを特徴とする。
【0017】
このように、本発明のラミネート品の剥ぎ取り方法によれば、2枚一対のラミネート品の電着金属を分離させることなくV字形状に拡開させた状態のまま、カソード板から剥ぎ取るように構成されていることから、従来のように精錬所全体の作業効率を低下させることなく、短時間でラミネート品を剥ぎ取ることが可能である。
【0018】
上記発明において、
前記隙間形成工程が、
前記カソード板の両面に対して略垂直方向の力を交互に加えるフレキシング工程であることが望ましい。
【0019】
このように、隙間形成工程をカソード板の両面に対して略垂直方向に力を交互に加えるフレキシング工程とすることで、効率よく、確実に、カソード板と電着金属との上部会合部に隙間を形成することができる。
【0020】
また、本発明のラミネート品の剥ぎ取り装置は、
電解精錬によってカソード板の両面に電着した2枚一対のラミネート品の電着金属を該カソード板から剥ぎ取るためのラミネート品の剥ぎ取り装置であって、
垂下した状態で搬入されたカソード板の下部を固定する下部固定部材と、
前記カソード板の両面を交互に略垂直方向に押圧するフレキシング部材と、
前記カソード板の上部を略垂直方向に支持する反力受け部材と、
上下動可能に構成された楔形部材と、を少なくとも備え、
前記フレキシング部材によって前記カソード板の両面を交互に略垂直方向に押圧することにより、前記カソード板と電着金属との上部会合部に形成される隙間から、前記楔形部材を差し込んで下方側へ移動させることで、
前記2枚一対のラミネート品の電着金属を分離させることなくV字形状に拡開させた状態のまま、前記カソード板から剥ぎ取ることができるように構成されていることを特徴とする。
【0021】
このように、本発明のラミネート品の剥ぎ取り装置によれば、2枚一対のラミネート品の電着金属を分離させることなくV字形状に拡開させた状態のまま、カソード板から剥ぎ取るように構成されていることから、従来のように精錬所全体の作業効率を低下させることなく、短時間でラミネート品を剥ぎ取ることが可能である。
【0022】
上記発明において、
前記下部固定部材の下方側には、
前記カソード板から剥ぎ取られたラミネート品の電着金属を搬送コンベヤまで案内するガイド部材が配置されていることが望ましい。
【0023】
このように構成すれば、カソード板から剥ぎ取られたラミネート品の電着金属を、簡便に搬送コンベヤに移載することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、ラミネート品をカソード板から容易に剥ぎ取ることができ、したがって、精錬所全体の作業効率を低下させることがない、ラミネート品の剥ぎ取り方法および剥ぎ取り装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、カソード板の両面にラミネート品である電着金属が電着した状態を示した斜視図である。
【図2】図2は、カソード板の両面にラミネート品である電着金属が電着した状態を示した図であって、図1のA−A線における断面図である。
【図3】図3は、本発明の楔形部材を示した斜視図である。
【図4】図4は、本発明のラミネート品の剥ぎ取り装置の側面図であり、ラミネート品である電気銅が電着したカソード板が搬入された状態を示した図である。
【図5】図5は、本発明のラミネート品の剥ぎ取り装置の側面図であり、カソード板と電気銅との上部会合部に隙間を形成している状態を示した図である。
【図6】図6は、本発明のラミネート品の剥ぎ取り装置の側面図であり、カソード板と電気銅との上部会合部に隙間を形成している状態を示した図である。
【図7】図7は、本発明のラミネート品の剥ぎ取り装置の側面図であり、カソード板に電着した電気銅を略V字状に拡開している状態を示した図である。
【図8】図8は、本発明のラミネート品の剥ぎ取り装置の側面図であり、剥ぎ取ったラミネート品を搬送コンベヤまで案内している状態を示した図である。
【図9】図9は、本発明の別の実施形態のラミネート品の剥ぎ取り装置の側面図であり、剥ぎ取ったラミネート品を搬送コンベヤまで案内している状態を示した図である。
【図10】図10の(a)は、本発明のラミネート品の剥ぎ取り装置に搬入されたカソード板が受け部材によって担持されている状態を示した正面図であり、図10の(b)は、図10の(a)におけるB−B線での断面図である。
【図11】図11は特許文献2のカソード板を示した図であって、図11の(a)は、カソード板の両面に電気銅が電着した状態を、図11の(b)は、カソード板の両面に電着した電気銅を剥ぎ取っている状態を示した図である。
【図12】図12はラミネート品について説明するための図であって、図12の(a)は1層の電気銅が電着した状態を示した図、図12の(b)は2層の電気銅が電着した状態を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいてより詳細に説明する。
まず、本発明の剥ぎ取り対象物であるラミネート品の電着金属について説明する。
図1は、カソード板の両面にラミネート品である電着金属が電着した状態を示した斜視図である。図2は、カソード板の両面にラミネート品である電着金属が電着した状態を示した図であって、図1のA−A線における断面図である。なお、以下の説明では、電着金属が電気銅である場合を例として説明する。
【0027】
本発明の剥ぎ取り対象物であるラミネート品の電気銅10´は、例えばパーマネントカソード法などの電解精錬法によって、カソード板2の両面に電着した電気銅である。
カソード板2は、図1に示したように、ハンガーと称される水平方向の支持部材5に、ステンレス製で矩形形状の板状部2aが鉛直方向に垂下した姿勢で取り付けられている。また、カソード板2の板状部2aの両側端部には、例えば塩化ビニール等の絶縁部材からなる帯板7が配置されており、この帯板7により、板状部2aの両側端部に電気銅10´が電着しないようになっている。また、図2に示したように、板状部2aの下端面にはV字形状の溝4が形成されている。
【0028】
電解精錬中に一時的に通電が停止すると、通電停止の前後で電気銅10´が2層になる
ラミネーションが発生し、図2に示したように、電気銅10aと電気銅10bとが積層して一体化した電気銅10´が形成される。また、このラミネート品である電気銅10´は、V字形状の溝4においても境界面12aで一体化している。すなわち、ラミネート品である電気銅10´は、そのカソード板2の両面に電着した2枚の電気銅が下端部において一体化した2枚で一対の電気銅10´として形成される。
【0029】
次に、本発明の剥ぎ取り方法および剥ぎ取り装置について説明する。
図3は、本発明の楔形部材を示した斜視図である。図4〜図8は、本発明のラミネート品の剥ぎ取り装置の側面図である。図4はラミネート品である電気銅が電着したカソード板が搬入された状態を、図5および図6はカソード板と電気銅との上部会合部に隙間を形成している状態を、図7は、カソード板に電着した電気銅を略V字状に拡開している状態を、図8は、剥ぎ取ったラミネート品を搬送コンベヤまで案内している状態を、それぞれ示した図である。
【0030】
本発明の剥ぎ取り装置1は、図4に示したように、移載装置3によって鉛直方向に垂下した状態で搬入されたカソード板2の下部を両面側から固定する一対の下部固定部材20a,20bと、カソード板2の両面に対して略垂直方向の力を交互に加える一対のフレキシング部材22a,22bと、搬入されたカソード板2の上方側に配置され、上下動可能に構成されている一対の楔形部材16a,16bと、を少なくとも備えている。
【0031】
下部固定部材20a,20bは、上述したように、鉛直方向に垂下した状態で搬入されたカソード板2の下部を両面側から挟んで固定するものである。また、このカソード板2の両面には、ラミネート品である電気銅10´が電着している。この下部固定部材20a,20bは、図4に示したように、搬入されたカソード板2を挟んで対向する位置に配置されており、一方面側には、支柱27aに固定された下部固定部材20aが配置されており、他方面側には、支柱27bに固定された下部固定部材20bが配置されている。また、この下部固定部材20a,20bは、ロッドが伸縮自在に構成されたシリンダ構造となっている。そして、下部固定部材20a,20b夫々のロッドが同時に伸動して、その先端部がカソード板2の下部を両面側から押圧することで、カソード板2の下部を固定するように構成されている。
【0032】
また、搬入されたカソード板2をより安定的に固定するために、上述した下部固定部材20a,20bに加えて、例えば、その上部にある支持部材5の軸方向の両端部を、図10に示したような受け部材28a,28bによって担持するようにしてもよい。ここで、図10の(a)は、本発明のラミネート品の剥ぎ取り装置に搬入されたカソード板が受け部材によって担持されている状態を示した正面図であり、図10の(b)は、図10の(a)におけるB−B線での断面図である。
【0033】
この受け部材28a,28bは、例えば図10の(b)に示したように、底板31と側壁29とを備え、支持部材5と略同一の内幅を有する断面略凹字状に形成されており、支持部材5の端部を底板31に載置することで、支持部材5を担持することができるようになっている。また、後述するフレキシング部材22a,22bによってカソード板2の両面が略垂直方向に押圧された場合において、支持部材5の両端部に作用する反力を側壁29,29で受けることで、底板31に載置された支持部材5が図10の(b)に示す左右方向(カソード板2の両面に対して垂直な方向)に移動しないようになっている。
【0034】
フレキシング部材22a,22bは、下部固定部材20a,20bによって固定されたカソード板2の両面を垂直方向に交互に押圧し、カソード板2を湾曲させて、カソード板2と電気銅10´との上部会合部に隙間を形成するためのものである。このフレキシング部材22a,22bは、図4に示したように、搬入されたカソード板2を挟んで対向する位置に配置されており、一方面側には、支柱27aに固定されたフレキシング部材22aが配置されており、他方面側には、支柱27bに固定されたフレキシング部材22bが配置されている。
【0035】
また、このフレキシング部材22a,22bは、上述した下部固定部材20a,20bよりも上方に配置されており、下部固定部材20a,20bによって固定されたカソード板2に対して略中央の高さに位置するように配置されている。また、このフレキシング部材22a,22bも、上述した下部固定部材20a,20bと同様に、ロッドが伸縮自在に構成されたシリンダ構造となっている。そして、フレキシング部材22a,22bの夫々のロッドが交互に伸動・縮動を繰り返して、その先端部がカソード板2の両面を交互に押圧することで、カソード板2を交互に湾曲させるように構成されている。
【0036】
楔形部材16a,16bは、カソード板2と電気銅10´との隙間に差し込まれ、カソード板2に沿って下方側へ移動することにより、カソード板2から電気銅10´を剥ぎ取るためのものである。この楔形部材16a、16bは、図3に示したように長方形状をなしており、その長手方向の長さは、カソード板2の幅と略同一か、それよりも若干長く構成されている。また、この楔形部材16a,16bは、図4に示したように、カソード板2が搬入される際は、互いに対向した状態で上方に待機している。
【0037】
また、本発明の剥ぎ取り装置1では、図4に示したように、下部固定部材20a,20bの下方側にガイド部材24が配置されている。このガイド部材24は、後述するように、カソード板2から剥ぎ取られたラミネート品の電気銅10´を搬出し、搬送コンベヤ26に載置する際の案内用部材として配置されるものである。このガイド部材24の具体例としては、例えば左右各1条ずつ互いに平行に配置されたステンレス製のレール部材や、ステンレス性のプレート部材などを挙げることができる。
【0038】
本実施形態のガイド部材24は、図4に示したように、搬送コンベヤ26に向けて一様に傾斜した直線状に形成されている。このガイド部材24と搬送コンベヤ26とのなす角度、すなわち、ガイド部材24の傾斜角度は15°〜75°であり、好ましくは30°〜60°、さらに好ましくは45°である。この傾斜角度が15°よりも小さいと、ガイド部材24が長くなり、装置全体の省スペース化が図れないため好ましくない。また、傾斜角度が75°よりも大きいと、落下する電気銅10´の勢いが減じられることなく搬送コンベヤ26に衝突してしまうため、好ましくない。
【0039】
本発明のラミネート品の剥ぎ取り方法は、上述した本発明のラミネート品の剥ぎ取り装置1を用いることで好適に行うことができる。本発明のラミネート品の剥ぎ取り方法は、剥ぎ取り装置1にカソード板2を搬入する「搬入工程」と、カソード板2と電気銅10´との上部会合部に隙間を形成する「隙間形成工程」と、隙間に楔形部材16a,16bを上方から差し込んで、電気銅10´を略V字状に拡開させる「電着金属拡開工程」と、そして、カソード板2から剥ぎ取った電気銅10´を搬出し、搬送コンベヤ26に載置する「搬出工程」と、からなる。
【0040】
<搬入工程>
搬入工程では、図4に示したように、剥ぎ取り装置1に隣接して配置された移載装置3によって、不図示の搬送コンベヤにて搬送されてくる、カソード板2を引き上げ、剥ぎ取り装置1に搬入する。このカソード板2には、上述したように、ラミネート品である電気銅10´が電着している。そして、電着している電気銅10´が、上方に待機している楔形部材16a,16bの下方に位置するように、楔形部材16a,16bの間に配置する。
【0041】
なお、本実施形態では、図4中の矢印Aで示したように、カソード板2を楔形部材16a,16bの側方から挿入して配置しているが、カソード板2の配置方法はこれに限定されない。例えば、楔形部材16a,16bを予め後方または下方に待機させておき、カソード板2を所定の位置に配置した後に、楔形部材16a,16bを移動して、カソード板2を楔形部材16a,16bの間に位置するようにしてもよい。
【0042】
また、図4に示したように、楔形部材16a,16bの間に配置されたカソード板2の下部を下部固定部材20a,20bで両面側から同時に押圧することで、カソード板2を挟んで固定する。また、上述したように、カソード板2の上部にある支持部材5の軸方向の両端部を、図10に示したような受け部材28a,28bによって担持してもよい。
【0043】
<隙間形成工程>
隙間形成工程では、図5および図6に示したように、下部固定部材20a,20bによって固定されているカソード板2の両面を、フレキシング部材22a,22bによって垂直方向に交互に押圧し、カソード板2を弓形状に湾曲させて(フレキシング)、カソード板2と電気銅10´との上部会合部に隙間を形成する。なお、このようなフレキシングは、上部会合部に楔形部材16a,16bを差し込むのに十分な隙間が形成されるまで、必要に応じて数回繰り返して行なう。
【0044】
図5は、下部固定部材20a,20bによって固定されたカソード板2の一方面側をフレキシング部材22aによって図中の矢印B方向に押圧し、カソード板2を弓形状に湾曲させて、カソード板2とカソード板2の他方面側に電着している電気銅10´との上部会合部に隙間bを形成する状態を示している。
【0045】
また、図6は、下部固定部材20a,20bによって固定されたカソード板2の他方面側をフレキシング部材22bによって図中の矢印B´方向に押圧し、カソード板2を弓形状に湾曲させて、カソード板2とカソード板2の一方面側に電着している電気銅10´との上部会合部に隙間aを形成する状態を示している。
【0046】
ところで、カソード板2を弓形状に湾曲させるためには、下部固定部材20a,20bでカソード板2の下部を固定するほかに、カソード板2の上部においても反力を受ける何らかの部材が必要となる。本実施形態では、上述した受け部材28a,28bが、このカソード板2の上部の反力受け部材に相当する部材である。
【0047】
しかしながら、本発明の反力受け部材は上述した受け部材28a,28bには限定されない。例えば、本発明の反力受け部材を、下部固定部材20a,20bのようにロッドが伸縮自在に構成されたシリンダ構造として、支持部材5の略中央部分や、カソード板2の板状部2aの上部を両面から挟持するように構成することも可能である。すなわち、本発明の反力受け部材は、カソード板2の上部を略垂直方向に支持することで、フレキシング部材22a,22bによってカソード板2の両面が交互に略垂直方向に押圧された際に、カソード板2が弓形状に交互に湾曲するように構成されていればよい。なお、この反力受け部材は、カソード板2の電着銅10´が電着していない部分を支持するように構成されている方が、フレキシングの際にカソード板2と電着銅10´との上部会合部に隙間が形成され易いため、好ましい。
【0048】
<電着金属拡開工程>
電着金属拡開工程では、図7に示したように、カソード板2の下部を下部固定部材20a,20bで挟んで固定した状態のまま、上述した隙間形成工程で形成された隙間a,bに楔形部材16a,16bを上方から差し込む。そして、図7の矢印Cで示したように、楔形部材16a,16bをそのままカソード板2に沿って下向きに移動することで、カソード板2の両面に電着している電気銅10´を拡開させて、カソード板2から剥離させる。拡開された電気銅10´は、その下端が一体化した状態のままであり、断面視で略V字状となる。
【0049】
<搬出工程>
上述した電着金属拡開工程において、下向きに移動する楔形部材16a,16bがカソード板2の下部付近に到達した時に、カソード板2の下部を固定していた下部固定部材20a,20bを縮動させて、カソード板2の固定状態を解除する。すると、図8に示したように、拡開されて略V字状をなした電気銅10´が下方に落下する。なお、楔形部材16a,16bは、カソード板2から電気銅10´が剥ぎ取られた後に、図8中の矢印C´に示したように上方に移動して元の位置に戻るようになっている。
【0050】
また、上述したように、カソード板2の上部にある支持部材5の軸方向の両端部が、図10に示した受け部材28a、28bによって担持されている場合は、楔形部材16a,16bが下降する前に、下部固定部材20a,20bによるカソード板2の固定状態を解除しても良い。このようにすれば、楔形部材16a,16bがカソード板2の下部付近に到達する前に、カソード板2から電気銅10´が剥がれるため、電気銅10´の剥ぎ取りの効率が向上する。
【0051】
落下した電気銅10´は、ガイド部材24と当接して、これに案内されるようにガイド部材24の上を滑り落ちて、搬送コンベヤ26の上に載置される。そして、搬送コンベヤ26の上に載置された電気銅10´は、搬送コンベヤ26によって、図8中の矢印Dに示した方向に搬送される。このようなガイド部材24が配置されていることにより、カソード板2から剥ぎ取られたラミネート品の電着金属10´を、簡便に搬送コンベヤ26に移載することができる。なお、搬送コンベヤ26によって搬送されたラミネート品である電気銅10´は、別工程にて2枚の電気銅に分離され、出荷される。
【0052】
このように、本発明のラミネート品の剥ぎ取り方法および剥ぎ取り装置によれば、2枚一対のラミネート品の電気銅10´を分離させることなくV字形状に拡開させた状態のまま、カソード板2から剥ぎ取るように構成している。すなわち、従来は、ラミネート品に対する剥ぎ取り作業および分離作業をライン上で一度に行っていたところ、本発明のラミネート品の剥ぎ取り方法および剥ぎ取り装置が採用される精錬所では、ライン上では剥ぎ取りだけを行うようにし、分離作業はライン外で別途行なうように構成される。
【0053】
本発明においてラミネート品の剥ぎ取りに要する時間は、ラミネート品ではない通常の電気銅を一度に剥ぎ取って分離するのに要する時間と比べて、ほぼ同じかそれ以下の時間で済む。したがって、本発明のラミネート品の剥ぎ取り方法および剥ぎ取り装置によれば、従来のように精錬所全体の作業効率を低下させることなく、通常の電気銅とラミネート品の電気銅とを同じライン上で処理することが可能となる。
【0054】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。本発明の目的を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
例えば、上述した実施形態では、ガイド部材24を、搬送コンベヤ26に向けて一様に傾斜した直線状に形成されていたが、本発明はこれに限定されず、例えば図9に示したように、湾曲状に形成されたガイド部材24´とすることも可能である。
【0055】
また、上述した実施形態では、隙間形成工程としてカソード板2の両面に対して略垂直方向の力を交互に加えるフレキシング工程である場合を例に説明したが、本発明のラミネート品の剥ぎ取り方法はこれに限定されない。例えば、カソード板2と電着銅10´との上部会合部に、薄板状の部材を差し込んだりして隙間を形成することも可能である。
【0056】
また、上述した実施形態では、電気銅を例として説明したが、本発明のラミネート品の剥ぎ取り方法および剥ぎ取り装置は、これに限定されず、亜鉛、鉛、ニッケルなど、他の非鉄金属のラミネート品の剥ぎ取りにも適用することができる。
【0057】
また、上述した実施形態では、ラミネート品として2層の電着金属を例に説明したが、本発明はこれに限定されず、例えば、3層や4層のラミネーションが発生した電着金属であっても良いものである。
【符号の説明】
【0058】
1 剥ぎ取り装置
2 カソード板
2a 板状部
3 移載装置
4 V字溝
5 支持部材
7 帯板
10´ 電気銅
10a 電気銅
10b 電気銅
12a 境界面
16a 楔形部材
16a,16b 楔形部材
20a,20b 下部固定部材
22a,22b フレキシング部材
24,24´ ガイド部材
26 搬送コンベヤ
27a,27b 支柱
28a,28b 受け部材
29 側壁
31 底板
102 カソード板
104 溝
110 電気銅
110a,110b 電気銅
112,112a 境界面
116a,116b 楔形部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解精錬によってカソード板の両面に電着した2枚一対のラミネート品の電着金属を該カソード板から剥ぎ取るラミネート品の剥ぎ取り方法であって、
前記カソード板と電着金属との上部会合部に隙間を形成する隙間形成工程と、
前記隙間形成工程で得られた隙間に楔形部材を上方から差し込んで、前記電着金属を略V字状に拡開させる電着金属拡開工程と、を少なくとも有し、
前記電着金属拡開工程の後、前記2枚一対のラミネート品の電着金属を分離させることなくV字形状に拡開させた状態のまま、前記カソード板から剥ぎ取るようにしたことを特徴とするラミネート品の剥ぎ取り方法。
【請求項2】
前記隙間形成工程が、
前記カソード板の両面に対して略垂直方向の力を交互に加えるフレキシング工程であることを特徴とする請求項1に記載のラミネート品の剥ぎ取り方法。
【請求項3】
電解精錬によってカソード板の両面に電着した2枚一対のラミネート品の電着金属を該カソード板から剥ぎ取るためのラミネート品の剥ぎ取り装置であって、
垂下した状態で搬入されたカソード板の下部を固定する下部固定部材と、
前記カソード板の両面を交互に略垂直方向に押圧するフレキシング部材と、
前記カソード板の上部を略垂直方向に支持する反力受け部材と、
上下動可能に構成された楔形部材と、を少なくとも備え、
前記フレキシング部材によって前記カソード板の両面を交互に略垂直方向に押圧することにより、前記カソード板と電着金属との上部会合部に形成される隙間から、前記楔形部材を差し込んで下方側へ移動させることで、
前記2枚一対のラミネート品の電着金属を分離させることなくV字形状に拡開させた状態のまま、前記カソード板から剥ぎ取ることができるように構成されていることを特徴とするラミネート品の剥ぎ取り装置。
【請求項4】
前記下部固定部材の下方側には、
前記カソード板から剥ぎ取られたラミネート品の電着金属を搬送コンベヤまで案内するガイド部材が配置されていることを特徴とする請求項3に記載のラミネート品の剥ぎ取り装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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