説明

ランジオロールのエナンチオ選択的合成のためのプロセス

【課題】ランジオロールのエナンチオ選択的合成のためのプロセスの提供。
【解決手段】下記式の中間体を経由する


下記式で表されるランジオロールの製造プロセス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(S)−(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メチル3−(4−ヒドロキシフェニル)プロパノエート3、エポキシド構造を有するアルキル化剤4及び遊離塩基又はその塩の形の2−(モルホリン−4−カルボキシアミド)エタンアミンから出発する、ランジオロール1、((S)−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メチル3−(4−((S)−2−ヒドロキシ−3−(2−(モルホリン−4−カルボキシアミド)エチルアミノ)プロポキシ)フェニル)プロパノエート)又はその塩酸塩2の調製プロセスに関する。
【0002】
本発明の特に好ましい実施形態によると、ランジオロールは(S)−(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メチル3−(4−((R)−3−クロロ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパノエートから調製され、さらにこれは(S)−(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メチル3−(4−ヒドロキシフェニル)プロパノエート3からエピクロロヒドリンの速度論的光学分割を通じて調製される。
【背景技術】
【0003】
ランジオロール1は、超高速作用の強力な心選択性β遮断薬であり、塩酸塩の形で抗不整脈薬として使用される。
【0004】
ランジオロール1の合成は、米国特許第5013734号明細書、日本国特許第3302647号明細書、中華人民共和国特許第100506814号明細書、日本国特許第2539734号明細書及びChemical&Pharmaceutical Bulltetin 1992,40 (6) 1462−1469に開示されている。ランジオロールを調製するための主要合成経路は、次のスキームで報告されている:
【0005】
【化1】

【0006】
ランジオロール1の合成は、エポキシド7をアミン8と反応させることによって実施される。中間体7は3から出発してキラルシントンとの反応によって合成される。米国特許第5013734号明細書は、3及び(S)−エピブロモヒドリン10からの7の合成を開示している。
【0007】
【化2】

【0008】
この試薬は非常に高価で、市場でほとんど入手できない。反応は還流アセトン下で16時間行い、収率はあまり高くない(76.2%)。さらに、8と7との反応で生成するランジオロール1の収率は低く(43.3%)、その後1は中間体9に相互変換する(7からの総収率38.4%)。この最終段階で、溶媒としてクロロホルムが使用される。さらに、中間体7とランジオロール1はいずれもクロマトグラフィー精製を必要とする。日本国特許第3302647号明細書は中間体7の同じ合成を開示しているが、(S)−エピブロモヒドリン10の代わりに(S)−グリシジルノシレート11を用いる。
【0009】
【化3】

【0010】
化合物11も非常に高価で市場でほとんど入手できず、そのため特別な利点は得られない。さらに、7を生成するための反応は室温にて水酸化ナトリウムのジメチルホルムアミド溶液中で実施され、すなわち、反応混合物の強力な自己加熱により過去に多数の事故を起こしており工業的にスケールアップできない条件下ではない(Bretherick、第7版、2007、1671−1673)。この場合もランジオロール1の収率は低い(7からランジオロール1の収率42.6%)。この事例ではアミン8の代わりにシュウ酸塩6が使用されている。
【0011】
【化4】

【0012】
得られる中間体9(収率45.8%)はその後ランジオロール1に相互変換される。CN101768148は上記とかなり同一の合成を開示しており、その7及び遊離塩基8からランジオロールシュウ酸塩9を生成する収率はやはり非常に低い9(27.8%)。中華人民共和国特許第100506814号明細書は上記と類似した別の合成を開示しており、そこでは市場でより容易に入手できる(S)−エピクロロヒドリン(式12の化合物でXは塩素)をキラルシントンとして使用している。
【0013】
【化5】

【0014】
ただし、この反応も非常に高価で反応時間が長い(16〜24時間)。さらに、最終生成物のランジオロール塩酸塩2は水−炭酸ナトリウム−塩化ナトリウム/エーテル−ヘキサン二相混合物から濾過によって得られ、これは工業生産に最適ではない。Chemical&Pharmaceutical Bulltetin 1992,40 (6) 1462−1469は、3及び類似キラルシントン13から出発する7の合成を記載している。
【0015】
【化6】

【0016】
(S)−グリシジルトシレート13も非常に高価で市場でほとんど入手できず、反応は長時間を要する(15時間)。さらに、この場合も中間体7及びランジオロール1はクロマトグラフィー精製を必要とする。日本国特許第2539734号明細書では、化合物7が次の合成スキームに従って合成されている:
【0017】
【化7】

【0018】
ただし、この解決策には何の特別な利点もない。さらに、化合物14は商業的に入手可能でなく、上記の高価なキラルシントンの1つを使用する必要がある。
【0019】
上記のプロセスは中間体すべての単離及び多数のクロマトグラフィー精製を必要とするため、収率及び生産性に悪影響を及ぼし、最終製品に対する労務費の影響が大きい。加えて、多くの場合7からランジオロール1又はランジオロールシュウ酸塩9への反応は収率が低い。さらに、反応時間がきわめて長く、ほぼすべての場合に、使用する試薬が非常に高価で市場でほとんど入手できず、プロセス内で再使用ができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】米国特許第5013734号明細書
【特許文献2】日本国特許第3302647号明細書
【特許文献3】中華人民共和国特許第100506814号明細書
【特許文献4】日本国特許第2539734号明細書
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】Chemical&Pharmaceutical Bulltetin 1992,40 (6) 1462−1469
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0022】
ランジオロール1及びランジオロール塩酸塩2を本明細書で以下に報告する新規合成手順によって便利に調製できることが見出された:
【0023】
【化8】

【0024】
本発明のプロセスは以下を含む:
a)(S)−(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メチル3−(4−ヒドロキシフェニル)プロパノエート3と式4(式中Xはハロゲン又はC〜Cアルキルスルホン酸エステル又はC〜C10アリールスルホン酸エステル)の非常に低コストのエポキシドアルキル化剤とを、容易に商業的に入手でき、非常に安価で再使用可能なエナンチオ選択性触媒の存在下で反応させ、温和で短時間の反応で、式5(式中Xは上記の定義による)を、式12の(S)異性体に富む出発物質のエポキシドアルキル化剤と共に得る工程、
b)工程a)で得られた式5の化合物を、塩基の存在下で遊離塩基又はその塩の形の2−(モルホリン−4−カルボキシアミド)エタンアミンと反応させ、ランジオロール1を高収率で得る工程、
c)ランジオロール1の塩化によりランジオロール塩酸塩2を高いエナンチオマー過剰で得る工程。
【0025】
式5の化合物において、第二級アルコール基を持つ炭素原子は立体化学的にR体である。
【0026】
式4の化合物の好ましい例は、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、グリシジルノシレート、グリシジルトシレート等である。
【0027】
式4の化合物の特に好ましい例はエピクロロヒドリンである。
【0028】
エナンチオ選択性触媒Iは、好ましくはコバルト、マンガン、アルミニウム、銅、サマリウム、クロム、バナジウム等をベースとする触媒のような金属性触媒であり、高光学純度のキレート化配位子、好ましくは(R,R)−ビス(3,5−ジ−tert−ブチルサリチリデン)−1,2−シクロヘキサンジアミンのようなサレン配位子に結合する。エナンチオ選択性触媒は、好ましくは極性化合物、好ましくはカルボン酸、イオン塩又は多フッ素化化合物、例えば酢酸、4−ニトロ安息香酸、塩化コバルト、硝酸亜鉛、塩化ガリウム、3,5−ジフルオロフェノール、ペルフルオロ−tert−ブタノール等によって活性化される。
【0029】
この場合、式5の化合物の合成は、メチルtert−ブチルエーテル(MTBE)、ジクロロメタン、アセトニトリル及びこれらの混合物のような、好ましくは非プロトン性極性の有機溶媒中で、エナンチオ選択性触媒、好ましくは(R,R)−N,N’−ビス(3,5−ジ−tert−ブチルサリチリデン)−1,2−シクロヘキサンジアミノコバルト16、極性活性化剤、好ましくは4−ニトロ安息香酸17及びエポキシアルキル化剤、好ましくはエピクロロヒドリンの存在下で実施される。
【0030】
式4の化合物としてエピクロロヒドリンが使用される場合、式5の化合物(式中Xは塩素である)、(S)−(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メチル3−(4−((2R)−3−クロロ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパノエートが得られる。
【0031】
【化9】

【0032】
【化10】

【0033】
ランジオロール1の合成は、塩基又はその塩、例えばシュウ酸塩又は塩化物として2−(モルホリン−4−カルボキシアミド)エタンアミンを使用して実施される。反応は有機極性溶媒中、例えばイソプロパノール及びイソブタノールのようなアルコール性溶媒又は好ましくはアセトニトリル中で、塩基、好ましくは塩化カリウム、炭酸ナトリウム、NaOH、KOH等のような無機塩基、及びイオン性の、好ましくはKI、NaI、KBr、NaBr等のような無機の触媒の存在下で実施される。
【0034】
ランジオロール塩酸塩2の塩化は、塩素化された、好ましくは無機の酸、例えば塩酸、塩化アンモニウム等を用いて実施される。反応は、イソプロパノール、アセトン、アセトニトリル、ジイソプロピルエーテル、及びこれらの混合物のような極性溶媒中で実施される。
【0035】
中間体5(式中Xは塩素である)は新規であり、本発明のさらなる目的である。
【0036】
本発明の好ましい実施形態によると、本プロセスは次のようにして実施される:
【0037】
工程a
【0038】
典型的には、サレン触媒を活性化するために、好ましくは(R,R)−N,N’−ビス(3,5−ジ−tert−ブチルサリチリデン)−1,2−シクロヘキサンジアミノコバルト16を1.0〜3.0当量のカルボン酸、好ましくは4−ニトロ安息香酸17、好ましくは1.5〜2.5当量と反応させる。この反応は、極性非プロトン性触媒、好ましくはジクロロメタン中で、10〜40℃の温度、好ましくは20〜30℃の温度で実施される。(R,R)−N,N’−ビス(3,5−ジ−tert−ブチルサリチリデン)−1,2−シクロヘキサンジアミノコバルト16の量を基準にして、4〜15倍量、好ましくは7〜12倍量の溶媒を使用する。茶褐色が現れた後、溶媒を除去し、それによって触媒を活性な形で得る。続いてこれに10〜100当量の出発物質(S)−(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メチル3−(4−ヒドロキシフェニル)プロパノエート3、好ましくは20〜50当量、続いて極性非プロトン性溶媒、好ましくはメチルtert−ブチルエーテル(MTBE)を添加する。(S)−(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メチル3−(4−ヒドロキシフェニル)プロパノエート3の量を基準にして、1〜5倍量、好ましくは2〜3倍量の溶媒を使用する。その後、2.0〜3.0当量の式4の化合物、典型的にはエピクロロヒドリンを、好ましくは2.0〜2,5当量、添加する。反応を、10〜40℃の温度、好ましくは20〜30℃の温度で実施する。反応を、C18カラム及び溶離剤相として1%ギ酸を含有する水/アセトニトリルを用いたUPLC分析により観測する。反応終了後、水及びトルエンを添加し、相を分離する。その後有機相を蒸留して(S)−エピクロロヒドリンを回収し、希水酸化ナトリウムで洗う。続いて有機相を少量に濃縮し、極性溶媒、アセトニトリル又はメタノール、好ましくはアセトニトリルを加えて、再度少量まで濃縮してトルエンを除去し、最後にアセトニトリル又はメタノール、好ましくはアセトニトリルのような極性溶媒を5〜30倍量添加する。懸濁液を濾過して触媒を回収し、得られる溶液を工程bで直接使用することができ、又は(S)−(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メチル3−(4−((2R)−3−クロロ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)−プロパノエート5を数日間室温で保存できる油として単離することができる。(S)−(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メチル3−(4−((2R)−3−クロロ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパノエート5を油として得るためには、極性溶媒中の溶液に脱色濾過助剤を添加し、得られる懸濁液を濾過し、得られる溶液を蒸発乾固する。
【0039】
(S)−(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メチル3−(4−((2R)−3−クロロ−2−ヒドロキシ−プロポキシ)フェニル)プロパノエート5が油として得られる。
【0040】
工程b
【0041】
一般的に、工程aで油として単離されるか又は極性溶媒溶液から直接得られる(S)−(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メチル3−(4−((2R)−3−クロロ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパノエート5は、1.0〜6.0当量、3.0〜4.0当量の量の無機塩基、好ましくは炭酸カリウムと、触媒量(0.05〜0.20eq)の非イオン性無機触媒、好ましくはヨウ化カリウムの存在下で、反応する。その後2−(モルホリン−4−カルボキシアミド)エタンアミンを塩基又はシュウ酸塩若しくは塩酸塩のようなその塩、好ましくはシュウ酸塩として、1.0〜4.0当量、好ましくは2.0〜3.0当量の量で添加する。反応は極性溶媒、好ましくはアセトニトリル中で、20〜85℃、好ましくは60〜85℃の温度で実施される。(S)−(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メチル3−(4−((2R)−3−クロロ−2−ヒドロキシプロポキシ)−フェニル)プロパノエート5の量を基準にして5〜30倍量、好ましくは10〜20倍量が使用される。反応は、C18カラム及び溶離剤相として1%ギ酸を含有する水/アセトニトリルを用いたUPLC分析により観測する。反応終了後、酢酸エチル及び水を添加し、相を分離する。続いて、有機相をpH2〜5、好ましくは3〜4にて水で抽出する。相を分離し、続いて有機相を、pH8〜13、好ましくは9〜12にて、酢酸エチルで再度抽出する。有機相の溶媒を2〜20倍量のイソプロパノールのような極性溶媒で置き換え、得られた溶液を直接工程cで使用するか、又はランジオロール1を単離することができる。この目的で、溶媒は、除去されるか又は固化を推進するために極性溶媒、例えばジイソプロピルエーテルで置き換えられ、その後当該溶媒を生成懸濁液から除去し、それによってやがて固化する油としてランジオロール1を得る。
【0042】
工程c
【0043】
一般的に、工程bで極性溶媒溶液から直接的に又は単離生成物の溶解によって得られたランジオロール1は、好ましくは塩酸を用いて直接塩化されてランジオロール塩酸塩2を与える。塩化は、ランジオロール1の量を基準にして2〜20倍量、好ましくは5〜10倍量の極性溶媒、好ましくはイソプロパノール中で実施される。酸の添加後、溶媒を蒸発除去し、1〜20倍量の極性溶媒、好ましくはアセトンを添加することによって生成物を結晶化する。懸濁液を濾過し得られた固体を25〜35℃で12時間真空乾燥し、ランジオロール塩酸塩2を得る。最終生成物のエナンチオ過剰率をキラルセル(Chiralcel)ODカラム及びジエチルアミンを含有する溶出液相としてヘキサン/エタノールを使用して分析する。
【0044】
本発明のプロセスは、いかなる中間体も単離することなく有効であるという点で特に有利である、中間体5は、非常に温和な反応条件下で、高収率、高純度で得られる。さらに、出発物質4(式中Xは塩素)(エピクロロヒドリン)は非常に安価であり、商業的に容易に入手できる。使用する触媒は低コストで商業的に入手でき、簡単な濾過によって容易に回収できる。驚くべきことに、新規中間体5(式中Xは塩素)から出発してランジオロール1を生成する反応は、本発明の背景技術で述べたほとんどのプロセスで得られるよりも著しく高い収率を与え、これは中間体7から出発した場合と逆である。得られるランジオロール1は、良好な総収率でランジオロール塩酸塩2に直接変換でき、さらなる精製も中間工程も不要である。得られるランジオロール塩酸塩2はエナンチオ純度が非常に高い。
【0045】
さらに、本発明のプロセスは(S)−エピクロロヒドリン12の回収が可能であり、これは以下のスキームでランジオロール1の合成に使用して化合物3を調製することもできる、高付加価値の生成物である:
【0046】
【化11】

【0047】
12からの中間体15の高収率での合成は、多数の出版物の文献に記載されている。当該開示のある出版物のいくつかを以下に示す:Catalysis Communications,8(12),2087−2095;2007;中華人民共和国特許第100506814号明細書;Journal of Molecular Catalysis A:Chemical,236(1−2),72−76; 2005;Chinese Journal of Chemistry,23(9),1275−1277;2005;Synthetic Communications,35(11),1441−1445;2005;Synthetic Communications,31(22),3411−3416; 2001; Chemistry Letters,(11),2019−22;1990;Khimiya Geterotsklicheskikh Soedinenii,(1),33−6; 1991。15及び19から出発する高収率での3の合成は、中華人民共和国特許第100506814号明細書に記載されている。当該開示のあるさらなる出版物は、米国特許第5013734号明細書である。いずれの出版物もランジオロール1の合成に関する本発明の背景技術ですでに記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0048】
本発明を以下の実施例により詳細に例示する。
【実施例1】
【0049】
(S)−(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メチル3−(4−((2R)−3−クロロ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパノエート(5)
【0050】
【化12】

【0051】
(R,R)−N,N’−ビス(3,5−ジ−tert−ブチルサリチリデン)−1,2−シクロヘキサンジアミノコバルト(16)(50mg、0.0828mmol)のMTBE(1ml)懸濁液に酢酸(10mg、0.166mmol)を添加する。混合物を、暗色が現れるまで20〜25℃で1時間攪拌放置する。その後(S)−(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メチル3−(4−ヒドロキシフェニル)プロパノエート(3)、(500mg、1.78mmol)、続いてエピクロロヒドリン(式4の化合物で、式中Xは塩素)(340mg、3.56mmol)をそこに添加する。当該混合物を20〜25℃で攪拌放置し、UPLCで観測する。反応終了後、水(5ml)及びトルエン(5ml)を添加し、相を分離し、溶媒及び(S)−エピクロロヒドリンを有機相から減圧下で除去して600mg(90.4%)の暗色油を得る。
【実施例2】
【0052】
(S)−(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メチル3−(4−((2R)−3−クロロ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパノエート(5)
【0053】
【化13】

【0054】
(R,R)−N,N’−ビス(3,5−ジ−tert−ブチルサリチリデン)−1,2−シクロヘキサンジアミノコバルト(16)(1,9g、3.19mmol)のジクロロメタン(20ml)懸濁液に4−ニトロ安息香酸17(1.1g、6.38mmol)を添加する。当該混合物を、暗色が現れるまで20〜25℃で1時間攪拌放置する。溶媒をMTBE(30ml)で置き換え、続いて(S)−(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メチル3−(4−ヒドロキシフェニル)プロパノエート(3)、(18g、63,8mmol)及び続いてエピクロロヒドリン(式4の化合物で、式中Xは塩素)(13,4g、140mmol)を添加する。当該混合物を20〜25℃で攪拌放置し、UPLCで観測する。反応終了後、トルエン(300ml)及び水(150ml)を添加し、相を分離する。有機相を蒸発乾固し、それによって濃縮(S)−エピクロロヒドリンを回収する。トルエン(300ml)及び10%NaOH(100ml)を添加する。相を分離し、得られた溶液を約50mlの体積まで濃縮し、100mlのアセトニトリルを添加し、50mlの体積まで濃縮し、最後に250mlのアセトニトリルを添加する。脱色濾過助剤(2.5g)を添加し、混合物を15分間攪拌放置し、懸濁液を濾過する。濾液を蒸発乾固し、23.7g(99,6%)の赤茶色の油を得る。
【実施例3】
【0055】
(S)−(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メチル3−(4−((2R)−3−クロロ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパノエート(5)
【0056】
【化14】

【0057】
(R,R)−N,N’−ビス(3,5−ジ−tert−ブチルサリチリデン)−1,2−シクロヘキサンジアミノコバルト(16)(470mg、0.780mmol)のジクロロメタン(5ml)懸濁液に4−ニトロ安息香酸17(270mg、1.56mmol)を添加する。当該混合物を、暗色が現れるまで20〜25℃で45分間攪拌放置する。得られた溶液を約2mlの体積まで濃縮し、5mlのMTBEを添加し、2mlの体積まで濃縮し、最後に6mlのMTBE、次いで(S)−(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メチル3−(4−ヒドロキシフェニル)プロパノエート(3)、(5g、17.7mmol)及び続いてエピクロロヒドリン(式4の化合物で、式中Xは塩素)(3.7g、38.9mmol)を添加する。該混合物を20〜25℃で攪拌放置し、UPLCで観測する。反応終了後、トルエン(25ml)及び水(25ml)を添加し、相を分離する。有機相を蒸発乾固し、それによって濃縮(S)−エピクロロヒドリンを回収する。アセトニトリル(25ml)を添加し、懸濁液を濾過し、それによって触媒を回収する。得られる溶液を約5mlの体積まで濃縮し、15mlのトルエンを添加し、続いて5mlの体積まで濃縮して、最後に20mlのトルエン及び脱色濾過助剤(20.0g)を添加する。混合物を15分間攪拌放置し、懸濁液を濾過する。濾液を蒸発乾固し、6.1g(92.4%)の黄色油を得る。
【0058】
LC−MS(ESI+)[M+H]+=373
【0059】
1H−NMR(CDCl3)(ケミカルシフトは、TMSを基準にしたppmで表示):1,37(3H,s,CH3);1,43(3H,s,CH3);2,65(2H,t,J=7Hz,CH2−Ar);2,83(1H,bs,OH);2,91(2H,t,J=7Hz,CH2−CO);3,66-3,81(3H,m,4オキソランのCH及びCH2−Cl);4.00−4,25(6H,m,4オキソランのCH,CH2−OCO,CH2−OAr及び5オキソランのCH);4,25(1H,m,C−OH);6,84及び7,13(4H,システムAA’XX’,芳香環)。
【0060】
13C−NMR(CDCl3)(ppm):25,3(CH3);26,6(CH3);29,9(CH2);35,8(CH2);45,9(CH2−Cl);64,6(CH2);66,2(CH2);68,5(CH2);69,7(CH);73,4(CH);109,7;114,5(CH);129,3(CH);133,1;156,7;172,6(COOR)。
【0061】
元素分析:C,58.3%;H,6.9%;Cl,9.3%;O,25.5%。
(%計算値:C,58.0;H,6.8;Cl,9.5;O,25.7)。
【0062】
FT−IR(UATR,cm−1):3456,2987,2936,1733,1612,1512,1372,1241,1154,1041,828,741,720。
【実施例4】
【0063】
ランジオロール(1)
【0064】
【化15】

【0065】
実施例3に従って調製した(S)−(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メチル3−(4−((2R)−3−クロロ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパノエート(5)(0.50g、0.00134mol)のイソプロパノール(10ml)懸濁液に2−(モルホリン−4−カルボキシアミド)エタンアミノ塩酸塩(18)(1.4g、0.00670mol)を添加し、30〜35℃に加熱して、30%NaOHを滴下し、pHを10〜11に保つ。混合物を35〜40℃で攪拌放置し、UPLCで観測する。反応終了後、酢酸エチル(20ml)及び水(20ml)を添加し、相を分離する。有機相に水(20ml)を添加し、塩酸を用いてpH3〜4に調節する。相を分離し、得られる水相を、水酸化ナトリウムを用いてpH10〜11に調節し、酢酸エチル(20m)を用いて再抽出する。続いて溶媒を減圧下で蒸発除去し、やがて固化して淡黄色固体になる淡黄色油0.38g(55.6%)を得た。
【実施例5】
【0066】
ランジオロール(1)
【0067】
【化16】

【0068】
実施例3に従って調製した(S)−(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メチル3−(4−((2R)−3−クロロ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパノエート(5)(0.30g、0.805mmol)のアセトニトリル(6.0ml)溶液に炭酸カリウム0.45g(3.22mmol)、及びKI0.013g(0.0805mmol)を添加し、続いて2時間還流して、2−(モルホリン−4−カルボキシアミド)エタンアミノオキサレート(6)(0.64g、2.42mmol)を添加する。混合物を攪拌還流し、UPLCで観測する。反応終了後、酢酸エチル(10ml)及び水(10ml)を添加し、相を分離する。有機相に水(10ml)を添加し、塩酸を用いてpH4〜5に調節する。相を分離し、得られる水相を、水酸化ナトリウムを用いてpH11〜12に調節し、酢酸エチル(10m)を用いて再抽出する。続いて溶媒を減圧下で蒸発除去し、やがて固化して淡黄色固体になる淡黄色油0.29g(70.7%)を得る。
【0069】
LC−MS(ESI+)[M+H]+=510
【0070】
1H−NMR(CDCl3)(ケミカルシフトは、TMSを基準にしたppmで表示)(ヘテロ相関HSQCスペクトルに基づいて帰属):1.36(3H,s,CH3);1.42(3H,s,CH3);2.63(2H,t,J=7Hz,CH2−Ar);2.75-2.93(8H,m,CH2−CO,CH−CH2−NH,CH2−CH2−NH,NH及びOH);3.35(6H,m,2CH2−Nモルホリン及びCH−NH);3.65(4H,m,2CH2−Oモルホリン),3.68(1H,m,4オキソランのCH);3.94(2H,bd,CH2−OAr);4.00−4.20(4H,m,4オキソランのCH,CH2−OCO及び5オキソランのCH);4.25(1H,m,C−OH);5.21(1H,bt,NHカーバメート);6.83及び7.11(4H,システムAA’XX’、芳香環)。
【0071】
13C−NMR(CDCl3)(ppm)(重複度はDEPT−135により帰属):25.3(CH3);26.6(CH3);29.9(CH2);35.8(CH2);40.2(CH2);43.8(CH2−Nモルホリン);49.2(CH2);51.5(CH2);64.6(CH2);66.2(CH2);66.4(CH2−Oモルホリン);68.3(CH);70.3(CH2);73.4(CH);109.7;114.4(CH);129.2(CH);132.8;157.0;158.0;172.5(COOR)。
【0072】
FT−IR(UATR,cm−1):3350,2858,1735,1626,1512,1454,1371,1244,1153,1115,1040,829,733。
【実施例6】
【0073】
ランジオロール塩酸塩(2)
【0074】
【化17】

【0075】
実施例5に従って調製したランジオロール(1)(100mg、0.196mmol)のイソプロパノール(6.0ml)溶液に、18%イソプロパノール塩酸(40mg、0.197mmol)を添加する。溶媒を減圧下で蒸発除去し、残渣をアセトン(2ml)から結晶化する。懸濁液を濾過し、結晶を25℃で12時間乾燥して80mg(74.7%)の白色固体を得る。
【実施例7】
【0076】
(S)−(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メチル3−(4−ヒドロキシフェニル)プロパノエート(3)からのランジオロール塩酸塩(2)
【0077】
【化18】

【0078】
(R,R)−N,N’−ビス(3,5−ジ−tert−ブチルサリチリデン)−1,2−シクロヘキサンジアミノコバルト(16)(47mg、0.0780mmol)のジクロロメタン(1ml)懸濁液に4−ニトロ安息香酸17(27mg、0.156mmol)を添加する。混合物を、暗色が現れるまで20〜25℃で45分間攪拌放置する。得られた溶液を約0.5mlの体積まで濃縮し、0.5mlのMTBEを添加し、0.5mlの体積まで濃縮し、最後に0.5mlのMTBE、続いて(S)−(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メチル3−(4−ヒドロキシフェニル)プロパノエート(3)、(0.5g、1.77mmol)及び続いてエピクロロヒドリン(式4の化合物で、式中Xは塩素)(0.37g、3.89mmol)を添加する。混合物を20〜25℃で攪拌放置し、UPLCで観測する。反応終了後、トルエン(10ml)及び水(10ml)を添加し、相を分離する。有機相を蒸発乾固し、それによって濃縮(S)−エピクロロヒドリンを回収した後、再度トルエン(10ml)を添加し、10%NaOH(10ml)で洗う。得られる溶液を約2mlの体積まで濃縮し、5mlのアセトニトリルを添加し、2mlの体積まで濃縮して、最後に10mlのアセトニトリルを添加する。懸濁液を濾過して触媒を回収し、溶液に炭酸カリウム0.79g(5.64mmol)、及びKI0.026g(0.161mmol)を添加し、2時間還流した後、2−(モルホリン−4−カルボキシアミド)エタンアミノオキサレート(6)(1.07g、4.03mmol)を添加する。混合物を攪拌還流し、UPLCで観測する。反応終了後、酢酸エチル(20.0ml)及び水(20ml)を添加し、相を分離する。続いて有機相を、塩酸を用いてpH4〜5に調節し、水(20ml)を用いて抽出する。相を分離し、得られる水相を、水酸化ナトリウムを用いてpH11〜12に調節し、酢酸エチル(20m)を用いて再抽出する。得られる溶液を約5mlの体積まで濃縮し、20mlのイソプロパノールを添加し、5mlの体積まで濃縮し、最後に30mlのイソプロパノール、次いで18%イソプロパノール塩酸(0.24g、1.18mmol)を添加する。溶媒を減圧下で蒸発除去し、残渣をアセトン(10ml)から結晶化する。懸濁液を濾過し、結晶を25℃で12時間乾燥して0.48g(総収率49.7%、エナンチオ純度:99.8%)の白色固体を得る。
【0079】
m.p.:126℃(文献より123〜127℃)
【0080】
LC−MS(ESI+)[M+H]+=510
【0081】
FT−IR(UATR,cm−1):3265,2941,2789,2419,1723,1615,1538,1515,1435,1371,1260,1242,1196,1118,1047,887,838,821,771。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ランジオロール塩酸塩を高いエナンチオ過剰で調製するためのプロセスであって:
a)(S)−(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メチル3−(4−ヒドロキシフェニル)プロパノエートと式4の化合物:
【化1】

(式中Xはハロゲン又はC〜Cアルキルスルホン酸エステル又はC〜C10アリールスルホン酸エステル)とを、高エナンチオ純度のキレート化配位子に結合する金属を含有するエナンチオ選択性触媒の存在下で反応し、式5の化合物:
【化2】

(式中Xは上記の定義による)を、式12:
【化3】

(式中Xは上記の定義による)の(S)異性体に富む出発物質4と共に得る工程と、
b) 工程a)で得られた式5の化合物を、塩基の存在下で、遊離塩基又はその塩としてのN−(2−アミノエチル)モルホリン−4−カルボキシアミド)エタンアミンと反応させ、ランジオロール1を得る工程と、
c)工程b)で得られたランジオロール1の塩化によりランジオロール塩酸塩2を得る工程と、
を含むプロセス。
【請求項2】
前記式4の化合物がエピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、グリシジルノシレート、又はグリシジルトシレートからなる群より選択される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記式4の化合物がエピクロロヒドリンである、請求項1及び2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記エナンチオ選択性触媒の高エナンチオ純度のキレート化配位子がサレン配位子である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】
前記エナンチオ選択性触媒が(R,R)−N,N’−ビス(3,5−ジ−tert−ブチルサリチリデン)−1,2−シクロヘキサンジアミノコバルトである、請求項1及び4に記載のプロセス。
【請求項6】
前記エナンチオ選択性触媒が、カルボン酸、イオン性塩又は多フッ素化化合物から選択される極性化合物によって活性化される、請求項1及び5に記載のプロセス。
【請求項7】
前記極性化合物が、酢酸、4−ニトロ安息香酸、塩化コバルト、硝酸亜鉛、塩化ガリウム、3,5−ジフルオロフェノール、又はペルフルオロ−tert−ブタノールから選択される、請求項6に記載のプロセス。
【請求項8】
前記式4の化合物がエピクロロヒドリンであり、前記エナンチオ選択性触媒が(R,R)−N,N’−ビス(3,5−ジ−tert−ブチルサリチリデン)−1,2−シクロヘキサンジアミノコバルトであり、前記活性化極性化合物が4−ニトロ安息香酸である、請求項1〜7のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
前記式5の化合物及びランジオロールが単離されない、請求項1〜8のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
請求項1で定義された式5の化合物であって、式中Xが塩素である、(S)−(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メチル3−(4−((2R)−3−クロロ−2−ヒドロキシ−プロポキシ)フェニル)プロパノエート。

【公開番号】特開2012−184229(P2012−184229A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−45897(P2012−45897)
【出願日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【出願人】(512053200)
【Fターム(参考)】