説明

リアクトルの製造方法及びリアクトル

【課題】内側コア部と外側コア部との相対的な位置決めを行うことができ、生産性に優れるリアクトルの製造方法を提供する。
【解決手段】複数のコア片31m,32mとギャップ材31gとで構成される磁性コア3と、この磁性コア3の一部に配置されるコイル2とを備えるリアクトル1を製造するにあたり、以下の工程を備える。各工程は、磁性コア3のうち、コイル2の内側に配置される内側コア部31を用意する工程と、磁性コア3のうち、内側コア部31を挟む内端面32eが一つの平面で構成されている一対の外側コア部であって、コイル2の両端面に対向して配置される外側コア部32を用意する工程と、外側コア部32の内端面32eに、位置決め部材としてギャップ材及びコア片の少なくとも一方を接合する位置決め部材形成工程と、位置決め部材を用いて、内側コア部31と外側コア部32との位置決めを行い、両者31,32を接合する接合工程である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド自動車の車載用DC-DCコンバータといった電力変換装置の構成部品等に利用されるリアクトルの製造方法及びリアクトルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電圧の昇圧動作や降圧動作を行う回路の部品の一つに、リアクトルがある。例えば、特許文献1には、磁性材料からなる環状の磁性コアと、この磁性コアの一部に配置されるコイルとを備えるリアクトルが開示されている。このリアクトルを製造するには、例えば、コイルの内部に複数の分割片からなるコア(以下、このコアを内側コア部と呼ぶ)を配置し、この内側コア部の両端を湾曲状のコア(以下、このコアを外側コア部と呼ぶ)で挟んで接合する。上記磁性コアは、コイルを励磁したとき、内側コア部と外側コア部により閉磁路が形成される。
【0003】
また、近年、リアクトルの高周波化に伴い、磁性コアに、磁性薄板(例えば、電磁鋼板)を複数積層した積層体に代えて、軟磁性材料からなる粉末を加圧成形した圧粉成形体を採用することが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009‐246222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、外側コア部において、内側コア部を挟む内端面が一つの平面で構成されている場合、内側コア部の端面に外側コア部を接合する際、両者を所定の位置で接合する位置決めが困難である。特に、特許文献1のように、外側コア部の内端面の外周縁が、内側コア部の端面の外周縁よりも突出している場合、例えば、リアクトルを設置したときに設置側となる設置側面が内側コア部と外側コア部とで面一でない場合は、更に両者の位置決めは困難である。そのため、内側コア部と外側コア部とを所定の位置に固定するのに時間が掛かったり、その所定の位置からずれて固定してしまう虞があり、生産性を低下させる。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、内側コア部と外側コア部との相対的な位置決めを行うことができ、生産性に優れるリアクトルの製造方法を提供することにある。
【0007】
また、本発明の別の目的は、上記本発明のリアクトルの製造方法によって得られたリアクトルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、外側コア部において、内側コア部との接合箇所に、内側コア部と外側コア部との位置決め用の部材を設けることで、上記目的を達成する。
【0009】
本発明のリアクトルの製造方法は、複数のコア片とギャップ材とで構成される磁性コアと、この磁性コアの一部に配置されるコイルとを備えるリアクトルを製造するにあたり、以下の工程を備える。
内側コア部を用意する工程:磁性コアのうち、コイルの内側に配置される内側コア部を用意する。
外側コア部を用意する工程:磁性コアのうち、上記内側コア部を挟む内端面が一つの平面で構成されている一対の外側コア部であって、コイルの両端面に対向して配置される外側コア部を用意する。
位置決め部材形成工程:上記外側コア部の内端面に、位置決め部材としてギャップ材及びコア片の少なくとも一方を接合する。
接合工程:上記位置決め部材を用いて、上記内側コア部と上記外側コア部との位置決めを行い、両者を接合する。
【0010】
この製造方法によれば、位置決め部材を外側コア部に設けることにより、内側コア部と外側コア部との相対的な位置決めを容易に行うことができ、両者を所定の位置に固定することができる。位置決め部材の大きさが、内側コア部の端面の大きさと同じである場合、特に、両者の位置決めを行い易い。位置決め部材の大きさと内側コア部の大きさとが異なる場合であっても、位置決め部材によって、両者をある程度の精度で位置決めすることができる。上記位置決めは、例えば、内側コア部の端面がコイルの端面よりもコイルの軸方向において内側に位置する状態にコイルを内側コア部に配置した場合、該状態の内側コア部と外側コア部とを接合する際、コイルの端面となる枠状部分に上記位置決め部材を嵌め込むことで、容易に両者の所定の位置決めを行うことができる。本発明の製造方法によれば、内側コア部と外側コア部との位置決めを容易に行うことができるので、製造時間の短縮が図れ、生産性を向上することができる。
【0011】
内側コア部と外側コア部との位置決め部材として、ギャップ材及びコア片の少なくとも一方を用いることで、位置決め部材が従来用いていたリアクトルの構成部材であるため、部品点数の増加を実質的に招かない。よって、リアクトルの大型化も実質的に招かない。
【0012】
本発明の一形態として、上記外側コア部を圧粉成形体で構成することが挙げられる。
【0013】
圧粉成形体のコアは、磁性薄板(例えば、電磁鋼板)を複数積層した積層体と比較して、高周波領域での鉄損が小さく、複雑な三次元形状のコアであっても容易に得ることができる。
【0014】
本発明の一形態として、上記外側コア部において上記内側コア部を配置したときに、上記外側コア部の内端面の外周縁が、上記内側コア部の端面の外周縁よりも突出することが挙げられる。
【0015】
上記構成によれば、外側コア部が内側コア部よりも突出するので、その突出した箇所をも磁束の通路に利用することができる。また、本発明の外側コア部は、上記突出した部分(突出部)を有することで、突出部を有していない外側コア部と比較して、外側コア部の体積を一定とすると、平面視した場合における外側コア部の投影面積を小さくすることができ、コイルの軸方向の長さを短くすることができる。よって、リアクトルを小型化することができる。上記突出部を、例えば、リアクトルを冷却ベースに設置したときに設置側となる設置側面に対向して形成する場合、内側コア部に配置されたコイルの設置側面と、上記突出部とを面一とすることで、コイルの熱を効率的に冷却ベースに伝えることができ、放熱性を向上することができる。
【0016】
本発明の一形態として、上記内側コア部を、粘着テープで一体に固定した複数のコア片とギャップ材とから構成し、上記位置決め部材をギャップ材とすることが挙げられる。
【0017】
内側コア部を、複数のコア片とギャップ材とを粘着テープで一体化した構成とすることで、これらを接着剤で固定した構成と比較して、コア片とギャップ材との一体化に要する時間を短縮でき、組立て作業性に優れる。通常、上記ギャップ材はコア片と比較して非常に薄いため、内側コア部の端部をギャップ材とすると、粘着テープ止めした際、端部のギャップ材を強固に止めることが難しく、粘着テープが剥がれる虞がある。よって、位置決め部材としてギャップ材を用いることで、内側コア部の端部にギャップ材を設ける必要がなく、かつ内側コア部と外側コア部との間にギャップ材を構成することができ、生産性を向上することができる。また、内側コア部の端部にギャップ材を設けないことで、粘着テープ止めを内側コア部の全長に亘って行う必要もなく、粘着テープの使用量の削減も図れる。
【0018】
本発明の一形態として、上記外側コア部を複数のコア片で構成することが挙げられる。
【0019】
コアを複数のコア片で構成することで、各コア片を小さくできるため、成形性に優れる。上記複数のコア片を接着剤により接合する場合、位置決め部材も接着剤により外側コア部の内端面に接合することで、両者の接着剤の硬化を同時に行うことができ、その接着工程の簡略化を図ることができる。
【0020】
本発明の一形態として、上記接合工程において、内側コア部と外側コア部とを接着剤により接合した後に、その接合した内側コア部と外側コア部とをケース内に収納する収納工程を備えることが挙げられる。この収納工程は、上記内側コア部と外側コア部とを、絶縁高熱伝導接着剤からなる放熱層が形成された底板部に固定する固定工程と、上記底板部とは別部材の側壁部を、上記内側コア部と外側コア部との周囲を囲んで設置し、上記底板部と一体化するケース形成工程とを有する。
【0021】
接合工程において、接合された内側コア部と外側コア部の組物をケース内に収納することで、組物に対して粉塵や腐食といった外部環境からの保護や強度といった機械特性の確保等を図ることができる。上記組物は、具体的に、コイルと、このコイルの内側に配置される内側コア部及びコイルの両端面に対向して配置される外側コア部を有する磁性コアとを備えるリアクトル(以下、組合体と呼ぶ)である。
【0022】
上記構成によれば、ケースを構成する底板部と側壁部とが別部材であることから、それぞれを別個に製造できるため、その製造形態の自由度が大きく、例えば、両者を異なる材質とすることができる。例えば、側壁部を樹脂といった絶縁性材料により構成すると、コイルを側壁部に近接配置できるため、ケースを備えていてもより小型なリアクトルとすることができる。例えば、底板部をアルミニウムなどの金属材料により構成すると、コイルの熱を放出し易く、放熱性に優れたリアクトルとすることができる。また、組合体を底板部に配置してから側壁部と底板部とを一体にできるため、リアクトルの組立て作業性にも優れる。
【0023】
底板部は、絶縁高熱伝導接着剤からなる放熱層が形成されていることで、放熱層により組合体が底板部に固定されるので、ケースに対する所定の位置に組合体を収納できる。そして、この放熱層を介して組合体の熱を冷却ベースといった固定対象に効率よく放出できる。上記放熱層は、組合体と底板部との間に介在するだけであるため、ケース底面と組合体との間隔が短く、より小型なリアクトルを得ることができる。さらに、放熱層が絶縁性であることで、底板部が導電性材料から構成されていても、組合体と底板部との間を絶縁でき、放熱層を薄くすることが可能であり、この点からも、放熱性に優れる上に小型なリアクトルを得ることができる。底板部と側壁部とが別部材であることで、側壁部を取り外した状態で放熱層の形成が可能であり、放熱層の形成作業が行い易く、作業性に優れる。
【0024】
上記放熱層の形態として、熱伝導率が2W/m・K超の絶縁性材料により構成されていることが挙げられる。このような高熱伝導率の材料で放熱層が形成されていることで、より一層放熱特性に優れたリアクトルとすることができる。
【0025】
上記側壁部の形態として、絶縁性材料により構成されることが挙げられる。側壁部が絶縁性材料により構成されていることで、当該側壁部と組合体とが絶縁されるため、上述のように当該側壁部の内面とコイルの外周面との間隔を狭められ、更なる小型化を図ることができる。また、絶縁性材料を金属材料よりも軽い樹脂などの材質とすると、従来用いられていたようなアルミニウムケースよりも軽量なケースとすることができ、リアクトルの軽量化を図ることができる。
【0026】
上記底板部の形態として、熱伝導率が、上記側壁部の熱伝導率と同等以上であることが挙げられる。組合体が配置される底板部が放熱性に優れることで、この底板部を介して、組合体の熱を効率よく固定対象に放出でき、放熱性に優れる。
【0027】
本発明の一形態として、上記接合工程において、内側コア部と外側コア部とを接着剤により接合せず、所定の接触状態とした内側コア部と外側コア部とをケース内に収納する収納工程を備えることが挙げられる。この収納工程は、上述した収納工程と同様である。
【0028】
内側コア部と外側コア部とを接着剤により接合する場合、まず内側コア部と外側コア部とを接着剤で接合し、接着剤により接合した状態の組合体を放熱層上に接合する必要があり、接着工程が多く時間が掛かってしまう。一方、内側コア部と外側コア部とを接着剤により接合しない場合、両者を所定の接触状態としたまま放熱層上に載置して接着剤を硬化するので、内側コア部と外側コア部との間を別途接着することなく、両者を接触状態のまま底板部に固定することができる。よって、接着工程の簡略化を図ることができ、接着剤の使用量の削減も図れる。
【発明の効果】
【0029】
本発明のリアクトルの製造方法は、外側コア部において、内側コア部との接合箇所に、内側コア部と外側コア部との位置決め用の部材を設けることで、両者の相対的な位置決めを容易に行うことができ、両者を所定の位置に固定することができる。また、容易に両者の位置決めができることで、リアクトルの製造時間の短縮が図れ、生産性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施形態1のリアクトルを示す概略斜視図である。
【図2】実施形態1のリアクトルに備えるコイルと磁性コアとの組合体の概略を示す分解斜視図である。
【図3】実施形態2のリアクトルの概略を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明についての実施形態を図面に基づいて説明する。図面において同一符号は同一部材を示す。なお、以下の説明では、リアクトルを設置したときに設置側を下側、その対向側を上側として説明する。
【0032】
{実施形態1}
図1、図2を参照して、本発明の実施の形態1を説明する。
【0033】
≪概要≫
本発明のリアクトル1の製造方法では、複数のコア片とギャップ材とで構成される磁性コア3と、この磁性コア3の一部に配置されるコイル2とを備えるリアクトルを製造する。以下、まずリアクトル1の各構成部材を説明し、次にこのリアクトル1の製造方法について詳細に説明する。
【0034】
≪リアクトルの全体構成≫
リアクトル1は、コイル2と、コイル2の内側に配置される内側コア部31及びコイル2の両端面に対向して配置される外側コア部32を有する磁性コア3とを備える。
【0035】
[コイル]
コイル2は、図2を適宜参照して説明する。コイル2は、接合部の無い1本の連続する巻線2wを螺旋状に巻回してなる一対のコイル素子2a,2bと、両コイル素子2a,2bを連結するコイル連結部2rとを備える。各コイル素子2a,2bは、互いに同一の巻数で、軸方向から見た形状(端面形状)がほぼ矩形状である。これら両コイル素子2a,2bは、各軸方向が平行するように横並びに並列されており、コイル2の他端側(図2では紙面奥側)において巻線2wの一部がU字状に屈曲されてコイル連結部2rが形成されている。この構成により、両コイル素子2a,2bの巻回方向は同一となっている。
【0036】
巻線2wは、銅やアルミニウムといった導電性材料からなる導体の外周に、絶縁性材料からなる絶縁被覆を備える被覆線が好適である。ここでは、導体が銅製の平角線からなり、絶縁被覆がエナメル(代表的にはポリアミドイミド)からなる被覆平角線を利用している。絶縁被覆の厚さは、20μm以上100μm以下が好ましく、薄いほど占積率を高められ、厚いほどピンホールを低減できて電気絶縁性を高められる。両コイル素子2a,2bは、上記被覆平角線をエッジワイズ巻きにして、中空の角筒状に形成されている。巻線2wは、導体が平角線からなるもの以外に、断面が円形状、楕円形状、多角形状などの種々の形状のものを利用できる。平角線は、断面が円形状の丸線を用いた場合よりも占積率が高いコイルを形成し易い。なお、各コイル素子を別々の巻線により作製し、各コイル素子を形成する巻線の端部を溶接などにより接合して一体のコイルとした形態とすることもできる。
【0037】
コイル2を形成する巻線2wの両端部は、コイル2の一端側(図2において紙面手前側)においてターン形成部分から適宜引き延ばされ、絶縁被覆が剥がされて露出された導体部分に、導電材料からなる端子部材(図示せず)が接続される。この端子部材を介して、コイル2に電力供給を行う電源などの外部装置(図示せず)が接続される。
【0038】
[磁性コア]
磁性コア3の説明は、図2を適宜参照して行う。磁性コア3は、複数のコア片31m,32mとギャップ材31gとで構成され、各コイル素子2a,2bの内側にそれぞれ配置される一対の内側コア部31と、コイル2の両端部に配置される一対の外側コア部32とを有する。これら内側コア部31及び外側コア部32により、コイル2を励磁したとき、閉磁路を形成する。
【0039】
(内側コア部)
各内側コア部31は、上記コイル2の内周面の形状に沿った外形を有し、それぞれ直方体状であり、互いの軸が平行するように並列に配置されている。内側コア部31は、磁性材料からなるコア片31mと、代表的には非磁性材料からなるギャップ材31gとを交互に積層して構成された積層体である。ここでは、各内側コア部31は、4つのコア片31mと各コア片31mの間に配置される3つのギャップ材31gとで構成されている。各コア片31mは、磁性粉末を用いた成形体であり、ここでは、各コア片31mは、鉄や鋼などの鉄を含有する軟磁性粉末の圧粉成形体としている。
【0040】
上記成形体は、例えば、Fe,Co,Niといった鉄族金属、Fe-Si,Fe-Ni,Fe-Al,Fe-Co,Fe-Cr,Fe-Si-AlなどのFe基合金、希土類金属やアモルファス磁性体といった軟磁性材料からなる粉末を用いた圧粉成形体、上記粉末をプレス成形後に焼結した焼結体、上記粉末と樹脂との混合体を射出成形や注型成型などした成形硬化体が挙げられる。その他、コア片は、金属酸化物の焼結体であるフェライトコアなどが挙げられる。成形体は、種々の立体形状の磁性コアを容易に形成することができる。
【0041】
圧粉成形体は、上記軟磁性材料からなる粉末の表面に絶縁被膜を備えるものを好適に利用することができ、この場合、当該粉末を成形後、上記絶縁被膜の耐熱温度以下で焼成することにより得られる。絶縁被膜は、代表的には、シリコーン樹脂やリン酸塩からなるものが挙げられる。
【0042】
ギャップ材31gは、インダクタンスの調整のためにコア片31m間に設けられる隙間に配置される板状材であり、アルミナやガラスエポキシ樹脂、不飽和ポリエステルなど、上記コア片よりも透磁率が低い材料、代表的には非磁性材料により構成される(エアギャップの場合もある)。
【0043】
コア片やギャップ材の個数は、リアクトル1が所望のインダクタンスとなるように適宜選択することができる。また、コア片やギャップ材の形状は適宜選択することができる。コア片31mとギャップ材31gとは接着剤で一体に接合してもよいし、粘着テープで一体に固定してもよい。
【0044】
その他、内側コア部31の外周に、絶縁性材料からなる被覆層を設けた構成とすると、コイル2と内側コア部31との間の絶縁性を高められる。上記被覆層は、例えば、熱収縮チューブや常温収縮チューブ、絶縁性テープや絶縁紙などを配置することで設けられる。上記収縮チューブを内側コア部31の外周に配置したり、絶縁性テープなどを貼り付けることで、絶縁性を高めることに加えて、コア片とギャップ材とを一体化することもできる。
【0045】
(外側コア部)
各外側コア部32はそれぞれ、一対の台形状面を有する角柱状体である。外側コア部32において、一対の台形状面の下辺同士を繋ぐ面が、上記の並列に配置された一対の内側コア部31を挟む内端面32eである。そして、この内端面32eは、図2に示すように一つの平面で構成されている。なお、ここでは、外側コア部32は、台形状面の上辺側の角部分が丸められた曲面状となっている。外側コア部32は、磁性材料からなる単一のコア片で構成することや、複数のコア片32mを積層して構成された積層体である。ここでは、各外側コア部32は、2つのコア片32mを上下に積層して構成することができる。各コア片32mは、磁性粉末を用いた成形体であり、ここでは、各コア片32mは、鉄や鋼などの鉄を含有する軟磁性粉末の圧粉成形体としている。
【0046】
コア片の個数は、リアクトル1が所望のインダクタンスとなるように適宜選択することができる。また、コア片の形状は適宜選択することができる。コア片による外側コア部の形成形態は、例えば、図2のように上下に積層してもよいし、左右に並列してもよい。そして、コア片同士は接着剤で一体に接合してもよいし、粘着テープで一体に固定してもよい。
【0047】
(磁性コアの形状)
磁性コア3は、離間して配置される一対の内側コア部31を挟むように外側コア部32が配置され、各内側コア部31の端面31eと外側コア部32の内端面32eとを接触させて環状に形成される。このとき、外側コア部32の内端面32eの外周縁が、一対の内側コア部31の端面31eの最外周縁(一対の内側コア部31において、内側コア部31同士が対向していない部分の外周縁)よりも突出している。つまり、内側コア部31の設置側の面と外側コア部32の設置側の面とは、面一になっていない。具体的には、リアクトル1を冷却ベース等の固定対象に設置したとき、外側コア部32において設置側となる面(以下、コア設置面と呼ぶ。図2において下面)が内側コア部31において設置側となる面よりも突出している。また、外側コア部32のコア設置面は、コイル2において設置側となる面(以下、コイル設置面と呼ぶ。図2において下面)と面一となるように、外側コア部32の高さ(リアクトル1を固定対象に設置した状態において、当該固定対象の表面に対して垂直な方向(ここでは、コイル2の軸方向に直交する方向であり、図2において上下方向)の長さ)を調整している。従って、磁性コア3は、リアクトル1を設置した状態において、側面から透視すると、H字状である。また、コア設置面及びコイル設置面が面一であることから、コイル2のコイル設置面だけでなく、磁性コア3のコア設置面も、上記固定対象に接触することができる。更に、磁性コア3を環状に組み立てた状態において、外側コア部32の側面(図2において紙面手前及び奥の面)は、内側コア部31の側面よりも外方に突出している。従って、磁性コア3は、リアクトルを設置した状態において(図2では下方を設置側とした状態において)、上面又は下面から透視すると、II字状である。このような三次元形状の磁性コア3は、圧粉成形体とすることで形成が容易である上に、外側コア部32において内側コア部31よりも突出した箇所をも磁束の通路に利用できる。
【0048】
[インシュレータ]
リアクトル1は、コイル2と磁性コア3との間にインシュレータ5を備えて、コイル2と磁性コア3との間の絶縁性を高めている。インシュレータ5は、内側コア部31の外周に配置される周壁部51と、コイル2の端面(コイル素子のターンが環状に見える面)に当接される一対の枠状部52とを備えた構成が挙げられる。
【0049】
周壁部51は、ここでは、一対の断面]状体により構成され、各周壁部51は互いに接触せず、内側コア部31の外周面の一部のみに配置される構成としている。周壁部51は、内側コア部31の外周面の全周に沿って配置される筒状体とすることもできるが、コイル2と内側コア部31との間の絶縁距離を確保することができれば、図2に示すように、内側コア部31の一部が周壁部51により覆われない形態としてもよい。また、ここでは、周壁部51は、表裏に貫通する窓部を備えるものを利用している。
【0050】
内側コア部31の一部が周壁部51から露出されることで、周壁部51の材料を低減することができる。また、リアクトル1が、後述する実施形態2のようにケースを備え、さらに封止樹脂を備える形態とする場合、上記窓部を有する周壁部51としたり、内側コア部31の全周が周壁部51により覆われない構成とすることで、内側コア部31と封止樹脂との接触面積を大きくすることができる上に、封止樹脂を流し込むときに気泡が抜け易く、リアクトル1の製造性に優れる。
【0051】
枠状部52は、平板状で、各内側コア部31がそれぞれ挿通される一対の開口部を有しており、内側コア部31を導入し易いように、内側コア部31の側に突出する短い筒状部を備える。また、一方の枠状部52には、コイル連結部2rが載置され、コイル連結部2rと外側コア部32との間を絶縁するためのフランジ部52fを備える。
【0052】
インシュレータの構成材料には、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、液晶ポリマー(LCP)などの絶縁性材料が利用できる。
【0053】
≪リアクトルの製造方法≫
上記構成を備えるリアクトル1は、代表的には、内側コア部及び外側コア部の用意⇒内側コア部と外側コア部との位置決め部材の形成⇒内側コア部と外側コア部との接合という工程により製造することができる。
【0054】
[内側コア部及び外側コア部を用意する工程]
上述した内側コア部31及び外側コア部32を用意する。ここでは、内側コア部31は、4つのコア片31mと各コア片31mの間に配置される3つのギャップ材31gとで構成されており、端面31eはコア片31mによるものである。外側コア部32は、2つのコア片32mが上下に積層して構成されており、内側コア部31を挟む内端面32eが一つの平面で構成されている。
【0055】
コイル2と上記の用意した内側コア部31との組立てについて以下説明する。具体的には、図2に示すように、内側コア部31とインシュレータ5の周壁部51とを各コイル素子2a,2bに挿入する。そして、両コイル素子2a,2bの端面にインシュレータ5の枠状部52を当接させる。このとき、内側コア部31の端面31eは、枠状部52の開口部から露出されていてもよいし、後述する位置決め部材の厚さ分だけコイル2の軸方向の内側に位置していてもよい。
【0056】
[位置決め部材形成工程]
外側コア部32の内端面32eに、内側コア部31と外側コア部32との位置決め用の部材としてギャップ材及びコア片の少なくとも一方を接合する。ここでは、位置決め部材として、内側コア部31を構成しているギャップ材31gを用いる。このギャップ材31gを、外側コア部32の内端面32eにおいて内側コア部31との接合箇所に接着剤で接合する。位置決め部材の接着剤による接合は、コア片32mで外側コア部32を形成するのと同時に行うと、コア片32m同士の接着と外側コア部32と位置決め部材(ギャップ材31g)との接着において、接着剤の硬化を同時に行うことができる。
【0057】
位置決め部材としては、ギャップ材及びコア片の少なくとも一方を用いることができる。特に、内側コア部31を構成するギャップ材31gやコア片31mを用いると、従来用いていたリアクトルの構成部材を利用することになるため、部品点数の増加を実質的に招かず好ましい。位置決め部材の大きさは、内側コア部31の端面31eの大きさと同じにすると、内側コア部31と外側コア部32との位置決めを行い易い。上記大きさが異なっても、内側コア部31と外側コア部32との位置決めはある程度の精度で行うことができる。この位置決め部材を外側コア部32に接合する位置決め部材形成工程は、外側コア部32が他のリアクトルの構成部材と組み合わされていない状態で行えるため、作業性に優れる。
【0058】
[接合工程]
上記位置決め部材(ここでは、ギャップ材31g)を用いて、内側コア部31と外側コア部32との位置決めを行い、両者31,32を接合する。接合方法としては、位置決め部材に接着剤を塗布し、この位置決め部材を内側コア部31に接合する。ここでは、コイル2の端面に、各内側コア部31がそれぞれ挿通される開口部を有した枠状部52が当接されているので、位置決め部材をこの開口部に嵌め込むことで、容易に内側コア部31と外側コア部32との位置決めを行うことができ、所定の位置に接合できる。
【0059】
≪用途≫
上記構成を備えるリアクトル1は、通電条件が、例えば、最大電流(直流):100A〜1000A程度、平均電圧:100V〜1000V程度、使用周波数:5kHz〜100kHz程度である用途、代表的には電気自動車やハイブリッド自動車などの車載用電力変換装置の構成部品に好適に利用することができる。
【0060】
≪効果≫
本発明のリアクトル1の製造方法は、外側コア部32において、内側コア部31との接合箇所に、内側コア部31と外側コア部32との位置決め用の部材を設けることで、両者31,32の相対的な位置決めを容易に行うことができ、両者31,32を所定の位置に固定することができる。上記位置決め部材として、ギャップ材及びコア片の少なくとも一方を用いることで、位置決め部材が従来用いていたリアクトルの構成部材であるため、部品点数の増加を実質的に招かない。
【0061】
内側コア部31及び外側コア部32を構成するコア片31m,32mを圧粉成形体で構成することで、複雑な三次元形状の磁性コア3を形成することができ、例えば、外側コア部32において内側コア部31よりも突出した箇所を設けることで、その突出した箇所をも磁束の通路に利用することができ、リアクトル1の小型化も望める。
【0062】
{実施形態2}
本発明の実施形態2に係るリアクトルについて、図3に基づいて説明する。実施形態2では、上述した実施形態1のリアクトル1をケース内に収納する点が異なる。リアクトル1は、そのままでも利用することができるが、ケース内に収納することで、粉塵や腐食といった外部環境からの保護や強度といった機械特性の確保等を図ることができる。以下、この相違点を中心に説明し、その他の構成は実施形態1の構成と同様であるため、説明を省略する。まず相違点であるケースについて説明し、次にケースに実施形態1のリアクトル1を収納する方法について詳細に説明する。
【0063】
[ケース]
リアクトル1が収納されるケース4は、平板状の底板部40と、底板部40に立設する枠状の側壁部41とを備える。このケース4は、底板部40と側壁部41とが一体に成形されておらず、それぞれ独立した部材であり、固定材により一体化される。そして、底板部40には、放熱層42を備える。
【0064】
(底板部)
底板部40は、ほぼ矩形の板であり、ケース4を備えるリアクトル(以下、ケース付リアクトル10と呼ぶ)が固定対象に設置されるときに固定対象に接して固定される。図3に示す例では、底板部40が下方となる設置状態を示すが、底板部40が上方、或いは側方となる設置状態も有り得る。この底板部40は、ケース4を組み立てたとき、内側に配置される一面に放熱層42が形成されている。底板部40の外形は適宜選択することができる。ここでは、底板部40は、四隅のそれぞれから突出した取付部400を有しており、その外形は後述する側壁部41の外形に沿った形状である。底板部40と側壁部41とを組み合せてケース4を形成した場合、この取付部400は、側壁部41の取付部411と重なる。各取付部400にはそれぞれ、冷却ベースといった固定対象にケース4を固定するボルト(図示せず)が挿通されるボルト孔400hが設けられている。ボルト孔400hは、後述する側壁部41のボルト孔411hに連続するように設けられている。ボルト孔400h,411hは、ネジ加工が成されていない貫通孔、ネジ加工がされたネジ孔のいずれも利用でき、個数なども適宜選択することができる。
【0065】
或いは、側壁部41が取付部を備えておらず、底板部40のみが取付部400を備える形態としてもよい。この形態の場合、底板部40の取付部400が側壁部41の外形から突出するように底板部40の外形を形成する。或いは、側壁部41のみが取付部411を有し、底板部40が取付部を有しない形態としてもよい。この形態の場合、側壁部41の取付部411が底板部40の外形から突出するように側壁部41の外形を形成する。
【0066】
(側壁部)
側壁部41は、両端が開口した矩形枠状体であり、下部開口側を底板部40により塞いでケース4を組み立てたとき、リアクトル1の周囲を囲むように配置され、上部開口側は部材で塞がれることなく開放される。ここでは、側壁部41は、ケース付リアクトル10を固定対象に設置したときに設置側となる領域が上記底板部40の外形に沿った矩形状であり、上部開口側の領域がリアクトル1の外周面に沿った曲面形状である。ケース4を組み立てた状態において、コイル2の外周面と側壁部41の内周面とは近接しており、コイル2の外周面と側壁部41の内周面との間隔は、0mm〜1.0mm程度と非常に狭い。また、ここでは、側壁部41の上部開口側の領域には、リアクトル1の外側コア部32の台形状面を覆うように配置される庇状部が設けられている。ケース4に収納されたリアクトル1は、コイル2が露出され、磁性コア3は実質的にケース4の構成材料に覆われた形態となる。上記庇状部を備えることで、耐振動性の向上、ケース4(側壁部41)の剛性の向上、リアクトル1の外部環境からの保護や機械的保護、といった種々の効果が得られる。上記庇状部を省略して、コイル2と、一方或いは両方の外側コア部32の台形状面との双方が露出される形態としてもよい。
【0067】
上記庇状部や後述する端子台410は、底板部40が上方や側方となるようにケース付リアクトル10を設置する場合に、リアクトル1が側壁部41から脱落することを防止できる。端子台410や庇状部の内側に、外側コア部32の脱落を防止する位置固定部などを別途設けておいてもよい。
【0068】
(取付箇所)
側壁部41の設置側の領域は、底板部40と同様に、四隅のそれぞれから突出する取付部411を備え、各取付部411には、ボルト孔411hが設けられて、取付箇所を構成している。ボルト孔411hは、側壁部41の構成材料のみにより形成してもよいし、別材料からなる筒体を配置させて形成してもよい。例えば、側壁部41を後述するように樹脂により構成する場合、上記筒体は、例えば、真鍮、鋼、ステンレス鋼などの金属からなる金属管を利用すると、強度に優れ、樹脂のクリープ変形を抑制できる。ここでは、金属管を配置してボルト孔411hを形成している。
【0069】
(端子台)
上記側壁部41の開口側の領域において、一方の外側コア部32の上方を覆う箇所は、端子金具8が固定される端子台410として機能する。
【0070】
端子金具8は、コイル2を構成する巻線2wの端部に接続される溶接面81と、電源などの外部装置側と接続するための接続面82と、溶接面81と接続面82とを繋ぐ連結部とを備える長方形状の板材である。この板材は、図3に示すように、階段状に屈曲され、垂直な溶接面81の下端と水平な接続面82の一端とを、接続面82よりも上方で連結部により水平につなぐことで、溶接面81と接続面82とがそれぞれ接続相手と接続し易いように構成されている。巻線2wの導体部分と端子金具8との接続には、TIG溶接などの溶接の他、圧着などが利用できる。端子金具8の形状は、例示であり、適宜な形状のものが利用できる。
【0071】
端子台410は、上記端子金具8の連結部が配置される凹溝410cが形成されている。凹溝410cに嵌め込まれた端子金具8は、その上方を端子固定部材9により覆われ、端子固定部材9をボルト91により締め付けることで、端子台410に固定される。端子固定部材9の構成材料には、後述するケースの構成材料に利用されるような絶縁性樹脂といった絶縁性材料を好適に利用することができる。なお、端子台を別部材とし、例えば、側壁部に別途端子台を固定する形態とすることができる。また、側壁部を後述するような絶縁性材料で形成する場合、端子金具をインサート成形することにより、側壁部、端子金具、端子台部分を一体とした形態とすることもできる。
【0072】
(材質)
ケース4の構成材料は、例えば、金属材料とすると、金属材料は一般に熱伝導率が高いことから、放熱性に優れたケースとすることができる。具体的な金属は、例えば、アルミニウムやその合金、マグネシウム(熱伝導率:156W/m・K)やその合金、銅(398W/m・K)やその合金、銀(427W/m・K)やその合金、鉄やオーステナイト系ステンレス鋼(例えば、SUS304:16.7W/m・K)が挙げられる。上記アルミニウムやマグネシウム、及びその合金を利用すると、軽量なケースとすることができ、ケースを備えていてもリアクトルの軽量化に寄与することができる。特に、アルミニウムやその合金は、耐食性にも優れるため、車載部品に好適に利用することができる。金属材料によりケース4を形成する場合、ダイキャストといった鋳造の他、プレス加工などの塑性加工により形成することができる。
【0073】
或いは、ケース4の構成材料は、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ウレタン樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂などの樹脂といった非金属材料とすると、これらの非金属材料は一般に電気絶縁性に優れるものが多いことから、コイル2とケース4との間の絶縁性を高められる。また、これらの非金属材料は上述した金属材料よりも軽く、ケースを備えていてもリアクトルを軽量にできる。上記樹脂に後述するセラミックスからなるフィラーを混合した形態とすると、放熱性を向上することができる。樹脂によりケース4を形成する場合、射出成形を好適に利用することができる。
【0074】
底板部40及び側壁部41の構成材料は同種の材料とすることができる。この場合、両者の熱伝導率は等しくなる。或いは、底板部40及び側壁部41が別部材であることから、両者の構成材料を異ならせることができる。この場合、特に、底板部40の熱伝導率が側壁部41の熱伝導率よりも大きくなるように、両者の構成材料を選択すると、底板部40に配置されるコイル2及び磁性コア3の熱を冷却ベースといった固定対象に効率よく放出できる。ここでは、底板部40をアルミニウムにより構成し、側壁部41をPBT樹脂により構成している。
【0075】
(連結方法)
底板部40と側壁部41とを一体に接続する手法は、種々の固定材を利用できる。固定材は、例えば、接着剤やボルトといった接合部材が挙げられる。ここでは、底板部40及び側壁部41にボルト孔(図示せず)を設け、固定材にボルト(図示せず)を利用し、このボルトをねじ込むことで、両者を一体化している。
【0076】
(放熱層)
底板部40において、コイル2のコイル設置面及び外側コア部32のコア設置面が接触する箇所に放熱層42を備える。この放熱層42は、コイル設置面やコア設置面が接する表面側が絶縁性材料から構成され、底板部40に接する側が熱伝導性に優れる材料から構成される多層構造であることが好ましい。放熱層42は、熱伝導率が2W/m・K超の絶縁性材料により構成されている。放熱層42は、熱伝導率が高いほど好ましく、3W/m・K以上、特に10W/m・K以上、更に20W/m・K以上、とりわけ30W/m・K以上の材料により構成されることが好ましい。
【0077】
熱伝導性に優れる材料は、例えば、金属元素,B,及びSiの酸化物、炭化物、及び窒化物から選択される一種の材料といったセラミックスなどの非金属無機材料が挙げられる。より具体的なセラミックスは、窒化珪素(Si3N4):20W/m・K〜150W/m・K程度、アルミナ(Al2O3):20W/m・K〜30W/m・K程度、窒化アルミニウム(AlN):200W/m・K〜250W/m・K程度、窒化ほう素(BN):50W/m・K〜65W/m・K程度、炭化珪素(SiC):50W/m・K〜130W/m・K程度などが挙げられる。これらのセラミックスは、放熱性に優れる上に、電気絶縁性にも優れる。上記セラミックスにより形成する場合、例えば、PVD法やCVD法といった蒸着法を利用することができる。或いは、上記セラミックスの焼結板などを用意して、適宜な接着剤により形成することができる。
【0078】
或いは、上記材料として、上記セラミックスからなるフィラーを含有する絶縁性樹脂が挙げられる。絶縁性樹脂は、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂などが挙げられる。絶縁性樹脂に上記放熱性及び電気絶縁性に優れるフィラーを含有することで、放熱性及び電気絶縁性に優れる放熱層42を構成することができる。また、フィラーを含有する樹脂を利用した場合でも、底板部40に当該樹脂を塗布などすることで、放熱層42を容易に形成できる。上記絶縁性樹脂により放熱層42を形成する場合、例えば、スクリーン印刷を利用すると容易に形成することができる。
【0079】
放熱層42を絶縁高熱伝導接着剤により構成すると、コイル2と放熱層42との密着性を高められる。ここでは、放熱層42は、アルミナからなるフィラーを含有するエポキシ系接着剤により形成されている(熱伝導率:3W/m・K)。放熱層42は、コイル設置面及びコア設置面が放熱層42に十分に接触できる面積を有していれば特に形状は問わない。ここでは、放熱層42は、図3に示すようにコイル2のコイル設置面及び外側コア部32のコア設置面がつくる形状に沿った形状としている。
【0080】
≪ケース付リアクトルの製造方法≫
上記ケース4を備えるケース付リアクトル10は、接合工程において、位置決めした内側コア部31と外側コア部32とをケース4内に収納する収納工程により製造することができる。この収納工程は、代表的には、底板部に形成された放熱層上へのリアクトルの固定⇒ケースの形成という工程を備える。
【0081】
[収納工程]
(固定工程)
リアクトル1を、絶縁高熱伝導接着剤からなる放熱層42が形成された底板部40に固定する。具体的には、まず、放熱層42上の所定の位置にリアクトル1を載置し、その後、放熱層42を適宜硬化することでリアクトル1を底板部40に固定する。このとき、リアクトル1において、内側コア部31と外側コア部32との位置決め状態は、接着剤により接合した状態であっても、接着剤により接合されておらず接触しただけの状態であっても、所定の接触状態となっていれば特に問わない。内側コア部31と外側コア部32とが接着剤によって接合していない場合でも、両者31,32を所定の接触状態として放熱層42に対して載置するので、放熱層42の硬化の際に、放熱層42により両者31,32を上記接触状態のまま底板部40に固定して接合することができる。
【0082】
(ケース形成工程)
放熱層42上にリアクトル1を固定したら、側壁部41をリアクトル1の周囲を囲むようにリアクトル1の上方から被せ、固定材(ここでは、別途用意したボルト(図示せず))により、底板部40と側壁部41とを一体化する。このとき、リアクトル1は、端子台410及び上述した庇状部により各外側コア部32の一方の台形状面が覆われて当たり止めとなることで、側壁部41をリアクトル1に対して位置決めしたり、底板部40が上方や側方となるようにリアクトル1を設置する場合にリアクトル1が側壁部41から脱落することを防止できる。端子台410や庇状部の内側に、外側コア部32の脱落を防止する位置固定部などを別途設けておいてもよい。この工程により、ケース4が形成されると共に、ケース4内にリアクトル1が収納された状態とすることができる。
【0083】
ケース4から突出する巻線2wの端部に端子金具8の溶接面81を溶接して、側壁部41の端子台410の凹溝410cに端子金具8を嵌め込む。そして、端子固定部材9で端子金具8の連結部を覆い、ボルト91により、端子固定部材9を側壁部41に固定することで、端子金具8を端子台410に固定する。
【0084】
[その他の構成]
その他に、ケース4内に封止樹脂(図示せず)を充填して硬化させることで、封止樹脂を備えるリアクトルを形成することができる。この場合、巻線2wの端部は、ケース4の上部開口側から外部に引き出して、封止樹脂から露出させる。封止樹脂は、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂などが挙げられる。また、封止樹脂として、絶縁性及び熱伝導性に優れるフィラー、例えば、窒化珪素、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ほう素、ムライト、及び炭化珪素から選択される少なくとも1種のセラミックスからなるフィラーを含有すると、放熱性を更に高められる。
【0085】
ケース4内に封止樹脂を充填する場合、未硬化の樹脂が底板部40と側壁部41との隙間から漏れることを防止するために、パッキン6を配置することが挙げられる。ここでは、パッキン6は、リアクトル1の外周に嵌合可能な大きさを有する環状体であり、合成ゴムから構成されるものを利用しているが、適宜な材質のものが利用できる。ケース4の側壁部41の設置面側には、パッキン6を配置するパッキン溝(図示せず)を有する。
【0086】
{実施形態3}
上述した実施形態1,2では、コイルとして、二つのコイル素子を並列に備える形態について説明したが、コイルを一つ備える形態とすることができる。この形態では、磁性コアは、内側コア部と外側コア部と連結コア部とを有する。内側コア部は、コイルの内側に配置される。外側コア部は、内側コア部の両端面に接合されると共に、コイルの両端面に対向して配置される。より具体的な外側コア部の一例としては内側コア部よりも軸方向と直交する方向の寸法が大きい板状材が挙げられる。連結コア部は、コイルの側面を覆って内側コア部及び外側コア部を連結する。より具体的な連結コア部の一例としてはコイルの外側にはめられる筒状材が挙げられる。このような所謂ポット型コアは、コイルの外周面の一部又は実質的に全部を磁性コアと直接又は間接に接触することができるので、磁性コアとコイルとの接触面積を大きくすることができる。
【0087】
上記ポット型コアを備えるリアクトルの製造方法として、以下の例が挙げられる。まず、コイルを連結コア部の内側に挿入する。そして、連結コア部を備えたコイルの内側に内側コア部を挿入する。次に、この内側コア部と外側コア部との位置決め用の部材として、内側コア部を構成しているギャップ材及びコア片の少なくとも一方を外側コア部の所定の位置に接着剤で接合する。ここでは、ギャップ材を用いる。つまり、内側コア部の両端は、ギャップ材の厚さ分だけコイルの軸方向の内側に位置している。外側コア部に形成されたギャップ材を内側コア部との位置決めに用いて、内側コア部と外側コア部とを接合する。上述したように、内側コア部は、コイルの軸方向の内側に位置しているので、この箇所に位置決め部材(ギャップ材)を嵌め込むことで、容易に内側コア部と外側コア部との位置決めを行うことができ、所定の位置に接合できる。
【0088】
なお、上述した実施の形態は、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であり、本発明の範囲は上述した構成に限定されるものではない。例えば、コアを磁性薄板(例えば、電磁鋼板)を複数積層した積層体で構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明のリアクトルの製造方法は、ハイブリッド自動車や電気自動車、燃料電池自動車等の車両に搭載される車載用コンバータといった電力変換装置の構成部品利用されるリアクトルの製造方法に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0090】
1 リアクトル 10 ケース付リアクトル
2 コイル 2a,2b コイル素子 2r コイル連結部 2w 巻線
3 磁性コア 31 内側コア部 31e 端面 31m コア片 31g ギャップ材
32 外側コア部 32e 内端面 32m コア片
4 ケース 40 底板部 41 側壁部 42 放熱層
400,411 取付部 400h,411h ボルト孔 410 端子台 410c 凹溝
5 インシュレータ 51 周壁部 52 枠状部 52f フランジ部
6 パッキン
8 端子金具 81 溶接面 82 接続面
9 端子固定部材 91 ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のコア片とギャップ材とで構成される磁性コアと、この磁性コアの一部に配置されるコイルとを備えるリアクトルの製造方法であって、
前記磁性コアのうち、コイルの内側に配置される内側コア部を用意する工程と、
前記磁性コアのうち、前記内側コア部を挟む内端面が一つの平面で構成されている一対の外側コア部であって、コイルの両端面に対向して配置される外側コア部を用意する工程と、
前記外側コア部の内端面に、位置決め部材としてギャップ材及びコア片の少なくとも一方を接合する位置決め部材形成工程と、
前記位置決め部材を用いて、前記内側コア部と前記外側コア部との位置決めを行い、両者を接合する接合工程とを備えることを特徴とするリアクトルの製造方法。
【請求項2】
前記外側コア部を圧粉成形体で構成することを特徴とする請求項1に記載のリアクトルの製造方法。
【請求項3】
前記外側コア部において前記内側コア部を配置したときに、前記外側コア部の内端面の外周縁が、前記内側コア部の端面の外周縁よりも突出することを特徴とする請求項1又は2に記載のリアクトルの製造方法。
【請求項4】
前記内側コア部を、粘着テープで一体に固定した複数のコア片とギャップ材とから構成し、
前記位置決め部材をギャップ材とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のリアクトルの製造方法。
【請求項5】
前記外側コア部を複数のコア片で構成することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のリアクトルの製造方法。
【請求項6】
前記接合工程において、内側コア部と外側コア部とを接着剤により接合し、
接合した内側コア部と外側コア部とをケース内に収納する収納工程を備え、
前記収納工程は、
前記内側コア部と外側コア部とを、絶縁高熱伝導接着剤からなる放熱層が形成された底板部に固定する固定工程と、
前記底板部とは別部材の側壁部を、前記内側コア部と外側コア部との周囲を囲んで設置し、前記底板部と一体化するケース形成工程とを有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のリアクトルの製造方法。
【請求項7】
前記接合工程において、内側コア部と外側コア部とを接着剤により接合せず、
所定の接触状態とした内側コア部と外側コア部とをケース内に収納する収納工程を備え、
前記収納工程は、
前記内側コア部と外側コア部とを、絶縁高熱伝導接着剤からなる放熱層が形成された底板部に固定する固定工程と、
前記底板部とは別部材の側壁部を、前記内側コア部と外側コア部との周囲を囲んで設置し、前記底板部と一体化するケース形成工程とを有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のリアクトルの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のリアクトルの製造方法によって得られたリアクトル。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−222089(P2012−222089A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84903(P2011−84903)
【出願日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】