説明

リアクトル

【課題】ポッティング材の充填量を低減しても、振動等によるコイルの絶縁性被膜等の破損を防止でき、かつコイルの放熱性を確保することができるリアクトルを提供する。
【解決手段】コア10と、コア10に平角線が巻回されて形成されるコイル12と、コイル12における平角線の向き合う平板面の少なくとも1つの間に形成される接着層とを備える1つまたは複数のリアクトル本体16と、リアクトル本体16を収容するための筐体18と、リアクトル本体16の周囲の少なくとも一部を覆うように筐体18の内部を充填するポッティング部20と、を備え、リアクトル本体16は、平板面の少なくとも一部がポッティング部20に接触するように平板面の端部の少なくとも一部に接着層が形成されていない接触部を有するリアクトル1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リアクトルに関し、特に、リアクトル本体とリアクトル本体を収容する筐体とを備えるリアクトルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境に配慮した自動車としてハイブリッド自動車(HV)および電気自動車(EV)等の電動機により推進される電動車が大きく注目されている。ハイブリッド(HV)自動車等には、バッテリの電圧をスイッチのオンオフにより昇圧する昇圧コンバータ等の電圧コンバータが備えられている。そして、電圧コンバータ等にはリアクトルが用いられている。リアクトルとしては、例えば、鉄心等の磁性体であるコアとコアに銅線等を巻き付けて形成したコイルとを備えるリアクトル本体をポッティング材により封止した構成のものが用いられる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図5には、従来のリアクトルの一例を示す概略構成図である。リアクトル50は、コア52と、コア52に平角線等が巻回されて形成されるコイル54とを備える1つまたは複数のリアクトル本体56と、リアクトル本体56を収容するための筐体58と、リアクトル本体56の周囲を覆うように筐体58の内部を充填するポッティング部60とを備える。
【0004】
コスト低減等のために、例えばポッティング部60を形成するためのポッティング材の充填量を低減した場合、図6に図5の点線部の拡大図を示すように、コイル54の固定に必要な強度が得られずに、大きな振動が発生した等の場合にコイル54同士の衝突が起こり、コイル54の絶縁性被膜等が破損される等のコイル54の破損が発生する場合がある。
【0005】
例えば、特許文献2には、コイルの絶縁材料の使用量低減のため、コイル導体の両側に層間絶縁材を設置することが記載されている。
【0006】
しかし、特許文献2の構成では、コイル素体に層間絶縁材を付着させる構成であるため、圧着時に絶縁層厚が一定とならず、高電圧となるハイブリッド自動車等の用途では、絶縁破壊や部分放電等により絶縁性を確保できない場合がある。
【0007】
また、特許文献3には、リアクトルの組立作業性を改善するために、コイル全体とコアを一体化してコイルの形状を保持する樹脂モールド部を設けることが記載されている。
【0008】
特許文献4には、平角導体に絶縁紙を巻き付けてなる絶縁被覆平角導体を巻回して形成されたコイルにおいて、巻回間の部分に両面接着紙を挟み込んでなる静止誘導機器用コイルが記載されている。
【0009】
特許文献5には、複数の素線導体を並列に並べて形成した層導体を巻回したコイルからなる電磁誘導機器巻線において、素線導体を半導電性接着剤で被覆することが記載されている。
【0010】
特許文献6には、接着剤が塗布されたコイルを巻いてコイル巻線を形成する形成段階と、コイル巻線を積層方向に加圧した状態で加熱させる加熱段階と、コイル巻線を積層方向に加圧した状態で冷却によって硬化させる硬化段階と、を含む電磁クラッチコイルアセンブリの製造方法が記載されている。
【0011】
しかし、特許文献3の構成では、コイル全体を樹脂モールドで覆うため、射出成形用の型が必要となる。また、特許文献3〜6の構成では、コイル全体または巻回間全体が樹脂モールドや接着剤で覆われるため、コイルの放熱面積が減少し、放熱性が悪化する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2010−273422号公報
【特許文献2】特開2002−367834号公報
【特許文献3】特開2010−074150号公報
【特許文献4】実開昭63−080831号公報
【特許文献5】特開昭60−083309号公報
【特許文献6】特開2003−021168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、ポッティング材の充填量を低減しても、振動等によるコイルの絶縁性被膜等の破損を防止でき、かつコイルの放熱性を確保することができるリアクトルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、コアと、前記コアに平角線が巻回されて形成されるコイルと、前記コイルにおける平角線の向き合う平板面の少なくとも1つの間に形成される接着層とを備える1つまたは複数のリアクトル本体と、前記リアクトル本体を収容するための筐体と、前記リアクトル本体の周囲の少なくとも一部を覆うように前記筐体の内部を充填するポッティング部と、を備え、前記リアクトル本体は、前記平板面の少なくとも一部がポッティング部に接触するように前記平板面の端部の少なくとも一部に前記接着層が形成されていない接触部を有するリアクトルである。
【0015】
また、前記リアクトルにおいて、前記接着層は、前記平板面の表面に形成された接着用樹脂層が加熱加圧プレスにより固化されたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、リアクトル本体が、平板面の少なくとも一部がポッティング部に接触するように平板面の端部の少なくとも一部に接着層が形成されていない接触部を有することにより、ポッティング材の充填量を低減しても、振動等によるコイルの絶縁性被膜等の破損を防止でき、かつコイルの放熱性を確保することができるリアクトルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係るリアクトルの一例を示す概略構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係るリアクトルにおいて、大きな振動が発生した等の場合の様子を示す概略図である。
【図3】本発明の実施形態に係るリアクトルに用いられるコイルの製造方法の一例を示す概略図である。
【図4】本発明の実施形態に係るリアクトルに用いられるコイルの製造方法の一例を示す概略図である。
【図5】従来のリアクトルの一例を示す概略構成図である。
【図6】従来のリアクトルにおいて、大きな振動が発生した等の場合の様子を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0019】
図1は、本発明の実施形態に係るリアクトルの一例を示す概略構成図である。リアクトル1は、コア10とコア10に平角線が巻回されて形成されるコイル12とを備える1つまたは複数のリアクトル本体16と、リアクトル本体16を収容するための筐体18と、リアクトル本体16の周囲の少なくとも一部を覆うように筐体18の内部を充填するポッティング部20と、を備える。図2に図1の点線部の拡大図を示すように、リアクトル本体16は、平角線の向き合う平板面22の少なくとも1つの間(巻回間)に形成される接着層14を備え、平板面22の少なくとも一部がポッティング部20に接触するように平板面22の端部の少なくとも一部に接着層14が形成されていない接触部24を有する。
【0020】
本実施形態に係るリアクトル1においては、接着層14によってコイル12の平板面22の少なくとも1つの間が固着されるため、コイル12の固定に必要な強度が得られ、ポッティング材の充填量を低減しても、振動等によるコイルの絶縁性被膜等の破損を防止できる。また、平板面22の端部の少なくとも一部に接着層14が形成されていない接触部24を有するため、平板面22の少なくとも一部がポッティング部20に接触することができ、コイルの放熱性を確保することができる。
【0021】
コア10は、例えば、鉄、ニッケル、コバルト等の磁性材料と、シリカ、アルミナ等のセラミック系、あるいはエポキシ等の樹脂系絶縁材料とを含んで構成される。
【0022】
コイル12は、例えば、導体である芯材と、芯材の周囲を被覆する絶縁性被膜とを有する巻線をらせん状等に巻回して構成される。巻線の断面形状としては、例えば、円形、楕円形、四角形等の多角形等が挙げられ、種々の形態のものを用いることができるが、平角線等の断面形状が四角形の巻線でコイルを構成すれば、円形の巻線を用いる場合に比べて剛性が高く、占積率および放熱性を高めやすい。巻線として平角線を用いる場合、巻線の巻回方法としては、エッジワイズ巻き等を好ましく用いることができる。
【0023】
芯材は、例えば、銅、銅合金、アルミ等の導電性に優れる金属材料等の導体により構成される。絶縁性被膜は、例えば、エナメル、ポリアミドイミド等の絶縁性に優れる材料等により構成される。絶縁性被膜の厚みは、例えば、10μm〜100μmの範囲である。
【0024】
接着層14は、平角線の向き合う平板面22の間を接着するものであればよく、特に制限はない。接着層14を構成する材料としては、例えば、ポリイミド樹脂、エポキシ等の接着性を有する樹脂等が挙げられる。接着層14の厚みは、例えば、100μm〜500μmの範囲である。
【0025】
筐体18としては、アルミダイキャスト等の金属材料に代表される放熱性に優れた材料により形成することができる。筐体18は、アルミニウムのほか、銅、鉄、マグネシウム等の金属から形成されてもよい。
【0026】
筐体18の形状は、例えば、略長方体形状等であるが、特に制限はない。
【0027】
ポッティング部20は、リアクトル本体16と筐体18との間に介在するように充填されている。コイル12は、ポッティング部20を介在させることで、筐体18と直接接触しないように配置されている。ポッティング部20を介在させることで、コイル12と筐体18との絶縁性、放熱性が確保される。
【0028】
ポッティング部20を形成するためのポッティング材としては、たとえば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等の接着性を有する樹脂等が用いられる。ポッティング材に熱伝導性に優れたフィラー(充填物)を含有させてもよい。また、硬化方法としては、加熱、加湿等の一般的な硬化方法を用いることができる。ポッティング部20により、コイル12で発生した熱を筐体18へ伝達しやすくなり、より高い放熱性を期待できる。本実施形態では、上記の通り、ポッティング材の充填量を低減することができる。したがって、ポッティング材の必要量を低減することができ、リアクトルの製造コストを低減することができる。
【0029】
ポッティング部20を形成するポッティング材の充填量は、通常は、リアクトル本体16全体が覆われる程度であるが、本実施形態では、例えば、筐体18の深さ方向でリアクトル本体16のコイル12の軸を通る面付近から下面近傍、例えばリアクトル本体16の1/2〜1/20が覆われる程度まで低減することができる。
【0030】
接触部24は、平板面22の少なくとも一部がポッティング部20に接触するように平板面22の端部の少なくとも一部に設けられていればよい。好ましくは、平板面22の端部全体に設けられていればよい。ここで、「端部」とは、平板面22の端から平板面22の長さの5%〜20%程度までのことをいう。
【0031】
本実施形態に係るリアクトルに用いられるコイルは、例えば、以下の方法により製造することができる。例えば、図3、図4に示すように、芯材28と芯材28の表面を覆う絶縁性被膜30とを含む巻線である平角線26の表面(平板面22)の一方の略中央に接着用樹脂を塗布して接着用樹脂層32を形成する(接着用樹脂層形成工程、図3、図4(b))。平角線26をコイル形状に曲げ加工(コイル形成工程、図4(c))後、加熱、加圧プレス等により接着用樹脂層32を伸ばして、固化させ、接着層14を形成し(接着層形成工程、図4(d))、コイルが得られる。このとき、平板面22の端部の少なくとも一部に接着層14が形成されていない接触部24を有するように、接着用樹脂の塗布量、加熱条件、加圧条件等を調整すればよい。
【0032】
本実施形態に係るリアクトルは、例えば、ハイブリッド車、電気自動車、燃料電池車等の車両等に搭載される。本実施形態に係るリアクトルは、例えば、車両等の前方部、後方部等に配置されるが、配置位置には特に制限はない。本実施形態に係るリアクトルは、ハイブリッド車等に搭載される駆動ユニットの電圧昇圧用のリアクトルとして、好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0033】
1,50 リアクトル、10,52 コア、12,54 コイル、14 接着層、16,56 リアクトル本体、18,58 筐体、20,60 ポッティング部、22 平板面、24 接触部、26 平角線、28 芯材、30 絶縁性被膜、32 接着用樹脂層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアと、前記コアに平角線が巻回されて形成されるコイルと、前記コイルにおける平角線の向き合う平板面の少なくとも1つの間に形成される接着層とを備える1つまたは複数のリアクトル本体と、
前記リアクトル本体を収容するための筐体と、
前記リアクトル本体の周囲の少なくとも一部を覆うように前記筐体の内部を充填するポッティング部と、
を備え、
前記リアクトル本体は、前記平板面の少なくとも一部がポッティング部に接触するように前記平板面の端部の少なくとも一部に前記接着層が形成されていない接触部を有することを特徴とするリアクトル。
【請求項2】
請求項1に記載のリアクトルであって、
前記接着層は、前記平板面の表面に形成された接着用樹脂層が加熱加圧プレスにより固化されたものであることを特徴とするリアクトル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−256722(P2012−256722A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129017(P2011−129017)
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】