説明

リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応実行方法、ピロリン酸センサー電極およびリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応装置

【課題】 PCRによって生成された標的核酸断片の増幅核酸量を、精度よく測定することができるリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応実行方法、および当該リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応実行方法に用いられるリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応装置、並びにピロリン酸センサー電極の提供。
【解決手段】 リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応実行方法は、標的核酸断片について、プライマー対の存在下においてポリメラーゼを作用させることにより増幅生成を行うポリメラーゼ連鎖反応を、標的核酸断片の増幅過程において副生成されるピロリン酸の濃度を電気化学的に測定しながら行うことを特徴とする。このリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応実行方法においては、副生成されるピロリン酸によるリン酸陰イオン(PO43-)を検出するピロリン酸センサー電極により、ピロリン酸の濃度が測定される構成とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子研究やその応用に重要である核酸増幅技術、特にポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を継続的に監視しながら行うリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応実行方法(以下、「リアルタイムPCR実行方法」ともいう。)、および当該リアルタイムPCR実行方法に用いられるピロリン酸センサー電極、並びにリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応装置(以下、「リアルタイムPCR装置」ともいう。)に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、PCRを実施する際に増幅核酸量を同時に検出する、いわゆるリアルタイムPCRが広く実施されるようになっている。これは、エンドポイント(全反応終了後)における電気泳動などによる増幅核酸量の測定を行う従来技術に比して増幅核酸量を迅速に検出できることに加え、増幅前の標的核酸断片のコピー数(以下、「サンプル核酸コピー数」ともいう。)についての定量性が得られるためである。
PCRによって最終的に得られる増幅核酸量は、理論的には、仕込まれた基質量などによって上限が規定されるが、PCRにおいては極めて効率よく核酸が増幅されるために、ある一定のコピー数以上の標的核酸断片を有するサンプルについての増幅工程においては、増幅核酸量が上限に達してしまい、最終的に得られる増幅核酸量がサンプル核酸コピー数に比例しないという事態が発生することがある。そこで、PCRを実行しながら継続的に増幅核酸量を検出し、一定量以上の増幅核酸が検出されたサイクル数を指標としてサンプル核酸コピー数を定量する方法が考案された。
PCRによれば、例えば40サイクルでは、理論上、1つの核酸断片から最大239(10桁以上)のダイナミックレンジが確保される。
【0003】
このようなリアルタイムPCRの実行方法としては、現在、各種蛍光プローブや、インターカレーター蛍光色素(intercalater dye)などのレポーター分子を用いる手法がある。プローブとしては、TaqMan(登録商標)プローブ(例えば、特許文献1参照。),分子ビーコンプローブ(Molecular Beacon Probe)とも称されるサイクリングプローブ(Cycling Probe),ハイブリダイゼーションプローブ(Hybridization Probe),などが挙げられる。これらのレポーター分子は、蛍光エネルギー転移などの現象を利用して増幅核酸量に相関して蛍光発光が増減するよう構成されており、標的核酸本体とレポーター分子などの遊離体とを分離することなく検出できることから、リアルタイムPCRに好適に使用されている。
以下に、具体的なレポーター分子を用いた増幅核酸量の検出方法を挙げる。
【0004】
(1) FRET(fluorescence resonance energy tranfer)現象を利用したプローブを用いる方法(特許文献2,3および非特許文献1〜2参照):この方法は、標的核酸にハイブリダイズする、各々、異なった蛍光色素で標識された2つの核酸プローブを用いる方法であって、2つの核酸プローブは、標的核酸にハイブリダイズした際に蛍光色素同士が向き合うよう、互いに1〜9塩基離間してハイブリダイズするよう設計されていると共に、一方の核酸プローブは、他方の核酸プローブのFRET現象によるエネルギーを蛍光色素において受容してこれを発光させる蛍光色素で標識されている。
このような2つの核酸プローブを用い、当該2つの核酸プローブが標的核酸にハイブリダイズすることによる蛍光色素の発光の程度を測定することにより、標的核酸の増幅核酸量を検出することができる。
【0005】
(2) 分子ビーコン方法(非特許文献3参照):この方法は、一端にレポーター色素、他端にクエンチャー色素が標識されると共に、その両端部の塩基配列が互いに相補性を示すよう設計された核酸プローブを用いる方法である。両端部の塩基配列が互いに相補性があるために、核酸プローブ全体としてヘアピン構造が形成され、このヘアピン構造のために、溶液中に浮遊している状態においては、フェルスター共鳴エネルギー移動のためにレポータ一色素の発光はクエンチャー色素により規制されているが、この核酸プローブが標的核酸にハイブリダイズすると、そのヘアピン構造が崩壊するためにレポーター色素とクエンチャー色素との距離が大きくなってフェルスター共鳴エネルギー移動が発生せず、その結果、レポーター色素の発光が生じる。このレポーター色素の発光の程度を測定することにより、標的核酸の増幅核酸量を検出することができる。
【0006】
また、例えば、いわゆるデービスの方法(非特許文献4参照)で作成された蛍光プローブ、すなわち、オリゴヌクレオチドの3’末端に、炭素原子18個を有するスペーサーを介して蛍光色素を結合した蛍光プローブをフローサイトメトリーに適用することにより、3’末端に蛍光色素を直接結合した蛍光プローブを用いる場合に比して、ハイブリダイゼーションによる蛍光発光の強度が、約10倍になることが報告されている。
【0007】
これらのレポーター分子を用いる増幅核酸量の検出方法は、FISH方法(fluorescent in situ hybridization)、PCR方法、LCR方法(ligase chain reaction)、SD方法(Strand displacement)、競合的ハイブリダイゼーション方法(Competitive hybridization)などの各種の核酸の測定方法に適用することができる。
【0008】
このように、これらの方法において標的核酸断片の測定系に1種または2種の蛍光プローブを添加してハイブリダイゼーション反応および/または核酸増幅反応を行い、当該測定系の蛍光強度の変化を継続的に測定することによりサンプル核酸コピー数を定量する方法は、定量的リアルタイムPCR法として知られている。
【0009】
然るに、複雑なサンプル試料中には、ハイブリダイゼーション反応や核酸増幅反応の阻害物質が含まれている場合も多く、特に、定量的リアルタイムPCR法においては、指数関数的な検量線を用いて最終的に得られる増幅核酸量からサンプル核酸コピー数の定量が行われるために、複雑なサンプル試料中のサンプル核酸コピー数もしくは最終的な増幅核酸量の測定について高い信頼性が得られない、という問題がある。
【0010】
また、このような定量的リアルタイムPCR法においては、蛍光試薬(レポーター分子)をサンプルに添加し、標的核酸断片の増幅に伴って増加する蛍光試薬の蛍光強度を継続的に測定してサンプル核酸コピー数を解析していたため、反応溶液に本来の標的核酸断片の増幅には不必要な、目的反応物以外の蛍光試薬や酵素類を添加しなければならない、という問題があった。さらに、この定量的リアルタイムPCR法のための装置は、通常のPCRを行うサーマルサイクラーのみならず、蛍光強度を計測するレーザー光源や光電子増倍管といった蛍光分光光度計を備えたものである必要があった。
【0011】
【特許文献1】特表2002−505071号公報
【特許文献2】特開平10−262700号公報
【特許文献3】特開平10−84983号公報
【非特許文献1】Morrison et al.,Anal.Biochem.,vol.183,231−244,1989
【非特許文献2】Mergney et al., Nucleic acids Res.,vol.22,920−928,1994
【非特許文献3】Tyagi et al.,Nature Biotech.,vol. 14,303−308,1996
【非特許文献4】Davis et al.,Nucleic acids Res.,vol.24,702−706,1996
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
一方、標的核酸断片の増幅過程において副生成されるピロリン酸は、遺伝子診断などにおいてDNAポリメラーゼによる反応の反応量を示す指標となることから、このピロリン酸の濃度を簡便に測定する方法の開発が求められている。
従来、ピロリン酸の検出方法としては、カルシウムイオンやマグネシウムイオンとの沈殿反応や、酵素を組み合わせた発色、発光反応を用いて検出する方法などが挙げられるが、どれも感度が低く、実用化には至っていない。
【0013】
本発明は、以上の事情に基づいてなされたものであって、その目的は、PCRによって増幅生成された標的核酸断片の増幅核酸量を、精度よく測定することができるリアルタイムPCR実行方法、および当該リアルタイムPCR実行方法に用いられるリアルタイムPCR装置、並びにピロリン酸センサー電極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応実行方法は、標的核酸断片について、プライマー対の存在下においてポリメラーゼを作用させることにより増幅生成を行うポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を、標的核酸断片の増幅過程において副生成されるピロリン酸の濃度を電気化学的に測定しながら行うことを特徴とする。
【0015】
本発明のリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応実行方法においては、副生成されるピロリン酸によるリン酸陰イオン(PO43-)を検出するピロリン酸センサー電極により、ピロリン酸の濃度が測定される構成とすることができる。
【0016】
本発明のピロリン酸センサー電極は、上記のリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応実行方法に用いられるピロリン酸センサー電極であって、
導電性材料よりなる電極基体の表面に、金属イオンが担持されてなる金属含有ポリマーおよび電子吸引性基を有する電子吸引性ポリマーを含有するピロリン酸検知物質がコーティングされてなるものであることを特徴とする。
【0017】
本発明のピロリン酸センサー電極においては、前記電子吸引性基がベンゼンスルホン酸基であることが好ましい。
【0018】
また、本発明のピロリン酸センサー電極においては、前記電極基体の形状は網状またはディスク型とすることができる。
【0019】
本発明のリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応装置は、反応チューブを有し、当該反応チューブ内に上記のピロリン酸センサー電極が設けられていることを特徴とする。
【0020】
本発明のピロリン酸センサー電極は、副生成物としてピロリン酸を生じる生体反応において、生体反応度を電気化学的に継続的に測定するためのピロリン酸センサー電極であって、
副生成されるピロリン酸によるリン酸陰イオン(PO43-)を検出するものであることを特徴とする。
【0021】
本発明のピロリン酸センサー電極は、導電性材料よりなる電極基体の表面に、金属イオンが担持されてなる金属含有ポリマーおよび電子吸引性基を有する電子吸引性ポリマーを含有するピロリン酸検知物質がコーティングされてなる構成とすることができる。
【0022】
このピロリン酸センサー電極においては、電子吸引性基がベンゼンスルホン酸基であることが好ましい。
【0023】
また、本発明のピロリン酸センサー電極においては、前記電極基体の形状は網状またはディスク型とすることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明のリアルタイムPCR実行方法によれば、PCRにおいてポリメラーゼによって鋳型鎖から相補鎖が生成される際に副生成物として溶液中に遊離するピロリン酸が被検知物質としてその濃度が電気化学的に測定されるので、検出される増幅核酸量に高い信頼性が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明のピロリン酸センサー電極およびこれを用いたリアルタイムPCR実行方法の一例について、具体的に説明する。
【0026】
本発明のリアルタイムPCR実行方法は、標的核酸断片について、プライマー対の存在下においてポリメラーゼを作用させることにより増幅生成を行うPCRを、標的核酸断片の増幅過程において副生成されるピロリン酸の濃度を電気化学的に測定しながら行うものであり、具体的には、増幅工程において鋳型鎖から相補鎖が伸長される際に副生成されるピロリン酸によるリン酸陰イオン(PO43-)を検出することにより、ピロリン酸の濃度を継続的に測定する。
【0027】
このピロリン酸によるリン酸陰イオン(PO43-)は、ピロリン酸センサー電極によって検出される。
具体的には、ピロリン酸センサー電極においては、まず、当該ピロリン酸センサー電極に接触したピロリン酸がオルトリン酸(H3PO4)に加水分解される。
このオルトリン酸(H3PO4)は、水溶液中では、通常、下記反応式1に示されるように平衡の状態で安定に存在するところ、ピロリン酸検知物質の作用により、リン酸陰イオン(PO43-)へと不安定化され、このリン酸陰イオン(PO43-)がピロリン酸センサー電極において下記反応式2に示されるように還元され、これによりピロリン酸センサー電極においてピロリン酸の濃度がピロリン酸電流値として電気化学的に測定される。
【0028】
【化1】

【0029】
リアルタイムPCRに用いるプライマーおよびポリメラーゼとしては、それぞれ適宜のものを使用すればよい。
【0030】
このようなピロリン酸センサー電極は、電極基体の表面に、金属イオンを担持してなる金属含有ポリマーおよび電子吸引性基を有する電子吸引性ポリマーを含有するピロリン酸検知物質がコーティングされてなるものよりなる。
【0031】
電極基体は、例えば金、銀、プラチナ、水銀、ニッケル、パラジウム、シリコン、ゲルマニウム、ガリウム、タングステンなどの金属単体およびこれらの合金や、グラファイト、グラシーカーボンなどの炭素などの導電性材料よりなり、目的に応じて網状やディスク型などとすることができる。ピロリン酸によるリン酸陰イオン(PO43-)の高い検知感度を得るために、電極基体はその表面積が大きいことが好ましい。
【0032】
ピロリン酸検知物質を構成する金属含有ポリマーは、マトリクスポリマーに金属イオンが例えば配位結合により担持されたものである。
【0033】
金属含有ポリマーを構成する金属イオンとしては、例えばマグネシウムイオン、亜鉛イオン、チタニウムイオン、鉄イオン、ニッケルイオン、マンガンイオン、銅イオンなどが挙げられ、特に、銅イオンが好ましい。
【0034】
金属含有ポリマーを構成するマトリクスポリマーは、金属イオンと配位可能なものであることが好ましく、このようなマトリクスポリマーとしては、主鎖または側鎖に金属イオンと親和性のある金属イオン親和性基を含んだものを挙げられ、金属イオン親和性基としては特に限定されないが、具体的には、例えばチェニル基、テニル基、テノイル基、ピリジル基、ピペリジノ基、キノリル基、ピリダジル基、イミダゾール基、ピラゾール基、ピラジン基、ピリダジン基などの複素環や、アミノ基、水酸基、メルカプト基およびカルボキシル基などが挙げられる。
このようなマトリクスポリマーの具体例としては、例えばポリヒスチジン、ポリリジン、ポリシステイン、ポリピリジン、ポリピリミジン、ポリチオフェン、ポリピロール、および、これらを構成する単量体の2種以上の共重合体などが挙げられる。
【0035】
このようなマトリクスポリマーは、金属イオンを中心にして高配位数で錯体状態を形成していることが好ましく、このような錯体状態による極めて密な集積構造によってピロリン酸のオルトリン酸への分解についての高い触媒活性が達成されると推察される。
【0036】
ピロリン酸検知物質を構成する電子吸引性ポリマーは、側鎖に強い電子吸引性を示す官能基よりなる電子吸引性基を有するものにより構成されている。
電子吸引性基としては、具体的には、例えばベンゼンスルホン酸基、ニトロ基、ニトリル基、シアノ基などが挙げられ、これらのうち2種以上が1つの電子吸引性ポリマー分子に含有されていてもよい。
電子吸引性ポリマーの具体例としては、例えばポリスチレンスルホン酸ナトリウムが挙げられる。
【0037】
ピロリン酸検知物質を構成する電子吸引性ポリマー、マトリクスポリマーおよび金属イオンの組み合わせや電子吸引性ポリマーおよびマトリクスポリマーのそれぞれの分子量、並びにこれらの含有割合は、目的の特異的な触媒作用(ピロリン酸のオルトリン酸への分解)が達成される形状となるよう設計されればよい。
具体的な一例を挙げると、金属イオンが銅イオンであり、マトリクスポリマーがポリ−L−ヒスチジン(Mw=39,200)であり、電子吸引性ポリマーがポリスチレンスルホン酸ナトリウム(Mw=70,000)である場合、金属イオン1モルに対して、マトリクスポリマーおよび電子吸引性ポリマーが単量体単位で4モルずつ添加される。
【0038】
ピロリン酸検知物質は、金属イオン、マトリクスポリマーおよび電子吸引性ポリマーを混合することにより、容易に調製することができる。調製方法としては、マトリクスポリマー、金属イオンおよび電子吸引性ポリマーを互いに接触させることができれば特に限定されないが、具体的には、例えば、試験管などにおいて塩酸水溶液などの溶媒中にマトリクスポリマー、金属イオンおよび電子吸引性ポリマーを添加し、ボルテックスミキサーなどで混合することにより、粘性の高いゲル状のピロリン酸検知物質を得る方法や、ビーカーなどにおいて撹拌子および撹拌装置を用いて例えば12時間以上混合する方法などが挙げられる。
【0039】
ピロリン酸センサー電極は、例えば、電極基体の表面上にピロリン酸検知物質を塗布して乾燥させることにより、得ることができる。具体的には、例えばゲル状のピロリン酸検知物質を含有する溶液(ゲルと水の混合状態溶液)をパラフィルム上に滴下し、これに網状の電極基体を浸漬し、その後、風乾することにより、網状のピロリン酸センサー電極が得られる。
【0040】
以上のようなピロリン酸センサー電極は、ピロリン酸を副生成する他の生体反応について用いることもできる。
【0041】
〔PCR装置〕
図1は、本発明のリアルタイムPCR装置の構成の一例を示す外観図である。
このリアルタイムPCR装置10は、検出電流値のピロリン酸濃度への換算などを行う演算部(図示せず)や、温度制御などを行う制御部(図示せず)などを有する装置本体11と、当該装置本体11に対して着脱自在であるマイクロタイタープレート12と、このマイクロタイタープレート12の上面を覆う蓋部材(図示せず)とを有するものである。このマイクロタイタープレート12は、ディスポーザブルタイプとすることができる。
【0042】
このマイクロタイタープレート12は、PCRに必要なPCR試薬が注入される反応チューブ14の多数が、上方に開口した状態で同じピッチで並列に配置された96ウェルのもの、あるいは、反応チューブが同じピッチで並列に配置された8連のものなどとすることができる。
そして、マイクロタイタープレート12においては、反応チューブ14毎に、当該反応チューブ14の下部内壁周面に網状の微小なピロリン酸センサー電極16が作用電極として埋め込まれて設けられている。
【0043】
マイクロタイタープレート12を構成する材料としては、PCRを阻害するものでなければ特に限定されず、例えばポリエチレン、ポリスチレン、ポリビニルなどの有機材料や、ガラス、石英ガラス、シリコン、アルミナ、サファイア、フォルステライト、炭化珪素、酸化珪素、窒化珪素などの無機材料などを挙げることができる。
【0044】
ピロリン酸センサー電極16は、対極および参照電極と共に三電極系で、すなわち、各々ピロリン酸センサー電極16が設けられた反応チューブ14毎に、対極および参照電極が設けられた構成で用いられることが好ましく、これにより、ピロリン酸の濃度の検出精度の向上を図ることができる。
具体的には、マイクロタイタープレート12を覆う蓋部材について、各反応チューブ14に対応する位置のそれぞれに、対極および参照電極が下方に伸びた状態で設けられており、この蓋部材がマイクロタイタープレート12に装着されることにより、各々の対極および参照電極が対応する反応チューブ14内に挿入される構成とされている。
ピロリン酸センサー電極16は、当該ピロリン酸センサー電極16から上方に伸びるリード線(図示せず)により、反応チューブ14の開口14Aを介して、対極および参照電極と接続されている。
【0045】
対極としては、例えば白金線を用いることができ、また、参照電極としては、例えば塩化銀化した銀線を用いることができる。
【0046】
以上のようなリアルタイムPCR装置10においては、次のようにリアルタイムPCRが実行される。すなわち、マイクロタイタープレート12の各反応チューブ14にPCR試薬を分注し、蓋部材を装着することにより反応チューブ14の開口14Aを閉塞し、装置本体11のプレート挿入口11Aからマイクロタイタープレート12を挿入し、装置本体11の電源を投入し、PCR試薬の標的核酸断片、プライマーおよびDNAポリメラーゼの種類に応じて温度制御の設定を行ってから、核酸増幅を開始させ、そして、継続的にピロリン酸の濃度の測定が行われ、標的核酸断片の増幅核酸量が検出される。
【0047】
以上のようなリアルタイムPCR装置によるリアルタイムPCR実行方法によれば、PCRにおいてポリメラーゼによって鋳型鎖から相補鎖が生成される際に副生成物として溶液中に遊離するピロリン酸が被検知物質としてその濃度が電気化学的に測定されるので、蛍光試薬などの目的反応物以外のレポーター分子を使用することなく、高い信頼性の増幅核酸量を検出することができる。
また、ピロリン酸の濃度の検出には電気信号を測定するのみであるために、蛍光分光光度計などを備える必要がなく、リアルタイムPCR装置全体の小型化が図られる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0049】
<実施例1>
40mMの塩酸水溶液100mLにポリ−L−ヒスチジン(poly−L−histidine hydrochloride)20mmol(単量体単位)を溶解し、次いで、50mMのCuCl2 水溶液100mLを添加して金属含有ポリマー溶液を得た。その後、50mMのリン酸緩衝液(pH7.4)を用いて金属含有ポリマー溶液を中和させ、12時間放置した。その後、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(poly(sodium−4−styrene sulfonate))20mmol(単量体単位)を添加し、25℃にて一昼夜撹拌を行うことにより、ゲル状のピロリン酸検知物質を析出させ、これにより、ピロリン酸検知物質含有溶液を得た。
このピロリン酸検知物質含有溶液をディスク型電極(電極径5mm)に摘下した後、風乾し、ピロリン酸センサー電極を作製した。
【0050】
電気化学測定装置「型番832B」(ビー・エー・エス製)を用い、上記のピロリン酸センサー電極と、白金線よりなる対極と、塩化銀化された銀線よりなる参照電極とによる三電極系で、参照電極の電位を基準としてピロリン酸センサー電極および対極間に100mVの定電位を印加し、0〜1μMの範囲における種々の濃度のピロリン酸水溶液について、ピロリン酸電流値を測定した。
結果を図2に示す。
【0051】
図2から明らかなように、得られる電流値はピロリン酸の濃度に依存することが確認された。
【0052】
<実施例2>
図1に示されるリアルタイムPCR装置を作製した。すなわち、96ウェルの反応チューブを有するディスポーザブルタイプのマイクロタイタープレートの各反応チューブの下部内壁にピロリン酸センサー電極を埋め込み、マイクロタイタープレートの蓋部材に、各反応チューブに白金線よりなる対極および塩化銀化した銀線よりなる参照電極が挿入されるようこれらを設けた。
このリアルタイムPCR装置の各反応チューブに、下記に示すPCR試薬と標的核酸断片サンプルA〜Eのいずれかを添加し、参照電極の電位を基準としてピロリン酸センサー電極および対極との間に100mVの定電位を印加した状態において、下記に示す増幅条件でリアルタイムPCRを実行し、標的核酸断片サンプルA〜Eの増幅生成をそれぞれ行うと共に、継続的にピロリン酸電流値を測定した。
結果を図3に示す。ただし、図3においては、標的核酸断片サンプルAに係る増幅曲線をa、標的核酸断片サンプルBに係る増幅曲線をb、標的核酸断片サンプルCに係る増幅曲線をc、標的核酸断片サンプルDに係る増幅曲線をd、標的核酸断片サンプルEに係る増幅曲線をeとして示した。
【0053】
〔PCR試薬〕
・Taq DNA Goldポリメラーゼ「コード4311814」(アプライド バイオシステムズ製) 0.5U
・プライマー1(100μM) 0.5μL
・プライマー2(100μM) 0.5μL
・MgCl2 (25mM) 0.2μL
・dNTPs(deoxyribonucleoside N(A,G,C,T)TriPhosphates)(2mM) 5μL
・PCR緩衝液(pH8.4)「10× Ampli Taq Gold Buffer」(アプライド バイオシステムズ製) 5μL
以上のPCR試薬に、標的核酸断片サンプルA〜Eの1μLを加え、さらに純水を合計50μLとなるよう加えて混合して用いた。
【0054】
ただし、プライマー1は、下記の配列番号1に示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチド、プライマー2は、下記の配列番号2に示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドであり、オペロンバイオテクノロジー株式会社によって合成されたものである。
配列番号1:CTCCCAATCCTTTGACATCTGC
配列番号2:TCGATTTCTCTCTTGGTGACAGG
また、標的核酸断片サンプルA〜Eは、トウモロコシ由来のスターチシンターゼIIb(SSIIb)のDNAであって、それぞれのサンプル核酸コピー数が、各々コピー数250,000、20,000、1,500、125、20であるものである。
【0055】
〔増幅条件〕
まず、95℃において5分間保持した後、95℃において30秒間、60℃において30秒間、72℃において1分間を1サイクルとする増幅処理を40サイクル行い、さらに、72℃において7分間保持した。
【0056】
図3において得られた増幅曲線について、その立ち上がりのサイクル数は、標的核酸断片サンプルにおけるサンプル核酸コピー数が多いほど少なくなっていることが観察され、PCRによる標的核酸断片の増幅速度は、ピロリン酸電流値によって検出されることが確認された。
以上により、既知のコピー数を有する標的核酸断片による増幅曲線をコントロールにしてコピー数とサイクル数とにより検量線を作成することにより、未知のサンプル試料についてのサンプル核酸コピー数を算出することができると期待される。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のリアルタイムPCR実行方法は、遺伝子発現解析や塩基多型解析、病原菌やウィルスの検出や定量、遺伝子組み換え食品における混入率の算出、さらには逆転写酵素(Reverse Transcriptase)を用いたPCR(RT−PCR)による、ノーザン解析に代わる発現量解析などに際するリアルタイムPCR実行方法として特に有用であり、医療、臨床、環境、食品、創薬など広範な分野における応用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明のリアルタイムPCR装置の構成の一例を示す外観図である。
【図2】実施例1の結果を示すグラフである。
【図3】実施例2の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0059】
10 リアルタイムPCR装置
11 装置本体
11A プレート挿入口
12 マイクロタイタープレート
14 反応チューブ
14A 開口
16 網状電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的核酸断片について、プライマー対の存在下においてポリメラーゼを作用させることにより増幅生成を行うポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を、標的核酸断片の増幅過程において副生成されるピロリン酸の濃度を電気化学的に測定しながら行うことを特徴とするリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応実行方法。
【請求項2】
副生成されるピロリン酸によるリン酸陰イオン(PO43-)を検出するピロリン酸センサー電極により、ピロリン酸の濃度が測定されることを特徴とする請求項1に記載のリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応実行方法。
【請求項3】
請求項2に記載のリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応実行方法に用いられるピロリン酸センサー電極であって、
導電性材料よりなる電極基体の表面に、金属イオンが担持されてなる金属含有ポリマーおよび電子吸引性基を有する電子吸引性ポリマーを含有するピロリン酸検知物質がコーティングされてなるものであることを特徴とするピロリン酸センサー電極。
【請求項4】
前記電子吸引性基がベンゼンスルホン酸基であることを特徴とする請求項3に記載のピロリン酸センサー電極。
【請求項5】
前記電極基体の形状が網状またはディスク型であることを特徴とする請求項3または請求項4に記載のピロリン酸センサー電極。
【請求項6】
反応チューブを有し、当該反応チューブ内に請求項3〜請求項5のいずれかに記載のピロリン酸センサー電極が設けられていることを特徴とするリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応装置。
【請求項7】
副生成物としてピロリン酸を生じる生体反応において、生体反応度を電気化学的に継続的に測定するためのピロリン酸センサー電極であって、
副生成されるピロリン酸によるリン酸陰イオン(PO43-)の濃度を検出するものであることを特徴とするピロリン酸センサー電極。
【請求項8】
導電性材料よりなる電極基体の表面に、金属イオンが担持されてなる金属含有ポリマーおよび電子吸引性基を有する電子吸引性ポリマーを含有するピロリン酸検知物質がコーティングされてなるものであることを特徴とする請求項7に記載のピロリン酸センサー電極。
【請求項9】
前記電子吸引性基がベンゼンスルホン酸基であることを特徴とする請求項8に記載のピロリン酸センサー電極。
【請求項10】
前記電極基体の形状が網状またはディスク型であることを特徴とする請求項7〜請求項9のいずれかに記載のピロリン酸センサー電極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−295811(P2007−295811A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−124587(P2006−124587)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【出願人】(000137476)株式会社マルコム (15)
【Fターム(参考)】