リアルタイム肺メカニクスを評価するためのシステムおよび方法
人工呼吸器フローパターンを変更することなく、コンプライアンス、抵抗およびプラトー圧を含むがこれらに限定されない患者の肺メカニクスの正確な推定値を算出するシステムおよび方法を提供する。該患者に取り付けられた気道内圧センサーおよびフローセンサーから、新規の数学的モデルを用いて肺メカニクスの正確な推定値を得る。これらの肺メカニクス(呼吸器系のコンプライアンスおよび抵抗)の推定値は、機械的人工呼吸中に患者の治療効果をモニタリングするため、ならびに、特に拘束性肺疾患患者において、肺胞が過剰に膨張しないようにして気圧障害および/または容量障害を確実に回避するために重要である。これらの肺メカニクスの正確な推定値を算出する本方法は、上記のセンサーから得られた複数のパラメータを用いた線形計算または非線形計算に基づく。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は全体として、人工呼吸器および呼吸モニター技術を含む呼吸療法および生理学の分野、より具体的には、人工呼吸器または患者の気流パターンを変更または中断する必要なく、呼吸器系のコンプライアンス(CRS)、抵抗(RRS)、および吸気プラトー圧(Pplt)を算出するための方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
背景
機械的補助換気は、自発呼吸を機械的に補助するための、または自発呼吸の代わりとなるための有効な手段として広く受け入れられている。機械的人工呼吸は、様々なタイプのフェースマスクまたは鼻装置が関与する非侵襲的人工呼吸でもよく、気管内チューブ(ETT)または気管挿管が関与する侵襲的人工呼吸でもよい。適切な換気法の選択および使用には肺メカニクスの理解が必要である。
【0003】
正常な自発吸入によって胸内は陰圧になり、これによって、大気と肺胞との間で圧力勾配が生じ、その結果、空気が流入する。機械的人工呼吸の間、吸気圧力勾配は、通常、空気源の圧力上昇(陽圧)の結果であるか、または該圧力上昇によって増大する。補助換気を必要とする患者の場合、患者の肺機能不全または呼吸不全を適切に評価および治療するために、CRSおよびRRSをモニタリングすることが必要である。Ppltのモニタリングは、機械的人工呼吸の間に過膨張または過剰な加圧によって肺が傷つけられないようにするための一般的な行為である。
【0004】
RRSは、ある特定の気流を、呼吸回路の直列抵抗の合計、ETT抵抗、および機械的に換気された患者の生理学的気道に強制的に通すのに必要な圧力の量である。CRSは肺伸展性の測定値であり、送達された気体の所定容量に対する肺および胸壁の弾性収縮力を意味する。従って、どのような容量でも、肺の硬直(肺線維症などの場合)によって、または胸壁もしくは横隔膜の限定された偏位(すなわち、張り詰めた腹水、かなりの肥満)によって弾性圧は上昇する。典型的には、CRSおよびRRSは、一定の吸気流速の間に終末吸気ポーズ(EIP)を用いて算出される。CRSは、送達された一回換気量を吸気Ppltで割ることによって推定される。Ppltは、EIPの間に測定される定常状態圧力である。
【0005】
RRSは、最大膨張圧力(PIP)とPpltとの差を吸気流速で割ることによって推定される。人工呼吸器の中には、臨床家が、送達された流速を読み取ることができるように吸気流速の設定があるものもあれば、吸気流速を求めるために臨床家が一回換気量を吸気時間で割る必要がある場合、吸気時間の設定があるものもある。
【0006】
従って、PpltはCRSおよびRRSの算出に必須である。さらに、Ppltのモニタリングはまた、特に、拘束性肺疾患患者において、肺胞の過剰な膨張を回避し、従って、気圧障害および/または容量障害を回避するのにも必須である(ARDS network protocol (July 2008); http://www.ardsnet.org/node/77791)。Ppltの測定において、現行の行為ではEIPを行う必要がある。呼吸不全患者の場合、これは、調節機械換気(CMV)または間欠的強制換気(IMV)の間、一回換気量の直後にEIPを適用することによって行うことができる。
【0007】
残念なことに、EIPの実施には多くの欠点がある。1つには、EIPの期間は、知識のある臨床家が予め設定され、モニタリングしながら強制呼吸中にのみ適用されなければならない。EIPの適用による吸息の一過的中断および呼息の阻止は、一部の患者には不快な場合があり、EIP時に、患者が無意識にまたは意識的に吸気筋肉または呼気筋肉を能動収縮させる原因となる。これは、測定されたPpltの正確さに影響を及ぼすことがある。不正確なPpltの測定値が得られた場合には、結果として得られたCRS推定値およびRRS推定値も不正確になるであろう。前述の通り、患者の呼吸療法および治療はCRS値およびRRS値に基づいているので、不正確なPplt測定値によるCRSおよびRRSの誤った算出は、患者に送達される治療の効果および患者の回復に後で影響を及ぼす可能性があり、恐らく、患者の健康さえ害する可能性がある。
【0008】
さらに、EIPの実施は患者にとって不快な場合があるので、連続して適用することができない。連続した正確なPplt情報がなければ、臨床家は、患者の安全および治療の効果を完全にモニタリングすることができない。
【0009】
EIPの適用による吸息の一過的中断はまた患者-人工呼吸器同期不全の原因にもなり得る。これは呼吸仕事量の増大につながる場合があり、動脈血ガス交換を損なう可能性につながる。
【0010】
最後に、EIPは、圧支持換気(PSV)、連続的気道法(CPAP)、または吸息期の間に一定の吸気流速を用いない他の換気モードの間に適用されることができない(または不正確になることがある)。これらの状況ではEIPを適用できないので、臨床家は、これらの形式を用いた換気時に患者のPplt、CRS、およびRRSを正確に評価できない。患者のPplt、CRS、およびRRSが正しく評価されなければ、療法の効果および/または肺疾患もしくは状態の適切な診断を決定することができない。
【0011】
従って、Pplt、従って、CRSおよびRRSの繰返し正確な測定値を、EIPを用いて得ることは難しい。EIPの適用を必要とすることなくPpltを求めることができれば、CRSおよびRRSをより正確にリアルタイムでも推定することができ、それによって、吸息期を中断する必要がなくなる。このようなアプローチの方が簡単であり、臨床家および患者の両者にとって好ましく、従って、医療行為において必要とされるだろう。
【0012】
さらに、PSV中のPpltの知識があると、CRSおよびRRSが連続してモニタリングされ、人工呼吸器モードを変える必要がなくなるだろう。
【0013】
従って、患者と人工呼吸器の同期不全などの副作用の原因となり得る人工呼吸器の吸気フロー波形パターンを変更する必要なく、Pplt、CRS、およびRRSをリアルタイムで非侵襲的に正確に算出するためのシステムおよび方法が当技術分野において必要とされる。患者と人工呼吸器の同調性および動脈血ガス交換を促進するには、肺メカニクス(すなわち、CRSおよびRRS)に対する機械的人工呼吸および他の治療介入(例えば、気管支拡張薬および気道吸引)の作用の連続した、リアルタイムの、かつ正確な理解が必要とされる。本発明は、この必要性に取り組むように設計されている。
【発明の概要】
【0014】
本発明は、どのようなやり方でも呼吸を中断または変更する必要なく、Pplt、CRS、およびRRSをリアルタイムで非侵襲的に正確に算出するための方法および器具を提供する。これらの呼吸パラメータを正確に算出すると、換気されている患者の治療において役立つ他の情報を正確に確かめることができる。1つの態様において、Pplt、CRS、およびRRSの正確かつ有用な値が処理システムを介してリアルタイムに推定される。
【0015】
本発明は、Pplt、CRS、およびRRSを含むが、これらに限定されない肺メカニクスの正確なリアルタイムの推定値を得るために、一般的に測定される呼吸パラメータ(すなわち、機械的人工呼吸の吸気相中の、ある期間にわたる気道内圧および流速)を利用できる点で特に有利である。結果として得られた肺メカニクス推定値は、機械的人工呼吸モード変化に対する患者反応、肺メカニクスおよび生理機能に対する様々な介入(すなわち、薬物)の作用、肺過膨張のリスク、ならびに肺保護戦略の妥当性をリアルタイムでモニタリングするのに特に有用である。Pplt、CRS、およびRRSの正確かつリアルタイムの推定値はまた、自発呼吸を補助するために、ウィーニングに一般的に用いられる圧力調節換気(pressure regulated ventilation)の間にも有用である。
【0016】
本発明の1つの局面において、前記方法は、非侵襲的に収集された所定のパラメータ、例えば、標準的な呼吸モニターを用いて収集された所定のパラメータを使用することによって、呼吸器系の患者の呼気時定数(τE)の数学的モデルを作成する工程を含む。このようなパラメータには、呼気容量、気流速度、および圧力が含まれるが、これらに限定されない。
【0017】
呼吸モニターおよび人工呼吸器は、典型的には、肺の内外への流れを測定する気道内圧センサーおよび気道フローセンサーを備え、多くの場合、二酸化炭素センサーおよびパルスオキシメーターも備える。これらの時間-波形から、患者の呼吸および/または人工呼吸器との患者の相互作用の様々な局面の特徴付けにおいて用いられる様々なパラメータが選択的に導き出される。これらのパラメータは、患者の吸気流量および呼気流量ならびに圧力波形データを正確に推定するために抜き取られた情報を含む。患者の吸気波形データおよびτEを用いて、患者の吸気Pplt、さらには、患者のCRS、RRS、および派生した肺メカニクスの推定値のリアルタイムで正確かつ連続的な算出が達成される。これらの推定値は全て、人工呼吸器の設定を含む適切な療法の決定に有用である。
【0018】
1つの態様において、リアルタイムPpltならびに患者のCRSおよびRRSおよび派生した肺メカニクスは、全ての呼吸モードの間、受動的肺収縮からのτEを用いて正確にかつ連続して推定される。より好ましくは、リアルタイムPpltならびに患者CRSおよびRRSおよび派生した肺メカニクスは、圧力調節呼吸の間、受動的肺収縮からのτEを用いて正確かつ連続して推定される。
【0019】
本明細書に記載の方法は、ニューラルネットワーク、ファジー論理、混合エキスパートモデル(mixture of experts)、または多項式モデルを含むが、これらに限定されない、パラメータの線形結合を用いてもよく、パラメータの非線形結合を用いてもよい。さらに、複数の異なるモデルを用いて、異なる患者サブセットの肺メカニクスを推定することができる。これらのサブセットは、患者の状態(病態生理)、患者の生理学的パラメータ(すなわち、吸気流速、気道抵抗、一回換気量など)、または他のパラメータ、例えば、人工呼吸器パラメータ(すなわち、終末呼気陽圧すなわちPEEP、患者の気道膨張圧力など)を含むが、これらに限定されない様々な手段によって決定することができる。
【0020】
本発明の好ましい局面において、肺メカニクスを算出するための方法は、吸息中および呼息中の標準的な患者気道式に基づく一義的に導き出された一組の式と、呼気時定数を算出するための式を適用することを含む。この方法論の根底をなす局面は、波形の呼息部分(例えば、圧力、流量、容量など)からの時定数の算出とそれに続く、この呼気時定数および吸気時間波形の中の1つまたは複数の段階からのデータ(所定の時間tでの気道内圧、流量、および容量)を用いた、Pplt、RRS、およびCRSの算出である。好ましい態様において、吸気時間波形からの1つの段階は患者努力の小さい時期であり、典型的には、吸気波形の初期部分または後期部分に見られる。患者努力は未知であり、典型的にはモデル化されないので、患者努力が最も小さい時点が発見されれば、パラメータ推定値の正確さは高まる。
【0021】
本発明の別の局面において、患者において肺メカニクスを算出するための方法はニューラルネットワークの使用を含む。ここで、ニューラルネットワークは、入力データに基づいて患者の肺メカニクス情報を提供し、入力データは、以下のパラメータの少なくとも1つを含む:一回換気量、呼吸回数(f)、PIP、吸気時間、P0.1、吸気トリガー時間、トリガー深さを含むがこれらに限定されない、呼吸モニターによって通常収集される、気道内圧、流量、気道容積、呼気二酸化炭素フロー波形、およびパルスオキシメータープレチスモグラム波形。ここで、τE、Pplt、CRS、およびRRSの正確かつ有用な推定値は出力変数として提供される。
【0022】
上述の方法において、ニューラルネットワークは、ティーチングデータを得るために患者試験集団の臨床試験によって訓練され、このティーチングデータは前述の入力情報を含む。ティーチングデータはニューラルネットワークに提供され、それによって、ニューラルネットワークは、CRSおよびRRSに対応する出力変数を提供するように訓練される。
【0023】
本発明は、システム(コンピュータ処理システムまたはデータベースシステムを含む)として、方法(入力データを収集および処理するコンピュータ化された方法、ならびにこのようなデータを評価して出力を得るための方法を含む)、器具、コンピュータ可読媒体、コンピュータプログラム製品、またはコンピュータ可読メモリに触知可能に入れられたデータ構造を含む非常に多くのやり方で実行することができる。いくつかの本発明の態様が以下で議論される。
【0024】
システムとして、本発明の態様は、入力装置および出力装置を有するプロセッサユニットを含む。プロセッサユニットは、入力パラメータを受け取り、入力を処理し、肺メカニクス情報に対応する出力を提供するように動作する。次いで、この出力を用いて、人工呼吸器などの外部装置を制御することができる。データ処理は、マイクロコントローラ、ニューラルネットワーク、並列分散処理システム、神経形態学的(neuromorphic)システムなどの様々な手段によって行うことができる。
【0025】
患者のPplt、CRS、RRS、およびτEをリアルタイムで正確に算出する方法として、本発明は、本明細書に記載の式を用いて、好ましくは、プログラム命令、処理システム、またはニューラルネットワークを搭載したコンピュータ可読媒体プログラムを用いて所定の入力変数(パラメータ)を処理する工程を含む。
【0026】
プログラム命令を搭載したコンピュータ可読媒体として、本発明の態様は、入力変数を受信し、入力を処理し、CRSおよびRRSを示す出力を提供するためのコンピュータ可読暗号装置を含む。好ましい態様において、処理は、ニューラルネットワークを利用する工程を含む。前記方法は、得られた出力に応答して人工呼吸器を調節する工程をさらに含んでもよい。
【0027】
本発明の方法は、コードが書かれているコンピュータ可読媒体を有するコンピュータプログラム製品として実行されてもよい。プログラム製品は、プログラム、およびプログラムを保持する信号保持媒体を含む。
【0028】
器具として、本発明は、少なくとも1つのプロセッサ、プロセッサとつながっているメモリ、および本発明の方法を実行する、メモリの中にあるプログラムを含んでもよい。
【0029】
本発明の他の局面および利点は、例として本発明の原理を例示する添付の図面と組み合わされて、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【0030】
本明細書において言及もしくは引用された、または優先権の恩典が主張されている全ての特許、特許出願、特許仮出願、および刊行物はその全体が、本明細書の明白な開示と一致しない程度まで参照により本明細書に組み入れられる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に従って肺メカニクスが推定される患者の図である。
【図2】実施例1に記載した群におけるPplt測定値の相対度数を示したヒストグラムである。
【図3】実施例1の各対象の測定されたPplt範囲のグラフ図である。
【図4A】3つの異なる吸入流量(0.5L/S、0.75L/S、および1L/S)を有する3人の無作為な対象(A、B、およびC)からのτE(青色ダイアモンド)のグラフ図である。PIFとPEFとのギャップ(X軸)に応じて、終末吸気ポーズによって得られたτEPplt(赤色四角)、およびτEPpltとτEとの差(緑色三角)と比較した。次いで、本発明によれば、最大吸気流量(PIF)-最大呼気流量(PEF)はτEの補正率になる。τEPplt=RRS*CRS。
【図4B】3つの異なる吸入流量(0.5L/S、0.75L/S、および1L/S)を有する3人の無作為な対象(A、B、およびC)からのτE(青色ダイアモンド)のグラフ図である。PIFとPEFとのギャップ(X軸)に応じて、終末吸気ポーズによって得られたτEPplt(赤色四角)、およびτEPpltとτEとの差(緑色三角)と比較した。次いで、本発明によれば、最大吸気流量(PIF)-最大呼気流量(PEF)はτEの補正率になる。τEPplt=RRS*CRS。
【図4C】3つの異なる吸入流量(0.5L/S、0.75L/S、および1L/S)を有する3人の無作為な対象(A、B、およびC)からのτE(青色ダイアモンド)のグラフ図である。PIFとPEFとのギャップ(X軸)に応じて、終末吸気ポーズによって得られたτEPplt(赤色四角)、およびτEPpltとτEとの差(緑色三角)と比較した。次いで、本発明によれば、最大吸気流量(PIF)-最大呼気流量(PEF)はτEの補正率になる。τEPplt=RRS*CRS。
【図5】吸息および呼息RRS(RRSPplt-RRSτE)に及ぼす流量差(PIF-PEF)の影響のグラフ図である。流量差RRSの補正率として、式y=5.2487x-0.8393を使用した。式中、yはRRSτEの補正率であり、xはPIF-PEFである。
【図6A】算出したPplt(τE)対測定したPpltの回帰分析である。r2=0.99(p<0.001)に留意のこと。
【図6B】算出したPplt(τE)と測定したPpltとの差を示すブランドアルトマングラフである。偏りは本質的に0であり、測定の精度は優れている。
【図6C】算出したPplt(τE)と測定したPpltとの直線フィットグラフである。r2=0.99であることに留意のこと。
【図7A】τEからのCRSとPpltからのCRSとの回帰分析である。r2=0.97(p<0.001)であることに留意のこと。
【図7B】CRSPpltとCRSτEとの差を示すブランドアルトマングラフである。偏りは本質的に0であり、測定の精度は優れている。
【図7C】CRSτEとCRSPpltとの直線フィットグラフである。
【図8A】τEからのRRSとPpltからのRRSとの回帰分析である。r2=0.92(p<0.001)であることに留意のこと。
【図8B】RRSPpltとRRSτEとの差を示すブランドアルトマングラフである。偏りは本質的に0であり、測定の精度は優れている。
【図8C】RRSPpltとRRSτEとの直線フィットグラフである。
【図9】隠れ層を示すニューラルネットワークを示す。
【図10】バックプロパゲーションを有する適応システムの入力および出力を示す。
【図11】PSV PpltとIMV Ppltとの直線フィットグラフである。
【図12】PSV CRSとIMV CRSとの直線フィットグラフである。
【図13】圧支持換気中の一定しない患者努力のグラフ図である。
【図14】図13に示した同じ呼吸の流量曲線および容量曲線のグラフ図を示す。
【図15】吸息の全ての点において算出されたPplt曲線である。
【図16】コンプライアンス推定のための妥当な点が示された気道内圧曲線である。
【図17】肺パラメータを正確に推定するのに使用することができる点が示されたCRS曲線である。
【図18】図16に示した呼吸の吸息部分からのRRS(抵抗)曲線である。
【図19】図19Aは、気道内圧(Paw;濃い線の曲線)およびPes(食道圧;薄い線の曲線)のグラフ図である。図19Bは、流量(濃い線の曲線)および容量(薄い線の曲線)を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
詳細な説明
Pplt、CRS、およびRRSの現行の標準的な推定値は、陽圧膨張中の患者において、EIP(すなわち、少なくとも0.5秒間のポーズ)中の肺膨張圧力を測定することによって得られる。残念なことに、患者の不快感、臨床家の入力が必要なこと、および注意深いモニタリング、患者の介入による不正確な測定値、患者と人工呼吸器との同期不全、連続して適用できないこと、ならびにある特定の種類の換気を用いてEIPを実施できないことを含めてEIPの実施にはいくつかの欠点がある。これらの欠陥に対処するために、本発明は、EIPを必要とすることなく、受動的肺収縮からの修正τE推定値を用いて、Pplt、CRS、およびRRS推定値を正確に算出するためのシステムおよび方法を提供する。結果は、呼吸間の肺機能および治療介入の影響をモニタリングすることができる、肺メカニクスの連続したリアルタイムの推定値である。
【0033】
吸気Ppltは、機械的人工呼吸中の患者のCRSおよびRRSを算出するためのパラメータである。Ppltのモニタリングはまた、特に、拘束性肺疾患患者において、肺胞が過剰に膨張しないようにする、従って、気圧障害および/または容量損傷を回避するのに必須である(ARDS network protocol (July 2008); http://www.ardsnet.org/node/77791)。
【0034】
本発明によれば、機械的人工呼吸、または患者肺系と接続して機能する任意の装置を受け入れている患者の肺メカニクスを正確にかつリアルタイムで推定するための方法は、(a)患者の呼吸パラメータを受信する工程;(b)プロセッサによって、呼吸パラメータから修正τEを算出する工程;(c)該修正τEを数学的モデルに入力する工程;ならびに(d)該数学的モデルから、Pplt、CRS、および/もしくはRRS、または他の肺メカニクスに対応する少なくとも1つの出力変数を得る工程を含む。
【0035】
1つの態様において、数学的モデルは、肺メカニクスの推定値を提供するように訓練されたニューラルネットワークである。ニューラルネットワークは、モニタリングされた人工呼吸器の圧力および流量を臨床データ入力として用いて、対象群の臨床試験をニューラルネットワークに含めるように訓練することができる。
【0036】
受動的肺呼息のτEは、指数関数的減衰に基づく、完全に息を吐き出すのに必要な時間のパラメータ表示であり、呼吸器系の機械的特性についての情報を含む(Guttmann, J. et al.,「Time constant/volume relationship of passive expiration in mechanically ventilated ARDS patients」, Eur Respir J., 8: 114-120 (1995);およびLourens, MS et al., 「Expiratory time constants in mechanically ventilated patients with and without COPD」, Intensive Care Med, 26(11): 1612-1618 (2000))。τEはCRSおよびRRSの積と定義される(Brunner, JX et al., 「Simple method to measure total expiratory time constant based on the passive expiratory flow volume curve」, Crit Care Med, 23:1117-1122(1995))。τEは、単に、呼気容量(V(t))を呼気流量
で割ることによってリアルタイムで推定することができる。すなわち、
(Brunner, JX et al.,「Simple method to measure total expiratory time constant based on the passive expiratory flow volume curve」, Crit Care Med, 23: 1117-1122(1995);およびGuttmann, J. et al.,「Time constant/volume relationship of passive expiration in mechanically ventilated ARDS patients」, Eur Respir J., 8: 114-120(1995))。この方法から、呼息中の各点のτE推定値が得られる。
【0037】
残念なことに、τEを推定するための現行の方法は、特に、機械的人工呼吸器とつながっている患者では、最初に開口している間に人工呼吸器呼気弁からの干渉の可能性があるために、いくらか不正確である。さらに、現行のτE推定値は呼息の終末部分を含む。これは、(1)肺の中の肺胞空隙が不均衡なために不正確になることのある呼吸器系粘弾性に起因し得る、τEの観察可能な遅い(ゆっくりとした)区画動態的挙動(compartment kinetic behavior)の原因となることがあり(Guerin, C. et al, 「Effect of PEEP on work of breathing in mechanically ventilated COPD patients」, Intensive Care Med., 26(9):1207-1214(2000));かつ(2)呼息終末の流量が少なく、0に近い数字で割るために、
のより不安定な値を生じる。さらに、人工呼吸器呼気弁の抵抗は呼息終末でさらに大きくなるので、これも、現行の方法を用いて正確なτE推定値が求められるかどうかに影響を及ぼすことがある。
【0038】
従って、本発明の1つの態様では、より正確な修正τE推定値は、中間およびより信頼性の高い呼息部分の間だけ呼気波形を用いることによって得られる。例えば、呼息開始後0.1〜0.5秒の呼気波形の傾きの平均をとること(例えば、平均関数)は、より信頼性の高いτE推定値を得るための方法の1つである。最初に開口している間ならびに残りの患者努力の間において人工呼吸器呼気弁からの起こり得る干渉を小さくするためには、呼息の最初の部分(0〜0.1秒)は除外される。前記の通り、終末呼息に起因する問題に対処するためには、呼息終末(0.5秒移行)は除外される。
【0039】
図13および図14は、Pplt、RRS、およびCRSの算出において有用な様々な呼吸パラメータのグラフ図である。図13は、圧支持換気(PSV)モード中の一定しない患者努力からの呼吸を示す。表示は、最小患者努力を表す気道内圧曲線(Paw)上の最後の吸息点を示し、Pplt、RRS、およびCRSを推定するのに用いられる。
【0040】
図14は、図13の同じ呼吸の流量曲線および容量曲線を示す。表示した点は、肺メカニクスに関連する値(Pplt、RRS、およびCRS)が算出された点である。これらの点は、Paw曲線上での最後の吸息点に対応する。図14に示した通り、τE推定値に基づくPplt、RRS、およびCRSの算出は、通常、0.1L/secより大きな流量に限られる。τEをより正確に推定するための別のアプローチは中央値関数を含む。例えば、より正確なτE推定値は、呼息中の複数のτE推定値の平均値または中央値をとることによって導き出すことができる。有利なことに、これらの時定数が推定される場所を限定することによって、さらに良好な時定数値が得られる。呼息の高流量領域および低流量領域は間違った推定値を生じる可能性が高く、従って、除外される。
【0041】
図15は、吸息の全ての点のτE推定値からPpltが算出されたPplt曲線を示す(呼息は除外しなければならない)。Pplt曲線上の表示は最後の妥当な吸息部分にあり、図14に示した吸息終末に対応する。
【0042】
ある特定の態様では、流量が最大吸気流量の80%であるが、0.1LPSより大きな呼息部分を用いたτE推定値の中央値から、より正確なτE推定値が得られる。別の態様では、複数回の呼吸のいくつかの時定数推定値を平均するか、またはメジアンフィルターをかけて、呼吸領域のさらに良好なτE推定値を得ることができる。
【0043】
別の態様では、呼息部分は、呼気容量のパーセントによって定義することができる。ある特定の態様では、容量および/または最大呼気流量のパーセントの様々な組み合わせからのτE推定値の中央値から、より正確なτE推定値が得られる。1つの態様において、最大呼気流量からのパーセントは、最大呼気流量の95%〜20%にある。別の態様において、最大呼気流量からのパーセントは、最大呼気流量の95%〜70%にある。さらに別の態様において、呼気容量の80%〜呼気容量の20%の呼息部分が用いられる。
【0044】
抵抗は流量の関数であり、τEは抵抗の関数であるので、τE値は流速によって異なることがある。別の態様では、良好なτE推定値は、呼息領域を選択して、吸気流速に基づいてτEを推定することによって得ることができる。例えば、良好なτE推定値は、IMV、VC+(容量調節プラス)、または補助調節などの、吸気流速が一定の換気モードにおいて得ることができる。
【0045】
呼息中に、機械的に換気された患者において算出されるτEの抵抗部分は、3つの直列抵抗の合計、すなわち、生理学的気道抵抗(Raw)、気管内チューブの課せられた抵抗(imposed resistance)(RETT)、および人工呼吸器呼気弁の抵抗(Rvent)の合計である全抵抗(RTOT)である。
RTOT=Raw+RETT+Rvent
【0046】
本発明によれば、人工呼吸器呼気弁によって加えられる抵抗は、改善された、正確な修正τE推定値を得るために、前記で導き出された通りにτE推定値から除外することができる。
【0047】
従って、Rventは、
によって算出することができる。
式中、Pawは気道内圧であり、PEEPは終末呼気陽圧であり(適用された場合。適用されなければ0)、
は、呼息気道流速である。
【0048】
本発明のより正確な修正τE推定値を算出するために、最初に、τEtotal(t)を前記の通りに算出する。次いで、以下の式から、人工呼吸器の抵抗を除外した患者τEの式が導き出される。
CestがτEtotalからのコンプライアンス推定値である
、次に、
τEtotal(t)=(RRS(t)+Rvent(t))*Cest
τEtotal(t)=(RRS(t)*Cest)+(Rvent(t)*Cest)。
【0049】
Crsの推定値としてCestを用いると、以下のより正確な時定数推定値が得られる。
τE(t)=τEtotal(t)-(Rvent(t)*Cest)
【0050】
前記の通りにτEが推定および補正されたら、吸気波形データを用いて、Pplt、RRS、CRS、および他の肺メカニクスを推定する。
【0051】
CRSおよびRRS、従って、Ppltを以下の通りに本発明に従って正確に推定することができる。
【0052】
CRSの算出は以下の通りに導き出される。
:気道式。
:両側にCRSを掛けて、CRSの以下の式を導き出す。
式中、Pawは気道膨張圧力であり、PEEPは終末呼気陽圧であり、VTは一回換気量であり、
は吸気流速である。
【0053】
RRSの算出は以下の式を含む。
:気道式。
:VT/CRSにRRS/RRSを掛ける。
:右側を簡約して、RRSについて以下の式を導き出す。
【0054】
Ppltの算出は、
Pplt=(VT/CRS)+PEEP
の式、またはその代わりにとして、
の式を含む。
【0055】
前記の方法論のさらなる改善点として、抵抗は流量によって大きく異なるので、τEは流量によって異なることに留意しなければならない。従って、(最大吸気流量(PIF)-最大呼気流量(PEF))が変化するときに、τE推定値の誤りを予測することができる。この誤りを補正するために、τEのRRS成分に補正率を適用することができる。この補正率は、換気モード、患者努力の量、PIFおよびPEFに左右される可能性が高い。しかしながら、図5に記載の患者の適正な補正率はy=5.2487*(PIF-PEF)-0.8393と判明した。次いで、本発明によれば、最大吸気流量(PIF)-最大呼気流量(PEF)はτEの補正率になる。
【0056】
前記の式では、使用される流量、圧力、および容量の値が波形でなく、1つ1つの測定値であると認識することが重要である。好ましい態様では、これらの測定は、容量、流量、および圧力の値が吸息中の時間の一点と関連づけられるように同時に行われる。気道式は、患者の吸気筋肉によって発生する吸気努力の項を含まないので、これらの値を測定する理想的な場所は吸気努力が最小の時である(気道式における吸気努力によって引き起こされる誤りを避けるため)。従って、これらの測定が行われる好ましい点は、努力が最小の吸息点である。しかしながら、瞬間的な患者努力は食道圧カテーテルなどの侵襲的方法でしか正確に算出できないので、最小患者努力の点を突き止めることは難しい場合がある。しかしながら、典型的な呼吸では、小さな患者努力は吸気の終末近くに(または時として開始時に)起こることが多い。
【0057】
呼気時定数を用いると、プラトー圧、抵抗、コンプライアンス、および関連する呼吸パラメータの個々の推定値を吸気波形の各点で推定することができる。吸息全体にわたって、これらのパラメータを推定すると、流量依存性の抵抗推定値、呼吸全体にわたるコンプライアンス、プラトー圧、および他のパラメータの様々な推定値を含む有用な情報が得られる。推定全体にわたる、これらの推定値からのデータは、患者努力、より正確な平均抵抗およびコンプライアンス、ならびに正確なトリガリング(triggering)情報を含むが、これらに限定されない他の導き出されたパラメータをさらに良好に推定するのに役立ち得る。
【0058】
1つの態様では、正確なパラメータ推定のための最小努力点は、吸息全体にわたってPplt曲線を算出し、Ppltが最大であった点を用いることによって求められる。別の態様において、患者努力の小さな点は、コンプライアンス値が最小であった吸気中の位置を発見することによって突き止められる。これらの態様は両方とも、患者努力がコンプライアンス推定値を増加させ、プラトー圧を減少させる傾向があるという事実に頼っている。
【0059】
例えば、図16にある点A、B、およびCは、τE、Pplt、RRS、およびCRSの算出において容量、流量、および圧力の値を特定するのに使用することができるコンプライアンスの点の例を示す。図17は、肺パラメータの正確な推定に使用することができる、呼吸中に算出されたコンプライアンスおよび2つの最小点(x=82およびx=186と表示した)を示す。図18は、この呼吸の吸息部分からの抵抗曲線を示す。抵抗は流量依存性であり、流量が減少するにつれて、抵抗も減少する。
【0060】
図19Aおよび図19Bは、低いIMV速度によって増大された、PSV中に大きな吸気努力のあった患者データを示す。最初の呼吸(左側)は、PSV呼吸の一回換気量が同じ対照呼吸(IMV)である。図19Aは、気道内圧(Paw;濃い線の曲線)およびPes(食道圧;薄い線の曲線)を示した図である。図19Bは、流量(濃い線の曲線)および容量(薄い線の曲線)を示した図である。
【0061】
リアルタイム環境では、呼吸の中には、咳、人工呼吸器と闘っている患者、人工呼吸器による不十分なトリガリング、センサーノイズまたはエラー、および他の問題によって汚染されるものもある。従って、汚染され、かつ正常範囲外の推定値につながる呼吸を拒否することが有利である。汚染されていない呼吸結果の一群を平均するか、または汚染されていない呼吸結果の一群の中央値を用いると、呼吸パラメータのさらに良好な全体推定値が得られる。1つの態様では、正常範囲外のコンプライアンス値を有する呼吸を排除した。さらに、よくある呼吸パラメータをコンピュータで計算し、正常値と比較する。呼吸パラメータには、最大吸気圧、一回換気量、吸気時間、呼気時間、平均気道内圧などが含まれる。
【0062】
本明細書に記載の方法論に従って求められるPplt、CRS、およびRRS推定値は、患者肺系と接続して機能する全ての装置に特に有用である。意図される装置には、人工呼吸器、呼吸モニター、肺機能機器、睡眠時無呼吸システム、高圧装置などが含まれるが、これらに限定されない。当業者によって理解される通り、このような装置は、気道内圧、流量、気道容積、一回換気量、f、PIP、吸気時間、P0.1、吸気トリガー時間、トリガー深さ、呼気期間、ならびに気道、気管内チューブ、および人工呼吸器呼気弁の抵抗などの患者呼吸パラメータに関するデータを得るために様々なセンサーおよび/または処理システムを備える。意図される人工呼吸器には、以下の換気モードのいずれか1つまたは複数を実現する人工呼吸器が含まれる:従量式換気(volume-cycled ventilation);補助調節換気(A/C);同期的間欠的強制換気(SIMV);圧サイクル式換気(pressure-cycled ventilation);圧支持換気(PSV);圧規定換気(PCV);非侵襲的陽圧換気(NIPPV);および持続気道内陽圧(CPAP)または2相性気道内陽圧(BIPAP)。
【0063】
本発明の1つの態様では、肺の状態または疾患(閉塞性睡眠時無呼吸における無呼吸の検出および治療ならびにCOPDおよびARDS検出を含む)を診断するために、ならびに/または介入効果を評価するために、Pplt、CRS、およびRRSの連続したリアルタイムの推定値が求められる。例えば、患者CRSおよびRRSの連続した正確な知識は、患者に合ったより正確な人工呼吸器設定の確立において、および薬学的用途(例えば、気管支拡張薬)において特に有用である。薬剤を適用している間の患者肺メカニクスの連続したかつ正確な知識は、治療効果の評価および適切な投与量の決定において特に有用である。さらに、本発明からのリアルタイムデータは、患者の換気に影響を及ぼす妨害物または障害物を決定するのに使用することができる。例えば、本発明は、粘液または他の妨害物を取り除くために呼吸チューブがいつ吸引を必要とするのか確かめるのに用いることができ、またはチューブがいつねじれる可能性があるのか確かめることができる。
【0064】
別の態様では、Pplt、CRS、およびRRSのリアルタイム推定値は、気道式を適用することによって患者努力の推定値を推定または改良するのに用いられる(例えば、予測される気道内圧と実際の気道内圧との差としてPmusを算出する)。これはまた、患者努力のオンセットおよびオフセットを正確に測定することによって患者同調性を確認および最適化するのにも有用である。人工呼吸器のオントリガリング(on-triggering)およびオフトリガリング(off-triggering)の最適化は手作業でまたは自動で実行することができる。
【0065】
別の態様では、リアルタイム推定値は、患者の健康状態および治療に対する応答を追跡するのに用いられる。PEEPの変化中に追跡するコンプライアンスから、肺は最適に換気されていることが分かる。抵抗の変化から、患者気道を弛緩させる薬物が予想通り働いていることが分かる。生理学的パラメータを用いると、人工呼吸器によっておよび薬学的にともに治療を滴定および最適化することが可能になる。
【0066】
1つの態様では、ニューラルネットワークなどのモデルを臨床データによって予め訓練し、標準的な呼吸モニターを用いて、入力パラメータを非侵襲的に調節することができる。ニューラルネットワークは、前記の非侵襲的に得られたパラメータを用いて、生理機能および課せられた肺メカニクスを予測するように訓練される(だが、所望であれば、侵襲的パラメータがシステムに加えられてもよい)。望ましい予測度を有するモデルが実現および検証されたら、患者肺メカニクスの正確な予測変数として、実際の肺メカニクス変数などのネットワーク出力が用いられてもよい。
【0067】
ニューラルネットワークの説明
人工ニューラルネットワークは、ヒト脳などの生物学的ニューラルネットワークの機能を大まかにモデル化している。従って、ニューラルネットワークは、典型的には、相互接続したニューロンからなるシステムのコンピュータシミュレーションとして実行される。特に、ニューラルネットワークは、相互接続したプロセシングエレメント(PE)からなる階層的コレクションである。これらのエレメントは典型的には層状に並べられ、入力層は入力データを受け取り、隠れ層はデータを変換し、出力層は望ましい出力を生じる。ニューラルネットワークの他の態様も使用することができる。
【0068】
ニューラルネットワークにある各プロセシングエレメントは複数の入力シグナル、すなわちデータ値を受け取り、データ値は1つの出力をコンピュータで計算するように処理される。前の層にあるPEの出力から、または入力データから入力が受け取られる。PEの出力値は、入力データ値間の関係を特定する活性化関数または伝達関数として当技術分野において公知の数式を用いて算出される。当技術分野において公知の通り、活性化関数は、閾値、すなわち偏りエレメントを含んでもよい。下位ネットワークにあるエレメントの出力は上位のエレメントへの入力として提供される。1つまたは複数の最上位エレメントが最終的なシステム出力、すなわち出力を生じる。
【0069】
本発明の文脈において、ニューラルネットワークは、前記の定量化された患者努力を非侵襲的に推定するのに用いられるコンピュータシミュレーションである。本発明のニューラルネットワークは、ネットワークを構成するプロセシングエレメントの数、配置、および接続を指定することによって構築されてもよい。ニューラルネットワークの簡単な態様は、プロセシングエレメントの完全に接続されたネットワークからなる。図9に示した通りに、ニューラルネットワークのプロセシングエレメントは、以下の層にグループ分けされる:気道内圧センサーおよびフローセンサーから収集されたおよび/または導き出されたパラメータがネットワークに入力される入力層30;プロセシングエレメントの1つまたは複数の隠れ層32;ならびに結果として生じる患者努力予測36が生じる出力層34。接続の数、結果として、接続重みの数は、それぞれの層30、32、34におけるエレメントの数によって固定される。
【0070】
ニューラルネットワークの最も一般的な訓練法は、望ましい出力とネットワーク出力との平均2乗差(mean squared difference)を最小限にすることによるシステムパラメータ(通常、重みと呼ばれる)の反復改善に基づいている。入力はニューラルネットワークに適用され、ニューラルネットワークはデータをその階層構造に通し、出力がもたらされる。このネットワーク出力は、その入力に対応する望ましい出力と比較され、誤りが算出される。次いで、この誤りは、次に特定の入力がシステムに適用された場合にネットワーク出力が望ましい出力に近づくように、システムの重みを調整するために用いられる。訓練アルゴリズムと呼ばれる、重みを調整する、可能性のある多くの方法論がある。図10に示した通り、最も一般的なものは、誤りについて、それぞれの重みの責任(responsibility)を算出し、それぞれの重みに対して勾配降下学習規則(gradient descent learning rule)を使用するために、この誤りからの局所勾配(local gradient)を算出することを伴うバックプロパゲーションと呼ばれる。
【0071】
前述の詳述に基づいて、本発明は、コンピュータソフトウェア、ファームウェア、ハードウェア、またはその任意の組み合わせもしくはサブセットを含む、コンピュータプログラミングまたはエンジニアリング法を用いて実施することができる。コンピュータ可読暗号手段を有する、結果として生じた、このような任意のプログラムは1つまたは複数のコンピュータ可読媒体の中で具体化または提供されてもよく、それによって、本発明によるコンピュータプログラム製品、すなわち、製造物品が作られる。コンピュータ可読媒体は、例えば、固定(ハード)ドライブ、ディスケット、光ディスク、磁気テープ、半導体メモリ、例えば、読み出し専用メモリ(ROM)など、あるいは任意の伝達媒体/受信媒体、例えば、インターネットまたは他の通信ネットワークもしくは通信リンクでもよい。コンピュータコードを搭載している製造物品は、ある媒体から直接コードを実行することによって、ある媒体から別の媒体にコードをコピーすることによって、またはネットワークでコードを伝達することによって製造および/または使用されてもよい。
【0072】
コンピュータサイエンスの当業者であれば、記載の通りに作製されたソフトウェアと、一般用または特殊用途の適切なコンピュータハードウェアを組み合わせて、本発明の方法を具体化したコンピュータシステムまたはコンピュータサブシステムを容易に作製することができるであろう。本発明を製造、使用、または販売するための器具は、本発明を具体化する、ソフトウェア、ファームウェア、ハードウェア、またはその任意の組み合わせもしくはサブセットを含む、中央演算処理装置(CPU)、メモリ、記憶装置、通信リンクおよび通信装置、サーバー、I/O装置、または1つもしくは複数の処理システムの任意のサブコンポーネントを含むがこれらに限定されない1つまたは複数の処理システムでもよい。ユーザー入力は、キーボード、マウス、ペン、音声、タッチスクリーン、またはアプリケーションプログラムなどの他のプログラムを介した入力を含む、人間がデータをコンピュータに入力することができる他の任意の手段から受け取られてもよい。
【実施例】
【0073】
実施例1
モニタリングされた換気パラメータに基づいてリアルタイムで肺メカニクスを正確に推定するための本システムおよび本方法を、機械的人工呼吸を必要とする呼吸不全にある成人患者、すなわち陽圧換気を受けている患者三十(30)人からなる不均質な集団を用いて検証した。
【0074】
患者1人1人について、間欠的強制換気(IMV)モードにおいて、吸気フロー波形および0.5秒の終末吸気ポーズを用いてPpltを記録した。記録された吸気流速は0.5〜1.0L/sであった。
【0075】
図1に示した通り、人工呼吸器の呼吸回路の患者気管内チューブ10とYピース15との間に配置された一体型圧力センサー/フローセンサー5(NICO, Respironics)からのデータを、圧力、流量、および容量データを測定および記録するための本明細書に記載の方法を実行するソフトウェア(Convergent Engineering)を備えるラップトップ型コンピュータ20に向けた。以下の表1ならびに図2および図3に示した通り、Ppltデータは、研究された患者集団において10〜44cm H2Oであった。
【0076】
(表1)患者のデモグラフィック
【0077】
3つの異なる吸入流量(0.5L/S、0.75L/S、および1L/S)を有する3人の無作為な患者(A、B、およびC)からτEを入手し、終末吸気ポーズ(EIP)によって得られたτEPpltと比較した。図4A〜4Cに示した通り、τEPpltは、PIFとPEFとのギャップ(X軸)に応じてτEと異なる。図4A〜4Cにおいて、τEを青色ダイアモンドで示し、τEPpltを赤色四角で示した。τEPpltとτEの差を緑色三角で表した。次いで、PIF-PEFはτEの補正率になる(Guerin, C. et al., 「Effect of PEEP on work of breathing in mechanically ventilated COPD patients」, Intensive Care Med, 26(9): 1207-1214 (2000)。
【0078】
吸息および呼息RRS(RRSPplt-RRSτE)に及ぼす最大吸気流速と最大呼気流速の流量差(PIF-PEF)の影響を導き出すために、流量差RRSの補正率として、式y=5.2487*(PIF-PEF)-0.8393を使用した。図5 吸息に及ぼす流量差の影響。PIF=最大吸気流速、PEF=最大呼気流速、RRSPplt=Ppltからの患者RRS、RRSτE=τEからの患者RRS。
【0079】
検証データの分析:
前記で算出した補正を含む、算出したPpltと実際のPplt(終末吸気ポーズ)との回帰分析を図6Aの表に示した。図6Bに示されるのは、r2相関間の差が0.99、偏り=0.00125、95%許容範囲(limit of agreement)=-1.347〜1.376を示すブランドアルトマングラフである。図6Cは、比例値=1.006を示す直線フィット図を示す。
【0080】
CRS算出の分析:
図7Aは、τEから算出したCRSとPpltから算出した標準的なCRSとの回帰分析のグラフ図である。r2=0.97である。図7Bは、CRSPpltとCRSτEとの差のブランドアルトマングラフを示す。偏り=0.0000199、95%許容範囲={-0.00634〜0.00638}。図7Cは、CRSτEとCRSPpltとの直線フィットグラフである。比例=0.948。
【0081】
RRS算出の分析:
図8Aは、τEから算出したRRSとPpltから算出した標準的なRRSとの回帰分析のグラフ図である。r2=0.918。図8Bは、RRSPpltとRRSτEとの差のブランドアルトマングラフを示す。偏り=0.00000008、95%許容範囲={-2.15〜2.15}。図8Cは、RRSPpltとRRSτEとの間の直線フィットグラフである。比例=0.923。
【0082】
実施例2
IMVとEIPを必要とすることなく、PSV中の受動的肺収縮からのτEを用いたPpltおよびCRSの連続したかつ正確な推定値を、機械的人工呼吸を必要とし、かつPSVを受けている呼吸不全にある成人患者二十四(24)人の集団を用いて検証した。
【0083】
24人の成人は10人の男性および14人の女性からなり、年齢は56.1±16.6歳、体重は79.9±28.8kgであった。患者の呼吸不全の原因はばらばらであり、PSVによって自発呼吸していた。PSVは5〜20cm H2Oであった。同じ一回換気量を適用して、PSVおよびIMVとEIPを同じ患者において比較した。PSVの間は、呼気容量およびフロー波形からτEを積分することによってPpltおよびCRSを得た。IMVおよびEIPの間は、EIP時の気道内圧波形の圧力プラトーを見ることによってPpltを得た。回帰分析およびブランドアルトマン分析を用いて、データを分析した。αを.05に設定した。
【0084】
PSVの間、τE法からのPpltおよびCRSは、それぞれ、19.65±6.6cm H2Oおよび0.051±0.0124ml/cm H2Oであった。IMVとEIPの間、PpltおよびCRSは、それぞれ、20.84±7.17cm H2Oおよび0.046±0.011ml/cm H2Oであった(全ての測定値において有意差なし)。両方の測定法を比較すると、PpltとCRSとの関係は、それぞれ、r2=0.98(図11)およびr2=0.92(図12)であった(p<0.05)。PpltおよびCRSのブランドアルトマンプロットは、それぞれ、1.17および-0.0035の偏りならびに±1および±0.0031の精度を示した。
【0085】
本明細書に記載の実施例および態様は、例示にすぎず、これらを考慮すれば様々な修正または変更が当業者に示唆され、本願の精神および権限ならびに本願の範囲の中に含まれることが理解されるべきである。
【0086】
本明細書において言及または引用された全ての特許、特許出願、特許仮出願、および刊行物は、全ての図および表を含めてその全体が、本明細書の明白な開示と矛盾しない程度まで参照により本明細書に組み入れられる。
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は全体として、人工呼吸器および呼吸モニター技術を含む呼吸療法および生理学の分野、より具体的には、人工呼吸器または患者の気流パターンを変更または中断する必要なく、呼吸器系のコンプライアンス(CRS)、抵抗(RRS)、および吸気プラトー圧(Pplt)を算出するための方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
背景
機械的補助換気は、自発呼吸を機械的に補助するための、または自発呼吸の代わりとなるための有効な手段として広く受け入れられている。機械的人工呼吸は、様々なタイプのフェースマスクまたは鼻装置が関与する非侵襲的人工呼吸でもよく、気管内チューブ(ETT)または気管挿管が関与する侵襲的人工呼吸でもよい。適切な換気法の選択および使用には肺メカニクスの理解が必要である。
【0003】
正常な自発吸入によって胸内は陰圧になり、これによって、大気と肺胞との間で圧力勾配が生じ、その結果、空気が流入する。機械的人工呼吸の間、吸気圧力勾配は、通常、空気源の圧力上昇(陽圧)の結果であるか、または該圧力上昇によって増大する。補助換気を必要とする患者の場合、患者の肺機能不全または呼吸不全を適切に評価および治療するために、CRSおよびRRSをモニタリングすることが必要である。Ppltのモニタリングは、機械的人工呼吸の間に過膨張または過剰な加圧によって肺が傷つけられないようにするための一般的な行為である。
【0004】
RRSは、ある特定の気流を、呼吸回路の直列抵抗の合計、ETT抵抗、および機械的に換気された患者の生理学的気道に強制的に通すのに必要な圧力の量である。CRSは肺伸展性の測定値であり、送達された気体の所定容量に対する肺および胸壁の弾性収縮力を意味する。従って、どのような容量でも、肺の硬直(肺線維症などの場合)によって、または胸壁もしくは横隔膜の限定された偏位(すなわち、張り詰めた腹水、かなりの肥満)によって弾性圧は上昇する。典型的には、CRSおよびRRSは、一定の吸気流速の間に終末吸気ポーズ(EIP)を用いて算出される。CRSは、送達された一回換気量を吸気Ppltで割ることによって推定される。Ppltは、EIPの間に測定される定常状態圧力である。
【0005】
RRSは、最大膨張圧力(PIP)とPpltとの差を吸気流速で割ることによって推定される。人工呼吸器の中には、臨床家が、送達された流速を読み取ることができるように吸気流速の設定があるものもあれば、吸気流速を求めるために臨床家が一回換気量を吸気時間で割る必要がある場合、吸気時間の設定があるものもある。
【0006】
従って、PpltはCRSおよびRRSの算出に必須である。さらに、Ppltのモニタリングはまた、特に、拘束性肺疾患患者において、肺胞の過剰な膨張を回避し、従って、気圧障害および/または容量障害を回避するのにも必須である(ARDS network protocol (July 2008); http://www.ardsnet.org/node/77791)。Ppltの測定において、現行の行為ではEIPを行う必要がある。呼吸不全患者の場合、これは、調節機械換気(CMV)または間欠的強制換気(IMV)の間、一回換気量の直後にEIPを適用することによって行うことができる。
【0007】
残念なことに、EIPの実施には多くの欠点がある。1つには、EIPの期間は、知識のある臨床家が予め設定され、モニタリングしながら強制呼吸中にのみ適用されなければならない。EIPの適用による吸息の一過的中断および呼息の阻止は、一部の患者には不快な場合があり、EIP時に、患者が無意識にまたは意識的に吸気筋肉または呼気筋肉を能動収縮させる原因となる。これは、測定されたPpltの正確さに影響を及ぼすことがある。不正確なPpltの測定値が得られた場合には、結果として得られたCRS推定値およびRRS推定値も不正確になるであろう。前述の通り、患者の呼吸療法および治療はCRS値およびRRS値に基づいているので、不正確なPplt測定値によるCRSおよびRRSの誤った算出は、患者に送達される治療の効果および患者の回復に後で影響を及ぼす可能性があり、恐らく、患者の健康さえ害する可能性がある。
【0008】
さらに、EIPの実施は患者にとって不快な場合があるので、連続して適用することができない。連続した正確なPplt情報がなければ、臨床家は、患者の安全および治療の効果を完全にモニタリングすることができない。
【0009】
EIPの適用による吸息の一過的中断はまた患者-人工呼吸器同期不全の原因にもなり得る。これは呼吸仕事量の増大につながる場合があり、動脈血ガス交換を損なう可能性につながる。
【0010】
最後に、EIPは、圧支持換気(PSV)、連続的気道法(CPAP)、または吸息期の間に一定の吸気流速を用いない他の換気モードの間に適用されることができない(または不正確になることがある)。これらの状況ではEIPを適用できないので、臨床家は、これらの形式を用いた換気時に患者のPplt、CRS、およびRRSを正確に評価できない。患者のPplt、CRS、およびRRSが正しく評価されなければ、療法の効果および/または肺疾患もしくは状態の適切な診断を決定することができない。
【0011】
従って、Pplt、従って、CRSおよびRRSの繰返し正確な測定値を、EIPを用いて得ることは難しい。EIPの適用を必要とすることなくPpltを求めることができれば、CRSおよびRRSをより正確にリアルタイムでも推定することができ、それによって、吸息期を中断する必要がなくなる。このようなアプローチの方が簡単であり、臨床家および患者の両者にとって好ましく、従って、医療行為において必要とされるだろう。
【0012】
さらに、PSV中のPpltの知識があると、CRSおよびRRSが連続してモニタリングされ、人工呼吸器モードを変える必要がなくなるだろう。
【0013】
従って、患者と人工呼吸器の同期不全などの副作用の原因となり得る人工呼吸器の吸気フロー波形パターンを変更する必要なく、Pplt、CRS、およびRRSをリアルタイムで非侵襲的に正確に算出するためのシステムおよび方法が当技術分野において必要とされる。患者と人工呼吸器の同調性および動脈血ガス交換を促進するには、肺メカニクス(すなわち、CRSおよびRRS)に対する機械的人工呼吸および他の治療介入(例えば、気管支拡張薬および気道吸引)の作用の連続した、リアルタイムの、かつ正確な理解が必要とされる。本発明は、この必要性に取り組むように設計されている。
【発明の概要】
【0014】
本発明は、どのようなやり方でも呼吸を中断または変更する必要なく、Pplt、CRS、およびRRSをリアルタイムで非侵襲的に正確に算出するための方法および器具を提供する。これらの呼吸パラメータを正確に算出すると、換気されている患者の治療において役立つ他の情報を正確に確かめることができる。1つの態様において、Pplt、CRS、およびRRSの正確かつ有用な値が処理システムを介してリアルタイムに推定される。
【0015】
本発明は、Pplt、CRS、およびRRSを含むが、これらに限定されない肺メカニクスの正確なリアルタイムの推定値を得るために、一般的に測定される呼吸パラメータ(すなわち、機械的人工呼吸の吸気相中の、ある期間にわたる気道内圧および流速)を利用できる点で特に有利である。結果として得られた肺メカニクス推定値は、機械的人工呼吸モード変化に対する患者反応、肺メカニクスおよび生理機能に対する様々な介入(すなわち、薬物)の作用、肺過膨張のリスク、ならびに肺保護戦略の妥当性をリアルタイムでモニタリングするのに特に有用である。Pplt、CRS、およびRRSの正確かつリアルタイムの推定値はまた、自発呼吸を補助するために、ウィーニングに一般的に用いられる圧力調節換気(pressure regulated ventilation)の間にも有用である。
【0016】
本発明の1つの局面において、前記方法は、非侵襲的に収集された所定のパラメータ、例えば、標準的な呼吸モニターを用いて収集された所定のパラメータを使用することによって、呼吸器系の患者の呼気時定数(τE)の数学的モデルを作成する工程を含む。このようなパラメータには、呼気容量、気流速度、および圧力が含まれるが、これらに限定されない。
【0017】
呼吸モニターおよび人工呼吸器は、典型的には、肺の内外への流れを測定する気道内圧センサーおよび気道フローセンサーを備え、多くの場合、二酸化炭素センサーおよびパルスオキシメーターも備える。これらの時間-波形から、患者の呼吸および/または人工呼吸器との患者の相互作用の様々な局面の特徴付けにおいて用いられる様々なパラメータが選択的に導き出される。これらのパラメータは、患者の吸気流量および呼気流量ならびに圧力波形データを正確に推定するために抜き取られた情報を含む。患者の吸気波形データおよびτEを用いて、患者の吸気Pplt、さらには、患者のCRS、RRS、および派生した肺メカニクスの推定値のリアルタイムで正確かつ連続的な算出が達成される。これらの推定値は全て、人工呼吸器の設定を含む適切な療法の決定に有用である。
【0018】
1つの態様において、リアルタイムPpltならびに患者のCRSおよびRRSおよび派生した肺メカニクスは、全ての呼吸モードの間、受動的肺収縮からのτEを用いて正確にかつ連続して推定される。より好ましくは、リアルタイムPpltならびに患者CRSおよびRRSおよび派生した肺メカニクスは、圧力調節呼吸の間、受動的肺収縮からのτEを用いて正確かつ連続して推定される。
【0019】
本明細書に記載の方法は、ニューラルネットワーク、ファジー論理、混合エキスパートモデル(mixture of experts)、または多項式モデルを含むが、これらに限定されない、パラメータの線形結合を用いてもよく、パラメータの非線形結合を用いてもよい。さらに、複数の異なるモデルを用いて、異なる患者サブセットの肺メカニクスを推定することができる。これらのサブセットは、患者の状態(病態生理)、患者の生理学的パラメータ(すなわち、吸気流速、気道抵抗、一回換気量など)、または他のパラメータ、例えば、人工呼吸器パラメータ(すなわち、終末呼気陽圧すなわちPEEP、患者の気道膨張圧力など)を含むが、これらに限定されない様々な手段によって決定することができる。
【0020】
本発明の好ましい局面において、肺メカニクスを算出するための方法は、吸息中および呼息中の標準的な患者気道式に基づく一義的に導き出された一組の式と、呼気時定数を算出するための式を適用することを含む。この方法論の根底をなす局面は、波形の呼息部分(例えば、圧力、流量、容量など)からの時定数の算出とそれに続く、この呼気時定数および吸気時間波形の中の1つまたは複数の段階からのデータ(所定の時間tでの気道内圧、流量、および容量)を用いた、Pplt、RRS、およびCRSの算出である。好ましい態様において、吸気時間波形からの1つの段階は患者努力の小さい時期であり、典型的には、吸気波形の初期部分または後期部分に見られる。患者努力は未知であり、典型的にはモデル化されないので、患者努力が最も小さい時点が発見されれば、パラメータ推定値の正確さは高まる。
【0021】
本発明の別の局面において、患者において肺メカニクスを算出するための方法はニューラルネットワークの使用を含む。ここで、ニューラルネットワークは、入力データに基づいて患者の肺メカニクス情報を提供し、入力データは、以下のパラメータの少なくとも1つを含む:一回換気量、呼吸回数(f)、PIP、吸気時間、P0.1、吸気トリガー時間、トリガー深さを含むがこれらに限定されない、呼吸モニターによって通常収集される、気道内圧、流量、気道容積、呼気二酸化炭素フロー波形、およびパルスオキシメータープレチスモグラム波形。ここで、τE、Pplt、CRS、およびRRSの正確かつ有用な推定値は出力変数として提供される。
【0022】
上述の方法において、ニューラルネットワークは、ティーチングデータを得るために患者試験集団の臨床試験によって訓練され、このティーチングデータは前述の入力情報を含む。ティーチングデータはニューラルネットワークに提供され、それによって、ニューラルネットワークは、CRSおよびRRSに対応する出力変数を提供するように訓練される。
【0023】
本発明は、システム(コンピュータ処理システムまたはデータベースシステムを含む)として、方法(入力データを収集および処理するコンピュータ化された方法、ならびにこのようなデータを評価して出力を得るための方法を含む)、器具、コンピュータ可読媒体、コンピュータプログラム製品、またはコンピュータ可読メモリに触知可能に入れられたデータ構造を含む非常に多くのやり方で実行することができる。いくつかの本発明の態様が以下で議論される。
【0024】
システムとして、本発明の態様は、入力装置および出力装置を有するプロセッサユニットを含む。プロセッサユニットは、入力パラメータを受け取り、入力を処理し、肺メカニクス情報に対応する出力を提供するように動作する。次いで、この出力を用いて、人工呼吸器などの外部装置を制御することができる。データ処理は、マイクロコントローラ、ニューラルネットワーク、並列分散処理システム、神経形態学的(neuromorphic)システムなどの様々な手段によって行うことができる。
【0025】
患者のPplt、CRS、RRS、およびτEをリアルタイムで正確に算出する方法として、本発明は、本明細書に記載の式を用いて、好ましくは、プログラム命令、処理システム、またはニューラルネットワークを搭載したコンピュータ可読媒体プログラムを用いて所定の入力変数(パラメータ)を処理する工程を含む。
【0026】
プログラム命令を搭載したコンピュータ可読媒体として、本発明の態様は、入力変数を受信し、入力を処理し、CRSおよびRRSを示す出力を提供するためのコンピュータ可読暗号装置を含む。好ましい態様において、処理は、ニューラルネットワークを利用する工程を含む。前記方法は、得られた出力に応答して人工呼吸器を調節する工程をさらに含んでもよい。
【0027】
本発明の方法は、コードが書かれているコンピュータ可読媒体を有するコンピュータプログラム製品として実行されてもよい。プログラム製品は、プログラム、およびプログラムを保持する信号保持媒体を含む。
【0028】
器具として、本発明は、少なくとも1つのプロセッサ、プロセッサとつながっているメモリ、および本発明の方法を実行する、メモリの中にあるプログラムを含んでもよい。
【0029】
本発明の他の局面および利点は、例として本発明の原理を例示する添付の図面と組み合わされて、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【0030】
本明細書において言及もしくは引用された、または優先権の恩典が主張されている全ての特許、特許出願、特許仮出願、および刊行物はその全体が、本明細書の明白な開示と一致しない程度まで参照により本明細書に組み入れられる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に従って肺メカニクスが推定される患者の図である。
【図2】実施例1に記載した群におけるPplt測定値の相対度数を示したヒストグラムである。
【図3】実施例1の各対象の測定されたPplt範囲のグラフ図である。
【図4A】3つの異なる吸入流量(0.5L/S、0.75L/S、および1L/S)を有する3人の無作為な対象(A、B、およびC)からのτE(青色ダイアモンド)のグラフ図である。PIFとPEFとのギャップ(X軸)に応じて、終末吸気ポーズによって得られたτEPplt(赤色四角)、およびτEPpltとτEとの差(緑色三角)と比較した。次いで、本発明によれば、最大吸気流量(PIF)-最大呼気流量(PEF)はτEの補正率になる。τEPplt=RRS*CRS。
【図4B】3つの異なる吸入流量(0.5L/S、0.75L/S、および1L/S)を有する3人の無作為な対象(A、B、およびC)からのτE(青色ダイアモンド)のグラフ図である。PIFとPEFとのギャップ(X軸)に応じて、終末吸気ポーズによって得られたτEPplt(赤色四角)、およびτEPpltとτEとの差(緑色三角)と比較した。次いで、本発明によれば、最大吸気流量(PIF)-最大呼気流量(PEF)はτEの補正率になる。τEPplt=RRS*CRS。
【図4C】3つの異なる吸入流量(0.5L/S、0.75L/S、および1L/S)を有する3人の無作為な対象(A、B、およびC)からのτE(青色ダイアモンド)のグラフ図である。PIFとPEFとのギャップ(X軸)に応じて、終末吸気ポーズによって得られたτEPplt(赤色四角)、およびτEPpltとτEとの差(緑色三角)と比較した。次いで、本発明によれば、最大吸気流量(PIF)-最大呼気流量(PEF)はτEの補正率になる。τEPplt=RRS*CRS。
【図5】吸息および呼息RRS(RRSPplt-RRSτE)に及ぼす流量差(PIF-PEF)の影響のグラフ図である。流量差RRSの補正率として、式y=5.2487x-0.8393を使用した。式中、yはRRSτEの補正率であり、xはPIF-PEFである。
【図6A】算出したPplt(τE)対測定したPpltの回帰分析である。r2=0.99(p<0.001)に留意のこと。
【図6B】算出したPplt(τE)と測定したPpltとの差を示すブランドアルトマングラフである。偏りは本質的に0であり、測定の精度は優れている。
【図6C】算出したPplt(τE)と測定したPpltとの直線フィットグラフである。r2=0.99であることに留意のこと。
【図7A】τEからのCRSとPpltからのCRSとの回帰分析である。r2=0.97(p<0.001)であることに留意のこと。
【図7B】CRSPpltとCRSτEとの差を示すブランドアルトマングラフである。偏りは本質的に0であり、測定の精度は優れている。
【図7C】CRSτEとCRSPpltとの直線フィットグラフである。
【図8A】τEからのRRSとPpltからのRRSとの回帰分析である。r2=0.92(p<0.001)であることに留意のこと。
【図8B】RRSPpltとRRSτEとの差を示すブランドアルトマングラフである。偏りは本質的に0であり、測定の精度は優れている。
【図8C】RRSPpltとRRSτEとの直線フィットグラフである。
【図9】隠れ層を示すニューラルネットワークを示す。
【図10】バックプロパゲーションを有する適応システムの入力および出力を示す。
【図11】PSV PpltとIMV Ppltとの直線フィットグラフである。
【図12】PSV CRSとIMV CRSとの直線フィットグラフである。
【図13】圧支持換気中の一定しない患者努力のグラフ図である。
【図14】図13に示した同じ呼吸の流量曲線および容量曲線のグラフ図を示す。
【図15】吸息の全ての点において算出されたPplt曲線である。
【図16】コンプライアンス推定のための妥当な点が示された気道内圧曲線である。
【図17】肺パラメータを正確に推定するのに使用することができる点が示されたCRS曲線である。
【図18】図16に示した呼吸の吸息部分からのRRS(抵抗)曲線である。
【図19】図19Aは、気道内圧(Paw;濃い線の曲線)およびPes(食道圧;薄い線の曲線)のグラフ図である。図19Bは、流量(濃い線の曲線)および容量(薄い線の曲線)を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
詳細な説明
Pplt、CRS、およびRRSの現行の標準的な推定値は、陽圧膨張中の患者において、EIP(すなわち、少なくとも0.5秒間のポーズ)中の肺膨張圧力を測定することによって得られる。残念なことに、患者の不快感、臨床家の入力が必要なこと、および注意深いモニタリング、患者の介入による不正確な測定値、患者と人工呼吸器との同期不全、連続して適用できないこと、ならびにある特定の種類の換気を用いてEIPを実施できないことを含めてEIPの実施にはいくつかの欠点がある。これらの欠陥に対処するために、本発明は、EIPを必要とすることなく、受動的肺収縮からの修正τE推定値を用いて、Pplt、CRS、およびRRS推定値を正確に算出するためのシステムおよび方法を提供する。結果は、呼吸間の肺機能および治療介入の影響をモニタリングすることができる、肺メカニクスの連続したリアルタイムの推定値である。
【0033】
吸気Ppltは、機械的人工呼吸中の患者のCRSおよびRRSを算出するためのパラメータである。Ppltのモニタリングはまた、特に、拘束性肺疾患患者において、肺胞が過剰に膨張しないようにする、従って、気圧障害および/または容量損傷を回避するのに必須である(ARDS network protocol (July 2008); http://www.ardsnet.org/node/77791)。
【0034】
本発明によれば、機械的人工呼吸、または患者肺系と接続して機能する任意の装置を受け入れている患者の肺メカニクスを正確にかつリアルタイムで推定するための方法は、(a)患者の呼吸パラメータを受信する工程;(b)プロセッサによって、呼吸パラメータから修正τEを算出する工程;(c)該修正τEを数学的モデルに入力する工程;ならびに(d)該数学的モデルから、Pplt、CRS、および/もしくはRRS、または他の肺メカニクスに対応する少なくとも1つの出力変数を得る工程を含む。
【0035】
1つの態様において、数学的モデルは、肺メカニクスの推定値を提供するように訓練されたニューラルネットワークである。ニューラルネットワークは、モニタリングされた人工呼吸器の圧力および流量を臨床データ入力として用いて、対象群の臨床試験をニューラルネットワークに含めるように訓練することができる。
【0036】
受動的肺呼息のτEは、指数関数的減衰に基づく、完全に息を吐き出すのに必要な時間のパラメータ表示であり、呼吸器系の機械的特性についての情報を含む(Guttmann, J. et al.,「Time constant/volume relationship of passive expiration in mechanically ventilated ARDS patients」, Eur Respir J., 8: 114-120 (1995);およびLourens, MS et al., 「Expiratory time constants in mechanically ventilated patients with and without COPD」, Intensive Care Med, 26(11): 1612-1618 (2000))。τEはCRSおよびRRSの積と定義される(Brunner, JX et al., 「Simple method to measure total expiratory time constant based on the passive expiratory flow volume curve」, Crit Care Med, 23:1117-1122(1995))。τEは、単に、呼気容量(V(t))を呼気流量
で割ることによってリアルタイムで推定することができる。すなわち、
(Brunner, JX et al.,「Simple method to measure total expiratory time constant based on the passive expiratory flow volume curve」, Crit Care Med, 23: 1117-1122(1995);およびGuttmann, J. et al.,「Time constant/volume relationship of passive expiration in mechanically ventilated ARDS patients」, Eur Respir J., 8: 114-120(1995))。この方法から、呼息中の各点のτE推定値が得られる。
【0037】
残念なことに、τEを推定するための現行の方法は、特に、機械的人工呼吸器とつながっている患者では、最初に開口している間に人工呼吸器呼気弁からの干渉の可能性があるために、いくらか不正確である。さらに、現行のτE推定値は呼息の終末部分を含む。これは、(1)肺の中の肺胞空隙が不均衡なために不正確になることのある呼吸器系粘弾性に起因し得る、τEの観察可能な遅い(ゆっくりとした)区画動態的挙動(compartment kinetic behavior)の原因となることがあり(Guerin, C. et al, 「Effect of PEEP on work of breathing in mechanically ventilated COPD patients」, Intensive Care Med., 26(9):1207-1214(2000));かつ(2)呼息終末の流量が少なく、0に近い数字で割るために、
のより不安定な値を生じる。さらに、人工呼吸器呼気弁の抵抗は呼息終末でさらに大きくなるので、これも、現行の方法を用いて正確なτE推定値が求められるかどうかに影響を及ぼすことがある。
【0038】
従って、本発明の1つの態様では、より正確な修正τE推定値は、中間およびより信頼性の高い呼息部分の間だけ呼気波形を用いることによって得られる。例えば、呼息開始後0.1〜0.5秒の呼気波形の傾きの平均をとること(例えば、平均関数)は、より信頼性の高いτE推定値を得るための方法の1つである。最初に開口している間ならびに残りの患者努力の間において人工呼吸器呼気弁からの起こり得る干渉を小さくするためには、呼息の最初の部分(0〜0.1秒)は除外される。前記の通り、終末呼息に起因する問題に対処するためには、呼息終末(0.5秒移行)は除外される。
【0039】
図13および図14は、Pplt、RRS、およびCRSの算出において有用な様々な呼吸パラメータのグラフ図である。図13は、圧支持換気(PSV)モード中の一定しない患者努力からの呼吸を示す。表示は、最小患者努力を表す気道内圧曲線(Paw)上の最後の吸息点を示し、Pplt、RRS、およびCRSを推定するのに用いられる。
【0040】
図14は、図13の同じ呼吸の流量曲線および容量曲線を示す。表示した点は、肺メカニクスに関連する値(Pplt、RRS、およびCRS)が算出された点である。これらの点は、Paw曲線上での最後の吸息点に対応する。図14に示した通り、τE推定値に基づくPplt、RRS、およびCRSの算出は、通常、0.1L/secより大きな流量に限られる。τEをより正確に推定するための別のアプローチは中央値関数を含む。例えば、より正確なτE推定値は、呼息中の複数のτE推定値の平均値または中央値をとることによって導き出すことができる。有利なことに、これらの時定数が推定される場所を限定することによって、さらに良好な時定数値が得られる。呼息の高流量領域および低流量領域は間違った推定値を生じる可能性が高く、従って、除外される。
【0041】
図15は、吸息の全ての点のτE推定値からPpltが算出されたPplt曲線を示す(呼息は除外しなければならない)。Pplt曲線上の表示は最後の妥当な吸息部分にあり、図14に示した吸息終末に対応する。
【0042】
ある特定の態様では、流量が最大吸気流量の80%であるが、0.1LPSより大きな呼息部分を用いたτE推定値の中央値から、より正確なτE推定値が得られる。別の態様では、複数回の呼吸のいくつかの時定数推定値を平均するか、またはメジアンフィルターをかけて、呼吸領域のさらに良好なτE推定値を得ることができる。
【0043】
別の態様では、呼息部分は、呼気容量のパーセントによって定義することができる。ある特定の態様では、容量および/または最大呼気流量のパーセントの様々な組み合わせからのτE推定値の中央値から、より正確なτE推定値が得られる。1つの態様において、最大呼気流量からのパーセントは、最大呼気流量の95%〜20%にある。別の態様において、最大呼気流量からのパーセントは、最大呼気流量の95%〜70%にある。さらに別の態様において、呼気容量の80%〜呼気容量の20%の呼息部分が用いられる。
【0044】
抵抗は流量の関数であり、τEは抵抗の関数であるので、τE値は流速によって異なることがある。別の態様では、良好なτE推定値は、呼息領域を選択して、吸気流速に基づいてτEを推定することによって得ることができる。例えば、良好なτE推定値は、IMV、VC+(容量調節プラス)、または補助調節などの、吸気流速が一定の換気モードにおいて得ることができる。
【0045】
呼息中に、機械的に換気された患者において算出されるτEの抵抗部分は、3つの直列抵抗の合計、すなわち、生理学的気道抵抗(Raw)、気管内チューブの課せられた抵抗(imposed resistance)(RETT)、および人工呼吸器呼気弁の抵抗(Rvent)の合計である全抵抗(RTOT)である。
RTOT=Raw+RETT+Rvent
【0046】
本発明によれば、人工呼吸器呼気弁によって加えられる抵抗は、改善された、正確な修正τE推定値を得るために、前記で導き出された通りにτE推定値から除外することができる。
【0047】
従って、Rventは、
によって算出することができる。
式中、Pawは気道内圧であり、PEEPは終末呼気陽圧であり(適用された場合。適用されなければ0)、
は、呼息気道流速である。
【0048】
本発明のより正確な修正τE推定値を算出するために、最初に、τEtotal(t)を前記の通りに算出する。次いで、以下の式から、人工呼吸器の抵抗を除外した患者τEの式が導き出される。
CestがτEtotalからのコンプライアンス推定値である
、次に、
τEtotal(t)=(RRS(t)+Rvent(t))*Cest
τEtotal(t)=(RRS(t)*Cest)+(Rvent(t)*Cest)。
【0049】
Crsの推定値としてCestを用いると、以下のより正確な時定数推定値が得られる。
τE(t)=τEtotal(t)-(Rvent(t)*Cest)
【0050】
前記の通りにτEが推定および補正されたら、吸気波形データを用いて、Pplt、RRS、CRS、および他の肺メカニクスを推定する。
【0051】
CRSおよびRRS、従って、Ppltを以下の通りに本発明に従って正確に推定することができる。
【0052】
CRSの算出は以下の通りに導き出される。
:気道式。
:両側にCRSを掛けて、CRSの以下の式を導き出す。
式中、Pawは気道膨張圧力であり、PEEPは終末呼気陽圧であり、VTは一回換気量であり、
は吸気流速である。
【0053】
RRSの算出は以下の式を含む。
:気道式。
:VT/CRSにRRS/RRSを掛ける。
:右側を簡約して、RRSについて以下の式を導き出す。
【0054】
Ppltの算出は、
Pplt=(VT/CRS)+PEEP
の式、またはその代わりにとして、
の式を含む。
【0055】
前記の方法論のさらなる改善点として、抵抗は流量によって大きく異なるので、τEは流量によって異なることに留意しなければならない。従って、(最大吸気流量(PIF)-最大呼気流量(PEF))が変化するときに、τE推定値の誤りを予測することができる。この誤りを補正するために、τEのRRS成分に補正率を適用することができる。この補正率は、換気モード、患者努力の量、PIFおよびPEFに左右される可能性が高い。しかしながら、図5に記載の患者の適正な補正率はy=5.2487*(PIF-PEF)-0.8393と判明した。次いで、本発明によれば、最大吸気流量(PIF)-最大呼気流量(PEF)はτEの補正率になる。
【0056】
前記の式では、使用される流量、圧力、および容量の値が波形でなく、1つ1つの測定値であると認識することが重要である。好ましい態様では、これらの測定は、容量、流量、および圧力の値が吸息中の時間の一点と関連づけられるように同時に行われる。気道式は、患者の吸気筋肉によって発生する吸気努力の項を含まないので、これらの値を測定する理想的な場所は吸気努力が最小の時である(気道式における吸気努力によって引き起こされる誤りを避けるため)。従って、これらの測定が行われる好ましい点は、努力が最小の吸息点である。しかしながら、瞬間的な患者努力は食道圧カテーテルなどの侵襲的方法でしか正確に算出できないので、最小患者努力の点を突き止めることは難しい場合がある。しかしながら、典型的な呼吸では、小さな患者努力は吸気の終末近くに(または時として開始時に)起こることが多い。
【0057】
呼気時定数を用いると、プラトー圧、抵抗、コンプライアンス、および関連する呼吸パラメータの個々の推定値を吸気波形の各点で推定することができる。吸息全体にわたって、これらのパラメータを推定すると、流量依存性の抵抗推定値、呼吸全体にわたるコンプライアンス、プラトー圧、および他のパラメータの様々な推定値を含む有用な情報が得られる。推定全体にわたる、これらの推定値からのデータは、患者努力、より正確な平均抵抗およびコンプライアンス、ならびに正確なトリガリング(triggering)情報を含むが、これらに限定されない他の導き出されたパラメータをさらに良好に推定するのに役立ち得る。
【0058】
1つの態様では、正確なパラメータ推定のための最小努力点は、吸息全体にわたってPplt曲線を算出し、Ppltが最大であった点を用いることによって求められる。別の態様において、患者努力の小さな点は、コンプライアンス値が最小であった吸気中の位置を発見することによって突き止められる。これらの態様は両方とも、患者努力がコンプライアンス推定値を増加させ、プラトー圧を減少させる傾向があるという事実に頼っている。
【0059】
例えば、図16にある点A、B、およびCは、τE、Pplt、RRS、およびCRSの算出において容量、流量、および圧力の値を特定するのに使用することができるコンプライアンスの点の例を示す。図17は、肺パラメータの正確な推定に使用することができる、呼吸中に算出されたコンプライアンスおよび2つの最小点(x=82およびx=186と表示した)を示す。図18は、この呼吸の吸息部分からの抵抗曲線を示す。抵抗は流量依存性であり、流量が減少するにつれて、抵抗も減少する。
【0060】
図19Aおよび図19Bは、低いIMV速度によって増大された、PSV中に大きな吸気努力のあった患者データを示す。最初の呼吸(左側)は、PSV呼吸の一回換気量が同じ対照呼吸(IMV)である。図19Aは、気道内圧(Paw;濃い線の曲線)およびPes(食道圧;薄い線の曲線)を示した図である。図19Bは、流量(濃い線の曲線)および容量(薄い線の曲線)を示した図である。
【0061】
リアルタイム環境では、呼吸の中には、咳、人工呼吸器と闘っている患者、人工呼吸器による不十分なトリガリング、センサーノイズまたはエラー、および他の問題によって汚染されるものもある。従って、汚染され、かつ正常範囲外の推定値につながる呼吸を拒否することが有利である。汚染されていない呼吸結果の一群を平均するか、または汚染されていない呼吸結果の一群の中央値を用いると、呼吸パラメータのさらに良好な全体推定値が得られる。1つの態様では、正常範囲外のコンプライアンス値を有する呼吸を排除した。さらに、よくある呼吸パラメータをコンピュータで計算し、正常値と比較する。呼吸パラメータには、最大吸気圧、一回換気量、吸気時間、呼気時間、平均気道内圧などが含まれる。
【0062】
本明細書に記載の方法論に従って求められるPplt、CRS、およびRRS推定値は、患者肺系と接続して機能する全ての装置に特に有用である。意図される装置には、人工呼吸器、呼吸モニター、肺機能機器、睡眠時無呼吸システム、高圧装置などが含まれるが、これらに限定されない。当業者によって理解される通り、このような装置は、気道内圧、流量、気道容積、一回換気量、f、PIP、吸気時間、P0.1、吸気トリガー時間、トリガー深さ、呼気期間、ならびに気道、気管内チューブ、および人工呼吸器呼気弁の抵抗などの患者呼吸パラメータに関するデータを得るために様々なセンサーおよび/または処理システムを備える。意図される人工呼吸器には、以下の換気モードのいずれか1つまたは複数を実現する人工呼吸器が含まれる:従量式換気(volume-cycled ventilation);補助調節換気(A/C);同期的間欠的強制換気(SIMV);圧サイクル式換気(pressure-cycled ventilation);圧支持換気(PSV);圧規定換気(PCV);非侵襲的陽圧換気(NIPPV);および持続気道内陽圧(CPAP)または2相性気道内陽圧(BIPAP)。
【0063】
本発明の1つの態様では、肺の状態または疾患(閉塞性睡眠時無呼吸における無呼吸の検出および治療ならびにCOPDおよびARDS検出を含む)を診断するために、ならびに/または介入効果を評価するために、Pplt、CRS、およびRRSの連続したリアルタイムの推定値が求められる。例えば、患者CRSおよびRRSの連続した正確な知識は、患者に合ったより正確な人工呼吸器設定の確立において、および薬学的用途(例えば、気管支拡張薬)において特に有用である。薬剤を適用している間の患者肺メカニクスの連続したかつ正確な知識は、治療効果の評価および適切な投与量の決定において特に有用である。さらに、本発明からのリアルタイムデータは、患者の換気に影響を及ぼす妨害物または障害物を決定するのに使用することができる。例えば、本発明は、粘液または他の妨害物を取り除くために呼吸チューブがいつ吸引を必要とするのか確かめるのに用いることができ、またはチューブがいつねじれる可能性があるのか確かめることができる。
【0064】
別の態様では、Pplt、CRS、およびRRSのリアルタイム推定値は、気道式を適用することによって患者努力の推定値を推定または改良するのに用いられる(例えば、予測される気道内圧と実際の気道内圧との差としてPmusを算出する)。これはまた、患者努力のオンセットおよびオフセットを正確に測定することによって患者同調性を確認および最適化するのにも有用である。人工呼吸器のオントリガリング(on-triggering)およびオフトリガリング(off-triggering)の最適化は手作業でまたは自動で実行することができる。
【0065】
別の態様では、リアルタイム推定値は、患者の健康状態および治療に対する応答を追跡するのに用いられる。PEEPの変化中に追跡するコンプライアンスから、肺は最適に換気されていることが分かる。抵抗の変化から、患者気道を弛緩させる薬物が予想通り働いていることが分かる。生理学的パラメータを用いると、人工呼吸器によっておよび薬学的にともに治療を滴定および最適化することが可能になる。
【0066】
1つの態様では、ニューラルネットワークなどのモデルを臨床データによって予め訓練し、標準的な呼吸モニターを用いて、入力パラメータを非侵襲的に調節することができる。ニューラルネットワークは、前記の非侵襲的に得られたパラメータを用いて、生理機能および課せられた肺メカニクスを予測するように訓練される(だが、所望であれば、侵襲的パラメータがシステムに加えられてもよい)。望ましい予測度を有するモデルが実現および検証されたら、患者肺メカニクスの正確な予測変数として、実際の肺メカニクス変数などのネットワーク出力が用いられてもよい。
【0067】
ニューラルネットワークの説明
人工ニューラルネットワークは、ヒト脳などの生物学的ニューラルネットワークの機能を大まかにモデル化している。従って、ニューラルネットワークは、典型的には、相互接続したニューロンからなるシステムのコンピュータシミュレーションとして実行される。特に、ニューラルネットワークは、相互接続したプロセシングエレメント(PE)からなる階層的コレクションである。これらのエレメントは典型的には層状に並べられ、入力層は入力データを受け取り、隠れ層はデータを変換し、出力層は望ましい出力を生じる。ニューラルネットワークの他の態様も使用することができる。
【0068】
ニューラルネットワークにある各プロセシングエレメントは複数の入力シグナル、すなわちデータ値を受け取り、データ値は1つの出力をコンピュータで計算するように処理される。前の層にあるPEの出力から、または入力データから入力が受け取られる。PEの出力値は、入力データ値間の関係を特定する活性化関数または伝達関数として当技術分野において公知の数式を用いて算出される。当技術分野において公知の通り、活性化関数は、閾値、すなわち偏りエレメントを含んでもよい。下位ネットワークにあるエレメントの出力は上位のエレメントへの入力として提供される。1つまたは複数の最上位エレメントが最終的なシステム出力、すなわち出力を生じる。
【0069】
本発明の文脈において、ニューラルネットワークは、前記の定量化された患者努力を非侵襲的に推定するのに用いられるコンピュータシミュレーションである。本発明のニューラルネットワークは、ネットワークを構成するプロセシングエレメントの数、配置、および接続を指定することによって構築されてもよい。ニューラルネットワークの簡単な態様は、プロセシングエレメントの完全に接続されたネットワークからなる。図9に示した通りに、ニューラルネットワークのプロセシングエレメントは、以下の層にグループ分けされる:気道内圧センサーおよびフローセンサーから収集されたおよび/または導き出されたパラメータがネットワークに入力される入力層30;プロセシングエレメントの1つまたは複数の隠れ層32;ならびに結果として生じる患者努力予測36が生じる出力層34。接続の数、結果として、接続重みの数は、それぞれの層30、32、34におけるエレメントの数によって固定される。
【0070】
ニューラルネットワークの最も一般的な訓練法は、望ましい出力とネットワーク出力との平均2乗差(mean squared difference)を最小限にすることによるシステムパラメータ(通常、重みと呼ばれる)の反復改善に基づいている。入力はニューラルネットワークに適用され、ニューラルネットワークはデータをその階層構造に通し、出力がもたらされる。このネットワーク出力は、その入力に対応する望ましい出力と比較され、誤りが算出される。次いで、この誤りは、次に特定の入力がシステムに適用された場合にネットワーク出力が望ましい出力に近づくように、システムの重みを調整するために用いられる。訓練アルゴリズムと呼ばれる、重みを調整する、可能性のある多くの方法論がある。図10に示した通り、最も一般的なものは、誤りについて、それぞれの重みの責任(responsibility)を算出し、それぞれの重みに対して勾配降下学習規則(gradient descent learning rule)を使用するために、この誤りからの局所勾配(local gradient)を算出することを伴うバックプロパゲーションと呼ばれる。
【0071】
前述の詳述に基づいて、本発明は、コンピュータソフトウェア、ファームウェア、ハードウェア、またはその任意の組み合わせもしくはサブセットを含む、コンピュータプログラミングまたはエンジニアリング法を用いて実施することができる。コンピュータ可読暗号手段を有する、結果として生じた、このような任意のプログラムは1つまたは複数のコンピュータ可読媒体の中で具体化または提供されてもよく、それによって、本発明によるコンピュータプログラム製品、すなわち、製造物品が作られる。コンピュータ可読媒体は、例えば、固定(ハード)ドライブ、ディスケット、光ディスク、磁気テープ、半導体メモリ、例えば、読み出し専用メモリ(ROM)など、あるいは任意の伝達媒体/受信媒体、例えば、インターネットまたは他の通信ネットワークもしくは通信リンクでもよい。コンピュータコードを搭載している製造物品は、ある媒体から直接コードを実行することによって、ある媒体から別の媒体にコードをコピーすることによって、またはネットワークでコードを伝達することによって製造および/または使用されてもよい。
【0072】
コンピュータサイエンスの当業者であれば、記載の通りに作製されたソフトウェアと、一般用または特殊用途の適切なコンピュータハードウェアを組み合わせて、本発明の方法を具体化したコンピュータシステムまたはコンピュータサブシステムを容易に作製することができるであろう。本発明を製造、使用、または販売するための器具は、本発明を具体化する、ソフトウェア、ファームウェア、ハードウェア、またはその任意の組み合わせもしくはサブセットを含む、中央演算処理装置(CPU)、メモリ、記憶装置、通信リンクおよび通信装置、サーバー、I/O装置、または1つもしくは複数の処理システムの任意のサブコンポーネントを含むがこれらに限定されない1つまたは複数の処理システムでもよい。ユーザー入力は、キーボード、マウス、ペン、音声、タッチスクリーン、またはアプリケーションプログラムなどの他のプログラムを介した入力を含む、人間がデータをコンピュータに入力することができる他の任意の手段から受け取られてもよい。
【実施例】
【0073】
実施例1
モニタリングされた換気パラメータに基づいてリアルタイムで肺メカニクスを正確に推定するための本システムおよび本方法を、機械的人工呼吸を必要とする呼吸不全にある成人患者、すなわち陽圧換気を受けている患者三十(30)人からなる不均質な集団を用いて検証した。
【0074】
患者1人1人について、間欠的強制換気(IMV)モードにおいて、吸気フロー波形および0.5秒の終末吸気ポーズを用いてPpltを記録した。記録された吸気流速は0.5〜1.0L/sであった。
【0075】
図1に示した通り、人工呼吸器の呼吸回路の患者気管内チューブ10とYピース15との間に配置された一体型圧力センサー/フローセンサー5(NICO, Respironics)からのデータを、圧力、流量、および容量データを測定および記録するための本明細書に記載の方法を実行するソフトウェア(Convergent Engineering)を備えるラップトップ型コンピュータ20に向けた。以下の表1ならびに図2および図3に示した通り、Ppltデータは、研究された患者集団において10〜44cm H2Oであった。
【0076】
(表1)患者のデモグラフィック
【0077】
3つの異なる吸入流量(0.5L/S、0.75L/S、および1L/S)を有する3人の無作為な患者(A、B、およびC)からτEを入手し、終末吸気ポーズ(EIP)によって得られたτEPpltと比較した。図4A〜4Cに示した通り、τEPpltは、PIFとPEFとのギャップ(X軸)に応じてτEと異なる。図4A〜4Cにおいて、τEを青色ダイアモンドで示し、τEPpltを赤色四角で示した。τEPpltとτEの差を緑色三角で表した。次いで、PIF-PEFはτEの補正率になる(Guerin, C. et al., 「Effect of PEEP on work of breathing in mechanically ventilated COPD patients」, Intensive Care Med, 26(9): 1207-1214 (2000)。
【0078】
吸息および呼息RRS(RRSPplt-RRSτE)に及ぼす最大吸気流速と最大呼気流速の流量差(PIF-PEF)の影響を導き出すために、流量差RRSの補正率として、式y=5.2487*(PIF-PEF)-0.8393を使用した。図5 吸息に及ぼす流量差の影響。PIF=最大吸気流速、PEF=最大呼気流速、RRSPplt=Ppltからの患者RRS、RRSτE=τEからの患者RRS。
【0079】
検証データの分析:
前記で算出した補正を含む、算出したPpltと実際のPplt(終末吸気ポーズ)との回帰分析を図6Aの表に示した。図6Bに示されるのは、r2相関間の差が0.99、偏り=0.00125、95%許容範囲(limit of agreement)=-1.347〜1.376を示すブランドアルトマングラフである。図6Cは、比例値=1.006を示す直線フィット図を示す。
【0080】
CRS算出の分析:
図7Aは、τEから算出したCRSとPpltから算出した標準的なCRSとの回帰分析のグラフ図である。r2=0.97である。図7Bは、CRSPpltとCRSτEとの差のブランドアルトマングラフを示す。偏り=0.0000199、95%許容範囲={-0.00634〜0.00638}。図7Cは、CRSτEとCRSPpltとの直線フィットグラフである。比例=0.948。
【0081】
RRS算出の分析:
図8Aは、τEから算出したRRSとPpltから算出した標準的なRRSとの回帰分析のグラフ図である。r2=0.918。図8Bは、RRSPpltとRRSτEとの差のブランドアルトマングラフを示す。偏り=0.00000008、95%許容範囲={-2.15〜2.15}。図8Cは、RRSPpltとRRSτEとの間の直線フィットグラフである。比例=0.923。
【0082】
実施例2
IMVとEIPを必要とすることなく、PSV中の受動的肺収縮からのτEを用いたPpltおよびCRSの連続したかつ正確な推定値を、機械的人工呼吸を必要とし、かつPSVを受けている呼吸不全にある成人患者二十四(24)人の集団を用いて検証した。
【0083】
24人の成人は10人の男性および14人の女性からなり、年齢は56.1±16.6歳、体重は79.9±28.8kgであった。患者の呼吸不全の原因はばらばらであり、PSVによって自発呼吸していた。PSVは5〜20cm H2Oであった。同じ一回換気量を適用して、PSVおよびIMVとEIPを同じ患者において比較した。PSVの間は、呼気容量およびフロー波形からτEを積分することによってPpltおよびCRSを得た。IMVおよびEIPの間は、EIP時の気道内圧波形の圧力プラトーを見ることによってPpltを得た。回帰分析およびブランドアルトマン分析を用いて、データを分析した。αを.05に設定した。
【0084】
PSVの間、τE法からのPpltおよびCRSは、それぞれ、19.65±6.6cm H2Oおよび0.051±0.0124ml/cm H2Oであった。IMVとEIPの間、PpltおよびCRSは、それぞれ、20.84±7.17cm H2Oおよび0.046±0.011ml/cm H2Oであった(全ての測定値において有意差なし)。両方の測定法を比較すると、PpltとCRSとの関係は、それぞれ、r2=0.98(図11)およびr2=0.92(図12)であった(p<0.05)。PpltおよびCRSのブランドアルトマンプロットは、それぞれ、1.17および-0.0035の偏りならびに±1および±0.0031の精度を示した。
【0085】
本明細書に記載の実施例および態様は、例示にすぎず、これらを考慮すれば様々な修正または変更が当業者に示唆され、本願の精神および権限ならびに本願の範囲の中に含まれることが理解されるべきである。
【0086】
本明細書において言及または引用された全ての特許、特許出願、特許仮出願、および刊行物は、全ての図および表を含めてその全体が、本明細書の明白な開示と矛盾しない程度まで参照により本明細書に組み入れられる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)患者肺系と接続して機能しかつ呼吸パラメータを測定する装置から、患者の該呼吸パラメータを受信する工程;
(b)プロセッサユニットによって、工程(a)からの少なくとも1つの呼吸パラメータを用いて該患者のτE(呼気時定数)を算出する工程;ならびに
(c)該プロセッサユニットによって、工程(a)からの少なくとも1つの呼吸パラメータおよび工程(b)からの該患者のτEを用いて、CRS(呼吸器系コンプライアンス)、RRS(患者気道抵抗)、および/またはPplt吸気プラトー圧の少なくとも1つの推定値を算出する工程
を含む、CRS、RRS、および/またはPpltを正確かつリアルタイムに推定するための方法であって、
該患者のτEを算出するのに用いられる該呼吸パラメータが呼息に由来し、かつCRS、RRS、および/またはPpltの正確なかつリアルタイムの推定値を算出するのに用いられる該呼吸パラメータが吸気に由来する、方法。
【請求項2】
前記呼吸パラメータが、吸気気道内圧および呼気気道内圧、吸気流速および呼気流速、気道容積、気道抵抗、呼気二酸化炭素フロー波形、パルスオキシメータープレチスモグラム波形、一回換気量、呼吸回数(f)、最大吸気圧(PIP)、吸気時間、P0.1、吸気トリガー時間、ならびにトリガー深さからなる群からの1つまたは複数を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
CRS、RRS、および/またはPpltの正確なかつリアルタイムの推定値を算出するために用いられる前記呼吸パラメータが、吸気時間波形上の一点に由来する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
最小患者努力の間において前記一点を選ぶ、請求項3記載の方法。
【請求項5】
呼吸終了時または呼吸終了時近傍において前記一点を選ぶ、請求項3記載の方法。
【請求項6】
前記患者のτEを算出するのに用いられる前記呼吸パラメータが、呼気波形に由来する、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記呼吸パラメータが、呼息開始後0.1秒〜0.5秒の呼気波形の中間に由来する、請求項6記載の方法。
【請求項8】
呼息中に算出した複数のτE推定値の中央値または平均値から、前記患者のτEを算出する、請求項1記載の方法。
【請求項9】
流量が最大呼気流量の95%〜20%の間にある呼息中に、複数の前記τE推定値を算出する、請求項8記載の方法。
【請求項10】
流量が最大呼気流量の95%〜70%の間にある呼息中に、複数の前記τE推定値を算出する、請求項8記載の方法。
【請求項11】
呼気容量の80%〜呼気容量の20%の間の呼息中に複数の前記τE推定値を算出する、請求項8記載の方法。
【請求項12】
呼息から算出した前記患者のτEに補正率を適用する工程であって、該補正率が、換気モード、患者努力の量、最大吸気流量、最大呼気流量、および式τE(t)=τEtotal(t)-(Rvent(t)*Cest)のいずれか1つまたは複数から導き出される、工程
をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項13】
算出したPplt、CRS、および/またはRRSの前記推定値が、以下の目的のいずれか1つまたは複数において用いられる、請求項1記載の方法:
呼吸の患者努力の推定、患者抵抗の推定、患者コンプライアンスの推定、肺の状態または疾患の診断、換気介入の効果の評価、患者治療のための人工呼吸器設定の確立、薬学的療法の効果の評価、薬剤を適用している間の患者肺メカニクスの評価、患者換気に影響を及ぼす妨害物または障害物の特定、患者同調性の確認および/または最適化、人工呼吸器のオントリガリング(on-triggering)およびオフトリガリング(off-triggering)の最適化、患者の全体的な健康の評価、ならびに治療に対する全体的な患者応答の評価。
【請求項14】
患者肺系と接続して機能しかつ少なくとも1つの呼吸パラメータを測定する装置と、少なくとも1つの該呼吸パラメータを用いて、該患者のτE(呼気時定数)、CRS(呼吸器系コンプライアンス)、RRS(呼吸器系抵抗)、および/またはPplt (プラトー圧)をリアルタイムで算出するプロセッサユニットとを備える、
Pplt、CRSおよび/またはRRSの値を正確かつリアルタイムに推定するためのシステムであって、
該患者のτEを算出するのに用いられる該呼吸パラメータが呼息に由来し、かつ
CRS、RRS、および/またはPpltの正確なかつリアルタイムの推定値を算出するのに用いられる該呼吸パラメータが吸気に由来する、
システム。
【請求項15】
患者肺系と接続して機能する前記装置が、人工呼吸器、肺機能装置、睡眠時無呼吸装置、および高圧装置からなる群より選択される、請求項14記載のシステム。
【請求項16】
前記人工呼吸器が、以下の換気モードの1つまたは複数を行うことができる、請求項15記載のシステム:
従量式換気;補助調節換気(A/C);同期的間欠的強制換気(SIMV);圧サイクル式換気;圧支持換気(PSV);圧規定換気(PCV);非侵襲的陽圧換気(NIPPV);および持続気道内陽圧(CPAP)または2相性気道内陽圧(BIPAP)。
【請求項1】
(a)患者肺系と接続して機能しかつ呼吸パラメータを測定する装置から、患者の該呼吸パラメータを受信する工程;
(b)プロセッサユニットによって、工程(a)からの少なくとも1つの呼吸パラメータを用いて該患者のτE(呼気時定数)を算出する工程;ならびに
(c)該プロセッサユニットによって、工程(a)からの少なくとも1つの呼吸パラメータおよび工程(b)からの該患者のτEを用いて、CRS(呼吸器系コンプライアンス)、RRS(患者気道抵抗)、および/またはPplt吸気プラトー圧の少なくとも1つの推定値を算出する工程
を含む、CRS、RRS、および/またはPpltを正確かつリアルタイムに推定するための方法であって、
該患者のτEを算出するのに用いられる該呼吸パラメータが呼息に由来し、かつCRS、RRS、および/またはPpltの正確なかつリアルタイムの推定値を算出するのに用いられる該呼吸パラメータが吸気に由来する、方法。
【請求項2】
前記呼吸パラメータが、吸気気道内圧および呼気気道内圧、吸気流速および呼気流速、気道容積、気道抵抗、呼気二酸化炭素フロー波形、パルスオキシメータープレチスモグラム波形、一回換気量、呼吸回数(f)、最大吸気圧(PIP)、吸気時間、P0.1、吸気トリガー時間、ならびにトリガー深さからなる群からの1つまたは複数を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
CRS、RRS、および/またはPpltの正確なかつリアルタイムの推定値を算出するために用いられる前記呼吸パラメータが、吸気時間波形上の一点に由来する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
最小患者努力の間において前記一点を選ぶ、請求項3記載の方法。
【請求項5】
呼吸終了時または呼吸終了時近傍において前記一点を選ぶ、請求項3記載の方法。
【請求項6】
前記患者のτEを算出するのに用いられる前記呼吸パラメータが、呼気波形に由来する、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記呼吸パラメータが、呼息開始後0.1秒〜0.5秒の呼気波形の中間に由来する、請求項6記載の方法。
【請求項8】
呼息中に算出した複数のτE推定値の中央値または平均値から、前記患者のτEを算出する、請求項1記載の方法。
【請求項9】
流量が最大呼気流量の95%〜20%の間にある呼息中に、複数の前記τE推定値を算出する、請求項8記載の方法。
【請求項10】
流量が最大呼気流量の95%〜70%の間にある呼息中に、複数の前記τE推定値を算出する、請求項8記載の方法。
【請求項11】
呼気容量の80%〜呼気容量の20%の間の呼息中に複数の前記τE推定値を算出する、請求項8記載の方法。
【請求項12】
呼息から算出した前記患者のτEに補正率を適用する工程であって、該補正率が、換気モード、患者努力の量、最大吸気流量、最大呼気流量、および式τE(t)=τEtotal(t)-(Rvent(t)*Cest)のいずれか1つまたは複数から導き出される、工程
をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項13】
算出したPplt、CRS、および/またはRRSの前記推定値が、以下の目的のいずれか1つまたは複数において用いられる、請求項1記載の方法:
呼吸の患者努力の推定、患者抵抗の推定、患者コンプライアンスの推定、肺の状態または疾患の診断、換気介入の効果の評価、患者治療のための人工呼吸器設定の確立、薬学的療法の効果の評価、薬剤を適用している間の患者肺メカニクスの評価、患者換気に影響を及ぼす妨害物または障害物の特定、患者同調性の確認および/または最適化、人工呼吸器のオントリガリング(on-triggering)およびオフトリガリング(off-triggering)の最適化、患者の全体的な健康の評価、ならびに治療に対する全体的な患者応答の評価。
【請求項14】
患者肺系と接続して機能しかつ少なくとも1つの呼吸パラメータを測定する装置と、少なくとも1つの該呼吸パラメータを用いて、該患者のτE(呼気時定数)、CRS(呼吸器系コンプライアンス)、RRS(呼吸器系抵抗)、および/またはPplt (プラトー圧)をリアルタイムで算出するプロセッサユニットとを備える、
Pplt、CRSおよび/またはRRSの値を正確かつリアルタイムに推定するためのシステムであって、
該患者のτEを算出するのに用いられる該呼吸パラメータが呼息に由来し、かつ
CRS、RRS、および/またはPpltの正確なかつリアルタイムの推定値を算出するのに用いられる該呼吸パラメータが吸気に由来する、
システム。
【請求項15】
患者肺系と接続して機能する前記装置が、人工呼吸器、肺機能装置、睡眠時無呼吸装置、および高圧装置からなる群より選択される、請求項14記載のシステム。
【請求項16】
前記人工呼吸器が、以下の換気モードの1つまたは複数を行うことができる、請求項15記載のシステム:
従量式換気;補助調節換気(A/C);同期的間欠的強制換気(SIMV);圧サイクル式換気;圧支持換気(PSV);圧規定換気(PCV);非侵襲的陽圧換気(NIPPV);および持続気道内陽圧(CPAP)または2相性気道内陽圧(BIPAP)。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公表番号】特表2013−515592(P2013−515592A)
【公表日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−547238(P2012−547238)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【国際出願番号】PCT/US2010/062232
【国際公開番号】WO2011/090716
【国際公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(507371168)ユニバーシティ オブ フロリダ リサーチ ファンデーション インコーポレーティッド (38)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【国際出願番号】PCT/US2010/062232
【国際公開番号】WO2011/090716
【国際公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(507371168)ユニバーシティ オブ フロリダ リサーチ ファンデーション インコーポレーティッド (38)
【Fターム(参考)】
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