説明

リグノセルロース系バイオマス変換

本発明は、リグノセルロース系バイオマスから、第2世代のバイオ燃料及び/または糖ベースの化学物質及び/または材料を、スルホン化リグニン(リグニンスルホン酸塩)とともに製造する方法に関する。特には、中でも、エネルギー作物、一年生植物、農業廃棄物または木材を含むリグノセルロース系バイオマスから製造する方法に関する。バイオ燃料および/または糖ベース化学物質は、例えばエタノール、ブタノールなどであり、糖ベースの材料は、例えば、プラスチック、単細胞タンパク質などである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグノセルロース系バイオマスから、第2世代のバイオ燃料及び/または糖ベースの化学物質及び/または材料を、スルホン化リグニン(リグニンスルホン酸塩)とともに製造する方法に関する。特には、中でも、エネルギー作物、一年生植物、農業廃棄物または木材を含むリグノセルロース系バイオマスから製造する方法に関する。バイオ燃料および/または糖ベース化学物質は、例えばエタノール、ブタノールなどであり、糖ベースの材料は、例えば、プラスチック、単細胞タンパク質などである。
【0002】
特に、本発明は、リグノセルロース系バイオマスから、単糖、糖ベース化学物質、バイオ燃料または材料を製造する方法であって、少なくとも以下のステップを含むものに関する。
【0003】
(i) サルファイト蒸解ステップでの、リグノセルロース系バイオマスの前処理、
(ii) ステップ(i)からの前処理済みリグノセルロース系バイオマスについての、下記(a)及び(b)への分離、
(a)スルホン化リグニンの形態で、リグノセルロース系バイオマスのリグニンの50%以上を含む液体「サルファイト蒸解排液」相、及び、
(b)リグノセルロース系バイオマスのセルロースの70%以上を含むパルプ、
(iii)ステップ(ii)からのパルプ(b)についての、単糖を含む糖化学プラットフォームへの加水分解、
(iv)ステップ(iii)からの単糖より、有用な化学物質、バイオ燃料および/またはタンパク質を得る、任意選択的な処理、
(v)ステップ(ii)からの液相(a)のスルホン化リグニンについての、有用な化学物質および/または材料への、直接変換またはさらなる処理。
【0004】
を含む方法に関する。
【背景技術】
【0005】
一般に認められているように、石油ベースの化学物質、及び(化石)燃料用石油として用いるための資源は限られている。現在使用されている一つの代替資源に、バイオマスから得られる「バイオ燃料」がある。種々のバイオマス源を用いることができる。
【0006】
「第1世代バイオ燃料」は、糖、デンプン、植物油または動物性脂肪より、従来技術を用いて製造されるバイオ燃料である。第1世代バイオ燃料の製造のための基本的な供給原料の例には、加水分解および発酵によりバイオエタノールとするためのデンプンを得る小麦などの種子または穀物や、バイオディーゼルに変換可能な植物油を圧搾により得るヒマワリ種子がある。しかし、これらの供給原料は、このように用いずに、動物またはヒトの食物連鎖に入れることができる。したがって、第1世代バイオ燃料は、食物をヒト食物連鎖の外へと転用し、食料不足および価格上昇につながると批判されてきた。
【0007】
これに対し、「第2世代バイオ燃料」は、現在の作物の非食用残渣部分、すなわち非消化性残渣部分からなるバイオマスを用いて、持続可能な具合に製造を行うことができる。この非食用残渣部分は、例えば、茎、葉、バガス(サトウキビの繊維残渣)、穀皮などの、食用収穫物が取り出された後に残されるもの、並びに、その他の非食用供給原料(非食用収穫物)である。非食用供給原料は、例えば、木材、一年生植物、及び、ほとんど穀物を含まない穀草である。また、おがくず、並びに、果物の圧搾やワイン製造工程から出てくる皮及び搾りかすなどの産業廃棄物からなるものであっても良い。
【0008】
第2世代バイオ燃料をバイオマスから製造する際の1つの共通の問題は、「木質の」、または繊維状のバイオマスから発酵可能な原材料を抽出ことにある。具体的には、加水分解及び発酵が可能な炭水化物(具体的には、セルロースであり、ヘミセルロースが存在する場合には、セルロース及びヘミセルロース)がリグニンと絡み合っている。したがって、以下では、このようなバイオマスを「リグノセルロース系バイオマス」と呼ぶこととする。
【0009】
リグニンは、複雑で不均一なポリマーであり、セルロースやヘミセルロースに適用している加水分解や発酵のサイクルに供することができない。一般的な具合に製造されるリグニンは、特に有用な物質ではなく、通常、分離後、廃棄されるか、または、(工程用の熱を生成するという多少の寄与を行いつつ)焼却される。未来の効率的なバイオリファイナリーでは、リグノセルロースの全ての主要な成分について、分離する必要があるだけなく、全部を利用しなければならない。炭水化物は、糖ベースの化学物質、例えば、エタノールのプラットフォームとして使用され得る。
【0010】
リグノセルロース系物質についての(加水分解より前の)前処理は、水蒸気加熱、蒸気爆砕または酵素的前処理によって行われてきた。
【0011】
リグノセルロース系原料を処理するための連続プロセスは、WO2006/128304に記載されている。この方法は、リグノセルロース系原料を、約0.4と約2.0の間のpHにて、前処理反応器中で加圧下に前処理することを含む。リグニンの一部(比較的少量の部分)は、このような酸性条件下で溶け出すが、このプロセスから得られるバイオマスリグニン画分の大部分は、水溶性でなく、その他の不溶性物質とともに分離される
リグノセルロース系物質を変換する別の方法が、US6423145に記載されている。
【0012】
リグノセルロース系物質中のセルロース及びヘミセルロースを加水分解する改良希酸法であって、発酵可能な糖の総収率が、希酸単独を用いて加水分解する場合に可能な値よりも高くなる条件のものが、以下の(1)〜(3)からなる。(1)発酵可能な糖の総収率について、希酸単独を用いて加水分解する場合に可能なものよりも高くするのに充分な、ある量の希酸触媒水溶液と、金属塩触媒との混合物を、リグノセルロース系仕込原料に含浸させる。(2)含浸させたリグノセルロース系仕込原料を反応器に投入し、ヘミセルロースの実質上全部と、セルロースの45%超とを水溶性糖に加水分解するのに十分な期間加熱する。(3)そして、水溶性糖を回収する。このプロセスにより不溶性リグニンが生成し、この不溶性リグニンは、加水分解されなかったバイオマスおよびその他の不溶物とともに分離することができる。
【0013】
前処理についての、より最近の方法が、米国特許出願公開US2008/0190013に記載されている。US2008/0190013には、リグノセルロース系物質をバイオ燃料に変換する方法が開示されている。具体的な実施形態によると、この方法は、リグノセルロース系物質について、該物質をイオン性液体に溶解することによって前処理することを含む。前処理されたリグノセルロース系物質は、再生溶媒(例えば、水)を用いる沈殿などによって単離でき、バイオ燃料を生成するのに直接用いることができる。バイオ燃料を生成する工程には、糖を生成するために加水分解させることと、バイオエタノールなどの燃料を生成するために発酵させることとが含まれる。イオン性液体は、沈殿の際に導入された水の蒸発などによって、さらなる使用のためにリサイクルできるのであり、リサイクルは、ヘミセルロースリッチの画分と、一定の品質及び木材溶解特性を有するイオン性液体とを得る手段をなす。回収されたヘミセルロースは、汎用用途及び特殊用途に用いる潜在的可能性が大きい。このプロセスはまた、水に不溶性のリグニンを生成する。
【0014】
スウェーデン特許第527646号には、エンジン用の燃料と、リグノセルロース系物質からの燃料電池とを製造する方法につき提案されている。リグニンは、蒸解によって、好ましくは、ソーダ蒸解によってリグノセルロース系物質から溶け出される。蒸解液は、合成ガスにガス化され、次いで、メタノール、DMEなどを生成する。一方、パルプ中のセルロース及びヘミセルロースは、酸(弱酸または強酸)または酵素によって加水分解され、次いで、エタノールに発酵される。
【0015】
2008年12月31日にオンラインで公表されたJ.Y.Zhuら("Sulfite Pretreatment (SPORL) for robust enzymatic saccharification of spruce and red pine"; Bioresource Technology 100 (2009) 2411-2418)の論文には、針葉樹を効率的に生物変換するために、リグノセルロースの頑固な抵抗性を克服するためのサルファイト前処理が報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】J.Y. Zhu, The American Institute of Chemical Engineers, The 2008 Annual Meeting Philadelphia, PA, "Poster Session: Sustainability and Sustainable Biorefineries", 573n "Sporl for Robust Enzymatic Hydrolysis of Woody Biomass" (aiche.confex.com/aiche/2008/techprogram/S5427.HTM)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
第2世代バイオマスをバイオ燃料に変換する方法が、経済的で、持続可能な具合に行われるためには、種々の困難を克服する必要がある。
【0018】
リグニン成分は、通常、燃焼されるが、リグニンを、商業的価値のある有益な化学物質に変換できることが望ましい。しかし、多くのプロセスから得られるリグニンは、純粋でなく、水に難溶性であり、そのため、有益な化学物質へと、さらに加工・処理するのが困難となっている。
【0019】
バイオマス中のリグニンは、セルロース分解酵素を吸着し、このため、セルロースをセロビオース及びグルコースに加水分解するために用いられる酵素に対して阻害効果を有することが知られている。このことは、必要とされる酵素の量を相当に増大させる。また、セルロース繊維が依然として、リグニン及びヘミセルロースの両方の中に埋まっているので、必要とされる酵素混合物の複雑性は相当なものである。したがって、酵素の費用は、生成物のトータルの収率が低いこととともに、バイオマスからバイオ燃料を得るプロセスにおける主要な課題である。残念ながら、全ての既知の前処理方法は、低いレベル(5%より低い)にまで低減した場合にも、これらの酵素を阻害するリグニンを残留させる。
【0020】
酵素のリサイクルも、加水分解工程段階にて酵素がリグニンと非特異的に結合していることから困難である。
【0021】
第2世代のバイオエタノールを製造するにあたり、商業的視点からの別の課題は、金銭的価値のある化学物質のトータルの収率が低いことにあり、具体的には、キシラン及びリグニンからのエネルギーの価格に比べて、より高い価格の化学物質を提供することにある。
【0022】
上記先行技術に鑑み、リグノセルロース系バイオマスを変換する、次のような方法が求められる。すなわち、セルロースを加水分解のための、より良好な状態とするとともに、機能化学物質及び/またはバイオ燃料(すなわちこれらの少なくとも一方)の収率を高めるにあたり、バイオマスの、より完全な利用を可能にする方法が求められる。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0023】
これらの目的及びその他の目的は、単糖、糖ベース化学物質またはバイオ燃料、または材料をリグノセルロース系バイオマスから、スルホン化リグニンとともに製造する方法であって、以下の(i)〜(v)のステップを少なくとも含むものによって解決される。
【0024】
(i) サルファイト蒸解ステップにて、リグノセルロース系バイオマスを前処理し、
(ii) ステップ(i)で前処理されたリグノセルロース系バイオマスを、
(a)リグノセルロース系バイオマスにおけるリグニンの50%以上をスルホン化リグニンの形態で含む液体としての「サルファイト蒸解排液」相と、
(b)リグノセルロース系バイオマスにおけるセルロースの70%以上を含むパルプとに分離し、
(iii) ステップ(ii)で得たパルプ(b)を、単糖を含む糖化学プラットフォームに加水分解し、
(iv) ステップ(iii)で得た単糖について、場合により任意選択可能な処理ステップとしてのさらなる処理を行い、有用な化学物質、バイオ燃料および/またはタンパク質(すなわち、これら三者のうちのいずれか、または任意の組み合わせ)を生成し、
(v) ステップ(ii)で得た液相(a)のスルホン化リグニンをさらに処理し、有用な化学物質および/または材料へと直接に変換する。
【0025】
好ましい一実施形態によると、原料としてのリグノセルロース系バイオマスの種類により、ステップ(i)の前に、機械的処理ステップ(0)を実施することができる。前記機械的処理ステップにおいて、バイオマスが、より小さい断片または粒子へと、機械的処理により分割される。このステップは、例えば、バガスを原料として用いる場合、行われない。
【0026】
前処理ステップ(i)では、リグノセルロース系バイオマスが、酸性、中性または塩基性条件下に、亜硫酸塩を用いて蒸解される。好ましくは、亜硫酸のナトリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩またはマグネシウム塩を用いて蒸解される。この前処理ステップでは、リグニンの大部分が、リグノスルホン酸塩として、ヘミセルロースの一部とともに溶け出す。このように溶かされた、液体の相(蒸解排液。「サルファイト蒸解排液」、「SSL」ともいう。)が、ステップ(ii)における、液体状態のSSLの相(a)である。セルロースは、パルプ(b)中に、ヘミセルロースの一部とともに、ほとんどそのまま残留する。
【0027】
上記の方法によりリグノセルロース系バイオマスを処理することによって、特に効率的なバイオリファイナリープラットフォームが生成する。
【0028】
特にサルファイト蒸解を、工程全体の前処理ステップとして用いることにより、炭水化物のセルロース及びヘミセルロースを、リグニンから良好に分離することができる。得られるパルプは、蒸解の際の変性により、特に容易に加水分解を行うことができ、このため、糖化の費用が低減される。
【0029】
本発明の処理後に残っている、パルプ中の非可溶化残存グニンの含量は、酵素によりセルロースをどれだけ容易に加水分解し得るかという点に関して、あまり重要でないことが知られた。これは極めて驚くべきことであり、先に報告されているものとは異なっている。Mooney C.A.ら(1998, "The effect of the initial pore volume and lignin content on the enzymatic hydrolysis of softwood", Biores. Technol. 64, 2, 113-119)、及び、Lu Y.ら(2002, "Cellulase adsorption and an evaluation of enzyme recycle during hydrolysis of steam-exploded softwood residues", Appl. Biochem. Biotechnol. 98-100, 641-654)を参照されたい。
【0030】
理論に拘束されるのを望まずに、次のように推定することできる。サルファイト前処理が、リグニンについて、その阻害効果を低減または除去するようが具合に変性を施し、これにより、酵素消費を低くしつつ、加水分解収率を高くすることが可能になったものと推定することができる。
【0031】
このような、残存リグニンの非阻害特性により、酵素を再使用可能にするのが容易になる。例えば、基質吸着またはメンブレン濾過によって酵素を再循環することが容易になる。そして、長寿命の酵素を用いることが、より興味深いものになり、プロセス全体がより経済的になる。
【0032】
また、他の方法に比べて、市場性のある製品を、ずっと高い収率で得ることができる。これは、主として、市場性のあるリグニン製品、すなわち、リグノスルホン酸塩を、単離して用いるからでである。
【0033】
本発明による方法を実施するならば、リグノセルロース系バイオマス原料の80重量%超を、市場性のある製品に変換することができ、収率は、発酵可能な糖の理論量の最大90%までを達成可能である。統合されたプロセス全体についての一実施形態が、図1に例示されており、以下に、より詳細に記載される。
【0034】
以上のことから、本プロセスの主な利点には、以下が含まれる。
【0035】
・リグニンが、不溶性の形態から水溶性の形態に変換される。これにより、水溶性リグニンは、分離が容易に行えるようになり、機能化学物質としても、また純粋なリグニン化学物質の製造においても、驚くべき優れた特性を有する。
【0036】
・また、パルプ中のセルロースが、上記に説明したように酵素によって容易に分解され、酵素の消費量及び費用を受入可能なレベルとする。これは、サルファイト蒸解ステップの最中に、セルロース繊維が分離され、もはやリグニンおよびヘミセルロース中に埋まっていないという事実に起因すると考えられる。また、サルファイト前処理後にセルロース含有パルプ中に残ったリグニンは、酵素的加水分解を行う、後の処理ステップにおいて、酵素に対する阻害性が天然リグニンよりも低い。この効果は、完全に予想外であった。
【0037】
・酵素は、加水分解ステップを経たセルロースパルプ中に残ったリグニンに、不可逆的に吸着されるのではないようである。そのため、酵素もまたリサイクルすることができる。これにより、酵素消費量を更に低減でき、したがって、工程費用をさらに低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明による、好ましいバイオリファイナリーのコンセプトについてのフローシートである。
【図2】酸素および/またはアルカリによる脱リグニンをさらに用いる場合の好ましい実施形態についてのフローシートである。
【図3】比較例Iのソーダ蒸解IおよびIIの酵素的加水分解の結果を示す図である。カッパー価(残存リグニン)とグルコース収率(消化性)との間の相関を示す。
【図4】Celluclastを用いる酵素的加水分解中における、サルファイト処理パルプとソーダ蒸解パルプとを比較して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
<原材料>
リグノセルロース系バイオマスの原材料に関して、バイオマスがセルロースとリグニンとを含まなければならないという点を除き、大きな制約はない。本件のバイオリファイナリーのコンセプトに適した、好ましい原材料は、エネルギー作物、一年生植物、農業残渣、及び木材である。
【0040】
商業的なエネルギー作物は、典型的には、密植される多収穫作物種であって、好ましくは、食品としての価値がないか、または限られたものである。例えば、ヤナギ属(Salix)、ススキ属(Miscanthus)、ヤナギ(Willow)またはポプラ(Poplar)などの木質性の作物が、好ましいエネルギー作物である。
【0041】
一年生植物の好ましい例として、ワラ、サトウキビおよびキャッサバがある。これらは、いずれも速く成長し、概して(木材に比べ)比較的少量のリグニンを有する。
【0042】
農業残渣には、耕地作物における、食物、飼料または食物繊維を製造する主目的に用いられない部分が含まれる。例えば、動物の寝床や身を覆うのに用いられるものである。農業残渣の例には、サトウキビ由来のバガス、及びトウモロコシの茎がある。
【0043】
特に好ましい出発原料であるサトウキビは、バガス、糖およびワラに分けることができる。バガスは、繊維状材料であり、セルロース、ヘミセルロース、リグニン、抽出物質、無機塩、及び、タンパク質及び有機酸などの、その他の有機物質からなる。
【0044】
バガスと広葉樹材は、多くの類似点を有する。すなわち、針葉樹に比べ、キシラン含量が高く、繊維長が短く、リグニン含量及びセルロース含量が低い。しかし、バガスは、灰分含量が少し高い。このような灰分は、植物形態学的な相違、及び、収穫方法の相違によって説明できる。バガスの繊維長が短いのは、主として、髄含量が高い(〜30%)ためである。
【0045】
概して、機械的な寸法低減が不要となり得るとともに、高い加水分解収率が得られるという事実により、特に好ましくは、原材料として非木材農業残渣を用いて本発明の方法を実施する。特には、バガスを用いて実施する。
【0046】
木材も、本件バイオリファイナリーのコンセプトにおける材料である。ここで、全ての種類の木材が適している。
【0047】
リグノセルロース系バイオマスは、加水分解、及び、この後の単糖およびその他の成分についての処理を行うより前に、(前)処理がなされる。(前)処理は、機械的または化学的なものであり得る。
【0048】
機械的(前)処理の際には、運動量またはエネルギーが原材料に伝えられる。例えば、バイオマスを、分割するか、切断するか、または叩く手段によって、より小さい粉末とすることで伝えられる。この際、化学薬剤は添加されず、原材料の成分の化学構造は、ほとんど全く影響を受けないままである。
【0049】
化学的(前)処理の際には、少なくとも1種の化学薬剤が添加され、原材料の少なくとも1種の成分の化学構造が変えられる。以下に、より詳細に説明するように、「サルファイトパルプ化」は化学的前処理である。
【0050】
<機械的処理>
原材料としてのリグノセルロース系バイオマスの種類により、ステップ(i)に先立って機械的処理ステップ(0)を実施してもよい。前記機械的処理ステップにて、バイオマスが、機械的処理によって、より小さい断片または粒子に分割される。このステップは、例えば原材料としてバガスまたはオガクズを用いる場合、不要である。
【0051】
したがって、好ましい実施形態では、機械的(前)処理を必要としない原材料がリグノセルロース系バイオマス変換に用いられる。ここでは、サルファイト蒸解が唯一の(前)処理である。
【0052】
<前処理:サルファイトパルプ化>
亜硫酸塩(サルファイト)による木材のパルプ化(または蒸解)は、最初の化学的方法の1つであり、早くも1860年代に木材パルプ化に用いられた。
【0053】
サルファイト法を用いた最初のパルプ工場は、1874年にスウェーデンに建設され、対イオンとしてマグネシウムを使用した。1950年代までにはカルシウムが標準的な対イオンになった。亜硫酸塩パルプ化は、1940年代に、いわゆる「クラフト」法に追い越されるまで、木材パルプを製造する主要な方法であった。クラフトパルプ化の優位性は、次の事実による。すなわち、サルファイト法が、典型的には、セルロースの一部を加水分解する条件下で実施されるのであり、これは、サルファイトパルプ繊維が、クラフトパルプ繊維ほど強くないことを意味する。この点が、紙のパルプ化の大部分の用途で、サルファイトパルプ化にとり特に不利である。サルファイトパルプは、現在、全化学的パルプ生産の10%未満しか占めない。これらの残りの亜硫酸塩パルプは、特殊紙用途と、(例えば、いわゆる「溶解パルプ」の形態で)セルロース誘導体の製造とに用いられている。
【0054】
新鮮蒸解液のpHが約13で実施されるナトリウムベースのクラフト法とは異なり、サルファイト法は、全pH範囲に及ぶことを特徴とする。pHは、1未満(二酸化硫黄水溶液を使用する)から、13を超える領域(二酸化硫黄または亜硫酸ナトリウムまたは亜硫酸水素ナトリウムを、水酸化ナトリウムとともに用いる)までの範囲であり得る。
【0055】
サルファイト蒸解は、以下の4つの主要なグループに分類できる。すなわち、酸性パルプ化、酸性亜硫酸水素塩パルプ化、弱アルカリ性パルプ化、及びアルカリ亜硫酸塩パルプ化である。
【0056】
サルファイト前処理の別の特別な利点は、本発明のフレームワークにおいて特に関心の対象となっているリグニンに関連したものである。
【0057】
リグニンは、その天然状態では、水に不溶性であり、疎水性である。リグニンは、亜硫酸塩と反応すると、リグニンとは大きく異なる特性を有するスルホン化リグニン(リグノスルホン酸塩)に変換される。リグニンへのスルホン酸基の導入は、ポリマーを、中性の、アニオン的に不活性の化合物から、0.3の解離定数を有する公知の最も強力な有機酸のうちの1種に変化させる。天然に産生するリグニンとは対照的に、スルホン化リグニンは、それ自体が有用な機能化学物質であるか、または、商業的に存立が可能な化学物質または材料に変換し得るものである。本件の方法のリグニン変換は、これより他の既知の前処理法のいずれによっても、実現できない。特には、バイオマス変換との関連で知られているいかなる他の前処理プロセスでも実現できない。したがって、本件の方法は、価値のある機能化学物質(スルホン化リグニン)を、リグノセルロース系バイオマスから製造することを可能にするものである。特には、非木材ベースのバイオマス、例えば、茎、バガスまたは一年生植物からの製造を可能にする。
【0058】
本発明の前処理ステップ(i)にて、リグノセルロース系バイオマスが、酸性、中性または塩基性条件下に、亜硫酸塩(サルファイト)を用いて蒸解され、好ましくは、亜硫酸のナトリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩またはマグネシウム塩を用いて蒸解される。この前処理ステップは、リグニンのほとんどをスルホン化リグニン(リグノスルホン酸塩)として、ヘミセルロースの一部とともに溶解する。この溶解された相ないし液相(パルプ化廃液)が、ステップ(ii)の液体SSL相(a)である。セルロースは、ほとんど元の状態のままで、パルプ(b)中にヘミセルロースの一部とともに残る。
【0059】
発酵可能な糖からの燃料または化学物質の製造における前処理ステップとしてのサルファイト蒸解の使用は、化学物質のトータルの収率を高めるので極めて効果的である。要するに、既知である他のいかなる糖プラットフォームのバイオリファイナリー技術よりも、高い有用化学物質の産出率(>80%)を実現できる。
【0060】
特には、1ステップでセルロースを他の成分から、特にリグニンから効率的に分離する前処理により、加水分解のコストが低下する。
【0061】
1ステップの前処理から得られるセルロースパルプは、特に不純物が少なく、特にはリグニンが少ないという事実により、加水分解用の酵素の開発または調整が、より容易になる。
【0062】
また、本発明のサルファイト前処理ステップであると、プロセスの管理(pH1からpH13)における柔軟性、及び、ヘミセルロースが最後に行き着く相についての柔軟性(すなわち、ヘミセルロースの過半が、液体SSL相中にあるのか、セルロースパルプ中にあるのかという点での柔軟性)を増大させることができる。また、サルファイト前処理ステップは、ヘミセルロースが最終的にどの形態(単量体/多量体)を取るのかという点でも柔軟性を増大させる。
【0063】
本発明のサルファイト前処理は、以下の好ましい実施形態のうちの1つに従って実施してもよい。なお、本件明細書の全体を通して、「サルファイト前処理」は「蒸解」とも呼ばれる。
【0064】
・<酸性蒸解>:好ましくはSO2及び水酸化物。さらに好ましくは水酸化物がCa(OH)2、NaOH、NH4OHまたはMg(OH)2
・<亜硫酸水素塩蒸解>:好ましくは及び水酸化物。さらに好ましくは水酸化物がNaOH、NH4OHまたはMg(OH)2
・<弱アルカリ蒸解>:好ましくはNa2SO3。さらに好ましくは、Na2SO3及びNa2CO3
・<アルカリ蒸解>:好ましくは、Na2SO3及び水酸化物。さらに好ましくは、水酸化物がNaOH。
【0065】
蒸解の際に使用されるpHと、製造されるパルプのカッパー価の間には相関があり、具体的には、pH値が高いと、カッパー価が低くなる。カッパー価は、パルプのリグニン含量または漂白性の指標である。カッパー価は、パルプのリグニン含量と相関があり、パルプ化プロセスにおけるリグニン抽出相の有効性をモニタリングするのに使用できる。カッパー価の値は、典型的には、パルプで1〜100の範囲にあり、検討対象であるパルプにより消費される標準過マンガン酸カリウム溶液の量を測定することによって決定される。どのようにしてカッパー価を決定するかについての詳細は、ISO302:2004に示されている。
【0066】
いずれのタイプの蒸解についても、温度、時間、液比(固体に対する液体の比率)および蒸解薬剤の量といった、いくつかの蒸解の可変量による影響を用いて、パルプの組成及び特性を左右させることができる。特には、パルプ相中および液体SSL相中のそれぞれにおけるリグニン含量およびヘミセルロース含量を変化させることができる。図1参照:「パルプ」の相、及び、「SSL」の液体SSL相。
【0067】
<酸性蒸解>で得られるパルプであると、パルプ相中における残存リグニン含量が比較的高い(パルプ相のカッパー価が50〜100、残存リグニン含量が15〜40%)。酸性サルファイト蒸解であると、さらには、スルホン化リグニンのスルホン化度が高くなる。スルホン化リグニンの分子量も、アルカリ性サルファイト蒸解に比べて高い。酸性サルファイト蒸解の際に、多糖は、主としてグリコシド結合の加水分解により、部分的に分解される。ヘミセルロースは、セルロースよりも、加水分解を受け易い。しかし、製紙とは対照的に、このような(ヘミ)セルロースの部分的な加水分解は、バイオリファイナリーでは有利であり得る。バイオリファイナリーでは、いずれにしても、(ヘミ)セルロースを、加水分解し、ばらばらに分解する必要があるのである。
【0068】
ヘミセルロースの大部分(70%以上)(主にキシランとして存在する)は、蒸解の最中に加水分解され単糖になり、主としてキシロースになる。そして、蒸解液中に、すなわち、液体SSL相中に溶け出す。
【0069】
したがって、本発明の好ましい一実施形態によれば、前処理ステップ(i)として酸性蒸解を実施する。この際、リグノセルロース系バイオマス由来の全ヘミセルロースの70%以上が、ステップ(i)でキシロースに加水分解され、ステップ(ii)で、液体のSSL相(b)中にある。すなわち、ステップ(ii)では、セルロースパルプから分離されるSSL中に存在する。
【0070】
本発明の好ましい一実施形態によると、サルファイト前処理ステップが酸性蒸解であり、より好ましくは、蒸解温度が125℃〜160℃の範囲にある酸性蒸解である。高温での蒸解であると、パルプ収率が低くなり、SSL中の単糖が、より全面的に分解する。したがって、酸性蒸解の温度を160℃以下に維持することが好ましい。
【0071】
本発明の好ましい一実施形態によると、サルファイト前処理ステップが酸性蒸解であり、蒸解時間が60〜300分である。
【0072】
本発明の好ましい一実施形態によると、サルファイト前処理ステップが酸性蒸解であり、液比(固体に対する液体の比)が3:1〜10:1である。
【0073】
本発明の好ましい一実施形態によると、サルファイト前処理ステップが酸性蒸解であって、SO2の量が10〜60重量%であり、塩基(水酸化物イオン)の量は、1〜10重量%、好ましくは2%〜7%である。別段の記載がない限り、「重量%(% w/w)」は、乾燥した原材料の重量に対する、蒸解液中の成分の「重量%」を示す。
【0074】
本発明の好ましい一実施形態によると、サルファイト前処理ステップが酸性蒸解であり、使用される水酸化物は、NaOH、Ca(OH)2、Mg(OH)2、NH4OHからなる群から選択される。ナトリウム蒸解であると、一般に、カルシウム蒸解よりもカッパー価が低くなる。
【0075】
<亜硫酸水素塩(バイサルファイト)蒸解>では、酸性蒸解と同様の結果となるが、一般に、炭水化物分解が、より少なく、SSL収率が、より高く、150℃を超える温度で、カッパー価が、より低い。
【0076】
亜硫酸水素塩蒸解であると、SSL中に溶け出したキシランが、キシロースに加水分解される度合いは、より少ない(40%未満)。
【0077】
亜硫酸水素塩蒸解では、蒸解温度、蒸解時間、及び液比のそれぞれについての好ましい範囲は、酸性蒸解について上記に説明したものと、それぞれ同一である。
【0078】
以下に説明するアルカリ性蒸解及び中性蒸解のパルプは、概して、酸性および亜硫酸水素塩パルプよりも明度が高く、より容易に脱水される。
【0079】
<アルカリ性蒸解>で得られるパルプは、残存リグニンが、より少なく(80%を超えるリグニンがSSL相に溶け出し、カッパー価が10以下)、キシラン含量が、より高い(50%未満が蒸解液中に溶け出す)。SSL中に溶け出したキシランは、ほとんど全てが、キシロースにまで加水分解されていない。
【0080】
したがって、本発明の好ましい一実施形態によれば、アルカリ性蒸解は前処理ステップ(i)として実施され、ここで、リグノセルロース系バイオマスに由来する全リグニンの80%以上が、液体SSL相(b)中に存在する。すなわち、ステップ(ii)においてセルロースパルプから分離されるSSL中に存在する。アルカリの仕込み量が増大すると、典型的には、パルプのカッパー価が低くなる。
【0081】
アルカリ性サルファイトパルプ化では、薬剤として水酸化ナトリウム及び亜硫酸ナトリウムを用いるのが好ましい。アルカリ性サルファイトパルプ化は、2種の強力な脱リグニン薬剤である亜硫酸塩イオン及び水酸化物イオンを組合せており、したがって、効率的な脱リグニン法となっている。アルカリ性サルファイトパルプ化により得られるスルホン化リグニンは、分子量が、より低いであろうし、スルホン化の度合いがより低いかも知れない。というのは、pHが増大して、水酸化物イオンの効率が高くなることで、サルファイトイオンの効率が低くなっているからである。ヘミセルロースは、溶かし出して除去することができる。すなわち、アルカリ性蒸解の最中にキシランの最大50%を溶かし出すことができる。しかし、パルプと蒸解液とが分離される前に冷却される場合には、キシランの大部分がパルプ上に再沈殿する。
【0082】
本発明の好ましい一実施形態によると、サルファイト前処理ステップがアルカリ性蒸解であり、蒸解温度が、好ましくは、130℃〜180℃の範囲内、または140℃〜180℃の範囲内である。
【0083】
本発明の好ましい一実施形態によると、サルファイト前処理ステップは、アルカリ性蒸解であり、蒸解は、45〜300分の時間間隔の間実施される。
【0084】
本発明の好ましい一実施形態によると、サルファイト前処理ステップがアルカリ性蒸解であり、液比が、好ましくは、3:1〜10:1である。
【0085】
本発明の好ましい一実施形態によると、サルファイト前処理ステップがアルカリ性蒸解であって、Na2SO3の量が5〜60重量%であり、塩基の量が5〜25重量%である。
【0086】
本発明の好ましい一実施形態によると、サルファイト前処理ステップがアルカリ性蒸解であり、用いられる塩基は、NaOHまたはNH4OH(NH3)からなる群から選択される。
【0087】
アルカリ性蒸解液にアントラキノンを添加すると、脱リグニンが向上し、その結果、より高い割合の炭水化物がパルプ中に残る。したがって、サルファイト前処理ステップとしてアルカリ性蒸解が実施される場合、蒸解液にアントラキノンを添加するのが好ましい。
【0088】
<弱アルカリ性蒸解>で得られるパルプは、アルカリ性蒸解のパルプと同様であるが、残存リグニン及びキシランが、いくぶん多い。
【0089】
本願中において、「弱アルカリ性サルファイト蒸解」は、亜硫酸ナトリウムおよび炭酸ナトリウムを用いる蒸解と定義される。これらの蒸解の主な利点は、大部分の炭水化物の構造にある。すなわち、セルロース及びヘミセルロースのいずれも、ほとんど全てが、パルプ中に残存する。
【0090】
弱アルカリ性蒸解液にアントラキノンを添加すると、脱リグニンが向上し、その結果、より高い割合の炭水化物がパルプ中に残る。したがって、サルファイト前処理ステップとして弱アルカリ性蒸解が実施される場合には、蒸解液にアントラキノンを添加するのが好ましい。
【0091】
本発明の好ましい一実施形態によると、サルファイト前処理ステップが弱アルカリ性蒸解であり、蒸解温度は140℃〜180℃の範囲である。
【0092】
本発明の好ましい一実施形態によると、サルファイト前処理ステップが弱アルカリ性蒸解であり、蒸解時間45〜300分である。
【0093】
本発明の好ましい一実施形態によると、サルファイト前処理ステップが弱アルカリ性蒸解であり、液比は3:1〜10:1である。
【0094】
本発明の好ましい一実施形態によると、サルファイト前処理ステップが弱アルカリ性蒸解であって、Na2SO3の量が10〜60重量%であり、Na2CO3の量は、3〜25重量%、好ましくは5〜25重量%である。
【0095】
セルロース及びヘミセルロースの収率及び脱リグニンの程度は、低pH蒸解(酸性および亜硫酸水素塩)よりも、高pH蒸解(弱アルカリ性およびアルカリ性)で、かなり高い。高pH蒸解では、低pH蒸解よりもパルプの粘度がかなり高くなる。
【0096】
したがって、本発明の好ましい一実施形態によると、前処理ステップ(i)の亜硫酸塩蒸解が実施されるpH値は、5より高く、好ましくは7より高く、さらに好ましくは9より高い。
【0097】
<パルプとSSLの分離>
本発明の方法のステップ(ii)では、サルファイト蒸解排液(液体SSL相;SSL、スルホン化リグニンおよびヘミセルロース)からの、パルプ(固相;セルロースおよびヘミセルロース)の分離が、当業者に公知の任意の分離法により行われる。特には、圧搾、濾過、沈降または遠心分離により行われる。
【0098】
ステップ(ii)では、分離の結果、液体のSSL相が得られる。SSLにおける有機物の部分は、過半がリグニン(スルホン化リグニン)である。すなわち、リグノセルロース系バイオマス中に最初に存在するリグニンのうち該有機物部分に含まれる割合は、少なくとも50%、好ましくは、60%を超えるか、70%を超えるか、または80%を超える。さらに好ましくは、アルカリ性蒸解がステップ(i)で行われ、リグノセルロース系バイオマス中に最初に存在するリグニンのうちの、80%以上または90%以上または95%以上が、ステップ(ii)の後に、液体SSL相中に存在する。
【0099】
好ましい実施形態では、(高収率)サルファイト前処理ステップが、ステップ(i)で実施されているので、分離ステップ(ii)の結果、パルプ相中に、リグノセルロース系バイオマス中に最初に存在したセルロースの60%以上、好ましくは75%以上、さらに好ましくは90%または95%以上が得られる。
【0100】
<加水分解>
本件の方法のステップ(iii)により、ステップ(ii)にて分離されたパルプが加水分解される。パルプは、酵素によって、または微生物分解によって加水分解されることが好ましいが、弱酸または強酸加水分解のステップを用いてもよい。
【0101】
セルロースは、β-1-4-グルコシド結合により連結されたグルコース(より正確には、セロビオース)ユニットの繰り返しからなる不溶性の直鎖ポリマーである。水中にて、セルロースは、グリコシド結合に、水分子の求電子水素が攻撃することで加水分解される。
【0102】
反応の速度は、高温および圧力の使用によって高めることができ、希酸または濃酸によって、または酵素によって触媒され得る。
【0103】
・<酵素的加水分解>
セルロース鎖中では、各グルコース単位は、隣接する分子鎖中の単量体と、3つの水素結合を形成する可能性を有し、加水分解に対して耐性の安定な結晶構造をもたらす。
【0104】
本発明の好ましい一実施形態によると、セルロースポリマーを可溶性のグルコース単量体へと特異的に加水分解できる、細胞外または細胞膜結合型酵素複合体(セルラーゼ)が、加水分解ステップ(iii)にて用いられる。セルラーゼは、エキソおよびエンドセルラーゼ(グルカナーゼ)ならびにβ-グルコシダーゼ(セロビアーゼ)に分割できる異なる比活性を有する相乗的な酵素からなる多タンパク質複合体である。さらに、リグノセルロース系バイオマスのその他の主成分を分解できる酵素(ヘミセルラーゼ、ラッカーゼ、リグノリティックペルオキシダーゼなど)がある。全てのこれらの酵素、及びその任意の組合せは、好ましい酵素であり、ステップ(iii)の酵素的加水分解にて用いることができる。
【0105】
セロビオースは、グルカナーゼの公知の最終産物阻害剤であり、β-グルコシダーゼは、セロビオースをグルコースに変換することによって(律速ステップ)、この阻害を軽減することが知られている。工業プロセス、例えば、酵母によるエタノール発酵では、セルラーゼ糖化効率は、同時糖化・発酵(SSF)によって改善され得る。SSFを用いる場合の最大の課題は、一般的な加水分解酵素及び発酵生物についての温度の最適条件が異なることにある。最終産物阻害に加えて、リグニンは、セルラーゼと非特異的に結合することによって酵素の能力を低減することが知られている。
【0106】
セルロースの酸および酵素的加水分解の両方とも、セルロースの強い結晶性によって制限される。酸加水分解を上回る酵素的加水分解の利点は、温和な条件を使用することと、分解生成物の生成が最小となることであり、不利な点は、遅く費用のかかる処理であることであり得る。セルロースの前処理は、セルロースの比表面積を増大させる上で、また、結晶化度を低減する上で極めて重要である。適格な前処理は、より多くの基質にアクセス可能とし、また、上述のように、潜在的な阻害物質を除去することにより、酵素的加水分解速度を増大するという利点を有する。
【0107】
本発明の好ましい一実施形態によると、加水分解ステップ(iii)は、酵素的加水分解ステップである。
【0108】
本発明の好ましい一実施形態によると、酵素は、好ましくは、基質吸着および/またはメンブラン分離によってリサイクルされる。
【0109】
・<弱酸加水分解>
酸加水分解は、セルロース及びヘミセルロースから単糖を得るための安価で、迅速な方法であるが、いくらかの分解生成物を生じる。厳しい酸加水分解条件(高温または高い酸濃度)は、単糖を、フルフラール及び5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)へと分解し、また、脂肪酸(例えば、AcOH、HCOOH及びレブリン酸)へと分解する。しかし、弱酸加水分解は、特定の条件下で、加水分解ステップとして有用であり得る。
【0110】
濃酸加水分解は、温度20℃〜100℃および10%〜30%の範囲の酸濃度で行うのが好ましい。硫酸を使用するのが好ましい。この方法では、耐食装置および酸の回収が必要である。
【0111】
希酸加水分解は、より簡便な方法であるが、より高い温度(100℃〜230℃)及び圧力を必要とする。0%〜5%の範囲の濃度を有する異なる種類の酸が使用されることが好ましい(例えば、酢酸、HClまたは硫酸)。希酸法には、耐圧装置が必要であろう。
【0112】
本発明によると、2ステップの希酸加水分解法が特に好ましい。
【0113】
<発酵>
本件方法のステップ(iv)は、単糖の発酵に関する。特には、ヘキソースおよびペントースを発酵させて、エタノールまたはその他の糖ベース化学物質を生成するか、またはバイオマスタンパク質を生成することに関する。
【0114】
発酵は、微生物が関与し、該微生物が、糖を分解してエネルギーを放出するプロセスであり、該プロセスにより、アルコールまたは酸といったような生成物が得られる。サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae;パン酵母)は、ヘキソースをエタノールに発酵させるために最も頻繁に使用されている。1モルのグルコースは、2モルのエタノールおよび2モルの二酸化炭素を化学量論的にもたらす。バガスパルプは、比較的多量のペントースを含む。これらの糖もまた、発酵または代謝されて、バイオマスタンパク質を生じ得る。
【0115】
本発明の1つの実施形態によれば、バガスが原材料として用いられ、発酵ステップ(iv)は、ステップ(iii)の加水分解物をバイオマスタンパク質へと代謝することを含む。
【0116】
<リグノスルホン酸塩処理>
本発明による統合されたプロセスにおけるステップ(v)によると、ステップ(ii)で得られた液体SSL相(a)、すなわち、原材料中のリグニンの50%以上または60%以上または70%以上または80%以上を含むSSLが、精製されたスルホン化リグニン(リグノスルホン酸塩)、及び、その他の生成物に処理される。処理における主なステップは、例えば、発酵、限外濾過、糖破壊、沈殿などであり得る。その他のステップとして、乾燥、蒸発、剥離、中和などを挙げることができる。
【0117】
スルホン化リグニン(リグノスルホン酸塩)は、広範な用途に用いることができる。この広範な用途には、以下が含まれるが、これらに限定されるわけではない。すなわち、化学物質、バッテリーエキスパンダー、バイパスタンパク質、カーボンブラック分散、セメント、セラミック、コンクリート混和剤、エマルジョン、肥料、石膏ボード、フミン酸、工業用バインダー、工業用クリーナー&水処理添加剤、土壌調整剤、微量栄養素、鉱業および選鉱、油田化学物質、ペレット形成性能増強剤、及び、道路・土壌防塵などが含まれる。
【0118】
<任意選択のさらなる脱リグニン>
好ましい実施形態では、固相(パルプ)中のリグニンの量をさらに低減することを目的として、酸素/アルカリ脱リグニンステップ(抽出ステップ)(i')が、統合されたプロセス全体の一部であり得る。この任意選択の抽出ステップ(i')は、前処理ステップ(i)の後で分離ステップ(ii)の前に実施されることが好ましい。
【0119】
より多くのリグニンを抽出することは、リグノスルホン酸塩製造の増大という利点を有する。
【0120】
前記のさらなる脱リグニンは、酸性サルファイト法で得られたパルプについて検討するのが好ましいが、これは、これらのパルプが比較的高いリグニン含量を有するからである。酸素脱リグニン(10%・NaOH添加量、6バールの酸素)によって、酸性サルファイト蒸解パルプのカッパー価を58単位(70から12)だけ低減できる。脱リグニンの間に抽出されたスルホン化リグニン(蒸解の間に抽出されたスルホン化リグニンの約25%)は、分散力を有する。
【0121】
リグニンを除去する酸素/アルカリ脱リグニンは、好ましいさらなる脱リグニンステップである。酸素脱リグニンの際に、パルプは、高pHおよび高温で酸素圧に付される。
【実施例】
【0122】
以下は、明細書全体にわたって一般に適用され、特許請求の範囲にも適用される。「TS」は、「全固形分」を表し、105℃で16時間乾燥された後のサンプルの重量と、その元の重量の間の比である。温度は℃で示され、「w」は重量を表し、「%」は、別段の記載がない限り「重量%」を意味し、「V/w」は、別段の記載がない限りgでの重量に対する「mLでの容量」を意味する。
【0123】
<実施例1−アルカリ性亜硫酸塩蒸解、酵素的加水分解>
原材料として、バガス(82%TS(全固形分))を使用した。原材料を、6/1(6対1)の液比(液体/固体の比)にて、6%NaOH(w/w原材料 (重量/原材料重量))および24%Na2SO3(w/w原材料)からなる蒸解液と混合した。
【0124】
混合物を、1.6℃/分の温度上昇で170℃に加熱し、蒸解を170℃で60分間続けた。
【0125】
蒸解後、すなわち、本発明の前処理ステップ後、固体(パルプ、TSの51%)および液体(SSL、TSの49%)を濾過によって分離した。パルプは、57%のグルコースに相当するセルロース、24%のキシロースに相当するキシラン、2%の他の炭水化物、5%のリグニン、4%の灰分および8%の未確認の成分からなっていた。
【0126】
SSLは、TSの11%(6.4%のキシロースに相当するキシラン)の炭水化物含有量を有していた。SSL中の有機硫黄含有量は、TSの5.7%であった。SSLの残部は、スルホン化リグニン(リグノスルホン酸塩)および無機物質であった。蒸発後に、SSLについて種々の用途での試験を行ったところ、既存の市販製品に匹敵することが知られた。
【0127】
セルロースパルプに関するさらなるプロセスステップでは、前記パルプを、50℃で48時間、0.7%(w タンパク質/w 原材料 (タンパク質重量/原材料重量))の酵素(0.5%セルラーゼ、0.05% β-グルコシダーゼ及び0.15%キシラナーゼ)を用いて酵素的に加水分解した。得られた収率は、グルコースで92%、キシロースで90%であった。液体(加水分解物)を、遠心分離によって固相から分離した。
【0128】
<実施例2−酸性亜硫酸塩蒸解、酵素的加水分解>
原材料としてバガス(82%TS)を使用した。原材料を、35%のSO2(w/w原材料)及び3.1%の水酸化物イオン(w/w原材料)を含む蒸解液と混合し、NaOHを塩基として使用した。液比は6/1とした。前記前処理ステップでは、混合物を140℃にまで加熱したが、この際、温度上昇を、1.9℃/分で行い105℃で30分間停止した。蒸解を140℃で180分間、続けた。
【0129】
蒸解後、固体(パルプ、TSの45%)相と液体(SSL、TSの55%)相を濾過によって分離した。パルプは、79%のグルコースに相当するセルロース、6%のキシロースに相当するキシラン、1%のその他の炭水化物、11%のリグニン、3%の灰分からなっていた。
【0130】
SSLは、TSの25%(19%のキシロース)の炭水化物含有量を有していた。SSL中の有機硫黄含有量は、TSの4.6%であった。蒸発後、SSLについて、種々の用途での試験を行い、既存の市販製品に匹敵することが知られた。
【0131】
前処理後の加水分解ステップでは、パルプを、50℃で48時間、0.55%(wタンパク質/w原材料)の酵素(0.5%のセルラーゼ、0.05%のβ−グルコシダーゼ)を用いて酵素的に加水分解した。得られた収率は、グルコースで96%、キシロースで75%であった。液体(加水分解物)を、遠心分離によって固相から分離した。
【0132】
<実施例3−弱アルカリ性亜硫酸塩蒸解、酵素的加水分解>
原材料としてバガス(91.4%TS)を使用した。原材料を、6/1の液比で、6%Na2CO3(w/w原材料)及び16%Na2SO3(w/w原材料)からなる蒸解液と混合した。
【0133】
混合物を、1.3℃/分の温度上昇で160℃にまで加熱した。蒸解を160℃で180分間、続けた。
【0134】
蒸解後、固体(パルプ、TSの53%)と液体(SSL、TSの47%)を濾過によって分離した。パルプは、63%のグルコースに相当するセルロース、27%のキシロースに相当するキシラン、2%のその他の炭水化物、5%のリグニンおよび3%の灰分からなっていた。
【0135】
SSLは、TSの7.5%(4.7%のキシロースに相当するキシラン)の炭水化物含有量を有していた。SSLの残部は、スルホン化リグニン(リグノスルホン酸塩)及び無機物質であった。
【0136】
セルロースパルプを処理するさらなるステップでは、前記パルプを、2種の異なる基質濃度である5重量%及び10重量%にて、酵素的に加水分解した。糖化には2種の異なる酵素製剤を用いた。すなわち、Novozymes Celluclast系(いずれもV/wパルプの百分率にて、5%の「Celluclast 1.5L」、0.5%のβ−グルコシダーゼ「Novozym 188」及び1%のキシラナーゼ「Shearzyme」)と、Genencors Accellerase 1500系(24%V/wパルプ)を用いた。両製剤について、pH5(5mMクエン酸バッファー)で試験し、50℃で72時間インキュベートした。サンプルは、6、24、48及び72時間に採取した。結果を表1に示す。
【表1】

【0137】
<実施例4−酸性亜硫酸塩蒸解II、酵素的加水分解>
原材料として、バガス(91.4%TS)を使用した。原材料を、47%のSO2(w/w原材料)及び3.8%の水酸化物イオン(w/w原材料)を含む蒸解液と混合した。NaOHを塩基として使用した。液比は、6/1であった。前記前処理ステップを行うにあたり、混合物を、1.5℃/分の温度上昇で140℃にまで加熱した。蒸解を140℃で120分間、続けた。
【0138】
蒸解後、固体(パルプ、TSの47%)相と液体(SSL、TSの53%)相を濾過によって分離した。パルプは、79%のグルコースに相当するセルロース、8%のキシロースに相当するキシラン、1%未満の他の炭水化物、11%のリグニン及び2%の灰分からなっていた。
【0139】
SSLは、TSベースで22.8%(20.2%のキシロース)の炭水化物含量を有していた。SSL中の有機硫黄含量は、TSベースで4.6%であった。
【0140】
セルロースパルプについての、さらなるプロセスステップでは、前記パルプを、2種の異なる基質濃度である、5重量%と10重量%にて酵素的に加水分解した。糖化には2種の異なる酵素製剤を用いた。すなわち、Novozymes Celluclast系(いずれもV/wパルプの百分率で、5%の「Celluclast 1.5L」、0.5%のβ‐グルコシダーゼ「Novozym 188」および1%キシラナーゼ「Shearzyme」)と、Genencors Accellerase 1500系(24% V/wパルプ)を用いた。両製剤についてpH5(5mMクエン酸バッファー)で試験を行い、50℃で72時間インキュベートした。サンプルは、6、24、48及び72時間に採取した。この結果は、表2に示されており、本発明の方法を相異なる種類の酵素でもって良好に実施できることを示す。
【表2】

【0141】
<実施例5−ワラの弱アルカリ性および酸性サルファイト蒸解、酵素的加水分解>
原材料としてノルウェーワラ(Norwegian straw)(92.5%TS)を使用した。原材料を2つの部分に分けた。部分1は、16%のNa2SO3(w/w原材料)及び6%のNa2CO3(w/w原材料)からなる蒸解液と混合した。前記の前処理ステップを行うにあたり、混合物を、2℃/分の温度上昇で160℃にまで加熱した。蒸解を160℃で120分間続けた。
【0142】
部分2については、36.1%のSO2(w/w原材料)及び3.8%の水酸化物イオン(w/w供給量)を含む蒸解液と混合し、塩基としてNaOHを使用した。前記の前処理ステップを行うにあたり、混合物を、1.8℃/分の温度上昇で132℃に加熱した。蒸解を132℃で180分間続けた。
【0143】
両蒸解における液比(液体対固体比)は、6:1であった。
【0144】
上記の弱アルカリ性蒸解及び酸性蒸解(弱アルカリ性蒸解/酸性蒸解)の後、固体(パルプ、TSの49%/45%(弱アルカリ性蒸解/酸性蒸解、以下同様))相と液体(SSL、TSの51%/55%)相を、濾過によって分離した。ここで、乾燥固形物のみ考慮してパーセンテージを求めた。パルプは、63%/81%のグルコースに対応するセルロース、25%/10%のキシロースに対応するキシラン、2%未満/1%未満のその他の炭水化物、7%/15%のリグニンおよび2%/0%の未確認の成分からなっていた。
【0145】
SSLは、TSに対して14.3/21.1%(8.5%のキシロース/16.7%のキシロースに対応するキシラン)の炭水化物含有量を有していた。
【0146】
セルロースパルプについての、さらなるプロセスステップでは、前記のパルプを、8重量%の基質濃度で酵素的に加水分解した。1種の酵素製剤、すなわちNovozymes Celluclast系(いずれもV/wパルプで、10%の「Celluclast 1.5L」、15%のβ-グルコシダーゼ「Novozym 188」及び2%のキシラナーゼ「Shearzyme」)についてpH5(5mMクエン酸バッファー)で試験を行い、50℃で24時間インキュベートした。サンプルは24時間後に採取した。弱アルカリ性蒸解サンプルでは、得られた収率が、グルコースで62%、キシロースで68%であった。酸性蒸解サンプルでは、得られた収率が、グルコースで60%、キシロースで78%であった。
【0147】
<実施例6−バガスの酸性、弱アルカリ性及びアルカリ性サルファイト蒸解、酵素的加水分解>
25種の酸性、弱アルカリ性およびアルカリ性蒸解のセットを実施し、原材料としてバガス(65% TS)を使用した。広範な範囲を網羅する条件について試験した。酸性蒸解:20〜50%のSO2(w/w原材料)及び2〜8%の水酸化物イオン(w/w原材料)を用い、塩基としてNaOHを使用した。蒸解温度は125〜160℃の範囲で、時間は60〜180分の範囲で変化させた。弱アルカリ性蒸解:Na2SO3が10〜40%(w/w原材料)でNa2CO3が5〜25%(w/w原材料)。蒸解温度は140〜180℃の範囲で、蒸解時間は60〜180分の範囲で変化させた。アルカリ性蒸解:Na2SO3が10〜40%(w/w原材料)でNaOHが5〜30%(w/w原材料)。蒸解温度は140〜180℃の範囲で、時間は60〜180分の範囲で変化させた。
【0148】
蒸解の結果、種々の量の残存するリグニン1.6〜51%(カッパー価8〜102)を含む25種の種々のパルプが得られた。
【0149】
パルプに関するさらなるプロセスでは、前記のパルプを、2重量%の基質濃度で酵素的に加水分解した。1種の酵素製剤、すなわちNovozymes Celluclast系(いずれもV/wパルプで、5%の「Celluclast 1.5L」、0.5%のβ-グルコシダーゼ「Novozym 188」及び1%のキシラナーゼ「Shearzyme」)についてpH5(5mMクエン酸バッファー)で試験し、50℃で48時間インキュベートした。グルコース収率を、カッパー価(残存するリグニン)についてのプロットとして図3に示す。図3における結果は、パルプの消化性と、パルプのリグニン含量(カッパー価)との間に明確な相関がないことを示す。言い換えれば、残存リグニン含量が低い値から高い値まで大幅に変動するにもかかわらず、この変動が収率に対して顕著な影響を及ぼさない。収率は、カッパー値との相関を有さず、60%から100%の間で変動する(値>100%は、エラーバーに起因する)。この結果は、上記のサルファイト法により、リグニンが「不活性化」するためと考えられる。
【0150】
<実施例7−エタノール発酵>
発酵は、パン酵母(サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae))を用い、2LのBiostat B plus発酵装置(Sartorius Stedium)中にて、制御された条件下でのバッチ培養として実施した。
【0151】
YPD[酵母抽出物(10g/L)、ペプトン(20g/L)、デキストロース(20g/L)、寒天(20g/L)]を含む寒天プレートを使用して、株を維持した。単一コロニーを選び取り、100mlのYPD培地に最初に播種し、34℃および200rpmで一晩インキュベートした。培養物は、10mLのアリコートで、−80℃で、30%グリセリン溶液中で凍結保存した。解凍したアリコートを、スターター培養物のための種菌として用い、これを600mLのYPD培地中で一晩増殖させた。細胞を、遠心分離によって回収し、塩化ナトリウム溶液(9g/L)で洗浄し、遠心分離した。
【0152】
上記の実施例3および4の手順に従って調製された加水分解物に、栄養溶液[(NH42SO4(0.44g/L)、KH2PO4(2.0g/L)及びMgSO4(0.50mg/L)]と、1.0g/Lの酵母抽出物を加え、pHを4.6に調整した。この中に、種菌ペレット(乾燥重量で2g・L-1未満の初期バイオマス濃度となるよう調整した)を吊るした。発酵の間、グルコメーター(Glucometer Elite、Bayer AG、Germany)を使用することによってグルコースレベルをモニタリングした。発酵装置から採取したサンプルを、13000Gで1分間遠心分離した。上清について、HPLCフィルター(0.45μm GHP Acrodisc 13mmシリンジフィルター)を通して濾過し、グルコース含量(イオンクロマトグラフィー)及びエタノール濃度(ガスクロマトグラフィー)を分析した。
【0153】
実施例3及び実施例4の手順を用いて得た加水分解物は、両方とも、0.50の収率(gエタノール/gグルコース)を示した。
【0154】
<比較例>
<比較例I_ソーダ蒸解、酵素的加水分解>
原材料として、バガス(91.4%TS)を使用した。原材料を、6/1の液比で16%NaOH(w/w原材料)からなる蒸解液と混合した。
【0155】
ソーダ蒸解I:混合物を、1.3℃/分の温度上昇で160℃にまで加熱した。蒸解は、160℃で180分間続けた。
【0156】
ソーダ蒸解II:混合物を、1.5℃/分の温度上昇で140℃にまで加熱した。蒸解は、140℃で120分間続けた。
【0157】
上記のソーダ蒸解I及びソーダ蒸解IIの後、固体(パルプ、TSの48%/52%(ソーダ蒸解I/ソーダ蒸解II、以下同様))と液体(黒液、TSの52%/48%)を、濾過によって分離した(乾燥固形物のみ考慮してパーセンテージを求めた)。パルプは、68%/65%のグルコースに相当するセルロース、26%/26%のキシロースに対応するキシラン、2%/2%のその他の炭水化物、4%/5%のリグニン、及び2%/2%の灰分からなっていた。
【0158】
SSLは、乾燥物質に対して9.6%/9.2%(5.7%/5.9%のキシロース)の炭水化物含量を有していた。黒液の残部は、分解されたリグニン、脂肪酸及び無機物質であった。
【0159】
セルロースパルプについての、さらなるプロセスステップでは、前記のパルプを、2種の異なる基質濃度である5重量%及び10重量%にて酵素的に加水分解した。Novozymes Celluclast system(いずれもV/wパルプで、5%の「Celluclast 1.5L」、0.5%のβ-グルコシダーゼ「Novozym 188」及び1%のキシラナーゼ「Shearzyme」)についてpH5(5mMクエン酸バッファー)で試験し、50℃で72時間インキュベートした。サンプルを6、24、48及び72時間で採取した。結果を表3に示す。
【表3】

【0160】
<比較例Iと実施例3及び4の解釈>
本発明の前処理法を、従来のソーダ蒸解と比較すると、いくつかの相違を観察できる。特許請求の範囲に記載の方法であると、広範な分散性を有する生成物に容易に変換することができる液体画分(SSL)を生成する。本件の方法の第2のステップ(加水分解/糖化)を見るならば、ソーダ蒸解サンプルと亜硫酸塩蒸解サンプルと間には、消化性に明確な相違が存在する。図4を参照されたい。
【0161】
サルファイト前処理されたバガスは、ソーダ蒸解されたバガスよりもより容易に加水分解されることを明確に見て取ることができる。本発明より前において、当技術分野には、前処理された物質の酵素消化性とリグニン量との間には、直接相関があるという先入観があった。例えば、Mooney C.A.ら(1998, "The effect of the initial pore volume and lignin content on the enzymatic hydrolysis of softwood", Biores. Technol. 64, 2, 113-119)及びLu Y.ら(2002, "Cellulase adsorption and an evaluation of enzyme recycle during hydrolysis of steam-exploded softwood residues", Appl. Biochem. Biotechnol. 98-100, 641-654)を参照されたい。ソーダ蒸解で得られるパルプの方がリグニン含量が低いにもかかわらず、ソーダ蒸解により得られたパルプの法が、ソーダ蒸解で得られるパルプよりも容易に加水分解された。この知見は、リグニン含量がサルファイト前処理物質の加水分解における律速因子でないことを強く示唆している。このことは、脱リグニン前処理に関して、以前に示されたことがなく、予想もされなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単糖、糖ベース化学物質またはバイオ燃料、または材料をリグノセルロース系バイオマスから、スルホン化リグニンとともに製造する方法であって、以下の(i)〜(v)のステップを少なくとも含む方法。
(i) サルファイト蒸解ステップにて、リグノセルロース系バイオマスを前処理するステップ。
(ii) ステップ(i)で前処理されたリグノセルロース系バイオマスを、
(a)リグノセルロース系バイオマスにおけるリグニンの50%以上をスルホン化リグニンの形態で含む液体としての「サルファイト蒸解排液」相と、
(b)リグノセルロース系バイオマスにおけるセルロースの70%以上を含むパルプとに分離するステップ。
(iii) ステップ(ii)で得たパルプ(b)を、単糖を含む糖化学プラットフォームに加水分解するステップ。
(iv) ステップ(iii)で得た単糖をさらに処理して、有用な化学物質、バイオ燃料および/またはタンパク質を得る任意選択的な処理ステップ。
(v) ステップ(ii)で得た液相(a)のスルホン化リグニンをさらに処理し、有用な化学物質および/または材料へと直接に変換するステップ。
【請求項2】
単糖が、ヘキソースおよびペントースを含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ヘキソースおよびペントースが、キシロースおよびグルコースを含む請求項2に記載の方法。
【請求項4】
リグノセルロース系バイオマスが、バガスまたはエネルギー作物、または、木材、一年生植物、農業残渣または農業廃棄物を含む請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
下記の(1)〜(2)の一方または両方である請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
(1)前記方法に使用されるリグノセルロース系バイオマスが機械的(前)処理を必要としない。
(2)サルファイト蒸解ステップ(i)が加水分解より前における唯一の化学的(前)処理である。
【請求項6】
液体SSL相の有機部分は、過半がスルホン化リグニンの形態のリグニンであり、リグノセルロース系バイオマス中に最初に存在するリグニンのうちの、少なくとも50%、60%超、または70%超、または80%超を含む請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記前処理ステップ(i)のサルファイト蒸解が実施されるpH値が、5より高いか、7より高いか、または9より高い請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
リグノセルロース系バイオマス中に最初に存在していたセルロースのうちの、80%以上、90%以上または95%以上が、ステップ(i)後のパルプ(b)中に存在する請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
酸性蒸解が、唯一の化学的前処理ステップ(i)として実施され、リグノセルロース系バイオマスに由来する全ヘミセルロースの70%以上が単糖に加水分解される請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
サルファイト前処理ステップが、酸性蒸解であり、蒸解温度が125℃から160℃の範囲にある請求項9に記載の方法。
【請求項11】
サルファイト前処理ステップが酸性蒸解であり、SO2の量が10〜60重量%であり、塩基(水酸化物イオン)の量が1〜10重量%または2%〜7%である請求項1から10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
塩基が、NaOH、Ca(OH)2、Mg(OH)2およびNH4OHからなる群から選択される請求項11に記載の方法。
【請求項13】
蒸解時間が、60から300分の範囲内である請求項9〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
サルファイト前処理ステップが、アルカリ性蒸解であり、蒸解温度が130℃〜180℃の範囲内である請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前処理ステップ(i)としてアルカリ性蒸解が実施され、リグノセルロース系バイオマス由来の全リグニンの80%以上が、液体SSL相(b)中に存在する請求項1〜8および14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
リグノセルロース系バイオマスの全固形分を基準にして、Na2SO3の量が5〜60重量%であり、塩基の量が5〜25重量%である請求項14または請求項15に記載の方法。
【請求項17】
使用される塩基が、NaOHまたはNH4OH(NH3)から選択される請求項14から16に記載の方法。
【請求項18】
サルファイト前処理ステップが弱アルカリ性蒸解であり、Na2SO3の量が10〜60重量%であり、Na2CO3の量が3〜25重量%、または、5〜25重量%である請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
蒸解時間が45〜300分の範囲内である請求項18に記載の方法。
【請求項20】
加水分解ステップ(iii)が酵素的加水分解ステップであり、好ましくは、セルロースポリマーを、可溶性グルコース単量体などの単糖に特異的に加水分解できる、セルラーゼ及びβ−グルコシダーゼの混合物、または、その他の細胞外または細胞膜結合型酵素複合体を用いる請求項1〜19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
加水分解ステップ(iii)が酵素的加水分解ステップであり、酵素が基質吸着および/またはメンブレン分離によってリサイクルされる請求項20に記載の方法。
【請求項22】
酵素が、セルラーゼ、ヘミセルラーゼおよびβ−グルコシダーゼを含む請求項21に記載の方法。
【請求項23】
原料物質としてバガスが用いられ、発酵ステップ(iv)が、ステップ(iii)の加水分解物を、エタノール、ブタノールまたはその他のバイオ燃料に代謝するステップを含む請求項1〜22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
原料物質としてバガスが用いられ、発酵ステップ(iv)が、ステップ(iii)の加水分解物をバイオマスタンパク質に代謝するステップを含む請求項1〜23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
酸素/アルカリ性脱リグニンステップ(i')が、統合された全体のプロセスにおける一部であり、好ましくは、(前)処理ステップ(i)の後で分離ステップ(ii)の前に実施される請求項1〜24のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−511918(P2012−511918A)
【公表日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−541205(P2011−541205)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【国際出願番号】PCT/EP2009/009046
【国際公開番号】WO2010/078930
【国際公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(511148662)ボレガード インダストリーズ リミテッド ノルゲ (2)
【氏名又は名称原語表記】BORREGAARD INDUSTRIES LIMITED NORGE
【住所又は居所原語表記】Hjalmar Wesselsv. 10, N−1721 Sarpsborg, Norway
【Fターム(参考)】