説明

リチウムイオンキャパシタ

【課題】非水電解液の溶媒として低粘度溶媒を使用することなく、低温での内部抵抗を低減することができるリチウムイオンキャパシタを提供すること。
【解決手段】リチウムイオンキャパシタ10は、活性炭からなる正極21と、炭素材料からなる負極31と、非水系溶媒に溶質を溶解させた非水電解液51とを備える。非水電解液51は、エチレンカーボネートとγ−ブチロラクトンとを主成分として含むとともに、エチレンカーボネート及びγ−ブチロラクトンについての個々の含有量よりも少量であってかつそれらよりも還元電位が高いビニレンカーボネートを添加剤として含む。負極31の表面には、ビニレンカーボネートの還元分解によって生成される分解生成物からなる被膜、及びビニレンカーボネートとリチウムとの反応生成物からなる被膜のうちの少なくともいずれかが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性炭からなる正極と、炭素材料からなる負極と、非水系溶媒に溶質を溶解させた非水電解液とを備えたリチウムイオンキャパシタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽光発電や風力発電等の負荷平準化装置、コンピュータ等に代表される電子機器の瞬時電圧低下対策装置、電気自動車やハイブリッドカーのエネルギー回生装置などのような蓄電システムにおいては、エネルギー容量が大きくてかつ急速充放電が可能な蓄電デバイスが必要とされている。従来の鉛蓄電池やその他の二次電池では、大電流の充放電に弱くサイクル寿命が短いため、その蓄電システムに対応することは困難であった。そこで、それらの問題を解決しうる新たな蓄電デバイスとして、近年、非水系の蓄電デバイスが注目されている。
【0003】
現在、急速充放電や長寿命化が可能な非水系の蓄電デバイスとして、リチウムイオンキャパシタが提案されている。リチウムイオンキャパシタには、非水電解液の溶媒としてプロピレンカーボネートを使用したものが実用化されている。プロピレンカーボネートは、高誘電率性溶媒であるため、常温での使用時には、キャパシタ容量を十分に確保することができる。しかしながら、そのプロピレンカーボネートの溶媒を低温(例えば−30℃)で使用すると、キャパシタの負極界面でリチウムイオンの移動抵抗が増し、キャパシタの内部抵抗が大きくなるといった問題があった。
【0004】
従来の二次電池などでは、環状カーボネートからなる高誘電率性溶媒に、鎖状カーボネートなどの低粘度溶媒を混ぜることで、非水電解液の低温特性を向上させる手法が一般的に採用されている。
【0005】
また、非水電解液の溶媒として、γ−ブチロラクトンを使用したものも提案されている(例えば、特許文献1参照)。γ−ブチロラクトンは、環状カーボネートの中では比較的リチウムイオンの拡散係数が大きく、低温でのリチウムイオンの伝導率が高くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4083040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、低粘度溶媒は、沸点や引火点が低いため、リチウムイオンキャパシタを高温の環境下で使用した場合には、内圧が上昇してしまう。また、内圧上昇によって万一漏液が発生した場合、引火しやすいといった安全性上の問題があった。このため、低粘度溶媒を用いたリチウムイオンキャパシタは、高温の環境下に晒される屋外機器等の電源として使用することが困難となっていた。
【0008】
また、γ−ブチロラクトン系の溶媒を使用する場合、リチウムイオンキャパシタの初期充放電時において、γ−ブチロラクトンが還元分解し、負極31の表面に被膜54(図4参照)を作ってしまう。このγ−ブチロラクトン由来の被膜54は、プロピレンカーボネートの溶媒を使用したときに形成されるプロピレンカーボネート由来の被膜よりも厚く、リチウムイオン55の透過性が悪い。その結果、リチウムイオンキャパシタの内部抵抗が大きくなる。特に、低温の環境下では、リチウムイオンキャパシタの内部抵抗の増大が顕著になり、キャパシタ性能を極端に落とす原因となってしまう。
【0009】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、非水電解液の溶媒として低粘度溶媒を使用することなく、低温での内部抵抗を低減することができるリチウムイオンキャパシタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための手段[1]〜[5]を以下に列挙する。
【0011】
[1]活性炭からなる正極と、炭素材料からなる負極と、非水系溶媒に溶質を溶解させた非水電解液とを備えたリチウムイオンキャパシタであって、前記非水電解液は、エチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートから選択される少なくとも一方の環状カーボネートとγ−ブチロラクトンとを主成分として含むとともに、前記主成分をなす環状カーボネート及びγ−ブチロラクトンについての個々の含有量よりも少量であってかつそれらよりも還元電位が高い別の環状カーボネートを添加剤として含み、前記負極の表面には、前記添加剤の還元分解によって生成される前記添加剤の分解生成物からなる被膜、及び前記添加剤とリチウムとの反応生成物からなる被膜のうちの少なくともいずれかが形成されていることを特徴とするリチウムイオンキャパシタ。
【0012】
従って、手段1に記載の発明によると、非水電解液は、リチウムイオンの拡散係数の大きいγ−ブチロラクトンを含み、さらにエチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートの少なくとも一方を含ませることでリチウムイオンの拡散係数をより大きくすることができる。この結果、非水電解液におけるリチウムイオンの移動速度が速くなる。また、γ−ブチロラクトンを用いることにより、電極内にリチウムイオンが脱挿入する際のエネルギー(溶媒和のエネルギー)が小さくなる。このため、低温時におけるリチウムイオンの脱挿入時の移動抵抗を低くすることができる。また、リチウムイオンキャパシタの初期充放電時に、添加剤の環状カーボネートがγ−ブチロラクトンよりも先に還元分解される。そして、負極の表面には、添加剤の分解生成物からなる被膜、及び添加剤とリチウムとの反応生成物からなる被膜のうちの少なくともいずれかが形成される。この場合、従来技術のようにγ−ブチロラクトン由来の抵抗の高い被膜が負極の表面に形成されなくなり、リチウムイオンキャパシタの内部抵抗を下げることができる。さらに、本発明のリチウムイオンキャパシタにおける非水電解液は、沸点や引火点が低い低粘度溶媒(例えば、鎖状カーボネートなど)を含まずに、沸点や引火点が比較的高い環状カーボネートの溶媒のみを含んで構成されている。このため、リチウムイオンキャパシタを高温の環境下で使用した場合でも、安全性を確保することができる。
【0013】
[2]手段1において、前記主成分をなす環状カーボネートとγ−ブチロラクトンとを合わせて100重量部含むとともに、前記100重量部中に占める前記主成分をなす環状カーボネートの含有量が1重量部以上であることを特徴とするリチウムイオンキャパシタ。
【0014】
手段2に記載の発明のように、主成分をなす環状カーボネート(エチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートの少なくとも一方)を1重量部以上の割合で含有させることが好ましい。この非水電解液では、γ−ブチロラクトンのみからなる非水電解液と比較して、リチウムイオンの伝導率を高めることができる。この結果、リチウムイオンキャパシタの内部抵抗を下げることができる。ここで、非水電解液の溶媒には、主成分をなす環状カーボネートの含有量を、10重量部以上とすることが好ましく、さらには20重量部以上50重量部以下とすることがより好ましい。主成分をなす環状カーボネートの含有量を20重量部以上50重量部以下とした非水電解液を用いる場合、γ−ブチロラクトンのみからなる非水電解液を用いた場合と比較して、リチウムイオンキャパシタの内部抵抗を4割以上低くすることができる。
【0015】
[3]手段1において、前記添加剤の環状カーボネートがビニレンカーボネートであり、前記非水電解液は、前記主成分をなす環状カーボネートとγ−ブチロラクトンとの混合物の100重量部に対して、前記ビニレンカーボネートを0.01重量部以上10重量部以下の割合で含有させたものであることを特徴とするリチウムイオンキャパシタ。
【0016】
手段3に記載の発明によると、リチウムイオンキャパシタの初期充放電時に、添加剤のビニレンカーボネートが還元分解され、ビニレンカーボネート由来の被膜が負極の表面に形成される。ビニレンカーボネートを含まない場合には、γ−ブチロラクトンが還元分解されてγ−ブチロラクトン由来の被膜が負極の表面に形成される。このγ−ブチロラクトン由来の被膜と比較して、ビニレンカーボネート由来の被膜は、薄くかつリチウムイオンの透過性がよい。また、ビニレンカーボネート由来の被膜は、充放電のサイクル劣化が少なく、負極の表面に安定的に形成される。このように、負極の表面にビニレンカーボネート由来の被膜を形成することより、リチウムイオンキャパシタの内部抵抗を下げることができる。ここで、主成分をなす環状カーボネートとγ−ブチロラクトンとの混合物の100重量部に対して、ビニレンカーボネートを、0.1重量部以上5重量部以下の割合で含有させることが好ましく、さらには0.5重量部以上2重量部以下の割合で含有させることがより好ましい。ビニレンカーボネートの割合を0.5重量部以上2重量部以下とした非水電解液を用いる場合、ビニレンカーボネートを含まない非水電解液を用いた場合と比較して、リチウムイオンキャパシタの内部抵抗を5割程度低下させることができる。
【0017】
[4]手段1乃至3のいずれか1項において、前記溶質がテトラフルオロホウ酸リチウムであることを特徴とするリチウムイオンキャパシタ。
【0018】
手段4に記載の発明によると、非水電解液の溶質がテトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF)であるので、電解液の分解が生じにくくなり、リチウムイオンキャパシタの内部抵抗を低く抑えることができる。また、非水電解液におけるテトラフルオロホウ酸リチウムの濃度は、低すぎるとリチウムイオンの伝導率が低くなり、高すぎると電解液の粘度が高くなって、いずれもリチウムイオンキャパシタの抵抗が高くなってしまう。従って、非水電解液におけるテトラフルオロホウ酸リチウムの濃度が0.5mol/L以上1.8mol/L以下であることが好ましく、1.0mol/L以上1.5mol/L以下であることがより好ましい。このように、テトラフルオロホウ酸リチウムの濃度を上記好適範囲に設定すると、リチウムイオンキャパシタの内部抵抗を確実に下げることができる。
【0019】
[5]手段1乃至4のいずれか1項において、前記負極の炭素材料がハードカーボンであり、前記ハードカーボンは、(002)面の格子間隔が黒鉛の格子間隔よりも4%以上大きいことを特徴とするリチウムイオンキャパシタ。
【0020】
手段5に記載の発明によると、(002)面の格子間隔が黒鉛の格子間隔よりも4%以上大きいハードカーボンを負極の炭素材料として用いているので、その結晶構造を破壊することなく良好な被膜を負極表面に形成することができる。ここで、ハードカーボンが黒鉛構造に近づくと、溶媒和したままのリチウムイオンが黒鉛層に挿入し、層間剥離を起こしてしまう。この場合、リチウムイオンキャパシタの寿命が短くなる。これに対して、(002)面の格子間隔が黒鉛の格子間隔よりも4%以上大きいハードカーボンを用いれば、リチウムイオンキャパシタの寿命を向上させることができる。さらに、ハードカーボンとして、(002)面の格子間隔が黒鉛の格子間隔よりも10%以上大きいものを用いると、リチウムイオンキャパシタの抵抗をより低くすることができる。
【発明の効果】
【0021】
以上詳述したように、手段1〜5に記載の発明によると、非水電解液の溶媒として低粘度溶媒を使用することなく、低温での内部抵抗を低減することができるリチウムイオンキャパシタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】一実施の形態のリチウムイオンキャパシタを示す平面図。
【図2】一実施の形態のリチウムイオンキャパシタを示す断面図。
【図3】負極表面に形成される被膜を示す断面図。
【図4】従来の負極表面に形成される被膜を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明をリチウムイオンキャパシタに具体化した一実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。図1は本実施の形態におけるリチウムイオンキャパシタ10を示す平面図であり、図2はリチウムイオンキャパシタ10の概略構成を示す断面図である。
【0024】
図1及び図2に示されるように、リチウムイオンキャパシタ10は、シート状に成形された正極21と負極31とがセパレータ41を介して交互に積み重ねられた構造を有する電極積層体11を備えている。リチウムイオンキャパシタ10において、電極積層体11は、リチウム塩を含んだ非水電解液51とともに容器61内に密封封止されている。
【0025】
セパレータ41は、電解液や電極活物質等に対して耐久性があり、連通気孔を有する非導電性の多孔体等からなる。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを原料とする多孔性シートからなるセパレータや紙製のセパレータが用いられる。セパレータ41の厚さは、キャパシタ10の内部抵抗を小さくするために薄いほうが好ましいが、電解液の保持量、流通性、強度等を勘案して適宜設定することができる。
【0026】
正極21は、炭素材料からなる正極電極22を正極集電体23上に形成した構造を有している。正極電極22を形成する炭素材料としては、活性炭が用いられる。この炭素材料は、必要に応じて導電剤及びバインダとともに混練され、成形される。正極集電体23は、正極電極22を支持しつつ集電を行うための部材であって、例えばアルミニウムからなる導電性金属箔を用いて形成されている。正極集電体23は平面視矩形状に形成され、その四辺のうちの一辺からタブ24が突出している。このタブ24は、アルミニウムからなる正極外部端子25に接続されている。
【0027】
負極31は、リチウムイオンの吸蔵及び放出が可能な材料からなる負極電極32を負極集電体33上に形成した構造を有している。負極電極32の形成材料としては、人造黒鉛、天然黒鉛等の炭素材料がある。これらの炭素材料の中でも、ハードカーボンが、負極材料として好適である。負極電極32用の炭素材料は、必要に応じて導電剤及びバインダとともに混練され、成形される。負極集電体33は、負極電極32を支持しつつ集電を行うための部材であって、例えば銅からなる導電性金属箔を用いて形成されている。負極集電体33は平面視矩形状に形成され、その四辺のうちの一辺からタブ34が突出している。このタブ34は、銅からなる負極外部端子35に接続されている。
【0028】
本実施の形態で用いられる非水電解液51は、非水系溶媒として、エチレンカーボネート(EC)とγ−ブチロラクトン(GBL)とを主成分として含むとともに、γ−ブチロラクトンよりも還元電位が高いビニレンカーボネート(VC)を添加剤として含んでいる。なお、ビニレンカーボネートの還元電位は、0.9V(vs Li/Li+)程度であり、γ−ブチロラクトンの還元電位は0.8V(vs Li/Li+)程度である。
【0029】
本実施の形態の非水電解液51において、γ−ブチロラクトン及びエチレンカーボネートは、それらの重量比(GBL:EC)で3:1の割合で含んでいる。つまり、γ−ブチロラクトンとエチレンカーボネートとの混合物の100重量部に対し、γ−ブチロラクトンを75重量部、エチレンカーボネートを25重量部の割合でそれぞれ含有させている。また、γ−ブチロラクトンとエチレンカーボネートとの混合物の100重量部に対し、添加剤としてのビニレンカーボネートを1重量部の割合で添加して非水電解液51が構成されている。さらに、非水電解液51の溶質として、LiBFと表記されるテトラフルオロホウ酸リチウムが前記非水系溶媒に溶解されている。非水電解液51におけるテトラフルオロホウ酸リチウムの濃度は、1.2mol/Lである。
【0030】
本実施の形態のリチウムイオンキャパシタ10では、図3に示されるように、負極31の表面にビニレンカーボネート由来の被膜52が形成されている。このビニレンカーボネート由来の被膜52は、従来技術のようなγ−ブチロラクトン由来の被膜54(図4参照)と比較して薄く形成されており、リチウムイオン55の透過性が高い被膜である。
【0031】
容器61は、アルミニウム箔を樹脂フィルムにラミネートしてなるアルミニウム・ラミネートフィルム(金属ラミネートフィルム)を用いて矩形袋状に加工したソフト容器である。その開口部は、熱融着によって封止されている。熱融着による封止は、融着部に正極外部端子25及び負極外部端子35を挟み込んだ状態で行われる。このようにして容器61内に電極積層体11を収容した場合、容器61における一方の端部(図1では左側の端部)から正極外部端子25が突出し、その反対方向となる他方の端部(図1では右側の端部)から負極外部端子35が突出する。なお、アルミニウム箔以外の他の金属箔からなる金属ラミネートフィルムを用いて、容器61を形成してもよい。
【0032】
次に、上述したリチウムイオンキャパシタ10の製造方法について説明する。
【0033】
まず、正極21、負極31、及びセパレータ41を準備し、電極積層体11を形成する。
【0034】
正極21の作製は下記の手順で行う。具体的には、正極活物質である活性炭の90重量部(重量%)に、導電剤としてのカーボンブラックを6重量部(重量%)、バインダを2重量部(重量%)、増粘剤を2重量部(重量%)加えて混合し、水で分散してスラリーとする。このスラリーを正極集電体23である厚さ20μmのアルミニウム箔上に均一に塗布して、正極電極22を形成する。正極電極22の乾燥及びプレスを行った後に金型で打ち抜き加工することで、一辺にタブ24を有する縦横15cm角のシート状に裁断して、正極21とする。
【0035】
負極31の作製は下記の手順で行う。まず、X線回折における格子面(002面)のd値(格子間隔)が0.381nmであるハードカーボン粉末を負極活物質として用意する。このハードカーボン粉末の90重量部(重量%)に、導電剤としてのカーボンブラックを6重量部(重量%)、バインダを2重量部(重量%)、増粘剤を2重量部(重量%)加えて混合し、水で分散してスラリーとする。このスラリーを負極集電体33である厚さ15μmの銅箔上に均一に塗布して、負極電極32を形成する。負極電極32の乾燥及びプレスを行った後に金型で打ち抜き加工することで、一方の辺にタブ34を有する縦横15cm角のシート状に裁断して、負極31とする。さらに、紙製のセパレータ原紙を切断することでシート状のセパレータ41とする。
【0036】
また、非水電解液51の作製は以下の手順で行う。すなわち、γ−ブチロラクトンとエチレンカーボネートとを準備し、γ−ブチロラクトンを75重量部、エチレンカーボネートを25重量部の割合で混合する。そして、γ−ブチロラクトンとエチレンカーボネートとの混合物の100重量部に対して1重量部の割合でビニレンカーボネートを添加する。さらに、溶質としてのテトラフルオロホウ酸リチウムを1.2mol/Lの濃度で溶解して非水電解液51を調製する。
【0037】
上記のように作製した正極21、負極31及びセパレータ41を用い、正極21及び負極31の間にセパレータ41を介在させて積層し、電極積層体11とする。なおここでは、電極積層体11の対向する2辺のうちの一方から正極集電体23のタブ24が突出し、他方から負極集電体33のタブ34が突出するよう各正極集電体23及び負極集電体33を配置する。その後、各正極集電体23から引き出された各々のタブ24を正極外部端子25に超音波溶接し、かつ、各負極集電体33から引き出された各々のタブ34を負極外部端子35に超音波溶接する。さらに、負極31の近傍にセパレータ41を介してリチウム金属箔(図示略)を貼り付ける。
【0038】
次に、容器61の中に端子付きの電極積層体11を収容して開口部を閉じる。この後、真空引きを行いつつ非水電解液51を注入し、容器61内の収容空間を非水電解液51で確実に満たすようにする。さらに、容器61を密閉した後、リチウム金属箔と負極31とを容器61内部で短絡させる。この状態で所定時間(2週間程度の期間)保持し、リチウムイオン55を負極31のハードカーボンに吸蔵させてリチウムイオン55のプレドープを進行させる。プレドープの進行に伴って、負極電位が低下し、ビニレンカーボネートの還元電位(例えば、0.9V(vs Li/Li+))以下の電位まで低下すると、ビニレンカーボネートが還元分解する。そして、負極31の表面には、ビニレンカーボネート由来の被膜52が形成される(図3参照)。
【0039】
この負極31表面の被膜52は、ビニレンカーボネートの還元分解によって生成される分解生成物や、ビニレンカーボネートとリチウムとの反応生成物からなる。さらに、リチウムイオン55のプレドープが進行し、負極電位がγ−ブチロラクトンの還元電位(例えば、0.8V(vs Li/Li+))以下に低下しても、負極31表面にビニレンカーボネート由来の被膜52が形成されているため、γ−ブチロラクトンは還元分解されることはなく、抵抗の高いγ−ブチロラクトン由来の被膜が負極31表面に形成されることはない。そして、負極電位が所定電位まで下がりプレドープが終了する。この結果、図1に示すリチウムイオンキャパシタ10が完成する。
【0040】
以下、実施例について説明する。ここでは、非水電解液51におけるエチレンカーボネートの含有量を変更して上記構成のリチウムイオンキャパシタ10を数種類(実施例1〜11,比較例1)作製した。その後、−30℃の恒温槽内で、リチウムイオンキャパシタ10における正負極間の電圧が2V〜4Vとなる電圧範囲で充放電を行い、充放電を100サイクル行った後にキャパシタ10の内部抵抗をそれぞれ測定した。その結果を表1に示す。なお、リチウムイオンキャパシタ10の内部抵抗は、100サイクル後のIRドロップ(電圧降下)に基づいて算出した。
【0041】
実施例1のリチウムイオンキャパシタ10で用いた非水電解液51は、γ−ブチロラクトンを99重量部、エチレンカーボネートを1重量部、ビニレンカーボネートを1重量部の割合で含む。また、溶質としてテトラフルオロホウ酸リチウムを1.2mol/Lの濃度で溶解している。実施例2〜11では、実施例1におけるエチレンカーボネートの割合を10重量部〜60重量部(γ−ブチロラクトンの割合は90重量部〜40重量部)に変更している。比較例1では、エチレンカーボネートを含まない非水電解液51、すなわち、γ−ブチロラクトンを100重量部、ビニレンカーボネートを1重量部の割合で含む非水電解液51を用いている。
【表1】

【0042】
表1に示されるように、エチレンカーボネートを1重量部以上含ませた実施例1〜11のリチウムイオンキャパシタ10では、エチレンカーボネートを含ませない比較例1のリチウムイオンキャパシタ10に対して、内部抵抗が90%以下に低下している。また、実施例2〜10のように、エチレンカーボネートを10重量部以上55重量部以下の割合で含ませると、比較例1の内部抵抗よりも68%以下の内部抵抗に低下している。さらに、実施例5〜8のように、エチレンカーボネートを20重量部以上50重量部以下の割合で含ませると、比較例1の内部抵抗よりも58%以下の内部抵抗に低下している。さらには、実施例6のように、γ−ブチロラクトンを75重量部、エチレンカーボネートを25重量部とした場合には、比較例の50%の内部抵抗、つまり半分の抵抗に低減した。このように、エチレンカーボネートを所定の濃度で電解液51に含ませることでリチウムイオンキャパシタ10の内部抵抗を低く抑えることができた。
【0043】
次に、非水電解液51におけるビニレンカーボネートの添加量を変更して上記構成のリチウムイオンキャパシタ10を数種類(実施例12〜24,比較例2,3)作製した。その後、−30℃の恒温槽内で、リチウムイオンキャパシタ10における正負極間の電圧が2V〜4Vとなる電圧範囲で充放電を行い、充放電を100サイクル行った後にキャパシタ10の内部抵抗をそれぞれ測定した。その結果を表2に示す。
【0044】
なお、実施例12のリチウムイオンキャパシタ10で用いた非水電解液51は、γ−ブチロラクトンを75重量部、エチレンカーボネートを25重量部、ビニレンカーボネートを0.01重量部の割合で含む。また、溶質としてテトラフルオロホウ酸リチウムを1.2mol/Lの濃度で溶解している。実施例13〜24では、実施例12におけるビニレンカーボネートの割合を0.1重量部〜10重量部に変更している。比較例2では、ビニレンカーボネートを含まない非水電解液51を用い、比較例3では、ビニレンカーボネートを11重量部の割合で含む非水電解液51を用いている。
【表2】

【0045】
表2に示されるように、ビニレンカーボネートを0.01重量部以上10重量部以下の割合で含ませた実施例12〜24のリチウムイオンキャパシタ10では、比較例2,3のリチウムイオンキャパシタ10に対して、内部抵抗が90%以下に低下している。また、実施例13〜22のように、ビニレンカーボネートを0.1重量部以上5重量部以下の割合で含ませると、比較例2,3の内部抵抗よりも67%以下の内部抵抗に低下している。さらに、実施例16〜18のように、ビニレンカーボネートを0.5重量部以上2重量部以下の割合で含ませると、比較例2,3の内部抵抗の50%程度に内部抵抗が低下している。このように、ビニレンカーボネートを所定の濃度で電解液51に含ませることで、リチウムイオンキャパシタ10の内部抵抗を低く抑えることができた。
【0046】
また、非水電解液51における溶質(電解質)のテトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF)の濃度を変更して上記構成のリチウムイオンキャパシタ10を数種類(実施例25〜34,比較例4,5)作製した。その後、−30℃の恒温槽内で、リチウムイオンキャパシタ10における正負極間の電圧が2V〜4Vとなる電圧範囲で充放電を行い、充放電を100サイクル行った後にキャパシタ10の内部抵抗をそれぞれ測定した。その結果を表3に示す
【0047】
なお、表3の各リチウムイオンキャパシタ10で用いた非水電解液51は、γ−ブチロラクトンを75重量部、エチレンカーボネートを25重量部、ビニレンカーボネートを1重量部の割合で含む。
【表3】

【0048】
表3に示されるように、テトラフルオロホウ酸リチウムを0.5mol/L以上1.9mol/L以下の濃度で含ませた実施例25〜34のリチウムイオンキャパシタ10では、2.0mol/Lの濃度で含ませた比較例5のリチウムイオンキャパシタ10に対して、内部抵抗が93%以下に低下している。また、実施例28〜31のように、テトラフルオロホウ酸リチウムを1.0mol/L以上1.5mol/L以下の濃度で含ませると、比較例5の内部抵抗よりも54%以下の内部抵抗に低下している。なお、テトラフルオロホウ酸リチウムを0.3mol/Lの濃度で含ませた比較例4では、比較例5の場合の内部抵抗の97%であり、内部抵抗の低下は少なかった。
【0049】
また、負極31の炭素材料を変更して上記構成のリチウムイオンキャパシタ10を数種類(実施例35〜39,比較例6,7)作製した。その後、−30℃の恒温槽内で、リチウムイオンキャパシタ10における正負極間の電圧が2V〜4Vとなる電圧範囲で充放電を行い、充放電を100サイクル行った後にキャパシタ10の内部抵抗をそれぞれ測定した。その結果を表4に示す。
【0050】
なお、比較例6のリチウムイオンキャパシタ10では、X線回折における格子面(002面)のd値(格子間隔)が0.3357nmの黒鉛を使用して負極31を形成している。また、実施例35〜39のリチウムイオンキャパシタでは、格子面(002面)のd値が黒鉛よりも4%〜15%大きなハードカーボン(d=0.349nm〜0.394nm)を用いて負極31を形成している。さらに、比較例7のリチウムイオンキャパシタでは、格子面(002面)のd値が2%だけ大きなハードカーボン(d=0.342nm)を用いて負極31を形成している。
【表4】

【0051】
表4に示されるように、黒鉛よりも格子面(002面)のd値が4%〜15%大きなハードカーボンを用いた実施例35〜39のリチウムイオンキャパシタ10では、黒鉛を用いた比較例6のリチウムイオンキャパシタ10に対して、内部抵抗が87%以下に低下している。また、実施例37〜39のように、黒鉛よりも格子面(002面)のd値が10%以上大きなハードカーボンを用いると、比較例6の内部抵抗よりも56%以下の内部抵抗に低下している。なお、格子面(002面)のd値が2%だけ大きなハードカーボンを用いた比較例7では、比較例6の場合の内部抵抗の97%であり、内部抵抗の低下は少なかった。
【0052】
次に、本発明者らは、非水電解液51におけるエチレンカーボネートをプロピレンカーボネートに換えて上記構成のリチウムイオンキャパシタ10を作製し、上記実施例と同様に内部抵抗を確認した。ここでは、まず、非水電解液51におけるプロピレンカーボネートの含有量を変更して上記構成のリチウムイオンキャパシタ10を数種類(実施例40〜49,比較例8,9)作製した。その後、−30℃の恒温槽内で、リチウムイオンキャパシタ10における正負極間の電圧が2V〜4Vとなる電圧範囲で充放電を行い、充放電を100サイクル行った後にキャパシタ10の内部抵抗をそれぞれ測定した。その結果を表5に示す。
【0053】
なお、実施例40〜49,比較例8では、γ−ブチロラクトンとプロピレンカーボネートとの混合物の100重量部におけるプロピレンカーボネートの割合を1重量部〜60重量部に変更している。また、γ−ブチロラクトンとプロピレンカーボネートとの混合物の100重量部に対してビニレンカーボネートを1重量部の割合で含む。さらに、溶質としてテトラフルオロホウ酸リチウムを1.2mol/Lの濃度で溶解している。また、比較例9では、プロピレンカーボネートを含まない非水電解液51、すなわち、γ−ブチロラクトンを100重量部、ビニレンカーボネートを1重量部の割合で含む非水電解液51を用いている。
【表5】

【0054】
表5に示されるように、プロピレンカーボネートを1重量部以上含ませた実施例40〜49のリチウムイオンキャパシタ10では、プロピレンカーボネートを含ませない比較例9のリチウムイオンキャパシタ10に対して、内部抵抗が94%以下に低下している。また、実施例41〜49のように、プロピレンカーボネートを10重量部以上55重量部以下の割合で含ませると、比較例9の内部抵抗よりも75%以下の内部抵抗に低下している。さらに、実施例44〜47のように、プロピレンカーボネートを20重量部以上50重量部以下の割合で含ませると、比較例9の内部抵抗よりも59%以下の内部抵抗に低下している。さらには、実施例45のように、γ−ブチロラクトンを75重量部、プロピレンカーボネートを25重量部とした場合には、比較例9の53%の内部抵抗に低減した。このように、プロピレンカーボネートを所定の濃度で電解液51に含ませることでリチウムイオンキャパシタ10の内部抵抗を低く抑えることができた。
【0055】
次に、非水電解液51におけるビニレンカーボネートの添加量を変更して上記構成のリチウムイオンキャパシタ10を数種類(実施例50〜62,比較例10,11)作製した。その後、−30℃の恒温槽内で、リチウムイオンキャパシタ10における正負極間の電圧が2V〜4Vとなる電圧範囲で充放電を行い、充放電を100サイクル行った後にキャパシタ10の内部抵抗をそれぞれ測定した。その結果を表6に示す。
【0056】
なお、実施例50のリチウムイオンキャパシタ10で用いた非水電解液51は、γ−ブチロラクトンを75重量部、プロピレンカーボネートを25重量部、ビニレンカーボネートを0.01重量部の割合で含む。また、溶質としてテトラフルオロホウ酸リチウムを1.2mol/Lの濃度で溶解している。実施例51〜62では、実施例50におけるビニレンカーボネートの割合を0.1重量部〜10重量部に変更している。比較例10では、ビニレンカーボネートを含まない非水電解液51を用い、比較例11では、ビニレンカーボネートを11重量部の割合で含む非水電解液51を用いている。
【表6】

【0057】
表6に示されるように、ビニレンカーボネートを0.01重量部以上10重量部以下の割合で含ませた実施例50〜62のリチウムイオンキャパシタ10では、比較例10,11のリチウムイオンキャパシタ10に対して、内部抵抗が93%以下に低下している。また、実施例51〜60のように、ビニレンカーボネートを0.1重量部以上5重量部以下の割合で含ませると、比較例2,3の内部抵抗よりも71%以下の内部抵抗に低下している。さらに、実施例54〜56のように、ビニレンカーボネートを0.5重量部以上2重量部以下の割合で含ませると、比較例10,11の内部抵抗の55%以下に内部抵抗が低下している。このように、ビニレンカーボネートを所定の濃度で電解液51に含ませることで、リチウムイオンキャパシタ10の内部抵抗を低く抑えることができた。
【0058】
また、非水電解液51における電解質のテトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF)の濃度を変更してリチウムイオンキャパシタ10を数種類(実施例63〜71,比較例12〜14)作製した。その後、−30℃の恒温槽内で、リチウムイオンキャパシタ10における正負極間の電圧が2V〜4Vとなる電圧範囲で充放電を行い、充放電を100サイクル行った後にキャパシタ10の内部抵抗をそれぞれ測定した。その結果を表7に示す
【0059】
なお、表7の各リチウムイオンキャパシタ10で用いた非水電解液51は、γ−ブチロラクトンを75重量部、プロピレンカーボネートを25重量部、ビニレンカーボネートを1重量部の割合で含む。
【表7】

【0060】
表7に示されるように、テトラフルオロホウ酸リチウムを0.5mol/L以上1.8mol/L以下の濃度で含ませた実施例63〜71のリチウムイオンキャパシタ10では、2.0mol/Lの濃度で含ませた比較例14のリチウムイオンキャパシタ10に対して、内部抵抗が89%以下に低下している。また、実施例66〜69のように、テトラフルオロホウ酸リチウムを1.0mol/L以上1.5mol/L以下の濃度で含ませると、比較例14の内部抵抗よりも59%以下の内部抵抗に低下している。なお、テトラフルオロホウ酸リチウムを、0.3mol/Lの濃度で含ませた比較例12、1.9mol/Lの濃度で含ませた比較例13では、比較例14の場合の内部抵抗の98%であり、内部抵抗の低下は少なかった。
【0061】
さらに、負極31の炭素材料を変更してリチウムイオンキャパシタ10を数種類(実施例72〜76,比較例15,16)作製した。その後、−30℃の恒温槽内で、リチウムイオンキャパシタ10における正負極間の電圧が2V〜4Vとなる電圧範囲で充放電を行い、充放電を100サイクル行った後にキャパシタ10の内部抵抗をそれぞれ測定した。その結果を表8に示す。なお、表8の各リチウムイオンキャパシタ10で用いた非水電解液51は、γ−ブチロラクトンを75重量部、プロピレンカーボネートを25重量部、ビニレンカーボネートを1重量部の割合で含む。
【0062】
比較例15のリチウムイオンキャパシタ10では、X線回折における格子面(002面)のd値(格子間隔)が0.3357nmの黒鉛を使用して負極31を形成している。また、実施例72〜76のリチウムイオンキャパシタ10では、格子面(002面)のd値が黒鉛よりも4%〜15%大きなハードカーボン(d=0.349nm〜0.394nm)を用いて負極31を形成している。さらに、比較例16のリチウムイオンキャパシタ10では、格子面(002面)のd値が2%だけ大きなハードカーボン(d=0.342nm)を用いて負極31を形成している。
【表8】

【0063】
表8に示されるように、黒鉛よりも格子面(002面)のd値が4%〜15%大きなハードカーボンを用いた実施例72〜76のリチウムイオンキャパシタ10では、黒鉛を用いた比較例15のリチウムイオンキャパシタ10に対して、内部抵抗が86%以下に低下している。また、実施例74〜76のように、黒鉛よりも格子面(002面)のd値が10%以上大きなハードカーボンを用いると、比較例15の内部抵抗よりも59%以下の内部抵抗に低下している。なお、格子面(002面)のd値が2%だけ大きなハードカーボンを用いた比較例16では、比較例15の場合の内部抵抗の98%であり、内部抵抗の低下は少なかった。
【0064】
従って、本実施の形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0065】
(1)本実施の形態のリチウムイオンキャパシタ10で用いられる非水電解液51は、リチウムイオン55の拡散係数の大きいγ−ブチロラクトンを含み、さらにエチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートの少なくとも一方を含ませることでリチウムイオン55の拡散係数をより大きくすることができる。この結果、非水電解液51におけるリチウムイオン55の移動速度が速くなる。また、γ−ブチロラクトンを用いることにより、負極31にリチウムイオン55が脱挿入する際のエネルギー(溶媒和のエネルギー)が小さくなる。このため、低温時におけるリチウムイオン55の脱挿入時の移動抵抗を低くすることができる。また、リチウムイオンキャパシタ10の初期充放電時に、添加剤のビニレンカーボネートが先に還元分解される。そして、負極31の表面には、ビニレンカーボネートの分解生成物やビニレンカーボネートとリチウムとの反応生成物からなる被膜52が形成される。この場合、従来技術のようにγ−ブチロラクトン由来の抵抗の高い被膜54が負極31の表面に形成されなくなり、リチウムイオンキャパシタ10の内部抵抗を下げることができる。さらに、非水電解液51は、沸点や引火点が低い低粘度溶媒(例えば、鎖状カーボネートなど)を含まずに、沸点や引火点が比較的高い環状カーボネートの溶媒のみを含んで構成されている。このため、リチウムイオンキャパシタ10を高温の環境下で使用した場合でも、安全性を確保することができる。
【0066】
(2)本実施の形態のリチウムイオンキャパシタ10において、非水電解液51は、エチレンカーボネートまたはプロピレンカーボネートとγ−ブチロラクトンとを合わせて100重量部含むとともに、その100重量部中に占めるエチレンカーボネートまたはプロピレンカーボネートの含有量が1重量部以上となっている。この非水電解液51では、γ−ブチロラクトンのみからなる非水電解液と比較して、リチウムイオン55の伝導率を高めることができる。従って、その非水電解液51を用いることにより、リチウムイオンキャパシタ10の内部抵抗を下げることができる。具体的には、実施例5〜実施例8、実施例44〜実施例47のリチウムイオンキャパシタ10のように、非水電解液51にエチレンカーボネートまたはプロピレンカーボネートを20重量部以上50重量部以下の割合で含有させることで、γ−ブチロラクトンのみの非水電解液を用いた場合と比較して、キャパシタ10の内部抵抗を4割以上低くすることができる。
【0067】
(3)本実施の形態のリチウムイオンキャパシタ10では、非水電解液51において、エチレンカーボネートまたはプロピレンカーボネートとγ−ブチロラクトンとの混合物の100重量部に対して、ビニレンカーボネートを0.01重量部以上10重量部以下の割合で含有させている。この場合、リチウムイオンキャパシタ10の初期充放電時に、ビニレンカーボネートが還元分解され、ビニレンカーボネート由来の被膜52が負極31の表面に形成される。ビニレンカーボネートを含まない場合には、γ−ブチロラクトンが還元分解されてγ−ブチロラクトン由来の被膜が負極31の表面に形成される。このγ−ブチロラクトン由来の被膜と比較して、ビニレンカーボネート由来の被膜52は、薄くかつリチウムイオン55の透過性がよい。また、ビニレンカーボネート由来の被膜52は、充放電のサイクル劣化が少なく、負極31の表面に安定的に形成される。このように、負極31の表面にビニレンカーボネート由来の被膜52を形成することより、リチウムイオンキャパシタ10の内部抵抗を下げることができる。特に、0.5重量部以上2重量部以下の割合でビニレンカーボネートを含有させると、ビニレンカーボネートを含まない場合と比較して、リチウムイオンキャパシタ10の内部抵抗を5割程度低下させることができる。
【0068】
(4)本実施の形態のリチウムイオンキャパシタ10において、非水電解液51の電解質(溶質)として、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF)を溶解させている。このテトラフルオロホウ酸リチウムを用いると、リチウムヘキサフルオロフォスフェート(LiPF)を用いる場合と比較して、非水電解液51の分解が生じにくくなり、リチウムイオンキャパシタ10の内部抵抗を低く抑えることができる。非水電解液51におけるテトラフルオロホウ酸リチウムの濃度は、低すぎるとリチウムイオン55の伝導率が低くなり、高すぎると電解液51の粘度が高くなって、いずれもリチウムイオンキャパシタ10の内部抵抗が高くなってしまう。従って、実施例25〜33、実施例63〜実施例71のように、0.5mol/L以上1.8mol/L以下の濃度となるようにテトラフルオロホウ酸リチウムを溶解させることで、非水電解液51の電気伝導度を低くすることができる。特に、実施例28〜31、実施例66〜実施例69のように、1.0mol/L以上1.5mol/L以下の濃度となるようにテトラフルオロホウ酸リチウムを溶解させると、非水電解液51の電気伝導度がより低くなるため、リチウムイオンキャパシタ10の内部抵抗を低く抑えることができる。またこの場合、リチウムイオン55の良好な拡散性を実現することができ、かつ十分な電荷のキャリア数を確保することができるため、リチウムイオンキャパシタ10の充放電性能を十分に確保することができる。
【0069】
(5)本実施の形態のリチウムイオンキャパシタ10では、負極31の炭素材料として、(002)面の格子間隔が黒鉛の格子間隔よりも4%以上大きいハードカーボンを用いている。この場合、ハードカーボンの結晶構造を破壊することなく良好な被膜52を負極31の表面に形成することができる。ここで、負極31のハードカーボンが黒鉛構造に近づくと、溶媒和したままのリチウムイオン55が黒鉛層に挿入し、層間剥離を起こしてしまう。この場合、リチウムイオンキャパシタ10の寿命が短くなる。これに対して、(002)面の格子間隔が黒鉛の格子間隔よりも4%以上大きいハードカーボンを用いれば、層間剥離を回避することができ、リチウムイオンキャパシタ10の寿命を向上させることができる。
【0070】
(6)本実施の形態のリチウムイオンキャパシタ10では、非水電解液51中のリチウムイオン55の移動速度を速めることができ、リチウムイオン55の溶媒和のエネルギーが小さくなるため、リチウムイオン55のプレドープを迅速に行うことができる。具体的には、従来のプロピレンカーボネート系溶媒を用いた場合、プレドープの完了には1ヶ月程度かかっていたが、本実施の形態の非水電解液51を用いると、2週間程度でプレドープが完了する。この結果、リチウムイオンキャパシタ10の製造コストを低く抑えることができる。
【0071】
なお、本発明の実施の形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施の形態では、主成分をなす環状カーボネートとして、エチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートのいずれか一方を非水電解液51に含ませていたが、エチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートの両方を非水電解液51に含ませてもよい。
【0072】
・上記実施の形態のリチウムイオンキャパシタ10では、正極外部端子25及び負極外部端子35が互いに反対方向に引き出されていたが、これに限定するものではなく、同一方向から正極外部端子25及び負極外部端子35を引き出す構成としてもよい。
【0073】
・上記実施の形態では、シート状の正極21、負極31及びセパレータ41を積層した電極積層体11を備える積層タイプのリチウムイオンキャパシタ10に具体化したが、これに限定されるものではない。例えば、帯状の正極21、帯状の負極31及び帯状のセパレータ41をロール状に捲回して電極積層体11を構成した捲回タイプのリチウムイオンキャパシタに本発明を具体化してもよい。
【0074】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した実施の形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0075】
(1)手段2において、前記100重量部中に占める前記主成分をなす環状カーボネートの含有量が10重量部以上であることを特徴とするリチウムイオンキャパシタ。
【0076】
(2)手段2において、前記100重量部中に占める前記主成分をなす環状カーボネートの含有量が20重量部以上50重量部以下であることを特徴とするリチウムイオンキャパシタ。
【0077】
(3)手段3において、前記混合物の100重量部に対して、前記ビニレンカーボネートを0.1重量部以上5重量部以下の割合で含有させたものであることを特徴とするリチウムイオンキャパシタ。
【0078】
(4)手段3において、前記混合物の100重量部に対して、前記ビニレンカーボネートを0.5重量部以上2重量部以下の割合で含有させたものであることを特徴とするリチウムイオンキャパシタ。
【0079】
(5)手段4において、前記非水電解液における前記テトラフルオロホウ酸リチウムの濃度が0.5mol/L以上1.8mol/L以下であることを特徴とするリチウムイオンキャパシタ。
【0080】
(6)手段4において、前記非水電解液における前記テトラフルオロホウ酸リチウムの濃度が1.0mol/L以上1.5mol/L以下であることを特徴とするリチウムイオンキャパシタ。
【0081】
(7)手段5において、前記ハードカーボンは、(002)面の格子間隔が黒鉛の格子間隔よりも10%以上大きいことを特徴とするリチウムイオンキャパシタ。
【0082】
(8)手段3において、前記ビニレンカーボネートの還元分解によって生成されるビニレンカーボネート由来の被膜は、前記γ−ブチロラクトンの還元分解によって生成されるγ−ブチロラクトン由来の被膜よりもリチウムイオンの透過性がよいことを特徴とするリチウムイオンキャパシタ。
【0083】
(9)技術的思想(8)において、前記ビニレンカーボネート由来の被膜は、前記γ−ブチロラクトン由来の被膜よりも薄く形成されることを特徴とするリチウムイオンキャパシタ。
【0084】
(10)手段1乃至5のいずれか1項において、前記負極は、前記炭素材料にあらかじめリチウムイオンを吸蔵させたものであることを特徴とするリチウムイオンキャパシタ。
【符号の説明】
【0085】
10…リチウムイオンキャパシタ
21…正極
31…負極
51…非水電解液
52…被膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性炭からなる正極と、炭素材料からなる負極と、非水系溶媒に溶質を溶解させた非水電解液とを備えたリチウムイオンキャパシタであって、
前記非水電解液は、エチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートから選択される少なくとも一方の環状カーボネートとγ−ブチロラクトンとを主成分として含むとともに、前記主成分をなす環状カーボネート及びγ−ブチロラクトンについての個々の含有量よりも少量であってかつそれらよりも還元電位が高い別の環状カーボネートを添加剤として含み、
前記負極の表面には、前記添加剤の還元分解によって生成される前記添加剤の分解生成物からなる被膜、及び前記添加剤とリチウムとの反応生成物からなる被膜のうちの少なくともいずれかが形成されている
ことを特徴とするリチウムイオンキャパシタ。
【請求項2】
前記非水電解液は、前記主成分をなす環状カーボネートとγ−ブチロラクトンとを合わせて100重量部含むとともに、前記100重量部中に占める前記主成分をなす環状カーボネートの含有量が1重量部以上であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオンキャパシタ。
【請求項3】
前記添加剤の環状カーボネートがビニレンカーボネートであり、前記非水電解液は、前記主成分をなす環状カーボネートとγ−ブチロラクトンとの混合物の100重量部に対して、前記ビニレンカーボネートを0.01重量部以上10重量部以下の割合で含有させたものであることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオンキャパシタ。
【請求項4】
前記溶質がテトラフルオロホウ酸リチウムであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のリチウムイオンキャパシタ。
【請求項5】
前記負極の炭素材料がハードカーボンであり、前記ハードカーボンは、(002)面の格子間隔が黒鉛の格子間隔よりも4%以上大きいことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のリチウムイオンキャパシタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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