説明

リチウムイオン二次電池用の負極材料及びリチウムイオン二次電池

【課題】充放電に伴うシリコンの体積変化に起因する電池特性の劣化を抑制したリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】負極は、シリコン/炭素複合材料粉末とカーボンブラックとカーボンナノファイバとを混練した負極材料の混練物の膜を集電体の表面に形成した構造を有する。カーボンブラック及びカーボンナノファイバは、シリコン/炭素複合材料粉末の粒子の間に共存する。シリコン/炭素複合材料は、シリコン粉末の粒子の表面を炭素被膜で被覆した構造を有する。カーボンブラックの一次粒子の平均粒子径は、シリコン/炭素複合材料粉末の一次粒子の平均粒子径よりも小さい。カーボンナノファイバの平均長さは、カーボンブラックの一次粒子の平均粒子径よりも長い。カーボンナノファイバの平均直径は、シリコン/炭素複合材料粉末及びカーボンブラックの一次粒子の平均粒子径よりも細い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用の負極材料及び当該負極材料を使用したリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池用の負極材料としては、黒鉛系の負極材料が広く使用されている。しかし、黒鉛系の負極材料の単位質量当たりの理論放電容量は、炭素原子6個に対してリチウム原子1個が結合すると仮定すると、372mAh/gしかない。
【0003】
この限界を打破するため、リチウムイオン二次電池用の負極材料として、シリコン系の負極材料を用いることが検討されている。シリコン系の負極材料の単位質量当たりの理論放電容量は、シリコン原子1個に対してリチウム原子4個が結合すると仮定すると、1908mA/gと極めて大きい。
【0004】
しかし、シリコン系の負極材料を使用したリチウムイオン電池には、充放電に伴うシリコン粒子の体積変化が電池特性を劣化させるという問題がある。
【0005】
この問題を解決するため、特許文献1は、シリコン粒子の粒子径より繊維の長さが長い繊維状高分子物質を負極材料に添加することを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−153006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1によっても、充放電に伴うシリコン粒子の体積変化に起因する電池特性の劣化を十分に抑制することは困難である。
【0008】
本発明は、この問題を解決するためになされたもので、充放電に伴うシリコン粒子の体積変化に起因する電池特性の劣化を抑制したリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するための手段は以下の通りである。
【0010】
(a)粒子の表面が炭素被膜で被覆されたシリコン粉末を含む負極活物質粉末と、(b)負極活物質粉末の粒子の間に存在し負極活物質粉末より一次粒子の平均粒子径が小さい導電性炭素粉末と、(c)負極活物質粉末の一次粒子の間に導電性炭素粉末と共存し負極活物質粉末及び導電性炭素粉末の一次粒子の平均粒子径より繊維の平均直径が細く導電性炭素粉末の一次粒子の平均粒子径より繊維の平均長さが長い導電性炭素繊維と、をリチウムイオン二次電池用の負極材料に含有させる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、充放電に伴いシリコン粒子の体積変化が発生しても負極活物質と集電体との導通が維持されるので、充放電に伴うシリコン粒子の体積変化に起因する電池特性の劣化が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】リチウムイオン二次電池用の負極の模式図である。
【図2】リチウムイオン二次電池用の負極の模式図である。
【図3】リチウムイオン二次電池の主要部の模式図である。
【図4】電池C1〜C4の性能試験の結果を示す図である。
【図5】電池C5,C7の性能試験の結果を示す図である。
【図6】電池C9,C10の性能試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(1 第1実施形態)
(負極の概略)
図1及び図2は、第1実施形態のリチウムイオン二次電池用の負極102の模式図である。図1は、シリコン/炭素複合材料粉末104の粒子が収縮した放電状態を示し、図2は、シリコン/炭素複合材料粉末104の粒子が膨張した充電状態を示す。
【0014】
図1及び図2に示すように、負極102は、負極活物質のシリコン/炭素複合材料粉末104と、導電助剤のカーボンブラック106と、導電助剤のカーボンナノファイバ108と、図示しない結着剤とを混練した負極材料の混練物の膜110を集電体112の表面に形成した断面構造を有する。
【0015】
カーボンブラック106及びカーボンナノファイバ108は、シリコン/炭素複合材料粉末104の粒子の間に共存し、シリコン/炭素複合材料粉末104と集電体112との間に導電経路を形成する。これにより、図2に示す充電状態においてシリコン/炭素複合材料粉末104の粒子の膨張によりカーボンブラック106の粒子のつながり(ストラクチャー)が破壊されても、大きな弾性を有するカーボンナノファイバ108がシリコン/炭素複合材料粉末104の粒子の膨張に応じて変形し、カーボンナノファイバ108によりシリコン/炭素複合材料粉末104と集電体112との間の導通が維持される。
【0016】
図1及び図2は、負極材料の混練物の膜110を集電体112の表面に形成した負極102を示しているが、多孔体の集電体の気孔に負極材料の混練物を収容してもよい。ただし、カーボンナノファイバ108の添加効果は、図1及び図2に示す構造の負極102において特に明確に発現する。
【0017】
(シリコン/炭素複合材料粉末104)
シリコン/炭素複合材料粉末104は、シリコン粉末114の一次粒子の表面を炭素被膜116で被覆した構造を有する。
【0018】
シリコン粉末114の一次粒子の平均粒子径は、10μm以下であることが望ましく、0.03μm以上0.8μm以下であることがさらに望ましい。シリコン粉末114の一次粒子の平均粒子径がこれらの範囲内にあれば、シリコン/炭素複合材料粉末104と集電体112との間の導通を確保しやすく、充放電に伴いシリコン/炭素複合材料粉末104の体積変化が発生してもシリコン/炭素複合材料粉末104と集電体112との間の導通を維持しやすいからである。
【0019】
炭素被膜116の膜厚は、5nm以上であることが望ましい。
【0020】
シリコン/炭素複合材料粉末104は、充電時にリチウムイオンを吸収して膨張し、放電時にリチウムイオンを放出して収縮する。
【0021】
シリコン/炭素複合材料粉末104は、どのように作製してもよいが、例えば、シリコン粉末114の一次粒子の表面に塩素化ポリエチレンエラストマー等の有機化合物を吸着させ、吸着させた有機化合物を熱分解して炭化することにより作製する。
【0022】
「シリコン粉末」は、シリコンからなる粉末であるが、若干の不純物又は添加物を含んでいてもよい。
【0023】
(カーボンブラック106)
カーボンブラック106は、導電性炭素粉末の代表例である。導電性炭素粉末は、製造方法、出発原料等に由来する名称で呼ばれる場合、例えば、「ファーネスブラック」「チャンネルブラック」「アセチレンブラック」「サーマルブラック」等と呼ばれる場合もある。導電性炭素粉末の一次粒子は、内部が中空となっていない中実体であってもよいし、内部が中空となっている中空体であってもよい。導電性炭素粉末の一次粒子の表面が水酸基、カルボキシル基等の官能基で修飾されていてもよい。
【0024】
カーボンブラック106の一次粒子の平均粒子径は、シリコン/炭素複合材料粉末104の一次粒子の平均粒子径よりも小さい。カーボンブラック106の一次粒子の平均粒子径は、10nm以上100nm以下であることが望ましく、50nm程度であることがさらに望ましい。
【0025】
カーボンブラック106は、一次粒子が凝集したつながりを有する状態でシリコン/炭素複合材料粉末104の一次粒子の間に存在している。
【0026】
(カーボンナノファイバ108)
カーボンナノファイバ108は、導電性炭素繊維の代表例である。導電性炭素繊維は、繊維の長さ方向に延在する中空部を内部に有さない中実体であってもよいし、繊維の長さ方向に延在する中空部を内部に有する中空体であってもよい。カーボンナノファイバ108は、15層以上の円筒形のグラフェンシート(炭素網層)を直径方向に同軸状に積層した円筒積層体であることが望ましく、当該円筒積層体の円筒面がC軸面となっていることが望ましい。このような構造を有するカーボンナノファイバ108は、十分な機械的強度及び弾性を有するからである。
【0027】
カーボンナノファイバ108の平均長さは、カーボンブラック106の一次粒子の平均粒子径よりも長い。カーボンナノファイバ108の平均長さは、0.1μm以上10μm以下であることが望ましい。
【0028】
カーボンナノファイバ108の平均直径は、シリコン/炭素複合材料粉末104及びカーボンブラック106の一次粒子の平均粒子径よりも細い。カーボンナノファイバ108の平均直径は、10nm以上20nm以下であることが望ましい。
【0029】
カーボンナノファイバ108は、どのように作製してもよいが、気相成長法により作製することが望ましい。気相成長法により作製したカーボンナノファイバ108は、純度が高く品質のばらつきも小さいので、気相成長法により作製したカーボンナノファイバ108を用いると、品質のばらつきが小さい負極102が得られるからである。気相成長法により品質のばらつきが小さいカーボンナノファイバ108が得られるのは、気相成長法は製造条件を高い精度で管理することができることによる。
【0030】
(負極102の製造)
負極102の製造にあたっては、シリコン/炭素複合材料粉末104、カーボンブラック106、カーボンナノファイバ108及び結着剤が混練機により混練され、負極材料の混練物が製造される。粘度を調整するためにアセトニトリル等の有機溶媒を混練の際に負極材料の混練物に添加してもよい。リチウムイオン導電性の電解質を負極材料の混練物に添加してもよい。
【0031】
得られた混練物は、塗布機により金属箔等の集電体112の表面に塗布される。混練物の塗布膜は乾燥され、集電体112の表面に負極材料の混練物の膜110を形成した負極102が製造される。
【0032】
このようにして製造された負極102は、多孔体の集電体の気孔に負極材料の混練物を収容する等のシリコン/炭素複合材料粉末104の粒子の膨張の影響を抑制する対策が行われていないにもかかわらず、充放電に伴いシリコン/炭素複合材料粉末104の粒子の体積変化が発生してもシリコン/炭素複合材料粉末104と集電体112との導通が良好に維持される。
【0033】
(2 第2実施形態)
図3は、第1実施形態の負極102を使用した第2実施形態のリチウムイオン二次電池202の主要部の模式図である。
【0034】
図3に示すように、リチウムイオン二次電池202は、負極102と正極204とを電解質206を挟んで対向させた構造を有する。負極102と正極204との間にセパレータが挿入される場合もある。
【0035】
正極204としては、リチウムイオン二次電池用の正極として知られているものが使用される。正極204は、例えば、正極活物質、導電助剤、結着剤、集電体等からなり、正極活物質は、例えば、金属酸化物、金属硫化物、金属フッ化物、リチウム金属複合酸化物及びリチウム金属リン酸塩からなる群より選択される1種類以上の物質からなる。正極材料にリチウムイオン伝導性の電解質を添加してもよい。
【0036】
電解質206としては、リチウムイオン二次電池用のリチウムイオン導電性の電解質として知られているものが使用される。電解質206は、有機溶媒にリチウム塩を溶解させた有機電解液、高分子にリチウム塩を溶解させたポリマー固体電解質、高分子に有機電解液若しくはイオン溶液を補足した有機ゲルポリマー電解質又はリチウム溶融塩からなる。
【0037】
第2実施形態のリチウムイオン2次電池202は、充放電に伴いシリコン/炭素複合材料粉末104の体積変化が発生しても電池特性の劣化が起こりくいという特徴を有する。
【0038】
(3 リチウムイオン二次電池の試作及び評価)
(3.1 負極)
(負極材料の成分)
表1は、リチウムイオン二次電池の試作にあたって調製した6種類の負極材料N1〜N6において使用したシリコン粉末114の平均粒子径、カーボンナノファイバの種類及び結着剤の種類を示している。また、表1は、負極材料N1〜N6における各成分の配合量も示している。
【0039】
【表1】

【0040】
負極材料N1において使用した平均粒子径が50nmのシリコン粉末は、シグマアルドリッチジャパン株式会社(東京都品川区)製である。
【0041】
負極材料N2〜N6において使用した平均粒子径が0.7μmのシリコン粉末は、工業用のシリコンをボールミルで粉砕することにより作製した。
【0042】
負極材料N1〜N6において使用したカーボンブラックは、ライオン株式会社(東京都墨田区)製の「ケッチェンブラックEC」(商品名;以下では、「CB」という)である。
【0043】
負極材料N1,N2,N5において使用したカーボンナノファイバは、三菱マテリアル電子化成株式会社(秋田県秋田市)製の「CNF−T」(商品名;以下では、「CNF−T」という)である。CNF−Tは、気相成長法により製造され、繊維の長さ方向に延在する直径5nmの中空部を内部に有する中空体である。CNF−Tの繊維の長さは0.1〜10μm、繊維の直径は10〜20nmである。TEM(透過型電子顕微鏡)観察によると、CNF−Tは、18層の円筒形のグラフェンシートを直径方向に同軸状に積層した円筒積層体であり、当該円筒積層体の円筒面がC軸面となっていた。
【0044】
負極材料N4において使用したカーボンナノファイバは、昭和電工株式会社(東京都港区)製の「VGCF」(商品名;以下では、「VGCF」という)である。VGCFは、気相成長法により製造され、結晶性が高く、繊維の長さ方向に延在する中空部を内部に有する中空体である。VGCFの繊維の長さは10〜20μm、繊維の直径は150nm、比表面積は13m2/gである。
【0045】
負極材料N5,N6において使用した固体ポリマー電解質は、分子量が200000のポリエチレンオキシドのアセトニトリル溶液にLiN(SO2CF32を溶解させることにより作製した。
【0046】
(シリコン/炭素複合材料粉末の作製)
10重量部の表1に示すシリコン粉末と90重量部の塩素化ポリエチレンエラストマーとをカレンダーロールで混練した。
【0047】
続いて、混練物を裁断して5mm角のペレットを作製し、ペレットを窒素雰囲気中で2時間かけて900℃で焼成し、シリコン粉末の一次粒子の表面に炭素被膜を形成した。
【0048】
さらに続いて、ペレットをボールミルで解砕し、シリコン/炭素複合材料粉末を得た。負極材料N1のシリコン/炭素複合材料粉末は、52重量%のシリコンと48重量%の炭素とを含有し、負極材料N1のシリコン/炭素複合材料粉末の一次粒子の表面に形成された炭素被膜の膜厚は6nmであった。負極材料N2〜N6のシリコン/炭素複合体粉末は、42重量%のシリコンと58重量%の炭素とを含有し、負極材料N2〜N6のシリコン/炭素複合体粉末の一次粒子の表面に形成された炭素被膜の膜厚は0.1μmであった。
【0049】
(CNF−T分散液の作製)
3重量部のCNF−Tを97重量部のアセトニトリルに分散させ、CNF−T分散液を作製した。
【0050】
(負極材料N1〜N6の調製)
負極材料N1〜N6について、その成分を表1の重量比となるように配合した。
【0051】
続いて、表1の重量比の組成物に有機溶媒を添加して混練機で攪拌し、負極材料N1〜N6の合剤を得た。負極材料N1〜N3,N5,N6については、有機溶媒としてアセトニトリルを使用し、負極材料N4については、有機溶媒としてN−メチルピロリドンを使用した。
【0052】
(負極の作製)
表3は、試作した電池C1〜C10における負極材料の種類、負極集電体の種類及び負極材料の塗布の膜厚を示している。
【0053】
電池C1〜C4,C9,C10については、それぞれ、表3に示す負極材料の合剤を集電体である銅箔の表面に表3に示す膜厚となるように塗布し、合剤に含まれる有機溶媒を蒸発させた。
【0054】
続いて、負極材料の膜が表面に形成された集電体を3cm角に切断した。
【0055】
さらに続いて、切断片に端子を取り付け、負極とした。
【0056】
電池C5〜C8については、それぞれ、表3に示す負極材料の合剤を集電体であるニッケル多孔体の表面に表3に示す膜厚となるように塗布し、合剤をニッケル多孔体の内部に含浸させ、合剤に含まれる有機溶媒を蒸発させた。
【0057】
続いて、負極材料が気孔に収容された集電体を3cm角に切断した。
【0058】
さらに続いて、切断片に端子を取り付け、負極とした。
【0059】
(3.2 正極)
(正極材料の成分)
表2は、リチウムイオン二次電池の試作にあたって調製した2種類の正極材料P1,P2における各成分の配合量を示している。
【0060】
【表2】

【0061】
正極材料P1,P2において使用したLiFePO4粉末は、宝泉株式会社(大阪市中央区)製の「SLFP−ES01」(商品名)である。LiFePO4粉末の粒子の表面には炭素被膜が形成されている。LiFePO4粉末の炭素の含有量は1.5重量%以下であり、比表面積は15m2/gである。
【0062】
正極材料P1において使用した固体ポリマー電解質は、分子量が200000のポリエチレンオキシドのアセトニトリル溶液にLiN(SO2CF32をさらに溶解させて作製した。
【0063】
正極材料P1,P2において使用したCB及びPVDFは、それぞれ、負極材料の成分の欄で言及したCB及びPVDFと同じものである。
【0064】
(正極材料P1,P2の調製)
正極材料P1,P2について、その成分を表2の重量比となるように配合した。
【0065】
続いて、表2の重量比の組成物に有機溶媒としてN−メチルピロリドンを添加して混練機で攪拌し、正極材料P1,P2の合剤を得た。
【0066】
(正極の作製)
表3は、試作した電池C1〜C10における正極材料の種類及び正極材料の塗布の膜厚も示している。
【0067】
電池C1〜C10について、それぞれ、表3に示す正極材料の合剤を集電体であるアルミニウム箔の表面に表3に示す膜厚となるように塗布し、合剤に含まれる有機溶媒を蒸発させた。
【0068】
続いて、正極材料の膜が表面に形成された集電体を3cm角に切断した。
【0069】
さらに続いて、切断片に端子を取り付け、正極とした。
【0070】
(3.3 電池C1〜C10の作製)
電池C1〜C8については、作製した正極と負極とを有機電解質及びセパレータを挟んで対向させた積層体をラミネートフィルムからなる容器に収容し、積層体が収容されたラミネートフィルムを真空融着して封止した。
【0071】
【表3】

【0072】
有機電解液は、エチレンカーボネート及びジエチルカーボネートを重量比で1:1の割合で混合した混合物に濃度が1mol/lとなるようにLiPF6を溶解させて作製した。
【0073】
セパレータには、セラニーズコーポレーション(米国)製のジュラガード2500(商品名)を使用した。
【0074】
ラミネートフィルムは、アルミニウム箔にポリプロピレン及びナイロンフィルムがラミネートされたものを用いた。
【0075】
電池C9,C10については、作製した正極と負極とを電解質フィルムを挟んで対向させた積層体を80℃の温度下で10kg/cm2の圧力でホットプレスした後にラミネートフィルムからなる容器に収容し、積層体が収容されたラミネートフィルムを真空融着して封止した。
【0076】
電解質フィルムは、ポリマー電解質をポリエチレンテレフタレートフィルムの表面に塗布することにより作製した。
【0077】
(3.4 電池C1〜C5,C7,C9,C10の性能試験)
図4は、電池C1〜C4、図5は、電池C5,C7、図6は、電池C9,C10の性能試験の結果を示す図である。図4〜図6は、5サイクル目の放電又は充電を開始してから経過した時間に対する電池C1〜C5,C7,C9,C10の電圧の変化を示すグラフである。充放電は、電池C1〜C5,C7については20℃、電池C9,C10については60℃の環境下で行った。充放電電流は、電池C1〜C5,C7については2mA、電池C9,C10については1mAの定電流とした。充放電の運転電圧は、2.2〜3.6Vの範囲内とした。
【0078】
表3は、図4〜図6に示す性能試験の結果から算出した電池C1〜C5,C7,C9,C10の放電容量及び負極活物質であるシリコン/炭素複合材料粉末の単位重量あたりの放電容量も示している。
【0079】
図4及び表3に示すように、カーボンナノファイバを含まない負極材料N3を使用した電池C3よりも、カーボンナノファイバを含む負極材料N1,N2,N4を使用した電池C1,C2,C4の方が放電時間が長く、放電容量も大きい。また、VGCFを含有する負極材料N4を使用した電池C4よりもCNF−Tを含有する負極材料N2を使用した電池C2の方が放電時間が長く、放電容量も大きい。さらに、平均粒子径が0.7μmのシリコン粉末から得たシリコン/炭素複合材料粉末を含有する負極材料N2を使用した電池C2よりも平均粒子径が40nmのシリコン粉末から得たシリコン/炭素複合材料粉末を含有する負極材料N1を使用した電池C1の方が放電時間が長く、放電容量も大きい。このことから、カーボンナノファイバが電子伝導に寄与するとともに、放電に伴うシリコン/炭素複合材料粉末の収縮にカーボンナノファイバが追随しており、カーボンナノファイバの添加効果は、VGCFよりも繊維の直径が細いCNF−Tの方が大きいことがわかる。また、シリコン粉末の平均粒子径は50nmである場合の方が望ましいことがわかる。
【0080】
表3に示すように、電池C3から電池C1へのシリコン/炭素複合材料粉末の単位質量あたりの放電容量の増加は490mAh/gであるのに対して、電池C7から電池C5へのシリコン/炭素複合材料粉末の単位質量あたりの放電容量の増加は50mAh/gに過ぎない。すなわち、CNF−Tの添加効果は、多孔質の集電体の気孔にシリコン/炭素複合材料粉末を収容する等のシリコン/炭素複合材料粉末の膨張の影響を抑制する対策を行わない場合に特に有効である。
【0081】
図6及び表3に示すように、カーボンナノファイバを含有しない負極材料N6を使用した電池C10よりも、カーボンナノファイバを含有する負極材料N5を使用した電池C9の方が放電時間が著しく長く、放電容量も著しく大きい。このことから、カーボンナノファイバが電子伝導に寄与するとともに、放電に伴うシリコン/炭素複合材料粉末の収縮にカーボンナノファイバが追随し、カーボンナノファイバの添加効果は固体ポリマー電解質を用いる場合に特に大きいことがわかる。
【0082】
電池C1〜C5,C7,C9,C10は負極容量で電池容量が決まるように設計され、電池C1〜C5,C7の正極容量は負極容量の2倍となっているので、表2に示したシリコン/炭素複合材料粉末の単位質量あたりの放電容量は、負極容量とみなされる。
【0083】
電池C1〜C5,C7,C9のシリコン/炭素複合材料粉末の単位質量あたりの放電容量は、炭素の理論放電容量である372mAh/gより著しく大きいことから、電池C1〜C5,C7の放電容量には、シリコンが寄与していることがわかる。
【0084】
一方、電池C10のシリコン/炭素複合材料粉末の単位質量あたりの放電容量は、炭素の理論放電容量である372mAh/gより著しく小さいことから、電池C10の放電容量には、シリコンがほとんど又は全く寄与していないことがわかる。
【0085】
(3.5 電池C1〜C10のサイクル寿命)
表4は、電池C1〜C10の充放電を繰り返した場合の放電容量の変化を示している。充放電は、電池C1〜C8については20℃、電池C9,C10については60℃の環境下で行った。充放電電流は、電池C1〜C4については2mA、電池C5〜C8については6mA、電池C9,C10については1mAの定電流とした。充電のカットオフ電圧は3.6V、放電のカットオフ電圧は2.2Vとした。充電と放電とを切り替えるときの休止時間は0.1分とした。表4における括弧内の数値は、3サイクル目の電池容量を100%としたときの放電容量の相対値を示している。
【0086】
【表4】

【0087】
表3に示すように、カーボンナノファイバを含有しない負極材料N3を使用した電池C3よりも、カーボンナノファイバを含有する負極材料N1,N2,N4を使用した電池C1,C2,C4の方が放電容量の減少が少ない。また、VGCFを含有する負極材料N4を使用した電池C4よりもCNF−Tを含有する負極材料N2を使用した電池C2の方が放電容量の減少がさらに少ない。このことから、カーボンナノファイバが電子伝導に寄与するとともに、充放電に伴うシリコン/炭素複合材料粉末の収縮にカーボンナノファイバが追随しており、カーボンナノファイバの添加効果は、VGCFよりも繊維の直径が細いCNF−Tの方が大きいことがわかる。
【0088】
また、集電体としてニッケル多孔体を用いた電池C5〜C8では、カーボンナノファイバの添加の有無にかかわらず、電池容量の減少は比較的少ない。このことから、カーボンナノファイバの添加効果は、多孔質の集電体の気孔にシリコン/炭素粉末を収容する等のシリコン/炭素粉末の膨張の影響を抑制する対策を行わない場合に特に有効である。
【0089】
カーボンナノファイバを含有しない負極材料N6を使用した電池C10よりも、カーボンナノファイバを含有する負極材料N5を使用した電池C9の方が放電容量の減少が著しく少ない。このことから、カーボンナノファイバの効果は固体ポリマー電解質を添加する場合に特に大きいことがわかる。
【0090】
(4 その他)
この発明は詳細に説明されたが、上記の説明は、すべての局面において例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例がこの発明の範囲から外れることなく想定され得る。
【符号の説明】
【0091】
102 負極
104 シリコン/炭素複合材料粉末
106 カーボンブラック
108 カーボンナノファイバ
112 集電体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子の表面が炭素被膜で被覆されたシリコン粉末を含む負極活物質粉末と、
前記負極活物質粉末の粒子の間に存在し前記負極活物質粉末より一次粒子の平均粒子径が小さい導電性炭素粉末と、
前記負極活物質粉末の粒子の間に前記導電性炭素粉末と共存し前記負極活物質粉末及び前記導電性炭素粉末の一次粒子の平均粒子径より繊維の平均直径が細く前記導電性炭素粉末の一次粒子の平均粒子径より繊維の平均長さが長い導電性炭素繊維と、
を含有するリチウムイオン二次電池用の負極材料。
【請求項2】
前記シリコン粉末の一次粒子の平均粒子径が10μm以下である請求項1のリチウムイオン電池用の負極材料。
【請求項3】
前記導電性炭素繊維は、15層以上のグラフェンシートが直径方向に同軸状に積層され円筒面がC軸面となっている円筒積層体であり、前記導電性炭素繊維の平均長さが0.1μm以上10μm以下であり、前記導電性炭素繊維の平均直径が10nm以上20nm以下である請求項1又は請求項2のリチウムイオン電池用の負極材料。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかのリチウムイオン電池用の負極材料からなる負極と、
正極と、
前記負極と前記正極との間に存在する電解質と、
を備えるリチウムイオン二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−18575(P2011−18575A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−162668(P2009−162668)
【出願日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【出願人】(591136193)キンセイマテック株式会社 (6)
【Fターム(参考)】