説明

リチウムイオン二次電池用正極電極体、及びリチウムイオン二次電池

【課題】過充電時や高温時においても電解液の酸化分解や発火を防ぐことができ、且つ、エネルギー密度の高いリチウムイオン二次電池を提供すること。
【解決手段】リチウムイオン吸放出能を有し、且つ、過充電時においては、酸素吸収能を有し、リチウム含有複合酸化物を含む酸素吸収物質1と、正極活物質2とを含む正極電極体100、200とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用正極電極体、及びリチウムイオン二次電池に関し、詳しくは、安全性が高められたリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保護の観点から、低公害車としての電気自動車やハイブリッド自動車等に適用するべく、高出力かつ高容量な高性能電源が必要とされている。この中でも、リチウムイオン二次電池は、小型軽量で高容量であり、上記自動車等に好適に使用することができ、日々、その性能の向上が図られている。また、上記自動車等以外の分野においても、携帯電話やノートパソコンに代表される情報関連機器や通信機器等のモバイルツールの、世界的な普及によって、当該モバイルツールを小型化、高性能化可能なリチウムイオン二次電池が好適に使用されている。
【0003】
一般に、リチウムイオン二次電池は、正極電極体及び負極電極体と、非水電解液に含浸され、かつ、当該双方の電極体の間に挟み込まれたセパレータと、を有する構造をとる。また、正極電極体及び負極電極体は、正極活物質又は負極活物質に導電材やバインダー等を混合させてなる正極層又は負極層を、金属箔等の集電体上に設けて形成されている。
【0004】
リチウムイオン二次電池は、上記のように、その構成要素として、正極活物質及び非水電解液を有している。当該正極活物質は、過充電時、高温時等において、酸素を放出することが知られており、従来のリチウムイオン二次電池にあっては、当該酸素と非水電解液等とが接触し、酸化反応を起こすことによって、発熱、引火、爆発等につながる虞があった。また、非水電解液の酸化分解により、リチウムイオン二次電池のサイクル特性が低下することとなっていた。
そのため、過充電時や高温時等においても上記酸化反応が抑えられるような、安全性の高いリチウムイオン二次電池が望まれており、様々な提案がなされている。安全性の向上方法の一つとしては、以下に示すような、酸素吸収材を用いたリチウムイオン二次電池が挙げられる。
【0005】
特許文献1には、金属酸化物からなる酸素吸収物質を固定した導電剤と正極活物質とからなる正極と、負極と、電解質とで構成されたリチウムイオン二次電池が開示されており、このような構成によって、高温時に正極から発生する酸素が捕捉可能である旨が記載されている。また、特許文献2には、酸化セリウムを主成分とする酸素貯蔵材及び/又はセリウム並びにジルコニウム及び/又はイットリウムを構成元素として含むセリウム複合酸化物を主成分とする酸素貯蔵材を有する二次電池用正極が開示されており、かかる正極についても、正極活物質から発生した酸素を酸素貯蔵材により捕捉可能である旨が記載されている。さらに、特許文献3には、正極活物質の表面に、セリウム複合酸化物を主成分とする酸素貯蔵材を含むコーティング層が形成されているものが開示されている。
【特許文献1】特開平11−144734号公報
【特許文献2】特開2006−114256号公報
【特許文献3】特開2006−32325号公報
【0006】
しかしながら、上記のようなリチウムイオン二次電池にあっては、正極層に含まれる酸素吸収物質がリチウムイオン吸放出に寄与せず、正極電極体のリチウムイオン吸放出量が低下することとなり、即ち正極電極体のエネルギー密度が低いものとなっていた。また、当該酸素吸収物質の存在により、正極活物質のリチウムイオン吸放出を阻害する虞があった。従って、従来のリチウムイオン二次電池は、安全性の向上とエネルギーの高密度化との両立ができておらず、十分な性能を有しているとは言えなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、過充電時において、正極活物質から放出された酸素を効率よく吸収するとともに、リチウムイオン吸放出に関するエネルギー密度の低下も抑えることができるリチウムイオン二次電池を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく、発明者は鋭意検討した結果、正極層に、過充電時において酸素吸収能を有し、且つ、リチウムイオン吸放出能を備えた酸素吸収材を含有させることで、酸素放出による引火等を防ぎ、また、上記エネルギー密度の低下を抑えることができることを見出した。以下本発明の構成について説明する。
【0009】
第一の本発明は、正極活物質及び酸素吸収物質を含む正極層を備える正極電極体であって、当該酸素吸収物質がリチウムイオン吸放出能を有し、且つ、酸素吸収能を有し、当該酸素吸収物質にはリチウム含有複合酸化物が含まれることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極電極体である。ここにいう、「正極活物質及び酸素吸収物質を含む」とは、正極層に少なくとも正極活物質と酸素吸収物質とを含むことを意味し、それら以外に、導電材やバインダー等を含んでいても良い。また、「正極層を備える正極電極体」とは、正極層を必須構成要素とすることを意味し、その他に正極集電体等が備えられていても良い。さらに、「リチウムイオン吸放出能を有し、且つ、酸素吸収能を有する」とは、リチウムイオン吸蔵能及び放出能を有しつつ、過充電時等において正極活物質から放出された酸素を捕捉することができることを意味する。
【0010】
また、第一の本発明において「リチウム含有複合酸化物を有する」とは、酸素吸収物質として、少なくともリチウム含有複合酸化物が使用されることを意味する。当該リチウム含有複合酸化物としては、過充電時において、酸素を吸収することができ、かつ、リチウムイオン吸放出能を有する物質であれば特に制限されず、Li−Mo系複合酸化物、Li−W系複合酸化物等を挙げることができ、この中でもLiMoO、LiWOが、酸素吸収能、リチウムイオン吸放出能ともに優れるため好ましい。
【0011】
また、第一の本発明において、正極活物質は、酸素吸収物質により被覆されていることが好ましい。ここにいう、「酸素吸収物質により被覆され」とは、正極活物質表面及び表面付近に酸素吸収物質が存在していれば足りることを意味し、強い結着力によって酸素吸収物質と正極活物質表面とが結びついている必要はない。しかしながら、当該酸素吸収物質に効率的に酸素を吸収させる観点からは、正極活物質表面に酸素吸収物質が接していることが好ましい。正極活性物質の表面が酸素吸収材により被覆されることで、正極活性物質から放出された酸素が効率よく補足される。
【0012】
第二の本発明は、第一の本発明である正極電極体を備えるリチウムイオン二次電池である。
【発明の効果】
【0013】
第一の本発明の正極電極体は、正極層中に酸素吸収物質として酸素吸収能及びリチウム吸放出能の双方を備えるものが含まれるため、リチウムイオン二次電池の容量を低下させることなく、その安全性を高めることができる。また、当該酸素吸収物質を、リチウム含有複合酸化物、特にはLiMoO、LiWOとすることで、過充電時における酸素吸収能が高く、且つ、リチウムイオン吸放出に関しても高密度である正極電極体とすることができ、安全性の向上とエネルギー密度の維持とを両立できる。
【0014】
また、第一の本発明において、正極活物質表面が酸素吸収物質により被覆されていることで、正極活物質表面から放出される酸素が、酸素吸収物質によって効率よく捕捉され、安全性の向上が図られる。
【0015】
第二の本発明によれば、上記高性能正極電極体を備えた、安全性が高く、且つ、高容量なリチウムイオン二次電池とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について説明する。尚、以下に示す実施形態は例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0017】
本発明の正極電極体を備えるリチウムイオン二次電池は、従来のものと同様の基本構成とすることができる。例えば、正極電極体及び負極電極体と、非水電解液等に代表される有機電解質に含浸され、且つ、当該双方の電極体の間に挟み込まれたセパレータと、を有する構成とすることができる。また、正極電極体及び負極電極体は、通常、正極活物質又は負極活物質に導電材やバインダー等を混合させてなる正極層又は負極層を、金属箔等の集電体上に設けて形成されている。本発明においては、上記構成のうち、正極電極体の構成を改良することで、安全性が高く、高容量なリチウムイオン二次電池としている。以下、図1、2を参照しつつ、本発明の正極電極体、及びリチウムイオン二次電池の各構成について順に説明する。
【0018】
<1.正極電極体100、200>
図1(a)、(b)は、本発明の正極電極体を概略的に示す図である。図1(a)、(b)に示すように、本発明の正極電極体100、200は、リチウムイオン吸放出能及び酸素吸収能を備えた酸素吸収物質1と、正極活物質2とを必須構成要素とし、その他に炭素粒子等の導電材3や集電基材としての集電体20等、従来から用いられ、正極電極体に適用される構成が含まれていてもよい。当該必須構成要素を含むことで、従来の正極電極体よりも、安全性が高く、高容量な正極電極体100、200とすることができる。
【0019】
(1.1.酸素吸収物質1)
本発明の酸素吸収物質1は、本発明の効果が好適に奏される材料であって、過充電時において正極活性物質2から放出される酸素を効率よく捕捉でき、かつ、リチウムイオン吸放出能を備えるものであれば、特に限定されない。具体的にはLi−Mo系複合酸化物、Li−W系複合酸化物等のリチウム含有複合酸化物が挙げられる。本発明においては、特に、酸素吸収能、及び、高いリチウムイオン吸放出能を備えるLiMoOが含まれることが好ましい。以下、図2を参照しつつ、LiMoOのリチウムイオン吸放出能及び酸素吸収能について説明する。
【0020】
図2(a)は3.5V(vs.Li/Li)付近における正極活物質2及び酸素吸収物質1の状態を示している。ここで、vs.Li/Liとは、電位の基準がリチウムを電析させた電位であることを示す。図2(a)に示される通り、酸素吸収物質中にLiMoOが含まれる場合、LiMoOは3.5V(vs.Li/Li)付近でLiを脱離し、MoOとなる(下記式1を参照。)。即ち、3.5V(vs.Li/Li)付近においては、酸素吸収物質1、正極活物質2ともにリチウムイオン吸放出能を備えている。また、正極活物質2はリチウムイオンを放出するものの、分解による酸素の放出は抑制された状態にある。次に、図1(a)の状態からさらに電圧が上昇し、過充電状態となった場合、図2(b)に示されるように、正極活物質の分解が起こり、正極活物質2から酸素が放出される(下記式2を参照。)。このとき、酸素吸収物質1は上述の通り、MoOを含んだ状態で維持されているため、酸素吸収能を有する。即ち、正極活物質2から放出された酸素は、隣接する酸素吸収物質1表面へ達し、酸素吸収物質1中のMoOによって吸収される。このときMoOは酸化反応によりMoOとなる(下記式3を参照)。
【0021】
【化1】

【0022】
【化2】

【0023】
【化3】

【0024】
このように、本発明の酸素吸収物質1は、特定の電位においてはリチウムイオン吸放出能を有し、リチウムイオン二次電池の充放電に寄与することができる。さらに、当該特定電位以上(過充電時)において、当該酸素吸収物質1は、リチウムイオン放出の後、酸素吸収能に優れる形態へと変化することから、正極活物質2から放出される酸素を効率よく吸収することができる。従って、当該酸素吸収物質1を備えた正極電極体100、200は、安全性が高く、エネルギー密度を高密度状態で維持可能である。
【0025】
酸素吸収物質1の具体的な形状としては、粉末・粒子状、柱状(円柱状、四角柱状、針状、曲線状等)等、特に限定されない。本発明においては、リチウムイオン二次電池に好適に使用される正極電極体とする観点から、例えば、当該酸素吸収物質1の形状を粒子状とすることができる。当該粒子状酸素吸収物質について、その平均粒子径(測定方法はレーザー回折法による粒度分布測定、SEMによる観察等)は100μm以下であることが好ましく10μm以下であることがより好ましく、1μm以下であることが更に好ましい。酸素吸収物質1の形状が上記範囲から外れる場合にあっては、過充電時における正極活物質2の酸素放出に対して、十分に酸素を吸収できない場合があり、また、リチウムイオン吸放出能の低下へと繋がり、正極電極体としての機能を低下させることがある。
【0026】
正極層10中に含まれる酸素吸収物質1の量は、正極層10全体基準で、1質量%以上30質量%以下含まれることが好ましく、1質量%以上20質量%以下含まれることがより好ましく、1質量%以上10質量%以下含まれることが更に好ましい。酸素吸収物質1の含有量が少なすぎる場合は、正極層に十分な酸素吸収能を付与できず、逆に多すぎる場合は、正極活物質2の量が減少するため、リチウムイオンの放電容量の減少等、正極電極体としての機能を低下させることがある。
【0027】
(1.2.正極活物質2)
本発明の正極活物質2としては、従来から使用されているものであれば、特に限定されずに使用される。具体的には、リチウムコバルト酸化物系、リチウムニッケル酸化物系、リチウムマンガン酸化物系等に代表されるリチウム含有複合酸化物系、当該複合酸化物中に異種金属元素をドープしたもの、及び、その他異種金属の酸化物や硫化物、更には、ポリアニリン、ポリピロール等の有機化合物等が挙げられる。この中でも、リチウムコバルト酸化物系のものが好ましく使用される。具体的には、例えば、LiMOで表わされる複合酸化物を用いることができる。ここで、Mは、Coを主体とし、その他、Ni、V、Ti等の遷移金属を含む。また、y、zの値の範囲は、y=0.02〜2.2、z=1.4〜3であることが好ましい。特に、LiCoOが一般的で汎用性が高いため好ましい。
【0028】
正極活物質2の形状は、リチウムイオン二次電池の正極電極体として好適に使用される形状であれば特に限定されず、粉末・粒子状(球状、多面体状等)、柱状(円柱状、四角柱状、針状等)等、種々の形状を使用可能である。正極活物質2が粉末・粒子状である場合、その平均粒子径は、一般に、リチウムイオン二次電池の正極活物質として使用可能なものであれば特に限定されない。一方で、柱状の正極活物質2を使用する場合も、リチウムイオン二次電池の正極層に好適に使用可能である大きさであれば特に限定されず、具体的には、その長さが、1μm〜50μmの範囲内にある柱状正極活物質2が好適に使用され得る。
【0029】
正極層10中に含まれる正極活物質2の量は、正極層10全体基準で、70質量%以上含まれることが好ましく、80質量%以上含まれることがより好ましく、90質量%以上含まれることが更に好ましい。正極活物質2の含有量が少なすぎる場合は、十分なリチウムイオン吸放出能が付与できない場合があり、逆に多すぎる場合は、酸素吸収物質1の量が減少し、十分な酸素吸収能が得られず、リチウムイオンの安全性を低下させることがある。
【0030】
(1.3.正極層10、11)
正極層10又は11中には、少なくとも上記酸素吸収物質1と正極活物質2とが含まれる。また、正極層10又は11中では、正極活性物質2表面に酸素吸収物質1が被覆された状態、若しくは、酸素吸収物質1と正極活物質2とが混合された状態にあることが必要とされる。正極活性物質2表面に酸素吸収物質1を被覆する方法としては、特に限定されず、従来の公知の被覆方法を用いることができる。具体的には、酸素吸収物質1と正極活物質2とを溶媒等を用いてボールミル等の機械的混合又は乳鉢等の手作業混合により混合し、当該混合スラリーを乾燥させ、さらに加熱処理や、圧力処理等を施すことによって、正極活物質2表面に酸素吸収物質1を被覆することができる。また、本発明においては、上述のように、当該被覆に関して、酸素吸収物質1と正極活物質2との結着を要しないので、単に双方を混合するのみであってもよい。正極層10、11は後述する正極電極体100、200の製造方法に示すように、必要であれば導電材3や添加材等とともに、正極集電体20上に作製される。
【0031】
本発明においては、上記のような酸素吸収物質1及び正極活物質2が、正極層10、11に必須要素として含まれている。当該必須要素が含まれることで、過充電時において、正極活物質2から酸素が放出された場合でも、酸素吸収物質1により効率よく酸素を吸収することができ、且つ、当該酸素吸収物質2がリチウムイオン吸放出能を有することから、エネルギー密度の低下を招くことがない。従って、安全性が高く、高容量なリチウムイオン二次電池とすることができる。以下、本発明の正極電極体100、200に含まれ得る、その他の構成要素について説明する。
【0032】
(1.4.導電材3)
図1(b)に示すように、正極電極体200中には、正極層11中に導電材3として炭素等の、一般的に使用され得る導電材が含まれていても良い。当該導電材3が含まれることにより、正極層の電子伝導性を高めることができる。導電材3の形状は特に限定されず、粒子状、柱状等にて含まれ得る。また、導電材3は、上記リチウムイオン吸放出能及び酸素吸収能を低下させすぎない程度に含まれていることが好ましい。具体的には正極層11全体基準で1質量%以上10質量%以下程度含まれていれば、リチウムイオン二次電池の正極層として好適に使用され得る。導電材3を構成する材料としては、炭素やPt等の各種金属を挙げることができるが、安価で汎用性が高い観点から、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛等であることが好ましい。
【0033】
(1.5.正極集電体20)
本発明の正極電極体100、200には正極集電体20が備えられている。正極集電体20は、通常正極層10、11の表面上に配置される。当該正極集電体20は、上記正極層10、11の集電を行うものであり、その材料としては、導電性を有するものであれば特に限定されない。具体的には、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、及びチタン等を挙げることができ、中でもアルミニウムであることが好ましい。当該正極集電体20は緻密金属集電体であっても良く、多孔質金属集電体であっても良い。また、PET等の高分子フィルムの表面に上記導電材料を蒸着させたものや、導電性高分子フィルムであってもよい。
【0034】
<2.正極電極体100、200の製造方法>
本発明の正極電極体100、200は、正極集電体20上に正極層10、11を形成することができれば、その製造方法は特に限定されず、従来の方法を用いて製造可能である。具体的には、まず、上記酸素吸収物質1と正極活物質2との混合物、又は、酸素吸収物質1により被覆された正極活物質2、及び、必要であれば、導電材3、後述の添加剤等を混合し、正極層混合物を作製する。次に、当該混合物に溶媒を加え、混合物スラリーを作製する。そして、当該スラリーを、塗布装置等を用いて、正極集電体20上に塗布し、乾燥装置等を用いて乾燥することで、正極集電体20上に正極層10、11を形成・一体化させ、正極電極体100、200とすることができる。
【0035】
上記スラリー作製用溶媒としては、酸素吸収物質1等の本発明の正極層10、11を構成し得る材料の機能に影響を与えないものであれば特に限定されずに使用可能であり、具体的には、水、N−メチル−2−ピロリドン、メチルエチルケトン、アセトン、メタノール、エタノール等が挙げられる。上記スラリーは、これら溶媒のうちから、適宜選択されたものに、上記各種構成物質を分散させることで作製される。このとき、分散剤、添加剤等を用いて分散させることが好ましい。当該スラリーは、溶媒中に各要素が均一に分散した状態にある。スラリーは、正極集電体20上に塗布され乾燥される。
【0036】
上記塗布装置としては、正極集電体20上にスラリーを均一に塗布可能なものであれば特に限定されないが、例えば、フォワードロール、リバースロール、グラビア、ドクターブレード、スロットダイやスプレーコート装置等を用いることができる。また、上記乾燥の際用いられる乾燥装置としては、正極層中に残留することが好ましくない、スラリー中の余分な揮発成分を除去できるものであれば、特に限定されないが、例えば、熱風装置、各種赤外線装置、電磁誘導装置、マイクロ波装置等を使用可能である。
【0037】
上記正極電極体100、又は200と、図3に示すような、負極電極体400、セパレータ500、及び電解質等とを組み合わせることで、高容量で高出力なリチウムイオン二次電池1000とすることができる。以下、本発明のリチウムイオン二次電池1000に備えられる、その他の構成について説明する。
【0038】
<3.負極電極体400>
負極電極体400は、負極活物質等を含む負極層40と、負極集電体30とを備えるものである。本発明のリチウムイオン二次電池1000に使用可能な負極電極体400については、以下に示すように、一般的に使用されているものであれば特に限定されず、適宜選択可能である。
【0039】
(3.1.負極層40)
本発明の負極層40に含まれる負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵放出可能な物質であって、一般的に負極活物質として使用されているもので有れば、特に限定されずに使用可能である。具体的には、例えば、グラファイトやコークス等の炭素系活物質、金属リチウム、リチウム遷移金属窒化物、その他金属、シリコン等を挙げることができる。また、当該負極活物質の形状は、上記正極活物質と同様、粉末・粒子状、柱状等を適宜選択して使用可能である。
【0040】
本発明の負極層40には、上記負極活物質の他に導電材が含まれていても良い。導電材としては、上記正極に用いられた導電材のほか、銅を含む導電材を挙げることができる。当該導電材の正極に用いられたものと同様に形状は特に限定されず、含有量も適宜調節し得る。
【0041】
(3.2.負極集電体30)
本発明の負極集電体30としては、一般に用いられているものであれば特に限定されずに使用可能である。負極集電体30は、負極層40の集電を行うものであり、具体的には、銅、ニッケル等の金属箔、PET等の高分子フィルムの表面に金属を蒸着したものや、導電性高分子フィルム等を用いることができる。この中でも、導電性の観点から、銅箔を用いることが好ましい。
【0042】
<4.セパレータ500>
本発明に使用可能なセパレータ500は、一般に用いられるリチウムイオン二次電池用セパレータであれば、特に限定されずに使用可能である。当該セパレータ500を構成する材料としては、層構成内、又は層内の空隙中をリチウムイオンが移動できるものであればよく、特に限定されるものではない。具体的には、例えば、アルミナ、シリカ、酸化マグネシウム、酸化チタン、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素等の無機物粒子、又は、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、セルロース、ポリイミド、及びポリアミド等の有機樹脂、さらには、上述の無機物粒子と有機樹脂との混合物及び成形体等を挙げることができる。
【0043】
上述の正極層10、11、負極層40やセパレータ500には、上述の正極電極体の製造方法中で述べた通り、結着剤、溶媒、各種添加剤等を適宜含ませることができる。結着剤は集電体と活物質、活物質同士、又はセパレータ粒子同士を結着するために用いられる。具体的には、例えば、フッ素樹脂、フッ素ゴム、ラテックス、セルロース誘導体等が挙げられる。各種添加剤としては、分散剤、界面活性剤、レオロジー調整材等を挙げることができる。
【0044】
<5.電解質(電解液)>
本発明においては、上述した電極体中の電極層内、セパレータ内に、通常、リチウム塩を含有する電解質を有する。当該電解質は、液状、ゲル状、固体状等様々な状態のものが使用可能であるが、この中でも液状電解質であることが好ましい。また、本発明の効果を考慮すると、液状電解質の中でも有機系の非水電解液であることが特に好ましい。当該有機系の非水電解液は、リチウムイオン伝導性が良好であり、高性能なリチウムイオン二次電池1000とすることができる。
【0045】
非水電解液は、通常リチウム塩及び非水溶媒を有する。リチウム塩としては、一般的なリチウムイオン二次電池に使用されるリチウム塩であれば、特に限定されずに使用可能である。具体的には、例えば、LiPF、LiBF、LiAsF、LiClO、LiN(CFSO、LiCFSO、LiCFCOやリチウムのイミド塩等を挙げることができる。一方、非水溶媒としては、上記リチウム塩を溶解できるものであれば、特に限定されず、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、アセトニトリル、プロピオニトリル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、1,3−ジオキソラン、ニトロメタン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、γ−ブチロラクトン等が挙げられる。本発明においては、これら非水溶媒を一種のみ用いても良く、二種以上を混合して用いても良い。また、上記の他に、非水電解液として、常温溶融塩を用いることもできる。
【0046】
<6.リチウムイオン二次電池1000>
上記各構成を組み合わせ、図3のように積層化することで、リチウムイオン二次電池1000とすることができる。図3においては、本発明のリチウムイオン二次電池1000は、上記正極電極体200を備えた構成をとっているが、当該正極電極体200に替えて、正極電極体100を用いることもできる。正極電極体100、200のいずれかを有することで、過充電時における正極活物質2からの酸素放出に対して安全性が高められ、且つ、高いエネルギー密度を維持することができ、高容量なリチウムイオン二次電池とすることができる。また、非水電解液の酸化分解によるサイクル特性の低下も抑えることができる。本発明のリチウムイオン二次電池1000は、従来の製造方法により製造可能である。具体的な一例としては以下のように製造される。
【0047】
まず、上記正極電極体の製造方法により製造された、正極電極体100、又は200を、正極層とセパレータ500とが接するように、セパレータ500上に設置する。次に、負極層40の構成材料が分散されたスラリーを負極集電体30上に塗布し、乾燥工程を経て形成・一体化し、負極電極体400を作製する。当該負極電極体400を上記セパレータ500の正極電極体の反対側に、負極層40とセパレータ500とが接するように負極電極体を設置する。その後、正極層、セパレータ、及び負極層に、上記所定の電解質を充填した後、上記正極電極体及び負極電極体が、セパレータを挟持する形のまま、電池ケース等に挿入してリチウムイオン二次電池とすることができる。尚、本発明において、正極電極体と負極電極体とは、上記のように別々にセパレータ上に設置されても良く、また、同時に設置されても良い。また、負極電極体を設置したのち、正極電極体を設置しても良い。
【0048】
リチウムイオン二次電池1000の製造の際には、塗布装置、乾燥装置等が使用される。当該塗布装置、乾燥装置は、上述の正極電極体の製造方法で述べたものを適宜使用可能である。
【実施例】
【0049】
以下、実施例を示す。ただし、以下の実施例は本発明を詳細に説明するために示す一形態であり、本発明はその要旨を逸脱しない限り、以下に示した実施例に限定されるものではなく、任意に変形して実施することができる。
【0050】
実施例においては、リチウムイオン二次電池として、コインタイプのものを使用した。以下に、各構成について説明する。
【0051】
<実施例、比較例>
i)正極作製
以下の方法で、実施例及び比較例の正極電極体をそれぞれ作製した。
【0052】
実施例については、正極活物質としてLiCoOを用い、酸素吸収物質としてLiMoOを用いた。これらについて、質量比で、LiCoO:LiMoO=90%:10%となるようにそれぞれ用意し、それらをボールミルにより混合した。さらに当該混合物に、導電材としてカーボンブラック加えることで、正極混合物を作製した。当該正極混合物を、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)を溶解させたN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を加えることで、スラリーとした。正極混合物が含まれる当該スラリーを、集電材としてのアルミニウム箔上に塗布し乾燥させ、実施例の正極電極体を作製した。
一方、比較例の正極電極体は、正極活物質としてLiCoOを用い、酸素吸収物質は含有させなかった。それ以外の構成については、実施例と同様とした。
【0053】
ii)負極、セパレータ、電解液、及びリチウムイオン二次電池
実施例、比較例ともに負極としてリチウム金属、セパレータとしてPP製多孔質セパレータを用いた。また、電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とを体積比率3:7で混合したものに、支持塩として六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を濃度1mol/Lで溶解させたものを用いた。上記正極とセパレータと負極とを積層し、上記電解液で含浸させて、実施例及び比較例のコインタイプのリチウムイオン二次電池をそれぞれ作製した。
【0054】
iii)リチウムイオン二次電池の評価
上記作製したリチウムイオン二次電池それぞれについて、まず、4.3Vまで充電を行った後、3.0Vまで放電させ、放電容量を測定した。この後、さらに、4.3Vまで再充電し、正極電極体を取り出し、示差走査熱量計(DSC)により、当該電極の総発熱量を測定した。表1に結果を示す。
【0055】
【表1】

【0056】
表1に示された結果から、実施例のリチウムイオン二次電池は、過充電させた場合、比較例のリチウムイオン二次電池よりも総発熱量が低減されていることがわかる。また、放電容量に関しては比較例との差がほとんどない。従って、酸素吸収能とリチウムイオン吸放出能の双方を有する物質を、酸素吸収物質として用いることで、エネルギー密度の低下を抑えつつ、発熱量を小さくすることができるため、安全性が高く、且つ、高容量なリチウムイオン二次電池とすることができることがわかる。
【0057】
以上、現時点において、最も実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う正極電極体及びリチウムイオン二次電池もまた本発明の技術範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の正極電極体を概略的に示す図である。
【図2】充電下及び過充電下における、正極活物質及び酸素吸収物質のリチウムイオンの吸放出及び酸素の吸放出を概略的に示す図である。
【図3】本発明の正極電極体のうちの一形態が備えられたリチウムイオン二次電池を概略的に示す図である。
【符号の説明】
【0059】
1 酸素吸収物質
2 正極活物質
3 導電材
10 正極層
11 正極層
20 正極集電体
30 負極集電体
40 負極層
100、200 正極電極体
400 負極電極体
500 セパレータ
1000 リチウムイオン二次電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質及び酸素吸収物質を含む正極層を備える正極電極体であって、前記酸素吸収物質がリチウムイオン吸放出能を有し、且つ、酸素吸収能を有し、
前記酸素吸収物質にはリチウム含有複合酸化物が含まれることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極電極体。
【請求項2】
前記リチウム含有複合酸化物がLiMoOを含むことを特徴とする、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極電極体。
【請求項3】
前記正極活物質の表面が前記酸素吸収物質により被覆されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池用正極電極体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の正極電極体を備えるリチウムイオン二次電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−146811(P2009−146811A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−324702(P2007−324702)
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】