説明

リチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池及びリチウムイオン二次電池用負極の製造方法

【課題】炭素材料を含む負極活物質での発熱反応をより抑制する。
【解決手段】リチウムイオン二次電池は、正極活物質を有する正極と、リチウムを吸蔵・放出可能な炭素材料を含む負極活物質と所定の2種以上の化合物を含む添加剤とを含有しているリチウムイオン二次電池用負極と、正極と負極との間に介在し、リチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えている。添加剤には、2種以上の化合物として、ジカルボン酸、ジカルボン酸アミド、アミド酸、ジカルボン酸イミド、ビスチオカルボン酸、ビスジチオカルボン酸、ジスルフィン酸、またはこれらのアルカリ金属塩から選ばれる1以上である第1化合物と、遷移元素及び周期表の12族、13族、14族、15族元素、から選ばれる1以上の元素についての、酸化物、オキソ酸、オキソ酸のアルカリ金属塩から選ばれる1以上である第2化合物とが含まれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池及びリチウムイオン二次電池用負極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムイオン二次電池では、電解質として有機電解液を用いており、例えば、電池の短絡、過充電、高温下での放置等により、正負極活物質が不安定になり、ある温度に達すると電池内の有機電解液成分と発熱反応を徐々に開始することがある。このような、非水電解液二次電池の安全性を向上させる改善策として、種々の方法が提案されている。例えば、電池の温度上昇に伴う内圧上昇を利用して、電流が流れるリード部を機械的に切る電流遮断器を備えたものや(例えば、特許文献1参照)、電池内部が高温となると抵抗値が増加するPTC素子を備えたもの(例えば、特許文献2参照)等が提案されている。また、電池内部に感熱性マイクロカプセルを含有し、電池温度の上昇に伴い、重合性物質を放出し電解液を重合させることによってシャットダウンさせるものや(例えば、特許文献3参照)、その他、融点の低いポリプロピレンやポリエチレンをセパレータに用い電池内部温度上昇に伴うセパレータのシャットダウン効果により過電流をカットするもの等も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−113874号公報
【特許文献2】特開平11−273651号公報
【特許文献3】特開平10−270084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の特許文献1,2の方法では、電池構成が複雑化してしまう問題があった。また、特許文献3の方法では、重合反応に時間がかかるなどの問題があった。このように、リチウム二次電池の発熱を抑制するものは提案されているが、まだ十分ではなく、リチウム二次電池において、発熱反応を抑制することが望まれていた。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、炭素材料を含む負極活物質での発熱反応をより抑制することができるリチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、所定の2種以上の化合物を含む添加剤を、黒鉛の負極活物質と共に混合して負極を作製すると、炭素材料を含む負極活物質での発熱反応をより抑制することができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、リチウムを吸蔵・放出可能な炭素材料を含む負極活物質と、ジカルボン酸(Rr[C(=O)OH]2)、ジカルボン酸アミド(Rr[C(=O)NH22)、アミド酸(Rr[C(=O)OH][C(=O)NH2])、ジカルボン酸イミド(Rr[C(OH)(=NH)]2)、ビスチオカルボン酸(Rr[C(=O)SH]2)、ビスジチオカルボン酸(Rr[C(=S)SH]2)、ジスルフィン酸(Rr[S(=O)OH]2)、またはこれらのアルカリ金属塩(Rは、炭素数1〜10のアルキル、炭素数1〜10のハロゲン化アルキル、炭素数6〜20のアリール、炭素数6〜20のハロゲン化アリール(これらのアルキルおよびアリールはその構造中に置換基、ヘテロ原子を持ってもよい)。rは0又は1を表す。)から選ばれる1以上である第1化合物と、遷移元素及び周期表の12族、13族、14族、15族元素、から選ばれる1以上の元素についての、酸化物、オキソ酸、オキソ酸のアルカリ金属塩から選ばれる1以上である第2化合物と、を含む添加剤と、を含有しているものである。
【0008】
あるいは、本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素材料を含む負極活物質と、一般式(1)における異なる構成要素を含む2種以上の化合物を含む添加剤と、を含有しているものである。
【0009】
【化1】

(但し、Mは、遷移元素、周期表の12族、13族、14族又は15族元素を表す;Aa+は金属イオン、プロトン又はオニウムイオン、aは1〜3の整数、pはb/a;bは1〜3の整数、mは1〜4の整数、nは0〜8の整数を表す;R1は、−C(=O)−C(=O)−、−C(=O)−R5−C(=O)−、−C(=NH)−C(=NH)−、−C(=NH)−R5−C(=NH)−、−C(=S)−C(=S)、−C(=S)−R5−C(=S)−、−S(=O)−S(=O)−、−S(=O)−R5−S(=O)−を表す;R5は炭素数1〜10のアルキレン、炭素数1〜10のハロゲン化アルキレン、炭素数6〜20のアリーレン又は炭素数6〜20のハロゲン化アリーレン(これらのアルキレン及びアリーレンはその構造中に置換基、ヘテロ原子を持っていてもよく、またmが2〜4のときにはm個のR5はそれぞれが結合していてもよい)を表す;R2は、ハロゲン、炭素数1〜10のアルキル、炭素数1〜10のハロゲン化アルキル、炭素数6〜20のアリール、炭素数6〜20のハロゲン化アリール(これらのアルキル及びアリールはその構造中に置換基、ヘテロ原子を持っていてもよく、またnが2〜8のときにはn個のR2はそれぞれが結合して環を形成してもよい)又は−X33を表す;X1,X2及びX3は、それぞれが独立でO,S又はNR4を表す;R3及びR4は、それぞれが独立で水素、炭素数1〜10のアルキル、炭素数1〜10のハロゲン化アルキル、炭素数6〜20のアリール、炭素数6〜20のハロゲン化アリール(これらのアルキル及びアリールはその構造中に置換基、ヘテロ原子を持っていてもよく、R3又はR4は複数個存在する場合にはそれぞれが結合して環を形成してもよい)を表す)
【0010】
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極活物質を有する正極と、上述したリチウムイオン二次電池用負極と、前記正極と前記負極との間に介在し、リチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えたものである。
【0011】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極の製造方法は、
リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素材料を含む負極活物質と、ジカルボン酸(Rr[C(=O)OH]2)、ジカルボン酸アミド(Rr[C(=O)NH22)、アミド酸(Rr[C(=O)OH][C(=O)NH2])、ジカルボン酸イミド(Rr[C(OH)(=NH)]2)、ビスチオカルボン酸(Rr[C(=O)SH]2)、ビスジチオカルボン酸(Rr[C(=S)SH]2)、ジスルフィン酸(Rr[S(=O)OH]2)、またはこれらのアルカリ金属塩(Rは、炭素数1〜10のアルキル、炭素数1〜10のハロゲン化アルキル、炭素数6〜20のアリール、炭素数6〜20のハロゲン化アリール(これらのアルキルおよびアリールはその構造中に置換基、ヘテロ原子を持ってもよい)。rは0又は1を表す。)から選ばれる1以上である第1化合物と、遷移元素及び周期表の12族、13族、14族、15族元素、から選ばれる1以上の元素についての、酸化物、オキソ酸、オキソ酸のアルカリ金属塩から選ばれる1以上である第2化合物と、を含む添加剤と、を混合する工程、を含むものである。
【0012】
あるいは、本発明のリチウムイオン二次電池用負極の製造方法は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素材料を含む負極活物質と、一般式(1)における異なる構成要素を含む2種以上の化合物を含む添加剤と、を混合する工程、を含むものである。
【0013】
【化1】

(但し、Mは、遷移元素、周期表の12族、13族、14族又は15族元素を表す;Aa+は金属イオン、プロトン又はオニウムイオン、aは1〜3の整数、pはb/a;bは1〜3の整数、mは1〜4の整数、nは0〜8の整数を表す;R1は、−C(=O)−C(=O)−、−C(=O)−R5−C(=O)−、−C(=NH)−C(=NH)−、−C(=NH)−R5−C(=NH)−、−C(=S)−C(=S)、−C(=S)−R5−C(=S)−、−S(=O)−S(=O)−、−S(=O)−R5−S(=O)−を表す;R5は炭素数1〜10のアルキレン、炭素数1〜10のハロゲン化アルキレン、炭素数6〜20のアリーレン又は炭素数6〜20のハロゲン化アリーレン(これらのアルキレン及びアリーレンはその構造中に置換基、ヘテロ原子を持っていてもよく、またmが2〜4のときにはm個のR5はそれぞれが結合していてもよい)を表す;R2は、ハロゲン、炭素数1〜10のアルキル、炭素数1〜10のハロゲン化アルキル、炭素数6〜20のアリール、炭素数6〜20のハロゲン化アリール(これらのアルキル及びアリールはその構造中に置換基、ヘテロ原子を持っていてもよく、またnが2〜8のときにはn個のR2はそれぞれが結合して環を形成してもよい)又は−X33を表す;X1,X2及びX3は、それぞれが独立でO,S又はNR4を表す;R3及びR4は、それぞれが独立で水素、炭素数1〜10のアルキル、炭素数1〜10のハロゲン化アルキル、炭素数6〜20のアリール、炭素数6〜20のハロゲン化アリール(これらのアルキル及びアリールはその構造中に置換基、ヘテロ原子を持っていてもよく、R3又はR4は複数個存在する場合にはそれぞれが結合して環を形成してもよい)を表す)
【発明の効果】
【0014】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池は、炭素材料を含む負極活物質での発熱反応をより抑制することができる。このような効果が得られる理由は明らかではないが、以下のように推測される。例えば、上述の第1化合物および第2化合物などの2種以上の化合物を含む添加剤は、初回充電時に負極活物質上で分解するなどして安定なSEI(Solid Electrolyte Interface)被膜を形成すると考えられる。ここでは、上述した第1化合物と第2化合物などの2種以上の化合物を含む添加剤と負極活物質とが負極内に混合して存在するため、安定した被膜が形成されやすく、この被膜によって負極活物質の発熱反応をより抑えることができるものと推察される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】一般式(1)で表される化合物の構成要素を説明する説明図。
【図2】本発明のリチウムイオン二次電池10の一例を示す模式図。
【図3】実施例1の二極式セルの充放電曲線及びDSC測定結果。
【図4】実施例2の二極式セルの充放電曲線及びDSC測定結果。
【図5】実施例3の二極式セルの充放電曲線及びDSC測定結果。
【図6】実施例4の二極式セルの充放電曲線及びDSC測定結果。
【図7】実施例5の二極式セルの充放電曲線及びDSC測定結果。
【図8】実施例6の二極式セルの充放電曲線及びDSC測定結果。
【図9】比較例1の二極式セルの充放電曲線及びDSC測定結果。
【図10】比較例2の二極式セルの充放電曲線及びDSC測定結果。
【図11】比較例3の二極式セルの充放電曲線及びDSC測定結果。
【図12】比較例4の二極式セルの充放電曲線及びDSC測定結果。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の第1の実施形態のリチウムイオン二次電池用負極(以下、第1の負極とも称する)は、リチウムを吸蔵・放出可能な炭素材料を含む負極活物質と、所定の第1化合物と所定の第2化合物とを含む添加剤と、を含有しているものである。ここでは、少なくとも充放電前において、第1化合物と第2化合物とが負極内に存在するものとしてもよい。
【0017】
第1の負極において、上述した第1化合物は、ジカルボン酸(Rr[C(=O)OH]2)、ジカルボン酸アミド(Rr[C(=O)NH22)、アミド酸(Rr[C(=O)OH][C(=O)NH2])、ジカルボン酸イミド(Rr[C(OH)(=NH)]2)、ビスチオカルボン酸(Rr[C(=O)SH]2)、ビスジチオカルボン酸(Rr[C(=S)SH]2)、ジスルフィン酸(Rr[S(=O)OH]2)、またはこれらのアルカリ金属塩である。ここで、Rは、炭素数1〜10のアルキル、炭素数1〜10のハロゲン化アルキル、炭素数6〜20のアリール、炭素数6〜20のハロゲン化アリールから選ばれる1以上である。これらのアルキルおよびアリールはその構造中に置換基、ヘテロ原子を持ってもよい。具体的には、アルキレン及びアリーレン上の水素の代わりに、ハロゲン、鎖状又は環状のアルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、スルホニル基、アミノ基、シアノ基、カルボニル基、アシル基、アミド基、水酸基を置換基として持っていてもよいし、アルキレン及びアリーレン上の炭素の代わりに、窒素、硫黄、酸素が導入された構造であってもよい。また、rは0又は1を表す。
【0018】
第1の負極において、上述した第2化合物は、遷移元素及び周期表の12族、13族、14族、15族元素、から選ばれる1以上の元素についての、酸化物、オキソ酸、オキソ酸のアルカリ金属塩から選ばれる1以上である。
【0019】
本発明の第2の実施形態のリチウムイオン二次電池用負極(以下、第2の負極とも称する)は、リチウムを吸蔵・放出可能な炭素材料を含む負極活物質と、一般式(1)における異なる構成要素を含む2種以上の化合物を含む添加剤とを含有しているものである。ここでは、一般式(1)における異なる構成要素を含む2種以上の化合物が、少なくとも充放電前において、負極内に存在するものとしてもよい。ここで、一般式(1)における異なる構成要素は、1の元素であってもよいし、隣接する元素が結合したものであってもよい。また、異なる構成要素は、それらを全て集めた場合に一般式(1)を構成し得るものであることが好ましく、それぞれが重複しないことが好ましい。例えば、図1(a)に示すように、一般式(1)を(R1,X1,X2)を含む第1部分と(M,R2,Aa+)を含む第2部分とに分け、それぞれを構成要素としてもよい。また、図1(b)に示すように、一般式(1)を(R1,X1,X2)を含む第1部分と(M)を含む第2部分と(R2,Aa+)を含む第3部分とに分け、それぞれを構成要素としてもよい。また、図1(a)では、(Aa+pが第2部分に含まれる場合を例示したが、これに限られず、例えば、(Aa+pが単独で構成要素となるものとしてもよいし、図1(a)の第1部分に含まれるものとしてもよい。また、図1(b)では、(Aa+pが第3部分に含まれる場合を例示したが、これに限られず、例えば、(Aa+pが単独で構成要素となるものとしてもよいし、図1(b)の第1部分や第2部分に含まれるものとしてもよい。
【0020】
【化1】

【0021】
一般式(1)において、Mは、遷移元素、周期表の12族、13族、14族又は15族元素である。このうち、周期表の12族、13族、14族、15族元素、のうちの非金属元素から選ばれる1以上であることが好ましく、ホウ素、リン、ケイ素であることがより好ましい。アニオンの価数bは1〜3であり、このうち1であることが好ましい。また、定数m,nは、配位子の数に関係する値であり、Mの種類によって決まってくるものであるが、mは1〜4の整数、nは0〜8の整数である。
【0022】
ここで、R1は、−C(=O)−C(=O)−、−C(=O)−R5−C(=O)−、−C(=NH)−C(=NH)−、−C(=NH)−R5−C(=NH)−、−C(=S)−C(=S)、−C(=S)−R5−C(=S)−、−S(=O)−S(=O)−、−S(=O)−R5−S(=O)−を表す。このうち、−C(=O)−C(=O)−、−C(=O)−R5−C(=O)−が好ましい。
【0023】
5は、炭素数1〜10のアルキレン、炭素数1〜10のハロゲン化アルキレン、炭素数6〜20のアリーレン又は炭素数6〜20のハロゲン化アリーレンを表す。これらのアルキレン及びアリーレンはその構造中に置換基、ヘテロ原子を持っていてもよい。具体的には、アルキレン及びアリーレン上の水素の代わりに、ハロゲン、鎖状又は環状のアルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、スルホニル基、アミノ基、シアノ基、カルボニル基、アシル基、アミド基、水酸基を置換基として持っていてもよいし、アルキレン及びアリーレン上の炭素の代わりに、窒素、硫黄、酸素が導入された構造であってもよい。mが2〜4のときには、m個のR5はそれぞれが結合していてもよい。そのような例としては、エチレンジアミン四酢酸のような配位子を挙げることができる。
【0024】
2は、ハロゲン、炭素数1〜10のアルキル、炭素数1〜10のハロゲン化アルキル、炭素数6〜20のアリール、炭素数6〜20のハロゲン化アリール又は−X33(X3,R3については後述)を表す。ここでのアルキル及びアリールも、R5と同様に、その構造中に置換基、ヘテロ原子を持っていてもよく、またnが2〜8のときにはn個のR2はそれぞれが結合して環を形成していてもよい。R2としては、電子吸引性の基が好ましく、特にフッ素原子が好ましい。フッ素原子の場合には、アニオン化合物の塩の溶解度や解離度が向上し、これに伴ってイオン伝導度が向上するからである。また、耐酸化性が向上し、これにより副反応の発生を抑制することができるからである。
【0025】
1,X2及びX3は、それぞれが独立でO,S又はNR4を表す。つまり、配位子はこれらのヘテロ原子を介してMに結合することになる。
【0026】
3及びR4は、それぞれが独立で水素、炭素数1〜10のアルキル、炭素数1〜10のハロゲン化アルキル、炭素数6〜20のアリール、炭素数6〜20のハロゲン化アリールを表す。これらのアルキル及びアリールも、R5と同様に、その構造中に置換基、ヘテロ原子を持っていてもよい。また、R3又はR4は複数個存在する場合にはそれぞれが結合して環を形成してもよい。
【0027】
一般式(1)で表される化合物のカチオン(Aa+)において、aは、1〜3であり、pはb/aである。このカチオンとしては、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、セシウム、ルビジウム、銀、亜鉛、銅、コバルト、鉄、ニッケル、マンガン、チタン、鉛、クロム、バナジウム、ルテニウム、イットリウム、ランタノイド、アクチノイドなどのカチオンが挙げられるほか、テトラアルキルアンモニウム(アルキルはメチル、エチル、ブチルなど)、トリエチルアンモニウム、ピリジニウム、イミダゾリウムなどのアンモニウムカチオン、プロトン等が挙げられる。このうち、リチウムカチオン、ナトリウムカチオン又はカリウムカチオンが好ましい。特に、ナトリウムカチオンやカリウムカチオンの場合、これらを含む化合物は、リチウムイオン二次電池に用いられる非水系電解液へ溶解しにくく、非水系電解液への添加が困難であることがあるが、負極中に混合して用いることができる。
【0028】
一般式(1)で表される化合物は、式(2)〜(8)に示す、PTFO,PFO,PO,BFO、BOB、BMB及びBPBの1種以上のアニオンを含むことが好ましい。その理由は、負極活物質に含まれる炭素材料の表面に安定な被膜を形成しやすいためである。カチオンとしてカリウムやナトリウムを含み、アニオンとしてBOBを含む化合物がより好ましい。
【0029】
【化2】

【0030】
第2の負極において、添加剤は、上述した2種以上の化合物として、所定の第1化合物と所定の第2化合物とを含むものとしてもよい。
【0031】
第2の負極において、上述した第1化合物は、例えば、一般式(1)における図1(a)の(R1,X1,X2)を含む第1部分又は図1(b)の(R1,X1,X2)を含む第1部分に該当する構成要素を含むものとすることができる。このようなものとしては、例えば、ジカルボン酸(Rr[C(=O)OH]2)、ジカルボン酸アミド(Rr[C(=O)NH22)、アミド酸(Rr[C(=O)OH][C(=O)NH2])、ジカルボン酸イミド(Rr[C(OH)(=NH)]2)、ビスチオカルボン酸(Rr[C(=O)SH]2)、ビスジチオカルボン酸(Rr[C(=S)SH]2)、ジスルフィン酸(Rr[S(=O)OH]2)、またはこれらのアルカリ金属塩などを用いることができる。ここで、Rは、炭素数1〜10のアルキル、炭素数1〜10のハロゲン化アルキル、炭素数6〜20のアリール、炭素数6〜20のハロゲン化アリールから選ばれる1以上である。これらのアルキルおよびアリールはその構造中に置換基、ヘテロ原子を持ってもよい。具体的には、アルキレン及びアリーレン上の水素の代わりに、ハロゲン、鎖状又は環状のアルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、スルホニル基、アミノ基、シアノ基、カルボニル基、アシル基、アミド基、水酸基を置換基として持っていてもよいし、アルキレン及びアリーレン上の炭素の代わりに、窒素、硫黄、酸素が導入された構造であってもよい。また、rは0又は1を表す。
【0032】
第2の負極において、上述した第2化合物は、例えば、一般式(1)における図1(a)の(M,R2,Aa+)を含む第2部分又は図1(b)の(M)を含む第2部分に該当する構成要素を含むものとしてもよい。このようなものとしては、例えば、遷移元素及び周期表の12族、13族、14族、15族元素、から選ばれる1以上の元素についての、酸化物、オキソ酸、オキソ酸のアルカリ金属塩から選ばれる1以上などを用いることができる。
【0033】
第1及び第2の負極において、第1化合物としては、シュウ酸,マロン酸,コハク酸,グルタル酸,アジピン酸,ピメリン酸,スベリン酸,アゼライン酸,セバシン酸,マレイン酸,フマル酸,グルタコン酸,ヘキセン二酸,ムコン酸,フタル酸,イソフタル酸,テレフタル酸,ナフタレンジカルボン酸,アントラセンジカルボン酸,フェナントレンジカルボン酸などのジカルボン酸や,オキサミド酸,マロンアミド酸,スクシンアミド酸,グルタルアミド酸,アジプアミド酸,マレアミド酸,フマルアミド酸,フタルアミド酸,イソフタルアミド酸,テレフタルアミド酸,オキサミド,マロンアミド,スクシンアミド,グルタルアミド,アジプアミド,マレアミド,フマルアミド,フタルアミド,イソフタルアミド,テレフタルアミドなどのジカルボン酸アミドから選ばれる1以上であることが好ましい。このうち、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸などがより好ましい。炭素数が少なく添加量に対するSEI被膜の形成効率がよいため、充放電反応に寄与する負極活物質の割合をできるだけ減らさないで、負極活物質の発熱反応をより抑制できると考えられるからである。
【0034】
第1及び第2の負極において、第2化合物としては、周期表の12族、13族、14族、15族元素、のうちの非金属元素から選ばれる1以上についての、オキソ酸又はオキソ酸のアルカリ金属塩であることが好ましい。具体的には、例えば、ホウ酸,リン酸,ケイ酸,ホウ酸リチウム,リン酸リチウム,ケイ酸リチウム,ホウ酸ナトリウム,リン酸ナトリウム,ケイ酸ナトリウム,ホウ酸カリウム,リン酸カリウム,ケイ酸カリウム,ホウ酸ルビジウム,リン酸ルビジウム,ケイ酸ルビジウム,ホウ酸セシウム,リン酸セシウム,ケイ酸セシウムから選ばれる1以上であることが好ましい。このうち、ホウ酸やリン酸、ケイ酸などが好ましい。より安定な被膜が形成されやすく、負極活物質の発熱反応をより抑制することができると考えられるからである。
【0035】
第1及び第2の負極は、さらに、所定の第3化合物を含むものとしてもよい。第3化合物としては、周期表の1族、2族、3族元素、から選ばれる1以上の元素のフッ化物、アルキルアンモニウムフッ化物、フッ化アンモニウムから選ばれる1以上などを用いることができる。このうち、フッ化アンモニウム,フッ化リチウム,フッ化ナトリウム,フッ化カリウム,フッ化ルビジウム,フッ化セシウム,フッ化マグネシウム,フッ化カルシウム,フッ化ストロンチウム,フッ化バリウム,フッ化アルミニウムから選ばれる1以上であることが好ましい。なかでも、フッ化リチウム,フッ化ナトリウム,フッ化カリウムがより好ましい。フッ素を含むものとすることで、アニオン化合物の塩の溶解度や解離度が向上し、これに伴ってイオン伝導度が向上するからである。また、耐酸化性が向上し、これにより副反応の発生を抑制することができるからである。さらに、ナトリウムやカリウムを含むものとすれば、リチウムイオン二次電池に用いられる非水系電解液へ溶解しにくく、非水系電解液への添加が困難であることがあるが、負極中に混合して用いることができる点で好ましい。なお、第2の負極において、第3化合物は、例えば、一般式(1)における図1(b)の(R2,Aa+)を含む第3部分に該当する構成要素を含むものとすることができる。
【0036】
第1及び第2の負極において、添加剤は、リチウムイオン二次電池を少なくとも1回充電することにより、添加剤のすべて又は一部(例えば式(2)〜(8)で表されるアニオン)が分解して、負極活物質の表面に被覆して被膜を形成すると考えられる。この被覆物は、例えばX線光電子分光分析(XPS)やIR分析等により検出することができる。
【0037】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、負極活物質と添加剤とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の負極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。この負極合材には、他の助材や導電材を含むものとしてもよい。負極活物質に含まれる炭素材料としては、例えば、コークス類、ガラス状炭素類、グラファイト類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。このうち、人造黒鉛、天然黒鉛などのグラファイト類が、金属リチウムに近い作動電位を有し、高い作動電圧での充放電が可能であり支持塩としてリチウム塩を使用した場合に自己放電を抑え、且つ充電時おける不可逆容量を少なくできるため、好ましい。結着材は、活物質粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレン−ジエンマー(EPDM)、スルホン化EPDM、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。負極活物質や結着材を分散させる溶剤としては、例えばN−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどの多糖類を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。集電体としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al−Cd合金などのほか、接着性、導電性及び耐還元性向上の目的で、例えば銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものも用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1〜500μmのものが用いられる。
【0038】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極において、負極活物質及び添加剤の総量に対する添加剤の重量割合が、0.05重量%以上20重量%以下であることが好ましく、0.1重量%以上15重量%以下であることがより好ましく、0.5重量%以上10重量%以下であることが更に好ましい。上記化合物が負極合材に混合されており、負極活物質に容易に被膜を形成することができるため、より少ない添加剤の添加量で負極活物質での発熱反応をより抑制することができる。
【0039】
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極活物質を有する正極と、上述したいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用負極と、正極と負極との間に介在し、リチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えている。
【0040】
本発明のリチウムイオン二次電池の正極は、例えば正極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。正極活物質としては、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などを用いることができる。具体的には、TiS2、TiS3、MoS3、FeS2などの遷移金属硫化物、Li(1-x)MnO2(0<x<1など)、Li(1-x)Mn24などのリチウムマンガン複合酸化物、Li(1-x)CoO2などのリチウムコバルト複合酸化物、Li(1-x)NiO2などのリチウムニッケル複合酸化物、LiV23などのリチウムバナジウム複合酸化物、V25などの遷移金属酸化物などを用いることができる。これらのうち、リチウムの遷移金属複合酸化物、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiV23などが好ましい。導電材は、正極の電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。正極に用いられる結着材、溶剤などは、それぞれ負極で例示したものを用いることができ、集電体の形状は、負極と同様のものを用いることができる。
【0041】
本発明のリチウムイオン二次電池のイオン伝導媒体としては、支持塩を含む非水系電解液や非水系ゲル電解液などを用いることができる。非水系電解液の溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、フラン類、スルホラン類及びジオキソラン類などが挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。具体的には、カーボネート類としてエチレンカーボネート(EC)やプロピレンカーボネート(PC)、ビニレンカーボネート(VC)、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチル−n−ブチルカーボネート、メチル−t−ブチルカーボネート、ジ−i−プロピルカーボネート、t−ブチル−i−プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート類、γ−ブチルラクトン、γ−バレロラクトンなどの環状エステル類、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸メチルなどの鎖状エステル類、ジメトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジエトキシエタンなどのエーテル類、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、などのフラン類、スルホラン、テトラメチルスルホランなどのスルホラン類、1,3−ジオキソラン、メチルジオキソランなどのジオキソラン類などが挙げられる。このうち、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類との組み合わせが好ましい。この組み合わせによると、充放電の繰り返しでの電池特性を表すサイクル特性が優れているばかりでなく、電解液の粘度、得られる電池の電気容量、電池出力などをバランスの取れたものとすることができる。
【0042】
本発明のリチウムイオン二次電池に含まれている支持塩は、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23、LiSbF6、LiSiF6、LiAlF4、LiSCN、LiClO4、LiCl、LiF、LiBr、LiI、LiAlCl4などが挙げられる。このうち、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4などの無機塩、及びLiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23などの有機塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の塩を組み合わせて用いることが電気特性の点から見て好ましい。この支持塩は、非水系電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。支持塩の濃度が0.1mol/L以上では、十分な電流密度を得ることができ、5mol/L以下では、電解液をより安定させることができる。また、この非水系電解液には、リン系、ハロゲン系などの難燃剤を添加してもよい。
【0043】
また、液状のイオン伝導媒体の代わりに、固体のイオン伝導性ポリマーをイオン伝導媒体として用いることもできる。イオン伝導性ポリマーとしては、例えば、アクリロニトリル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルメタクリレート、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデンなどのポリマーと支持塩とで構成されるポリマーゲルを用いることができる。更に、イオン伝導性ポリマーと非水系電解液とを組み合わせて用いることもできる。また、イオン伝導媒体としては、イオン伝導性ポリマーのほか、無機固体電解質あるいは有機ポリマー電解質と無機固体電解質の混合材料、若しくは有機バインダーによって結着された無機固体粉末などを利用することができる。
【0044】
本発明のリチウムイオン二次電池は、負極と正極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、リチウムイオン二次電池の使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の薄い微多孔膜が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0045】
本発明のリチウムイオン二次電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。図2は、本発明のリチウムイオン二次電池10の一例を示す模式図である。このリチウムイオン二次電池10は、集電体11に正極活物質12を形成した正極シート13と、集電体14の表面に負極活物質17を形成した負極シート18と、正極シート13と負極シート18との間に設けられたセパレータ19と、正極シート13と負極シート18の間を満たす非水系電解液20と、を備えたものである。このリチウムイオン二次電池10では、正極シート13と負極シート18との間にセパレータ19を挟み、これらを捲回して円筒ケース22に挿入し、正極シート13に接続された正極端子24と負極シートに接続された負極端子26とを配設して形成されている。ここでは、負極シート18には、炭素材料を含む負極活物質と、上述した第1化合物及び第2化合物などの所定の2種以上の化合物を含む添加剤とが混合して含まれている。
【0046】
本発明の第1の負極の製造方法は、リチウムを吸蔵・放出可能な炭素材料を含む負極活物質と、所定の第1化合物と所定の第2化合物とを含む添加剤と、を混合する工程を含むものである。ここで、第1化合物及び第2化合物としては、上述した第1の負極で説明したものを適宜用いることができる。
【0047】
本発明の第2の負極の製造方法は、リチウムを吸蔵・放出可能な炭素材料を含む負極活物質と、一般式(1)における異なる構成要素を含む2種以上の化合物を含む添加剤と、を混合する工程を含むものである。ここで、一般式(1)における異なる構成要素を含む2種以上の化合物を含む添加剤としては、上述した第2の負極で説明したものを適宜用いることができる。
【0048】
本発明の第1及び第2の負極の製造方法では、いずれも、上述したリチウムイオン二次電池用負極の説明で示した種々の態様を取り入れたものとすることができる。例えば、添加剤と負極活物質とを混合する際に、上述した第3化合物をも含む添加剤を用いてもよいし、負極活物質及び添加剤の総量に対する添加剤の重量割合を0.05重量%以上20重量%以下としてもよい。
【0049】
以上詳述した本発明のリチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池、リチウムイオン二次電池用負極の製造方法では、上述した第1化合物及び第2化合物などの所定の2種以上の化合物を含む添加剤と負極活物質とが負極内に混合して存在するため、上記添加剤により安定した被膜が形成されやすく、この被膜によって負極活物質の発熱反応をより抑えることができる。このため、より熱的に安定、安全なリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【0050】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0051】
以下には、本発明のリチウムイオン二次電池を具体的に作製した例を実施例として説明する。
【0052】
[実施例1〜6]
負極活物質としての人造黒鉛を95重量%と、結着材としてのポリフッ化ビニリデンを5重量%とを混合し混合物を得た。この混合物を90重量%と、添加剤としてホウ酸とシュウ酸を1:2のモル比で混合したものを10重量%とを混合し、ペレット成型し負極合材とした。これを、対極にリチウム金属を用い、非水電解液としてEC、DMC及びEMCを体積比で3:4:3の割合で混合したカーボネート類混合溶媒にLiPF6を1mol/Lとなるように溶解させたものを用いて二極式セルを作製した。これを実施例1とした。なお、実施例1では、第1化合物であるシュウ酸が図1(a)の第1部分、第2化合物であるホウ酸が図1(a)の第2部分、を含み、一般式(1)は、カチオンとしてのプロトンとBOB(式(6)参照)とからなるものである。また、添加剤としてホウ酸とマロン酸を1:2のモル比で混合したものを用いた以外は、実施例1と同様の工程を経て得られた二極式セルを実施例2とした。なお、実施例2では、第1化合物であるマロン酸が図1(a)の第1部分、第2化合物であるホウ酸が図1(a)の第2部分、を含み、一般式(1)は、カチオンとしてのプロトンとBMB(式(7)参照)とからなるものである。また、添加剤としてホウ酸とフタル酸を1:2のモル比で混合したものを用いた以外は、実施例1と同様の工程を経て得られた二極式セルを実施例3とした。なお、実施例3では、第1化合物であるフタル酸が図1(a)の第1部分、第2化合物であるホウ酸が図1(a)の第2部分、を含み、一般式(1)は、カチオンとしてのプロトンとBPB(式(8)参照)とからなるものである。また、添加剤としてフッ化ナトリウムとホウ酸とシュウ酸とを2:1:1のモル比で混合したものを用いた以外は、実施例1と同様の工程を経て得られた二極式セルを実施例4とした。なお、実施例4では、第1化合物であるシュウ酸が図1(b)の第1部分、第2化合物であるホウ酸が図1(b)の第2部分、第3化合物であるフッ化ナトリウムが図1(b)の第3部分、を含み、一般式(1)は、カチオンとしてのナトリウムイオンとBFO(式(5)参照)とからなるものである。また、添加剤としてリン酸とシュウ酸を1:3のモル比で混合したものを用いた以外は、実施例1と同様の工程を経て得られた二極式セルを実施例5とした。なお、実施例5では、第1化合物であるシュウ酸が図1(a)の第1部分、第2化合物であるリン酸が図1(a)の第2部分、を含み、一般式(1)は、カチオンとしてのプロトンとPO(式(4)参照)とからなるものである。また、添加剤としてフッ化リチウムとリン酸とシュウ酸とを2:1:2のモル比で混合したものを用いた以外は、実施例1と同様の工程を経て得られた二極式セルを実施例6とした。なお、実施例6では、第1化合物であるシュウ酸が図1(b)の第1部分、第2化合物であるホウ酸が図1(b)の第2部分、第3化合物であるフッ化ナトリウムが図1(b)の第3部分、を含み、一般式(1)は、カチオンとしてのリチウムイオンとPFO(式(3)参照)からなるものである。
【0053】
[比較例1〜4]
添加剤を用いなかった以外は、実施例1と同様の工程を経て得られた二極式セルを比較例1とした。また、添加剤としてホウ酸のみを用いた以外は、実施例1と同様の工程を経て得られた二極式セルを比較例2とした。また、添加剤としてシュウ酸のみを用いた以外は、実施例1と同様の工程を経て得られた二極式セルを比較例3とした。また、添加剤としてシュウ酸リチウムのみを用いた以外は、実施例1と同様の工程を経て得られた二極式セルを比較例4とした。
【0054】
(二極式セルの評価)
作製した二極式セルを、20℃の温度条件下で、電流密度70μA/cm2の定電流で下限電圧0.01Vまで放電を行い、次いで電流密度70μA/cm2の定電流で上限電圧1.2Vまで充電を行った。単位活物質あたりの初期放電容量を単位活物質あたりの初期充電容量で除算し100を乗算した値を充放電効率とした。また、再度放電後の負極と上記非水系電解液との発熱反応を、示差走査熱量測定(Differential scanning calorimetry:DSC)により見積もった。評価は、100℃〜150℃付近における発熱の有無で行った。
【0055】
(結果と考察)
実施例1〜6及び比較例1〜4の添加剤、DSCの発熱についてまとめたものを表1に示す。図3〜12は、それぞれ実施例1〜6及び比較例1〜4の充放電曲線及びDSC測定結果である。表1及び図3〜12に示すように、負極合材中に上述した第1化合物,第2化合物が全く添加されていない比較例1や、上述した第1化合物及び第2化合物のうち一方しか添加されていない比較例2〜4においては、100℃〜150℃付近で発熱が観測された。これに対して、負極合材中に上述した第1化合物及び第2化合物が添加された実施例1〜6においては、100℃〜150℃付近で発熱は観測されず、負極と電解液との発熱反応が抑制されていることが分かった。この温度範囲での発熱を抑制すると、発熱反応の連鎖などを防止することができ、より好ましい。このように、上述した第1化合物及び第2化合物の両方が添加された負極では、充放電過程において、第1化合物及び第2化合物の分解・被膜の形成が効率よく進み、負極と電解液との発熱反応を抑制することが分かった。なお、ここでは、最大値が0.25W・g-1以下のものを発熱なしとした。
【0056】
【表1】

【符号の説明】
【0057】
10 リチウムイオン二次電池、11 集電体、12 正極活物質、13 正極シート、14 集電体、17 負極活物質、18 負極シート、19 セパレータ、20 非水電解液、22 円筒ケース、24 正極端子、26 負極端子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムを吸蔵・放出可能な炭素材料を含む負極活物質と、
ジカルボン酸(Rr[C(=O)OH]2)、ジカルボン酸アミド(Rr[C(=O)NH22)、アミド酸(Rr[C(=O)OH][C(=O)NH2])、ジカルボン酸イミド(Rr[C(OH)(=NH)]2)、ビスチオカルボン酸(Rr[C(=O)SH]2)、ビスジチオカルボン酸(Rr[C(=S)SH]2)、ジスルフィン酸(Rr[S(=O)OH]2)、またはこれらのアルカリ金属塩(Rは、炭素数1〜10のアルキル、炭素数1〜10のハロゲン化アルキル、炭素数6〜20のアリール、炭素数6〜20のハロゲン化アリール(これらのアルキルおよびアリールはその構造中に置換基、ヘテロ原子を持ってもよい)。rは0又は1を表す。)から選ばれる1以上である第1化合物と、遷移元素及び周期表の12族、13族、14族、15族元素、から選ばれる1以上の元素についての、酸化物、オキソ酸、オキソ酸のアルカリ金属塩から選ばれる1以上である第2化合物と、を含む添加剤と、
を含有しているリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項2】
リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素材料を含む負極活物質と、一般式(1)における異なる構成要素を含む2種以上の化合物を含む添加剤と、を含有しているリチウムイオン二次電池用負極。
【化1】

(但し、Mは、遷移元素、周期表の12族、13族、14族又は15族元素を表す;Aa+は金属イオン、プロトン又はオニウムイオン、aは1〜3の整数、pはb/a;bは1〜3の整数、mは1〜4の整数、nは0〜8の整数を表す;R1は、−C(=O)−C(=O)−、−C(=O)−R5−C(=O)−、−C(=NH)−C(=NH)−、−C(=NH)−R5−C(=NH)−、−C(=S)−C(=S)、−C(=S)−R5−C(=S)−、−S(=O)−S(=O)−、−S(=O)−R5−S(=O)−を表す;R5は炭素数1〜10のアルキレン、炭素数1〜10のハロゲン化アルキレン、炭素数6〜20のアリーレン又は炭素数6〜20のハロゲン化アリーレン(これらのアルキレン及びアリーレンはその構造中に置換基、ヘテロ原子を持っていてもよく、またmが2〜4のときにはm個のR5はそれぞれが結合していてもよい)を表す;R2は、ハロゲン、炭素数1〜10のアルキル、炭素数1〜10のハロゲン化アルキル、炭素数6〜20のアリール、炭素数6〜20のハロゲン化アリール(これらのアルキル及びアリールはその構造中に置換基、ヘテロ原子を持っていてもよく、またnが2〜8のときにはn個のR2はそれぞれが結合して環を形成してもよい)又は−X33を表す;X1,X2及びX3は、それぞれが独立でO,S又はNR4を表す;R3及びR4は、それぞれが独立で水素、炭素数1〜10のアルキル、炭素数1〜10のハロゲン化アルキル、炭素数6〜20のアリール、炭素数6〜20のハロゲン化アリール(これらのアルキル及びアリールはその構造中に置換基、ヘテロ原子を持っていてもよく、R3又はR4は複数個存在する場合にはそれぞれが結合して環を形成してもよい)を表す)
【請求項3】
前記2種以上の化合物として、
ジカルボン酸(Rr[C(=O)OH]2)、ジカルボン酸アミド(Rr[C(=O)NH22)、アミド酸(Rr[C(=O)OH][C(=O)NH2])、ジカルボン酸イミド(Rr[C(OH)(=NH)]2)、ビスチオカルボン酸(Rr[C(=O)SH]2)、ビスジチオカルボン酸(Rr[C(=S)SH]2)、ジスルフィン酸(Rr[S(=O)OH]2)、またはこれらのアルカリ金属塩(Rは、炭素数1〜10のアルキル、炭素数1〜10のハロゲン化アルキル、炭素数6〜20のアリール、炭素数6〜20のハロゲン化アリール(これらのアルキルおよびアリールはその構造中に置換基、ヘテロ原子を持ってもよい)。rは0又は1を表す)から選ばれる1以上である第1化合物と、
遷移元素及び周期表の12族、13族、14族、15族元素、から選ばれる1以上の元素についての、酸化物、オキソ酸、オキソ酸のアルカリ金属塩から選ばれる1以上である第2化合物と、
を含有している、請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項4】
前記第1化合物は、シュウ酸,マロン酸,コハク酸,グルタル酸,アジピン酸,ピメリン酸,スベリン酸,アゼライン酸,セバシン酸,マレイン酸,フマル酸,グルタコン酸,ヘキセン二酸,ムコン酸,フタル酸,イソフタル酸,テレフタル酸,ナフタレンジカルボン酸,アントラセンジカルボン酸,フェナントレンジカルボン酸,オキサミド酸,マロンアミド酸,スクシンアミド酸,グルタルアミド酸,アジプアミド酸,マレアミド酸,フマルアミド酸,フタルアミド酸,イソフタルアミド酸,テレフタルアミド酸,オキサミド,マロンアミド,スクシンアミド,グルタルアミド,アジプアミド,マレアミド,フマルアミド,フタルアミド,イソフタルアミド,テレフタルアミドから選ばれる1以上であり、
前記第2化合物は、ホウ酸,リン酸,ケイ酸,ホウ酸リチウム,リン酸リチウム,ケイ酸リチウム,ホウ酸ナトリウム,リン酸ナトリウム,ケイ酸ナトリウム,ホウ酸カリウム,リン酸カリウム,ケイ酸カリウム,ホウ酸ルビジウム,リン酸ルビジウム,ケイ酸ルビジウム,ホウ酸セシウム,リン酸セシウム,ケイ酸セシウムから選ばれる1以上である、
請求項1又は3に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項5】
周期表の1族、2族、3族元素、から選ばれる1以上の元素のフッ化物、アルキルアンモニウムフッ化物、フッ化アンモニウムから選ばれる1以上である第3化合物を含有している、請求項1〜4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項6】
前記第3化合物は、フッ化アンモニウム,フッ化リチウム,フッ化ナトリウム,フッ化カリウム,フッ化ルビジウム,フッ化セシウム,フッ化マグネシウム,フッ化カルシウム,フッ化ストロンチウム,フッ化バリウム,フッ化アルミニウムから選ばれる1以上である、
請求項5に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項7】
前記負極活物質及び前記添加剤の総量に対する前記添加剤の重量割合が、0.05重量%以上20重量%以下である、
請求項1〜6のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項8】
正極活物質を有する正極と、
請求項1〜7のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極と、
前記正極と前記負極との間に介在し、リチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えたリチウムイオン二次電池。
【請求項9】
リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素材料を含む負極活物質と、ジカルボン酸(Rr[C(=O)OH]2)、ジカルボン酸アミド(Rr[C(=O)NH22)、アミド酸(Rr[C(=O)OH][C(=O)NH2])、ジカルボン酸イミド(Rr[C(OH)(=NH)]2)、ビスチオカルボン酸(Rr[C(=O)SH]2)、ビスジチオカルボン酸(Rr[C(=S)SH]2)、ジスルフィン酸(Rr[S(=O)OH]2)、またはこれらのアルカリ金属塩(Rは、炭素数1〜10のアルキル、炭素数1〜10のハロゲン化アルキル、炭素数6〜20のアリール、炭素数6〜20のハロゲン化アリール(これらのアルキルおよびアリールはその構造中に置換基、ヘテロ原子を持ってもよい)。rは0又は1を表す。)から選ばれる1以上である第1化合物と、遷移元素及び周期表の12族、13族、14族、15族元素、から選ばれる1以上の元素についての酸化物、オキソ酸、オキソ酸のアルカリ金属塩から選ばれる1以上である第2化合物と、を含む添加剤と、を混合する工程、を含む、リチウムイオン二次電池用負極の製造方法。
【請求項10】
リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素材料を含む負極活物質と、一般式(1)における異なる構成要素を含む2種以上の化合物を含む添加剤と、を混合する工程、を含む、リチウムイオン二次電池用負極の製造方法。
【化1】

(但し、Mは、遷移元素、周期表の12族、13族、14族又は15族元素を表す;Aa+は金属イオン、プロトン又はオニウムイオン、aは1〜3の整数、pはb/a;bは1〜3の整数、mは1〜4の整数、nは0〜8の整数を表す;R1は、−C(=O)−C(=O)−、−C(=O)−R5−C(=O)−、−C(=NH)−C(=NH)−、−C(=NH)−R5−C(=NH)−、−C(=S)−C(=S)、−C(=S)−R5−C(=S)−、−S(=O)−S(=O)−、−S(=O)−R5−S(=O)−を表す;R5は炭素数1〜10のアルキレン、炭素数1〜10のハロゲン化アルキレン、炭素数6〜20のアリーレン又は炭素数6〜20のハロゲン化アリーレン(これらのアルキレン及びアリーレンはその構造中に置換基、ヘテロ原子を持っていてもよく、またmが2〜4のときにはm個のR5はそれぞれが結合していてもよい)を表す;R2は、ハロゲン、炭素数1〜10のアルキル、炭素数1〜10のハロゲン化アルキル、炭素数6〜20のアリール、炭素数6〜20のハロゲン化アリール(これらのアルキル及びアリールはその構造中に置換基、ヘテロ原子を持っていてもよく、またnが2〜8のときにはn個のR2はそれぞれが結合して環を形成してもよい)又は−X33を表す;X1,X2及びX3は、それぞれが独立でO,S又はNR4を表す;R3及びR4は、それぞれが独立で水素、炭素数1〜10のアルキル、炭素数1〜10のハロゲン化アルキル、炭素数6〜20のアリール、炭素数6〜20のハロゲン化アリール(これらのアルキル及びアリールはその構造中に置換基、ヘテロ原子を持っていてもよく、R3又はR4は複数個存在する場合にはそれぞれが結合して環を形成してもよい)を表す)

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2011−249058(P2011−249058A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118943(P2010−118943)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】