説明

リチウムイオン二次電池用電極

【課題】エネルギー密度の高いリチウムイオン二次電池の作製を可能とする電極を提供する。
【解決手段】リチウムイオン二次電池は、シート形状を有する集電体21の両面に合剤層31、32が形成されている。そして、集電体21は、集電体21の少なくとも一方の面21aに複数の凹陥部22が設けられており、その一方面21aの上に形成される合剤層31は、平滑な表面を有している。このように、集電体21に多数の凹陥部22を設けることで、電池当たりの活物質量を増やせることができ、エネルギー密度の高い電池の作製が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用電極に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化や枯渇燃料の問題から電気自動車(EV)や駆動の一部を電気モーターで補助するハイブリッド電気自動車(HEV)が各自動車メーカーで開発され、その電源として高容量で高出力な二次電池が求められるようになってきた。このような要求に合致する電源として、高電圧を有する二次電池が注目されている。車載用の二次電池は、高出力,高容量化が求められており、集電体上に形成された合剤層の導電性を向上し、且つ電池に含まれる活物質比率を増やす必要がある。そのため、合剤層中に高い導電性を有する導電助材を用いる技術(特許文献1)や、電池当たりの合剤比率を上げるために、集電体に多数の穴をパンチング加工し、パンチ穴の部分を活物質に置き換えることでエネルギー密度を向上する技術(特許文献2)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-238575号公報
【特許文献2】特開2005-32642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リチウムイオン電池において、高出力と高容量化は相反する課題となる。一般的に高容量化するためには、合剤中の活物質比率を増やすことで可能となるが、同時に電極抵抗が上昇するため電池の出力が低下する。
【0005】
特許文献1に示すように、合剤層中の導電助剤を高伝導の導電助剤に変更する方法では、高価格の導電助剤が必要となり、コスト高を招来し、量産制約となる。
【0006】
そして、特許文献2に示すように、集電体に多数のパンチ穴を設ける手法では、集電体の一方面に塗工した合剤層が、パンチ穴から集電体の他方面に染み出し、他方面に塗工したときに塗膜の表面に凸凹を生じ、次工程のプレス工程で凹部のプレス密度が低下するおそれがある。
【0007】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、エネルギー密度の高いリチウムイオン二次電池の作製を可能とするリチウムイオン二次電池用電極を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明のリチウムイオン二次電池用電極は、シート形状を有する集電体の両面に合剤層が形成されたリチウムイオン二次電池用電極であって、集電体は、集電体の少なくとも一方の面に複数の凹陥部が設けられており、合剤層は、平滑な表面を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、凹陥部の容積分だけ合剤層の合剤量を増量させることができ、電池当たりの活物質量を増加させることができる。したがって、合剤層中の活物質比率を増やす場合と異なり、電極抵抗を増加させずに、高出力と高容量化を両立することができる。なお、上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施の形態に係わるリチウムイオン二次電池の縦断面図。
【図2】図1に示すリチウムイオン二次電池を一部断面で示す分解斜視図。
【図3】リチウムイオン二次電池の電極の製造方法を説明するフローチャート。
【図4】リチウムイオン二次電池の電極の構成を説明する図。
【図5】図4に示す集電体の平面図。
【図6】集電体の表面に合剤を塗工する方法を説明する図。
【図7】電池当たりの合剤比率を試算した結果を示すグラフ。
【図8】従来技術を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本実施の形態について図面を用いて説明する。
図1は、本実施の形態に係わるリチウムイオン二次電池の縦断面図、図2は、図1に示すリチウムイオン二次電池を一部断面で示す分解斜視図である。
【0012】
リチウムイオン二次電池D1は、図1及び図2に示すように、車両用二次電池の1つである円筒形のリチウムイオン二次電池である。リチウムイオン二次電池D1は、樹脂製の軸芯7の周囲に捲回されて形成された電極群8に、正極、負極の集電部品5、6が取り付けられて、電池容器1内に収納されている。電極群8のうち、負極の電極は負極の集電部品6に溶接等で接続され、負極のリード10を介して、電池容器1に電気的に接続されている。
【0013】
正極電極14は、アルミニウム等の金属薄膜からなる帯状の正極集電体と、正極集電体の両面に正極合剤を塗布して形成された正極合剤層16を有する。正極電極14の図中上方の長辺部には、正極タブ12が複数設けられている。負極電極15は、銅等の金属薄膜からなる帯状の負極集電体と、負極集電体の両面に負極合剤を塗布して形成された負極合剤層17を有する。負極電極15の図中下方の長辺部には、負極タブ13が複数設けられている。
【0014】
これら正極電極14と負極電極15との間に、多孔質で絶縁性を有するセパレータ18を介在させて、樹脂製の軸芯7の周囲に捲回し、最外周のセパレータをテープ19で止めて、電極群8を構成する。この際、軸芯7に接する最内周は、セパレータ18であり、最外周は負極電極15を覆うセパレータ18である。
【0015】
管状の軸芯7の両端には正極集電部品5と負極集電部品6が嵌め合いにより固定されている。正極集電部品5には、正極タブ12が、例えば、超音波溶接法により溶接されている。同様に、負極集電部品6には、負極タブ13が、例えば、超音波溶接法により溶接されている。
【0016】
負極の端子を兼ねる電池容器1の内部には、樹脂製の軸芯7を軸として捲回された電極群8に、正極、負極の集電部品5、6が取り付けられて、収納されている。この際、負極の集電部品6は、負極リード(図示せず)を介して電池容器1に電気的に接続される。その後、非水電解液が電池容器1内に注入される。
【0017】
電池容器1と上蓋ケース4との間には、ガスケット2が設けられ、このガスケット2により電池容器1の開口部を封口するとともに電気的に絶縁する。正極集電部品5の上には、電池容器1の開口部を封口するように設けられた電導性を有する上蓋部があり、上蓋部は上蓋3と上蓋ケース4からなる。上蓋ケース4に正極リード9の一方が溶接され、他方が正極集電部品5に溶接されることによって、上蓋部と電極群8の正極とが電気的に接続される。
【0018】
正極合剤層16を構成する正極合剤は、正極活物質と、導電助材と、正極バインダを有する。正極活物質は、リチウム酸化物が好ましい。例として、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム、リン酸鉄リチウム、リチウム複合酸化物(コバルト、ニッケル、マンガンから選ばれる2種類以上を含むリチウム酸化物)、などが挙げられる。
【0019】
導電助材は、正極合剤中におけるリチウムイオンの吸蔵放出反応で生じた電子の正極電極への伝達を補助できる物質であれば制限はない。導電助材の例として、黒鉛やアセチレンブラックなどが挙げられる。
【0020】
正極バインダは、正極活物質と導電助材、及び正極合剤と正極集電体、を結着させることが可能であり、非水電解液との接触により、大幅に劣化しなければ特に制限はない。正極バインダの例としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)やフッ素ゴムなどが挙げられる。
【0021】
正極合剤層16の形成方法は、正極集電体の両面に正極合剤層16が形成される方法であれば制限はない。正極合剤層16の形成方法の例として、正極合剤構成物質の分散溶液を正極集電体に塗工する方法が挙げられる。塗工方法の例として、ロール塗工法、スリットダイ塗工法、などが挙げられる。分散溶液の溶媒例として、N−メチルピロリドン(NMP)や水が挙げられる。正極合剤層16の塗工厚さの1例としては片側約40μmである。
【0022】
負極合剤層17を構成する負極合剤は、負極活物質と、負極バインダと、増粘材とを有する。なお、負極合剤は、アセチレンブラックなどの導電助材を有しても良い。本実施の形態では、負極活物質として、黒鉛炭素を用いることが好ましい。黒鉛炭素を用いることにより、大容量が要求されるプラグインハイブリッド自動車や電気自動車向けのリチウムイオン二次電池が作製できる。負極合剤層17の形成方法は、負極集電体の両面に負極合剤層17が形成される方法であれば制限はない。負極合剤層17の形成方法の例として、負極合剤構成物質の分散溶液を負極集電体に塗工する方法が挙げられる。塗工方法の例として、ロール塗工法、スリットダイ塗工法、などが挙げられる。負極合剤層17の塗工厚さの1例としては片側約40μmである。
【0023】
非水電解液は、リチウム塩がカーボネート系溶媒に溶解した溶液を用いることが好ましい。リチウム塩の例として、フッ化リン酸リチウム(LiPF)、フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)、などが挙げられる。また、カーボネート系溶媒の例として、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、プロピレンカーボネート(PC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、或いは上記溶媒の1種類以上から選ばれる溶媒を混合したものが挙げられる。
【0024】
図3は、リチウムイオン二次電池の電極の製造方法を説明するフローチャートである。
正極電極14及び負極電極15は、例えば図3に示す電極作製工程フローにしたがって作製される。なお、この工程フローは、正極電極14、負極電極15ともに同じである。ここでは、スラリー原料として、活物質、導電助剤、バインダ樹脂に溶剤を加え、それらが均一に分散するように混練し(初期混練、希釈混練)、合剤構成物質の分散溶液(合剤スラリー)を作製する。次に、合剤スラリーを、集電体上に塗工して乾燥させる(塗工、乾燥)。そして、乾燥後にプレスして(電極プレス)、所定形状に裁断することにより(電極スリット)、電極を得る。
【0025】
次に、本実施の形態に係わるリチウムイオン二次電池用電極の構造について説明する。
従来の電極101は、図8に示すように、一定の集電体厚みtを有する、例えば厚さ10〜20μmからなるシート形状の集電体102を有しており、その集電体102の両面102a、102bに、合剤層103、104が形成された構造を有している。合剤層103、104は、集電体102の両面102a、102b上に一定の厚みで形成されており、平滑な表面103a、104aを有している。なお、図8は、従来技術を説明する図であり、図8(a)は、従来の電極の斜視図、図8(b)は、図8(a)のA−A’断面図、図8(c)は、図8(a)のB−B’断面図である。
【0026】
これに対して、本実施の形態におけるリチウムイオン二次電池用電極20は、図4及び図5に示すように、集電体21の一方面21aに複数の凹陥部22が設けられた構成を有している。
【0027】
図4は、本実施の形態に係わるリチウムイオン二次電池の電極の構成を説明する図であり、図5は、図4に示す集電体の平面図である。図4(a)は、電極の斜視図、図4(b)は、図4(a)のA−A’断面図、図4(c)は、図4(a)のB−B’断面図である。
【0028】
凹陥部22は、図5(a)に示すように、平面視略矩形状を有しており、図4(b)、(c)に示すように、集電体21の一方面21aから他方面21b側に向かって凹陥形成されている。凹陥部22の深さ寸法dは、集電体21の厚みよりも小さく、また、電極塗工時の張力に集電体21が変形することなく耐える強度を必要とすることから、集電体21の厚みに対して、50〜80%の深さ寸法であることが望ましい。
【0029】
集電体21は、従来のパンチ穴を設けたものと比較して、塗工工程において塗膜の表面に凹凸が生じるのを防ぐことができ、次工程のプレス工程で凹陥部のプレス密度が低下するのを防ぐことができる。また、集電体21は、パンチ穴を設けたものよりも強度が強く、塗工工程等において伸びが生じるのを抑制でき、製品の安定性が高いという効果を有する。
【0030】
各凹陥部22は、図5(a)に示すように、集電体21の一方面21aにおいて互いに所定間隔をおいて拡がるように、集電体21の表面に沿って島状(ランド状)に配置形成されている。このように、各凹陥部22を島状に配置することによって、例えば、電極20を捲回する等の変形をさせた場合に、長辺方向と短辺方向のいずれの方向の伸びにも強く、合剤層31を強固に保持できるという効果を有する。
【0031】
合剤層31、32は、従来と同様に、集電体21の一方面21aと他方面21bに形成されており、いずれも平滑な表面31a、32aを有している。このように、集電体21の一方面21aに多数の凹陥部22を設け、その上に平滑な表面の合剤層31を形成することによって、凹陥部22の容積分だけ合剤層31の合剤量を増量させることができ、電池当たりの活物質量を増加させることができる。
【0032】
複数の凹陥部22を有する集電体21の一方面21aに平滑な表面31aを有する合剤層31を形成する方式としては、例えば、図6に示すように、集電体21の一方面21aに合剤スラリー30を塗工する際に、ダイヘッド41自体で合剤スラリー30の表面をスキージして平滑にする方式を用いることができる。
【0033】
図7は、本実施の形態におけるリチウムイオン二次電池用電極を用いた場合の、電池当たりの合剤比率を試算した結果を示すグラフである。
【0034】
試算条件として、電極20の寸法を、合剤層長さ775mm,合剤層幅54mm,合剤層厚みh38μm,集電体厚みt20μmとした。そして、この電極20の集電体21に、□0.4mm(一辺が0.4mm)で深さ10〜16μmの矩形の凹陥部22を、集電体21の長手方向に0.5mmピッチ,集電体21の短手方向に0.5mmピッチで、167,400個形成した場合を条件に試算した。
【0035】
その結果、凹陥部22の深さdに対する電極面積当たりの活物質比率は、従来の凹陥部22が無いものに比べて、1.08〜1.12倍に増やすことができることがわかった。したがって、電極抵抗の上昇を抑制し、電池当たりの活物質量を増加させることができる。
【0036】
なお、本実施の形態では、凹陥部22は、図5(a)に示すように、平面視略矩形状を有する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、図5(b)に示すように、平面視円形状を有していてもよい。また、本実施の形態では、複数の凹陥部22が集電体21の一方面21aに設けられた場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、集電体21の一方面21aと他方面21bの少なくとも一方に設けられていればよく、一方面21aと他方面21bの両方に設けられた構成とすることもでき、活物質比率をさらに増やすことができる。
【0037】
上述のリチウムイオン二次電池用電極20によれば、集電体21の一方面21aに複数の凹陥部22が設けられており、合剤層31は、平滑な表面31aを有するので、従来の凹陥部22がない集電体102と比較して、凹陥部22の容積分だけ合剤層31の合剤量を増量させることができ、電池当たりの活物質量を増加させることができる。したがって、合剤層中の活物質比率を増やす場合と異なり、電極抵抗を増加させずに、高出力と高容量化を両立することができる。
【0038】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。例えば、前記した実施の形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0039】
14 正極電極
15 負極電極
16 正極合剤層
17 負極合剤層
20 リチウムイオン二次電池用電極
21 集電体
21a 一方面
21b 他方面
22 凹陥部
41 ダイヘッド
D1 リチウムイオン二次電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート形状を有する集電体の両面に合剤層が形成されたリチウムイオン二次電池用電極であって、
前記集電体は、該集電体の少なくとも一方の面に複数の凹陥部が設けられており、
前記合剤層は、平滑な表面を有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項2】
前記複数の凹陥部は、前記集電体の厚みに対して50%〜80%の深さ寸法を有することを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項3】
前記複数の凹陥部は、前記集電体の表面に沿って島状に配置形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項4】
前記各凹陥部は、平面視矩形状を有していることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項5】
前記集電体は、アルミニウム又は銅が主成分の材料からなることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用電極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−26043(P2013−26043A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160241(P2011−160241)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(505083999)日立ビークルエナジー株式会社 (438)
【Fターム(参考)】