説明

リチウムイオン二次電池

【課題】充放電の反復及び高温貯蔵による容量低下を軽減できるリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】本発明のリチウムイオン二次電池は、リチウムイオンを吸蔵・放出することが可能な正極及び負極と、非水溶媒にフッ素含有リチウム塩を溶解してなる非水電解液とを含むリチウムイオン二次電池において、前記正極及び前記負極の少なくとも一方を構成する電極活性物質は、有機酸金属塩を含有し、前記有機酸金属塩は、分子量が5万以上の高分子有機酸と、フッ化水素と反応してフッ化物を形成する金属イオンとを含み、前記非水電解液に対して非膨潤性かつ不溶性であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池に関し、特にフッ素含有リチウム塩を電解質とするリチウムイオン二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー密度が高く、しかも高電圧を取出し得る二次電池として、非水溶媒にフッ素含有リチウム塩を溶解してなる非水電解液を用いたリチウムイオン二次電池が注目されている。
【0003】
しかしながら、このリチウムイオン二次電池は充放電を反復していると、容量が低下し易い。この容量低下は特に高温下において起り易い。容量低下の原因の一つとして、電解質として用いるフッ素含有リチウム塩からのフッ化水素の発生による電極活物質の溶出が挙げられる。
【0004】
これに対し、例えば、特許文献1には、電極活物質中に金属酸化物を混合し、フッ化水素を金属酸化物と反応させてフッ化物として捕集するフッ化水素固定方法が提案されている。
【0005】
しかし、上記特許文献1に記載の方法では、金属酸化物とフッ化水素との反応時に発生する水により、フッ化水素の再発生が不可避的に起きるため、フッ化水素の発生を完全に防止できないという問題がある。例えば、金属酸化物として酸化カルシウムを用いた場合、酸化カルシウム(CaO)とフッ化水素(HF)との反応は次の式(1)で表わされる。
CaO+2HF→CaF2↓+H2O・・・(1)
【0006】
上記反応で生じた水(H2O)は電解液に吸収されるが、時間が経つと、電解液中のフッ素含有リチウム塩と再度反応してフッ化水素を生成する。例えば、電解液中のフッ素含有リチウム塩がLiPF6である場合、下記式(2)で表されるように、LiPF61分子と水1分子とが反応してフッ化水素2分子が発生することが知られており(非特許文献1)、長期的には上記式(1)の反応により酸化カルシウムに吸着させたフッ化水素がそのまま電解液に再放出されることになるため、フッ化水素を完全に固定化することは難しい。
LiPF6+H2O→LiF+POF3+2HF・・・(2)
【0007】
一方、別のフッ化水素固定方法として、例えば、特許文献2には、電解液中に有機酸金属塩を添加する方法が提案されている。この方法によれば、フッ化水素との反応で水が発生しないため、フッ化水素濃度を減少させることが可能である。なお、特許文献2における有機酸金属塩を構成する有機酸は、低分子有機酸である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3182296号公報
【特許文献2】特開2000−243436号公報
【非特許文献1】川村、岡田、山木 リチウム電池用LiPF6電解液の分解反応 九州大学大学院総合理工学報告 第24巻第3号 281−288頁 平成14年12月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2に記載の方法では、フッ化水素を有機酸金属塩に吸着させた後に発生する遊離有機酸の電解液に対する溶解度が小さいため、電極表面への析出に起因する容量低下が起きやすいという問題がある。
【0010】
本発明は、上記問題点を解消するためになされたものであり、充放電の反復及び高温貯蔵による容量低下を軽減できるリチウムイオン二次電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のリチウムイオン二次電池は、リチウムイオンを吸蔵・放出することが可能な正極及び負極と、非水溶媒にフッ素含有リチウム塩を溶解してなる非水電解液とを有するリチウムイオン二次電池において、上記正極及び上記負極の少なくとも一方を構成する電極活性物質は、有機酸金属塩を含有し、上記有機酸金属塩は、分子量が5万以上の高分子有機酸と、フッ化水素と反応してフッ化物を形成する金属イオンとを含み、上記非水電解液に対して非膨潤性かつ不溶性であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、充放電の反復及び高温貯蔵による容量低下を軽減できるリチウムイオン二次電池を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者は鋭意検討した結果、高分子有機酸と、フッ化水素と反応して沈殿を形成しやすい金属イオンとで構成される、非水電解液に対して非膨潤性かつ不溶性の有機酸金属塩を、電極活物質に混合することで、上記課題を解決できることを見出した。本発明において、「非膨潤性・不溶性」とは、電極表面の活性に影響を及ぼさない程度の膨潤・溶解にとどまるという意味であり、完全に非膨張・不溶であることを必ずしも意味しない。
【0014】
本発明のリチウムイオン二次電池は、リチウムイオンを吸蔵・放出することが可能な正極及び負極と、非水溶媒にフッ素含有リチウム塩を溶解してなる非水電解液とを有するリチウムイオン二次電池において、上記正極及び上記負極の少なくとも一方を構成する電極活性物質は、有機酸金属塩を含有し、上記有機酸金属塩は、分子量が5万以上の高分子有機酸と、フッ化水素と反応してフッ化物を形成する金属イオンとを含み、上記非水電解液に対して非膨潤性かつ不溶性であることを特徴とする。これにより、充放電の反復及び高温貯蔵による容量低下を軽減できるリチウムイオン二次電池を提供できる。
【0015】
上記高分子有機酸としては、例えば、ポリアクリル酸、ポリスルホン酸などが挙げられるが、特に架橋型有機酸は、高温でも非水電解液との反応が起きにくいため、好ましい。架橋型有機酸としては、アクリル酸をベースに3次元架橋構造を形成した架橋型ポリアクリル酸などが挙げられる。
【0016】
上記高分子有機酸と塩を形成する金属としては、マグネシウム、カルシウム、リチウム、亜鉛、アルミニウムなどが用いられるが、マグネシウム、カルシウム又は亜鉛を用いるのが好ましい。
【0017】
上記有機酸金属塩は、電極活物質中に0.5〜10重量%となるように含有させるのが好ましい。0.5重量%よりも低濃度の場合、容量低下の軽減効果が小さく、10重量%よりも高濃度の場合、電極活物質の実効的な容量低下を無視できない。
【0018】
上記有機酸金属塩は、予め正極及び負極の少なくとも一方の電極活物質中に上記所定の濃度となるように添加しておくのが好ましいが、その他の電池構成部品で非水電解液と接触するものに配合しておいて、非水電解液中に溶出したフッ化水素酸を吸収するようにしてもよい。
【0019】
上述したように、本発明における「非膨潤性・不溶性」とは、電極表面の活性に影響を及ぼさない程度の膨潤・溶解にとどまるという意味であり、具体的には、上記有機酸金属塩の非水電解液に対する膨潤性指標が、2%以下であることが好ましく、上記有機酸金属塩の非水電解液に対する溶解性指標が、1%以下であることが好ましい。
【0020】
有機酸金属塩の非水電解液に対する膨潤性及び溶解性の評価は次のようにして行う。まず、有機酸金属塩を用いて厚さ0.2mmのフィルムを形成する。そして、このフィルムを電解液に1時間浸漬し、フィルムを電解液から引き上げてフィルムの表面に付着した電解液をふき取った後に重量増加率を測定し、これを膨潤性指標とする。その後、フィルムを60℃の真空中で24時間乾燥し、電解液に浸漬前に対する重量減少率を測定し、これを溶解性指標とする。
【0021】
本発明のリチウムイオン二次電池は、電極活物質(正極活物質及び/又は負極活物質)が上述の有機酸金属塩を含有すること以外は、従来公知のリチウムイオン二次電池と同様の構成とすることができる。具体的には、リチウムイオン二次電池は、通常、正極と、負極と、セパレータと、非水電解液とを有する。
【0022】
正極は、正極活物質、正極用導電助剤、正極用バインダなどを含む混合物に、溶剤を加えて十分に混合した正極合剤ペーストを、正極集電体の両面に塗布して乾燥させた後、その正極合剤層を所定の厚さ及び所定の電極密度に調整することにより得られる。
【0023】
上記正極活物質としては、例えば、リチウム含有マンガン酸化物、リチウム含有コバルト酸化物、リチウム含有バナジウム酸化物、リチウム含有ニッケル酸化物、リチウム含有鉄酸化物、リチウム含有クロム酸化物、リチウム含有チタン酸化物などのリチウム含有遷移金属酸化物、あるいはこれらの混合物を用いることができる。
【0024】
上記正極用導電助剤は、正極合剤層の導電性向上などの目的で必要に応じて添加すればよい。正極用導電助剤としては、構成された電池内において化学変化を起こさないものであれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、土状黒鉛など)、人造黒鉛、カーボンブラック(サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラックなど)、炭素繊維、金属粉(銅粉、ニッケル粉、アルミニウム粉、銀粉など)、金属繊維、ポリフェニレン誘導体などの材料を、1種又は2種以上用いることができる。これらの中でも、カーボンブラックを用いることが好ましく、ケッチェンブラックやアセチレンブラックがより好ましい。
【0025】
上記正極用バインダとしては、例えば、でんぷん、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、再生セルロース、ジアセチルセルロースなどの多糖類及びそれらの変成体;ポリビニルクロリド、ポリビニルピロリドン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミドイミド、ポリアミドなどの熱可塑性樹脂及びそれらの変成体;ポリイミド;エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム、ポリブタジエン、フッ素ゴム、ポリエチレンオキシドなどのゴム状弾性を有するポリマー及びそれらの変成体;などが挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、ポリフッ化ビニリデンを用いることが好ましい。
【0026】
上記正極集電体としては、構成された電池において実質的に化学的に安定な電子伝導体であれば特に限定されず、例えば、アルミニウム箔などが用いられる。
【0027】
上記溶剤としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドンなどが用いられる。
【0028】
負極は、負極活物質、負極用導電助剤、負極用バインダなどを含む混合物に、溶剤を加えて十分に混合した負極合剤ペーストを、負極集電体の両面に塗布して乾燥させた後、その負極合剤層を所定の厚さ及び所定の電極密度に調整することにより得られる。
【0029】
上記負極活物質としては、例えば、天然黒鉛、メソフェーズカーボン、非晶質カーボンなどの炭素材料を用いることができる。
【0030】
上記負極用集電体としては、構成された電池において実質的に化学的に安定な電子伝導体であれば特に限定されず、例えば、銅箔などを用いることができる。
【0031】
上記負極用導電助剤、上記負極用バインダ、上記溶剤としては、正極に用いたものと同様のものを用いることができる。
【0032】
セパレータとしては、大きなイオン透過度及び所定の機械的強度を有する絶縁性の微多孔フィルムが用いられる。また、一定温度(100〜140℃)で微孔を閉塞し、抵抗を上げる機能を有するものが、電池の安全性向上の点から好ましい。具体的には、耐有機溶剤性及び疎水性を有するポリプロピレン、ポリエチレンなどのオレフィン系ポリマー又はガラス繊維からなるシート、不織布、織布、又はオレフィン系の粒子を接着剤で固着した多孔質体層などを用いることができる。
【0033】
上記非水電解液を構成する電解質としては、LiBF4、LiAsF6、LiFP6などの無機リチウム塩や、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiN(C25SO22、LiN(CF3SO2)(C49SO2)、LiC(CF3SO23などの有機リチウム塩が用いられる。これらは所望ならばいくつかを併用することもできる。非水電解液中におけるこれらのリチウム塩の濃度は通常0.1〜2.5モル/リットルであるが、0.5〜2モル/リットルが好ましい。
【0034】
上記非水電解液を構成する溶媒としては、従来から非水電解液の溶媒として提案されているものを用いることができる。具体的な溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどのアルキレンカーボネート類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネートなどの鎖状カーボネート類、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトンなどのラクトン類、酢酸メチル、プロピオン酸メチルなどの鎖状エステル類、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピランなどの環状エーテル類、ジメトキシエタン、ジエトキシエタンなどの鎖状エーテル類、スルフォラン、ジエチルスルホンなどの含硫黄化合物などが挙げられる。通常はアルキレンカーボネート類及びジアルキルカーボネート類より成る群から選ばれた1種又は2種以上のカーボネートを主体とするものを用いる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は、本発明を制限するものではない。
【0036】
(実施例1)
有機酸金属塩として、架橋型ポリアクリル酸(架橋型有機酸)である“ジュンロンPW−110”(商品名、東亜合成株式会社製、分子量:100万以上)にマグネシウムを化合させて作製した架橋型ポリアクリル酸マグネシウムを用いた。そして、この架橋型ポリアクリル酸マグネシウムをマンガン酸リチウムに2重量%混合したものを電極活物質とした。
【0037】
上記架橋型ポリアクリル酸マグネシウムは、“ジュンロンPW−110”を水に混合して作製したゲルに塩化マグネシウム水溶液を加え、pH10〜12に調整して生成した沈殿を乾燥・粉砕したもので、不融・不溶の白色粉末である。
【0038】
(実施例2)
有機酸金属塩として、ポリマーキレート剤(高分子有機酸)である“キレストポリマーA”(商品名、キレスト株式会社製、分子量:5万)にカルシウムを化合させて作製した高分子酸カルシウムを用いた。そして、この高分子酸カルシウムをマンガン酸リチウムに2重量%混合したものを電極活物質とした。
【0039】
上記高分子酸カルシウムは、キレストポリマーA水溶液を塩酸酸性(pH3〜5)とした後に塩化カルシウム水溶液を加え、pH13〜14に調整して生成した沈殿を乾燥・粉砕したもので、不融・不溶の白色粉末である。
【0040】
(実施例3)
有機酸金属塩として、非架橋型ポリアクリル酸(高分子有機酸)である“ジュリマーAC−10LHP”(商品名、東亜合成株式会社製、分子量:25万)にマグネシウムを化合させて作製したポリアクリル酸マグネシウムを用いた。そして、このポリアクリル酸マグネシウムをマンガン酸リチウムに2重量%混合したものを電極活物質とした。
【0041】
上記ポリアクリル酸マグネシウムは、“ジュリマーAC−10LHP”を水に混合して作製した水溶液に塩化マグネシウム水溶液を加え、pH10〜12に調整して生成した沈殿を乾燥・粉砕したもので、不融・不溶の白色粉末である。
【0042】
(実施例4)
有機酸金属塩として、非架橋型アクリル酸・スルホン酸共重合体(高分子有機酸)である“アロンA−6019N”(商品名、東亜合成株式会社製、分子量:10万)に亜鉛を化合させて作製した亜鉛化合物を用いた。そして、この亜鉛化合物をマンガン酸リチウムに2重量%混合したものを電極活物質とした。
【0043】
上記亜鉛化合物は、水溶液で提供されている“アロンA−6019N”に塩化亜鉛水溶液を加え、pH10〜12に調整して生成した沈殿を乾燥・粉砕したもので、不融・不溶の白色粉末である。
【0044】
(実施例5)
有機酸金属塩として、非架橋型ポリアクリル酸(高分子有機酸)である“アロンA−30”(商品名、東亜合成株式会社製、分子量10万)にマグネシウムを化合させて作製したポリアクリル酸マグネシウムを用いた。そして、このポリアクリル酸マグネシウムをマンガン酸リチウムに2重量%混合したものを電極活物質とした。
【0045】
ポリアクリル酸マグネシウムは、水溶液で提供されている“アロンA−30”に塩化マグネシウム水溶液を加え、pH10〜12に調整して生成した沈殿を乾燥・粉砕したもので、不融・不溶の白色粉末である。
【0046】
(比較例1)
有機酸金属塩として、非架橋型アクリル酸ポリマーである“ジュリマーAC−10P”(商品名、東亜合成株式会社製、分子量:5,000)を用いて実施例1と同様の手順で作製した非架橋型ポリアクリル酸マグネシウムを用いた。そして、この非架橋型ポリアクリル酸マグネシウムをマンガン酸リチウムに2重量%混合したものを電極活物質とした。
【0047】
(比較例2)
マンガン酸リチウムを電極活物質とした。本比較例では、電極活物質に有機酸金属塩を混合させていない。
【0048】
(比較例3)
有機酸金属塩として、非架橋型ポリアクリル酸ナトリウムである“アロンA−20UN”(商品名、東亜合成株式会社製、分子量:2万)にカルシウムを化合させて作製したポリアクリル酸カルシウムを用いた。そして、このポリアクリル酸カルシウムをマンガン酸リチウムに2重量%混合したものを電極活物質とした。
【0049】
上記ポリアクリル酸カルシウムは、水溶液で提供されている“アロンA−20UN”に塩酸を添加してpH3〜4としたものに塩化カルシウム水溶液を加え、pH10〜12に調整して生成した沈殿を乾燥・粉砕したものである。
【0050】
<リチウムイオン二次電池の作製>
上記実施例1〜5及び上記比較例1〜3の電極活物質を各々N−メチル−2−ピロリドンに分散し、電極活物質100重量部に対して、導電助剤としてケッチェンブラックを4重量部、バインダとしてポリフッ化ビニリデンを4重量部加えてアルミニウム箔上に150g/m2の量で塗布・乾燥して正極とした。この正極を、ポリプロピレン製セパレータを挟んでカーボンを銅箔上に塗布した負極と対向させ、エチレンカーボネート:ジメチルカーボネート=3:7(重量比)の混合溶媒に、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を1モル/リットルとなるように溶解して調製した非水電解液とともにアルミニウムで被覆したナイロンフィルムからなるラミネート型外装体に挿入して封止することにより、リチウムイオン二次電池を作製した。なお、正極表面積は10cm2とした。
【0051】
そして、下記の試験を行い、その試験結果を表1に示した。
【0052】
<サイクル試験>
上記作製したリチウムイオン二次電池を、電池電圧が4.2Vに達するまで20mAで充電し、電圧値4.2Vを維持した状態で充電電流値を0.4mAまで徐々に減じる方法で充電し、その後、電池電圧が3Vに達するまで4mAの電流値で放電するという充放電サイクルを、室温(約25℃)で200回繰り返した。1サイクル目の放電容量と200サイクル目の放電容量を測定し、下記式(1)により容量比(%)を算出し、サイクル特性を評価した。
容量比(%)=(200サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100・・・(1)
【0053】
<高温貯蔵試験>
上記作製したリチウムイオン二次電池を、電池電圧が4.2Vに達するまで20mAで充電し、電圧値4.2Vを維持した状態で充電電流値を0.4mAまで徐々に減じる方法で充電し、その後、電池電圧が3Vに達するまで4mAの電流値で放電して高温貯蔵前の放電容量を測定した。次いで、リチウムイオン二次電池を、再度電池電圧が4.2Vに達するまで20mAで充電し、電圧値4.2Vを維持した状態で充電電流値を0.4mAまで徐々に減じる方法で充電した後、正負極端子間を絶縁した状態で85℃の恒温槽中に24時間貯蔵した。次いで、リチウムイオン二次電池を、恒温槽より取出し、室温まで放冷した。次いで、リチウムイオン二次電池を、電池電圧が4.2Vに達するまで20mAで充電し、電圧値4.2Vを維持した状態で充電電流値を0.4mAまで徐々に減じる方法で充電し、その後、電池電圧が3Vに達するまで4mAの電流値で放電して高温貯蔵後の放電容量を測定した。そして、下記式(2)により容量比(%)を算出し、高温貯蔵特性を評価した。
容量比(%)=(高温貯蔵後の放電容量/高温貯蔵前の放電容量)×100・・・(2)
【0054】
<膨潤性及び溶解性の評価>
有機酸金属塩の非水電解液に対する膨潤性及び溶解性の評価を次のようにして行った。まず、上記実施例1〜5の有機酸金属塩、及び上記比較例1、3の有機酸金属塩を用いて厚さ0.2mmのフィルムをそれぞれ形成した。そして、各フィルムを上述したリチウムイオン二次電池の作製で用いた非水電解液に1時間浸漬し、非水電解液から引き上げた各フィルムの表面に付着した非水電解液をふき取った後に重量増加率を測定し、これを膨潤性指標とした。その後、各フィルムを60℃の真空中で24時間乾燥し、非水電解液に浸漬前に対する重量減少率を測定し、これを溶解性指標とした。
【0055】
【表1】

【0056】
表1に示したように、上記実施例1〜5では、比較例1〜3に比べてサイクル特性、高温貯蔵特性ともに良好であり、特に、高温貯蔵特性が優れていた。本発明における有機酸金属塩は、非水電解液中に発生するフッ化水素と反応してこれを補足するものと考えられ、上記実施例1〜5では、高分子有機酸と、フッ化水素と反応してフッ化物を形成する金属イオンとで構成される有機酸金属塩を電極活物質に混合させることで、正極活物質の溶出などフッ化水素の発生に伴う悪影響が抑制され、サイクル特性及び高温貯蔵特性が向上したと考えられる。
【0057】
また、上記実施例1〜5で用いた有機酸金属塩は、非水電解液に対する膨潤性指標は2%以下、溶解性指標は1%以下であり、非水電解液に対する膨潤性・溶解性がいずれも比較例1、3に比べて小さいことが確認された。非水電解液に対する膨潤性・溶解性が小さい原因としては、有機酸金属塩を構成する有機酸として、実施例1〜5では、分子量が5万以上の高分子有機酸を用いたことによるものと考えられる。
【0058】
特に、有機酸金属塩が同じアクリル酸マグネシウムである実施例1と比較例1とを比較すると、有機酸金属塩の非水電解液に対する膨潤性・溶解性が共に大きい比較例1では、電池内部抵抗が実施例1よりも大幅に増大しており、実施例1と比較例1とでは電池特性に顕著な差が表れた。従って、使用する有機酸金属塩の非水電解液に対する膨潤性・溶解性を制御することが電池特性の向上に有効であることは明らかである。
【0059】
なお、上記実施例においては、高分子有機酸として架橋型ポリアクリル酸、ポリマーキレート剤、非架橋型アクリル酸・スルホン酸共重合体を用い、高分子有機酸と塩を形成する金属としてマグネシウム、カルシウム、亜鉛を用いた場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。また、非水電解液としてフッ素系溶媒やイオン性液体のような膨潤性の低い成分を含有する溶媒を用いることでも本発明の効果を得ることは可能である。
【0060】
なお、本発明の有機酸金属塩は上述のような有効性を持つものの、発生したフッ化水素の吸着にやや時間がかかることが本発明者の検討により明らかになっている。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のリチウムイオン二次電池は、各種電子機器の電源用途など、従来から知られている非水電解液電池が用いられている各種用途と同じ用途に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンを吸蔵・放出することが可能な正極及び負極と、非水溶媒にフッ素含有リチウム塩を溶解してなる非水電解液とを含むリチウムイオン二次電池において、
前記正極及び前記負極の少なくとも一方を構成する電極活性物質は、有機酸金属塩を含有し、
前記有機酸金属塩は、分子量が5万以上の高分子有機酸と、フッ化水素と反応してフッ化物を形成する金属イオンとを含み、前記非水電解液に対して非膨潤性かつ不溶性であることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記高分子有機酸は、架橋型有機酸である請求項2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記有機酸金属塩の前記非水電解液に対する膨潤性指標は、2%以下である請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記有機酸金属塩の前記非水電解液に対する溶解性指標は、1%以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。

【公開番号】特開2012−169137(P2012−169137A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28792(P2011−28792)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(511084555)日立マクセルエナジー株式会社 (212)
【Fターム(参考)】