説明

リチウムイオン電池及びそれを利用した電池システム

【課題】リン酸エステルを加え、非水電解液の自己消火性を高めた電池において、リン酸エステルの分解を防止し、電池の容量の低下を抑制する。
【解決手段】非水電解液が、リン酸トリメチルと、ビニレンカーボネートと、非水溶媒としてエチレンカーボネート並びにジメチルカーボネート及び/又はジエチルカーボネートとを含み、エチレンカーボネート並びにジメチルカーボネート及び/又はジエチルカーボネートの体積の和が、前記非水溶媒の総体積の60体積%以上であり、エチレンカーボネート並びにジメチルカーボネート及び/又はジエチルカーボネートの体積の和に対するジメチルカーボネート及び/又はジエチルカーボネートの体積の比が0.3〜0.6であり、リン酸トリメチルが前記非水電解液の総重量に対して3〜5重量%含まれ、ビニレンカーボネートが前記非水電解液の総重量に対して1.0〜10重量%含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池、及びそれを利用した電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、出力密度が高いために従来パソコンや携帯電話機等の小型機器に用いられてきたが、近年になってHEV(ハイブリッド自動車)やEV(電気自動車)、さらには無停電電源用途にも用いられ始めている。一方、リチウムイオン電池では、例えば、負極側でのリチウムデンドライトの成長による内部短絡や、リチウムイオン電池に外力が加わって起こる、圧壊や破断等による局所的な発熱、あるいは万が一電解液が電池から漏洩した場合に備えて、電解液自身が着火しにくく、消火作用を有することが必要となる。このような電解液の難燃化の手法は、特許文献1〜4に示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−115583号公報
【特許文献2】特開2006−221972号公報
【特許文献3】特開2002−298915号公報
【特許文献4】特開平11−260401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の特許文献1〜4に記載の手法では、リン酸エステルを電解液中に添加することで自己消火性を付与している。リン酸エステルは負極の還元電位で分解され、それにより負極側でLiが酸化された状態となり初期の容量が低下する場合がある。また、無停電電源等の、電池が常に充電されたフロート充電状態やトリクル充電状態で保持される用途では、負極は還元電位で保持されるため、リン酸エステルの分解が促進され、電池の容量が低下する恐れがあった。一方、電池の容量低下を抑制するにはリン酸エステルの添加量を低減することが有効であるが、リン酸エステルの添加量を減らすと、自己消火性が消失する。その結果、自己消火性と容量低下の抑制の両立が困難となっていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上述の課題を解決するために鋭意検討した結果、自己消火性とフロート充電状態等での容量低下抑制とを両立する手法を見出すに至った。すなわち本発明では、非水電解液中のリン酸エステルとしてリン酸トリメチルを選択した。加えてジメチルカーボネートあるいはジエチルカーボネートの量を多くすることで、自己消火性を発現可能な限界量までリン酸トリメチルの添加量を少なくした。さらに、非水電解液にビニレンカーボネートを添加し、ビニレンカーボネートの量を多くした。
【0006】
より具体的には、本発明は、正極、負極及び非水電解液を備えたリチウムイオン電池であって、前記非水電解液が、リン酸トリメチルと、ビニレンカーボネートと、非水溶媒としてエチレンカーボネート並びにジメチルカーボネート及び/又はジエチルカーボネートとを含み、エチレンカーボネート並びにジメチルカーボネート及び/又はジエチルカーボネートの体積の和が、前記非水溶媒の総体積の60体積%以上であり、エチレンカーボネート並びにジメチルカーボネート及び/又はジエチルカーボネートの体積の和に対するジメチルカーボネート及び/又はジエチルカーボネートの体積の比が0.3〜0.6であり、リン酸トリメチルが前記非水電解液の総重量に対して3〜5重量%含まれ、ビニレンカーボネートが前記非水電解液の総重量に対して1.0〜10重量%含まれることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
上記の構成によれば、自己消化性を有する非水電解液を用いたリチウムイオン電池において、初期の容量、並びにフロート充電状態やトリクル充電状態での電池容量低下を抑制することが可能となる。すなわち、自己消火性と電池容量低下の抑制とを両立させることが可能となる。
【0008】
特に、電解質としてLiPFを用い、Mnを含む正極と黒鉛を含む負極を用いたリチウムイオン電池に上述の非水電解液を適用すると、安全性に優れ、かつ電池の長寿命化に有効であることを見出した。本発明は、リチウムイオン電池に限らず、非水電解液を用い、電極へのイオンの吸蔵・放出により、電気エネルギーを貯蔵・利用する電気化学デバイスに適用することが可能である。安全性に優れるため、大型の移動体又は定置型の電池システムに好適である。上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施例1〜3におけるリチウムイオン電池の断面構造を示す図である。
【図2】本発明のリチウムイオン電池を用いた電池システムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面等を用いて、本発明の実施形態について説明する。以下の説明は本発明の内容の具体例を示すものであり、本発明がこれらの説明に限定されるものではなく、本明細書に開示される技術的思想の範囲内において当業者による様々な変更及び修正が可能である。また、本発明を説明するための全図において、同一の機能を有するものは、同一の符号を付け、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0011】
本発明のリチウムイオン電池は、正極、負極及び非水電解液を備え、さらに、その非水電解液が、リン酸トリメチルと、ビニレンカーボネートと、非水溶媒としてエチレンカーボネート並びにジメチルカーボネート及び/又はジエチルカーボネートとを含む。
【0012】
リン酸トリメチル(TMP)はリン酸エステルの一種であるが、リン酸エステルの中でもアルキル基の中に含まれる炭素と水素の数が少ない。アルキル基中の炭素と水素の数はエンタルピーと正の相関があるため、アルキル基中の炭素と水素の数が少ないリン酸トリメチルは、他のリン酸エステルと比較して、より少ない添加量で自己消火性を発現することが可能となる。添加量を少なくできれば、負極で分解する量を低減できるため、自己消火性と容量低下抑制とを両立することが可能となる。
【0013】
また、少量のリン酸トリメチルで自己消火性を発現するために、本発明における非水電解液は、ジメチルカーボネート及び/又はジエチルカーボネートを多く含む。ここで、ジメチルカーボネート及びジエチルカーボネートは、いずれか一方を用いても良いし、両方を混合して用いても良い。リン酸トリメチルとジメチルカーボネート及び/又はジエチルカーボネートとは相互に作用し合い、電解液の自己消火性を発現する。具体的には、ジメチルカーボネートの場合について説明すると、まず、電解液が着火したときの熱によってジメチルカーボネートが蒸発し、火炎中でジメチルカーボネートの蒸気濃度が高まる。火炎中でジメチルカーボネートからメトキシラジカル(CHO・)が生成し、それがリン酸トリメチルと反応して酸素をリン酸トリメチルへ供給する。その結果、最終的にリン酸トリメチルはリン酸又はリン酸系の皮膜になるまで酸化される。リン酸が生成する際には同時に水が生成するので、その水の蒸発熱によって火炎が消火される。また、リン酸系皮膜が電解液の上面に形成されて、電解液の有機成分と酸素との接触を遮断することにより、燃焼反応を抑制する。一方、TMPと反応したメトキシラジカルは、リン原子に結合したメチルと結合してエタンガスを、あるいは、メチルから水素を奪ってメタンガスを生成する。
【0014】
上記メカニズムによる消火性能を得るためには、ジメチルカーボネート及び/又はジエチルカーボネートの含有量を高める必要がある。具体的には、エチレンカーボネート並びにジメチルカーボネート及び/又はジエチルカーボネートの体積の和を、非水溶媒の総体積の60体積%以上とする。上限は特に限定されるものではないが、100体積%とすることができる。また、エチレンカーボネート並びにジメチルカーボネート及び/又はジエチルカーボネートの体積の和に対するジメチルカーボネート及び/又はジエチルカーボネートの体積の比率を0.3〜0.6、より望ましくは0.4〜0.6にする。これらの2つの条件をエチレンカーボネートとジメチルカーボネート及び/又はジエチルカーボネートが満たすことにより、少量のリン酸トリメチルの添加によって十分な自己消火性を得ることができる。上記条件におけるリン酸トリメチルは、前記非水電解液の総重量に対し3〜5重量%を添加することで自己消化性を得ることができた。非水溶媒中のエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート及び/又はジエチルカーボネートの割合が少なすぎる場合、エチレンカーボネート並びにジメチルカーボネート/ジエチルカーボネートの体積の和に対するジメチルカーボネート及び/又はジエチルカーボネートの体積の比率が0.3よりも小さすぎる場合には、ジメチルカーボネートやジエチルカーボネートが相対的に足りなくなって、リン酸トリメチルの濃度を低くした場合に自己消火性が得られなくなる。0.6よりも大きすぎると、電池の容量が低下するとともに、過剰なジメチルカーボネート及びジエチルカーボネートの燃焼熱がリン酸トリメチルから生成した水の蒸発熱を上回り、自己消火性を発現するためには5重量%よりも多量のリン酸トリメチルが必要となる。その結果、電池の初期の容量、あるいは電池使用時の容量低下が大きくなり、自己消化性と電池特性の両立が不可能となる。なお、ここでいう体積%は、25℃、標準気圧で測定した値をいう。
【0015】
ビニレンカーボネートは、充電時に負極表面に皮膜を形成する機能を有する。ビニレンカーボネートにより形成された皮膜は負極表面での非水電解液の分解を抑制する効果を有する。一方で、ビニレンカーボネートは電池の動作に直接関与しないため、可能な限りビニレンカーボネートの添加量は少ない方が望ましいと考えられていた。ビニレンカーボネートの多量添加は負極表面の皮膜の厚膜化を招き、皮膜抵抗に起因する電池容量低下が生じるためである。しかしながら、本発明のエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート及び/又はジエチルカーボネート、並びにリン酸トリメチルを含む非水電解液では、ビニレンカーボネートの量を多くする方が良好な特性が得られた。具体的にはビニレンカーボネートの量を非水電解液の総重量に対し1.0〜10重量%、好ましくは1.0〜7.0重量%、特に好ましくは2.0〜5.0重量%とすることにより電池容量低下を抑制できることを明らかにした。これは電池の容量低下の主要因がリン酸トリメチル等の分解による容量低下であり、負極皮膜の厚膜化に起因する容量低下よりも影響が大きいためと考えられる。
【0016】
なお、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート及び/又はジエチルカーボネート並びにビニレンカーボネートが所定の範囲内であれば、他の非水溶媒を補助的に追加して、低温特性や出力特性を向上させることが可能である。非水溶媒は、本発明のリチウムイオン電池に内蔵される正極あるいは負極上で分解しない溶媒であれば良く、その例として、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、エチルメチルカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルフォキシド、1,3−ジオキソラン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、リン酸トリエステル(リン酸トリメチルは除く)、トリメトキシメタン、ジオキソラン、ジエチルエーテル、スルホラン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、テトラヒドロフラン、1,2−ジエトキシエタン、クロロエチレンカーボネート、クロロプロピレンカーボネート等の非水溶媒が挙げられる。その中でも、電池の作動可能な温度範囲を広くすることが可能で、かつ電池特性を大きく劣化させない、との観点から、エチルメチルカーボネートを含有させることが好ましい。これらの非水溶媒を補助的に追加する場合、その量は、追加する非水溶媒とエチレンカーボネート並びにジメチルカーボネート及び/又はジエチルカーボネートとを合計した総体積に対して40体積%以下とする。
【0017】
また、非水電解液に加える電解質としては、LiPFが好ましく用いられる。LiPFは、非水電解液が着火した際の熱によって分解し、フッ素ラジカルを放出する。これが燃焼反応を促進する酸素ラジカルを捕捉し、燃焼反応を終了させる作用がある。ただし、LiPFが主な電解質であれば、さらにLiBFを添加しても良い。LiBFの添加量は、LiPFに対して2/8以下(重量比)であれば、LiPFのフッ素による燃焼反応の抑制作用が損なわれないため好ましい。また、電解質としては、リチウムイオン電池に内蔵される正極あるいは負極上で分解しないものであれば、他の電解質を用いても良い。例えば、LiClO、LiCFSO、LiCFCO、LiAsF、LiSbF、あるいはリチウムトリフルオロメタンスルホンイミドで代表されるリチウムのイミド塩等の多種類のリチウム塩が挙げられる。ただし、LiPFの量が、全電解質量の80重量%以上であることが好ましい。また、上記LiPF等の電解質の含有量は、非水電解液中0.8〜2.0mol/lとすることが好ましく、特に好ましくは1.0〜1.5mol/lである。さらに、電解質は、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、メタクリル酸メチル、ポリエチレンオキサイド、ヘキサフルオロプロピレン共重合体等のイオン伝導性高分子に含有させた状態で使用することも可能である。この場合、リチウムイオン電池を構成する際に後述するようなセパレータは不要となる。
【0018】
正極は、集電体と合剤層とから構成され、合剤層は、正極活物質、導電剤及びバインダを含む。正極活物質は、マンガン(Mn)を含むことが望ましい。Mnを含む正極活物質は、酸素との結合力が強く、高温時に酸素を放出しにくいので、リン酸トリメチルの自己消火作用とあいまってリチウムイオン電池の安全性に貢献すると考えられる。加えて、Mnは、コバルトと比較してリン酸トリメチルとの反応性が低く、正極に起因する電池容量の低下を抑制することができ、長寿命化に適している。
【0019】
Mnを含む正極活物質としては、代表的にはスピネル結晶構造を有するLiMnが挙げられる。他の正極活物質であっても非水電解液の自己消火性のメリットは得ることができ、例えば、LiMnO、LiMn、LiMnO、LiMn12、LiMn2−x(ただし、M=Co、Ni、Fe、Cr、Zn及びTaから選ばれる一以上、x=0.01〜0.2)、LiMnMO(ただし、M=Fe、Co、Ni、Cu及びZnから選ばれる一以上)、Li1−xMn(ただし、A=Mg、B、Al、Fe、Co、Ni、Cr、Zn及びCaから選ばれる一以上、x=0.01〜0.1)、LiNi1−x(ただし、M=Co、Fe及びGaから選ばれる一以上、x=0.01〜0.2)、LiFeO、Fe(SO、LiCo1−x(ただし、M=Ni、Fe及びMnから選ばれる一以上、x=0.01〜0.2)、LiNi1−x(ただし、M=Mn、Fe、Co、Al、Ga、Ca及びMgから選ばれる一以上、x=0.01〜0.2)、LiMnPO等を挙げることができる。特に、スピネル結晶構造を有するMn酸化物や、Mnの一部をLiあるいは他の異種元素で置換した酸化物を用いることにより、難燃性と長寿命化の両立を図ることができる。
【0020】
正極活物質の粒径は、合剤層の厚さ以下であることが好ましい。正極活物質粉末中に合剤層厚さ以上のサイズを有する粗粒がある場合、予めふるい分級、風流分級等により粗粒を除去し、合剤層厚さ以下の粒子を作製する。
【0021】
正極の導電剤としては、黒鉛、カーボンブラック、活性炭等の高比表面積の炭素材料を用いることができる。その他、導電性繊維を使用することもできる。導電性繊維としては、気相成長炭素、カーボンナノチューブ、又はピッチ(石油、石炭、コールタール等の副生成物)を原料に高温で炭化して製造した繊維、アクリル繊維から製造した炭素繊維等が挙げられる。また、正極活物質よりも電気抵抗の低い金属材料であって、正極の充放電電位(通常は2.5〜4.2Vである)にて酸化溶解しない材料を導電剤として使用してもよい。例えば、チタン、金等の耐食性金属、SiCやWC等のカーバイド、Si、BN等の窒化物が挙げられる。
【0022】
正極の集電体には、厚さが10〜100μmの金属箔、厚さが10〜100μm、孔径0.1〜10mmの金属製穿孔箔、エキスパンドメタル、発泡金属板等が用いられる。材質は、アルミニウムが最適であり、ステンレス、チタン等も適用可能である。
【0023】
負極は、集電体と合剤層とから構成され、合剤層は、負極活物質及びバインダを含む。負極活物質としては、リチウムイオンを電気化学的に吸蔵・放出可能な成分であれば適用可能であり、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛、メソフェーズ炭素、炭素繊維、気相成長法炭素繊維、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素質材料、ニードルコークス、石油コークス、易黒鉛化炭素、難黒鉛化炭素、非晶質炭素、あるいは上記の黒鉛材料に非晶質炭素、すなわち構造の一部に黒鉛結晶構造を有していない(黒鉛構造の発達していない)炭素を混合したもの等からなる炭素質材料、もしくはこれらの混合負極、又は炭素質材料と金属との混合負極もしくは複合負極を使用することができる。特にグラフェン構造を有する炭素質材料を含むことが好ましい。非晶質炭素としては、カーボンブラックや、5員環又は6員環の環式炭化水素又は環式含酸素有機化合物を熱分解することによって合成した非晶質炭素が挙げられる。他の負極活物質としては、リチウムと合金化するアルミニウム、シリコン、スズ等の金属がある。
【0024】
負極の合剤中にも、必要に応じて、正極と同様にカーボンブラック等の導電剤を添加しても良い。導電剤としては、上述のカーボンブラック等の他、ポリアセン、ポリパラフェニレン、ポリアニリン、ポリアセチレン等の導電性高分子材料を用いることが可能である。
【0025】
負極の集電体としては、材質、形状、製造方法等に制限されることなく、任意の集電体を使用することができる。例えば、厚さが10〜100μmの銅箔、厚さが10〜100μm、孔径0.1〜10mmの銅製穿孔箔、エキスパンドメタル、発泡金属板等が用いられ、材質も銅の他に、ステンレス、チタン、ニッケル等が適用可能である。
【0026】
正極及び負極の作製方法は、特に限定されるものではないが、正極(負極)活物質及び導電剤をバインダとともに適当な溶媒に溶解もしくは分散させ、ボールミル、プラネタリーミキサー等の一般的な混錬分散方法を用いて良く混練分散し、正極(負極)合剤スラリーを作製する。続いて、この正極(負極)合剤スラリーを塗布機を用いて集電体上に塗布し、乾燥させた後、圧縮成形を行い、所望の大きさに切断又は打ち抜いて、目的の正極及び負極を作製することができる。集電体上に正極(負極)合剤スラリーを塗布する方法は、特に限定されるものではなく、ドクターブレード法、ディッピング法、スプレー法等の既知の方法を用いることができる。
【0027】
また、上述のバインダとしては、特に限定されないが、例えば、スチレン−ブタジエン共重合体、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等のエチレン性不飽和カルボン酸エステル、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンオキサイド、ポリエピクロロヒドリン、ポリフォスファゼン、ポリアクリロニトリル等のイオン導電性の大きな高分子化合物等が適用可能である。
【0028】
その他、正極、及び負極にイミド系バインダを用いるときには、窒素等を含む不活性ガス雰囲気中にて300℃以上の高温の熱処理を行い、電極中のバインダを硬化させることが好ましい。塗布から乾燥までを複数回行うことにより、複数の合剤層を集電体上に積層化させることも可能である。
【実施例】
【0029】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明をさらに詳細に説明する。
(実施例1−1〜1−9、及び比較例1−1〜1−6)
図1は、リチウムイオン電池101の内部断面構造を模式的に示している。リチウムイオン電池101は、正極107、負極108、及びセパレータ109からなる積層体をステンレス鋼からなる電池容器102内に密閉状態にて収納した構成となっている。電池容器102の上部にはステンレス鋼からなる蓋103があり、蓋103は正極外部端子104、負極外部端子105、注液口106を有する。非水電解液113は、電池容器102に電極群を収納した後に、蓋103を電池容器102に被せ、蓋103の外周を溶接して電池容器102と一体にした後、注液口106から注液した。非水電解液113は、正極107、負極108、セパレータ109の表面、細孔内部及び電池容器102内の空隙に保持されている。
【0030】
正極107は正極リード線110を介して正極外部端子104に、負極108は負極リード線111を介して負極外部端子105に接続されている。正極外部端子104又は負極外部端子105と、電池容器102の間にはフッ素樹脂からなる絶縁性シール材料112を挿入し、両端子が短絡しないようにしている。
【0031】
正極107は、20μm厚のアルミニウム箔からなる集電体と合剤層とで構成される。合剤層は、Li1.03Mn1.97からなる正極活物質、黒鉛粉末とカーボンブラックからなる導電剤、及びバインダで構成される。正極活物質は酸化物系であり電気抵抗が高いので、それらの電気伝導性を補うために導電剤を添加した。バインダは正極活物質及び導電剤を結着させる機能を有する。合剤層の組成は正極活物質が87重量%、導電剤が7重量%、バインダが6重量%とした。まず、正極活物質、導電剤及びバインダと溶媒とを混合して正極合剤スラリーを調製した。この正極合剤スラリーを、ドクターブレード法にて、正極集電体に塗布した後、乾燥し集電体上に合剤層を固着した。その後、ロールプレスによって加圧成形することにより、正極107を作製した。本実施例では、マンガンを含む正極活物質を用いることで、安全性をより向上させた。具体的には、マンガンは、酸素との結合力が強く、高温時に酸素を放出しにくいので、自己消火性が高まると考えられる。加えて、Mnはコバルトと比較してリン酸トリメチルとの反応性が低く、正極に起因する電池容量低下を抑制可能であり、長寿命化に適している。
【0032】
負極108は、20μm厚の銅箔からなる集電体と合剤層とで構成される。合剤層は、人造黒鉛からなる負極活物質、及びバインダで構成される。合剤層の組成は負極活物質が92重量%、バインダが8重量%とした。正極107と同様の手法で負極合剤スラリーをドクターブレード法にて集電体へ付着させた後、乾燥、ロールプレスにより負極108を作製した。
【0033】
セパレータ109は、正極107と負極108の間のみならず、正極107あるいは負極108と電池容器102との間にも配置し、正極107と負極108が電池容器102を通じて短絡しないように構成した。
【0034】
非水電解液113は、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、LiPF、リン酸トリメチル(TMP)及びビニレンカーボネート(VC)を種々の割合で混合して調製した。まず始めに、EC、DMC、EMCの非水溶媒の総量が100体積%となるように所定の体積比(百分率)で混合した。その後、電解質であるLiPFを所定の濃度となるよう混合した。最後にTMP及びVCを非水電解液の総重量に対して所定の重量比(百分率)となるように混合した。
【0035】
作製したリチウムイオン電池について、初期の容量とフロート充電後の容量を評価した。初期の容量の評価手順を以下に示す。まず始めに開回路の状態から電池電圧が4.2Vになるまで1時間率相当の定電流にて充電し、電池電圧が4.2Vに達した後は、電流値が0.1時間率相当になるまで4.2Vを保持した。その後、充電を停止し30分間の休止時間を設けた。次いで、1時間率相当の定電流の放電を開始し、電池電圧が3.0Vに達するまで放電させた。これを11回繰り返し、2回目を除く10回の放電容量の平均値を電池の初期容量とし、各実施例で比較した。
【0036】
次にフロート充電の手順を以下に示す。フロート充電では、まず初めに、電池を50℃の恒温槽内に入れ、電池表面温度が50℃になった後、12時間待機させた。その後、開回路の状態から電池電圧が4.2Vになるまで1時間率相当の定電流にて充電し、電池電圧が4.2Vに達した後、120日間4.2Vを保持した。
【0037】
最後に、フロート充電後の容量の評価手順を示す。まず始めに、充電が完了した電池を25℃の恒温槽に移し、電池表面温度が25℃になった後、12時間待機させた。次いで、初期容量の1時間率相当の定電流の放電を開始し、電池電圧が3.0Vに達するまで放電させた。その後、開回路の状態から電池電圧が4.2Vになるまで初期容量の1時間率相当の定電流にて充電し、電池電圧が4.2Vに達した後は、電流値が初期容量の0.1時間率相当になるまで4.2Vを保持した。充電後は30分間の休止時間を設けた。次いで、初期容量の1時間率相当の定電流の放電を開始し、電池電圧が3.0Vに達するまで放電させた。これを10回繰り返し、フロート充電直後の放電を除く10回の放電容量の平均値を電池の劣化後の容量とした。劣化後の容量は初期容量で規格化し、容量比で表わした。以下、フロート充電後の容量比については試験後容量比と記す。
【0038】
非水電解液の自己消火性は消火時間で比較した。消火時間の評価は以下の通りとした。まず始めに、非水電解液に不織布を浸漬した。次に、不織布を非水電解液から取り出し、不織布の一端をライターで着火した。その後、ライターを不織布から離した瞬間を0秒とし、不織布から火が消えた時間を消火時間と規定した。
【0039】
上記の初期容量、試験後容量比、及び消火時間を比較することで、非水電解液の自己消火性と、容量低下の抑制とが両立しているか否かを判定した。
【0040】
(比較例1−1〜1−6)
比較例1−1は、LiPFを1mol/l、ECとDMCをそれぞれ40体積%、60体積%とした。加えて、TMPを含まず、VCを3重量%とした。比較例1−1では、非水溶媒の総体積に対するECとDMCの体積の和の比率は100体積%となる。また、ECとDMCの体積の和に対するDMCの体積の比率は0.6となる。放電容量は1.0Ah、試験後容量比は70%と高い値を示しており、初期容量、試験後容量比は優れていた。しかし、TMPを添加していないため、消火時間が10〜20秒という長い時間を要し、自己消火性を有していないことが分かった。
【0041】
比較例1−2及び1−3は、比較例1−1の条件を基準としてTMPをそれぞれ7重量%、10重量%含有させた。比較例1−2及び1−3では非水溶媒の総体積に対するECとDMCの体積の和の比率は100体積%となる。また、ECとDMCの体積の和に対するDMCの体積の比率は0.6となる。
【0042】
比較例1−2及び1−3では消火時間は0〜1秒となり、自己消火性は優れていた。しかし、TMPの添加量が多いため、TMPの分解に起因すると思われる初期容量の低下、試験後容量比の低下が確認された。初期容量、試験後容量比は比較例1−1に対して劣ることが分かった。
【0043】
比較例1−4は、比較例1−1の条件を基準としてECとDMCの量を合計で50体積%となるように各々を20体積%、30体積%とし、EMCを50重量%とした。これに加えて、TMPを8重量%に変更した。比較例1−4では、非水溶媒の総体積に対するECとDMCの体積の和の比率は50体積%となる。また、ECとDMCの体積の和に対するDMCの体積の比率は0.6となる。ECとDMCの量が50体積%になると、DMCによる消化作用の促進ができなくなるため、消火時間が長くなる傾向が表れ、TMPを8重量%にしても、消火時間は5〜8秒と比較例1−1に対しては消火時間が短くなるものの、自己消火性は不十分であることが分かった。加えて、TMPが過剰であるため、TMPの分解に起因すると思われる初期容量の低下、試験後容量比の低下が確認された。
【0044】
比較例1−5は、比較例1−1の条件を基準としてTMPを1重量%に変更した。比較例1−5では、非水溶媒の総体積に対するECとDMCの体積の和の比率は100体積%となる。また、ECとDMCの体積の和に対するDMCの体積の比率は0.6となる。放電容量、試験後容量比は優れていたが、TMPの添加量が少ないため、消火時間は5〜10と長く、比較例1−1に対しては消火時間が短くなるものの、自己消火性は不十分であることが分かった。
【0045】
比較例1−6は、比較例1−1の条件を基準としてTMPを5重量%に、VCを0.5重量%に変更した。比較例1−6では、非水溶媒の総体積に対するECとDMCの体積の和の比率は100体積%となる。また、ECとDMCの体積の和に対するDMCの体積の比率は0.6となる。消火時間は0〜1秒と短く、自己消火性は優れているものの、VCの添加量が少ないため、TMPの分解に起因すると思われる初期容量の低下、試験後容量比の低下が確認された。
【0046】
(実施例1−1〜1−9)
実施例1−1は、比較例1−1の条件を基準としてTMPを5重量%に変更した。実施例1−1では、非水溶媒の総体積に対するECとDMCの体積の和の比率は100体積%となる。また、ECとDMCの体積の和に対するDMCの体積の比率は0.6となる。DMCの量、TMPの量を適正条件とすることにより、消火時間が0〜1秒となり、自己消火性に優れていることを確認した。加えて、TMPの量、VCの量を適正条件とした結果、TMPの分解を抑制することができ、初期容量、試験後容量比ともに比較例1と同等の性能を得ることができた。結果、自己消火性と初期容量、試験後容量比の両立が可能となることが明らかになった。
【0047】
実施例1−2及び1−3は、実施例1−1の条件を基準にEC、DMCの量をそれぞれ50体積%、50体積%(実施例1−2)、及び60体積%、40体積%(実施例1−3)とした。実施例1−2及び1−3では、非水溶媒の総体積に対するECとDMCの体積の和の比率はともに100体積%となる。また、ECとDMCの体積の和に対するDMCの体積の比率はそれぞれ0.5、0.4となる。本実施例においてはDMCの量を適正条件とすることにより、優れた自己消火性を有し、かつ初期容量、試験後容量比ともに実施例1−1と同等の性能を得ることができた。
【0048】
実施例1−4は、実施例1−1の条件を基準に、ECとDMCの量を合計で60体積%となるように各々を42体積%、18体積%とし、EMCを40重量%追加した。実施例1−4では、非水溶媒の総体積に対するECとDMCの体積の和の比率は60体積%となる。また、ECとDMCの体積の和に対するDMCの体積の比率は0.3となる。本実施例においては非水溶媒としてEMCを追加しているが、DMCの量を適正条件とすることにより、優れた自己消火性を有し、かつ初期容量、試験後容量比ともに実施例1−1と同等の性能を得ることができた。
【0049】
実施例1−5〜1−9では、実施例1−1の条件を基準にVCの添加量を1.0、1.5、2.0、3.0及び5.0重量%に変更した。実施例1−5〜1−9では、非水溶媒の総体積に対するECとDMCの体積の和の比率は100体積%となる。また、ECとDMCの体積の和に対するDMCの体積の比率は0.6となる。本実施例においてはVCの量を適正条件とすることにより、TMPの分解を抑制し、優れた初期容量、試験後容量を実現するとともに、自己消火性も十分な特性を得ることができた。
【0050】
実施例1−1〜1−9では、初期容量、試験後容量比、消火時間を両立するリチウムイオン電池を作製することができた。実施例1−1〜1−9における非水電解液についてまとめると以下のように表すことができる。非水電解液にはエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート及び場合によりエチルメチルカーボネートからなる非水溶媒、リン酸トリメチル、並びにビニレンカーボネートが含まれ、エチレンカーボネート及びジメチルカーボネートの体積の和が前記非水溶媒の総体積の60体積%以上であり、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートの体積の和に対するジメチルカーボネートの体積の比率が0.3〜0.6であり、リン酸トリメチルは非水電解液の総重量に対し5重量%含まれ、ビニレンカーボネートは非水電解液の総重量に対し、1.0〜5.0重量%以上含まれている。
【0051】
上記の通り、TMPを所定量以上加えることで発現する自己消化性の効果と、ジメチルカーボネートを所定量以上加えること、さらにはエチレンカーボネート及びジメチルカーボネートの体積の和を所定量以上とすることで発現するTMPの自己消火性を促進する効果とによって、所望の消火性能を得ることができた。加えて、TMP添加量を所定量以下とすること、VCを所定量以上とすること、さらにはエチレンカーボネートとジメチルカーボネートの体積の和に対するジメチルカーボネートの体積の比率を所定の範囲とすることで、初期容量の確保、並びにフロート充電後の容量比の向上を図ることが可能となった。
【0052】
本実施例に示すように、自己消火性を付与した非水電解液を用いたリチウムイオン電池において、初期の容量、並びにフロート充電状態やトリクル充電状態での電池の容量劣化を抑制することが可能となる。
【0053】
【表1】

【0054】
(実施例2)
実施例2は、上記実施例1−1等と同一構成のリチウムイオン電池を用いて、実施例1−1の非水電解液の条件を基準にDMCをジエチルカーボネート(DEC)に変更したものである。本実施例においても、初期容量、試験後容量比、消火時間ともに実施例1−1と同等の性能を得ることができた。本結果により、DMCとDECによるTMPの自己消火性の促進効果は同等であると思われることから、実施例1−2〜1−9でDMCをDECに置き換えた場合でも同様の効果が得られると考えられる。
【0055】
【表2】

【0056】
(実施例3及び比較例3)
比較例3は、前述の比較例1−2の条件を基準に電解質をLiPFからLiBFに変更したものである。比較例3では、非水溶媒の総体積に対するECとDMCの体積の和の比率は100体積%となる。また、ECとDMCの体積の和に対するDMCの体積の比率は0.6となる。比較例3は、消火時間は1〜3秒と短いものの、比較例1−2と同一のTMP添加量にも関わらず、比較例1−2よりも消火時間は長くなった。LiPFは非水電解液が着火した際の熱によって分解し、フッ素ラジカルを放出する。これが燃焼反応を促進する酸素ラジカルを捕捉し、燃焼反応を終了させる作用がある。比較例3において消化時間が長いのは、非水電解質の組成変更によりLiPFによる燃焼反応終了作用が無くなったためと考えられる。加えて、TMPの分解に起因して初期容量、試験後容量比も低下した。したがって、TMP及びLiBFを高濃度で用いると、自己消火性と試験後容量比の両立が困難となることが分かった。
【0057】
実施例3は、実施例1−1の条件を基準に電解質をLiPFとLiBFの混合物に変更し、その混合比をそれぞれ0.8mol/l、0.2mol/lとした例である。実施例3では、非水溶媒の総体積に対するECとDMCの体積の和の比率は100体積%となる。また、ECとDMCの体積の和に対するDMCの体積の比率は0.6となる。本実施例では、初期容量、試験後容量比、消火時間ともに実施例1−1と同等の性能を得ることができた。LiPFと他の電解質を混合しても、LiPFの添加量が0.8mol/l以上であれば、LiPFの添加量が1.0mol/lの場合と同等の自己消火性を確保することが可能である。
【0058】
【表3】

【0059】
上述の各実施例においては、適宜、具体的な構成材料、部品等を変更しても良い。また、本発明の構成に、公知の技術を追加することも可能である。以下、上記の各実施例に係るリチウムイオン電池の材料、組成、構造等について補足的に説明する。
【0060】
絶縁性シール材料112としては、熱硬化性樹脂、ガラスハーメチックシール等から選択することができ、非水電解液と反応せず、かつ気密性に優れた任意の材質を使用することができる。
【0061】
正極リード線110、及び負極リード線111は、ワイヤ状、板状等の任意の形状を採用することができる。電流を流したときにオーム損失を小さくすることのできる構造であり、かつ非水電解液と反応しない材質であれば、正極リード線110及び負極リード線111の形状、材質は任意である。
【0062】
正極リード線110又は負極リード線111の途中、あるいは正極リード線110と正極外部端子104との接続部、又は負極リード線111と負極外部端子105との接続部に、正温度係数抵抗素子を利用した電流遮断機構を設けてもよい。電流遮断機構を設けることにより、電池内部の温度が高くなったときに、リチウムイオン電池101の充放電を停止させ、電池を保護することが可能となる。
【0063】
電極群の構造は、図1に示したような短冊状電極を積層させたものの他、円筒状もしくは扁平状等の任意の形状に捲回したもの等、種々の形状を採用することができる。電池容器102の形状は、電極群の形状に合わせ、円筒型、扁平長円形状、角型等の形状を適宜選択することができる。
【0064】
電池容器102に対し蓋103を取り付ける際には、溶接以外にも、かしめ、接着等の他の方法を採用することができる。
【0065】
注液口106は、必ずしも設けなくても良い。電極群を電池容器102に収納した後に、所定量の非水電解液を注入した後、蓋103で密閉することも可能である。この場合、注液口106は不要となる。
【0066】
非水電解液113の注液に用いる注液口106に、安全機構としての機能を付与することも可能である。安全機構として、電池容器102内部の圧力が所定値以上となった際に開放される圧力弁が挙げられる。
【0067】
電池容器102の材質は、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等、非水電解液に対し耐食性のある材質から適宜選択される。
【0068】
また、電池容器102内に正極リード線110又は負極リード線111を収容する場合は、非水電解液113と接触している部分において、正極リード線110又は負極リード線111の腐食やリチウムイオンとの合金化による材料の変質が起こらないように、正極リード線110又は負極リードの材料を選定することが必要である。
【0069】
セパレータ109は、電池の充放電時にリチウムイオンを透過させる必要があるため、多孔体である必要がある。一般的には、細孔径が0.01〜10μm、気孔率が20〜90%であれば、リチウムイオン電池101に適用可能である。セパレータ109としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等からなるポリオレフィン系高分子シート、あるいはポリオレフィン系高分子シートと4フッ化ポリエチレンを代表とするフッ素系高分子シートとを溶着させた多層構造のセパレータ等を使用することができる。セパレータ109の表面に、セラミックスとバインダの混合物を薄層状に形成しても良い。
【0070】
(実施例4)
・電池システムの構成について
図2に、2個のリチウムイオン電池101を直列に接続した電池システムを示す。リチウムイオン電池101は、実施例1−1で示した仕様で作製した。図2の右側に配置したリチウムイオン電池101の負極外部端子は、電力ケーブル213により充放電制御器216の負極入力ターミナルに接続されている。図2の右側に配置したリチウムイオン電池101の正極外部端子は、電力ケーブル214を介して、図2の左側に配置したリチウムイオン電池101の負極外部端子に連結されている。図2の左側に配置したリチウムイオン電池101の正極外部端子は、電力ケーブル215により充放電制御器216の正極入力ターミナルに接続されている。このような配線構成によって、2個のリチウムイオン電池101を充電又は放電させることができる。
【0071】
充放電制御器216は、電力ケーブル217、218を介して、外部機器219との間で電力の授受を行う。外部機器219は、充放電制御器216に給電するための外部電源や回生モータ等の各種電気機器、並びに本電池システムが電力を供給するインバータ、コンバータ及び負荷が含まれている。外部機器219が対応する交流、直流の種類に応じて、インバータ等を設ければ良い。
【0072】
また、再生可能エネルギーを生み出す機器として、風力発電機の動作条件を模擬した発電装置222を設置し、電力ケーブル220、221を介して充放電制御器216に接続した。発電装置222が発電するときには、充放電制御器216が充電モードに移行し、外部機器219に給電するとともに、余剰電力をリチウムイオン電池101に充電する。また、風力発電機を模擬した発電量が外部機器219の要求電力よりも少ないときには、リチウムイオン電池101を放電させるように充放電制御器216が動作する。なお、発電装置222は他の発電装置、すなわち太陽電池、地熱発電装置、燃料電池、ガスタービン発電機等の任意の装置に置換することができる。充放電制御器216は上述の動作をするように自動運転可能なプログラムを記憶させておく。
【0073】
・電池システムの運転方法について
外部機器219は充電時に電力を供給し、放電時に電力を消費させた。リチウムイオン電池101は定格容量が得られる通常の充電を行う。例えば、1時間率の充電電流にて、4.1Vあるいは4.2Vの定電圧充電を0.5時間、実行することができる。充電条件は、リチウムイオン電池の材料の種類、使用量等の設計で決まるので、電池の仕様ごとに最適な条件とする。
【0074】
リチウムイオン電池101を充電した後には、充放電制御器216を放電モードに切り替えて、各電池を放電させる。通常は、一定の下限電圧に到達したときに放電を停止させる。本実施例では、5時間率放電まで実施し、1時間率放電時の容量に対して90%の高い容量を得た。また、風力発電機を模擬した発電装置222の発電中には、3時間率の充電を行うことができた。
【0075】
なお、上記の実施例について、各構成要素を公知の技術で置き換えることも可能である。例えば、発電装置222は、太陽光、地熱、波動エネルギー等の任意の再生可能なエネルギー発電システムに置き換えることができる。また、外部機器219は、電気モータ等の駆動装置に置き換えると、電気自動車、ハイブリッド電気自動車、プラグインハイブリッド電気自動車、電動式建設機械、運搬機器、建設機械、介護機器、軽車両、電動工具、ゲーム機、映像機、テレビ、掃除機、ロボット、携帯端末情報機器、離島の電力貯蔵システム、宇宙ステーション用の電源等に利用することも可能である。
【0076】
このような電池システムによれば、リチウムイオン電池の非水電解液に自己消火作用を発現させ、かつ、寿命を改善させることが可能となる。
【符号の説明】
【0077】
101 リチウムイオン電池
102 電池容器
103 蓋
104 正極外部端子
105 負極外部端子
106 注液口
107 正極
108 負極
109 セパレータ
110 正極リード線
111 負極リード線
112 絶縁性シール材料
113 非水電解液
213、214、215、217、218、220、221 電力ケーブル
216 充放電制御器
219 外部機器
222 発電装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極及び非水電解液を備えたリチウムイオン電池であって、
前記非水電解液が、リン酸トリメチルと、
ビニレンカーボネートと、
非水溶媒としてエチレンカーボネート並びにジメチルカーボネート及び/又はジエチルカーボネートとを含み、
前記エチレンカーボネート並びに前記ジメチルカーボネート及び/又はジエチルカーボネートの体積の和が、前記非水溶媒の総体積の60体積%以上であり、
前記エチレンカーボネート並びに前記ジメチルカーボネート及び/又はジエチルカーボネートの体積の和に対する前記ジメチルカーボネート及び/又はジエチルカーボネートの体積の比が0.3〜0.6であり、
前記リン酸トリメチルが前記非水電解液の総重量に対して3〜5重量%含まれ、
前記ビニレンカーボネートが前記非水電解液の総重量に対して1.0〜10重量%含まれるリチウムイオン電池。
【請求項2】
前記非水電解液が、電解質として少なくともLiPFを含み、
その量が非水電解液中0.8〜2.0mol/lである請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項3】
前記エチレンカーボネート並びに前記ジメチルカーボネート及び/又はジエチルカーボネートの体積の和に対する前記ジメチルカーボネート及び/又はジエチルカーボネートの体積の比が0.4〜0.6である請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項4】
前記ビニレンカーボネートが前記非水電解液の総重量に対して1.0〜7.0重量%含まれる請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項5】
前記ビニレンカーボネートが前記非水電解液の総重量に対して2.0〜5.0重量%含まれる請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項6】
前記非水電解液が、非水溶媒としてさらにエチルメチルカーボネートを含む請求項1〜5のいずれかに記載のリチウムイオン電池。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のリチウムイオン電池を搭載した電池システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−4316(P2013−4316A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134504(P2011−134504)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【Fターム(参考)】