説明

リチウムイオン電池用の改善されたカソード組成物

【課題】リチウムイオン電池用のカソードとして有用な組成物を提供すること。
【解決手段】式Li[M1(1-x)Mnx]O2を有し、0<x<1であり、M1が1つ以上の金属元素を表すが、ただし、M1がクロム以外の金属元素である、リチウムイオン電池用カソード組成物。この組成物は、リチウムイオン電池に混入されかつ30mA/gの放電電流を用いて30℃および130mAh/gの最終容量で100回の全充電−放電サイクルにかけられる時にスピネル結晶構造に相転移しないO3結晶構造を有する単一相の形状である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用のカソードとして有用な組成物の作製に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は典型的には、アノード、電解質、およびリチウム−遷移金属酸化物の形でリチウムを含有するカソードを備える。用いられた遷移金属酸化物の例には、二酸化コバルト、二酸化ニッケル、および二酸化マンガンなどがある。しかしながら、これらの材料の何れも、充電−放電サイクルの反復後に高い初期容量、高い熱安定性および十分な容量の維持の最適な組合せを示さない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
一般に、本発明は、式Li[M1(1-x)Mnx]O2を有し、式中、0<x<1であり、M1が1つ以上の金属元素を表すが、ただし、M1はクロム以外の金属元素であるリチウムイオン電池用カソード組成物を特徴とする。この組成物は、リチウムイオン電池に混入されかつ30mA/gの放電電流を用いて30℃および130mAh/gの最終容量で100回の全充電−放電サイクルにかけられる時にスピネル結晶構造に相転移しないO3結晶構造を有する単一相の形状である。本発明はまた、アノードおよび電解質と組み合わせて、これらのカソード組成物を混入したリチウムイオン電池を特徴とする。
【0004】
1態様において、前式中、x=(2−y)/3であり、M1(1-x)が式Li(1-2y)/32yを有し、その際0<y<0.5(好ましくは、0.083<y<0.5、およびより好ましくは0.167<y<0.5)であり、M2が1つ以上の金属元素を表すが、ただし、M2はクロム以外の金属元素である。得られたカソード組成物は、式Li[Li(1-2y)/32yMn(2-y)/3]O2を有する。
【0005】
第2の態様において、前式中、x=(2−2y)/3であり、M1(1-x)が式Li(1-y)/33yを有し、その際0<y<0.5(好ましくは、0.083<y<0.5、およびより好ましくは0.167<y<0.5)であり、M3が1つ以上の金属元素を表すが、ただし、M3はクロム以外の金属元素である。得られたカソード組成物は、式Li[Li(1-y)/33yMn(2-2y)/3]O2を有する。
【0006】
第3の態様において、前式中、x=yであり、M1(1-x)が式M4y51-2yを有し、その際0<y<0.5(好ましくは、0.083<y<0.5、およびより好ましくは0.167<y<0.5)、M4がクロム以外の金属元素であり、M5がM4とは異なっているクロム以外の金属元素である。得られたカソード組成物は、式Li[M4y51-2yMny]O2を有する。本発明は、充電−放電サイクルの反復後の高い初期容量および十分な容量の保持を示す、カソード組成物、およびこれらの組成物を混入したリチウムイオン電池を提供する。更に、前記カソード組成物は、高温で酷使する間に相当な量の熱を発生せず、それによって電池の安全性を改善する。
【0007】
本発明の1つ以上の態様の詳細な内容を添付した図面に示し、以下で説明する。本発明の他の特徴、目的および利点は、説明および図面から、および特許請求の範囲から明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、様々な電極組成物を試験するために用いた電気化学電池の分解斜視図である。
【図2a−e】図2a〜図2eは、4.4V〜3.0Vでサイクルにかけられた実施例1および実施例3〜6に記載した試料についての電圧対容量および容量対サイクル数のプロットである。
【図3a−e】図3a〜図3eは、4.8V〜2.0Vでサイクルにかけられた実施例1および実施例3〜6に記載した試料についての電圧対容量および容量対サイクル数のプロットである。
【図4a−d】図4a〜図4dは、実施例3および実施例7〜9に記載した試料についてのX線回折図形である。
【図5a−d】図5a〜図5dは、実施例5および実施例10〜12に記載した試料についてのX線回折図形である。
【図6a−d】図6a〜図6dは、実施例6および実施例16〜18に記載した試料についてのX線回折図形である。
【図7a−d】図7a〜図7dは、4.4V〜3.0Vでサイクルにかけられた実施例6および実施例16〜18に記載した試料についての電圧対容量および容量対サイクル数のプロットである。
【図8a−d】図8a〜図8dは、4.8V〜2.0Vでサイクルにかけられた実施例6および実施例16〜18に記載した試料についての電圧対容量および容量対サイクル数のプロットである。
【図9a−b】図9a及び図9bは、実施例19および20に記載した試料についての電圧対容量のプロットである。
【図10】図10は、4.4V〜2.5Vでサイクルにかけられた実施例19に記載した試料についての容量対サイクル数のプロットである。
【図11】図11は、4.4V〜2.5Vでサイクルにかけられた実施例20に記載した試料についての容量対サイクル数のプロットである。
【図12】図12は、30℃および55℃の両方で4.4V〜3.0Vでサイクルにかけられた実施例1に記載した試料についての容量対サイクル数のプロットである。
【図13】図13は、2.5Vのカットオフまで30℃で測定された実施例1に記載した試料についての容量対放電電流密度のプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
カソード組成物は、上記の、発明の開示に示した式を有する。M1〜M5について、式自体、並びに特定の金属元素、およびそれらの組合せの選択は、本発明者らが発見した特定の基準がカソード性能を最大にするために有用であることを示す。第1に、カソード組成物は好ましくは、リチウム−酸素−金属−酸素−リチウムの配列に略配置された層を特徴とするO3結晶構造を採択する。この結晶構造は、カソード組成物が、リチウムイオン電池に混入されて30mA/gの放電電流を用いて30℃および130mAh/gの最終容量で100回の全充電−放電サイクルにかけられる時に維持され、これらの条件下でスピネルタイプ結晶構造に変化しない。更に、リチウム層の急速な拡散、従って電池の性能を最大にするために、リチウム層中の金属元素の存在を最小にするのが好ましい。金属元素の少なくとも1つが、電池に混入される電解質の電気化学的な期間内に酸化可能であることが更に好ましい。
【0010】
カソード組成物は、ジェット微粉砕によってあるいは金属元素の前駆物質(例えば、水酸化物、硝酸塩など)を配合し、その後、加熱してカソード組成物を生成することによって合成されてもよい。加熱は好ましくは、少なくとも約600℃、より好ましくは少なくとも800℃の温度の空気中で行われる。一般に、高温は、増大された結晶化度を有する材料につながるため、好ましい。空気中で加熱プロセスを行うことができるのは、不活性雰囲気を維持する必要およびそれに伴った経費を取り除くため、望ましい。したがって、特定の金属元素が、それらが所望の合成温度の空気中で適切な酸化状態を示すように選択される。逆に、合成温度が、特定の金属元素がその温度の空気中に所望の酸化状態で存在するように調節されてもよい。一般に、カソード組成物中に含有するための適切な金属元素の実施例には、Ni、Co、Fe、Cu、Li、Zn、V、およびそれらの組合せ、などがある。特に好ましいカソード組成物は、以下の式:
Li[Li(1-2y)/3NiyMn(2-y)/3]O2
Li[Li(1-y)/3CoyMn(2-2y)/3]O2、および
Li[NiyCo1-2yMny]O2
を有するカソード組成物である。
【0011】
カソード組成物が、アノードおよび電解質と組み合わせられ、リチウムイオン電池を形成する。適切なアノードの例には、リチウム金属、黒鉛の他、例えば、ターナー(Turner)の、「リチウム電池のための電極」(“Electrode for a Lithium Battery”)と題された米国特許第6,203,944号明細書、およびターナーの、「電極材料と組成物」(“Electrode Material and Compositions”)と題されたWO第00/03444号に記載されたタイプの、リチウム合金組成物、などがある。電解質は液体あるいは固体であってもよい。固体電解質の例には、ポリエチレンオキシド、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素含有コポリマー、およびそれらの組合せなどのポリマー電解質がある。
【0012】
液体電解質の例には、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、およびそれらの組合せなどがある。電解質は、リチウム電解質塩で提供される。適切な塩の例には、LiPF6、LiBF4、およびLiClO4などがある。本発明は、以下の実施例によって更に記載される。
【実施例】
【0013】
電気化学電池の作製
電極を以下のように作製した。約21重量%の活性カソード材料(下記のように作製した)、5.3重量%の「キナールフレックス」(Kynar Flex)2801(アトケム(Atochem)製のビニリデンフルオリド−ヘキサフルオロプロピレンコポリマー)、8.4重量%のジブチルフタレート、2.1重量%のスーパーSカーボンブラック(ベルギーのMMMカーボン(MMM Carbon)製)、および63.2重量%アセトンを、ジルコニアビード(直径8mm)が添加された混合ガラス瓶内で1〜2時間、機械的に振とうし、均一なスラリーを形成した。次に、スラリーを、ノッチ−バースプレッダを用いてガラスプレート上に薄い層(厚さ約150マイクロメータ)に広げた。アセトンを蒸発させた後、得られた膜をガラスから剥離し、直径1.3cmの円形電極を電極パンチを用いて膜から打ち抜き、その後、電極を約10分、ジエチルエーテルに浸漬し、ジブチルフタレートを除去し、電極に細孔を形成した。エーテルのすすぎ洗いを、2回繰り返した。次に、電極を一晩、90℃で乾燥させた。乾燥時間の終結時に、円形電極を秤量し、活性質量(円形電極の全重量を、活性カソード材料で構成された電極重量の率で乗じた値)を求めた。典型的には、電極は、74重量%の活性材料を含有した。次に、電極を、電気化学電池を構成するアルゴン充填グローブボックス中に入れた。
【0014】
電気化学電池10の分解斜視図を図1に示す。ステンレス鋼キャップ24および特殊耐酸化性ケース26が電池を含有し、それぞれ、負および正の端子の働きをする。カソード12は、上記したように作製した電極であった。アノード14は、125マイクロメータの厚さを有するリチウム箔であった。アノードはまた、参照電極として機能した。電池はスペーサープレート18(304ステンレス鋼)および円板ばね16(軟鋼)を備えた、2325コイン−電池ハードウェアを特徴とした。円板ばねは、電池が閉じられるまでクリンプされた時に約15バールの圧力が電池電極の各々に適用されるように、選択される。セパレータ20は、エチレンカーボネートおよびジエチルカーボネートの30:70容積比の混合物(三菱化学)中に溶解したLiPF6の1M溶液で湿潤された、セルガード(Celgard)#2502の微孔性ポリプロピレン膜(ヘキスト・セラニーズ(Hoechst−Celanese))であった。ガスケット27をシールとして用い、2つの端子を隔てた。
【0015】
元素分析
各試料の約0.02gを、50mLのガラスクラスA容積フラスコ中に微量天秤で(1μgまで)秤量した。次に、2mLの塩酸および1mLの硝酸を添加して塩を形成した。塩が溶解すると、溶液を50mLに脱イオン水で稀釈し、溶液を振とうして混合した。この溶液を更に10回、稀釈した。次に、5mLのアリコートをガラスクラスA容積ピペットで除去し、4%のHClおよび2%の硝酸でガラスクラスA容積フラスコ内で50mLに希釈した。
【0016】
稀釈溶液を、4%のHCl/2%のHNO3中で0、1、3、10、20ppmのCo、Ni、Mn、Li、およびNaの標準液を用いて「ジャレルアッシュ」(Jarrell−Ash)61E ICPで分析した。各元素の5ppmの標準液を用いてキャリブレーションの安定性をモニタした。すべての標準液を、認証原液からクラスA容積ガラス製品を用いて作製した。元素を分析する前に、ICPのインジェクター管を清浄にして、何れの堆積物をも除去した。すべての元素の較正曲線は、0.9999を超えるr2値を示した。分析結果を、重量パーセントの単位で測定した。次に、これらの値を原子百分率に変換し、次いで最後に、酸素含有量が2の化学量論に正規化された化学量論に変換した。
【0017】
実施例1〜6
実施例1は、0.1モルのLi[Li(1-2y)/3NiyMn(2-y)/3]O2、y=0.416、の合成について記載する。
【0018】
12.223gのNi(NO32・6H2O(アルドリッチケミカルカンパニー(Aldrich Chemical Co.))および13.307gのMn(NO32・4H2O(アルドリッチケミカルカンパニー)を、蒸留水30ml中に溶解し、遷移金属溶液を形成した。別個のビーカーに、LiOH・H2O(FMCコーポレーション(FMC
Corp.))を9.575g、蒸留水200ml中に溶解した。撹拌する間に、遷移金属溶液を、約3時間にわたって、水酸化リチウム溶液にビュレットを用いて滴下した。これは、Ni−Mn水酸化物の共沈および(溶解した)LiNO3の形成をもたらした。沈殿物を濾過によって回収し、真空濾過を用いて繰り返して洗浄した。次に、それを180℃に設定した箱形炉内に置いて乾燥させ、その後、それに、オートグラインダー内で4.445gのLiOH・H2Oを混合し、各々2gの重量の、多数のペレットにプレスした。
【0019】
ペレットを3時間、480℃の空気中で加熱し、その後に、それらを室温に急冷し、混ぜ合わせ、再び粉末に微粉砕した。新しいペレットをプレスし、3時間、900℃の空気中で加熱した。加熱工程の終結時に、ペレットを室温に急冷し、再び粉末に微粉砕してカソード材料をもたらした。
【0020】
カソード材料の元素分析は、組成物が以下の化学量論、すなわちLi[Li0.06Ni0.393Mn0.51]O2を有し、それは、Li[Li0.06Ni0.42Mn0.53]O2のターゲットの化学量論とほぼ一致していることを示した。実施例2〜6を同様に作製したが、ただし、反応体の相対的な量を調節して、y=0.083(実施例2)、0.166(実施例3)、0.25(実施例4)、0.333(実施例5)、および0.5(実施例6)である試料をもたらした。実施例5のカソード材料の元素分析は、組成物が以下の化学量論、すなわち、Li[Li0.13Ni0.314Mn0.55]O2を有し、それは、Li[Li0.11Ni0.33Mn0.56]O2のターゲットの化学量論とほぼ一致していることを示した。
【0021】
各試料の粉末X線回折図形を、銅ターゲットエックス線管および回折ビームモノクロメーターを備えた「シーメンス」(Siemens)D5000回折計を用いて集めた。データを、10度および130度の散乱角の間で集めた。
【0022】
(a)C.J.ハワード(C.J.Howard)およびR.J.ヒル(R.J.Hill)著、オーストラリア原子力委員会報告書No.M112(1986年)、および(b)D.B.ワイルズ(D.B.Wiles)およびR.A.ヤング(R.A.Young)著、J.Appl.Cryst.,14:149〜151(1981年)に記載されているように、各試料の結晶構造を、X線回折データに基づいて確定した。格子定数を、リートベルド(Rietveld)精製を用いて確定した。各試料の格子定数を第1表に記載する。各試料の結晶構造を、O3結晶構造タイプによって十分に記載することができる。電気化学電池を、実施例1および実施例3〜6の材料をカソードとして用いて上記した手順によって構成した。モリエネルギー社(Moli Energy Ltd.)(カナダ、B.C.、メープルリッジ)によって販売されているコンピュータ制御放電設備、および活性材料の10mA/gの電流を用いて30℃で、各電池を4.4V〜3.0Vで充電および放電した。図3は、各電池について電圧対容量および容量対サイクル数のプロットである。可逆および不可逆容量を確定し、第1表に記載する。各試料は、少なくとも15サイクルについてすぐれた可逆性およびすぐれた容量保持を示した。
【0023】
電気化学電池の第2のセットを、実施例1および実施例3〜6の材料を用いて構成し、上記したようにサイクルにかけたが、ただし、活性材料の5mA/gの電流を用いて電池を4.8V〜2.0Vで充電および放電した。図3は、各電池について電圧対容量および容量対サイクル数のプロットである。可逆および不可逆容量を確定し、第1表に記載する。各試料は十分に機能した。実施例3および4は大きな不可逆容量を示すが、依然として、200mAh/gについて安定した可逆容量を提供する。試料1、5および6が30mAh/gより小さい不可逆容量および200mAh/gより大きい可逆容量を示す。特に、実施例1は、約15mAh/gだけの不可逆容量および約230mAh/gの可逆容量を示す。
【0024】
【表1】

【0025】
「HTT」は熱処理の温度を指し、「a」および「c」が格子定数を示す。星印は、「試験しなかった」ことを意味する。別の電気化学電池を、実施例1の材料を用いて組み立て、30mA/gの電流を用いて3.0V〜4.4Vでサイクルにかけた。30℃で集められたサイクルもあるが、55℃で集められた他のサイクルもある。結果を図12に記載する。材料の容量は、長時間のサイクル後の55℃でも維持され、材料が長時間のサイクル後に相分離を示さなかったことを示した。
【0026】
別の電気化学電池を、実施例1の材料を用いて組み立て、材料の速度能力を試験するために用いた。データを、2.0Vのカットオフまで30℃で集めた。結果を図13に示す。結果は、材料の容量が400mAもの放電電流まで維持されたことを示す。
【0027】
実施例7〜9
実施例7〜9を、実施例1〜6に記載した手順によって作製したが(y=0.166)、ただし、試料を、900℃ではなく、600℃(実施例7)、700℃(実施例8)、および800℃(実施例9)で加熱した。各試料のX線回折パターンを集め、900℃で作製した実施例3のX線回折図形とともに図3に示す。格子定数もまた確定し、実施例3のデータとともに、第2表に示す。データは、加熱温度が増大するとき、回折図形のピーク幅が、より狭くなることを示し、結晶化度の増大を示す。全てのピークを、O3結晶構造に基づいて理解することができる。
【0028】
【表2】

【0029】
「HTT」は、熱処理の温度を示し、「a」および「c」は格子定数を表す。
【0030】
実施例10〜12
実施例10〜12を、実施例1〜6に記載した手順によって作製したが(y = 0.333)、ただし、試料を、900℃ではなく、600℃(実施例10)、700℃(実施例11)、および800℃(実施例12)で加熱した。各試料のX線回折パターンを集め、900℃で作製した実施例5のX線回折図形とともに図4に示す。格子定数もまた確定し、実施例5のためのデータとともに第3表に示す。データは、加熱温度が増大するとき、回折図形のピーク幅が、より狭くなることを示し、結晶化度の増大を示す。全てのピークを、O3結晶構造に基づいて理解することができる。
【0031】
電気化学電池を、実施例10および12の材料をカソードとして用いて構成し、上記したようにサイクルにかけた。可逆および不可逆容量もまた、実施例5のデータとともに第3表に記載する。すべての試料が十分に機能した。
【0032】
【表3】

【0033】
「HTT」は、熱処理の温度を指し、「a」および「c」は格子定数を表す。星印は、「試験しなかった」ことを意味する。
【0034】
実施例13〜15
実施例13〜15を、実施例1〜6に記載した手順によって作製したが(y=0.416)、ただし、試料を、900℃ではなく、600℃(実施例13)、700℃(実施例14)、および800℃(実施例15)で加熱した。格子定数もまた各試料について確定し、実施例1のデータとともに(y=0.416、900℃)第4表に示す。これらの試料はまた、O3結晶構造を示した。
【0035】
【表4】

【0036】
「HTT」は、熱処理の温度を指し、「a」および「c」は格子定数を表す。
【0037】
実施例16〜18
実施例16〜18を、実施例1〜6に記載した手順によって作製したが(y=0.5)、ただし、試料を、900℃ではなく、600℃(実施例16)、700℃(実施例17)、および800℃(実施例18)で加熱した。各試料のX線回折パターンを集め、900℃で作製した実施例6のX線回折図形とともに図6に示す。格子定数もまた確定し、実施例6のデータとともに、第5表に示す。データは、加熱温度が増大するとき、回折図形のピーク幅が、より狭くなることを示し、結晶化度の増大を示す。全てのピークを、O3結晶構造に基づいて理解することができる。
【0038】
電気化学電池を、実施例16〜18の材料をカソードとして用いて構成し、上に記載したようにサイクルにかけた。可逆および不可逆容量はまた、実施例6のデータとともに第5表に記載する。更に、図7は、4.4V〜3.0Vでサイクルにかけられる時の、各電池の、並びに実施例6を用いて構成された電池の電圧対容量および容量対サイクル数を記載する。図8は、4.8V〜2.0Vでサイクルにかけられる時の、各電池の、並びに実施例6を用いて構成された電池の電圧対容量および容量対サイクル数を記載する。すべての試料が十分に機能し、より高温で作製された試料が最も良い容量の保持および最も低い不可逆容量を示した。
【0039】
【表5】

【0040】
「HTT」は熱処理の温度を示し、「a」および「c」は格子定数を表す。
【0041】
実施例19〜20
実施例19は、0.1モルのLi[NiyCo1-2yMny]O2、y=0.375、の調製について記載する。実施例1〜6に記載した手順に従ったが、ただし、以下の反応体、すなわち、Ni(NO32・6H2Oを10.918g、Mn(NO32・4H2Oを9.420gおよびCo(NO32・6H2Oを7.280g、を用いた。更に、乾燥した遷移金属水酸化物を、4.195gのLiOH・H2Oと混合した。格子定数を測定し、確定すると、a=2.870Åおよびc=14.263Åであった。材料の元素分析は、組成物が以下の化学量論、すなわち Li1.04[Ni0.368Co0.263Mn0.38]O2、を有することを明らかにしたが、それは、Li[Ni0.375Co0.25Mn0.375]O2のターゲット化学量論とほぼ一致している。
【0042】
実施例20を同様に作製したが、ただし、成分の相対量を、y=0.25となるように調節した。格子定数を測定し、確定すると、a=2.8508およびc=14.206Aであった。材料の元素分析は、組成物が以下の化学量論: Li1.03[Ni0.243Co0.517Mn0.25]O2を有することを明らかにしたが、それは、Li[Ni0.25Co0.5Mn0.25]O2のターゲット化学量論とほぼ一致している。
【0043】
電気化学電池を、実施例19〜20の材料をカソードとして用いて構成し、上に記載したようにサイクルにかけた。図9は、2.5V〜4.8Vでサイクルにかけられる時の、各電池についての電圧対容量を記載する。両方の試料が、十分に機能した。電気化学電池の第2のセットを、実施例19〜20の材料を用いて構成し、40mA/gの電流を用いて2.5V〜4.4Vで上に記載したようにサイクルにかけた。結果を図10および図11に示す。実施例19の場合(図10)、データを30℃および55℃の両方で集めたのに対して、実施例20の場合(図11)、データを30℃だけで集めた。両方の試料が、十分に機能した。
【0044】
実施例19のカソード材料を更に、示差走査熱量測定(DSC)を用いて分析した。試料電池は、長さ8.8mm片に切り分けられた、0.015mmの壁厚を有する外径3.14mmのタイプ304ステンレス鋼継目なし管(マサチューセッツ州、メドウェイ(Medway、MA)のミクログループ(MicroGroup))であった。電池を清浄にし、その後に一方の端部を扁平にした。次に、扁平にされた端部を、スナップスタートII高周波ARCスタータを備えたミラーマックススター(Miller Maxstar)91ARCウェルダーを用いてティグ溶接(tungsten inert gas
welding)によって、閉じるまで溶接した。
【0045】
扁平にされた端部がシールされると、管を、上記した手順を用いて4.2Vまで充電された2325コイン電池からとられた実施例19のカソード材料2mgを有する、アルゴン充填グローブボックス内に装填した。電解質をカソード試料から除去しなかった。試料を装填した後、管をクリンプし、閉じるまで溶接した。
【0046】
DSC測定を、TAインストルメント DSC 910計測器を用いて行った。DSC掃引速度は、2℃/分であった。開始温度および発生させられた総熱量の両方を記載した。開始温度は、最初の主発熱ピークが生じる温度に相当する。結果を第6表に示す。比較のために、LiNiO2およびLiCoO2を用いて作製したカソードからのデータが、同様に含まれる。結果は、実施例19の材料を用いて作製したカソードが、より高い開始温度を示し、LiNiO2およびLiCoO2を用いて作製されたカソードより少ない熱を発生させたことを示す。
【0047】
【表6】

【0048】
本発明の多数の実施態様を記載した。それにもかかわらず、本発明の精神および範囲から外れることなく、様々な改良を行うことができることは理解されよう。したがって、他の実施態様が、特許請求の範囲の範囲内にある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Li[M1(1-x)Mnx]O2を有し、式中、0<x<1であり、M1が1つ以上の金属元素を表すが、ただし、M1がクロム以外の金属元素であるリチウムイオン電池用カソード組成物であって、
リチウムイオン電池に混入されかつ30mA/gの放電電流を用いて30℃および130mAh/gの最終容量で100回の全充電−放電サイクルにかけられる時にスピネル結晶構造に相転移しないO3結晶構造を有する単一相の形状であることを特徴とする、カソード組成物。
【請求項2】
1が、Ni、Co、Fe、Cu、Li、Zn、V、およびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載のカソード組成物。
【請求項3】
前式中、x=(2−y)/3であり、M1(1-x)が式Li(1-2y)/32yを有し、その際0<y<0.5であり、およびM2が1つ以上の金属元素を表すが、ただし、M2がクロム以外の金属元素である、式Li[Li(1-2y)/32yMn(2-y)/3]O2により表わされる、請求項1に記載のカソード組成物。
【請求項4】
前式中、x=(2−2y)/3であり、M1(1-x)が式Li(1-y)/33yを有し、その際0<y<0.5であり、およびM3が1つ以上の金属元素を表すが、ただし、M3がクロム以外の金属元素である、式Li[Li(1-y)/33yMn(2-2y)/3]O2により表わされる、請求項1に記載のカソード組成物。
【請求項5】
前式中、x=yであり、M1(1-x)が式M4y51-2yを有し、その際0<y<0.5であり、M4がクロム以外の金属元素であり、M5がM4とは異なるクロム以外の金属元素である、式Li[M4y51-2yMny]O2により表わされる、請求項1に記載のカソード組成物。
【請求項6】
前式中、0.083<y<0.5である、請求項3、4、または5に記載のカソード組成物。
【請求項7】
前式中、0.167<y<0.5である、請求項3、4、または5に記載のカソード組成物。
【請求項8】
前式中、M2がNiである、請求項3に記載のカソード組成物。
【請求項9】
前式中、M3がCoである、請求項4に記載のカソード組成物。
【請求項10】
前式中、M4がNiであり、M5がCoである、請求項5に記載のカソード組成物。
【請求項11】
(a)アノード、
(b)請求項1に記載の組成物を含むカソード、および
(c)前記アノードと前記カソードとを隔てる電解質、
を含むリチウムイオン電池。

【図1】
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【図2a−e】
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【図3a−e】
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【図4a−d】
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【図5a−d】
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【図6a−d】
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【図7a−d】
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【図8a−d】
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【図9a−b】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−187959(P2009−187959A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−113068(P2009−113068)
【出願日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【分割の表示】特願2002−586424(P2002−586424)の分割
【原出願日】平成14年3月11日(2002.3.11)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】