説明

リチウムイオン電池用外装材

【課題】アルミニウム箔を利用したラミネートフィルムタイプの外装材を冷間成型して凹部を形成する際に、シーラント層と接着樹脂層で、白化が発生せず、電池の内容物耐性(耐電解液性や耐フッ酸性)があるリチウムイオン電池用外装材を提供する。
【解決手段】基材層11の一方の面に対し、少なくとも、接着剤層12、アルミニウム箔層13、アルミニウム保護層14、接着樹脂層15、シーラント層16をこの順番で積層したリチウムイオン電池用外装材である。上記シーラント層16には、平均粒径200nm以下の微粒子からなるエラストマーが添加されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用外装材に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、ノート型パソコンなどの携帯端末装置、ビデオカメラ、衛星、電気自動車などに用いられる電池として、超薄型化、小型化が可能なリチウムイオン電池が盛んに開発されている。リチウムイオン電池の外装材には、金属板などをプレス成形し、円柱状もしくは直方体状などの形状に加工した金属製の缶タイプのものと、アルミニウム箔を利用したラミネートフィルム(例えば耐熱性基材層/アルミニウム箔層/接着樹脂層/シーラント層のような構成)タイプのものの2種類がある。
【0003】
電池の外装材に金属製の缶を用いた場合には、電池自体の形状に制約が多くなる。これに対し、アルミニウム箔を利用したラミネートフィルムタイプの外装材は形状を自由に選択でき、更に軽量化が図れる点で注目を集めている。
アルミニウム箔を利用したラミネートフィルムタイプの外装材は、アルミニウム箔層とシーラント層間の接着樹脂層が熱硬化性材料であるドライラミネート用接着樹脂層からなるドライラミネート構成と、アルミニウム箔層とシーラント層間の接着樹脂層が熱可塑性材料からなる熱ラミネート構成との2種類に大きく分類される。一般的にドライラミネート構成品は、成型性が求められるポータブル機器などの民生用途に使用され、一方、熱ラミネート構成品は、信頼性や安全性が求められる電気自動車、衛星、潜水艦、電動自転車などの大型用途に使用される。
【0004】
アルミニウム箔を利用したラミネートフィルムタイプの外装材は、正極、セパレーター、負極、電解液及びタブなどの内容物を収納するために、外装材を冷間成型して凹部を形成する。しかしながら、凹部にエンボス成型されたラミネートフィルムは、金型での冷間成型時に、リチウムイオン電池用外装材各層の延伸性の差や、加熱および冷却工程でのフィルムの結晶化状態により、アルミニウム箔と接着樹脂層間が剥離したり、シーラント層と接着樹脂層で、クラックにより破断や白化を生じたりすることがある。一般的にドライラミネート構成よりも熱ラミネート構成の方がラミネートフィルム製造時にかかる熱量が大きいため、シーラント層や接着樹脂層などが結晶化しやすく、凹部冷間成型時に延伸率の高い部位である辺や角にクラックによる破断や白化が起こりやすい。そのため、熱ラミネート構成でもドライラミネート構成と同様に、エンボス成型時にクラックによる破断や白化がないように成型性や耐衝撃性を持たせることが必要となってきている。またリチウムイオン電池用外装材に使用しているシーラント層や接着樹脂層は一般的に押出成型により製膜させるため、押出成型時に発生する応力などによりフィルムの流れ方向であるMD方向(機械方向)に配向しやすい。そのため、シーラント層や接着樹脂層の分子配向により、伸び率や応力などがMD方向(機械方向)とTD方向(機械方向に対し垂直方向)とで異なる特性をとるため、凹部冷間成型時にクラックによる破断や白化に異方性が発生しやすい傾向にある。特に白化の点ではシーラント層の異方性により冷間成型時の白化部分が凹部4辺のうちMD方向2辺、もしくはTD方向2辺に集中して発生していた。
【0005】
またリチウムイオン電池は、電池内容物として正極材、負極材、正極材と負極材の短絡を防止するセパレーターと共に、炭酸プロピレン、炭酸エチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチルなどの浸透力を有する非プロトン性の溶媒に、電解質(リチウム塩)を溶解した電解液、もしくは該電解液を含浸させたポリマーゲルからなる電解質層を含んでいる。このような浸透力を有する溶媒がリチウムイオン電池用外装材のシーラントとなる熱融着性フィルム層を通過すると、アルミニウム箔層と熱融着性フィルムとの間のラミネート強度が低下し、最終的には電解液が漏れ出すといった問題がある。
【0006】
また、電解質であるリチウム塩としてはLiPF6、LiBF4などの塩が用いられるが、これらの塩は水分との加水分解反応によりフッ酸を発生するので、金属面の腐食や多層フィルムの各層間のラミネート強度の低下を引き起こす問題がある。そのため、リチウムイオン電池用外装材にはアルミニウム箔にフッ酸による腐食を防止する機能、アルミニウム箔層と耐熱性基材層もしくはアルミニウム箔層と熱融着性フィルム層との層間密着強度を強める機能を付与し、内容物耐性(耐電解液性や耐フッ酸性)を持たせることが必要である。
【0007】
このようにリチウムイオン電池は凹部を冷間成型して使用することが多いという観点から、リチウムイオン電池用包装材の各物性は異方性が小さく、電池の内容物耐性(耐電解液性や耐フッ酸性)があることが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3567239号公報
【特許文献2】特開2003−272571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1には、張り出し成形、深絞り成形などの加工性が優れてシャープな形状の成形が可能であり、強度的にも優れており、腐食性の電解液などにも侵されることのない電池ケース用包材及びそれを使用した小型であり、体積エネルギー密度が高い畜電池のための電池ケースの開発を目的としている。少なくともアルミニウム箔の片面に、厚さ9〜50μmの引張試験(試料幅15mm、標点間距離50mm、引張速度100mm/min)における4方向(0°、45°、90°及び135°)の破断までの引張強さが150N/mm2以上であり、かつ4方向の伸びが80%以上である機械的性質の方向性の少ない延伸ポリアミドフィルムまたはポリエステルフィルムをラミネートすると共に、他の面に少なくとも厚さ9〜50ミクロンのポリプロピレン、マレイン酸変性ポリプロピレン、エチレン−アクリレート共重合体またはアイオノマー樹脂のフィルムを最も外側にラミネートした、包材総厚が150ミクロン以下としている。この特許では機械的性質の方向性の少ない延伸ポリアミドフィルムまたはポリエステルフィルムを採用することで、体積エネルギー密度の高い電池ケースが提供できることが記載されている。
【0010】
特許文献2には、電池本体の安定した保護物性とともに、白化やクラックの発生のない生産性のよい製造方法を提供する電池包装に用いる材料が記載されている。電池本体を挿入し周縁部をヒートシールにより密封する電池の包装において、外装体を形成する包装材料が、少なくとも基材層、接着層、第1の化成処理層、アルミニウム、第2の化成処理層、シーラント部から構成される積層体とし、少なくともシーラント部が接着樹脂層とエチレンの含有量が3から10%のポリプロピレン系樹脂層との共押出しにより形成し、第2の化成処理層側を接着樹脂層としている。このように、ポリプロピレン系樹脂層にエチレンを含有させることで結晶化が阻害されシーラント部の柔軟性が増し、白化しにくいと考えられるが、シーラント層や接着樹脂層自体の分子配向がフィルム内に残っているため、エンボス成型時に延伸方向や伸び率によっては、クラックによる白化が発生する可能性がある。
【0011】
本発明は、上述のような点に鑑みてなされたもので、アルミニウム箔を利用したラミネートフィルムタイプの外装材を冷間成型して凹部を形成する際に、シーラント層と接着樹脂層で、白化が発生せず、電池の内容物耐性(耐電解液性や耐フッ酸性)があるリチウムイオン電池用外装材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題解決するための手段として、本発明のうち請求項1に記載の発明は、基材層の一方の面に対し、少なくとも、接着剤層、アルミニウム箔層、アルミニウム保護層、接着樹脂層、シーラント層をこの順番で積層したリチウムイオン電池用外装材において、
上記シーラント層には、平均粒径200nm以下の微粒子からなるエラストマーが添加されていることを特徴とするものである。
【0013】
次に、請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した構成に対し、上記エラストマーとして、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマーの少なくとも一方を含むことを特徴とするものである。
次に、請求項3に記載した発明は、請求項1又は請求項2に記載した構成に対し、 上記シーラント層は、ポリオレフィン樹脂からなることを特徴とするものである。
【0014】
次に、請求項4に記載した発明は、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載した構成に対し、上記シーラント層は、ランダムポリプロピレン、ホモポリプロピレン、ブロックポリプロピレンのうち少なくとも1種類以上を使用した、単層もしくは多層構造からなることを特徴とするものである。
次に、請求項5に記載した発明は、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載した構成に対し、上記シーラント層は多層構造であり、上記エラストマーの添加は、多層のシーラント層の少なくとも1層に添加されていることを特徴とするものである。
【0015】
次に、請求項6に記載した発明は、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載下構成に対し、上記シーラント層は、0.5質量%以下の滑剤を含むことを特徴とするものである。
次に、請求項7に記載した発明は、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載した構成に対し、上記接着樹脂層は、酸変性ポリオレフィン樹脂に平均粒径200nm以下の微粒子からなるエラストマーを含んで構成されることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、アルミニウム箔を利用したラミネートフィルムタイプの外装材を冷間成型して凹部を形成する際に、シーラント層と接着樹脂層で、クラックにより破断や白化が発生せず、電池の内容物耐性(耐電解液性や耐フッ酸性)がある電池用外装材を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のリチウムイオン電池用外装材の実施形態の一例を示した断面図である。
【図2】本発明のリチウムイオン電池用外装材の実施形態の他の例を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るリチウムイオン電池用外装材の実施形態の一例を示して詳細に説明する。
本実施形態の第1のリチウムイオン電池用外装材10は、図1に示すように、基材層11の一方の面に、接着剤層12、アルミニウム箔層13、アルミニウム保護層14、接着樹脂層15、シーラント層16がこの順番に積層して構成されている。
【0019】
また、本実施形態の第2のリチウムイオン電池用外装材20は、図2に示すように、基材層11の一方の面に、接着剤層12、アルミニウム保護層14、アルミニウム箔層13、アルミニウム保護層14、接着樹脂層15、シーラント層16がこの順番に積層している。
【0020】
(基材層)
上記基材層11は、リチウムイオン電池を製造する際のシール工程における耐熱性を付与し、加工や流通の際に起こりうるピンホールの発生を抑制する役割を果たす。
【0021】
基材層11としては、絶縁性を有する樹脂層が好ましい。該樹脂層としては、例えば、ポリエステルフィルム、ポリアミドフィルム、ポリプロピレンフィルムなどの延伸または未延伸フィルムが挙げられる。なかでも、成形性、耐熱性、耐ピンホール性、絶縁性を向上させる点から、延伸ポリアミドフィルムや延伸ポリエステルフィルムが好ましい。
基材層11は、単層であってもよく、複数層の積層構造であってもよい。
【0022】
基材層11は、難燃剤、滑剤、アンチブロッキング剤、酸化防止剤、光安定剤、粘着付与剤などの添加剤が配合されていてもよい。
滑剤としては、脂肪酸アミド(たとえば、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘニン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミドなど。)等が挙げられる。アンチブロッキング剤としては、シリカなどの各種フィラー系のアンチブロッキング剤が好ましい。添加剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用しても良い。基材層11の厚さは、6μm以上40μm以下が好ましく、10μm以上25μm以下がより好ましい。基材層11の厚さが6μm以上であれば、耐ピンホール性、絶縁性が向上する。また基材層の厚さが40μm以下であれば、成形性が向上する。上記厚さは、基材層11が多層フィルムである場合、その全体の厚さである。
【0023】
(接着剤層)
接着剤層12は、基材層11とアルミニウム箔層13とを接着する層である。接着剤層12を構成する接着剤としては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリルポリオールなどのポリオールを主剤とし、芳香族系や脂肪族系のイソシアネートを硬化剤とした2液硬化型のポリウレタン系接着剤が好ましい。該接着剤は塗工後に40℃以上の熱で4日以上のエージング処理を行うことで、主剤のポリオールのOH基と、硬化剤のイソシアネートのNCO基が反応し、基材層11とアルミニウム箔層13が強固に接着する。主剤のOH基に対する硬化剤のNCO基のモル比(NCO/OH)は、1以上10以下が好ましく、2以上5以下がより好ましい。
【0024】
接着剤層12の厚さは、1μm以上10μm以下が好ましく、3μm以上7μm以下がより好ましい。
【0025】
(アルミニウム箔層)
アルミニウム箔層13としては、一般のアルミニウム箔を用いることができる。さらに耐ピンホール性、及び成形時の延展性を付与できる点から、鉄を含むアルミニウム箔を用いることが好ましい。さらに成形時の延展性を付与できる点から焼鈍処理を施された、軟質アルミニウム箔が好ましい。アルミニウム箔100質量%の鉄の含有量は、0.1質量%以上9.0質量%以下が好ましく、0.5質量%以上2.0質量%以下がより好ましい。鉄の含有量が0.1質量%以上であれば耐ピンホール性、延展性が向上する。鉄の含有量が9.0質量%以下であれば、柔軟性が向上する。
【0026】
アルミニウム箔層13の厚さは、バリア性、耐ピンホール性、加工性の点から9μm以上200μm以下が好ましく、15μm以上100μm以下がより好ましい。
従って、アルミニウム箔層13は、厚さ15μm以上150μm以下の焼鈍処理された軟質アルミニウム箔からなることが好ましく、JIS規格では8021材や8079材が好ましい。
【0027】
アルミニウム箔層13は、耐電解液性の点から、脱脂処理を施したアルミニウム箔を用いることが好ましい。また、脱脂処理により、表面をエッチングしたアルミニウム箔を用いても良いが、製造工程の簡便化の観点から、表面をエッチングしていないアルミニウム箔を用いるのが好ましい。
脱脂処理としては、大きく区分するとウェットタイプとドライタイプに分けられ、製造工程の簡便化の点から、ドライタイプが好ましい。
【0028】
ドライタイプの脱脂処理としては、例えば、アルミニウムを焼鈍処理する工程において、その処理時間を長くすることで脱脂処理を行う方法が挙げられる。また該脱脂処理のほかにも、フレーム処理やコロナ処理などが挙げられる。さらには特定波長の紫外線を照射して発生する活性酸素により、汚染物質を酸化分解・除去する脱脂処理も挙げられる。
【0029】
ウェットタイプの脱脂処理としては、例えば、酸脱脂やアルカリ脱脂などが挙げられる。酸脱脂に使用する酸としては、例えば、硫酸、硝酸、塩酸、フッ酸などの無機酸が挙げられる。これらの酸は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。アルカリ脱脂に使用するアルカリとしては、例えば、エッチング効果が高いものとして水酸化ナトリウムなどが挙げられる。また、弱アルカリ系や界面活性剤を配合したものが挙げられる。ウェットタイプの脱脂処理は浸漬法やスプレー法で行われる。
【0030】
本実施形態においては、前述したウェットタイプの脱脂処理や、エッチングレベルまでの処理を施さなくても、ドライタイプの脱脂処理で充分な耐電解液性が得られる処理を行っている。すなわち、アルミニウムを軟質化するために施される焼鈍処理の際に、同時に行われる脱脂処理程度でも充分な耐電解液性が得られる。
【0031】
(アルミニウム保護層)
アルミニウム保護層14は、アルミニウム箔層13と接着樹脂層15とを強固に密着させると共に、アルミニウム箔層13を、電解液や電解液から発生するフッ酸から保護する役割を果たす。
【0032】
アルミニウム保護層14としては、耐薬品性を向上させることおよび接着樹脂層などとの密着性を改善する目的で、リン酸クロメート処理、塗布型クロメート処理等のクロム系化成処理、あるいは、ジルコニウム、チタン等のノンクロメート系化成処理等を行うことが出来る。さらに樹脂フィルムとのラミネート接着性能を向上させる目的で、シランカップリング剤、チタンカップリング剤等のアンダーコート、あるいはコロナ放電処理等の前処理を行ってもよい。
【0033】
なお、アルミニウム保護層はアルミニウム箔層13と接着樹脂層15との間の片面だけの処理でも、アルミニウム箔層13と接着樹脂層15との間、アルミニウム箔層13と接着剤層12との間の両面に処理しても構わない。アルミニウム保護層14は電解液に接するシーラント側は必須であるが、基材層側も電池が複数スタックされて使用する場合などで、ひとつのセルから電解液が漏れ出した場合は他のセルに電解液が付着し、基材層側からの腐食も起こる可能性がある。このため、基材層側も処理しておくことは有効である。また基材層側のアルミニウム箔上に処理しておくことによって、アルミニウム箔層13と接着剤層12との密着をより強固なものにする効果もある。
【0034】
(接着樹脂層)
接着樹脂層15は、シーラント層16と、アルミニウム保護層14が形成されたアルミニウム箔層13とを接着する層である。接着樹脂層15を構成する樹脂としては、ポリオレフィン樹脂を酸でグラフト変性させた酸変性ポリオレフィン系樹脂が好ましい。ポリオレフィン樹脂としては、例えば、低密度、中密度、高密度のポリエチレン;エチレン−αオレフィン共重合体;ホモ、ブロック、またはランダムポリプロピレン;プロピレン−αオレフィン共重合体などが挙げられる。該ポリオレフィン樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。グラフト変性する酸としては、カルボン酸、エポキシ化合物、酸無水物などが挙げられ、無水マレイン酸が好ましい。
【0035】
したがって、接着樹脂層15としては、ポリオレフィン樹脂を無水マレイン酸でグラフト変性させた、無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂が好ましい。
接着樹脂層は一般的に押出成型により製膜させるため、押出成型時に発生する応力などによりフィルムの流れ方向であるMD方向(機械方向)に配向しやすい。そのため、その異方性を緩和するために適宜エラストマーを添加する。
【0036】
接着樹脂層に添加するエラストマーは、オレフィン系エラストマーもしくはスチレン系エラストマーが挙げられる。オレフィン系エラストマーとスチレン系エラストマーは1種類を単独で使用しても良く、2種類以上を混合して使用してもよい。配合するエラストマーの粒径は各種樹脂との相溶性、各種樹脂の異方性の緩和を考慮した場合、微粒子の状態で分散させることで樹脂との相溶性も向上し、異方性もより緩和する方向に働くため、平均粒径が200nm以下のものを添加する。
【0037】
エラストマーの配合量としては1質量%以上25質量%以下の範囲が好ましく、より好ましくは10質量%以上20質量%以下の範囲がよりこのましい。エラストマー配合量が1質量%未満の場合は各種樹脂との相溶性の向上、各種樹脂の異方性の緩和といった本発明の目的を達成することができない。また25質量%を越えると電池の内容物である電解液に対して膨潤しやすくなり、内容物耐性を満たすことが出来なくなる。
【0038】
また接着樹脂層15は、上記樹脂を有機溶媒に分散させたディスパージョンタイプの接着樹脂液を用いて形成することもできる。接着樹脂層15の厚さは1μm以上40μm以下が好ましく、5μm以上20μm以下がより好ましい。
【0039】
(シーラント層)
シーラント層16はリチウムイオン電池用外装材10の内層となり、また、電池組み立て時には、内層同士を熱溶着するため、熱溶着性のフィルムからなる層である。
【0040】
シーラント層16を構成する成分としては、ポリオレフィン樹脂または、ポリオレフィン樹脂に無水マレイン酸などをグラフト変成させた酸変成ポリオレフィン樹脂が挙げられる。ポリオレフィン樹脂としては、接着樹脂層の説明において先に例示した各種ポリオレフィン樹脂の中から、1種以上を選択して使用してもよい。また、シーラント層16は単層フィルムであっても、複数の層を積層させた積層構造からなる多層フィルムであってもよい。
【0041】
発明者らは、アルミニウム箔を利用したラミネートフィルムタイプの外装材を冷間成型して凹部を形成する際に、シーラント層の異方性により、白化する方向に特徴があることを見出した。シーラント層は主に押出しにより製膜されており、機械的には延伸していないが、押出し方向に配向傾向があり、その方向に垂直な方向に延伸すると白化が発生しやすい傾向にある。そこでシーラント層の配向による異方性を緩和するために、エラストマーを添加する。
【0042】
シーラント層16は単層でも多層でも良い為、添加するエラストマーも適宜添加する層を選択できる。例えば、シーラント層16がランダムポリプロピレン、ブロックポリプロピレン、ランダムポリプロピレンの3層構成の場合は、ブロックポリプロピレンのみに添加、ランダムポリプロピレンのみに添加、ランダムポリプロピレンとブロックポリプロピレンの両方に添加する方法がある。
【0043】
添加するエラストマーは、接着樹脂層と同様にオレフィン系エラストマーもしくはスチレン系エラストマーが挙げられる。オレフィン系エラストマーとスチレン系エラストマーは1種類を単独で使用しても良く、2種類以上を混合して使用してもよい。配合するエラストマーの粒径は各種樹脂との相溶性、各種樹脂の異方性の緩和を考慮し、微粒子の状態で分散させることで樹脂との相溶性も向上し、異方性もより緩和する方向に働くため、平均粒径が200nm以下のものを添加する。
【0044】
平均粒径が200nmより大きい場合は樹脂との相溶性が低下するとともに、本発明の目的である異方性を緩和する効果が低下する。
エラストマーの配合量としては、1質量%以上25質量%以下の範囲が好ましく、より好ましくは10質量%以上20質量%以下の範囲がよりこのましい。エラストマー配合量が1質量%未満の場合は、各種樹脂との相溶性の向上、各種樹脂の異方性の緩和といった本発明の目的を達成することができない。また25質量%を越えると、電池の内容物である電解液に対して膨潤しやすくなり、内容物耐性を満たすことが出来なくなる。
【0045】
さらに、シーラント層16は滑り性を付与するために滑材を添加してもよい。本実施形態の外装材は冷間成型により凹部を形成するため、アルミニウム箔と接着樹脂層間が剥離したり、シーラント層と接着樹脂層で、クラックにより破断や白化を生じたりすることの恐れがある。このため、それを防止する為の工夫が必要である。また凹部の深さについても、より深絞りが出来るものが要求される傾向にある。
【0046】
そのひとつの解決手段として、滑材をシーラント層に含有させる方法がある。滑材をシーラント層に含有させると冷間成型時にある程度の滑り性を有し、ラミネートフィルムの延伸率の高い部位である辺や角が必要以上に延伸されることを防止でき、クラックや白化を防止することが出来る。滑材の添加量については0.5質量%以下が好ましい。0.5質量%を越えて添加する場合はブリード量が必要以上に多くなり、ラミネートフィルム表面以外の他の層とのラミネート面にもブリードするため、密着強度の低下が懸念される
シーラント層16の厚さは、10μm以上100μm以下が好ましく、20μm以上50μm以下がより好ましい。
【0047】
<リチウムイオン電池用外装材の製造方法>
次に、図1に示す本実施形態のリチウムイオン電池用外装材1の製造方法について記載する。但し、本発明はこれに限定されない。
【0048】
(アルミニウム箔層へのアルミニウム保護層の積層工程)
塗布型クロメート処理液をアルミニウム箔層13へ塗工し、乾燥・硬化・焼き付けを行い、アルミニウム保護層14を形成させる。なお、上述したようにアルミニウム保護層はシーラント層側のみの形成でも、シーラント層側と基材層側の両面に形成しても構わない。
【0049】
塗工方法としては、公知の方法が用いられるが、例えば、グラビアコーター、グラビアリバースコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、ダイコーター、バーコーター、キスコーター、コンマコーターなどが挙げられる。
なお、アルミニウム箔層13は、未処理のアルミニウム箔を用いても充分機能を満足することが出来るが、ウェットタイプまたはドライタイプにて脱脂もしくはエッチング処理を施したアルミニウム箔を用いてもよい。
【0050】
(基材層とアルミニウム箔層の貼合わせ工程)
アルミニウム保護層14を積層したアルミニウム箔層13と、基材層11とを貼り合わせる。貼り合わせの方法としては、ドライラミネーション、ノンソルベントラミネーション、ウェットラミネーションなどの手法を用い、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリルポリオールを主剤としたポリウレタン系接着剤にて両者を貼り合わせ、積層体を作成する。
【0051】
(シーラント層の積層工程)
上記積層体上にシーラント層16を積層する。積層の方法としては、ドライプロセスとウェットプロセスが挙げられる。
【0052】
ドライプロセスの場合は、上記積層体のアルミニウム保護層14上に接着樹脂を押出ラミネートし、さらにインフレーション法またはキャスト法により得られるシーラント層16を積層して、リチウムイオン電池用外装材10を製造する。なお、アルミニウム保護層14は、この押出ラミネーションの際にインラインで設けてもよい。その後、コーティング組成物と接着樹脂との密着性を向上させる目的で、熱処理(エージング処理や熱ラミネーションなど)を施すことも可能である。
【0053】
また、インフレーション法またはキャスト法にて、接着樹脂とシーラント層16とで多層フィルムを作成し、該多層フィルムを積層体上に熱ラミネーションにより積層させることも可能である。
【0054】
ウェットプロセスの場合は、酸変性ポリオレフィン系樹脂のディスパージョンを、上記積層体のアルミニウム保護層14上に塗工し、酸変性ポリオレフィン系樹脂の融点以上の温度で溶媒を飛ばし、樹脂を溶融軟化させて、焼き付けを行った後、シーラント層16を熱ラミネーションなどの熱処理により積層させて、図1のようなリチウムイオン電池用外装材10および図2のようなリチウムイオン電池外装材20を製造する。
【0055】
塗工方法としては、アルミニウム箔層へのアルミニウム保護層の積層工程の説明で先に例示した各種塗工方法が挙げられる。
【実施例1】
【0056】
以下に本発明に基づく実施例について説明する。ただし、本発明はこれに限定されるわけではない。
試験例として、本発明に基づく実施例と、比較のための比較例とをそれぞれ作製した。
[使用材料]
各試験例に用いた共通材料は下記の通りである。
【0057】
<基材層>
A−1:2軸延伸ナイロンフィルム(25μm)。
<接着剤層>
B−1:ポリウレタン系接着剤(4μm)
<アルミニウム箔層>
C−1:焼鈍処理した軟質アルミニウム箔8079材(40μm)。
<アルミニウム保護層>
D−1:塗布型クロメート処理
<接着樹脂層>
E−1:無水マレイン酸変成ポリプロピレン樹脂(20μm)。
【0058】
E−2:無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(90質量%)+水添スチレン系熱可塑性エラストマー(10質量%、平均粒径30nm)
E−3:無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(80質量%)+水添スチレン系熱可塑性エラストマー(20質量%、平均粒径30nm)
E−4:無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(60質量%)+水添スチレン系熱可塑性エラストマー(40質量%、平均粒径30nm)
【0059】
<シーラント層>
F−1:ポリプロピレン樹脂(40μm、ランダムポリプロピレン/ブロックポリプロピレン/ランダムポリプロピレンの3層構成)
F−2:ポリプロピレン樹脂(40μm、ランダムポリプロピレン/ブロックポリプロピレン/ランダムポリプロピレンの3層構成)+ブロックPP部に水添スチレン系熱可塑性エラストマー添加したもの(20質量%、平均粒径30nm)
F−3:ポリプロピレン樹脂(40μm、ランダムポリプロピレン/ブロックポリプロピレン/ランダムポリプロピレンの3層構成)+ブロックPPおよびランダムPPに水添スチレン系熱可塑性エラストマー添加したもの(20質量%、平均粒径30nm)
F−4:ポリプロピレン樹脂(40μm、ランダムポリプロピレン/ブロックポリプロピレン/ランダムポリプロピレンの3層構成)+ブロックPP部に水添スチレン系熱可塑性エラストマー添加したもの(40質量%、平均粒径30nm)
F−5:ポリプロピレン樹脂(40μm、ランダムポリプロピレン/ブロックポリプロピレン/ランダムポリプロピレンの3層構成)+ブロックPPおよびランダムPPに水添スチレン系熱可塑性エラストマー添加したもの(20質量%、平均粒径1μm)
[リチウムイオン電池用外装材の作成]
<外装材の作成>
以上の材料を使用して本実施例及び比較例の外装材を作成した。
【0060】
表1に、本実施例及び比較例の作成を示す。
【0061】
【表1】

【0062】
作成は次の通りである。
まず、アルミニウム箔上に、塗布型クロメート処理液をマイクログラビアコートにより塗工し、乾燥ユニットにて150〜250℃で焼き付け処理を施し、アルミニウム箔コイル上に、アルミニウム保護層を積層させた。
【0063】
次いで、アルミニウム箔層の、アルミニウム保護層とは反対側の面に、ドライラミネート手法により、ポリウ接着剤を用いて基材層を設けた。これらを押出ラミネート機の巻出し部に、シーラント層をサンド基材部にセットし、接着樹脂を加工条件として290℃、80m/分、20μmの厚みでサンドラミネートして、アルミニウム保護層上に接着樹脂層を介して、シーラント層を積層させた。その後、熱圧着(熱処理)を施し、リチウムイオン電池用外装材を作成した。
【0064】
<評価>
得られたリチウムイオン電池用外装材に対して以下の評価を行った。
(耐電解液評価)
エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート/ジメチルカーボネート=1/1/1の割合の溶液に対し、LiPF6が1.5Mになるように調整した電解液を作成し、水を1500ppmになるように配合したものを内容量250mlのテフロン(登録商標)の容器に充填した。その中にサンプルを入れ、密栓後85℃、4時間、1日、1週間、2週間で保管した。
【0065】
保管後のサンプルの剥離状況を、以下の基準にて評価した。
○:デラミネーションせず、ラミネート強度が剥離困難、またはシーラント層の破断レベルである。
△:デラミネーションは起こらないが、ラミネート強度が剥離可能レベル(100gf/15mm以上、クロスヘッドスピードが300mm/分)である。
×:デラミネーションによる浮きが確認できる。
【0066】
(成形性評価)
絞り部分が80mm×100mmの冷間成型が可能な、成型装置を使用して冷間成型を行った。絞り深さは5mmで行った。その後冷間成型を行った部分のMD辺(機械方向の辺)、TD辺(機械方向に垂直の方向の辺)の白化の評価を行った。
○:MD辺、TD辺ともに白化せず。
×:MD辺、TD辺のどちらか一方が白化する。
その評価結果を、上記表1に併せて示した。
【0067】
表1から分かるように、エラストマーを配合していない比較例6では電解液耐性は問題ないが、成型白化評価で白化している。また平均粒径の大きいエラストマーを配合した比較例7も白化は改善されない。
【0068】
それに対し、シーラント層にエラストマーを配合したものは、成型時の白化を抑えることが出来ている。またシーラント層のみにエラストマーが配合された実施例5においても白化はおさえることが出来た。したがって、白化の点ではシーラント層にエラストマーを配合することで改善できる。
【0069】
また接着樹脂層についてもエラストマーを添加しない場合よりも添加した場合のほうが、製膜性が上がるため、添加するほうが好ましい。ただし、エラストマーの配合比を増加させていくと、比較例1〜5のように電解液での膨潤により、電解液耐性が劣化するため、エラストマーは20質量%以下に抑えることが好ましい。
【0070】
このように、本発明によれば、アルミニウム箔を利用したラミネートフィルムタイプの外装材を冷間成型して凹部を形成する際に、シーラント層と接着樹脂層で、白化の発生しないリチウムイオン電池用外装材を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、リチウムイオン電池の内容物を収納するために、凹部にエンボス成型するアルミラミネートフィルムタイプの外装材において、冷間成型時やヒートシール後の折り曲げ時に、リチウムイオン電池用外装材各層の延伸性の差や、加熱工程でのフィルムの結晶化状態により、シーラント層と接着樹脂層で、白化を生じること防止することが出来、かつ電池の内容物耐性(耐電解液性や耐フッ酸性)があるチウムイオン電池用外装材を提供する。
【符号の説明】
【0072】
1、10,20 リチウムイオン電池用外装材
10 リチウムイオン電池用外装材
11 基材層
12 接着剤層
13 アルミニウム箔層
14 アルミニウム保護層
15 接着樹脂層
16 シーラント層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層の一方の面に対し、少なくとも、接着剤層、アルミニウム箔層、アルミニウム保護層、接着樹脂層、シーラント層をこの順番で積層したリチウムイオン電池用外装材において、
上記シーラント層には、平均粒径200nm以下の微粒子からなるエラストマーが添加されていることを特徴とするリチウムイオン電池用外装材。
【請求項2】
上記エラストマーとして、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマーの少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン電池用外装材。
【請求項3】
上記シーラント層は、ポリオレフィン樹脂からなることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のリチウムイオン電池用外装材。
【請求項4】
上記シーラント層は、ランダムポリプロピレン、ホモポリプロピレン、ブロックポリプロピレンのうち少なくとも1種類以上を使用した、単層もしくは多層構造からなる請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用外装材。
【請求項5】
上記シーラント層は多層構造であり、上記エラストマーの添加は、多層のシーラント層の少なくとも1層に添加されていることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用外装材。
【請求項6】
上記シーラント層は、0.5質量%以下の滑剤を含むことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用外装材。
【請求項7】
上記接着樹脂層は、酸変性ポリオレフィン樹脂に平均粒径200nm以下の微粒子からなるエラストマーを含んで構成されることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用外装材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−216390(P2011−216390A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−85037(P2010−85037)
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】