説明

リチウムイオン電池用微孔ポリマー膜およびその製造方法

本発明は、リチウムイオン二次電池などのエネルギー蓄積用機器のためのポリマー膜およびその製造方法である。水を反応媒体として、ポリビニルアルコールと、疎水性モノマーと、親水性モノマーとを用いて開始剤により水溶液中で重合反応を行うことで、ポリマーラテックスが得られる。キャストコーティング法により、プラスチックの帯状の基材上に前記ポリマーラテックスをコーティングし、乾燥後に剥離することで微孔ポリマー膜が得られる。当該ポリマー膜は吸液性がよく、吸液率および保持率が高く、電気抵抗率が低く、機械的強度が高く、さらに良好な熱安定性(熱収縮が小さく、寸法変形が小さい)および電気化学的安定性を有する。このポリマー膜で作られたリチウムイオン電池は、良好なサイクル安定性および長寿命の利点を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池などのエネルギー蓄積用機器のための隔膜材料およびその製造方法に関し、電池、コンデンサーなどのエネルギー蓄積用機器を製造する分野に関する。
【背景技術】
【0002】
微孔ポリマー膜は、リチウムイオン電池を製造するのに不可欠な三大材料の一つであり、微孔ポリマー膜が使用された材料特性、微孔構造、物理化学的特性は、リチウムイオン電池の電気的性能、安全性およびサイクル寿命に密接な関係がある。従来の液体電池に使用された隔膜は、主に微孔ポリオレフィン膜、微孔ポリビニリデンフルオライド膜および微孔ポリオレフィン/ポリビニリデンフルオライド複合膜である。
【0003】
微孔ポリオレフィン膜は、ポリエチレン/ポリプロピレン/エチレンプロピレン共重合体の複合膜を含み、機械的二軸延伸(乾式法)および溶媒抽出法(湿式法)のプロセス技術を用いて製造されている。ポリオレフィンは非極性材料であり、電解質溶液の極性有機溶媒との相溶性が悪く、正負極の間では機械的に隔離する役割をし、隔膜は電解液に固定作用を発揮せず、大部分の電解質溶液を遊離状態で電池中に存在させる。充放電のサイクルの過程において、この遊離している電解液が正負極材料と不可避的に酸化還元副反応することにより、電池中の電解液を消耗し、電池がリチウム不足となり、電池の極性を増大させ、充放電の際、リチウムが沈殿して結晶を発生し、隔膜を貫通する現象を招く。隔膜は電解液を吸収しにくくなり、電解液の乾燥区域を生じやすくなり、静電により貫通する現象を発生しやすくなる。上記二つの現象は酷くなると、リチウムイオン電池の燃焼、爆発などの事態を招く。リチウムイオン電池の安全上の隠れた危険性のため、リチウムイオン電池を大容量、大出力の動力型電源に応用する発展が制限されている。
【0004】
ポリビニリデンフルオライド膜(PVDF)およびその誘導体は、可塑剤が存在する場合でのみ製膜性(成膜性)を有する。可塑剤を含有するPVDF膜は自己粘着性が大きく、機械的強度が低く、プロセスの可操作性が悪く、ポリオレフィン樹脂と同じように単独で微孔ポリマー膜を製造できない。一般的にこのような微孔ポリマー膜は、可塑剤を含有するPVDF膜を電池正負極の極片に熱溶着して幹電池芯を製造し、有機溶媒を用いて幹電池芯を抽出するという方法で、正負極と複合したPVDF微孔ポリマー膜が形成されている。PVDF微孔ポリマー膜を製造する技術的難題を解決するため、微孔ポリオレフィン膜と同じように単独で製膜できるよう、電池製造の可操作性を向上し、PVDF溶液を微孔ポリオレフィン膜上にコーティングし、溶媒抽出法または逆相製膜法を用いて微孔ポリオレフィン/ポリビニリデンフルオライド複合膜を製造する。
【0005】
また、研究開発されている他の種類の微孔ポリマーは以下の通りであり、例えばドイツのVESTOSINT社は高重合体不織布を支持体として無機セラミック多孔膜を製造し、この不織布の支持膜は大量の無機充填剤が使用され、これらの充填剤はシランカップリング剤により不織布に複合されている。この複合方式は膜を乾燥および使用する過程において、振動、屈曲、折畳により、落粉の現象を不可避的に生じ、膜の被覆層が凹凸不平となり、電池の充放電時に電流の分布が不均一になるので、局部的電圧が上昇し、電流破壊現象を発生させる可能性がある。S.S.zhangらは、逆相製膜法を用いてP(AN-MMA)微孔ポリマー膜を製造する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、リチウムイオン電池などのエネルギー蓄積用機器に適用する新型の隔膜を提供することにある。当該隔膜は、コストが低廉で、製造方法が簡単で、環境に優しい。且つ作られた隔膜は耐熱性が優れ、二次電池などのエネルギー蓄積用機器に応用し、高い安全性および長いサイクル寿命を有する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、水を反応媒体として、ポリビニルアルコールと、多組成分の異なる極性のモノマー(例えば疎水性モノマーまたは親水性モノマー)とを重合してポリマーラテックスが得られ、キャストコーティングのプロセスを用いて、化学的に等価なプラスチックの帯状の基材上にコーティングし、乾燥した後に剥離して本発明の微孔ポリマー膜が得られる。本発明の隔膜の空隙の形成は、製膜過程において各組成分の相互作用のパラメーターが異なり、蒸発速度が異なることによって、製膜過程でマイクロ相の分離が形成され、微孔空隙が形成されている。具体的には、本発明が提供した微孔ポリマー膜がポリビニルアルコールと、疎水性モノマー(一定量の親水性モノマーを添加してもよい)とを開始剤により水溶液中で重合反応を開始させ、これによりラテックスが得られる。
【0008】
本発明の微孔ポリマー膜を製造する原料の重量配合比は以下の通りである。ポリビニルアルコール100重量部、親水性モノマー0〜100重量部、疎水性モノマー30〜100重量部、開始剤1〜5重量部である。その際、ポリビニルアルコールの重合度は1700〜2400の間、加水分解度は50〜99の間である。好ましくは重合度が1700、加水分解度99であるポリビニルアルコール、即ちPVA1799である。
【0009】
その際、前記疎水性(親油性)モノマーの構造式は、CH=CR1R2であり、その中、
Rは、-Hまたは-CHである。
R2は、-C6H5、-OCOCH3、-COOCH3、-COOCH2CH3、-COOCHCHCHCH3、-COOCH2CH(CH2CH3)CHCH2CH2CH3、または-CNである。
疎水性モノマーは、上記の疎水性モノマー中の少なくとも一種である。
【0010】
電解液に対する膨潤性を改善し、隔膜の電解液に対する親和性などを向上するため、反応には親水性モノマーを添加してもよい。親水性モノマーの用量は10〜100重量部が好ましい。
【0011】
前記親水性モノマーの構造式は、CHR=CR4R5であり、その中、
R3は、-H、-CH3または-COOLiである。
R4は、-H、-CH3または-COOLiである。
R5は、-COOLi、-CHCOOLi、-COO(CH2)6SO3Li、-CONH2、-CONHCH3、化学式1で示すようなγ−ラクタム基、-CONHCH2CH3、-CON(CH3)2、または-CON(CH2CH3)2である。
【化1】


親水性モノマーは、上記の親水性モノマー中の少なくとも一種である。
【0012】
前記開始剤は、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化水素もしくはアゾビスイソブチルアミジンなどの水溶性開始剤、または、それらとNa2SO3もしくはFeSO4とで構成された酸化還元開始系である。
【0013】
反応過程では、乳化剤の役割として、助剤3重量部以下を加えてもよく、ラテックスを安定化する役割を果たす。前記助剤は、ドデシルスルホン酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、ビニルスルホン酸塩中から選ばれる。
【0014】
本発明の微孔ポリマー膜の製造方法は以下のステップが含まれる、即ち、
a.ポリビニルアルコールに水を加え、加熱して完全に溶解するまで攪拌する。親水性モノマーまたは/および助剤を併用する場合には、ポリビニルアルコールと一緒に水を加え、加熱、攪拌する。
【0015】
b.そして、反応釜の温度を常に30℃〜90℃に保ち、疎水性モノマーを一回で、または数回での方式を用いて反応釜に加え、開始剤を加え、4〜35時間(好ましくは5〜20時間)重合反応させ、ポリマーラテックスが得られた。開始剤を反応過程中で点滴または数回の方式で加えてもよい。
【0016】
c.上記作られたポリマーラテックス中の固形物の含有量:100重量%に対して、充填剤5〜20重量%および可塑剤50〜100重量%を加え、ボールミルに5時間かけ、得られたスラリーをキャストコーティングのプロセスを用いて、BOPP、PET、PEおよびPPなどのプラスチックの帯状の基材上にコーティングし、乾燥した後に剥離して電池などのエネルギー蓄積用機器の隔膜として使用する。
【0017】
上記反応の親水性モノマーは、上記のbステップで滴下または数回で加える方式によって、疎水性モノマーと開始剤との段階的な重合反応を行う。
【0018】
前記充填剤は超微粒子の無機充填剤であってもよい。その超微粒子の無機充填剤は高い比表面積および強い表面吸着力を有し、電解液の吸着およびイオン伝導に有利であり、同時に隔膜の剛性を向上できるため、エネルギー蓄積用機器の製造に有利である。無機充填剤は主に酸化物系を選択し、例えば二酸化ケイ素、Al2O3、二酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、またはガラス繊維などである。
【0019】
ポリマーラテックス中の無機充填剤の分散性を向上するため、シランカップリング剤を添加してもよい。シランカップリング剤は重合反応時に加えてもよく、添加量は0.5〜5重量部である。ポリマーラテックスを調製した後、充填剤、可塑剤を添加する時にシランカップリング剤を加えてもよい。そのシランカップリング剤の添加量は、ポリマーラテックスの固形物含有量:100重量%に対して0.5〜3.0重量%である。シランカップリング剤は、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-グリシジルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランまたはビニルトリ(2-メトキシエトキシ)シランであってもよい。
【0020】
隔膜の強度、強靱性を向上するため、マイクロ有機充填剤を添加してもよく、隔膜を改質する。有機充填剤は、少なくともポリエチレンパウダー、ポリエチレンワックスパウダー、酸化ポリエチレンワックスパウダー中の一種から選ばれる。
【0021】
前記可塑剤は、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ベンジルアルコール、イソプロパノール、燐酸塩などであってもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る微孔ポリマー膜は、従来の液体リチウム電池の隔膜に基づき、発展してきたものであり、当該微孔ポリマー膜は、二軸延伸を行うことにより細孔を形成する必要がなく、溶媒抽出により細孔を形成する必要もない。まったく異なる細孔形成原理、即ち微相分離法を用いて、最初に相分離原理を電池隔膜の分野に応用させ、微孔ポリマー膜を製造する。本発明は従来の電池隔膜基材の化学成分を変更し、水を反応媒体として、多組成分の異なる極性のモノマーがグラフト共重合を行い、微相分離構造を有するポリマーラテックスが得られ、且つ無環境汚染であり、リチウムイオン電池は良好なサイクルの安定性および長寿命を有する。
【0023】
本発明に係る微孔ポリマー膜は下記の利点を有する。
(1)吸液性が高く、吸液速度が速く、親水性がよく、電池の定格容量の電解液を吸収、維持し、且つすべての寿命期間にわたって高い吸液率を維持する。
(2)表面積が大きく、空隙率が高い。
(3)孔径が小さく、電池の短絡および樹枝状結晶により貫通することを防止する。
(4)よい耐酸化性を有し、電気抵抗率が低い。
(5)高いイオン透過性、優れた機械的強度を有する。
(6)熱安定性(熱収縮が小さく、寸法変形が小さい)および電気化学的安定性を有する。
【0024】
本発明に係る微孔ポリマー膜は、材料の調達が便利で、価格が低廉で、通常設備を用いており、操作が簡単で、性能が安定で、商業化価値を有する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、具体的な実施例によって本発明についてより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみの実施に限定されない。
【実施例】
【0026】
(実施例1)
本発明に係る微孔ポリマー膜の製造
第一ステップ ポリマーラテックスの合成
本実施例では、親水性高分子のポリビニルアルコール1750(PVA)および親油性モノマーの酢酸ビニル(VAc)/アクリル酸エチル(EA)/アクリロニトリル(AN)が水相でグラフト共重合を行い、リチウム電池の隔膜のための水性ポリマーラテックスが作られ、その共重合の組成はPVA:VAc:EA:AN=10:2:2:5(重量比であり、以下同様)であり、共重合体の含有量は17重量%であり、生成物は白色の不透明のラテックスである。
【0027】
当該ポリマーラテックスの具体的な製造方法は以下の通りである。冷却水付きの四口の反応釜の中に、蒸留水1000gおよびポリビニルアルコール1750(PVA)100gを加え、反応釜が75℃に昇温したら、攪拌して溶解させ、回転数は100rpmである。3時間後、マスが透明状を呈するとき、溶解が完了したと見なされ、加熱をやめ、55℃まで自然冷却する。そして、親油性モノマーの酢酸ビニル(VAc)とアクリル酸エチル(EA)との1:1の混合物40gを一回で加え、10分攪拌して分散させ、水溶性開始剤の過硫酸アンモニウム(APS)0.5gを加え、約20分経った後、マスが薄い藍色を呈し、30分経った後、白色の乳状に変化し、2時間共重合反応させ、反応の中間体が得られた。
【0028】
上記反応液と親油性モノマーのアクリロニトリル(AN)50gとを混合、分散させ、開始剤の過硫酸アンモニウム(APS)1.5gと弱酸性のビニルスルホン酸リチウム(SVSLi)0.5gを追加で添加してラテックス重合を行う。反応時間は10時間であり、即ちポリマーラテックスが得られた。
【0029】
第二ステップ スラリーの調製
作られたポリマーラテックスに酸化ジルコニウム充填剤19gとベンジルアルコール可塑剤160gを加え、ボールミルに5時間かける。T=20.6℃、RH=64%の環境温度でスラリーの粘度を測定する。Tスラリー=35℃、粘度=2500mpa・sである。
【0030】
第三ステップ コーティング
キャストコーティングの設備を使用する。ポリマーラテックスをBOPPプラスチックの帯状の基材にコーティングし、熱風の乾燥トンネルを通して水分と可塑剤を蒸発させ、これにより、微孔ポリマー膜が得られた。熱風乾燥温度は60〜130℃であり、好ましくは80〜100℃である。
【0031】
(実施例2)
本発明に係る微孔ポリマー膜の製造
第一ステップ ポリマーラテックスの合成
反応ステップは基本的に実施例1と同様であり、異なるのは、親水性が良好なアクリルアミド(AM)を親油性モノマーのアクリル酸エチル(EA)に代替する点である。その共重合組成はPVA:VAc:AM:AN=10:2:1:8(重量比)である。
【0032】
当該ポリマーラテックスの具体的な製造方法は以下の通りである。すべてのモノマーは一回投入方式を用いて加え、マス濃度を13%程度に調節し、直接に開始剤を加え、ラテックスは無色から薄い藍色、薄い藍色から白色乳状への変化過程を速やかに経て、実施例1の反応速度より速い。12時間経過して反応が完了し、即ちリチウム電池用ポリマーラテックスが得られた。
【0033】
第二ステップ スラリーの調製
添加した充填剤の割合は実施例1と同様であり、材料は二酸化チタンとベンジルアルコールであり、ボールミルに5時間かける。固形物含有量を調整することによって、Tスラリー=35℃の時、粘度=2500mpa・sであることを維持する。
【0034】
第三ステップ コーティング
実施例1と同様である。
【0035】
(実施例3)
本発明に係る微孔ポリマー膜の製造
第一ステップ ポリマーラテックスの合成
本実施例では、ポリビニルアルコール1788(PVA)に親油性モノマーのフェニルエチレン(ST)/アクリル酸ブチル(BA)/アクリロニトリル(AN)が水相で三元共重合を行い、リチウム電池隔膜用の水性ポリマーラテックスを製造する。その共重合の組成はPVA:ST:BA:AN=10:2:4:5(重量比)であり、共重合体の含有量は17重量%であり、生成物は白色の不透明のラテックスである。
【0036】
当該ポリマーラテックスは以下の段階重合を用いる。冷却水付きの四口の反応釜の中に、蒸留水1000gおよびポリビニルアルコール1788(PVA)を加え、反応釜が90℃に昇温し、攪拌して溶解させる。回転数は100rpmである。3時間経過した後、マスが透明状を呈する時、溶解が完了したと見なされ、加熱をやめ、反応温度65℃まで自然冷却する。そして、フェニルエチレン(ST)モノマーと若干の過硫酸アンモニウム開始剤とを加え、20時間反応させ、白色ラテックスに変化したと同時に、アクリル酸ブチル(BA)を加え、継続的に2時間反応させる。
【0037】
上記反応液にアクリロニトリルモノマーをゆっくり滴下し(蠕動ポンプにより滴下速度を制御し、5時間以内で添加が完了することを維持する)、且つ開始剤1.5gを再添加し、継続的に12時間重合させ、即ちリチウム電池用ポリマー膜のラテックスが得られた。
【0038】
第二ステップ スラリーの調製
作られたポリマーラテックスに二酸化ケイ素充填剤15重量%と燐酸トリブチル可塑剤100重量%とを加え、ボールミルに5時間かける。スラリー粘度=2500mpa・sに調節する。
【0039】
第三ステップ コーティング
実施例1と同様である。
【0040】
(実施例4)
本発明に係る微孔ポリマー膜の製造
第一ステップ ポリマーラテックスの合成
本実施例では、ポリビニルアルコール1788(PVA)と、親水性モノマーのポリビニルピロリドン(NVP)、親油性モノマーのアクリル酸ブチル(BA)とアクリロニトリル(AN)とを用いて、リチウム電池用隔膜のための水性ポリマーラテックスを調製する。その共重合の組成はPVA:NVP:BA:AN=10:2:4:5(重量比)である。
【0041】
当該ポリマーラテックスは一段階重合法を用いて得られる。モノマーと、開始剤とを同時に投入し、開始剤が酸化-還元系の亜硫酸アンモニウム-過硫酸カリウムから選ばれ、反応温度は72℃であり、反応時間は12時間である。濃度が19.5重量%である白色のラテックスが得られた。
【0042】
第二ステップ スラリーの調製
作られたポリマーラテックスに2%のカップリング剤で処理された二酸化ケイ素充填剤15重量%と燐酸トリエチル可塑剤100重量%とを加える。スラリー粘度を2500mpa・sに調節する。
【0043】
第三ステップ コーティング
実施例1と同様である。
【0044】
(実施例5)
本発明に係る微孔ポリマー膜の製造
第一ステップ ポリマーラテックスの合成
本実施例では、ポリビニルアルコール(PVA)と、親水性モノマーのアクリル酸リチウム塩(MAALi)と、親油性モノマーのアクリロニトリル(AN)とを水相で重合させ、リチウム電池の隔膜のための水性ポリマーラテックスが作られ、その共重合の組成はPVA:MAALi:AN=10:2:5(重量比)である。
【0045】
当該ポリマーラテックスの具体的な製造方法は以下の通りである。まず、50℃でポリビニルアルコール1788(PVA)を完全に溶解させ、アクリル酸塩とアクリロニトリルモノマーを一回で加え、重合方法は実施例4と同様であり、12時間が経過して、重合が完了する。
【0046】
第二ステップ スラリーの調製
作られたポリマーラテックスにAl2O3充填剤30重量%と燐酸トリエチル可塑剤120重量%とを加え、隔膜とBOPP基材との密着性を改良するため、酸化ポリエチレンワックスパウダー35重量%を加え、ボールミルに5時間かけ、スラリー粘度=2500mpa・sに調節する。
【0047】
第三ステップ コーティング
実施例1と同様である。
【0048】
(実施例6)
本発明に係る微孔ポリマー膜の製造
第一ステップ ポリマーラテックスの合成
本実施例では、ポリビニルアルコール1799(PVA)と、疎水性モノマーのビニルトリエトキシシランカップリング剤(151)/アクリロニトリル(AN)とを水相でグラフト重合させ、リチウム電池用隔膜のための水性ポリマーラテックスが作られ、その共重合の組成はPVA:151:AN=10:4:5(重量比)である。
【0049】
当該ポリマーラテックスの具体的な製造方法は以下の通りである。冷却水付きの四口の反応釜の中に、蒸留水1000gおよびポリビニルアルコール1799(PVA)100gを加え、90℃まで加熱し、3時間程度攪拌、溶解させ、溶解が完了し、マスが透明状を呈する。そして、加熱をやめ、重合温度60℃まで自然冷却し、ビニルトリエトキシシラン(151)40gと、アクリロニトリル(AN)50gと、開始剤の過硫酸アンモニウム1.9gとを加え、12時間グラフト重合させ、即ち濃度が17.4重量%である白色のラテックスが得られた。
【0050】
第二ステップ スラリーの調製
希塩酸を用いてポリマーラテックスを調整し、弱酸性にする。そして、燐酸トリエチルにより分散された二酸化ケイ素充填剤を加える。具体的な添加量は二酸化ケイ素充填剤20重量%と燐酸トリエチル可塑剤100%である。隔膜の収縮性を改良するため、試しに無アルカリガラス繊維30%を加えることを試み、そのガラス繊維の寸法はミクロンである。予め当該ガラス繊維をマッフル炉に500℃の高温でアニーリングを行い、炉中で自然に冷却し予め準備しておく。混合してボールミルに5時間かけ、スラリー粘度を2500mpa・sに調節する。
【0051】
第三ステップ コーティング
実施例1と同様である。
【0052】
(実施例1〜6の隔膜の吸液量)
実施例1〜6で作られた微孔ポリマー膜を90℃で3〜8時間真空乾燥させ、すべての測定は、乾燥した空気の雰囲気(乾燥した空気の雰囲気の相対湿度は30%である)の中で行い、隔膜を電解液にそれぞれ2、4、6、12時間浸漬して取り出し、濾紙で表面に残留した電解液を吸い取り、分析用天秤を用いて計量し、0.01gまでの精度で、電解液を浸漬する前後の重量差を計算し、即ち隔膜の吸液量を得た。電解液に12時間浸漬した隔膜を取り出し、3時間放置した後、水性ポリマー膜の電解液の保持率を測定し、実施例とPP膜との比較実験の結果は表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
(実施例7)
本発明に係る微孔ポリマー膜を含むリチウムイオン電池
実施例6に基づいて作られた微孔ポリマー膜をリチウムイオン電池に組立てる。当該電池はLiMn2O4正極材料と、黒鉛負極と、ビニルカーボネート/ジエチルカーボネートのLiPF6とからなる電解質により構成された。当該電池は高率放電(1C)の条件で放電深度(DOD)100%の充放電サイクルを行い、実験より1500サイクルを経てもその容量はまだ初期容量の75%以上であり、その電池の内抵抗の増大は10%より小さいことを明らかにした。比較として、既存商品の微孔ポリプロピレン膜で組立てたリチウムイオン電池を同じ条件で400サイクルした後、その容量は初期容量の75%程度となり、電池の内抵抗の増大は35%以上である。
【0055】
本発明の微孔ポリマー膜から組立てたリチウムイオン電池が長いサイクル寿命および小さい電池分極を有するのは、本発明に係る微孔ポリマー膜が高い極性を有するポリマー材料から作られ、当該材料が極性電解質に良好な相溶性および液保持性を有することが原因と見なされる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池用微孔ポリマー膜であって、
水を反応媒体として、ポリビニルアルコールと、疎水性モノマーとを用いて、開始剤により水溶液中で重合反応を行ってポリマーラテックスを得るとともに、キャストコーティング法により、プラスチックの帯状の基材上に前記ポリマーラテックスをコーティングし、乾燥後に剥離することで微孔ポリマー膜が得られる、
ことを特徴とするリチウムイオン電池用微孔ポリマー膜。
【請求項2】
重合反応の原料中には親水性モノマーが含まれることを特徴とする請求項1記載のリチウムイオン電池用微孔ポリマー膜。
【請求項3】
重合反応の原料の配合比は、ポリビニルアルコール100重量部に対して、親水性モノマー0〜100重量部、疎水性モノマー30〜100重量部、開始剤1〜5重量部であり、重合反応の際のポリビニルアルコールの重合度は1700〜2400の間、加水分解度は50〜99の間であり、
前記疎水性モノマーの構造式は、CH=CR1R2であり、その中、
Rは、-Hまたは-CH
R2は、-C6H5、-OCOCH3、-COOCH3、-COOCH2CH3、-COOCHCHCHCH3、-COOCH2CH(CH2CH3)CHCH2CH2CH3、または-CNであり、
前記疎水性モノマーは、上記の疎水性モノマー中の少なくとも一種であり、
前記親水性モノマーの構造式は、CHR=CR4R5であり、その中、
R3は、-H、-CH3または-COOLi、
R4は、-H、-CH3または-COOLi、
R5は、-COOLi、-CHCOOLi、-COO(CH2)6SO3Li、-CONH2、-CONHCH3、化学式2で示すγ−ラクタム基、-CONHCH2CH3、-CON(CH3)2、または-CON(CH2CH3)2であり、
【化2】


前記親水性モノマーは、上記の親水性モノマー中の少なくとも一種であり、
前記開始剤は、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化水素もしくはアゾビスイソブチルアミジン、または、それらとNa2SO3もしくはFeSO4とで構成された酸化還元開始系である、
ことを特徴とする請求項1または2記載のリチウムイオン電池用微孔ポリマー膜。
【請求項4】
重合反応では更に3重量部を超えない助剤を加え、前記助剤は、ドデシルスルホン酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、ビニルスルホン酸塩の中から選ばれる、
ことを特徴とする請求項3記載のリチウムイオン電池用微孔ポリマー膜。
【請求項5】
重合反応では更にシランカップリング剤0.5〜5重量部を加える、
ことを特徴とする請求項3記載のリチウムイオン電池用微孔ポリマー膜。
【請求項6】
請求項3に記載のリチウムイオン電池用微孔ポリマー膜を製造する方法であって、以下のa,b,cのステップが含まれること、即ち、
a.ポリビニルアルコールに水を加え、完全に溶解するまで加熱、攪拌し、
b.反応釜の温度を常に30〜90℃に保ち、異なる疎水性モノマーと、異なる親水性モノマーとを一回で、数回でまたは滴下の方式を用いて反応釜に加え、開始剤を加え、4〜35時間重合反応させ、ポリマーラテックスが得られ、
c.上記作られたポリマーラテックスにおける固形物の含有量を100重量%としたとき、充填剤5.0〜20重量%と、シランカップリング剤0.5〜3.0重量%と、可塑剤50〜100重量%とを加え、ボールミルに5時間かけ、キャストコーティングのプロセスを用いて、得られたスラリーをプラスチックの帯状の基材にコーティングし、乾燥することで微孔ポリマー膜を得るものであり、
前記プラスチックの帯状の基材は、BOPP、PET、PEまたはPPである、
ことを特徴とするリチウムイオン電池用微孔ポリマー膜の製造方法。
【請求項7】
請求項3に記載のリチウムイオン電池用微孔ポリマー膜を製造する方法であって、以下のa,b,cのステップが含まれること、即ち、
a.親水性モノマーと、助剤と、ポリビニルアルコールとを混合して水を加え、完全に溶解するまで加熱、攪拌し、
b.反応釜の温度を常に30〜90℃に保ち、異なる疎水性モノマーを一回で、数回でまたは滴下の方式を用いて反応釜に加え、開始剤を加え、4〜35時間重合反応させ、ポリマーラテックスが得られ、
c.上記作られたポリマーラテックスにおける固形物の含有量を100重量%としたとき、充填剤5.0〜20重量%と、シランカップリング剤0.5〜3.0重量%と、可塑剤50〜100重量%とを加え、ボールミルに5時間かけ、キャストコーティングのプロセスを用いて、得られたスラリーをプラスチックの帯状の基材にコーティングし、乾燥することで微孔ポリマー膜を得るものであり、
前記プラスチックの帯状の基材は、BOPP、PET、PEまたはPPである、
ことを特徴とするリチウムイオン電池用微孔ポリマー膜の製造方法。
【請求項8】
前記cステップに記載された充填剤は、無機充填剤、有機充填剤または同時に添加される無機充填剤と有機充填剤であり、
前記無機充填剤は、酸化物系から選ばれ、二酸化ケイ素、Al2O3、二酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、ガラス繊維中の少なくとも一種であり、
前記可塑剤は、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ベンジルアルコール、イソプロパノールまたは燐酸塩中の少なくとも一種であり、
前記有機充填剤は、ポリエチレンパウダー、ポリエチレンワックスパウダー、または酸化ポリエチレンワックスパウダー中の少なくとも一種である、
ことを特徴とする請求項6または7記載のリチウムイオン電池用微孔ポリマー膜の製造方法。
【請求項9】
前記cステップでは、ポリマーラテックス中の固形物の含有量を100重量%としたとき、更にシランカップリング剤0.5〜3.0重量%を加え、前記シランカップリング剤は、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-グリシジルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランまたはビニルトリ(2-メトキシエトキシ)シラン中の少なくとも一種である、
ことを特徴とする請求項8記載のリチウムイオン電池用微孔ポリマー膜の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の微孔ポリマー膜を、リチウムイオン電池、リチウム二次電池などのエネルギー蓄積用機器中の非水電解質隔膜に用いることを特徴とする微孔ポリマー膜の用途。

【公表番号】特表2010−521047(P2010−521047A)
【公表日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−552998(P2009−552998)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【国際出願番号】PCT/CN2008/072889
【国際公開番号】WO2009/079946
【国際公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(509239587)チャンゾウ ゾンケ ライファン パワー サイエンス アンド テクノロジー カンパニー リミテッド (4)
【Fターム(参考)】