説明

リチウムイオン電池用電極ペーストの製造方法およびリチウムイオン電池電極。

【課題】溶媒、カーボンナノチューブ、極性ポリチオフェンを含むリチウムイオン電池用電極ペーストにおいて、カーボンナノチューブに極性ポリチオフェンを任意の割合に制御して確実に付着させることを可能とし、少量の極性ポリチオフェンでカーボンナノチューブを溶媒中に安定に分散させることを可能にすることを目的とする。
【解決手段】本発明は、溶媒、カーボンナノチューブ、極性ポリチオフェン、電極活物質およびバインダーポリマーからなるリチウムイオン電池用電極ペーストの製造方法であって、
工程A:双極子モーメントが0.8Debye以上1.7 Debye以下である溶媒Xと、カーボンナノチューブと、該カーボンナノチューブに対し重量比100wt%以下の極性ポリチオフェン、とを混合分散する工程
工程B:工程Aで作製したカーボンナノチューブ分散液中の固形分濃度が30wt%以上になるまで溶媒を乾燥し、重合体コンポジットを作製する工程
工程C:工程Bで作製した重合体コンポジットと、双極子モーメントが溶媒Xより高い溶媒Yと、電極活物質と、バインダーポリマーとを任意の順で混合する工程
を含み、各工程が工程A,工程B,工程Cの順でなされることを特徴とするリチウムイオン電池用電極ペーストの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極性ポリチオフェンとカーボンナノチューブからなる重合体コンポジットを導電助剤として利用したリチウムイオン電池電極の製造方法に関するものである。より詳しくは、リチウムイオン電池電極に高導電性を提供しうるカーボンナノチューブに、極性ポリチオフェンを複合化させ、導電助剤に適用する手法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、従来のニッケルカドミウム電池やニッケル水素電池に比べて、高電圧・高エネルギー密度が得られる電池として小型・軽量化が図れることから、携帯電話やラップトップパソコンなど情報関連のモバイル通信電子機器に広く用いられている。今後更に環境問題を解決する一つの手段として電気自動車・ハイブリッド電気自動車などに搭載する車載用途あるいは電動工具などの産業用途に利用拡大が進むと見られている一方、リチウム二次電池の更なる高容量化と高出力化が切望されている。
【0003】
リチウム二次電池は少なくともリチウムイオンを可逆的に脱挿入可能な活物質を有する正極と負極、そして正極と負極を隔絶するセパレータを容器内に配置し、非水電解液を充填して構成されている。
【0004】
正極はアルミニウム等の金属箔集電体に活物質、導電助剤および結着剤を含有する電極剤を塗布し加圧成形したものである。一般的に正極の活物質としては、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMnO)、スピネル型マンガン酸リチウム(LiMn)などに代表されるリチウムと遷移金属の複合酸化物(以後、リチウム金属酸化物と称することがある。)の粉体が用いられているほか、V等の金属酸化物やTiS、MoS、NbSeなどの金属化合物等も利用されているが、特にリチウム金属酸化物は小型電池としての性能は優れている一方、クラーク数の低い、いわゆるレアアースを含有していて、コスト面や安定供給面から避けられる傾向にあり、特に近年では資源的に豊富で安価な材料である鉄を含有したリン酸鉄リチウム(LiFePO)等が開発・利用され始めている。
【0005】
また負極は銅などの金属箔集電体に、正極同様に活物質や導電助剤および結着剤を含有する電極剤を塗布し加圧成形したものであり、一般に負極の活物質としては、金属リチウムやLi−Al合金等のリチウム合金、SiOやSiC、SiOC等を基本構成元素とするケイ素化合物、ポリアセチレンやポリピロール等のリチウムをドープした導電性高分子、リチウムイオンを結晶中に取り込んだ層間化合物や天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボンなどの炭素材料等が用いられている。
【0006】
これら正極・負極の構成における導電助剤の役割は活物質から集電体までの効率の良い導電パスを得ることにあり、リチウムイオン電池用電極には欠かすことのできない構成材料である。
【0007】
しかしながら、導電助剤の含有率が多いと、電極重量あたりの電池容量は下がるため、できる限り導電助剤の量は少ない方が良く、より少ない量で導電性が確保できる高導電性の導電助剤が求められている。
【0008】
また、近年例えばオリビン系の正極活物質など、高容量にもかかわらず、導電性が低いために実用化にいたっていない活物質が数多く検討されており、この点でも高導電性の導電助剤が求められている。
【0009】
導電助剤として従来用いられている材料としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどが挙げられる。これらは安価な上に適度な分散性を持つが、結晶性が低いため導電率はグラファイトなどよりも低く、多量に添加する必要がある。
【0010】
そこで、導電助剤としてカーボンナノチューブを導入することが試みられている(特許文献1など)。
【0011】
カーボンナノチューブとはナノメートルスケールの直径を持つ炭素繊維であり、優れた機械特性・優れた導電性を持つことで知られている。この優れた導電性を持つカーボンナノチューブを導電助剤として利用できれば高容量・高出力のリチウムイオン電池電極を作製できる可能性がある。
【0012】
しかしながらカーボンナノチューブは表面積が大きく分子間力により非常に凝集しやすい。凝集した導電助剤は電池電極内で導電パスを作ることが難しいため、カーボンナノチューブの導電助剤への適用は困難であった。
【0013】
カーボンナノチューブをリチウムイオン電池電極用導電助剤として適用するには、分散性を向上する添加剤が必要である。添加剤としては界面活性剤やポリマーを用いる手法が良く知られているが、ポリマーの中でも導電性の高いポリチオフェンを利用して分散している例がある。この手法はカーボンナノチューブの導電性を確保しつつ分散性向上することが可能であり、導電助剤として利用する手法として非常に有力な手法である。
【0014】
ポリチオフェンとカーボンナノチューブを複合化して利用する手法としては、ポリチオフェンとカーボンナノチューブを溶媒中で混合した後に塗布・乾燥することで透明電極膜を得る手法(特許文献2)、クロロホルム中でポリチオフェンとカーボンナノチューブを分散した後に異なる分散溶媒を導入してからクロロホルムを除去する手法(特許文献3)、溶融した重合体中にカーボンナノチューブを添加する手法(特許文献3、4)溶媒中にポリチオフェンを溶解しカーボンナノチューブを添加した後にろ過・乾燥して濃縮する手法、(特許文献5)溶媒中にポリチオフェンとカーボンナノチューブを混合して超音波などの手法で分散する手法(特許文献6)、などが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特許第2513418号公報
【特許文献2】特開2008−103329号公報
【特許文献3】特開2010−18696号公報
【特許文献4】特開2011−126727号公報
【特許文献5】特開2009−245903号公報
【特許文献6】特許第3913208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
リチウムイオン電池電極用の導電助剤として、カーボンナノチューブの高い導電性能を引き出すためには、1.電極中に良好に分散して導電パスができること、2.導電助剤として十分な量を電極に添加できること、が必要である。
【0017】
そのためには、電極ペースト溶媒にカーボンナノチューブを高濃度で凝集しないよう良好に分散する必要がある。一方で、分散性向上のために分散剤ポリマーを増やしすぎると、電極としての性能が損なわれるため、少量のポリマーを効率的にカーボンナノチューブに吸着させて分散安定性を確保する必要がある。
【0018】
特許文献3に示されるような、2種類の溶媒を用いて分散させる手法では、分散性向上は可能であるが、乾燥などの濃縮工程が無いので、少量のポリマーを効率的にカーボンナノチューブに吸着させることができない。
【0019】
特許文献3、4に示される溶融した重合体中にカーボンナノチューブを混合させる方法では、カーボンナノチューブへのポリマー吸着量を制御することができない。
【0020】
特許文献2や特許文献5に示されるような、分散液をろ過・乾燥して利用する手法、すなわち濃縮する過程を経る手法では、ポリマー吸着量自体は制御可能であるが、双極子モーメントの高い溶剤を用いるリチウムイオン電池用の電極ペーストへの再分散はできない。
【0021】
特許文献6のように、単に溶媒中にポリチオフェンとカーボンナノチューブを混合して超音波をかけるなどの手法では、カーボンナノチューブにポリチオフェンが十分吸着せず、少量のポリマーでカーボンナノチューブの分散安定性を向上することが難しい。
【0022】
そこで、カーボンナノチューブを導電助剤として利用できるようにするためには、カーボンナノチューブに吸着させるポリチオフェンの吸着効率を向上させ、電極ペースト溶媒中に少ない分散ポリマー量でカーボンナノチューブを高濃度に分散できる新しい分散手法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記課題につき、鋭意検討した結果、カーボンナノチューブと少量の極性ポリチオフェンを、双極子モーメントの低い溶媒中で混合分散することで極性ポリチオフェンをカーボンナノチューブ表面に分配しやすくし、濃縮工程においてより確実に極性ポリチオフェンがカーボンナノチューブに吸着するようにし、双極子モーメントの高い溶媒中に再分散することで、少量のポリマーでカーボンナノチューブを高濃度に分散できることを見出した。
【0024】
すなわち本発明は
(1)溶媒、カーボンナノチューブ、極性ポリチオフェン、電極活物質およびバインダーポリマーからなるリチウムイオン電池用電極ペーストの製造方法であって、
工程A:双極子モーメントが0.8Debye以上1.7 Debye以下である溶媒Xと、カーボンナノチューブと、該カーボンナノチューブに対し重量比100wt%以下の極性ポリチオフェン、とを混合分散する工程
工程B:工程Aで作製したカーボンナノチューブ分散液中の固形分濃度が30wt%以上になるまで溶媒を乾燥し、重合体コンポジットを作製する工程
工程C:工程Bで作製した重合体コンポジットと、双極子モーメントが溶媒Xより高い溶媒Yと、電極活物質と、バインダーポリマーとを任意の順で混合する工程
を含み、各工程が工程A,工程B,工程Cの順でなされることを特徴とするリチウムイオン電池用電極ペーストの製造方法。
(2)溶媒Xがクロロホルムである、(1)記載のリチウムイオン電池用電極ペーストの製造方法
(3)溶媒Yの双極子モーメントが3.0以上である(1)又は(2)記載のリチウムイオン電池用電極ペーストの製造方法。
(4)溶媒YがN-メチルピロリドンである(1)〜(3)のいずれかに記載の、リチウムイオン電池用電極ペーストの製造方法。
(5)(1)〜(4)のいずれかに記載の方法により製造したリチウムイオン電池用電極ペーストを用いて作製したリチウムイオン電池電極。
からなる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の手法により、溶媒、カーボンナノチューブ、極性ポリチオフェン、電極活物質およびバインダーポリマーからなるリチウムイオン電池用電極ペーストにおいて、カーボンナノチューブに極性ポリチオフェンを任意の割合に制御して確実に付着させることが可能になり、少量の極性ポリチオフェンでカーボンナノチューブを溶媒中に安定に分散させることが可能になる。
【0026】
このことにより、リチウムイオン電池電極用の導電助剤として、導電性を阻害しない程度にポリマーを複合化させ、かつペースト中に十分な量のカーボンナノチューブを、凝集することなく含有させることが可能になる。
【0027】
さらには、このペーストを用いることで、リチウムイオン電池電極中に十分な量の高導電性のカーボンナノチューブを凝集なく含有させることができ、高出力・高容量なリチウムイオン電池電極を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(工程A)
本発明で用いるカーボンナノチューブは直径200nm以下の繊維状炭素であり、複数のグラフェン・シートが同心円状に巻かれた構造を持つ。CNTは、アーク放電法、化学気相成長法(CVD法)、レーザー・アブレーション法等により得ることができる。
【0029】
カーボンナノチューブの導電性(体積抵抗率)は1.0[Ω・cm]以下のものが好ましく用いられ、特に好ましい範囲としては、1.0×10-6[Ω・cm]〜1.0×10−1[Ω・cm]である。体積抵抗率の低いカーボンナノチューブほど導電助剤としての性能は高い。
【0030】
カーボンナノチューブはリチウムイオン電池電極用導電助剤としては、従来のケッチェンブラックやアセチレンブラックと比較すると重量あたりの個数が多く、導電パスが得やすい。カーボンナノチューブの1次径は小さいほど重量あたりの個数は多くなるので、導電パスが得やすい。分散性という観点では1次径が小さいほど凝集しやすく、1次径が大きい方が分散性に優れている。ここで言う1次径とは多層カーボンナノチューブの単糸の直径である。
【0031】
カーボンナノチューブの長さについては特に限定されるものではないが、パスを形成するには長いことが好ましく、個数を多くするという点では短い方が良い。カーボンナノチューブとしては一般的には0.1μmから3μm程度のものが市販されており、これらの長さであれば問題なく用いることができる。
【0032】
特に多層カーボンナノチューブは薄層カーボンナノチューブと比べて安価であり電池電極用導電助剤としての実用性は高く、本発明により高い分散性を付与することで、安価に高導電性の導電助剤を提供することができるようになる。
【0033】
本発明における極性ポリチオフェンとはポリチオフェン側鎖に極性基が含まれているものを指し、下記一般式(1)で表される。
【0034】
【化1】

【0035】
Rは極性基が含まれる側鎖である。3位又は4位、のいずれでも良く、両方が置換されていても良い。極性基としては、酸性基であってもよく、エーテル構造・アセチル構造・ケトン構造を含むのであっても良い。
【0036】
たとえば酸性基としてはスルホン酸基・水酸基・カルボン酸基などがあげられる。エーテル構造を含むものとしては、メトキシ基、エトキシ基、n − プロポキシ基、などのアルコキシ基、メトキシエチル基、エトキシエチル基、n−プロポキシエチル基などのアルコキシアルキル基、エーテル構造が複数あるメトキシエトキシ基、エトキシエトキシ基、メトキシエトキシエトキシ基などが挙げられる。アセチル構造又はケトン構造を含むものとしては、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基などが挙げられる。
【0037】
特に、N-メチルピロリドン、γブチロラクトン、ジメチルアセトアミドなど電池ペースト用極性溶媒に溶解性が高いと好ましく、1%以上の溶解性があることが好ましい。
極性ポリチオフェンの分子量は特に限定されるものではないが、好ましい分子量は重量平均分子量で800〜100000である。
【0038】
本発明で用いられる共役系重合体の合成には、公知の方法を使用することができる。たとえば重合性官能基を二つ有するモノマー同士を反応させる方法、異なる二つの重合性官能基を有するモノマー同士を鉄またはニッケル触媒下で反応させる方法が挙げられる。
【0039】
また、本発明で用いられる共役系重合体の不純物を除去する方法は特に限定されないが、基本的には合成過程で使用した原料や副生成物を除去する生成工程であり、再沈殿法、ソクスレー抽出法、ろ過法、イオン交換法、キレート法などを用いることができる。中でも低分子量成分を除去する場合には、再沈殿法、ソクスレー抽出法が好ましく用いられる。これらの方法を2種以上組み合わせてもよい。
【0040】
本発明においては、極性ポリチオフェンの量はカーボンナノチューブに対し重量比で100wt%以下である。極性ポリチオフェンが多すぎると、本発明のペーストから作製する電極が剥離しやすくなる。そのため十分な電極性能を得るためには、極性ポリチオフェンの重量比が少ない必要がある。
【0041】
本発明においては、カーボンナノチューブと極性ポリチオフェンを混合する溶媒として、双極子モーメントが0.8debye以上1.7debye以下の溶媒を用いる。クロロホルム、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチル-tert-ブチルエーテル、クロロベンゼン、ジクロロメタン、1-ブタノール、2-プロパノール、等が例示できるが、上記の例に限定されるものではない。
【0042】
カーボンナノチューブと極性ポリチオフェンを混合する溶媒として、双極子モーメント1.7以下と、比較的低い溶媒中で分散するのは、ポリチオフェンとカーボンナノチューブを確実に吸着させるためである。
【0043】
極性ポリチオフェンの、カーボンナノチューブ表面と溶媒の液相に対する分配比を考慮すると、双極子モーメントの低い溶媒中ではカーボンナノチューブ表面に分配しやすく、双極子モーメントの高い溶媒では、溶媒相に分配しやすい。このことから、極性ポリチオフェンが十分溶解する溶媒では、双極子モーメントが低い溶媒の方がカーボンナノチューブと極性ポリチオフェンの複合化がしやすいと考えられる。
【0044】
そこで双極子モーメントが1.7 debye以下の溶媒中で複合化し重合体コンポジットを作製する。双極子モーメントが1.7debyeより高いと、極性ポリチオフェンが溶媒相に分配してしまい、複合化がしにくくなる。逆に双極子モーメントが0.8debyeより低いと、極性ポリチオフェンが溶解するのが困難になる。
【0045】
上記の例の中でも特にクロロホルムは、極性ポリチオフェンが溶解しやすい上に双極子モーメントが低く、溶媒として好適である
混合手法は、カーボンナノチューブと重合ポリチオフェンを溶媒中で攪拌するのであれば如何なる方法でも良く、震とう機、マグネチックスターラー、攪拌羽、ホモジェナイザー等による攪拌が例に挙げられる。
【0046】
(工程B)
工程Bでは工程Aで利用した溶媒を、重合体コンポジット中の固形分濃度が30wt%以上になるまで除去する。工程Aにおいて一旦複合化した重合体コンポジットからは容易に極性ポリチオフェンが乖離することはなく、双極子モーメントの低い溶媒を一旦除去することで、さらに良好に接着することが可能になる。
【0047】
除去する手法は特に限定されるものではないが、ロータリーエバポレーターなどを用いた除去や、真空乾燥機に溶媒トラップをつけて除去するなどの手法が例示される。
溶媒を完全に除去して乾燥してもよいし、一部残留していても良く、いずれにしても固形分濃度を30wt%以上になるようにする。さらに、固形分濃度が50wt%以上であるほうが好ましい。
【0048】
(工程C)
工程Cでは、工程Bで作製した重合体コンポジット・溶媒Xより双極子モーメントが高い溶媒Y・電極活物質・バインダーポリマーを混合する。
【0049】
重合体コンポジットは、極性ポリチオフェンが複合化しているので、リチウムイオン電池電極に用いられる双極子モーメントの高い溶媒に分散しやすい。そこで、双極子モーメントが溶媒Xよりも高い溶媒を用いる。特に双極子モーメント3.0debye以上の溶媒が好ましく、たとえば、N-メチルピロリドン、γ-ブチロラクトン、ジメチルアセトアミドなどが例示できる
混合の順番は任意に決めることができ、下記に限るものではないが、次のような順番が例として挙げられる。
(i)重合体コンポジットを溶媒Y中に分散させ分散液とした後に、分散液と電極活物質と、バインダーポリマーとを加えて混合する
(ii)電極活物質、バインダーポリマー、溶媒Yを混合してペーストにした後に、重合体コンポジットを加えて再度混合する。
(iii)電極活物質、溶媒Y、バインダーポリマー、重合体コンポジットを一度に同じ容器に入れて混合する。
【0050】
溶媒Yは混合溶媒であっても良く、溶媒Xより双極子モーメントが高い溶媒であれば混合して用いても良い。溶媒Xより双極子モーメントが低い溶媒も、混合溶媒全体の20wt%以下であれば混合して用いても良い。
【0051】
本発明の重合体コンポジットは、リチウムイオン電池電極において導電助剤として働くが、他に導電助剤を添加しても良く、添加する導電助剤としては、特に限定されないが、例えば、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック類、天然黒鉛(鱗片状黒鉛等)、人造黒鉛等のグラファイト類、炭素繊維及び金属繊維等の導電性繊維類、銅、ニッケル、アルミニウム及び銀等の金属粉末類などが挙げられる。上記材料に限らず、その他分散剤などのペースト添加剤などをさらに添加しても良い。
【0052】
ペーストを作製するための混合手法は特に限定されず、各種分散・混練機で混練することができる。分散・混練機としては、自動乳鉢・三本ロール・ビーズミル・遊星ボールミル・自公転ミキサー・湿式ジェットミル・ホモジェナイザー・プラネタリーミキサーなどを利用した手法などが挙げられる。
【0053】
(電極作製)
分散・混練して得られたペーストを用いてリチウムイオン電池電極とするには、ペーストを集電体に塗布・乾燥して作製する。
集電体としてはアルミニウムや銅等などの薄膜が用いられる。集電体に塗布する手法としては、バーコータ・ドクターブレードによる塗布、スリットコーター、ダイコーター、ブレードコーターなどが挙げられる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明を具体的かつより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに制限されるものではない。実施例中の物性値は、下記の方法によって測定した。
【0055】
A.粘度降伏値の測定法
ペーストの降伏値は、粘度計(レオテック社、型番RC20)を用いて測定した。プローブにはコーンプレート(C25-2)を用い、温度25℃の条件でせん断速度0〜500毎秒で30段階について、段階的にせん断速度を上げて各粘度を測定した。せん断速度とせん断応力についてカッソンプロットして、切片から降伏値を計算した。
【0056】
B.容量の測定法
直径16.1mm厚さ0.2mmに切り出したリチウム箔を負極とし、直径17mmに切り出したセルガード#2400(セルガード社製)セパレータとして、下記実施例で作製した電極を直径15.9mmにきりだして正極とし、電解液と電解液としてLiPFを1M含有するエチレンカーボネート:ジエチルカーボネート=7:3の溶媒を電解液として、2042型コイン電池を作製し、電気化学評価を行った。レート1C、上限電圧4.0V、下限電圧2.5Vで充放電測定を3回行い、三回目の放電時の容量を放電容量とした。
【0057】
実施例1
極性ポリチオフェンである、ポリ(チオフェン-3-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ-2,5-ジイル]スルホン化物(シグマアルドリッチ社、品番699799、化式参照)10重量部と、薄層カーボンナノチューブ(1次径:4nm、Cheap Tube社製)20重量部とを、クロロホルム(双極子モーメント1.0debye)1000重量部中で混合し、超音波分散機で60分間分散し、カーボンナノチューブ分散液を得た。
【0058】
次に、ロータリーエバポレーターでクロロホルムを除去し、重合体コンポジットを得た。
【0059】
次に、重合体コンポジット12重量部(うち、カーボンナノチューブ8重量部含有)と、溶剤としてN-メチルピロリドン(双極子モーメント4.1debye)を1000重量部と、電極活物質としてリン酸鉄リチウム1000重量部と、導電助剤としてアセチレンブラック(電気化学社製)を24重量部、バインダーとしてポリ弗化ビニリデン100重量部、を加えたものをプラネタリーミキサーで混合して電極ペーストを得た。この電極ペーストの降伏値を測定したところ、4.2 Paであった。
【0060】
電極ペーストをアルミニウム箔(厚さ18μm)にドクターブレード(300μm)を用いて塗布し、200℃15分間乾燥して電極板を得た。該電極板を用いて、電極の放電容量を測定したところ、152mAh/gであった。
【0061】
【化2】

【0062】
実施例2
極性ポリチオフェンである、ポリ(チオフェン-3-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ-2,5-ジイル]スルホン化物15重量部と、薄層カーボンナノチューブ(1次径:4nm)20重量部とを、クロロホルム1000重量部中で混合し、超音波分散機で60分間分散し、カーボンナノチューブ分散液を得た。
【0063】
次に、ロータリーエバポレーターでクロロホルムを除去し、重合体コンポジットを得た。
【0064】
次に、重合体コンポジット14重量部(うち、カーボンナノチューブ8重量部含有)と、溶剤としてN-メチルピロリドンを1000重量部と、電極活物質としてリン酸鉄リチウム1000重量部と、導電助剤としてアセチレンブラック(電気化学社製)を24重量部、バインダーとしてポリ弗化ビニリデン100重量部、を加えたものをプラネタリーミキサーで混合して電極ペーストを得た。この電極ペーストの降伏値を測定したところ、2.5Paであった。
【0065】
電極ペーストをアルミニウム箔(厚さ18μm)にドクターブレード(300μm)を用いて塗布し、200℃15分間乾燥して電極板を得た。該電極板を用いて、電極の放電容量を測定したところ、146mAh/gであった。
【0066】
実施例3
カーボンナノチューブの種類を多層カーボンナノチューブ(1次径150nm、昭和電工社製VGCF-H)とした以外は、実施例1と同じ手法・組成で混練し電極ペーストを得た。この電極ペーストの降伏値を測定したところ、3.5 Paであった。
【0067】
電極ペーストを実施例1と同様に塗布・乾燥して電極板を得た。該電極板を用いて、電極の放電容量を測定したところ、143mAh/gであった。
【0068】
実施例4
カーボンナノチューブの種類を多層カーボンナノチューブ(1次径150nm、昭和電工社製VGCF-H)とした以外は、実施例2と同じ手法・組成で混練し電極ペーストを得た。この電極ペーストの降伏値を測定したところ、1.6 Paであった。
【0069】
電極ペーストを実施例1と同様に塗布・乾燥して電極板を得た。該電極板を用いて、電極の放電容量を測定したところ、140mAh/gであった。
【0070】
比較例1
極性ポリチオフェンである、ポリ(チオフェン-3-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ-2,5-ジイル]スルホン化物16重量部と、薄層カーボンナノチューブ(1次径:4nm)8重量部とを、N-メチルピロリドン976重量部中で混合し、超音波分散機で60分間分散し、カーボンナノチューブ分散液を得た。
【0071】
この分散液1000重量部と、電極活物質としてリン酸鉄リチウム1000重量部と、導電助剤としてアセチレンブラック(電気化学社製)を24重量部、バインダーとしてポリ弗化ビニリデン100重量部、を加えたものをプラネタリーミキサーで混合して電極ペーストを得た。この電極ペーストの降伏値を測定したところ、421 Paであった。
【0072】
電極ペーストをアルミニウム箔(厚さ18μm)にドクターブレード(300μm)を用いて塗布し、200℃15分間乾燥して電極板を得た。該電極板を用いて、電極の放電容量を測定したところ、103mAh/gであった。
【0073】
比較例2
極性ポリチオフェンである、ポリ(チオフェン-3-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ-2,5-ジイル]スルホン化物10重量部と、薄層カーボンナノチューブ(1次径:4nm)20重量部とを、アセトン(双極子モーメント2.9debye)1000重量部中で混合し、超音波分散機で60分間分散し、カーボンナノチューブ分散液を得た。
【0074】
次に、ロータリーエバポレーターでアセトンを除去し、重合体コンポジットを得た。
【0075】
次に、重合体コンポジット12重量部(うち、カーボンナノチューブ8重量部含有)と、溶剤としてN-メチルピロリドンを1000重量部と、電極活物質としてリン酸鉄リチウム1000重量部と、導電助剤としてアセチレンブラック(電気化学社製)を24重量部、バインダーとしてポリ弗化ビニリデン100重量部、を加えたものをプラネタリーミキサーで混合して電極ペーストを得た。この電極ペーストの降伏値を測定したところ、520Paであった。
【0076】
電極ペーストをアルミニウム箔(厚さ18μm)にドクターブレード(300μm)を用いて塗布し、200℃15分間乾燥して電極板を得た。該電極板を用いて、電極の放電容量を測定したところ、96mAh/gであった。
【0077】
比較例3
極性ポリチオフェンである、ポリ(チオフェン-3-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ-2,5-ジイル]スルホン化物6重量部と、薄層カーボンナノチューブ(1次径:4nm)6重量部とを、溶剤としてN-メチルピロリドンを1000重量部と、電極活物質としてリン酸鉄リチウム1000重量部と、導電助剤としてアセチレンブラック(電気化学社製)を24重量部、バインダーとしてポリ弗化ビニリデン100重量部、を加えたものをプラネタリーミキサーで混合して電極ペーストを得た。この電極ペーストの降伏値を測定したところ、235Paであった。
【0078】
電極ペーストをアルミニウム箔(厚さ18μm)にドクターブレード(300μm)を用いて塗布し、200℃15分間乾燥して電極板を得た。
【0079】
該電極板を用いて、電極の放電容量を測定したところ、110mAh/gであった。
【0080】
比較例4
薄層カーボンナノチューブ(1次径:4nm)6重量部と、溶剤としてN-メチルピロリドンを1000重量部と、電極活物質としてリン酸鉄リチウム1000重量部と、導電助剤としてアセチレンブラック(電気化学社製)を24重量部、バインダーとしてポリ弗化ビニリデン100重量部、を加えたものをプラネタリーミキサーで混合して電極ペーストを得た。この電極ペーストの降伏値を測定したところ、820Paであった。
【0081】
電極ペーストをアルミニウム箔(厚さ18μm)にドクターブレード(300μm)を用いて塗布し、200℃15分間乾燥して電極板を得た。該電極板を用いて、電極の放電容量を測定したところ、85mAh/gであった。
【0082】
比較例5
極性ポリチオフェンである、ポリ(チオフェン-3-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ-2,5-ジイル]スルホン化物40重量部と、薄層カーボンナノチューブ(1次径:4nm)20重量部とを、クロロホルム1000重量部中で混合し、超音波分散機で60分間分散し、カーボンナノチューブ分散液を得た。
【0083】
次に、ロータリーエバポレーターでクロロホルムを除去し、重合体コンポジットを得た。
【0084】
次に、重合体コンポジット24重量部(うち、カーボンナノチューブ8重量部含有)と、溶剤としてN-メチルピロリドンを1000重量部と、電極活物質としてリン酸鉄リチウム1000重量部と、導電助剤としてアセチレンブラック(電気化学社製)を24重量部、バインダーとしてポリ弗化ビニリデン100重量部、を加えたものをプラネタリーミキサーで混合して電極ペーストを得た。この電極ペーストの降伏値を測定したところ、2.6Paであった。
【0085】
電極ペーストをアルミニウム箔(厚さ18μm)にドクターブレード(300μm)を用いて塗布し、200℃15分間乾燥して電極板を得た。該電極板を用いて、電極の放電容量を測定したところ、86mAh/gであった。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の手法によりリチウム二次電池用電極を高容量化することでき、高性能のリチウム二次電池製造が可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒、カーボンナノチューブ、極性ポリチオフェン、電極活物質およびバインダーポリマーからなるリチウムイオン電池用電極ペーストの製造方法であって、
工程A:双極子モーメントが0.8Debye以上1.7 Debye以下である溶媒Xと、カーボンナノチューブと、該カーボンナノチューブに対し重量比100wt%以下の極性ポリチオフェン、とを混合分散する工程
工程B:工程Aで作製したカーボンナノチューブ分散液中の固形分濃度が30wt%以上になるまで溶媒を乾燥し、重合体コンポジットを作製する工程
工程C:工程Bで作製した重合体コンポジットと、双極子モーメントが溶媒Xより高い溶媒Yと、電極活物質と、バインダーポリマーとを任意の順で混合する工程
を含み、各工程が工程A,工程B,工程Cの順でなされることを特徴とするリチウムイオン電池用電極ペーストの製造方法。
【請求項2】
溶媒Xがクロロホルムである請求項1記載のリチウムイオン電池用電極ペーストの製造方法。
【請求項3】
溶媒Yの双極子モーメントが3.0Debye以上である請求項1又は2記載のリチウムイオン電池用電極ペーストの製造方法。
【請求項4】
溶媒YがN-メチルピロリドンである請求項1〜3のいずれかに記載のリチウムイオン電池用電極ペーストの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の方法により製造したリチウムイオン電池用電極ペーストを用いて作製したリチウムイオン電池電極。

【公開番号】特開2013−41785(P2013−41785A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−179432(P2011−179432)
【出願日】平成23年8月19日(2011.8.19)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】