説明

リチウムイオン電池用電解液

【課題】過充電時の安全性に優れたリチウムイオン電池用電解液、及びそれを用いたリチウムイオン電池を提供する。
【解決手段】ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、ニトリル基、イソシアネート基、カルバメート結合及びカルボニル基から選ばれる1以上の極性部位を含むアダマンタン誘導体を含むリチウムイオン電池用電解液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用電解液及びそれを用いたリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池の中でもリチウムイオン電池は、高電圧、高エネルギー密度等の優れた特徴を有することから、携帯電話や携帯型パーソナルコンピュータ(いわゆるノートパソコン)に代表される小型電子機器等の駆動用電源として広く使用されており、またその需要は年々増加する傾向にある。
また、小型電子機器の消費電力の増加等を背景としてより高エネルギー密度のリチウムイオン電池が、また電気自動車等に向けて大容量のリチウムイオン電池が求められており、盛んに研究開発がなされている。
【0003】
リチウムイオン電池は、一方、過充電耐性及び熱安定性が低いという問題を抱えており、安全性確保のために素電池(ベアセル)に加えて保護回路や電流制御素子(PTCサーミスタ)等がケースに収納された電池パックの形態で流通している。
しかしながら、例えば、充電器の故障や誤使用による過充電、予備電池パック端子間の短絡等は不測の事態として起こり得、そのような場合には正極、負極共に熱的に不安定となって電解液の有機溶媒が発熱を伴って分解し、異常発熱から熱暴走へ、さらには破裂、発火、最悪の場合には爆発に至る可能性がある。
【0004】
リチウムイオン電池の電気容量及びエネルギー密度の向上に伴い、当然ながら前記のような異常時の危険性は増大することとなり、安全性確保はより重要な課題となる。
過充電時に電池を保護する方法としては、前記の保護回路や電流制御素子による方法の他に、電解液にある種の化合物を添加して電池自身に安全性を付与する方法が複数提案されている。
【0005】
特許文献1、特許文献2には、レドックスシャトルによって安全性を確保する方法が開示されている。この方法は、満充電時の正極電位よりも貴な電位に可逆性酸化還元電位を有するようなπ電子軌道をもつ有機低分子化合物、例えば2,4−ジメチルアニソールや2−クロロ−p−キシレン等を含有した電解液を用いるもので、これらの化合物が正極と負極で可逆的に酸化還元反応を起こし過充電電流を消費する酸化還元試薬(レドックスシャトル)として働き、電池の安全性を確保するというものである。
【0006】
しかしながら、上記の化合物は過充電に対しては有効に作用するものの、サイクル特性や保存特性等の電池特性に悪影響を及ぼすという問題がある。また、この方法には、過充電電流が大きい場合には酸化還元反応が十分には進行せず、電池の安全性を確保することが難しいという問題もある。
【0007】
最大動作電圧以上の電池電圧で重合するモノマー添加剤としてビフェニル等の芳香族化合物を電解液に添加する方法が開示されている。安全性確保の作用機構としては、最大動作電圧以上の電池電圧で当該添加剤が電気化学的に重合して、(1)電池の内部抵抗を高くする(特許文献3)、(2)気体を発生し電流遮断装置を作動させる(特許文献4)、(3)導電性ポリマーを生成し内部短絡を発生する(特許文献5)ことが示されている。しかしながら、これらの添加剤は、分解電圧が低いという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−302614号公報
【特許文献2】特開平9−50822号公報
【特許文献3】特開平9−106835号公報
【特許文献4】特開平9−171840号公報
【特許文献5】特開平10−321258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、過充電時の安全性に優れたリチウムイオン電池用電解液、及びそれを用いたリチウムイオン電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、以下のリチウムイオン電池用電解液等が提供される。
1.ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、ニトリル基、イソシアネート基、カルバメート結合及びカルボニル基から選ばれる1以上の極性部位を含むアダマンタン誘導体を含むリチウムイオン電池用電解液。
2.前記アダマンタン誘導体が、ハロゲン原子又は水酸基を含む1記載のリチウムイオン電池用電解液。
3.前記極性部位が、前記アダマンタン誘導体のアダマンタン骨格を形成する炭素に直接結合しているか、又は前記炭素を含んでいる1又は2記載のリチウムイオン電池用電解液。
4.前記アダマンタン誘導体が、下記式(A)又は(B)で表わされる1〜3いずれか記載のリチウムイオン電池用電解液。
【化1】

(式中、Rはハロゲン原子又は水酸基であり、nは1以上9以下の整数である。Rが複数のとき、Rは同一でも異なってもよい。)
5.前記アダマンタン誘導体を0.01重量%以上20重量%以下含む1〜4いずれか記載のリチウムイオン電池用電解液。
6.1〜5いずれか記載の電解液を用いたリチウムイオン電池。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、過充電時の安全性に優れたリチウムイオン電池用電解液、及びそれを用いたリチウムイオン電池が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1,2及び比較例1のコインセルの過充電評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のリチウムイオン電池用電解液は、ハロゲン原子、水酸基(−OH)、アミノ基(−NH)、ニトリル基(−CN)、イソシアネート基(−N=C=O)、カルバメート結合(−O−CO−NH−)及びカルボニル基(−CO−)から選ばれる1以上の極性部位を有するアダマンタン誘導体を含む。
【0014】
カルボニル基は、アダマンタン誘導体に、ケトンとして、又はカルボキシ基として含まれる。
【0015】
好ましい極性部位は、ハロゲン原子、水酸基、カルボニル基であり、より好ましくはハロゲン原子、水酸基、ケトンとして含まれるカルボニル基である。ハロゲン原子は塩素、臭素、フッ素、ヨウ素であり、好ましくは臭素である。
【0016】
アダマンタン誘導体は、上記の極性部位を、1又は2以上含むことができる。好ましくは1以上5以下、より好ましくは1,2又は3含む。同じ極性部位が2以上含まれていてもよいし、異なる極性部位が含まれていてもよい。例えば、ハロゲン原子、水酸基、カルボニル基から選択される1つから3つを含む。好ましくは、ハロゲン原子とカルボニル基を含む。
【0017】
極性部位を2以上含む誘導体の例として、5−ブロモ−2−アダマンタノン、5−ヒドロキシ−2−アダマンタノン、1,5−ジブロモアダマンタン等が挙げられる。
【0018】
アダマンタン誘導体は、アダマンタン骨格と上記極性部位を含み、さらに他の置換基を含むことができる。他の置換基として、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜20のアルキルアリール基、炭素数7〜16のアラルキル基等が挙げられる。アルキル基は直鎖、分岐、環状を含む。具体例として、5−フェニル−2−ブロモアダマンタン、5−メチル−2−ブロモアダマンタン、5−(2−メチルフェニル)−2−ブロモアダマンタン等が挙げられる。
【0019】
アダマンタン誘導体は、その構造の任意の位置に上記極性部位を含むことができる。
【0020】
極性部位は、アダマンタン誘導体のアダマンタン骨格を形成する炭素に直接結合していてもよい。例えば、2−ブロモアダマンタン等である。
【0021】
また、極性部位は、アダマンタン誘導体のアダマンタン骨格を形成する炭素を含んでいてもよい。例えば、カルボニル基をアダマンタン骨格に含む場合であり、具体例として、2−アダマンタノン等が挙げられる。
【0022】
極性部位は、アダマンタン骨格を形成する炭素に直接結合していなくても、また該炭素を含んでいなくてもよい。即ち、アダマンタン誘導体のアダマンタン骨格以外の構造にあってもよい。例えば、2−ブロモメチルアダマンタン等である。
【0023】
アダマンタン誘導体は、好ましくは、下記式(A)又は(B)で表わされる。
【化2】

【0024】
式中、Rはハロゲン原子又は水酸基である。nは1以上9以下の整数であり、好ましくは1以上4以下の整数である。より好ましくは、1又は2である。Rが複数のとき、Rは同一でも異なってもよい。
【0025】
本発明に用いるアダマンタン誘導体の具体例として、以下の化合物が挙げられる。
1−アダマンタンアセトニトリル、アダマンタン−1−カルボニトリル、1−アダマンタンアミン、1−アダマンタノール、2−アダマンタノール、1,3−アダマンタンジオール、1−アダマンタンメタノール、1−アダマンタンエタノール、2−エチル−2−アダマンタノール、2−メチル−2−アダマンタノール、1−アダマンチルメチルケトン、1−アダマンチルブロモメチルケトン、p−(1−アダマンチル)フェノール、1−クロロアダマンタン、2−クロロアダマンタン、1−ブロモアダマンタン、5−ブロモ−2−アダマンタノン、1−ブロモ−3,5−ジメチルアダマンタン、1,3−ジブロモアダマンタン、1−ヨードアダマンタン、3−クロロアダマンタン−1−カルボン酸、5−クロロアダマンタン−2−オン、エチルアダマンタン−1−カルボン酸、1−アセトキシアダマンタン、1,3−ジアセトキシアダマンタン、1−イソシアナトアダマンタン、1−アダマンチルフェニルカーバメート、1−アダマンチルレゾルシノール、ビスアダマンチルレゾルシノール
【0026】
本発明のアダマンタン誘導体において、各種置換基を導入することで過充電における作動電圧が制御可能となる。本発明のアダマンタン誘導体の分解電圧は、アダマンタン骨格を含むことから、芳香族化合物の分解電圧に比べて高い。これにより、これまでと異なった制御電位での設計が可能となる。
【0027】
アダマンタン誘導体は、無水化、脱水処理されていることが好ましい。無水化、脱水処理は、アダマンタン誘導体を合成した後、窒素下保存することで省略できるが、さらに処理してもよい。
脱水処理として、例えば、電解液にアダマンタン誘導体を添加してから、モレキュラシーブスにて乾燥する。
【0028】
上記のアダマンタン誘導体を用いて、リチウムイオン電池用電解液を製造する。非水系電解液を構成する他の成分としては、特に限定されることはなく、リチウムイオン電池に使用可能な種々の有機溶媒と電解質を適宜組み合わせて使用できる。有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート及びこれらの混合物等が例示される。電解質としては、LiClO、LiBF、LiPF、LiCFSO、LiN(CFSO等が例示される。尚、有機溶媒は、アダマンタン誘導体が溶解するものを適宜選択する。
【0029】
アダマンタン誘導体の電解液への添加量は、電解液に対して好ましくは0.01重量%以上20重量%以下、より好ましくは0.02重量%以上18重量%以下である。添加量が少なすぎる場合、目的とする過充電に対する防止効果が得られない恐れがある。また、添加量が多すぎる場合、電解液の誘電率が低下して、電池性能を低下させる恐れがある。
【0030】
また、電解質の電解液への添加量は、特に限定されないが、電解液に対して通常0.05〜3モル/L、好ましくは0.1〜2モル/Lである。添加量が少なすぎる場合、電池性能が発現しない恐れがある。また、添加量が多すぎる場合、電解液の粘性が上昇する等して、電池出力が低下する恐れがある。
【0031】
上記の電解液は、本発明の効果を損なわない範囲において、他の公知の電解液添加剤を含んでもよい。例えば、本発明の電解液は、アダマンタン誘導体、電解質、有機溶媒を合わせて95%以上、98%以上又は99%以上とすることができる。
【0032】
アダマンタン誘導体を電解液に含有させる方法としては、特に限定されることはないが、あらかじめ有機溶媒にアダマンタン誘導体を溶解させ、モレキュラシーブ等の脱水剤を用いて処理してから用いる方法が好ましい。
【0033】
リチウムイオン電池は、上記のアダマンタン誘導体を含む電解液を、正極と負極で挟んで製造できる。上記の電解液を用いると、過充電による電圧の上昇を抑制することができ安全性が高まる。
なお、本願におけるリチウムイオン電池は、例えば、負極がリチウム金属である二次電池、又は負極がリチウム金属ではないリチウムイオン二次電池である。
正極の材料としては、LiMn、LiCoOやLiNiO等の複合金属酸化物、リチウムを含む層間化合物等が例示される。
【0034】
負極の材料としては、リチウムを吸蔵、放出可能な人造黒鉛、天然黒鉛等の炭素質材料、酸化錫、酸化珪素等の金属酸化物、種々のリチウム合金、リチウム金属等が例示される。
【0035】
二次電池に用いることのできるセパレータとしては、多孔性のポリプロピレン、ポリエチレン膜等が例示される。
【実施例】
【0036】
実施例1
[アダマンタン誘導体添加電解液の調製]
窒素雰囲気下、グローブボックス内でエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート(キシダ化学株式会社製)30/70(体積比)に、5−ブロモ−2−アダマンタノンを添加し、さらにリチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(キシダ化学株式会社製)を添加して調製した。5−ブロモ−2−アダマンタノンは電解液において7重量%であり、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドは1モル/Lであった。
【0037】
[正極側の過充電評価用コインセルの製造]
アルゴン雰囲気下、グローブボックス内で正極剤(正極単相シート「ピオクセル」P−100プレス品:パイオトレック株式会社製)、セパレーター(セルガード社製)、及び金属リチウム(厚さ0.2mm、本荘ケミカル社製)をコインセル(2032)内に積層して、上記アダマンタン誘導体添加電解液を添加して、かしめ機を用いてかしめてコインセルとした。
【0038】
[過充電評価]
上記コインセルを充放電装置(東方技研製PS−08)を用いて、0.5mAで定電流充電を行い、規定容量の2.5倍になるまで充電を行った。結果を図1に示す。
【0039】
実施例2
5−ブロモ−2−アダマンタノン7重量%の代わりに、5−ヒドロキシ−2−アダマンタノンを3重量%となるように添加した他は、実施例1と同様に電解液とコインセルを製造し評価した。結果を図1に示す。
【0040】
比較例1
5−ブロモ−2−アダマンタノンを添加しなかった他は、実施例1と同様に電解液とコインセルを製造し評価した。結果を図1に示す。
【0041】
図1から、実施例1及び実施例2では、比較例1に比べて充電に伴う電圧の上昇を抑制していることが読み取れる。これは、充電のために流れる電流を、実施例1及び実施例2では、添加したアダマンタン誘導体が消化することによって、電池電圧の上昇を抑制しているためである。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の電解液は、リチウムイオン電池に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、ニトリル基、イソシアネート基、カルバメート結合及びカルボニル基から選ばれる1以上の極性部位を含むアダマンタン誘導体を含むリチウムイオン電池用電解液。
【請求項2】
前記アダマンタン誘導体が、ハロゲン原子又は水酸基を含む請求項1記載のリチウムイオン電池用電解液。
【請求項3】
前記極性部位が、前記アダマンタン誘導体のアダマンタン骨格を形成する炭素に直接結合しているか、又は前記炭素を含んでいる請求項1又は2記載のリチウムイオン電池用電解液。
【請求項4】
前記アダマンタン誘導体が、下記式(A)又は(B)で表わされる請求項1〜3いずれか記載のリチウムイオン電池用電解液。
【化3】

(式中、Rはハロゲン原子又は水酸基であり、nは1以上9以下の整数である。Rが複数のとき、Rは同一でも異なってもよい。)
【請求項5】
前記アダマンタン誘導体を0.01重量%以上20重量%以下含む請求項1〜4いずれか記載のリチウムイオン電池用電解液。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか記載の電解液を用いたリチウムイオン電池。

【図1】
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【公開番号】特開2012−204005(P2012−204005A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64664(P2011−64664)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】