説明

リチウムポリマー電池

【課題】 高エネルギー密度を有し、高レート特性、充放電サイクル特性を改善したリチウムポリマー電池を提供する。
【解決手段】 正極、セパレータ、負極、ゲル電解質を含むリチウムポリマー電池において、ゲル電解質が溶媒と架橋型高分子と重合開始剤を含み、架橋型高分子が重合性官能基を2つ以上有するモノマーおよびオリゴマーから選択される2種類以上で構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムポリマー電池に関し、さらに詳しくは、ゲル電解質を構成する架橋型高分子が重合性官能基を2つ以上有するモノマーおよびオリゴマーの2種類以上からなるリチウムポリマー電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムポリマー電池は、薄型化が可能であること、形状選択の自由度の高さ、電解液を用いないことに依る安全性の高さなどから、モバイル機器用の電源などとして注目されている。最近では、用いられるモバイル機器の機能の増加に伴い、高エネルギー化とそれに伴う電池特性の改善が技術開発の目標となっている。こうした中で重要な技術課題として、1)安全性の向上、2)サイクル特性の改善、3)高エネルギー密度化などが挙げられる。
【0003】
このなかで、1)安全性の向上において、可燃性の有機電解液をゲルポリマーにトラップすることで漏液を防止することが提案されている。例えば、特許文献1では、2種類の低分子量アクリレートモノマーから構成されるゲル電解質が提案され、特許文献2では、繰り返し単位数が2〜4のポリプロピレングリコールアクリレートで構成されるゲル電解質が提案されている。また、特許文献3は、分子量5000〜500000のアクリル樹脂と架橋用モノマー(架橋用モノマーは1から30質量%の範囲内)から構成されるゲル電解質が提案され、特許文献4には分子量10000〜25000のオリゴマーなどを用いたものが記載されている。次に、2)のサイクル特性の改善については、スルホン酸エステルを添加剤として加えることが本出願人により、特願2006−064049号として出願されている。3)高エネルギー密度化については、特許文献5において、物理ゲルを用いたリチウムポリマー電池において、ゲル電解質と活物質の複合電極の多孔度を適切に規定することで容量密度が向上することが提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開2000−306604号公報
【特許文献2】特開2001−338690号公報
【特許文献3】特開2001−243835号公報
【特許文献4】特開2003−197262号公報
【特許文献5】特開平11−307100号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ゲル電解質を用いる場合、有機電解液と同等のイオン伝導度が求められる。そのためには、ゲル電解質中のポリマー濃度を低くすることと、かつ、適度な機械的強度と電解液の保液特性を有することが求められる。また、電池の電流応答を妨げないために、ゲル電解質と電極表面との親和性を制御できることが非常に重要である。
【0006】
低分子量体のアクリルモノマーのみを用いてゲル電解質を構成する場合、重合後のポリマー鎖が短いとゲルの機械的強度が低くなり、保液性が低くなる。したがって、機械的強度と保液性を確保するため、プレゲル溶液のモノマー濃度を高くする必要がある。この場合、ゲル電解液中のイオン伝導度に関与しないポリマー含有率が高くなるため、有機電解液と同等のイオン伝導度を得ることが難しくなる。また、ポリマー鎖を長くする(機械的強度を上げる)ためには、重合開始剤の添加量を増やす、または、重合温度、重合時間を細かく制御する必要がある。重合開始剤の添加量を増やした場合には、重合開始剤から生成する不純物によりセル抵抗が上昇したり、サイクル特性が低下したりする。また、重合過程を仔細に制御しなければならない場合には、工程が煩雑となるなどの欠点があった。また、低分子量モノマーから構成されるゲル電解質は電極界面との密着性が高すぎるため、界面抵抗が高くなる、つまり、ハイレート特性が悪いという欠点があった。低分子モノマーが電極表面近傍で優先的に重合し、電極界面にポリマー層をリチウムイオン伝導性のないポリマー層を形成するためと推測される。
【0007】
また、ある程度の分子量を有するアクリレート樹脂と架橋用モノマーからゲル電解質を構成する場合は、長い分子鎖を有するためポリマー濃度を低くすることができ、また、重合開始剤がごく少量でゲル電解質を形成することができる。しかしながら、分子量が高いためにプレゲル溶液の粘度が高くなり、電極やセパレータへのプレゲル溶液の含浸性が低くなり、エネルギー密度が低下する(容量出現率が低下する)、サイクル特性が低下するという欠点があった。
【0008】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものである。本発明の課題は、高エネルギー密度を有し、高レート特性、充放電サイクル特性を改善したリチウムポリマー電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため本発明のリチウムポリマー電池は、正極、セパレータ、負極、ゲル電解質を含むリチウムポリマー電池において、前記ゲル電解質が溶媒と架橋型高分子と重合開始剤を含み、前記架橋型高分子が重合性官能基を2つ以上有するモノマーおよびオリゴマーから選択される2種類以上で構成される。
【0010】
また、本発明のリチウムポリマー電池は、前記ゲル電解質が、スルホン酸エステル、ビニレンカーボネートとその誘導体、および下記化1で示される化合物から選択される少なくとも一つ以上を含むことが好ましい。
【0011】
【化1】

【0012】
但し、化1において、Zはハロゲン原子、置換もしくは無置換の炭素数1〜10のアルキル基、ポリフルオロアルキル基、または置換もしくは無置換の炭素数4〜20の環状炭化水素、またはXR5(ここでXは酸素原子、硫黄原子またはNR6を表し、R6は水素原子または置換もしくは無置換の炭素数1〜10のアルキル基を表し、R5は置換もしくは無置換の炭素数4〜20の環状炭化水素を表す)を表す。nは0〜4の整数を表す。A1及びA2はそれぞれ独立に酸素原子、硫黄原子または、A1がNR7でA2がNR8(ここでR7とR8はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換もしくは無置換の炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のポリフルオロアルキル基または置換もしくは無置換の炭素数4〜20の環状炭化水素を表す。また、R7とR8はお互いに結合して環構造を形成しても良い)を表す。Lは、メチレン基又は単結合を表す。Mは、ホウ素又はリンを表す。B1及びB2はそれぞれ独立にカルボニル基、置換もしくは無置換のアルキレン基又はポリフルオロアルキレン基を表す。mは、1〜3の整数を表す(ただし、Mがホウ素のとき2m+n=4、Mがリンのとき2m+n=6である)。
【0013】
また、本発明のリチウムポリマー電池は、前記スルホン酸エステルが0.1〜3.0質量%、および/または前記ビニレンカーボネートもしくはその誘導体が0.1〜3.0質量%、および/または前記化1で示される化合物が0.1〜3.0質量%含まれることが好ましく、前記架橋型高分子を構成するモノマーおよびオリゴマーのそれぞれの複数の重合性官能基のうち少なくとも1つはアクリレート基またはメタクリレート基であることが好ましく、前記架橋型高分子を構成するモノマーの重量平均分子量が200〜1000であることが好ましく、前記架橋型高分子を構成するオリゴマーの重量平均分子量が1000〜50000であることが好ましく、前記架橋型高分子を構成するオリゴマーが、重合性官能基を分子内に4個以上100個以下有することが好ましく、前記架橋性高分子が少なくとも2種類のモノマーと1種類のオリゴマーから構成されることが好ましく、前記架橋型高分子を構成するオリゴマーが、ゲル電解質を構成するポリマーのうち、5〜70質量%であることが好ましく、前記溶媒が炭酸プロピレンを除く環状カーボネート又は鎖状カーボネートを含有することが好ましく、前記スルホン酸エステルが環状スルホン酸エステル、環状ジスルホン酸エステル又は鎖状ジスルホン酸エステルの少なくとも一種で構成されることが好ましく、前記環状スルホン酸エステルが、1, 3−プロパンスルトン又は1, 4−ブタンスルトンから選ばれる少なくとも一種で構成されることが好ましく、前記環状ジスルホン酸エステルが、メチレンメタンジスルホネート、エチレンメタンジスルホネート及びプロピレンメタンジスルホネートから選ばれる少なくとも一種であることが好ましく、前記正極が活物質としてマンガン酸リチウム又はコバルト酸リチウムを含有することが好ましく、前記負極が活物質として黒鉛を含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ゲル電解質の架橋型高分子に複数の重合性官能基を有するオリゴマーとモノマーを用いつつ、ゲル電解質に重合開始剤、また、好ましくは、スルホン酸エステル、ビニレンカーボネート等の添加剤を加えることにより、プレゲル溶液の電極およびセパレータへの良好な含浸性を維持でき、高いエネルギー密度を実現でき、かつ接触面積が大きくなることにより、ハイレート特性が実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、ある程度の分子量を有するアクリレート樹脂(オリゴマー)と、低分子量アクリレート(モノマー)を用いた場合においても、プレゲル溶液の良好な含浸性を維持し、また、電極とゲル電解質との密着性を維持するとともに、電極界面抵抗を抑制しつつ、負極表面に良好な固体電解質層(SEI)を形成することにより、リチウムポリマー電池の特性を改善できることを見出したものである。
【0016】
さらに好ましくは、分子量1000〜50000の複数の官能基を有するアクリレート樹脂(オリゴマー)と、少なくとも1種の分子量200〜1000の複数の官能基を有するアクリレートモノマーと、重合開始剤とスルホン酸エステルが0.1〜3.0質量%、および/または前記ビニレンカーボネートもしくはその誘導体が0.1〜3.0質量%、および/または化1で示される化合物が0.1〜3.0質量%を含有したプレゲル溶液を電池構成部材に含浸させた後、所定の重合条件で重合、充電を行い、ゲル電解質を形成することで上記問題を解決し、エネルギー密度が高く、ハイレート充放電可能、かつ、良好なサイクル特性を有するリチウムポリマー電池を提供できる。
【0017】
上記ゲル電解質のオリゴマーとしては、特許文献3の実施例に記載された分子量20000〜30000のオリゴマーや、特許文献4の実施例に記載された分子量10000〜25000のオリゴマーなどが使用できる。
【0018】
これらオリゴマーは、ゲル電解質を構成するポリマーの5〜70質量%が好ましく、さらに10〜60質量%が好ましく、さらに40〜55質量%が好ましい。オリゴマーが5質量%以下では、機械的強度と保液性を高める効果がほとんどなく、電極界面の抵抗値が高くなる。70質量%を超えると、プレゲル溶液の粘度が高くなり電極やセパレータへの含浸性が低くなる。
【0019】
上記ゲル電解質のモノマーとしては、熱重合可能な重合基を一分子あたり2個以上有するモノマーである、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、プロピレンジアクリレート、ジプロピレンジアクリレート、トリプロピレンジアクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレートなどの2官能アクリレート、また、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレートなどの3官能アクリレート、また、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレートなどの4官能アクリレート、および、上記のメタクリレートモノマーなどが挙げられ、また、ウレタンアクリレート、ウレタンメタクリレートなどのモノマーなどが使用できる。
【0020】
これらモノマーは、ゲル電解質を形成するポリマーの30〜95質量%が好ましく、さらに40〜90質量%が好ましく、さらに45〜60質量%が好ましい。また、2官能アクリレートモノマーまたはメタクリレートモノマー、3官能以上のアクリレートモノマーまたはメタクリレートモノマーをそれぞれ単独、または2種以上を併用してもよい。
【0021】
上記ゲル電解質に含まれる溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)等の環状カーボネート類、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)等の鎖状カーボネート類、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチル等の脂肪族カルボン酸エステル類、γ−ブチロラクトン等のγ−ラクトン類、1,2−エトキシエタン(DEE)、エトキシメトキシエタン(EME)等の鎖状エーテル類、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等の環状エーテル類、ジメチルスルホキシド、1,3−ジオキソラン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、プロピルニトリル、ニトロメタン、エチルモノグライム、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、エチルエーテル、1,3−プロパンスルトン、アニソール、N−メチルピロリドン、フッ素化カルボン酸エステルなどの非プロトン性有機溶媒を一種又は二種以上を混合して使用できるが、これらに限定されるものではない。また、プロピレンカーボネート(PC)はゲル化を阻害するため使用しない。
【0022】
上記ゲル電解質に含まれる電解質は、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22など一般的にリチウムイオン電池に用いられる電解質が使用できる。
【0023】
ゲル電解質に含ませるスルホン酸エステルとしては、環状モノスルホン酸エステル、環状ジスルホン酸エステル、鎖状スルホン酸エステルなどが適宜使用できる。環状モノスルホン酸エステルとしては1,3−プロパンスルトン(1,3−PS)、α−トリフルオロメチル−γ−スルトン、β−トリフルオロメチル−γ−スルトン、γ−トリフルオロメチル−γ−スルトン、α−メチル−γ−スルトン、α,β−ジ(トリフルオロメチル)−γ−スルトン、α,α−ジ(トリフルオロメチル)−γ−スルトン、α−ウンデカフルオロペンチル−γ−スルトン、α−ヘプタフルオロプロピル−γ−スルトン、1,4−ブタンスルトン(1,4−BS)などがあげられる。環状ジスルホン酸エステルとしてはメチレンメタンジスルホネート(MMDS)、エチレンメタンジスルホネート(EMDS)、プロピレンメタンジスルホネート(PMDS)等があげられる。鎖状スルホン酸エステルとしては、メタンスルホン酸メチルエステル、メタンスルホン酸エチルエステル、ブスルファン、ジメチル-メタンジスルホネートなどが挙げられる。
【0024】
これらのゲル電解質中に含まれるスルホン酸エステルの濃度は、特に限定されるものではないが、正極活物質としてマンガン酸リチウムを含む正極を使用した二次電池の場合には、0.1質量%以上3.0質量%以下が好ましく、更に0.5質量%以上1.0質量%以下が特に好ましい。0.1質量%未満では電極表面に十分な皮膜が形成されず、サイクルト特性やレート特性の改善効果が小さい。3.0質量%を越えると、抵抗が高くなってレート特性が悪くなる。
【0025】
正極活物質としてコバルト酸リチウムを用いる場合には、ゲル電解質中に含まれるスルホン酸エステルの濃度は、特に限定されるものではないが、0.5質量%以上〜5.0質量%以下が好ましく、更に好ましくは0.5質量%以上2.0質量%以下が特に好ましい。0.5質量%未満では電極表面に十分な皮膜が形成されず、サイクル特性やレート特性の改善効果が小さい。5.0質量%を越えると、抵抗が高くなってレート特性が悪くなる。
【0026】
ゲル電解質に含まれる化1で示される有機化合物としては、化2、化3で示される有機化合物が挙げられる。
【0027】
【化2】

【0028】
【化3】

【0029】
ゲル電解質に含ませる化1で示される有機化合物は、さらに化合物番号1〜6として表1に示される有機化合物があげられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0030】
【表1】

【0031】
ゲル電解質に含まれる化1で示される有機化合物の濃度は特に限定されるものではないが、0.1質量%以上3.0質量%以下が好ましく、更に0.5質量%以上2.0質量%以下が特に好ましい。
【0032】
ゲル電解質に更にビニレンカーボネートまたはその誘導体を適宜含有させることにより化1で示される有機化合物により形成された皮膜を安定化させるのに有効である。ビニレンカーボネートはマンガン酸リチウムおよびコバルト酸リチウム電極において効果があるが、特に、正極にコバルト酸リチウムを用いた場合に効果が大きく、含有するビニレンカーボネートの濃度は、0.1質量%以上3.0質量%以下が好ましく、特に好ましくは0.1質量%以上1.0質量%以下である。
【0033】
本発明において、必要に応じて、熱重合開始剤としてベンゾイン類、パーオキサイド類などが使用できるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
上記正極活物質は、リチウムイオンを吸蔵、放出し得る酸化物、例えば、LiCoO2、LiNi1-xCox2、LiMn24,LiNixMn2-x4(ここで0<x≦1)など、マンガン酸リチウムやコバルト酸リチウムを含有する金属酸化物正極材料が使用できる。
【0035】
上記負極活物質は、リチウムを吸蔵する黒鉛、非晶質炭素、ダイヤモンド状炭素、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーンなど、あるいはこれらの複合物や金属リチウムが使用できる。
【0036】
本発明のセパレータは、不織布、ポリオレフィン微多孔膜など一般的にリチウムポリマー電池で使用されるもので、多孔質を有するものが使用できる。
【0037】
本発明により、重合性官能基として2つ以上のアクリレート基またはメタクリレート基を有するオリゴマーとモノマーを用いつつ、オリゴマーとモノマーの配合比を規定することにより、プレゲル溶液の電極かつセパレータへの良好な含浸性を維持でき、高いエネルギー密度を実現でき、かつ接触面積が大きくなることにより、ハイレート特性が実現できる。
【0038】
また、モノマー濃度を制御することにより、電極かつセパレータへの良好な含浸性を維持でき、含浸した状態でゲル化するため、電極とセパレータをゲル電解質がつなぎとめることにより、電極とセパレータとの密着性が高まり、サイクルに伴う電極の膨潤、収縮が繰り返し起こった場合でも良好な密着性を維持でき、抵抗の上昇を抑制することで、サイクル特性の向上が実現できる。
【0039】
また、オリゴマーが存在すること、モノマー濃度を制御することにより、電極界面抵抗を抑制することができ、電極のリチウムイオンの受け入れ、放出の特性が向上する。ならびに、スルホン酸エステルにより、負極表面にリチウムイオン伝導性の良好な固体電解質層(SEI)を形成することができるため、以上の相乗効果により、負極界面でのリチウムイオン受け入れ特性が大きく向上し、ハイレート充電可能な電池が実現できる。
【0040】
負極活物質として、特に、リン片状黒鉛を用いる場合、人造黒鉛とは異なり活性な部位を有しており、充放電を行うたびにガス発生をまねき、セル膨れ、容量低下を引き起こすことから、電解液のみから構成される電池ではこの対策として、一般的にビニレンカーボネート(VC)や、1,3-プロパンスルトン(PS)などを用いている。例えばPSの最低空軌道エネルギー(LUMO)は0.07eVであり、PSが溶媒分子であるEC(LUMO:1.18eV)やDEC(LUMO:1.26eV)よりも先に分解し皮膜を形成することが考えられる。その結果、溶媒分子の分解が抑制され、ガス発生による電池の膨れの抑制やレート特性改善が期待できる。本発明の系のようにポリマーゲル中に分散させた場合には、ゲルが高抵抗であるため上記VC,PSは負極電極上で分解皮膜が形成されにくい(最低空軌道エネルギー(LUMO):PS(0.07eV)、VC(0.09eV))。そのため、PSやVCよりもよりLUMOの小さい分子の添加剤が望ましく、−1.5eV以上0eV以下のものが最適である。化1で示される有機化合物はリチウムイオン二次電池の電極上での分解皮膜を形成すると考えられている。例えば化2で示される有機化合物の最低空軌道エネルギー(LUMO)は-1.21eVであり、化2で示される有機化合物が溶媒分子であるEC(LUMO:1.18eV)やDEC(LUMO:1.26eV)よりも先に分解し皮膜を形成することが考えられる。その結果溶媒分子の分解が抑制され、ガス発生による電池の膨れの抑制やレート特性改善が期待できる。また、化3で示される有機化合物の最低空軌道エネルギー(LUMO)は−0.24eVである。また、例えば正極にマンガン酸リチウムを含む場合には化2または化3で示される有機化合物の添加によってゲル中に溶出したMnが負極表面に吸着することを防止し、結果として抵抗上昇によるレート特性の低下の抑制やサイクル特性向上に有効であると考えられる。
【0041】
以上の、ゲル電解質による電極とセパレータとの良好な密着性、電極界面のSEI形成によるリチウムイオンの受け入れ特性の向上により、電極の膨潤が抑制され、サイクルに伴うセル厚みの増加が抑制された電池が実現できる。
【実施例】
【0042】
本発明を実施例により図面を参照して詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0043】
図1は本発明のリチウムポリマー電池の正極の構成を説明する図であり、図2は本発明のリチウムポリマー電池の負極の構成を説明する図であり、図3は本発明のリチウムポリマー電池の巻回後の電池要素の構成を説明する図である。
【0044】
(実施例1)
先ず、図1により正極の作製について説明する。LiMn24を85質量%、導電補助材としてアセチレンブラックを7質量%、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン8質量%とを混合したものに、N−メチルピロリドンを加えてさらに混合して正極スラリーを作製した。これをドクターブレード法により集電体となる厚さ20μmのAl箔2の両面にロールプレス処理後の厚さが160μmになるように塗布し、正極活物質塗布部3を形成した。なお、両端部にはいずれの面にも正極活物質が塗布されていない正極活物質非塗布部4、および片面のみに正極活物質が塗布されていない正極活物質片面塗布部5を設け、一方の正極活物質非塗布部4に正極導電タブ6を設け正極1とした。
【0045】
次に、図2により負極の作製について説明する。黒鉛90質量%、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン10質量%とを混合し、N−メチルピロリドンを加えてさらに混合して負極スラリーを作製した。これを集電体となる厚さ10μmのCu箔8両面にロールプレス処理後の厚さが120μm、電極密度が1.50g/cm3になるように塗布し、負極活物質塗布部9を形成した。なお、両端部の一方の端面には片面のみ塗布した負極活物質片面塗布部10と負極活物質が塗布されていない負極活物質非塗布部11を設け、負極導電タブ12を取り付け負極7とした。
【0046】
図3により電池要素の作製について説明する。膜厚12μm、気孔率35%のポリエチレン製の微多孔膜からなるセパレータ13を二枚溶着して切断した部分を巻回装置の巻き芯に固定し巻きとり、正極1(図1)、及び負極7(図2)の先端を導入する。正極1は正極導電タブ6の接続部の反対側を、負極7は負極導電タブ12の接続部側を先端側として、負極は二枚のセパレータの間に、正極電極はセパレータの上面にそれぞれ配置して巻き芯を回転させ巻回し、電池要素(以下ジェリーロール(J/R)と表記)を形成した。
【0047】
このJ/Rをエンボス加工したラミネート外装体に収容し、正極導電タブ6と負極導電タブ12を引き出しラミネート外装体の1辺を折り返し、プレゲル溶液注液用の部分を残して熱融着を行った。
【0048】
オリゴマーは以下のように作製した。ガラス容器で(1)n−ブチルアクリレート43質量%、エチルアクリレート10質量%、アクリロニトリル20質量%、2−ヒドロキシエチルアクリレート1質量%とエチルメチルケトン26質量%を混合し、92℃まで加温した後、(2)アゾビスイソブチロニトリルを(1)に対して0.1質量%とメチルエチルケトンを5質量%混合したものを加え3時間保持した。次に(3)t−ブチルパーオキシベンゾエートを(1)に対して0.5質量%とメチルエチルケトン20質量%を混合したものを滴下しながら3時間90℃に保持したのち、自然冷却して固形分を析出させて、ろ過、洗浄を行った。そののち、固形分に対して1.5倍量のメチルエチルケトンを加えて溶解させた後、(4)2−イソシアネートエチルメタクリレートを固形分に対して10質量%とメチルエチルケトン20質量%を混合したものを加えて70℃に加温したまま6時間保持した後、自然冷却させ、メタノールを加えて重合物を析出させた後、ろ過、洗浄を行い、真空乾燥してオリゴマーAを得た。
【0049】
プレゲル溶液は、エチレンカーボネート(EC)30質量%とジエチルカーボネート(DEC)58質量%に、リチウム塩としてLiPF612質量%からなる電解液に対して、1,3−PSを1質量%、ビニレンカーボネートを0.5質量%、化3で示される有機化合物を0.5質量%、ポリマー構成材料として、オリゴマーAを2.5質量%、エチレングリコールジアクリレート(EGDA)とトリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPTMA)をそれぞれ1.25質量%ずつ加え、よく混合した後に、重合開始剤として、t−ブチルパーオキシピバレートを0.5質量%混合することで作製した。表2に配合比を示した。
【0050】
【表2】

【0051】
次に、注液部を残して封止したラミネート注液部分からプレゲル溶液を注液し真空含浸を行い、注液部分を熱融着してリチウムポリマー電池を得た。
【0052】
得られたリチウムポリマー電池を、電池電圧4.2Vまで充電(充電条件:電流:0.2C、時間:6.5時間、温度20℃)した後、0.2Cで電池電圧3.0Vまで放電したときの放電容量を初期容量とした。設計容量に対する初期容量を割合で表して容量出現率として表3に示した。
【0053】
得られたリチウムポリマー電池のレート特性は、電池電圧4.2Vまで充電された電池を放電レート(0.2C)で電池電圧3.0Vまで放電し得られた放電容量に対して放電レート(1.0C、3.0C)で放電し得られた放電容量を割合で表して表3に示した。
【0054】
得られたリチウムポリマー電池のサイクル後のセル体積変化率は、初期充電後のセル体積を1.0とし、サイクル後のセル体積との増加分を割合で表3に示した。なお、サイクルの条件は、充電:上限電圧4.2V、電流1.0C、時間2.5時間、放電:下限電圧3.0V、電流1.0Cとし、いずれも20℃で実施した。容量維持率は、1サイクル目の放電容量に対する100サイクル目の放電容量の割合で表3に示した。
【0055】
【表3】

【0056】
実施例2は、1,3−PSを含まない以外は実施例1と同様に作製し、評価を行った。
【0057】
実施例3は、ビニレンカーボネートを含まない以外は実施例1と同様に作製し、評価を行った。
【0058】
実施例4は、化3で示される有機化合物を含まない以外は実施例1と同様に作製し、評価を行った。
【0059】
実施例5は、電解液に対して、オリゴマーAを2.5質量%、EGDAを0.5質量%、TMPTMAを2質量%混合した以外は実施例1と同様に作製し、評価を行った。
【0060】
実施例6は、電解液に対して、オリゴマーAを2.5質量%、EGDAを2.5質量%混合した以外は実施例1と同様に作製し、評価を行った。
【0061】
実施例7は、電解液に対して、オリゴマーAを2.5質量%、TMPTMAを2.5質量%混合した以外は実施例1と同様に作製し、評価を行った。
【0062】
実施例8は、電解液に対して、オリゴマーAを1.5質量%、EGDAを1.75量%、TMPTMAを1.75質量%混合した以外は実施例1と同様に作製し、評価を行った。
【0063】
実施例9は、正極活物質としてコバルト酸リチウムを用いて行った。正極は次のように作製した。LiCoO2を87質量%、導電補助材としてアセチレンブラックを5質量%、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン8質量%を混合したものに、N−メチルピロリドンを加えてさらに混合して正極スラリーを作製した。それ以外は実施例1と同様に正極、負極を作製しセルを作製した。そのほかは、実施例1と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0064】
実施例10は、電解液に対して、オリゴマーAを4.25質量%、EGDAを0.375質量%、TMPTMAを0.375質量%混合した以外は実施例1と同様に作製し、評価を行った。
【0065】
実施例11は、電解液に対して、オリゴマーAを4.25質量%、TMPTMAを0.75質量%混合した以外は実施例1と同様に作製し、評価を行った。
【0066】
実施例12は、1,3−PS、ビニレンカーボネートおよび化3で示される有機化合物を含まない以外は実施例1と同様に作製し、評価を行った。
【0067】
比較例1は、オリゴマーAを用いないで、電解液に対して、EGDAを2.5質量%、TMPTMAを2.5質量%混合した以外は実施例1と同様に作製し、評価を行った。
【0068】
比較例2は、正極活物質として実施例9に示したコバルト酸リチウムを用いた以外は比較例1と同様に作製し、評価を行った。
【0069】
比較例3は、1,3−PS、ビニレンカーボネートおよび化3で示される有機化合物を含まない以外は比較例1と同様に作製し、評価を行った。
【0070】
表2には、実施例と比較例の水準をまとめ、表3には評価結果を示した。
【0071】
オリゴマーAの存在により、電極界面のポリマー層の抵抗成分が減少したためレート特性が非常に改善された。しかしながら、オリゴマーA量が多すぎると、プレゲル溶液の粘度が高く、含浸性が低下し、容量出現率が低下した。モノマー成分の3官能基のTMPTMAを適量混合することによりさらに電極界面の抵抗成分が減少し、サイクル特性も向上した。モノマー成分としてEGDAによりセパレータと電極の密着性が向上したことによりレート特性が向上した。しかしながら、モノマー成分が多すぎると、界面抵抗が増加しレート特性がやや低下した。また、正極材料を変えた場合でも、オリゴマーAの効果が確認できた。したがって、適当なオリゴマーとモノマーの混合比とすることで、本発明の効果が確認できた。
【0072】
スルホン酸エステルおよびビニレンカーボネート、および化3で示される有機化合物が存在することにより、レート特性、特にサイクル特性が改善されることが確認された。
【0073】
以上より、オリゴマーA量を適量混合することで高容量、かつ良好なレート特性を実現でき、モノマーの配合を制御することで良好なレート特性とサイクル特性、セル厚みのサイクルに伴う増加の抑制を実現できた。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明のリチウムポリマー電池の正極の構成を説明する図。
【図2】本発明のリチウムポリマー電池の負極の構成を説明する図。
【図3】本発明のリチウムポリマー電池の巻回後の電池要素の構成を説明する図。
【符号の説明】
【0075】
1 正極
2 Al箔
3 正極活物質塗布部
4 正極活物質非塗布部
5 正極活物質片面塗布部
6 正極導電タブ
7 負極
8 Cu箔
9 負極活物質塗布部
10 負極活物質片面塗布部
11 負極活物質非塗布部
12 負極導電タブ
13 セパレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、セパレータ、負極、ゲル電解質を含むリチウムポリマー電池において、前記ゲル電解質が溶媒と架橋型高分子と重合開始剤を含み、前記架橋型高分子が重合性官能基を2つ以上有するモノマーおよびオリゴマーから選択される2種類以上で構成されるリチウムポリマー電池。
【請求項2】
前記ゲル電解質が、スルホン酸エステル、ビニレンカーボネートとその誘導体、および下記化1で示される化合物から選択される少なくとも一つ以上を含む請求項1に記載のリチウムポリマー電池。
【化1】

(但し、化1において、Zはハロゲン原子、置換もしくは無置換の炭素数1〜10のアルキル基、ポリフルオロアルキル基、または置換もしくは無置換の炭素数4〜20の環状炭化水素、またはXR5(ここでXは酸素原子、硫黄原子またはNR6を表し、R6は水素原子または置換もしくは無置換の炭素数1〜10のアルキル基を表し、R5は置換もしくは無置換の炭素数4〜20の環状炭化水素を表す)を表す。nは0〜4の整数を表す。A1及びA2はそれぞれ独立に酸素原子、硫黄原子または、A1がNR7でA2がNR8(ここでR7とR8はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換もしくは無置換の炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のポリフルオロアルキル基または置換もしくは無置換の炭素数4〜20の環状炭化水素を表す。また、R7とR8はお互いに結合して環構造を形成しても良い)を表す。Lは、メチレン基又は単結合を表す。Mは、ホウ素又はリンを表す。B1及びB2はそれぞれ独立にカルボニル基、置換もしくは無置換のアルキレン基又はポリフルオロアルキレン基を表す。mは、1〜3の整数を表す(ただし、Mがホウ素のとき2m+n=4、Mがリンのとき2m+n=6である))。
【請求項3】
前記スルホン酸エステルが0.1〜3.0質量%、および/または前記ビニレンカーボネートもしくはその誘導体が0.1〜3.0質量%、および/または前記化1で示される化合物が0.1〜3.0質量%含まれる請求項2に記載のリチウムポリマー電池。
【請求項4】
前記架橋型高分子を構成するモノマーおよびオリゴマーのそれぞれの複数の重合性官能基のうち少なくとも1つはアクリレート基またはメタクリレート基である請求項1ないし3のいずれか1項に記載のリチウムポリマー電池。
【請求項5】
前記架橋型高分子を構成するモノマーの重量平均分子量が200〜1000である請求項1ないし4のいずれか1項に記載のリチウムポリマー電池。
【請求項6】
前記架橋型高分子を構成するオリゴマーの重量平均分子量が1000〜50000である請求項1ないし5のいずれか1項に記載のリチウムポリマー電池。
【請求項7】
前記架橋型高分子を構成するオリゴマーが、重合性官能基を分子内に4個以上100個以下有する請求項1ないし6のいずれか1項に記載のリチウムポリマー電池。
【請求項8】
前記架橋性高分子が少なくとも2種類のモノマーと1種類のオリゴマーから構成される請求項1ないし7のいずれか1項に記載のリチウムポリマー電池。
【請求項9】
前記架橋型高分子を構成するオリゴマーが、ゲル電解質を構成するポリマーのうち、5〜70質量%である請求項1ないし8のいずれか1項に記載のリチウムポリマー電池。
【請求項10】
前記溶媒が炭酸プロピレンを除く環状カーボネート又は鎖状カーボネートを含有する請求項1ないし9のいずれか1項に記載のリチウムポリマー電池。
【請求項11】
前記スルホン酸エステルが環状スルホン酸エステル、環状ジスルホン酸エステル又は鎖状ジスルホン酸エステルの少なくとも一種で構成される請求項2ないし10のいずれか1項に記載のリチウムポリマー電池。
【請求項12】
前記環状スルホン酸エステルが、1, 3−プロパンスルトン又は1, 4−ブタンスルトンから選ばれる少なくとも一種で構成される請求項11に記載のリチウムポリマー電池。
【請求項13】
前記環状ジスルホン酸エステルが、メチレンメタンジスルホネート、エチレンメタンジスルホネート及びプロピレンメタンジスルホネートから選ばれる少なくとも一種である請求項11に記載のリチウムポリマー電池。
【請求項14】
前記正極が活物質としてマンガン酸リチウム又はコバルト酸リチウムを含有する請求項1ないし13のいずれか1項に記載のポリマーリチウム電池。
【請求項15】
前記負極が活物質として黒鉛を含有する請求項1ないし14のいずれか1項に記載のリチウムポリマー電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−71624(P2008−71624A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−249262(P2006−249262)
【出願日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】