説明

リチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物及びその製造方法、並びにそれを部材として使用したリチウム二次電池

【課題】高容量が可能となるリチウム二次電池正極材料への用途に適する層状岩塩型の結晶構造を有するリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物及びその製造方法、並びにその活物質を含有した電極を構成部材として含むリチウム二次電池を提供すること。
【解決手段】LiMnTiNi1−y−z(ただし式中、0<x≦1.0、0.5≦y<1.0、0<z≦0.5、0.5<y+z≦1.0)で表されるリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物を主成分とし、結晶構造が、菱面体晶系で空間群R−3mの層状岩塩型結晶構造であることを特徴とするリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物、及びその製造方法、並びにその化合物を電極活物質として含むリチウム二次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用の正極材料活物質及びその製造方法、並びにそれを部材として使用したリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
現在我が国においては、携帯電話、ノートパソコンなどの携帯型電子機器に搭載されている二次電池のほとんどは、リチウム二次電池である。また、リチウム二次電池は、今後はハイブリッドカー、電力負荷平準化システム用などの大形電池としても実用化されるものと予想されており、その重要性はますます高まっている。
【0003】
このリチウム二次電池は、いずれもリチウムを可逆的に吸蔵・放出することが可能な材料を含有する正極及び負極、非水系有機溶媒にリチウムイオン伝導体を溶解させた電解液、セパレータを主要構成要素とする。
【0004】
これらの構成要素のうち、電極用の活物質として検討されているのは、リチウムコバルト酸化物(LiCoO)、リチウムマンガン酸化物(LiMn)、リチウムチタン酸化物(LiTi12)などの酸化物系、金属リチウム、リチウム合金、スズ合金などの金属系、及び黒鉛、MCMB(メソカーボンマイクロビーズ)などの炭素系材料が挙げられる。
【0005】
これらの材料について、それぞれの活物質中のリチウム含有量における、化学ポテンシャルの差によって、電池の電圧が決定されるが、特に組み合わせによって、大きな電位差を形成できることが、エネルギー密度に優れるリチウム二次電池の特徴である。
【0006】
その中でも、層状岩塩型構造を有するリチウムコバルト酸化物LiCoO活物質と炭素材料を電極とした組み合わせにおいて、4V近い電圧が可能となり、また充放電容量(電極から脱離・挿入可能なリチウム量)も大きく、さらに安全性も高いことから、この電極材料の組み合わせが、現行のリチウム二次電池において広く採用されている。
【0007】
今後、リチウム二次電池は、自動車用電源や大容量のバックアップ電源、緊急用電源など、大型で高出力、長寿命のものが必要となることが予測されることから、前項のような酸化物系正極材料活物質について、さらに高性能(高容量)な電極活物質が必要とされていた。
【0008】
一方、大型リチウム二次電池の普及に伴って、資源量が少ないコバルトを使用することは、資源とコストの観点からも問題であり、コバルトを活物質構成元素として使用しないような正極材料の開発が必要とされていた。
【0009】
このうち、マンガン酸化物系活物質は、対極にリチウム金属を使用した場合、約3〜4V程度の電圧であることから、様々な結晶構造を有する材料が電極活物質としての可能性について検討されている。
【0010】
中でも、スピネル型リチウムマンガン酸化物LiMnは、リチウム基準で4V領域に電位平坦部を有し、リチウム脱離・挿入反応の可逆性が良好であることから、現在、実用材料のひとつとなっている。
【0011】
しかしながら、酸化物活物質重量当たりの容量は100mA/g程度しかなく、高容量リチウム二次電池への応用は困難であった。
【0012】
一方、リチウムコバルト酸化物と類似した層状岩塩型構造を有するリチウムマンガン酸化物LiMnOは、リチウム含有量が多いことから、高容量材料として注目されている。
【0013】
中でも、菱面体晶系で空間群R−3mの層状岩塩型構造を有するリチウムマンガン酸化物(LiMnO)は、リチウム基準で約3Vの電位平坦部を有し、200mAh/g程度の放電容量が報告されている。(非特許文献1、2参照)
【0014】
しかしながら、充放電のサイクルを繰り返すと、スピネル構造へ構造が変化し、それに伴い、充放電の電圧が変化してしまうことから、実用上問題があった。
【0015】
これに対して、LiMnOのマンガンを他の遷移金属で置換することによって、スピネル構造への構造変化が抑制され、高容量が得られることが知られている。
【0016】
中でも、LiCoOと同じ菱面体晶系で空間群R−3mの層状岩塩型構造を有するリチウムニッケルマンガン酸化物(LiNi0.5Mn0.5)活物質を含む電極は、230mAh/g程度の放電容量が報告されている。(非特許文献3参照)
【0017】
また、同じ層状岩塩型構造を有し、前述のリチウムニッケルマンガン酸化物の化学組成を基本として、さらにマンガンの一部をチタンに置換したリチウムニッケルマンガンチタン複合酸化物LiNi0.5Mn0.5−xTi(0<x≦0.3)が知られている。(非特許文献4参照)
【0018】
チタンを導入することで結晶構造の安定性がさらに高められ、電池特性が改善できており、本系にチタンを導入することの利点が明らかとなっている。(非特許文献4参照)
【0019】
しかしながら、公知のこれらの材料の充放電反応は、含有するニッケルの2価−4価の酸化還元反応を利用するものであるため、構成元素としてニッケル含有量が0.5であることが必要であり、正極材料の原材料価格が高くなってしまうことが問題である。
【0020】
一方、層状岩塩型構造を有する系で、リチウム、マンガン、チタン、ニッケルを主要構成元素とした酸化物に関する公知の文献は、上記以外にはなかった。
【0021】
また、この系でマンガン含有量が多い組成の酸化物は、リチウム原料と直接高温で焼成するような通常の固相反応法による合成では、スピネル型のリチウムマンガン酸化物が生成してしまうため、この系の酸化物の材料の製造方法についても明らかではなかった。

【先行技術文献】
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】A.R.Armstrong, A.J.Paterson,A.D.Robertson, P.G.Bruce,Chemistry of Materials,14,710−719(2002)
【非特許文献2】S.H.Park,Y.−K.Sun,C.S.Yoon,C.−K.Kim,J.Prakash,Journal of Materials Chemistry,12,3827−3831(2002)
【非特許文献3】Z.Lu,L.Y.Beaulieu,R.A.Donaberger,C.L.Thomas,J.R.Dahn,Journal of The Electrochemical Society,149,A778−A791(2002)
【非特許文献4】S.T.Myung,S.Komaba,K.Hosoya,N.Hirosaki,Y.Miura,N.Kumagai,Chemistry of Materials,17,2427−2435(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
したがって、本発明は、上記のような現状の課題を解決し、高容量が期待できるリチウム二次電池正極材料として重要な層状岩塩型構造を有するリチウムマンガンチタンニッケル酸化物活物質、およびその製造方法、並びにその活物質を含有した電極を構成部材として含むリチウム二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明者は鋭意検討した結果、ナトリウムマンガンチタンニッケル複合酸化物を出発原料として、溶液中でリチウム化処理する工程を利用することで、層状岩塩型構造を有するリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物LiMnTiNi1−y−z(ただし式中、0<x≦1.0、0.5≦y<1.0、0<z≦0.5、0.5<y+z≦1.0)が作製可能であることが確認でき、さらに、このリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物を正極活物質として作製した電極を用いたリチウム二次電池において、300mAh/gを超える高容量と、可逆的な充放電反応が確認できたことで、本発明は完成するに至った。
【0025】
本発明は、下記に示す層状岩塩型構造を有するリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物LiMnTiNi1−y−z(ただし式中、0<x≦1.0、0.5≦y<1.0、0<z≦0.5、0.5<y+z≦1.0)、及びその製造方法を提供する。
すなわち、本発明は、LiMnTiNi1−y−z(ただし式中、0<x≦1.0、0.5≦y<1.0、0<z≦0.5、0.5<y+z≦1.0)なる化学組成を有することを特徴とするリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物である。
また本発明は、LiMnTiNi1−y−z(ただし式中、0<x≦1.0、0.5≦y<1.0、0<z≦0.5、0.5<y+z≦1.0)なる化学組成を有し、結晶構造が、層状岩塩型構造であることを特徴とするリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物である。
さらに本発明は、LiMnTiNi1−y−z(ただし式中、0<x≦1.0、0.5≦y<1.0、0<z≦0.5、0.5<y+z≦1.0)なる化学組成を有し、結晶構造が、菱面体晶系で空間群R−3mの層状岩塩型構造であることを特徴とするリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物である。
また本発明は、LiMnTiNi1−y−z(ただし式中、0<x≦1.0、0.5≦y<1.0、0<z≦0.5、0.5<y+z≦1.0)なる化学組成を有し、結晶構造が、菱面体晶系で空間群R−3mの層状岩塩型構造であり、さらにその六方晶格子を用いた格子定数が0.283nm<a<0.287nm、1.440nm<c<1.490nmであることを特徴とするリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物である。
さらに本発明は、ナトリウムマンガンチタンニッケル複合酸化物NaMnTiNi1−y−z(ただし式中、0<x≦1.0、0.5≦y<1.0、0<z≦0.5、0.5<y+z≦1.0)を出発原料として、ナトリウムとリチウムをイオン交換する工程によって合成されることを特徴とするLiMnTiNi1−y−z(ただし式中、0<x≦1.0、0.5≦y<1.0、0<z≦0.5、0.5<y+z≦1.0)なる化学組成を有することを特徴とするリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物の製造方法である。
また、本発明のリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物の製造方法においては、ナトリウムマンガンチタンニッケル複合酸化物NaMnTiNi1−y−z(ただし式中、0<x≦1.0、0.5≦y<1.0、0<z≦0.5、0.5<y+z≦1.0)を出発原料として、リチウム塩を溶解させた溶液中で20℃から200℃の温度範囲で処理するイオン交換工程によって合成されることを特徴とするLiMnTiNi1−y−z(ただし式中、0<x≦1.0、0.5≦y<1.0、0<z≦0.5、0.5<y+z≦1.0)なる化学組成を有することを特徴とするリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物の製造方法である。
また、本発明のリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物の製造方法においては、イオン交換工程において、リチウム塩が、硝酸リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、水酸化リチウムよりなる群れより選ばれる塩類を1種若しくは2種以上を用いることができる。
さらに、本発明のリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物の製造方法においては、イオン交換工程において、リチウム塩を溶かす溶媒として、水、エタノール、ブタノール、ヘキサノール、プロパノール、テトラヒドロフラン、アセトン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、酢酸、ギ酸よりなる極性溶媒から1種以上を用いることができる。
また、本発明は、正極、負極、セパレータ及び電解質を含むリチウム二次電池において、上記の本発明に係るリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物を正極の電極活物質として含有する正極を用いたリチウム二次電池に関するものでもある。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、層状岩塩型構造を有するリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物LiMnTiNi1−y−z(ただし式中、0<x≦1.0、0.5≦y<1.0、0<z≦0.5、0.5<y+z≦1.0)が作製可能であり、このリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物を正極活物質として作製した電極を用いたリチウム二次電池において、高容量と、可逆性の高い充放電特性が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】リチウム二次電池の1例を示す模式図である。
【図2】実施例1で得られた本発明の出発原料であるナトリウムマンガンチタンニッケル複合酸化物Na0.57Mn0.51Ti0.23Ni0.26のX線粉末回折図形である。
【図3】実施例1でイオン交換によって得られた本発明のリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物Li0.55Mn0.51Ti0.23Ni0.26のX線粉末回折図形である。
【図4】実施例1でイオン交換によって得られた本発明のリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物Li0.55Mn0.51Ti0.23Ni0.26活物質を電極として用いた電池の充放電に伴う電圧変化を示す図である。
【図5】実施例3〜実施例6、および比較例1で得られた本発明の出発原料であるナトリウムマンガンチタン複合酸化物およびナトリウムマンガン酸化物のX線粉末回折図形である。
【図6】実施例3〜実施例6、および比較例1で得られた本発明のリチウムマンガンチタン複合酸化物およびリチウムマンガン酸化物のX線粉末回折図形である。
【図7】実施例6でイオン交換によって得られた本発明のリチウムマンガンチタン複合酸化物Li0.56Mn0.87Ti0.13活物質を電極として用いた電池の充放電に伴う電圧変化を示す図である。
【図8】実施例11〜実施例17で得られた本発明の出発原料であるナトリウムマンガンチタンニッケル複合酸化物のX線粉末回折図形である。
【図9】実施例11〜実施例17で得られた本発明のリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物のX線粉末回折図形である。
【図10】実施例11で得られた本発明のリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物を電極活物質として用いた電池の充放電に伴う電圧変化を示す図である。
【図11】実施例12で得られた本発明のリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物を電極活物質として用いた電池の充放電に伴う電圧変化を示す図である。
【図12】実施例13で得られた本発明のリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物を電極活物質として用いた電池の充放電に伴う電圧変化を示す図である。
【図13】実施例14で得られた本発明のリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物を電極活物質として用いた電池の充放電に伴う電圧変化を示す図である。
【図14】実施例15で得られた本発明のリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物を電極活物質として用いた電池の充放電に伴う電圧変化を示す図である。
【図15】実施例16で得られた本発明のリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物を電極活物質として用いた電池の充放電に伴う電圧変化を示す図である。
【図16】実施例17で得られた本発明のリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物を電極活物質として用いた電池の充放電に伴う電圧変化を示す図である。
【図17】実施例25および実施例27で得られた本発明のリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物のX線粉末回折図形である。
【図18】実施例25で得られた本発明のリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物を電極活物質として用いた電池の充放電に伴う電圧変化を示す図である。
【図19】実施例27で得られた本発明のリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物を電極活物質として用いた電池の充放電に伴う電圧変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明者らは、層状岩塩型構造を有するナトリウムマンガンチタンニッケル複合酸化物NaMnTiNi1−y−z(ただし式中、0<x≦1.0、0.5≦y<1.0、0<z≦0.5、0.5<y+z≦1.0)を出発原料としたリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物の製造方法について鋭意検討した結果、アルカリイオンの占有席が変化し、菱面体晶系で空間群R−3mの層状岩塩型構造となったLiMnTiNi1−y−z(ただし式中、0<x≦1.0、0.5≦y<1.0、0<z≦0.5、0.5<y+z≦1.0)が作製可能であることを見出し、同構造を有する新規化学組成の化合物であることを見出した。
【0029】
その結果として、公知の層状岩塩型構造を有するリチウムマンガン酸化物系と比べて、本発明の菱面体晶系で空間群R−3mの層状岩塩型構造となったリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物を活物質として作製した正極を使用したリチウム二次電池において、200mAh/gを超える初期容量と、充放電に伴うスピネル構造への変化が見られないことが確認できたことから、本発明は完成するに至った。
【0030】
本発明のリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物は、ナトリウムマンガンチタンニッケル複合酸化物NaMnTiNi1−y−z(ただし式中、0<x≦1.0、0.5≦y<1.0、0<z≦0.5、0.5<y+z≦1.0)を出発原料として、含有するナトリウムをリチウムと交換させたLiMnTiNi1−y−z(ただし式中、0<x≦1.0、0.5≦y<1.0、0<z≦0.5、0.5<y+z≦1.0)なる化学組成をもつ化合物である。
その結晶構造の特徴として、層状岩塩型構造を取ることを特徴とする化合物である。
より詳しい層状岩塩型構造の特徴として、結晶系が菱面体晶系であり空間群R−3mに属する化合物である。
さらにより詳しい層状岩塩型構造の特徴として、その六方晶格子を用いた格子定数が0.283nm<a<0.287nm、1.440nm<c<1.490nmであることを特徴としている。
また、このリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物の製造方法は、ナトリウムマンガンチタンニッケル複合酸化物NaMnTiNi1−y−z(ただし式中、0<x≦1.0、0.5≦y<1.0、0<z≦0.5、0.5<y+z≦1.0)を出発原料として、イオン交換処理することを特徴としている。
より詳しいイオン交換処理を用いた製造方法としては、リチウム塩を溶解させた溶液中で20℃以上200℃以下の温度範囲で合成することを特徴としている。
さらにより詳しいイオン交換処理を用いた製造方法としては、リチウム塩として硝酸リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、水酸化リチウムよりなる群れより選ばれる塩類1種以上を用いて合成することを特徴としている。
さらにまた詳しいイオン交換処理を用いた製造方法としては、リチウム塩を溶かす溶媒として、水、エタノール、ブタノール、ヘキサノール、プロパノール、テトラヒドロフラン、アセトン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、酢酸、ギ酸よりなる極性溶媒から1種以上を用いて合成することを特徴としている。
さらにまた、このリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物は、蓄電池、リチウム二次電池において正極材料活物質として使用できることを特徴とする。
【0031】
本発明に係わる製造方法をさらに詳しく説明する。
(出発原料ナトリウムマンガンチタンニッケル複合酸化物NaMnTiNi1−y−z(ただし式中、0<x≦1.0、0.5≦y<1.0、0<z≦0.5、0.5<y+z≦1.0)の合成)
本発明のうち、出発原料であるNaMnTiNi1−y−z(ただし式中、0<x≦1.0、0.5≦y<1.0、0<z≦0.5、0.5<y+z≦1.0)は、原料として、ナトリウム金属、或いはナトリウム化合物の少なくとも1種、及びマンガン金属、またはマンガン化合物の少なくとも1種、チタン金属、またはチタン化合物の少なくとも1種、ニッケル金属、またはニッケル化合物の少なくとも1種を、NaMnTiNi1−y−z(ただし式中、0<x≦1.0、0.5≦y<1.0、0<z≦0.5、0.5<y+z≦1.0)の化学組成となるように秤量・混合し、空気中などの酸素ガスが存在する雰囲気中で加熱することによって、製造することができる。
【0032】
あるいはまた、出発原料として、ナトリウム、マンガン、チタン、ニッケルの2種類以上からなる化合物を用いて、NaMnTiNi1−y−z(ただし式中、0<x≦1.0、0.5≦y<1.0、0<z≦0.5、0.5<y+z≦1.0)の化学組成となるように秤量・混合し、空気中などの酸素ガスが存在する雰囲気中で加熱することによって、製造することができる。
【0033】
ナトリウム原料としては、ナトリウム(金属ナトリウム)及びナトリウム化合物の少な
くとも1種を用いる。ナトリウム化合物としては、ナトリウムを含有するものであれば特に制限されず、例えばCHCOONa、CHCOONa・3HO等の酢酸塩、NaNO等の塩類、NaOHなどの水酸化物、NaO、Na等の酸化物、NaCO等の炭酸塩等が挙げられる。或いはすでにNaTiO、NaTiなどのナトリウムチタン酸化物、NaMnOなどのナトリウムマンガン酸化物、NaNiOなどのナトリウムニッケル酸化物となっている化合物等が挙げられる。これらの中でも、500℃以下の低い温度でも反応性が高い、CHCOONa等が好ましい。
【0034】
マンガン原料としては、マンガン(金属マンガン)及びマンガン化合物の少なくとも1種を用いる。マンガン化合物としては、マンガンを含有するものであれば特に制限されず、例えばMnO、Mn、Mn、MnO等の酸化物、MnOH、MnOOH等の水酸化物等が挙げられる。これらの中でも、マンガン水酸化物等が好ましい。
【0035】
チタン原料としては、チタン(金属チタン)及びチタン化合物の少なくとも1種を用いる。チタン化合物としては、チタンを含有するものであれば特に制限されず、例えばTiO、Ti、TiO等の酸化物、TiCl等の塩類等が挙げられる。或いはすでにマンガンチタン化合物となっている水酸化物等が挙げられる。これらの中でも、600℃以下の低い温度でも反応性が高いマンガンチタン水酸化物等が好ましい。
【0036】
ニッケル原料としては、ニッケル(金属ニッケル)及びニッケル化合物の少なくとも1種を用いる。ニッケル化合物としては、ニッケルを含有するものであれば特に制限されず、例えばNiO等の酸化物、NiOH、NiOOH等の水酸化物等が挙げられる。或いはすでにマンガンニッケル化合物となっている水酸化物、マンガンチタンニッケル化合物となっている水酸化物等が挙げられる。これらの中でも、500℃以下の低い温度でも反応性が高く、不純物が生成し難いことから、マンガンチタンニッケル水酸化物等が好ましい。
【0037】
はじめに、これらを含む混合物を調整する。各構成元素の混合割合は、NaMnTiNi1−y−z(ただし、0<x≦1.0、0.5≦y<1.0、0<z≦0.5、0.5<y+z≦1.0)の化学組成となるように混合することが好ましい。また、加熱時にナトリウムは揮発しやすいので、若干過剰の仕込み量とした方がよく、好ましくは、0.5〜1.1の範囲とすればよい。また、混合方法は、これらを均一に混合できる限り特に限定されず、例えばミキサー等の公知の混合機を用いて、湿式又は乾式で混合すればよい。
【0038】
次いで、混合物を焼成する。焼成温度は、原料によって適宜設定することができるが、通常は、400℃〜1000℃程度、好ましくは450℃から650℃とすればよい。また、焼成雰囲気も特に限定されず、通常は酸化性雰囲気又は大気中で実施すればよい。
【0039】
焼成時間は、焼成温度等に応じて適宜変更することができる。冷却方法も特に限定されないが、通常は自然放冷(炉内放冷)又は徐冷とすればよい。
【0040】
焼成後は、必要に応じて焼成物を公知の方法で粉砕し、さらに上記の焼成工程を実施してもよいが、ナトリウムの揮発を抑えるためには、1回の焼成とすることが好ましい。なお、粉砕の程度は、焼成温度などに応じて適宜調節すればよい。
【0041】
(リチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物LiMnTiNi1−y−z(ただし式中、0<x≦1.0、0.5≦y<1.0、0<z≦0.5、0.5<y+z≦1.0)の合成)
次いで、上記により得られたNaMnTiNi1−y−z(ただし式中、0<x≦1.0、0.5≦y<1.0、0<z≦0.5、0.5<y+z≦1.0)を出発原料として、リチウム化合物を含む溶液中でリチウム交換反応を適用することにより、出発化合物中のナトリウムのほとんどがリチウムと交換したリチウムイオン交換体LiMnTiNi1−y−z(ただし式中、0<x≦1.0、0.5≦y<1.0、0<z≦0.5、0.5<y+z≦1.0)が得られる。
【0042】
ここで、リチウム化合物としては、硝酸リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、水酸化リチウムなどの、200℃以下の低温で溶液に溶ける塩類のうち、1種類以上を用いることができる。これらの中でも、臭化リチウムの使用が好ましい。
【0043】
また、本発明においては、溶媒としては、水、エタノール、ブタノール、ヘキサノール、プロパノール、テトラヒドロフラン、アセトン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、酢酸、ギ酸などの極性溶媒のうち、いずれか1種以上を含む溶液を用いることができる。
とくに、極性溶剤としてアセトニトリルを用いた場合には、イオン交換処理となるばかりでなく、実施例25、実施例27に見られるように、リチウムイオンの化学量論的保有量を増加させることもでき、イオン挿入という効果があることを見出した。
【0044】
この際、リチウム化合物を溶解させた溶液中において、粉砕されたNaMnTiNi1−y−z(ただし式中、0<x≦1.0、0.5≦y<1.0、0<z≦0.5、0.5<y+z≦1.0)原料粉末を分散させながら、イオン交換処理を施すことが好適である。好ましい方法としては、溶媒にリチウム化合物をあらかじめ溶解させ、そこに原料粉末を投入するとよい。混合比は、通常、出発原料化合物中のナトリウム量に対して、リチウム化合物中のリチウム量を、原子比で2〜100倍、好ましくは7〜20倍となるようにすればよい。
【0045】
イオン交換処理の温度は、20〜200℃、好ましくは60〜120℃である。交換処理の温度が60℃よりも低い場合は、十分にナトリウム脱離することが困難である。一方、溶融塩処理の温度が120℃よりも高い場合は、溶液の揮発が激しくなるために、均質な試料を得ることができない。処理時間としては、通常1〜60時間、好ましくは3〜24時間である。
【0046】
イオン交換処理後、得られた生成物を蒸留水でよく洗浄し、その後メタノール、エタノール等で洗浄し、乾燥させることによって、目的とする組成式LiMnTiNi1−y−z(ただし式中、0<x≦1.0、0.5≦y<1.0、0<z≦0.5、0.5<y+z≦1.0)で表される化合物が得られる。洗浄方法、乾燥方法については、特に制限されず、通常の方法が用いられるが、乾燥方法としては、80℃でまず溶媒をよく揮発させた後で、120〜200℃の温度で乾燥させることが好ましい。
【0047】
なお、イオン交換処理の条件によっては、完全にナトリウムが脱離せず、リチウム化合物中に有意の量のナトリウムが含有することがある。このため、より含有するナトリウム量を減らすと共に、イオン挿入により処理後のリチウム量を増加させるために、イオン交換処理を2回以上繰り返しても良い。
【0048】
(リチウム二次電池)
本発明のリチウム二次電池は、前記リチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物LiMnTiNi1−y−z(ただし式中、0<x≦1.0、0.5≦y<1.0、0<z≦0.5、0.5<y+z≦1.0)を活物質として含有する正極を構成部材として用いるものである。すなわち、正極材料活物質として本発明のリチウムマンガンチタンニッケル酸化物を用いる以外は、公知のリチウム電池(コイン型、ボタン型、円筒型、全固体型等)の電池要素をそのまま採用することができる。図1は、本発明のリチウム二次電池を、コイン型リチウム二次電池に適用した1例を示す模式図である。このコイン型電池1は、負極端子2、負極3、(セパレータ+電解液)4、絶縁パッキング5、正極6、正極缶7により構成される。
【0049】
本発明では、上記本発明のリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物活物質に、必要に応じて導電剤、結着剤等を配合して正極合材を調整し、これを集電体に圧着することにより正極が作製できる。集電体としては、好ましくはステンレスメッシュ、アルミメッシュ、アルミ箔等を用いることができる。導電剤としては、好ましくはアセチレンブラック、ケッチェンブラック等を用いることができる。結着剤としては、好ましくはテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等を用いることができる。
【0050】
正極合材におけるリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物活物質、導電剤、結着剤等の配合も特に限定的ではないが、通常は導電剤が1〜30重量%程度(好ましくは5〜25重量%)、結着剤が0〜30重量%(好ましくは3〜10重量%)とし、残部を本発明のリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物活物質となるようにすればよい。
【0051】
本発明のリチウム二次電池において、上記正極に対する対極としては、例えば金属リチウム、リチウム合金、及び黒鉛、MCMB(メソカーボンマイクロビーズ)などの炭素系材料など、負極として機能し、リチウムを吸蔵・放出可能な公知のものを採用することができる。
【0052】
また、本発明のリチウム二次電池において、セパレータ、電池容器等も公知の電池要素を採用すればよい。
【0053】
さらに、電解質としても公知の電解液、固体電解質等が適用できる。例えば、電解液としては、過塩素酸リチウム、6フッ化リン酸リチウム等の電解質を、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)等の溶媒に溶解させたものが使用できる。
【0054】
以下に、実施例を示し、本発明の特徴とするところをより一層明確にする。本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0055】
(出発原料ナトリウムマンガンチタンニッケル複合酸化物Na0.57Mn0.51Ti0.23Ni0.26の合成)
純度99%以上の酢酸ナトリウム(CHCOONa)粉末と、共沈法によって得られたマンガンチタンニッケル水酸化物(Mn:Ti:Ni=0.50:0.25:0.25)粉末を原子量比でNa:Mn:Ni:Ti=0.7:0.50:0.25:0.25となるように秤量した。これらを乳鉢中で混合したのち、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉を用いて、空気中500℃で12時間焼成した。その後、電気炉中で自然放冷し、出発原料を得た。
【0056】
得られた化合物について、粉末X線回折装置(リガク製、商品名RINT2550V)により結晶構造を調べたところ、良好な結晶性を有する、菱面体晶系に属する層状岩塩型構造のほぼ単一相であることが明らかとなった。この時の粉末X線回折図形を図2に示す。また、各指数とその面間隔を用いて、最小二乗法により格子定数を求めたところ、以下の値となり、格子定数からも新規化学組成を有する層状岩塩型構造であることが確認された。
a=0.289nm±0.001nm
c=1.685nm±0.002nm
【0057】
さらに、得られた化合物について、ICP発光分析法(VARIAN社製、商品名VISTA−Pro)により化学組成を分析したところ、Na0.57Mn0.51Ti0.23Ni0.26の組成式であることが明らかとなった。
【0058】
(リチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物Li0.55Mn0.51Ti0.23Ni0.26の合成)
次に、得られたNa0.57Mn0.51Ti0.23Ni0.26粉体試料を、ガラス製容器に入れた、あらかじめ純度99%以上の臭化リチウム粉末を溶解させたエタノール中に投入した。出発原料と臭化リチウムの量比は、Na:Liのモル比で1:8とした。この容器を、空気中80℃で6時間加熱することによって、リチウムイオン交換処理を行った。処理後、純水、及びエタノールでよく洗浄し、60℃で乾燥することによって、イオン交換体を得た。
【0059】
得られた試料について、X線粉末回折装置により、菱面体晶系、空間群R−3mの層状岩塩型構造を有する単一相であることが明らかとなった。その粉末X線回折図形を図3に示す。また、各指数とその面間隔を用いて、最小二乗法によりそれぞれ格子定数を求めたところ、以下の値となり、格子定数からも新規化学組成を有する層状岩塩型構造であることが確認された。
a=0.287nm±0.001nm
c=1.450nm±0.001nm
【0060】
さらに、得られた化合物について、ICP発光分析法により化学組成を分析したところ、Li0.55Mn0.51Ti0.23Ni0.26の組成式であることが明らかとなり、また、残留しているナトリウム量は化学組成式あたり0.03以下であることが確認された。
【実施例2】
【0061】
(リチウム二次電池)
このようにして得られたリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物Li0.55Mn0.51Ti0.23Ni0.26を活物質とし、導電剤としてアセチレンブラック、結着剤としてテトラフルオロエチレンを、重量比で45:45:10となるように配合し電極を作製し、対極にリチウム金属を用いて、6フッ化リン酸リチウムをエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との混合溶媒(体積比1:1)に溶解させた1M溶液を電解液とする、図1に示す構造のリチウム二次電池(コイン型セル)を作製し、その充放電特性を測定した。電池の作製は、公知のセルの構成・組み立て方法に従って行った。
【0062】
作製されたリチウム二次電池について、25℃の温度条件下で、電流密度30mA/g、5.0V−1.5Vのカットオフ電位で定電流充放電試験を行ったところ、充放電曲線は、電圧4Vと3V付近に電圧平坦分を有し、初期放電容量245mAh/gという高容量が得られることが判明した。充放電反応に伴う電圧変化を、図4に示す。また、カットオフ電位を4.5−2.4Vに変更した場合、さらに可逆性が高い充放電挙動が確認された。以上から、本発明のLi0.55Mn0.51Ti0.23Ni0.26活物質が、リチウム基準の作動電圧が3V以上である高容量のリチウム二次電池の正極材料として有用であることが明らかとなった。
【実施例3】
【0063】
(出発原料ナトリウムマンガンチタン複合酸化物Na0.56Mn0.53Ti0.47の合成)
純度99%以上の酢酸ナトリウム(CHCOONa)粉末と、マンガンチタンの組成比が、Mn:Ti=0.51:0.49組成であらかじめ共沈法で得られたマンガンチタン水酸化物粉末を原子量比でNa:M(M=Mn、Ti)=0.7:1.0となるように秤量した。これらを乳鉢中で混合したのち、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉を用いて、空気中500℃で12時間焼成した。その後、電気炉中で自然放冷し、出発原料を得た。
【0064】
得られた化合物について、粉末X線回折装置により結晶構造を調べたところ、いずれも結晶性はあまり高くないものの、菱面体晶系に属する層状岩塩型構造のほぼ単一相であることが明らかとなった。この時の粉末X線回折図形を図5(a)に示す。
【0065】
さらに、得られた化合物について、ICP発光分析法により化学組成を分析したところ、Na0.56Mn0.53Ti0.47なる化学組成式であることが明らかとなった。
【0066】
(リチウムマンガンチタン複合酸化物Li0.45Mn0.55Ti0.45の合成)
次に、得られたナトリウムマンガンチタン複合酸化物粉体試料を、実施例1と同条件でイオン交換処理を行い、イオン交換体を得た。
【0067】
得られた試料について、X線粉末回折装置により、菱面体晶系、空間群R−3mの層状岩塩型構造を有する単一相であることが明らかとなった。その粉末X線回折図形を図6(a)に示す。また、各指数とその面間隔を用いて、最小二乗法によりそれぞれ格子定数を求めたところ、以下の値となり、格子定数からも新規化学組成を有する層状岩塩型構造であることが確認された。
a=0.285nm±0.001nm
c=1.473nm±0.011nm
【0068】
さらに、得られた化合物について、ICP発光分析法により化学組成を分析したところ、Li0.45Mn0.55Ti0.45の組成式であることが明らかとなり、また、残留しているナトリウム量は化学組成式あたり0.15以下であることが確認された。
【実施例4】
【0069】
(出発原料ナトリウムマンガンチタン複合酸化物Na0.64Mn0.70Ti0.30の合成)
純度99%以上の酢酸ナトリウム(CHCOONa)粉末と、マンガンチタンの組成比が、Mn:Ti=0.67:0.33組成であらかじめ共沈法で得られたマンガンチタン水酸化物粉末を原子量比でNa:M(M=Mn、Ti)=0.7:1.0となるように秤量した。これらを乳鉢中で混合したのち、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉を用いて、空気中500℃で12時間焼成した。その後、電気炉中で自然放冷し、出発原料を得た。
【0070】
得られた化合物について、粉末X線回折装置により結晶構造を調べたところ、いずれも結晶性はあまり高くないものの、菱面体晶系に属する層状岩塩型構造のほぼ単一相であることが明らかとなった。この時の粉末X線回折図形を図5(b)に示す。
【0071】
さらに、得られた化合物について、ICP発光分析法により化学組成を分析したところ、Na0.64Mn0.70Ti0.30なる化学組成式であることが明らかとなった。
【0072】
(リチウムマンガンチタン複合酸化物Li0.48Mn0.70Ti0.30の合成)
次に、得られたナトリウムマンガンチタン複合酸化物粉体試料を、実施例1と同条件でイオン交換処理を行い、イオン交換体を得た。
【0073】
得られた試料について、X線粉末回折装置により、菱面体晶系、空間群R−3mの層状岩塩型構造を有する単一相であることが明らかとなった。その粉末X線回折図形を図6(b)に示す。また、各指数とその面間隔を用いて、最小二乗法によりそれぞれ格子定数を求めたところ、以下の値となり、格子定数からも新規化学組成を有する層状岩塩型構造であることが確認された。
a=0.284nm±0.001nm
c=1.470nm±0.005nm
【0074】
さらに、得られた化合物について、ICP発光分析法により化学組成を分析したところ、Li0.48Mn0.70Ti0.30の組成式であることが明らかとなり、また、残留しているナトリウム量は化学組成式あたり0.08以下であることが確認された。
【実施例5】
【0075】
(出発原料ナトリウムマンガンチタン複合酸化物Na0.59Mn0.80Ti0.20の合成)
純度99%以上の酢酸ナトリウム(CHCOONa)粉末と、マンガンチタンの組成比が、Mn:Ti=0.77:0.23組成であらかじめ共沈法で得られたマンガンチタン水酸化物粉末を原子量比でNa:M(M=Mn、Ti)=0.7:1.0となるように秤量した。これらを乳鉢中で混合したのち、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉を用いて、空気中500℃で12時間焼成した。その後、電気炉中で自然放冷し、出発原料を得た。
【0076】
得られた化合物について、粉末X線回折装置により結晶構造を調べたところ、いずれも結晶性はあまり高くないものの、菱面体晶系に属する層状岩塩型構造のほぼ単一相であることが明らかとなった。この時の粉末X線回折図形を図5(c)に示す。
【0077】
さらに、得られた化合物について、ICP発光分析法により化学組成を分析したところ、Na0.59Mn0.80Ti0.20なる化学組成式であることが明らかとなった。
【0078】
(リチウムマンガンチタン複合酸化物Li0.52Mn0.80Ti0.20の合成)
次に、得られたナトリウムマンガンチタン複合酸化物粉体試料を、実施例1と同条件でイオン交換処理を行い、イオン交換体を得た。
【0079】
得られた試料について、X線粉末回折装置により、菱面体晶系、空間群R−3mの層状岩塩型構造を有する単一相であることが明らかとなった。その粉末X線回折図形を図6(c)に示す。また、各指数とその面間隔を用いて、最小二乗法によりそれぞれ格子定数を求めたところ、以下の値となり、格子定数からも新規化学組成を有する層状岩塩型構造であることが確認された。
a=0.286nm±0.001nm
c=1.466nm±0.006nm
【0080】
さらに、得られた化合物について、ICP発光分析法により化学組成を分析したところ、Li0.52Mn0.80Ti0.20の組成式であることが明らかとなり、また、残留しているナトリウム量は化学組成式あたり0.03以下であることが確認された。
【実施例6】
【0081】
(出発原料ナトリウムマンガンチタン複合酸化物Na0.59Mn0.90Ti0.10の合成)
純度99%以上の酢酸ナトリウム(CHCOONa)粉末と、マンガンチタンの組成比が、Mn:Ti=0.89:0.11組成であらかじめ共沈法で得られたマンガンチタン水酸化物粉末を原子量比でNa:M(M=Mn、Ti)=0.7:1.0となるように秤量した。これらを乳鉢中で混合したのち、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉を用いて、空気中500℃で12時間焼成した。その後、電気炉中で自然放冷し、出発原料を得た。
【0082】
得られた化合物について、粉末X線回折装置により結晶構造を調べたところ、いずれも結晶性はあまり高くないものの、菱面体晶系に属する層状岩塩型構造のほぼ単一相であることが明らかとなった。この時の粉末X線回折図形を図5(d)に示す。
【0083】
さらに、得られた化合物について、ICP発光分析法により化学組成を分析したところ、Na0.59Mn0.90Ti0.10なる化学組成式であることが明らかとなった。
【0084】
(リチウムマンガンチタン複合酸化物Li0.56Mn0.87Ti0.13の合成)
次に、得られたナトリウムマンガンチタン複合酸化物粉体試料を、実施例1と同条件でイオン交換処理を行い、イオン交換体を得た。
【0085】
得られた試料について、X線粉末回折装置により、菱面体晶系、空間群R−3mの層状岩塩型構造を有する単一相であることが明らかとなった。その粉末X線回折図形を図6(d)に示す。また、各指数とその面間隔を用いて、最小二乗法によりそれぞれ格子定数を求めたところ、以下の値となり、格子定数からも新規化学組成を有する層状岩塩型構造であることが確認された。
a=0.285nm±0.001nm
c=1.466nm±0.008nm
【0086】
さらに、得られた化合物について、ICP発光分析法により化学組成を分析したところ、Li0.56Mn0.87Ti0.13の組成式であることが明らかとなり、また、残留しているナトリウム量は化学組成式あたり0.04以下であることが確認された。
【実施例7】
【0087】
(リチウム二次電池)
実施例6で得られたリチウムマンガンチタン複合酸化物Li0.56Mn0.87Ti0.13を活物質とし、実施例2と同じ構成要素・構造のリチウム二次電池(コイン型セル)を作製し、その充放電特性を測定した。その結果を図7に示す。
【0088】
作製されたリチウム二次電池について、25℃の温度条件下で、電流密度30mA/g、5.0V−1.5Vのカットオフ電位で定電流充放電試験を行ったところ、充放電曲線は、電圧3V付近に電圧平坦分を有し、初期放電容量335mAh/gという高容量が得られることが判明した。充放電反応に伴う電圧変化を、図7に示す。また、カットオフ電位を4.5−2.4Vに変更した場合、さらに可逆性が高い充放電挙動が確認された。この結果を、実施例2(図4)で示したリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物の場合と比べると、平均作動電圧は低下するものの、より高容量化が可能であることが明らかとなった。以上から、本発明のリチウムマンガンチタン複合酸化物活物質が、リチウム基準の作動電圧が3V程度である高容量のリチウム二次電池の正極材料として有用であることが明らかとなった。
【実施例8】
【0089】
(リチウム二次電池)
実施例5で得られたリチウムマンガンチタン複合酸化物Li0.52Mn0.80Ti0.20を活物質とし、実施例2と同じ構成要素・構造のリチウム二次電池(コイン型セル)を作製し、その充放電特性を測定した。
【0090】
作製されたリチウム二次電池について、25℃の温度条件下で、電流密度30mA/g、5.0V−1.5Vのカットオフ電位で定電流充放電試験を行ったところ、充放電曲線は、電圧3V付近に電圧平坦分を有し、初期放電容量は269mAh/gであることが明らかとなった。この結果を、実施例7(図7)と比べると、チタン置換量の増大により、容量低下することが明らかとなった。
【実施例9】
【0091】
(リチウム二次電池)
実施例4で得られたリチウムマンガンチタン複合酸化物Li0.48Mn0.70Ti0.30を活物質とし、実施例2と同じ構成要素・構造のリチウム二次電池(コイン型セル)を作製し、その充放電特性を測定した。
【0092】
作製されたリチウム二次電池について、25℃の温度条件下で、電流密度30mA/g、5.0V−1.5Vのカットオフ電位で定電流充放電試験を行ったところ、充放電曲線は、電圧3V付近に電圧平坦分を有し、初期放電容量は254mAh/gであることが明らかとなり、チタン置換量の増大により、さらに容量が低下することが確認された。
【実施例10】
【0093】
(リチウム二次電池)
実施例3で得られたリチウムマンガンチタン複合酸化物Li0.45Mn0.55Ti0.45を活物質とし、実施例2と同じ構成要素・構造のリチウム二次電池(コイン型セル)を作製し、その充放電特性を測定した。
【0094】
作製されたリチウム二次電池について、25℃の温度条件下で、電流密度30mA/g、5.0V−1.5Vのカットオフ電位で定電流充放電試験を行ったところ、充放電曲線は、電圧3V付近に電圧平坦分を有し、初期放電容量は242mAh/gであることが明らかとなり、チタン置換量の増大により、さらに容量低下することが確認された。一方、チタン置換量の増大によって、サイクル特性は改善されることが明らかとなり、本発明のリチウムマンガンチタン複合酸化物について、チタン置換の効果を明確化することができた。以上から、本発明のリチウムマンガンチタン複合酸化物が、リチウム基準の作動電圧が3V程度である高容量のリチウム二次電池の正極材料活物質として有用であることが明らかとなった。
【実施例11】
【0095】
(出発原料ナトリウムマンガンチタンニッケル複合酸化物Na1.00Mn0.56Ti0.24Ni0.20の合成)
純度99%以上の酢酸ナトリウム三水和物(CHCOONa・3HO)粉末と、共沈法によって得られたマンガンチタンニッケル水酸化物(Mn:Ti:Ni=0.50:0.25:0.25)粉末と同マンガンチタン水酸化物(Mn:Ti=0.77:0.23)を原子量比でNa:Mn:Ti:Ni=1.0:0.56:0.24:0.20となるように秤量した。これらを乳鉢中で混合したのち、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉を用いて、空気中500℃で12時間焼成した。その後、電気炉中で自然放冷し、出発原料を得た。
【0096】
得られた化合物について、粉末X線回折装置により結晶構造を調べたところ、良好な結晶性を有する、菱面体晶系に属する層状岩塩型構造のほぼ単一相であることが明らかとなった。この時の粉末X線回折図形を図8(a)に示す。また、各指数とその面間隔を用いて、最小二乗法により格子定数を求めたところ、以下の値となり、格子定数からも新規化学組成を有する層状岩塩型構造であることが確認された。
a=0.289nm±0.001nm
c=1.679nm±0.001nm
【0097】
さらに、得られた化合物について、ICP発光分析法により化学組成を分析したところ、Na1.0Mn0.56Ti0.24Ni0.20の組成式であることが明らかとなった。
【0098】
(リチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物Li0.58Mn0.56Ti0.24Ni0.20の合成)
次に、得られたNa1.0Mn0.56Ti0.24Ni0.20粉体試料を、実施例1と同条件でイオン交換処理を行い、イオン交換体を得た。
【0099】
得られた試料について、X線粉末回折装置により、菱面体晶系、空間群R−3mの層状岩塩型構造を有する単一相であることが明らかとなった。その粉末X線回折図形を図9(a)に示す。また、各指数とその面間隔を用いて、最小二乗法によりそれぞれ格子定数を求めたところ、以下の値となり、格子定数からも新規化学組成を有する層状岩塩型構造であることが確認された。
a=0.289nm±0.002nm
c=1.444nm±0.005nm
【0100】
さらに、得られた化合物について、ICP発光分析法により化学組成を分析したところ、Li0.58Mn0.56Ti0.24Ni0.20の組成式であることが明らかとなり、また、残留しているナトリウム量は化学組成式あたり0.05以下であることが確認された。
【実施例12】
【0101】
(出発原料ナトリウムマンガンチタンニッケル複合酸化物Na1.00Mn0.61Ti0.24Ni0.15の合成)
純度99%以上の酢酸ナトリウム三水和物(CHCOONa・3HO)粉末と、共沈法によって得られたマンガンチタンニッケル水酸化物(Mn:Ti:Ni=0.50:0.25:0.25)粉末と同マンガンチタン水酸化物(Mn:Ti=0.77:0.23)を原子量比でNa:Mn:Ti:Ni=1.0:0.61:0.24:0.15となるように秤量した。これらを乳鉢中で混合したのち、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉を用いて、空気中500℃で12時間焼成した。その後、電気炉中で自然放冷し、出発原料を得た。
【0102】
得られた化合物について、粉末X線回折装置により結晶構造を調べたところ、良好な結晶性を有する、菱面体晶系に属する層状岩塩型構造のほぼ単一相であることが明らかとなった。この時の粉末X線回折図形を図8(b)に示す。また、各指数とその面間隔を用いて、最小二乗法により格子定数を求めたところ、以下の値となり、格子定数からも新規化学組成を有する層状岩塩型構造であることが確認された。
a=0.289nm±0.001nm
c=1.678nm±0.001nm
【0103】
さらに、得られた化合物について、ICP発光分析法により化学組成を分析したところ、Na1.0Mn0.61Ti0.24Ni0.15の組成式であることが明らかとなった。
【0104】
(リチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物Li0.61Mn0.61Ti0.24Ni0.15の合成)
次に、得られたNa1.0Mn0.61Ti0.24Ni0.15粉体試料を、実施例1と同条件でイオン交換処理を行い、イオン交換体を得た。
【0105】
得られた試料について、X線粉末回折装置により、菱面体晶系、空間群R−3mの層状岩塩型構造を有する単一相であることが明らかとなった。その粉末X線回折図形を図9(b)に示す。また、各指数とその面間隔を用いて、最小二乗法によりそれぞれ格子定数を求めたところ、以下の値となり、格子定数からも新規化学組成を有する層状岩塩型構造であることが確認された。
a=0.289nm±0.001nm
c=1.438nm±0.005nm
【0106】
さらに、得られた化合物について、ICP発光分析法により化学組成を分析したところ、Li0.61Mn0.61Ti0.24Ni0.15の組成式であることが明らかとなり、また、残留しているナトリウム量は化学組成式あたり0.05以下であることが確認された。
【実施例13】
【0107】
(出発原料ナトリウムマンガンチタンニッケル複合酸化物Na1.00Mn0.67Ti0.23Ni0.10の合成)
純度99%以上の酢酸ナトリウム三水和物(CHCOONa・3HO)粉末と、共沈法によって得られたマンガンチタンニッケル水酸化物(Mn:Ti:Ni=0.50:0.25:0.25)粉末と同マンガンチタン水酸化物(Mn:Ti=0.77:0.23)を原子量比でNa:Mn:Ti:Ni=1.0:0.67:0.23:0.10となるように秤量した。これらを乳鉢中で混合したのち、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉を用いて、空気中500℃で12時間焼成した。その後、電気炉中で自然放冷し、出発原料を得た。
【0108】
得られた化合物について、粉末X線回折装置により結晶構造を調べたところ、良好な結晶性を有する、菱面体晶系に属する層状岩塩型構造のほぼ単一相であることが明らかとなった。この時の粉末X線回折図形を図8(c)に示す。また、各指数とその面間隔を用いて、最小二乗法により格子定数を求めたところ、以下の値となり、格子定数からも新規化学組成を有する層状岩塩型構造であることが確認された。
a=0.288nm±0.001nm
c=1.678nm±0.002nm
【0109】
さらに、得られた化合物について、ICP発光分析法により化学組成を分析したところ、Na1.0Mn0.67Ti0.23Ni0.10の組成式であることが明らかとなった。
【0110】
(リチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物Li0.61Mn0.67Ti0.23Ni0.10の合成)
次に、得られたNa1.0Mn0.67Ti0.23Ni0.10粉体試料を、実施例1と同条件でイオン交換処理を行い、イオン交換体を得た。
【0111】
得られた試料について、X線粉末回折装置により、菱面体晶系、空間群R−3mの層状岩塩型構造を有する単一相であることが明らかとなった。その粉末X線回折図形を図9(c)に示す。また、各指数とその面間隔を用いて、最小二乗法によりそれぞれ格子定数を求めたところ、以下の値となり、格子定数からも新規化学組成を有する層状岩塩型構造であることが確認された。
a=0.289nm±0.002nm
c=1.445nm±0.005nm
【0112】
さらに、得られた化合物について、ICP発光分析法により化学組成を分析したところ、Li0.61Mn0.67Ti0.23Ni0.10の組成式であることが明らかとなり、また、残留しているナトリウム量は化学組成式あたり0.05以下であることが確認された。
【実施例14】
【0113】
(出発原料ナトリウムマンガンチタンニッケル複合酸化物Na1.00Mn0.72Ti0.23Ni0.05の合成)
純度99%以上の酢酸ナトリウム三水和物(CHCOONa・3HO)粉末と、共沈法によって得られたマンガンチタンニッケル水酸化物(Mn:Ti:Ni=0.50:0.25:0.25)粉末と同マンガンチタン水酸化物(Mn:Ti=0.77:0.23)を原子量比でNa:Mn:Ti:Ni=1.0:0.72:0.23:0.05となるように秤量した。これらを乳鉢中で混合したのち、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉を用いて、空気中500℃で12時間焼成した。その後、電気炉中で自然放冷し、出発原料を得た。
【0114】
得られた化合物について、粉末X線回折装置により結晶構造を調べたところ、良好な結晶性を有する、菱面体晶系に属する層状岩塩型構造のほぼ単一相であることが明らかとなった。この時の粉末X線回折図形を図8(d)に示す。また、各指数とその面間隔を用いて、最小二乗法により格子定数を求めたところ、以下の値となり、格子定数からも新規化学組成を有する層状岩塩型構造であることが確認された。
a=0.287nm±0.001nm
c=1.672nm±0.002nm
【0115】
さらに、得られた化合物について、ICP発光分析法により化学組成を分析したところ、Na1.0Mn0.72Ti0.23Ni0.05の組成式であることが明らかとなった。
【0116】
(リチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物Li0.62Mn0.72Ti0.23Ni0.05の合成)
次に、得られたNa1.0Mn0.72Ti0.23Ni0.05粉体試料を、実施例1と同条件でイオン交換処理を行い、イオン交換体を得た。
【0117】
得られた試料について、X線粉末回折装置により、菱面体晶系、空間群R−3mの層状岩塩型構造を有する単一相であることが明らかとなった。その粉末X線回折図形を図9(d)に示す。また、各指数とその面間隔を用いて、最小二乗法によりそれぞれ格子定数を求めたところ、以下の値となり、格子定数からも新規化学組成を有する層状岩塩型構造であることが確認された。
a=0.289nm±0.001nm
c=1.430nm±0.004nm
【0118】
さらに、得られた化合物について、ICP発光分析法により化学組成を分析したところ、Li0.62Mn0.72Ti0.23Ni0.05の組成式であることが明らかとなり、また、残留しているナトリウム量は化学組成式あたり0.05以下であることが確認された。
【実施例15】
【0119】
(出発原料ナトリウムマンガンチタンニッケル複合酸化物Na1.00Mn0.0.90Ti0.05Ni0.05の合成)
純度99%以上の酢酸ナトリウム三水和物(CHCOONa・3HO)粉末と、共沈法によって得られたマンガンチタンニッケル水酸化物(Mn:Ti:Ni=0.50:0.25:0.25)粉末と同マンガン水酸化物を原子量比でNa:Mn:Ti:Ni=1.0:0.90:0.05:0.05となるように秤量した。これらを乳鉢中で混合したのち、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉を用いて、空気中500℃で12時間焼成した。その後、電気炉中で自然放冷し、出発原料を得た。
【0120】
得られた化合物について、粉末X線回折装置により結晶構造を調べたところ、良好な結晶性を有する、菱面体晶系に属する層状岩塩型構造のほぼ単一相であることが明らかとなった。この時の粉末X線回折図形を図8(e)に示す。また、各指数とその面間隔を用いて、最小二乗法により格子定数を求めたところ、以下の値となり、格子定数からも新規化学組成を有する層状岩塩型構造であることが確認された。
a=0.286nm±0.001nm
c=1.675nm±0.005nm
【0121】
さらに、得られた化合物について、ICP発光分析法により化学組成を分析したところ、Na1.0Mn0.90Ti0.05Ni0.05の組成式であることが明らかとなった。
【0122】
(リチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物Li0.59Mn0.90Ti0.05Ni0.05の合成)
次に、得られたNa1.0Mn0.90Ti0.05Ni0.05粉体試料を、実施例1と同条件でイオン交換処理を行い、イオン交換体を得た。
【0123】
得られた試料について、X線粉末回折装置により、菱面体晶系、空間群R−3mの層状岩塩型構造を有する単一相であることが明らかとなった。その粉末X線回折図形を図9(e)に示す。また、各指数とその面間隔を用いて、最小二乗法によりそれぞれ格子定数を求めたところ、以下の値となり、格子定数からも新規化学組成を有する層状岩塩型構造であることが確認された。
a=0.286nm±0.002nm
c=1.438nm±0.006nm
【0124】
さらに、得られた化合物について、ICP発光分析法により化学組成を分析したところ、Li0.59Mn0.90Ti0.05Ni0.05の組成式であることが明らかとなり、また、残留しているナトリウム量は化学組成式あたり0.03以下であることが確認された。
【実施例16】
【0125】
(出発原料ナトリウムマンガンチタンニッケル複合酸化物Na1.00Mn0.80Ti0.10Ni0.10の合成)
純度99%以上の酢酸ナトリウム三水和物(CHCOONa・3HO)粉末と、共沈法によって得られたマンガンチタンニッケル水酸化物(Mn:Ti:Ni=0.50:0.25:0.25)粉末と同マンガン水酸化物を原子量比でNa:Mn:Ti:Ni=1.0:0.80:0.10:0.10となるように秤量した。これらを乳鉢中で混合したのち、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉を用いて、空気中500℃で12時間焼成した。その後、電気炉中で自然放冷し、出発原料を得た。
【0126】
得られた化合物について、粉末X線回折装置により結晶構造を調べたところ、良好な結晶性を有する、菱面体晶系に属する層状岩塩型構造のほぼ単一相であることが明らかとなった。この時の粉末X線回折図形を図8(f)に示す。また、各指数とその面間隔を用いて、最小二乗法により格子定数を求めたところ、以下の値となり、格子定数からも新規化学組成を有する層状岩塩型構造であることが確認された。
a=0.286nm±0.001nm
c=1.673nm±0.004nm
【0127】
さらに、得られた化合物について、ICP発光分析法により化学組成を分析したところ、Na1.0Mn0.80Ti0.10Ni0.10の組成式であることが明らかとなった。
【0128】
(リチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物Li0.45Mn0.80Ti0.10Ni0.10の合成)
次に、得られたNa1.0Mn0.80Ti0.10Ni0.10粉体試料を、実施例1と同条件でイオン交換処理を行い、イオン交換体を得た。
【0129】
得られた試料について、X線粉末回折装置により、菱面体晶系、空間群R−3mの層状岩塩型構造を有する単一相であることが明らかとなった。その粉末X線回折図形を図9(f)に示す。また、各指数とその面間隔を用いて、最小二乗法によりそれぞれ格子定数を求めたところ、以下の値となり、格子定数からも新規化学組成を有する層状岩塩型構造であることが確認された。
a=0.288nm±0.001nm
c=1.447nm±0.006nm
【0130】
さらに、得られた化合物について、ICP発光分析法により化学組成を分析したところ、Li0.45Mn0.80Ti0.10Ni0.10の組成式であることが明らかとなり、また、残留しているナトリウム量は化学組成式あたり0.06以下であることが確認された。
【実施例17】
【0131】
(出発原料ナトリウムマンガンチタンニッケル複合酸化物Na1.00Mn0.0.70Ti0.15Ni0.15の合成)
純度99%以上の酢酸ナトリウム三水和物(CHCOONa・3HO)粉末と、共沈法によって得られたマンガンチタンニッケル水酸化物(Mn:Ti:Ni=0.50:0.25:0.25)粉末と同マンガン水酸化物を原子量比でNa:Mn:Ti:Ni=1.0:0.70:0.15:0.15となるように秤量した。これらを乳鉢中で混合したのち、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉を用いて、空気中500℃で12時間焼成した。その後、電気炉中で自然放冷し、出発原料を得た。
【0132】
得られた化合物について、粉末X線回折装置により結晶構造を調べたところ、良好な結晶性を有する、菱面体晶系に属する層状岩塩型構造のほぼ単一相であることが明らかとなった。この時の粉末X線回折図形を図8(g)に示す。また、各指数とその面間隔を用いて、最小二乗法により格子定数を求めたところ、以下の値となり、格子定数からも新規化学組成を有する層状岩塩型構造であることが確認された。
a=0.288nm±0.001nm
c=1.679nm±0.002nm
【0133】
さらに、得られた化合物について、ICP発光分析法により化学組成を分析したところ、Na1.0Mn0.70Ti0.15Ni0.15の組成式であることが明らかとなった。
【0134】
(リチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物Li0.60Mn0.70Ti0.15Ni0.15の合成)
次に、得られたNa1.0Mn0.70Ti0.15Ni0.15粉体試料を、実施例1と同条件でイオン交換処理を行い、イオン交換体を得た。
【0135】
得られた試料について、X線粉末回折装置により、菱面体晶系、空間群R−3mの層状岩塩型構造を有する単一相であることが明らかとなった。その粉末X線回折図形を図9(g)に示す。また、各指数とその面間隔を用いて、最小二乗法によりそれぞれ格子定数を求めたところ、以下の値となり、格子定数からも新規化学組成を有する層状岩塩型構造であることが確認された。
a=0.289nm±0.001nm
c=1.441nm±0.005nm
【0136】
さらに、得られた化合物について、ICP発光分析法により化学組成を分析したところ、Li0.60Mn0.70Ti0.15Ni0.15の組成式であることが明らかとなり、また、残留しているナトリウム量は化学組成式あたり0.03以下であることが確認された。
【実施例18】
【0137】
(リチウム二次電池)
実施例11で得られたリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物Li0.58Mn0.56Ti0.24Ni0.20を活物質とし、実施例2と同じ構成要素・構造のリチウム二次電池(コイン型セル)を作製し、その充放電特性を測定した。
【0138】
作製されたリチウム二次電池について、25℃の温度条件下で、電流密度30mA/g、5.0V−1.5Vのカットオフ電位で定電流充放電試験を行ったところ、充放電曲線は、電圧4Vと3V付近に電圧平坦分を有し、初期放電容量は267mAh/gであった。充放電反応に伴う電圧変化を、図10に示す。この結果を、実施例2(図4)のLi0.55Mn0.51Ti0.23Ni0.26の場合と比較すると、ニッケル含有量の減少に伴って、平均作動電圧はやや低下するものの、容量の増加が明らかとなった。以上から、本発明のLi0.58Mn0.56Ti0.24Ni0.20が、リチウム基準の平均作動電圧が3V以上である高容量のリチウム二次電池の正極材料活物質として有用であることが明らかとなった。
【実施例19】
【0139】
(リチウム二次電池)
実施例12で得られたリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物Li0.61Mn0.61Ti0.24Ni0.15を活物質とし、実施例2と同じ構成要素・構造のリチウム二次電池(コイン型セル)を作製し、その充放電特性を測定した。
【0140】
作製されたリチウム二次電池について、25℃の温度条件下で、電流密度30mA/g、5.0V−1.5Vのカットオフ電位で定電流充放電試験を行ったところ、充放電曲線は、電圧4Vと3V付近に電圧平坦分を有し、初期放電容量は279mAh/gであった。充放電反応に伴う電圧変化を、図11に示す。この結果を、実施例2(図4)のLi0.55Mn0.51Ti0.23Ni0.26の場合、および実施例18(図10)のLi0.58Mn0.56Ti0.24Ni0.20の場合と比較すると、ニッケル含有量の減少に伴って、平均作動電圧はやや低下するものの、容量の増加が明らかとなった。以上から、本発明のLi0.61Mn0.61Ti0.24Ni0.15が、リチウム基準の平均作動電圧が3V以上である高容量のリチウム二次電池の正極材料活物質として有用であることが明らかとなった。
【実施例20】
【0141】
(リチウム二次電池)
実施例13で得られたリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物Li0.61Mn0.67Ti0.23Ni0.10を活物質とし、実施例2と同じ構成要素・構造のリチウム二次電池(コイン型セル)を作製し、その充放電特性を測定した。
【0142】
作製されたリチウム二次電池について、25℃の温度条件下で、電流密度30mA/g、5.0V−1.5Vのカットオフ電位で定電流充放電試験を行ったところ、充放電曲線は3V以上でなだらかな形状を示し、初期放電容量は292mAh/gであった。充放電反応に伴う電圧変化を、図12に示す。この結果を、実施例2(図4)のLi0.55Mn0.51Ti0.23Ni0.26の場合、および実施例18(図10)のLi0.58Mn0.56Ti0.24Ni0.20の場合、さらに実施例19(図11)のLi0.61Mn0.61Ti0.24Ni0.15の場合と比較すると、チタン置換量はほぼ同じであるのに対して、ニッケル含有量が減少することに伴って、平均作動電圧は低下するものの、容量の増加が明らかとなった。以上から、本発明のLi0.61Mn0.67Ti0.23Ni0.10が、リチウム基準の平均作動電圧が3V以上である高容量のリチウム二次電池の正極材料活物質として有用であることが明らかとなった。
【実施例21】
【0143】
(リチウム二次電池)
実施例14で得られたリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物Li0.62Mn0.72Ti0.23Ni0.05を活物質とし、実施例2と同じ構成要素・構造のリチウム二次電池(コイン型セル)を作製し、その充放電特性を測定した。
【0144】
作製されたリチウム二次電池について、25℃の温度条件下で、電流密度30mA/g、5.0V−1.5Vのカットオフ電位で定電流充放電試験を行ったところ、充放電曲線は3V以上でなだらかな形状を示し、初期放電容量は310mAh/gと高容量が得られることが判明した。充放電反応に伴う電圧変化を、図13に示す。この結果を、実施例2(図4)のLi0.55Mn0.51Ti0.23Ni0.26の場合、および実施例18(図10)のLi0.58Mn0.56Ti0.24Ni0.20の場合、さらに実施例19(図11)のLi0.61Mn0.61Ti0.24Ni0.15の場合、実施例20(図12)のLi0.61Mn0.67Ti0.23Ni0.10の場合と比較すると、チタン置換量はほぼ同じであるのに対して、ニッケル含有量が減少することに伴って、平均作動電圧は低下するものの、容量の増加が明らかとなった。以上から、本発明のLi0.62Mn0.72Ti0.23Ni0.05が、リチウム基準の平均作動電圧が3V以上である高容量のリチウム二次電池の正極材料活物質として有用であることが明らかとなった。
【実施例22】
【0145】
(リチウム二次電池)
実施例15で得られたリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物Li0.59Mn0.90Ti0.05Ni0.05を活物質とし、実施例2と同じ構成要素・構造のリチウム二次電池(コイン型セル)を作製し、その充放電特性を測定した。
【0146】
作製されたリチウム二次電池について、25℃の温度条件下で、電流密度30mA/g、5.0V−1.5Vのカットオフ電位で定電流充放電試験を行ったところ、充放電曲線は3V以上でなだらかな形状を示し、初期放電容量は298mAh/gという高容量が得られることが判明した。充放電反応に伴う電圧変化を、図14に示す。この結果を、実施例8(図7)のLi0.56Mn0.87Ti0.13の場合と比較すると、初期容量の低下は顕著であるもののサイクルの可逆性は改善された。以上から、本発明のLi0.59Mn0.90Ti0.05Ni0.05が、リチウム基準の平均作動電圧が3V以上である高容量のリチウム二次電池の正極材料活物質として有用であることが明らかとなった。
【実施例23】
【0147】
(リチウム二次電池)
実施例16で得られたリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物Li0.45Mn0.80Ti0.10Ni0.10を活物質とし、実施例2と同じ構成要素・構造のリチウム二次電池(コイン型セル)を作製し、その充放電特性を測定した。
【0148】
作製されたリチウム二次電池について、25℃の温度条件下で、電流密度30mA/g、5.0V−1.5Vのカットオフ電位で定電流充放電試験を行ったところ、その充放電曲線は、電圧4Vと3V付近に電圧平坦分を有し、初期放電容量280mAh/gという高容量が得られることが判明した。充放電反応に伴う電圧変化を、図15に示す。この結果を実施例22(図14)のLi0.59Mn0.90Ti0.05Ni0.05の場合と比較すると、平均作動電圧がやや高く改善され、放電容量は低下するものの、初期2サイクルの可逆性が特に優れていることが明らかとなった。以上から、本発明のLi0.45Mn0.80Ti0.10Ni0.10が、リチウム基準の平均作動電圧が3V以上である高容量のリチウム二次電池の正極材料活物質として有用であることが明らかとなった。
【実施例24】
【0149】
(リチウム二次電池)
実施例17で得られたリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物Li0.60Mn0.70Ti0.15Ni0.15を活物質とし、実施例2と同じ構成要素・構造のリチウム二次電池(コイン型セル)を作製し、その充放電特性を測定した。
【0150】
作製されたリチウム二次電池について、25℃の温度条件下で、電流密度30mA/g、5.0V−1.5Vのカットオフ電位で定電流充放電試験を行ったところ、その充放電曲線は、電圧4Vと3V付近に電圧平坦分を有し、初期放電容量283mAh/gであることが明らかとなった。充放電反応に伴う電圧変化を、図16に示す。この結果を実施例23(図15)のLi0.45Mn0.80Ti0.10Ni0.10の場合と比較すると、平均作動電圧がやや高く改善され、放電容量がさらに低下するものの、初期2サイクルの可逆性は同様に優れていることが明らかとなった。以上から、本発明のLi0.60Mn0.70Ti0.15Ni0.15が、リチウム基準の平均作動電圧が3V以上である高容量のリチウム二次電池の正極材料活物質として有用であることが明らかとなった。
【実施例25】
【0151】
(リチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物Li0.91Mn0.80Ti0.10Ni0.10の合成)
実施例16で得られたLi0.45Mn0.80Ti0.10Ni0.10について、より含有するナトリウム量を減らすと共に、処理後のリチウム量を増加させるために、イオン交換処理を再度実施した。すなわち、リチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物Li0.45Mn0.80Ti0.10Ni0.10粉体試料をガラス製容器に入れ、あらかじめ純度99%以上のヨウ化リチウム粉末を溶解させたアセトニトリルを投入した。出発原料に対するヨウ化リチウムの量は1.1モルとした。この容器を、空気中80℃で6時間加熱することによって、リチウムイオン交換処理を行った。処理後、アセトニトリルでよく洗浄し、80℃で乾燥することによって、イオン交換体を得た。
【0152】
得られた化合物について、粉末X線回折装置により結晶構造を調べたところ、良好な結晶性を有する、菱面体晶系に属する層状岩塩型構造のほぼ単一相であることが明らかとなった。この時の粉末X線回折図形を図17(a)に示す。また、各指数とその面間隔を用いて、最小二乗法により格子定数を求めたところ、以下の値となり、実施例16のLi0.45Mn0.80Ti0.10Ni0.10の格子定数と比べ、a軸長がやや長く、c軸長はやや短くなっており、リチウム量の増加、およびナトリウム量の減少が原因であることが明らかとなった。
a=0.291nm±0.001nm
c=1.441nm±0.004nm
【0153】
さらに、得られた化合物について、ICP発光分析法により化学組成を分析したところ、1回目のイオン交換体にリチウムが約0.5apfu程度挿入されたLi0.91Mn0.80Ti0.10Ni0.10の組成式であることが明らかとなった。また、残留しているナトリウム量は化学組成式あたり0.02以下であることが明らかとなり、再度のイオン交換処理により、ナトリウム量の減少が確認された。
【実施例26】
【0154】
(リチウム二次電池)
実施例25で得られたリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物Li0.91Mn0.80Ti0.10Ni0.10を活物質とし、実施例2と同じ構成要素・構造のリチウム二次電池(コイン型セル)を作製し、その充放電特性を測定した。
【0155】
作製されたリチウム二次電池について、25℃の温度条件下で、電流密度30mA/g、5.0V−1.5Vのカットオフ電位で定電流充放電試験を行った。その結果を図18に示す。初期の充電容量は322mAh/gに達した。これは、図15に示す1回目のイオン交換体の初期充電容量181mAh/g(実施例23)を上回り、2回目のイオン交換処理でヨウ化リチウムを使用したことにより、リチウム挿入反応も進行したことが明らかとなった。また、初期放電容量は293mAh/gという高容量が得られることが判明し、また2サイクルの可逆性も高いという特徴が確認された。以上から、本発明のLi0.91Mn0.80Ti0.10Ni0.10が、リチウム基準の平均作動電圧が3V以上である高容量のリチウム二次電池の正極材料活物質として有用であることが明らかとなった。
【実施例27】
【0156】
(リチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物Li0.94Mn0.70Ti0.15Ni0.15の合成)
実施例17で得られたLi0.60Mn0.70Ti0.15Ni0.15について、より含有するナトリウム量を減らすと共に、処理後のリチウム量を増加させるために、イオン交換処理を再度実施した。すなわち、リチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物Li0.60Mn0.70Ti0.15Ni0.15粉体試料をガラス製容器に入れ、あらかじめ純度99%以上のヨウ化リチウム粉末を溶解させたアセトニトリルを投入した。出発原料に対するヨウ化リチウムの量は1.1モルとした。この容器を、空気中80℃で6時間加熱することによって、リチウムイオン交換処理を行った。処理後、アセトニトリルでよく洗浄し、80℃で乾燥することによって、イオン交換体を得た。
【0157】
得られた化合物について、粉末X線回折装置により結晶構造を調べたところ、良好な結晶性を有する、菱面体晶系に属する層状岩塩型構造のほぼ単一相であることが明らかとなった。この時の粉末X線回折図形を図17(b)に示す。また、各指数とその面間隔を用いて、最小二乗法により格子定数を求めたところ、以下の値となり、実施例17のLi0.60Mn0.70Ti0.15Ni0.15の格子定数と比べ、a軸長がやや長く、c軸長はやや短くなっており、リチウム量の増加、およびナトリウム量の減少が原因であることが明らかとなった。
a=0.290nm±0.001nm
c=1.439nm±0.003nm
【0158】
さらに、得られた化合物について、ICP発光分析法により化学組成を分析したところ、1回目のイオン交換体にリチウムが約0.3apfu程度挿入されたLi0.94Mn0.70Ti0.15Ni0.15の組成式であることが明らかとなった。また、残留しているナトリウム量は化学組成式あたり0.01以下であることが明らかとなり、再度のイオン交換処理により、ナトリウム量の減少が確認された。
【実施例28】
【0159】
(リチウム二次電池)
実施例27で得られたリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物Li0.94Mn0.70Ti0.15Ni0.15を活物質とし、実施例2と同じ構成要素・構造のリチウム二次電池(コイン型セル)を作製し、その充放電特性を測定した。
【0160】
作製されたリチウム二次電池について、25℃の温度条件下で、電流密度30mA/g、5.0V−1.5Vのカットオフ電位で定電流充放電試験を行った。その結果を図19に示す。初期充電容量は300mAh/gに達した。これは、1回目のイオン交換体の初期充電容量203mAh/g(実施例24)を上回り、2回目のイオン交換処理でヨウ化リチウムを使用したことにより、リチウム挿入反応も進行したことが明らかとなった。また、初期放電容量は、271mAh/gという高容量が得られることが判明した。以上から、本発明のLi0.94Mn0.70Ti0.15Ni0.15が、リチウム基準の平均作動電圧が3V以上である高容量のリチウム二次電池の正極材料活物質として有用であることが明らかとなった。
【0161】
(比較例1)
(出発原料ナトリウムマンガン酸化物の合成)
純度99%以上の酢酸ナトリウム(CHCOONa)粉末と、共沈法で得られたマンガン水酸化物粉末を原子量比でNa:Mn=0.7:1.0となるように秤量した。これらを乳鉢中で混合したのち、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉を用いて、空気中500℃で12時間焼成した。その後、電気炉中で自然放冷し、出発原料を得た。
【0162】
得られた化合物について、粉末X線回折装置により結晶構造を調べたところ、結晶性はあまり高くないものの、菱面体晶系に属する層状岩塩型構造のほぼ単一相であることが明らかとなった。この時の粉末X線回折図形を図5(e)に示す。
【0163】
さらに、得られた化合物について、ICP発光分析法により化学組成を分析したところ、Na0.47MnOなる化学組成式であることが明らかとなった。
【0164】
(リチウムマンガン酸化物の合成)
次に、得られたナトリウムマンガン酸化物粉体試料を、実施例1と同条件でイオン交換処理を行い、イオン交換体を得た。
【0165】
得られた試料について、X線粉末回折装置により、菱面体晶系、空間群R−3mの層状岩塩型構造を有する単一相であることが明らかとなった。その粉末X線回折図形を図6(e)に示す。また、各指数とその面間隔を用いて、最小二乗法によりそれぞれ格子定数を求めたところ、以下の値となり、格子定数からも既報と同様のリチウムマンガン酸化物であることが確認された。
a=0.284nm±0.001nm
c=1.458nm±0.004nm
【0166】
さらに、得られた化合物について、ICP発光分析法により化学組成を分析したところ、Li0.55MnOの組成式であることが明らかとなり、また、残留しているナトリウム量は0.04以下であることが確認された。

【0167】
(比較例2)
(リチウム二次電池)
このようにして得られたリチウムマンガン酸化物Li0.55MnOを活物質とし、実施例2、7と同じ構成要素・構造のリチウム二次電池(コイン型セル)を作製し、その充放電特性を測定した。
【0168】
作製されたリチウム二次電池について、実施例2、実施例7と同条件で定電流充放電試験を行ったところ、初期の放電容量は、電圧3V付近に電圧平坦分を有し、最大放電容量314mAh/gという高容量が得られることが確認された。しかしながら、充放電サイクルを繰り返すと、次第に4V領域での反応が現れ、4Vと3Vの2段に渡るスピネル構造に典型的な充放電曲線に変化してしまうことが確認された。また、サイクルに伴う容量減少も顕著であった。以上から、無置換のリチウムマンガン酸化物の問題点が確認された。
【符号の説明】
【0169】
1 コイン型リチウム二次電池
2 負極端子
3 負極
4 固体電解質
5 絶縁パッキング
6 正極
7 正極缶



【特許請求の範囲】
【請求項1】
LiMnTiNi1−y−z(ただし式中、0<x≦1.0、0.5≦y<1.0、0<z≦0.5、0.5<y+z≦1.0)なる化学組成を有することを特徴とするリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物。
【請求項2】
LiMnTiNi1−y−z(ただし式中、0<x≦1.0、0.5≦y<1.0、0<z≦0.5、0.5<y+z≦1.0)なる化学組成を有し、結晶構造が、層状岩塩型構造であることを特徴とするリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物。
【請求項3】
LiMnTiNi1−y−z(ただし式中、0<x≦1.0、0.5≦y<1.0、0<z≦0.5、0.5<y+z≦1.0)なる化学組成を有し、結晶構造が、菱面体晶系で空間群R−3mの層状岩塩型構造であることを特徴とするリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物。
【請求項4】
LiMnTiNi1−y−z(ただし式中、0<x≦1.0、0.5≦y<1.0、0<z≦0.5、0.5<y+z≦1.0)なる化学組成を有し、結晶構造が、菱面体晶系で空間群R−3mの層状岩塩型構造であり、さらにその六方晶格子を用いた格子定数が0.283nm<a<0.287nm、1.440nm<c<1.490nmであることを特徴とするリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物。
【請求項5】
ナトリウムマンガンチタンニッケル複合酸化物NaMnTiNi1−y−z(ただし式中、0<x≦1.0、0.5≦y<1.0、0<z≦0.5、0.5<y+z≦1.0)を出発原料として、ナトリウムとリチウムをイオン交換若しくはイオン挿入する工程によって合成されることを特徴とするLiMnTiNi1−y−z(ただし式中、0<x≦1.0、0.5≦y<1.0、0<z≦0.5、0.5<y+z≦1.0)なる化学組成を有することを特徴とするリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物の製造方法。
【請求項6】
ナトリウムマンガンチタンニッケル複合酸化物NaMnTiNi1−y−z(ただし式中、0<x≦1.0、0.5≦y<1.0、0<z≦0.5、0.5<y+z≦1.0)を出発原料として、リチウム塩を溶解させた溶液中で20℃から200℃の温度範囲で処理するイオン交換若しくはイオン挿入する工程によって合成されることを特徴とするLiMnTiNi1−y−z(ただし式中、0<x≦1.0、0.5≦y<1.0、0<z≦0.5、0.5<y+z≦1.0)なる化学組成を有することを特徴とするリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物の製造方法。
【請求項7】
リチウム塩が、硝酸リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、水酸化リチウムよりなる群れより選ばれる塩類を1種若しくは2種以上を用いることを特徴とする請求項7に記載のリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物の製造方法。
【請求項8】
リチウム塩を溶かす溶媒として、水、エタノール、ブタノール、ヘキサノール、プロパノール、テトラヒドロフラン、アセトン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、酢酸、ギ酸よりなる極性溶媒から1種以上を用いることを特徴とする請求項7に記載のリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物の製造方法。
【請求項9】
正極、負極、セパレータ及び電解質を含むリチウム二次電池において、上記請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のリチウムマンガンチタンニッケル複合酸化物を正極の電極活物質として含有する正極を用いたリチウム二次電池。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−209242(P2012−209242A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226359(P2011−226359)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度〜平成23年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「次世代自動車用高性能蓄電システム技術開発/要素技術開発/高容量・低コスト新規酸化物正極材料の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(592197418)株式会社田中化学研究所 (34)
【Fターム(参考)】