説明

リチウム二次電池およびその負極

【課題】従来技術よりも優れた充放電サイクル特性を達成できるリチウム二次電池の負極を提供すること。
【解決手段】集電体層と、集電体層上に積層された活物質層とを有するリチウム二次電池の負極であって、活物質層が、NixCu6-xSn5からなる層(式中、xは0.30〜2.0である)を有する負極は、優れた充放電サイクル特性を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池およびその負極に関する。また、本発明は、リチウム二次電池の負極を製造するために有用なシート(即ち、リチウム二次電池の負極用シート)にも関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池の負極は、集電体(例えば銅箔)と、集電体上に積層された活物質層とを有する。この活物質として、これまで様々なものが提案されている。例えば、特許文献1では、11、12、13、14、15族元素のうちの少なくとも一種以上を有する負極活物質が記載されている。また、特許文献2では、リチウムと合金化する金属が、負極活物質として記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−103474号公報
【特許文献2】特開平11−233116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のリチウム二次電池の負極では、充放電サイクルを繰り返した際の充放電容量の低下を防止する性能(以下「充放電サイクル特性」と略称することがある)が充分ではなかった。そこで、本発明の目的は、従来技術よりも優れた充放電サイクル特性を達成できるリチウム二次電池の負極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、以下の発明を完成した:
[1] 集電体層と、集電体層上に積層された活物質層とを有するリチウム二次電池の負極であって、活物質層が、NixCu6-xSn5からなる層(式中、xは0.30〜2.0である)を有することを特徴とする負極。
[2] 活物質層が、さらにCu3Snからなる層を有し、Cu3Snからなる層が、集電体層とNixCu6-xSn5からなる層(式中、xは0.30〜2.0である)との間に存在する上記[1]に記載の負極。
[3] 集電体層が、銅箔である上記[2]に記載の負極。
[4] 集電体層は、開口部が形成されていない層状構造であり、活物質層は、開口部が形成された網目状構造である上記[1]〜[3]のいずれか一つに記載の負極。
[5] 平面視における開口部の形状が、五角形以上の略正多角形および/または略円形である上記[4]に記載の負極。
[6] 平面視における開口部の形状が、略正六角形である上記[5]に記載の負極。
[7] 上記[1]〜[6]のいずれか一つに記載の負極を含むリチウム二次電池。
[8] 集電体層と、集電体層上に積層された活物質層とを有するリチウム二次電池の負極用シートであって、活物質層が、NixCu6-xSn5からなる層(式中、xは0.30〜2.0である)を有することを特徴とするシート。
【0006】
以下では、「NixCu6-xSn5からなる層」および「Cu3Snからなる層」を、それぞれ、「NixCu6-xSn5層」および「Cu3Sn層」と略称することがある。
また、本発明において「活物質層の開口部」とは、活物質が存在しない部分を意味し、「平面視における開口部の形状」とは、活物質層を垂直方向から見たときの開口部の形状を意味する。また、活物質層における「開口部が形成された網目状構造」とは、活物質層を垂直方向から見たときに、複数の開口部が規則的に配列し、個々の開口部の周囲が集電体層を被覆する被覆部(活物質が存在する部分)となっていることを意味する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の負極を用いれば、充放電サイクル特性に優れたリチウム二次電池を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1(A)は本発明の好ましい実施態様によるリチウム二次電池の負極の要部を示す概略平面図、図1(B)は図1(A)のIb−Ib線での概略断面図である。
【図2】図2(A)は本発明の好ましい別の実施態様によるリチウム二次電池の負極の要部を示す概略平面図、図2(B)は図2(A)のIIb−IIb線での概略断面図である。
【図3】実施例1〜4並びに比較例1および2で用いたフォトマスクの概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、リチウム二次電池の負極および負極用シートに関する。本発明において「リチウム二次電池の負極用シート」とは、「リチウム二次電池の負極」を製造するために用いられるシートであり、このシートを所望の大きさに切断または打ち抜くことによって「リチウム二次電池の負極」を製造することができる。従って、以下の記載において、特に断りが無い場合、「負極」は、リチウム二次電池の負極および負極用シートを包含する概念として用いられる。
【0010】
本発明の負極は、集電体層と、集電体層上に積層された活物質層とを有し、活物質層が、NixCu6-xSn5層(式中、xは0.30〜2.0である)を有することを特徴とする。活物質層は、集電体層の片面のみに形成されていてもよく、また、集電体層の両面に形成されていてもよい。
【0011】
本発明の負極が優れた充放電サイクル特性を発揮するのは、Cu6Sn5にNiが適当量で含有されるNixCu6-xSn5層(式中、xは0.30〜2.0である)が存在するために、電池の充放電による活物質層の脱落が防止できるからであると推定される。但し、本発明は、この推定に限定されない。xの値は、好ましくは0.4〜1.8、より好ましくは0.6〜1.5である。xの値は、後述する実施例に記載の方法によって測定および算出することができる。
【0012】
NixCu6-xSn5層(式中、xは0.30〜2.0である)の厚さは、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは1μm以上であり、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下である。NixCu6-xSn5層が薄すぎると、電池としての容量が充分に得られない場合がある。一方、NixCu6-xSn5層が厚すぎると、この層の深部へのLi拡散に時間を要し、電池として実用的な電流が得られない場合がある。このNixCu6-xSn5層の厚さは、後述する実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0013】
本発明の負極では、活物質層が、さらにCu3Sn層を有することが好ましく、活物質層が、NixCu6-xSn5層(式中、xは0.30〜2.0である)およびCu3Sn層からなることがより好ましい。このCu3Sn層は、集電体層とNixCu6-xSn5層との間に存在する。
【0014】
Cu3Sn層が存在する場合、その厚さは、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1μm以上であり、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下である。Cu3Sn層は、NixCu6-xSn5層と集電体との応力緩和層として機能していると考えられ、Cu3Sn層が薄すぎると、応力緩和の効果が充分に得られず、充放電サイクル特性が充分に高くならない場合がある。一方、Cu3Sn層が厚すぎると、Liと合金化できる部分が相対的に少なくなり、電池のエネルギー密度が低下する場合がある。このCu3Sn層の厚さは、後述する実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0015】
集電体層は、通常、導電性を有する金属または合金から形成される。好ましくは金属箔または合金箔であり、より好ましくは銅箔であり、さらに好ましくは電解銅箔である。集電体層の厚さは、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上、さらに好ましくは8μm以上であり、好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下、さらに好ましくは20μm以下である。集電体層が薄すぎると、電池の内部抵抗が高くなり、電池の負荷特性が低下してしまう。一方、集電体層が厚すぎると、電池の体積および重量が大きくなり、また、エネルギー密度が低下してしまう。
【0016】
本発明の負極では、集電体層は、開口部が形成されていない層状構造であり、活物質層は、開口部が形成された網目状構造であることが好ましい。以下、図1および2を参照しながら、本発明の好ましい実施態様を説明する。
【0017】
図1は、本発明の好ましい実施態様による負極の要部の概略平面図(図1(A))および概略断面図(図1(B))であり、図2は、本発明の好ましい別の実施態様による負極の要部の概略平面図(図2(A))および概略断面図(図2(B))である。図1(B)は、図1(A)中のIb−Ib線での断面を示し、図2(B)は、図2(A)中のIIb−IIb線での断面を示す。
【0018】
本発明の好ましい実施態様では、集電体層1には開口部が形成されていない。このことによって、集電体層1は、その電気抵抗を小さく維持することができ、且つ充分な強度を保つことができる。
【0019】
活物質層2は、開口部2Aが形成された網目状構造である。即ち、活物質層2を垂直方向から見たときに、複数の開口部2Aが規則的に配列し、個々の開口部2Aの周囲が集電体層1を被覆する被覆部2Bになっている。なお、網目状構造における開口部2Aの規則的配列は、典型的には、千鳥状配列、行列状配列等であり、好ましくは千鳥状配列である。なお、図1(A)および図2(A)ではいずれも、開口部2Aが千鳥状に配列している。
【0020】
リチウム二次電池では、充放電に伴い、活物質層にリチウムが出入りするため、活物質層の膨張/収縮が生ずる。そして、この膨張/収縮による応力のために、活物質層が破損し、充放電容量が低下することがある。この点、活物質層に開口部が存在することによって、膨張/収縮による活物質層の破損を防止し、リチウム二次電池の充放電容量の低下を防止することができる。
【0021】
活物質層中の平面視における開口部の形状は、五角形以上の略正多角形および/または略円形であることが好ましい。本発明において「略正多角形」とは、その最長の辺の長さが、最短の辺の長さに対して1.1倍以下である多角形を意味し、これには、正多角形に加えて、正多角形に類似する多角形が含まれる。略正多角形における最長の辺の長さは、最短の辺の長さに対して1.05倍以下であることが好ましく、略正多角形は正多角形であることがより好ましい。また、「略円形」とは、その長径(長軸)が、短径(短軸)に対して1.1倍以下である楕円形または長円形を意味し、これには、円形も含まれる。略円形における長径は、短径に対して、1.05倍以下であることが好ましく、略円形は円形であることがより好ましい。図1(A)では、開口部2Aの形状は正六角形であり、図2(A)では、開口部2Aの形状は円形である。
【0022】
活物質層における開口部が五角形以上の略正多角形および/または略円形であれば、リチウム二次電池の充放電サイクル特性を向上させることができる。このメカニズムは定かではないが、五角形以上の略正多角形は、応力が集中すると考えられる角の個数が多いため、応力の集中が緩和されて、活物質層の破損がより一層防止されるためであると推定される。また、略円形は、略正多角形の角の個数が無限大に増加したものであると考えることができ、その結果、略円形でも応力集中が緩和されると考えられる。但し、本発明はこれらの推定メカニズムに限定されない。五角形以上の略正多角形は、好ましくは略正六角形および/または略正八角形であり、より好ましくは略正六角形である。
【0023】
活物質層における開口部の形状は、好ましくは略正六角形、略正八角形および略円形よりなる群から選ばれる少なくとも一つであり、より好ましくは略正六角形(特に正六角形)および/または略円形(特に円形)である。開口部の形状は略正六角形(特に正六角形)であることがさらに好ましい。活物質層の開口部が略円形であると、図2(A)に示されるように、開口部2Aの周囲の被覆部2Bの幅が均一にならず、幅の太い部分と幅の細い部分とが存在するが、開口部が略正六角形であると、図1(A)に示されるように、開口部2Aの周囲の被覆部2Bの幅をほぼ均一にすることができ、強度に優れる活物質層2を形成することができる。
【0024】
活物質層における開口部の形状は、基本的には単一形状(即ち、複数の開口部が互いに同一形状)であることが好ましいが、形状が異なる2種以上の開口部が存在してもよい。例えば、略正六角形の開口部と略円形の開口部とが存在していてもよく、また、略正六角形の開口部と略正八角形の開口部とが存在していてもよい。
【0025】
活物質層における開口部の大きさが小さすぎると、活物質層の膨張/収縮による応力を充分に緩和できない。一方、開口部の大きさが大きすぎると、リチウム二次電池の充放電容量が小さくなりすぎる。そこで、略正多角形である開口部の最長の対角長さは(図1(A)中のA1)は、好ましくは1μm以上、より好ましくは50μm以上、さらに好ましくは100μm以上であり、好ましくは1000μm以下、より好ましくは900μm以下、さらに好ましくは800μm以下である。また、略円形である開口部の直径または長軸(図2(A)中のA2)は、好ましくは1μm以上、より好ましくは50μm以上、さらに好ましくは100μm以上であり、好ましくは1000μm以下、より好ましくは900μm以下、さらに好ましくは800μm以下である。
【0026】
活物質層における各開口部の大きさは、異なっていてもよいが、活物質層は、全体において一様な性状であることが好ましい。そこで、活物質層中の最大の開口部の最大長さ(最大の対角長さ、または直径若しくは長軸)は、最小の開口部の最大長さ(最大の対角長さ、または直径若しくは長軸)に対して、好ましくは2.0倍以下、より好ましくは1.5倍以下である。各開口部の大きさは実質的に同じであることが、さらに好ましい。「各開口部の大きさが実質的に同じ」とは、各開口部の大きさの差が製造誤差の範囲内にあることを意味する。実際の製造では、開口部を同じ大きさに設定しても、製造誤差により大きさにバラツキが生ずることがある。
【0027】
活物質層の被覆部の最短幅が小さすぎると、集電体層に対する活物質層の密着性が不充分になり、充放電サイクルを繰り返すと、活物質が脱落するおそれが高くなる。一方、被覆部の最短幅が大きすぎると、活物質層の膨張/収縮による応力を充分に緩和できない。そのため、被覆部の最短幅は、好ましくは1μm以上、より好ましくは10μm以上、さらに好ましくは20μm以上であり、好ましくは500μm以下、より好ましくは300μm以下、さらに好ましくは100μm以下である。ここで「被覆部の最短幅」とは、隣接する2つの開口部の最近接距離(例えば、図1(A)中のB1、図2(A)中のB2)を意味する。
【0028】
活物質層において、開口部および被覆部を合わせた総面積中の被覆部の面積率(以下「被覆率」と略称することがある)が小さすぎると、リチウム二次電池の充放電容量が小さくなりすぎる。一方、被覆率が大きすぎると、活物質層の膨張/収縮による応力を充分に緩和できない。そこで被覆率は、好ましくは5面積%以上、より好ましくは10面積%以上、さらに好ましくは15面積%以上であり、好ましくは70面積%以下、より好ましくは65面積%以下、さらに好ましくは60面積%以下である。
【0029】
本発明の負極用シートは、例えば、銅箔(好ましくは電解銅箔)にNi層を形成し、次いでその上にSn−Cu層を形成し、Ni層/Sn−Cu層を有する銅箔を熱処理することによって製造することができる。この熱処理によって金属成分が拡散および移動し、銅箔(Cu層)上に、Cu3Sn層およびNixCu6-xSn5層がこの順序で形成される。なお、熱処理前に形成するNi層の厚さを調整することなどによって、NixCu6-xSn5層中のxの値を調整することができる。
【0030】
Ni層およびSn−Cu層の形成法としては、例えば、電解めっき、無電解めっき、スパッタリング、蒸着などが挙げられ、これらの中で電解めっきが好ましい。Ni層/Sn−Cu層を有する銅箔の熱処理温度は、Snの融点(232℃)以上であることが好ましく、235〜400℃がより好ましい。この熱処理の時間は、好ましくは0.5〜50時間である。
【0031】
開口部が形成された網目状構造である活物質層を有する本発明の好ましい負極用シートは、例えば、開口部および被覆部の形状が活物質層とは反転しているレジスト膜をフォトリソグラフィによって銅箔上に形成した後、その上にNi層およびSn−Cu層を形成し、次いでレジスト膜を除去して開口部を有するNi層/Sn−Cu層を形成し、次いでこのNi層/Sn−Cu層を有する銅箔を熱処理することによって製造することができる。
【0032】
本発明の負極は、上記のようにして製造した負極用シートを、公知の手段によって、所望の大きさに切断または打ち抜くことによって、製造することができる。
【0033】
本発明は、さらに、上記負極を含むリチウム二次電池を提供する。本発明のリチウム二次電池は、上記負極を含むことを特徴とし、それ以外の構成に特に限定は無い。リチウム二次電池の構成およびその製造方法は公知であり、例えば特許文献1および2などに記載されている。
【実施例】
【0034】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、上記・下記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0035】
実施例1〜4並びに比較例1および2:負極用シートの製造
電解銅箔(厚さ:20μm)に、ネガ型レジスト膜(厚さ:25μm)を積層した後、図3に示す形状のフォトマスク(図3中、符号3は透光部を示し、符号4は遮光部を示す。a1:0.30mm、b1:0.05mm、c1:0.31mm、d1:0.54mm)を用いて露光および現像して、フォトマスクに対してパターンが反転した現像レジスト膜(被覆部の形状:正六角形)を形成した。
【0036】
現像レジスト膜を有する電解銅箔を、めっき液(硫酸ニッケル(NiSO4・6H2O):300g/L、塩化ニッケル(NiCl2・6H2O):50g/L、ホウ酸:40g/Lを含有する水溶液)に浸漬して、電解めっきを行い、Niめっき層を有する電解銅箔を形成した。この電解めっきは、めっき液の温度を50℃に調整し、1A/dm2の電流密度で行った。Niめっき層の厚さは、めっき時間によって調整した。具体的には、この電解めっきを5分間行うことによって、厚さ1μmのNiめっき層が形成された(Niめっき層の厚さ/めっき時間=0.2μm/分)。
【0037】
上記のようにして得られたNiめっき層を有する電解銅箔を、めっき液(メタンスルホン酸スズ(II):39g/L、メタンスルホン酸銅(II):6.6g/L、メタンスルホン酸:100g/L、ビスフェノール:5g/L、チオ尿素:10g/L、カテコール1g/Lを含有する水溶液)に浸漬して、電解めっきを行い、Niめっき層上にSn−Cu共析めっき層(厚さ:10μm)を形成した。この電解めっきは、めっき液の温度を40℃に調整し、1A/dm2の電流密度で20分間行った。Sn−Cu共析めっき層を形成した電解銅箔を水洗した後、3〜5重量%のNaOH水溶液を用いて現像レジスト膜を剥離し、さらに水洗することによって、正六角形の開口部が千鳥状に配列したNiめっき層/Sn−Cu共析めっき層を有する電解銅箔を形成した。
【0038】
上記のようにして得られたNiめっき層/Sn−Cu共析めっき層を有する電解銅箔を、大気下、250℃で5時間熱処理して、集電体層(電解銅箔)上に、図1(A)に示すような活物質層として、Cu3Sn層およびNixCu6-xSn5層をこの順序で有する負極用シートを製造した(A1:0.30mm、B1:0.046mm、C1:0.30mm、D1:0.52mm、被覆率:29面積%)。なお、活物質層の各部の寸法は、JEOL製の電子顕微鏡:「JSM−6390A」で撮影した電子顕微鏡写真から算出した。
【0039】
充放電サイクル特性の評価
(1)電池の製造
実施例1〜4並びに比較例1および2で製造した負極用シートを16mmφの大きさに打ち抜いて、評価用の負極を作製した。この負極に真空中70℃で1時間乾燥処理を施した後、アルゴン雰囲気下のグローブボックスに負極を移動させた。グローブボックス中のアルゴン雰囲気下で、この負極を用いて2016サイズのコインセル型電池を製造した。
正極用シートとして、アルミ箔を集電体層とし、コバルト酸リチウムを活物質層としたシートを使用し、これを15mmφに打ち抜いたものを電池の対極(正極)として使用した。また、セパレーターとして、ポリエチレン製微多孔膜(厚さ:25μm、空孔率:40体積%、空孔の平均径:0.1μm)を使用し、電解液として、1.4MのLiPF6溶液(溶媒:エチレンカーボネート(EC)およびジエチルカーボネート(DEC)、EC:DECの体積比=1:2)を使用した。
【0040】
(2)充放電サイクル試験
上記のようにして製造した電池を25℃の恒温器中に入れて、以下のような充放電レートで合計60サイクルの充放電を行った。
(i)0.2CmAの充放電レートで5サイクルを1回(合計5サイクル)
(ii)1CmAの充放電レートで10サイクル、その後0.2CmAの充放電レートで1サイクルの組合せを5回(合計55サイクル)
【0041】
上記0.2CmAの充放電レートの充放電では、充電上限電圧4.0Vおよび充電終止時間7時間の定電流定電圧充電を行い(即ち、電池の電圧が4.0Vになるまで充電した後、電池の電圧が4.0Vを保つように定電流で7時間充電を行い)、放電終止電圧2.5Vで定電流放電を行った(即ち、電池の電圧が2.5Vになるまで、定電流で放電を行った)。この充電と放電との間には、30分間の休止時間を設けた。
【0042】
上記1CmAの充放電レートの充放電では、充電上限電圧4.0Vおよび充電終止時間2時間の定電流定電圧充電を行い、放電終止電圧2.5Vで定電流放電を行った。この充電と放電との間には、30分間の休止時間を設けた。
【0043】
上記のようにして充放電サイクル試験を行い、1サイクル目の放電容量および60サイクル目の放電容量を測定し、相対放電容量(=100×60サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)を算出した。相対放電容量の結果を表1に示す。
【0044】
表1には、熱処理前に形成したNiめっき層およびSn−Cu共析めっき層の厚さ、熱処理後に形成したCu3Sn層の厚さ、並びにNixCu6-xSn5層の厚さおよびxの値も記載する。
【0045】
なお、表1に記載のNiめっき層、Sn−Cu共析めっき層、Cu3Sn層およびNixCu6-xSn5層の厚さは、Hitachi FB-2100を用いて加速電圧40kVでFIBマイクロサンプリングを行い、そのサンプルをFE−SEM(Joel製、JSM−7001F、加速電圧15kV)によって断面SEM像を撮影し、その画像から求めた。また、xの値は、Field Emission Scanning Electron Microscope-X-ray Micro Analyzer(FE−SEM−XMA)による元素分析でNixCu6-xSn5層の各元素の比率を測定し(FE−SEM(Joel製、JSM−7001F、加速電圧15kV)、XMA(Oxford Instruments製、Inca Energy 250、エネルギー分散型))、この比率から算出した。
【0046】
【表1】

【0047】
表1から明らかなように、xが0.30〜2.0であるNixCu6-xSn5層を有する本発明の負極(実施例1〜4)を使用した電池は、xが0.30未満であるNixCu6-xSn5層を有する負極(比較例1)およびxが2.0を超えるNixCu6-xSn5層を有する負極(比較例2)を使用した電池に比べて、優れた相対放電容量を示す。
【符号の説明】
【0048】
1 集電体層
2 活物質層
2A 開口部
2B 被覆部
3 透光部
4 遮光部
10 負極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体層と、集電体層上に積層された活物質層とを有するリチウム二次電池の負極であって、活物質層が、NixCu6-xSn5からなる層(式中、xは0.30〜2.0である)を有することを特徴とする負極。
【請求項2】
活物質層が、さらにCu3Snからなる層を有し、Cu3Snからなる層が、集電体層とNixCu6-xSn5からなる層(式中、xは0.30〜2.0である)との間に存在する請求項1に記載の負極。
【請求項3】
集電体層が、銅箔である請求項2に記載の負極。
【請求項4】
集電体層は、開口部が形成されていない層状構造であり、活物質層は、開口部が形成された網目状構造である請求項1〜3のいずれか一項に記載の負極。
【請求項5】
平面視における開口部の形状が、五角形以上の略正多角形および/または略円形である請求項4に記載の負極。
【請求項6】
平面視における開口部の形状が、略正六角形である請求項5に記載の負極。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の負極を含むリチウム二次電池。
【請求項8】
集電体層と、集電体層上に積層された活物質層とを有するリチウム二次電池の負極用シートであって、活物質層が、NixCu6-xSn5からなる層(式中、xは0.30〜2.0である)を有することを特徴とするシート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−37934(P2013−37934A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173808(P2011−173808)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】