説明

リチウム二次電池および負極

【課題】ケイ素あるいはスズを含む負極活物質の電解液との副反応を抑制し、充放電サイクル経過に伴う負極の膨れを低減する。
【解決手段】本発明の負極は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能であり、かつ、シリコンあるいはスズを含む負極活物質と、負極活物質の表面の少なくとも一部に位置する膜とを備え、膜は、光電子分光スペクトルにおいて、280〜288eVの範囲にある第1のピークと、288〜292eVの範囲にある第2のピークとを有し、第2のピークに対する第1のピークの強度比は2.0以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンあるいはスズを含む負極活物質を用いたリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、高容量および高エネルギー密度を有し、小型化および軽量化が容易なことから、たとえば携帯電話、携帯情報端末(PDA)、ノート型パーソナルコンピュータ、ビデオカメラ、携帯ゲーム機などの携帯用小型電子機器の電源として汎用されている。近年、携帯用小型電子機器では、一層の多機能化が進められ、かつ、連続使用可能時間の延長が求められている。また、リチウム二次電池は、小型電子機器の電源としてだけでなく、例えばハイブリッドカー、電気自動車、電動工具などの大型機器の電源としても期待されている。これらの要望に対応するためには、電源として使用されるリチウム二次電池のさらなる高容量化が必要である。
【0003】
リチウム二次電池の負極は、基板(集電体)と、基板上に形成された負極活物質を含む層(負極活物質層)とから構成されている。負極活物質としては、一般に、炭素系材料が使用されている。近年、リチウム二次電池のさらなる高容量化のため、炭素系材料に代わって、より高容量の負極活物質を用いた負極の開発が進められている。高容量の負極活物質としては、ケイ素、スズ、これらの酸化物、これらの窒化物、これらを含有する化合物、合金など(以下、「合金系材料」と総称する。)が知られている。
【0004】
しかしながら、合金系材料を用いると、従来の炭素系材料を用いた場合と異なり、以下のような問題が生じ得る。
【0005】
合金系活物質は、リチウムの吸蔵・放出に伴って大きく膨張・収縮するため、負極活物質に割れが生じて活性な新生面が露出しやすい。合金系材料は、炭素系材料よりも、非水電解液の溶媒に対する反応性が大幅に高いため、新生面が露出した部分において、負極活物質と電解液成分とが反応する。この結果、負極活物質の一部が酸化し、不活性化(失活)するおそれがある。負極活物質の一部が失活すると、充放電効率が低下し、容量の低下を引き起こす可能性がある。
【0006】
また、割れが生じた部分には電解液が入ってきて空隙が生成される。このため、負極活物質が多孔質化し、負極活物質の体積が過剰に増加する場合がある。この結果、充放電サイクル特性の低下に加え、負極の厚さの増加によって電池が膨れるという問題がある。
【0007】
このような問題に対し、特許文献1は、負極活物質にケイ素を用いた電池において、電解液にフルオロエチレンカーボネート(FEC)を加えることよって、充放電サイクル特性および、サイクル経過後の負極の厚さの増加を抑制できることを開示している。特許文献1では、FECを含む電解液を用いると、負極活物質の表面に適切な皮膜が形成され、この結果、負極活物質と非水電解液との反応により負極活物質が劣化して膨張するのを抑制できることが記載されている。なお、非特許文献1には、FECを含む電解液を用いると、FECが負極上で分解され、その結果ビニレンカーボネートが生成されることが記載されている。
【0008】
一方、特許文献2は、電池の熱安定性を向上させるための電極表面皮膜形成剤を開示している。特許文献2には、リチウム金属などの負極活物質の表面に皮膜を形成する材料としてフッ化エーテル化合物が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−86058号公報
【特許文献2】特開2004−55320号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Sheng Shui Zhang、A review on electrolyte additives for lithium−ion batteries、Journal of Power Sources 162(2006)1379−1394
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、本発明者が検討したところ、上述した従来の技術を用いても、負極活物質と電解液との反応による負極活物質の失活を抑え、かつ、負極活物質の厚さの増加を効果的に抑制して、充放電サイクル特性さらに高めることは困難である。
【0012】
特許文献1に開示された構成では、電解液に加えるFECの量を増やすと、皮膜形成による効果(負極活物質の劣化や膨張を抑制する効果)を高めることができる。しかし、特に高温時にガスが発生し、電池の厚さや内部抵抗の増加を引き起こすおそれがある。これは、負極上でFECが分解される際に生成するビニレンカーボネートが正極上で分解するためと言われている。
【0013】
前述したように、FECが負極上で分解され、ビニレンカーボネートが生成されることは、例えば非特許文献1に記載されている。また、ビニレンカーボネートの酸化電位が低いことから、正極上でビニレンカーボネートが酸化分解しやすいことが知られている。このため、高温時のガス発生の理由として、ビニレンカーボネートの正極上での分解が挙げられているものと考えられる。
【0014】
特許文献2では、負極活物質として、例えばリチウム金属、リチウムインターカレート化合物、リチウム合金を用いている。また、電極表面皮膜形成剤としてフッ化エーテルを用いると、リチウム金属表面に皮膜(保護膜)が形成されることが記載されている(特許文献2の[0027段落])。すなわち、特許文献2における皮膜は、急速充電や過放電時などの異常時に、負極上に析出するリチウム金属の表面に形成される。さらに、特許文献2には、この皮膜がリチウムフロリド(LiF)と予想され、これにより、熱安定性を向上できるとの記載がある。従って、特許文献2の電極表面被膜形成剤は、ケイ素やスズを含む合金系の負極活物質を有する電池に適用するものではない。また、そのような負極活物質を用いた際に問題になる充放電時の電解液との副反応およびガス発生に伴う課題については何ら言及されていない。
【0015】
本発明は、上記事情を考慮してなされたものであり、その目的は、負極活物質の厚さ増加による膨れを抑えるとともに、負極活物質の失活を抑制して充放電サイクル特性に優れたリチウム二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の負極は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能であり、かつ、シリコンあるいはスズを含む負極活物質と、前記負極活物質の表面の少なくとも一部に位置する膜とを備え、前記膜は、光電子分光スペクトルにおいて、280〜288eVの範囲にある第1のピークと、288〜292eVの範囲にある第2のピークとを有し、前記第2のピークに対する前記第1のピークの強度比は2.0以上である。
【0017】
本発明のリチウム二次電池は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極活物質を有する正極と、リチウムイオンを吸蔵・放出可能であり、かつ、シリコンまたはスズを含む負極活物質を有する負極と、前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータと、リチウムイオン伝導性を有する電解質とを含み、前記電解質は、炭化水素基の水素原子の少なくとも一部がフッ素原子に置換したフッ化エーテルを含む。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、ケイ素あるいはスズ含む負極活物質の表面を特定の化学状態にすることができ、これにより、充放電サイクルに伴う負極活物質と電解液との副反応を抑えることができるので、サイクル寿命を向上できる。また、負極の厚さの増加を抑制でき、高温での炭酸ガスの発生を低減できるので、リチウム二次電池の膨れの小さく抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明による実施形態のリチウム二次電池の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態における負極集電体の一例を示す斜視図である。
【図3】本発明による実施形態における負極の一例を示す断面図である。
【図4】負極の製造に用いる蒸着装置の構成を示す断面図である。
【図5】(a)および(b)は、それぞれ、溶媒としてFEを用いた場合のケイ素電極表面分析結果を示す図であり、(a)はC1sスペクトル、(b)はF1sスペクトルを示す。
【図6】(a)および(b)は、それぞれ、溶媒としてFECを用いた場合のケイ素電極表面分析結果を示す図であり、(a)はC1sスペクトル、(b)はF1sスペクトルを示す。
【図7】(a)および(b)は、それぞれ、溶媒としてECを用いた場合のケイ素電極表面分析結果を示す図であり、(a)はC1sスペクトル、(b)はF1sスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本実施例で用いるリチウム二次電池の構成を模式的に示す断面図である。
【0021】
リチウム二次電池200は、正極30、負極20、セパレータ13、正極リード18、負極リード19、ガスケット16および外装ケース17を含む。正極30は、正極集電体31とその上に形成された正極活物質層33とを含む。負極20は、負極集電体21と、その上に形成された負極活物質層23とを含む。セパレータ13は、正極活物質層33と負極活物質層23との間に配置されている。正極リード18は正極集電体31に接続され、負極リード19は負極集電体21に接続されている。正極30、負極20およびセパレータ13からなる電極群は、リチウムイオン伝導性を有する電解質とともに、外装ケース17に封入されている。
【0022】
本実施形態における電解質は、炭化水素基の水素原子の少なくとも一部がフッ素原子に置換したフッ化エーテルを含んでいる。電解質は、フッ化エーテルに加えてフッ化環状カルボネートを含んでいてもよい。
【0023】
負極活物質層23は、ケイ素またはスズを含む負極活物質を含有している。図示しないが、負極活物質の表面の少なくとも一部には膜が形成されている。この膜は、フッ化エーテルを含む電解質が分解して得られる膜である。
【0024】
本実施形態によると、シリコンまたはスズを含む負極活物質の表面に、上記のような膜が形成されているので、負極活物質と電解質との副反応が抑えられる。このため、負極活物質における不活性成分の生成を抑制できる。また、炭酸ガスの発生が抑えられるので、電池の膨れによる充放電サイクル特性の低下を抑制できる。さらに、膜(皮膜)の形成により、負極活物質にクラックが生じにくくなるという利点も得られる。
【0025】
以下、リチウム二次電池200で用いる電解質をより具体的に説明する。
【0026】
<非水電解質>
本実施形態では、リチウムイオン伝導性を有し、かつ、フッ化エーテルを含む非水電解質を用いる。
【0027】
非水電解質は、非水溶媒および電解質を含む。非水溶媒は、主成分として、例えば環状カーボネートおよび鎖状カーボネートを含有する。環状カーボネートは、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、およびブチレンカーボネート(BC)から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。また、鎖状カーボネートは、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、およびエチルメチルカーボネート(EMC)等から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。電解質は、例えば電子吸引性の強いリチウム塩を含む。そのようなリチウム塩として、例えばLiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(SO2CF32、LiN(SO2252、LiC(SO2CF33等を用いることができる。これらの電解質は、一種類で使用してもよいし、二種類以上組み合わせて使用してもよい。また、これらの電解質は、0.5〜1.5Mの濃度で上述した非水溶媒に溶解していることが好ましい。
【0028】
本実施形態において、非水電解質に含まれるフッ化エーテルは、炭化水素基の水素原子の少なくも1つ以上がフッ素原子に置換された化合物である。フッ化エーテルの炭素数は4または5であることが好ましい。炭素数が3以下であれば、フッ化エーテルの沸点が低くなり、溶媒として取り扱いにくい。炭素数が6以上であれば、粘度が高くなるので好ましくない。
【0029】
フッ化エーテルとして、1,1,2,2−テトラフルオロエチル2,2,3,3−テトラフルオロプロピルエーテル、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル−1,1,2,2−テトラフルオロエチルエーテル、および1,1,2,2−テトラフルオロエチルエチルエーテルの少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0030】
また、電解液に対するフッ化エーテルの含有量は10重量%以上70重量%以下であることが好ましい。70重量%以上であれば、一般に用いられる環状カーボネートや鎖状カーボネートなどの溶媒成分と相溶しなくなるおそれがある。5重量%以下であると、負極の副反応を抑制する効果が十分に得られない場合がある。
【0031】
また、電解質としてフッ素化環状カーボネートを用いる場合、フッ素化環状カルボネートはフルオロエチレンカーボネート、およびジフルオロエチレンカーボネートの少なくとも1種であることが好ましい。これらの化合物の電解液中の含有量は、1重量%以上20重量%以下であることが好ましい。フッ素化環状カーボネートは消費型であるため、その含有量が1重量%未満であれば、充放電サイクルの繰り返しによって負極の副反応抑制の効果を長期間維持することが困難である。一方、20重量%よりも多くなると、ガスの発生量が多くなり、電池の膨れが生じ得る。なお、従来は、FECを溶媒として用いた場合のガスの発生は正極で生じると考えられていたが、後述するように、本発明者は、負極からもガスが発生することを見出した。
【0032】
フッ化エーテルにフッ化環状カーボネートを加える場合は、フッ化エーテルの量がフッ化環状カーボネートよりも多い方が好ましい。これにより、負極の副反応を抑制しつつ、ガス発生による電池の膨れを低減できる。より好ましくは、フッ化エーテルとフッ化環状カーボネートとの重量比(FE/FEC)は50/1〜2/1の範囲である。
【0033】
非水電解液には、高分子材料が含まれていてもよい。例えば、液状物をゲル化させ得る高分子材料を用いることができる。高分子材料としては、この分野で常用されるものを使用できる。例えばポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンオキサイドなどが挙げられる。
【0034】
続いて、リチウム二次電池200の構成をより詳しく説明する。
【0035】
<正極の構成>
正極集電体31には、この分野で常用されるものを使用できる。例えばステンレス鋼、チタン、アルミニウムなどの金属材料または導電性樹脂からなる多孔性または無孔の導電性基板を用いることができる。多孔性導電性基板としては、例えばメッシュ体、ネット体、パンチングシート、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群成形体(不織布など)などが挙げられる。無孔の導電性基板としては、例えば箔、シート、フィルムなどが挙げられる。多孔性または無孔の導電性基板の厚さは特に制限されないが、例えば1〜500μm、好ましくは1〜50μm、さらに好ましくは10〜40μm、特に好ましくは10〜30μmである。
【0036】
正極活物質層は正極活物質を含んでいる。また、必要に応じて導電剤、結着剤が含まれてもよい。
【0037】
正極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵および放出することができる物質であれば特に制限されないが、リチウム含有複合金属酸化物、オリビン型リン酸リチウムなどを好ましく使用できる。リチウム含有複合金属酸化物は、リチウムと遷移金属とを含む金属酸化物または該金属酸化物中の遷移金属の一部が異種元素によって置換された金属酸化物である。ここで、異種元素としては、たとえば、Na、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、Bなどが挙げられる。これらの中でも、Mn、Al、Co、Ni、Mgなどが好ましい。異種元素は1種でもよくまたは2種以上でもよい。リチウム含有複合金属酸化物の具体例としては、たとえば、LixCoO2、LixNiO2、LixMnO2、LixComNi1-m2、LixCom1-mn、LixNi1-mmn、LixMn24、LixMn2-mm4、LiMPO4、Li2MPO4F(式中、MはNa、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、SbおよびBよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を示す。x=0〜1.2、m=0〜0.9、n=2.0〜2.3である。)などが挙げられる。ここで、リチウムのモル比を示すm値は正極活物質作製直後の値であり、充放電により増減する。これらの中でも、一般式LixNi1-mmn(式中、M、x、mおよびnは上記に同じ。)で表されるリチウム含有複合金属酸化物を用いることが好ましい。
【0038】
リチウム含有複合金属酸化物は、公知の方法に従って製造できる。例えば次のようにして製造され得る。まず、リチウム以外の金属を含む複合金属水酸化物を、水酸化ナトリウムなどのアルカリ剤を用いる共沈法によって調製する。次いで、この複合金属水酸化物に熱処理を施して複合金属酸化物を得る。続いて、複合金属酸化物に水酸化リチウムなどのリチウム化合物を加えてさらに熱処理を施す。これにより、リチウム含有複合金属酸化物が得られる。オリビン型リン酸リチウムの具体例としては、たとえば、LiXPO4(式中、XはCo、Ni、MnおよびFeよりなる群から選ばれる少なくとも1つである)などが挙げられる。正極活物質として、上述した活物質のうち1種を単独で使用してもよいし、または必要に応じて2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
導電剤としては、リチウム二次電池の分野で常用されるものを使用できる。たとえば、天然黒鉛、人造黒鉛などのグラファイト類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック類、炭素繊維、金属繊維などの導電性繊維類などが挙げられる。これらの導電剤のうち一種を単独で用いてもよいし、必要に応じて2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
結着剤としても、リチウム二次電池の分野で常用されるものを使用できる。たとえば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル系ゴム、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル、ポリエーテルサルフォン、ヘキサフルオロポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、変性アクリルゴム、カルボキシメチルセルロースなどが挙げられる。これらの結着剤のうち1種を単独で用いてもよいし、必要に応じて2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
正極活物質層は、例えば次のようにして形成される。まず、正極活物質を含み、必要に応じて導電剤、結着剤などを有機溶媒に溶解または分散させた正極合剤スラリーを調整する。次いで、正極合剤スラリーを正極集電体の表面に塗布し、乾燥させる。有機溶媒としては、たとえば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルアミン、アセトン、シクロヘキサノンなどを使用できる。正極合剤スラリーの調製には、粉末と液体とを混合させる一般的な混合機、分散機などを使用できる。
【0042】
正極活物質層の厚さは、リチウム二次電池の設計性能、用途などの各種条件に応じて適宜選択される、正極活物質層を正極集電体の両面に設ける場合は、両面にそれぞれ形成された正極活物質層の合計厚さは50〜150μm程度であることが好ましい。
【0043】
<負極の構成および作製方法>
本実施形態では、負極活物質として、ケイ素、スズなどの合金系材料を用いることができる。合金系材料としては、合金系活物質としては特に制限されず、公知のものを使用できる。たとえばケイ素含有化合物、スズ含有化合物などが挙げられる。ケイ素含有化合物としては、たとえばケイ素、ケイ素酸化物、ケイ素窒化物、ケイ素含有合金、ケイ素化合物とその固溶体などが挙げられる。ケイ素酸化物としては、たとえば組成式:SiOα(0<α<2)で表される酸化ケイ素が挙げられる。ケイ素炭化物としては、たとえば、組成式:SiCβ(0<β<1)で表される炭化ケイ素が挙げられる。ケイ素窒化物としては、たとえば組成式:SiNγ(0<γ<4/3)で表される窒化ケイ素が挙げられる。ケイ素含有合金としては、たとえばケイ素とFe、Co、Sb、Bi、Pb、Ni、Cu、Zn、Ge、In、SnおよびTiよりなる群から選ばれる1または2以上の元素を含む合金が挙げられる。また、ケイ素の一部がB、Mg、Ni、Ti、Mo、Co、Ca、Cr、Cu、Fe、Mn、Nb、Ta、V、W、Zn、C、NおよびSnよりなる群から選ばれる1または2以上の元素で置換されていてもよい。これらの中でも、充放電の可逆性に優れるSiOα(0<α<2)を用いることが特に好ましい。スズ含有化合物としては、たとえば、スズ、スズ酸化物、スズ窒化物、スズ含有合金、スズ化合物とその固溶体などが挙げられる。スズ含有化合物としては、たとえば、スズ、SnOδ(0<δ<2)、SnO2などのスズ酸化物、Ni−Sn合金、Mg−Sn合金、Fe−Sn合金、Cu−Sn合金、Ti−Sn合金などのスズ含有合金、SnSiO3、Ni2Sn4、Mg2Snなどのスズ化合物などを好ましく使用できる。これらの中でも、スズ、およびSnOβ(0<β<2)、SnO2などのスズ酸化物が特に好ましい。
【0044】
負極集電体21として、例えば銅または銅合金からなる圧延箔、電解箔などを用いることができる。負極集電体21の形状は特に限定されず、箔の他に、孔開き箔、エキスパンド材、ラス材等であってもよい。負極集電体21が厚いほど、引張り強度が大きくなるので好ましい一方、負極集電体21が厚くなりすぎると、電池ケース内部の空隙体積が小さくなり、その結果、エネルギー密度が低下するおそれがある。合剤との密着性を向上させる目的で、箔の表面に突起、粒子などが設けられていても良い。
【0045】
負極活物質の粉末を用いる場合は、負極活物質層23は、負極集電体21の片面または両面に、例えば次のような方法で形成される。まず、負極活物質、結着剤、および必要に応じて増粘剤、導電助剤を溶剤に混練分散させたペースト状の負極合剤を作製する。次いで、負極集電体21の表面に負極合剤を塗布した後、乾燥させて負極合剤層を得る。続いて、負極合剤層が形成された負極集電体21を圧延する。このようにして、負極20が得られる。また、負極20は柔軟性を有することが好ましい。
【0046】
上記方法の代わりに、真空蒸着法やスパッタ、CVD法などの気相法によって負極集電体21上に負極活物質層23を直接堆積させてもよい。結着剤や導電材などの成分を含まないため、容量が高められ、かつ、負極集電体21との接合性が高まりやすい。
【0047】
負極活物質層23の形態は、特には限定されないが、複数の柱状体の集合体(活物質体)であることが好ましい。また、各活物質体は、負極集電体21の表面から離れる方向に向かって延びている。好ましくは、複数の活物質体は同じ方向に延びるように形成されている。このような負極活物質層23は、負極集電体21の表面に複数の凸部を設け、これらの凸部上に、それぞれ、活物質体を形成することによって製造され得る。
【0048】
ここで、図2および図3を参照しながら、負極20のより詳しい構成を説明する。簡単のため、図3では、1個の活物質体のみを示す。図2は、負極集電体21の模式的な斜視図である。
【0049】
図2に示すように、負極集電体21の表面(負極活物質層を形成しようとする表面)21aには複数の凸部22が設けられている。図示しないが、表面21aと反対側の表面にも、同様に凸部22が設けられていてもよい。凸部22は、負極集電体21の表面21aから、負極集電体21から離れる方向に向かって延びる突起である。凸部22はランダムに配置されていてもよいし、図示するように規則的に配置されていてもよい。凸部22が規則的に配置されていると、凸部22のピッチや大きさ等によって、活物質体間に形成される空間の大きさを容易に制御できるので好ましい。凸部22の高さ(平均高さ)hは特に制限されないが、3μm以上であることが好ましい。3μm以上であれば、後述する斜め蒸着によって活物質体24を形成する際に、シャドウイング効果を利用して、より確実に、凸部22の上に選択的に活物質体24を配置できる。従って、活物質体24の間に十分な空隙を確保できる。一方、凸部22の高さhは10μm以下であることが好ましい。凸部22が10μm以下であれば、電極に占める負極集電体21の体積割合を小さく抑えることができるので、高いエネルギー密度を得ることが可能になる。なお、本明細書では、凸部22の高さ(平均高さ)hは、負極集電体21の表面21aに垂直であり且つ凸部22の頂点を含む断面において、負極集電体21の表面21aから凸部22の頂点までの高さ、すなわち凸部22の頂点から表面21aに降ろした垂線の長さを指すものとする。「凸部22の頂点」は、負極集電体21の表面21aに対して最も高い点をいう。また、「表面21a」は、負極集電体21の表面のうち凸部22が形成されていない部分の表面をいう。凸部22の平均高さは、たとえば、負極20の、負極集電体21の表面に垂直な断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、100個の凸部22の高さを測定し、それらの平均値を算出することによって求められる。また、凸部22の断面径rは特に制限されないが、たとえば1μm以上であることが好ましい。これにより、凸部22と活物質体24との接触面積を十分に確保できる。一方、断面径rは50μm以下であることが好ましい。断面径rが50μmよりも大きくなると、活物質体24間に十分な空隙を形成できなくなる場合がある。なお、凸部22の断面径rは、負極集電体21の表面に垂直であり且つ凸部22の頂点を含む断面において、表面21aに平行な方向における凸部22の最大幅を指す。凸部22の断面径rも、凸部22の高さhと同様に、100個の凸部22の幅を測定し、これらの測定値の平均値を算出することによって求めることができる。なお、複数の凸部22は全て同じ高さhまたは同じ断面径rを有していなくてもよい。
【0050】
図2に示す例では、負極20の法線方向から見た凸部22の形状は円形である。ここでいう凸部22の形状は、負極集電体21の表面21aとは反対側の表面が水平面と一致するように集電体21を載置した場合に、鉛直方向上方から見た凸部22の形状をいう。なお、凸部22の形状は円形に限定されず、たとえば、多角形、楕円形、平行四辺形、台形、菱形などであってもよい。凸部22は、その延びる方向の先端部分にほぼ平面状の頂部pを有することが好ましい。図示する例では、凸部22は円形の頂部pを有している。凸部22が平面状の頂部pを有していると、凸部22と活物質体24との接合性が向上する。平面状の頂部pが表面21aに対してほぼ平行であれば、凸部22と活物質体24との接合強度をより高めることができるのでさらに好ましい。凸部22の単位面積当りの個数、凸部22同士の間隔などは特に制限されず、凸部22の大きさ(高さ、断面径など)、凸部22の表面に設けられる活物質体24の大きさなどに応じて適宜選択される。凸部22の単位面積当りの個数は、例えば1万〜1000万個/cm2程度である。また、隣り合う凸部22の軸線間距離dは、例えば2μm以上100μm程度であることが好ましい。凸部22は、所定の配列ピッチで規則的に配列されていることが好ましく、例えば千鳥格子状、碁盤目状などのパターンで配列されていてもよい。凸部22の配列ピッチ(隣接する凸部22の中心間の距離)は例えば10μm以上100μm以下である。ここで、「凸部22の中心」とは、凸部22の上面(頂部)における最大幅の中心点を指す。配列ピッチが10μm以上であれば、隣接する活物質体24の間に、活物質体24が膨張するための空間をより確実に確保できる。一方、配列ピッチが100μm以下であれば、活物質体24の高さを増大させることなく、高い容量を確保できる。また、凸部22の配列ピッチに対する凸部22の間隔の割合は1/3以上2/3以下であることが好ましい。間隔の割合が1/3以上であれば、各凸部22の上にそれぞれ活物質体24を形成したときに、凸部22の各配列方向における活物質体24の空隙の幅をより確実に確保できる。一方、間隔の割合が2/3よりも大きくなると、斜め蒸着によって活物質体を形成する際に、凸部22の間の間隔(「凹部」または「溝」ともいう。)にも活物質が蒸着されてしまい、負極集電体21にかかる膨張応力が増大するおそれがある。さらに、凸部22が、負極集電体21の表面に垂直な側面を有する柱状体である場合には、負極20の断面図において、隣接する凸部22の間隔が、凸部22の幅の30%以上であることが好ましい。これにより、活物質体24の間に十分な空隙を確保して膨張応力を大幅に緩和できる。一方、隣接する凸部22の間の距離が大きすぎると、容量を確保するために負極活物質層23の厚さが増大してしまう。従って、負極20の断面において、凸部22の間隔は、凸部22の幅の250%以下であることが好ましい。凸部22の表面に、めっきなどによって突起(図示せず)を形成してもよい。これにより、凸部22と活物質体24との接合性を効果的に向上できるので、活物質体24の凸部22からの剥離や剥離伝播などをより確実に防止できる。突起は、凸部22表面から凸部22の外方に突出するように設けられる。突起の幅および高さは、凸部22の幅および高さよりも小さく、各凸部22の表面に複数の突起が形成されてもよい。さらに、凸部22の側面もに、周方向および/または凸部22の成長方向に延びるように突起が形成されていてもよい。また、凸部22が平面状の頂部を有する場合は、各頂部に、凸部22よりも小さな突起が1個または複数個形成されていてもよい。頂部に形成される突起は一方向に延びていてもよい。凸部22の上面は平坦であってもよいが、凹凸を有することが好ましい。凹凸は、例えば上記のように凸部22の上面に突起を形成することによって形成され得る。凸部22の上面の表面粗さRaは、0.3μm以上5.0μm以下であることが好ましい。これにより、凸部22と活物質体24との付着力を十分に確保できるので、活物質体24の剥離を防止できる。ここでいう「表面粗さRa」とは、日本工業規格(JISB 0601―1994)に定められた「算術平均粗さRa」を指し、例えば表面粗さ計などを用いて測定できる。
【0051】
なお、負極集電体21の表面の形成された凹凸パターンの断面が曲線形状を有する場合など、凸部22と凸部以外の部分(「溝」、「凹部」)との境界が明確でなくてもよい。このような場合には、凹凸パターンを有する表面全体の平均高さ以上の部分を「凸部22」とし、平均高さ未満の部分を「溝」または「凹部」とする。また、凹部の底点を含む平面を「表面21a」とする。
【0052】
本実施形態における負極集電体21は、たとえば金属箔、金属シートなどの集電体用原料シートに凹凸を形成することによって作製できる。凹凸を形成する方法としては、表面に複数の凹部が形成されたローラの表面を転写する方法(以下「ローラ加工法」とする。)、フォトレジスト法などが挙げられる。
【0053】
ローラ加工法では、表面に凹部が形成されたローラ(以下「凸部形成用ローラ」とする)を用いて、集電体用原料シートを機械的にプレス加工する。これにより、集電体用原料シートの少なくとも一方の面に、複数の凸部22を形成することができる。集電体用原料シートとしては、負極集電体21の材料として上述したような材料を含むシートを用いることができる。
【0054】
負極活物質層23は、図3に示すように、凸部22の表面から負極集電体21の外方に向けて延びる複数の柱状の活物質体24を含んでいる。各活物質体24は、負極集電体21の表面21aの法線方向に延びていてもよい。あるいは、法線方向Dに対して傾斜した方向に延びていてもよい。また、各活物質体24は、成長方向の異なる複数の柱状塊が積み重ねられた構造を有していてもよい。
【0055】
各活物質体24は、少なくとも充電が行われる前には、隣接する活物質体24との間に間隙を有していることが好ましい。この間隙によって、充放電の際の膨張および収縮による応力を緩和できるので、活物質体24が凸部22から剥離し難い。この結果、負極集電体21や負極20の変形を抑制できる。活物質体が、互いに間隔を空けて負極集電体21の表面に配置されていることで、膜状に負極活物質層23が形成されている場合と比較して、膨張、収縮による応力の伝播がより緩和されるため、電解液との副反応のきっかけとなる活物質の割れを低減できる。
【0056】
活物質体24間の間隙の幅は、凸部22の配列ピッチや大きさ等によって調整され得る。また、これらの活物質体24は、負極活物質層23の形成直後や放電時には互いに間隔を空けて配置されていても、充電時には、隣接する活物質体24同士が接触する場合もある。負極活物質層23の厚さが大きいほど、つまり単位面積あたりの負極活物質量が多いときほど、より広い間隔をあけることが好ましい。
【0057】
このような活物質体24を含む負極活物質層23は、次のようにして形成される。まず、凸部22の頂部およびそれに続く側面の一部を被覆するように柱状塊24aを形成する。次に、凸部22の残りの側面および柱状塊24aの頂部表面の一部を被覆するように柱状塊24bを形成する。すなわち、図6に示す断面図において、柱状塊24aは凸部22の頂部を含む一方の端部に形成され、柱状塊24bは部分的には柱状塊24aに重なるが、残りの部分は凸部22の他方の端部に形成される。さらに、柱状塊24aの頂部表面の残りおよび柱状塊24bの頂部表面の一部を被覆するように柱状塊24cが形成される。すなわち、柱状塊24cは主に柱状塊24aに接するように形成される。さらに、柱状塊24dは主に柱状塊24bに接するように形成される。以下同様にして、柱状塊24e、24f、24g、24hを交互に積層することによって、活物質体24が形成される。
【0058】
活物質体24は、n個(n≧2)の層(柱状塊)が積み重ねられた構造を有しているほうが好ましい。個数nは大きい方がより好ましい。同じ厚みの膜で個数nが増加するということは1層あたりの厚みが小さくなることを示している。1層あたりの厚みが小さくなると膨張収縮時の応力が蓄積されにくく、負極集電体との界面での剥がれや、活物質の割れを小さくできる。たとえば、図3に示すように、8個の柱状塊24a、24b、24c、24d、24e、24f、24g、24hが積層された柱状物であってもよい。
【0059】
各活物質体24が図3に示すような構造(積層構造)を有すると、充放電サイクルの比較的短い期間における、活物質体24の負極集電体21からの剥がれや、粒子割れ(活物質体24の割れ)を低減できる。
【0060】
図示していないが、各活物質体24の表面の少なくとも一部は、FEを含む電解質の分解により形成される膜で覆われている。これにより、負極活物質と電解質との副反応を抑制できる。
【0061】
なお、本発明者が検討したところ、上記のような積層構造を有する負極を用いると、電解質の種類にかかわらず、積層構造を有さない負極よりも活物質粒子のサイズを小さくできるので、膨張収縮の応力を小さくでき、破壊(割れ)が生じにくくなる。しかしながら、そのような構造の負極を用いた場合でも、FEを含まない従来の電解質を用いてリチウム二次電池(参考例)を構成すると、長期の充放電サイクルにより、各活物質体24が徐々に割れて副反応を起こしやすくなり、膨れが生じる場合があることがわかった。特に、活物質体の表面と、交互に積層した柱状塊の間(以下、「層間」と称する。)で、負極活物質と電解液との反応が起こりやすいと考えられる。層間は、構造上、柱状塊の成長方向が変わる屈曲部であり、その部分では応力の集中が起こりやすい。このため、充放電サイクルを重ねた場合、蓄積された応力によって層間に亀裂が生じて、新生面が露出し、副反応(酸化反応)が生じると推測される。酸化反応が生じると、層間の近傍で活物質(活性成分であるLi4Si)が失活して不活性なケイ素リチウム(Li4SiO4)となる可能性がある。
【0062】
これに対し、本実施形態によると、FEを含む電解質を用いるので、副反応を抑制する効果の高い膜が活物質体表面に形成される。この結果、活物質の失活を抑制できるので、充放電効率を高め、容量の低下を抑制できる。また、層間に空隙が増加しにくいので、負極20の膨れも低減できる。
【0063】
次に、負極活物質層23の作製方法をより具体的に説明する。ここでは、斜め蒸着によって負極活物質層23を形成する方法を説明する。
【0064】
図4は、負極活物質層23の形成に使用する電子ビーム式蒸着装置50を例示する断面図である。図4では、蒸着装置50内部の各部材も実線で示している。
【0065】
蒸着装置50は、チャンバー51、第1の配管52、固定台53、ノズル54、ターゲット(蒸発源)55、図示しない電子ビーム発生装置、電源56、および図示しない第2の配管を含む。チャンバー51は内部空間を有する耐圧性の容器状部材であり、その内部に第1の配管52、固定台53、ノズル54およびターゲット55が収容されている。第1の配管52は、ノズル54に原料ガスを供給する。第1の配管52の一端はノズル54に接続されている。第1の配管52の他端は、チャンバー51の外側に延びて、マスフローコントローラ(図示せず)を介して、原料ガスボンベまたは原料ガス製造装置(図示せず)に接続される。原料ガスとしては、たとえば酸素、窒素などを用いることができる。
【0066】
固定台53は板状部材であり、水平面60に対して、角変位または回転自在に支持されている。固定台53の一方の表面には、負極集電体21が固定される。固定台53の位置は、例えば図7において、実線で示される第1の位置と一点破線で示される第2の位置との間で切り替えられ、これによって、蒸着角度を切り替えることが可能となる。
【0067】
第1の位置は、固定台53の負極集電体21を固定する側の面が、鉛直方向下方のノズル54に対向し、かつ、固定台53と水平面60とのなす角度がθ(°)となる位置である。第2の位置は、固定台53の負極集電体21を固定する側の面が鉛直方向下方のノズル54と対向し、かつ、固定台53と水平面60とのなす角度が(180−θ)°となる位置である。角度θは、形成しようとする活物質体24の寸法などに応じて適宜選択される。
【0068】
ノズル54は、鉛直方向において固定台53とターゲット55との間に設けられている。ノズル54は、ターゲット55から蒸発し、鉛直方向上方に上昇してくる合金系活物質などの蒸発材料の蒸気と、第1の配管52から供給される原料ガスとを混合し、固定台53表面に固定される負極集電体21表面に供給する。
【0069】
ターゲット55は合金系負極活物質またはその原料を収容する。電子ビーム発生装置は、ターゲット55に収容される合金系活物質またはその原料に電子ビームを照射して加熱し、これらの蒸気を発生させる。電源56はチャンバー51の外部に設けられて、電子ビーム発生装置に電気的に接続され、電子ビームを発生させるための電圧を電子ビーム発生装置に印加する。第2の配管は、チャンバー51内の雰囲気ガスとなるガスを導入する。
【0070】
図4に示す電子ビーム式蒸着装置50を用いて、負極活物質層23を形成する方法を説明する。
【0071】
まず、負極集電体21を固定台53に固定し、固定台53を第1の位置に設定する。チャンバー51の内部に、第1の配管52およびノズル54を用いて酸素ガスを導入する。この状態で、ターゲット55の負極活物質またはその原料に電子ビームを照射して加熱し、その蒸気を発生させる。本実施形態では、負極活物質としてSiOα(0<α<2)を使用する。発生したケイ素蒸気は鉛直方向上方に上昇し、ノズル54を通過する際に、ノズル54から供給される酸素と混合される。この後、ケイ素蒸気および酸素は、さらに上昇して固定台53に固定された負極集電体21の表面に供給される。
【0072】
負極集電体21の表面では、ケイ素蒸気と酸素ガスとが反応してケイ素酸化物が成長する。本実施形態では、ケイ素原子は、負極集電体21の法線方向に対して角度ω1(蒸着角度)だけ傾斜した方向から負極集電体21の表面に向かって飛来し、負極集電体21の表面近傍でノズル54から供給された酸素と結合する。これにより、負極集電体21の表面にケイ素酸化物が堆積する。蒸着角度ω1は、固定台53と水平面60とがなす角度θと等しくなる。酸素の供給される方向は特に限定しない。ここでは、酸素は、ノズル54によって図4の紙面の奥から手前に向かって負極集電体21の表面に供給される。
【0073】
蒸発源の材料(ケイ素)を負極集電体21の法線方向に対して傾斜した方向から入射させると(斜め蒸着)、負極集電体21の表面における凸部上に蒸着しやすく、凸部上でのみ選択的にケイ素酸化物が柱状に成長する。一方、負極集電体21の表面のうち柱状に成長していくケイ素酸化物の影となる部分では、ケイ素原子が入射せず、ケイ素酸化物は蒸着しにくい(シャドウイング効果)。このようにして、図3に示す活物質体の柱状塊24aが形成される。
【0074】
次に、固定台53を回転させて第2の位置に設定し、上記と同様にして、ケイ素酸化物を成長させる。このとき、ケイ素原子および酸素ガスは、負極集電体21の法線方向に対して、柱状塊24aを形成する際の蒸着方向と反対側に傾斜した方向から、負極集電体21の表面に入射する。負極集電体21の法線方向に対する蒸着角度をω2とすると、ω1=−ω2となる。これにより、柱状塊24aの上に柱状塊24b(図6)が形成される。
【0075】
このように固定台53の位置を、第1の位置と第2の位置との間で交互に切り替えることによって、図6に示すように、複数の柱状塊24a〜24hから構成される活物質体24を含む負極活物質層23を形成できる。
【0076】
上記方法によって形成された活物質体24では、柱状塊24aの成長方向は、負極集電体21の法線方向Dに対して角度θ1だけ傾斜している。この傾斜角度θ1は、蒸着角度(ケイ素の入射角度)ω1によって決まる。具体的には、成長方向の傾斜角度θ1とケイ素の蒸着角度ω1とは2tanθ1=tanω1の関係を満たすことが経験的に知られている。また、酸素導入量を変えることで真空槽内の圧力を制御することにより、上記関係式から計算される傾斜角度から低くなることも知られている。従って、傾斜角度θ1は蒸着角度ω1および真空槽内圧を変えることによって制御され得る。また、柱状塊24bの成長方向は、負極集電体21の法線方向Dに対して、柱状塊24aの成長方向と反対の方向に角度θ2だけ傾斜している。このように、蒸着時に、負極集電体21の法線方向Dに対して交互に反対側から蒸着材料が入射するように蒸着方向を切り替えると、複数の柱状塊24a〜24hのそれぞれの成長方向は、負極集電体21の法線方向Dに対して交互に反対方向に傾斜する。
【0077】
なお、活物質体24の形成方法は、上述した方法に限定されない。例えばノズル54から原料ガスを供給せず、ケイ素またはスズ単体を主成分とする活物質体24を形成してもよい。また、蒸着角度を切り替えずに一定にして蒸着を行ってもよい。これにより、一方向に沿って成長した活物質体24が得られる。また、蒸着を行っている間に、固定台53を回転軸に沿って回転させて負極集電体21の設置方向を変えることにより、蒸着角度を変化させてもよい。
【0078】
さらに、上記方法では、蒸着角度を切り替えながら8回の蒸着を行っているが、蒸着の回数は特に限定されない。例えば蒸着角度を例えば60°と−60°との間で交互に切り替えて、例えば第n段目(n≧2)まで蒸着を行うと、n個の部分を有する活物質体24を形成できる。
【0079】
なお、本実施形態では、斜め蒸着を利用して負極活物質層23を形成しているが、代わりに特許文献2に記載されているようなリフトオフを利用することもできる。あるいは、活物質膜を堆積させた後、パターニングすることによって、柱状構造を有する負極活物質層23を形成してもよい。
【0080】
<セパレータ>
セパレータ13としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン樹脂の微多孔膜または不織布を用いることができる。微多孔膜または不織布は単層であってもよいし、多層構造を有していてもよい。好ましくは、ポリエチレン樹脂層とポリプロピレン樹脂層とから構成される2層構造を有するか、あるいは、2層のポリプロピレン樹脂層とそれらの間に配置されたポリエチレン樹脂層とから構成される3層構造を有するセパレータを用いる。これらのセパレータはシャットダウン機能を有することが好ましい。また、セパレータ7の厚さは、例えば10μm以上30μm以下であることが好ましい。
【0081】
<実施例および比較例>
(i)負極と電解液溶媒との反応
本発明者らは、負極活物質としてケイ素あるいはスズを用いた電池において、高温時にガスが発生する現象について、鋭意研究を行った。その結果、一般に言われている正極上での電解液の酸化分解によるガス発生に加え、負極上からもガスが発生することがわかった。以下、試験方法および結果を詳しく説明する。
【0082】
・高温保存試験の方法および結果
まず、負極活物質としてケイ素を用い、電解液のそれぞれ異なる3種類の評価用セルを作製した。何れの評価用セルでも、ケイ素電極を作用極、リチウム金属を対極とした。また、ケイ素電極(作用極)の電極面積を8cm2、ケイ素重量を15.2mgとした。次いで、これらの評価用セルに対し、以下の条件で充電を行った。
【0083】
(評価セル)
作用極: ケイ素電極(電極面積8cm2、ケイ素重量:15.2mg)
対極: リチウム金属
セル: コイン電池
(充電条件)
定電流充電:4.8mA、0.005V
定電圧充電:0.005V、終止電流1.2mA
【0084】
この後、充電されたケイ素電極を取り出し、ジメチルカーボネート(DMC)で洗浄した。次いで、アルミラミネートフィルムで作製した袋に、各評価用セルのケイ素電極と0.5cm3の溶媒とを入れて、減圧封口した。溶媒として、フッ化エーテル(FE)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、およびエチレンカーボネート(EC)をそれぞれ用いた。フッ化エーテル(FE)として、ここでは、1,1,2,2−テトラフルオロエチル2,2,3,3−テトラフルオロプロピルエーテルを用いた。
【0085】
続いて、各溶媒に入れたケイ素電極に対し、以下の条件で高温保存試験を行った。高温保存試験の終了後、室温で、各アルミラミネーとフィルムの袋からガスを採取した。このガスの組成および発生量を、ガスクロマトグラフを用いて分析した。
【0086】
(高温保存)
温度:85℃、日数:3日
【0087】
この評価方法によって、電池が高温時に発生するガスについての知見だけでなく、負極上で溶媒が分解して形成される皮膜についての情報も得ることができる。
【0088】
試験結果を以下に示す。
【0089】
【表1】

【0090】
一般に、負極上で電解液あるいは溶媒が分解すると、固体である皮膜が生じるか、あるいは気体(ガス)が発生する。これらの生成比率は、溶媒の種類や負極活物質によって変わる。
【0091】
表1に示す結果からわかるように、充電されたケイ素電極を用いた場合、溶媒としてFEを用いるとガスがほとんど検出されなかった。炭酸ガスの発生も見られなかった。従って、FEを溶媒として用いると、他の溶媒よりも、ケイ素電極(負極)上で生じるガス量を低減でき、電極表面に皮膜が形成されやすいことが確認された。また、炭酸ガスの発生量が少ないことから、炭素を含む化合物(有機物)の含有量の高い皮膜が形成されると考えられる。
【0092】
一方、溶媒としてFECを用いると、一般的に用いられている溶媒であるECを用いる場合と比べて、発生する総ガス量が多く、炭酸ガスの比率も高かった。従って、FECを用いると、正極からのガス発生のみでなく、負極上からも、他の溶媒を用いる場合よりも多くのガスが発生することがわかった。
【0093】
次いで、上記の高温保存試験により負極に形成された皮膜の成分を調べた。
【0094】
まず、高温保存後の各ケイ素電極を取り出し、再度ジメチルカーボネートで洗浄後、X線光電子分光法(XPS)を用いて、ケイ素電極の表面分析をおこなった。測定条件を以下に示す。適宜、Arイオンでエッチングを行い、最表面よりも内部の状態も分析した。
【0095】
(XPSの測定条件)
装置: PHI Quantena SXM (ULVAC PHI 製)
X線源: Al−mono (1486.6eV)
光電子取出角: 45度
エッチング条件: 加速電圧2kV
エッチングレート 4.8nm/min(SiO2換算)
【0096】
図5(a)および(b)は、それぞれ、溶媒としてFEを用いた場合のケイ素電極表面分析結果を示す図である。また、図6(a)および(b)は、それぞれ、溶媒としてFECを用いた場合のケイ素電極表面分析結果を示す図であり、図7(a)および(b)は、それぞれ、溶媒としてECを用いた場合のケイ素電極表面分析結果を示す図である。図5〜図7の各図において、(a)はC1sスペクトル、(b)はF1sスペクトルを示す。
【0097】
各図の(a)に示すように、C1sスペクトルから、280〜288eV(例えば285eV)に位置する第1のピークと、288〜292eV(例えば290eV)に位置する第2のピークとが観測された。第1のピークはCHnやC−C、C−O、C=Oの結合を示しており、有機物の生成を表している。第2のピークはLi2CO3に帰属される。
【0098】
特に、溶媒としてFEを用いた場合、285eV付近にある第1のピークの強度が相対的に大きい。このような皮膜が電極表面に形成されると、ケイ素と電解液との反応によるガスの発生を効果的に抑制できることが確認された。ピーク面積強度を比較したところ、第2のピークに対する第1のピークの面積強度比は例えば1.5以上、好ましくは2.0以上である。一方、第2のピークに対する第1のピークの面積強度比は例えば20以下であることが好ましい。これにより、リチウムの吸蔵放出を阻害することなく、負極活物質と電解液の反応を低減することができる。有機物の皮膜の厚さは特に限定しないが、例えば1nm以上100nm以下である。
【0099】
また、図5(b)および図6(b)に示すように、F1sスペクトルから、685eV付近にLiFに帰属されるピークが観測された。ピーク面積強度は、溶媒としてFECを用いる場合の方が、FEを用いる場合よりも大きい。また、図7(b)に示すように、溶媒としてECを用いると、LiFに帰属されるピークは観測されなかった。
【0100】
・溶媒の耐還元性の評価
次に、フッ化エーテル(FE)、フッ化環状カーボネート(FEC)、フッ素を含まない環状カーボネート(EC)の負極に対する反応性、すなわち耐還元性を調べた。FEとしては、前述と同様に1,1,2,2−テトラフルオロエチル2,2,3,3−テトラフルオロプロピルエーテルを用いた。ここでは、分子軌道法(MOPAC)を用いて、FE、FEC、ECの各分子のLUMO(最低非占有分子軌道)エネルギーを計算した。結果を表2に示す。LUMOエネルギーの数値が正に大きいほど、耐還元性が高いことを示している。
【0101】
【表2】

【0102】
各化合物の単独成分の負極に対する反応性を比較すると、FECが最も反応しやすく、FEが反応しにくいことがわかる。これらの化合物を混合した溶媒においても、この順列に従って、負極表面に皮膜が形成されやすくなる、すなわち負極での副反応が生じにくくなると予想される。例えば、FECがFEやECなどの他の溶媒と混合した電解液では、最初にFECが分解して負極表面に皮膜を形成し、それよりも耐還元性の高い成分のそれ以降の分解は抑制されると予想される。したがって、充放電サイクルでの継続的な負極の副反応抑制効果は、FECの有無やその含有量で決まり、EC、FEの影響は受けないと考えられる。つまり、前述の耐還元性の順序に従えば、その効果は2成分の効果の足し算どころか、より皮膜形成しやすいFECに依存するはずである。
【0103】
しかしながら、本発明者は、後述するように、FECを含有し且つFEを含まない電解液よりも、FEおよびFECの両方を含有する電解液を用いる方が、高い副反応抑制効果が得られることを見出した。その理由の詳細は明らかではないが、XPSによる表面成分分析の結果より、電解液にFEを含有させると、負極表面に有機物の皮膜が形成されるからと考えられる。また、FEおよびFECの両方を含有する電解液は、FEを含有し且つFECを含まない電解液よりも高い副反応抑制効果を有することもわかった。これは、皮膜形成しやすいFECと、有機物の皮膜を形成するFEとの相乗効果によるものと考えられる。
【0104】
なお、少なくともFEを含む電解液を用いると、FECの有無にかかわらず、負極上で高い副反応抑制効果を有する皮膜を形成でき、かつ、分解時にガスを発生しにくいリチウム二次電池を実現できる。
【0105】
(ii)負極の可逆性と厚さの変化
電解液の種類を変えて評価用セルを作製し、それらの充放電サイクル試験を行い、可逆性および負極の厚さの変化を評価した。
【0106】
(評価用の負極の作製)
・負極A−1
負極集電体の片面に、負極活物質としてケイ素を蒸着することにより、負極活物質層を形成した。負極集電体としては、両面に、電解めっきによって最大高さRzが約3μmの複数の凸部が複数形成された銅箔(厚さ:43μm)を用いた。
【0107】
次に、上記方法で作製した負極集電体の表面に、斜め蒸着により負極活物質層を形成した。負極活物質層の形成には、図4に示す電子ビーム式蒸着装置50を用いた。
【0108】
まず、上記負極集電体を蒸着装置50の固定台53に固定した。固定台53を、水平面に対する角度が60°(θ=60°)である第1の位置(図2に示す実線の位置)と、水平面に対する角度が120°(180−θ=120°)である第2の位置(図2に示す一点破線の位置)との間で切り替え可能に設定した。この後、固定台53の位置を第1の位置と第2の位置との間で交互に切り替えながら、35回の蒸着工程を行った。詳細な蒸着条件や材料は以下の通りである。酸素ガスは導入せずに蒸着した。真空度は5×10-4Paとした。
【0109】
負極活物質原料(蒸発源):シリコン、純度99.9999%、(株)高純度化学研究所製
固定台53の角度θ:60°
電子ビームの加速電圧:−8kV
エミッション:500mA
蒸着時間:3分×35回
【0110】
このようにして、負極集電体21の一方の表面に、複数の柱状の活物質体24により構成される負極活物質層を形成し、評価用の負極を得た。各活物質体24は、負極集電体21の各凸部上に形成され、35個の柱状塊が積層された構造を有していた。また、凸部の頂部および頂部近傍の側面から、凸部の延びる方向に成長していた。
【0111】
次いで、評価用の負極における負極活物質層の厚さを求めた。ここでは、得られた負極における負極集電体に垂直な断面を走査型電子顕微鏡で観察し、凸部表面に形成された活物質体10個について、凸部の頂点から活物質体の頂点までの長さをそれぞれ測定した。これらの平均を算出して「負極活物質層の厚さ」とした。この結果、負極活物質層の厚さは、10μmであった。単位面積当たりのケイ素の重量は1.34mg/cm2であった。この負極をA−1とする。
【0112】
・負極A−2
同様の負極集電体を用い、上記の蒸着装置で負極活物質層を形成した。固定台53を水平面60との成す角度θを0度、すなわち負極集電体を水平に固定したまま、酸素を供給せずに、蒸着を行った。蒸着時間は30分間とした。負極活物質層は負極集電体の凹凸に沿って膜状に形成され、その厚さは3μmであった。単位面積当たりのケイ素の重量は0.65mg/cm2であった。この負極をA−2とする。
【0113】
(電解液の作製)
電解液の作製方法を以下に説明する。ここでは、化合物の比率の異なる6種類の電解液(E−1〜E−6)を作製した。電解液E1〜E3はフッ化エーテルFEを含有する実施例、電解液E4〜E6はフッ化エーテルFE1を含有しない比較例とした。フッ化エーテルFEとして、1,1,2,2−テトラフルオロエチル2,2,3,3−テトラフルオロプロピルエーテル(以下、「FE1」)を用いた。
【0114】
・電解液E−1
エチレンカーボネート(EC、三菱化学製)を45℃に加温し溶解させ、そこにエチルメチルカーボネート(EMC、三菱化学製)と1,1,2,2−テトラフルオロエチル2,2,3,3−テトラフルオロプロピルエーテル(ダイキン工業製、FE1)を重量比で20:40:60となるよう混合した。この混合液にLiPF6(ステラケミファ製)を溶解させて、LiPF6の濃度を1.0mol/Lとした。
【0115】
・電解液E−2
混合液にさらにFEC(関東電化製)を加え、混合液の重量比EC:EMC:FE1:FECを20:40:60:0.25としたこと以外は、電解液E−1と同じ方法で電解液E−2の作製を行った。
【0116】
・電解液E−3
混合液の重量比EC:EMC:FE1:FECを20:40:60:0.756としたこと以外は、電解液E−1と同様の方法で電解液E−3を作製した。
【0117】
・電解液E−4
混合液の重量比EC:EMC:FE1を20:80:0としたこと以外は、電解液E−1と同様の方法で電解液E−4を作製した。
【0118】
・電解液E−5
混合液の重量比EC:EMC:FE1:FECを20:80:0:0.25としたこと以外は、電解液E−1と同様の方法で電解液E−5を作製した。
【0119】
・電解液E−6
混合液の重量比EC:EMC:FE1を20:0:80にしたこと以外は、電解液E−1と同様の方法で電解液E−6を作製した。しかしながら、混合直後は目視で溶解しているように見えたが、室温では電解液E−6中に析出物が確認された。FE1の比率が増加したため、相溶しなくなったと考えられる。したがって、電解液E−6を用いてのそれ以降の評価を実施しなかった。
【0120】
(評価セルの作製)
上記の負極A−1またはA−2と、電解液E−1〜E−5とを用いて、評価セルとしてコイン型電池を作製した。このコイン型電池では、上記の負極の対極としてLi金属(厚さ:300μm、本荘ケミカル製)を用いた。
【0121】
まず、負極の負極活物質層が形成されている面と、対極(Li金属)とを、セパレータを介して対向するように配置し、電極群を得た。ここでは、セパレータとしてポリエチレン製微多孔膜(商品名:ハイポア、厚さ:20μm、旭化成株式会社製)を用いた。この電極群を電解液とともに外装ケースに挿入、封口し、評価用セルを得た。
【0122】
評価用セルにおける負極と電解液との組み合わせを表3に示す。実施例1〜5は、電解液E1〜E3のいずれかを用いた評価用セル、比較例1〜3は、電解液E4またはE5を用いた評価用セルである。
【0123】
(負極活物質の可逆容量の測定)
以下の条件で、実施例および比較例の評価用セルの充放電を行い、放電容量(mAh/cm2)および負極活物質の比容量(mAh/g)を求めた。結果を表3に示す。
【0124】
定電流充電:0.8mA/cm2、終止電圧0V、休止時間30分
定電流充電:0.4mA/cm2、終止電圧0V、休止時間30分
定電流充電:0.08mA/cm2、終止電圧0V、休止時間30分
定電流放電:0.8mA/cm2、終止電圧1.5V、休止時間30分
温度 :25℃
【0125】
(充放電サイクル試験の条件)
続いて、上記の実施例および比較例の評価セルに対し、以下の条件で充放電サイクル試験を行った。
【0126】
定電流充電:0.8mA/cm2、終止電圧0.1V
定電圧充電:0.1V、終止電流0.2mA/cm2、休止時間30分
定電流放電:0.8mA/cm2、終止電圧1.5V、休止時間30分
温度 :25℃
【0127】
上記条件で充放電を20回繰り返した。20サイクルの平均の負極の放電効率(=放電容量/充電容量×100)を求めた。さらに、1サイクル目と21サイクル目の充電時の負極重量および負極の厚さを計測した。負極重量の計測値から負極集電体の重量を引いて、充放電サイクル前後における負極活物質の重量変化率(%)を求めた。また、負極の厚さの計測値から負極集電体の厚さを引いて、充放電サイクル前後における負極活物質の重量変化率を求めた。結果を表4に示す。
【0128】
【表3】

【0129】
【表4】

【0130】
表3に示すように、何れの実施例および比較例でも高い比容量が得られた。この結果から、負極の形態(すなわち負極活物質層が柱状構造を有しているか、連続した膜であるか)、電解液におけるFE1の含有量やFECの含有量によらず、高い比容量が得られることがわかった。
【0131】
また、表4に示す結果から、柱状構造を有する負極活物質層を有する負極A−1を用いる場合、電解液にFE1を含有させると(実施例1〜3)、FE1を含有しない場合(比較例1)よりも、電解液と負極活物質との副反応が抑制され、負極の体積変化を抑えられることが確認された。また、連続膜である(柱状構造を有しない)負極活物質層を有する負極A−2を用いる場合にも同様の傾向が得られた。すなわち、電解液にFE1を含有させると(実施例4、5)、FE1を含有しない電解液を用いる比較例3よりも負極の体積変化を抑制できた。
【0132】
さらに、電解液にFE1だけでなくFECも含有させた場合(実施例2、3、5)に特に高い効果が得られることがわかった。
【0133】
比較例2でも、高い副反応抑制効果が得られた。しかしながら、電解液にFECを含み、かつ、FE1を含まないことから、電解液の分解によるガスの発生量が多く、電池の膨れなどが問題となると予想される。
【0134】
(iii)リチウム二次電池の評価
(負極A−3の作製)
負極集電体の片面に、負極活物質としてケイ素酸化物を蒸着することにより、負極活物質層を形成した。負極集電体としては、両面に、最大高さRzが約8μmの凸部が複数形成された合金銅箔を用いた。
【0135】
ローラ加工法により、表面に凹凸を有する負極集電体を作製した。まず、円筒形の鉄製ローラ(直径:50mm)の表面に酸化クロムを溶射して、厚さが100μmのセラミック層を形成した。このセラミック層の表面に、レーザー加工によって、深さが6μmの複数の凹部を形成した。各凹部は、セラミック層の上方から見て、直径が12μmの円形とした。各凹部の底部では、中央部はほぼ平面状であり、底部の周縁部は丸みを帯びた形状を有していた。また、これらの凹部の配置は、隣接する凹部の軸線間距離が20μmである最密充填配置とした。このようにして、凸部形成用ローラを得た。次いで、全量に対して0.03重量%の割合でジルコニアを含有する合金銅箔(商品名:HCL−02Z、厚さ26μm、日立電線(株)製)を、アルゴンガス雰囲気中、600℃の温度で30分間加熱し、焼き鈍しを行った。この合金銅箔を、2本の凸部形成用ローラを圧接させた圧接部に線圧2t/cmで通過させた。これにより、合金銅箔の両面が加圧成形されて、両面に複数の凸部を有する負極集電体が得られた。負極集電体の表面に垂直な断面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、負極集電体の両面には、平均高さが約6μmの複数の凸部が形成されていた。その後、電解めっき法によって銅の粒子を凸部の上面に形成した。表面粗さRa=2.0μmだった。
【0136】
次に、上記方法で作製した負極集電体の表面に、斜め蒸着により負極活物質層を形成した。負極活物質層の形成には、図4に示す電子ビーム式蒸着装置50を用いた。
【0137】
まず、上記負極集電体を蒸着装置50の固定台53に固定した。固定台53を、水平面に対する角度が60°(θ=60°)である第1の位置(図2に示す実線の位置)と、水平面に対する角度が120°(180−θ=120°)である第2の位置(図2に示す一点破線の位置)との間で切り替え可能に設定した。この後、固定台53の位置を第1の位置と第2の位置との間で交互に切り替えながら蒸着を行った。詳細な蒸着条件や材料は以下の通りである。負極活物質層の形成には酸素ガス量を導入し、その量を適宜調整した。蒸着工程の回数は50回にした。
【0138】
負極活物質原料(蒸発源):シリコン、純度99.9999%、(株)高純度化学研究所製
酸素ノズル54から放出される酸素:純度99.7%、日本酸素(株)製
固定台53の角度θ:60°
電子ビームの加速電圧:−8kV
エミッション:500mA
蒸着時間:3分×50回
【0139】
このようにして、負極集電体21の一方の表面に、複数の柱状の活物質体24により構成される負極活物質層を形成し、負極を得た。各活物質体24は、負極集電体21の各凸部上に形成され、50個の柱状塊が積層された構造を有していた。また、凸部の頂部および頂部近傍の側面から、凸部の延びる方向に成長していた。
【0140】
次いで、評価用の負極A−3における負極活物質層の厚さを求めた。ここでは、得られた負極における負極集電体に垂直な断面を走査型電子顕微鏡で観察し、凸部表面に形成された活物質体10個について、凸部の頂点から活物質体の頂点までの長さをそれぞれ測定した。これらの平均を算出して「負極活物質層の厚さ」とした。この結果、負極活物質層の厚さは14μmであった。
【0141】
また、活物質体24に含まれる酸素量を燃焼法により定量したところ、評価用の負極A−3において、活物質体24を構成する化合物の平均の組成はSiO0.25であった。なお、酸化度xは、ケイ素酸化物(SiOx)におけるケイ素量に対する酸素量のモル比を指す。また、負極活物質層の組成を分析したところ、Cu基板と負極活物質の界面付近に酸化度の高い層はx=1.3であった。Cu界面から表面に向かって約0〜3μmの間で酸化度が徐々に低くなるように組成を傾斜し、約3〜14μmの間の領域の酸化度はX=0.1であった。また、単位面積あたりのシリコンの重量は2.0mg/cm2であった。
【0142】
この後、上記方法で作製された負極に対し、リチウムの予備吸蔵を行った。負極活物質の不可逆容量をあらかじめ補填するとともに、負極活物質の使用電位領域を調整する。ここでは、1.5mAh/cm2相当のリチウム金属を負極表面に蒸着させた。以下、予備吸蔵方法をより具体的に説明する。
【0143】
まず、抵抗加熱蒸着装置((株)アルバック製)のチャンバー内のタンタル製ボートにリチウム金属を装填した。次いで、評価用の負極の片面に形成された負極活物質層がタンタル製ボートを臨むように、負極を固定した。この後、アルゴン雰囲気内にて、タンタル製ボートに50Aの電流を通電して、評価用の負極の負極活物質層に、10分間の蒸着を行い、リチウム金属を蒸着した。
【0144】
金属リチウムを蒸着した後の負極の放電容量は、6.2mAh/cm2であった。なお、この容量は、リチウム金属を対極として用い、充電電流値:0.1mA/cm2、終止電圧:0V、放電電流値:0.1mA/cm2、終止電圧:1.5Vの条件で定電流充放電を行った場合の容量である。
【0145】
(正極活物質の作製)
0.815mol/リットルの濃度で硫酸ニッケルを含む水溶液、0.15mol/リットルの濃度で硫酸コバルトを含む水溶液、および0.035mol/リットルの濃度で硫酸アルミニウムを含む水溶液をそれぞれ調整し、混合した。次いで、混合した水溶液を反応槽に連続供給し、反応層中の水溶液のpHが10〜13の間で維持されるように、反応槽に水酸化ナトリウムを滴下しながら、活物質の前駆体を合成した。得られた前駆体を十分に水洗し乾燥させた。このようにして、前駆体として、Ni0.815Co0.15Al0.035(OH)2からなる水酸化物を得た。
【0146】
得られた前駆体と炭酸リチウムとを、リチウム、コバルト、ニッケルおよびアルミニウムのモル比が、1:0.815:0.15:0.035になるように混合した。混合物を酸素雰囲気下、500℃の温度で7時間仮焼成し、粉砕した。次いで、粉砕された焼成物を、750℃の温度で再度15時間焼成した。焼成物を粉砕した後、分級することにより、化学式LiNi0.815Co0.15Al0.0352で示される正極活物質を得た。
【0147】
(正極の作製)
上記方法で得られた正極活物質の粉末100gに、アセチレンブラック(導電剤)2g、人造黒鉛(導電剤)2g、ポリフッ化ビニリデン粉末(結着剤)3gおよび有機溶媒(NMP)50mlを充分に混合して合剤ペーストを調製した。この合剤ペーストを厚さが15μmのアルミニウム箔(正極集電体)の片面に塗布した。次いで、合剤ペーストを乾燥させて正極活物質層を得た。この後、正極活物質層が形成されたアルミニウム箔を圧延して、厚さが72μmの正極を形成した。単位面積あたりの正極容量を3.8mAh/cm2とした。なお、この正極容量は、リチウム金属を対極として用い、充電電流値:0.1mA/cm2、終止電圧:4.25V、放電電流値:0.1mA/cm2、終止電圧:3.0Vの条件で定電流充放電を行った場合の容量である。
【0148】
(評価用のリチウム二次電池の作製)
ここでは、評価用のリチウム二次電池として、図1に示す積層型セルを作製する。再び図1を参照して、作製方法を説明する。
【0149】
再び図1を参照する。まず、上記方法で得られた正極を20mm×20mmのサイズに切り出して正極30を形成した。また、上記方法で得られた負極を21mm×21mmのサイズに切り出して負極20を形成した。次いで、正極30および負極20の集電体31、21のうち活物質層33、23が形成されてない部分に、それぞれ、リード18、19を溶接した。
【0150】
次いで、セパレータ(ポリエチレン微多孔膜)13を介して、正極活物質層33と負極活物質層23とが対向するように、正極30、セパレータ13および負極20を積層し、電極群を作製した。この電極群を電解質0.5gとともに、アルミニウムラミネートからなる外装ケース17に挿入した。電解質として、前述した電解液E−1を用いた。この後、外装ケース17内部を真空減圧しながら外装ケース17の開口部を溶着した。このようにして、実施例6のリチウム二次電池を作製した。電池の設計容量は15mAhである。
【0151】
同様にして、電解液E−2、E−3を用いて、それぞれ、実施例7、8のリチウム二次電池を作製した。また、電解液E−4、E−5を用いて、それぞれ、比較例4、5のリチウム二次電池を作製した。これらの電池の設計容量も15mAhである。
【0152】
なお、本実施例および比較例では、正極容量規制のリチウム二次電池を得るために、負極に対しリチウムの予備吸蔵を行った。
【0153】
実施例6〜8および比較例4、5のリチウム二次電池に対して、以下の条件で、充放電サイクル試験を行い、充放電サイクル特性を評価した。
【0154】
(充放電サイクル条件)
定電流充電:7.5mA、終止電圧4.15V
定電圧充電:終止電流0.75mA、休止時間20分
定電流放電:7.5mA、2.5V、休止時間20分
【0155】
上記の充放電を300回繰り返した。その後、再度充電した。次いで、充電した状態のリチウム二次電池を解体して、負極を取り出した。負極をDMCで洗浄後、乾燥させ、負極の厚さを厚みゲージで測定した。また、負極の重量を測定した。負極の厚さの測定値から負極集電体の厚さを差し引いて、300サイクル前後における負極活物質の厚さ変化率を求めた。また、負極の重量の測定値から、負極集電体の厚さを差し引いて、300サイクル前後における負極活物質の重量変化率を求めた。
【0156】
この後、300サイクル後の負極容量を測定した。測定は、対極にリチウム金属を用いて、初期の負極容量を測定した条件と同じ条件で行った。得られた放電容量(300サイクル後の負極容量)の、初期の負極容量に対する比率を求め、負極容量維持率とした。
【0157】
【表5】

【0158】
実施例および比較例のリチウム二次電池は、正極容量よりも負極容量が大きくなるように設計されている。そのため、サイクル初期では、正極の容量劣化が電池の容量劣化を表している。サイクルを繰り返し、負極容量が正極容量を下回わると、負極容量が電池の容量を表すことになる。
【0159】
実施例6〜8のリチウム二次電池は、比較例4、5のリチウム二次電池と比較して、高いセル容量維持率を示した。従って、電解液E−1〜E−3を用いると、充放電サイクル特性を向上できることが分かった。
【0160】
比較例4では、充放電サイクル試験によって負極容量が大きく低下した結果、負極容量とセル容量とが等しくなった。それ以外の実施例および比較例では、セル容量と正極容量とが等しく、負極容量はセル容量を上回っていた。
【0161】
実施例6〜8では、比較例4と比べて負極容量維持率が向上し、充放電サイクル(300サイクル)による厚さ増加率および重量増加率も低減された。これは、電解液に含まれるフッ化エーテルによって、負極表面に有効な皮膜が形成され、電解液との継続的な副反応が抑制されたからである。
【0162】
比較例5では、負極と電解液との副反応が抑制されるため負極容量の低下は比較的小さい。しかしながら、電解液の分解によるガス発生量が多いので、電池の膨れなどによってセルの充放電サイクル特性が低下したと考えられる。
【0163】
(iv)フッ化エーテルの種類の検討
次に、電解液に加えるフッ化エーテルの種類とその効果について検討した。
【0164】
下記のように、フッ化エーテルとしてFE1を用いた電解液E−6と、他のフッ化エーテルを用いた電解液E−7、E−8をそれぞれ作製した。
【0165】
・電解液E−6
重量比EC:EMC:FE1を12:50:38にしたこと以外は、電解液E−1と同様の方法で電解液E−6を作製した。
【0166】
・電解液E−7
フッ化エーテルとして、FE1の代わりに、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル−1,1,2,2−テトラフルオロエチルエーテル(ダイキン工業製、T−1216)(以下、「FE2」とする。)を用いること、および、重量比EC:EMC:FE2を12:49:39にしたこと以外は、電解液E−1と同様の方法で電解液E−7を作製した。
【0167】
・電解液E−8
フッ化エーテルとして、FE1の代わりに、1,1,2,2−テトラフルオロエチルエチルエーテル(ダイキン工業製、T−5202)(以下、「FE3」とする。)を用いること、および、重量比EC:EMC:FE3を14:54:32にしたこと以外は、電解液E−1と同様の方法で電解液E−8を作製した。
【0168】
次いで、電解液E−6〜E−8を用いて、実施例9〜11の評価用セルをそれぞれ作製した。何れの実施例でも、評価用セルの負極として、前述した負極A−2を用いた。
【0169】
評価用セルに対し、実施例1と同様の条件で、充放電試験を行った。結果を表6および表7に示す。
【0170】
【表6】

【0171】
【表7】

【0172】
表6および表7に示す結果から、フッ化エーテルの種類によらず、負極活物質の比容量は3200mAh/g以上の高い値となることが分かった。また、実施例9〜11では、高容量の比較例1(表3、表4)よりも、放電効率が向上し、負極の厚さの変化率および重量の変化率を低減できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0173】
本発明のリチウム二次電池は、従来のリチウム二次電池と同様の用途に使用でき、特にパーソナルコンピュータ、携帯電話、モバイル機器、携帯情報端末(PDA)、携帯用ゲーム機器、ビデオカメラなどの携帯用電子機器の電源として有用である。また、ハイブリッド電気自動車、燃料電池自動車などにおいて電気モーターを補助する二次電池、電動工具、掃除機、ロボットなどの駆動用電源、プラグインHEVの動力源などとしての利用も期待される。
【符号の説明】
【0174】
13 セパレータ
16 ガスケット
17 外装ケース
18 正極リード
19 負極リード
20 負極
21 負極集電体
23 負極活物質層
24 活物質体
30 正極
31 正極集電体
33 正極活物質層
50 電子ビーム式蒸着装置
51 チャンバー
52 第1の配管
53 固定台
54 ノズル
55 ターゲット
56 電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンを吸蔵・放出可能であり、かつ、シリコンあるいはスズを含む負極活物質と、
前記負極活物質の表面の少なくとも一部に位置する膜と
を備え、
前記膜は、光電子分光スペクトルにおいて、280〜288eVの範囲にある第1のピークと、288〜292eVの範囲にある第2のピークとを有し、前記第2のピークに対する前記第1のピークの強度比は2.0以上である負極。
【請求項2】
前記第1のピークはC−C結合およびCHn結合に帰属され、前記第2のピークは炭酸リチウムに帰属される請求項1に記載の負極。
【請求項3】
前記膜は、炭化水素基の水素原子の少なくとも一部がフッ素原子に置換したフッ化エーテルを含む電解液が分解して得られる膜である請求項1または2に記載の負極。
【請求項4】
前記膜はフッ化リチウムを含む請求項1から3のいずれかに記載の負極。
【請求項5】
リチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極活物質を有する正極と、
リチウムイオンを吸蔵・放出可能であり、かつ、シリコンまたはスズを含む負極活物質を有する負極と、
前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータと、
リチウムイオン伝導性を有する電解質と
を含み、
前記電解質は、炭化水素基の水素原子の少なくとも一部がフッ素原子に置換したフッ化エーテルを含むリチウム二次電池。
【請求項6】
前記負極活物質の表面の少なくとも一部に位置する膜をさらに有し、
前記膜は、光電子分光スペクトルにおいて、280〜288eVの範囲にある第1のピークと、288〜292eVの範囲にある第2のピークとを有し、前記第2のピークに対する前記第1のピークの強度比は2.0以上である請求項5に記載のリチウム二次電池。
【請求項7】
前記フッ化エーテルは、1,1,2,2−テトラフルオロエチル2,2,3,3−テトラフルオロプロピルエーテルである請求項5または6に記載のリチウム二次電池。
【請求項8】
前記電解質は、フッ化環状カーボネートをさらに含む請求項5から7のいずれかに記載のリチウム二次電池。
【請求項9】
前記フッ化環状カーボネートは、フルオロエチレンカーボネートである請求項8に記載のリチウム二次電池。
【請求項10】
前記フッ化環状カーボネートの電解質中の含有量は、前記フッ化エーテルの含有量よりも少ない請求項8または9に記載のリチウム二次電池。
【請求項11】
前記負極活物質は、負極集電体の表面に配置された複数の活物質体を含み、
各活物質体は、積み重ねられた複数の層を有し、前記複数の層のそれぞれの成長方向は、前記負極集電体の法線方向に対して交互に反対方向に傾斜している請求項5から10のいずれかに記載のリチウム二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−69503(P2013−69503A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−206348(P2011−206348)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】