説明

リチウム二次電池用正極材料およびその製造方法

一般式、LiCo(AはAlまたはMg,Bは4族遷移元素,0.90≦a≦1.10,0.97≦b≦1.00,0.0001≦c≦0.03,0.0001≦d≦0.03,1.98≦e≦2.02,0≦f≦0.02,0.0001≦c+d≦0.03)で表される粒子状のリチウムイオン二次電池用正極活物質であり、かつ、元素A,元素Bおよびフッ素が粒子の表面近傍に均一に存在している、高電圧および高容量用途で、高サイクル耐久性および高安全性を持ったリチウムイオン二次電池用正極材料を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明はリチウムイオン二次電池において、特に高電圧での使用下で高容量かつ高サイクル特性に優れた正極材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
近年、種々の電子機器のポータブル化,コードレス化が進むにつれ、小型,軽量で、かつ、高エネルギー密度を有する非水電解液二次電池に対する需要が増大し、以前にも増して特性の優れた非水電解液二次電池用の開発が望まれている。
非水電解液二次電池の正極材料には、LiCoO,LiNiO,LiMnなどが使われており、特にLiCoOはその安全性,容量などの面から多く使われている。この材料は充電に伴って、結晶格子内のリチウムがリチウムイオンとなって電解液に脱し、また、放電に伴って、リチウムイオンが電解液から結晶格子に可逆的に挿入されることで、正極活物質としての機能を発現している。
理論上、ひとつのLiCoO格子に対し、ひとつのリチウムの脱挿入が可能である。ところが、実際に大半のリチウムを脱挿入するとLiCoOの劣化が激しく、特にサイクル性に大きな損傷をあたえる。そのため、現状ではひとつのLiCoOに対して約0.55個のリチウムイオンを脱挿入しているのみであり、このとき1gのLiCoOにつき、約150mAhの容量を使用するのみであった。
より大量のリチウムイオンを脱挿入することによって、容量の増大が見込まれるが、現状以上にリチウムイオンの脱挿入を行うと、LiCoO結晶格子の相転移や、それに伴う粒子,結晶格子の損傷、または結晶格子からのコバルトイオンの溶出などによって、LiCoOに激しい劣化が起き、十分なサイクル性を確保できないといった問題があった。
LiCoOにジルコニウムを5重量%ドープすることにより、4.5Vでのサイクル耐久性を向上させる試みもあるが、初期容量の低下が大きく、また、サイクル耐久性も不満足なものであった(Z.Chen,J.R.Dahn 111hInternational Meeting of Lithium Battery June23−28,2002,Monterey,USAアブストラクト番号266 参照)。
したがって、本発明の目的は、高電圧に対する劣化防止に優れ、高容量,高安全かつサイクル耐久性に優れた高電圧用リチウムイオン二次電池用の正極活物質を提供することにある。
【発明の開示】
上記目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、リチウム二次電池用コバルト酸リチウムを主体とする粒子状正極活物質に対して、複数の特定量の特定の金属元素を同時に添加することによって、または、さらにフッ素を同時に添加することによって、従来過充電と言われた高電圧の領域においてさえ、良好なサイクル特性を有することが見出された。
本発明において、高電圧とはリチウム電極基準で充電電圧が4.4V以上の電圧を意味する。さらに、具体的な充電電圧としては、4.5Vが例示される。このとき、1gのLiCoOにつき、約185〜190mAhの容量を使用することができ、これは1つのLiCoOにつき約0.7個のリチウムを脱挿入することに相当する。
本発明において、なぜに高電圧の領域で、良好なサイクル特性が発現するのかのメカニズムは必ずしも明らかではないが、特定の金属元素が同時に添加され、それらが粒子表面に存在、あるいは一部が固溶することによって、大半のリチウムイオンが引き抜かれた高電圧条件下にあって、これら金属元素らが結晶格子の支柱として働き、相転移や膨張収縮に伴う結晶格子のひずみを緩和し、劣化を抑えるものと思われる。同時に、コバルト原子が電解液と直接接触する機会を減らし、また、粒子に局所的におこる過充電状態をなくすため、劣化が抑えられるものと思われる。
かくして、本発明のリチウム二次電池用正極材料は、一般式、LiCo(AはAlまたはMg,Bは4族遷移元素,0.90≦a≦1.10,0.97≦b≦1.00,0.0001≦c≦0.03,0.0001≦d≦0.03,1.98≦e≦2.02,0≦f≦0.02,0.0001≦c+d≦0.03)で表される粒子状のリチウムイオン二次電池用正極活物質であり、かつ、元素A,元素Bおよびフッ素が粒子の表面近傍に均一に存在していることに特徴を備えている。
なお、本発明において、「均一に存在」とは、粒子表面近傍に上記各元素が実質的に均一に存在している場合のみならず、粒子間における上記各元素の存在量がほぼ等しい場合も含まれ、そのいずれか一方が満足されていればよく、特にはその両方が満足されていることが好ましい。すなわち、粒子間における上記各元素の存在量がほぼ等しく、かつ、1個の粒子の表面に上記各元素が均一に存在していることが特に好ましい。
本発明において、上記粒子状のリチウムイオン二次電池用正極活物質に含まれる上記AまたはBで表される元素の少なくとも一部が粒子のコバルト原子を置換した固溶体であることが好ましい。元素Aと元素Bの好ましい原子比は0.33≦c/d≦3.00かつ0.002≦c+d≦0.02である。
本発明において、元素Aはアルミニウムまたはマグネシウムのいずれかで、元素Bは4族遷移元素から選択されるが、元素Aはマグネシウムであることが好ましい。元素Aがマグネシウムである場合は、マグネシウムは主としてリチウムサイトを置換すると考えられる。また、元素Bはジルコニウムであることが好ましい。
また、本発明は、Cu−Kα線を用いた高感度X線回折スペクトルにおいて、2θ 28±1°における回折ピークが認められないことを特徴とするリチウム二次電池用正極材料を提供する。
なお、本発明において、高感度X線回折スペクトルとは、X線管球の加速電圧50KV−加速電流250mAにおいて得られる回折スペクトルを意味する。通常のX線回折スペクトルは40KV−加速電流40mA前後であり、これでは本発明にて注目し、かつ電池性能に大きく影響を及ぼす微量の不純物相を分析ノイズを抑止しつつ、高精度かつ短時間に検出するのは難しい。
たとえば、元素Bがジルコニウムの場合、コバルト原子,リチウム原子と酸素原子との結合状態は高感度X線回折スペクトルにより定量できる。元素Bがジルコニウムでコバルト原子と固溶している場合は、ジルコニウムの単独酸化物(ZrO)由来の回折スペクトルは認められず、一部LiZrOのスペクトルが観測されるのみである。LiZrOのスペクトル強度はジルコニウムと元素Aの仕込みモル比、焼成方法等により影響される。
すなわち、元素Bがコバルト原子と固溶していない場合は、元素Bの単独酸化物由来の回折スペクトルが顕著に観察される。元素Bの単独酸化物の回折スペクトル強度から元素Bの固溶量が観測できる。元素Bはコバルトサイトを置換して固溶するが、その固溶量は60%以上、特には75%以上が好ましい。
本発明者らは、元素Bは単独酸化物としての存在量が少ないと電池性能が向上することを見出した。したがって、本発明は、元素Bの単独酸化物の存在量が20%以下であることを特徴とするリチウム二次電池用正極材料を提供する。
元素Bの単独酸化物の存在量が20%超であると、高電圧での充放電サイクル耐久性の向上効果が低下するので好ましくない。元素Bの単独酸化物の存在量は特に好ましくは10%以下である。
本発明者らは、特に元素Bとしてジルコニウムを選択し、元素Aとしてマグネシウムを選択し、これらを共存させて特定の方法で製造することにより得られた特定構造の正極材料が格段に高電圧での充放電サイクル耐久性が向上することを見出した。
ここで特定構造とは、具体的には、添加したジルコニウムがコバルト酸リチウムの粒子表面で、単独酸化物として存在しないようにすることが肝要であり、そのために、マグネシウムをジルコニウムに対し上記した特定原子比率(0.33≦c/d≦3.00かつ0.002≦c+d≦0.02)で添加し、ジルコニウム化合物とマグネシウム化合物の共存下でコバルト酸リチウムを形成するが特に好ましいことを見出した。すなわち、マグネシウムの共存はジルコニウムの反応性を高める効果が顕著であることを見出した。また、マグネシウムの存在は生成コバルト酸リチウム中のCo含有量を低減する効果があることも分かった。
ジルコニウムとマグネシウムの同時添加により特異な特性向上が得られる作用機構は明らかでないが、ジルコニウムとマグネシウムの同時添加により、コバルト酸リチウム粒子の表面に均一な不活性皮膜が形成され、コバルト酸リチウム結晶構造の充放電に伴う粒子表面からの結晶崩壊を抑止することができるためと推察される。
本発明において、ジルコニウムとマグネシウムの同時添加により特異な特性向上が認められることを明らかにしたが、かかる元素の組合せはこの組合せに限定されるものでなく、添加元素Bが単独酸化物として存在しないように元素Bの反応性を高める元素Aの組合せを選ぶことができる。元素Aとしては、上記したように特にマグネシウムが好ましく採用される。
また、本発明は、上記粒子状のリチウムイオン二次電池用正極活物質が、一次粒子が10個以上凝集して二次粒子を形成した粒子からなり、上記二次粒子の平均粒径が2〜20μmであることを特徴としている。このような凝集体の二次粒子構造とすることにより、電極層の活物質の充填密度の向上や大電流充放電特性の向上が図れる。
また、上記した一般式、LiCo(AはAlまたはMg,Bは4族遷移元素,0.90≦a≦1.10,0.97≦b≦1.00,0.0001≦c≦0.03,0.0001≦d≦0.03,1.98≦e≦2.02,0≦f≦0.02,0.0001≦c+d≦0.03)で表される粒子状のリチウムイオン二次電池用正極活物質であり、かつ、元素A,元素Bおよびフッ素が粒子の表面近傍に均一に存在しているリチウム二次電池用正極材料の好適な製造方法として、本発明は、一次粒子が10個以上凝集して二次粒子を形成した粒子からなり、少なくともオキシ水酸化コバルトまたは水酸化コバルトのいずれか含むコバルト原料と、炭酸リチウムと、上記元素Aおよび元素Bを含む原料とを混合して焼成することを特徴とするリチウム二次電池用正極材料の製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
第1図は、実施例2で得られた正極活物質粉末のX線回折スペクトルを示すグラフ、第2図は、実施例10で得られた正極活物質粉末のX線回折スペクトルを示すグラフ、第3図は、比較例4で得られた正極活物質粉末のX線回折スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明のリチウム二次電池用の粒子状正極活物質は、上記のように、一般式,LiCoを有する。この一般式において、aは0.90〜1.10,bは0.97〜1.00,cは0.0001〜0.03,dは0.0001〜0.03,eは1.98〜2.02,fは0〜0.02で、かつ、c+dが0.0001〜0.03であることが好ましい。
また、元素AとしてはAlまたはMg,元素Bとしては周期表のIV族に属する少なくとも1種の元素であることが好ましい。周期表IV族元素としては、Ti,Zr,Hfが例示される。
本発明のリチウム二次電池の正極活物質は、好ましくは球形をした粒子状であり、その平均粒径が、好ましくは2〜20μm、特には3〜15μmを有することが好ましい。
平均粒径が2μmより小さい場合には、緻密な電極層を形成することが困難となり、逆に20μmを超えた場合には、平滑な電極層表面を形成するのが困難となるので好ましくない。
また、上記正極活物質は、微粒子の一次粒子が10個以上凝集して二次粒子を形成した粒子であることが好ましく、これによれば電極層の活物質の充填密度を向上させることができるとともに、大電流充放電特性の改善が図れる。
本発明の粒子状正極活物質は、その粒子表面に元素A,BまたはFが実質的に均一に存在していることが必要である。言い換えれば、粒子の内部に元素A,BまたはFが実質的に存在していないことが必要である。このような場合、正極活物質はその表面に元素A,BまたはFが存在するので、微量の添加により効果を発現させることができる。内部に存在するときは本発明の効果が得られない。
本発明の効果、すなわち、正極活物質として、高電圧使用下において高容量,高サイクル特性を発現させるために粒子内部に元素A,Bまたはフッ素原子を添加する場合は多量の添加を要する。
しかしながら、多量に添加すると、むしろ初期容量の低下、大電流放電特性の低下などを招くことになり、少量の添加で表面のみに存在させることが望ましい。なかでも、元素A,Bは粒子表面から好ましくは100nm以内、特に好ましくは30nm以内に存在することが好適である。
上記正極活物質の粒子表面に存在する元素A,Bの一部は、粒子内部のコバルト原子を置換した固溶体であることが好ましい。また、フッ素原子の一部は粒子内部の酸素原子で置換した固溶体であることが好ましい。
かかる場合、正極活物質の粒子表面のコバルトおよび酸素原子が露出しないので添加元素の効果がより発現されるので好ましい。その結果、高電圧用途正極活物質としてのサイクル性が効果的に改良される。フッ素原子を添加すると、電池の安全性やサイクル特性の改良効果があるので好ましい。
本発明の粒子状正極活物質に含有される元素A原子および元素B原子とコバルト原子の原子比(c/bおよびd/b)は、それぞれ0.0001〜0.02が必要であり、さらに、これらが同時に添加されることが必要であり、元素A原子と元素B原子の合計量とコバルト原子の原子比((c+d)/b)が0.0001〜0.02が必要であることが判明した。
かかる元素A原子比および元素B原子比が、それぞれ0.0001よりも小さい場合には、高サイクル性にかかわる改良効果が少なくなるので好ましくない。一方、元素A原子と元素B原子の合計量の原子比が0.02を超える場合には、初期容量の低下が顕著になるので好ましくない。
また、フッ素原子とコバルト原子の原子比は安全性やサイクル特性の向上のために、0.0001〜0.02が好ましく、特には0.0005〜0.008が好適である。フッ素原子の原子比が、この値を超えると放電容量の低下が顕著となるのでこのましくない。
さらに、本発明の粒子状正極活物質はプレス密度として、2.7〜3.3g/cmを有することが好ましい。プレス密度が2.7g/cmよりも小さいときは、粒子状正極活物質を用いて正極シートを形成したときの正極の初期体積容量密度が低くなり、逆に3.3g/cmよりも大きいときは、正極の初期重量容量密度が低下したり、ハイレート放電特性が低下するので好ましくない。なかでも、粒子状正極活物質のプレス密度は、2.9〜3.2g/cmが好適である。
本発明では、プレス密度を高くできるので、コバルト原料として、一次粒子が多数凝集して二次粒子を形成するほぼ球状のオキシ水酸化コバルトを使用するのが好ましい。ここで、プレス密度とは、粉体を0.32t/cmの圧力でプレスしたときの体積と粉体重量から求めた数値を意味する。
また、本発明の粒子状正極活物質の比表面積は0.2〜1m/gであるのが好ましい。比表面積が0.2m/gより小さい場合には、初期単位重量当りの放電容量が低下し、逆に1m/gを超える場合にも、初期単位体積当りの放電容量が低下し、本発明の目的の優れた正極活物質は得られない。比表面積はなかでも、0.3〜0.7m/gが好適である。
本発明の粒子状正極活物質の製造法は必ずしも制限されず、既知の方法により製造することができる。例えば、コバルト原料としては、水酸化コバルト,四三酸化コバルト,オキシ水酸化コバルト,なかでも高い電池性能を発揮させられるのでオキシ水酸化コバルトおよび水酸化コバルトが好ましい。また、コバルト原料としては、一次粒子が10個以上凝集して二次粒子を形成した粒子からなり、かつ、少なくともオキシ水酸化コバルトまたは水酸化コバルトのいずれかかを含むコバルト原料が高い電池性能が得られるので好ましい。
元素AおよびBの原料としては、酸化物,水酸化物,塩化物,硝酸塩,有機酸塩,オキシ水酸化物,フッ化物,なかでも高い電池性能を発揮させやすいので水酸化物,フッ化物が好ましい。リチウム原料としては、炭酸リチウム,水酸化リチウムが好ましい。また、フッ素原料としては、フッ化リチウム,フッ化アルミニウムまたはフッ化マグネシウムが好ましい。
これらの各原料物質の混合物、好ましくは元素AまたはB含有酸化物,元素AまたはB含有水酸化物から選ばれ得る少なくとも1種と、フッ化リチウムと、水酸化コバルト,オキシ水酸化コバルトまたは酸化コバルトと、炭酸リチウムとの混合物を、酸素含有雰囲気下に600〜1050℃、好ましくは850〜1000℃で、好ましくは4〜48時間、特には8〜20時間焼成し、複合酸化物に転化せしめることにより製造される。また、元素AまたはB含有化合物とフッ化リチウムの代わりに、元素AまたはB含有フッ化物を用いると良好な電池性能が得られる。
酸素含有雰囲気としては、酸素濃度を好ましくは10容量%以上、特に40容量%以上含む含酸素雰囲気の使用が好ましい。かかる複合酸化物は、上記各原料の種類、混合組成および焼成条件を変えることにより、上記した本発明を満足させることができる。また、本発明では、上記焼成にあたっては予備焼成することができる。予備焼成は、酸化雰囲気にて、好ましくは450〜550℃で、好ましくは4〜20時間で行うのが好適である。
また、本発明の正極活物質の製造は、必ずしも上記の方法に限定されず、例えば、金属フッ化物,酸化物および/または水酸化物を原料として正極活物質を合成し、さらにフッ素ガス、NF,HFなどのフッ素化剤で表面処理することによって製造することもできる。
本発明の目的物である上記した一般式、LiCo(AはAlまたはMg,Bは4族遷移元素,0.90≦a≦1.10,0.97≦b≦1.00,0.0001≦c≦0.03,0.0001≦d≦0.03,1.98≦e≦2.02,0≦f≦0.02,0.0001≦c+d≦0.03)で表される粒子状のリチウムイオン二次電池用正極活物質であり、かつ、元素A,元素Bおよびフッ素が粒子の表面近傍に均一に存在しているリチウム二次電池用正極材料を製造するにあたって、本発明は、一次粒子が10個以上凝集して二次粒子を形成した粒子からなり、少なくともオキシ水酸化コバルトまたは水酸化コバルトのいずれか含むコバルト原料と、炭酸リチウムと、上記元素Aおよび元素Bを含む原料とを混合して焼成することを特徴とするリチウム二次電池用正極材料の製造方法をも提供する。
本発明の粒子状の正極活物質からリチウム二次電池用の正極を得る方法は、常法に従って実施できる。例えば、本発明の正極活物質の粉末に、アセチレンブラック,黒鉛,ケッチエンブラック等のカーボン系導電材と、結合材とを混合することにより正極合剤が形成される。結合材には、ポリフッ化ビニリデン,ポリテトラフルオロエチレン,ポリアミド,カルボキシメチルセルロース,アクリル樹脂等が用いられる。
上記の正極合剤を、N−メチルピロリドンなどの分散媒に分散させたスラリーをアルミニウム箔等の正極集電体に塗工・乾燥およびプレス圧延せしめて正極活物質層を正極集電体上に形成する。
本発明の正極活物質を正極に使用するリチウム電池において、電解質溶液の溶媒としては炭酸エステルが好ましい。炭酸エステルは環状,鎖状いずれも使用できる。環状炭酸エステルとしては、プロピレンカーボネート,エチレンカーボネート(EC)等が例示される。鎖状炭酸エステルとしては、ジメチルカーボネート,ジエチルカーボネート(DEC),エチルメチルカーボネート,メチルプロピルカーボネート,メチルイソプロピルカーボネート等が例示される。
上記炭酸エステルは単独でも2種以上を混合して使用してもよい。また、他の溶媒と混合して使用してもよい。また、負極活物質の材料によっては、鎖状炭酸エステルと環状炭酸エステルを併用すると、放電特性,サイクル耐久性,充放電効率が改良できる場合がある。
また、これらの有機溶媒にフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(例えばアトケム社製カイナー),フッ化ビニリデン−パーフルオロプロピルビニルエーテル共重合体を添加し、下記の溶質を加えることによりゲルポリマー電解質としても良い。
電解質溶液の溶質としては、ClO−,CFSO−,BF−,PF−,AsF−,SbF−,CFCO−,(CFSON−等をアニオンとするリチウム塩のいずれか1種以上を使用することが好ましい。上記の電解質溶液またはポリマー電解質は、リチウム塩からなる電解質を前記溶媒または溶媒含有ポリマーに0.2〜2.0mol/Lの濃度で添加するのが好ましい。この範囲を逸脱すると、イオン伝導度が低下し、電解質の電気伝導度が低下する。より好ましくは0.5〜1.5mol/Lが選定される。セパレータには多孔質ポリエチレン、多孔質ポリプロピレンフィルムが使用される。
本発明の正極活物質を正極に使用するリチウム電池の負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵、放出可能な材料である。負極活物質を形成する材料は特に限定されないが、例えばリチウム金属,リチウム合金,炭素材料,周期表14、15族の金属を主体とした酸化物,炭素化合物,炭化ケイ素化合物,酸化ケイ素化合物,硫化チタン,炭化ホウ素化合物等が挙げられる。
炭素材料としては、様々な熱分解条件で有機物を熱分解したものや人造黒鉛,天然黒鉛,土壌黒鉛,膨張黒鉛,鱗片状黒鉛等を使用できる。また、酸化物としては、酸化スズを主体とする化合物が使用できる。負極集電体としては、銅箔,ニッケル箔等が用いられる。
本発明における正極活物質を使用するリチウム二次電池の形状には、特に制約はない。シート状(いわゆるフイルム状),折り畳み状,巻回型有底円筒形,ボタン形等が用途に応じて選択される。
【実施例】
次に、本発明の具体的な実施例1〜11と、その比較例1〜8について説明する。
【実施例1】
一次粒子が50個以上凝集して二次粒子を形成した平均粒径D50が10.2μmのオキシ水酸化コバルト粉末と、炭酸リチウム粉末と、水酸化アルミニウム粉末と、酸化ジルコニウム粉末を所定量混合した。これら4種の粉末を乾式混合した後、大気中、950℃にて14時間焼成した。焼成後の粉末を湿式溶解し、ICPおよび原子吸光分析により、コバルト,アルミニウム,ジルコニウムおよびリチウムの含量を測定した結果、粉末の組成はLiCo0.99Al0.005Zr0.005であった。
焼成後の粉末(正極活物質粉末)について、粉末の窒素吸着法により求めた比表面積は0.37m/gであり、レーザー散乱式粒度分布系で求めた平均粒径D50は11.8μmであった。焼成後の粉末の表面をXPS分析した結果、アルミニウムに起因するAl2Pの強いシグナルと、ジルコニウムに起因するZr3Pの強いシグナルが検出された。
また、この粉末について、10分間、スパッタリングした後、XPS分析をしたところ、XPSによるアルミニウムおよびジルコニウムのシグナルは、スパッタリング前のシグナルのそれぞれ10%および13%にまで減衰した。このスパッタリングは約30nmの深さの表面エッチングに相当する。このことからアルミニウムおよびジルコニウムが粒子表面に存在していることが分かった。また、SEM(走査型電子顕微鏡)による観察の結果、得られた正極活物質粉末は一次粒子が30個以上凝集して二次粒子を形成していた。
このようにして得たLiCo0.99Al0.005Zr0.005粉末とアセチレンブラックとポリテトラフルオロエチレン粉末とを、80/16/4の重量比で混合し、トルエンを添加しつつ混練、乾燥し、厚さ150μmの正極板を作製した。
そして、厚さ20μmのアルミニウム箔を正極集電体とし、セパレータには厚さ25μmの多孔質ポリプロピレンを用い、厚さ500μmの金属リチウム箔を負極に用い、負極集電体にニッケル箔20μmを使用し、電解液には1MLiPF/EC+DEC(1:1)を用いてステンレス製簡易密閉セルをアルゴングローブボックス内で組立てた。
この電池について、まず25℃にて正極活物質1gにつき75mAの負荷電流で4.5Vまで充電し、正極活物質1gにつき75mAの負荷電流で2.75Vまで放電して初期放電容量を求めた。さらに、充放電サイクル試験を50回行った。
25℃,2.75〜4.5V,放電レート0.5Cにおける初期放電容量は186.4mAh/gであり、平均電圧は4.019Vであった。50回充放電サイクル後の容量維持率は86.9%であった。
また、同様の電池をもうひとつ作製した。この電池については、4.3Vで10時間充電し、アルゴングローブボックス内で解体し、充電後の正極体シートを取り出し、その正極体シートを洗浄後、径3mmに打ち抜き、ECとともにアルミカプセルに密閉し、走査型差動熱量計にて5℃/分の速度で昇温して発熱開始温度を測定した。その結果、4.3V充電品の発熱開始温度は166℃であった。
【実施例2】
水酸化アルミニウムを使用する代わりに、水酸化マグネシウムを用いた他は実施例1と同様な方法で正極活物質を合成し、組成分析と物性測定ならびに電池性能試験を行った。その結果、組成はLiCo0.99Mg0.005Zr0.005であった。
また、焼成後の粉末の窒素吸着法により求めた比表面積は0.32m/gであり、レーザー散乱式粒度分布計で求めた平均粒径D50は12.5μmであった。マグネシウムおよびジルコニウムは表面に存在していた。25℃,2.75〜4.5V,放電レート0.5Cにおける初期放電容量は192.0mAh/gであり、平均電圧は4.009Vであった。50回充放電サイクル後の容量維持率は92.0%であった。
焼成後の粉末のCu−Kα線を用いた高感度X線回折法により、リガク社製RINT2500型X線回折装置を用い、加速電圧50KV,加速電流250mA,走査速度1°/分,ステップ角度0.02°,発散スリット1°,散乱スリット1°,受光スリット0.3mm,モノクロ単色化あり、の条件でX線回折スペクトルを得た。得られたスペクトルを図1に示す。図1より2θ 28±1°における回折スペクトルは認められず、ジルコニウムは単独酸化物として存在していないことが分かった。
また、X線回折スペクトルの解析によりジルコニウムはコバルトと約90%固溶し、LiZrOとして約10%存在していることが分かった。また、SEMによる観察の結果、得られた正極活物質粉末は一次粒子が30個以上凝集して二次粒子を形成していた。
【実施例3】
一次粒子が50個以上凝集して二次粒子を形成した平均粒径D50が10.7μmのオキシ水酸化コバルト粉末と、炭酸リチウム粉末と、水酸化アルミニウム粉末と、酸化ジルコニウム粉末と、フッ化リチウム粉末を所定量混合した他は実施例1と同様な方法で正極活物質を合成し、組成分析と物性測定ならびに電池性能試験を行った。その結果、組成はLiCo0.99Al0.005Zr0.0051.99240.0076であった。
また、焼成後の粉末の窒素吸着法により求めた比表面積は0.34m/gであり、レーザー散乱式粒度分布計で求めた平均粒径D50は12.8μmであった。アルミニウム,ジルコニウムおよびフッ素は表面に存在していた。また、SEMによる観察の結果、得られた正極活物質粉末は一次粒子が30個以上凝集して二次粒子を形成していた。
25℃,2.75〜4.5V,放電レート0.5Cにおける初期放電容量は185.6mAh/gであり、平均電圧は4.02Vであった。50回充放電サイクル後の容量維持率は88.0%であった。また、4.3V充電品の発熱開始温度は173℃であった。
【実施例4】
一次粒子が50個以上凝集して二次粒子を形成した平均粒径D50が10.7μmのオキシ水酸化コバルト粉末と、炭酸リチウム粉末と、水酸化マグネシウム粉末と、酸化ジルコニウム粉末と、フッ化リチウム粉末を所定量混合した他は実施例1と同様な方法で正極活物質を合成し、組成分析と物性測定ならびに電池性能試験を行った。その結果、組成はLiCo0.99Mg0.005Zr0.0051.99240.0076であった。
また、焼成後の粉末の窒素吸着法により求めた比表面積は0.35m/gであり、レーザー散乱式粒度分布計で求めた平均粒径D50は12.7μmであった。マグネシウムおよびジルコニウムは表面に存在していた。また、SEMによる観察の結果、得られた正極活物質粉末は一次粒子が30個以上凝集して二次粒子を形成していた。
25℃,2.75〜4.5V,放電レート0.5Cにおける初期放電容量は189.1mAh/gであり、平均電圧は4.011Vであった。50回充放電サイクル後の容量維持率は91.6%であった。
【実施例5】
酸化ジルコニウムを使用する代わりに、酸化ハフニウム粉末を用いた他は実施例1と同様な方法で正極活物質を合成し、組成分析と物性測定ならびに電池性能試験を行った。その結果、組成はLiCo0.99Al0.005Hf0.005であった。
また、焼成後の粉末の窒素吸着法により求めた比表面積は0.39m/gであり、レーザー散乱式粒度分布計で求めた平均粒径D50は12.2μmであった。アルミニウムおよびハフニウムは表面に存在していた。また、SEMによる観察の結果、得られた正極活物質粉末は一次粒子が30個以上凝集して二次粒子を形成していた。
25℃,2.75〜4.5V,放電レート0.5Cにおける初期放電容量は190.4mAh/gであり、平均電圧は4.029Vであった。50回充放電サイクル後の容量維持率は88.0%であった。
【実施例6】
水酸化アルミニウムを使用する代わりに、水酸化マグネシウムを用いた他は実施例5と同様な方法で正極活物質を合成し、組成分析と物性測定ならびに電池性能試験を行った。その結果、組成はLiCo0.99Mg0.005Hf0.005であった。
また、焼成後の粉末の窒素吸着法により求めた比表面積は0.41m/gであり、レーザー散乱式粒度分布計で求めた平均粒径D50は12.4μmであった。マグネシウムおよびハフニウムは表面に存在していた。また、SEMによる観察の結果、得られた正極活物質粉末は一次粒子が30個以上凝集して二次粒子を形成していた。
25℃,2.75〜4.5V,放電レート0.5Cにおける初期放電容量は189mAh/gであり、平均電圧は4.009Vであった。50回充放電サイクル後の容量維持率は90.5%であった。
【実施例7】
酸化ジルコニウムを使用する代わりに、酸化チタン粉末を用いた他は実施例1と同様な方法で正極活物質を合成し、組成分析と物性測定ならびに電池性能試験を行った。その結果、組成はLiCo0.99Al0.005Ti0.005であった。
また、焼成後の粉末の窒素吸着法により求めた比表面積は0.41m/gであり、レーザー散乱式粒度分布計で求めた平均粒径D50は12.1μmであった。アルミニウムおよびチタンは表面に存在していた。また、SEMによる観察の結果、得られた正極活物質粉末は一次粒子が30個以上凝集して二次粒子を形成していた。
25℃,2.75〜4.5V,放電レート0.5Cにおける初期放電容量は187.6mAh/gであり、平均電圧は4.008Vであった。50回充放電サイクル後の容量維持率は88.2%であった。
【実施例8】
水酸化アルミニウムを使用する代わりに、水酸化マグネシウムを用いた他は、実施例7と同様な方法で正極活物質を合成し、組成分析と物性測定ならびに電池性能試験を行った。その結果、組成はLiCo0.99Mg0.005Ti0.005であった。
また、焼成後の粉末の窒素吸着法により求めた比表面積は0.43m/gであり、レーザー散乱式粒度分布計で求めた平均粒径D50は12.0μmであった。マグネシウムおよびチタニウムは表面に存在していた。また、SEMによる観察の結果、得られた正極活物質粉末は一次粒子が30個以上凝集して二次粒子を形成していた。
25℃,2.75〜4.5V,放電レート0.5Cにおける初期放電容量は187.3mAh/gであり、平均電圧は4.005Vであった。50回充放電サイクル後の容量維持率は86.5%であった。
【実施例9】
水酸化アルミニウムと酸化ジルコニウムの量を変えた他は、実施例1と同様な方法で正極活物質を合成し、組成分析と物性測定ならびに電池性能試験を行った。その結果、組成はLiCo0.99Al0.01Zr0.01であった。
また、焼成後の粉末の窒素吸着法により求めた比表面積は0.39m/gであり、レーザー散乱式粒度分布計で求めた平均粒径D50は12.6μmであった。マグネシウムおよびチタニウムは表面に存在していた。また、SEMによる観察の結果、得られた正極活物質粉末は一次粒子が30個以上凝集して二次粒子を形成していた。
25℃,2.75〜4.5V,放電レート0.5Cにおける初期放電容量は185.3mAh/gであり、平均電圧は4.022Vであった。50回充放電サイクル後の容量維持率は86.5%であった。
【実施例10】
水酸化マグネシウムと酸化ジルコニウムの量を変えた他は、実施例2と同様な方法で正極活物質を合成し、組成分析と物性測定ならびに電池性能試験を行った。その結果、組成はLiCo0.98Mg0.01Zr0.01であった。
また、焼成後の粉末の窒素吸着法により求めた比表面積は0.35m/gであり、レーザー散乱式粒度分布計で求めた平均粒径D50は12.8μmであつた。マグネシウムおよびチタニウムは表面に存在していた。
25℃,2.75〜4.5V,放電レート0.5Cにおける初期放電容量は186.6mAh/gであり、平均電圧は4.003Vであった。50回充放電サイクル後の容量維持率は87.1%であった。
実施例2と同様にして、焼成後の粉末のCu−Kα線を用いた高感度X線回折法によりX線回折スペクトルを得た。得られたスペクトルを図2に示す。図2より2θ 28±1°における回折スペクトルは認められず、ジルコニウムは単独酸化物として存在していないことが分かった。
また、X線回折スペクトルの解析によりジルコニウムはコバルトと約90%固溶し、LiZrOとして約10%存在していることが分かった。また、SEMによる観察の結果、得られた正極活物質粉末は一次粒子が30個以上凝集して二次粒子を形成していた。
【実施例11】
実施例2において、コバルト原料として、オキシ水酸化コバルトの代わりに、一次粒子が100個以上凝集して二次粒子を形成した平均粒径D50が12.7μmの水酸化コバルトを用いたほかは、実施例2と同様な方法で正極活物質を合成し、組成分析と物性測定ならびに電池性能試験を行った。その結果、組成はLiCo0.99Mg0.005Zr0.005であった。
また、焼成後の粉末の窒素吸着法により求めた比表面積は0.43m/gであり、レーザー散乱式粒度分布計で求めた平均粒径D50は14.8μmであった。マグネシウムおよびジルコニウムは表面に存在していた。
25℃,2.75〜4.5V,放電レート0.5Cにおける初期放電容量は190.0mAh/gであり、平均電圧は4.013Vであった。50回充放電サイクル後の容量維持率は93.3%であった。
実施例2と同様にして、焼成後の粉末のCu−Kα線を用いた高感度X線回折法によりX線回折スペクトルを得た。その結果、2θ 28±1°における回折スペクトルは認められず、ジルコニウムは単独酸化物として存在していなことが分かった。
また、SEMによる観察の結果、得られた正極活物質粉末は一次粒子が30個以上凝集して二次粒子を形成していた。また、この実施例11で合成された正極活物質粉末を用いた電極層の充填性は実施例2のそれより向上していた。
[比較例1]
水酸化アルミニウムおよび酸化ジルコニウムを使用しなかった他は、実施例1と同様な方法で正極活物質を合成し、組成分析と物性測定ならびに電池性能試験を行った。その結果、組成はLiCoOであった。
また、焼成後の粉末の窒素吸着法により求めた比表面積は0.32m/gであり、レーザー散乱式粒度分布計で求めた平均粒径D50は13.3μmであった。マグネシウムおよびハフニウムは表面に存在していた。
25℃,2.75〜4.5V,放電レート0.5Cにおける初期放電容量は194.5mAh/gであり、平均電圧は4.008Vであった。50回充放電サイクル後の容量維持率は74.4%であった。また、4.3V充電品の発熱開始温度は163℃であった。
[比較例2]
酸化ジルコニウムを使用しなかった他は、実施例1と同様な方法で正極活物質を合成し、組成分析と物性測定ならびに電池性能試験を行った。その結果、組成はLiCo0.99Al0.01であった。
また、焼成後の粉末の窒素吸着法により求めた比表面積は0.32m/gであり、レーザー散乱式粒度分布計で求めた平均粒径D50は13.4μmであった。アルミニウムは表面に存在していた。
25℃,2.75〜4.5V,放電レート0.5Cにおける初期放電容量は189.0mAh/gであり、平均電圧は4.016Vであった。50回充放電サイクル後の容量維持率は84.2%であった。
[比較例3]
酸化ジルコニウムを使用しなかった他は、実施例2と同様な方法で正極活物質を合成し、組成分析と物性測定ならびに電池性能試験を行った。その結果、組成はLiCo0.99Mg0.01であった。
また、焼成後の粉末の窒素吸着法により求めた比表面積は0.29m/gであり、レーザー散乱式粒度分布計で求めた平均粒径D50は13.3μmであった。マグネシウムは表面に存在していた。
25℃,2.75〜4.5V,放電レート0.5Cにおける初期放電容量は190.1mAh/gであり、平均電圧は3.980Vであった。50回充放電サイクル後の容量維持率は74.7%であった。
[比較例4]
水酸化アルミニウムを使用しなかった他は、実施例1と同様な方法で正極活物質を合成し、組成分析と物性測定ならびに電池性能試験を行った。その結果、組成はLiCo0.99Zr0.01であった。
また、焼成後の粉末の窒素吸着法により求めた比表面積は0.41m/gであり、レーザー散乱式粒度分布計で求めた平均粒径D50は13.0μmであった。ジルコニウムは表面に存在していた。
25℃,2.75〜4.5V,放電レート0.5Cにおける初期放電容量は186.4mAh/gであり、平均電圧は4.022Vであった。50回充放電サイクル後の容量維持率は66.4%であった。
実施例2と同様にして、焼成後の粉末のCu−Kα線を用いた高感度X線回折法によりX線回折スペクトルを得た。得られたスペクトルを図3に示す。図3より2θ 28±1°における回折スペクトルが顕著に認められ、ジルコニウムの約40%が単独酸化物として存在していることが分かった。また、X線回折スペクトルの解析によりジルコニウムはコバルトと約50%固溶し、LiZrO,として約10%存在していることが分かった。
[比較例5]
水酸化アルミニウムを使用しなかった他は、実施例5と同様な方法で正極活物質を合成し、組成分析と物性測定ならびに電池性能試験を行った。その結果、組成はLiCo0.99Hf0.01であった。
また、焼成後の粉末の窒素吸着法により求めた比表面積は0.43m/gであり、レーザー散乱式粒度分布計で求めた平均粒径D50は11.7μmであった。ハフニウムは表面に存在していた。
25℃,2.75〜4.5V,放電レート0.5Cにおける初期放電容量は190.4mAh/gであり、平均電圧は4.027Vであった。50回充放電サイクル後の容量維持率は82.7%であった。
[比較例6]
水酸化アルミニウムを使用しなかった他は、実施例8と同様な方法で正極活物質を合成し、組成分析と物性測定ならびに電池性能試験を行った。その結果、組成はLiCo0.99Ti0.01であった。
また、焼成後の粉末の窒素吸着法により求めた比表面積は0.50m/gであり、レーザー散乱式粒度分布計で求めた平均粒径D50は12.7μmであった。チタニウムは表面に存在していた。
25℃,2.75〜4.5V,放電レート0.5Cにおける初期放電容量は186.4mAh/gであり、平均電圧は4.020Vであった。50回充放電サイクル後の容量維持率は78.3%であった。
[比較例7]
水酸化アルミニウムおよび酸化ジルコニウムを使用しなかった他は、実施例3と同様な方法で正極活物質を合成し、組成分析と物性測定ならびに電池性能試験を行った。その結果、組成はLiCoO1.99240.0076であった。
また、焼成後の粉末の窒素吸着法により求めた比表面積は0.33m/gであり、レーザー散乱式粒度分布計で求めた平均粒径D50は13.2μmであった。フッ素は表面に存在していた。
25℃,2.75〜4.5V,放電レート0.5Cにおける初期放電容量は192.6mAh/gであり、平均電圧は4.012Vであった。50回充放電サイクル後の容量維持率は78.2%であった。
[比較例8]
水酸化アルミニウムおよび酸化ジルコニウムの量を変えた他は、実施例1と同様な方法で正極活物質を合成し、組成分析と物性測定ならびに電池性能試験を行った。その結果、組成はLiCo0.96Al0.02Zr0.02であった。
また、焼成後の粉末の窒素吸着法により求めた比表面積は0.44m/gであり、レーザー散乱式粒度分布計で求めた平均粒径D50は11.9μmであった。フッ素は表面に存在していた。
25℃,、2.75〜4.5V,放電レート0.5Cにおける初期放電容量は181.9mAh/gであり、平均電圧は4.021Vであった。50回充放電サイクル後の容量維持率は83.3%であった。
【産業上の利用可能性】
以上説明したように、本発明によれば、リチウムイオン二次電池にとって有用である高電圧および高容量用途で、高サイクル耐久性および高安全性を備えているリチウムイオン二次電池用正極材料が提供される。
【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式、LiCo(AはAlまたはMg,Bは4族遷移元素,0.90≦a≦1.10,0.97≦b≦1.00,0.0001≦c≦0.03,0.0001≦d≦0.03,1.98≦e≦2.02,0≦f≦0.02,0.0001≦c+d≦0.03)で表される粒子状のリチウムイオン二次電池用正極活物質であり、かつ、元素A,元素Bおよびフッ素が粒子の表面近傍に均一に存在していることを特徴とするリチウム二次電池用正極材料。
【請求項2】
上記粒子状のリチウムイオン二次電池用正極活物質に含まれる上記AまたはBで表される元素の少なくとも一部が粒子のコバルト原子を置換した固溶体であることを特徴とする請求の範囲第1項に記載のリチウム二次電池用正極材料。
【請求項3】
上記元素Aと上記元素Bの原子比が、0.33≦c/d≦3.00かつ0.002≦c+d≦0.02であることを特徴とする請求の範囲第1項または第2項に記載のリチウム二次電池用正極材料。
【請求項4】
上記元素Bの単独酸化物の存在量が20%以下であることを特徴とする請求の範囲第1項ないし第3項のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極材料。
【請求項5】
上記元素Aがマグネシウムであることを特徴とする請求の範囲第1項ないし第4項のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極材料。
【請求項6】
上記元素Bがジルコニウムであることを特徴とする請求の範囲第1項ないし第5項のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極材料。
【請求項7】
Cu−Kα線を用いた高感度X線回折スペクトルにおいて、2θ 28±1°における回折ピークが認められないことを特徴とする請求の範囲第1項ないし第6項のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極材料。
【請求項8】
上記粒子状のリチウムイオン二次電池用正極活物質が、一次粒子が10個以上凝集して二次粒子を形成した粒子からなり、上記二次粒子の平均粒径が2〜20μmであることを特徴とする請求の範囲第1項ないし第7項のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極材料。
【請求項9】
一般式、LiCo(AはAlまたはMg,Bは4族遷移元素,0.90≦a≦1.10,0.97≦b≦1.00,0.0001≦c≦0.03,0.0001≦d≦0.03,1.98≦e≦2.02,0≦f≦0.02,0.0001≦c+d≦0.03)で表される粒子状のリチウムイオン二次電池用正極活物質であり、かつ、元素A,元素Bおよびフッ素が粒子の表面近傍に均一に存在しているリチウム二次電池用正極材料を製造するにあたって、
一次粒子が10個以上凝集して二次粒子を形成した粒子からなり、少なくともオキシ水酸化コバルトまたは水酸化コバルトのいずれか含むコバルト原料と、炭酸リチウムと、上記元素Aおよび元素Bを含む原料とを混合して焼成することを特徴とするリチウム二次電池用正極材料の製造方法。

【国際公開番号】WO2004/030126
【国際公開日】平成16年4月8日(2004.4.8)
【発行日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−539456(P2004−539456)
【国際出願番号】PCT/JP2003/007223
【国際出願日】平成15年6月6日(2003.6.6)
【出願人】(000108030)セイミケミカル株式会社 (130)
【Fターム(参考)】