説明

リチウム二次電池用電極およびそれを用いたリチウム二次電池

【課題】非水電解質の保持性と、黒鉛粒子同士、または黒鉛粒子および集電体の結着性とを両立できる、リチウム二次電池用電極を提供する。
【解決手段】リチウム二次電池用電極は、シート状の集電体と、集電体の表面に付着した電極合剤層とを有し、電極合剤層が、黒鉛粒子および粒子状結着材を含み、黒鉛粒子の粒度分布において、累積体積が50%となる粒径D50が5μm以上、かつ30μm以下であり、粒子状結着材が、第1のゴム状樹脂粒子と、非水電解質に対する膨潤性が第1のゴム状樹脂粒子より高い第2のゴム状樹脂粒子とを含み、第1のゴム状樹脂粒子の平均粒径が、130nm以上であり、第2のゴム状樹脂粒子の平均粒径が、130nm未満である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用電極およびそれを用いたリチウム二次電池に関し、詳しくは、電極合剤層に含まれる粒子状結着材の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯機器の高性能化、および電気自動車やハイブリッド自動車の開発に伴い、リチウム二次電池の高性能化が強く要求されている。例えば、リチウム二次電池用電極(以下、単に電極ともいう)の高容量化と電極強度の向上とを両立するための研究が活発に行われている。一般的な電極は、シート状の集電体とその表面に付着した電極合剤層とを具備する。
【0003】
電極合剤層は、電極活物質の粒子および結着材を含む。具体的には、電極活物質粒子、結着材および液状分散媒を含むスラリーを調製し、このスラリーを集電体表面に塗布し、乾燥後、圧延することにより、電極合剤層が形成される。
【0004】
結着材は、活物質の粒子間を結着し、かつ活物質と集電体とを結着する機能を有する。結着材の中でも、粒子状結着材は、活物質粒子の表面を過度に被覆することがなく、使用量を低減できることから、有望視されている。粒子状結着材としては、例えば、スチレンブタジエンゴム、ニトリルゴムなどのゴム状重合体の粒子が知られている。
【0005】
また、粒子状結着材の結着性を高めたり、非水電解質の保持性を高めたりするため、コアシェル構造の粒子状結着材を用いること(特許文献1および2参照)、結着材として、粒子状結着材とフッ素樹脂とを併用すること(特許文献3参照)が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−302797号公報
【特許文献2】特開2005−011822号公報
【特許文献3】特開2008−293719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
スチレンブタジエンゴムは、非水電解質に対する濡れ性が低いため、充放電を繰り返すと、活物質粒子の周囲に、十分な量の非水電解質を保持できなくなり、合剤層内の非水電解質が不足する場合がある。その結果、イオン伝導性が低下し、容量維持率が低下する場合がある。
【0008】
一方、ニトリルゴムは、非水電解質に対する濡れ性が高いため、活物質粒子の周囲に、十分な量の非水電解質を保持することができる。しかし、結着材が非水電解質により膨潤すると、活物質粒子間の結着性や活物質粒子と集電体との間の結着性が低下する。そのため、活物質粒子が脱落したり、合剤層が剥離したりすることにより、電池容量を損なう場合がある。また、充放電を繰り返すことにより、活物質粒子の膨張および収縮が繰り返された場合、さらに、活物質粒子が脱落しやすくなる。
【0009】
特許文献1および2のようなコアシェル粒子では、非水電解質に対して濡れ性の高い材料をシェルに使用すると、非水電解質の保持性は確保できるものの、シェルが膨潤して、結着性が損なわれる。また、結着性が高い材料をシェルに使用すると、シェルの表面は、非水電解質に対する濡れ性が低いため、非水電解質を十分に保持できなくなる。つまり、極板強度と、非水電解質の保持性とを両立させることが困難である。
【0010】
特許文献3のように、粒子状結着材とフッ素樹脂とを組み合わせる場合、フッ素樹脂は、活物質粒子の表面に広がって覆うように付着するため、充放電時の活物質粒子表面におけるリチウムの出入りを妨げ、電池容量を損なう場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の目的は、非水電解質の保持性と、活物質粒子同士、または活物質粒子および集電体の結着性とを両立できる、リチウム二次電池用電極およびそれを用いたリチウム二次電池を提供することにある。
本発明の一局面は、シート状の集電体と、この集電体の表面に付着した電極合剤層とを有し、電極合剤層が、黒鉛粒子および粒子状結着材を含み、黒鉛粒子の粒度分布において、累積体積が50%となる粒径D50が5μm以上、かつ30μm以下であり、粒子状結着材が、第1のゴム状樹脂粒子と、非水電解質に対する膨潤性が第1のゴム状樹脂粒子より高い第2のゴム状樹脂粒子とを含み、第1のゴム状樹脂粒子の平均粒径が、130nm以上であり、第2のゴム状樹脂粒子の平均粒径が、130nm未満である、リチウム二次電池用電極に関する。
本発明の他の一局面は、正極、負極、これらの間に介在するセパレータ、および非水電解質を有し、負極が、前記の電極である、リチウム二次電池に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、D50が5〜30μmの黒鉛粒子と組み合わせる粒子状結着材として、平均粒径が130nm以上の第1のゴム状樹脂粒子と、これに比べて、非水電解質に対する膨潤性が高く、平均粒径が130nm未満の第2のゴム状樹脂粒子とを併用する。そのため、非水電解質の保持性と、活物質粒子同士、または活物質粒子および集電体の結着性とを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る電極において、黒鉛粒子、第1のゴム状樹脂粒子および第2のゴム状樹脂粒子の状態を模式的に示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る角型のリチウム二次電池を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[電極]
本発明のリチウム二次電池用電極は、シート状の集電体と、集電体の表面に付着した電極合剤層とを有し、電極合剤層が、黒鉛粒子および粒子状結着材を含んでいる。黒鉛粒子は、粒度分布において、累積体積が50%となる粒径D50が、5μm以上、かつ30μm以下である。粒子状結着材は、第1のゴム状樹脂粒子と、非水電解質に対する膨潤性が第1のゴム状樹脂粒子より高い第2のゴム状樹脂粒子とを含み、第1のゴム状樹脂粒子の平均粒径は、130nm以上であり、第2のゴム状樹脂粒子の平均粒径は、130nm未満である。
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明を説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る電極において、黒鉛粒子、第1のゴム状樹脂粒子および第2のゴム状樹脂粒子の状態を模式的に示す図である。
【0016】
電極1は、集電体2と、この表面に付着した電極合剤層3とを有している。電極合剤層3は、黒鉛粒子4と、第1のゴム状樹脂粒子5と、第1のゴム状樹脂粒子5よりも平均粒径が小さな第2のゴム状樹脂粒子6とを含む。そのため、活物質としての黒鉛粒子4同士、ならびに黒鉛粒子4および集電体2が、平均粒径が大きな第1のゴム状樹脂粒子5の点接着により結着し易い。つまり、黒鉛粒子間、ならびに黒鉛粒子および集電体間は、主に、第1のゴム状樹脂粒子5により結着される。しかも、第1のゴム状樹脂粒子5は、第2のゴム状樹脂粒子6よりも、非水電解質に対する膨潤性が低い。そのため、非水電解質と接触した後も、膨潤により、電極合剤層3における結着性が低下するのを有効に防止できる。
【0017】
また、平均粒径が小さな第2のゴム状樹脂粒子6は、黒鉛粒子4および集電体2、ならびに第1のゴム状樹脂粒子5の間に入り込んだ状態で、電極合剤層3中に存在する。第2のゴム状樹脂粒子6は、結着性を有するだけでなく、非水電解質との接触により膨潤して、非水電解質を黒鉛粒子4の周囲に保持することができる。また、平均粒径の小さな第2のゴム状樹脂粒子6が膨潤して、黒鉛粒子4同士の間隔が広がりにくいため、結着性の低下が起こりにくい。このようにして、本発明では、非水電解質の保持性と、黒鉛粒子同士、または黒鉛粒子および集電体の結着性とを両立することができる。
【0018】
非水電解質に対する結着材の膨潤性が低い場合、黒鉛粒子の周囲に十分な非水電解質を保持することができず、特に、充放電を繰り返した場合には、液がれを生じ、イオン伝導性が低下して、容量維持率が低下する場合がある。それに対し、本発明では、第2のゴム状樹脂粒子により、黒鉛粒子の周辺に、非水電解質を十分に保持することができるため、十分なイオン伝導性を確保でき、高い電池容量が得られる。また、充放電を繰り返しても、液がれを抑制でき、高い容量維持率を維持できる。
【0019】
非水電解質に対する結着材の膨潤性が高い場合、結着材が非水電解質により膨潤すると、結着性が損なわれる。そのため、黒鉛粒子が脱落したり、電極合剤層の一部が剥離したりして、電池容量が低下する場合がある。また、充放電を繰り返すと、黒鉛粒子の膨張および収縮に伴い、黒鉛粒子の脱離または合剤層の剥離が進行しやすくなる。よって、容量維持率が低下する場合がある。それに対し、本発明では、黒鉛粒子同士、ならびに黒鉛粒子および集電体の結着を、主に、非水電解質に対する膨潤性が低い第1のゴム状樹脂粒子が担う。そのため、非水電解質に対する膨潤により、結着性が低下するのを抑制できる。これにより、電池容量および容量維持率の低下を効果的に抑制できる。
【0020】
(黒鉛粒子)
活物質粒子としての黒鉛粒子とは、黒鉛構造を有する領域を含む粒子の総称である。よって、黒鉛粒子には、天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛化メソフェーズカーボン粒子などが含まれる。
【0021】
広角X線回折法で測定される黒鉛粒子の回折像は、(110)面に帰属されるピークと、(004)面に帰属されるピークとを有する。ここで、(110)面に帰属されるピークの強度I(110)と、(004)面に帰属されるピークの強度I(004)との比は、好ましくは、0.01<I(110)/I(004)<0.25、さらに好ましくは0.08<I(110)/I(004)<0.20を満たす。なお、ピークの強度とは、ピークの高さを意味する。
【0022】
黒鉛粒子のD50は、好ましくは10μm以上、さらに好ましくは15μm以上である。黒鉛粒子のD50は、好ましくは27μm以下、さらに好ましくは25μm以下である。これらの上限および下限の値は、任意に組み合わせることができる。黒鉛粒子の体積基準の粒度分布は、例えば、市販のレーザー回折式の粒度分布測定装置(例えば、日機装(株)製のマイクロトラック)により測定することができる。
【0023】
黒鉛粒子の滑り性の観点から、黒鉛粒子の平均円形度は、好ましくは0.90〜0.95、さらに好ましくは0.91〜0.94である。黒鉛粒子の滑り性が高いと、合剤層における黒鉛粒子の充填性を向上させたり、黒鉛粒子間の接着強度をさらに向上させたりする上で有利である。なお、平均円形度は、4πS/L2(ただし、Sは黒鉛粒子の正投影像の面積、Lは正投影像の周囲長)で表される。例えば、任意の100個の黒鉛粒子の円形度の平均値が上記範囲であることが好ましい。
【0024】
(粒子状結着材)
粒子状結着材は、第1のゴム状樹脂粒子と第2のゴム状樹脂粒子とを含む。
第2のゴム状樹脂粒子は、第1のゴム状樹脂粒子よりも、非水電解質に対する膨潤性が高い。ゴム状樹脂粒子の膨潤性は、例えば、溶解度パラメータ(SP)の値を目安にすることができる。第2のゴム状樹脂粒子を構成する第2のゴム状樹脂の溶解度パラメータSP2と、第1のゴム状樹脂粒子を構成する第1のゴム状樹脂の溶解度パラメータSP1との差(SP2−SP1)は、例えば、1以上、好ましくは1.2以上、さらに好ましくは1.5以上である。また、差(SP2−SP1)は、例えば、6.5以下、好ましくは5以下、さらに好ましくは4.5以下である。これらの上限および下限の値は、任意に組み合わせることができる。
【0025】
SP2は、非水電解質のSP値に近い。非水電解質のSP値は、例えば、15〜23、好ましくは16〜22である。
SP2は、例えば、10.5〜13.5、好ましくは10.7〜13.2、さらに好ましくは11〜13.1である。SP2がこのような範囲である場合、非水電解質の保持能およびイオン伝導性の点で、さらに有利である。
【0026】
第1のゴム状樹脂または第2のゴム状樹脂としては、例えば、フッ素ゴム、シリコーンゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、塩化ゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、ニトリルゴムなどの合成ゴムが例示できる。これらの合成ゴムは、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて使用できる。第1のゴム状樹脂と第2のゴム状樹脂とは、それぞれ、SP値を考慮した上で、これらの合成ゴムから適宜選択して組み合わせることができる。SP値は、構成モノマーの種類を変更したり、その割合を調整したりすることにより、調整することができる。
【0027】
ブタジエンなどの、ゴム状樹脂にゴム弾性または柔軟性を付与するモノマー単位(軟質モノマー単位と称する場合がある)を含むゴム状樹脂は、軟質モノマー単位の割合を調整することにより、SP値およびゴム状樹脂のガラス転移点(Tg)を容易に調整することができるため、膨潤性と結着性とを制御するのに有利である。
【0028】
軟質モノマーとしては、そのホモポリマーのTgが低いモノマー、例えば、ホモポリマーのTgが0℃以下、好ましくは−15℃以下であるモノマーなどが挙げられる。軟質モノマーのホモポリマーのTgの下限は、特に制限されず、例えば、−130℃、好ましくは−90℃である。
【0029】
軟質モノマーの具体例としては、ブタジエン、イソプレンなどのジエン;ジメチルシロキサンなどのジアルキルシロキサン;アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルなどのアクリル酸C2-12アルキル;メタクリル酸ノニル、メタクリル酸ドデシルなどのメタクリル酸C8-14アルキルなどが挙げられる。これらのモノマーは、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて使用できる。軟質モノマーのうち、ゴム状樹脂の種類に応じて、ブタジエン、アクリル酸C2-12アルキル(好ましくはアクリル酸C2-10アルキル)、メタクリル酸C8-14アルキル(好ましくはメタクリル酸C9-12アルキル)などが好ましい。
【0030】
好ましい第2のゴム状樹脂としては、ニトリルゴムが例示できる。ニトリルゴムは、通常、軟質モノマー単位として、主にブタジエン単位を含む。ニトリルゴムのSP値は、ブタジエンなどの軟質モノマー単位の割合が多くなると小さくなる。そのため、ニトリルゴム中の軟質モノマー単位(特に、ブタジエン単位)の割合は、例えば、60重量%以下、好ましくは56.5重量%以下である。なお、適度な結着性を確保する観点から、ニトリルゴム中の軟質モノマー単位(特に、ブタジエン単位)の割合は、例えば、30重量%以上、好ましくは33重量%以上である。
【0031】
好ましい第1のゴム状樹脂としては、フッ素ゴム、シリコーンゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、塩化ゴム、アクリルゴムおよびウレタンゴムなどが例示できる。これらの合成ゴムのSP値は、一般に、7以上、10.5未満である。
【0032】
上記第1のゴム状樹脂のうち、ブタジエン単位、アクリル酸C2-12アルキル単位、および/またはメタクリル酸C8-14アルキル単位などの軟質モノマー単位を含む合成ゴム、例えば、スチレンブタジエンゴム、アクリルゴムなどが好ましい。これらの合成ゴムにおいても、ニトリルゴムの場合と同様に、SP値は、軟質モノマー単位の割合が多くなると小さくなり、少なくなると大きくなる。そのため、合成ゴム中の軟質モノマー単位の割合は、例えば、30重量%以上、好ましくは40重量%以上である。また、結着性を確保する観点から、合成ゴム中の軟質モノマー単位の割合は、例えば、70重量%以下、好ましくは67重量%以下である。なお、スチレンブタジエンゴムは、通常、軟質モノマー単位として、主にブタジエン単位を含む。そのため、ブタジエン単位の割合を上記の軟質モノマー単位の割合の範囲から選択してもよい。また、アクリルゴムは、通常、軟質モノマー単位として、主にアクリル酸C2-12アルキル単位およびメタクリル酸C8-14アルキル単位からなる群より選択された少なくとも一種を含む。
【0033】
第1のゴム状樹脂のTgは、例えば、0℃以下、好ましくは−5℃以下である。このような範囲では、より高い結着性が得られる。そのため、黒鉛粒子間の剥離強度、電極合剤層の集電体に対する剥離強度を、より有効に高めることができる。Tgの下限は特に制限されないが、例えば、−40℃程度である。
第1のゴム状樹脂のTgは、第2のゴム状樹脂のTgと同じであってもよいが、第2のゴム状樹脂のTgよりも低くてもよい。第2のゴム状樹脂のTgと第1のゴム状樹脂のTgとの差は、例えば、1〜70℃、好ましくは5〜60℃である。
【0034】
第1のゴム状樹脂粒子の平均粒径は、130nm以上、好ましくは140nm以上、さらに好ましくは180nm以上である。平均粒径が、130nm未満では、十分な結着性が得られない場合がある。
【0035】
第1のゴム状樹脂粒子の平均粒径は、例えば、500nm以下、好ましくは400nm以下、さらに好ましくは300nm以下である。これらの下限値と上記の上限値は、それぞれ、任意に組み合わせることができる。平均粒径がこのような範囲である場合、黒鉛粒子同士、ならびに黒鉛粒子および集電体を、より効果的に結着することができる。
【0036】
第1のゴム状樹脂粒子の平均粒径は、黒鉛粒子のD50に対して、例えば、0.5〜5%、好ましくは0.55〜3.5%、さらに好ましくは0.6〜2%である。このような範囲では、黒鉛粒子同士、黒鉛粒子および集電体を、効果的に点接着により結着できる。
【0037】
第1のゴム状樹脂粒子の平均粒径と第2のゴム状樹脂粒子の平均粒径との差は、例えば、50nm以上、好ましくは70nm以上、さらに好ましくは80nm以上である。両粒子の平均粒径の差が、このような範囲にある場合、黒鉛粒子同士、並びに黒鉛粒子および集電体を第1のゴム状樹脂粒子が結着し、これらの間に、第2のゴム状樹脂粒子が入り込みやすくなる。両粒子の平均粒径の差の上限は、特に制限されず、例えば、300nmである。
【0038】
第2のゴム状樹脂粒子の平均粒径は、130nm未満、好ましくは120nm以下、さらに好ましくは110nm以下である。平均粒径が、130nm以上では、黒鉛粒子同士、ならびに黒鉛粒子および集電体が、第2のゴム状樹脂粒子で結着される割合が多くなり、非水電解質との接触により、結着性が損なわれる場合がある。
【0039】
第2のゴム状樹脂粒子の平均粒径は、例えば、30nm以上、好ましくは40nm以上である。第2のゴム状樹脂粒子の平均粒径が、このような範囲にあるとき、第1のゴム状樹脂粒子により結着された黒鉛粒子、ならびに黒鉛粒子および集電体の周囲に形成された隙間に、第2のゴム状樹脂粒子が入り込みやすい。これらの下限値と、上記の上限値とは、任意に組み合わせることができる。
【0040】
なお、第1のゴム状樹脂粒子(または第2のゴム状樹脂粒子)の平均粒径とは、第1のゴム状樹脂粒子(または第2のゴム状樹脂粒子)の体積粒度分布におけるメジアン径(D50)を意味する。第1のゴム状樹脂粒子および第2のゴム状樹脂粒子の体積粒度分布は、例えば、市販のレーザー回折式の粒度分布測定装置により測定することができる。
【0041】
第1のゴム状樹脂粒子および第2のゴム状樹脂粒子の総量は、黒鉛粒子100重量部に対して、例えば、0.1〜3重量部、好ましくは0.2〜1.5重量部である。このような範囲では、結着性を維持しながらも、黒鉛粒子の表面が結着材により必要以上に覆われるのを抑制でき、充放電時に、リチウムの吸収および放出を効率よく行うことができる。
【0042】
第1のゴム状樹脂粒子と、第2のゴム状樹脂粒子との重量割合(第1のゴム状樹脂粒子/第2のゴム状樹脂粒子)は、例えば、50/50〜90/10、好ましくは55/45〜85/15である。両粒子の重量割合が、このような範囲である場合、より高い結着性が得られるとともに、非水電解質の保持性を高めることができる。
【0043】
第1のゴム状樹脂粒子による黒鉛粒子の被覆率C1は、例えば、20〜65%、好ましくは25〜58%である。第2のゴム状樹脂粒子による黒鉛粒子の被覆率C2は、被覆率C1に対して0.1〜2倍、好ましくは0.5〜1.2倍である。被覆率が、このような範囲である場合、より高い結着性が得られるとともに、非水電解質の保持性を高めることができる。
【0044】
黒鉛粒子の被覆率C1およびC2は、黒鉛粒子を球形と仮定したときに平均粒径から求められる黒鉛粒子の表面積SAに対する、黒鉛粒子に付着したゴム状樹脂粒子の投影面積の総和の比である。ゴム状樹脂粒子の投影面積としては、複数のゴム状樹脂粒子が黒鉛粒子に、均一に付着していると仮定して、ゴム状樹脂粒子の平均粒径から求められる断面積を用いる。黒鉛粒子の被覆率C1およびC2は、それぞれ、下記式で表わすことができる。
【0045】
1=S1/SA×100(%)
2=S2/SA×100(%)
1は、黒鉛粒子に付着した第1のゴム状樹脂粒子の断面積の総和であり、S2は、黒鉛粒子に付着した第2のゴム状樹脂粒子の断面積の総和である。なお、黒鉛粒子に付着したゴム状樹脂粒子の個数は、例えば、透過型電子顕微鏡により撮影したSEM写真に基づいて決定できる。被覆率C1およびC2は、複数の黒鉛粒子の平均値として算出してもよい。
【0046】
また、黒鉛粒子に付着したゴム状樹脂粒子の個数は、使用する第1および第2のゴム状樹脂粒子の全てが、全ての黒鉛粒子の表面に均一に付着していると仮定して算出してもよい。このような仮定により、1つの黒鉛粒子に付着した第1および第2のゴム状樹脂粒子の個数の平均値をそれぞれ算出できる。この算出値に基づいて、各ゴム状樹脂粒子の断面積の総和を求めてもよい。この場合、各ゴム状樹脂粒子の断面積の総和は、第1および第2の各ゴム状樹脂粒子の使用量、第1のゴム状樹脂粒子と第2のゴム状樹脂粒子との重量比、および各ゴム状樹脂粒子の平均粒径に基づいて算出できる。算出した断面積の総和および黒鉛粒子の表面積に基づいて、上記と同様に、各ゴム状樹脂粒子の被覆率を算出してもよい。
【0047】
電極合剤層は、導電剤、増粘剤などを任意成分として含んでもよい。
導電剤としては、カーボンブラック、フッ化カーボン、金属粉末、導電性繊維(炭素繊維、金属繊維など)などが例示できる。導電剤の割合は、特に制限されず、黒鉛粒子100重量部に対して、例えば、0.1〜5重量部である。
【0048】
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)などのセルロース誘導体;ポリエチレングリコールなどのポリC2-4アルキレングリコール;ポリビニルアルコール;可溶化変性ゴムなどが挙げられる。増粘剤の割合は、特に制限されず、黒鉛粒子100重量部に対して、例えば、0.1〜5重量部である。
【0049】
集電体は、例えば、ステンレス鋼、ニッケル、銅、銅合金などの材料で形成される。集電体は、無孔の導電性基板であってもよく、複数の貫通孔を有する多孔性の導電性基板であってもよい。無孔の集電体としては、金属箔、金属シートなどが利用できる。多孔性の集電体としては、連通孔(穿孔)を有する金属箔、メッシュ体、パンチングシート、エキスパンドメタルなどが例示できる。
集電体の厚みは、強度および軽量性の観点から、例えば、3〜50μmの範囲から選択できる。
【0050】
電極合剤層は、黒鉛粒子、粒子状結着材および分散媒を含むスラリーを、集電体の表面に塗布し、乾燥することにより形成できる。乾燥後、塗膜は、所望の厚みになるように、通常、圧延される。電極合剤層は、集電体の両方の表面に形成してもよく、片方の表面に形成してもよい。
電極合剤層の厚みは、例えば、10〜100μmである。
電極合剤層における黒鉛密度は、例えば、1.4〜1.9g/cm3、好ましくは1.5〜1.8g/cm3である。
【0051】
分散媒としては、例えば、水の他、エタノールなどのアルコール(C1-3アルカノールなど)、アセトンなどのケトン、アセトニトリルなどのニトリル、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶媒、またはこれらの混合溶媒などが例示できる。合剤層において、結着材の粒子の形状を維持するため、粒子状結着材をほとんど溶解しない溶媒を分散媒として用いるのが好ましい。分散媒としては、水、または水と水溶性有機溶媒との混合溶媒などが好ましい。
【0052】
[リチウム二次電池]
本発明のリチウム二次電池は、上記電極を負極として含む。リチウム二次電池は、詳しくは、このような負極に加え、正極、これらの間に介在するセパレータ、および非水電解質を有する。以下、負極以外の各構成要素について、詳細に説明する。
【0053】
(正極)
正極は、正極集電体と、正極集電体の表面に形成された正極合剤層とを含む。
正極集電体は、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、チタンなどの材料を含む。正極集電体の形態としては、負極集電体で例示したものと同様のものが挙げられる。また、集電体の厚みも、負極集電体と同様の範囲から選択できる。
【0054】
正極合剤層は、正極集電体の両方の表面に形成してもよく、片方の表面に形成してもよい。
正極合剤層の厚みは、例えば、10〜70μmである。
正極活物質としては、公知のリチウム二次電池用正極活物質が使用でき、その中でも、リチウム含有複合酸化物、オリビン型リン酸リチウムなどが好ましい。
【0055】
リチウム含有複合酸化物は、リチウムと遷移金属元素とを含む金属酸化物またはこの金属酸化物中の遷移金属元素の一部が異種元素によって置換された酸化物である。遷移金属元素としては、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Crなどを挙げることができる。これらの遷移金属元素の中でも、Mn、Co、Niなどが好ましい。異種元素としては、Na、Mg、Zn、Al、Pb、Sb、Bなどが挙げられる。これらの異種元素の中でも、Mg、Alなどが好ましい。遷移金属元素及び異種元素は、それぞれ一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて使用できる。
【0056】
リチウム含有複合酸化物の具体例としては、例えば、LixCoO2、LixNiO2、LixMnO2、LixComNi1-m2、LixCom1-mn、LixNi1-mmn、LixMn24、LixMn2-mMnO4などが挙げられる。Mは、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Cr、Na、Mg、Zn、Al、Pb、SbおよびBよりなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を示す。x、mおよびnは、それぞれ、0<x≦1.2であり、0≦m≦0.9であり、2.0≦n≦2.3である。これらのリチウム含有複合酸化物の中でも、LixCom1-mnが好ましい。Mは、少なくともMnおよび/またはNiを含むのが好ましい。
【0057】
オリビン型リン酸リチウムとしては、例えば、LiZPO4、Li2ZPO4Fなどが挙げられる。Zは、Co、Ni、MnおよびFeよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素である。
上記した各組成式において、リチウムのモル比は正極活物質合成直後の値であり、充放電により増減する。正極活物質は一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて使用できる。
【0058】
正極合剤層は、正極活物質、結着材および分散媒を含むスラリーを用いて、前述の電極合剤層(負極合剤層)と同様の方法で形成できる。分散媒としては、前記例示のもののうち、有機溶媒を用いる場合が多い。
【0059】
結着材としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素樹脂;ポリアクリル酸メチルなどのアクリル樹脂;スチレン−ブタジエンゴム、アクリルゴムなどのゴム状樹脂;またはこれらの混合物などが挙げられる。結着材の割合は、正極活物質100重量部に対して、例えば、0.1〜15重量部である。
【0060】
正極合剤層は、既述の電極合剤層と同様に、必要により、導電剤および/または増粘剤を含んでもよい。導電剤としては、電極合剤層で例示したものに加え、天然黒鉛、人造黒鉛などのグラファイトなども使用できる。増粘剤としては、電極合剤層で例示したものが利用できる。導電剤および増粘剤の割合も、電極合剤層と同様の範囲から選択できる。
【0061】
(セパレータ)
セパレータとしては、樹脂製の、微多孔フィルム、不織布または織布などが使用できる。セパレータを構成する樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン;ポリアミド;ポリアミドイミド;ポリイミドなどが例示できる。
セパレータの厚みは、例えば、5〜50μmである。
【0062】
(非水電解質)
非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解したリチウム塩とを含む。非水電解質は、SP値が、前述の範囲となるように、溶媒の種類や混合比、もしくはリチウム塩の種類や濃度を調整するのが好ましい。
非水溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネートなどの環状炭酸エステル;ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネートなどの鎖状炭酸エステル;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトンなどの環状カルボン酸エステルなどが例示できる。これらの非水溶媒は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて使用できる。
【0063】
リチウム塩としては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(SO2CF32、LiN(SO2252、LiC(SO2CF33などが挙げられる。リチウム塩は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて使用できる。
非水電解質中のリチウム塩の濃度は、例えば、0.5〜1.5M(mol/L)である。
【0064】
非水電解質には、公知の添加剤、例えば、ビニレンカーボネートなどのビニレンカーボネート化合物;ビニルエチレンカーボネート、ジビニルエチレンカーボネートなどのビニル基を有する環状カーボネート化合物;シクロヘキシルベンゼン、ビフェニル、ジフェニルエーテルなどの芳香族化合物などを添加してもよい。
【0065】
リチウム二次電池は、通常、正極、負極およびこれらを隔離するセパレータを、非水電解質とともに、電池ケースに収容することにより作製できる。
電池ケース材料としては、鋼鈑、アルミニウム、アルミニウム合金(マンガン、銅等などの金属を微量含有する合金など)などが使用できる。
【0066】
リチウム二次電池の形状は、円筒型、角型、コイン型などであってもよい。円筒型または角型の電池では、電池ケースへの収容に先だって、正極と、負極と、これらを隔離するセパレータとを、捲回、積層またはつづら折りにして電極群を形成してもよい。電極群の形状は、電池または電池ケースの形状に応じて、円筒状、捲回軸に垂直な端面が長円形である扁平形状であってもよい。
【0067】
図2は、本発明の一実施形態に係る角型のリチウム二次電池を模式的に示す斜視図である。図2では、電池21の要部の構成を示すために、その一部を切り欠いて示している。電池21は、角型電池ケース11内に、扁平状電極群10および非水電解質(図示せず)が収容された角型電池である。
【0068】
正極、負極、およびセパレータ(いずれも図示せず)を、正極と負極とをセパレータで絶縁させた状態となるように重ね合わせて捲回して捲回体を形成する。得られた捲回体を側面から挟み込むようにプレスして扁平状に成形することにより、電極群10を作製する。正極の正極集電体に、正極リード14の一端部を接続し、他端部を、正極端子としての機能を有する封口板12と接続する。負極の負極集電体に、負極リード15の一端部を接続し、他端部を、負極端子13と接続する。封口板12と、負極端子13との間には、ガスケット16が配置され、両者を絶縁している。封口板12と、電極群10との間には、通常、ポリプロピレンなどの絶縁性材料で形成された枠体18が配置され、負極リード15と封口板12とを絶縁している。
【0069】
封口板12は、角型電池ケース11の開口端に接合され、角型電池ケース11を封口する。封口板12には、注液孔17aが形成されており、注液孔17aは、非水電解質を角型電池ケース11内に注液した後に、封栓17により塞がれる。
【実施例】
【0070】
以下に、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
合成例1
スチレン35g、アクリル酸1.5g、イオン交換水50gおよびアニオン性界面活性剤(第1工業製薬社製、ネオゲンRK)2gを、ホモミキサーを用いて混合し、モノマー乳化物を得た。
オートクレーブに、窒素置換した滴下装置および撹拌機をセットした。オートクレーブ内に、イオン交換水90gを仕込み、撹拌しながら、70℃まで昇温し、イオン交換水10gに過硫酸カリウム0.5gを溶解させた水溶液を添加した。温度を維持した状態で、撹拌を継続しながら、上記モノマー乳化物およびブタジエン65gを、4時間かけて、圧力封入により滴下した。このような操作により、スチレンブタジエンゴム粒子(SBR1)を含むエマルジョンを得た。得られたSBR1の平均粒径(体積平均のメジアン径)は、250nmであり、ガラス転移点は、−25℃であり、SP値は9.2であった。
ガラス転移点は、示差走査熱量計(TAインスツルメンツ社製、Q2000)を用いて測定した。
モノマーのSP値を、Fedors法により算出し、構成モノマーの共重合比(モル比)の平均値に基づいて、ゴム状樹脂のSP値を算出した。
【0071】
合成例2〜4
モノマーおよびアニオン性界面活性剤の量を、表1のように変更する以外は、合成例1と同様に操作を行い、スチレンブタジエンゴム粒子SBR2、SBR3およびSBR4を得た。
【0072】
合成例5
ブタジエン65gに代えて、アクリル酸n−ブチル75gを用いるとともに、他のモノマーおよびアニオン性界面活性剤の量を表1に示す量に変更する以外は、合成例1と同様に操作を行い、アクリルゴム粒子ACRを得た。
【0073】
合成例6〜9
スチレン35gに代えて、表1に示す量のアクリロニトリルを用いるとともに、他のモノマーおよびアニオン性界面活性剤の量を表1に示す量に変更する以外は、合成例1と同様に操作を行い、ニトリルゴム粒子NBR1、NBR2、NBR3およびNBR4を得た。
【0074】
表1に、合成例1〜9で使用したモノマーの種類および量、並びにアニオン性界面活性剤の量とともに、得られたゴム粒子の平均粒径、ガラス転移点およびSP値を示す。
【0075】
【表1】

【0076】
実施例1
(1)負極の作製
天然黒鉛粒子(平均粒径21μm)100重量部、カルボキシメチルセルロース(CMC)1重量部、第1のゴム状樹脂粒子0.8重量部、第2のゴム状樹脂粒子0.2重量部、および適量の水を双腕型混練機で混練し、スラリーを調製した。第1のゴム状樹脂粒子として、合成例1で得られたSBR1を用い、第2のゴム状樹脂粒子として、合成例6で得られたNBR1を用いた。
スラリーを、厚さ10μmの銅箔(負極集電体)の両面に塗布し、塗膜を乾燥した後、2000N/cmの線圧で圧延し、負極を作製した。両面の負極合剤層と負極集電体との合計厚さは150μmであった。その後、負極を所定の寸法に裁断して、帯状の負極を得た。
(2)正極の作製
LiNi0.82Co0.15Al0.032(正極活物質)100重量部、アセチレンブラック(導電剤)1重量部、ポリフッ化ビニリデン(結着剤)1重量部および適当量のN−メチル−2−ピロリドンを双腕型混練機で混合し、正極スラリーを調製した。この正極スラリーを厚さ15μmの帯状アルミニウム箔(正極集電体)の両面に塗布し、得られた塗膜を乾燥した後、圧延して、正極を作製した。両面の正極合剤層と正極集電体との合計厚さは120μmであった。その後、正極を所定の寸法に裁断して、帯状の正極を得た。
【0077】
(3)非水電解質の調製
エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとを体積比1:3で混合した混合溶媒99重量部に、ビニレンカーボネート1重量部を添加して、混合溶液を得た。この混合溶液に、濃度が1.0mol/LとなるようにLiPF6を溶解することにより、非水電解質を調製した。非水電解質のSP値は、21であった。
【0078】
(4)電池の組み立て
(1)および(2)で得られた正極および負極を用い、次のようにして電極群を作製した。
アルミニウム製正極リードの一端を正極集電体に接続した。ニッケル製負極リードの一端を負極集電体に接続した。正極と負極とを、厚さ16μmのポリエチレン製多孔質シート(セパレータ)で隔離して、これらを捲回した。得られた捲回式電極群を、25℃環境下、プレス圧0.25MPaでプレスし、扁平状の電極群を作製した。
得られた電極群および(3)で得られた非水電解質を用いて、前述のようにして、図2に示すリチウム二次電池を作製した。
【0079】
実施例2〜6、ならびに比較例1
第1のゴム状樹脂粒子および第2のゴム状樹脂粒子として、表2に示すゴム状樹脂粒子を、天然黒鉛粒子100重量部に対して表2に示す添加量で用いる以外は、実施例1と同様にして、負極を作製した。得られた負極を用いる以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
【0080】
比較例2および3
第1のゴム状樹脂粒子として、表2に示すゴム状樹脂粒子を、天然黒鉛粒子100重量部に対して表2に示す添加量で用い、第2のゴム状樹脂粒子を用いない以外は、実施例1と同様にして、負極を作製した。得られた負極を用いる以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作製した。
【0081】
実施例および比較例で得られた負極、またはリチウム二次電池について、下記の評価を行った。
【0082】
[被覆率]
実施例および比較例で得られた負極について、黒鉛粒子の表面に付着した、第1および第2のゴム状樹脂粒子の断面積の総和S1およびS2をそれぞれ求めた。算出した各ゴム状樹脂粒子の断面積の総和S1およびS2、および黒鉛粒子の表面積SAに基づいて、既述の式により、第1および第2のゴム状樹脂粒子による黒鉛粒子の被覆率C1およびC2を、それぞれ算出した。なお、使用した第1および第2のゴム状樹脂粒子の全てが、黒鉛粒子の表面に均一に付着していると仮定して、黒鉛粒子に付着したゴム状樹脂粒子の個数を算出し、この算出値に基づいて、S1およびS2を算出した。
【0083】
[剥離強度(負極集電体に対する負極合剤層の剥離強度)]
実施例および比較例で得られた負極を裁断して幅15mm、長さ80mmの試験片を作製した。両面テープ(品番:No.151、日東電工(株)製)を試験片の一方の面の負極合剤層に貼り付け、表面が平滑なステンレス鋼基板に固定した。試験片が固定されたステンレス鋼基板を、水平になるように設置した。試験片の長手方向における負極集電体の一端を、引張り試験機(商品名:テンシロン万能試験機RTC1210、(株)エー・アンド・デイ製)の可動冶具に固定し、ステンレス鋼基板の基板面に対して90°の方向に負極集電体を剥離するように設定した。そして、可動治具を移動させ、試験片の負極合剤層と負極集電体とを20mm/分の速度で剥離させた。その際、引張方向は試験片を固定しているステンレス鋼基板の基板面に対して常に90°に維持した。試験片の30mm以上が剥離した時の、安定した引張り強度の数値を読み取り、負極合剤層の負極集電体からの剥離強度(N/m)とした。
【0084】
[粒子間強度(負極合剤層における黒鉛粒子間の結着強度)]
実施例および比較例で得られた負極を裁断し、2cm×3cmの負極片を得た。得られた負極片の一方の面の負極合剤層を剥がし、他方の面の負極合剤層をそのまま残した。この負極片を、ガラス板上に貼り付けた両面テープ(品番:No.515、日東電工(株)製)に、他方の面の負極合剤層と両面テープの接着剤層とが接着するように貼り付けた。次いで、負極片から負極集電体を剥離して負極合剤層を露出させた。これにより、両面テープの片面に負極合剤層が付着した測定用試料を作製した。
【0085】
上記で得られた測定用試料の、負極合剤層が付着していない両面テープの面を、タッキング試験機(商品名:TAC−II、(株)レスカ製)の測定子(先端直径0.2cm、断面積0.031cm2)の先端に貼り付けた。次に、測定プローブを、下記試験条件で、負極合剤層に押しつけ、引き離す剥離試験を行った。この剥離試験において、黒鉛粒子間で剥離が起る最大荷重を測定した。測定された最大荷重を測定子の断面積で除した値を、負極合剤層の結着強度(N/cm2)とした。
【0086】
試験条件:プローブの押し込み速度30mm/分
プローブの押し込み時間10秒
プローブの押し込み荷重3.9N
プローブの引き離し速度600mm/分
【0087】
[電池容量]
実施例および比較例で得られたリチウム二次電池について、下記条件で充放電サイクルを3回繰返し、3回目の放電容量を求め、電池容量(mAh)とした。充放電サイクルでは、まず、下記条件で、定電流充電を行い、引き続いて定電圧充電を行った後、定電流放電を行った。
【0088】
定電流充電:200mA、終止電圧4.2V
定電圧充電:終止電流20mA、休止時間20分
定電流放電:電流200mA、終止電圧2.5V、休止時間20分
【0089】
[容量維持率]
実施例および比較例のリチウム二次電池について、45℃において、下記条件で充放電サイクルを500回繰り返した。充放電サイクルでは、まず、下記条件で定電流充電を行い、引き続いて定電圧充電を行った後、定電流放電を行った。
【0090】
定電流充電:充電電流値500mA/充電終止電圧4.2V
定電圧充電:充電電圧値4.2V/充電終止電流100mA
定電流放電:放電電流値500mA/放電終止電圧3V
そして、1回目の放電容量に対する500回目の放電容量の百分率として、容量維持率(%)を求めた。
上記の評価結果を、表2に示す。
【0091】
【表2】

【0092】
実施例の負極では、剥離強度、および黒鉛粒子間強度のいずれも高かった。つまり、実施例の負極は、負極集電体と負極合剤層との密着性に優れるとともに、黒鉛粒子間の結着性が高い。これらは、集電体と黒鉛粒子との間、および黒鉛粒子間に、平均粒径の大きな第1のゴム状樹脂粒子が存在することにより、集電体および黒鉛粒子、ならびに黒鉛粒子同士を、第1のゴム状樹脂粒子の点接着により結着させることができたためである。また、実施例では、高い電池容量が得られ、充放電を500サイクル繰り返した後の容量維持率も高かった。平均粒径の小さな第2のゴム状樹脂粒子は、黒鉛粒子間に適度に存在することにより、第1のゴム状樹脂粒子による結着を妨げない。また、第2のゴム状樹脂粒子は、非水電解質に対する膨潤性が高く、非水電解質を効果的に保持できる。そのため、高い電池容量が得られたと考えられる。また、集電体および黒鉛粒子、ならびに黒鉛粒子同士を結着する第1のゴム状樹脂粒子は、非水電解質に対する膨潤性が低い。つまり、第1のゴム状樹脂粒子は、それほど膨潤せずに、結着性を確保し、第2のゴム状樹脂粒子で非水電解質の保持性を確保する。よって、負極の過剰な膨潤が抑制され、充放電を繰り返しても、活物質や合剤層の脱落や剥離が抑制され、イオン導電性を確保でき、これにより、サイクル後も高い容量維持率が得られたと考えられる。
【0093】
一方、比較例1では、実施例に比較して、電池容量が低く、剥離強度および粒子間強度でも劣っている。比較例1では、集電体および黒鉛粒子間、ならびに黒鉛粒子間が、主に、非水電解質に対する膨潤性の高いゴム状樹脂粒子で結着されている。電池容量の低下は、膨潤により、負極合剤層が膨張しすぎたり、活物質の脱落や合剤層の剥離が生じたりしたことによるものと考えられる。また、剥離強度および粒子間強度は、結着を担うゴム状樹脂粒子の非水電解質に対する膨潤性を高くしたことに伴い、Tgも高くなったため、低下したものと考えられる。
【0094】
また、比較例2では、充放電を500回サイクル繰り返した後の容量維持率が低い。これは、比較例2で用いたゴム状樹脂粒子が、非水電解質に対して濡れ性が低く、充放電を繰り返すうちに、液枯れが生じたためと考えられる。
【0095】
比較例3では、実施例に比べて、電池容量が低い。これは、粒径の小さなゴム状樹脂粒子だけを用いることにより、黒鉛粒子が過剰に被覆され、黒鉛間の導電性が損なわれるためと考えられる。加えて、用いたゴム状樹脂粒子の非水電解質に対する膨潤性が高いため、負極合剤層が膨張しすぎたり、活物質の脱落や合剤層の剥離が生じたりすることによるものと考えられる。比較例3では、剥離強度および粒子間強度のいずれも顕著に低い。これは、膨潤性の高いゴム状樹脂粒子だけを用いたため、ゴム状樹脂粒子のTgも高くなり、集電体および黒鉛粒子の間、ならびに黒鉛粒子間を結着する力が十分に得られなかったためであると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の電極およびこれを具備するリチウム二次電池は、携帯用電子機器の電源として有用である。携帯用電子機器には、パーソナルコンピュータ、携帯電話、モバイル機器、携帯情報端末(PDA)、携帯用ゲーム機器、ビデオカメラなどがある。また、本発明の電極およびこれを具備するリチウム二次電池は、ハイブリッド電気自動車、燃料電池自動車、プラグインHEVなどにおける電気モータ駆動用の主電源または補助電源、電動工具、掃除機、ロボットなどの駆動用電源などとしての利用も期待される。
【符号の説明】
【0097】
1 電極
2 集電体
3 電極合剤層
4 黒鉛粒子
5 第1のゴム状樹脂粒子
6 第2のゴム状樹脂粒子
10 電極群
11 角型電池ケース
12 封口板
13 負極端子
14 正極リード
15 負極リード
16 ガスケット
17 封栓
17a 注液孔
18 絶縁性枠体
21 リチウム二次電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状の集電体と、前記集電体の表面に付着した電極合剤層とを有し、
前記電極合剤層が、黒鉛粒子および粒子状結着材を含み、
前記黒鉛粒子の粒度分布において、累積体積が50%となる粒径D50が5μm以上、かつ30μm以下であり、
前記粒子状結着材が、第1のゴム状樹脂粒子と、非水電解質に対する膨潤性が前記第1のゴム状樹脂粒子より高い第2のゴム状樹脂粒子とを含み、
前記第1のゴム状樹脂粒子の平均粒径が、130nm以上であり、
前記第2のゴム状樹脂粒子の平均粒径が、130nm未満である、リチウム二次電池用電極。
【請求項2】
前記第1のゴム状樹脂粒子の平均粒径が、500nm以下であり、前記第2のゴム状樹脂粒子の平均粒径が、30nm以上であり、前記第1のゴム状樹脂粒子と前記第2のゴム状樹脂粒子との平均粒径の差が、50nm以上である、請求項1に記載のリチウム二次電池用電極。
【請求項3】
前記第2のゴム状樹脂粒子を構成する第2のゴム状樹脂の溶解度パラメータSP2が、10.5〜13.5であり、前記第1のゴム状樹脂粒子を構成する第1のゴム状樹脂粒子の溶解度パラメータSP1が、前記SP2よりも小さく、前記SP2と前記SP1との差が、1以上、かつ6.5以下である、請求項1または2に記載のリチウム二次電池用電極。
【請求項4】
前記第1のゴム状樹脂が、フッ素ゴム、シリコーンゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、塩化ゴム、アクリルゴムおよびウレタンゴムからなる群より選択された少なくとも一種である、請求項3に記載のリチウム二次電池用電極。
【請求項5】
前記第1のゴム状樹脂が、スチレンブタジエンゴムであり、30〜70重量%のブタジエン単位を含む、請求項3に記載のリチウム二次電池用電極。
【請求項6】
前記第1のゴム状樹脂が、30〜70重量%の軟質モノマー単位を含むアクリルゴムであり、前記軟質モノマー単位が、アクリル酸C2-12アルキル単位およびメタクリル酸C8-14アルキル単位からなる群より選択された少なくとも一種である、請求項3に記載のリチウム二次電池用電極。
【請求項7】
前記第2のゴム状樹脂が、ニトリルゴムであり、前記ニトリルゴムが、30〜60重量%のブタジエン単位を含む、請求項3〜6のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用電極。
【請求項8】
前記第1のゴム状樹脂粒子および第2のゴム状樹脂粒子の総量が、前記黒鉛粒子100重量部に対して、0.1〜3重量部である、請求項1〜7のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用電極。
【請求項9】
前記第1のゴム状樹脂粒子と、前記第2のゴム状樹脂粒子との重量割合が、50/50〜90/10である、請求項1〜8のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用電極。
【請求項10】
前記第1のゴム状樹脂粒子による前記黒鉛粒子の被覆率C1が、20〜65%であり、前記第2のゴム状樹脂粒子による前記黒鉛粒子の被覆率C2が、前記被覆率C1に対して
0.1〜2倍である、請求項1〜9のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用電極。
【請求項11】
正極、負極、前記正極と前記負極との間に介在するセパレータ、および非水電解質を有し、前記負極が、請求項1〜10のいずれか1項に記載の電極である、リチウム二次電池。
【請求項12】
前記非水電解質の溶解度パラメータが15〜23である、請求項11に記載のリチウム二次電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−182012(P2012−182012A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44102(P2011−44102)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】