説明

リチウム二次電池

【課題】 リチウム二次電池において、充放電サイクルに伴う放電容量の低下を著しく少なくし、一層の高エネルギー密度化を図る。
【解決手段】 リチウム二次電池の特性のうち、特に負極活物質の放電状態に対する充電状態の体積膨張率と非水電解液の組成という2つの特性に着目し、負極活物質として周期律表第12〜15族の元素を含むものを用い、前記体積膨張率が50%以上になるように、負極活物質と正極活物質との量比、充放電容量などを適宜選択するとともに、非水電解液として、フッ素化エチレンカーボネートと、水素、酸素および炭素のみからなる炭酸エステルと、リチウム塩とを含み、フッ素化エチレンカーボネートの含有量が電解液全量の2重量%以上である非水電解液を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充放電サイクルに伴う容量低下が少なく、高エネルギー密度のリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム電池は、高電圧かつ高エネルギー密度を有しており、また貯蔵安定性などの信頼性も高いので、民生用電子機器の電源として広く用いられている。
【0003】
リチウム電池の代表例としては、リチウムイオン二次電池が挙げられる。これは、リチウムを吸蔵、放出が可能な炭素材料を活物質とする負極と、リチウムと遷移金属との複合酸化物を活物質とする正極と、非水電解液とを含んで構成される電池である。
【0004】
ここで、非水電解液は正極と負極間のイオンの受け渡しをする役割を担う。電池の充放電特性を高めるには正極と負極間のイオンの受け渡し速度をなるべく高める必要があり、そのためには、非水電解液のイオン伝導度を高くすること、非水電解液の粘度を低くすることなどが必要である。また、電池の貯蔵特性、サイクル安定性などを高めるためには、化学的、電気化学的な反応性の高い正極と負極とに対して、非水電解液が安定である必要がある。
【0005】
このような要件を満たす非水電解液としては、リチウムイオン電池では、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、γ−ブチロラクトンなどの環状エステルと、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、プロピオン酸メチルなどの鎖状エステルとの混合溶媒にLiPFなどのリチウム塩を溶解したものが挙げられる。また、非水電解液に炭素−炭素不飽和結合を有する化合物を添加することや、水素がフッ素で置換されたエチレンカーボネート(たとえば、特許文献1、2参照)を含有することにより、電池の充放電サイクル特性が向上することも報告されている。これらの従来技術で充放電サイクル特性が向上するのは、負極に対する非水電解液の電気化学的安定性が向上するためと考えられる。
【0006】
ところで、最近の携帯型機器の目覚しい高機能化に伴い、従来のリチウムイオン電池よりもさらにエネルギー密度の高い電池が強く求められている。このような電池としては、たとえば、リチウムと化合物または固溶体を形成しうる周期律表12(IIB)族、13(IIIB)族、14(IVB)族および15(VB)族から選ばれ、充電などの際に電気化学的にリチウムと合金化する元素を含有する負極活物質を使用したリチウム電池(以後「合金系リチウム二次電池」と称す)が提案されている(たとえば、非特許文献1参照)。この負極活物質は、従来のリチウムイオン電池の負極活物質である炭素材料に比べ、単位体積あたりのリチウム吸蔵量を格段に多くできるので、電池のエネルギー密度を大幅に向上させることができる。しかしながら、この負極活物質は、充放電による体積変化(リチウムの吸蔵による膨張/放出による収縮)が大きく、その際に非水電解液を分解する活性な面が非水電解液に接触する表面に現れやすいので、非水電解液が還元電気分解され、電池の充放電サイクルに伴う容量低下が大きくなる虞がある。
【0007】
合金系リチウム二次電池の充放電サイクルに伴う容量低下を抑制するために、リチウムイオン電池における容量低下を抑制する手法を適用することが試みられている。たとえば、環状炭酸エステルと鎖状炭酸エステルとを基本成分とし、環状炭酸エステルとしてエチレンカーボネートとビニレンカーボネートとを用い、かつ鎖状炭酸エステルとしてジエチルカーボネートを用いた非水溶媒を含む非水電解液を、合金系リチウム二次電池用非水電解液に用いることが提案されている(たとえば、特許文献3参照)。しかしながら、この手法を用いても、リチウムイオン電池における容量低下の抑制効果と同等レベルの抑制効果は得られない。
【0008】
さらに、合金系リチウム二次電池において、電解質に含まれる非水溶媒として、エチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネートなどの環状カーボネートと、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどの鎖状カーボネートとを併用することが提案されている(たとえば、特許文献4参照)。そして、実施例のサンプル3には、エチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ジメチルカーボネートおよびLiPFを20:10:58.5:11.5(体積比)の割合で含む非水電解液が記載されている。しかしながら、特許文献4において、サンプル3の非水電解液と組合せて用いられる負極活物質は80重量%Cu−20重量%Siのみであり、サンプル3の非水電解液と他の負極活物質とを組合せて用いた場合に得られる効果については具体的な記載はない。
【0009】
一方、負極活物質として非晶質シリコンまたは微結晶シリコンを用いるリチウム二次電池が提案されている(たとえば、特許文献5参照)。しなしながら、このリチウム二次電池で負極活物質と組合せて用いられる非水電解液の非水溶媒はエチレンカーボネートなどの環状カーボネートとジメチルカーボネートなどの鎖状カーボネートとの混合溶媒であり、フルオロエチレンカーボネートの使用するとの記載はない。
【0010】
加えて、特許文献1〜5および非特許文献1には、充放電サイクルに伴う容量低下を鑑みて、負極活物質の放電終了時の体積を基準とする満充電時の体積膨張率を特定の範囲とすることについては一切記載がない。
【0011】
【特許文献1】特開昭62−290072号公報
【特許文献2】特許公表2001−501355号公報
【特許文献3】国際公開第02/058182号パンフレット
【特許文献4】特開2004−047131号公報
【特許文献5】特開2002−083594号公報
【非特許文献1】Solid State Ionics,113−115,p57(1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、充放電サイクルに伴う容量低下が著しく少なく、高エネルギー密度のリチウム二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、充放電サイクルに伴う容量低下が少なくかつ高エネルギー密度のリチウム二次電池を得るために、負極活物質がリチウムと化合物または固溶体を形成し得る元素を含有するリチウム二次電池について鋭意検討を行った。その過程で、種々の検討事項の中から特に負極活物質の体積膨張率および非水電解液の組成という2つの点に着目し、これらの点を適宜組合せて選択する場合には、所望のリチウム二次電池が得られることを見出した。
【0014】
すなわち、前述のような負極活物質を用いるリチウム二次電池を高エネルギー密度化するには、該負極活物質の利用率をできる限り高める必要があるけれども、利用率を高めるほど、該負極活物質の放電状態に対する充電状態の体積膨張率が大きくなる。特に、該負極活物質の体積膨張率が50%以上になるように電池中の負極活物質と正極活物質の含有量比もしくは電池の充放電条件を設定した場合に、充放電サイクルに伴って容量が顕著に低下する。ところが、前記のような負極活物質と正極活物質の含有量比もしくは充放電条件の設定でも、特定の組成を有する非水電解液用非水溶媒を用いることによって、容量低下を大幅に抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
本発明は、非水電解液、リチウムおよび/またはリチウム含有化合物を含む正極活物質を有する正極並びに負極活物質を有する負極を含むリチウム二次電池であって、負極活物質が、リチウムと化合物もしくは固溶体を形成し得る元素(a1)、当該元素(a1)を含む合金(a2)または当該元素(a1)を含む化合物(a3)の少なくとも1種を含み、負極活物質の放電状態に対する充電状態の体積膨張率が50%以上であり、且つ、非水電解液が、フッ素化エチレンカーボネート(b1)、水素、酸素および炭素のみからなる炭酸エステル(b2)並びにリチウム塩(b3)を含有し、フッ素化エチレンカーボネート(b1)の含有量が非水電解液全量の2重量%以上であることを特徴とするリチウム二次電池である。
【0016】
また本発明のリチウム二次電池は、負極活物質の放電状態に対する充電状態の体積膨張率が150〜300%(150%以上、300%以下)であることを特徴とする。
【0017】
さらに本発明のリチウム二次電池は、フッ素化エチレンカーボネート(b1)の含有量が非水電解液全量の5〜50重量%(5重量%以上、50重量%以下)であることを特徴とする。
【0018】
さらに本発明のリチウム二次電池は、フッ素化エチレンカーボネート(b1)がフルオロエチレンカーボネートであることを特徴とする。
【0019】
さらに本発明のリチウム二次電池は、リチウムと化合物もしくは固溶体を形成し得る元素(a1)がSi、SnまたはGeの1種以上であることを特徴とする。
【0020】
さらに本発明のリチウム二次電池は、負極活物質が、リチウムと化合物もしくは固溶体を形成し得る元素(a1)を含有し、該元素(a1)がSi、SnまたはGeの1種以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明のリチウム二次電池は、合金系負極活物質の利用率を高め、該負極物質の放電状態に対する充填状態の体積膨張率を50%以上にして高エネルギー密度化を図っているにもかかわらず、充放電サイクルに伴う容量低下が非常に少ない。したがって本発明のリチウム二次電池は、高エネルギー密度を有し、充放電サイクルを繰り返しても容量低下がほとんどない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明のリチウム二次電池は、非水電解液と、負極と、正極とを含む。
[非水電解液]
本発明で使用される非水電解液は、水素の一部または全部がフッ素で置換されたエチレンカーボネートであるフッ素化エチレンカーボネート(b1)(以後特に断らない限り単に「フッ素化エチレンカーボネート(b1)」と称す)と、水素と酸素と炭素のみからなる炭酸エステル(b2)(以後特に断らない限り単に「炭酸エステル(b2)」と称す)と、リチウム塩(b3)とを含有し、フッ素化エチレンカーボネート(b1)の含有量が非水電解液全量に対して2重量%以上である。
【0023】
〔フッ素化エチレンカーボネート(b1)〕
フッ素化エチレンカーボネート(b1)としては公知のものを使用でき、たとえば、4−フルオロエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロエチレンカーボネート、4,4,5−トリフルオロエチレンカーボネート、4,4,5,5−テトラフルオロエチレンカーボネートなどの、エチレンカーボネートにおいて1〜4個の水素がフッ素により置換されたフッ素化エチレンカーボネートが挙げられる。これらの中でも、4−フルオロエチレンカーボネートが最も望ましい。フッ素化エチレンカーボネート(b1)は、1種を単独で使用でき、または2種以上を併用できる。
【0024】
〔水素と酸素と炭素のみからなる炭酸エステル(b2)〕
炭酸エステル(b2)としても公知のものを使用でき、たとえば、環状構造の炭酸エステル、鎖状構造の炭酸エステル、これらの2種以上の混合物などが挙げられる。非水電解液のイオン伝導度を向上させる観点からは、環状構造の炭酸エステルと鎖状構造の炭酸エステルとを同時に含有する事が好ましい。また、非水電解液の負極での耐還元性を高める観点では、炭素−炭素不飽和結合を有する環状の炭酸エステルを含有する事が望ましい。
【0025】
環状構造の炭酸エステルは、たとえば、リチウム塩の解離度を向上する事により非水電解液のイオン導電性を向上させ、また、負極での非水電解液の耐還元性を向上させる。環状構造の炭酸エステルとしては、たとえば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、1,2−ペンテンカーボネート、1,2−ヘキセンカーボネート、1,2−ヘプテンカーボネート、1,2−オクテンカーボネート、1,2−ノネンカーボネート、1,2−デセンカーボネート、1,2−ドデセンカーボネート、5,6−ドデセンカーボネートなどが挙げられる。これらのうち、非水電解液のイオン伝導度を一層向上させる観点ではエチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどが望ましい。さらに、非水電解液の還元安定性の観点では、エチレンカーボネートが最も望ましいが、エチレンカーボネートは低温で凝固しやすいので、電池を特に低温で使用する事を想定した場合にエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートを併用して使用することが望ましい。環状構造の炭酸エステルを含有させる場合、その配合量は特に制限はないが、好ましくは炭酸エステル(b2)全量の10重量%以上、さらに好ましくは20重量%以上、特に好ましくは30重量%以上である。
【0026】
鎖状構造の炭酸エステルは、たとえば、非水電解液の粘性を低下させ、それによってリチウムイオンの移動度を高めてイオン伝導性を向上させ、また、非水電解液のセパレータへの濡れ性を高めかつ粘性を低め、非水電解液の電池への注液性を向上させる。鎖状構造の炭酸エステルとしては、たとえば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジペンチルカーボネート、ジヘキシルカーボネート、ジオクチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、メチルペンチルカーボネート、メチルヘキシルカーボネート、メチルオクチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、エチルブチルカーボネート、エチルペンチルカーボネート、エチルヘキシルカーボネート、エチルオクチルカーボネートなどが挙げられる。これらのうち、非水電解液中の粘度を低下させてイオン伝導度を向上させる観点では、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネートなどが最も望ましい。さらに、非水電解液の還元安定性の観点ではジエチルカーボネートが望ましい。鎖状構造の炭酸エステルを含有させる場合、その配合量は、好ましくは炭酸エステル(b2)全量の90重量%以下、さらに好ましくは80重量%以下、特に好ましくは70重量%以下である。
【0027】
環状構造の炭酸エステルと鎖状構造の炭酸エステルを同時に含有する場合の配合重量比は特に制限はないが、好ましくは、環状構造:鎖状構造=9:1〜1:9、さらに好ましくは8:2〜2:8、特に好ましくは7:3〜3:7である。非水電解液の耐還元性を高める観点では、環状構造の炭酸エステルの配合量が多い事が望ましいが、イオン伝導度を向上しセパレータへの濡れ性を向上する観点からは鎖状構造の炭酸エステルを含有する事が好ましい。
【0028】
炭素−炭素不飽和結合を有する環状構造の炭酸エステルは、たとえば、負極での非水電解液の耐還元性を高め、充放電サイクルに伴う容量低下を抑制するので含有する事が望ましい。炭素−炭素不飽和結合を有する炭酸エステルとしては、たとえば、ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、ジメチルビニレンカーボネート、フェニルビニレンカーボネート、ジフェニルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、ジエチルビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、1,2−ジビニルエチレンカーボネート、1−メチル−1−ビニルエチレンカーボネート、1−メチル−2−ビニルエチレンカーボネート、1−エチル−1−ビニルエチレンカーボネート、1−エチル−2−ビニルエチレンカーボネート、ビニルビニレンカーボネート、アリルエチレンカーボネート、ビニルオキシメチルエチレンカーボネート、アリルオキシメチルエチレンカーボネート、アクリルオキシメチルエチレンカーボネート、メタクリルオキシメチルエチレンカーボネート、エチニルエチレンカーボネート、プロパルギルエチレンカーボネート、エチニルオキシメチルエチレンカーボネート、プロパルギルオキシエチレンカーボネート、メチレンエチレンカーボネート、1,1−ジメチル−2−メチレンエチレンカーボネート、およびこれらの2種以上の混合物などが挙げられる。これらのうち、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、ジビニルエチレンカーボネートなどが最も望ましい。炭素−炭素不飽和結合を有する炭酸エステルを含有させる場合、その配合量は、好ましくは炭酸エステル(b2)全量の5重量%以下、さらに好ましくは0.1〜3重量%(0.1重量%以上、3重量%以下)である。
【0029】
〔リチウム塩(b3)〕
リチウム塩(b3)としては、この分野で常用されるものを使用でき、たとえば、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiSiF、LiOSO(2k+1)(k=1〜8の整数)、LiN(SO(2k+1)(k=1〜8の整数)、LiPF(C(2k+1)(6−n)(n=1〜5、k=1〜8の整数)、LiBF(C(2k+1)(4−n)(n=1〜3、k=1〜8の整数)などが挙げられる。また、次の一般式で示されるリチウム塩も使用することができる。LiC(SO11)(SO12)(SO13)、LiN(SOOR14)(SOOR15)、LiN(SO16)(SOOR17)、LiN(SO16)(SOF)、LiN(SOF)(ここで、R11〜R17は、互いに同一であっても異なっていてもよく、炭素数1〜8のパーフルオロアルキル基である)。リチウム塩は1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。
【0030】
これらのリチウム塩の中でも、非水電解液のイオン伝導性の観点から、LiPF、LiBF、LiN(SOCF、LiN(SOが好ましく、LiPFが最も望ましい。また、非水電解液の電気化学的安定性の観点からは、LiPFを単独で使用するか、LiPFとLiBF、LiPFとLiN(SOCF、LiPFとLiN(SOの組み合わせで混合して使用することが望ましい。
【0031】
〔必須成分の配合量〕
本発明の非水電解液における上記必須成分の含有量は特に制限されず、適宜選択可能である。
【0032】
フッ素化エチレンカーボネート(b1)の含有量は、非水電解液全量の2重量%以上、好ましくは5〜50重量%(5重量%以上、50重量%以下)、さらに好ましくは7〜50重量%(7重量%以上、50重量%以下)、特に好ましくは10〜50重量%(10重量%以上、50重量%以下)である。フッ素化エチレンカーボネート(b1)の含有量が多いほど、充放電サイクルに伴う容量低下が抑制されるが、十分にこの効果を発揮するには10重量%以上含有される事が最も好ましい。フッ素化エチレンカーボネート(b1)の含有量が2重量%未満では、その添加効果が充分に発揮されない。また、含有量が50重量%を超えても勿論差し支えはないが、50重量%を超えると効果が飽和する事、また、非水電解液のイオン伝導性、融点などを考慮し、各種性能をいずれも高水準で併せ持つように設計することを考慮すると、50重量%以下にするのが好ましい。
【0033】
リチウム塩(b3)は、通常この分野で使用される範囲で非水電解液に含有されていれば良く、1〜50重量%(1重量%以上、50重量%以下)、好ましくは1〜40重量%(1重量%以上、40重量%以下)、さらに好ましくは4〜30重量%(4重量%以上、30重量%以下)、特に好ましくは5〜20重量%(5重量%以上、20重量%以下)の濃度で非水電解液中に溶解される。
【0034】
水素と酸素と炭素のみからなる炭酸エステル(b2)の含有量は、非水電解液全量の1重量%以上、好ましくは10〜94重量%(10重量%以上、94重量%以下)、さらに好ましくは20〜89重量%(20重量%以上、89重量%以下)、特に好ましくは30〜85重量%(30重量%以上、85重量%以下)の範囲の中から選択するのがよい。
【0035】
〔他の成分〕
本発明の非水電解液は、本発明のリチウム二次電池の好ましい特性を損なわない範囲で、上記以外の非水溶媒の適量を含有することができる。上記以外の非水溶媒としては公知のものを使用でき、たとえば、リン酸エステル類、エーテル類、カルバメート類、アミド類、スルホン類、スルホン酸エステル類、カルボン酸エステル類、芳香族化合物類などが挙げられる。ただし、本発明のような合金系リチウム二次電池の場合、これらの非水溶媒の添加によって充放電サイクル特性が低下し易いので、何らかの理由によりこれらの非水溶媒の1種または2種以上を含有させる場合、含有量を極力少なくする事が望まれる。
【0036】
[負極]
本発明のリチウム二次電池において、負極は負極集電体と負極活物質層とを含む。
【0037】
負極の具体例としては、たとえば、負極集電体の表面または負極集電体中に負極活物質層が形成されたものである。負極活物質層は、たとえば、負極活物質粒子と導電剤等をポリフッ化ビニリデンなどのバインダーで成型しシート状、フィルム状にしたもの、負極活物質粒子を金属シート中に包埋してシート状、フィルム状にしたもの、負極活物質そのものを薄膜状にしたものなどが挙げられる。負極活物質粒子としては、負極活物質を金属粒子や炭素粒子の中に包埋、もしくは表面に担持して、粒子状にしたような物も含められる。以上のような任意の形状に負極活物質層は形成されるが、充放電サイクルその他の各種電池特性の向上を図る上では、薄膜状に形成するのが好ましい。
【0038】
負極集電体としてはこの分野で常用されるものを使用でき、その中でも、負極活物質層の薄膜との密着性に優れるものが好ましく、たとえば、銅、ニッケル、チタン、鉄、ステンレス鋼、モリブデン、コバルト、クロム、タングステン、タンタル、銀などが挙げられる。これらの中でも、たとえば銅などの、リチウムと合金化しないものがさらに好ましい。負極集電体は、金属箔、エキスパンドメタルなどの形態で用いるのが好ましい。
【0039】
負極活物質層は、リチウムと化合物または固溶体を形成し得る元素(a1)、当該元素(a1)を含む合金(a2)および当該元素(a1)を含む化合物(a3)から選ばれる少なくとも1種を含む負極活物質を含有する。この負極活物質は、たとえば、電池の高エネルギー密度化を図るために使用される。本発明で用いられる負極活物質は従来の主要な負極活物質である炭素材料に比べて、単位体積当りのリチウム吸蔵量を格段に多くできるので、電池中の負極の占める体積を大幅に減ずる事ができ、電池のエネルギー密度を高めることができる。
【0040】
負極活物質が含むリチウムと化合物または固溶体を形成し得る元素(a1)の具体例としては、たとえば、Zn、Cd、Hgなどの周期律表12族元素、Al、Ga、In、Tlなどの周期律表13族元素、Si、Ge、Sn、Pbなどの周期律表14族元素およびAs、Sb、Biなどの周期律表15族元素などが挙げられ、負極活物質はこれら元素を含む合金(a2)或いは化合物(a3)であってもよい。ここで当該元素(a1)を含む化合物(a3)には、酸化物、硫化物などが挙げられる。これらの中でも、リチウム貯蔵能、環境適合性、初回充電時における低電気消費量などを考慮すると、リチウムと化合物または固溶体を形成し得る元素(a1)の単体が好ましい。当該元素(a1)を含む化合物(a3)は、通常、初回充電時に不可逆な還元電流を多量に消費するために、リチウム電池のエネルギー密度を高めにくい場合がある。また、当該元素(a1)を含む合金(a3)は、リチウムの貯蔵に関与しない当該元素(a1)以外の合金成分が含まれているために、リチウム電池のエネルギー密度を高めにくい場合がある。当該元素(a1)としては、周期律表14族元素がさらに好ましく、Si、GeおよびSnから選ばれる少なくとも1種が一層好ましく、Siが特に好ましい。Siは結晶性の違いにより、非晶質シリコン、微結晶シリコン、多結晶シリコンおよび単結晶シリコンに大別される。これらは、機器分析的にも明確に区別され、たとえば、ラマン分光分析によれば、非晶質シリコンは結晶領域に対応する520cm−1近傍のピークが実質的に検出されず、微結晶シリコンは結晶領域に対応する520cm−1近傍のピークと非晶質領域に対応する480cm−1近傍のピークとが実質的に検出されるものである。これに対し、多結晶シリコンおよび単結晶シリコンは、非晶質領域に対応する480cm−1近傍のピークが実質的に検出されない点で、非晶質および微結晶シリコンとは異なる結晶構造を有する物質であることが明らかである。各種結晶構造のシリコンの中でも、非晶質シリコンおよび微結晶シリコンが好ましい。
【0041】
リチウムと化合物または固溶体を形成し得る元素(a1)、当該元素(a1)の合金(a2)又は当該元素(a1)を含む化合物(a3)の少なくとも1種を含む負極活物質は、用途に応じて1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。
【0042】
負極活物質の表面には、リチウムイオン伝導性固体電解質、炭素材料、金属などを被覆してもよい。また、リチウムイオン伝導性固体電解質、炭素材料、金属粒子などの中に負極活物質を分散させるなどのように、複合化された形態を採ってもよい。
【0043】
本発明では、たとえば、電池の充放電サイクル特性をさらに向上させるために、負極活物質とともに、リチウムと合金化しない金属を使用できる。すなわち、負極活物質層に、負極活物質およびリチウムと合金化しない金属を含有させることによって、充放電時における負極活物質層の膨張および収縮が制限されるので、充放電特性を向上させることができる。この構成は、特開2002−373647号公報に記載されている。しかしながら、充放電に寄与しないリチウムと合金化しない金属を含有させると、電池のエネルギー密度を低下させる事になるので、負極活物質は、元素の形態で存在させる事が望ましい。ここで、元素の形態とは、負極活物質の元素単体が90重量%以上含まれる状態を示すものとし、例えば、強度向上、安定性向上等を目的とした不純物元素をドーピングした状態も含めるものとする。
【0044】
リチウムと合金化しない金属とは、リチウムと固溶体、金属間化合物などの合金を形成しない金属であり、具体的には、リチウムとの二元状態図で合金状態が存在しない金属である。リチウムと合金化しない金属の具体例としては、たとえば、Cu、Fe、Ni、Co、Mo、W、Ta、Mnなどが挙げられる。さらに、リチウムと合金化しない金属は、リチウムと合金化する金属と金属間化合物を形成する金属であることが好ましい。ここで、金属間化合物とは、金属元素同士が特定の比率で化合した特定の結晶構造を有する化合物をいう。負極活物質がSnである場合、リチウムと合金化しない金属はSnと金属間化合物を形成する金属であることが好ましい。このような金属としては、たとえば、Ti、Mn、Fe、Ni、Co、Cu、Zr、Moなどが挙げられる。これらの金属は1種が単独で含まれてもよいしまたは2種以上が含まれてもよい。これらの中でも、Fe、Co、Niなどが好ましく、Coが特に好ましい。ただし、これらの金属を含む負極活物質層は、これらの金属の金属間化合物を含まなくてもよい。したがって、該負極活物質層は結晶性である必要はなく、たとえば、アモルファス、不定比の化合物などでもよい。
【0045】
リチウムと合金化しない金属の使用量は特に制限はないが、負極活物質に対して、モル比(原子比)として通常50%以下、好ましくは0.1〜50%(0.1%以上、50%以下)、より好ましくは1〜40%(1%以上、40%以下)である。50%を大幅に超えると、負極活物質の量が相対的に減少し、それに伴って得られるリチウム二次電池の充放電容量が低下するおそれがある。また、0.1%未満では、リチウムと合金化しない金属を使用する効果が充分に発揮されないおそれがある。
【0046】
負極集電体の表面に、前述の負極活物質または負極活物質およびリチウムと合金化しない金属を含む薄膜を形成するに際しては、一般的な金属薄膜の形成方法が採用できる。金属薄膜の形成方法としては、たとえば、合金系負極活物質をバインダーなどで接着する方法、電解めっき、無電解めっきなどの電気化学的な方法、CVD法、スパッタリング法、真空蒸着法、溶射法などの物理化学的な方法などが挙げられる。合金系負極活物質の物理化学的な性質、プロセスコストなどに応じて、これらの方法から適宜選択すればよい。たとえば、合金系負極活物質がSnである場合は、めっき法で形成することが好ましい。負極活物質がSiである場合は、スパッタリング法、CVD法などで形成することが好ましい。また、負極活物質およびリチウムと合金化しない金属を含む薄膜(合金薄膜)を形成する場合には、電気化学的な方法および物理化学的な方法のいずれをも、好ましく採用できる。負極の体積あたりのエネルギー密度を高めることを考慮すると、負極活物質をバインダーなどで接着する方法よりも、一般的な金属薄膜の形成方法を採用するのが好ましい。これにより、バインダーなどが不要になるとともに、充填密度を極限まで高めることができるので、高エネルギー密度化に有効である。
【0047】
このようにして負極集電体の表面に形成される負極活物質層である薄膜には、負極集電体の成分が拡散していることが好ましい。これによって、負極集電体と薄膜との密着性を高めることができる。負極集電体成分として、たとえば、銅などのリチウムと合金化しない元素が拡散する場合、その拡散領域において、リチウムとの合金化が抑制されるため、充放電反応に伴う薄膜の膨張・収縮、ひいては薄膜の負極集電体からの剥離を生じさせるような応力の発生を抑制できる。薄膜内に拡散する負極集電体成分の濃度は、薄膜の厚み方向において、負極集電体に近づくほど高くなり、負極集電体から遠ざかるほど減少するような濃度勾配を有することが好ましい。これにより、充放電反応に伴う薄膜内における膨張・収縮の抑制が、負極集電体に近づくほど強く働くため、薄膜を負極集電体から剥離させる応力が負極集電体近傍で発生するのを抑制するのが容易になる。また、負極集電体から遠ざかるほど、負極集電体成分の濃度が減少することによって、高い充放電容量を維持することができる。薄膜に拡散する負極集電体成分は、薄膜中において、薄膜成分と金属間化合物を形成せずに、固溶体を形成するものが好ましい。これにより、薄膜と負極集電体との密着状態がさらに良好になり、一層高い充放電容量を得ることができる。
【0048】
負極集電体の表面に形成される負極活物質層である薄膜には、不純物がドープされてもよい。このような不純物としては、たとえば、P、Al、As、Sb、B、Ga、In、O、N、C、Si、Geなどの周期律表第13〜16族元素が挙げられる。
【0049】
負極集電体の表面に形成される負極活物質層である薄膜は、複数の層を積層して形成されたものでもよい。積層された各層における組成、結晶性、不純物濃度などは異なっていてもよい。また、薄膜の厚み方向に傾斜構造(傾斜界面)を有するものであってもよい。たとえば、組成、結晶性、不純物濃度などを厚み方向に変化させた傾斜構造とすることができる。
【0050】
負極集電体の表面に形成される負極活物質層である薄膜には、予めリチウムが吸蔵または添加されてもよい。リチウムは、薄膜を形成する際に添加してもよい。また、薄膜を形成した後に、リチウムが、たとえば電気化学的に吸蔵または添加されてもよい。
【0051】
負極集電体の表面に形成される負極活物質層である薄膜の厚みは特に制限されず、得ようとする電池の設定性能などに応じて広い範囲から適宜選択されるけれども、たとえば、充放電容量などを考慮すると、1〜20μm(1μm以上、20μm以下)程度である。
【0052】
負極活物質層には、充放電サイクルなどによる負極活物質の膨張収縮に基因して、負極活物質層内部で歪みが生じるのを防止し、かつ、負極活物質の微粉化および負極集電体からの剥離を抑制するために、負極活物質層の層厚方向の切れ目を形成するのが好ましい。
【0053】
負極活物質層に層厚方向の切れ目を形成するには、種々の方法を採用できる。たとえば、負極集電体の表面に凹凸を形成すればよい。表面に凹凸を有する負極集電体の表面に負極活物質層を形成すると、負極活物質層は負極集電体の表面形状に沿って形成されるため、負極活物質層にも凹凸が形成される。特に、負極活物質層がSn、SiおよびGeの1種以上の元素を含有する薄膜に形成される場合には、その傾向が顕著である。この状態で、負極活物質層を膨張収縮させると、負極集電体表面の凹凸の谷部と負極活物質層表面の凹凸の谷部とを結ぶ線で負極活物質層の厚み方向に切れ目が形成されて凹凸の程度が大きくなるとともに、この切れ目によって負極活物質層が複数の柱状片に分離される。このように、切れ目は負極集電体表面の凹凸に沿って形成されるが、負極活物質層中に予め形成される低密度領域に沿って形成されてもよい。このような低密度領域は、負極集電体表面の凹凸の谷部から負極活物質層の厚み方向に伸び、かつ負極活物質層表面ではたとえば柱状などの形状を有するように形成される。負極活物質層の厚み方向に切れ目が形成されると、この切れ目によって低密度領域は柱状に分離され、該柱状部分はその底部が負極集電体に密着する。
【0054】
負極活物質層を膨張収縮させる方法の具体例としては、たとえば、電池を組み立てる前に負極活物質層にリチウムなどを吸蔵させた後、放出させる方法、電池組み立て後の充放電などが挙げられる。さらに、負極活物質層を膨張収縮させる以外にも、負極集電体の表面に負極活物質層を形成する際に、フォトリソグラフィーなどによりパターニングしたレジスト膜などを用いることによっても切れ目を形成できる。
【0055】
このような切れ目は通常0.05〜10μm程度の幅を有し、切れ目で分断された負極活物質層は0.5〜100μm程度の幅を有する。切れ目によって分断された負極活物質層は負極集電体の全面を覆っている事が望ましい。また、切れ目は、負極活物質層の1方向だけでなく、複数の方向に形成され、負極活物質は柱状に分断されている事が望ましい。もっとも好ましい構造は、0.1〜5μmの幅の切れ目によって、負極活物質層が幅1〜30μm×1〜30μm程度の柱状構造に分断され、かつ、該柱状構造の負極活物質が負極集電体の全面を均一に覆った構造である。
【0056】
負極集電体上の負極活物質層に切れ目が形成されたことは、たとえば、該負極活物質層の顕微鏡像によって確認できる。顕微鏡像により、負極活物質層が前述の柱状構造に分断され、さらに、切れ目および柱状構造が、負極集電体の表面の凹凸に沿ってほぼ均一に形成されている事を確認できれば、負極活物質層の膨張収縮を吸収するのに充分な切れ目が形成されたことが判る。
【0057】
また切れ目によって形成される柱状部分は、角柱状、円柱状、楕円柱状などいずれでもよく、柱状構造の膨張収縮応力を均一に緩和するために、円柱状である事が好ましい。また、4角錐状、6角錐状、台形状、円錐状などの形状になることもある。
【0058】
本発明の負極において、負極活物質層が柱状などに分離され、その分離された個々の負極活物質層の薄膜の周囲に空間が設けられる場合には、負極活物質層の薄膜が充放電反応の際に膨張・収縮しても、体積変化をその周囲の空間部分で吸収できる。したがって、負極活物質層の薄膜内部で歪みを生じることがなく、負極活物質の微粉化および負極集電体からの剥離を抑制できる。このように、負極活物質の微粉化による非水電解液の分解活性の増加を抑制できるので、さらに膨れが起こり難く、充放電サイクル試験後の自己放電が少ないリチウム二次電池を得ることができる。切れ目を形成する負極活物質層を構成する負極活物質としては、Sn、SiおよびGeの1種以上を含むことが特に好ましい。
【0059】
前述のように、負極集電体の表面は、凹凸などが形成されて粗面化されていることが好ましい。これにより、前述のように、活物質薄膜がその厚み方向に柱状に分離され、該柱状部分の低部が負極集電体と密着している構造になりやすくなる。その結果、負極活物質がリチウムの吸蔵・放出に伴って微粉化し、集電体から脱落するのを抑制することができる。負極集電体表面の凹凸の程度を表わす指標としては、たとえば、表面粗さ(中心線平均粗さRa)が挙げられる。表面粗さは、日本工業規格(JIS B 0601−1994)に定められており、たとえば表面粗さ計により測定することができる。本発明では、負極集電体の表面粗さを0.01〜2μm(0.01μm以上、2μm以下)の範囲から選択するのが好ましく、0.01〜1μm(0.01μm以上1μm以下)の範囲から選択するのがさらに好ましい。表面粗さが2μmを超える金属箔は一般に入手しにくい。また、表面粗さが0.01μm未満では、凹凸の形成による効果が充分に得られないおそれがある。表面粗さが前述の範囲にある負極集電体としては、たとえば、電解銅箔などが挙げられる。電解銅箔は、たとえば、銅イオンを含む非水電解液中に金属製ドラムを浸漬し、これを回転させながら通電することにより、ドラム表面に銅を析出させ、析出した銅をドラム表面から剥離して得られる銅箔である。電解銅箔の片面または両面には、さらに粗面化処理、表面処理などを施してもよい。また、圧延銅箔の表面に、電解法により銅を析出させ、粗面化した銅箔を用いることもできる。
【0060】
さらに、負極集電体の表面粗さRaは、負極活物質層の厚さtに対してRa≦tの関係を有することが好ましい。また、集電体の表面粗さRaと局部山頂の平均間隔Sは、100Ra≧Sの関係を有することが好ましい。局部山頂の平均間隔Sは、日本工業規格(JIS B 0601−1994)に定められており、たとえば表面粗さ計により測定することができる。
【0061】
負極集電体表面における凹凸の凸部の形状は、特に制限されないけれども、たとえば、錐状体であることが好ましい。凸部の先端部は、充放電反応における電流の集中を避けるために、丸みを帯びた形状であることが好ましい。
【0062】
また、電解ニッケル箔などの粗面化ニッケル箔の上に、銅層を形成した積層体、ニッケル箔表面に電解法により銅を析出させ、これによって表面を粗面化した積層体などを負極集電体として用いることもできる。粗面化ニッケル箔またはニッケル箔の表面に形成された銅層が、負極集電体と負極活物質層との中間層になり、銅が負極活物質層に拡散することによって、負極集電体と負極活物質層との密着性を高めることができる。
【0063】
さらに、負極集電体と負極活物質層との界面に、集電体成分と負極活物質層成分との混合層を形成してもよい。これによっても、集電体に対する負極活物質層の密着性を高めることができ、さらなるサイクル特性の向上を期待することができる。このような混合層は、集電体上に負極活物質層を形成した後、熱処理などを施すことにより形成することができる。熱処理の温度としては、負極活物質層の融点および集電体の融点よりも低い温度であることが好ましい。中間層の材料としては、負極活物質および/または集電体材料との間で合金、好ましくは固溶体を形成するような物質を適宜選択すればよい。
【0064】
[正極]
本発明のリチウム二次電池において、正極は正極活物質層と正極集電体とを含む。
【0065】
正極活物質としては、リチウムを電気化学的に挿入および脱離できる物質であれば特に制限なく使用でき、たとえば、LiCoO、LiNiO、LiMn、LiMnO、LiNiCo(1−x)、LiNiCoMn(1−x−y)などのリチウム含有遷移金属酸化物、MnOなどのリチウムを含有しない金属酸化物などが挙げられる。正極活物質は1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。
【0066】
正極集電体としても公知のものを使用でき、たとえば、Al、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、これらを含む合金などの、非水電解液中での陽極酸化によって表面に不動態被膜を形成する金属などが挙げられる。
【0067】
正極は、たとえば、イ)正極活物質と結着剤とを含む組成物を所望の形状に成形し、この成形物を正極集電体に接着し、必要に応じて加圧プレスを行うか、ロ)正極活物質と結着剤とを含む組成物にさらに溶媒を加えて正極合剤スラリーとし、このスラリーを正極集電体の片面に塗布して乾燥させ、必要に応じて加圧プレスを行うか、またはハ)正極活物質をロール成形、圧縮成形などによって所望の形状に成形することによって作製することができる。イ)の方法において、結着剤としてはこの分野で常用されるものを使用でき、たとえば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂、カルボキシメチルセルロース、セルロースなどのセルロース類、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、天然ゴムなどのラテックス類などが挙げられる。ロ)の方法において、結着剤としてはイ)の方法と同様のものを使用できる。溶媒としてはこの分野で常用されるものを使用でき、たとえば、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、N−メチルオキサゾリジノンなどが挙げられる。溶媒は1種を単独で使用できまたは必要に応じて2種以上を併用できる。
【0068】
なお、本発明のリチウム二次電池において、正極活物質の使用量は、たとえば、後述するように負極活物質の放電状態に対する充電状態の体積膨張率に基づいて適宜選択できる。
【0069】
[セパレータ]
セパレータは正極と負極とを電気的に絶縁し、かつリチウムイオンを透過する膜であって、多孔性膜、不織布膜、高分子電解質などが使用できる。多孔性膜としては微多孔性高分子フィルムが好ましく、その材質はポリオレフィン、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデン、ポリエステルなどである。多孔性ポリオレフィンフィルムが特に好ましく、その具体例としては、多孔性ポリエチレンフィルム、多孔性ポリプロピレンフィルム、多孔性のポリエチレンフィルムとポリプロピレンとの多層フィルムなどが挙げられる。多孔性ポリオレフィンフィルム上には、熱安定性に優れる他の樹脂がコーティングされていてもよい。高分子電解質としては、リチウム塩を溶解した高分子、非水電解液で膨潤させた高分子などが挙げられる。
【0070】
[リチウム二次電池]
本発明のリチウム二次電池は、前述の非水電解液および負極を使用してなるものである。その他の構成については、従来のリチウム二次電池と同じ構成を採ることができる。
【0071】
本発明のリチウム二次電池においては、負極活物質の放電状態に対する放電状態に対する充電状態の体積膨張率は、50%以上、好ましくは60%以上、さらに好ましくは100%以上、最も望ましくは150%以上である。「負極活物質の放電状態に対する放電状態に対する充電状態の体積膨張率」とは、放電状態における負極活物質の体積に対する、放電状態から充電状態にしたときの負極活物質体積の増加量の割合(%)をいい(以後「負極活物質の放電状態に対する充電状態の体積膨張率」または単に「負極活物質の体積膨張率」と称する)、負極活物質の体積膨張率が50%未満の場合は、エネルギー密度の向上が小さく留まるのに加えて、前述の非水電解液による効果が現れない。得られるリチウム二次電池の高エネルギー密度化を図る上では、負極活物質の体積膨張率が50%以上、さらには100%以上、最も望ましくは150%以上とするのが好ましい。これによって、負極活物質中へのリチウム貯蔵量、ひいては電池のエネルギー密度を高める事ができる。また、前述の非水電解液の効果を発揮する観点では、負極活物質の体積膨張率が50%以上、さらには60%以上、望ましくは100%以上、最も望ましくは150%以上の場合に、より大きな効果が得られる。負極活物質の体積膨張率が50%以上の場合に、前述の非水電解液の効果が得られる理由は明確ではないが、以下のように推測している。リチウムと化合物または固溶体を形成し得る元素(a1)を含む負極活物質上において、体積膨張率が50%より小さい場合は、負極活物質上で電解液と負極活物質の電気化学的反応を防ぐ保護皮膜が安定であるが、50%以上の場合は、保護皮膜に多くの欠陥が生じ、負極活物質の活性面が露出されるようになるものと思われる。この活性面は、電解液の電気分解を引き起こし無駄に電気量を消費するにのみならず、理由は不明であるが負極活物質の膨張収縮に伴う微粉化を促進するものと思われる。このときに、非水電解液中にフッ素化エチレンカーボネート(b1)が特定量含有されていると、電解液の電気分解反応を最小限に抑制するとともに、負極活物質の微紛化を抑制するものと思われる。この効果は、フッ素化エチレンカーボネート(b1)により特異的に強固な表面保護皮膜が負極活物質表面に形成されるためと推測している。
【0072】
なお、負極活物質の放電状態に対する充電状態の体積膨張率の上限値は各元素によってそれぞれ異なるが、通常50〜300%(50%以上、300%以下)、好ましくは60〜300%(60%以上、300%以下)の範囲であり、電池のエネルギー密度とサイクル充放電特性を勘案し、適宜選択すればよい。例えば、負極活物質が、シリコンの場合は300%、スズの場合は260%、アルミニウムの場合は240%、アンチモンの場合は140%である。
【0073】
また、本発明における放電状態と充電状態とでの負極活物質の体積は、負極活物質におけるリチウム貯蔵量に基づく相対的な関係にあり、負極活物質の体積が小さいことは負極活物質における放電状態でのリチウム貯蔵量が、充電状態でのリチウム貯蔵量よりも少ないことを意味する。したがって、リチウム貯蔵量の関係を満たせば、充電状態および放電状態を任意に選択できる。
【0074】
負極活物質の放電状態に対する充電状態の体積膨張率を50%以上にするには、たとえば、電池中に充填される負極活物質と正極活物質の容量バランスを適宜設定する方法、充放電終了の設定電圧を適宜設定する方法などを採用できる。
【0075】
負極活物質の放電状態に対する充電状態の体積膨張率は、負極活物質へのリチウム貯蔵量と体積膨張率との関係から求められると考えられる。負極活物質がシリコンである場合を例に説明する。シリコンは、最大で9340mAh/mlのリチウムを貯蔵でき、SOC(充電度)=100%である。一方、シリコン単体でリチウムを全く貯蔵しない状態では、SOC(充電度)=0%となる。ここで、SOCとは“State of Charge”の略号であり、リチウムを最大に貯蔵した状態におけるSOC(充電度)を100とし、それを基準にしてリチウムの各貯蔵状態でのSOC(充電度)を100分率で表したものである。リチウムを全く貯蔵しない状態(SOC=0%)に対し、リチウムを最大に貯蔵した状態では、負極活物質の組成がLi21Siで、SOC=100%になり、リチウムを貯蔵したシリコンの体積は4.0倍(負極活物質の体積膨張率300%、シリコンに固有の値)になることが報告されている。また、シリコンのリチウム貯蔵量、SOCおよび負極活物質の体積膨張率はそれぞれほぼ比例関係にある。これらのことから、本発明で述べる負極活物質の放電状態に対する充電状態の体積膨張率(負極活物質の体積膨張率)(%)は次の式のように定義したものである。
【0076】
【数1】

【0077】
〔式中、Xは充電状態のSOC(%)を示す。Yは放電状態のSOC(%)を示す。「SOC100%」はSOCが100%の時の体積膨張率(%)を示す。〕
【0078】
シリコンの場合は、式(1)において、「SOC100%」=300(%)になる。たとえば、リチウムを全く貯蔵しないシリコンを放電状態(SOC=0%)とし、貯蔵可能量全量の20%のリチウムを貯蔵するシリコンを充電状態(SOC=20%)とすると、このときの負極活物質の体積膨張率(%)は、式(1)に各値を代入して求められる。
【0079】
【数2】

【0080】
反対に、リチウムを全く貯蔵しないシリコンを放電状態(SOC=0%)とし、体積膨張率99%時のシリコンを充電状態とする場合に、式(1)に各値を代入すると、X(充電状態のSOC)=33%であることが判る。
【0081】
【数3】

【0082】
さらに、充電状態のSOC=33%であるから、この時のリチウム貯蔵量=最大リチウム貯蔵量9340(mAh/ml)×33%=3082(mAh/ml)である。したがって、3082(mAh/ml)のリチウムをシリコンに吸蔵させれば、体積膨張率が99%になることが判る。
【0083】
リチウム二次電池において、負極へのリチウムの供給源は正極活物質であるため、前述のようにして計算した必要なリチウム量を負極活物質に供給できるように正極活物質の量を決めればよい。また、リチウムと遷移金属との複合酸化物を正極活物質に使用する場合、正極から負極に供給されるリチウム量は正極の充電後の電位で決定される。このため、あらかじめ充分量の正極活物質を充填したリチウム二次電池を作製し、電池の内部抵抗を勘案して、充電終了電圧と放電終了電圧とを適宜設定し、充電後および放電後の正極の電位を設定する事によっても、負極に供給するリチウム量を変更する事ができる。ただし、電池使用機器の充放電電圧は通常一定に設定されるため、リチウム二次電池中の正極活物質の量を調整する方が望ましい方法である。
【0084】
シリコン以外の負極活物質であっても、リチウムを最大に貯蔵した状態(SOC=100%)の時の体積膨張率を求めて、シリコンの場合と同様に計算する事で体積膨張率を求める事ができる。
【0085】
以上述べたように、たとえば、負極活物質の量、正極活物質の量または充放電電圧を設定し、負極活物質の放電状態に対する充電状態の体積膨張率を50%以上としたリチウム二次電池はエネルギー密度が大幅に高められる。従来の非水電解液を使用して作製した場合には、充放電サイクルに伴う容量低下が大幅に増加するが、前述の非水電解液を使用すると、充放電サイクルに伴う容量低下が大幅に抑制される。
【0086】
本発明のリチウム二次電池における電池形状は、任意の形状にすることができ、たとえば、円筒型、コイン型、角型、フィルム型などに形成される。しかしながら、電池の基本構造は形状に関係なく同じであり、目的に応じて設計変更を施すことができる。たとえば、円筒型の本発明のリチウム二次電池は、シート状の負極とシート状の正極とを、セパレータを介して巻回した巻回体に前述の非水電解液を含浸させ、この巻回体をその上下に絶縁板が載置されるように電池缶に収納した構成になっている。またコイン型の本発明のリチウム二次電池は、円盤状負極、セパレータおよび円盤状正極の積層体に、非水電解液が含浸され、必要に応じて、スペーサー板が挿入された状態で、コイン型電池缶に収納された構成になる。
【0087】
本発明のリチウム二次電池は、従来のリチウム二次電池と同様の用途に使用できる。たとえば、各種の民生用電子機器類、その中でも特に、携帯電話、モバイル、ラップトップ式パーソナルコンピュータ、カメラ、携帯用ビデオレコーダ、携帯用CDプレーヤ、携帯用MDプレーヤなどの電源として好適に使用できる。
【実施例】
【0088】
以下、実施例および比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこの実施例によって限定されるものではない。
【0089】
<Si負極の作製>
表面に電解法で銅を析出させることにより、表面に凹凸を形成した粗面化耐熱性銅合金(ジルコニウム銅合金)圧延箔(表面粗さRa=0.20μm、厚み30μm)の負極集電体上に、図1に示すスパッタリング装置1を用いて非晶質シリコン薄膜を堆積した。表1に詳細な非晶質シリコン薄膜堆積条件を示す。非晶質シリコン薄膜堆積手順は次の通りである。チャンバー2内を1×10−4Paまで真空排気3した後、アルゴン4をチャンバー2内に導入してガス圧力を安定させ、その状態でSiスパッタ源5にDCパルス電源6から直流パルスを印加してプラズマ7を発生させることにより、矢符8の方向に回転する負極集電体9上に非晶質シリコン薄膜を堆積させた。
【0090】
【表1】

【0091】
得られたシリコン薄膜について、ラマン分光分析を行ったところ、480cm−1近傍のピークは検出されたが、520cm−1近傍のピークは検出されなかった。このことから、得られたシリコン薄膜は非晶質シリコン薄膜であることが分かる。
【0092】
このシリコン薄膜を形成した負極集電体を、直径14mmφのコイン状に打ち抜き、100℃で2時間真空乾燥しコイン型負極とした。このコイン型負極は、シリコン元素が負極活物質である。
【0093】
なお、この負極を、金属リチウムを対極として1.5〜0Vで充放電させた時のリチウムの充放電容量は6.5mAhであった。これに対して、天然黒鉛を活物質とし同容量の負極とするには、80μmの厚みが必要であった。このことから、同じ容量の電池を作製する場合、負極の厚みを大幅に薄くできることが分かった。
【0094】
<正極の作製>
LiCoO(商品名:HLC−22、本荘FMCエナジーシステムズ(株)製)82部、黒鉛(導電剤)7部、アセチレンブラック(導電剤)3部およびポリフッ化ビニリデン(結着剤)8部を混合し、N−メチルピロリドン80部に分散させ、LiCoO合剤スラリーを調製した。このLiCoO合剤スラリーを厚さ20μmのアルミ箔に塗布乾燥しロールプレスした。これを直径13mmφに打ち抜いてコイン型正極とした。なお、このコイン型正極は、金属リチウムを対極として3.0〜4.3Vで充放電させたときのリチウムの充放電容量が4.5mAhであった。
【0095】
<非水電解液の調製>
表2に記載の組成比(重量%)で、エチレンカーボネート(略号EC/水素と酸素と炭素のみからなる環状の炭酸エステル)、ジエチルカーボネート(略号DEC/水素と酸素と炭素のみからなる鎖状の炭酸エステル)、ビニレンカーボネート(略号VC/水素と酸素と炭素のみからなる炭素−炭素不飽和結合を有する炭酸エステル)、4−フルオロエチレンカーボネート(略号FEC/フッ素化エチレンカーボネート)及びLiPF(リチウム塩)を混合してLiPFを溶解し、非水電解液No.1〜5を調製した。
【0096】
【表2】

【0097】
<コイン型電池の作製>
上述のようにして得られたコイン型負極とコイン型正極、および厚さ25ミクロン、直径16mmの微多孔性ポリプロピレンフィルムからできたセパレータを、ステンレス製の2032サイズ電池缶の負極缶内に、負極、セパレータ、正極の順序で積層した。その後、セパレータに非水電解液を30ul注入した後に、その積層体の上にアルミニウム製の板、およびバネを重ねた。最後に、ポリプロピレン製のガスケットを介して電池の正極缶を被せ、缶蓋をかしめる事によって電池内の気密性を保持し、直径20mm、高さ3.2mmのコイン型電池を得た。このコイン型電池について、下に示す初期充放電を行い、試験用電池とした。
【0098】
(初期充放電)
充電:0.5mA定電流で4.1Vまで充電し、以後、電流が0.1mAになるまで4.1Vの定電圧で充電した。
放電:0.5mAの定電流で2.8Vまで放電し、以後、電流が0.1mAになるまで2.8Vの定電圧で放電した。
以上を5サイクル繰り返す条件とした。
【0099】
<充放電サイクル試験>
以上のように作製した試験用電池について、1サイクル目に以下に示す容量確認サイクルを行い、引き続き2〜50サイクル目は以下に示す通常サイクルを行うことを1セットとして、このセットを6回繰り返し、最後にもう一度容量確認サイクルを行った。充放電サイクル特性の評価は、1サイクル目、100サイクル目および200サイクル目の容量確認サイクルの放電容量から、以下の式に従ってサイクル容量劣化率を算出し比較した。
サイクル容量劣化率(%/サイクル)
=(100サイクル目容量−200サイクル目容量)÷1サイクル目容量)
×100(%)÷100(サイクル数)
なお、通常サイクル時に設定した充電上限電圧、放電下限電圧は表3に示した。
【0100】
(容量確認サイクル)
充電:1mA定電流で4.1Vまで充電し、以後、電流が0.1mAになるまで4.1Vの定電圧で充電した。
放電:1mAの定電流で2.8Vまで放電し、以後、電流が0.1mAになるまで2.8Vの定電圧で放電した。
【0101】
(通常サイクル)
充電:2.5mA定電流で設定した充電上限電圧まで充電し、以後、電流が0.1mAになるまで設定電圧で充電しつづけた。
放電:2.5mAの定電流で設定した放電下限電圧になるまで放電した。
【0102】
<各設定電圧での負極活物質の放電状態に対する充電状態の体積膨張率の算出>
シリコン元素が負極活物質であるので、負極活物質の放電状態に対する充電状態の体積膨張率は、シリコンの放電状態に対する充電状態の体積膨張率(以下、「シリコンの体積膨張率」という。)を算出することにより求める。
【0103】
リチウムを貯蔵しないシリコン(充電前または放電状態、SOC=0%)の体積を1.0とすると、リチウムを最大限に貯蔵したシリコン(満充電状態、SOC=100%)の体積は4.0である事およびリチウムの貯蔵率が増加するのに比例してシリコンの体積膨張率が大きくなる事から、シリコンへの充電時および放電時のSOCが分かれば以下の式のように定義して、シリコンの体積膨張率を以下の式(1)から算出する事ができる。
【0104】
【数4】

【0105】
〔式中、Xは充電状態のSOC(%)を示す。Yは放電状態のSOC(%)を示す。「SOC100%」はSOCが100%の時のシリコンの体積膨張率(%)を示し300である。〕
【0106】
上記の充放電サイクル試験において、通常サイクルで設定される放電下限電圧および充電上限電圧、本実施例において、このときの放電後(放電状態)および充電後(充電状態)のシリコンへのリチウム貯蔵率であるSOC(%)、このSOC(%)から(1)式にしたがって計算した放電状態に対する充電状態のシリコンの体積膨張率(%)を表3に示す。
【0107】
【表3】

【0108】
以上のような様々なパターンで充放電サイクル試験を行った。
<放電状態に対する充電状態の体積膨張率を変えた時のサイクル特性>
表2の非水電解液No.1からNo.5を使用したリチウム二次電池について、通常サイクル時の充放電条件を表2のパターン1〜8に変更して充放電サイクル試験を行った。この時の、通常サイクル時の5サイクル目の放電容量およびサイクル容量劣化率を求めた。結果を表4に示す。
【0109】
また、シリコンの体積膨張率とサイクル容量劣化率との関係をグラフ化し、図1に示す。
【0110】
【表4】

【0111】
表4から、充放電サイクルパターン、シリコンの体積膨張率(負極活物質の放電状態に対する充電状態の体積膨張率)および5サイクル目放電容量といった電池仕様が同一である場合(実施例1,6,7と比較例1、12、実施例2と比較例2、実施例3と比較例3、実施例4と比較例4および実施例5と比較例5)、本発明の非水電解液であるNo.2、3、4の非水電解液を用いることによって、サイクル容量劣化率が低い値に抑えられ、特にNo.3の電解液で顕著に現れている事が分かる。
【0112】
また、比較例6〜11のようにシリコンの体積膨張率が50%未満の場合には、サイクル容量劣化率が非常に低い値に維持されるものの、5サイクル目放電容量が小さすぎ、電池としての用をなさないことが明らかである。
【0113】
これに対し、実施例1〜5では、サイクル容量劣化率こそ比較例6〜11よりも僅かに高いが、5サイクル目放電容量が2.4〜4.1と非常に大きく、放電容量及びサイクル容量劣化率のいずれをも高い水準で併せ持つのが明らかである。
【0114】
さらに、図2から、特に、シリコンの体積膨張率が60%を超えると、従来の非水電解液(非水電解液1)を使用した比較例1〜5の電池では、炭素を負極活物質とするリチウムイオン電池でサイクル特性向上作用のあるビニレンカーボネートを非水電解液に含んでいるにも関わらず、サイクル容量劣化率が非常に大きくなった。これに対して、フッ素で水素が置換されたエチレンカーボネートを含有する本発明の非水電解液(非水電解液No.2、3、5)を使用した実施例1〜7に示す本発明の電池では、サイクル容量劣化率の悪化が大幅に抑制されており、体積膨張率が100%以上、特に150%以上と体積膨張率が大きくなるほどに顕著に効果が現れる事が分かる。
【0115】
以上の結果から、本発明のリチウム二次電池は、高エネルギー密度化するために体積膨張率を50%以上としても、サイクル特性の低下が大幅に抑制されていることがわかる。
【0116】
<フッ素化エチレンカーボネートの含有量を変更した時の充放電サイクル特性の比較>
実施例1、6、7、比較例1、12について、30サイクル目の充放電容量を100%として、充放電サイクル数と放電容量との関係をグラフ化して図3に示した。図3から、非水電解液中のFEC(4−フルオロエチレンカーボネート)の添加量が2重量%を超えるとサイクル特性の向上作用が現れ初め、特に5重量%以上で大きく現れ、10重量%以上で十分に発揮される事がわかる。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】非晶質シリコン薄膜を堆積させるためのスパッタリング装置の構成を模式的に示す上面図である。
【図2】シリコンの体積膨張率とサイクル容量劣化率との関係を示すグラフである。
【図3】FEC含有量を変更したときの充放電サイクル数と放電容量との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0118】
1 スパッタリング装置
2 チャンバー
3 真空排気
4 アルゴン
5 Siスパッタ源
6 DCパルス電源
7 プラズマ
8 矢符
9 負極集電体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水電解液、リチウムおよび/またはリチウム含有化合物を含む正極活物質を有する正極並びに負極活物質を有する負極を含むリチウム二次電池であって、負極活物質が、リチウムと化合物もしくは固溶体を形成し得る元素(a1)、当該元素(a1)を含む合金(a2)または当該元素(a1)を含む化合物(a3)の少なくとも1種を含み、負極活物質の放電状態に対する充電状態の体積膨張率が50%以上であり、且つ、非水電解液が、フッ素化エチレンカーボネート(b1)、水素、酸素および炭素のみからなる炭酸エステル(b2)並びにリチウム塩(b3)を含有し、フッ素化エチレンカーボネート(b1)の含有量が非水電解液全量の2重量%以上であることを特徴とするリチウム二次電池。
【請求項2】
負極活物質の放電状態に対する充電状態の体積膨張率が150〜300%であることを特徴とする請求項1記載のリチウム二次電池。
【請求項3】
フッ素化エチレンカーボネート(b1)の含有量が非水電解液全量の5〜50重量%であることを特徴とする請求項1または2記載のリチウム二次電池。
【請求項4】
フッ素化エチレンカーボネート(b1)がフルオロエチレンカーボネートであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のリチウム二次電池。
【請求項5】
リチウムと化合物もしくは固溶体を形成し得る元素(a1)がSi、SnまたはGeの1種以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載のリチウム二次電池。
【請求項6】
負極活物質が、リチウムと化合物もしくは固溶体を形成し得る元素(a1)を含有し、該元素(a1)がSi、SnまたはGeの1種以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載のリチウム二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−42329(P2007−42329A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−223034(P2005−223034)
【出願日】平成17年8月1日(2005.8.1)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】