説明

リチウム電池用正極缶、リチウム電池及びその製造方法

【課題】寸法バラツキを改善し、かつ低コストで製造することができるリチウム電池用正極缶を提供すること。
【解決手段】リチウム電池用の正極缶11は、ステンレス鋼材をプレス加工して、開口部16、胴部17及び底部18を有する筒状に成形されている。正極缶11の開口部16には封口体が装着され、胴部17には正極合剤が収容される。正極缶11において、開口部16は、板厚T1が胴部17の板厚T2よりも薄く形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステンレス鋼材をプレス加工して製缶されたリチウム電池用正極缶、その正極缶を備えたリチウム電池及びリチウム電池の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ボビン型リチウム電池は、有底円筒状の正極缶と、正極缶の内周部に配置された筒状の正極合剤と、正極合剤の中空部に配置された有底円筒状のセパレータと、セパレータの内側に配置されたリチウム負極と、正極缶の開口部を閉塞するように配置された封口体とを備える。
【0003】
従来、電池缶における胴部を開口部側よりも薄く形成して、電池内容積を増加させるように構成した電池が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また一般に、リチウム電池に用いられる正極缶は、耐腐食性を確保するためにステンレス鋼材をプレス加工することで製缶されている。ここで、ステンレス鋼材をプレス加工すると、加工硬化が生じる。そのため、従来ではプレス工程の後工程として加工硬化を緩和するための焼きなまし(熱処理)を行うことにより、正極缶を軟化させている。この結果、正極缶の開口部が厚く形成されていても、封口加工を行うことが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−151017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、従来のリチウム電池のように正極缶の製缶後に熱処理を行う場合、処理コストや設備コストが嵩んでしまう。また、熱処理によって正極缶が軟化するため、変形し易くなり寸法精度が悪化するとともに、缶強度のバラツキも大きくなる。よって、製造工程でのトラブルを引き起こしやすくなる。この結果、リチウム電池の生産時における不良率が高まり、電池の製造コストが増大する。
【0006】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、寸法バラツキを改善し、かつ低コストで製造することができるリチウム電池用正極缶を提供することにある。また、別の目的は、上記リチウム電池用正極缶を用いて低コストで製造することができるリチウム電池を提供することにある。さらに、別の目的は、リチウム電池の製造コストを抑えることができるリチウム電池の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段[1]〜[5]を以下に列挙する。
【0008】
[1]ステンレス鋼材をプレス加工して、開口部、胴部及び底部を有する筒状に成形したプレス加工品であり、前記開口部に封口体が装着されるリチウム電池用正極缶であって、前記開口部の板厚は、前記胴部の板厚よりも薄いことを特徴とするリチウム電池用正極缶。
【0009】
手段1に記載の発明によると、ステンレス鋼材をプレス加工して筒状に製缶する場合、ステンレス鋼材の加工硬化が生じる。このため、開口部の板厚が厚く開口部の強度が大きくなると、封口加工が難しくなり、製缶後の焼きなまし(熱処理)が必要となる。本発明では、従来技術とは異なり、胴部よりも開口部が薄く形成されるため、熱処理をしなくても開口部を適度な強度とすることができ、封口加工を行うことが可能となる。また、開口部の厚みを薄くしても、プレス加工時の加工硬化によって強度が増しているため、封口加工後の強度を十分に確保することができる。さらに、従来技術のような熱処理を行う必要がないため、正極缶の寸法バラツキや強度バラツキを低減することができる。また、熱処理の処理コストや設備コストを低減できるので、正極缶を低コストで製造することができる。
【0010】
[2]手段1において、前記開口部の板厚は、前記胴部の板厚の0.5倍以上0.8倍以下であることを特徴とするリチウム電池用正極缶。
【0011】
手段2に記載の発明によると、開口部の板厚を上記の好適範囲に設定しているため、封口加工性や封口加工後の強度を確保することができる。
【0012】
[3]手段1または2おいて、プレス加工による製缶後のビッカース硬度Hvが250以上であることを特徴とするリチウム電池用正極缶。
【0013】
手段3に記載の発明によると、製缶後のビッカース硬度Hvが250以上であるので、開口部を薄くすることにより、封口加工を確実に行うことができる。また、開口部を薄くしても十分な強度を確保することができる。
【0014】
具体的には、開口部の板厚は、0.12mm以上0.2mm以下であることが好ましい、またこの場合、製缶後のビッカース硬度Hvが300〜400であることがより好ましい。このようにすると、開口部の薄肉化による強度の低下を製缶時の加工硬化によって相殺することが可能となる。
【0015】
[4]手段1乃至3のいずれか1項に記載の正極缶を備えたことを特徴とするリチウム電池。
【0016】
手段4に記載の発明によると、寸法バラツキの少ない正極缶を用いることができるため、リチウム電池の生産歩留まりが向上する。この結果、リチウム電池の製造コストを低く抑えることができる。
【0017】
[5]手段4に記載のリチウム電池の製造方法であって、ステンレス鋼材を用いてプレス加工を行って、開口部、胴部及び底部を有し前記胴部の板厚よりも前記開口部の板厚のほうが薄い筒状の正極缶を製造する製缶工程と、前記製缶工程の後工程として、熱処理を行わずに前記開口部に封口体を配置してその開口部を封口加工する封口工程とを含むことを特徴とするリチウム電池の製造方法。
【0018】
手段5に記載の発明によると、ステンレス鋼材を用いているため、正極缶の製缶工程後において加工硬化が生じるが、正極缶の開口部の板厚を薄く形成することで、熱処理を行わずに封口工程を行うことができる。この場合、熱処理を行う必要がなくなることで、熱処理の処理コストや設備コストを低減することができるとともに、正極缶の寸法バラツキや強度バラツキを低減することができる。従って、寸法バラツキや強度バラツキが少ない正極缶を用いてリチウム電池を製造することができ、リチウム電池の生産歩留まりが向上する。この結果、リチウム電池の製造コストを低く抑えることができる。
【発明の効果】
【0019】
以上詳述したように、手段1〜3に記載の発明によると、寸法バラツキを改善し、かつ低コストでリチウム電池用正極缶を製造することができる。また、手段4または5に記載の発明によると、リチウム電池の製造コストを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】一実施の形態のリチウム電池の概略構成を示す断面図。
【図2】リチウム電池の正極缶を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を具体化した一実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。図1は、本実施の形態におけるリチウム電池の概略構成を示す断面図である。また、図2は、そのリチウム電池に用いられる正極缶を示す断面図である。
【0022】
図1に示されるように、本実施の形態のリチウム電池10では、正極缶11の内部に、円筒状の正極合剤12が装填され、その正極合剤12の中空部分にセパレータ13を介してリチウム負極14が配置されている。なお、本実施の形態のリチウム電池10は、直径が16mm、高さが30mmのサイズを有するボビン型の一次電池である。
【0023】
正極缶11の内部には、正極合剤12及びリチウム負極14の上方まで非水電解液15が注液されている。非水電解液15は、例えば、過塩素酸リチウムを溶質とし、プロピレンカーボネート(PC)及び1,2−ジメトキシエタン(DME)を溶媒とした溶液などからなる。
【0024】
正極合剤12は、例えば、二酸化マンガン、黒鉛、及びバインダとしての粉末フッ素樹脂を混合した正極合剤粉を円筒状にプレス成形することで作製される。本実施の形態では、正極缶11の内部においてその軸方向に沿って2つの正極合剤12が積層装填されている。なお、正極合剤12の真上には、正極リング30をスペーサーとして配置している。
【0025】
リチウム負極14は、リチウム金属の金属板を用い、円筒状にロール加工(曲げ加工)して作製されている。また、セパレータ13は、ポリプロピレン製の不織布からなるセパレータ原紙を二重巻きにした後、底部となる一方の端部を折り重ねた状態で底部及び胴部の一部を熱融着加工することで有底円筒状に形成されている。
【0026】
正極缶11は、例えばSUS304などのステンレス鋼材をプレス加工することで製造されたプレス加工品であり、開口部16、胴部17及び底部18を有する有底筒状に成形されている。正極缶11の底部18の中央に正極端子19が突設されている。正極缶11のビッカース硬度Hvは、300〜400程度となっている。また、正極缶11の開口部16は、金属製の負極端子21、金属製の封口板22、及び樹脂製のガスケット23からなる封口体24によって封口されている。
【0027】
詳しくは、正極缶11の開口部16には、正極缶11の外周面に沿って溝状のビード部26が形成されている。そして、正極缶11のビード部26の上方に、リング状のガスケット23、封口板22及び負極端子21の順で嵌め込む。その状態で、正極缶11の開口部16を缶内側にかしめることにより、正極缶11が密閉封口されている。なお、本実施の形態において、負極端子21及び封口板22は、正極缶11と同様にステンレス鋼材を用いて形成され、ガスケット23は、ポリプロピレンを用いて形成されている。
【0028】
また、リチウム負極14の内側面には、負極集電体27が設けられている。負極集電体27のリード部27aは、リチウム負極14の上端面から突出し、ガスケット23の中央開口部23aを挿通して、封口板22の下面に溶接にて接続されている。
【0029】
負極端子21において、略中央部には電池内側に向けて突出した刃突起29が設けられている。この刃突起29は、負極端子21の一部を切り欠くとともにその切り欠いた部分を下方に折り曲げることで形成される。
【0030】
リチウム電池10では、誤使用等によって電池内部が異常な状態になったとき、電池内部でガスが発生する場合がある。この場合、電池内圧が所定の圧力に達すると、圧力によって封口板22が外側に押しひろげられ負極端子21の刃突起29に接触する。そして、封口板22において刃突起29の接触部に孔が開けられ、その孔を通じて電池内のガスが電池外部に放出される。このように、封口板22と刃突起29とが安全弁機構として機能して、リチウム電池10の破裂が未然に防止される。
【0031】
次に、本実施の形態のリチウム電池10に使用されている正極缶11の構成について詳述する。
【0032】
図2に示されるように、正極缶11は、開口部16の内径D1よりも胴部17の内径D2のほうが小さくなるよう形成されている。また、正極缶11において、開口部16の板厚T1は、胴部17の板厚T2よりも薄くなっている。具体的には、開口部16の板厚T1は、例えば0.2mmであり、胴部17の板厚T2は、例えば0.25mmである。この正極缶11において、開口部16と胴部17との境界部分は、胴部17側(図2では下側)ほど縮径するよう傾斜している。より詳しくは、開口部16と胴部17との境界部分において、正極缶11の内面側及び外面側に傾斜面28a,28bが形成されており、開口部16の内径D1よりも胴部17の内径D2のほうが小さくなっている。
【0033】
また、正極缶11において、正極合剤12が配置される胴部17の内面は、表面粗さRaが開口部16よりも大きく、例えば、表面粗さRaが3μ〜7μmとなるよう表面が粗化されている。このように胴部17の表面を粗くすることによって、正極合剤12と正極缶11との接触面積が増し、リチウム電池10の放電性能が高められている。
【0034】
次に、本実施の形態におけるリチウム電池10の製造方法を説明する。
【0035】
まず、正極合剤12、セパレータ13、リチウム負極14、非水電解液15、封口体24(負極端子21、封口板22、及びガスケット23)を予め作製して準備する。
【0036】
また、板状のステンレス鋼材を用意し、段階的に深絞りを行う多段絞り加工によって正極缶11を製造する(製缶工程)。なお、多段絞り加工において、金型のクリアランスを調整することで、開口部16の板厚T1よりも胴部17の板厚T2のほうが薄くなるよう正極缶11が製缶される。
【0037】
その後、円筒状に成形された正極合剤12を有底筒状の正極缶11内に挿入し、その上に正極リング30をはめる。なお、ここで用いた正極缶11は、製缶工程の後工程として、焼きなまし(熱処理)を行っていないものを用いている。さらに、セパレータ13内に円筒状のリチウム負極14を挿入し、一体となったセパレータ13とリチウム負極14とを正極缶11の正極合剤12の中空部分に挿入配置する。そして、正極缶11において、開口部16付近の側面に円盤状ローラーを押しつけ、正極缶周を回転させることで、ビード部26を形成する。
【0038】
次いで、正極缶11のビード部26の上方にガスケット23を載置し、負極集電体27のリード部27aに封口板22をスポット溶接にて接続する。その後、正極缶11の内部に、正極合剤12及びリチウム負極14の上方まで非水電解液15を注入する。さらに、正極缶11のビード部26に載置したガスケット23上に、封口板22、及び負極端子21を配置して、正極缶11の開口端部にカール及び絞り加工を施すことにより、正極缶11を封口する(封口工程)。これにより、図1のリチウム電池10が完成する。
【0039】
以下、実施例について説明する。ここでは、仕様の異なる正極缶11を用いて上記構成のリチウム電池10を数種類試作した。ここで用いた正極缶11の仕様(ナンバー1〜8の8種類の仕様)を表1に示している。なお、ナンバー8のサンプルは、現在製品化されている現行品と同じ仕様である。
【表1】

【0040】
表1に示されるように、各サンプルでは、胴部17の厚み(板厚T2)を全て0.25mmとし、開口部16の厚み(板厚T1)を0.10mm〜0.25mmに設定している。具体的には、開口部16の板厚T1を、ナンバー1のサンプルでは0.1mm、ナンバー2のサンプルでは0.12mm、ナンバー3,4のサンプルでは0.15mm、ナンバー5,6のサンプルでは0.2mmとし、胴部17よりも薄くしている。また、ナンバー7のサンプル及びナンバー8のサンプルでは、開口部16の板厚T1を、胴部17の板厚T2と同じ0.25mmとしている。
【0041】
さらに、ナンバー8のサンプルでは、従来技術と同様の熱処理(1010℃〜1150℃の温度範囲、0.5時間〜2時間程度)を実施した正極缶11を用い、他のナンバー1〜7のサンプルでは、熱処理を実施してない正極缶11を用いた。ナンバー1〜7のサンプルでは、プレス加工の加工硬化によって正極缶11のビッカース硬度Hvは300〜400程度となっていた。これに対して、ナンバー8のサンプルでは、熱処理を行うことで正極缶11の加工硬化が緩和され、ビッカース硬度Hvは200となっていた。この硬度は、プレス加工前のステンレス鋼材とほぼ同じ硬度である。
【0042】
そして、各サンプルについて、封口加工性、高温保存漏液性、封口耐圧値、放電性能をそれぞれ評価した。その結果を表2に示す。
【表2】

【0043】
表2に示されるように、ナンバー1のサンプルでは、開口部16の板厚T1が0.1mmと薄いため、波状に加工されてしまう。このため、封口加工を確実に行うことができなくなる。また、ナンバー7のサンプルでは、硬度が大きく、開口部16の板厚T1が0.25mmと厚いため、封口加工を行うことができなかった。これに対して、ナンバー2〜6のサンプルでは、硬度は大きいが、開口部16の板厚T1が薄いため、封口加工に適した強度となり、十分な封口加工性を得ることができた。なお、ナンバー8のサンプルでは、開口部16の板厚T1が0.25mmと厚いが、熱処理によって硬度が小さくなっているため、十分な封口加工性が得られた。
【0044】
高温保存漏液性、封口耐圧値、放電性能については、封口加工を行うことができたナンバー2〜6,8のサンプルを評価した。ここで、高温保存漏液性は、70℃の恒温槽内でリチウム電池10(試験サンプル数30)を100日間保存し、漏液の有無を確認した。ナンバー2〜6,8のサンプルでは、30個の全てのリチウム電池10で漏液が確認されなかった。
【0045】
また、封口耐圧値は、次のような方法で測定した。すなわち、電池内容物(正極合剤12、リチウム負極14、非水電解液15など)を正極缶11内に収容しない状態で開口部16を封口加工する。その後、底部18等に形成した試験用貫通孔(図示略)を介して正極缶11内に圧力を加えることで封口耐圧値を測定した。なお、試験サンプル数は10個であり、10個の平均値として封口耐圧値を求めている。ナンバー8のサンプルの封口耐圧値を100とした場合、ナンバー2〜6のサンプルで95〜97の耐圧値であった。このように、ナンバー2〜6のサンプルにおいて、封口耐圧値は、ナンバー8のサンプル(現行品)とほぼ同じ耐圧値であり、封口部分の信頼性は十分に確保されていることが確認された。
【0046】
放電性能の評価では、試験温度:20℃のもと、各サンプルのリチウム電池10に1KΩの抵抗を接続して連続放電を行い、電池電圧が初期値の3Vから所定電圧2V以下に低下するまでの放電時間を測定した。ここで、ナンバー8のサンプル(現行品)の放電時間を100とした場合、ナンバー2〜6のサンプルは、同じ放電時間であり、十分な放電性能が確保されていた。
【0047】
以上の結果により、開口部16の板厚T1を0.12mm以上0.20mm以下(胴部17の板厚T2の0.5倍以上0.8倍以下)に設定することが、好適であることがわかった。
【0048】
従って、本実施の形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0049】
(1)本実施の形態のリチウム電池10では、胴部17の板厚T2を0.25mmとし、開口部16の板厚T1を0.12mm以上0.20mm以下(胴部17の板厚T2の0.5倍以上0.8倍以下)としている。このように、正極缶11において胴部17よりも開口部16を薄く形成すると、熱処理をしなくても開口部16が適度な強度となるため、正極缶11の封口加工を行うことができる。また、開口部16を薄くしても、加工硬化によって強度が増しているため、封口加工後における封口部分の強度を十分に確保することができる。
【0050】
(2)本実施の形態のリチウム電池10の製造方法では、正極缶11の製缶工程後において従来技術のような熱処理を行っていない。このため、熱処理の処理コストや設備コストを低減することができ、正極缶11及びリチウム電池10を低コストで製造することができる。また、熱処理を行わないため、正極缶11の寸法バラツキや強度バラツキを低減することができる。従って、寸法バラツキや強度バラツキが少ない正極缶11を用いてリチウム電池10を製造することにより、リチウム電池10の生産歩留まりが向上する。この結果、リチウム電池10の製造コストを低く抑えることができる。
【0051】
(3)本実施の形態の正極缶11では、開口部16の内径D1のほうが胴部17の内径D2よりも大きいので、開口部16側から正極缶11内に正極合剤12や封口体24等を挿入し易くなり、リチウム電池10を容易に製造することができる。
【0052】
なお、本発明の実施の形態は以下のように変更してもよい。
【0053】
・本実施の形態の正極缶11では、開口部16と胴部17との境界部分において、内面側及び外面側に傾斜面28a,28bを形成して、胴部17の板厚T2よりも開口部16の板厚T1を薄くしていたが、これに限定されるものではない。例えば、開口部16と胴部17との境界部分において、内面側のみを傾斜させて胴部17の板厚T2よりも開口部16の板厚T1を薄くしてもよいし、外面側のみを傾斜させて胴部17の板厚T2よりも開口部16の板厚T1を薄くしてもよい。
【0054】
・上記実施の形態において、リチウム電池10は一次電池であったが、リチウム二次電池に本発明を適用させてもよい。
【0055】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した実施の形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0056】
(1)手段1乃至3のいずれか1項において、プレス加工による製缶後のビッカース硬度Hvが300〜400であることを特徴とするリチウム電池用正極缶。
【0057】
(2)手段1乃至3のいずれか1項において、前記開口部の板厚は、0.12mm以上0.2mm以下であることを特徴とするリチウム電池用正極缶。
【0058】
(3)手段1乃至3のいずれか1項において、前記開口部には、その開口部を塞ぐ封口体を載置するためのビード部が形成されることを特徴とするリチウム電池用正極缶。
【0059】
(4)手段1乃至3のいずれか1項において、前記開口部の内径よりも前記胴部の内径のほうが小さいことを特徴とするリチウム電池用正極缶。
【0060】
(5)手段1乃至3のいずれか1項において、深絞り加工によって製造されたことを特徴とするリチウム電池用正極缶。
【符号の説明】
【0061】
10…リチウム電池
11…リチウム電池用正極缶としての正極缶
16…開口部
17…胴部
24…封口体
T1…開口部の板厚
T2…胴部の板厚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス鋼材をプレス加工して、開口部、胴部及び底部を有する筒状に成形したプレス加工品であり、前記開口部に封口体が装着されるリチウム電池用正極缶であって、
前記開口部の板厚は、前記胴部の板厚よりも薄いことを特徴とするリチウム電池用正極缶。
【請求項2】
前記開口部の板厚は、前記胴部の板厚の0.5倍以上0.8倍以下であることを特徴とする請求項1に記載のリチウム電池用正極缶。
【請求項3】
プレス加工による製缶後のビッカース硬度Hvが250以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のリチウム電池用正極缶。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の正極缶を備えたことを特徴とするリチウム電池。
【請求項5】
請求項4に記載のリチウム電池の製造方法であって、
ステンレス鋼材を用いてプレス加工を行って、開口部、胴部及び底部を有し前記胴部の板厚よりも前記開口部の板厚のほうが薄い筒状の正極缶を製造する製缶工程と、
前記製缶工程の後工程として、熱処理を行わずに前記開口部に封口体を配置してその開口部を封口加工する封口工程と
を含むことを特徴とするリチウム電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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