説明

リチウム2次電池用正極材料及びその製造方法

【課題】リチウムマンガンフッ化リン酸化物(LiMnPOF)を含むリチウム2次電池用正極材料、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】リチウム2次電池用正極材料は、(i)ナトリウム(Na)酸化物またはその前駆体、マンガン(Mn)酸化物またはその前駆体、リン(P)酸化物またはその前駆体、フッ化物(F)またはその前駆体をボールミルを用いて均一に混合して得られた混合物を前処理し、焼成することにより正極材料NaMnPOFを合成する段階と、(ii)前記段階で合成された前記正極材料にイオン交換法を用いてリチウムを挿入してLiMnPOFを合成する段階を経て製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム2次電池用正極材料及びその製造方法に関するものであり、より詳しくは、リチウムマンガンフッ化リン酸化物LiMnPOFを電極材料として使用したリチウム2次電池用正極材料及びこの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯可能な小型電機電子機器の普及が広がるにつれてニッケル水素電池やリチウム2次電池といった新型の2次電池の開発が盛んに行われている。このうち、リチウム2次電池は、黒鉛などのカーボンを負極活物質とし、リチウムが含まれている酸化物を正極活物質とし、非水溶媒を電解液とする電池であり、リチウムがイオン化傾向の大きい金属であるため、高電圧を発生でき、高エネルギー密度の電池開発に活用されている。
【0003】
正極活物質としてはリチウムを含有しているリチウム遷移金属酸化物が主に使われており、コバルト系、ニッケル系、及びコバルト、ニッケル、マンガンが共存する3成分系などの層状系リチウム遷移金属酸化物が90%以上使用されている。
【0004】
しかし、正極活物質として使用されている層状系リチウム遷移金属酸化物は、非理想状態(過充電及び高温状態)で格子にある酸素が脱離して反応に関与するため、電池の発火など異常挙動の原因となり、このような層状系リチウム金属酸化物が有する短所を克服するために、スピネル型あるいはオリビン型の構造を有する正極活物質に対する研究が行われている。
【0005】
このような正極の劣化により安全性が悪くなったリチウム2次電池の問題点を解決するために、正極材料として層状系リチウム遷移金属酸化物ではなく、3次元的なリチウムの移動経路を有するスピネル型リチウムマンガン酸化物、あるいはオリビン構造を含むポリアニオン系リチウム金属リン酸化物が提案されたが、スピネル型リチウムマンガン酸化物は充電/放電によるリチウムの溶出問題とヤーン・テラー歪みによる構造の不安定性により、その使用が制限されている。
【0006】
オリビン型リチウム金属リン酸化物のうち、鉄(Fe)系とマンガン(Mn)系は低電気伝導により正極材料としての使用が制限されたが、粒子のナノサイズ化及びカーボンコーティングなどによりその問題点が改善され、正極材料として使用が可能になった。
【0007】
最近、ポリアニオン系材料のうち、フッ素を含むフッ化リン酸化物(Fluorophosphates)が報告されており、フッ化リン酸化物は、フッ素を含むAMPOFの化学式を持つもので、AはLi、Naであり、Mは電位金属Mn、Fe、Co、Ni、V、あるいはこれらの混合物である。理論的には2つのナトリウムを含むため、従来のリチウム金属リン酸化物に比して約2倍の理論容量が期待される。
【0008】
また、ナトリウムを含むNaMPOF(M=Mn、Fe、Co、Ni、Vあるいはこれらの混合物)は、リチウム2次電池の正極素材として使用する時、初期充電過程でナトリウムが脱離され、初期放電過程でリチウムが挿入され、その後のサイクルではリチウムの挿入脱離反応が充電/放電と共に行われ、また、ナトリウム電池の正極素材として使用する時、ナトリウムの挿入脱離が充電/放電と共に行われる。
【0009】
特許文献1では、ナトリウムを含むNaVPOF、NaFePOF、(Na,Li)FePOFなどのフッ化リン酸化物をナトリウム電池(Sodium based battery)の正極材料として使用した例が開示されているが、リチウム電池ではなく、ナトリウム電池に限定している。
【0010】
従来技術の他の例では、ナトリウム鉄フッ化リン酸化物NaFePOFとして、NaFePOFの構造、リチウム2次電池の正極素材としての電気化学的な特性などが公開されているが、鉄系のNaFePOFの場合、充電/放電電位が3.5V近くになって、鉄系オリビン素材のように低充電/放電電位を有する短所があり、また、鉄系と比較してマンガン系NaMnPoFは、高電位(4V)を有するが、マンガンを含むポリアニオン系材料の低電気伝導度による電気化学的な不活性が問題である。
【0011】
リチウムイオン電池をフルセル(Full cell)として製作する時、通常、負極材として黒鉛系素材を使用する。黒鉛系素材は、リチウム金属とは異なり、リチウムを含んでいないため、正極でリチウムソースを提供することが一般的である。ナトリウムのみ含むNaMnPoFはリチウムを含んでいないため、リチウムのインターカレーション反応に必要なリチウムイオンを提供することができなく、黒鉛系負極材の適用が不可能になる。したがって、NaMnPoFをリチウムイオン電池の正極材として使用する時、負極材の選択に制約を受ける。リチウムを含むマンガンフッ化リン酸化物は、直接的に合成することが不可能であると知らされており、合成された報告もない。従来の報告によれば、化学的な方法を用いてナトリウム脱離/リチウム挿入のイオン交換によるリチウムマンガンフッ酸化物LiMnPOFを製造したが、化学的な不活性化によりリチウムが挿入された結果は提示されていない。これはナトリウムマンガンフッ化リン酸化物の低い化学反応性に起因したことであり、これを解決するためには反応活性化のための粒子の大きさの制御が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許6,872,492号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記のような点を考慮してなされたものであって、リチウムマンガンフッ化リン酸化物(LiMnPOF)を含むリチウム2次電池用正極材料、およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するためになされた本発明のリチウムマンガンフッ化リン酸化物(LiMnPOF)は、NaMnPoFに化学的な方法によりリチウムを挿入して得られる。リチウムマンガンフッ化リン酸化物を含むリチウム2次電池用正極材料は、1次粒子の大きさが300nm以下であり、カーボンをコーティングし、3.7V〜4.0Vで放電による電位平坦面を示し、2.0V放電で100mAhg−1以上、1.0V放電で200mAhg−1以上の放電容量を有している。
【0015】
このリチウム2次電池用正極材料は、(i)ナトリウム(Na)酸化物またはその前駆体、マンガン(Mn)酸化物またはその前駆体、リン(P)酸化物またはその前駆体、フッ化物(F)またはその前駆体をボールミルを用いて均一に混合して得られた混合物を前処理し、焼成することにより正極材料NaMnPOFを合成する段階と、(ii)前記段階で合成された前記正極材料にイオン交換法を用いてリチウムを挿入してLiMnPOFを合成する段階を経て製造される。
【発明の効果】
【0016】
イオン交換法を用いて化学的にリチウムを挿入することにより、リチウムソースを含むリチウムマンガンフッ化リン酸塩を正極材料として提供することができる。特に、本発明の正極材料を2次電池用正極に適用する場合、3.8V近くの、Liに比して高放電電圧が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例1により製造された正極材料の電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例1により製造された正極材料を含む電池の室温における充電/放電曲線グラフであって、放電カットオフ(Cut−off)が2.0Vの場合である。
【図3】実施例1により製造された正極材料を含む電池の室温における充電/放電曲線グラフであって、放電カットオフ(Cut−off)が1.0Vの場合である。
【図4】実施例1により製造された正極材料を含む電池の高温(60°C)における放電曲線グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、下記一般式[1]で表されるリチウムマンガン系フッ化リン酸塩化合物を含むリチウム2次電池用正極材料を提供する。
LiMnPOF ・・・[1]
【0019】
一般式[1]の化合物を含むリチウム2次電池用正極材料は、1次粒子の大きさが300nm以下であり、導電性を向上させるためにカーボンをコーティングし、3.7V〜4.0Vで放電による電位平坦面を示し、2.0V放電で100mAhg−1以上、1.0V放電で200mAhg−1以上の放電容量を有していることを特徴とする。
【0020】
本発明の他の実施形態によれば、本発明は、(i)ナトリウム(Na)酸化物またはその前駆体、マンガン(Mn)酸化物またはその前駆体、リン(P)酸化物またはその前駆体、フッ化物(F)またはその前駆体をボールミルを用いて均一に混合して得られた混合物を前処理し、焼成することにより正極材料NaMnPoFを合成する段階と、(ii)前段階で合成された正極材料にイオン交換法を用いてリチウムを挿入してLiMnPOFを合成する段階と、を含むリチウム2次電池用正極材料の製造方法を提供する。
【0021】
本発明の好ましい実施例によれば、段階(i)は、ボールミルを用いて6時間均一に混合した混合物を300℃で2時間空気雰囲気で保持する前処理を行う。段階(ii)は、段階(i)で得られた正極材料にイオン交換法を用いてリチウム挿入とナトリウム脱離を行うことでリチウムイオンを正極材料内に挿入する。段階(ii)は、段階(i)で得られた正極材料に化学的にナトリウムを脱離した後、化学的にリチウムを挿入することでもよい。
【0022】
本発明の好ましい実施例によれば、段階(ii)で得られた正極材料とカーボン導電材を60:40〜90:10の重量比率で均一に混合し、ボールミルする過程によりカーボン導電材を正極表面に均一にコーティングして電気伝導度を高めることができる。
【0023】
ナトリウム酸化物の前駆体は、リン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、フッ化ナトリウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、またはこれらの混合物から選択された何れか1つである。
マンガン酸化物の前駆体は、マンガン金属、酸化マンガン、シュウ酸マンガン、酢酸マンガン、硝酸塩マンガン、またはこれらの混合物から選択された何れか1つである。
リン酸化物の前駆体は、リン酸アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、またはこれらの混合物から選択された何れか1つである。
【0024】
イオン交換法を用いてリチウムを挿入する場合、リチウムとナトリウムのイオン交換を誘発する物質としてLiBrまたはLiIを用いることもできる。
【0025】
以下、添付図面を参照して本発明を詳細に説明する。
本発明は、下記の一般式[1]で表される化合物を含むリチウム2次電池用正極材料を提供する。
LiMnPOF ・・・[1]
特に、本発明の正極材料は、3.7V〜4.0Vで放電による電位平坦面を示し、導電性を向上させるためにカーボンによりコーティングされるのがよい。
【0026】
リチウム2次電池用正極材料の製造方法を説明すると次の通りであり、具体的な製造方法は下記の実施例から容易に理解できる。
本発明の正極材料は、ナトリウム酸化物またはその前駆体、マンガン酸化物またはその前駆体、リン酸化物またはその前駆体、フッ化物またはその前駆体をボールミル(Ball mill)を用いて均一に混合して前処理段階が行われ、このように前処理段階から得られた混合物を焼成する熱処理段階により2次電池用正極材料NaMnPoFが製造される。この時、製造されたNaMnPoFは粒子の大きさが1μm以下であり、代表的に平均粒子径が300nmである。このように製造されたNaMnPoFは、LiBrを溶解したアセトニトリル溶液に投入してArガスを流しながら温度を上昇させてリチウムとナトリウムのイオン交換を行う。イオン交換した後、洗浄及び乾燥する過程を経てリチウムフッ化リン酸塩LMnPOFの正極材料が得られる。
【0027】
リチウムフッ化リン酸化物の低電気伝導度の問題を解決するために、好ましくは得られたLiMnPOF正極材にカーボンコーティングを施す。
【0028】
ナトリウム酸化物の前駆体は、特に制限するものではないが、具体例としてリン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、フッ化ナトリウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、またはこれらの混合物が挙げられる。
マンガン酸化物の前駆体は特に制限するものではないが、具体例としてマンガン金属、酸化マンガン、シュウ酸マンガン、酢酸マンガン、硝酸塩マンガン、またはこれらの混合物が挙げられる。
リン酸化物の前駆体は特に制限するものではないが、具体例としてリン酸リチウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、またはこれらの混合物が挙げられる。
フッ素の前駆体は特に制限するものではないが、具体例として金属フッ化物、フッ化物、またはこれらの混合物が挙げられる。
【0029】
イオン交換に用いられるリチウムソースは、LiBrに制限するものではなく、その他イオン交換を誘発するリチウム混合物であればよい。
イオン交換に用いられる溶媒は、アセトニトリルに制限するものではなく、その他イオン交換が可能な溶媒であればよい。
【0030】
カーボン導電材は、特に制限するものではないが、クエン酸(Citric Acid)、スクロース(Sucrose)、スーパーP(Super−P)、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(Ketchen Black)、またはカーボンからなる物質が使用できる。
【0031】
このように製造された正極材料は、リチウム2次電池の製造に使用されるが、正極材料を異なる方式で適用した場合を除き、既存のリチウム2次電池の製造方式と同じであり、その構成及び製造方法を簡略に説明すると次の通りである。
【0032】
先ず、正極材料を用いた正極極板の製作工程を説明すると、必要に応じて導電材、結着剤、フィラー、分散剤、イオン導電剤、圧力増強剤など、通常用いられる添加成分をl種または2種以上加え、適当な溶媒(有機溶媒)によりスラリー化あるいはペースト化し、得られたスラリーまたはペーストを電極支持基板にドクターブレード法などを用いて塗布した後、乾燥工程を経て圧延ロールなどでプレス(pressing)して最終的な正極極板とする。
【0033】
この時、導電材としては、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(Ketchen Black)、炭素繊維、金属粉などがある。結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリエチレンなどが用いられ、電極支持基板(集電体)は、銅、ニッケル、ステンレス鋼鉄、アルミニウムなどの箔、シート、あるいは炭素繊維などで構成することができる。
【0034】
このように製造された正極極板を用いてリチウム2次電池を製作するが、リチウム2次電池の形態は、コイン形状、ボタン形状、シート形状、円筒形状、角形形状など何れも良く、リチウム2次電池の負極、電解質、分離膜などは従来のリチウム2次電池のものを使用することができる。
【0035】
負極活物質は、リチウムを含んでいない黒鉛系材料を用いてもよい。勿論、リチウムを含む遷移金属の複合酸化物などのl種あるいは2種以上を用いてもよい。その他、シリコン、スズなども負極活物質として用いてもよい。
【0036】
電解液は、有機溶媒にリチウム塩を溶解させた非水系電解液、無機固体電解質、無機固体電解質の複合材などの何れもよく、非水系電解液の溶媒としてはエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネートなどのエステル類、ブチルラクトンなどのラクトン類、1,2−ジメトキシエタン、エトキシメトキシエタンなどのエーテル類、アセトニトリルなどのニトリル類などの1種あるいは2種以上を使用でき、非水系電解液のリチウム塩の例としてはLiAsF、LiBF、LiPFなどが使用できる。
【0037】
分離膜としては、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)などのポリオレフィン(Polyolefin)から製造される多孔性フィルムや不織布などの多孔性材が使用できる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を具体的な実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕
定量の炭酸ナトリウム(NaHCO)、シュウ酸マンガン二水和物(MnC・2HO)、フッ化ナトリウム(NaF)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO)、リン酸アンモニウム(NHPO)を総量10g基準に投入して6時間ボールミル(ball mill)して均一に混合した。得られた混合物を300℃で2時間空気雰囲気に保持して前処理した後、500℃、6時間、アルゴンガスの雰囲気で焼成した。このように製造されたNaMnPoFを3MのLiBrが溶解されたアセトニトリルに沈殿させた後、アルゴンガスを流しながら反応させた。この時、反応温度は80℃であった。イオン交換済みの試料を、無水エタノールで洗浄する工程を経て残存NaBrを除去した後、乾燥させ、Super−Pと75:25の重量比率でボールミルを用いて均一に混合してボールミリングにより正極材料複合体を製造した。
【0039】
〔比較例1〕
定量の炭酸ナトリウム(NaHCO)、シュウ酸マンガン二水和物(MnC・2HO)、フッ化ナトリウム(NaF)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO)、リン酸アンモニウム(NHPO)を総量5g基準に投入し、手練り(Hand mixing)で30分間均一に混合した。得られた混合物を300℃で2時間空気雰囲気に保持して前処理した後、500℃、6時間、アルゴンガスの雰囲気で焼成した。このように製造されたNaMnPoFを3MのLiBrが溶解されたアセトニトリルに沈殿させた後、アルゴンガスを流しながら反応させた。この時、反応温度は80℃であった。反応済みの試料を回収し、無水エタノールを用いて洗浄及び乾燥することにより残存不純物を除去し、純粋な試料を回収した。
【0040】
〔比較例2〕
定量の炭酸ナトリウム(NaHCO)、シュウ酸マンガン二水和物(MnC・2HO)、フッ化ナトリウム(NaF)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO)、リン酸アンモニウム(NHPO)を総量10g基準に投入して6時間ボールミル(Ball mill)して均一に混合した。得られた混合物を300℃で2時間空気雰囲気に保持して前処理した後、600℃、6時間、アルゴンガスの雰囲気で焼成した。このように製造されたNaMnPoFを3MのLiBrが溶解されたアセトニトリルに沈殿させた後、アルゴンガスを流しながら反応させた。この時、反応温度は80℃であった。反応済みの試料を回収し、無水エタノールを用いて洗浄及び乾燥することにより残存不純物を除去し、純粋な試料のみ回収した。
【0041】
〔比較例3〕
定量の炭酸ナトリウム(NaHCO)、シュウ酸マンガン二水和物(MnC・2HO)、フッ化ナトリウム(NaF)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO)、リン酸アンモニウム(NHPO)を総量10g基準に投入して6時間ボールミル(Ball mill)して均一に混合した。得られた混合物を300℃で2時間空気雰囲気に保持して前処理した後、600℃、3時間、アルゴンガスの雰囲気で焼成した。このように製造されたNaMnPoFを3MのLiBrが溶解されたアセトニトリルに沈殿させた後、アルゴンガスを流しながら反応させた。この時、反応温度は80℃であった。反応済みの試料を回収し、無水エタノールを用いて洗浄及び乾燥することにより残存不純物を除去し、純粋な試料のみ回収した。
【0042】
〔比較例4〕
定量の炭酸ナトリウム(NaHCO)、シュウ酸マンガン二水和物(MnC・2HO)、フッ化ナトリウム(NaF)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO)、リン酸アンモニウム(NHPO)を総量10g基準に投入して6時間ボールミル(Ball mill)して均一に混合した。得られた混合物を300℃で2時間空気雰囲気に保持して前処理した後、550℃、6時間、アルゴンガスの雰囲気で焼成した。このように製造されたNaMnPoFを3MのLiBrが溶解されたアセトニトリルに沈殿させた後、アルゴンガスを流しながら反応させた。この時、反応温度は80℃であった。反応済みの試料を回収し、無水エタノールを用いて洗浄及び乾燥することにより残存不純物を除去し、純粋な試料のみ回収した。
【0043】
〔比較例5〕
定量の炭酸ナトリウム(NaHCO)、シュウ酸マンガン二水和物(MnC・2HO)、フッ化ナトリウム(NaF)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO)、リン酸アンモニウム(NHPO)を総量10g基準に投入して6時間ボールミル(Ball mill)して均一に混合した。得られた混合物を300℃で2時間空気雰囲気に保持して前処理した後、550℃、3時間、アルゴンガスの雰囲気で焼成した。このように製造されたNaMnPoFを3MのLiBrが溶解されたアセトニトリルに沈殿させた後、アルゴンガスを流しながら反応させた。この時、反応温度は80℃であった。反応済みの試料を回収し、無水エタノールを用いて洗浄及び乾燥することにより残存不純物を除去し、純粋な試料のみ回収した。
【0044】
〔電極性能の評価〕
実施例1、比較例1、及び比較例2により製造された正極材料の1次粒子の大きさと正極材料の金属組成分析をICP発光分光分析により測定し、その結果を表1に示した。
【0045】
【表1】

【0046】
実施例1では、1次粒子の大きさが300nmであり、リチウムとナトリウムのイオン交換によりLiMnPOFが製造できたが、1次粒子の大きさが1μm以上である比較例1と比較例2では、イオン交換が実質行われていないことが確認できた。1次粒子の大きさが500〜800nmである比較例3〜5では、同じ3MのLiBrのリチウムソースを使用してイオン交換をした結果では、一部のリチウムが反応して交換されることが確認できた。
【0047】
NaMnPoFに、イオン交換などの化学的な方法によりリチウムを挿入させるためには、粒子の大きさの制御が重要な役割をすることが分かる。したがって、出発物質のボールミリング条件及び熱処理条件が重要であることが分かる。本発明の粒子の大きさを制御することは、このようなボールミリング及び熱処理条件を調節することによりなされ、これは実験装備の条件に応じて多少変更することもある。重要な点は、1次粒子の大きさが一定の大きさ以下に制御されることにより、完全に2つのリチウムが置換されたLiMnPOFが得られることである。
【0048】
実施例1の正極材料複合体の粉末を用いて正極材料複合体95wt%、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)5wt%を混合し、N−メチルピロリドン(NMP)を溶媒としてスラリーとした。このスラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔(Al foil)に塗布して乾燥した後、プレスで圧密化して真空上で120℃で16時間乾燥することにより、直径16mmのディスク電極を製造した。
【0049】
対極としては直径16mmにパンチングしたリチウム金属箔を、分離膜としてはポリプロピレン(PP)フィルムを使用し、電解液としては1MのLiPFのエチレンカーボネート/ジメトキシエタン(EC/DME)1:1v/v混合溶液を使用し、電解液を分離膜に含浸させた後、この分離膜を作用極と対極との間に入れた後、SUS製品のケースを電極評価用試験セルにして電池の電極性能を評価し、放電容量を含んだ測定結果を表2に示した。
【0050】
【表2】

【0051】
イオン交換処理前後の試料の表面を電子顕微鏡で観察した結果、図1に示すように、イオン交換後の試料の表面がナトリウムの脱離及びリチウムの挿入により荒くなったことが観測された。
電気化学的特性を評価した結果では、放電カットオフ(Cut−off)が2.0Vで120mAhg−1の容量が得られ、1.0Vでは222mAhg−1の容量が得られた。
【0052】
実施例1による正極材料を含む電池の室温における充電/放電曲線グラフを図2及び図3に示した。また、実施例1により製造された正極材料を含む電池の高温(60°C)における放電曲線グラフである図4に示すように、3.9Vの明確な電位平坦面を確認することができた。したがって、イオン交換法で合成された本発明の正極材料のリチウムマンガンフッ化リン酸化物LiMnPOFは、電気化学的なリチウム挿入/脱離反応による充電/放電が可能であり、これによる放電容量を発現することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式[1]で表されるリチウムマンガン系フッ化リン酸塩化合物を含むことを特徴とするリチウム2次電池用正極材料。
LiMnPOF ・・・[1]
【請求項2】
前記一般式[1]のリチウムマンガン系フッ化リン酸塩化合物を含むリチウム2次電池用正極材料は、1次粒子の大きさが300nm以下であり、カーボンをコーティングし、3.7V〜4.0Vで放電による電位平坦面を示し、2.0V放電で100mAhg−1以上、1.0V放電で200mAhg−1以上の放電容量を有することを特徴とする請求項1に記載のリチウム2次電池用正極材料。
【請求項3】
(i)ナトリウム(Na)酸化物またはその前駆体、マンガン(Mn)酸化物またはその前駆体、リン(P)酸化物またはその前駆体、フッ化物(F)またはその前駆体をボールミルを用いて均一に混合して得られた混合物を前処理し、焼成することにより正極材料NaMnPOFを合成する段階と、
(ii)前記段階で合成された前記正極材料にイオン交換法を用いてリチウムを挿入してLiMnPOFを合成する段階と、
を含むことを特徴とするリチウム2次電池用正極材料の製造方法。
【請求項4】
前記段階(i)の前処理は、ボールミルを用いて6時間均一に混合した混合物を300℃で2時間空気雰囲気に保持することを特徴とする請求項3に記載のリチウム2次電池用正極材料の製造方法。
【請求項5】
前記段階(ii)は、前記段階(i)で得られた正極材料にイオン交換法を用いてリチウム挿入およびナトリウム脱離によりリチウムイオンを正極材料内に挿入する過程を含むことを特徴とする請求項3に記載のリチウム2次電池用正極材料の製造方法。
【請求項6】
前記段階(ii)は、前記段階(i)で得られた正極材料に化学的にナトリウムを脱離した後、化学的にリチウムを挿入する過程を含むことを特徴とする請求項3に記載のリチウム2次電池用正極材料の製造方法。
【請求項7】
前記段階(ii)で得られた正極材料とカーボン導電材を60:40〜90:10の重量比率で均一に混合し、ボールミルする過程によりカーボン導電材を正極表面に均一にコーティングして電気伝導度を高めることを特徴とする請求項3に記載のリチウム2次電池用正極材料の製造方法。
【請求項8】
前記ナトリウム酸化物の前駆体は、リン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、フッ化ナトリウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、またはこれらの混合物から選択された何れか1つであることを特徴とする請求項3に記載のリチウム2次電池用正極材料の製造方法。
【請求項9】
前記マンガン酸化物の前駆体は、マンガン金属、酸化マンガン、シュウ酸マンガン、酢酸マンガン、硝酸塩マンガン、またはこれらの混合物から選択された何れか1つであることを特徴とする請求項3に記載のリチウム2次電池用正極材料の製造方法。
【請求項10】
前記リン酸化物の前駆体は、リン酸アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、またはこれらの混合物から選択された何れか1つであることを特徴とする請求項3に記載のリチウム2次電池用正極材料の製造方法。
【請求項11】
前記イオン交換法を用いてリチウムを挿入するとき、リチウムとナトリウムのイオン交換を誘発する物質としてLiBrまたはLiIを用いることを特徴とする請求項3に記載のリチウム2次電池用正極材料の製造方法。
【請求項12】
前記カーボン導電材は、スーパーP(Super−P)、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(Ketchen Black)、またはカーボンであることを特徴とする請求項7に記載のリチウム2次電池用正極材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−69653(P2013−69653A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−272794(P2011−272794)
【出願日】平成23年12月13日(2011.12.13)
【出願人】(591251636)現代自動車株式会社 (1,064)
【出願人】(599028364)電子部品研究院 (28)
【氏名又は名称原語表記】KOREA ELECTRONICS TECHNOLOGY INSTITUTE
【住所又は居所原語表記】68 Yatap−dong, Bundang−gu, Seongnam−si, Gyeonggi−do 463−816, Republic of Korea
【Fターム(参考)】