説明

リニアモータ駆動装置

【課題】ローパスフィルタの周波数帯域を従来よりも広くしかつノーマルモードノイズを低減することができるリニアモータ駆動装置を提供する。
【解決手段】PWMドライバ3は、コントローラ1からの入力信号と負荷コイル2側からの負帰還信号との差を増幅する誤差アンプ31と、誤差アンプ31から出力された信号のパルス幅を補正して出力電圧の位相を進相させる位相補償アンプ32と、この出力電圧をパルス幅変調するPWMアンプ33と、PWMアンプ33と負荷コイル2との間に設けられたインダクタL1とコンデンサC1を含むローパスフィルタ34とを有する。ローパスフィルタ34は、さらにコンデンサC1と直列に接続された抵抗R1を含むとともに、抵抗R1を含む回路定数は、カットオフ周波数近傍における周波数特性が平滑化されるように設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造装置などに使用されリニアモータの速度をPWM方式によりフィードバック制御するためのリニアモータ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子や液晶パネルなどの製造装置(露光装置や検査装置等)においては、例えば、被露光部材(ウエハ)又はマスク(レクチル)を搭載したステージを、コイルユニットと磁石ユニットを備えたリニア同期モータ(以下単にリニアモータという)により駆動することが行われている(特許文献1参照)。特にスキャン形縮小投影露光装置では、ウエハステージとレクチルステージを等速で移動させながら転写するので、ナノオーダのスキャン精度を確保するために、同期一定速度送り、高精度位置決め、推力リップル改善が重要である。
【0003】
上記のリニアモータは、電流の値に応じた推力で可動部材(例えばコイルユニット)を移動させるために、負荷(U相コイル、V相コイル、W相コイルからなる3相コイル)に正弦波状の駆動電流(例えば数A〜10A)を供給することにより駆動される。この駆動電流は、商用電源を全波整流して直流電圧に変換するコンバータ部と、コンデンサで平滑化された直流電圧を任意の周波数の交流に変換するインバータ部を有する電圧形インバータから供給される。このインバータ部は、キャリア波(例えば三角波)と信号波を比較してブリッジ接続した各相のスイッチング素子をその制御位相を120°ずつずらして(UV−UW−VW−VU−WU−WV)オンオフすることにより、正弦波状の駆動電流に変調するPWM方式により制御される。通常のリニアモータは、可動子の移動方向を切り替える(コイルに供給する電流の向きを変える)ために可動子の位置を検出する位置センサを備えている(特許文献2参照)。
【0004】
上述したリニアモータの推力にリップル成分が含まれていると精密な速度制御及び位置決め制御が困難となるので、負荷(3相コイル)に供給される駆動電流を検出し、その電流値に基づいてインバータ部で電圧の周波数を変えてモータの速度を制御することが行われる。すなわちインバータ部では、出力電流をフィードバックしてPWM信号を生成することにより、出力電圧を安定化している。
【0005】
またPWM方式では、キャリア波と信号波との比較によってパルス幅変調出力を得るので、キャリア周波数を高くして(例えば100KHz)、変調信号以外の不要なキャリア周波数はサイドバンドとして高周波数域に移動させ、波形改善を行う。すなわち、スイッチング素子の中点とGND間にノイズフィルタ(以下ローパスフィルタという)を挿入して、その挿入損失を利用して高域の周波数をカットすることにより、外部に輻射されるノイズを低減するのが一般的である(例えば特許文献2参照)。このローパスフィルタは、高域の周波数をカットするために回路に直列に接続されるインダクタンス(周波数が高くなるとインピーダンスが増加)と、低域の周波数をカットするために回路に並列に接続されるコンデンサ(周波数が高くなるとインピーダンスが減少)を有する。
【0006】
また、上記のインバータ部で発生するノイズは、出力端子(プラス・マイナス)間に直流電圧に重畳されているノーマルモード成分と、アース間と出力端子間に発生し、出力端子間では同相のコモンモード成分からなる。コモンモードノイズは、回路のアンバランスがあるとノーマルモードに変わり、また一般にコモンモードノイズが大きくなると、外部に輻射されるノイズも大きくなるが、前記の通り電圧源(インバータ部)と負荷との間にローパスフィルタ(LCフィルタ)を挿入することにより除去できる。
【0007】
上述したPWM方式の電流制御系(フィードバック制御)においては、負荷電流や入力電圧の急激な変化に対する出力電圧の過渡応答特性を向上させるために、制御ループゲインを大きくすると、ローパスフィルタで位相遅れが生じ、負帰還であるべき帰還ループが正帰還となり、出力電圧は発振し易くなる。一方発振を抑制するために、制御ループゲインを小さくすると出力電圧の応答性が低下し、負荷電流が増大した場合、出力電圧が低下する。そこで、出力応答性と系の安定性を両立させるために、入力された電力をPWM信号に応じてスイッチングしてパルス状波形を形成するスイッチ回路と、パルス状波形を直流に変換して出力する平滑回路とを備えたスイッチング電源装置用制御装置においては、平滑回路の出力電圧に応じてこの出力電圧の変動を抑制するようにPWM信号の時比率を変化させる時比率調整部と、PWM信号の時比率を演算することによりPWM信号のパルス幅に補正を与えるように設けられた補正用帰還ループと、平滑回路を流れる電流を検出する検出素子からの出力の平均値を求め、時比率調整部内にこの平均値を加える平均電流値生成部とを備え、この平均値を減算器を介して時比率調整部に加える場合は、減算処理となるが、出力電圧の位相が進むように加えられることが提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−47285号公報(第2頁)
【特許文献2】特開2003−88170号公報(第3−4頁、図1、図2)
【特許文献3】特許第3740133号公報(第3−4頁、図1、図2、図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ノイズは線路を流れる電流の断続により発生するので、線路間を往復するノーマルモードノイズは大きいが、空間への放射が小さく、障害の度合が小さいので、特別な対策は提案されていない。しかしながらリニアモータの電流制御系では、高精度の速度制御、すなわち推力リップルの低減が必要とされるので、駆動装置で発生するノーマルモードノイズを無視することができないが、従来はその除去対策が検討されていないといった問題がある。
【0010】
したがって本発明の目的は、ノイズフィルタのカットオフ周波数帯域を従来よりも広くかつノーマルモードノイズを低減することができるリニアモータ駆動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明のリニアモータ駆動装置は、外部入力信号と出力側からの負帰還信号との差を増幅する誤差アンプと、誤差アンプから出力された信号のパルス幅を補正して出力電圧の位相を進相させる位相補償アンプと、この出力電圧をパルス幅変調するPWMアンプと、PWMアンプと負荷コイルとの間に設けられたLC回路を含むコイル入力型ローパスフィルタとを有するリニアモータ用駆動装置において、前記ローパスフィルタは、LC回路を構成するコンデンサと直列に接続された抵抗を含むとともに、抵抗を含む回路定数は、カットオフ周波数近傍における周波数特性が平滑化されるように設定されることを特徴とする。
【0012】
本発明において、前記ローパスフィルタは、前記コンデンサ及び前記抵抗と並列にコンデンサを接続するか又は前記抵抗と並列にコンデンサを接続することができる。
【0013】
本発明のリニアモータ駆動装置は、ローパスフィルタと負荷コイルとの間にコモンモードチョークコイルを接続することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、PWMアンプと負荷コイルとの間に、コンデンサと直列に接続された抵抗を含むとともに、抵抗を含む回路定数が、カットオフ周波数近傍における周波数特性が平滑化されるように設定されたコイル入力型ローパスフィルタを設けるので、ノイズフィルタのカットオフ周波数帯域を従来よりも広くかつノーマルモードノイズを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の駆動装置を備えたリニアモータの電流制御系を示すブロック図である。
【図2】本発明の駆動装置の要部を示す回路図である。
【図3】図2の等価回路を示す回路図である。
【図4】フィードバック制御系のゲイン−周波数特性を示す図であり、(a)は本発明のローパスフィルタを有するクローズドループのボード線図、(b)は比較例のローパスフィルタを有するのクローズドループのボード線図である。
【図5】フィードバック制御系のゲイン−周波数特性を示す図であり、(a)は本発明のローパスフィルタを有するオープンループのボード線図、(b)は比較例のローパスフィルタを有するのオープンループのボード線図である。
【図6】ローパスフィルタの抵抗と電圧リップル及び抵抗損失との関係を示す図である。
【図7】本発明の他の例を示す回路図である。
【図8】本発明の他の例を示す回路図である。
【図9】本発明のローパスフィルタを有するフィードバック制御系におけるクローズドループのボード線図である。
【図10】本発明のローパスフィルタを有するフィードバック制御系におけるオープンループのボード線図である。
【図11】比較例のローパスフィルタを有するフィードバック制御系におけるクローズドループのボード線図である。
【図12】比較例のローパスフィルタを有するフィードバック制御系におけるオープンループのボード線図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(フィードバック制御系)
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。図1に示すように本発明のリニアモータ駆動装置は、リニアモータの負荷(3相巻線)2に不要な高調波成分の少ない駆動電流を供給するために、特定のノイズフィルタを有するPWMドライバ3を備えている。リニアモータは負荷(3相巻線:U相コイル、V相コイル、W相コイルからなる3相コイル)に駆動電流を供給することにより、可動子(コイル又は磁石ユニット)が駆動される。負荷に供給される駆動電流の制御を行うPWMドライバ3は、コントローラ1からの電流指令(アナログ入力)と、負荷2側からフィードバックされた検出電流との偏差を演算して増幅する誤差アンプ31と、この偏差と推力指令との位相差を補償する位相補償アンプ32と、コントローラからの電流指令と出力電流を比較してスイッチング素子のオン時間を制御して所定のデューティー比でパルス幅変調された駆動電流を出力するPWMアンプ33と、駆動電流からノイズを除去するローパスフィルタ34を備えている。この検出電流は、負荷2とPWMドライバ3との間に接続されたシャント抵抗35により、その両端の電圧降下として検出され、絶縁アンプ36を介して誤差アンプ31に供給することにより、シャント抵抗の両端が絶縁されているので、ノイズが重畳され難く、高精度の電流検出が可能となる。
【0017】
(PWMアンプ)
PWMアンプ33は、ブリッジ接続した3組のスイッチング素子(図1では1組のみを示す。)を有する。スイッチング素子としては、例えばMOSFETを使用した場合は、その内蔵ダイオード(寄生ダイオード)がスイッチング素子と逆並列の帰還ダイオードとなり、負荷からの還流電流を流すことができる。PWMアンプ33は、キャリア波(例えば三角波)と正弦波(変調波)の電圧を比較して(一定高さのパルスをチョッピングして、デューティー比を変える)、各スイッチング素子をその制御位相を120°ずつずらして(UV−UW−VW−VU−WU−WV)オンオフさせることにより、低次の高調波が少ない波形が得られる正弦波PWM方式の回路構成を有する。
【0018】
(ローパスフィルタ)
図2に示すように、駆動手段(不図示)でオンオフされるスッチング素子M1及びM2を有するPWMアンプ33とコイルL13(負荷)との間にローパスフィルタ34が挿入されるとともに、ローパスフィルタ34とコイルL13(リニアモータの巻線)との間に駆動電流を検出するシャント抵抗Rsが接続されている。PWMアンプ33の出力電圧は、ローパスフィルタ34を介してコイルL13に供給されるので、スイッチング素子のオンオフで発生するノイズが除去される。ローパスフィルタ34は、負荷(コイルL13)と直列に接続されたコイルL1と、負荷と並列に接続されたコンデンサC1と、コンデンサC1と直列に接続された抵抗R1を有するコイル入力型ノイズフィルタである。実際のリニアモータはY形結線又はΔ形結線された3相コイル(U相コイル、V相コイル、W相コイル)を有するが、図2は1相分のみを示す。
【0019】
このローパスフィルタ34は、インダクタとコンデンサからなる少なくとも2次以上の次数をもつので、フィルタを通過したアナログ信号(正弦波電流)には180°以上の位相回転が生じるので、安定な負帰還動作を行うためには、ループゲインを下げて位相の進み補償を行うことが必要である。そこでコンデンサC1と直列に抵抗R1を接続する。このようにLC回路に抵抗を付加することにより、カットオフ周波数近傍におけるループゲインが下がるので、安定な負帰還動作を行うことができる。
【0020】
ただ単純にループゲインを下げただけでは、応答性が低下するので、ローパスフィルタ(単体)の特性、すなわちフィルタの周波数応答の変化の鋭さを示す指標となるQ値を下げて、周波数特性の変化を抑制する(Q値を下げて、接続回路とフィルタとで鋭い直列共振回路をつくらないようにする。)ことが必要である。そこでローパスフィルタの回路定数、特に付加抵抗の抵抗値を適切に選定することにより、周波数帯域を広げることが可能となり、もって輻射ノイズの減少効果と応答性を両立することができる。
【0021】
(ローパスフィルタの等価回路)
実際のフィードバック制御では、駆動電流はフィルタを構成するコイルの抵抗分や負荷コイルの抵抗分などの影響を受けるので、図3に示す等価回路で検討した結果を述べる。ローパスフィルタ34は、コイルL1、コンデンサC1及び付加抵抗R1からなる(C1はR1と直列回路を構成する。)とともに、コイルに含まれる抵抗分、すなわち銅損R5及び鉄損R6を含む。負荷側はコイルのインダクタンスL11とその抵抗分R11の直列回路とし、また電流を検出するためのシャント抵抗Rsを含む。この等価回路から、コンデンサC1の等価直列抵抗(ESR)と付加抵抗R1の合計(ESR+R1)が、コンデンサのインピーダンス(Z)よりも十分小さく、かつコンデンサのインピーダンスZがコイルのインピーダンス(Z)よりも十分に小さい場合は、フィルタを流れる電流Icは負荷抵抗R1に依存せず、ノイズフィルタの効果を維持できることがわかる。
【0022】
そこで、図3において、各素子定数を次のように設定してフィルタのQ値を算出した。例えばローパスフィルタは、カットオフ周波数を概ね20kHz(例えば17kHz)とするために、コイルL2のインダクタンスZ=0.4mH、銅損R5=0.5Ω、鉄損R6=1500Ω、コンデンサC1の容量=220nF、付加抵抗R1=3Ωとし、リニアモータの巻線(コイル)は、インダクタンスL11=8mH、抵抗R11=5Ωとし[インピーダンス(+j)=4.8kΩ]、シャント抵抗Rs=0.02Ωとし、PWMアンプのスイッチング周波数を100kHz、入力電圧を±175Vとした。図3の等価回路では、フィルタのQ値は、コイルL1のインピーダンスZ(+j=240Ω)を、コンデンサC1のインピーダンス(−j=7Ω)と付加抵抗R1とオン抵抗(スイッチング素子をオンオフする時の損失)と銅損の和で除した値[240Ω/ESR+外付抵抗(R1)+オン抵抗(スイッチング損失)+銅損(R6)]に近似できるので、Q値は大幅に低下し、ゲインの位相余裕が拡大することが明らかである。このフィルタ回路は、通過させたい信号の周波数の上限にカットオフ周波数を設定する(カットオフ周波数で挿入損失が増加し始める)ように、フィルタ定数(C/L)が決定され、例えば、カットオフ周波数を低くする場合は、素子定数を大きくすればよい。また通常のノイズフィルタと同様に、本発明においても、直列共振周波数が高く高周波損失が大きいコイルL1を使用することが好ましい。
【0023】
(ローパスフィルタのゲイン−周波数特性)
図3の等価回路において、各素子の定数を上記と同様に設定してフィルタ回路の周波数特性をシミュレーションにより算出した結果を図4(a)に示し、比較のために図3において外付け抵抗が無い場合のシミュレーション結果を図4(b)に示す。
【0024】
図4(b)に示すように、比較例のローパスフィルタを備えたクローズドループのゲインは、20kHz(カットオフ周波数)近傍で約30dBの鋭いピークをもつのに対し、図4(a)に示すように、本発明のローパスフィルタを備えたクローズドループのゲインは、20kHz近傍にピークが存在するが、その値は20dBに減少しかつピークの前後で緩やかなゲイン変動になることがわかる。またゲインの減衰特性を比較すると、100kHz(スイッチング周波数)のゲインは、図4(a)と図4(b)とで略同一の値(約−30dB)であることがわかる。すなわち、ローパスフィルタ(LC回路)にコイルL及びコンデンサCのインピーダンスよりも十分に小さいインピーダンスを有する抵抗を付加することにより、カットオフ周波数に変動はないが、フィルタのQ値が大幅に低下し、その分フィードバック制御系の一巡(クローズドループ)ゲインを増加できる、すなわちローパスフィルタのノイズ除去機能を低下することなく、応答性の高い負帰還動作を実現できることがわかる。
【0025】
図4に示す周波数特性はシミュレーションで算出した結果であるが、動作確認用回路でゲイン−周波数特性を実測した結果を見ると、シミュレーション結果と略一致しており、ゲインのピークの数値は異なるが、カットオフ周波数(20kHz)におけるゲインのピーク値が略10dBだけ下がることが確認された。
【0026】
(フィードバック制御系のゲイン−周波数特性)
次に、本発明のローパスフィルタを備えたフィードバック制御系(図1参照)のゲイン−周波数特性をシミュレーション(回路定数は図4の場合と同様)により算出した結果を図5(a)に示す。また比較のために、図2において抵抗R1が無いローパスフィルタを備えた以外は図5(a)と同一の条件でシミュレーションした結果を図5(b)に示す。図5(a)に示すように、本発明のローパスフィルタを備えたフィードバック制御系のオープンループゲインのピークはカットオフ周波数付近に存在し、その値は4kHz付近の周波数におけるゲインと同等であり、図5(b)に示す従来のローパスフィルタを備えたフィードバック制御系のオープンループゲインのピークが2kHz付近の周波数におけるゲインと略同等である、すなわち、モータ駆動周波数のバンド幅を従来の2倍にできることがわかる。したがって本発明のローパスフィルタを備えたフィードバック制御系では、駆動電流(実電流)を検出する回路の出力端から負帰還を掛けているので、PWMアンプの電源電圧の変動によりフィードバック制御系のゲインが変動することがあるが、その場合でも、ゲイン余裕(ボード線図では位相交点におけるゲインの符号を反転させた値となる)を考慮した場合、応答性を損なわずに安定性を確保することができる。
【0027】
また図5に示す周波数特性もシミュレーションで算出した結果であるが、前述した動作確認用回路で入力指令をステップ状の電圧で与えた場合の駆動電流の立ち上がり時間を実測した結果を見ると、電源電圧(入力指令)の変動によるゲインの変化に対して余裕があり、安定した動作を行えることが確認された。
【0028】
(素子定数の設定)
図2に示すローパスフィルタにおいて、LC回路に付加した抵抗R1の値を変化させた場合の、抵抗R1での損失(Ploss)、抵抗R1に印加される電圧(VR1pp)、スイッチング素子のオンオフに伴い抵抗の両端に発生する電圧のリップル(Vout1pp)をシミュレーションで算出した結果を図6に示す。同図から、抵抗R1が増加すると、抵抗R1に印加される電圧も増加するので、損失が増大する。またリップル成分(電圧はコンデンサのインピーダンスと抵抗のインピーダンスの合計になる。)は抵抗R1が5Ωまでは緩やかに増加し、抵抗R1が7Ω以上になると急激に増加することがわかる。このシミュレーション結果から、抵抗R1が5Ωまではリップル電圧を低減できることがわかる。ただし抵抗R1が低くなりすぎるとカットオフ周波数近傍におけるループゲインを下げる効果が減少し、安定な負帰還動作を行うことが困難となることも考慮すると、付加抵抗R1の値は例えば2〜5Ωの範囲に設定することが好ましい。この抵抗値は、リニアモータの動作仕様(推力、駆動電流、ストローク等)、制御機器の構成及びその使用環境(配線、接地方法等)などを考慮して設定すればよい。例えば半導体製造用縮小投影露光装置で使用されるリニアモータの場合には、ローパスフィルタに付加する抵抗R1を上述したような範囲(2〜5Ω)に設定すればよい。
【0029】
(コモンモードチョークコイル)
また、本発明においては、図2に示す回路構成に限らず、図7及び図8に示すように、輻射ノイズをさらに低減する(コモンモードノイズを除去する)ために、ローパスフィルタと負荷コイルとの間に、3個のコイルを各巻線に生じる電圧が打ち消し合う方向に巻回して形成したコモンモードチョークコイルを接続した回路構成とすることができる。図7はY形結線された3相コイルの各相に駆動電流を供給する3相3線方式であり、図8はY形結線された3相コイルの中性点にも駆動電流を供給する3相4線方式である。図7及び8において、負荷コイルはΔ結線されていてもよい。
【0030】
図7の回路では、各組のスイッチング素子(M1とM2、M3とM4、M5とM6)から出力された駆動電流は各々、ローパスフィルタ34a(L1、R1、C1)、34b(L2、R2、C2)、34C(L3、R3、C3)及びコモンモードチョークコイル(L14、L15、L16)を介して各相のコイルL13、L12及びL11に供給される。
【0031】
図8の回路では、各組のスイッチング素子(M1とM2、M3とM4、M5とM6)から出力された駆動電流は各々、図7と同様にローパスフィルタ(34a、34b、34C)及びコモンモードチョークコイル(L14、L15、L16)を介して各相のコイルL13、L12及びL11に供給される。また残りのスイッチング素子(M7とM8)ら出力された駆動電流は、ローパスフィルタ34d(L18、R4、C4)を介して負荷コイルの中性点に供給される。
【0032】
(動作の安定性及び応答性)
本発明のローパスフィルタを備えた電流制御系の動作の安定性と電流指令に対する応答性を確認するために、図8に示す電流制御回路のゲイン−周波数特性を測定した結果を図9及び図10に示す。ローパスフィルタを構成する各素子の定数は、図3の場合と同様である。また比較のために図8において付加抵抗を除いたローパスフィルタを備えた以外は同様の電流制御回路のゲイン−周波数特性を測定した結果を図11及び図12に示す。図9及び図11はクローズドループのボード線図、図10及び図12はオープンループのボード線図である。図9と図11から、本発明によれば、カットオフ周波数(20kHz)近傍において比較例よりもゲインのピークが2.3dB減少するが、ピーク以外の特性は殆ど変化しないことがわかる。すなわち電源電圧が約30%増加してその分ゲインが増加しても安定な動作が行えることがわかる。また図10と図12からオープンループゲインは全体として2.3dB高くなるので、応答性が約20%向上することがわかる。
【0033】
(ローパスフィルタの変形例)
本発明のローパスフィルタは、上記の回路構成に限定されず、例えば次のような変更(図示を省略する。)が可能である。すなわち図2に示すフィルタ回路において、抵抗R1と並列にコンデンサを接続することができる。またコンデンサと抵抗の直列回路に並列にコンデンサを付加することができる。このようにローパスフィルタにバイパス・コンデンサを付加することにより、フィルタのQ値を調整できるので、フィルタのカットオフ周波数を微調整できると推定される。これらの回路構成を採用する場合は、スイッチング周波数におけるコンデンサのインピーダンスを抵抗よりも十分大きくして、スイッチング周波数におけるフィルタの特性(Q値)を低減する効果が維持できるように素子定数を設定すればよい。
【0034】
(ノーマルモードノイズ)
2つの回路を接続する2本以上の配線が同時に同じノイズの影響を受けた場合(コモンモードノイズ)、各配線に同じ大きさで同じ向きに流れる電流が発生するが、このノイズは原理的に除去できる。しかし、複数の配線がそれぞれ異なったノイズの影響を受けた場合(ノーマルモードノイズ)、このノイズは原理的に除去できないので、本発明では複数の接続線を同じ環境化にあるように配線させることが好ましい。
【符号の説明】
【0035】
1:コントローラ、2:負荷、3:PWMドライバ、31:誤差アンプ、32:位相補償アンプ、33:PWMアンプ、34:ローパスフィルタ、35:シャント抵抗、36:絶縁アンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部入力信号と負荷コイル側からの負帰還信号との偏差を増幅する誤差アンプと、前記誤差アンプから出力された信号のパルス幅を補正して出力電圧の位相を進相させる位相補償アンプと、位相補償された信号をパルス幅変調するPWMアンプと、前記PWMアンプと前記負荷コイルとの間に設けられたLC回路を含むローパスフィルタとを有するリニアモータ駆動装置において、前記ローパスフィルタは、コンデンサと直列に接続された付加抵抗を含むとともに、この抵抗の素子定数は、カットオフ周波数の実質的な変動を伴わずにフィルタ回路のQ値が低減するように設定されることを特徴とするリニアモータ駆動装置。
【請求項2】
前記ローパスフィルタは、少なくとも抵抗と並列に接続されたバイパス・コンデンサを含むことを特徴とする請求項1に記載のリニアモータ駆動装置。
【請求項3】
前記ローパスフィルタと前記負荷コイルとの間にコモンモードチョークコイルが接続されることを特徴とする請求項1に記載のリニアモータ駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−63346(P2010−63346A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−120907(P2009−120907)
【出願日】平成21年5月19日(2009.5.19)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【出願人】(393027383)NEOMAXエンジニアリング株式会社 (46)
【Fターム(参考)】