説明

リポソーム製剤の製造方法

【課題】均一な粒子径のリポソームを効率的に調製することのできるリポソーム製剤の製造方法および該方法により得られたリポソーム製剤の提供。
【解決手段】マイクロ流路を使ってリポソームを製造するにあたり、マイクロ流路内にリン脂質膜を一端形成させ、その後内包物を導入し、その流速、流路内径を調整して、リポソームを形成させることによって、粒子径の均一なリポソーム製剤を調製することを特徴とするリポソーム製剤の製造方法および該方法により得られたリポソーム製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子径分布が調節されたリポソーム製剤の製造方法、および該方法により得られたリポソーム製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
リポソームは、主にリン脂質によって形成される二分子膜(リポソーム膜)の閉鎖小胞体であり、生体膜と類似の構造や機能を有するため、従来から様々な研究材料として用いられてきている。このリポソームは、内部に有する水相には水溶性の薬効成分を、二分子膜の内部には油溶性の薬効成分を保持するという、いわゆるカプセル構造を構築できることから、診断、治療、化粧などの様々な分野で用いられてきている。さらに、近年では、薬物送達システム(DDS)への応用が盛んに研究されている。
【0003】
このような薬効成分を内包したリポソームは、通常、ロータリエバポレータ等を使い恒温槽にて丸底フラスコの回転条件下でフラスコの底部に脂質膜を形成させ、そこに内包物を含む水溶液を導入して、減圧条件下で形成される(非特許文献1)。そして、このようにして得られるリポソームは粒子径分布が広く、ゲルろ過等の処理を経て目的径のリポソームの回収を行っていた。しかし、その方法では回収されるリポソームは投入原料のせいぜい1%程度にしかならず、製造コストの高額化が大きな問題であった。
【0004】
マイクロ流路を使ったリポソームの製法としてはアンドレアス・ジャーン等の方法がある(非特許文献2)。この方法では、流路が十字構造となり、中央流路に内包物と脂質と有機溶媒の混合物を流し、両側流路から緩衝液を流し、この両者の混合速度(希釈過程)の調整によりリポソームの調製をおこなう技術がある。しかし、この方法では有機物がリポソーム製剤に残留しており、有機溶媒による生体への好ましくない影響が問題となる。
【非特許文献1】J.Mol.Biol.,13,238(1965):Bangham法
【非特許文献2】J.Am.Chem. Soc. 2004, 126, 2674-2675(Controlled Vesicle self-assembly in microfluidic channels with hydrodynamic focusing)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、リポソーム製剤の製造方法において、均一な粒子径のリポソームを効率的に調製する方法を提供することであり、および該方法により得られたリポソーム製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のリポソーム製剤の製造方法は、マイクロ流路を使ってリポソームを製造するにあたり、マイクロ流路内にリン脂質膜を一端形成させ、その後内包対象物を導入し、その流速、流路内径を調整して、リポソームを形成させることによって、均一な粒子径のリポソーム製剤を調製することを特徴とする。
【0007】
つまり、本発明は以下からなる。
1.マイクロ流路内に、有機溶媒に溶解させたリン脂質を導入し、有機溶媒を乾燥させてマイクロ流路の壁にリン脂質の薄膜を形成させ、流速調整下で、内包対象物を含む水溶液を流し、薄膜を剥がしとり、リポソームを生成させる工程を含む粒子径が均一化されたリポソーム製剤の製造方法。
2.マイクロ流路の内径が100〜1000μmである前項1のリポソーム製剤の製造方法。
3.流速が、0.01〜0.5m/秒である前項1又は2に記載のリポソーム製剤の製造方法。
4.リポソーム形成時の温度が、15〜70℃である前項1〜3何れか一に記載のリポソーム製剤の製造方法。
5.前項1〜4のいずれかに記載の製造方法により得られることを特徴とするリポソーム製剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明のリポソーム製剤の製造方法によれば、所望の粒子径のリポソームを効率的に所得可能であり、またその方法が簡便であることから工業的レベルでリポソームを調製するために優れた方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明のリポソーム製剤の製造方法について詳細に説明する。
【0010】
本発明のリポソーム製剤の製造方法は、マイクロ流路内に、有機溶媒に溶解させたリン脂質を導入し、有機溶媒を乾燥させてマイクロ流路の壁にリン脂質の薄膜を形成させ、流速調整下で、内包対象物を含む水溶液を流し、薄膜を剥がしとり、リポソームを生成させる工程を含む方法である。
【0011】
本発明のリポソーム製剤は、リポソームの水性分散液製剤又は凍結乾燥製剤として調製できる。好適な製剤は、内包対象物が水溶性薬剤等であり、水溶性薬剤が内包されたリポソームが水性溶媒中に分散している水性分散液として調製できる。このリポソームの水性分散液には、安定化剤、キレート剤、抗酸化剤、粘度調節剤、緩衝剤、pH調整剤などが溶解または分散していてもよい。このようなリポソームの水性分散液の調製は、各種の方法が知られているが、目的、特性、用途などに応じて適宜選択して行う。
【0012】
リポソームに内包される水溶性薬剤としては、造影剤、抗酸化剤、抗菌剤、抗炎症剤、血行促進剤、美白剤、肌荒れ防止剤、老化防止剤、発毛促進剤、保湿剤、ホルモン剤、ビタミン類、色素、およびタンパク質類などが挙げられる。
【0013】
本発明の製造方法によって調製されるリポソームとしては、多重層膜からなるリポソーム(Multilamellar vesicles; MLV)、粒子径が大きい一枚膜のLUVからなるリポソーム(Large unilamellar veislcles)、粒子径が50nm未満の小さい一枚膜のSUVからなるリポソーム(Small unilamellar vesicles)が挙げられ、これらは混在していてもよい。
好適なリポソームは、通常、脂質二重膜から形成されている。その脂質膜の成分として、通常リン脂質が好ましく使用される。
【0014】
本発明の製造方法で調製されるリポソームにおいて使用される原料のリン脂質は、中性リン脂質として、大豆、卵黄などから得られるレシチン、リゾレシチンおよび/またはこれらの水素添加物、水酸化物の誘導体を挙げることができる。これらは単独でも併用してもよい。その他のリン脂質として、卵黄、大豆またはその他、動植物に由来するホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴミエリン、合成により得られるホスファチジン酸、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジミリストリルホスファチジルコリン(DMPC)、ジオレイルホスファチジルコリン(DOPC)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジステアロイルホスファチジルセリン(DSPS)、ジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)、ジパルミトイルホスファチジルイノシトール(DPPI)、ジステアロイルホスファチジルイノシトール(DSPI)、ジパルミトイルホスファチジン酸(DPPA)、ジステアロイルホスファチジン酸(DSPA)などを挙げることができる。
【0015】
これらのリン脂質は通常、単独で使用されるが、2種以上併用して混合使用してもよい。2種以上の荷電リン脂質を使用する場合には、負電荷のリン脂質同士または正電荷のリン脂質同士で使用することが、リポソームの凝集防止の観点から望ましい。中性リン脂質と荷電リン脂質を併用する場合、重量比として通常、200:1〜3:1、好ましくは100:1〜4:1、より好ましくは40:1〜5:1である。
【0016】
所望によりリポソームの膜構成成分として、上記脂質成分の他に他の成分を加えることもできる。その例として、膜安定化剤またはポリアルキレンオキシド基導入用アンカーとしてコレステロール、コレステロールエステルなどのステロール類、荷電物質であるジセチルホスフェートといったリン酸ジアルキルエステルなどが例示される。
【0017】
本発明の製造方法において、マイクロ流路とは、入口と出口を有する長さが 2mm〜5mの流路であり、その流路内径は100〜1000μm好ましくは200〜530μmであって、その流路内径は所望するリポソーム粒子径により調整される。マイクロ流路内へは、有機溶媒例えばクロロホルム、アルコール(イソプロピルアルコール)等でリン脂質を溶解し、これを導入する。有機溶剤とリン脂質の混合比は、リン脂質が溶解される十分量であれば特に限定されるものではないが、一般的には、2〜30mg/mlの濃度に調整され使用される。マイクロ流路に導入されるリン脂質含有有機溶剤は、マイクロ流路の体積に応じて流路が十分に満たされる量である。流路に導入された後、流路は回転、乾燥等によって、流路内から完全に有機溶剤が飛ばされ、流路内壁に薄膜が形成される。有機溶媒を飛ばすためには、温度 15〜40℃ で、約500〜4000分間程度をかけ一様な薄膜を形成させる。薄膜の厚さは、約2〜20μmである。
薄膜が形成された後、十分に(例えば500〜1500分間かけて)乾燥させ、次いでマイクロ流路内に内包物を含む水溶液例えば生理食塩水を導入させ、リポソーム形成を行う。このとき、水溶液の導入速度は、流速が、0.01〜0.5m/秒、好ましくは0.05〜0.3m/秒、より好ましくは0.1〜0.2m/秒である。流路内の水溶液温度は、15〜70℃、好ましくは50〜65℃、より好ましくは55〜62℃である。
この条件で、水溶液によって薄膜が剥がしとられ、流路からリポソームが排出されてくる。形成されたリポソームは、遠心分離等の手段で沈殿として回収される。回収されたリポソームは、所望により粒子径調整のためのろ過、製剤化のための付加処理、滅菌等が行われ、所望により凍結乾燥化及び/又は水溶液製剤として調製される。
【実施例】
【0018】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0019】
(製造例1)
リポソームの調製
卵黄レシチン0.3g、ジセチルホスフェート20mgに、クロロホルム10mlを添加した後、完全に溶解するまで攪拌した。温度を60℃に保ち、内径200、320および530μm、長さ 1.5mのマイクロ流路に十分量導入し、1000分間の減圧条件でクロロホルムを減圧留去し、リン脂質の薄膜をマイクロ流路の内壁に形成させた。ついで、マイクロ流路の入口から温度60℃の生理食塩水を流速0.05〜0.25m/秒の速度で導入させ、マイクロ流路の出口から形成されたリポソームの分散水溶液を得た。この水溶液を12000rpmの条件で遠心分離し、多重膜リポソームを沈殿として回収した。沈殿を凍結乾燥し、乾燥リポソーム製剤を調製した。
【0020】
(実験例1)
実施例に示した方法で得た、リポソームについて、マイクロ流路の内径の影響の測定、流路内に導入される水溶液の流速の影響の測定、温度の影響の測定、粒子径分布の測定、及び収率評価〔粒子径ピーク値から幅±25nmのリポソーム量(mg)/流路管内の卵黄レシチン量(mg)x 100〕を行った。
【0021】
図1は、マイクロ流路の内径320μmのものを使い60℃の条件下で0.25m/秒の流速で生理食塩水を流路内に導入し、リポソームを形成させたときのリポソームの粒子径分布とBangham法(非特許文献1)で生成したリポソームの粒子径を比較したものである。図中、横軸は粒子径(nm)、縦軸はintensity(%)(確率密度)を示し、点線は本願発明、実線はBangham法によるものである。本願発明の方法によると、分布は1つのピークであるが、Bangham法によると2つのピークが存在した。
図2は、マイクロ流路の内径200、320および530μmのものを使い60℃の条件下で0.05〜0.25m/秒の流速で生理食塩水を流路内に導入し、リポソームを形成させたときのリポソームの平均粒子径を測定したものである。図中、横軸はマイクロ流路内に導入される生理食塩水の流速、縦軸は得られたリポソームの粒子径を示し、一点鎖線はBangham法によるもの、□はマイクロ流路の内径が320μmによって得られたリポソーム、×はマイクロ流路の内径が200μmによって得られたリポソーム、菱形はマイクロ流路の内径が530μmによって得られたリポソームの平均粒子径を示す。本願発明の方法では、流速に応じて、粒子径が調節できることが示されている。
表1は、収率結果を示しており、マイクロ流路の内径とマイクロ流路内への水溶液の導入速度によって収率が影響されることを示す。Bangham法による回収率が0.82%であることから、320μm・60℃・0.25m/秒、530μm・60℃・0.25m/秒、530μm・60℃・0.15m/秒、530μm・60℃・0.05m/秒が好適な回収率をえることが確認できる。
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明のリポソーム製剤の粒子径分布を示す。
【図2】本発明のリポソーム製剤の製造方法の流速とマイクロ流路の内径の影響を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ流路内に、有機溶媒に溶解させたリン脂質を導入し、有機溶媒を乾燥させてマイクロ流路の壁にリン脂質の薄膜を形成させ、流速調整下で、内包対象物を含む水溶液を流し、薄膜を剥がしとり、リポソームを生成させる工程を含む粒子径が均一化されたリポソーム製剤の製造方法。
【請求項2】
マイクロ流路の内径が100〜1000μmである請求項1のリポソーム製剤の製造方法。
【請求項3】
流速が、0.01〜0.5m/秒である請求項1又は2に記載のリポソーム製剤の製造方法。
【請求項4】
リポソーム形成時の温度が、15〜70℃である請求項1〜3の何れか一に記載のリポソーム製剤の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一に記載の製造方法により得られることを特徴とするリポソーム製剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−285459(P2008−285459A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−134414(P2007−134414)
【出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年2月20日 神戸大学工学部応用化学科発行の「神戸大学修士論文・卒業論文研究発表講演要旨集(2006年度)に発表
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【Fターム(参考)】