説明

リポ酸誘導体を含有する医薬製剤

リポ酸誘導体を含有する医薬製剤が作製される。例えば、本発明は、(a)少なくとも1種のリポ酸誘導体またはその塩、および(b)少なくとも1種のイオン対形成剤を含む医薬製剤であって、リポ酸誘導体とイオン対形成剤がイオン対を形成する医薬製剤を提供する。本発明は、癌細胞の代謝、および、ワールブルグ効果と結びついているシグナル変換経路を変化させることにより、腫瘍細胞を選択的に殺すリポ酸誘導体またはその塩を含有する医薬製剤、および、そのような医薬製剤により対象を治療する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌細胞の代謝、および、ワールブルグ効果と結びついているシグナル変換経路を変化させることにより、腫瘍細胞を選択的に殺すリポ酸誘導体またはその塩を含有する医薬製剤、および、そのような医薬製剤により対象を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
哺乳動物の全ての細胞は、生きて成長するためにエネルギーを必要とする。細胞は、食物分子を酸化代謝することによって、このエネルギーを得る。大部分の通常細胞は、食物を代謝するために単一の代謝経路を使用する。この代謝経路の最初の工程は、グリコリシスとして知られている2単位のATPを生じさせるプロセスで、グルコース分子をピルビン酸塩へ部分的に分解する工程である。グリコリシスは、低酸素状態でも起こり得る。ピルビン酸塩は、トリカルボン酸(TCA)サイクルとして知られているプロセスにより、ミトコンドリア中でさらに分解して、グルコース1分子当たり、36単位のATPと、水および二酸化炭素を生成する。TCAサイクルには酸素が必要である。低酸素濃度の間、通常細胞は種々のメカニズムでこれに順応し、酸素濃度が回復すると通常代謝に戻る。グリコリシスとTCAサイクルを結び付ける重要なものに、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(「PDH」)として知られている酵素がある。PDHはより大きなマルチサブユニットからなる複合体(以下、「PDC]という)の一部である。PDHは、PDC複合体の他の酵素と共同して、グリコリシスで生産されたピルビン酸塩をTCAサイクルに効率的に送り込むアセチルCoAを生成する。
【0003】
癌の殆どは、エネルギー代謝に大きな混乱を示す。基本的な変化の1つは、ワールブルグ効果が働くことであり、グリコリシスが主要なATP源となる。ATPの不足は、TCAによるATPの産生が低下することによる。言い換えれば、癌細胞は低酸素状態にない場合にも、あたかも低酸素状態にあるかのように振舞う。エネルギー代謝におけるこの変化は、悪性転換であることを示す、最も有力で、かつ論文で十分に立証されている相関の一つを表すものであり、腫瘍の成長と転移に繋がる他の変化と結び付けられている。グリコリシスがTCAサイクルと大きく切り離された結果、利用可能なATP濃度が低下するために、癌細胞は、そのエネルギー不足を埋め合わせる目的で、グルコースの消費とそのピルビン酸塩への転換を増大させる。過剰のピルビン酸塩とワールブルグ生化学の他の代謝副生物が処理されなければならない。これらの多くの代謝物は細胞毒性があることが知られている(例えば、アセトアルデヒド)。癌中のPDCは、他の関連する酵素と共に過剰のピルビン酸塩および代謝物を処理し、かつ/または、無毒化することにおいて主要な役割を果たす。例えば、2個のアセチル分子を結合して中性化合物アセトインを生成するなど。このアセトインの生成は、腫瘍に特異的な形態のPDCが触媒する。リポ酸は、これらの他の有毒代謝物を無毒化するのに、酵素を使用して、PDCおよび関連するリポアミドの補酵素として作用することが示唆されている。リポ酸が健康な細胞でも癌細胞でも作製されるのか、あるいは、それが必須栄養素であるかについて、文献中で議論されているが、両方の場合があり得るであろう。リポ酸の産生に必要な遺伝子は、哺乳動物の細胞で同定されている。ミトコンドリアポンプないし取り込み機構が、健康な細胞または癌細胞に存在するのか、あるいは、それらは組織によって異なるのかについては不明である。TCAサイクルは癌細胞で依然として機能するが、腫瘍細胞のTCAサイクルは、主要エネルギー源をグルタミンとする変異サイクルである。代謝物を無毒化する腫瘍特異的PDCおよび関連酵素の働きを抑制または不活性化させれば、アポトーシスまたは壊死および細胞の死を促進することになろう。
【0004】
様々なタイプの腫瘍およびそれらの代謝の間で保存性の高い変化の特徴を明らかにする研究が広く行われているにもかかわらず、癌の化学療法の対象として利用できる変化は未だ残されたままである。癌は、依然アメリカ人の死亡原因の第2位を占めるため、疾病管理に対する新しいアプローチが緊急のニーズとして存在する。リポ酸は、酸化還元電位特性を有するため、糖尿病、アルツハイマー病および癌などのミトコンドリア機能を含む種々の疾病の治療に有用であることが示唆されている。これらの報告は、SHからS−Sへのレドックスシフトを利用することで所望の効果が得られることを教示している。
【0005】
米国特許第6,331,559号明細書(特許文献1)および米国特許第6,951,887号明細書(特許文献2)には、腫瘍細胞およびそれとは異なるある特定のタイプの異常細胞を選択的に標的にして殺す新しい分類の治療薬が開示されている。これらの特許には、さらに、薬学的に許容される担体とともに、その発明のリポ酸誘導体を有効量含む医薬組成物が開示されている。しかしながら、これらの特許には、薬学的に許容される適切な担体の選択に関して明確な助言がなされていない。本発明者らが今や発見したように、リポ酸誘導体の製剤処方が、これらの薬剤の有効性に極めて重要であることがわかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,331,559号明細書
【特許文献2】米国特許第6,951,887号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様では、本発明は、(a)少なくとも1種のリポ酸誘導体またはその塩、および(b)少なくとも1種のイオン対形成剤、および必要に応じて(c)薬学的に許容される希釈剤を含む医薬製剤に関する。本発明の好ましい一実施形態では、リポ酸誘導体は式(I):
【化1】


(式中、RおよびRは、独立して、RC(O)−と定義されるアシル、C2n+1と定義されるアルキル、C2m−1と定義されるアルケニル、C2m−3と定義されるアルキニル、アリール、ヘテロアリール、CH(CH−S−と定義される硫化アルキル、RC(=NH)−と定義されるイミドイル、RCH(OH)−S−と定義されるヘミアセタール、および水素からなる群から選択され(但し、RおよびRの少なくとも1つは水素ではない);上記のように定義されるRおよびRは置換されていなくても置換されていてもよく;Rは水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、アルキルアリール、ヘテロアリール、またはヘテロシクリルであり、いずれも置換されていても置換されていなくてもよく;RはCClまたはCOOHであり;かつxは0〜16、nは0〜10、mは2〜10である)で表わされる。好ましい一実施形態では、RおよびRはいずれもベンジル基、すなわち、RおよびRはいずれも、独立して、−CHである。他の好ましい一実施形態では、リポ酸誘導体は、式(II):
【化2】


(式中、Mは金属キレート、−[C(R)(R)]−または他の金属錯体であり;RおよびRは、独立して、RC(O)−と定義されるアシル、C2n+1と定義されるアルキル、C2m−1と定義されるアルケニル、C2m−3と定義されるアルキニル、アリール、CH(CH−S−と定義される硫化アルキル、RC(=NH)−と定義されるイミドイル、RCH(OH)−S−と定義されるヘミアセタール、および水素からなる群から選択され;上記のように定義されるRおよびRは置換されていなくても置換されていてもよく;Rは水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、アルキルアリール、ヘテロアリール、またはヘテロシクリルであり、いずれも置換されていても置換されていなくてもよく;RはCClまたはCOOHであり;かつxは0〜16、zは0〜5、nは0〜10、mは2〜10である)で表わされる。
【0008】
本発明のさらに他の好ましい実施形態としては、治療に有効な量のリポ酸誘導体を含むものが挙げられる。本発明のまたさらに他の好ましい実施形態としては、イオン対形成剤がトリエタノールアミン、ポリエチレンイミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、メフェナム酸、トロメタミンおよびこれらの組み合わせからなる群から選択されるもの、イオン対形成剤がポリマー共役イオン対形成剤であるもの、並びにイオン対形成剤および少なくとも1種のリポ酸誘導体が約1000:1〜約1:1000の範囲の比で存在するものが挙げられる。本発明のさらに他の好ましい実施形態としては、また、希釈剤が生理食塩水、糖溶液、アルコール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミドおよびこれらの組み合わせからなる群から選択されるものが挙げられる。
【0009】
第2の態様では、本発明は、リポ酸誘導体に対し感受性を有する異常細胞により特徴付けられる病気を治療する方法であって、それを必要とする患者へ、少なくとも1種のリポ酸誘導体またはその塩、少なくとも1種のイオン対形成剤、および必要に応じて薬学的に許容される希釈剤を含む医薬製剤を投与することを含む方法に関する。第3の態様では、本発明は、リポ酸誘導体に対し感受性を有する異常細胞により特徴付けられる病気を予防する方法であって、それを必要とする患者へ、少なくとも1種のリポ酸誘導体またはその塩、少なくとも1種のイオン対形成剤、および必要に応じて薬学的に許容される希釈剤を含む医薬製剤を投与することを含む方法に関する。これらの方法の好ましい実施形態においては、病気は、上皮性悪性腫瘍、肉腫、骨髄腫、リンパ腫、白血病、または複合型の癌である。
【0010】
さらに他の態様では、本発明は、(a)少なくとも1種のリポ酸誘導体と(b)少なくとも1種のイオン対形成剤からなるイオン対、特に好ましくは、それぞれビス−ベンジルリポエートとトリエタノールアミンからなるイオン対に関する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1Aおよび図1Bは、それぞれ、Tween80/エタノールに溶解したビス−ベンジルリポエート医薬製剤により治療したH460腫瘍罹患マウスの腫瘍体積および体重を示す。
【図2】図2A、図2Bおよび図2Cは、トリエタノールアミン/デキストロースに溶解したビス−ベンジルリポエート医薬製剤により、3種類の異なる投与量で治療したH460腫瘍罹患マウスの腫瘍体積を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、腫瘍細胞を標的として殺す効果を有するリポ酸誘導体含有医薬製剤に関する。多くの治療薬の製剤処方が全く伝統的なものであるのに対し、このリポ酸誘導体の製剤処方がそうではないことを本発明者らは見出した。実際、リポ酸誘導体を含む特定の製剤処方は、意図した目的に対して不活性であるか活性であるかの決定因子に十分なり得る。したがって、第1の実施形態においては、本発明は(a)少なくとも1種のリポ酸誘導体、および(b)少なくとも1種のイオン対形成剤、および必要に応じて(c)薬学的に許容される希釈剤を含む医薬製剤に関する。
【0013】
本発明での使用に適したリポ酸誘導体としては、米国特許第6,331,559号明細書および米国特許第6,951,887号明細書のそれぞれに詳細に記載されているもの、並びに、2007年4月18日に出願された同時係属中の米国仮特許出願第60/912,598号明細書[代理人整理番号03459.000110.PV]、および2008年4月××日に出願された同時係属中の対応米国特許出願第××/×××,×××号明細書[代理人整理番号03459.000110.]に記載されているものが挙げられる。これらのそれぞれの開示は、参照することにより本明細書に援用される。本発明での使用に適したリポ酸誘導体は、前述の特許に記載されているような既知の方法で調製することができる。本発明の好ましい一実施形態においては、リポ酸誘導体は式(I)で表わされるか、またはその塩である。
【化3】


(式中、RおよびRは、独立して、RC(O)−と定義されるアシル、C2n+1と定義されるアルキル、C2m−1と定義されるアルケニル、C2m−3と定義されるアルキニル、アリール、ヘテロアリール、CH(CH−S−と定義される硫化アルキル、RC(=NH)−と定義されるイミドイル、RCH(OH)−S−と定義されるヘミアセタール、および水素からなる群から選択され(但し、RおよびRの少なくとも1つは水素ではない);
上記のように定義されるRおよびRは置換されていなくても置換されていてもよく;
は水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、アルキルアリール、ヘテロアリール、またはヘテロシクリルであり、いずれも置換されていても置換されていなくてもよく;
はCClまたはCOOHであり;かつ
xは0〜16、nは0〜10、mは2〜10である)
【0014】
ここで使用されるとき、アシルは、RC(O)−基(ここで、Rは、限定はされないが、水素、アルキル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、アルキルアリール、ヘテロアリール、またはヘテロシクリルなどであり、これらはいずれも置換されていても置換されていなくてもよい)をいう。言い換えれば、上に挙げたR基の1つは、チオ−エステル結合により式(I)の炭素主鎖に結合している。アシル基の例としては、限定はされないが、アセチル、ベンゾイルおよびベンゾイル誘導体、4−フルオロベンゾイル、並びに、1−メチルピロール−2−カルボキシルが挙げられる。アシル基を含むリポ酸誘導体の具体例としては、限定はされないが、ビス−アセチルリポエートおよびビス−ベンゾイルリポエートが挙げられる。
【0015】
ここで使用されるとき、アルキルは、C2n+1基(ここで、nは1〜10、より好ましくは1〜6、特に好ましくは1〜4である)、すなわち、チオ−エーテル結合により式(I)の炭素主鎖に結合したアルキル基をいう。アルキル基は脂肪族(直鎖または分岐鎖)および脂環式のいずれかであり得、脂環式基は任意の炭素に付加があってもよく、あるいは、任意の炭素が置換されて複素環を形成していてもよい。所定のアルキル基、すなわち炭素鎖には、N、OまたはSなどの少なくとも1種のヘテロ原子が存在していてもよい。アルキル基は、その任意の炭素が置換されていてもよく置換されていなくてもよい。好ましいアルキル基は、アリール基またはヘテロアリール基で置換されたアルキル基、すなわち、RまたはRがアルキルアリール基またはアルキルヘテロアリール基であり;アリール基またはヘテロアリール基は置換されていても置換されていなくてもよい。アルキル基の例としては、限定はされないが、メチル、エチル、ブチル、デカニル、シクロプロピル、4−ピリジンメチル、2−アントラキノンメチル、N−フェニルアセトアミド、フェニルエチル、2−エタン酸、2−アセトアミド、4−(2−アセトアミド−ピリジニル)メチル、N−[(2−フルオロフェニル)メチル]アセトアミド、N−[(6−メトキシ−3−ピリジル)メチル]アセトアミド、5−(アセチルアミノ)ピリジン−2−カルボキシアミド、5−(6,8−ジアザ−7−オキソ−3−チアビシクロ[3.3.0]オクト−2−イル)−N−(2−カルボニルアミノエチル)ペンタンアミドおよび5−(6,8−ジアザ−7−オキソ−3−チアビシクロ[3.3.0]オクト−2−イル)ペンタカルボキシルが挙げられる。アルキル基を含むリポ酸誘導体の具体例としては、限定はされないが、6,8−ビス−カルバモイルメチルリポエートおよび6,8メチル−スクシンイミドリポエートが挙げられる。
【0016】
ここで使用されるとき、アルケニルは、C2m−1基(ここで、mは2〜10である)、すなわち、チオ−エーテル結合により式(I)の炭素主鎖に結合したアルケニル基である。アルケニル基は脂肪族(直鎖または分岐鎖)および脂環式のいずれかであり得、脂環式基は脂環式基は任意の炭素に付加があってもよく、あるいは、任意の炭素が置換されて複素環を形成していてもよい。所定のアルケニル基、すなわち炭素鎖には、N、OまたはSなどの少なくとも1種のヘテロ原子が存在していてもよい。アルケニル基は、その任意の炭素が置換されていてもよく置換されていなくてもよい。アルケニル基の例としては、限定はされないが、プロペニル、2,3ジメチル−2−ブテニル、ヘプテニルおよびシクロペンテニルが挙げられる。
【0017】
ここで使用されるとき、アルキニルは、C2m−3基(ここで、mは2〜10である)、すなわち、チオ−エーテル結合により式(I)の炭素主鎖に結合したアルキニル基である。アルキニル基は脂肪族(直鎖または分岐鎖)および脂環式のいずれかであり得、脂環式基は任意の炭素に付加があってもよく、あるいは、任意の炭素が置換されて複素環を形成していてもよい。アルキニル基、すなわち炭素鎖には、N、OまたはSなどの少なくとも1種のヘテロ原子が存在していてもよい。アルキニル基は、その任意の炭素が置換されていてもよく置換されていなくてもよい。アルキニル基の例としては、限定はされないが、アセチレニル、プロピニルおよびオクチニルが挙げられる。
【0018】
ここで使用されるとき、アリールは、チオ−エーテル結合により式(I)の炭素主鎖に結合した芳香族基またはアリール基をいう。アリールは、好ましくは6〜10個の炭素原子を有する不飽和環系である。アリールには、また、フェロセンなどの有機金属アリール基が含まれる。アリール基は、その任意の炭素が置換されていてもよく置換されていなくてもよい。アリール基の例としては、限定はされないが、ベンジル(−CH)、メチルベンジルおよびアミノベンジルなどのベンジル誘導体、(1,2,3,4,5−ペンタフルオロフェニル)メチル、トリフェニルメチル、4−メチル安息香酸、フェロセンメチル、2−ナフチルメチル、4,4−ビフェニルメチルおよびスチルベン(すなわち、1−((1E)−2−フェニルビニル)−4−メチルベンゼン)が挙げられる。アリール基を含むリポ酸誘導体の具体例は、ビス−ベンジルリポエートである。
【0019】
ここで使用されるとき、ヘテロアリールは、ヘテロアリール部分がS、NおよびOからなる群から選択される1〜4個のヘテロ原子を含む5員環または6員環の芳香族複素環系(単環または2環)をいい、ヘテロアリール基はチオ−エーテル結合により式(I)の炭素主鎖に結合している。ヘテロアリール基は、その任意の原子、特に炭素原子が置換されていてもよく置換されていなくてもよい。ヘテロアリール基の例としては、限定はされないが、ベンゾチアゾール、キノリン、7−クロロキノリン、フラン、チオフェン、インドール、アザインドール、オキサゾール、チアゾール、イソオキサゾール、イソチアゾール、イミダゾール、N−メチルイミダゾール、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、ピロール、N−メチルピロール、ピラゾール、N−メチルピラゾール、1,3,4−オキサジアゾール、1,2,4−トリアゾール、1−メチル−1,2,4−トリアゾール、1H−テトラゾール、1−メチルテトラゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾフラン、ベンズイソオキサゾール、ベンジイミダゾール、N−メチルベンズイミダゾール、アザベンズイミダゾール、インダゾール、キナゾリンおよびピロリジニルが挙げられる。
【0020】
ここで使用されるとき、硫化アルキルは、CH(CH−S−基(ここで、nは0〜9である)をいう。言い換えれば、アルキル基が、ジスルフィド結合により式(I)の炭素主鎖に結合している。アルキル基(すなわちCH(CH)は、その任意の炭素が置換されていてもよく置換されていなくてもよく、C2n+1アルキル基に関し上述したのと同じ特徴を共有している。
【0021】
ここで使用されるとき、イミドイルは、RC(=NH)−基(ここで、Rは、限定はされないが、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、アルキルアリール、ヘテロアリール、またはヘテロシクリルであり得、これらはいずれも置換されていても置換されていなくてもよい)をいう。言い換えれば、上に挙げたR基の1つが、チオ−イミド結合により式(I)の炭素主鎖に結合している。
【0022】
ここで使用されるとき、ヘミアセタールは、RCH(OH)−S−基(ここで、Rは、限定はされないが、CF、CClまたはCOOHなどの強い電子吸引性置換基を有する化合物である)をいう。
【0023】
上述した基はいずれも、置換されていなくても置換されていてもよい。置換基の例としては、限定はされないが、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アシル、アルコキシカルボニル、アルコキシ、アルコキシアルキル、アルコキシアルコキシ、シアノ、ハロゲン、ヒドロキシ、ニトロ、オキソ、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、トリフルオロプロピル、アミノ、アミド、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、ジアルキルアミノアルキル、ヒドロキシアルキル、アルコキシアルキル、アルキルチオ、−SOH、−SONH、−SONHアルキル、−SON(アルキル)、−COH、CONH、CONHアルキルおよび−CON(アルキル)が挙げられる。また、上述の基は、いずれも任意の数の置換基を設けることができる。言い換えれば、モノ−、ジ−、トリ−等の置換されたR基またはR基を有することができ、置換基自身がまた置換されていてもよい。さらに、R基およびR基の任意の基が、炭水化物、脂質、核酸、アミノ酸もしくはその任意のポリマー、または単一鎖もしくは分岐鎖の合成ポリマー(約350〜約40,000の範囲の分子量を有する)のいずれかにより、適切に一般に置換されていてもよい。
【0024】
上述したRおよびRのいずれの定義においても、RおよびRを主鎖に結合させているチオ−エステルまたはチオ−エーテル結合は、酸化されてスルホキシドまたはスルホンを生成し得る。言い換えれば、結合中の−S−は、−S(O)−または−S(O)になるであろう。また、上述したRおよびRのいずれの定義においても、RおよびRを主鎖に結合させているチオ−エステル結合またはチオ−エーテル結合は、酸化されてチオスルフィン酸またはチオスルホン酸になるジスルフィドをさらに含むことができる。言い換えれば、結合中の−S−に代わって、結合は−S(O)−S−または−S(O)−S−になるであろう。
【0025】
本発明の他の好ましい一実施形態においては、リポ酸誘導体は式(II)で表わされる。
【化4】

【0026】
Mは−[C(R)(R)」−の金属キレートまたは他の金属錯体である。RおよびRは、独立して、RC(O)−と定義されるアシル、C2n+1と定義されるアルキル、C2m−1と定義されるアルケニル、C2m−3と定義されるアルキニル、アリール、ヘテロアリール、CH(CH−S−と定義される硫化アルキル、RC(=NH)−と定義されるイミドイル、RCH(OH)−S−と定義されるヘミアセタール、および水素からなる群から選択され、上記のように定義されるRおよびRは置換されていなくても置換されていてもよい。Rは水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、アルキルアリール、ヘテロアリール、またはヘテロシクリルであり、そのいずれも置換されていても置換されていなくてもよく、RはCClまたはCOOHである。また、xは0〜16、zは好ましくは0〜5、より好ましくは0〜3、nは0〜10、mは2〜10である。適切な−[C(R)(R)」−基としては、限定はされないが、−CH、−CH(CH)、−C(CH、−CH(C)および−CH(ピリジン)が挙げられる。
【0027】
この実施形態においては、また、金属または金属塩がリポ酸分子のチオール基と共有結合もしくは配位結合またはキレート錯体を形成することにより、金属または金属塩を一方または両方のスルフヒドリルに、付加させることができる。そのような金属としては、白金、ニッケル、銀、ロジウム、カドミウム、金、パラジウムまたはコバルトが挙げられる。金属塩としては、例えば、臭化白金、塩化白金、ヨウ化白金、ホウ酸ニッケル、ホウ化ニッケル、臭化ニッケル、塩化ニッケル、ヨウ化ニッケル、フッ化ニッケル、臭素酸銀、臭化銀、塩化銀、フッ化銀、ヨウ化銀、塩化ロジウム、臭化カドミウム、塩化カドミウム、フッ化カドミウム、ヨウ化カドミウム、臭化金、塩化金、ヨウ化金、臭化コバルト、臭化コバルト、塩化コバルト、フッ化コバルト、ヨウ化コバルト、塩化パラジウム、ヨウ化パラジウムおよび臭化パラジウムが挙げられる。そのような塩には、例えば、塩化白金(II)および塩化白金(IV)のような金属の種々の酸化状態のものが含まれる。一般に、ここで記載するリポ酸−金属錯体は、(金属)(リポ酸)(ここで、mおよびnはいずれも1であるか、またはmが1でnが2である)の構造をとることが多い。
【0028】
リポ酸誘導体が式(I)で表わされるものであるか、式(II)で表わされるものであるかにかかわらず、本発明の医薬製剤は、チオールの一方もしくは両方がセレン分子、硫黄類似体で置換されるか、または、チオールの一方もしくは両方が硫酸塩もしくは関連する基に酸化されているリポ酸誘導体を含むことができる。
【0029】
本発明の特に好ましい実施形態では、リポ酸誘導体は、以下から選択されるものである。
【化5】


【化6】


【化7】


【化8】


【化9】


【化10】


【化11】


【化12】


【化13】


【化14】


【化15】


【化16】


または、これらの塩(既に塩の形態でない場合)。
【0030】
少なくとも1種のリポ酸誘導体が塩である場合、本発明のイオン対とするためにイオン交換を行う必要があり得る。しかしながら、弱酸の塩を使用するなら、イオン交換の必要はなく、トリエタノールアミンなどのイオン対形成剤で陰イオンを置換することができよう。
【0031】
典型的には、本発明の医薬製剤中に、少なくとも1種のリポ酸誘導体が、治療に有効な量が存在する。本発明の医薬製剤は、1回分または複数回分の投与量のリポ酸誘導体を含有することができる。「治療に有効な量」とは、リポ酸誘導体を必要としている対象に投与したとき、リポ酸誘導体に対し感受性を有する異常細胞によって特徴付けられる病状の治療(または予防)に十分な効果が得られるだけのリポ酸誘導体の量を意味する。所定のリポ酸誘導体の治療に有効な量は、病状およびその重篤度、それを必要としている対象の個性などの因子により変わってくるが、当業者であればルーチンで決められる量である。重要なことは、リポ酸誘導体の1回分の投与量が、腫瘍細胞を抑制または殺すのには十分であるが、正常細胞には実質的に害を及ぼさない量でなければならないということである。少なくとも1種のリポ酸誘導体は、本発明の医薬製剤中に、1回の投与量当たり、少なくとも1種のリポ酸誘導体を約0.001mg/m〜約10g/m、より好ましくは約0.01mg/m〜約5g/m、より一層好ましくは約0.25mg/m〜約3g/m、特に好ましくは約20mg/m〜約500mg/m与えることができるだけの量を、含有させることが好ましい。
【0032】
重要なことは、本発明の医薬製剤が少なくとも1種類のイオン対形成剤を含むことである。ここで使用されるとき、「イオン対形成剤」は、所定のリポ酸誘導体と「塩橋」または「イオン対」を形成することができる全ての薬剤をいう。ここで使用されるとき、「塩橋」または「イオン対」は、イオン対形成剤と所定のリポ酸誘導体との間で生成された塩(弱酸または強酸の)ばかりでなく、イオン対形成剤と所定のリポ酸誘導体との間で実際に塩の生成レベルにまで達していない他のイオン会合(弱酸または強酸の)もいう。理論に縛られずに言うならば、トリエタノールアミンなどのイオン対形成剤が、塩橋を形成、すなわち、ビス−ベンジルリポエートなどのリポ酸誘導体とインサイチュで塩を形成し、それによって、リポ酸誘導体の生体内での殺細胞効果が発現するようになると考えられる。
【0033】
本発明における使用に特に適したイオン対形成剤としては、限定はされないが、トリエタノールアミンおよびポリエチレンアミンなどの第3アミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、メフェナム酸およびトロメタミンなどの他のアミン、並びにこれらの組み合わせが挙げられる。好ましいイオン対形成剤はトリエタノールアミンである。本発明における使用に適したさらなるイオン対形成剤としては、限定はされないが、ポリエチレングリコール、ポリグルタミン酸、およびデキストランなどの糖ベースポリマーを、上記のイオン対形成剤のいずれか、または他の任意の既知のイオン対形成剤と組み合わせて使用するポリマー共役イオン対形成剤が挙げられる。さらに他のイオン対形成剤は、Handbook of Pharmaceutical Salts:Properties,Selection and use,IUPAC,Wiley−VCH,P.H.Stahl編の指針に基づいて選択することができる。この文献の全開示は参照することにより本明細書に援用される。そのなかで特に注意すべきイオン対形成剤としては、限定はされないが、p.342の表5に挙げられているもの、すなわち、アンモニア、L−アルギニン、ベネタミン、ベンザシン、ベタイン、水酸化カルシウム、コリン、デアノール、ジエタノールアミン(2,2’−イミノビス(エタノール))、ジエチルアミン、2−(ジエチルアミノ)−エタノール、エタノールアミン、エチレンジアミン、N−メチル−グルカミン、ヒドラバミン、1H−イミダゾール、リシン、水酸化マグネシウム、4−(2−ヒドロキシエチル)−モルフォリン、ピペラジン、水酸化カリウム、1−(2−ヒドロキシエチル)ピロリジン、水酸化ナトリウム、トリエタノールアミン(2,2’,2’’−ニトリロトリス(エタノール))、トロメタミンおよび水酸化亜鉛が挙げられる。
【0034】
イオン対形成剤は親水性であっても疎水性(アシル化トリエタノールアミンなど)であってもよい。典型的には、イオン対形成剤は、少なくとも1種のリポ酸誘導体を静脈投与に適した溶剤(特に、水性媒体が好ましい)に実質的に溶解させるのに十分な量で存在する。イオン対形成剤とリポ酸誘導体は、約1000:1〜約1:1000の範囲のモル比で存在させることが好ましい。より好ましくは約500:1〜約1:500、より一層好ましくは約50:1〜約1:50、さらにより一層好ましくは約20:1〜約1:20、特に好ましくは約1:1である。
【0035】
本発明の医薬製剤は、必要に応じて(c)薬学的に許容される希釈剤を含む。特に、例えば静脈投与に適した医薬製剤が所望されるとき、適切な希釈剤が使用されるであろう。従来の水性または極性非プロトン性溶媒が、本発明における使用に適している。薬学的に許容される希釈剤としては、限定はされないが、生理食塩水、糖溶液、エチルアルコール、メタノールおよびイソプロピルアルコールなどのアルコール、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)およびジメチルアセトアミド(DMA)などの極性非プロトン性溶媒、並びにこれらの組み合わせが挙げられる。好ましい薬学的に許容される希釈剤はデキストロース溶液であり、より好ましくはデキストロースを約2.5重量%〜約10重量%、より好ましくは約5重量%含有するデキストロース溶液である。薬学的に許容される希釈剤は、通常、ホモリシスを起こさない量で使用される。当業者であれば、本発明の医薬製剤で使用するのに適した希釈剤の量を容易に決定することができる。
【0036】
本発明の極めて好ましい実施形態においては、医薬製剤はビス−ベンジルリポエート、トリエタノールアミン、およびデキストロースを約5重量%含有するデキストロース溶液を含む。
【0037】
本発明の医薬製剤は、必要に応じて、少なくとも1種の薬学的に許容される他の添加剤を含むことができる。適した添加剤としては、限定はされないが、溶剤、希釈剤、界面活性剤、可溶化剤、保存料、緩衝剤、およびこれらの組み合わせ、並びに非経口投与の形態で使用するのに特に適した任意の他の添加剤が挙げられる。これらの他の薬学的に許容される添加物の適切な量を決めるのは、当業者であれば十分に対応可能である。ここでの使用に特に適した溶剤としては、ベンジルアルコール、ジメチルアミン、イソプロピルアルコール、およびこれらの組み合わせが挙げられる。当業者であれば、少なくとも1種のリポ酸誘導体をまず適切な溶剤に溶解し、その後、その溶液をイオン対形成剤に加えて希釈し、最後に希釈剤で希釈することが望ましいことを容易に理解するであろう。
【0038】
本発明の医薬製剤は、従来の製剤技術により調製することができる。例えば、少なくとも1種のリポ酸誘導体とイオン対形成剤の原液を従来技術で調製し、その後、薬学的に許容される希釈剤で所望の希釈を行うことができる。
【0039】
本発明の医薬製剤は無菌非経口溶液などの液体調製物である。本発明の医薬製剤は、バイアルまたはアンプルなどの適当な容器に充填してもよく、限定はされないが、静脈内、筋肉内、皮下、皮内、腹腔内、胸腔内、胸膜内、子宮内または腫瘍内などの数種の経路の中の一つを通して投与するのに適している。
【0040】
本発明の第2の実施形態は、リポ酸誘導体に対し感受性を有する異常細胞により特徴付けられる病気を治療する方法であって、それを必要とする患者へ、本発明の第1の実施形態による医療製剤を投与することを含む方法に関する。本発明の第3の実施形態は、リポ酸誘導体に対し感受性を有する異常細胞により特徴付けられる病気を予防する方法であって、それを必要とする患者へ、本発明の第1の実施形態による医療製剤を投与することを含む方法に関する。
【0041】
第2および第3の実施形態において、リポ酸誘導体の医薬製剤は、細胞のPDC活性が変化しているか、または他と明らかに異なっている病気、すなわち、リポ酸誘導体に対し感受性を有する異常細胞により特徴付けられる病気を予防または抑えるために使用され得る。エネルギー代謝が適度に変化または乱れた、すなわちPDC活性が変化した細胞が、特に標的とされて殺される一方、周囲の健康な組織はリポ酸誘導体による損傷を受けない。当業者であれば、PDC活性が変化した病気を容易に特定することができる。あるいは、当業者であれば、リポ酸誘導体に対する感受性に関係する病気を容易に検査することができる。
【0042】
本発明の方法の好ましい実施形態において、治療または予防される病気としては、上皮性悪性腫瘍、肉腫、骨髄腫、リンパ腫、白血病および複合型の癌が挙げられる。本発明の医薬製剤は、原発性癌および転移癌にともに有効であり、限定はされないが、肺、肝臓、子宮、頸、膀胱、腎臓、結腸、胸部、前立腺、卵巣および膵臓の癌に有効である。他の実施形態において、本発明の医薬製剤は、アルツハイマー病、乾癬などの過剰増殖性疾患、および糖尿病性神経障害などの他の病気など、エネルギー代謝の変化を伴う病気の治療に使用することができる。
【0043】
治療の用途では、本発明の第1の実施形態による医薬製剤は、通常、単位用量の形態で患者に直接投与される。本発明の方法においては、リポ酸誘導体を含む医薬製剤は、限定はされないが、静脈内、筋肉内、皮下、皮内、腹腔内、胸腔内、胸膜内、子宮内または腫瘍内などの数種の経路の中の一つを通して投与される。当業者であれば、リポ酸誘導体を投与する方法は、治療する癌のタイプまたは症状によって異なることを理解するであろう。例えば、白血病の治療に好ましいリポ酸の投与方法としては、静脈内投与が挙げられよう。同様に、当業者であれば、また、薬学的に許容される特定の添加剤が、ある投与方法に適した医薬製剤から他の投与方法に適した医薬製剤まで変化することも理解するであろう―しかしながら、意図した投与方法にかかわらず、医薬製剤で変わらないものは、少なくとも1種のリポ酸誘導体とイオン対形成剤との間で形成されたイオン対が存在することである。
【0044】
ここで述べた治療に適合させることによって、本発明の医薬製剤は、その病気を引き起こす細胞が代謝パターンの変化を示す、癌以外の病気を治療する方法で使用することができる。例えば、ヒトや他の動物の真核病原体は、真核細胞が細菌細胞より動物の細胞に極めてよく類似しているので、細菌性病原体よりも一般に治療がはるかに困難である。そのような真核病原体としては、マラリアを引き起こすもののような原生動物や、菌類病原体および藻類病原体が挙げられる。本発明において使用されるリポ酸誘導体は、正常なヒトや動物の細胞に対する毒性が非常に低く、かつ多くの真核病原体が、それらのPDCがリポ酸誘導体に感受性を有するようになるライフサイクルの段階を通過することが多いので、細菌性のPDCを殺すために本発明の医薬製剤を使用することができる。
【0045】
本発明のさらに別の実施形態は、真の塩であるにせよ、または他の幾分低めのイオン会合であるにせよ、(a)少なくとも1種のリポ酸誘導体と(b)イオン対形成剤からなるイオン対に関する。極めて好ましい実施形態においては、イオン対は、ビス−ベンジルリポエートおよびトリエタノールアミンからなる。本発明は、インサイチュで生成されたものであるか、従来法によって単離されたものであるかにかかわらず、全てのイオン対を含む。(a)および(b)の量、および、使用に適した可能な材料に関する全ての詳細は、第1の実施形態について先に説明したことと同じである。
【0046】
次に、本発明の具体的な実施形態について、以下の実施例を参照することにより説明する。これらの実施例は、本発明を単に説明するために開示するものであり、決して本発明の範囲を限定するためのものではないことは理解されるべきである。
【実施例】
【0047】
実施例1
1Mトリエタノールアミン(TEA)に溶解した、50mg/mLの高濃度のビス−ベンジルリポエートを用意した。製剤の安定性を、研究の開始時と終了時に行った、目視観察と高性能液体クロマトグラフィ(HPLC)により評価した。研究の開始と終了の両時点で、外観に変化はなく、純度は>99%であった。濃縮ビス−ベンジルリポエート溶液を、5%デキストロース(D5W)により適当な濃度にまで希釈し、ビス−ベンジルリポエート投与量0.1、1および10mg/kgの製剤を調合した。
【0048】
比較例1
ビス−ベンジルリポエートを、従来のTween80とエタノールの混合物(体積比1:1)に濃度が40mg/mLとなるように溶解した。濃縮したビス−ベンジルリポエート溶液を生理食塩水により適当な濃度に希釈した。
【0049】
試験
投与量および投与スケジュールがビス−ベンジルリポエートの抗腫瘍活性に及ぼす影響を調べる研究を行った。より具体的には、比較例1のビス−ベンジルリポエート医薬製剤、すなわち、Tween80:エタノール(1:1)に溶解し、生理食塩水で希釈したビス−ベンジルリポエートを、非小細胞肺癌(NSCLC)Human H−460の異種移植片を施したマウスにより試験した。医薬製剤を週1回または3回腹腔内(IP)投与した。ビス−ベンジルリポエートの投与は、マウスの平均腫瘍サイズが約300mmになった時点で開始した。下記の表1に示すように、最初は、8つの治療グループ(各グループに7匹のマウス)とし、3種類の投与量(0.1、1および10mg/kg)と2種類の投与スケジュールを調べた。
【0050】
【表1】

【0051】
結果は(図1Aおよび図1Bに示すように)、分散媒による治療と比較して、ビス−ベンジルリポエートは抗腫瘍効果を示さないというものであった。
【0052】
次に、下記の表2に示すように、手順を変え、各治療グループを2つのサブグループに分けた。具体的には、各治療グループの両サブグループに、最初の手順と同じ投与量のビス−ベンジルリポエートによる治療を行うが、2つのサブグループの一方は比較例1のビス−ベンジルリポエート医薬製剤、すなわち、Tween80:エタノールの1:1混合物に溶解し、生理食塩水で希釈したビス−ベンジルリポエートにより治療し、他方のサブグループは実施例1のビス−ベンジルリポエート医薬製剤、すなわち、TEAに溶解し、D5Wで希釈したものにより治療した。
【0053】
【表2】

【0054】
実施例1で調製された医薬製剤のビス−ベンジルリポエート0.1〜10mg/kgで治療したマウスのH−460腫瘍は、互いに類似していたが、比較例1で調製された医薬製剤のビス−ベンジルリポエート10mg/kgで治療したマウスのそれよりは小さいという結果が得られた。
【0055】
次に、再度、手順を変え、抗腫瘍効果について試験した医薬製剤を変更し、実施例1の医薬製剤のみ、すなわちTEAに溶解しD5Wで希釈したもののみとした。下記の表3に示すように、各グループに8匹のマウスを配した10の治療グループとし、3種類の投与量(0.1、1および10mg/kg)と3種類の投与スケジュールを調べた。
【0056】
【表3】

【0057】
結果は(図2A〜図2Cに示すように)、実施例1(TEA/D5W)で調製した医薬製剤のビス−ベンジルリポエートを0.1、1および10mg/kgで、週1回、週3回または週5回与えたものでは、比較例1で調製した医薬製剤(Tween80/エタノール/生理食塩水)で同様に試験して得られた結果と比較して、類似のかつ相当程度の腫瘍の成長抑制を示すというものであった。
【0058】
以上、本発明を具体的な実施形態について説明してきたが、ここで開示された発明の概念から逸脱することなく、多くの変更、修正および変形を加えることができることはいうまでもない。したがって、添付した特許請求の範囲の趣旨および広い範囲に含まれるそのような変更、修正および変形はすべて、これを包含するものとする。ここで引用した全ての特許出願、特許および他の刊行物は、参照することによりそれらの全内容が本明細書に援用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)少なくとも1種のリポ酸誘導体またはその塩、および(b)少なくとも1種のイオン対形成剤を含む医薬製剤であって、
リポ酸誘導体とイオン対形成剤がイオン対を形成する医薬製剤。
【請求項2】
少なくとも1種のリポ酸誘導体は、式(I):
【化1】


(式中、RおよびRは、独立して、RC(O)−と定義されるアシル、C2n+1と定義されるアルキル、C2m−1と定義されるアルケニル、C2m−3と定義されるアルキニル、アリール、ヘテロアリール、CH(CH−S−と定義される硫化アルキル、RC(=NH)−と定義されるイミドイル、RCH(OH)−S−と定義されるヘミアセタール、および水素からなる群から選択され(但し、RおよびRの少なくとも1つは水素ではない);
上記のように定義されるRおよびRは置換されていなくても置換されていてもよく;
は水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、アルキルアリール、ヘテロアリール、またはヘテロシクリルであり、いずれも置換されていても置換されていなくてもよく;
はCClまたはCOOHであり;かつ
xは0〜16、nは0〜10、mは2〜10である)
で表わされる請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項3】
およびRがアセチル基である請求項2に記載の医薬製剤。
【請求項4】
およびRがベンゾイル基である請求項2に記載の医薬製剤。
【請求項5】
アルケニルが、プロペニル、2,3−ジメチル−2−ブテニル、およびヘプテニルからなる群から選択される請求項2に記載の医薬製剤。
【請求項6】
アルキニルが、アセチレニル、プロピニル、およびオクチニルからなる群から選択される請求項2に記載の医薬製剤。
【請求項7】
アリールが、ベンジルまたはベンジル誘導体である請求項2に記載の医薬製剤。
【請求項8】
およびRが、それぞれベンジル基である請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項9】
アルキルがシクロプロピルである請求項2に記載の医薬製剤。
【請求項10】
アルケニルがシクロペンチルである請求項2に記載の医薬製剤。
【請求項11】
少なくとも1種のリポ酸誘導体は、式(II):
【化2】


(式中、Mは金属キレート、−[C(R)(R)]−または他の金属錯体であり;
およびRは、独立して、RC(O)−と定義されるアシル、C2n+1と定義されるアルキル、C2m−1と定義されるアルケニル、C2m−3と定義されるアルキニル、アリール、ヘテロアリール、CH(CH−S−と定義される硫化アルキル、RC(=NH)−と定義されるイミドイル、RCH(OH)−S−と定義されるヘミアセタール、および水素からなる群から選択され、
上記のように定義されるRおよびRは置換されていなくても置換されていてもよく;
は水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、アルキルアリール、ヘテロアリール、またはヘテロシクリルであり、いずれも置換されていても置換されていなくてもよく;
はCClまたはCOOHであり;かつ
xは0〜16、zは0〜5、nは0〜10、mは2〜10である)
で表わされる請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項12】
少なくとも1種のリポ酸誘導体は、治療に有効な量が存在する請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項13】
少なくとも1種のリポ酸誘導体は、少なくとも1種のリポ酸誘導体を約0.001mg/m〜約10g/m与えることができるだけの量が存在する請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項14】
少なくとも1種のイオン対形成剤が、トリエタノールアミン、ポリエチレンイミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、メフェナム酸、トロメタミンおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項15】
少なくとも1種のイオン対形成剤がトリエタノールアミンである請求項14に記載の医薬製剤。
【請求項16】
少なくとも1種のイオン対形成剤がポリマー共役イオン対形成剤である請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項17】
少なくとも1種のイオン対形成剤および少なくとも1種のリポ酸誘導体が、約1000:1〜約1:1000の範囲の比で存在する請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項18】
(c)薬学的に許容される希釈剤をさらに含む請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項19】
希釈剤が、生理食塩水、糖溶液、アルコール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミドおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される請求項18に記載の医薬製剤。
【請求項20】
希釈剤がデキストロース溶液である請求項19に記載の医薬製剤。
【請求項21】
デキストロース溶液が、約2.5重量%〜約10重量%の範囲の量のデキストロースを含有する請求項20に記載の医薬製剤。
【請求項22】
溶剤、希釈剤、界面活性剤、可溶化剤、保存料、緩衝剤、およびこれらの組み合わせから選択される、少なくとも1種の薬学的に許容される添加剤をさらに含む請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項23】
イオン対が塩である請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項24】
ビス−ベンジルリポエート;および
トリエタノールアミン
を含む医薬製剤。
【請求項25】
約5重量%のデキストロースを含有するデキストロース溶液をさらに含む請求項24に記載の医薬製剤。
【請求項26】
リポ酸誘導体に対し感受性を有する異常細胞により特徴付けられる病気を治療する方法であって、それを必要とする患者へ、請求項1の医療製剤を投与することを含む方法。
【請求項27】
リポ酸誘導体に対し感受性を有する異常細胞により特徴付けられる病気を治療する方法であって、それを必要とする患者へ、請求項25の医療製剤を投与することを含む方法。
【請求項28】
病気が、上皮性悪性腫瘍、肉腫、骨髄腫、リンパ腫、白血病およびこれらの複合タイプからなる群から選択される請求項26または請求項27に記載の方法。
【請求項29】
リポ酸誘導体に対し感受性を有する異常細胞により特徴付けられる病気を予防する方法であって、それを必要とする患者へ、請求項1の医療製剤を投与することを含む方法。
【請求項30】
リポ酸誘導体に対し感受性を有する異常細胞により特徴付けられる病気を予防する方法であって、それを必要とする患者へ、請求項25の医療製剤を投与することを含む方法。
【請求項31】
病気が、上皮性悪性腫瘍、肉腫、骨髄腫、リンパ腫、白血病およびこれらの複合タイプからなる群から選択される請求項29または請求項30に記載の方法。
【請求項32】
(a)少なくとも1種のリポ酸誘導体;および
(b)少なくとも1種のイオン対形成剤
からなるイオン対。
【請求項33】
少なくとも1種のリポ酸誘導体は、式(I):
【化3】


(式中、RおよびRは、独立して、RC(O)−と定義されるアシル、C2n+1と定義されるアルキル、C2m−1と定義されるアルケニル、C2m−3と定義されるアルキニル、アリール、ヘテロアリール、CH(CH−S−と定義される硫化アルキル、RC(=NH)−と定義されるイミドイル、RCH(OH)−S−と定義されるヘミアセタール、および水素からなる群から選択され(但し、RおよびRの少なくとも1つは水素ではない);
上記のように定義されるRおよびRは置換されていなくても置換されていてもよく;
は水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、アルキルアリール、ヘテロアリール、またはヘテロシクリルであり、いずれも置換されていても置換されていなくてもよく;
はCClまたはCOOHであり;かつ
xは0〜16、nは0〜10、mは2〜10である)
で表わされる請求項32に記載のイオン対。
【請求項34】
少なくとも1種のリポ酸誘導体は、式(II):
【化4】


(式中、Mは金属キレート、−[C(R)(R)]−または他の金属錯体であり;
およびRは、独立して、RC(O)−と定義されるアシル、C2n+1と定義されるアルキル、C2m−1と定義されるアルケニル、C2m−3と定義されるアルキニル、アリール、ヘテロアリール、CH(CH−S−と定義される硫化アルキル、RC(=NH)−と定義されるイミドイル、RCH(OH)−S−と定義されるヘミアセタール、および水素からなる群から選択され、
上記のように定義されるRおよびRは置換されていなくても置換されていてもよく;
は水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、アルキルアリール、ヘテロアリール、またはヘテロシクリルであり、いずれも置換されていても置換されていなくてもよく;
はCClまたはCOOHであり;かつ
xは0〜16、zは0〜5、nは0〜10、mは2〜10である)
で表わされる請求項32に記載のイオン対。
【請求項35】
少なくとも1種のイオン対形成剤が、トリエタノールアミン、ポリエチレンイミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、メフェナム酸、トロメタミンおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される請求項32に記載のイオン対。
【請求項36】
少なくとも1種のイオン対形成剤がポリマー共役イオン対形成剤である請求項32に記載のイオン対。
【請求項37】
少なくとも1種のイオン対形成剤および少なくとも1種のリポ酸誘導体が約1000:1〜約1:1000の範囲の比で存在する請求項32に記載のイオン対。
【請求項38】
イオン対が塩である請求項32に記載のイオン対。
【請求項39】
少なくとも1種のリポ酸誘導体がビス−ベンジルリポエートであり、少なくとも1種のイオン対形成剤がトリエタノールアミンである請求項32に記載のイオン対。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−524963(P2010−524963A)
【公表日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−504247(P2010−504247)
【出願日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際出願番号】PCT/US2008/060650
【国際公開番号】WO2008/131114
【国際公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(509287577)コーナーストーン ファーマシューティカルズ,インコーポレーテッド (2)
【Fターム(参考)】