説明

リミッタ・コンプレッサ装置

【課題】 インパルス性信号入力によって発生するシャクリ現象を軽減可能なリミッタ・コンプレッサ装置を提供する。
【解決手段】 条件検出部4はゼロクロス検知器3からの検知データgによって条件検出を行い、条件検出部4がインパルス性の音声と判断すると、判断部5はデータhによって抑圧時間係数pの値と開放時間係数qの値とから最小値を選択し、リミッタコンプレッサ処理部7へ動作抑圧時間係数iと動作開放係数jとを出力する。条件検出部4はゼロクロス検知データgとカウンタ値cとによって、リミッタコンプレッサ処理部7へ抑圧開始ポイント情報kを出力する。リミッタ・コンプレッサ処理部7はレベル検出部1の区間内の最大音声レベル情報rによって入力音声信号aに対して処理タイミングを一致させるための遅延器6からの音声データに対して抑圧処理及び開放処理を行い、出力信号nを出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリミッタ・コンプレッサ装置に関し、特に音声信号のダイナミックレンジ・コンプレッサにおいてインパルス性の入力信号によるシャクリ現象を最小限に抑える制御に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のダイナミックレンジ・コンプレッサとしては、ディジタル入力信号のレベルを一定時間積分し、その値によって、遅延された該入力信号のゲインを調整するものがある(例えば、特許文献1参照)。この装置では、積分を行い、その積分値データにしたがって、積分した区間の信号に対して抑圧制御を行うことを記載されている。これは、積分期間と制御区間との抑圧量や解放処理を一致させる技術である。
【0003】
また、他のダイナミックレンジ・コンプレッサとしては、入力レベルに応じて適応的に、信号の利得変化のアタック時間とリリース時間とを規定する時定数を変化させるものがある(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
さらに、別のダイナミックレンジ・コンプレッサとしては、上記の他のダイナミックレンジ・コンプレッサと同様に、入力レベルに応じて抑圧時間(アタック時間)と開放時間(リリース時間)とを変化させるものがある。
【0005】
ここで、従来のリミッタ・コンプレッサ装置の動作について簡単に説明する。リミッタ・コンプレッサにおいて、規定値レベルの信号が入力された場合には、図6に示すように、入力信号を抑圧する動作を行う。この時、抑圧量がある一定量以上(通常は約90%以上)になるまでの時間を抑圧時間(アタック時間)という。
【0006】
また、図7に示すように、抑圧状態から規定値レベル以下の入力信号となった場合には、抑圧状態から開放する動作を行う。この時、開放される量がある一定量(通常は開放量が90%以上)となるまでの時間を開放時間(リリース時間)という。通常、リミッタ・コンプレッサの抑圧、解放時間については、抑圧時間は短めに設定し、開放時間は聴感上の違和感をなくすために長めに設定される。
【0007】
【特許文献1】特開平6−274176号公報
【特許文献1】特開平5−102770号公報
【特許文献1】特開2002−232247号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した従来のダイナミックレンジ・コンプレッサでは、上記の特許文献1記載の技術の場合、音声信号を一定時間積分し、その積分値データにしたがって入力音声が規定値レベル以上の信号であれば抑圧制御を行っている。しかしながら、この技術では、インパルス性の入力信号が積分することによって平滑化されてしまい、抑圧制御を行う場合にインパルス性の信号が抑圧されない状態が発生することになる。
【0009】
図8においては、単位時間が同じで入力信号レベルが異なっても、積分された値が同一となる場合を示している。この場合の両者の抑圧量が同じになると、入力信号bは抑圧量が不足することになる。
【0010】
また、上記の特許文献2,3記載の技術の場合には、入力信号レベルにしたがって、抑圧する時間(アタック時間)と開放時間(リリース時間)とを変化させており、図9に示すような動作を行うことが記載されている。しかしながら、図10に示すように、入力信号レベルのみで抑圧時間及び開放時間を決定した場合には抑圧不足が生じるという問題がある。
【0011】
さらに、インパルス性の信号が入力された場合には、図11に示すように、抑圧量が不足、または抑圧時間を早めることによって抑圧が大き過ぎて開放時間が長い場合に、シャクリ現象(過大入力によってレベル抑圧が多く、通常レベルの音声が急激に小さいな音となってから復帰する状態)が発生する。
【0012】
そこで、本発明の目的は上記の問題点を解消し、インパルス性信号入力によって発生するシャクリ現象を軽減することができるリミッタ・コンプレッサ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によるリミッタ・コンプレッサ装置は、音声信号のレベルを一定レベル内に抑えるリミッタ・コンプレッサ装置であって、
入力信号レベルと規定値レベルとの比較を行って前記規定値レベル以上の信号が入力されたことを検出する手段と、前記規定値レベル以上の信号が入力されたことが検出された場合にその入力信号の継続時間を計測する手段と、前記継続時間が予め設定された設定値以下の時に入力音声信号のレベル変化がインパルス性の信号と認識した場合に抑圧時間を最短として入力信号のゼロクロスポイントから抑圧量の演算を行うための遅延メモリとを備え、
前記インパルス性の信号にのみ抑圧を行い、その後、抑圧領域を超えしだい、開放時間を最短で実行している。
【0014】
すなわち、本発明のリミッタ・コンプレッサ装置では、入力音声信号に対して規定値レベルとのレベル比較を行うレベル検出部と、レベル検出部からの検出データによって規定値レベルより大きな信号の時間を計測するカウンタと、経過時間から算出されるカウント値の比較を行いかつ比較結果データとカウント値及び入力信号のゼロクロスタイミングを検知するゼロクロス検知器からの検知データとによって条件検出を行う条件検出部とを有し、条件検出部からのインパルス性の音声と判断した結果データによって判断部が抑圧時間係数と開放時間係数の値を最小値を選択し、リミッタ・コンプレッサ処理部へ動作抑圧時間係数と動作開放係数とを出力する。
【0015】
また、条件検出部はゼロクロス検知データとカウンタ値とによって、リミッタ・コンプレッサ部へ抑圧開始ポイント情報を出力し、レベル検出部の区間内の最大音声レベル情報によって入力音声信号に対して処理タイミングを一致させるための遅延器からの音声データに対して抑圧処理及び開放処理を行って出力信号を出力する。
【0016】
本発明のリミッタ・コンプレッサ装置では、入力される音声信号に対して、ゼロクロス間隔を1つの基点として、規定値レベル以上の信号が存在する時間が設定継続時間より大きいか小さいかの判断を行い、規定値時間より大きい場合に通常の過大入力信号が入力されたと判断し、一般的なリミッタ・コンプレッサの処理通常設定の抑圧時間、復帰時間の係数によって処理を実行する。
【0017】
これに対し、本発明のリミッタ・コンプレッサ装置では、規定値レベル以上の信号が存在する時間が設定継続時間より小さい場合にインパルス性の信号が入力されたと判断し、ゼロクロスの基点から抑圧設定時間の値を設定時間の最小設定値の値で抑圧制御を実行し、その後の復帰処理においても、復帰設定時間の最小設定値の値で解放制御を行う。
【0018】
上記のように、本発明のリミッタ・コンプレッサ装置では、インパルス(規定値レベル以上の短い時間存在する)音声信号を検出して高速の抑圧時間を設定し、抑圧を十分に実施するとともに、開放時にも高速の解放時間で抑圧量を復帰させることによって、インパルス性信号入力によって発生するシャクリ現象を軽減することが可能となる。
【0019】
これによって、本発明のリミッタ・コンプレッサ装置では、インパルス性の音声入力が行われた場合に、ゼロクロスポイントを基点として抑圧が開始されるため、波形歪みが少なく、また高速の抑圧時間が設定されるので十分な抑圧を行うことが可能となる。
【0020】
また、本発明のリミッタ・コンプレッサ装置では、解放についてもゼロクロスを基点としており、高速の解放処理が行われるために、インパルス性の信号に対する十分な抑圧(大きな抑圧)に対してもシャクリ現象を最小に抑えることが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、以下に述べるような構成及び動作とすることで、インパルス性信号入力によって発生するシャクリ現象を軽減することができるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に、本発明の実施例について図面を参照して説明する。図1は本発明の一実施例によるリミッタ・コンプレッサ装置の構成を示すブロック図である。図1において、本発明の一実施例によるリミッタ・コンプレッサ装置は、レベル検出部1と、カウンタ2と、ゼロクロス検知器3と、条件検出部4と、判断部5と、遅延器6と、リミッタコンプレッサ処理部7とから構成されている。
【0023】
レベル検出部1は入力音声信号aに対して規定値レベルbとのレベル比較を行い、カウンタ2はレベル検出部1からの検出データdによって規定値レベル(TH)bより大きな信号の時間を計測する。ゼロクロス検知器3は経過時間tから算出されるカウント値cの比較を行い、比較結果データeとカウント値f及び入力信号とのゼロクロスタイミングを検知する。
【0024】
条件検出部4はゼロクロス検知器3からの検知データgによって条件検出を行う。判断部5は条件検出部4がインパルス性の音声と判断した結果、データhによって抑圧時間係数pの値と開放時間係数qの値とから最小値を選択し、リミッタコンプレッサ処理部7へ動作抑圧時間係数iと動作開放係数jとを出力する。また、条件検出部4はゼロクロス検知データgとカウンタ値cとによって、リミッタコンプレッサ処理部7へ抑圧開始ポイント情報kを出力する。
【0025】
リミッタ・コンプレッサ処理部7はレベル検出部1の区間内の最大音声レベル情報rによって入力音声信号aに対して処理タイミングを一致させるための遅延器6からの音声データに対して抑圧処理及び開放処理を行い、出力信号nを出力する。
【0026】
本実施例では、入力される音声信号aに対して、ゼロクロス間隔を1つの基点として、規定値レベルb以上の信号が存在する時間が設定継続時間tより大きいか小さいかの判断を行う。本実施例では、規定値時間tより大きい場合に通常の過大入力信号が入力されたと判断し、一般的なリミッタコンプレッサの処理を通常設定の抑圧時間(ATK)p、復帰時間(REL)qの係数によって実行する。
【0027】
これに対して、本実施例では、規定値レベルb以上の信号が存在する時間が設定継続時間tより小さい場合にインパルス性の信号が入力されたと判断し、ゼロクロスの基点から抑圧設定時間pの値を設定時間の最小設定値の値で抑圧制御を実行し、その後の復帰処理においても、復帰設定時間qの最小設定値の値で解放制御を行う。ここで、抑圧時間(アタック時間)は抑圧量がある一定量以上(通常は約90%以上)になるまでの時間を示し、開放時間(リリース時間)は開放される量がある一定量(通常は開放量が90%以上)となるまでの時間を示している。
【0028】
図2は本発明の一実施例において経過時間tよりカウント値が大きい場合の抑圧動作を示す図であり、図3は本発明の一実施例において経過時間tよりカウント値が小さい場合の抑圧動作を示す図であり、図4は本発明の一実施例の動作を示す図である。これら図1〜図4を参照して本発明の一実施例によるリミッタ・コンプレッサ装置の動作について説明する。
【0029】
レベル検出部1は入力音声信号aに対して、規定値レベルbとのレベル比較を行い、規定値レベル以上が継続している場合に、ゼロクロスポイントを基点としてゼロクロス検出器3からのゼロクロス検出信号gのタイミングでカウント値の開始を指示し、カウンタ2はカウントを開始し、このカウント値が継続時間tによって設定されるカウント値cとの大小比較を行う。
【0030】
条件検出部4はカウント値cよりもカウンタ2のカウント値が大きい場合、インパルス性の信号でないことを判断部5へ出力する。判断部5はインパルス性の信号でないと判断されたため、抑圧時間p及び解放時間qの係数の値をリミッタコンプレッサ処理部7へ動作抑圧時間i、動作解放時間jとして出力する。
【0031】
リミッタコンプレッサ処理部7は条件判断部4からの抑圧開始ポイント情報kの値を固定遅延時間分のデータ出力し、レベル検出器1からの入力信号レベルの最大レベル情報にしたがって、通常のリミッタ・コンプレッサの処理を遅延器6が遅延した入力音声aの音声に対して実行し(図2参照)、音声出力信号nを出力する。
【0032】
条件検出部4はカウント値cよりもカウンタ2のカウント値が小さい場合、インパルス性の信号であると判断し、判断部5へ判断結果hを出力する。判断部5はインパルス性の信号と判断されたため、抑圧時間p及び解放時間qの係数のそれぞれの最小値をリミッタコンプレッサ処理部7へ動作抑圧時間i、動作解放時間jとして出力する。
【0033】
リミッタコンプレッサ処理部7は条件判断部4からの抑圧開始ポイント情報kの値をゼロクロスポイント情報として出力する。リミッタコンプレッサ処理部7は抑圧開始ポイント情報k、動作抑圧係数i、動作解放係数j、最大レベル情報rを基に遅延器6が遅延した入力音声aの音声信号mに対してゼロクロスポイントを基点とした抑圧処理、解放処理を行い(図3参照)、音声出力信号nを出力する。
【0034】
このように、本実施例では、インパルス性の音声入力が行われた場合に、ゼロクロスポイントを基点として抑圧を開始するため、波形歪みが少なく、また高速の抑圧時間が設定されるので、十分な抑圧を行うことができる。
【0035】
また、本実施例では、解放についてもゼロクロスを基点としており、高速の解放処理が行われるため、インパルス性の信号に対する十分な抑圧(大きな抑圧)に対してもシャクリ現象を最小に抑えることができる(図4参照)。
【0036】
図5は本発明の他の実施例によるリミッタ・コンプレッサ装置の構成を示すブロック図である。図5において、本発明の他の実施例によるリミッタ・コンプレッサ装置は、判断部8が予め設定された最小抑圧時間sと最小解放時間uとの値を選択自在とした以外は、図1に示す本発明の一実施例によるリミッタ・コンプレッサ装置と同様の構成となっており、同一構成要素には同一符号を付してある。
【0037】
本実施例では、上述した本発明の一実施例による動作において、経過時間tを外部より設定可能とすることによって、インパルス性の信号をユーザが決定可能としている。この時、音声遅延も遅延器6の値も自動的に変化する。
【0038】
また、本実施例では、判断部5において抑圧時間pと解放時間qの設定時間をインパルス性の信号を判断した場合に最小値を出力すのではなく、予め設定された最小抑圧時間(miniATK)sと最小解放時間(miniREL)uの値を選択可能とすることによって、インパルス動作時の抑圧時間と解放時間とをユーザ決定することを可能としている。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施例によるリミッタ・コンプレッサ装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図2は本発明の一実施例において経過時間よりカウント値が大きい場合の抑圧動作を示す図である。
【図3】本発明の一実施例において経過時間よりカウント値が小さい場合の抑圧動作を示す図である。
【図4】本発明の一実施例の動作を示す図である。
【図5】本発明の他の実施例によるリミッタ・コンプレッサ装置の構成を示すブロック図である。
【図6】リミッタ・コンプレッサ装置の一般的な抑圧動作を示す図である。
【図7】リミッタ・コンプレッサ装置の一般的な開放動作を示す図である。
【図8】リミッタ・コンプレッサ装置の期間積分による比較を示す図である。
【図9】従来の入力レベルに対応した抑圧時間変動動作を示す図である。
【図10】従来例におけるインパルス性入力信号の動作を示す図である。
【図11】従来例における一般的なインパルス性信号の抑圧・解放動作を示す図である。
【符号の説明】
【0040】
1 レベル検出部
2 カウンタ
3 ゼロクロス検知器
4 条件検出部
5,8 判断部
6 遅延器
7 リミッタ・コンプレッサ処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音声信号のレベルを一定レベル内に抑えるリミッタ・コンプレッサ装置であって、
入力信号レベルと規定値レベルとの比較を行って前記規定値レベル以上の信号が入力されたことを検出する手段と、前記規定値レベル以上の信号が入力されたことが検出された場合にその入力信号の継続時間を計測する手段と、前記継続時間が予め設定された設定値以下の時に入力音声信号のレベル変化がインパルス性の信号と認識した場合に抑圧量がある一定量以上になるまでの時間を示す抑圧時間を最短として入力信号のゼロクロスポイントから抑圧量の演算を行うための遅延メモリとを有し、
前記インパルス性の信号にのみ抑圧を行い、その後、抑圧領域を超えしだい、開放される量がある一定量となるまでの時間を示す開放時間を最短で実行することを特徴とするリミッタ・コンプレッサ装置。
【請求項2】
前記継続時間が前記設定値以上の時に通常設定された前記抑圧時間と前記開放時間とによって抑圧処理を行うことを特徴とする請求項1記載のリミッタ・コンプレッサ装置。
【請求項3】
前記継続時間を可変自在としたことを特徴とする請求項1または請求項2記載のリミッタ・コンプレッサ装置。
【請求項4】
前記インパルス性の音声入力と認識した場合に前記抑圧時間と前記開放時間とを予め設定自在とすることを特徴とする請求項1から請求項4記載のリミッタ・コンプレッサ装置。
【請求項5】
音声遅延された音声のゼロクロス点からリミッタ抑圧動作を開始して音声歪みを最小としながら、前記規定値レベル以上の音声の抑圧及び開放のいずれかを行うことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか記載のリミッタ・コンプレッサ装置。
【請求項6】
前記入力信号から前記規定値レベル以上の信号が継続継続するゼロクロス周期をカウントしてその値が設定カウント値以下の場合に前記インパルス性の音声入力と判断することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか記載のリミッタ・コンプレッサ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−93908(P2006−93908A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−274309(P2004−274309)
【出願日】平成16年9月22日(2004.9.22)
【出願人】(303013763)NECエンジニアリング株式会社 (651)
【Fターム(参考)】