説明

リミッタ回路

【課題】装置の大型化、伝送周波数における通過損失の上昇を招くことなく、高周波帯域の不要波による影響を抑制可能とするリミッタ回路を得る。
【解決手段】誘導性のマイクロストリップ線路1を含む入力側経路11と、誘導性のマイクロストリップ線路2を含む出力側経路12と、一端が接地され、他端が入力側経路11と出力側経路12との間に接続されたPINダイオード3と、を備え、PINダイオード3がキャパシタ性を有する小信号入力時において、入力側経路11および出力側経路12のインダクタンス値とPINダイオード3のキャパシタンス値とにより、当該リミッタ回路の伝送周波数を遮断周波数以下の通過帯域に含み、且つ、不要波の周波数を通過帯域に含まないローパスフィルタを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波帯域およびミリ波帯域の高周波信号の伝送において用いられるリミッタ回路に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、例えば、レーダ装置の高周波受信機を保護するために用いられるリミッタ回路では、一端が接地されたPINダイオードの他端に、誘電体基板上に形成された入力端子側のマイクロストリップ線路および出力端子側のマイクロストリップ線路がそれぞれ誘導性のボンディングワイヤにより接続され構成される。このように構成されたリミッタ回路では、小信号入力時は、PINダイオードがその接合容量で決定されるコンデンサとして作用し、PINダイオードと入力端子側のボンディングワイヤによるインダクタンスと出力端子側のボンディングワイヤによるインダクタンスとがローパスフィルタ型の整合回路を形成し、入力された高周波信号は、このローパスフィルタを通り、ある一定量の挿入損失(あるいは通過損失)で出力端子から取り出される。また、大信号入力時は、PINダイオードが十分に小さい抵抗として作用するため、挿入損失が大きくなり、出力端子への出力が制限される。
【0003】
小信号入力時におけるPINダイオードの容量値は、PINダイオードによって異なり、耐電力の大きいPINダイオードほど容量値が大きく、挿入損失が増加する。従来、インピーダンス整合機能を有するDCリターン素子を入力端子に並列に接続して整合をとることにより、小信号入力時における挿入損失を低下させる技術が開示されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−235677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、自レーダ装置の伝送周波数とは異なる周波数の他のレーダ装置からの放射等による不要波が自レーダ装置に入力される場合がある。しかしながら、特許文献1に示された技術では、これらの不要波を低減する機能は有していない。したがって、上記従来技術では、リミッタ回路の前段または後段にフィルタ回路を別途設ける必要があるため、装置が大型化する、という問題があった。また、フィルタ回路を設けることにより、通過損失が上昇する、という問題があった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、装置の大型化、伝送周波数における通過損失の上昇を招くことなく、不要波による影響を抑制可能とするリミッタ回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本発明にかかるリミッタ回路は、マイクロ波帯域およびミリ波帯域の高周波信号の伝送において用いられるリミッタ回路であって、誘電体基板上に形成された誘導性のマイクロストリップ線路を含む入力側経路と、前記誘電体基板上に形成された誘導性のマイクロストリップ線路を含む出力側経路と、一端が接地され、他端が前記入力側経路と前記出力側経路との間に接続されたPINダイオードと、を備え、前記PINダイオードがキャパシタ性を有する小信号入力時において、前記入力側経路および前記出力側経路のインダクタンス値と前記PINダイオードのキャパシタンス値とにより、当該リミッタ回路の伝送周波数を遮断周波数以下の通過帯域に含み、且つ、不要波の周波数を前記通過帯域に含まないローパスフィルタを形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、装置の大型化、伝送周波数における通過損失の上昇を招くことなく、不要波による影響を抑制することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、実施の形態にかかるリミッタ回路の一構成例を示す図である。
【図2】図2は、実施の形態にかかるリミッタ回路の小信号入力時における等価回路の一例を示す図である。
【図3】図3は、実施の形態にかかるリミッタ回路の大信号入力時における等価回路の一例を示す図である。
【図4】図4は、小信号入力時における実施の形態にかかるリミッタ回路の通過特性および反射特性の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に添付図面を参照し、本発明の実施の形態にかかるリミッタ回路について説明する。なお、以下に示す実施の形態により本発明が限定されるものではない。
【0011】
実施の形態.
図1は、実施の形態にかかるリミッタ回路の一構成例を示す図である。図1に示すように、実施の形態にかかるリミッタ回路は、入力端子6の正極端子に接続され、誘電体基板上に形成されたインダクタンス成分1aを有するマイクロストリップ線路1と、出力端子7の正極端子に接続され、誘電体基板上に形成されたインダクタンス成分2aを有するマイクロストリップ線路2と、入力端子6および出力端子7の負極端子にカソードが接続されたPINダイオード3と、マイクロストリップ線路1とPINダイオード3のアノードとの間を接続する接続材であるボンディングワイヤ4と、マイクロストリップ線路2とPINダイオード3のアノードとの間を接続する接続材であるボンディングワイヤ5と、を備えている。なお、図1に示す例では、PINダイオード3は、入力端子6および出力端子7の負極端子にカソードを接続するようにしているが、入力端子6および出力端子7の負極端子にアノードを接続するようにしても、つまり、PINダイオード3の極性を入れ換えた構成としてもよい。いずれの場合であっても、リミッタ回路として動作する。
【0012】
マイクロストリップ線路1およびボンディングワイヤ4は、入力側経路11を構成し、マイクロストリップ線路2およびボンディングワイヤ5は、出力側経路12を構成する。
【0013】
入力端子6および出力端子7の負極端子およびPINダイオード3のカソードは、共に接地され、入力端子6の正極端子と負極端子との間には、PINダイオード3をゼロバイアスするためのDCリターン素子(図示せず)が接続される。このDCリターン素子は、例えばコイルや誘導性の線路等のPINダイオード3をゼロバイアス可能なものであれば何でもよい。
【0014】
図2は、実施の形態にかかるリミッタ回路の小信号入力時における等価回路の一例を示す図である。また、図3は、実施の形態にかかるリミッタ回路の大信号入力時における等価回路の一例を示す図である。
【0015】
PINダイオード3は、PN接合の間に真正半導体層(I層)を持つ構造のダイオードであり、図2に示すように、所定の順方向バイアス以下の高周波信号が入力された場合にはコンデンサ8として作用し、図3に示すように、所定の順方向バイアス以上の高周波信号が入力された場合には十分に小さい抵抗9として作用する。
【0016】
なお、図2および図3に示す例では、インダクタンス成分1bは、入力側経路11に含まれるマイクロストリップ線路1のインダクタンス成分1aとボンディングワイヤ4とにより形成される直列インダクタンス成分を示し、インダクタンス成分2bは、出力側経路12に含まれるマイクロストリップ線路2のインダクタンス成分2aとボンディングワイヤ5とにより形成される直列インダクタンス成分を示している。
【0017】
つぎに、実施の形態にかかるリミッタ回路の動作について、図1〜図4を参照して説明する。
【0018】
実施の形態にかかるリミッタ回路において、PINダイオード3によるリミットがかからない低レベルの(つまり、所定の順方向バイアス以下の)高周波信号が入力端子6に入力された場合には(つまり、小信号入力時には)、PINダイオード3が非導通状態となり、図2に示すように、PINダイオード3がコンデンサ8として作用するため、コンデンサ8と入力側経路11のインダクタンス成分1bと出力側経路12のインダクタンス成分2bとがローパスフィルタ10を形成し(図2参照)、入力された高周波信号は、このローパスフィルタ10を通り、ある一定量の通過損失で出力端子7から出力される。
【0019】
一方、PINダイオード3によるリミットがかかる高レベルの(つまり、所定の順方向バイアス以上の)高周波信号が入力端子6に入力された場合には(つまり、大信号入力時には)、PINダイオード3に整流電流が流れ、PINダイオード3は導通状態となり、図3に示すように、PINダイオード3が十分に小さい抵抗9として作用するため、入力された高周波信号はほとんど反射されて(つまり、通過損失が大きくなり)、出力端子7への出力が制限される。
【0020】
前述したように、例えば、自レーダ装置の伝送周波数とは異なる周波数の他のレーダ装置からの放射等による不要波が自レーダ装置に入力される場合がある。
【0021】
本実施の形態では、このような不要波による影響を抑制する手段として、PINダイオード3と入力側経路11のインダクタンス成分1bと出力側経路12のインダクタンス成分2bとにより形成されるローパスフィルタ10を利用する。このローパスフィルタ10のカットオフ周波数fcの算出式は、インダクタンス成分1b,2bのインダクタンス値をL(ここで、インダクタンス成分1b,2bのインダクタンスは同値とする)とし、小信号入力時におけるPINダイオード3のキャパシタンス値をCとすると、下記(1)式で表される。
【0022】
fc=1/(2π(√LC)) …(1)
【0023】
上記した(1)式において、伝送周波数を遮断周波数以下の通過帯域に含み、且つ、不要波の周波数を通過帯域に含まないように、カットオフ周波数fcを設定する。
【0024】
ここで、キャパシタンス値Cは、一般に、PINダイオード3の耐電力が大きいほど大きくなるという特性を有するPINダイオード3により決まる値であり、自由に設定することができない。一方、各インダクタンス成分1b,2bのインダクタンス値Lは、各マイクロストリップ線路1,2および各ボンディングワイヤ4,5の長さが長くするほど大きくすることができ、短くするほど小さくすることができる。したがって、本実施の形態では、各マイクロストリップ線路1,2および各ボンディングワイヤ4,5の長さを適宜調節することにより、各インダクタンス成分1b,2bのインダクタンス値Lを調整して、カットオフ周波数fcを設定する。
【0025】
これにより、小信号入力時において、実施の形態にかかるリミッタ回路のカットオフ周波数fc以上の帯域を減衰させることができ、不要波による影響が抑制される。
【0026】
図4は、小信号入力時における実施の形態にかかるリミッタ回路の通過特性および反射特性の一例を示す図である。図4において、縦軸は利得あるいは反射を示し、横軸は周波数を示している。図4に示す例では、0〜5GHzの帯域を通過帯域とし、5GHz以上の帯域を通過帯域外としている。つまり、実施の形態にかかるリミッタ回路の伝送周波数が5GHz以下の通過帯域内となるように、ローパスフィルタ10のカットオフ周波数fcを設定している。図4において実線で示す特性線Aは、リミッタ回路の通過特性の一例を示している。この通過特性の見方としては、縦軸に示す利得のマイナス符号を除いた値が通過損失を示し、伝送周波数に対しては、この通過損失が小さいほど、すなわち、0に近いほど良い特性を示している。一点鎖線で示す特性線Bは、リミッタ回路の反射特性の一例を示している。この反射特性の見方としては、縦軸に示す反射のマイナス符号を除いた値が反射損失を示し、不要波の周波数に対しては、この反射損失が小さいほど、すなわち、0から近いほど良い特性を示している。
【0027】
図4に示すように、実施の形態にかかるリミッタ回路では、ローパスフィルタ10の通過帯域外では、ローパスフィルタ10の作用により通過損失が上昇し、例えば、他のレーダからの放射等による不要波の影響が抑制される。
【0028】
一方、伝送周波数を含むローパスフィルタ10の通過帯域内では、通過損失の上昇を招くことなく、十分な反射損失を得ることができる。なお、反射特性における3〜4GHz付近のディップは、インダクタンス成分1aおよびPINダイオード3のキャパシタンス成分の直列回路により生じる共振点を示しており、0MHzのディップは、DCリターン素子(図示せず)により直流成分が反射されることを示している。
【0029】
このように、本実施の形態にかかるリミッタ回路では、フィルタ回路を別途設けることなく、伝送周波数以上の不要波を減衰させることができる。
【0030】
また、フィルタ回路を別途設ける必要がないため、レーダ装置等の大型化や通過損失の上昇を招くことなく、伝送周波数以上の不要波による影響を抑制することができる。
【0031】
以上説明したように、実施の形態のリミッタ回路によれば、小信号入力時においてコンデンサとして機能するPINダイオードのキャパシタンス値と、PINダイオードと入力端子との間、およびPINダイオードと出力端子と間に生じるインダクタンス成分のインダクタンス値とにより形成されるローパスフィルタを利用して、伝送周波数以上の高周波帯域において想定される不要波を十分に減衰させることが可能なカットオフ周波数を設定するようにしたので、伝送周波数以上の不要波を減衰させるフィルタ回路を別途設ける必要がない。したがって、リミッタ回路が適用されるレーダ装置等の大型化や通過損失の上昇を招くことなく、不要波による影響を抑制することができる。
【0032】
なお、上述した効果は、リミッタ回路としての本来の機能、つまり、大信号入力時における出力制限機能を損なうことなく得ることができる。
【0033】
なお、以上の実施の形態に示した構成は、本発明の構成の一例であり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、一部を省略する等、変更して構成することも可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0034】
1 マイクロストリップ線路(入力側経路)
2 マイクロストリップ線路(出力側経路)
1a インダクタンス成分(入力側経路のマイクロストリップ線路)
2a インダクタンス成分(出力側経路のマイクロストリップ線路)
1b インダクタンス成分(入力側経路)
2b インダクタンス成分(出力側経路)
3 PINダイオード
4 ボンディングワイヤ(入力側経路接続材)
5 ボンディングワイヤ(出力側経路接続材)
6 入力端子
7 出力端子
8 コンデンサ
9 抵抗
10 ローパスフィルタ
11 入力側経路
12 出力側経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波帯域およびミリ波帯域の高周波信号の伝送において用いられるリミッタ回路であって、
誘電体基板上に形成された誘導性のマイクロストリップ線路を含む入力側経路と、
前記誘電体基板上に形成された誘導性のマイクロストリップ線路を含む出力側経路と、
一端が接地され、他端が前記入力側経路と前記出力側経路との間に接続されたPINダイオードと、
を備え、
前記PINダイオードがキャパシタ性を有する小信号入力時において、前記入力側経路および前記出力側経路のインダクタンス値と前記PINダイオードのキャパシタンス値とにより、当該リミッタ回路の伝送周波数を遮断周波数以下の通過帯域に含み、且つ、不要波の周波数を前記通過帯域に含まないローパスフィルタを形成する
ことを特徴とするリミッタ回路。
【請求項2】
前記入力側経路および前記出力側経路は、前記各マイクロストリップ線路と前記PINダイオードの他端とをそれぞれ接続する接続材を含むことを特徴とする請求項1に記載のリミッタ回路。
【請求項3】
前記インダクタンス値は、前記各マイクロストリップ線路および前記各接続材の長さにより調節されたことを特徴とする請求項2に記載のリミッタ回路。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−186723(P2012−186723A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−49424(P2011−49424)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】