説明

リヨセル繊維およびその製造方法

【課題】リヨセル繊維製造用パルプの製造方法を提供する。
【解決手段】高ヘミセルロース含有量、低銅価を有し、かつ低平均重合度(D.P.)及び狭い分子量分布を有するセルロースを含む、リヨセル繊維を製造するために有用な組成物、高ヘミセルロース含有量、低銅価を有し、低平均重合度及び狭い分子量分布を有するセルロースを含む、リヨセル繊維を製造するために有用な組成物を製造するための方法及び高い割合のヘミセルロースを含むリヨセル繊維を提供する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本出願は、両方とも1996年8月23日に出願された仮出願第60/023,909号及び第60/024,462号の優先権を請求した1997年8月22日に出願された出願第08/916,652号(現在放棄された)の一部継続である1998年3月16日に出願された出願第09/039,737号の一部継続である1998年11月3日に出願された出願第09/185,423号の一部継続である1999年2月24日に出願された出願第09/256,197号の一部継続である。
【0002】
発明の分野
本発明は、リヨセル繊維を製造するために有用な処理済みパルプ、リヨセル繊維を製造するために有用なこのようなパルプを製造する方法、及び本発明の組成物から製造したリヨセル繊維に関する。特に、本発明は、高ヘミセルロース含有量、低銅価を有し、かつ低平均重合度及び狭い分子量分布を有するセルロースを含む組成物に関する。
【0003】
発明の背景
セルロースはD−グルコースのポリマーであり、また植物の細胞壁の構造成分である。セルロースは樹幹に特に豊富で、樹幹からセルロースを抽出してパルプに転換し、その後様々な製品の製造に利用する。レーヨンとは衣類を製造するために繊維産業において広く使用される再生セルロースの繊維質形態に与えられた名称である。1世紀以上の間、レーヨンの強繊維はビスコース法と銅アンモニア法によって製造されてきた。後者の方法は1890年に最初に特許化され、その2年後にビスコース法が特許化された。ビスコース法においては、最初にセルロースをマーセル化強度カセイソーダ溶液に浸してアルカリセルロースを形成する。これを二硫化炭素と反応させてキサントゲン酸セルロースを形成し、次にこれをカセイソーダ希薄溶液中に溶解させる。ろ過及び脱気した後、キサントゲン酸塩溶液を、硫酸、硫酸ナトリウム、硫酸亜鉛及びグルコースの再生浴液体表面下に沈めた紡糸口金から押出して、連続フィラメントを形成する。得られた、いわゆるビスコースレーヨンは現在繊維で使用されており、以前はタイヤ及び駆動ベルト等のゴム物品を補強するために広く使用されていた。
【0004】
セルロースはまた、アンモニア酸化銅(ammonia copper oxide)の溶液中にも可溶である。この特性によって銅アンモニアレーヨンの製造の基礎原料を形成する。液体表面下に沈めた紡糸口金から5%カセイソーダまたは希硫酸溶液中にセルロース溶液を圧入して繊維を形成し、これを次に脱銅化(decopper)し、洗浄する。銅アンモニアレーヨンは非常に低デニールの繊維に利用可能であり、ほとんどもっぱら繊維で使用される。
【0005】
レーヨンを製造するための前述の方法は両方とも、セルロースを可溶にし、従って紡糸して繊維にすることができるように、セルロースを化学的に誘導体化するか錯体形成する必要がある。ビスコース法においてはセルロースを誘導体化するが、銅アンモニアレーヨン法においてはセルロースを錯体形成する。いずれの方法においても、誘導体化セルロースまたは錯体形成化セルロースを再生しなければならないし、可溶化するために使用した試薬を除去しなければならない。レーヨン製造においては、誘導体化及び再生工程によって、この形態のセルロース繊維のコストはかなり増大する。従って、近年、非誘導体化セルロースを溶解させて非誘導体化セルロースのドープを形成し、これから繊維を紡糸できる溶媒を発見しようという試みがなされてきた。
【0006】
セルロースを溶解させるために有用な有機溶媒の1クラスは、アミン−Nオキシド類、特に第三級アミンN−オキシド類である。例えば、Graenacherは米国特許第2,179,181号において、溶媒として適切なアミンオキシド材料の一群を開示している。Johnsonは米国特許第3,447,939号において、セルロース並びに多くの他の天然及び合成ポリマーのための溶媒としての無水N−メチルモルホリン−N−オキシド(NMMO)並びに他のアミンN−オキシド類の使用を説明している。Franks et al.は米国特許第4,145,532号及び同第4,196,282号において、セルロースをアミンオキシド溶媒中に溶解させることの困難性及びより高濃度のセルロースを実現することの困難性について論じている。
【0007】
リヨセルは、ヒドロキシル基の置換が起きず、かつ化学的中間体が形成されないような有機溶液から沈澱させたセルロースで構成される繊維の一般的に認められている属名である。主に繊維産業において使用するために、幾つかの製造業者がリヨセル繊維を現在製造している。例えば、アコーディス、Ltd.(Acordis, Ltd.)が現在、テンセル(登録商標)(Tencel(登録商標))繊維と呼ばれるリヨセル繊維を製造し、販売している。
【0008】
現在入手可能なリヨセル繊維は、非セルロース成分、特にヘミセルロースを除去するために高度に処理された高品質木材パルプから製造されていると考えられる。こうした高度に処理されたパルプは溶解等級または高アルファ(すなわち高α)パルプと呼ばれ、ここで“アルファ(すなわちα)”という用語は、セルロースの百分率を表す。従って高アルファパルプは、高い割合のセルロースと、それに対応して低い割合の他の成分、特にヘミセルロースとを含む。高アルファパルプを製造するために必要な処理によって、リヨセル繊維及びこれから製造した製品のコストはかなり増大する。
【0009】
例えば、クラフト法を使用して溶解等級パルプを製造する場合、硫化ナトリウムと水酸化ナトリウムとの混合物を使用して木材をパルプ化する。従来のクラフト法ではさらなるアルカリの攻撃に対して残存ヘミセルロースを安定化するので、漂白段階におけるクラフトパルプの次の処理によって許容可能な品質の溶解パルプ、すなわち高アルファパルプを得ることが可能ではない。溶解タイプのパルプをクラフト法によって製造するためには、アルカリ法パルプ化段階の前に原料に酸性の前処理を施す必要がある。元の木材物質の約10%以上であるかなりの量の材料(主にヘミセルロース)がこの酸性相前処理において可溶化し、従ってプロセス収率が低下する。前加水分解条件下では、セルロースは攻撃に対して十分に耐性があるが、残存ヘミセルロースははるかに短い鎖長に分解し、従って次のクラフト蒸解において様々なヘミセルロース加水分解反応または溶解によって多量に除去できる。
【0010】
前加水分解段階は通常、高温(150〜180℃)で希薄鉱酸(硫酸または水性二酸化硫黄)を用いるか、またはより低温で2時間までの時間を必要とする水のみを用いた木材の処理を含む。後者の場合、天然に存在する多糖類(大部分は針葉樹材中のマンナン類及び広葉樹材中のキシラン)の幾らかから遊離した酢酸が、pHを4未満に低下させる。
【0011】
さらに、銅価が高いとアミンオキシド溶媒中での溶解の前、最中、及び/または後にセルロース及び溶媒を劣化させると一般に考えられているので、比較的に低い銅価(セルロースの相対カルボニル含有量を反映する)が、リヨセル繊維を製造するために使用する予定のパルプの望ましい性質である。劣化した溶媒は処分するかまたは再生できる。しかしながら、コスト面から、溶媒を処分することは一般に望ましくない。溶媒の再生は、再生処理は、危険な、場合によっては爆発性の条件を含むという欠点を有する。
【0012】
遷移金属はリヨセル法におけるセルロース及びNMMOの望ましくない劣化を加速する等の理由から、遷移金属含有量が低いことが、リヨセル繊維を製造するために使用する予定のパルプの望ましい性質である。
【0013】
市販の溶解等級パルプを製造する費用を考慮して、リヨセル原料としての従来の高アルファ溶解等級パルプに代わるものを有することが望ましいと思われる。加えて、パルプ製造業者は、既存の資本プラントを利用することで、このようなタイプのパルプを製造するために必要な資本投資を最小にすることを希望している。
【0014】
リヨセル繊維の特性を制御するために、リヨセル製造業者は、様々な範囲内の平均重合度値を有する様々なパルプのブレンドを含むドープを利用している。この点を考慮して、パルプ製造業者が、比較的に狭い帯域内の平均重合度を有するパルプを製造する必要もある。
【0015】
従って、リヨセル繊維を製造するために使用できる比較的に廉価な低アルファ(例えば、高収率)パルプ、パルプ製造業者が現在利用できる資本設備を使用して前述の低アルファパルプを製造する方法、及び前述の低アルファパルプから得たリヨセル繊維が要望されている。好ましくは、所望の低アルファパルプは、望ましい低銅価、望ましい低リグニン含有量及び望ましい低遷移金属含有量を有しよう。
【0016】
本出願の譲受人に譲渡された先願第09/256,197号においては、クラフトパルプのD.P.値及び銅価を減少させる様々な方法が説明されている。このような方法は、パルプを、酸、若しくは酸代替物、または酸と酸代替物との組合せを用いて処理することを含む。ヘミセルロース含有量を実質的に減少させることなくセルロースの平均D.P.を減少させるためにパルプを処理するための、先願に説明されている他の手段は、蒸気を用いたパルプの処理、硫酸第一鉄と過酸化水素との組合せ、少なくとも1種の遷移金属及び過酢酸、ほぼ中性で終了する酸性のまたは次亜塩素酸ナトリウムの処理で終了するアルカリ性二酸化塩素処理を含む。このような方法は、ヘミセルロース含有量を実質的に減少させることなく平均重合度を減少させるのに有効であるが、このような方法は、このような方法を使用する予定の既存のパルプ工場が、このような方法の簡易な展開に対処するように構成されていない場合、資本改良の観点から高価となり得る。先願においては、ヘミセルロース含有量を実質的に減少させることなく平均重合度を減少させるために処理したパルプの銅価を減少させるための追加の工程を説明している。セルロースの平均重合度を減少させるための先願に説明されている方法は、生成したパルプの銅価の増大をもたらすので、その後の銅価減少工程の必要が生じた。
【0017】
環境上の懸念を考慮して、プロセス流れから回収しなければならないクロロ化合物の量を低減する漂白剤の使用に大きな関心が寄せられてきた。近年、脱リグニン剤として、酸素が商業規模で使用されている。酸素段階脱リグニンを実行するために有用な設備及び装置の例は、米国特許第4,295,927号、同第4,295,925号、同第4,298,426号、及び同第4,295,926号に説明されている。
【0018】
先願に説明されている方法は、ヘミセルロース含有量を実質的に減少させることなくセルロースの平均D.P.を減少させるのに有効であるが、別個の銅価減少工程を必要とせず、かつ、酸素反応器、多数のアルカリ性段階及び/または晒パルプまたは半晒パルプの実質的なD.P.減少に適したアルカリ性条件を含むパルプ工場に容易に適合できる方法が要望されている。
【0019】
発明の要約
本明細書において使用する“本発明の(単数または複数の)組成物”、または“リヨセル繊維を製造するために有用な(単数または複数の)組成物”、または“処理済みパルプ”という用語は、パルプのヘミセルロース含有量を実質的に減少させることなくかつパルプの銅価を実質的に増大させることなくセルロースの平均重合度(D.P.)を減少させるためにアルカリ性条件下で処理した、セルロースとヘミセルロースとを含むパルプを指す。本発明の組成物は好ましくは、本明細書において説明するようにさらなる特性を有する。
【0020】
本発明の組成物は、高ヘミセルロース含有量、低銅価、及び狭い分子量分布を有し、かつ低平均D.P.を有するセルロースを含む、リヨセル繊維、または他の成形品の例えばフィルムを製造するために有用な組成物である。好ましくはセルロース及びヘミセルロースは木材に、より好ましくは針葉樹材に由来する。加えて、本発明の組成物は、低リグニン含有量及び低遷移金属含有量を含む様々な望ましい特性を示す。本発明の組成物は、例えば、シート、ロール若しくは梱等の貯蔵または輸送に適応した形態であってもよい。本発明の組成物を他の成分または添加剤と混合して、リヨセル成形品の例えば繊維またはフィルムを製造するために有用なパルプを形成してもよい。さらに本発明は、望ましいヘミセルロース含有量及び銅価を有し、かつ望ましい平均D.P.及び分子量分布を有するセルロースを含む、リヨセル繊維を製造するために有用な組成物を製造するための方法を提供する。
【0021】
本発明はまた、低平均D.P.を有するセルロース、高い割合のヘミセルロース、低銅価、狭い分子量分布、及び低リグニン含有量を含むリヨセル繊維も提供する。本発明のリヨセル繊維はまた好ましくは、低遷移金属含有量を有する。
【0022】
本発明の組成物は、セルロース及びヘミセルロースの任意の適切な源から製造することができるが、好ましくはアルカリ法化学木材パルプの例えばクラフトパルプまたはソーダパルプ、より好ましくはクラフト針葉樹材パルプから製造する。本発明の組成物は、少なくとも7重量%のヘミセルロース、好ましくは7重量%〜約25重量%のヘミセルロース、より好ましくは7重量%〜約20重量%のヘミセルロース、最も好ましくは約10重量%〜約17重量%のヘミセルロースと、約200〜約1100、好ましくは約300〜約1100、より好ましくは約400〜約700の平均D.P.を有するセルロースとを含む。本発明の現在好ましい組成物は、約10重量%〜約17重量%のヘミセルロース含有量を有し、約400〜約700の平均D.P.を有するセルロースを含む。ヘミセルロース含有量は、TAPPIスタンダードT249 hm−85に基づく糖含有量アッセイによって測定する。さらに本発明の組成物は、好ましくは2未満、好ましくは1未満のカッパー価を有する。最も好ましくは、本発明の組成物は、検出可能なリグニンを含まない。リグニン含有量は、TAPPI試験T236 cm−85を使用して測定する。
【0023】
本発明の組成物は、個々のD.P.値がひとつの最頻D.P.値(modal D.P. value)の周辺でほぼ正規分布した単峰性分布(unimodal distribution)のセルロースD.P.値を有する。すなわち、最頻D.P.値とは分布中に最も頻繁に発生するD.P.値である。しかしながら、セルロースD.P.値の分布は、多峰性(multimodal)、すなわち、幾つかの最大値を有するセルロースD.P.値の分布であってもよい。本発明の多峰性の処理済みパルプは、例えば、各々が異なる最頻D.P.値を有する本発明の2種以上の単峰性の処理済みパルプを混合することによって形成できる可能性がある。セルロースD.P.値の分布は、チューリンギッシェス・インスツート・フューア・テクスティール−ウント・クンシュトッフ・フォルシュンゲ. V.、ブライトシャイドstr 97、D−07407 ルードルシュタット、ドイツ(Thuringisches Instut fur Textil-und Kunstoff Forschunge. V., Breitscheidstr 97, D-07407 Rudolstadt, Germany)によって実行される、占有権のあるアッセイによって測定する。
【0024】
パルプのヘミセルロース含有量を実質的に減少させることなくD.P.を減少させるために処理した本発明の組成物は、望ましい狭い分子量分布を示し、これは、R10値とR18値との間の差(ΔR)約2.8未満、好ましくは約2.0未満、最も好ましくは約1.5未満によって証明される。
【0025】
加えて、本発明の組成物は、好ましくは比較的に低いカルボニル含有量を有し、これは、TAPPIスタンダードT430によって測定して銅価約2.0未満、より好ましくは約1.1未満、最も好ましくは約0.8未満によって証明される。さらに、本発明の組成物は好ましくは、約60μmol/g未満のカルボニル含有量及び約60μmol/g未満のカルボキシル含有量、より好ましくは30μmol/g未満のカルボニル含有量及び約30μmol/g未満のカルボキシル含有量を有する。カルボキシル基含有量及びカルボニル基含有量は、チューリンギッシェス・インスツート・フューア・テクスティール−ウント・クンシュトッフ・フォルシュンゲ. V.、ブライトシャイドstr 97、D−07407 ルードルシュタット、ドイツ(下記でTITKと呼ぶ)によって実行される、占有権のあるアッセイによって測定する。
【0026】
本発明の組成物はまた好ましくは、低遷移金属含有量も有する。好ましくは本発明の組成物の全遷移金属含有量は、ウェヤーハウザー試験番号AM5−PULP−1/6010(Weyerhaeuser Test Number AM5-PULP-1/6010)によって測定して20ppm未満、より好ましくは5ppm未満である。“全遷移金属含有量”という用語は、ニッケル、クロム、マンガン、鉄及び銅の、100万分率の単位(ppm)で測定した総量を指す。本発明の組成物の鉄含有量は、ウェヤーハウザー試験AM5−PULP−1/6010によって測定して好ましくは4ppm未満、より好ましくは2ppm未満であり、本発明の組成物の銅含有量は、ウェヤーハウザー試験AM5−PULP−1/6010によって測定して好ましくは1.0ppm未満、より好ましくは0.5ppm未満である。
【0027】
本発明の組成物は、NMMO等の第三級アミンオキシド類を含むアミンオキシド類に溶解し易い。NMMOまたは別の第三級アミン溶媒と混合できる他の好ましい溶媒としては、ジメチルスルホキシド(D.M.S.O)、ジメチルアセトアミド(D.M.A.C.)、ジメチルホルムアミド(D.M.F.)及びカプロラクタン(caprolactan)誘導体が挙げられる。好ましくは、本発明の組成物は、下記の実施例11において説明する溶解手順を利用して、約70分未満で、好ましくは約20分未満でNMMO中に完全に溶解する。これに関連して使用する“完全に溶解する”という用語は、本発明の組成物をNMMO中に溶解させて形成したドープを40倍〜70倍の倍率で、光学顕微鏡下で観察した場合に不溶解粒子が実質的に観察されないことを意味する。
【0028】
本発明の処理済みパルプの第1の好適な実施例は、少なくとも7重量%のヘミセルロース、約2.0未満の銅価、約200〜約1100の平均重合度を有するセルロース、及び約2.8未満のΔRを含む処理済みクラフトパルプである。
【0029】
本発明の処理済みパルプの第2の好適な実施例は、少なくとも7重量%のヘミセルロース、2未満の銅価、約200〜約1100の平均重合度を有するセルロース、及び約2.8未満のΔRを含む処理済みクラフトパルプであり、セルロースの個々のD.P.値は単峰性で分布している。
【0030】
本発明の処理済みパルプの第3の好適な実施例は、少なくとも7重量%のヘミセルロース、約200〜約1100の平均重合度を有するセルロース、2未満のカッパー価、0.8未満の銅価、及び約2.8未満のΔRを含む処理済みクラフトパルプである。
【0031】
本発明の組成物から形成したリヨセル繊維は、少なくとも約5重量%のヘミセルロース、好ましくは約5重量%〜約22重量%のヘミセルロース、より好ましくは約5重量%〜約18重量%のヘミセルロース、最も好ましくは約10重量%〜約15重量%のヘミセルロースと、約200〜約1100、より好ましくは約300〜約1100、最も好ましくは約400〜約700の平均D.P.を有するセルロースと、約2.0未満、より好ましくは約1.0未満のカッパー価を提供するリグニン含有量とを含む。加えて、本発明のリヨセル繊維は、多峰性分布のセルロースD.P.値、すなわち幾つかの最大値を有するセルロースD.P.値の分布を有していてもよいが、本発明の好ましいリヨセル繊維は、単峰性分布のセルロースD.P.値を有する。多峰性分布のセルロースD.P.値を有する本発明のリヨセル繊維は、例えば、各々が異なる最頻D.P.値を有する本発明の2種以上の単峰性の処理済みパルプの混合物から製造することができる。
【0032】
本発明の好ましいリヨセル繊維は、TAPPIスタンダードT430によって測定して約2.0未満、より好ましくは約1.1未満、最も好ましくは約0.8未満の銅価を有する。さらに、本発明の好ましいリヨセル繊維は、約60μmol/g未満のカルボニル含有量及び約60μmol/g未満のカルボキシル含有量、より好ましくは約30μmol/g未満のカルボニル含有量及び約30μmol/g未満のカルボキシル含有量を有する。カルボキシル基含有量及びカルボニル基含有量は、チューリンギッシェス・インスツート・フューア・テクスティール−ウント・クンシュトッフ・フォルシュンゲ. V.、ブライトシャイドstr 97、D−07407 ルードルシュタット、ドイツによって実行される、占有権のあるアッセイによって測定する。加えて、本発明の好ましいリヨセル繊維は、ウェヤーハウザー試験番号AM5−PULP−1/6010によって測定して約20ppm未満、より好ましくは約5ppm未満の全遷移金属含有量を有する。“全遷移金属含有量”という用語は、ニッケル、クロム、マンガン、鉄及び銅の、100万分率の単位(ppm)で表す総量を指す。本発明のリヨセル繊維の鉄含有量は、ウェヤーハウザー試験AM5−PULP−1/6010によって測定して好ましくは約4ppm未満、より好ましくは約2ppm未満であり、本発明のリヨセル繊維の銅含有量は、ウェヤーハウザー試験AM5−PULP−1/6010によって測定して好ましくは約1ppm未満、より好ましくは約0.5ppm未満である。
【0033】
本発明のリヨセル繊維の好適な実施例は、望ましい伸び特性を有する。好ましくは本発明のリヨセル繊維は、約8%〜約17%、より好ましくは約12%〜約15%の乾燥伸び(dry elongation)を有する。好ましくは本発明のリヨセル繊維は、約12%〜約18%の湿潤伸び(wet elongation)を有する。伸びは、チューリンギッシェス・インスツート・フューア・テクスティール−ウント・クンシュトッフ・フォルシュンゲ. V.、ブライトシャイドstr 97、D−07407 ルードルシュタット、ドイツによって実行される、占有権のあるアッセイによって測定する。本発明の処理済みパルプから製造したリヨセル繊維は、チューリンギッシェス・インスツート・フューア・テクスティール−ウント・クンシュトッフ・フォルシュンゲ. V.、ブライトシャイドstrによって実行される、占有権のあるアッセイによって測定して、約40〜42cN/texの乾燥靱性及び約30〜33cN/texの湿潤靱性を示した。
【0034】
別の態様においては、本発明は、リヨセル成形品の例えば繊維またはフィルムに成形できる本発明の組成物を製造するための方法を提供する。この態様においては、本発明は、セルロースと少なくとも約7%のヘミセルロースとを含むアルカリ法パルプと、ヘミセルロース含有量を実質的に減少させることなくかつ銅価を増大させることなく、セルロースの平均D.P.を約200〜約1100の範囲、好ましくは約300〜約1100の範囲、より好ましくは約400〜約700の範囲に減少させるのに十分な量の酸化剤とをアルカリ性条件下で接触させることを含む方法を提供する。上記に検討したようにヘミセルロース含有量を実質的に減少させることなくかつ銅価を増大させることなくD.P.減少を実現するために本発明に従って酸化剤を用いて処理する予定のパルプは、最初に酸化剤と接触した時に、好ましくは40未満、より好ましくは30未満、最も好ましくは25未満のカッパー価を有する。
【0035】
このD.P.減少処理は、パルプ化プロセスの後でかつ、漂白工程を利用する場合には漂白プロセスの前、最中または後に行うことができる。アルカリ性条件下での酸化剤は、過酸化物基を含む任意の酸化剤の例えば過酸化水素、酸素、二酸化塩素及びオゾンである。好ましくは酸化剤は、酸素と過酸化水素との組合せ、または過酸化水素単独である。
【0036】
好ましくは本発明のD.P.減少工程の収率は約95%を超え、より好ましくは約98%を超える。プロセス収率は、出発物質パルプの乾燥重量で割ったプロセスによって製造した処理済みパルプの乾燥重量であり、得られた分数を100倍して百分率として表す。
【0037】
本発明の別の態様においては、リヨセル繊維を製造するための方法は、(a)パルプ化プロセス後、パルプのヘミセルロース含有量を実質的に減少させることなくかつ銅価を増大させることなく、セルロースの平均重合度を約200〜約1100、好ましくは約300〜約1100の範囲に減少させるのに十分な量の酸化剤と、セルロースと少なくとも約7%のヘミセルロースとを含むアルカリ法パルプとを接触させる工程と;(b)工程(a)に従って処理したパルプから繊維を形成する工程とを含む。本発明のこの態様によれば、リヨセル繊維を好ましくは、メルトブロー、遠心紡糸、スパンボンド及びドライジェット/湿式法からなる群から選択される方法によって形成する。
【0038】
好適な実施例の詳細な説明
本発明の前述の態様と附随する利益の多くとは、添付図面と合わせて以下の詳細な説明を参照することによってより良く理解されるにつれて、より容易に了解されよう。
【0039】
本発明の実施において有用な出発物質は、セルロースとヘミセルロースとを含む。本発明の実施において有用な出発物質の例としては、木及びリサイクル紙が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明の実施において使用する出発物質は、どのような源から得ても、アルカリ法パルプ化プロセスの例えばクラフト法またはソーダ法を使用して最初にパルプに転換する。本発明の実施において現在好ましい出発物質は、セルロースと少なくとも約7%のヘミセルロースとを含み、セルロースグリコシド結合が切断するような酸加水分解条件または任意の他の不均一混合物条件(すなわち、反応時間、温度、及び酸濃度)にさらされたことがない、アルカリ法化学木材パルプ、好ましくは未漂白クラフト木材パルプ、または漂白クラフト木材パルプである。下記の本発明の好適な実施例の検討では、出発物質をパルプまたはパルプ化木材と呼ぶが、本発明の好適な実施例の以下の説明において特に木材を出発物質パルプ源と呼ぶことは、ヘミセルロース及びセルロースの現在好ましい源を限定するものではなく、むしろ1例とするものであることは理解できよう。
【0040】
本発明の実施における出発物質として有用なパルプ(例えば、漂白または未漂白アルカリ法クラフト木材パルプ)と本発明の組成物(出発物質パルプのヘミセルロース含有量を実質的に減少させることなくかつ銅価を増大させることなく出発物質パルプの平均D.P.を減少させるために出発物質を処理することによって製造したもの)とを区別するために、後者を“本発明の(単数または複数の)組成物”または“リヨセル繊維を製造するために有用な(単数または複数の)組成物”、または“処理済みパルプ”または“処理済みクラフトパルプ”と呼ぶ。
【0041】
木材パルプ化産業においては、木は従来、広葉樹材または針葉樹材のいずれかに分類されている。本発明の実施において、本発明の実施における出発物質として使用するためのパルプは、針葉樹材種、例えば、モミ属(好ましくはベイマツ及びバルサムモミ)、マツ属(好ましくはストローブマツ及びテーダマツ)、トウヒ属(好ましくはシロトウヒ)、カラマツ属(好ましくはイースタンラーチ(Eastern larch))、ヒマラヤスギ属、及びツガ属(好ましくはカナダツガ及びベイツガ)に由来するが、これらに限定されるものではない。本発明の実施における出発物質として有用なパルプが由来できる広葉樹材の例としては、アカシア、ハンノキ属(好ましくはルブラハンノキ及びヨーロッパグルチノーザハンノキ)、ヤマナラシ(好ましくはアメリカヤマナラシ)、ブナ属、カンバ属、コナラ属(好ましくはホワイトオーク(White oak))、ゴムノキ(好ましくは、ユーカリ及びモミジバフウ)、ハコヤナギ属(好ましくはヒロハハコヤナギ、アメリカクロポプラ、ブラックコットンウッド(Black cottonwood)及びユリノキ)、ゲメリア(gmelina)及びカエデ属(好ましくはサトウカエデ、ベニカエデ、ギンヨウカエデ及びヒロハカエデ)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0042】
針葉樹材または広葉樹材種から得た木材は、一般に3種類の主成分:セルロース、ヘミセルロース及びリグニンを含む。セルロースは植物の木質構造の約50%を構成し、D−グルコースモノマーの非分岐ポリマーである。個々のセルロースポリマー鎖は会合して、より太いミクロフィブリルを形成し、これは次に会合して束に配列されるフィブリルを形成する。束は、光学顕微鏡下、高倍率で観察した時に、植物細胞壁の成分として目に見える繊維を形成する。セルロースは、多くの分子間水素結合の結果として、高度に結晶質である。
【0043】
“ヘミセルロース”という用語は、木材中でセルロースと会合する低分子量の炭水化物ポリマーの異種の群を指す。ヘミセルロースは、線状ポリマーであるセルロースと対照的に、非晶質の分岐ポリマーである。ヘミセルロースを形成するために結合する主な単糖類は、D−グルコース、D−キシロース、D−マンノース、L−アラビノース、D−ガラクトース、D−グルクロン酸及びD−ガラクツロン酸である。
【0044】
リグニンは、複雑な芳香族ポリマーであり、非晶質ポリマーとしても存在する場合には木材の約30%〜50%を占める。
パルプ化業界においては、木材の主成分の化学的な相違を利用してセルロースを精製する。例えば、蒸気の形態の加熱水は、ヘミセルロースからアセチル基を除去し、酢酸の形成によって、対応してpHが低下する。約150℃〜180℃の高温で、木材の炭水化物成分の酸加水分解が結果として起こり、リグニンが少量加水分解する。ヘミセルロースは特にこの酸加水分解を受け易く、ヘミセルロースの大部分は、最初の蒸気か、背景において説明したようにクラフトパルプ化プロセスか、または酸性亜硫酸蒸解プロセスでの前加水分解工程によって分解し得る。
【0045】
木材とアルカリ溶液との反応に関しては、木材の全成分は強アルカリ性条件による分解を受け易い。クラフト木材パルプ化の最中に典型的に利用される140℃以上の高温で、ヘミセルロース及びリグニンは希薄アルカリ溶液によって優先的に分解する。加えて、木材の全成分は、漂白剤の例えば、塩素、次亜塩素酸ナトリウム及び過酸化水素によって酸化し得る。
【0046】
パルプ化手順、例えば、アルカリ法パルプ化を使用して、リヨセル繊維を製造するために有用な組成物を提供するために本発明に従って処理されるアルカリ法木材パルプを提供することができる。適切なアルカリ法パルプ化プロセスの例としては、(1)グリコシド酸素原子の素早いプロトン化、(2)C−1への正電荷のゆっくりした移動とその結果として起きるカルボヌイン(carbonuins)イオンの形成及びグリコシド結合の融合及び(3)遊離の糖を与えるためのカルボニウムイオンへの水による素早い攻撃によってセルロースグリコシド結合が切断するような酸前加水分解工程がないか若しくは他の酸性不均一混合物条件(すなわち、反応時間、温度及び酸濃度)にさらすことがないクラフト法またはソーダ法が挙げられる。二酸化塩素状態または多数の二酸化塩素段階を含む典型的なクラフト漂白順序が4未満のpH及び約70℃を超える温度を含む場合、このような段階の合わせた不均一混合物条件は、セルロースの実質的なDP減少を引き起こすのに適切ではない。アルカリ法パルプ化前の酸前処理工程を回避することによって、アルカリ法パルプ化木材の全製造コストが低減される。さらに、酸前加水分解を回避することによって、ヘミセルロースの分解が減少し、パルプ化プロセスの全収率を増大させることができる。従って、本明細書において使用するアルカリ法パルプという句は、木材チップまたは他のバイオマスを繊維に転換するパルプ化プロセスの前または最中にセルロースグリコシド結合の切断をもたらすと思われる酸性条件または任意の他の不均一混合物条件(すなわち、反応時間、温度、及び酸濃度)のいかなる組合せにもさらされたことがないセルロースとヘミセルロースとを含むパルプを指す。
【0047】
本発明の実施において出発物質として使用するのに適したアルカリ法パルプ化木材の特性は、少なくとも7重量%、好ましくは7重量%〜約30重量%、より好ましくは7重量%〜約25重量%、最も好ましくは約9重量%〜約20重量%のヘミセルロース含有量;約600〜約1800のセルロースの平均D.P.;約40未満、好ましくは30未満、より好ましくは25未満のカッパー価;及び約2.0未満、好ましくは1.0未満の銅価を含む。パルプのヘミセルロースまたはリグニン含有量に適用する際に本明細書において使用する“重量%”若しくは“重量パーセント”、またはその文法的な変異形は、パルプの乾燥重量を基準とした重量百分率を意味する。
【0048】
図1A〜1Cに示すように、本発明の実施においては、一旦針葉樹材等の出発物質を、セルロースとヘミセルロースとを含むアルカリ法パルプに転換したら、ヘミセルロース含有量を実質的に減少させることなくかつ銅価を増大させることなくセルロースの平均D.P.を減少させる反応器中で処理にかけて、本発明の組成物を提供する。これに関連して、“ヘミセルロース含有量を実質的に減少させることなく”という用語は、D.P.減少工程の最中に、ヘミセルロース含有量を約50%を超えて、好ましくは約15%を超えて、最も好ましくは約5%を超えて減少させないことを意味する。“重合度”(D.P.と略す)という用語は、セルロース分子中のD−グルコースモノマーの数を指す。従って、“平均重合度”、または“平均D.P.”という用語は、セルロースポリマーの一群中のセルロースポリマー当たりのD−グルコース分子の平均数を指す。このD.P.減少処理は、パルプ化プロセスの後でかつ、漂白工程を利用する場合には漂白プロセスの前、後または実質的に同時に行うことができる。これに関連して、“実質的に同時に”という用語は、D.P.減少工程の少なくとも一部分を漂白工程の少なくとも一部分と同時に行うことを意味する。好ましくはセルロースの平均D.P.は約200〜約1100の範囲内の値、より好ましくは約300〜約1100の範囲内の値、最も好ましくは約400〜約700の値に減少する。特に断らない限り、D.P.はASTM試験1301−12によって測定する。経済的に魅力的な稼働条件の範囲内では、ドープ、すなわち、これからリヨセル繊維を製造する処理済みパルプの溶液、の粘度は十分に低いのでリヨセル繊維を形成するために利用する細いオリフィスを通して容易に押出すことができ、しかも得られたリヨセル繊維の強度が実質的に弱まる程低くはないので、前述の範囲内のD.P.が望ましい。好ましくは、処理済みパルプのD.P.値の範囲は単峰性であり、最頻D.P.値の周辺に集中するほぼ正規分布を有しよう。
【0049】
本出願においては、“銅価を実質的に増大させることなく”という用語は、D.P.減少工程の最中に、銅価を100%を超えて、好ましくは約50%を超えて、最も好ましくは約25%を超えて増大させないことを意味する。D.P.減少工程の最中に銅価が変化する程度は、D.P.減少工程に入るパルプの銅価とD.P.減少工程後の処理済みパルプの銅価とを比較することで測定する。銅価が高いとドープを形成するための処理済みパルプの溶解の最中及び後にセルロース及び溶媒を劣化させると一般に考えられているので、低い銅価が望ましい。銅価とは、セルロースの還元価を測定するために使用する経験的な試験である。銅価は、セルロース材料の指定の重量によってアルカリ性媒質中で水酸化第二銅から酸化第一銅へと還元する金属銅のミリグラム数として表される。
【0050】
重量百分率で表した、処理済みパルプのヘミセルロース含有量は、少なくとも7重量%;好ましくは約7重量%〜約25重量%;より好ましくは約7重量%〜約20重量%;最も好ましくは約10重量%〜約17重量%である。処理済みパルプのヘミセルロースまたはリグニン含有量に適用する際に本明細書において使用する“重量パーセント(または%)”若しくは“重量百分率”、またはその文法的な同等物は、処理済みパルプの乾燥重量を基準とした重量百分率を意味する。
【0051】
本発明の処理済みパルプはまた望ましい狭い分子量分布を示し、これは、R10値とR18値との間の差(ΔR)約2.8未満、好ましくは約2.0未満、最も好ましくは約1.5未満によって証明される。それに反して、米国出願第09/256,197号の教示に従って処理したパルプは、銅価を減少させるための処理の前には約2.8を超えるΔRを示す。この先願に従って銅価を減少させる処理をした後、先願のパルプのΔRは約2.8未満に減少することができる。亜硫酸パルプは、約7.0のΔRを示す傾向があり、前加水分解済みクラフトパルプは約3.0となる傾向があるΔRを示す。R10は、10%カセイアルカリ溶液中にパルプを溶解させようと試みた後に残った残存不溶解材料を表す。R18は、18%カセイアルカリ溶液中にパルプを溶解させようと試みた後に残った不溶解材料の残存量を表す。一般に、10%カセイアルカリ溶液中に、ヘミセルロース及び化学的に分解した短鎖セルロースは溶解し、溶液中に除去される。それに反して、一般にヘミセルロースのみの場合には、18%カセイアルカリ溶液中に溶解し、除去される。従って、R10値とR18値との間の差は、パルプ試料中に存在する化学的に分解した短鎖セルロースの量を表す。リヨセル繊維を製造するために使用するドープの分子量分布を予測可能なように適応させるために、様々な分子量特性を有するパルプと混合することができるパルプを顧客に提供できるという観点から、比較的に狭い分子量分布を有するパルプを提供することが望ましい。比較的に狭い分子量分布を有するパルプを提供する別の利益は、このようなパルプ中に存在する短鎖セルロースまたはヘミセルロース分子が低濃度であるということである。このような短鎖オリゴマー材料は、存在する場合、リヨセル溶媒回収プロセスを複雑にすることがある。
【0052】
理論によって束縛されることを意図するものではないが、本発明に従って処理したパルプ中のヘミセルロースの化学的形態は、セルロースグリコシド結合の切断をもたらす上記に説明した酸性条件または不均一混合物条件にさらされたパルプ、例えば先願第09/256,197号に説明されているパルプ及び市販の溶解等級パルプ中のヘミセルロースの化学的形態とは異なると考えられている。化学的形態のこの相違は、本発明のパルプ中のヘミセルロースのD.P.を先願または市販の溶解等級パルプのパルプのヘミセルロースのD.P.と比較することによって証明できる。このD.P.の差は、S. A. Rydholm in Pulping Processes, Interscience Publishers, 1965による検討に従って、それぞれのパルプを誘導体化(アセチル化)し、試験することで観察できる。本発明の処理済みアルカリ法パルプ中のより高いD.P.のヘミセルロースは、先願のパルプまたは市販の溶解等級パルプのヘミセルロースと比較すると、フィラメント形成プロセスの最中または形成されたリヨセルフィラメントの後処理の最中にリヨセルフィラメントから抽出される可能性は低いかもしれない。
【0053】
パルプのヘミセルロース含有量を実質的に減少させることなくかつパルプの銅価を実質的に増大させることなくセルロースの平均D.P.を減少させるためにパルプを処理する現在好ましいする方法は、(単数または複数の)高濃度または中濃度反応器中、アルカリ性条件下でパルプを処理することであり、反応器中で、パルプは、過酸化物基を含む酸化剤の例えば酸素、二酸化塩素、オゾンまたはこれらの組合せと接触する。好ましくは酸化剤は、酸素と過酸化水素との組合せ、または過酸化水素単独である。
【0054】
パルプのヘミセルロース含有量及び銅価を実質的に減少させることなく平均重合度値を減少させるために処理し本発明に従って形成した処理済みパルプは、反応器中、上記に説明した所望の結果を実現するために適切な条件下でパルプと酸化剤とを接触させることで製造できる。適切な反応器としては、クラフト法において従来酸素反応器として使用されている反応器が挙げられる。パルプと酸化剤との接触を実行できる反応器の例は、米国特許第4,295,925号、同第4,295,926号、同第4,298,426号、同第4,295,927号に説明されており、これらの各々を本明細書において参考のために引用する。好ましくはセルロースの平均重合度を減少させず同時にリグニンを除去する条件下で構成されて稼働する従来の酸素反応器と異なり、本出願人らの発明では、セルロースのヘミセルロース含有量を実質的に減少させることなくかつ銅価を増大させることなくセルロースの平均重合度を減少させる条件下で稼働するように反応器を設計している。本発明によれば、反応器は、反応器への供給流れの濃度が約20%を超えるような高濃度反応器とすることができ、または、濃度が約8%〜20%までの範囲にわたるような中濃度反応器とすることができる。下記により詳細に説明するように、本発明の所望の結果を実現するために高濃度反応器または中濃度反応器が一般的に稼働する条件は、中濃度反応器が稼働できる温度よりもわずかに高い温度での高濃度反応器の稼働に主に関連する。
【0055】
以下のものは、入ってくるパルプのヘミセルロース含有量を実質的に減少させることなくかつ銅価を増大させることなくパルプの平均重合度値の減少を実現するために反応器が稼働できる特定の条件を説明する。所望の製品を提供するために方法を最適化するために、上記に説明した条件からの変化もあり得ることは理解できるはずである。
【0056】
用いることができる酸化剤の例は上記に説明した。好ましい酸化剤としては、過酸化水素単独または酸素と過酸化水素との組合せが挙げられる。用いる時間及び温度条件が与えられれば、用いる酸化剤の量は、所望のD.P.減少及びリグニン除去を提供するはずである。酸素及び過酸化水素の適切な範囲の例を、下記に与える。好ましくは、高濃度反応器の場合、酸素は、約0から反応器の定格である最高圧力の範囲、好ましくは約0〜約85psig、より好ましくは約40〜約60psigの範囲にわたる量で存在する。過酸化水素は、約0.75重量%を超えて約5.0重量%までの範囲、より好ましくは約1.0〜約2.5重量%の範囲にわたる量で存在してよい。
【0057】
中濃度反応器においては、酸素は、約0〜約100ポンド/1トンのパルプの範囲、より好ましくは約50〜約80ポンド/1トンのパルプの範囲にわたる量で存在できる。過酸化水素は、約0.75重量%を超えて約5重量%までの範囲、より好ましくは約1.0〜約2.5重量%の範囲にわたる量で存在してよい。
【0058】
反応器が稼働する温度は、酸化剤の濃度に部分的には依存する。酸化剤を、上記に説明した範囲に含まれる量で使用する場合、約110℃〜約130℃までの温度が適切である。反応器中で起きる反応は発熱性となる傾向があり、恐らく反応器の温度の上昇をもたらすので、反応器中の温度は時間と共に変化することがあるのは理解できるはずである。使用する酸化剤の量及び温度の様々な変更によっては、上記に説明した範囲から外れる温度及び酸化剤濃度が依然として適切な結果を提供することがあるのは理解できるはずである。
【0059】
本発明によれば、パルプのヘミセルロース含有量を実質的に減少させることなくかつ銅価を増大させることなくパルプの平均重合度を減少させるために使用する単数または複数の段階は、単数または複数の段階を通してアルカリ性のままである。好ましくは、上記に説明したD.P.減少を実現するために使用する単数または複数の段階のpHは、D.P.減少プロセスの間中約8.0を超え、より好ましくは約9を超える。言及した範囲を超えるかまたはこれ未満のpHは、温度または酸化剤の濃度が必要に応じて修正された場合には満足な結果を提供するかもしれないことは理解できるはずである。
【0060】
本発明によれば、任意の酸洗浄または通常遷移金属を除去するために使用するキレート化段階の前に、パルプと酸化剤との間の接触が起きることが好ましい。過酸化水素からセルロース分解性中間体(cellulose-degrading intermediate)(セルロースの粘度にマイナスの影響を及ぼす)への分解をもたらすと考えられている遷移金属を意図的に除去しようとする従来技術の方法と異なり、本出願人らは、木材中に天然に存在する遷移金属の存在を利用して、過酸化水素を部分的に分解して中間体を生成し、この中間体はセルロースと反応して、ヘミセルロース含有量を実質的に減少させることなくかつカッパー価を増大させることなく平均重合度を減少させることを発見した。加えて、セルロースの分解を阻害する手段として硫酸マグネシウムを使用する従来技術の方法と異なり、本出願人らは、反応器中にまたは反応器の上流に硫酸マグネシウムを導入せず、その結果、酸化剤によるセルロースの分解に対する阻害剤が実質的に無い状態でパルプが(単数または複数の)酸化剤と接触することを好む。硫酸マグネシウムが反応器の前にパルプ中に存在する場合、マグネシウム対遷移金属の比は重量%基準で50%未満であることが好ましい。
【0061】
酸化剤に加えて、好ましくはカセイアルカリを緩衝化剤として反応器中でパルプと接触させる。カセイアルカリの源は、水酸化ナトリウムまたは他の材料の例えば未酸化白液または酸化済み白液とすることができる。加えるカセイアルカリの量は、未処理のパルプのカッパー価に部分的には依存しよう。一般に、カッパー価が増大するにつれて、より多くのカセイアルカリを加える。導入するカセイアルカリの量は、プロセス条件に依存して変化することがあり、4〜5重量%以上の量が適切である。
【0062】
セルロースと少なくとも7%のヘミセルロースとを含み約2以下の銅価を有する木材パルプが、上記に述べた条件下で酸化剤と接触する場合、約200〜約1,100の範囲にわたるD.P.を有し、少なくとも7重量%のヘミセルロースを含み、約2未満の銅価及び約2.8未満のΔRを有する処理済みパルプが生成する。ヘミセルロース含有量を実質的に減少させることなくかつ銅価を増大させることなく平均重合度を減少させるために漂白または未漂白木材パルプを酸化剤と接触させることができる特定の条件に関する上記の説明は模範例であり、他の条件が適切な結果を提供でき、依然として本発明の範囲内に含まれることは理解できるはずである。加えて、幾つかの状況においては、D.P.減少段階から出るパルプは、リヨセル繊維の製造のためのドープの作製において使用するのに適しているかもしれないが、他の状況においては、次のプロセス段階がパルプのヘミセルロース含有量のかなりの減少も銅価のかなりの増大ももたらすことがない場合、次のプロセス段階の例えば漂白段階が望ましいかもしれないことは理解できるはずである。加えて、上記に言及したように、幾つかの状況においては、第1の段階から第2または第3の段階においてさえも酸化剤にさらされたパルプを、酸化剤と接触させて、ヘミセルロース含有量を実質的に減少させることなくかつ銅価を増大させることなくさらにセルロースの重合度を減少させることが必要かまたは有利なことがある。
【0063】
図1を再び参照して、一旦アルカリ法パルプを本発明に従って反応器中で酸化剤を用いて処理したら、処理済みパルプを水中で洗浄し、リヨセル成形品形成前に溶解するためにNMMO等の有機溶媒浴に移すか、または処理済みパルプを水を用いて洗浄し、その後の包装、貯蔵及び/または輸送のために乾燥させる。他に、処理済みで洗浄済みのパルプを乾燥させ、貯蔵及び/または出荷のために断片に分割することができる。
【0064】
本発明の処理済みパルプの望ましい特徴は、セルロース繊維が処理後も実質的に完全であることである。従って、処理済みパルプは、未処理のパルプと同様のろ水度及び微細繊維含有量を有する。
【0065】
本発明の処理済みパルプの別の望ましい特徴は、NMMOを含む第三級アミンオキシド類等の有機溶媒中に溶解し易いということである。リヨセル繊維を紡糸する前に処理済みパルプを迅速に可溶化させることは、リヨセル繊維または他の成形品の例えばフィルムを製造するために必要な時間を短縮し、従ってプロセスコストを低減するために重要である。さらに、繊維を紡糸できる速度を低下させることがあり、リヨセル繊維が紡糸される紡糸口金を閉塞させる傾向があり、紡糸されるにつれて繊維を切断し得る、残存する不溶解粒子及び部分的に溶解したゼラチン状の材料の濃度を最小化するので、効率的な溶解は重要である。
【0066】
理論によって束縛されることを望むものではないが、セルロースの平均D.P.を減少させるために利用する本発明の方法はまた、パルプ繊維の二次層の浸透性を上げ、それによってパルプ繊維全体にわたって溶媒を効率的に浸透させることができると考えられている。二次層は細胞壁の主な層であり、最大量のセルロースとヘミセルロースとを含む。
【0067】
さらに、本発明の組成物は好ましくは、約60μmol/g未満のカルボニル含有量及び約60μmol/g未満のカルボキシル含有量、より好ましくは約30μmol/g未満のカルボニル含有量及び30μmol/g未満のカルボキシル含有量を有する。カルボキシル基含有量及びカルボニル基含有量は、チューリンギッシェス・インスツート・フューア・テクスティール−ウント・クンシュトッフ・フォルシュンゲ. V.、ブライトシャイドstr 97、D−07407 ルードルシュタット、ドイツによって実行される、占有権のあるアッセイによって測定する。占有権のあるTITKアッセイを使用してパルプのカルボニル含有量を測定する代わりに、パルプ試料及び熱安定な低カルボニル基パルプをFTIRで分析でき、2つの試料の間のスペクトルの相違によって、カルボニル基の存在を示すことができる。
【0068】
加えて、本発明の処理済みパルプは好ましくは低遷移金属含有量を有する。遷移金属はリヨセル法におけるセルロース及びNMMOの劣化を加速する等の理由から、処理済みパルプ中の遷移金属は望ましくない。木に由来する処理済みパルプ中に一般に見い出される遷移金属の例としては、鉄、銅、ニッケル及びマンガンが挙げられる。好ましくは本発明の組成物の全遷移金属含有量は約20ppm未満、より好ましくは約5ppm未満である。本発明の組成物の鉄含有量は、ウェヤーハウザー試験AM5−PULP−1/6010によって測定して好ましくは約4ppm未満、より好ましくは約2ppm未満であり、本発明の組成物の銅含有量は、ウェヤーハウザー試験AM5−PULP−1/6010によって測定して好ましくは約1.0ppm未満、より好ましくは約0.5ppm未満である。
【0069】
本発明の処理済みパルプからリヨセル繊維、または他の成形品の例えばフィルムを製造するために、処理済みパルプを最初にアミンオキシド、好ましくは第三級アミンオキシド中に溶解させる。本発明の実施において有用なアミンオキシド溶媒の代表的な例は、米国特許第5,409,532号に述べられている。現在好ましいアミンオキシド溶媒は、N−メチル−モルホリン−N−オキシド(NMMO)である。本発明の実施において有用な溶媒の他の代表的な例としては、ジメチルスルホキシド(D.M.S.O.)、ジメチルアセトアミド(D.M.A.C.)、ジメチルホルムアミド(D.M.F.)及びカプロラクタン(caprolactan)誘導体が挙げられる。米国特許第5,534,113号;同第5,330,567号;及び同第4,246,221号に述べられているもの等の従来技術により認められた任意の手段によって、処理済みパルプをアミンオキシド溶媒中に溶解させる。溶解させた処理済みパルプはドープと呼ばれる。このドープを使用してリヨセル繊維、または他の成形品の例えばフィルムを、メルトブロー、スパンボンド、遠心紡糸、ドライジェット、湿式、及び他の方法を含む様々な技術によって製造する。本発明の組成物からフィルムを製造するための技術の例は、Matsui et al.に付与された米国特許第5,401,447号及びNicholsonに付与された米国特許第5,277,857号に述べられている。
【0070】
ドープからリヨセル繊維を製造するための1つの有用な技術は、ドープをダイを通して押出して複数のフィラメントを形成し、フィラメントを洗浄して溶媒を除去し、リヨセルフィラメントを乾燥させることを含む。図2は、本発明の処理済みパルプからリヨセル繊維を形成するための現在好ましい方法のブロック図を示す。図2において“セルロース”という用語は、本発明の組成物を指す。必要ならば、処理済みパルプの形態のセルロースを、例えば粉砕機によって物理的に破壊し、その後アミンオキシド−水混合物中に溶解させて、ドープを形成する。本発明の処理済みパルプを、例えばMcCorsleyの米国特許第4,246,221号に教示されるように、任意の周知の方法によってアミン溶媒中に溶解させることができる。処理済みパルプを、約40%のNMMOと60%の水との非溶媒混合物中で湿らすことができる。混合物を、ダブルアームシグマブレードミキサー中で混合し、十分な水を蒸留除去してNMMOを基準として約12%〜14%を残し、それによってセルロース溶液を形成できる。他に、適切な含水量を有するNMMOを最初に使用して、減圧蒸留を不要にすることができる。これは、実験室で紡糸用ドープを作製するための便利な方法であり、約40%〜60%濃度の市販のNMMOとわずか約3%の水を有する実験室試薬のNMMOとを混合して、7%〜15%の水を有するセルロース溶媒を作製できる。パルプ中に通常存在する水分は、溶媒中に存在する必要な水を調節する際に明らかにされるはずである。NMMO水溶媒中のセルロースドープの実験室での作製に関しては、Chanzy, H. and A. Peguy, Journal of Polymer Science, Polymer Physics Ed. 18:1137-1144 (1980)及びNavard, P. and J.M. Haudin, British Polymer Journal, p. 174 (Dec. 1980)の論文を参照するとよいかもしれない。
【0071】
溶解した処理済みパルプ(ここからドープと呼ぶ)を、押出オリフィスを通して圧入して、潜在フィラメント(latent filament)または繊維を生成し、これをその後再生する。
【0072】
図3及び図4は、本発明のドライジェット湿式リヨセル繊維のそれぞれ100倍及び10,000倍の走査型電子顕微鏡写真である。図3及び図4に示す繊維は、実施例11に従って製造した。
【0073】
リヨセルを製造する組成物が原因で、本発明に従って製造したリヨセル繊維は、リヨセル繊維を製造するために使用した処理済みパルプのヘミセルロース含有量以下のヘミセルロース含有量を有する。典型的には、本発明に従って製造したリヨセル繊維は、リヨセル繊維を製造するために使用した処理済みパルプのヘミセルロース含有量よりも約0%〜約30.0%少ないヘミセルロース含有量を有する。本発明に従って製造したリヨセル繊維は、リヨセル繊維を製造するために使用した処理済みパルプの平均D.P.と等しいか、それよりも大きいか、またはそれ未満の平均D.P.を有する。リヨセル繊維を形成するために使用する方法に依存して、パルプの平均D.P.をさらに、例えば熱の作用によって、繊維形成最中に減少させてもよい。好ましくは、本発明に従って製造したリヨセル繊維は、リヨセル繊維を製造するために使用した処理済みパルプの平均D.P.と等しいか、それよりも約0%〜約20%少ないか、またはそれを超える平均D.P.を有する。
【0074】
本発明のリヨセル繊維は、多くの望ましい特性を示す。例えば、本発明の処理済みパルプから製造したリヨセル繊維は、少なくとも約5重量%のヘミセルロース、約200〜約1100の平均重合度を有するセルロース、約2.0未満の銅価及び約2.8未満のΔRを含む。好ましくはこのような繊維は、約5重量%〜約27重量%、より好ましくは約5重量%〜約18重量%、最も好ましくは約10重量%〜約15重量%の範囲にわたるヘミセルロース含有量を有する。セルロースの平均重合度は好ましくは約300〜約1000、より好ましくは約300〜約1100、最も好ましくは約400〜約700の範囲にわたる。こうした繊維は、約2.0未満、より好ましくは約1.1未満、最も好ましくは約0.8未満の銅価を示す。
【0075】
本発明の処理済みパルプから製造したドープから形成した本発明のリヨセル繊維は、この繊維を多くの織用途及び不織用途において使用するのに適したものにする物理的性質を示す。織用途の例としては、繊維、織物及びその他同様なものが挙げられる。不織用途としては、例として、ろ過媒体及び吸収性製品が挙げられる。
【0076】
加えて、本発明の処理済みパルプは、当業者には周知の技術によってフィルムに形成することができる。本発明の組成物からフィルムを製造するための技術の例は、Matsui et al.に付与された米国特許第5,401,447号及びNicholsonに付与された米国特許第5,277,857号に述べられている。
【0077】
以下の実施例は、本発明を実施するために現在検討されている最良の態様を単に示すものであって、本発明を限定するものと解釈すべきではない。
実施例1
26.4のカッパー価(TAPPIスタンダードT236 cm−85)、302cpの粘度(TAPPI T230)(D.P.1593)、0.6の銅価及び13.5%±2.0%のヘミセルロース含有量を有するサザンパイン未漂白アルカリ法クラフトパルプを、高濃度混合能力を有する圧力容器中で酸素を用いて処理した。混合物を毎分10秒間ゆっくり撹拌した。パルプを加える前に容器を約90℃に予熱した。100ポンド/1トンのパルプに等しい量の水酸化ナトリウム(NaOH)を、アルカリ法パルプに加えた。混合物を20秒間撹拌した。次に反応容器を閉じ、酸素を圧力容器中に導入することで圧力を60psigに上昇させた。ミキサーを60分間、上記に説明したように作動させた。水は25%濃度を与えるのに十分な量容器中に存在した。
【0078】
60分後、撹拌を止め、パルプを圧力容器から取り出し、洗浄した。得られた洗浄済みのパルプの粘度は46cp(D.P.963)だった。処理済みパルプは、TAPPIスタンダードT430によって測定して約0.5の銅価、13.5%±2.0%のヘミセルロース含有量、10.6のカッパー価を有し、処理済みパルプのΔRは0.4だった。
実施例2
実施例1の手順を繰り返し、水酸化ナトリウムを加えた後に過酸化水素を加えた。圧力容器を60分間、115℃の温度で作動させた。過酸化物を20ポンド/1トンのパルプの量加えた。
【0079】
処理済みパルプは、30cpの粘度(D.P.810)、0.3の銅価、及び13.5±2.0%のヘミセルロース含有量を有した。パルプは7.0のカッパー価を示した。
実施例3
実施例1の処理済みパルプを漂白して、漂白が処理済みパルプのD.P.に及ぼす影響を測定した。実施例1の処理済みパルプを、二酸化塩素のD1段階、水酸化ナトリウム/過酸化水素のE段階及び二酸化塩素のD2段階を含むDED漂白順序にさらした。
D1段階
D1段階は、実施例1に従って処理したパルプを処理するために、蒸留水を用いて3回洗浄し、パルプをピンフラッフ化(pin fluffing)し、次にパルプをポリプロピレン袋に移した。ポリプロピレン袋中のパルプの濃度を、水を加えて10%に調節した。28ポンド/1トンのパルプに等しい量に相当する二酸化塩素を希釈済みパルプに導入するために、袋中のパルプの濃度を調節するために使用した水中に二酸化塩素を溶解させた。袋を密封し、混合し、次に65℃で15分間、湯浴中に保持した。パルプを取り出し、脱イオン水を用いて洗浄した。
E段階
洗浄済みのパルプを次に新しいポリプロピレン袋に入れ、カセイアルカリを、10%の濃度を与えるために必要な水の半分の量と共に導入した。過酸化水素を残りの半分の希釈水と混合し、袋に加えた。充填した過酸化水素は20ポンド/1トンのパルプに等しかった。袋を密封し、混合し、1時間、88℃で湯浴中に保持した。パルプを袋から取り出した後、水を用いて洗浄し、マットをろ過し、次にポリプロピレン袋中に戻し、手で割った。
D2段階
二酸化塩素を20ポンド/1トンのパルプに等しい量で、10%の濃度を与えるために必要な希釈水と共にパルプに導入した。袋を密封し、混合し、次に3時間、80℃で湯浴中に保持した。
【0080】
得られたパルプを袋から取り出し、乾燥した。晒パルプは、パルプ粘度約40cp(D.P.914)、88のTAPPI白色度、0.6の銅価、1.4のΔR及び13.0%のヘミセルロース含有量を有した。D1段階の前のパルプのカッパー価は10.6だった。
実施例4
この実施例では、実施例3の漂白順序を用いて実施例2のパルプを処理する。得られたパルプは、約22cpの粘度(D.P.697)、88.3のTAPPI白色度、0.6の銅価、2.0のΔR、及び13.0%のヘミセルロース含有量を示した。D1段階の前のパルプのカッパー価は7.0だった。
実施例5
サザンパイン未漂白アルカリ法パルプを、実施例1において説明した方法によって処理し、カセイアルカリとして水酸化ナトリウムの代わりに未酸化クラフト白液を使用した。未酸化KP白液は、以下の強度を有する合成白液である:
全滴定可能アルカリ(TTA):Na2Oとして108.5グラム/リットル
活性アルカリ(AA):Na2Oとして106.9グラム/リットル
有効アルカリ(EA):Na2Oとして91.5グラム/リットル
硫化度:24.8%TTA及び28.8%AA
白液の比重は1.125だった。
【0081】
得られたパルプは、30cpの粘度(D.P.810)、7.0のカッパー価、0.3の銅価、及び13.0%のヘミセルロース含有量を有した。
実施例6
サザンパイン未漂白アルカリ法クラフトパルプを実施例2に従って処理し、但し実施例5において説明したように水酸化ナトリウムを未酸化クラフト白液に替えた。
【0082】
得られたパルプは、42cpの粘度(D.P.931)、6.3のカッパー価、及び0.3の銅価を有した。パルプのヘミセルロース含有量は13.0%だった。
実施例7
実施例5のサザンパイン未漂白アルカリ法クラフトパルプを、実施例3のDED漂白順序にさらした。
【0083】
得られたパルプは、約25cpの粘度(D.P.744)、約87.6のTAPPI白色度、0.9の銅価、及び13.0%のヘミセルロース含有量を示した。
実施例8
この実施例は、中濃度反応器中で、ヘミセルロース含有量及び銅価をかなり増大させることなく重合度を減少させることを示す。
【0084】
26.4のカッパー価及び456cpの粘度(D.P.1721)を有するサザンパイン未漂白アルカリ法クラフトパルプを、ベンチスケール中濃度酸素反応器のパルプバスケットに入れた。6%の濃度を与えるために必要な水の半分の量を、100ポンド/1トンのパルプに等しい量の水酸化ナトリウムと共にバスケットの上に注いだ。6%の濃度を与えるために必要な希釈水の残りの半分をバスケットの上に注ぎ、これは20ポンド/1トンのパルプに等しい量の過酸化水素を含んだ。反応器の上部を閉じ、60psigに等しい量の酸素ガスを導入した。加熱したジャケットを使用し、再循環流体を加熱して反応器の温度を5〜8分間にわたって125℃に上昇させた。温度を125℃で1時間保持した。圧力を次に解放し、加熱を止め、液を捨てた。処理済みパルプを有するバスケットを取り出し、脱イオン水を用いて洗浄した。次にこの手順を繰り返した。第2の処理の完了時に、パルプを、実施例7のDED順序に従って処理した。
【0085】
得られたパルプは、約25cpの粘度(D.P.744)、89.5のTAPPI白色度、0.6の銅価、及び事実上ゼロのΔRを有した。処理済みパルプのヘミセルロース含有量は13.0%だった。
比較例9
この実施例は実施例3のプロセスを再現するが、但し実施例3の最終D段階ではなく、最終酸段階を下記に説明するように提供する。実施例3のE段階から得たパルプを、脱イオン水を使用して25%濃度に希釈した。パルプのpHは、硫酸を加えることで1.0に変化した。得られたパルプを次に、45分間、70℃で蒸解した。次いでパルプを袋から取り出し、脱イオン水を用いて洗浄した。
【0086】
処理済みパルプは、24cpの粘度(D.P.729)、84.3のTAPPI白色度、1.4の銅価、約−0.3のΔRを示した。
この比較例においては、パルプの銅価は、漂白プロセスが原因で0.5から1.4に増大する。比較して、実施例3の漂白順序によって処理したパルプの銅価は、0.6の終了銅価を示した。
比較例10
この実施例は、実施例3の最終段階として次亜塩素酸塩段階を使用することの影響を示す。
【0087】
E段階後の実施例3のパルプを、15ポンド/1トンのパルプに等しい充填の次亜塩素酸ナトリウムを含む水を用いて25%濃度に希釈した。十分なカセイアルカリを導入して最終pH8を与えた。パルプを次に2時間、55℃で加熱した。得られたパルプを袋から取り出し、脱イオン水を用いて洗浄した。得られたパルプは、約26cpの粘度(D.P.758)、90.0のTAPPI白色度、1.6の銅価及び約3.9のΔRを示した。
【0088】
この比較例においては、銅価は、上記に説明した漂白順序が原因で0.5から1.6に増大した。それに反して、実施例3の晒パルプは、0.6の銅価を示した。
実施例11
ドライジェット湿式紡糸繊維
実施例4のパルプを使用してドープを作製するために、処理済みパルプをNMMO中に溶解させた。本明細書において参考のために引用する米国特許第5,417,909号に説明するように、ドライジェット湿式法によってドープを紡糸して繊維にした。ドライジェット湿式紡糸手順はTITKによって行った。ドライジェット/湿式法によって製造した繊維の特性を下記の表1に要約する。
【0089】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】図1Aは、パルプ、好ましくはアルカリ法パルプを、リヨセル成形品を製造するために有用な本発明の組成物に転換するための、現在好ましい方法のブロック図である。 図1Bは、パルプ、好ましくはアルカリ法パルプを、リヨセル成形品を製造するために有用な本発明の組成物に転換するための、現在好ましい方法のブロック図である。 図1Cは、パルプ、好ましくはアルカリ法パルプを、リヨセル成形品を製造するために有用な本発明の組成物に転換するための、現在好ましい方法のブロック図である。
【図2】図2は、本発明の組成物から繊維を形成する現在好ましい方法の工程のブロック図である。
【図3】図3は、本発明の処理済みパルプから実施例11において述べるようにして製造したドライジェット/湿式リヨセル繊維の100倍及び10,000倍の走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】図4は、本発明の処理済みパルプから実施例11において述べるようにして製造したドライジェット/湿式リヨセル繊維の100倍及び10,000倍の走査型電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)少なくとも7重量%のヘミセルロースと;
(b)約200〜約1100の平均重合度を有するセルロースと;
(c)約2.0未満の銅価と;
(d)約2.8未満のΔRと;
を含む処理済みアルカリ法パルプを含むパルプ。
【請求項2】
前記処理済みアルカリ法パルプは木材から製造される、請求項1に記載のパルプ。
【請求項3】
前記処理済みアルカリ法パルプは、モミ属、マツ属、トウヒ属、カラマツ属、ヒマラヤスギ属、及びツガ属からなる群から選択される少なくとも1種の針葉樹材種から製造される、請求項2に記載のパルプ。
【請求項4】
前記処理済みアルカリ法パルプは、アカシア、ハンノキ属、ヤマナラシ、コナラ属、ゴム、ユーカリ、ハコヤナギ属、ゲメリア及びカエデ属からなる群から選択される少なくとも1種の広葉樹材種から製造される、請求項2に記載のパルプ。
【請求項5】
前記処理済みアルカリ法パルプは、約300〜約1100の平均重合度を有するセルロースと7重量%〜約35重量%のヘミセルロースとを含む、請求項1に記載のパルプ。
【請求項6】
前記処理済みアルカリ法パルプは、約300〜約1100の平均重合度を有するセルロースと約7重量%〜約20重量%のヘミセルロースとを含む、請求項1に記載のパルプ。
【請求項7】
前記処理済みアルカリ法パルプは、約400〜約700の平均重合度を有するセルロースと約10重量%〜約17重量%のヘミセルロースとを含む、請求項1に記載のパルプ。
【請求項8】
処理済みアルカリ法パルプセルロースのD.P.値の分布は単峰性である、請求項1に記載のパルプ。
【請求項9】
前記処理済みアルカリ法パルプは約1.1未満の銅価を有する、請求項1に記載のパルプ。
【請求項10】
前記処理済みアルカリ法パルプは約0.8未満の銅価を有する、請求項1に記載のパルプ。
【請求項11】
前記処理済みアルカリ法パルプのカッパー価は1.0未満である、請求項1に記載のパルプ。
【請求項12】
前記処理済みアルカリ法パルプは約60μmol/g未満のカルボニル含有量を有する、請求項1に記載のパルプ。
【請求項13】
前記処理済みアルカリ法パルプは約60μmol/g未満のカルボキシル含有量を有する、請求項1に記載のパルプ。
【請求項14】
前記処理済みアルカリ法パルプは20ppm未満の全遷移金属含有量を有する、請求項1に記載のパルプ。
【請求項15】
前記全遷移金属含有量は5ppm未満である、請求項14に記載のパルプ。
【請求項16】
前記Rは約2.0未満である、請求項1に記載のパルプ。
【請求項17】
(a)少なくとも7重量%のヘミセルロースと;
(b)2未満の銅価と;
(c)約200〜約1100の平均重合度を有するセルロースと;
(d)該セルロースは単峰性で分布する個々のD.P.値を有し;
(e)約2.8未満のΔRと;
を含む処理済みアルカリ法木材パルプを含むパルプ。
【請求項18】
(a)少なくとも7重量%のヘミセルロースと;
(b)約200〜約1100の平均重合度を有するセルロースと;
(c)2未満のカッパー価と;
(d)0.8未満の銅価と;
(e)約2.8未満のΔRと;
を含む処理済みアルカリ法パルプを含むパルプ。
【請求項19】
(a)少なくとも5重量%のヘミセルロースと;
(b)約200〜約1100の平均重合度を有するセルロースと;
(c)2.0未満のカッパー価と;
(d)約2.8未満のΔRと;
を含む処理済みアルカリ法パルプを含むリヨセル繊維。
【請求項20】
5重量%〜約22重量%のヘミセルロース含有量を有する請求項19に記載の繊維。
【請求項21】
5重量%〜約18重量%のヘミセルロース含有量を有する請求項19に記載の繊維。
【請求項22】
約300〜約1100の平均重合度を有するセルロースをさらに含む、請求項21に記載の繊維。
【請求項23】
約10重量%〜約15重量%のヘミセルロース含有量を有する請求項19に記載の繊維。
【請求項24】
約300〜約1100の平均重合度を有するセルロースをさらに含む請求項23に記載の繊維。
【請求項25】
約300〜約1100の平均重合度を有するセルロースをさらに含む請求項19に記載の繊維。
【請求項26】
約400〜約700の平均重合度を有するセルロースをさらに含む請求項19に記載の繊維。
【請求項27】
前記セルロースは、重合度値の単峰性分布を有する、請求項19に記載の繊維。
【請求項28】
約2.0未満の銅価を有する請求項19に記載の繊維。
【請求項29】
約1.1未満の銅価を有する請求項28に記載の繊維。
【請求項30】
約0.8未満の銅価を有する請求項28に記載の繊維。
【請求項31】
20ppm未満の全遷移金属含有量を有する請求項19に記載の繊維。
【請求項32】
5ppm未満の全遷移金属含有量を有する請求項31に記載の繊維。
【請求項33】
前記Rは約2.0未満である、請求項19に記載の繊維。
【請求項34】
セルロースと少なくとも約7%のヘミセルロースとを含むアルカリ法パルプと、パルプのヘミセルロース含有量を実質的に減少させることなくかつ銅価を実質的に増大させることなく、セルロースの平均重合度を約200〜約1100の範囲に減少させるのに十分な量の酸化剤とをアルカリ性条件下で接触させることを含む、リヨセル繊維に転換するための組成物を製造するための方法。
【請求項35】
前記酸化剤は、過酸化物基を有する化学薬品、酸素、二酸化塩素、オゾン及びこれらの組合せからなる群の少なくとも1つの構成員を含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記セルロースの平均重合度の減少は、マグネシウム対遷移金属の比約50%未満の存在下で起きる、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記パルプのヘミセルロース含有量は約50%未満減少する、請求項34に記載の方法。
【請求項38】
前記パルプのヘミセルロース含有量は約15%未満減少する、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記パルプのヘミセルロース含有量は約5%未満減少する、請求項37に記載の方法。
【請求項40】
前記銅価は50%未満増大する、請求項34に記載の方法。
【請求項41】
前記銅価は約25%未満増大する、請求項34に記載の方法。
【請求項42】
前記接触工程は、前記パルプを、水酸化ナトリウム、酸化済み白液、及び未酸化白液からなる群から選択されるアルカリ源と接触させることをさらに含む、請求項35に記載の方法。
【請求項43】
前記アルカリ法パルプと前記酸化剤とは約8.0を超えるpHにて接触する、請求項34に記載の方法。
【請求項44】
(a)セルロースと少なくとも約7%のヘミセルロースとを含むアルカリ法パルプと、パルプのヘミセルロース含有量を実質的に減少させることなくかつ銅価を実質的に増大させることなく、セルロースの平均重合度を約200〜約1100の範囲に減少させるのに十分な量の酸化剤とをアルカリ性条件下で接触させる工程と;
(b)工程(a)に従って処理した前記パルプから繊維を形成する工程と;
を含む、リヨセル繊維を製造するための方法。
【請求項45】
前記酸化剤は、過酸化物基を有する化学薬品、酸素、二酸化塩素、オゾン及びこれらの組合せからなる群から選択される、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記セルロースの平均重合度の減少は、マグネシウム対遷移金属の比約50%未満の存在下で起きる、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記ヘミセルロース含有量は約15%未満減少する、請求項44に記載の方法。
【請求項48】
前記銅価は約25%未満増大する、請求項44に記載の方法。
【請求項49】
前記接触工程は、前記酸化剤による前記セルロースの分解に対する阻害剤が実質的に無い状態で起きる、請求項44に記載の方法。
【請求項50】
前記接触工程は、前記酸化剤による前記セルロースの分解に対する阻害剤が実質的に無い状態で起きる、請求項34に記載の方法。
【請求項51】
前記アルカリ法パルプと前記酸化剤とは約8.0を超えるpHにて接触する、請求項44に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−19326(P2009−19326A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−231654(P2008−231654)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【分割の表示】特願2001−584616(P2001−584616)の分割
【原出願日】平成13年4月11日(2001.4.11)
【出願人】(302009279)ウェヤーハウザー・カンパニー (36)
【Fターム(参考)】