説明

リンの回収方法

【課題】焼却灰からのリンの回収において、リンに含まれる夾雑物を低減することを目的とする。
【解決手段】このリンの回収方法は、下水汚泥焼却灰からリンを回収するリンの回収方法において、焼却灰中のリンを塩酸中に抽出する酸抽出工程S102と、酸抽出工程で得られた酸抽出液にジエチルヘキシルリン酸を加えると共にpHを2.1に調整して、リンを含む有機相と鉄を含む水相とに分離させる第1の溶媒抽出工程S106,S108と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼却灰からリンを回収するリンの回収方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下水汚泥焼却灰からリンを回収する方法としては、リン鉱石からのリンの精製に用いられる湿式法が考えられる。しかし、下水汚泥焼却灰はケイ素を多く含み、このケイ素が、湿式法の副産物である石膏の品位を低下させてしまうので、湿式法に代わる方法が望まれる。従来、そのような回収方法として、下記特許文献1に記載のリンの回収方法が知られている。この方法では、硫酸又は塩酸等の酸性溶液で下水汚泥焼却灰中のリンを溶出させ、溶出液と不溶性残渣とを分離し、有機溶媒を用いて溶出液中のリンを抽出することで、リンを回収している。
【特許文献1】特開平7−251141号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、下水汚泥焼却灰には、金属等の種々の夾雑物が含まれおり、上記方法では、この夾雑物の除去が考慮されていない。従って、この方法で回収されるリンは、金属類等の夾雑物を多く含むことになり、このような夾雑物が含まれるリン製品は、用途が限定されてしまう。
【0004】
そこで、本発明は、焼却灰から回収されるリンに含まれる夾雑物を低減することができるリンの回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るリンの回収方法は、焼却灰からリンを回収するリンの回収方法において、焼却灰中のリンを酸性溶液で抽出する酸抽出工程と、酸抽出工程で得られた酸抽出液に第1の有機溶媒を加えると共にpHを第1の値に調整して、リンを含む有機相と鉄を含む水相とに分離させる第1の溶媒抽出工程と、を備えることを特徴とする。
【0006】
この回収方法では、焼却灰に含まれるリンが酸抽出工程によって抽出され、リンを含む酸抽出液が得られる。そして、得られた酸抽出液に第1の有機溶媒を加え、pHを第1の値に調整することで、酸抽出液に含まれていたリンが有機相に、夾雑物の鉄が水相に含まれるように分離することができる。従って、この有機相と水相とを分離して回収することで、リンから鉄を分離することができる。その結果、回収されるリンから夾雑物としての鉄を低減することができる。
【0007】
また、本発明のリンの回収方法は、第1の溶媒抽出工程で得られた有機相のpHを第2の値に調整して、リンを含むゲル状物を生成させるゲル生成工程を更に備えてもよい。
【0008】
このリンの回収方法において、ゲル生成工程では、上記有機相のpHを第2の値に調整することで、鉄以外の夾雑物を液体側に残しリンを含むゲル状物を生成させることができる。従って、ゲル状物を液体から分離して回収することでリンから鉄以外の夾雑物をも分離することができる。その結果、夾雑物としての鉄及びその他の夾雑物が低減されたリンを回収することができる。
【0009】
また、本発明のリンの回収方法は、ゲル生成工程で得られたゲル状物を溶解させ、第2の有機溶媒を加えてリンを含む有機相と水相とに分離させる第2の溶媒抽出工程を更に備えてもよい。この方法によれば、第2の溶媒抽出工程で水相に含まれる夾雑物を更にリンから分離することができる。
【0010】
また、本発明のリンの回収方法は、焼却灰からリンを回収するリンの回収方法において、焼却灰中のリンを酸性溶液で抽出する酸抽出工程と、酸抽出工程で得られた酸抽出液に有機溶媒を加えると共にpHを第3の値に調整して、少なくともリンと鉄とを含むゲル状物を生成させるゲル生成工程と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
この回収方法では、焼却灰に含まれるリンが酸抽出工程によって抽出され、リンを含む酸抽出液が得られる。そして、ゲル生成工程においては、この酸抽出液のpHを第3の値に調整することで、夾雑物を液体側に残しながら、少なくともリンと鉄を含むゲル状物を生成させることができる。従って、ゲル状物を液体から分離して回収することでリンから鉄以外の夾雑物を分離することができる。その結果、回収されるリンから夾雑物を低減することができる。
【0012】
また、本発明のリンの回収方法は、ゲル生成工程で得られたゲル状物を溶解させ、pHを第4の値に調整してリンを含む有機相と鉄を含む水相とに分離させる溶媒抽出工程を更に備えてもよい。この方法によれば、溶媒抽出工程で水相に含まれる鉄を更にリンから分離することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のリンの回収方法によれば、焼却灰から回収されるリンに含まれる夾雑物を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ本発明に係るリンの回収方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0015】
(第1実施形態)
図1に示す方法は、下水処理場で発生する余剰汚泥を焼却し得られる粒径数μmの粉末の下水汚泥焼却灰から、リンを回収する回収方法の一例である。このような下水汚泥焼却灰は、一般に、約8〜10%程度のリンを含んでいるので、リンの含有率が15〜25%程度であるリン鉱石と比較しても、遜色のないリン製品の原料となりうる。なお、この回収方法における、リンの最終形態はリン酸液(HPO)である。
【0016】
まず、下水汚泥焼却灰に、0.8Nの塩酸を加え、下水汚泥焼却灰に含まれるリンを塩酸中に浸出させる(S102:酸抽出工程)。ここで加える塩酸の量は、下水汚泥焼却灰1g当たり10mL程度である。このとき、塩酸中には、下水汚泥焼却灰に含まれる鉄、アルミニウム、クロム、銅、マンガン、亜鉛、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム等の金属類や珪素といった夾雑物も一緒に浸出される。リン及び夾雑物が浸出される量は、塩酸濃度により異なるので、ここでは、上記塩酸の濃度を0.8Nとすることにより、上記夾雑物の浸出を最小限に抑えながら、リンの浸出量を多くすることができる。その後、フィルタを用いて残灰を除去し(S104:固液分離工程)、リン及び夾雑物を含む酸抽出液が得られる。
【0017】
次に、酸抽出液中のリンと夾雑物とを分離するため、得られた上記酸抽出液に、この酸抽出液の10分の1程度の量のジエチルヘキシルリン酸(第1の有機溶媒)を加え混合する(S106:第1の溶媒抽出工程)。
【0018】
ここで、本発明者らは、この混合液のpHを変化させれば最終形態のリン酸液から除去される夾雑物の種類及び除去率が変化することを、鋭意研究により見出した。すなわち、図2に示すように、上記混合液のpHをpH4.5以上pH6.2以下の値(第2の値)、その中でも特にpH5.4以上pH5.8以下の値(第2の値)に調整すると、鉄の除去率は低くなるが、鉄以外の夾雑物の除去率は高くなる。逆に、上記混合液のpHをpH1.6以上pH3.5以下の値(第1の値)、その中でも特にpH1.9以上pH2.3以下の値(第1の値)に調整すると、鉄以外の夾雑物の除去率は低くなるが、焼却灰中に含まれる鉄の除去率は高くなる。このように、夾雑物の鉄は、他の夾雑物と異なる性質を有しており、他の夾雑物と同じ方法では除去が困難である。そこで、上記知見に基づき、このリン回収方法においては、上記混合液のpHを、鉄の除去に適した第1の値に調整して鉄を除去する工程と、鉄以外の夾雑物の除去に適した第2の値に調整して鉄以外を除去する工程と、の2段階で夾雑物の除去を行うこととした。
【0019】
すなわち、再び図1を参照すると、まず、上記混合液に、アルカリ剤(例えば、ここではアンモニア水)を加えることで、この混合液のpHを調整し、例えばpH2.1(第1の値)とする(S108:第1の溶媒抽出工程)。このとき、混合液は、上層の塩酸と下層のジエチルヘキシルリン酸との2層に比重分離する。そして、塩酸側(水相)には鉄が残り、ジエチルヘキシルリン酸側(有機相)には、リンと鉄以外の夾雑物とが含まれる。次に、上層の塩酸を廃棄し、下層のジエチルヘキシルリン酸(処理液)を回収する(S110:第1の分液工程)。このようにリンと鉄とを分離し、鉄を除去することができる。
【0020】
次に、鉄が除去されたこのジエチルヘキシルリン酸に、アルカリ剤(例えば、ここではアンモニア水)を加えてpHを調整し、例えばpH5.6(第2の値)とすると、液中にゲル状物が生成する(S112:ゲル生成工程)。このゲル状物には、リンが含まれると共に夾雑物のアルミニウムが含まれており、アルミニウム以外の夾雑物は、液体中に残っている。従って、濾過によりゲル状物を回収し(S114:ゲル回収工程)、液体成分を廃棄する。このようにして、アルミニウム以外の夾雑物を更に除去することができる。
【0021】
次に、回収されたゲル状物に、このゲル状物の約1.1倍の重量の2Nの塩酸を加えて、このゲル状物を溶解させ(S116)、この溶解液にトリブチルリン酸を加えて混合する(S118:第2の溶媒抽出工程)。この場合、液量の比が、溶解液/トリブチルリン酸=1/0.6程度になるようにする。この混合液を静置すると、リンを含む上層のトリブチルリン酸(有機相)と、アルミニウムを含む下層の塩酸(水相)との2層に比重分離するので、分液を行い、この下層を廃棄し、上層のトリブチルリン酸を回収する(S120:第2の分液工程)。このようにして、リンとアルミニウムとを分離し、アルミニウムを更に除去することができる。
【0022】
次に、回収されたトリブチルリン酸に水を加えて混合する。この場合、液量の比が、水/トリブチルリン酸=1.7/1程度になるようにする。この混合液を静置すると、上層のトリブチル酸と下層の水とに比重分離する。このとき、トリブチルリン酸に含まれていたリンが水側に移り、リン酸液が生成する(S122:逆抽出工程)。このような水による逆抽出を行うことにより、リンを水側に混合させリン酸液として得ることができ、後段の濃縮工程を容易に行うことができる。そして、下層のリン酸液を回収し、水を蒸発させて濃縮すると(S124:濃縮工程)、最終形態としての濃度約55vol.%のリン酸液(HPO)が得られる。
【0023】
以上のように、このリン回収方法では、下水汚泥焼却灰に含まれる鉄、アルミニウム、及びその他の夾雑物を、第1の溶媒抽出工程及びゲル生成工程におけるpH調整によって、それぞれ適切な条件下で段階的に除去しているので、夾雑物が少ないリン酸液を得ることができる。
【0024】
なお、このリン回収方法においては、上記分離処理に関わる液やゲル状物を適切な温度(例えば、40〜80℃の何れかの温度)に維持してもよい。また、分離処理に関わる液やゲル状物を、適切な撹拌手段により撹拌してもよい。
【0025】
(第2実施形態)
図3に示す方法は、下水汚泥焼却灰からリンを回収する回収方法の他の例である。この方法では、固液分離工程S104の後、得られた上記酸抽出液に、この酸抽出液の10分の1程度の量のジエチルヘキシルリン酸(有機溶媒)を加え混合する(S306:ゲル生成工程)。次に、この混合液に、アルカリ剤(例えば、ここではアンモニア水)を加えることで、この混合液のpHを調整し、例えばpH5.6とする(S308:ゲル生成工程)と、液中にゲル状物が生成する。なお、ここでのpHの値(第3の値)は、pH4.5以上pH6.2以下の値、その中でも特にpH5.4以上pH5.8以下の値に調整することが好ましい。このゲル状物には、リンが含まれると共に夾雑物の鉄が含まれており、鉄以外の夾雑物は、液体中に残っている。従って、濾過によりゲル状物を回収し(S310:ゲル回収工程)、液体成分を廃棄する。
【0026】
次に、回収されたゲル状物に、このゲル状物の約1.1倍の重量の2Nの塩酸を加えて、このゲル状物を溶解させ(S312:溶媒抽出工程)、更に、アルカリ剤(例えば、ここではアンモニア水)を加えることで、この混合液のpHを調整し、例えばpH2.1とすると、混合液は、水相と有機相との2層に比重分離する(S314:溶媒抽出工程)。なお、ここでのpHの値(第4の値)は、pH1.6以上pH3.5以下の値、その中でも特にpH1.9以上pH2.3以下の値に調整することが好ましい。そして、水相には鉄が残り、有機相にはリンが含まれるので、上層の水相を廃棄し、下層の有機相を回収する(S316:分液工程)。このようにリンと鉄とを分離し、鉄を除去することができる。その後、トリブチルリン酸を用いて溶媒抽出を行うことで夾雑物としてわずかに含まれるアルミニウムを更に分離し(S118,S120)、逆抽出工程(S122)、濃縮工程(S124)を経て、最終形態としての濃度約55vol.%のリン酸液(HPO)が得られる。
【0027】
以上のように、このリン回収方法では、下水汚泥焼却灰に含まれる鉄、アルミニウム、及びその他の夾雑物を、ゲル生成工程S308及び溶媒抽出工程S314におけるpH調整によって、それぞれ適切な条件下で段階的に除去しているので、夾雑物が少ないリン酸液を得ることができる。なお、この実施形態において、上述の第1実施形態と同一又は同等な構成については、図面に同一符号を付し、その説明は省略する。
【0028】
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではない。例えば、酸抽出工程において用いる酸性溶液は、塩酸に限られず、硫酸又は硝酸でもよい。但し、硫酸を用いると、後段において硫酸根を除去するための複雑な工程を必要とし、硝酸は取り扱いが不便であるので、この酸抽出工程においては、上記第1及び第2実施形態のように、塩酸を用いることが最も好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係るリンの回収方法の第1実施形態を示すフロー図である。
【図2】混合液のpHと夾削物の除去率との関係を示すグラフである。
【図3】本発明に係るリンの回収方法の第2実施形態を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0030】
S102…酸抽出工程、S106,S108…第1の溶媒抽出工程、S112…ゲル生成工程、S116,118…第2の溶媒抽出工程、S308…ゲル生成工程、S312,S314…溶媒抽出工程。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼却灰からリンを回収するリンの回収方法において、
前記焼却灰中の前記リンを酸性溶液で抽出する酸抽出工程と、
前記酸抽出工程で得られた酸抽出液に第1の有機溶媒を加えると共にpHを第1の値に調整して、前記リンを含む有機相と鉄を含む水相とに分離させる第1の溶媒抽出工程と、を備えることを特徴とするリンの回収方法。
【請求項2】
前記第1の溶媒抽出工程で得られた有機相のpHを第2の値に調整して、前記リンを含むゲル状物を生成させるゲル生成工程を更に備えることを特徴とする請求項1に記載のリンの回収方法。
【請求項3】
前記ゲル生成工程で得られた前記ゲル状物を溶解させ、第2の有機溶媒を加えて前記リンを含む有機相と水相とに分離させる第2の溶媒抽出工程を更に備えることを特徴とする請求項2に記載のリンの回収方法。
【請求項4】
焼却灰からリンを回収するリンの回収方法において、
前記焼却灰中の前記リンを酸性溶液で抽出する酸抽出工程と、
前記酸抽出工程で得られた酸抽出液に有機溶媒を加えると共にpHを第3の値に調整して、少なくとも前記リンと鉄とを含むゲル状物を生成させるゲル生成工程と、を備えることを特徴とするリンの回収方法。
【請求項5】
前記ゲル生成工程で得られた前記ゲル状物を溶解させpHを第4の値に調整して前記リンを含む有機相と前記鉄を含む水相とに分離させる溶媒抽出工程を更に備えることを特徴とする請求項4に記載のリンの回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−277056(P2007−277056A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−106782(P2006−106782)
【出願日】平成18年4月7日(2006.4.7)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】