説明

リンを採取回収する吸着材、その製造方法およびそれを用いたリン回収方法

【課題】 リンを採取回収する吸着材を提供すること、前記吸着材の製造方法を提供すること、およびリンを含有する液体から前記吸着材を用いてリンを回収するための方法を提供すること。
【解決手段】 ポリオレフィン若しくは天然高分子を材質とする繊維、織布、不織布、フィルム、中空糸膜、平膜、または糸から製造される高分子基材と、該高分子基材にビニル反応性モノマーをグラフト重合させて形成したグラフト鎖と、該グラフト鎖に導入されたリン酸キレート形成基とを有することを特徴とする、リン採取回収のための吸着材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リンを採取回収する吸着材、その製造方法およびそれを用いたリン回収方法に関する。また、本発明は、回収したリンを吸着材から溶離剤で溶出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
川や湖の富栄養化の原因の1つとしてリン化合物の存在があることは周知であるが、このリン化合物は、工場排水よりも一般家庭や家畜の生活排水中に多く存在する。リン化合物の浄化処理方法は種々提案されており、大別して生物学的方法と物理化学的方法がある。
【0003】
第一に、生物学的方法としては、活性汚泥による除去方法が挙げられ、特に反応槽を3槽に分け、第1槽および第2槽を嫌気槽、第3槽を好気槽とし、第3槽の混合液を第2槽へ循環する方法がある。この方法にしたがえば、第1槽に嫌気状態、第3槽に好気状態を設けることにより、活性汚泥によるリンの除去効率の向上がはかられている。しかしながら、この方法はすべて生物学的に処理するため、ランニングコストは低いが、非常に不安定であり、処理が完了しないうちに廃水が反応槽外へ流出しうる欠点も有している。
【0004】
第二に、物理化学的方法としては、例えば、特許文献1には、家庭排水を対象とする鉄の電解溶出法が開示されている。この技術は、排水中のリン酸イオンを、鉄イオンと反応させ、水不溶性の塩、例えば、FePO4やFe(OH)x(PO4)yとして凝集沈殿させて除去する技術であり、鉄製の電極に通電して排水中に鉄イオンを溶出させるものである。しかし、この鉄の電解溶出法は、リン酸イオンの除去効率がそれほど大きくなく、消費電力の点で問題がある。また、特許文献2には、鉄イオンおよび/またはアルミニムイオンを含む電極を用いて、リン酸イオンを含む排水中にそれら電極由来のイオンを電気化学的に溶出させ、リン酸イオンを鉄および/またはアルミニウムとの水不溶性の塩の形で凝集沈殿させる方法が開示されているが、この方法も前述の除去効率と消費電力の問題が存在する。
【0005】
これらの方法はいずれも、数工程を経て最終的に凝集沈殿を行ってリンを除去するものであり、除去率が低く、除去に長い時間を要し、凝集沈殿物の処理が必要となる。また、家庭や浄化処理場等での使用に際しては、大規模な設備を要するため、取扱性が乏しい。このようにリン化合物の浄化処理は困難であり、現状では有効な対策が講じられていない。今後規制が予測される排出基準やシステム化のためには、高効率で省スペース化を実現したリン回収のための吸着材であって、リンを除去するのではなく、回収利用を可能とする吸着材に対する必要性が存在する。
【0006】
一方、グラフト重合法、特に放射線を利用した方法は、既存の高分子成形体に新たな機能性官能基を導入することができる手段として、最近ますます注目されている。放射線グラフト重合法とは、高分子基材に放射線を照射してラジカルを形成させ、これにグラフトモノマーを反応させることによってモノマーを基材中に導入するという技法である。
【特許文献1】特開平3−89998号公報
【特許文献2】特開平10−230276号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、リンを採取回収する吸着材を提供すること、前記吸着材の製造方法を提供すること、およびリンを含有する液体から前記吸着材を用いてリンを回収するための方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
(1)リン化合物を含有する液体からリンを回収するための方法であって、前記液体をリンを回収するための吸着材に通液することを含み、前記吸着材が、繊維由来の形態の高分子基材と、前記高分子基材にグラフト重合により導入された、主としてビニル反応性モノマーから構成されるグラフト鎖と、前記グラフト鎖に導入されたリンキレート形成基とを有することを特徴とする方法。
【0009】
これにより、高容量かつ高効率でリンを採取回収する方法を提供することができる。
(2)前記キレート形成基がリン酸基またはイミノジ酢酸基である、上記(1)記載の方法。
【0010】
これにより、効率よくリンを回収することが可能となる。
(3)前記キレート形成基が、鉄、アルミニウム、またはジルコニウムを担持させられたものである、上記(2)記載の方法。
【0011】
これにより、効率よくリンを回収することが可能となる。
(4)前記ビニル反応性モノマーが、モノ(2-メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート(CH2=C(CH3)COO(CH2)2OPO(OH)2)、ジ(2-メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート([CH2=C(CH3)COO(CH2)2O]2PO(OH))、モノ(2-アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート(CH2=CHCOO(CH2)2OPO(OH)2)、ジ(2-アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート([CH2=CHCOO(CH2)2O]2PO(OH))、またはこれらの混合モノマーである、上記(1)〜(3)のいずれか1つに記載の方法。
【0012】
これにより、キレート形成基を導入できるグラフト鎖が吸着材に導入され、本発明のリン回収方法を実施することが可能となる
(5)前記ビニル反応性モノマーが、次式:CH2=C(CH3)COO(CH2)lOCO-R-CO-OPO(OH)R'(式中、Rは置換基を有してもよい(CH2)mまたはC6H4であり、R'は水酸基またはCH2=C(CH3)COO(CH2)nOCO-R-CO-O-基であり、l,mおよびnはそれぞれ独立して1〜6の整数である。)のモノマーである、上記(1)〜(3)のいずれか1つに記載の方法。
【0013】
これにより、キレート形成基を導入できるグラフト鎖が吸着材に導入され、本発明のリン回収方法を実施することが可能となる。
(6)前記高分子基材が、ポリエチレン、ポリプロピレン、キチン、キトサン、セルロース、デンプンの繊維を材質とする織布、不織布、フィルム、中空糸膜、平膜、または糸の形態である、上記(1)〜(5)のいずれか1つに記載の方法。
【0014】
これにより、汎用の高分子基材を使用して、本発明のリン回収方法を実施することが可能となる。
(7)前記吸着材はカラムに充填されたものである、上記(1)〜(6)のいずれか1つに記載の方法。
【0015】
これにより、連続的なリン酸の回収が可能となる。また、吸着材をカラムに充填することにより、省スペース化されたリン回収系を構成することが可能となる。
(8)前記カラムが複数個直接または並列に接続されている、上記(1)〜(7)のいずれか1つに記載の方法。
【0016】
これにより、連続的で効率的なリン酸の回収が可能となる。
(9)更に、前記液体を吸着材に通液した後、前記吸着材を洗浄して、吸着したリンを溶離させ、繰返しリンを含有する液体を前記吸着材に通液することを含む、上記(1)〜(8)のいずれか1つに記載の方法。
【0017】
これにより、吸着材を繰り返し使用して、本発明のリン回収方法を効率よく実施することが可能となる。
(10)上記(1)〜(9)のいずれか1つに記載のリン回収方法により回収したリンを有用資源として利用するための方法。
【0018】
これにより、本発明のリン回収方法により回収されたリンを回収後に有用資源として利用できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、リンを採取回収する吸着材を提供すること、前記吸着材の製造方法を提供すること、およびリンを含有する液体から前記吸着材を用いてリンを回収するための方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
まず、本発明のリンを採取回収する吸着材の好適な実施形態は、繊維由来の形態の高分子基材と、前記高分子基材にグラフト重合により導入された、主としてビニル反応性モノマーから構成されるグラフト鎖と、前記グラフト鎖に導入されたリン酸を回収するためのキレート形成基とを有することを特徴とする。
【0021】
[高分子基材]
高分子基材は、主として高分子繊維から構成されるものである。高分子繊維は、特に限定はないが、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、またはキチン、キトサン、セルロース、デンプンなどの天然高分子の繊維が挙げられる。天然高分子由来の基材は、使用後に生分解可能な基材がある点で有益である。
【0022】
また、高分子基材は、上記の繊維のうち複数種から構成されたものであってもよく、さらに、例えば放射線処理などにより架橋されていてもよい。
高分子基材の形態は、特に限定はないが、繊維由来の織布、不織布、フィルム、中空糸膜、平膜、または糸などの形態が挙げられ、また、これらから製造される任意の形態であってもよい。
【0023】
[ビニル反応性モノマー]
ビニル反応性モノマーは、分子内に一つ以上のビニル基を有する、グラフト重合により高分子基材にグラフト鎖を導入することができるモノマーである。ビニル反応性モノマーは、特に限定はないが、モノ(2-メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート(CH2=C(CH3)COO(CH2)2OPO(OH)2)、ジ(2-メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート([CH2=C(CH3)COO(CH2)2O]2PO(OH))、モノ(2-アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート(CH2=CHCOO(CH2)2OPO(OH)2)、ジ(2-アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート([CH2=CHCOO(CH2)2O]2PO(OH))、またはこれらの混合モノマーが挙げられる。また、次式:CH2=C(CH3)COO(CH2)lOCO-R-CO-OPO(OH)R'(式中、Rは置換基を有してもよい(CH2)mまたはC6H4であり、R'は水酸基またはCH2=C(CH3)COO(CH2)nOCO-R-CO-O-基であり、l,mおよびnはそれぞれ独立して1〜6の整数である。)のモノマーも使用することができる。
【0024】
ビニル反応性モノマーは、一種を単独で、または複数種を混合して使用することができる。
また、ビニル反応モノマーは、後述するキレート形成基を分子内に一つ以上有するものであることが好ましい。これにより、高分子基材に反応活性点を生成して、モノマーのグラフト重合を行う二段階の反応によりリン吸着材を製造することができる。ビニル反応モノマーがキレート形成基を有さない場合は、反応活性点を生成し、モノマーのグラフト重合を行い、グラフト鎖にキレート形成基を導入する三段階の反応によりリン吸着材を製造することができる。
【0025】
[キレート形成基]
ここで、本発明における「キレート形成基」とは、リンとキレートを形成することができる官能基をいうものとする。キレート形成基は、特に限定はないが、リン酸基またはイミノジ酢酸基が挙げられる。またこれらのキレート形成基は、鉄、アルミニウム、またはジルコニウムを担持させてもよい。
【0026】
キレート形成基への金属の担持は、後述する方法により製造したリン吸着材に対して、適する化合物の溶液を通液することにより行うことができる。この担持型の吸着材を使用することにより、温泉中に溶存しているマイナスイオンを選択的に吸着することができる。リンの溶存形態は様々であるが、リン酸イオン(PO43-)としてはマイナスイオンとして存在することから、選択的吸着のためには担持型の使用が好ましい。また、グラフト鎖自体が架橋構造を有しており、キレート形成基とリン酸とが強く結合するため、一旦結合すると他の金属の干渉を受け難く、安定した回収率が得られ高効率化が図れる点で有利である。ジルコニウム担持型は、鉄担持型よりも安定性が高く、金属吸着後の溶離時にジルコニウムの溶出が少ないことから好ましい。
【0027】
以上説明した本発明のリン吸着材は、グラフト重合技術を利用することにより、内部で架橋構造をつくり、安定した構造をとることから、吸脱着による損傷が少なく、繰り返し利用が可能である。
【0028】
次に、本発明のリン吸着材の製造方法の好適な実施形態について説明する。
本発明のリン吸着材の製造方法の好適な実施形態は、高分子基材に反応活性点を生成させる工程と、前記高分子基材にビニル反応性モノマーをグラフト重合してグラフト鎖を導入する工程と、そして場合により、前記グラフト鎖にキレート形成基を導入する工程とを含むことを特徴とする。
【0029】
[反応活性点生成工程]
本発明のリン吸着材の製造方法においては、まず、以下の(a)または(b)の方法により高分子基材に反応活性点を生成させる。
【0030】
(a)放射線照射
予め窒素置換した高分子基材に、窒素雰囲気下、室温またはドライアイスなどによる冷却下で放射線を照射する。用いる放射線は電子線またはγ線で、照射線量は反応活性点を生成させるのに充分な線量であることを条件に適宜決定することができる。照射線量は、特に限定はないが、典型的には5〜200kGyである。
【0031】
(b)プラズマ照射
予め窒素置換した高分子基材に、窒素雰囲気下室温でプラズマを照射する。窒素雰囲気下、10MHz以上の高周波を用いて1〜数時間基材を照射する。
【0032】
[グラフト重合工程]
反応活性点生成工程に次いで、高分子基材にビニル反応性モノマーを接触させてグラフト重合を行い、高分子基材にグラフト鎖を導入する。
【0033】
グラフト重合は窒素雰囲気下で行うことができるが、高いグラフト率を達成するためには雰囲気中の酸素濃度が低いことが好ましい。ここで、「グラフト率」とは、高分子基材にグラフトした反応性モノマーの重量増加分(%)をいう。反応温度はモノマーの反応性に依存するが、典型的には40〜60℃であり、好ましくは40℃である。反応時間は30分〜5時間であるが、反応温度と必要とされるグラフト率とに依存して決定することができる。モノマー濃度は通常10%前後であればよいが、反応温度および反応時間とともに反応率を決定する因子になるので、適宜決定することができる。
【0034】
[キレート形成基導入工程]
グラフト重合反応においてキレート形成基を有するビニル反応性モノマーを使用しない場合は、キレート形成基を有する化合物をグラフト鎖と反応させることにより、グラフト鎖にキレート形成基を導入することができる。
【0035】
反応時間は、反応により得られるキレート形成基密度に依存して決定することができる。
次に、本発明の前記吸着材を用いたリン回収方法の好適な実施形態を説明する。
【0036】
本発明の前記吸着材を用いたリン回収方法の好適な実施形態は、リンを含有する液体を前記吸着材に通液することを含むことを特徴とする。通液の方法は、特に限定はないが、一の実施形態においては、例えば、ポンプを使用することにより、リンを含有する液体を吸着材に対して強制的に通過させてもよい。また他の実施形態においては、リンを含有する液体中に吸着材を浸漬し、強制的に撹拌してもよい。
【0037】
通液は、前記吸着材をカラムに充填し、前記カラムにリンを含有する通液することが好ましい。これにより、連続的なリンの回収が可能となる。カラムは、特に限定されないが、必要とされる処理能力や容量に依存して、寸法、材質等を適宜決定することができる。また、カラムは、所望の処理能力に応じて、適宜複数個を直列または並列に接続させてもよい。これにより、連続的で効率的なリンの回収が可能となる。本発明の吸着材をカラムに充填して使用することにより、省スペース化されたシステムを構成することが可能となる。
【0038】
カラムに充填した吸着材の間には、必要に応じてスペーサを挟んでもよい。これにより、通液状態を調節して、処理液に含まれるリン酸の回収効率を高めることができる。一般に、スペーサなしで吸着材を積層させてカラムに充填した場合、最密充填に近い状態となり、通液により吸着材に圧力が大きくかかるため、通液速度を遅くする必要がある。また、一部の処理液が吸着材とカラム内壁との間の隙間を通って抜けてしまう場合、スペーサなしでは処理液はそのままドレインに抜けてしまう。しかしながら、スペーサにより設けられた空間により処理液が混合され、吸着材を通過していない処理液が吸着材を通過する機会を与えることができる。スペーサの寸法、吸着材とスペーサの配置は、処理液の通液速度やリン酸濃度などを考慮して、適宜決定することができる。
【0039】
本発明の吸着材により回収したリンは、無機酸、有機酸、または有機溶剤で溶出させることができる。溶出後の吸着材は、純水で洗浄後、適する濃度の塩酸および水酸化ナトリウムに交互に浸漬させることにより、再利用が可能である。本発明の吸着材は、グラフト重合技術を利用することにより、内部で架橋構造をつくり、安定した構造をとることから、吸脱着による損傷が少なく繰り返し利用が可能である。
【0040】
以上のように説明してきた本発明のリン回収方法は、グラフト重合法により作製した吸着容量の大きい吸着材を使用することから、共存イオン(特に、塩化物イオンや炭酸イオン)などの影響を殆ど受けない点で有利である。
【0041】
また、リンは枯渇が予想される資源であることから、本発明のリン回収方法により回収されたリンを回収後に有用資源として利用できることから有益である。資源利用する際には、例えば、農地等のリン含有量の乏しい場所に、回収後の生分解性吸着材を施用することができる。地中に埋めた吸着材中の有機物は生分解によりガス化し、リンだけがその場所に残存するため、これを植物への肥料としての利用に供することができる。
【0042】
以下、本発明を実施例により更に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0043】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。以下、パーセントは明示のない限り重量パーセントであるものとする。
(実施例1)
ポリエチレン製の不織布を基材として吸着材を製造した。
【0044】
基材に電子線を200kGy照射した後、この基材を予め調製したモノマー溶液に浸漬し、40℃で5時間反応させた。モノマー溶液は、純水70%とメタノール30%の混合溶媒中にジ(2-メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェートを30%溶解して調製した。反応後、基材を洗浄して、グラフト率を求めたところ180%であった。更に、この基材を10mmol/gのジルコニウム塩酸溶液に浸漬し24時間撹拌した。その結果、得られた吸着材の官能基量は4mmmol/gであった。
【0045】
次いで、この吸着材のリン酸回収試験を行った。
試験は、吸着材を1ppmおよび10ppbの濃度のリン酸溶液(pH3)中に浸漬し、それぞれ24時間撹拌して行った。図1に、吸着材の回収性能を接触時間対リン酸回収率で示す。いずれのリン酸濃度においても24時間の接触後には98%のリン酸が回収された。更に、濃度10ppbの試験では、約15分で98%のリン酸が回収できることが確認された。これにより、本発明の吸着材は、リン酸濃度に依存することなく回収可能であることが分かった。
【0046】
(実施例2)
ポリプロピレンとポリエチレンの合成繊維を基材として吸着材を製造した。
ドライアイスによる冷却下で基材に電子線を200kGy照射した。次いで、この基材をメタノール95%とグリシジルメタクリレート5%の混合溶液中に浸漬し、40℃で15分間反応させ、エポキシ基を導入した。反応率(グラフト率)は120%であった。更に、この基材を0.425Mのイミノ酢酸二ナトリウム溶液中に浸漬し、80℃で8時間反応させた。導入したイミノ二酢酸基に関して、官能基密度は3mmol/gであった。このグラフト物(グラフト後に得られる反応物)を酸化鉄(Fe2O3)中性溶液中に浸漬し、60℃で12時間撹拌させて吸着材を得た。得られた吸着材の官能基量は2.5mmol/gであった。
【0047】
次いで、この吸着材のリン酸回収試験を行った。
試験は、吸着材をカラムに充填し、種々の濃度のリン酸溶液を通液することにより行った。リン酸濃度は、1mM、5mM、10mMとし、空間速度(SV)およびpHは一定でそれぞれ100、5とした。図2に、吸着材のリン酸濃度依存性をベッド体積対C(リン酸濃度)/C0(リン酸初濃度)で示す。いずれの濃度での試験も、ほぼ同じ破過点および破過吸着量を示し、本発明の吸着材は、濃度に依存せずリン酸を回収できることが確認された。
【0048】
また、SVを変化させて、同様のリン酸回収試験を行った。SVは、それぞれ100、1000、5000とした。図3に、吸着材の処理速度依存性をベッド体積対C(リン酸濃度)/C0(リン酸初濃度)で示す。これにより、本発明の吸着材は、処理速度に依存することなく、処理液を漏らさず回収できることが確認された(図3)。
【0049】
(実施例3)
ポリエチレン製の不織布を基材として吸着材を製造した。
ドライアイスによる冷却下、基材にγ線を総吸収線量が160kGyになるように照射した。次いで、基材を予め調製した混合モノマー中に浸漬し、60℃で3時間反応させてから、10mMのジルコニウム硝酸溶液中に浸漬しジルコニウムを担持させた。モノマー溶液は、モノ(2-メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェートとジ(2-メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェートが35対65の割合の混合モノマーを、メタノールと純水が30対70の割合の混合溶媒中に溶解して調製した。得られた吸着材の反応率(グラフト率)および官能基量はそれぞれ、100%、4mMであった。
【0050】
次いで、この吸着材のリン酸回収試験を行った。
試験は、吸着材をイオン交換塔に充填し、図4に示すフロー図にしたがった装置構成を用いて行った。図4に示すように、リザーバに収容されたリン酸を含有する処理液を、ポンプにより、フィルター、熱交換器、イオン交換塔(吸着材)へと送液した。
【0051】
フィルターにより処理液中の固体不純物を濾過し、熱交換器により処理液を25℃〜30℃に調整した。イオン交換塔は3塔を並列に接続し、イオン交換塔の前後の処理液の流量をモニターして、流量調節器により処理速度を調節した。回収試験において、SVは、2000、1000、500とした。図5に、吸着材の処理速度依存性をベッド体積対C(リン酸濃度)/C0(リン酸初濃度)で示す。処理速度が速くなるにつれて、若干破過点が移動したものの、ほぼ同様の性能を示した(図5)。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】図1は、本発明の吸着材の除去性能を示す図である。
【図2】図2は、本発明の吸着材のリン酸濃度依存性を示す図である。
【図3】図3は、本発明の吸着材の処理速度依存性を示す図である。
【図4】図4は、イオン交換塔を用いた処理フロー図である。
【図5】図5は、イオン交換塔を用いたリン酸回収試験の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
1・・・リザーバ 2・・・ポンプ 3・・・フィルター 4・・・熱交換器 5・・・吸着材 6・・・流量調節器 7・・・ドレイン



【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン化合物を含有する液体からリンを回収するための方法であって、前記液体をリンを回収するための吸着材に通液することを含み、前記吸着材が、繊維由来の形態の高分子基材と、前記高分子基材にグラフト重合により導入された、主としてビニル反応性モノマーから構成されるグラフト鎖と、前記グラフト鎖に導入されたリンキレート形成基とを有することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記キレート形成基がリン酸基またはイミノジ酢酸基である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記キレート形成基が、鉄、アルミニウム、またはジルコニウムを担持させられたものである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記ビニル反応性モノマーが、モノ(2-メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート(CH2=C(CH3)COO(CH2)2OPO(OH)2)、ジ(2-メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート([CH2=C(CH3)COO(CH2)2O]2PO(OH))、モノ(2-アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート(CH2=CHCOO(CH2)2OPO(OH)2)、ジ(2-アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート([CH2=CHCOO(CH2)2O]2PO(OH))、またはこれらの混合モノマーである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記ビニル反応性モノマーが、次式:CH2=C(CH3)COO(CH2)lOCO-R-CO-OPO(OH)R'(式中、Rは置換基を有してもよい(CH2)mまたはC6H4であり、R'は水酸基またはCH2=C(CH3)COO(CH2)nOCO-R-CO-O-基であり、l,mおよびnはそれぞれ独立して1〜6の整数である。)のモノマーである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記高分子基材が、ポリエチレン、ポリプロピレン、キチン、キトサン、セルロース、デンプンの繊維を材質とする織布、不織布、フィルム、中空糸膜、平膜、または糸の形態である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記吸着材はカラムに充填されたものである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記カラムが複数個直接または並列に接続されている、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
更に、前記液体を吸着材に通液した後、前記吸着材を洗浄して、吸着したリンを溶離させ、繰返しリンを含有する液体を前記吸着材に通液することを含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のリン回収方法により回収したリンを有用資源として利用するための方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−35027(P2006−35027A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−215601(P2004−215601)
【出願日】平成16年7月23日(2004.7.23)
【出願人】(000004097)日本原子力研究所 (55)
【Fターム(参考)】