説明

リングレーザジャイロ装置

【課題】リングレーザジャイロブロックの速やかな起動を実現する。
【解決手段】リングレーザジャイロブロック200の個体に対応した固有制御パラメータを格納したEEPROM400を備え、固有制御パラメータに基づいて駆動制御が行われるリングレーザジャイロ装置において、デジタル論理100によって構成した起動制御回路50を設ける。起動制御回路50は予め決定された共通制御パラメータ52を有しており、電源投入後、ディザ制御部30に共通制御パラメータを出力する。ディザ制御部30は共通制御パラメータに基づき、ディザ機構を起動制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はリングレーザジャイロ装置に関し、特にリングレーザジャイロブロックの速やかな起動を実現したリングレーザジャイロ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1にはマイクロコントローラを用いたデジタル制御型のリングレーザジャイロ装置が記載されている。この特許文献1に記載されているリングレーザジャイロ装置ではマイクロコントローラ、デジタル論理及びEEPROM(electrically erasable and programmable ROM)によりデジタル制御装置が構成されており、これらを用いてリングレーザジャイロブロックの駆動制御を行うものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3691847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来のリングレーザジャイロ装置においては、リングレーザジャイロブロックの起動時の起動制御はその全てのプロセスがマイクロコントローラを用いたソフトウエアによる逐次処理によって行われるものとなっている。そのため、従来のリングレーザジャイロ装置では、電源投入後、マイクロコントローラが起動し、EEPROMに格納されている内容をロードし終わるまでの間、デジタル制御装置はリングレーザジャイロブロックに対して何も行うことができず、この間、リングレーザジャイロブロックは遊んでいる。
【0005】
一方、リングレーザジャイロブロックの起動においては、リングレーザジャイロブロックに設けられているディザ機構を最初に起動し、このディザ機構が機能するようになった後に放電(レーザ発光)を開始するといった手順が一般に採用されている。
【0006】
上述したように、従来のリングレーザジャイロ装置ではマイクロコントローラの起動と、EEPROMの内容のロードが優先されるので、これらの実行に要する時間だけ、ディザ機構の起動を開始することはできず、その分、リングレーザジャイロブロックの起動が遅くなる結果となっていた。
【0007】
この発明の目的はこの問題に鑑み、電源投入後、直ちにディザ機構を起動することができるようにし、リングレーザジャイロブロックの速やかな起動を実現したリングレーザジャイロ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明によれば、リングレーザジャイロブロックの個体に対応した固有制御パラメータを格納したEEPROMを備え、固有制御パラメータに基づいて駆動制御が行われるリングレーザジャイロ装置において、論理回路によって構成した起動制御回路を設け、起動制御回路は予め決定された共通制御パラメータを有しており、起動制御回路は電源投入後、リングレーザジャイロブロックに設けられているディザ機構を駆動制御するディザ制御部に共通制御パラメータを出力し、ディザ制御部は共通制御パラメータに基づき、ディザ機構を起動制御するものとされる。
【0009】
請求項2の発明では請求項1の発明において、起動制御回路はアドレスカウンタを有するEEPROMシーケンサを備え、EEPROMシーケンサは電源投入後、EEPROMから固有制御パラメータをアドレスカウンタのカウント値に従い、順次レジスタに転送し、転送の完了後、起動制御回路は共通制御パラメータに替えて、レジスタに転送された固有制御パラメータをディザ制御部に出力する。
【0010】
請求項3の発明では請求項2の発明において、起動制御回路はディザ制御部に対する出力を共通制御パラメータから固有制御パラメータに切り替えるマルチプレクサを備え、マルチプレクサの切り替えはアドレスカウンタのカウント終了信号によって行われる。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、電源投入後、直ちにディザ機構を起動することができ、よってリングレーザジャイロブロックを速やかに起動することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明によるリングレーザジャイロ装置の要部構成を示すブロック図。
【図2】この発明によるリングレーザジャイロ装置の一実施例の構成詳細を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明の実施形態を図面を参照して説明する。
【0014】
図1はこの発明によるリングレーザジャイロ装置の構成の要部を示したものであり、この例ではリングレーザジャイロ装置は論理回路によって構成された起動制御回路50を具備するものとなっている。起動制御回路50は予め決定されたリングレーザジャイロブロックの個体によらない共通制御パラメータ52を有している。
【0015】
起動制御回路50は電源投入後、直ちに共通制御パラメータをディザ制御部30に出力し、ディザ制御部30はこの共通制御パラメータに基づき、リングレーザジャイロブロック200に設けられているディザ機構を直ちに起動制御する。
【0016】
つまり、この例では起動制御回路50は、従来のようにマイクロコントローラの起動を待つことなく、かつリングレーザジャイロブロックの個体に対応した固有制御パラメータを格納するEEPROM400のロードを待つことなく、ディザ機構の起動制御を開始するものとなっている。
【0017】
起動制御回路50はアドレスカウンタを有するEEPROMシーケンサ51を備えており、EEPROMシーケンサ51は電源投入後、マイクロコントローラの起動を待つことなく、EEPROM400から固有制御パラメータをレジスタ60に順次ロードし、ロード完了後、ディザ制御部30に出力するパラメータを共通制御パラメータから固有制御パラメータに切り替える。パラメータの切り替えはマルチプレクサ53によって行われる。
【0018】
図2は上述した起動制御回路50を具備するリングレーザジャイロ装置の構成の詳細を示したものであり、図2を参照してリングレーザジャイロ装置の構成・動作をさらに詳細に説明する。
【0019】
デジタル論理100はその内部に、ロックイン制御部10、光路長制御部20、ディザ制御部30、放電開始制御部40、起動制御回路50、レジスタ60及びマイクロコントローラ300とのインターフェース70を有する。
【0020】
ロックイン制御部10はビーム強度信号をモニタし、ロックイン制御を行う。ロックイン制御はドリフトを改善すべく、光路長を変えないようにして2つのミラーを逆方向に動かす制御であり、ロックイン制御部10にはビーム強度信号が入力回路81、A/D変換器91を介して入力される。ロックイン制御部10が出力する制御信号はD/A変換器93を介してMT(ミラートランスデューサ)駆動回路83に入力され、MT駆動回路83は入力された制御信号に基づき、ミラートランスデューサ(MT)を駆動する。
【0021】
光路長制御部20はロックイン制御部10と同様、ビーム強度信号をモニタし、ビーム強度が最大となるようにミラーを動かし、光路長を制御する。光路長制御部20が出力する制御信号はD/A変換器94を介してMT駆動回路83に入力される。
【0022】
ディザ制御部30はディザピックオフ信号をモニタし、ディザ振幅が一定となるようにディザPZT(PZT:ピエゾトランスデューサ)を制御する。ディザ制御部30にはディザピックオフ信号が入力回路82、A/D変換器92を介して入力され、ディザ制御部30が出力する制御信号はD/A変換器95を介してディザ駆動回路84に入力され、ディザ駆動回路84は入力された制御信号に基づき、ディザPZTを駆動する。なお、ディザ制御部30はディザピックオフ信号が規定値を超えたら、放電開始信号を放電開始制御部40に出力する。
【0023】
放電開始制御部40はディザ制御部30から放電開始信号を受けると、高圧回路86を起動させる高圧ON/OFF信号をONとし、引き続き、放電トリガ信号をONとすることで高圧回路86を起動させる。リングレーザジャイロブロック200の陽極及び陰極間には高圧回路86から高圧が印加され、放電(レーザ発光)が開始される。放電開始制御部40にはビーム強度信号が入力されており、ビーム強度信号が規定値を超えたらレーザ発光完了となり、リングレーザジャイロブロック200の起動が完了する。なお、高圧回路86には電流制御回路85が接続されている。
【0024】
起動制御回路50は図1で説明したように、EEPROMシーケンサ51と共通制御パラメータ52とマルチプレクサ53とを有し、さらにレジスタ60の入力側に設けられたマルチプレクサ54,55を有している。EEPROMシーケンサ51は内部にアドレスカウンタ51aを備えている。マルチプレクサ53〜55はEEPROMシーケンサ51が出力するステータス信号により入力が切り替えられる。
【0025】
インターフェース70はマイクロコントローラ300との接続を担うもので、マイクロコントローラ300には上位システム500が接続されている。
【0026】
EEPROM400にはリングレーザジャイロブロック200の個体に対応した固有制御パラメータが格納されている。固有制御パラメータはディザ制御、ロックイン制御及び光路長制御を行うためにリングレーザジャイロブロック200が個体別に持つ特性データであり、固有制御パラメータの内容を以下に示す。
【0027】
・ディザ制御 … ディザ振幅目標値
・ロックイン制御 … ロックインリセット時のミラートランスデューサ(MT)の
変化量
・光路長制御 … 光路長セット時のミラートランスデューサ(MT)の変化量
【0028】
EEPROM400への固有制御パラメータの格納はマイクロコントローラ300からレジスタ60に固有制御パラメータを書き込み、EEPROMシーケンサ51がマイクロコントローラ300の指令により、レジスタ60に書き込まれた固有制御パラメータをアドレスカウンタ51aのカウント値に従い、順次EEPROM400に書き込む動作を行うことにより実行される。なお、このEEPROM400への固有制御パラメータの書き込みは例えばリングレーザジャイロ装置の工場出荷時に初期設定として行われる。
【0029】
以下、リングレーザジャイロブロック200の起動時における動作を順に説明する。
(1)電源が投入される。
(2)EEPROMシーケンサ51はステータス信号“1(Busy)”を出力する。
また、アドレスカウンタ51aはカウントを開始する。これにより、
・ディザ制御部30前段のマルチプレクサ53は共通制御パラメータをディザ制御部
30に出力する。
・EEPROM400はEEPROMシーケンサ51が出力するアドレスに対応して
固有制御パラメータ(データ)を出力する。
・レジスタ60前段のアドレスバスのマルチプレクサ55はEEPROMシーケンサ
51が出力するアドレスをレジスタ60に出力する。
・レジスタ60前段のデータバスのマルチプレクサ54はEEPROM400が出力
する固有制御パラメータをレジスタ60に出力する。
・レジスタ60は指定されたアドレスに固有制御パラメータを格納する。
(3)ディザ制御部30は共通制御パラメータに基づき、制御信号を生成して出力し、これによりディザ機構(ディザPZT)が起動制御される。
(4)EEPROMシーケンサ51のアドレスカウンタ51aがEEPROM400の最大アドレスになると、固有制御パラメータのEEPROM400からレジスタ60への転送が完了する。転送が完了すると、EEPROMシーケンサ51はステータス信号“0(End)”(カウント終了信号)を出力する。これにより、
・ディザ制御部30前段のマルチプレクサ53の入力が切り替えられ、マルチプレク
サ53はレジスタ60に転送された固有制御パラメータをディザ制御部30に出力
する。
・レジスタ60前段のアドレスバスのマルチプレクサ55及びデータバスのマルチプ
レクサ54はインターフェース70を介し、マイクロコントローラ300から入力
されるアドレス及びデータをそれぞれ受け取る状態に切り替えられる。
(5)ディザ制御部30は固有制御パラメータに基づき、制御信号を生成して出力し、これによりディザ機構が継続して駆動制御される。また、ロックイン制御部10及び光路長制御部20にレジスタ60から固有制御パラメータが入力される。
(6)ディザピックオフ信号が規定値を超えたら、放電(レーザ発光)が開始され、ビーム強度信号が規定値を超えたら、レーザ発光完了となり、リングレーザジャイロブロック200の起動が完了する。
【0030】
以上説明したように、図2に示した構成によれば、リングレーザジャイロ装置はデジタル論理100を備え、デジタル論理100の内部には起動制御回路50が構成され、さらに起動制御回路50は予め決定された共通制御パラメータ52を有している。
【0031】
つまり、この例ではデジタル論理100を用いたハードウエアにより、起動制御に関わる全てのプロセスを独立して実行することができるものとなっており、共通制御パラメータを用いて起動制御を開始することにより、マイクロコントローラ300の起動や固有制御パラメータを格納しているEEPROM400のロードを待たずに速やかにリングレーザジャイロブロック200の起動を行えるものとなっている。
【0032】
デジタル論理100には例えば不揮発性FPGA(field programmable gate array)が用いられる。デジタル論理100に不揮発性FPGAを用いることにより、デジタル論理100の起動(構成)時間は無視できるほどに短縮することができるため、電源投入後、ディザ機構の制御を直ちに開始することができる。
【0033】
ディザ機構の起動制御を行うための共通制御パラメータは、例えばそれ以前に製造したリングレーザジャイロブロックのディザの振動振幅の平均値で設定する。ディザ機構は、レーザ発光に先立ち、駆動する必要があるが、レーザ発光開始時のディザ機構は動作していれば良く、平均値による駆動振幅で問題はない。なお、共通制御パラメータはディザ機構の起動をより速やかに行うために、意図的に大きな値を用いても構わない。
【0034】
固有制御パラメータの、EEPROM400からレジスタ60への転送が完了した後は、ロックイン制御部10、光路長制御部20及びディザ制御部30の各制御部に固有制御パラメータが出力されるため、リングレーザジャイロブロック毎の特性に合致した制御が行われる。
【符号の説明】
【0035】
10 ロックイン制御部 20 光路長制御部
30 ディザ制御部 40 放電開始制御部
50 起動制御回路 51 EEPROMシーケンサ
52 共通制御パラメータ 53,54,55 マルチプレクサ
60 レジスタ 70 インターフェース
100 デジタル論理 200 リングレーザジャイロブロック
300 マイクロコントローラ 400 EEPROM

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リングレーザジャイロブロックの個体に対応した固有制御パラメータを格納したEEPROMを備え、前記固有制御パラメータに基づいて駆動制御が行われるリングレーザジャイロ装置において、
論理回路によって構成した起動制御回路を設け、
前記起動制御回路は予め決定された共通制御パラメータを有しており、
前記起動制御回路は電源投入後、前記リングレーザジャイロブロックに設けられているディザ機構を駆動制御するディザ制御部に前記共通制御パラメータを出力し、
前記ディザ制御部は前記共通制御パラメータに基づき、前記ディザ機構を起動制御することを特徴とするリングレーザジャイロ装置。
【請求項2】
請求項1記載のリングレーザジャイロ装置において、
前記起動制御回路はアドレスカウンタを有するEEPROMシーケンサを備え、
前記EEPROMシーケンサは前記電源投入後、前記EEPROMから前記固有制御パラメータを前記アドレスカウンタのカウント値に従い、順次レジスタに転送し、
前記転送の完了後、前記起動制御回路は前記共通制御パラメータに替えて、前記レジスタに転送された前記固有制御パラメータを前記ディザ制御部に出力することを特徴とするリングレーザジャイロ装置。
【請求項3】
請求項2記載のリングレーザジャイロ装置において、
前記起動制御回路は前記ディザ制御部に対する出力を前記共通制御パラメータから前記固有制御パラメータに切り替えるマルチプレクサを備え、
前記マルチプレクサの切り替えは前記アドレスカウンタのカウント終了信号によって行われることを特徴とするリングレーザジャイロ装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−58204(P2012−58204A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−204707(P2010−204707)
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【出願人】(000231073)日本航空電子工業株式会社 (1,081)
【Fターム(参考)】