説明

リング状シール材及びその製造方法

【課題】取り付け対象の製品への応力負荷が小さく、かつシール特性に優れたリング状シール材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明にかかるリング状シール材は、有機高分子材料の架橋物からなる紐状押出架橋成形品の両端面同士が外表面が連続した状態で接合されていることを特徴とする。また、本発明にかかるリング状シール材の製造方法は、所定形状の口金から高分子材料を連続的に押し出して紐状押出架橋成形品を得る押出架橋成形工程と、前記連続した紐状押出架橋成形品を所定の長さ毎に一定の角度を持って切断する切断工程と、前記切断された所定長さの紐状押出架橋成形品の両端面同士を外表面が連続するように重ね合わせる位置合わせ工程と、前記重ね合わせた両端面同士を熱溶着により接合する接合工程と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟な有機高分子材料製のリング状シール材と、その製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電化製品や自動車伝送製品を始め、様々な産業分野において、防塵、防湿を目的としたシール部位を有する製品は数多く使用されている。このシール部位を有する製品としては、ハードディスク装置などの電子機器の筐体、自動車用制御回路を内蔵する回路ボックスなどの自動車伝送製品の筐体などがある。このようなシール部位を有する製品のシール部位には、ガスケットなどのシール材が取り付けられて、防塵性、防湿性が確保されている。例えば、ハードディスク装置では、その筐体の外縁部の内周面に沿ってリング状のシール材が取り付けられており、筐体外部からの湿気や塵、埃などのハードディスクドライブの故障の原因となる種々の危害要因から、内部を保護する重要な役割を果たしている。また、かかるシール材は、筐体内部で、可動時に生じる様々な振動や底から伝播派生する音を、伝播途中で制振して防ぎ、筐体外部へ漏らさないようにする防音効果も同時に発揮している。
【0003】
これらの防護・制振・防音特性は、シール材の組み付け状況によって、顕著に左右される。具体的な要因の1例を挙げると、取り付けられるシール材の硬さがある。筐体の組立時において、シール部に取り付けたシール材の硬さにより筐体本体に対する筐体カバーの支持状態が変わり、最悪、組立の圧締時に筐体カバーの変形が起こる。筐体カバーに変形が生じると、外部からの危害物の侵入防護が不十分となり、内部デバイスの故障を誘発するだけでなく、駆動時の騒音、振動の助長、増加を来たしてしまうことになる。
【0004】
昨今、特にハードディスク装置の筐体(筐体本体と筐体カバー)などのシール部位を有する製品は、小さなサイズが市場ニーズから強く求められており、その数量も徐々に増えてきている。またこれらの製品における小型化は、全体のサイズが小さくなるだけでなく、それらの厚みも薄くなって来ている。
【0005】
従がって、サイズが小さくまた薄くなった製品の組立では、筐体の剛性が従来以上に低くなるため、そのシール部位に取り付けるシール材が硬いものであると、筐体カバーを筐体本体に対して圧縮圧締する時に、筐体カバーがさらに変形しやすく、危害物の侵入防護が不充分となりやすく、また騒音の助長、増加も来たしやすい。そのため、シール材はより柔らかいものが要求されている。
【0006】
ところで、シール材硬さを柔らかくする方法は、材質的な部分と断面構造(形状・構造)からの2面方向からのアプローチがあるが、現行技術によるそれぞれの柔軟化方策にあっては、種々の問題が生じている。
【0007】
具体的にそれぞれ例を挙げると、従来からのシート状の打ち抜きシール材の場合、打抜いたシール材の片面を筐体カバーに接着し、もう片方は筐体本体のシール部に対する密着によりシールが実現される。この時、シール材は打ち抜きの為、シール材断面形状が、必ず矩形形状(四角)となり、小型・薄型の製品になると、筐体カバーの筐体本体への圧締による圧縮荷重に対する面圧が大きくなり、筐体の剛性バランスで応力設計の自由度が拘束される。
【0008】
また、前記具体的要因の2例目としては、ディスペンサーによる熱硬化性の液体原料をノズルから直接片側の筐体(筐体カバー)に塗工して、紫外線照射などのエネルギーを印加して硬化させ、接着成形する方法における場合を挙げることができる。この場合、ノズルからの塗工太さに限界がある事や、細く塗工できても、硬化する前に横広がり的に変形が生じるため、1回塗工ではなかなか高さが出ない。そのため、複数回の重複塗りが必要になる。また、上記横広がり的な変形を防ぐために、原料粘度を増粘させるが、その結果、塗工スピードを遅くする必要が出てきたりで、生産性が犠牲となる。
【0009】
上記2例の場合からも分かる様に、シール材断面形状から、筐体の剛性とバランスがとれた適切な形状設計と、これらを生産する上での効率的な生産性が求められるようになってきている。
【0010】
一方、上記問題点を解消する方法として、射出成形で、直接筐体にシール材を射出成形するインサート方法(特許文献1)が台頭して出てきている。この方法では、断面形状は、金型加工を工夫することで適正な形状(異形断面)が実現でき、筐体の圧締時の圧縮荷重に対する筐体への応力負荷は低く抑えることは期待し得る。しかし、直接射出により筐体上に樹脂を流して成形することから、樹脂圧が筐体にかかり過ぎて筐体が変形するという新たな大きな問題が出てきている。
【0011】
さらに、上記問題点を解消する方法として、射出プロセスを使う方法(特許文献2)が提案されている。この方法では、金型内で支持フィルムにシール材を効率よく射出仮留め成形して、この一旦仮留め成形されたシール材を、筐体が変形しない低荷重な負荷範囲で、筐体に転写する。この方法は、シール材の筐体への直接射出ではない為、筐体を変形する要因はなく優れた工法である。この工法では、シール材の支持フィルムに仮留めされた面が、フィルムの平坦面上であるため、筐体カバーの内側面において、その底面にシール材を接着固定する作業が必要となる。そのため、支持フィルムに仮留めされたシール材のフィルム面からの高さが、筐体カバーの縁端面から深絞りされた底面までの深さよりも短い場合には、シール材を接着固定することが難しくなる。
【0012】
これに対し、フィルム面をシール材の成形時に、型押しまたは真空成形することで支持フィルムに凸面を形成し、その凸面上にシール材を仮留め成形すれば、蓋の深さ寸法相当を凸に出すことで、シール材を蓋底面に接着固定することは可能となる。しかし、フィルムの凸成形が微妙に残留歪みを残こすため、フィルムに収縮が起こりやすくなる。フィルムに収縮が生じると、それに伴って、シール材の固定位置がずれてしまい、十分なシール性を発揮できなくなる傾向がある。
【0013】
これに対して、未架橋のエラストマーを紐状に成形し、その両端を溶着した後、溶着部を再加熱し、その後、全体を電離性放射線照射により架橋させて、所望の大口径のOリングを得る方法が提案されている(特許文献3)。
【0014】
しかし、この未架橋のエラストマーの紐状成形品を用いたOリングの製造方法では、紐状成形品の端面を接合する場合に、紐状成形品が未架橋であるために、取り扱いが難しく、端面の溶着を2段階にて行わなければならない。さらに、その後に全体を電離性放射線の照射により架橋させなければならず、製造のスループット性に劣るという問題点がある。
【0015】
このように、シール部位を有する製品の小型化が進み、製品の厚みも薄化する傾向の中で、シール材に求められる従来からの諸性能(防護・制振・防音)を確保した上で、さらに従来以上に柔軟性に優れたシール材と、その安価で生産性の高い製造方法が望まれているのが、現状である。
【0016】
【特許文献1】特開2003−049949号公報
【特許文献2】特開2006−177551号公報
【特許文献3】特開2003−287138号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、前記従来の事情に鑑みてなされたもので、その課題は、シール材の従来からの諸仕様(防護・制振・防音)や柔軟性の維持向上をもたらすことのできる断面形状を有し、効率的に製造することのできるリング状シール材およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記課題を解決するために、本発明にかかるリング状シール材は、熱溶着が可能な熱可塑性を有する有機高分子材料架橋物からなる紐状押出架橋成形品の両端面同士が外表面が連続した状態で熱溶着により接合されていることを特徴とする。
【0019】
また、本発明にかかるリング状シール材の製造方法は、熱溶着が可能な熱可塑性を有する有機高分子材料架橋物からなる紐状押出架橋成形品の両端面同士が外表面が連続した状態で熱溶着により接合されているリング状シール材の製造方法であって、所定形状の口金から熱溶着が可能な熱可塑性を有する有機高分子材料を連続的に押し出して紐状押出架橋成形品を得る押出架橋成形工程と、前記連続した紐状押出架橋成形品を所定の長さ毎に一定の角度を持って切断する切断工程と、前記切断された所定長さの紐状押出架橋成形品の両端面同士を外表面が連続するように重ね合わせる位置合わせ工程と、前記重ね合わせた両端面同士を熱溶着により接合する接合工程と、を有することを特徴とする。
【0020】
本発明において、前記有機高分子材料が、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、熱可塑性成分を有する熱硬化性樹脂、熱可塑性成分を有する熱硬化性エラストマーからなる群から選ばれた一種であることが、好ましい。
【0021】
また、前記接合工程において、紐状成形品の両端面同士の接合を実現する熱溶着は、前記紐状成形品の両端面の重ね合わせ部分に超音波振動を印加して端面間に摩擦熱を生じさせ、この摩擦熱により両端面を溶融させることにより前記紐状成形品の両端面同士を接合するものであることが好ましい。
【0022】
また、前記紐状成形品の形成工程において、有機高分子材料をチューブ状に押し出して紐状成形品を中空構造に成形してもよい。シール材を中空構造とすることにより、同一材質であっても、さらにシール材全体の柔軟性を高めることが可能となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、昨今ますます小型化、軽量化されるシール部位を有する各種製品に用いて好適な、柔軟で、防塵、防水、防音、耐透湿に優れたシール材を、効率よく生産し提供し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明にかかるリング状シール材は、前述のように、有機高分子材料の架橋物からなる紐状押出架橋成形品の両端面同士が外表面が連続した状態で接合されていることを特徴とする。以下、本発明に係るシール材の各構成要素、および製造工程ついて、さらに詳しく説明する。
【0025】
(シール材の材料)
本発明に用いる有機高分子材料は、架橋後においても熱により溶着が可能な熱可塑性を有しているものである。かかる熱溶着が可能な有機高分子材料としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、熱可塑性成分を有する熱硬化性樹脂、熱可塑性成分を有する熱硬化性エラストマー等が挙げられる。これらの内でも、シールに求められる柔らかさや成形加工性を得る容易性を考慮すると、熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマーが好ましい。すなわち、加熱によって可塑化される高分子材料は、押出し成形等で、温度制御のみで比較的安定に形状を成形しやすい為、取り扱く好ましい。より好ましくは、材質の柔らかさにおいて優れている熱可塑性エラストマーである。材質が柔らかいと、シール材に成形された表面が、製品のシール部位の凹凸に追従し易く、気密成形や耐透湿性、止水性等被着体との界面においてシール材の機能が発揮され易い。
【0026】
本発明において、使用する有機高分子材料としては、前述のように、熱硬化性樹脂および熱硬化性エラストマーも可能である。本発明に使用可能な熱硬化性樹脂及び熱硬化性エラストマーは、硬化後においても加熱により表面の溶融が可能な程度に熱可塑性成分を含むものである。そのような熱可塑性成分を有する熱硬化性樹脂および熱硬化性エラストマーとしては、例えば、有機過酸化物、硫黄、キノイド、アミン、金属酸化物、トリアジンチオール、ポリオール、液状樹脂、湿気、の存在下や、自身が分子内に持つ反応性官能基で、加熱されることで架橋反応が促進されて硬化可能な樹脂やゴムが挙げることができる。
【0027】
具体的な熱硬化性樹脂には、低密度ポリエチレン、ポリウレタン、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、等の樹脂が挙げられる。
【0028】
また、熱硬化性エラストマーには、天然ゴム、スチレン・ブタジエンゴム、スチレン・イソプレンゴム、エチレン・プロピレンゴム、ブチルゴム、ニトリル・ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、エチレンアクリレート系ゴム、ウレタンアクリレート系ゴム、等のゴムが挙げられる。
さらに、これらの樹脂とゴムからなり、混合系で硬化された熱硬化性樹脂や熱硬化性エラストマーも挙げられる。
【0029】
これらの中で好ましい材料系は、オレフィン系、ウレタン系、エポキシ系、スチレン系、エステル系の熱硬化性樹脂または熱硬化性エラストマーである。
【0030】
また、これらの架橋形態としては、架橋反応以外にも結晶性成分が構成する擬似架橋でもその効果を得る事ができる。
【0031】
さらに、本発明における熱可塑性成分を有する熱硬化性樹脂および熱硬化性エラストマーは、そのミクロ凝集構造が、熱可塑成分と熱硬化成分とで、それぞれ海の場合と島の場合の両方の何れの状態も可能で、また、両成分の海島が明確にならないミクロ凝集構造の状態の場合も可能で、これらは成分組成、ミクロ凝集構造の配合混練りの条件からそれぞれ調整される。
【0032】
また、市販品としては、前述の配合成分組成や混練りされたミクロ凝集構造にも該当するオレフィン系、ウレタン系、エポキシ系、スチレン系、エステル系の熱可塑性エラストマーを挙げることができる。具体的には、三井化学株式会社製の「ミラストマー(商品名)」、株式会社クラレ製の「ハイブラー(商品名)」、エーイーエスジャパン株式会社製の「サントプレン(商品名)」、日本ポリウレッタ工業株式会社製の「ミラクトロン(商品名)」、ダイセル化学工業株式会社製の「エポフレンド(商品名)」などを挙げられるが、その使用に当たっては、これら単独でも、また別な成分組成との混合配合によっても、適当な特性が得られるように調整される。
【0033】
(紐状押出成形品形成工程)
上記有機高分子材料を所望の形状に設計されたダイス(口金)を通して、紐状に連続的に押出し成形されるとともに架橋された紐状押出架橋成形品が、リング状に接合されたシール材を得るための中間成形品となる。
【0034】
上記紐状押出架橋成形品の断面形状は、口金形状を調整することによって自由に設定することができる。したがって、シール材が取り付けられる部位の形状に応じて、また求められる性能に応じて、口金の形状が予め設計される。この口金形状に依存して決定される紐状押出架橋成形品の形状としては、特に柔軟性が求められる用途には、紐状押出架橋成形品の断面中央に連続した空洞がある、いわゆる中空構造のものが好ましい。内部の中空部分の断面形状は、紐状押出架橋成形品の外形と相似形状であったり、まったく異なる形状であってもよい。
【0035】
中空紐状押出架橋成形品の場合の中空部分の断面面積は、紐状成形品の外輪郭で囲まれた全断面積の90%以下が好ましく、紐状の外形形状に対し、中空形状もシール材の機能上、被着面に対する、密着追従性や、応力から考えて適正な形状を選択することが可能である。
【0036】
とりわけ、紐状押出架橋成形品の外輪郭形状が丸形状で、かつ中空部分の内壁輪郭形状が丸形状であり、かつ中心点が同一であるもの(丸紐中空断面の肉厚が均一)が、好ましい。シール材が係る中空構造を有すると、圧縮されて用いられる際、比較的均等な柔軟応力が得られるので好ましい。
【0037】
また、紐状押出架橋成形品の有機高分子材料の材質にもよるが、曲げ弾性の高い材質ほど、紐状押出架橋成形品の外輪郭で囲まれた断面面積に対する中空部分の断面積の分率は大きく、曲げ弾性の小さい材質程、同分率が小さいものが好ましい。したがって、それぞれの成形品になった時に求められる必要な柔軟な弾性(圧縮時)に合わせて、中空部分の大きさを適正な断面積分率に設計すればよい。
【0038】
(切断工程及び位置合わせ工程)
紐状押出架橋成形品は、その後、所定の長さ毎に、押出し方向(長手方向)に対して一定の角度を持って、押し切り刃やスライス刃で切断される。所定長さに切断された両端を180度回動して両端面同士を当接させると、段差を生じることなく密着し、その部分を接合すれば、外表面が連続したリング状となる。前記切断の角度は、紐状成形品の長手方向に対して、好ましくは、25〜90度の内の一定の角度に設定する。一定の角度で、繰り返し切断を続けることにより、各一本の紐状押出架橋成形品の両端面を段差を生じさせることなく密接させることができる。
【0039】
(接合工程)
所定の長さ毎に切断された各一本の紐状押出架橋成形品の両端面を段差を生じさせることなく密接させ、密着させた両端面同士を一度の接合工程により接合する。接合方法としては、熱溶着による接着法が好ましい。
【0040】
上記熱溶着の場合の具体的な手法としては、以下の3通りの方法がある。
(i)それぞれの切断端面を加熱して、その両面同士をオフセットの無いように重ね圧着して熱溶着させる。
(ii)切断端面同士をオフセットのないように重ね圧着し、その周辺から誘電加熱を行い熱溶着する。
(iii)切断端面同士をオフセットのないように重ね圧着し、その周辺から直接超音波振動を与え、両端面同士の摩擦熱により熱溶着する。
【0041】
上記溶着方法の中でも、(iii)の超音波溶着が好ましい。この超音波溶融による溶着は、所定の長さに切断された紐状押出成形品の両端部を、成形品の断面径よりも寸法的にも1〜15%相似的に小さな金型(割型)の中で、両端面同士を重ね合わせ、その重ね合わせ部分をオフセットのないようセットし、直接または金型廻りから、15〜50W、50〜60KHz、0.1〜5秒間、超音波振動端子のホーンを接触させて紐状成形品の端部重ね合わせた周辺のみに振動を伝播させる。その結果、振動エネルギーによって両端面同士が強く摩擦され、その摩擦熱によって、両端面が溶融し、融合して、溶着されることになる。
【0042】
上記一連の工程からなる本発明のリング状シール材の製造方法によれば、射出成形で製造する際に必要とされる高価な金型や、シート状の打抜きから製造する際の、打抜きロス(産廃)は無くなり、接合も一回で完了することができ、設備費用軽減や破棄材料なしによる原料歩留まり向上で、トータルコストでも優位である。
【0043】
(後加工での形状変更)
上記製造工程により得られたリング状シール材は、後加工に供することができ、後加工によって、所望の形状(断面が非対称的な異形形状、表面の長手方向に繰り返しパターンを設けるなど)への後加工も可能である。具体的には、例えば、取り付け対象である製品のシール部位の面形状が平坦面であったり、三次元的な凹凸面である場合、まず、その面形状に対応したレプリカ面を有する溝を有する金型を調製する。そして、この金型の溝部に、簡単なガイド治具を通して、前記工程で得られたリング状シール材の片面を、真空引き、または加熱真空引きによって誘い込み、所定の熱処理を行う。その結果、リング状シール材の片面が取り付け対象である製品のシール部位に密接する面形状を有することになる。それにより、リング状シール材の製品への取り付け精度が大幅に向上される。このように、本発明では、紐状押出架橋成形品が架橋物であり、しかも熱可塑性を有するものであるため、ガイド治具に強制的に導いても不要な変形をもたらすことなく、目的とする後加工が可能となる。この後加工により適用対象とする製品に最適な形状にする自由度が高いことが、本発明のリング状シール材およびその製造方法の主な特徴の一つである。
また、金型に一旦仮留めされた状態のシール材を、筐体本体に、直接転写させて固定されることも容易にできる。この点も本発明の特有な特徴の一つである。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の実施例を説明するが、以下に説明する実施例は、本発明を説明するための好適な例示にすぎず、なんら本発明を限定するものではない。
【0045】
(実施例1)
シール材の構成材料として、オレフィン系熱可塑性エラストマー(三井化学(株)製「ミラストマー(商品名)」)を用いた。
【0046】
外径が1.0mmφで、内径が0.2mmφの円筒状の内部孔を有する押出成形用の口金を用意し、この口金から上記オレフィン系熱可塑性エラストマーを連続的に押出し、連続した中空の紐状押出架橋成形品を形成する。押出時の樹脂温度を180℃〜200℃に制御することにより、得られる紐状押出成形品を架橋物とすることができる。紐状押出成形品を架橋物とすることにより、その後の取り扱い性を良好なものとすることができる。このようにして得た連続した紐状押出架橋成形品を搬送方向に沿って330mmの長さ毎に紐状押出架橋成形品の長手方向に対して60°の角度で真上から順次に切断した。
【0047】
切断された1本の中空丸紐状の押出架橋成形品の両端をそれぞれ逆方向に180度回動し、両端面(切断面)を突き合わせる。
【0048】
5mm角の立方体状のアルミニウム塊の断面中心に0.9mmφの孔が開けられ、かつ孔の奥行き方向に沿って半割りされた形状の溶着金型を予め用意しておいた。この溶着金型の間に、前記紐状押出成形品の両端面重ね合わせ部分を入れ、幾分圧着した状態で保持する。この重ね合わせ部分に対して溶着金型の外部から超音波発振機から出された振動を1秒間印加した。この超音波による振動が前記両端面間の摩擦を誘発し、この摩擦による熱により前記両端面の界面部分が溶融され、超音波振動を停止した時点で、前記両端面同士が溶着される。この溶着作業は一度の作業により完了することができた。その結果、330mm長さの1本の中空丸紐状の押出成形品の両端面が段差を生じることなく接合されてなるリング状シール材が得られた。このリング状シール材の直径は全長を通じて均一(1.0mmφ)であった。
【0049】
上記リング状シール材の溶着部を中心として、100cm離れた箇所と、65cm離れた箇所の2箇所を掴んで引っ張ったところ、溶着部からは破断せず、掴んだ2箇所のほぼ中心付近が伸びで破断した。これによって、両端面の溶着性が良好であることが確認できた。
【0050】
(実施例2)
外径が1.0mm角で、内径が0.2mmφの角筒状の内部孔を有する押出成形用の口金を用いたこと以外、実施例1と同様にして、オレフィン系熱可塑性エラストマーを連続的に紐状に押出した。連続して成形され、搬送されてくる中空角紐状の押出成形体を、実施例1と同様にして、搬送方向に沿って330mmの長さ毎に60°の角度で真上から順次切断した。
【0051】
切断された1本の中空角紐状の押出成形品の両端をそれぞれ逆方向に180度回動し、両端面(切断面)を突き合わせる。
【0052】
溶接金型として、5mm角の立方体状のアルミニウム塊の断面中心に0.9mm角の孔が開けられ、かつ孔の奥行き方向に沿って半割りされてなる溶着金型を用意しておいた。この溶接金型の間に、前記紐状押出成形品の両端面重ね合わせ部分を入れ、幾分圧着した状態で保持する。この重ね合わせ部分に対して溶着金型の外部から超音波発振機から出された振動を1秒間印加した。この超音波による振動が前記両端面間の摩擦を誘発し、この摩擦による熱により前記両端面の界面部分が溶融され、超音波振動を停止した時点で、前記両端面同士が溶着された。その結果、一度の溶着作業により、330mm長さの1本の中空角紐状の押出成形品の両端面が段差を生じることなく接合されてなるリング状シール材が得られた。このリング状シール材の断面形状及び寸法は、全周に亘って、均一であり、外表面に段差は無かった。
【0053】
上記リング状のシール材の溶着部を中心として、100cm離れた箇所と、65cm離れた箇所の2箇所を掴んで引っ張ったところ、溶着部からは破断せず、掴んだ2箇所のほぼ中心付近が伸びで破断した。これによって、両端面の溶着性が良好であることが確認できた。
【0054】
(実施例3)
内部孔の外周面が幅1.0mmの底面と高さ0.5mmでR0.5の半円弧の上面とからなる蒲鉾形状を有し、内径の断面形状が0.2mmφの丸形である蒲鉾筒状の内部孔を有する押出成形用の口金を用いた以外、実施例1と同様にして、オレフィン系熱可塑性エラストマーを連続的に紐状に押出した。連続して成形され、搬送されてくる外形蒲鉾状の津中空紐状の押出架橋成形体を、実施例1と同様にして、搬送方向に沿って330mmの長さ毎に60°の角度で真上から順次切断した。
【0055】
切断された1本の中空蒲鉾形の紐状押出架橋成形品の両端をそれぞれ逆方向に180度回動し、両端面(切断面)を突き合わせる。
【0056】
溶接金型として、内部に断面幅が1.0mmで、0.5mmの高さ方向にR0.5の半円弧状の上面を有する蒲鉾状の孔が開けられ、かつ孔の奥行き方向に沿って半割りされてなる溶着金型を用意しておいた。この溶接金型の間に、前記紐状押出架橋成形品の両端面重ね合わせ部部分を入れ、幾分圧着した状態で保持する。この重ね合わせ部分に対して溶着金型の外部から超音波発振機から出された振動を1秒間印加した。この超音波による振動が前記両端面間の摩擦を誘発し、この摩擦による熱により前記両端面の界面部分が溶融され、超音波振動を停止した時点で、前記両端面同士が、一度の溶着作業により接合された。その結果、330mm長さの1本の中空蒲鉾形の紐状押出架橋成形品の両端面が段差を生じることなく接合されてなるリング状シール材が得られた。このリング状シール材の断面形状及び寸法は、全周に亘って、均一であり、外表面に段差は無かった。
【0057】
上記リング状のシール材の溶着部を中心として、100cm離れた箇所と、65cm離れた箇所の2箇所を掴んで引っ張ったところ、溶着部からは破断せず、掴んだ2箇所のほぼ中心付近が伸びで破断した。これによって、両端面の溶着性が良好であることが確認できた。
【0058】
(実施例4)
押出成形用の口金として、外径が1.0mmの丸形状の内部孔を有する口金を用いたこと以外、実施例1と同様にして、オレフィン系熱可塑性エラストマーを連続的に紐状に押出した。連続して成形され、搬送されてくる中実丸紐状の押出架橋成形体を、実施例1と同様にして、搬送方向に沿って330mmの長さ毎に60°の角度で真上から順次切断した。
【0059】
切断された1本の中実丸紐状の押出架橋成形品の両端をそれぞれ逆方向に180度回動し、両端面(切断面)を突き合わせる。
【0060】
溶接金型として、5mm角の立方体状のアルミニウム塊の断面中心に0.9mm角の孔が開けられ、かつ孔の奥行き方向に沿って半割りされてなる溶着金型を用意しておいた。この溶接金型の間に、前記紐状押出架橋成形品の両端面重ね合わせ部分を入れ、幾分圧着した状態で保持する。この重ね合わせ部分に対して溶着金型の外部から超音波発振機から出された振動を1秒間印加した。この超音波による振動が前記両端面間の摩擦を誘発し、この摩擦による熱により前記両端面の界面部分が溶融され、超音波振動を停止した時点で、前記両端面同士が、一度の溶着作業により接合された。その結果、330mm長さの1本の中実丸紐状の押出架橋成形品の両端面が段差を生じることなく接合されてなるリング状シール材が得られた。このリング状シール材の断面形状及び寸法は、全周に亘って、均一であり、外表面に段差は無かった。
【0061】
上記リング状シール材の溶着部を中心として、100cm離れた箇所と、65cm離れた箇所の2箇所を掴んで引っ張ったところ、溶着部からは破断せず、掴んだ2箇所のほぼ中心付近が伸びで破断した。これによって、両端面の溶着性が良好であることが確認できた。
【0062】
(実施例5)
押出成形用の口金として、断面異形形状の中実紐状成形体を押し出す形状のもので、内部孔が、1mm幅の平底面と、底面に連続して高さ1mm方向に大小のある2つの山が連なった形状の連続した側面と上面を有する形状の口金を用いたこと以外、実施例1と同様にして、オレフィン系熱可塑性エラストマーを連続的に紐状に押出した。連続して成形され、搬送されてくる中実異形な押出架橋成形体を、実施例1と同様にして、搬送方向に沿って330mmの長さ毎に60°の角度で真上から順次切断した。
【0063】
切断された1本の中空異形の紐状押出成形品の両端をそれぞれ逆方向に180度回動し、両端面(切断面)を突き合わせる。
【0064】
溶着金型として、前記口金の内部孔と同一形状同一寸法の孔が開けられ、かつ孔の奥行き方向に沿って半割りされてなる溶着金型を用意しておいた。この溶着金型の間に、前記紐状押出架橋成形品の両端面重ね合わせ部分を入れ、幾分圧着した状態で保持する。この重ね合わせ部分に対して溶着金型の外部から超音波発振機から出された振動を1秒間印加した。この超音波による振動が前記両端面間の摩擦を誘発し、この摩擦による熱により前記両端面の界面部分が溶融され、超音波振動を停止した時点で、前記両端面同士、一度の溶着作業により接合された。その結果、330mm長さの1本の中実異形な押出架橋成形品の両端面が段差を生じることなく接合されてなるリング状シール材が得られた。このリング状シール材の断面形状及び寸法は、全周に亘って、均一であり、外表面に段差は無かった。
【0065】
上記リング状シール材の溶着部を中心として、100cm離れた箇所と、65cm離れた箇所の2箇所を掴んで引っ張ったところ、溶着部からは破断せず、掴んだ2箇所のほぼ中心付近が伸びで破断した。これによって、両端面の溶着性が良好であることが確認できた。
【0066】
(比較例1)
オレフィン系熱可塑性エラストマーを、射出成形機を用いて、1.0mm角断面の矩形状のリング状のキャビティを有する金型内に、射出して、断面が中実矩形の周長330mmのリング状シールを作成した。
【0067】
(比較例2)
150mm角で厚みが10mmの鉄板上に、開口幅が1.0mmで、深さ0.5mm方向に0.5Rの曲面状の底面が加工されてなる断面逆蒲鉾状のリング状に連続した溝を形成したものを、ディスペンサー成形用の金型として準備した。この金型の前記溝に、エポキシ系熱硬化性エラストマーを、ノズル径0.3mmφのディスペンサーから注入し、UV硬化させて断面蒲鉾状で中実のリング状シール材を作成した。
【0068】
上記実施例1〜5、及び比較例1、2で得られた各リング状シール材サンプルの性能を以下の項目について評価した。評価結果を、(表1)〜(表3)に示した。
【0069】
(柔軟性:30%圧縮硬さ)
実施例及び比較例の各シール材を定盤上に置いて、10mm(厚み)×150mm角アルミ板でクロスヘットスピード1mm/minで、シール材の厚み方向に、30%まで圧縮し、加圧したときの圧縮硬さ(MPa)を測定した。
【0070】
(シール特性:エアーリークテスト)
実施例及び比較例の各シール材を、四隅と長手方向の中央両端に2.4mmφの固定用のねじ穴と中心部にエアーリーク用の穴が設けられた0.5mm(厚み)×150mm角のアルミ板(A5052)と、蓋の固定用ねじ穴位置に対応した10mm(厚み)×150mm角のアルミ板の間に、30%圧縮して挟んでエアーリークテストを行った。エアーリークの試験条件は、30mmAqの空圧を15秒間かけ続け、この間にエアーの漏れ圧を測定した。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

【0073】
【表3】

【0074】
(表1)〜(表3)から明らかなように、本発明に係るリング状シール材は、中実であっても、外形形状を曲面を有する所望の形状に形成可能であるため、柔軟性が高く、それに伴ってエアーリークが無く、良好なシール特性を有する。また、熱可塑性を有する有機高分子の架橋物から構成されているので、後加工により、必要に応じて表面形状の微調整が可能であり、取り付け部位の形状が製品毎に異なる場合にも適用可能である。また、さらに本発明のリング状シール材は、中空構造とすることが容易であり、中空構造とすることにより、さらに柔軟性を向上させることができ、より良好なシール性を有することができる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
以上のように、本発明にかかるリング状シール材は、シール部位を有する製品の強度が比較的低い場合であっても、製品の組立時に変形をもたらすような応力負荷を与えることなく、必要十分なシール性を実現させることができ、適切な材料選択と中空形状設計を行うことで、燃料電池や、自動車用などの種々のランプ用のシール材等に応用することができ、特に、シール部位を有する製品がハードディスク装置などの精密電子部品を収納する筐体である場合に好適なシール材として用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱溶着が可能な熱可塑性を有する有機高分子材料架橋物からなる紐状押出架橋成形品の両端面同士が外表面が連続した状態で熱溶着により接合されていることを特徴とするリング状シール材。
【請求項2】
前記熱溶着が可能な熱可塑性を有する有機高分子材料架橋物が、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、熱可塑性成分を有する熱硬化性樹脂、熱可塑性成分を有する熱硬化性エラストマーからなる群から選ばれた一種であることを特徴とする請求項1に記載のリング状シール材。
【請求項3】
前記紐状押出架橋成形品が中空構造であることを特徴とする請求項1または2に記載のリング状シール材。
【請求項4】
熱溶着が可能な熱可塑性を有する有機高分子材料架橋物からなる紐状押出架橋成形品の両端面同士が外表面が連続した状態で熱溶着により接合されているリング状シール材の製造方法であって、
所定形状の口金から熱溶着が可能な熱可塑性を有する有機高分子材料を連続的に押し出して紐状押出架橋成形品を得る押出架橋成形工程と、
前記連続した紐状押出架橋成形品を所定の長さ毎に一定の角度を持って切断する切断工程と、
前記切断された所定長さの紐状押出架橋成形品の両端面同士を外表面が連続するように重ね合わせる位置合わせ工程と、
前記重ね合わせた両端面同士を熱溶着により接合する接合工程と、を有することを特徴とするリング状シール材の製造方法。
【請求項5】
前記熱溶着可能な熱可塑性を有する有機高分子材料が、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、熱可塑性成分を有する熱硬化性樹脂、熱可塑性成分を有する熱硬化性エラストマーからなる群から選ばれた一種であることを特徴とする請求項4に記載のリング状シール材の製造方法。
【請求項6】
前記接合工程において、前記紐状押出架橋成形品の両端面の重ね合わせ部分に超音波振動を印加して端面間に摩擦熱を生じさせ、この摩擦熱により両端面を溶融させることにより前記紐状押出架橋成形品の両端面同士を接合することを特徴とする請求項4または5に記載のリング状シール材の製造方法。
【請求項7】
前記紐状押出架橋成形品の形成工程において、有機高分子材料をチューブ状に押し出して紐状押出架橋成形品を中空構造に成形することを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載のリング状シール材の製造方法。