説明

リング状石英ガラス治具の火炎加工装置及び火炎加工方法

【課題】複数の火炎ツールを用いて高精度な火炎加工(表面仕上げ加工)を能率的に行い、供給量を増やすことが出来るようにしたリング状石英ガラス治具の火炎加工装置及び火炎加工方法を提供する。
【解決手段】回転可能に設けられたワーク載置台24と、該ワーク載置台に載置固定されるリング状石英ガラス治具26と、該リング状石英ガラス治具の外面側に火炎を吹付けるように等間隔に設置された複数個の外側ガスバーナ46と、該リング状石英ガラス治具の内面側に火炎を吹付けかつ該外側ガスバーナと対応するように等間隔に設置された複数個の内側ガスバーナ40と、該外側ガスバーナと内側ガスバーナを保持するガスバーナ保持手段と、該ガスバーナ保持手段を上下動させるガスバーナ移動手段と、を有し、水平方向火炎加工を順次上下方向に行い、該リング状石英ガラス治具の内面及び外面の全面を火炎加工するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の火炎ツールを使用したリング状石英ガラス治具の火炎加工装置及び火炎加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シングルウェハ処理式の石英ガラス治具、換言すれば、円筒形状(リング状)の石英ガラス治具は、バッチ処理式の石英ガラス治具に比べて、その口径(直径)公差および肉厚公差についての要求が非常に厳しいものである。また、バッチ処理式の石英ガラス治具に比べて、シングルウェハ式の石英ガラス治具はその耐久性が弱く、壊れやすいために数多く製造しておくことが必要である。そのため、シングルウェハ処理式の石英ガラス治具の製造・生産数はバッチ式の石英ガラス治具の場合に比べて格段と多くする必要がある。
【0003】
上記したリング状石英ガラス治具は原材料である石英パイプから製造されるものであるが、原材料となる石英パイプを、要求される厳しい口径(直径)公差および肉厚公差を満たすものとして製造することは現在の石英パイプの製造技術水準では不可能である。従って、予め肉厚パイプを製造準備し、それに対して研削加工を行い、所定形状・寸法に仕上げて所定の公差を満たすリング状石英ガラス治具を製造する手法が採用されている。一方、シングルウェハ処理式の石英ガラス治具については、ガラス特有の表面仕上がりが要求されるが、上記した所定形状・寸法に仕上がったリング状石英ガラス治具の研削加工品の研削加工表面は研削状態が残存しているために不透明であり、この不透明な表面状態を火炎加工にて、透明な肌状態(表面状態)にすることが必要とされている。
【0004】
現在の技術水準を考慮すると、リング状石英ガラス治具の製造においては、研削後の処理として火炎加工(ファイアポリッシュ加工)による透明加工が必須のものである。しかし、石英ガラス製品に対して火炎加工を行うと、火炎によって石英ガラス製品には大きな熱変形が起こる確率が高いという問題がある。この大きな熱変形の発生を抑制してより小さな熱変形に抑えて火炎加工するには、かなりの熟練度を要することが当業界における常識である。しかし、たとえ、火炎ツール(ガスバーナ)の1本又は2本を上手に操れる技能を持ち合わせても、小さな熱変形は高確率で発生する。そのため、寸法公差を満たしながら、加工数量を上げ、維持することは極めて難しい問題となっている。なお、ガラス製品の表面の平滑性を高めるためにガラス製品に対する火炎加工は従来から知られている(特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−141397号公報
【特許文献2】特開2003−119042号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した従来技術の問題点に鑑みて発明されたもので、複数の火炎ツールを用いて高精度な火炎加工(表面仕上げ加工)を能率的に行い、供給量を増やすことが出来るようにしたリング状石英ガラス治具の火炎加工装置及び火炎加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のリング状石英ガラス治具の火炎加工装置は、回転可能に設けられたワーク載置台と、該ワーク載置台に載置固定されるリング状石英ガラス治具と、該リング状石英ガラス治具の外面側に火炎を吹付けるように等間隔に設置された複数個の外側ガスバーナと、該リング状石英ガラス治具の内面側に火炎を吹付けかつ該外側ガスバーナと対応するように等間隔に設置された複数個の内側ガスバーナと、該外側ガスバーナと内側ガスバーナを保持するガスバーナ保持手段と、該ガスバーナ保持手段を上下動させるガスバーナ移動手段と、を有し、
前記リング状石英ガラス治具を前記ワーク載置台に載置し、該ワーク載置台を回転させることによって該リング状石英ガラス治具を所定速度で回転せしめ、その回転状態の該リング状石英ガラス治具の内面及び外面に前記内側ガスバーナ及び外側ガスバーナの火炎を吹付けることによって水平方向火炎加工を該リング状石英ガラス治具の内面及び外面の全周に亘って行い、ついで前記ガスバーナ移動手段によって該内側ガスバーナ及び外側ガスバーナを上下方向に移動することによってこの水平方向火炎加工を順次上下方向に行い、該リング状石英ガラス治具の内面及び外面の全面を火炎加工することができるようにしたことを特徴とする。
【0008】
本発明装置の特徴は、リング状石英ガラス治具に対して、当該治具の円周方向の内面及び外面に対して複数の火炎ツール(ガスバーナ)を配置させ、ガスバーナからの火炎が当該リング状石英ガラス治具の内面及び外面に対して同時に吹付けることが出来るようにし、リング状石英ガラス治具は縦置きとして回転させながら火炎加工が行われ、かつ上記複数の火炎ツールを上下方向に移動させるようにする点にある。また、リング状石英ガラス治具の内面及び外面における火炎ツール(ガスバーナ)の相互の位置関係については、特に限定はないが、互い違い状に配置してもよいし、互いに向かい合うように配置することもできる。
【0009】
本発明のリング状石英ガラス治具の火炎加工方法の第1の態様は、本発明の火炎加工装置を用いる火炎加工方法であって、
前記リング状石英ガラス治具を前記ワーク載置台に載置し、該ワーク載置台を回転させることによって該リング状石英ガラス治具を所定速度で回転せしめ、その回転状態の該リング状石英ガラス治具の内面及び外面に前記内側ガスバーナ及び外側ガスバーナの火炎を吹付けることによって水平方向火炎加工を該リング状石英ガラス治具の内面及び外面の全周に亘って行い、ついで前記ガスバーナ移動手段によって該内側ガスバーナ及び外側ガスバーナを連続的に上下方向に移動することによってこの水平方向火炎加工を順次連続的に上下方向に行い、該リング状石英ガラス治具の内面及び外面の全面を火炎加工することができるようにしたことを特徴とする。
【0010】
本発明のリング状石英ガラス治具の火炎加工方法の第2の態様は、本発明の火炎加工装置を用いる火炎加工方法であって、
(1)前記停止状態のワーク載置台にリング状石英ガラス治具を載置固定する工程と、
(2)該ワーク載置台を回転させることによって該リング状石英ガラス治具を回転させる工程と、
(3)該回転するリング状石英ガラス治具の内面及び外面の上下方向中央部分に前記内側ガスバーナと外側ガスバーナの火炎を吹付けることによって水平方向火炎加工を該リング状石英ガラス治具の内面及び外面の全周に亘って行う工程と、
(4)ついで前記ガスバーナ移動手段によって該内側ガスバーナ及び外側ガスバーナを上方に移動して該回転するリング状石英ガラス治具の内面及び外面の前記水平方向火炎加工を行った部分の上方隣接部分に前記内側ガスバーナと外側ガスバーナの火炎を吹付けることによって水平方向火炎加工を該リング状石英ガラス治具の内面及び外面の全周に亘って再び行う工程と、
(5)前記(4)工程を繰り返して該リング状石英ガラス治具の上端部分まで火炎加工を行う工程と、
(6)前記ワーク載置台の回転を停止させる工程と、
(7)前記(1)〜(5)の工程を実施することによって上半分が火炎加工された該リング状石英ガラス治具の上下を転倒して火炎加工されていない下半分が上側に位置するように該停止状態のワーク載置台に該リング状石英ガラス治具を載置固定する工程と、
(8)該ワーク載置台を再び回転させることによって該リング状石英ガラス治具を再び回転させる工程と、
(9)該回転するリング状石英ガラス治具の内面及び外面の上下方向中央部分の未火炎加工部分に前記内側ガスバーナと外側ガスバーナの火炎を吹付けることによって水平方向火炎加工を該リング状石英ガラス治具の内面及び外面の全周に亘って行う工程と、
(10)ついで前記ガスバーナ移動手段によって該内側ガスバーナ及び外側ガスバーナを上方に移動して該回転するリング状石英ガラス治具の内面及び外面の前記水平方向火炎加工を行った部分の上方隣接部分に前記内側ガスバーナと外側ガスバーナの火炎を吹付けることによって水平方向火炎加工を該リング状石英ガラス治具の内面及び外面の全周に亘って再び行う工程と、
(11)前記(10)工程を繰り返して該リング状石英ガラス治具の上端部分まで火炎加工を行うことによって内面及び外面の全面が火炎加工されたリング状石英ガラス治具を得る工程と、
(12)前記ワーク載置台の回転を再び停止させる工程と、
(13)前記内面及び外面の全面が火炎加工されたリング状石英ガラス治具を該ワーク載置台から取り外す工程と、
からなることを特徴とする。
【0011】
なお、本発明の火炎加工方法は、本発明の火炎加工装置の使用方法の態様を規定したもので、本発明の火炎加工方法の第1の態様では前記ガスバーナ移動手段によって該内側ガスバーナ及び外側ガスバーナを連続的に上下方向に移動することによってこの水平方向火炎加工を順次連続的に上下方向に行い、該リング状石英ガラス治具の内面及び外面の全面を火炎加工すること、つまり水平方向火炎加工を連続的に行うことを規定したものである。
本発明の火炎加工方法の第2の態様においては、回転するリング状石英ガラス治具の内面及び外面の上下方向中央部分に前記内側ガスバーナと外側ガスバーナの火炎を吹付けることによって水平方向火炎加工を該リング状石英ガラス治具の内面及び外面の全周に亘って行う工程と、ついで前記ガスバーナ移動手段によって該内側ガスバーナ及び外側ガスバーナを上方に移動して該回転するリング状石英ガラス治具の内面及び外面の前記水平方向火炎加工を行った部分の上方隣接部分に前記内側ガスバーナと外側ガスバーナの火炎を吹付けることによって水平方向火炎加工を該リング状石英ガラス治具の内面及び外面の全周に亘って再び行う工程と、前記工程を繰り返して該リング状石英ガラス治具の上端部分まで火炎加工を行う工程と、を実施するもので、つまり水平方向火炎加工をステップ的に行うことを規定したものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、リング状石英ガラス治具の火炎加工において、火炎加工処理後においても研削加工で仕上がった状態である真円性の円筒形状と同様な真円性の円筒形状を持たせることが可能となる。また、本発明によれば、火炎加工処理の熟練作業者でも十分には満たすことのできなかったリング状石英ガラス治具の火炎加工の際に発生した小さな熱変形について、更により小さな熱変形量とすることができる。さらに、本発明によれば、リング状石英ガラス治具の火炎加工における熱変形量がより小さくなった為、厳しい口径(直径)公差を満たせるようになり、かつ火炎加工作業者の技能をより高度に磨き上げる必要性が無くなるという利点がある。さらにまた、本発明によれば、火炎加工作業を手作業から機械化することを実現したので、火炎加工装置に複数の火炎ツール(ガスバーナ)の搭載が可能となり、リング状石英ガラス治具の高精度な火炎加工を持続的かつ能率的に行える上、リング状石英ガラス治具の火炎加工処理の数量を増大することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のリング状石英ガラス治具の火炎加工装置の1つの実施の形態を示す斜視図である。
【図2】図1の火炎加工装置におけるリング状石英ガラス治具に対する内側ガスバーナと外側ガスバーナの配置関係を示す上面説明図である。
【図3】図1の火炎加工装置を用いて本発明のリング状石英ガラス治具の火炎加工方法を実施する場合の工程順を示す模式図である。
【図4】本発明のリング状石英ガラス治具の火炎加工方法の工程順を示すフローチャートである。
【図5】本発明のリング状石英ガラス治具の火炎加工装置の他の実施の形態を示す斜視図である。
【図6】実施例1に示した火炎加工において処理されたサンプル1−1〜1−4の各石英ガラスリングの形状変化を示す上面説明図である。
【図7】実施例2に示した火炎加工において処理されたサンプル2−1〜2−2の各石英ガラスリングの形状変化を示す上面説明図である。
【図8】手作業(ハンドガスバーナ1本)による火炎加工を行った場合のリング状石英ガラス治具の形状を示す上面図である。
【図9】手作業(ハンドガスバーナ2本)による火炎加工を行った場合のリング状石英ガラス治具の形状を示す上面図である。
【図10】本発明の火炎加工装置におけるリング状石英ガラス治具に対する内側ガスバーナと外側ガスバーナの配置関係の他の例を示す上面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明装置の1つの実施の形態を図1及び図2に基づいて説明するが、これらの説明は例示的に示されるもので限定的に解釈すべきものでないことはいうまでもない。
【0015】
図1は、本発明のリング状石英ガラス治具の火炎加工装置の1つの実施の形態を示す斜視図である。図1において、符号10は本発明のリング状石英ガラス治具の火炎加工装置で、基台12を有している。該基台12の中央部には載置凹部14が設けられるとともに左右両端部分には側壁部16、17が形成されている。該載置凹部14の中央部には円柱18が立設され、該円柱18の上面には回転盤20が回転可能に設けられている。該回転盤20の上面には複数本の支柱22を介してワーク載置台24が取り付けられている。該ワーク載置台24はリング状石英ガラス治具26を載置固定するものである。
【0016】
前記側壁部16、17の基端部には支持角柱28、29が立設されている。該支持角柱28、29の前面には支持溝部30、31が設けられており、該支持溝部30、31は多数の支持溝30a,31aを有している。32はガスバーナ保持手段で、水平保持板34を有している。該水平保持板34の両端部には内方に折曲された折曲端部36,37が形成されている。該折曲端部36,37は前記支持溝30a,31aに支持されており、図示しないガスバーナ移動手段によって該支持溝30a,31aを順次間欠的に移動可能となっている。38は該水平保持板34の中央部から下方に垂設された中央垂直支持棒である。該中央垂直支持棒38の下端部には外方に火炎を吹き出すように設置された複数個(図1の例では4個)の内側ガスバーナ40が装着されている。
【0017】
前記水平保持板34の中央部から所定距離だけ離間した側方部分には一対の側方垂直支持棒42,43が垂設されている。該側方垂直支持棒42,43の下端部には弧状支持体44,45が固着されている。該弧状支持体44,45の内面部には内方に火炎を吹き出しかつ前記内側ガスバーナ40に対応するように設置された複数個の外側ガスバーナ46が装着されている。前記複数個の内側ガスバーナ40及び外側ガスバーナ46は前記リング状石英ガラス治具26の内側面及び外面側に等間隔で火炎を吹付けるようにそれぞれ前記中央垂直支持棒38の下端部及び前記弧状支持体44,45の内面に等間隔に設置されている(図2)。なお、図1の例では、該支持角柱28,29の前面の支持溝部30,31に多数の支持溝30a,31aを設ける構造として、該支持溝30a,31aを該折曲端部36,37が間欠的に上下動し、つまりガスバーナ保持手段32が間欠的に上下動し、さらに換言すれば、内側バーナ40及び外側バーナ46が間欠的に上下動することによって火炎加工を行う場合を記述したが、該支持溝30a,31aを設けることなく、該支持角柱28,29に該ガスバーナ保持手段32を上下動自在に取付けることによって、該ガスバーナ保持手段32が連続的に上下動し、つまり内側バーナ40及び外側バーナ46が連続的に上下動することによって火炎加工を行うことも可能である。
【0018】
上記のような構成により、以下にその作用を図3によって説明する。なお、図3においては、作図上の都合で、内側ガスバーナ40の図示は省略してあるが、図1及び図2に示すように、内側ガスバーナ40は外側ガスバーナ46と対応して協働的に作用するものである。まず、前記リング状石英ガラス治具26を前記ワーク載置台24に載置する(図3(a)、ワーク載置台24の図示は省略)。次に、該ワーク載置台24を回転させることによって該リング状石英ガラス治具26を所定速度で回転せしめる。その回転状態の該リング状石英ガラス治具26の内面及び外面に前記内側ガスバーナ40及び外側ガスバーナ46の火炎を吹付けることによって水平方向火炎加工を該リング状石英ガラス治具26の内面及び外面の全周に亘って行う(図3(b)(c))。ついで前記ガスバーナ移動手段(図示せず)によって該内側ガスバーナ40及び外側ガスバーナ46を上下方向に移動することによってこの水平方向火炎加工を順次上下方向に行い、該リング状石英ガラス治具26の内面及び外面の全面を火炎加工することができる(図3(d)(e)(f)(g)(h))。なお、図3において、26aは未火炎加工部分、26bは内側ガスバーナ40及び外側ガスバーナ46の火炎の吹きつけ箇所、及び26cは火炎加工済部分を夫々示す。
【0019】
図3の例においては、図3(b)(c)(d)に示すように、リング状石英ガラス治具26の内面及び外面の上下方向中央部分に前記内側ガスバーナと外側ガスバーナの火炎を吹付けることによって水平方向火炎加工を該リング状石英ガラス治具26の内面及び外面の全周に亘って行い、ついで前記ガスバーナ移動手段(図示せず)によって該内側ガスバーナ40及び外側ガスバーナ46を上方に移動して該回転するリング状石英ガラス治具26の内面及び外面の前記水平方向火炎加工を行った部分26cの上方隣接部分に前記内側ガスバーナ40と外側ガスバーナ46の火炎を吹付けることによって水平方向火炎加工を該リング状石英ガラス治具26の内面及び外面の全周に亘って再び行い、この工程を繰り返して該リング状石英ガラス治具26の上端部分まで火炎加工を行って、上半分が火炎加工されたリング状石英ガラス治具を作成する。ついで、図3(e)(f)(g)(h)に示すように、前記ワーク載置台24の回転を停止させ、上半分が火炎加工された該リング状石英ガラス治具の上下を転倒して火炎加工されていない下半分が上側に位置するように該停止状態のワーク載置台に該リング状石英ガラス治具を載置固定する(図3(e))。該ワーク載置台を再び回転させることによって該リング状石英ガラス治具を再び回転させ、該回転するリング状石英ガラス治具の内面及び外面の上下方向中央部分の未火炎加工部分に前記内側ガスバーナと外側ガスバーナの火炎を吹付けることによって水平方向火炎加工を該リング状石英ガラス治具の内面及び外面の全周に亘って行い、ついで前記ガスバーナ移動手段によって該内側ガスバーナ及び外側ガスバーナを上方に移動して該回転するリング状石英ガラス治具の内面及び外面の前記水平方向火炎加工を行った部分の上方隣接部分に前記内側ガスバーナと外側ガスバーナの火炎を吹付けることによって水平方向火炎加工を該リング状石英ガラス治具の内面及び外面の全周に亘って再び行い、上記火炎加工工程を繰り返して該リング状石英ガラス治具の上端部分まで火炎加工を行うことによって内面及び外面の全面が火炎加工されたリング状石英ガラス治具を得る(図3(f)(g)(h))。
【0020】
次いで、本発明のリング状石英ガラス治具の火炎加工方法の実施の形態を図1〜図4に基づいて説明するが、これらの説明は例示的に示されるもので限定的に解釈すべきものでないことはいうまでもない。
【0021】
本発明のリング状石英ガラス治具の火炎加工方法の第1の態様は、上述した本発明の火炎加工装置10,11を用いる火炎加工方法である。この火炎加工方法においては、まず前記リング状石英ガラス治具26を前記ワーク載置台24に載置する。次に、該ワーク載置台24を回転させることによって該リング状石英ガラス治具26を所定速度で回転せしめる。その回転状態の該リング状石英ガラス治具26の内面及び外面に前記内側ガスバーナ40及び外側ガスバーナ46の火炎を吹付けることによって水平方向火炎加工を該リング状石英ガラス治具26の内面及び外面の全周に亘って行う。ついで、前記ガスバーナ移動手段(図示せず)によって該内側ガスバーナ40及び外側ガスバーナ46を連続的に上下方向に移動することによってこの水平方向火炎加工を順次連続的に上下方向に行う。このような火炎加工処理を行うことによって、該リング状石英ガラス治具26の内面及び外面の全面を火炎加工することができる。
【0022】
また、本発明のリング状石英ガラス治具の火炎加工方法の第2の態様は、上述した本発明の火炎加工装置を用いる火炎加工方法であり、次の各工程(1)〜(13)から構成されるものである。
【0023】
まず、(1)前記停止状態のワーク載置台24にリング状石英ガラス治具26を載置固定する(図4のステップ100)。(2)該ワーク載置台24を回転させることによって該リング状石英ガラス治具26を回転させる(図4のステップ102)。(3)該回転するリング状石英ガラス治具26の内面及び外面の上下方向中央部分に前記内側ガスバーナ40と外側ガスバーナ46の火炎を吹付けることによって水平方向火炎加工を該リング状石英ガラス治具の内面及び外面の全周に亘って行う(図4のステップ104、図3(b))。(4)ついで前記ガスバーナ移動手段(図示せず)によって該内側ガスバーナ40及び外側ガスバーナ46を上方に移動して該回転するリング状石英ガラス治具26の内面及び外面の前記水平方向火炎加工を行った部分の上方隣接部分に前記内側ガスバーナと外側ガスバーナの火炎を吹付けることによって水平方向火炎加工を該リング状石英ガラス治具の内面及び外面の全周に亘って再び行う(図3(c))。(5)前記(4)工程を繰り返して該リング状石英ガラス治具の上端部分まで火炎加工を行う(図4のステップ106、図3(d))。(6)前記ワーク載置台24の回転を停止させる(図4のステップ108)。(7)前記(1)〜(5)の工程を実施することによって上半分が火炎加工された該リング状石英ガラス治具の上下を転倒して火炎加工されていない下半分26aが上側に位置するように該停止状態のワーク載置台に該リング状石英ガラス治具を載置固定する(図4のステップ110)。(8)該ワーク載置台24を再び回転させることによって該リング状石英ガラス治具を再び回転させる(図4のステップ112)。(9)該回転するリング状石英ガラス治具26の内面及び外面の上下方向中央部分の未火炎加工部分26aに前記内側ガスバーナ40と外側ガスバーナ46の火炎を吹付けることによって水平方向火炎加工を該リング状石英ガラス治具26の内面及び外面の全周に亘って行う(図4のステップ114、図3(e))。(10)ついで前記ガスバーナ移動手段によって該内側ガスバーナ40及び外側ガスバーナ46を上方に移動して該回転するリング状石英ガラス治具の内面及び外面の前記水平方向火炎加工を行った部分の上方隣接部分に前記内側ガスバーナ40と外側ガスバーナ46の火炎を吹付けることによって水平方向火炎加工を該リング状石英ガラス治具26の内面及び外面の全周に亘って再び行う(図4のステップ116,図3(f))。(11)前記(10)工程を繰り返して該リング状石英ガラス治具の上端部分まで火炎加工を行うことによって内面及び外面の全面が火炎加工されたリング状石英ガラス治具を得る(図4のステップ116、図3(g)(h))。(12)前記ワーク載置台の回転を再び停止させる(図4のステップ118)。(13)前記内面及び外面の全面が火炎加工されたリング状石英ガラス治具を該ワーク載置台から取り外す(図4のステップ120)。
【0024】
上記した火炎加工装置10における火炎加工処理の処理条件は処理される石英ガラスリングの形状やサイズに応じて設定すればよいが、通常は概ね次のように設定される。
(A)内側ガスバーナ4本のガス供給量:
水素ガス100〜300NLiter/min、酸素ガス20〜150NLiter/min
(B)外側ガスバーナ4本のガス供給量:
水素ガス150〜500NLiter/min、酸素ガス30〜250NLiter/min
(C)石英ガラスリングの移動速度:周速度1〜3mm/secに調整
(D)ガスバーナ火炎の直径:8〜12mmに設定
【0025】
ガスバーナを間欠的に上下動させて火炎加工を行う場合、内側ガスバーナ4本及び外側ガスバーナ4本については、例えば、石英ガラスリングが180度回転(0.5回転)毎に、また内側ガスバーナ2本及び外側ガスバーナ2本については、例えば、石英ガラスリングが360度回転(1回転)する毎に内側ガスバーナ及び外側ガスバーナが上方へ3〜7mmずつ間欠的に移動するように設定することによって火炎加工を行うことができる。なお、ガスバーナを間欠的に上下動させる構成は必須ではなく、連続的にガスバーナを上下動させて火炎加工を行うことも可能である。
【0026】
ガスバーナを間欠的に移動する場合又は連続的に移動する場合のいずれにおいても、火炎加工(ファイアポリシュ)により石英ガラスリングの全周に亘って透明な肌状態(表面状態)を達成する必要があることは勿論である。火炎加工の度合いはガスバーナの設置個数、ガスバーナの火炎強度、石英ガラスリングの移動速度(回転速度)及び石英ガラスリングの回転量、つまり半回転か1回転か或いはさらに回転量を増大するか等の諸条件によって決定されるので、最適な火炎加工処理を達成するためには、上記した諸条件を最適に設定することが必要なことはいうまでもない。また、火炎加工処理後の石英ガラスリングに対しては施すアニール処理は処理条件:1080℃〜1150℃で20分〜60分程度行えば十分である。
【0027】
図1〜図3に示した火炎加工装置10の実施の形態においては、内側ガスバーナ40及び外側ガスバーナ46をそれぞれ4個ずつ合計8個のガスバーナを使用する例を示したが、内側ガスバーナ40及び外側ガスバーナ46をそれぞれ複数個用いればよいもので、例えば、図5に示した他の実施の形態の火炎加工装置11のように、内側ガスバーナ40及び外側ガスバーナ46をそれぞれ2個ずつ合計4個のガスバーナを使用することも可能である。なお、図1、図2及び図5に示した例では、内側ガスバーナ40及び外側ガスバーナ46をそれぞれ互い違いに配置した場合を示したが、図10に示すように、内側ガスバーナ40及び外側ガスバーナ46がそれぞれ向かい合うように設置することも可能である。なお、内側ガスバーナ40及び外側ガスバーナ46の設置台数を増加すればそれだけ火炎加工処理時間が短縮される有利さはあるが、設備費は設置台数の増加とともに増大するので、実際の設置に当たっては処理条件や設備費予算等を考慮して最適の台数を選定することとなる。
【実施例】
【0028】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これらの実施例によって本発明が限定的に解釈されるものでないことはいうまでもない。
【0029】
(実施例1)
図1に示した火炎加工装置と同様の構造の火炎加工装置(内側ガスバーナ4本及び外側ガスバーナ4本装着、基台12のサイズは800mm×2300mm×2300mm、支持角柱28,29の高さは800mm)を用いて、リング状石英ガラス治具のMC研削品(φ439±0.1mm×厚さ3mm×高さ50mmの石英ガラスリング)4個(サンプル1−1〜1−4)に対して一つずつ火炎加工を施した。火炎加工の条件は次の通りである。
(A)内側ガスバーナ4本のガス供給量:
水素ガス166NLiter/min、酸素ガス31NLiter/min
(B)外側ガスバーナ4本のガス供給量:
水素ガス256NLiter/min、酸素ガス48NLiter/min
(C)石英ガラスリングの移動速度:周速度2mm/secに調整
(D)ガスバーナ火炎の直径:10mmに設定
上記した火炎加工条件で前記した火炎加工方法の工程(1)〜(13)の手順と同様にして火炎加工を行った。なお、石英ガラスリングが180度回転(0.5回転)する毎に内側ガスバーナ及び外側ガスバーナが上方へ5mmずつ間欠的に移動するように設定した。火炎加工は25分で終了した。火炎加工処理後の石英ガラスリングに対してはアニール処理(処理条件:1140℃、40分)を施して最終製品であるリング状石英ガラス治具を製造した。図6にサンプル1−1〜1−4についてのMC研削後、火炎加工後及びアニール後における形状変化の状態を上面説明図として示した。サンプル1−1〜1−4のいずれについても良好な円形形状を維持していることが確認できた。
【0030】
(実施例2)
図5に示した火炎加工装置と同様の構造の火炎加工装置(内側ガスバーナ2本及び外側ガスバーナ2本装着)を用い、リング状石英ガラス治具のMC研削品(石英ガラスリング)2個(サンプル2−1〜2−2)に対して一つずつ火炎加工を施した(火炎加工処理時間は50分)以外は実施例1と同様にして火炎加工及びアニール加工を施して最終製品であるリング状石英ガラス治具を製造した。図7にサンプル2−1〜2−2についてのMC研削後、火炎加工後及びアニール後における形状変化の状態を上面説明図として示した。サンプル2−1及び2−2ともに実施例1の各サンプルよりは形状変化が大きいが、後述する手作業による火炎加工と同程度の円形形状を維持していることが確認できた。
【0031】
(比較例1)
1本のハンドガスバーナを用いて熟練作業員によって実施例1と同様のリング状石英ガラス治具のMC研削品(石英ガラスリング)3個(サンプル3−1〜3−3)に対して一つずつ火炎加工を施し(火炎加工処理時間は30分)、さらに実施例1と同様にしてアニール加工を施して最終製品であるリング状石英ガラス治具を製造した。図8にサンプル3−3〜3についてのMC研削後、火炎加工後及びアニール後における形状変化の状態を上面説明図として示した。サンプル3−1〜3−3ともに実施例1の各サンプルよりは形状変化が大きいことが確認できた。
【0032】
(比較例2)
2本のハンドガスバーナを用いて熟練作業員によって実施例1と同様のリング状石英ガラス治具のMC研削品(石英ガラスリング)1個(サンプル4−1)に対して火炎加工を施し(火炎加工処理時間は30分)、さらに実施例1と同様にしてアニール加工を施して最終製品であるリング状石英ガラス治具を製造した。図9にサンプル4−1についてのMC研削後、火炎加工後及びアニール後における形状変化の状態を上面説明図として示した。サンプル4−1は比較例1の各サンプルよりは形状変化がやや小さいことが確認できた。
【符号の説明】
【0033】
10,11:火炎加工装置、12:基台、14:載置凹部、16:側壁部、18:円柱、20:回転盤、22:支柱、24:ワーク載置台、26:リング状石英ガラス治具、26a:未火炎加工部分、26b:火炎の吹きつけ箇所、26c:火炎加工済部分、28,29:支持角柱、30:支持溝部、30a,31a:支持溝、34:水平保持板、36,37:折曲端部、38:中央垂直支持棒、40:内側ガスバーナ、42,43:側方垂直支持棒、44,45:弧状支持体、46:外側ガスバーナ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能に設けられたワーク載置台と、該ワーク載置台に載置固定されるリング状石英ガラス治具と、該リング状石英ガラス治具の外面側に火炎を吹付けるように等間隔に設置された複数個の外側ガスバーナと、該リング状石英ガラス治具の内面側に火炎を吹付けかつ該外側ガスバーナと対応するように等間隔に設置された複数個の内側ガスバーナと、該外側ガスバーナと内側ガスバーナを保持するガスバーナ保持手段と、該ガスバーナ保持手段を上下動させるガスバーナ移動手段と、を有し、
前記リング状石英ガラス治具を前記ワーク載置台に載置し、該ワーク載置台を回転させることによって該リング状石英ガラス治具を所定速度で回転せしめ、その回転状態の該リング状石英ガラス治具の内面及び外面に前記内側ガスバーナ及び外側ガスバーナの火炎を吹付けることによって水平方向火炎加工を該リング状石英ガラス治具の内面及び外面の全周に亘って行い、ついで前記ガスバーナ移動手段によって該内側ガスバーナ及び外側ガスバーナを上下方向に移動することによってこの水平方向火炎加工を順次上下方向に行い、該リング状石英ガラス治具の内面及び外面の全面を火炎加工することができるようにしたことを特徴とするリング状石英ガラス治具の火炎加工装置。
【請求項2】
請求項1記載の火炎加工装置を用いる火炎加工方法であって、
前記リング状石英ガラス治具を前記ワーク載置台に載置し、該ワーク載置台を回転させることによって該リング状石英ガラス治具を所定速度で回転せしめ、その回転状態の該リング状石英ガラス治具の内面及び外面に前記内側ガスバーナ及び外側ガスバーナの火炎を吹付けることによって水平方向火炎加工を該リング状石英ガラス治具の内面及び外面の全周に亘って行い、ついで前記ガスバーナ移動手段によって該内側ガスバーナ及び外側ガスバーナを連続的に上下方向に移動することによってこの水平方向火炎加工を順次連続的に上下方向に行い、該リング状石英ガラス治具の内面及び外面の全面を火炎加工することができるようにしたことを特徴とするリング状石英ガラス治具の火炎加工方法。
【請求項3】
請求項1記載の火炎加工装置を用いる火炎加工方法であって、
(1)停止状態の前記ワーク載置台にリング状石英ガラス治具を載置固定する工程と、
(2)該ワーク載置台を回転させることによって該リング状石英ガラス治具を回転させる工程と、
(3)該回転するリング状石英ガラス治具の内面及び外面の上下方向中央部分に前記内側ガスバーナと外側ガスバーナの火炎を吹付けることによって水平方向火炎加工を該リング状石英ガラス治具の内面及び外面の全周に亘って行う工程と、
(4)ついで前記ガスバーナ移動手段によって該内側ガスバーナ及び外側ガスバーナを上方に移動して該回転するリング状石英ガラス治具の内面及び外面の前記水平方向火炎加工を行った部分の上方隣接部分に前記内側ガスバーナと外側ガスバーナの火炎を吹付けることによって水平方向火炎加工を該リング状石英ガラス治具の内面及び外面の全周に亘って再び行う工程と、
(5)前記(4)工程を繰り返して該リング状石英ガラス治具の上端部分まで火炎加工を行う工程と、
(6)前記ワーク載置台の回転を停止させる工程と、
(7)前記(1)〜(5)の工程を実施することによって上半分が火炎加工された該リング状石英ガラス治具の上下を転倒して火炎加工されていない下半分が上側に位置するように該停止状態のワーク載置台に該リング状石英ガラス治具を載置固定する工程と、
(8)該ワーク載置台を再び回転させることによって該リング状石英ガラス治具を再び回転させる工程と、
(9)該回転するリング状石英ガラス治具の内面及び外面の上下方向中央部分の未火炎加工部分に前記内側ガスバーナと外側ガスバーナの火炎を吹付けることによって水平方向火炎加工を該リング状石英ガラス治具の内面及び外面の全周に亘って行う工程と、
(10)ついで前記ガスバーナ移動手段によって該内側ガスバーナ及び外側ガスバーナを上方に移動して該回転するリング状石英ガラス治具の内面及び外面の前記水平方向火炎加工を行った部分の上方隣接部分に前記内側ガスバーナと外側ガスバーナの火炎を吹付けることによって水平方向火炎加工を該リング状石英ガラス治具の内面及び外面の全周に亘って再び行う工程と、
(11)前記(10)工程を繰り返して該リング状石英ガラス治具の上端部分まで火炎加工を行うことによって内面及び外面の全面が火炎加工されたリング状石英ガラス治具を得る工程と、
(12)前記ワーク載置台の回転を再び停止させる工程と、
(13)前記内面及び外面の全面が火炎加工されたリング状石英ガラス治具を該ワーク載置台から取り外す工程と、
からなることを特徴とするリング状石英ガラス治具の火炎加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−166996(P2012−166996A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−31065(P2011−31065)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(591018224)株式会社福井信越石英 (5)
【出願人】(000190138)信越石英株式会社 (183)
【Fターム(参考)】